説明

目標位置確認システム及びレーダ信号処理装置

【課題】レーダ設置場所から見た移動目標の方位・距離のずれ調整作業を迅速かつ適切に行えるようにし、これにより作業の精度向上と作業時間短縮を図ることを可能とする目標位置確認システムを提供する。
【解決手段】滑走路RWY周辺に既知のGPS装置200を設置するだけでよく、またGPS装置200にPAR100への計測位置情報の送信機能を持たせることで、PAR100において自装置の経度緯度情報とGPS装置200の計測位置情報とを利用して、PAR100から見た航空機の方位・距離のずれを容易に調整できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば航空機を滑走路に安全に着陸させるために用いられる目標位置確認システム及びレーダ信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各地の空港には、旅客機などの航空機の着陸を支援するために、各種の設備が設けられている。これらの設備には、例えばPAR(Precision Approach Radar)等のレーダ信号処理装置がある(例えば、非特許文献1)。
【0003】
この種のレーダ信号処理装置は、着陸しようとする航空機に対しレーダ波を送信し、航空機からのレーダ反射波を受信検波することで、航空機の飛行位置の検出及び追尾を行なうものである。
【非特許文献1】レーダ技術 財団法人電子情報通信学会。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記レーダ信号処理装置では、長年にわたる安定動作が要求されることになるため、定期的にメンテナンスを必要とする。このメンテナンス作業は、滑走路の周辺に反射物体を設置し、この反射物体による受信エコーから表示器に基準点エコーを表示させて、画面を目視しながらPAR画面を微調整することにより行っている。
【0005】
しかしながら、上記調整作業は、画面を目視しながら、作業者が手動で微調整を繰り返し行わなければならないため、メンテナンスに多くの手間と時間がかかる。また、作業者は、滑走路周辺まで足を運んで、反射物体の設置作業を行い、さらに反射物体の位置計測も行わなければならないため、この点でもメンテナンスに多くの手間と時間がかかる。
【0006】
そこで、この発明の目的は、レーダ設置場所から見た移動目標の方位・距離のずれ調整作業を迅速かつ適切に行えるようにし、これにより作業の精度向上と作業時間短縮を図ることを可能とする目標位置確認システム及びレーダ信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係わる目標位置確認システムは、予め三次元の基準座標系で位置計測された地点に設置され、着地地点に着陸する移動目標に対しレーダ波を送信し、このレーダ波の反射波を受信処理するレーダ送受信装置と、着地地点周辺に設置される基準装置と、レーダ送受信装置による受信処理結果に基づいて、レーダ送受信装置から見た移動目標の方位・距離を表示器に表示するレーダ信号処理装置とを具備し、基準装置は、測位衛星を利用する位置計測システムにより自装置の設置位置を計測する位置計測手段と、この位置計測手段により計測された計測位置情報を、レーダ信号処理装置に送出する送信手段とを備え、レーダ信号処理装置は、基準装置の送信手段から送出される基準装置の計測位置情報を受信する受信手段と、レーダ送受信装置の緯度経度情報が入力されたとき、当該経度緯度情報と受信手段により得られる基準装置の計測位置情報とに基づいて、レーダ送受信装置から見た基準装置の方位・距離を求める演算手段と、この演算手段により求められるレーダ送受信装置から見た基準装置の方位・距離を移動目標の方位・距離とともに表示器に表示する表示制御手段とを備えるようにしたものである。
【0008】
この構成によれば、着地地点周辺にGPS受信機といった既知の位置計測システムを利用可能な基準装置を設置するだけでよく、また基準装置に計測位置情報の送信機能を持たせることで、レーダ信号処理装置において自装置の経度緯度情報と基準装置の計測位置情報とを利用して、レーダ送受信装置から見た移動目標の方位・距離のずれを調整できるようにしている。
【0009】
従って、作業者が滑走路周辺に反射物体を設置してこの反射物体の位置計測を行う必要がなく、基準装置により得られる計測位置情報を利用して、レーダ送受信装置から見た移動目標の方位・距離のずれ調整作業を迅速かつ適切に行えるようになり、これにより作業の精度向上と作業時間短縮を図ることが可能となる。
【0010】
表示制御手段は、レーダ送受信装置から見た基準装置の方位・距離に相当する表示位置に、基準装置を表す基準点マークを表示し、さらに基準点マークから移動目標の方位・距離のずれ量に相当する位置にカーサを表示器に表示することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ユーザはカーサ表示といった見やすい表示画面でレーダ送受信装置から見た移動目標の方位・距離のずれ調整作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したようにこの発明によれば、レーダ設置場所から見た移動目標の方位・距離のずれ調整作業を迅速かつ適切に行えるようにし、これにより作業の精度向上と作業時間短縮を図ることを可能とする目標位置確認システム及びレーダ信号処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、この発明の一実施形態に係わるレーダ信号処理装置が適用される航空管制システムの概略構成図である。
【0015】
この航空管制システムでは、滑走路RWYの周辺に、PAR100が設置されている。PAR100は、滑走路RWYに着陸しようとする移動目標としての航空機Tにレーダ波を送信し、このレーダ波の反射波を受信処理する。
【0016】
ところで、本実施形態では、図2に示すように、滑走路RWYの周辺に、GPS(Global Positioning System)装置200を基準点として配置するようにしている。このGPS装置200は、GPS衛星(図示せず)から送られてくるGPS信号を受信して自装置の経度緯度情報を計測し、この計測した緯度経度情報をPAR100に送信する。
【0017】
一方、PAR100は次のように構成される。図3はその構成を示すブロック図である。
【0018】
PAR100は、大別すると、空中線装置110と、受信処理部120と、角度信号処理部130と、表示処理部140と、基準点マーク計算処理部150と、カーサ計算処理部160とを備えている。
【0019】
移動目標となる航空機Tにて反射されたレーダ受信波は、空中線装置110にて受信され、受信処理部120及び角度信号処理部130に供給される。受信処理部120では、受信信号の増幅、周波数変換等の受信処理が行われた後、その受信処理結果となるターゲットのビデオ信号を表示処理部140に出力する。
【0020】
一方、基準点マーク計算処理部150は、オペレータの操作によりPAR100の緯度経度情報が入力されると、当該経度緯度情報とGPS装置200から送られるGPS装置200の経度緯度情報とに基づいて、PAR100から見た基準点の方位・距離を求める。そして、この演算結果は、角度信号処理部130及びカーサ計算処理部160に供給される。
【0021】
角度信号処理部130は、基準点マーク計算処理部150から送られる基準点マーク信号を基準とした航空機Tの位置を角度信号として受信処理部120に出力する。
【0022】
カーサ計算処理部160は、基準点マーク計算処理部150から送られる基準点マーク信号と受信処理部120による受信処理結果とをもとに、基準点マークから航空機Tの方位・距離のずれ量に相当する位置に表示するカーサを求め、このカーサ信号を表示処理部140に出力する。なお、カーサは、オペレータによるパラメータ指示により直線や点線等を選ぶことが可能である。
【0023】
表示処理部140は、図4に示すように、PAR100から見た航空機Tの方位・距離情報を示す表示画面データを生成し、表示器170に供給して画面表示させる。このとき、PAR100から見たGPS装置200の方位・距離に相当する表示位置に、基準点マークを表示し、基準点マークから航空機Tの位置にカーサを表示する。
【0024】
次に、次に、以上のように構成されたシステムによる運用について説明する。
以前は、PAR100のメンテナンスを行う場合に、図5に示すように、滑走路RWYの周辺に反射物体Rを設置していた。そして、PAR100から反射物体Rに向けて電波を放射し、図6に示すように、反射物体Rによる受信エコーを空中線装置110で受信し、受信処理部120にて所定の受信処理が施された後、表示処理部140により基準エコーとして表示器170に供給されることになる。
【0025】
このとき、オペレータは、表示器17の表意画面を目視しながら、手動で微調整を繰り返し行わなければならないため、メンテナンスに多くの手間と時間がかかる。また、メンテナンスごとに滑走路RWY周辺まで足を運んで、反射物体Rの設置作業を行い、さらに反射物体Rの位置計測も行わなければならないため、多数の人員を確保しておく必要が生じる。
【0026】
そこで、本実施形態では、1度だけ滑走路RWY付近まで足を運んで基準点とする位置にGPS装置200を配置しておくだけでよい。このGPS装置200は、既知のものを使用するため、軽量のもので済む。このとき、設置者は、GPS装置200の経度緯度情報をPAR100に送信するようにGPS装置200の設定を行う。
【0027】
一方、PAR100に常駐しているオペレータは、PAR100から見た航空機Tの方位・距離ずれの調整を行う際に、PAR100の経度緯度情報を基準点マーク計算処理部150に入力するだけで、PAR100から見たGPS装置200の方位・距離が航空機Tの方位・距離とともに表示器170に表示されることになる。
【0028】
以上のように上記実施形態では、滑走路RWY周辺に既知のGPS装置200を設置するだけでよく、またGPS装置200にPAR100への計測位置情報の送信機能を持たせることで、PAR100において自装置の経度緯度情報とGPS装置200の計測位置情報とを利用して、PAR100から見た航空機Tの方位・距離のずれを容易に調整できるようにしている。
【0029】
従って、作業者が滑走路RWY周辺に反射物体Rを設置してこの反射物体Rの位置計測までの作業を行う必要がなく、GPS装置200により得られる計測位置情報を利用して、PAR100から見た航空機Tの方位・距離のずれ調整作業を迅速かつ適切に行えるようになり、これにより作業の精度向上と作業時間短縮を図ることが可能となる。
【0030】
なお、上記実施形態では、GPSを利用する例について説明したが、その他の位置計測システムを利用するものであってもよい。
【0031】
また、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施形態に係わるレーダ信号処理装置が適用される航空管制システムの概略構成図。
【図2】同実施形態におけるPARとGPS装置との配置位置関係を示す図。
【図3】同実施形態におけるPARの要部構成を示すブロック図。
【図4】同実施形態におけるPARの表示器に表示される画面の一例を示す図。
【図5】以前におけるPARと反射物体との配置位置関係を示す図。
【図6】以前に用いられていたPARの要部構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0033】
100…PAR、110…空中線装置、120…受信処理部、130…角度信号処理部、140…表示処理部、150…基準点マーク計算処理部、160…カーサ計算処理部、170…表示器、200…GPS装置、RWY…滑走路、T…航空機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め三次元の基準座標系で位置計測された地点に設置され、着地地点に着陸する移動目標に対しレーダ波を送信し、このレーダ波の反射波を受信処理するレーダ送受信装置と、
前記着地地点周辺に設置される基準装置と、
前記レーダ送受信装置による受信処理結果に基づいて、前記レーダ送受信装置から見た前記移動目標の方位・距離を表示器に表示するレーダ信号処理装置とを具備し、
前記基準装置は、
測位衛星を利用する位置計測システムにより自装置の設置位置を計測する位置計測手段と、
この位置計測手段により計測された計測位置情報を、前記レーダ信号処理装置に送出する送信手段とを備え、
前記レーダ信号処理装置は、
前記基準装置の送信手段から送出される前記基準装置の計測位置情報を受信する受信手段と、
前記レーダ送受信装置の緯度経度情報が入力されたとき、当該経度緯度情報と前記受信手段により得られる前記基準装置の計測位置情報とに基づいて、前記レーダ送受信装置から見た前記基準装置の方位・距離を求める演算手段と、
この演算手段により求められる前記レーダ送受信装置から見た前記基準装置の方位・距離を前記移動目標の方位・距離とともに前記表示器に表示する表示制御手段とを備えたことを特徴とする目標位置確認システム。
【請求項2】
予め三次元の基準座標系で位置計測された地点に設置されるレーダ送受信装置にて着地地点に着陸する移動目標に対しレーダ波を送信し、このレーダ波の反射波を受信処理し、この受信処理結果に基づいて前記レーダ送受信装置から見た前記移動目標の方位・距離を表示器に表示するレーダ信号処理装置において、
前記着地地点周辺に設置される基準装置にて送出される前記基準装置の計測位置情報を受信する受信手段と、
前記レーダ送受信装置の緯度経度情報が入力されたとき、当該経度緯度情報と前記受信手段により得られる前記基準装置の計測位置情報とに基づいて、前記レーダ送受信装置から見た前記基準装置の方位・距離を求める演算手段と、
この演算手段により求められる前記レーダ送受信装置から見た前記基準装置の方位・距離を前記移動目標の方位・距離とともに前記表示器に表示する表示制御手段とを具備したことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記表示制御手段は、前記レーダ送受信装置から見た前記基準装置の方位・距離に相当する表示位置に、前記基準装置を表す基準点マークを表示することを特徴とする請求項2記載のレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記表示制御手段は、前記基準点マークから前記移動目標の方位・距離のずれ量に相当する位置にカーサを前記表示器に表示することを特徴とする請求項3記載のレーダ信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−70262(P2008−70262A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249909(P2006−249909)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】