説明

目標追尾装置及び目標追尾方法

【課題】
従来の運動予測方式は、自身が等速直線運動をしている場合は良好な自身と追尾目標の相対針路および相対速度の予測ができ、安定した相対ベクトルの表示ができたが、自身が変針又は変速した場合には応答が非常に遅くなり、自身と追尾目標の相対ベクトルの表示が実際の相対針路や相対速度と大きく異なることがあった。
【解決手段】
対地固定された比較目標を追尾し、メモリに蓄積されたデータより観測時間を変えて追尾情報を演算し、追尾情報から自身の真ベクトルを演算し、自身の真ベクトルの検出装置より得られた自身の真ベクトルと比較し、最適観測時間を演算し、自身と追尾目標の相対ベクトルを演算、表示する。さらに、追尾目標の真ベクトルの変化検出を行い、追尾目標の真ベクトルの変化による自身と追尾目標の相対ベクトルの変化を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レーダー、カメラ等により目標の距離、方位、俯角、仰角、位置等を観測し、目標との相対速度または相対針路を演算、表示する装置または方法。
【背景技術】
【0002】
一般にレーダー等の目標追尾装置においては、分解能などの機器の性能、信号の減衰、各種雑音等により観測誤差を生ずる。さらに、追尾目標の相対ベクトル(自身を基準とする目標の相対速度、相対針路のベクトル)を表示する場合、自身及び追尾目標が一定の速度、針路で移動している場合は、追尾目標の相対ベクトルが一定であることから、観測時間が長いほど雑音除去の効果が期待できるため精度が向上する。しかし、自身または追尾目標の真ベクトル(地表を基準とする自身または追尾目標の針路および速度のベクトルであり、真針路、真速度と呼ばれる)が変化した場合、追尾目標の相対ベクトルも変化するため、変化後の一定時間は誤差を生ずる。このようなときは、観測時間をより短くすることで精度が向上する。
【0003】
図1は、追尾目標の真ベクトルの変化を検出する従来の装置のブロック図例である。レーダーにより目標を追尾し、追尾目標の真ベクトルを演算し、追尾目標の真ベクトルの変化を検出し、追尾目標の真ベクトルを出力する。一方で、追尾目標の真ベクトルの変化分から、追尾目標の相対ベクトルを演算し、追尾目標の相対ベクトルを求める。追尾目標の真ベクトル出力と、追尾目標の相対ベクトル出力から、追尾目標の真ベクトルおよび相対ベクトルを表示する。
【0004】
図2は、従来の装置のフローチャート例である。1スキャン毎にベクトル演算を行うか否かが判定され、演算実施となると、操作者が設定した観測時間、またはあらかじめ装置に設定した最大観測時間における、自身から見た追尾目標の相対位置(レーダー画面上に自身の位置を固定した場合の追尾目標の動き)と、自身の真速度、真針路を加算した真位置(レーダー画面上に自身の移動量を加算した場合の、地表に対する自身と追尾目標のそれぞれの動き、実際の動き)をメモリに格納する。位置データがQ個以上か否かを判定し、Q個以上の場合は、最新のL個のデータにもとづき、追尾目標の真ベクトル、相対ベクトルを演算する。次に、記憶データの数がR個以上か否かが判定され、R個以上の場合は、最新のR個のデータにもとづき、追尾目標の真ベクトル、相対ベクトルを演算する。ここで、L<R とする。
【0005】
演算された追尾目標の真ベクトルを比較し、真ベクトル相互間の差があらかじめ設定した値よりも大きければ、追尾目標が速度の変更(加減速)、針路の変更(変針)を行ったものとみなし、よりデータ数の少ないL個のデータで演算した追尾目標の真ベクトルを出力する。相対ベクトルについても、演算された追尾目標の相対ベクトルを比較し、相対ベクトル相互間の差があらかじめ設定した値よりも大きければ、大きければ追尾目標が速度の変更(加減速)、針路の変更(変針)を行ったものとみなし、よりデータ数の少ないL個のデータで演算した追尾目標の相対ベクトルを出力する。また、真ベクトル相互間の差が小さければ、より多くのデータを使用することにより精度が高まるため、データ数の多いR個のデータで求めた追尾目標の真ベクトルを出力する。追尾目標の相対ベクトルについても、相対ベクトル相互間の差が小さければ、より多くのデータを使用することにより精度が高まるため、データ数の多いR個のデータで求めた追尾目標の相対ベクトルを出力する。
このようにして求めた追尾目標の真ベクトル、相対ベクトルを表示する。
【特許文献1】特許第3970585号、目標追尾装置及び方法、三菱電機株式会社
【特許文献2】特許第2595225号、船舶用運動予測方式、株式会社トキメック
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、追尾目標の真ベクトルの変化の検出のみであるため、自身と追尾目標の相対ベクトルの精度は検出誤差よりも小さくすることができなかった。また、特許文献1、特許文献2にあるような予測ベクトル、平滑ベクトル等の運動モデルとの差異によって自身と追尾目標の相対ベクトルの変化を検出する方法では、それぞれの運動モデルによる演算を行わなければならず、運動モデル間の誤差も加わる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
対地固定された目標(比較目標)を追尾し、メモリに蓄積されたデータとの比較結果にもとづき観測時間を変えて追尾情報を演算し、追尾情報からの真ベクトルを演算し、自身のベクトル検出装置(速度装置、針路装置等)から得られた真ベクトルと比較し、相対ベクトルの最適観測時間を演算し、自身と追尾目標の相対ベクトルを演算、表示する。自身の持つ真ベクトル検出装置は、自身に近い点または接している点、または高精度の計測器(GPS等)から測定するので一般的に精度がよい。
【0008】
さらに、追尾目標の真ベクトルの変化検出を行い、追尾目標の真ベクトルの変化による自身と追尾目標の相対ベクトルの変化を検出する。対地固定された比較目標を追尾するときは、操作者自らが手動で設定しても良いし、また追尾目標の真ベクトルの演算結果の速度が0または所定範囲内の速度である場合には、装置による自動判断による検出としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
自身の真ベクトルの変化による、自身と追尾目標との相対ベクトルの変化を最適観測時間で求めることができ、追従の遅れを少なくできる。
【実施例】
【0010】
図3は本発明の実施例のブロック図を示したものである。比較目標から自身の真ベクトルが演算され、入力された自身の真ベクトルとから、最適観測時間が演算される。最適観測時間により追尾目標の真ベクトルが演算され、追尾目標の真ベクトルの変化が検出される。また、最適観測時間と追尾目標の真ベクトルの変化とから追尾目標の相対ベクトルの算出時間の判定がなされ、追尾目標の相対ベクトルの演算がおこなわれる。追尾目標の真ベクトル出力と、追尾目標の相対ベクトル出力から、追尾目標の真ベクトルおよび相対ベクトルが表示される。
【0011】
図4は本発明の実施例のフローチャートを示したものである。操作者が設定した対地固定目標、もしくは、以前より追尾している目標の真ベクトルの演算結果で、速度が0、または所定の範囲内(目標追尾装置の誤差範囲内)の数値のいずれか一方を比較目標として決定する。追尾している目標がない場合など、演算の必要がない場合は終了する。装置に接続された自身の速度検出装置及び進路針路検出装置より、速度情報、針路情報をメモリに格納する。自身から見た追尾目標の相対位置と、自身の速度、針路を加算した真位置をメモリに格納する(405)。同様に自身から見た比較目標の相対位置と、自身の速度、針路を加算した真位置をメモリに格納する。位置データ数がQ個以上か否かという判定条件にもとづき、操作者が設定した観測時間、またはあらかじめ装置に設定した最大観測時間まで405の動作を繰り返す。
【0012】
407、409でメモリに蓄積されたデータの読み出しデータ数(観測時間に相当)を変える処理を行い、与えられた読み出しデータ数によって405で格納したメモリから読み出しを行い、自身と比較目標の相対ベクトルを演算し、求めた相対ベクトルより自身の真ベクトルを演算する。比較目標は対地固定されているので、自身の真ベクトルは、自身と比較目標の相対ベクトルを180度回転させたものになる。407、409で与える読み出しデータ数は、最低限の精度を満たすためのデータ数Jから所定精度を満たすために必要なデータ数Rまでの範囲から決定する。
【0013】
408により、比較目標より求めた自身の真ベクトルの数値群と、405でメモリに格納した、ベクトル検出装置(速度装置、針路装置など)から得られた自身の真ベクトルの数値を比較し、最も数値が接近しているデータを抽出し、そのデータを演算したときに407、409が与えたデータ数M(最適観測時間)を抽出する(410)。最新のL個及びR個の読み出しデータ数(L<R)によって405で格納したメモリから読み出しを行い、追尾目標の真ベクトルをそれぞれ求める。405の記憶データ数がR個に満たない場合は追尾目標が加減速、変針を行ったかどうかの判定は行わない。
【0014】
追尾目標の真ベクトルについて、これらの真ベクトルの数値群を比較し、差が大きければ追尾目標が加減速、変針を行ったものとみなし、L個のデータで求めた追尾目標の真ベクトルを出力し表示する。また、差が小さければデータを多く使った方が演算、表示の精度が高まるため、R個のデータで求めた追尾目標の真ベクトルを出力し表示する。L個のデータにより追尾目標の真ベクトルを出力した場合でL<Mならば目標が加減速、変針を行ったものとみなしているため、L個のデータにより追尾目標の相対ベクトルを演算する。それ以外ならばM個のデータにより追尾目標の相対ベクトルを演算する。求めた追尾目標の真ベクトル及び相対ベクトルを表示する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術のブロック図
【図2】従来技術のフローチャート
【図3】発明のブロック図
【図4】発明のフローチャート
【符号の説明】
【0016】
101・・・レーダー等、102・・・目標追尾部、103・・・追尾目標の真ベクトルの演算部、104・・・追尾目標の真ベクトルの変化検出部、105・・・追尾目標の真ベクトルの出力部、106・・・追尾目標の相対ベクトルの演算部、107・・・追尾目標の相対ベクトルの出力部、108・・・追尾目標の真ベクトルおよび相対ベクトルの表示部、201・・・スタート、202・・・ベクトル演算実行の判断、203・・・終了、204・・・データ入力、205・・・データ数の判定、206・・・真ベクトルおよび相対ベクトルの演算、207・・・ベクトル差分の大きさの判定、208・・・データ出力、301・・・レーダー等、302・・・目標追尾部、303・・・比較目標からの自身の真ベクトルの演算部、304・・・自身の真ベクトルの検出部、305・・・最適観測時間演算部、306・・・追尾目標の真ベクトルの演算部、307・・・追尾目標の真ベクトルの変化検出部、308・・・追尾目標の相対ベクトルの算出時間判定部、309・・・追尾目標の相対ベクトルの演算部、310・・・追尾目標の真ベクトルの出力部、311・・・追尾目標の相対ベクトルの出力部、312・・・追尾目標の真ベクトルおよび相対ベクトルの表示部、401・・・スタート、402・・・比較目標の設定、403・・・ベクトル演算実行の判断、404・・・終了、405・・・データ入力、406・・・データ数の判定、407・・・ループ端(開始)、408・・・比較目標の相対ベクトルの演算および自身の真ベクトルの演算、409・・・ループ端(終了)、410・・・他装置からの自身の真ベクトルと比較目標より求めた自身の真ベクトルから最適観測データ数Mを抽出、411・・・真ベクトルの演算、412・・・ベクトル差分の大きさの判定、413・・・真ベクトルのデータ出力、414・・・相対ベクトルの演算およびデータ出力、415・・・データ数の判定、416・・・追尾目標の真ベクトルおよび相対ベクトルの表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標を追尾する手段(手段1)と、
対地固定化された比較目標の相対ベクトルの演算から自身の真ベクトルを演算する手段(手段2)と、
外部より自身の真ベクトルの要素を入力する手段(手段3)と、
前記手段2より得られた自身の真ベクトルと前記手段3より入力された自身の真ベクトルとから最適観測時間を演算する手段(手段4)と、
前記手段1より得られた追尾情報と前記手段4より得られた最適観測時間とから追尾目標の真ベクトルを演算する手段(手段5)と、
前記手段5より得られた真ベクトルより追尾目標の真ベクトルの変化を検出する演算手段(手段6)と、
前記手段4より得られた最適観測時間と前記手段6より得られた追尾目標の真ベクトルの変化量より追尾目標の相対ベクトルの算出時間を判定する手段(手段7)と、
前記手段1より得られた追尾情報と前記手段7より得られた相対ベクトルの算出時間とより追尾目標の相対ベクトルを演算する手段(手段8)と、
追尾目標の真ベクトルを出力する手段(手段9)と、
追尾目標の相対ベクトルを出力する手段(手段10)と、
追尾目標の真ベクトルと相対ベクトルとを表示する手段(手段11)と、
を備えた目標追尾装置。
【請求項2】
対地固定化された比較目標を選択、設定する際、船舶航行支援装置の操作者が手動で選択、設定をおこなう手段と、船舶航行支援装置が自動的に選択、設定する手段とを有する、前記請求項1に記載の目標追尾装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229406(P2009−229406A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78507(P2008−78507)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】