説明

直動案内装置

【課題】サイドシール部材と案内レールとの間の隙間量の管理が容易であると共に、微少粒子がサイドシール部材の外部へ抜け出る量を低減できる、クリーン環境に用いられるのに好適な直動案内装置を提供する。
【解決手段】直動案内装置は、スライダの軸方向端部に案内レール2に対して所定の隙間量Δを設けて取り付けられたサイドシール部材10を備える。サイドシール部材10は、一体に構成されると共に、軸方向に沿う厚さTが隙間量Δに対して25倍〜140倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、クリーン環境に用いるのに好適な直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な直動案内装置としては、例えば図5に示すものが知られている。
図5に示す直動案内軸受装置は、軸方向に延びる案内レール101と、案内レール101上に軸方向に相対移動可能に跨架されたスライダ102とを備えている。
案内レール101の両側面にはそれぞれ軸方向に延びる転動体転動溝103が形成されており、スライダ102のスライダ本体102Aには、その両袖部104の内側面に、それぞれ転動体転動溝103に対向する転動体転動溝107が形成されている。そして、これらの向き合った両転動体転動溝103,107の間には転動体の一例としての多数のボールBが転動自在に装填され、これらのボールBの転動を介してスライダ102が案内レール101上を軸方向に沿って相対移動できるようになっている。
【0003】
スライダ102の移動につれて、案内レール101とスライダ102との間に介在するボールBは転動してスライダ102の端部に移動するが、スライダ102を軸方向に継続して移動させていくためには、これらのボールBを無限に循環させる必要がある。
このため、スライダ本体102Aの袖部104内に軸方向に貫通する転動体通路108を形成すると共に、スライダ本体102Aの両端にそれぞれ略コ字状のエンドキャップ105を、例えば、ねじ112等の固定手段を介して固定し、このエンドキャップ105に両転動体転動溝103,107間と転動体通路108とを連通する半円弧状に湾曲した方向転換路106を形成することにより、転動体無限循環軌道を形成している。
【0004】
また、スライダ102の軸方向両端には、エンドキャップ105と共にねじ112を介して固定された1対のサイドシール部材111が固定されている。各サイドシール部材111は、直動案内装置からの発塵を抑制するために設けられている。サイドシール部材111はエンドキャップ105と同様に略コ字状とされて内周部が案内レール101に摺接するシール面とされており、例えば、鋼板にゴムを焼付接着して形成されている。
なお、図5において、符号110はスライダ本体102Aの端面に形成されたねじ112のタップ穴、113は給脂用ニップル、114は案内レール101の固定用のボルト挿通穴である。
【0005】
一方、真空環境用直動案内装置に用いられるサイドシール部材として、例えば、図6に示すものが知られている(特許文献1参照)。
図6に示すサイドシール部材211は、エンドキャップ(図示せず)と共にスライダ本体(図示せず)の端面にねじ215を介して固定されるものである。このサイドシール部材211は、交互に積層された薄板状の複数枚の第1及び第2プレート212,213と、これら第1及び第2プレート212,213が取り付けられる押えプレート214とで構成されている。サイドシール部材211の各第1及び第2プレート212,213には案内レール201(図7参照)の外形形状に合わせた開口212a,213aが形成され、押えプレート214にも案内レール201の外形形状に合わせた開口214aが形成されている。
【0006】
サイドシール部材211を構成する第1及び第2プレート212,213の開口212a,213aの大きさは、案内レール101の外形形状よりも大きく、サイドシール部材211と案内レール201との間には隙間が開く。このため、サイドシール部材211は、案内レール201に接触することなく、僅かな隙間を保ちながら案内レール201に沿って移動する。この隙間について述べると、第2プレート213の開口213aの形状は第1プレート212の開口212aよりも僅かに大きく、図7に示すように、第2プレート213と案内レール201との隙間βは第1プレート212と案内レール201との隙間αよりも大きく凹凸形状をなしている。このように、サイドシール部材211と案内レール201との隙間を凹凸形状にすることにより、サイドシール部材211と案内レール201との間を潤滑油が蒸発した気体が流れるとき、平面形状に形成する場合に比べてより大きな抵抗が生じることになり、直動案内装置内部の潤滑剤が気化し、外部に漏れ出るのをより抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/054439号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、クリーン環境に用いられる直動案内装置においては、直動案内装置内部の微少粒子がサイドシール部材と案内レールとの間を通り抜けて発塵すると、製品不良の原因となるため、直動案内装置からの発塵の抑制が通常の直動案内装置よりもより求められている。
従来の図6に示した真空環境用直動案内装置に用いられるサイドシール部材211の場合には、サイドシール部材211と案内レール201との間に隙間が設けられているため、サイドシール部材を案内レールに接触させる場合に比べて発塵量が少ない。また、サイドシール部材211を交互に積層された薄板状の複数枚の第1及び第2プレート212,213で構成しているため、サイドシール部材211が厚く、微少粒子がサイドシール部材211の隙間内側に付着しやすくなり、外に抜ける微少粒子の量を少なくすることができる。このため、図6に示したサイドシール部材211を、クリーン環境に用いられる直動案内装置に用いることも考えられる。
【0009】
しかしながら、図6に示した真空環境用直動案内装置に用いられるサイドシール部材211の場合、複数枚の第1及び第2プレート212,213と案内レール201との隙間を管理する必要があり、その隙間量の管理が困難である。つまり、複数枚の第1及び第2プレート212,213を重ねる場合、それぞれのプレートを位置決めする必要があるが、実際には最外のプレートと案内レールとの隙間量のみ目視やすきまゲージを用いることで隙間を確認できるが、内側のプレートと案内レールとの隙間量を確認することができない。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サイドシール部材と案内レールとの間の隙間量の管理が容易であると共に、微少粒子がサイドシール部材の外部へ抜け出る量を低減できる、クリーン環境に用いられるのに好適な直動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のうち請求項1に係る直動案内装置は、軸方向に延びる転動体転動溝を有する案内レールと、該案内レールの前記転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有し、これらの両転動体転動溝間に挿入された多数の転動体の転動を介して軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダと、前記スライダの軸方向端部に前記案内レールに対して所定の隙間量を設けて取り付けられたサイドシール部材とを備えた直動案内装置であって、前記サイドシール部材は、一体に構成されると共に、前記軸方向に沿う厚さが前記隙間量に対して25倍〜140倍であることを特徴としている。
また、本発明のうち請求項2に係る直動案内装置は、請求項1記載の直動案内装置において、前記サイドシール部材は、前記案内レールに対する対向面が平坦面で形成され、前記隙間量が前記軸方向に沿って一定であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうち請求項1に係る直動案内装置によれば、サイドシール部材は、一体に構成されるので、サイドシール部材全体を同じ隙間量に管理することができ、サイドシール部材と案内レールとの間の隙間量の管理を容易に行うことができる。そして、サイドシール部材は、軸方向に沿う厚さが隙間量に対して25倍〜140倍であるので、サイドシール部材の軸方向厚みが厚く、微少粒子が隙間内側に付着しやすくなり、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子の量を低減でき、全体の発塵量を少なくすることができる。このため、クリーン環境に好適な直動案内装置とすることができる。サイドシール部材の軸方向に沿う厚さが隙間量に対して25倍よりも小さいと、サイドシール部材の軸方向厚みが薄く、微少粒子が隙間内側に付着し難くなり、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子の量を低減できない。一方、サイドシール部材の軸方向に沿う厚さが隙間量に対して140倍よりも大きいと、サイドシール部材の軸方向厚みが厚すぎ、スライダのストローク量(可動範囲)が大きく減少してしまうという不都合がある。
【0012】
また、本発明のうち請求項2に係る直動案内装置によれば、請求項1記載の直動案内装置において、前記サイドシール部材は、前記案内レールに対する対向面が軸方向に沿って平坦面で形成され、前記隙間量が前記軸方向に沿って一定であるので、サイドシール部材と案内レールとの間の隙間量の管理を容易に行うことができるばかりでなく、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子の量をより低減することができる。特許文献1のように、サイドシール部材と案内レールとの間の隙間を凹凸形状にしている場合、微少粒子を凹部(溝部)の奥まで入り込ませて付着させる必要があるが、付着しない微少粒子がサイドシール部材外へ出てしまう可能性がある。サイドシール部材の案内レールに対する対向面が平坦面で形成されることで、サイドシール部材と案内レールとの隙間全体で微少粒子を付着させることができ、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子の量をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る直動案内装置の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す直動案内装置において、サイドシール部材の作用を説明するための断面模式図である。
【図3】図1に示す直動案内装置において、サイドシール部材の軸方向厚さを薄くした場合の作用を説明するための断面図である。
【図4】本発明例と比較例のサイドシール部材の軸方向厚さの違いによる発塵量を比較したグラフである。
【図5】従来の直動案内装置の一例を示す斜視図である。
【図6】従来の真空環境用直動案内装置に用いられるサイドシール部材の分解斜視図である。
【図7】図6に示すサイドシール部材と案内レールとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る直動案内装置の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示す直動案内装置1は、例えば、半導体製造装置や液晶製造装置の搬送部の案内などのクリーン環境に用いるのに好適な直動案内装置に係るものであり、軸方向に延びる案内レール2と、案内レール2上に軸方向に相対移動可能に跨架されたスライダ3とを備えている。
【0015】
案内レール2の両側面にはそれぞれ軸方向に延びる2条の転動体転動溝2aが形成されており、スライダ3のスライダ本体4には、その両袖部4aの内側面に、それぞれ転動体転動溝2aに対向する転動体転動溝(図示せず)が形成されている。そして、これらの向き合った案内レール2に形成された転動体転動溝2aとスライダ本体4に形成された転動体転動溝との間には転動体の一例としての多数のボール(図示せず)が転動自在に装填されている。これらのボールの転動を介してスライダ3が案内レール2上を軸方向に沿って相対移動できるようになっている。
このスライダ3の移動につれて、案内レール2とスライダ3との間に介在するボールは転動してスライダ3の端部に移動するが、スライダ3を軸方向に継続して移動させていくためには、これらのボールを無限に循環させる必要がある。
【0016】
このため、スライダ本体4の袖部4a内に軸方向に貫通する転動体通路(図示せず)を形成すると共に、スライダ本体4の軸方向両端にそれぞれ略コ字状のエンドキャップ5を固定している。そして、各エンドキャップ5には、案内レール2に形成された転動体転動溝2aとスライダ本体4に形成された転動体転動溝との間と転動体通路とを連通する半円弧状に湾曲した方向転換路(図示せず)を形成することにより、転動体無限循環軌道を形成している。なお、図1において、符号2bは、案内レール2を他の部材に固定するためのボルト挿通孔である。
【0017】
また、スライダ3のエンドキャップ5の軸方向両端部には、1対のサイド部材10(図1では、一方のサイドシール部材10のみを図示)を取り付けている。1対のサイドシール10は対称形状をなすため、一方のサイドシール部材10のみについて説明する。
サイドシール部材10は、図1に示すように、案内レール2を跨ぐように断面略コ字形に形成され、案内レール2を横断する方向に延びる基板部10aと、基板部10aのレール横断方向両端から案内レール2の両側面に沿うように下方に延びる1対の側板部10bとを備えている。サイドシール部材10は、例えば、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリアセタールなどの合成樹脂又はニトリルゴム、フッ素ゴムなどのゴムを射出成形することによって一体に形成される。サイドシール部材10は、図示しない取付ねじによりねじ孔10cを介してスライダ3のエンドキャップ5の軸方向端部に取り付けられる。
【0018】
ここで、サイドシール部材10は、図2に示すように、その側板部10bと案内レール2の転動体転動溝2aとの間の隙間量がΔとなるように取り付けられる。この隙間量Δは、例えば0.1mm程度と小さい。
そして、サイドシール部材10の軸方向に沿う厚さTは、前記隙間量Δに対して25倍〜140倍となっている。ここで、サイドシール部材10は、一体に構成されるので、サイドシール部材10全体を同じ隙間量Δに管理することができ、サイドシール部材10と案内レール2との間の隙間量Δの管理を容易に行うことができる。そして、サイドシール部材10は、軸方向に沿う厚さTが隙間量Δに対して25倍〜140倍であるので、サイドシール部材10の軸方向厚みTが厚く、図2に示すように、微少粒子6がサイドシール部材10の隙間内側に付着しやすくなり、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子の量を低減でき、全体の発塵量を少なくすることができる。このため、クリーン環境に好適な直動案内装置とすることができる。
【0019】
図3に示すように、サイドシール部材10の軸方向に沿う厚さTが隙間量Δに対して25倍よりも小さいと(図3に示した例では、T/Δ=7倍程度)、サイドシール部材10の軸方向厚みTが薄く、微少粒子6がサイドシール部材10の隙間内側に付着し難くなり、隙間を通って外に通り抜ける微少粒6子の量を低減できない。一方、サイドシール部材10の軸方向に沿う厚さTが隙間量Δに対して140倍よりも大きいと、サイドシール部材10の軸方向厚みTが厚すぎ、スライダのストローク量が大きく減少してしまうという不都合がある。
【0020】
また、サイドシール部材10は、図2に示すように、案内レール2の転動体転動溝2aに対する対向面10dが軸方向に沿って平坦面で形成され、隙間量Δが軸方向に沿って一定である。このため、サイドシール部材10と案内レール2との間の隙間量Δの管理を容易に行うことができるばかりでなく、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子6の量をより低減することができる。特許文献1のように、サイドシール部材211を構成する第1及び第2プレート2,213と案内レール201との間の隙間を凹凸形状にしている場合、微少粒子を凹部(溝部)の奥まで入り込ませて付着させる必要があるが、付着しない微少粒子がサイドシール部材211の外へ出てしまう可能性がある。サイドシール部材10の案内レール2に対する対向面10dが軸方向に沿って平坦面で形成されることで、サイドシール部材10と案内レール2との隙間全体で微少粒子6を付着させることができ、隙間を通って外に通り抜ける微少粒子6の量をより低減することができる。
【0021】
以上、本発明の実施形態について実施してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、サイドシール部材10の材質は、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリアセタールなどの合成樹脂又はニトリルゴム、フッ素ゴムなどのゴムでなくてもよい。
また、サイドシール部材10と案内レール2との間の隙間量Δは、0.1mm程度である必要はない。
【実施例】
【0022】
本発明の効果を検証すべく、サイドシール部材と案内レールとの間の隙間量Δを一定とし(0.1mm)、サイドシール部材の軸方向厚さTを変化させて発塵量を測定した。サイドシール部材の軸方向厚さTは、隙間量Δ(0.1mm)に対して10倍である1mm(比較例)、70倍である7mm(本発明例)、140倍である14mm(本発明例)とし、発塵量は、粒子径0.1μm以上の塵の単位体積(0.028m)当たりの個数を測定した。その結果を図4に示す。
図4を参照すると、本発明例の発塵量は、比較例の発塵量に対して約1/3程度になっていることがわかる。
【符号の説明】
【0023】
1 直動案内装置
2 案内レール
2a 転動体転動溝
2b ボルト挿通孔
3 スライダ
4 スライダ本体
4a 袖部
5 エンドキャップ
6 微少粒子
10 サイドシール部材
10a 基板部
10b 側板部
10c ねじ孔
Δ サイドシール部材と案内レールとの間の隙間量
T サイドシール部材の軸方向に沿う厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる転動体転動溝を有する案内レールと、該案内レールの前記転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有し、これらの両転動体転動溝間に挿入された多数の転動体の転動を介して軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダと、前記スライダの軸方向端部に前記案内レールに対して所定の隙間量を設けて取り付けられたサイドシール部材とを備えた直動案内装置であって、
前記サイドシール部材は、一体に構成されると共に、前記軸方向に沿う厚さが前記隙間量に対して25倍〜140倍であることを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
前記サイドシール部材は、前記案内レールに対する対向面が平坦面で形成され、前記隙間量が前記軸方向に沿って一定であることを特徴とする請求項1記載の直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172711(P2012−172711A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33134(P2011−33134)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】