説明

直動案内軸受及び摩擦撹拌接合装置

【課題】スライダの長さを延長することなく、コンパクトな形態で、耐ヨーイングモーメント性の向上を図る。
【解決手段】摩擦撹拌接合装置Mのオフセット軸3(Y軸)の直線案内手段として使用された直動案内軸受11Bが、直線状の案内レール20と、案内レール20を挟む一対のスライダ22と、案内レール20と各スライダ22の対向面に形成された転動面B間に配設された複数の転動体25と、一対のスライダ22が共に固定されたテーブル23とを備えており、一対のスライダ22が、案内レール20による案内方向(Y軸)の各中心位置を互いに案内方向にずらして、接合ツール1のスピンドル30を搭載したテーブルに固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離タイプのスライダを有する直動案内軸受、及び、その直動案内軸受をオフセット軸の直線案内手段として用いた摩擦撹拌接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分離タイプのスライダを用いた直動案内軸受の従来例として、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
図14は特許文献1に記載された直動案内軸受の断面図、図15はその上面図である。図14に示すように、この直動案内軸受では、ベース部材211の幅方向の両側にレールブロック212が取り付けられることで案内レール210が構成されており、その案内レール210を挟むように一対のスライダ220が配設され、それら一対のスライダ220が共に1つのテーブル230に固定されている。案内レール210の各レールブロック212と各スライダ220の対向面には転動面245A、245Bがそれぞれ形成されており、それら転動面245A、245B間に、スライダ220と案内レール210との相対移動を可能にする複数の転動体(ボール)240が配設されている。
【0004】
転動体240は、各スライダ220ごとに2列に設けられており、各列の転動体240が、それぞれのスライダ220に形成された循環通路246を循環するようになっている。また、一対のスライダ220は、案内レール210の案内方向に沿って同一長さに設定され、案内レール210の幅方向に対称的に配されている。また、テーブル230には予圧を与えるボルト250が配されており、このボルト250によって、案内レール210を挟むようにスライダ220に予圧が付与されている。
【0005】
また、特許文献2には、接合ツールをワークに押し付けつつ回転させることにより、接合ツールとワークの接触点に摩擦熱を発生させて接触点の周囲の材料を軟化させると共に撹拌し、それにより接合ツールをワークに没入させ、没入後、接合ツールをワークの表面方向に移動させることでワークを線状に接合する摩擦撹拌接合方法及び装置が記載されている。
【0006】
図16は特許文献2に記載の摩擦撹拌接合装置を示している。この摩擦撹拌接合装置は、接合ツール301をその軸線まわりに回転させる旋回軸310と、接合ツール301をその軸線方向に移動してワーク302に接近/離間させる加圧軸320と、接合ツール301を加圧軸320の軸線と直交する方向であるワーク302の表面方向に移動させるオフセット軸330と、を備えている。この装置では、接合ツール301をオフセット移動させるオフセット軸330のスライダの上に加圧軸320が載っており、加圧軸320のスライダの上に旋回軸310が載っている。
【0007】
この摩擦撹拌接合装置でワーク302の接合を行う場合、接合ツール301をワーク302に没入させる押し込み動作では、接合ツール301を旋回軸310で回転させながら加圧軸320でワーク302に押し付け、所定の深さまで接合ツール301をワーク302に没入させる。ワーク302に接合ツール301を没入させる際、接合ツール301にはワーク302から加圧力が接合ツール301の中心軸に沿って作用する。なお、押し込み動作においてオフセット軸330は停止している。
【0008】
接合ツール301をワーク302の所定深さまで没入した後は、加圧軸320は停止あるいは加圧保持に伴い微小移動させ、オフセット軸330を駆動して接合ツール301をワーク302の表面方向に移動させるオフセット動作を行う。オフセット動作では、接合ツール301にワーク302から加圧力が作用すると共に、接合ツール301がオフセット移動するのに伴って、ワーク302からの反力であるオフセット荷重が接合ツール301にその移動方向と逆方向に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平1−44925号公報
【特許文献2】特開2004−17128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に記載の直動案内軸受は、図15に示すように、2つのスライダ220に対して外部荷重としてヨーイングモーメントMyが作用するような条件下で使用した場合に、スライダ220の案内方向の端部において転動体の面圧が上昇し、短寿命になるという問題があった。ここでヨーイングモーメントMyとは、一対のスライダ220含む平面に対して垂直で、且つ、一対のスライダ220間の中心(つまり、案内方向である軸方向及び案内方向と直交する幅方向における中心)PHを通る軸のまわりに両スライダ220を回転させるモーメントである。また、転動体の寿命を延ばすには、各スライダ220の長さを延長することが有効であるが、そうすると、直動案内装置の大型化を招いてしまい、コストアップや装置全体の大型化につながる問題があった。
【0011】
例えば、特許文献2に示すような摩擦撹拌接合装置のオフセット軸330の直線案内手段として、図14及び図15に示すような分離スライダを有するタイプの直動案内軸受を使用した場合、オフセット動作において、オフセット軸330の直動案内軸受に、加圧力及びオフセット荷重に起因するヨーイングモーメントが作用するため、直動案内軸受のスライダの端部において転動体の面圧が上昇し、短寿命となる虞があった。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スライダの長さを延長することなく、コンパクトな形態で、耐ヨーイングモーメント性の向上を図った直動案内軸受を提供すること、及び、その直動案内軸受を使用した摩擦撹拌接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、請求項1の発明の直動案内軸受は、直線状に延びる少なくとも1つの案内レールと、前記案内レールを挟む一対のスライダと、前記案内レールと前記各スライダの対向面に形成された転動面間に配設され、前記各スライダと前記案内レールとの相対移動を可能にする複数の転動体と、前記一対のスライダが共に固定されたテーブルと、を備え、
前記一対のスライダが、前記案内レールによる案内方向の各中心位置を互いに案内方向にずらして前記テーブルに固定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の直動案内軸受において、
前記スライダの前記案内方向における両端にエンドキャップが取り付けられ、
前記案内レールの転動面と前記各スライダの転動面との間に前記転動体が転動しながら移動する転動通路が形成され、
前記スライダとエンドキャップとによって前記転動通路を経路の一部として含む転動体の循環経路が形成され、
その循環経路を循環するように前記転動体が収容されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明の摩擦撹拌接合装置は、接合ツールをワークに押し付けつつ回転させることにより、前記接合ツールとワークの接触点に摩擦熱を発生させて当該接触点の周囲の材料を軟化させると共に撹拌し、それにより前記接合ツールを前記ワークに没入させ、没入後、前記接合ツールをワークの表面方向に移動させることで前記ワークを線状に接合する摩擦撹拌接合装置であって、
前記接合ツールをその軸線まわりに回転させる旋回軸と、
前記接合ツールを前記ワークに接近/離間させる加圧軸と、
前記接合ツールを前記加圧軸の軸線と直交する方向であるワークの表面方向に移動させるオフセット軸と、を備え、
前記オフセット軸の直線案内手段として、請求項1または2に記載の直動案内軸受が使用され、
前記加圧軸の直線案内手段の固定側部材がベースに固定されると共に、前記加圧軸の直線案内手段の可動側部材上に前記直動案内軸受の案内レールが固定され、
前記直動案内軸受のテーブル上に前記旋回軸が配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明は、請求項3に記載の摩擦撹拌接合装置において、
前記加圧軸の直線案内手段及び直線駆動手段として、
断面が略U字状に形成された前記固定側部材としての案内レールと、前記案内レールのU字状の凹部内に配置された前記可動側部材としてのスライダと、前記案内レールと前記スライダの間に配置された複数の転動体と、を備え、前記案内レールは、前記スライダと対向配置される各袖部の内側面に転動面を有し、前記スライダは、前記案内レールの前記転動面に対向配置される転動面を有しており、前記案内レールの転動面と前記スライダの転動面との間に前記転動体が介在され、それにより前記スライダと前記案内レールとが相対的に移動可能とされた直動案内軸受と、
前記案内レールと平行に形成されたボールねじナットと、前記ボールねじナットを貫通するボールねじ軸と、前記ボールねじナットの螺旋溝と前記ボールねじ軸の螺旋溝との間に配置された複数のボールと、を備えるボールねじとを、備え、
前記ボールねじナットを前記スライダに備えた一体化したボールねじ一体型直動案内ユニットが使用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、案内レールを挟む一対のスライダを、案内方向に互いに位置をずらして配置しているので、テーブルに一方向のヨーイングモーメントが作用した場合にも、スライダの端部における転動体に作用する面圧を抑制することができる。従って、互いに分離された各スライダの長さを延長することなく、耐ヨーイングモーメント性の向上が図れるようになり、本直動案内軸受を装備する装置や機械のコンパクト化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の直動案内軸受を含む摩擦撹拌接合装置の側面図である。
【図2】図1の摩擦撹拌接合装置の加圧軸に利用されているボールねじ一体型直動案内ユニットの断面図である。
【図3】図1の摩擦撹拌接合装置のオフセット軸の直線案内手段として使用されている直動案内軸受の断面図である。
【図4】図3の直動案内軸受の要部構成を示す平面図である。
【図5】摩擦撹拌接合装置の正面図である。
【図6】直動案内軸受の一対のスライダと接合ツールの中心軸との関係を示す平面図である。
【図7】摩擦撹拌接合装置において、押し込み動作時の直動案内軸受の各スライダに作用する面圧の分布を示す図である。
【図8】摩擦撹拌接合装置において、オフセット動作時の直動案内軸受の各スライダに作用する面圧の分布を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に対する比較例を示す図で、図6に対応した平面図である。
【図10】図9の構成の摩擦撹拌接合装置において、押し込み動作時の直動案内軸受の各スライダに作用する面圧の分布を示す図である。
【図11】図9の構成の摩擦撹拌接合装置において、オフセット動作時の直動案内軸受の各スライダに作用する面圧の分布を示す図である。
【図12】変形例に係る摩擦撹拌接合装置の正面図である。
【図13】図12における直動案内軸受の一対のスライダと接合ツールの中心軸との関係を示す平面図である。
【図14】特許文献1に記載の直動案内軸受の断面図である。
【図15】図14の直動案内軸受の上面図である。
【図16】特許文献2に記載の摩擦撹拌接合装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態の直動案内軸受を含む摩擦撹拌接合装置の側面図、図2は図1の摩擦撹拌接合装置の加圧軸に利用されているボールねじ一体型直動案内ユニットの断面図、図3は図1の摩擦撹拌接合装置のオフセット軸の直線案内手段として使用されている直動案内軸受の断面図、図4は図3の直動案内軸受の要部構成を示す平面図、図5は摩擦撹拌接合装置の正面図、図6は直動案内軸受の一対のスライダと接合ツールの中心軸との関係を示す平面図である。
【0020】
図1に示すように、この摩擦撹拌接合装置Mには、摩擦撹拌接合のための接合ツール1をワークに接近/離間させる加圧軸2と、接合ツール1を加圧軸2と略直交する方向に移動させるオフセット軸3と、接合ツール1をその中心軸Q(図5参照)まわりに回転させる旋回軸4とが設けられている。ここで、加圧軸2は、互いに直交するX軸とY軸のうちのX軸として設定され、オフセット軸3はY軸として設定されている。
【0021】
図2に示すように、加圧軸2は、ボールねじ一体型直動案内ユニット10Aによって構成されており、ボールねじ一体型直動案内ユニット10Aは、X軸に沿って配された直動案内軸受11A(直線案内手段)とボールねじ12A(直線駆動手段)の組み合わせで構成されている。
【0022】
この直動案内軸受11Aは、断面が略U字状に形成された直線状の案内レール13(固定側部材)と、案内レール13のU字状の凹部内に配置されたスライダ14(可動側部材)と、案内レール13とスライダ14の間に配置された複数の転動体15と、を備えている。案内レール13は、スライダ14と対向配置される各袖部13Aの内側面に転動面16Aを有し、スライダ14は、案内レール13の転動面16Aに対向配置される転動面16Bを有しており、案内レール13の転動面16Aとスライダ14の転動面16Bとの間に転動体(本実施形態ではコロ)15が介在され、それにより、スライダ14と案内レール13とが相対的に直線移動可能とされている。なお、転動体として、コロの代わりにボールを用いてもよい。
【0023】
この場合、案内レール13の転動面16Aとスライダ14の転動面16Bとの間に、転動体15の移動する転動通路16Cが左右それぞれ上下に二列、即ち全体で二対四列形成される。スライダ14に、転動体15の戻し通路16Dと、戻し通路16Dと転動通路16とを連通する方向転換路(図示略)とが形成され、転動体15が、転動通路16と方向転換路と戻し通路16Dとから構成される無限循環路を循環するようになっている。
【0024】
また、ボールねじ12Aは、直動案内軸受11Aの案内レール13と平行に形成されたボールねじナット17と、ボールねじナット17を貫通するボールねじ軸18と、ボールねじナット17の螺旋溝とボールねじ軸18の螺旋溝との間に配置された複数のボール19とを備えている。そして、ボールねじ12Aの要素であるボールねじナット17を、直動案内軸受11Aの要素であるスライダ14に直接形成することにより、ボールねじ12Aと直動案内軸受11Aとを一体に備えたボールねじ一体型直動案内ユニット10Aが構成されている。
【0025】
また、オフセット軸3は、図3に示す直線案内手段としての直動案内軸受11Bと、図1に簡単に示す直線駆動手段としてのボールねじユニット12Bとから構成されている。
【0026】
このオフセット軸3の直動案内軸受11Bは、加圧軸2の直動案内軸受11Aと違って、分離スライダタイプのものであり、ベース部材20Aの幅方向両側に一対のレールブロック21を取り付けて構成された直線状の案内レール20と、この案内レール20を挟むように配された一対のスライダ(ベアリングブロックとも呼ばれる)22と、案内レール20の各レールブロック21と各スライダ22の対向面に形成された転動面26A、26B間に配設され、各スライダ22と案内レール20との相対移動を可能にする複数の転動体25(本実施形態ではボール)と、一対のスライダ22が共に固定されたテーブル23とを備えている。そして、案内レール20のベース部材20Aが、加圧軸2を構成するボールねじ一体型直動案内ユニット10Aのスライダ14にボルト等の結合手段により結合されている。
【0027】
各スライダ22の案内方向(Y軸方向)における両端にはエンドキャップ28が取り付けられている。また、レールブロック21の転動面26Aと各スライダ22の転動面26Bとの間には、転動体25が転動しながら移動する転動通路26Cが形成され、スライダ22とエンドキャップ28とによって、転動通路26を経路の一部として含む転動体の循環経路26Dが形成されており、その循環経路26Dを循環するように転動体25が収容されている。なお、転動体25は、各スライダ22ごとに1列に設けられているが、図14の従来例のように2列あるいはそれ以上の例に設けられていてもよい。また、転動体25として、ボールの代わりにコロを用いてもよい。
【0028】
また、一対のスライダ22は、図4に示すように、案内レール20の案内方向に沿って略同一長さに設定され、Y軸方向の各中心位置を互いにY軸方向にずらしてテーブル23に固定されている。各スライダ22のY軸方向の中心位置を通ってX軸に平行な線をPA、PBとし、線PA、PBの中間点を通るX軸方向に平行な線をPXとすると、PXとPA間の距離及びPXとPB間の距離は共にLsになっている。また、両スライダ22のX軸方向における中間点を通るY軸方向に平行な線をPYとすると、線PXと線PYの交点PHが、直動案内軸受11Bの中心として定義されている。
【0029】
本実施形態の場合、両スライダ22には、図4中の反時計回りのヨーイングモーメントMyが作用する前提となっており、ヨーイングモーメントMyの作用する方向にスライダ22が互いにずれている。具体的には、図5及び図6に示すように、両スライダ22はY軸方向に並んでおり、接合ツール1に近い方のスライダ22が、線PXに対してオフセット動作の進行方向YAと逆方向に寸法Lsだけずれて配置され、接合ツール1に遠い方のスライダ22が、線PXに対してオフセット動作の進行方向に寸法Lsだけずれ配置されている。
【0030】
また、図3に示すように、テーブル23が断面略U字状に形成されており、その幅方向両端の袖部23A、23Aの内側に一対のスライダ22が収容され、一方の袖部23Aとスライダ22の間に、スライダ22に予圧を与える2つのテーパギブ49がテーパ面を当接させて設けられている。なお、図14の従来例のようにテーブル23にボルトを装着し、このボルトによってスライダ22に予圧を付与してもよい。
【0031】
一方、オフセット軸3の直線駆動手段であるボールねじユニット12Bは、加圧軸2の場合と違って、直動案内軸受11Bとは別の箇所に設けられている。このボールねじユニット12Bも、図5に示すように、直動案内軸受11Bと平行に配されたボールねじナット17と、ボールねじナット17を貫通するボールねじ軸18と、ボールねじナット17の螺旋溝とボールねじ軸18の螺旋溝との間に配置された複数のボールとを備えている。そして、ボールねじ軸18及びオフセット軸モータ43が、直動案内軸受11Bのテーブル23側に取り付けられ、ボールねじナット17が直動案内軸受11Bの案内レール20側に設けられている。オフセット軸3のボールねじユニット12Bは、ベルト41Bを介してオフセット軸モータ43により駆動される。
【0032】
これにより互いに直交する加圧軸2としてのX軸とオフセット軸3としてのY軸の2軸が構成されている。
【0033】
以上のように構成された摩擦撹拌接合装置Mは、図1に示すように、接合ツール1をワークに押し付けつつ回転させることにより、接合ツール1とワークの接触点に摩擦熱を発生させて当該接触点の周囲の材料を軟化させると共に撹拌し、それにより接合ツール1をワークに没入させ、没入後、接合ツール1をワークの表面方向(Y軸方向)に移動させることで、ワークを線状に接合するものである。
【0034】
加圧軸2は、接合ツール1を加圧軸2の軸線方向に移動してワークに接近/離間させる。また、オフセット軸3は、接合ツール1を加圧軸2と直交する方向(Y軸)に移動させる。加圧軸2を構成するボールねじ一体型直動案内ユニット10Aの案内レール13は、ベースであるC字形のアーム50の基端にプレート58を介して固定され、オフセット軸3を構成する直動案内軸受11Bのテーブル23に、ブラケット48を介して接合ツール1を回転自在に装着したスピンドル30が固定されている。また、加圧軸2のスライダ14は、加圧軸2のボールねじ12Aによって駆動される。なお、加圧軸2のボールねじ軸18は、ベルト41Aを介して加圧軸モータ42によって駆動される。
【0035】
接合ツール1は、旋回軸4を構成するスピンドル30によってツールホルダ35を介して回転自在に保持され、円柱状のツール基部1aと、ツール基部下端面のショルダ部1bから下方に突出するツール基部1aより小さい外径のツールピン1cと、を備えて構成されている。スピンドル30は、軸受31を収容するスピンドルハウジング32と、軸受31と、軸受31によって回転可能に保持されたスピンドルシャフト33とによって構成され、スピンドルシャフト33の接合ツール1側には、接合ツール1を着脱可能に保持するツールホルダ35が設けられている。スピンドルシャフト33は、カップリング34を介して旋回軸モータ44に直結され、旋回軸モータ44によって回転駆動される。なお、スピンドル30と旋回軸モータ44は、ブラケット48がオフセット軸3のテーブル23に所定の傾斜角度αで固定されることにより、加圧軸2の軸線に対して傾いている。
【0036】
これにより、接合ツール1の中心軸Qは、図5に示すように、直動案内軸受11Bの中心PHを通り、加圧軸2の軸線に対する傾斜角度がαとなっている。傾斜の方向は、図5に示すように、オフセット動作において、接合ツール1をオフセット(進行)させる方向である。このように接合ツール1を傾斜させることにより、オフセット動作時の接合ツール1の進行方向に対して、接合ツール1のショルダ部1bをワークに対して向い角を持って接触させることができる。それにより、流動化したワークの材料が、接合ツール1のショルダ部1bに対してクサビ状に流れ込む作用が発生し、加圧軸2を大きく移動することなく、加圧力を保持することができるようになる。
【0037】
加圧軸2の案内レール13が固定されたC字形のアーム(ベース)50の先端には、加圧力検出手段51及び裏当て部材52が設けられている。そして、接合ツール1と裏当て部材52の間にワークを挟むことで、ワークに対して接合ツール1により加圧力を作用させることができるようになっている。
【0038】
次に接合時の動作と動作中に作用する力の関係について説明する。
接合ツール1は、旋回軸モータ44を駆動することにより高速回転する。接合ツール1をワークに没入させる押し込み動作においては、加圧軸モータ42を駆動し、ベルト41Aを介して加圧軸2のボールねじ軸18を回転させることにより、加圧軸2のスライダ14を下方に移動させる。加圧軸2のスライダ14を下方に移動させて、オフセット軸3やスピンドル30を介して、接合ツール1をX軸方向下方に移動させ、高速回転させながらワークに接合ツール1を押し付けると、その接触点及びその周囲でワークの材料が軟化し撹拌される。そして、撹拌しながら所定の深さまで接合ツール1をワークに没入させる。次に接合ツール1をワークの所定の深さまで没入後、加圧軸2を停止あるいは加圧保持に伴い微小移動させながら、オフセット動作を行う。
【0039】
オフセット動作においては、オフセット軸モータ43を駆動し、ベルト41Bを介してオフセット軸3のボールねじ軸18を回転させることにより、オフセット軸3のスライダ22と共にテーブル23を移動させる。テーブル23を移動させると、スピンドル30と共に接合ツール1がY軸方向(YA方向)に移動する。この動きにより、ワークに対する接合ツール1の接触点や撹拌領域が移動し、線状にワークが接合される。所定のオフセット距離を移動した後は、加圧軸2のボールねじ軸18を先程とは逆方向に回転させることにより、接合ツール1をX軸方向上方に移動させワークから離脱させる。このように、押し込み動作とオフセット動作により摩擦撹拌接合が行われる。
【0040】
図7は、本実施形態の摩擦撹拌接合装置Mの押し込み動作時のオフセット軸3の直動案内軸受11Bの各スライダ22に作用する面圧の分布を示す図、図8は、本実施形態の摩擦撹拌接合装置Mのオフセット動作時のオフセット軸3の直動案内軸受11Bの各スライダ22に作用する面圧の分布を示す図である。また、図9は本実施形態の摩擦撹拌接合装置Mに対する比較例として、一対のスライダ22の位置をY軸方向にずらさない場合の摩擦撹拌接合装置の例を示しており、図10はその摩擦撹拌接合装置の押し込み動作時のオフセット軸の直動案内軸受の各スライダ22に作用する面圧の分布を示す図、図11はその摩擦撹拌接合装置がオフセット動作時のオフセット軸の直動案内軸受の各スライダ22に作用する面圧の分布を示す図である。図7、8及び図10、11においては、レールブロック21とスライダ22の境界面における垂直線の長さが長いほど面圧が高いことを表している。
【0041】
まず、図7を用いて、本実施形態の摩擦撹拌接合装置Mが押し込み動作を行っている時の面圧について述べる。
押し込み動作時には、接合ツール1をワークに没入させる動作に伴い、加圧軸2のスライダ14に反力として加圧力Fが作用する。この加圧力Fの作用点(接合ツール1の中心軸位置)は、オフセット軸3のスライダ22に対し、取り付け面法線方向(矢印Z方向、以下取り付け面法線方向とも呼ぶ。)に離れているので、テーブル23及びスライダ22にはY軸まわりのモーメントであるローリングモーメントが作用するが、比較例の場合もその点は同じであるので、ここでは簡便のためローリングモーメントの影響は考慮していない。
【0042】
この押し込み動作時(オフセット動作開始時)には、加圧軸2のスライダ14にヨーイングモーメントMx1(不図示)が作用しないようにすることが望ましいため、接合ツール1の中心軸Qが、加圧軸2のスライダ中心軸上を通るように配置されている。つまり、加圧軸2とオフセット軸3とに垂直な方向(Z方向)から見て、加圧軸3の軸線と接合ツール1の中心軸Qが重なるようになっている。従って、接合ツール1の中心軸Q上を通るように設定された直動案内軸受11Bの中心PHは、加圧軸3の軸線上に位置している。このように設定した場合、加圧軸2のスライダ14に、加圧力FによるヨーイングモーメントMx1が作用しないので、オフセット動作開始時には転動体15の面圧がスライダ両端部において低減し、加圧軸2のスライダ14の寿命が延びる。
【0043】
この押し込み動作においては、図7と図10を比較すると分かるように、比較例よりも本摩擦撹拌接合装置Mの方が、スライダ端部における面圧が上昇する。これは、2つのスライダ22の各中心位置を互いにY軸方向にずらして配置したことで、転動体25に対する荷重のアンバランスによりモーメントが内力として作用したからである。しかし、押し込み動作時においては、オフセット軸3は停止しているので、スライダ端部の面圧が上昇しても、転がり寿命の観点から寿命低下は起こらない。
【0044】
また、図8及び図11に示すオフセット動作時においては、接合ツール1にオフセット方向(進行方向)と逆方向のオフセット荷重Fyが作用するので、スライダ22には、オフセット荷重FyによるヨーイングモーメントMyが作用する。ここで、ヨーイングモーメントMyとは、直動案内軸受11Bの中心PHのまわりに両スライダ22を回転させるモーメントである。このようなヨーイングモーメントMyが作用する条件において、図11の比較例よりも、図9の本摩擦撹拌接合装置のほうがスライダ端部における面圧が低減することが分かる。
【0045】
これは、図中上側のスライダ22においては、図中左側にある転動体25の方が右側にある転動体25より面圧が高く、図中下側のスライダ25においては、図中右側にある転動体25の方が図中左側にある転動体25より面圧が高くなるが、スライダ22の中心位置をずらしたことにより、面圧の高い側の転動体25の数が増え、1つの転動体25が支える荷重が低減したからである。1つ当たりの転動体25の荷重が低減することで、スライダ22の面圧が低減したことが分かる。
【0046】
以上の面圧の関係は、図12及び図13に変形例として示す、ブラケット48がオフセット軸3のテーブル23に傾斜角度をつけずに固定された場合、つまり接合ツール1の中心軸Qが加圧軸2の軸線に対し平行に配置した場合も同様である。
【0047】
以上のように、本実施形態の直動案内軸受11Bを組み込んだ摩擦撹拌接合装置Mによれば、直動案内軸受11Bの案内レール20を挟む一対のスライダ22を、Y軸方向に互いに位置をずらして配置しているので、テーブル23にヨーイングモーメントMyが作用した場合にも、スライダ22の端部における転動体25に作用する面圧を抑制することができる。例えば、本摩擦撹拌接合装置Mでは、オフセット軸3の直線案内手段として直動案内軸受11Bを使用しているので、摩擦撹拌接合Mのオフセット動作時に、直動案内軸受11BのヨーイングモーメントMyに起因するスライダ端部の面圧を低減することができ、直動案内軸受11Bの寿命を延ばすことができる。従って、互いに分離された各スライダ22の長さを延長することなく、一方向の耐ヨーイングモーメント性の向上が図れるようになり、摩擦撹拌接合装置Mのコンパクト化に貢献することができる。
【0048】
また、接合ツール1をその軸線方向に移動する加圧軸2に、直動案内軸受11Aとボールねじ12Aを一体化したボールねじ一体型直動案内ユニット10Aを使用しているので、装置のコンパクト化及びシンプル化を一層図ることができる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0050】
例えば、上記実施形態では、案内レール20を、ベース部材20Aの両側にレールブロック21を取り付けた構成にしているが、ベース部材20Aとレールブロック21を一体加工して案内レールとしてもよい。また、上記実施形態では、案内レール20を、ベース部材20Aの両側に一対のレールブロック21を取り付けた構成にしているが、一対のレールブロック21を1つのレールブロックとして両側を転動面としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、案内レール20をY軸方向に固定し、スライダ22を固定したテーブル23がY軸方向に可動である場合を示したが、逆であっても良い。つまり、スライダ22側が固定側であり、案内レール20側が動く場合でも良い。
【0052】
また、上記実施形態では、加圧軸2に、ボールねじナット17とスライダ14が一体となったボールねじ一体型直動案内ユニット10Aを採用した場合を示したが、ボールねじナット17とスライダ14を別部品とし、直動案内軸受11Aとボールねじ12Aを別機構として組み合わせてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、直動案内軸受11Bの転動体25をボールで構成したが、コロとしてもよく、直動案内軸受11Bを転動体25を循環させる機構を備えない非循環方式の直動案内軸受としてもよい。さらに、レールブロック21の外周面に互いに直交する第1傾斜軌道面と第2傾斜軌道面とからなる断面が直角二等辺三角形状の外方軌道凹溝を設け、スライダ22の内周面に互いに直交する第3傾斜軌道面と第4傾斜軌道面とからなる断面が直角二等辺三角形状の内方軌道凹溝を設け、第1と第4傾斜軌道面にそれぞれ転接する複数の第1のコロを設け、さらに、隣り合う第1のコロの間に位置して第2と第3傾斜軌道面に転接する第1のコロと同数の第2のコロを設けて、クロスローラタイプの直動装置としてもよい。
【符号の説明】
【0054】
M 摩擦撹拌接合装置
PA,PB スライダのY軸方向の中心を通るX軸方向に平行な線
PH 直動案内軸受の中心
1 接合ツール
2 加圧軸
3 オフセット軸
4 旋回軸
10A ボールねじ一体型直動案内ユニット(加圧軸、X軸)
11A,11B 直動案内軸受
12A ボールねじ
12B ボールねじユニット
13 案内レール
13A 袖部
14 スライダ
15 転動体
16C 転動通路
16A,16B 転動面
17 ボールねじナット
18 ボールねじ軸
19 ボール
20 案内レール
22 スライダ
23 テーブル
25 転動体
26A,26B 転動面
42 加圧軸モータ
43 オフセット軸モータ
44 旋回軸モータ
48 旋回軸ブラケット
49 テーパギブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延びる少なくとも1つの案内レールと、前記案内レールを挟む一対のスライダと、前記案内レールと前記各スライダの対向面に形成された転動面間に配設され、前記各スライダと前記案内レールとの相対移動を可能にする複数の転動体と、前記一対のスライダが共に固定されたテーブルと、を備え、
前記一対のスライダが、前記案内レールによる案内方向の各中心位置を互いに案内方向にずらして前記テーブルに固定されていることを特徴とする直動案内軸受。
【請求項2】
前記スライダの前記案内方向における両端にエンドキャップが取り付けられ、
前記案内レールの転動面と前記各スライダの転動面との間に前記転動体が転動しながら移動する転動通路が形成され、
前記スライダとエンドキャップとによって前記転動通路を経路の一部として含む転動体の循環経路が形成され、
その循環経路を循環するように前記転動体が収容されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内軸受。
【請求項3】
接合ツールをワークに押し付けつつ回転させることにより、前記接合ツールとワークの接触点に摩擦熱を発生させて当該接触点の周囲の材料を軟化させると共に撹拌し、それにより前記接合ツールを前記ワークに没入させ、没入後、前記接合ツールをワークの表面方向に移動させることで前記ワークを線状に接合する摩擦撹拌接合装置であって、
前記接合ツールをその軸線まわりに回転させる旋回軸と、
前記接合ツールを前記ワークに接近/離間させる加圧軸と、
前記接合ツールを前記加圧軸の軸線と直交する方向であるワークの表面方向に移動させるオフセット軸と、を備え、
前記オフセット軸の直線案内手段として、請求項1または2に記載の直動案内軸受が使用され、
前記加圧軸の直線案内手段の固定側部材がベースに固定されると共に、前記加圧軸の直線案内手段の可動側部材上に前記直動案内軸受の案内レールが固定され、
前記直動案内軸受のテーブル上に前記旋回軸が配置されていることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項4】
前記加圧軸の直線案内手段及び直線駆動手段として、
断面が略U字状に形成された前記固定側部材としての案内レールと、前記案内レールのU字状の凹部内に配置された前記可動側部材としてのスライダと、前記案内レールと前記スライダの間に配置された複数の転動体と、を備え、前記案内レールは、前記スライダと対向配置される各袖部の内側面に転動面を有し、前記スライダは、前記案内レールの前記転動面に対向配置される転動面を有しており、前記案内レールの転動面と前記スライダの転動面との間に前記転動体が介在され、それにより前記スライダと前記案内レールとが相対的に移動可能とされた直動案内軸受と、
前記案内レールと平行に形成されたボールねじナットと、前記ボールねじナットを貫通するボールねじ軸と、前記ボールねじナットの螺旋溝と前記ボールねじ軸の螺旋溝との間に配置された複数のボールと、を備えるボールねじとを、備え、
前記ボールねじナットを前記スライダに備えた一体化したボールねじ一体型直動案内ユニットが使用されていることを特徴とする請求項3に記載の摩擦撹拌接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−17773(P2012−17773A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154171(P2010−154171)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】