説明

直動装置

【課題】直動装置による真空・クリーン環境の劣化を防止しつつ、潤滑性を向上させたシール装置を提供することを目的とする。
【解決手段】一組の相対移動部材と、一方の部材に他方の部材との隙間を封止するシール装置を備えた直動装置において、
前記シール装置は、10質量%以上80質量%以下のイオン性液体を含有するポリオレフィン系合成樹脂により構成されているので、低圧環境下でのシール組成物の蒸発防止が可能となり、真空・クリーン環境の劣化を防止し塵芥の飛散を防止することができる。また、ポリオレフィン系合成樹脂に含有したイオン液体が前記合成樹脂表面に徐々に滲み出し、表面を覆うことで潤滑性能を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置などに用いる搬送装置に好適な直動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置に用いる搬送装置に使用される代表的なものとしては、直動装置としてリニアガイド装置がある。リニアガイド装置は例えば図2に示すように、外面に転動体転動溝3を有して軸方向に延びるガイドレール1と、そのガイドレール1を跨いで組み付けられたスライダ2を備えたものが知られている。スライダ2はスライダ本体2Aとその両端部に取り付けられたエンドキャップ2Bとからなり、スライダ本体2Aは両袖部4の内側面にガイドレール1の転動体転動溝3に対向する図示されない転動体転動溝を有するとともに、袖部の肉厚部分を軸方向に貫通する図示されない転動体戻し路を有している。一方、エンドキャップ2Bは、スライダ本体2Aの転動体転動溝とこれに平行な転動体戻し路とを連通させる図示されない湾曲路を有しており、それらの転動体転動溝と転動体戻し路と両端の湾曲路とで転動体の循環回路が形成されている。その転動体の循環回路内には例えば鋼球からなる多数の転動体が装填されている。
【0003】
ガイドレール1に組み付けたスライダ2は、対向する両転動体転動溝内の転動体の転動を介してガイドレールに沿い滑らかに移動し、その移動中、転動体はスライダ内の転動体循環路を転動しつつ循環する。転動する転動体の潤滑は、スライダ2の内面に予め塗布されたグリースによって行われている。
【0004】
スライダ2には、ガイドレール1との間のすき間の開口をシールするシール装置として、図3に示すように、各エンドキャップ2Bの端面にサイドシール5、下面にアンダーシール6が装着され、外部からの異物の侵入や内部の潤滑剤の外部への拡散を防止している。これら従来のシールには、一般的にはNBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)などのゴムシールが用いられている。
【0005】
ところで、このような半導体製造装置に用いる直動装置にあっては、塵芥により半導体が汚染されるのを防ぐ為、真空環境下にてクリーン環境での作業が要求されている中、一般の直動装置に用いられているNBRシール装置を装着した直動装置を真空環境下で使用すると、NBR中の揮発成分、例えば可塑剤として使用されているDOP〔ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート〕などの揮発成分が蒸発、飛散して半導体に付着するため、クリーン環境を汚染する恐れが有った。
【0006】
そこで、この様な真空環境下にあっても潤滑成分が蒸発、飛散しクリーン環境の劣化を防止するために、例えば特許文献1においては、図4に示す直動装置の様に、低蒸気圧下で蒸発しにくい真空ポンプ油やフッ素油等を含有するポリオレフィン合成樹脂をシール装置10として、スライダ2の直動方向端部、すなわちエンドキャップ2Bに取付けることで、真空・クリーン環境の維持を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−208757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の装置では、直動装置の高速化に伴う発熱による温度上昇で、シール装置10に含有の真空ポンプ油などの炭化水素系油の蒸発量が増加し、半導体などに付着し汚染するため、発塵防止のための改善の余地が有った。また、フッ素油においてはシール装置成分の蒸発による真空・クリーン環境劣化を防止出来るものの、フッ素油成分によりシール装置10とガイドレール1間の潤滑性が劣り作動性が劣化する場合があり、直動装置の摩擦抵抗低減のための改善の余地があった。
【0009】
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、真空環境下にあっても直動装置のシール装置の蒸発によるクリーン環境の劣化を防止しつつ、直動装置の潤滑性を向上させるシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための第1の発明は、一組の相対移動部材と、一方の部材に他方の部材との隙間を封止するシール装置を備えた直動装置において、
前記シール装置は、10質量%以上80質量%以下のイオン性液体を含有するポリオレフィン系合成樹脂よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、直動装置のシール装置はイオン性液体を含有するポリオレフィン系合成樹脂としたので、低圧環境下でのシール組成物の蒸発防止が可能となり、真空・クリーン環境の劣化を防止することができる。また、ポリオレフィン系合成樹脂に含有したイオン液体が前記合成樹脂表面に徐々に滲み出し、表面を覆うことで潤滑性能を向上できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明及び従来例に係るシール装置を備えた直動装置を示す図である。
【図2】従来例に係るシール装置を備えた直動装置を示す図である。
【図3】図2の直動装置下面を示す図である。
【図4】他の従来例に係るシール装置を備えた直動装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
図1に示す本発明に係る直動装置のシール装置100は、予め潤滑剤を含有し、自らも潤滑剤供給機能をもつ自己潤滑性を備えたものである。先ず、その成分組成について述べる。
(イオン性液体)
本発明において潤滑油に含まれるイオン性液体は、正負のイオンからなる液状の塩であり、正負のイオンがイオン結合で強く結びついているため、不燃、不揮発でありかつ優れた熱安定性を持っている。イオン性液体は、カチオンの種類から、以下に示される脂肪族アミン系(化学式1)、脂環式アミン系(化学式2)、イミダゾリウム系(化学式3)、ピリジン系(化学式4)、ホスホニウム系(化学式5)等に分類することができる。
アニオン(X)としては、BF4−、PF6−、[(CFSON]、Cl、Br等を挙げることができる。
【0014】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0015】
式中R、R、R、Rはアルキル基またはアルコキシ基を表す。アルキル基の炭素数が多く分子量が大きい程、動粘度が大きくなる。40℃動粘度は、およそ12mm/sから260mm/s程度のものが知られ、イオン性液体を単独又は組合せることによって、適切な粘度の基油を得ることができる。これらのイオン性液体は、単独又は2種以上混合して用いることができる。イオン性液体の含有量は、基油全量に対して1質量%以上、好ましくは10質量%以上、最も好ましくは100質量%である。ここで基油とは真空中においても蒸発量が少ないフッ素油や高分子量の炭化水素系の潤滑油が好ましい。
【0016】
本発明に係る直動装置のシール装置に使用できるポリオレフィン系合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等が適当である。ポリエチレンは、数平均分子量10000〜1000000未満の低〜中分子量のものと、数平均分子量1000000〜6000000の超高分子量のものとを単独または必要に応じて混合して用いる。そのうちの超高分子量ポリエチレンは、溶解時の流動性が悪いので、射出成形で成形することを前提とする。その場合、全組成分中に10質量%以下が適当であり、5質量%以上添加すれば必要にして十分な機械的強度が得られる。
ポリプロピレンは、数平均分子量100000〜400000のものを用いることができるが、本発明の組成物のような高い含油量であると、単独では機械的強度が低くなり過ぎるので、その向上を目的として超高分子量ポリエチレンを添加しても良い。また、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂を使用することができる。または、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することもできる。
【0017】
以上のような成分組成を有する本発明の直動装置のシール装置は、真空中においても低い蒸気圧を有するイオン性液体と、ポリオレフィン系合成樹脂とからなっているから、真空中で使用しても蒸発成分がイオン性液体に取込まれ、シール自体から油等の揮発が生じることがない。したがって、使用雰囲気の真空度を劣化させることなく、シールとしての機能を長期間維持することができる。また、シール内部に保持されているイオン性液体が徐々に滲出して、直動装置の被潤滑部材であるガイドレールとの接触面に油膜を形成し、シール装置自体の自己潤滑性を発現させると同時に、ガイドレールを介して転動体に油分を供給する潤滑剤供給装置としても機能する。そのため、真空雰囲気下で使用される直動装置に対して、長期間にわたって安定した潤滑が行われる。
【0018】
次に、本発明のシール装置の実施例および、潤滑性に関する摩擦耐久試験要領を説明する。
(実施例1)
この実施例は、直動装置としてのリニアガイド装置のシール装置に適用した例である。下記(A)、(B)、(C)の成分を混合してなるペースト状混合物を射出成形材料として、リニアガイド装置のシール装置10を射出成形した。
(A)低・中分子量ポリエチレン:PZ50U〔三菱油化(株)製〕15質量%
(B)超高分子量ポリエチレン:ミペロン(登録商標)XM220〔三井石油化学(株)製〕10質量%
(C)N,N−ジメチル−N−メチル−N−(2−メチルオキシル)アンモニウムイオン(カチオン)と、BF4−(アニオン)[関東化学(株)製]75質量%
(実施例2)
上記実施例1の(C)にN,N−ジメチル−N−メチル−N−(2−メチルオキシル)アンモニウムイオン(カチオン)と、(CF3SO22(アニオン)[関東化学(株)製]75質量%
(比較例1)
上記実施例1の(C)にオクタデシルジフェニルエーテル:ネオバックSY〔(株)村松石油研究所製〕、75質量%
上記実施例1、実施例2、比較例1の組成を持つシール装置を試料とし真空中でのリニアガイド装置の走行試験を行なった。
なお、シール装置10、100の装着に際して、図1、図4に示すように、補強用金属プレートであるプロテクタ15を外側に配設し、図示しないエンドキャップ2Bへの取付け孔に金属製スリーブを間座として装着し、ねじ締めつけによるシール装置10、100の潰れを防止しつつスライダ2のエンドキャップ端面にねじ止めして取りつけた。
(試験条件諸元)
リニアガイド装置;スライダの幅20mm,長さ27mm,高さ10mm
走行ストローク長;20mm
送り速度;100mm/秒
潤滑:サイドシールから供給される潤滑油のみによる。
真空度;10-3 Torr
(試験結果)
摩擦耐久試験結果を表1に示す。
表1によると、実施例1、2ともに、1000時間の走行後もなお異常は認められず潤滑性に問題は生じていなかった。これに対して、比較例1の方は、100時間走行で潤滑不良により焼付を発生した。これにより、イオン性液体を含有した合成樹脂の摩擦耐久性能が炭化水素系油を含有した合成樹脂より優れていることが分かった。
【0019】
【表1】

【0020】
また、本発明は本件発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、本発明の直動装置のシール装置は、リニアガイド装置に限らず、その他、リニアボールスプライン装置やリニアボールブッシング装置など、玉又はころを使用して直線運動を行うタイプの直動案内装置に好適に適用できる。
また、リニアガイド装置も、実施例のタイプに限定されず、例えば負荷転動体転動溝が片側一条以外のものでも良く、また転動体がボールではなく、ころであっても良い。
更に、本発明の直動装置のシール装置は、実施例のリニアガイド装置に限らず、その他の種々のタイプのボールねじ装置にも好適に適用できる。
また、本発明で用いているポリオレフィン系合成樹脂にフィラーやシリカ粒子、固体潤滑剤やフラーレン、カーボンナノチューブなどが添加されていても良い。さらにシール装置と接する相手部材の摺動面に、微細な溝や突起、穴などが形成されていることで潤滑剤をさらに保持しやすくし、且つシール装置と相手部材間の摩擦を低下させる構造になっていてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1…ガイドレール
2…スライダ
2A…スライダ本体
2B…エンドキャップ
3…転動体転動溝
4…両袖部
5…サイドシール
6…アンダーシール
10、100…シール装置
15…プロテクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組の相対移動部材と、一方の部材に他方の部材との隙間を封止するシール装置を備えた直動装置において、
前記シール装置は、10質量%以上80質量%以下のイオン性液体を含有するポリオレフィン系合成樹脂よりなることを特徴とする直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31889(P2012−31889A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169929(P2010−169929)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】