説明

直噴内燃エンジンの燃料噴射方法

【課題】 HCの排出を減少させながら、燃焼ノイズのレベルを減少させる。
【解決手段】 シリンダヘッド(16)によって閉鎖されているシリンダ(10)と、丸くへこんだ部分(18)を有するピストン(12)と、燃料インジェクタ(48)とを有する直噴内燃エンジン、特にディーゼル型の直噴内燃エンジンの燃料噴射方法であって、燃料混合気の低温燃焼を行うように、続けざまの少なくとも2回の連続的な噴射において、断熱被覆によって被覆されている丸くへこんだ部分(18)の中へ燃料を供給することを特徴とする燃料噴射方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直噴自己着火内燃エンジン、特にディーゼル型のエンジンの燃料噴射方法に関する。
【0002】
本発明は、特に、燃料混合気の低温燃焼モード、より一般的にはLTC(Low-Temperature Combustion)として知られているモードで動作するディーゼル型のエンジンに関する。
【0003】
このLTC燃焼形式は、燃焼による汚染物質の生成を抑制すること、特に窒素酸化物(NOx)および粒子の生成を抑制することに特に有利である。
【0004】
この燃焼は一般に、燃焼温度を低下させるためにエンジン吸気への大量の排気再循環(EGR)を使用して実施され、これによってNOX排出を低減することができる。その上、混合済みの空気と燃料を高い割合で使用することによって、燃焼前に比較的一様な混合気を得ることができ、生成される粒子を抑制することができる。
【0005】
しかし、この燃焼の形式には、エンジン排気へ排出されるHCの排気が高レベルになるという主な欠点がある。このHCの発生は、HCからCOへ、それからCO2へという総体的な酸化をさせない低燃焼温度に基本的に関連している。
【背景技術】
【0006】
特許文献1は、表面がくぼんだボウルを有するピストンが内部で往復直線運動によって摺動するシリンダを備えるようなエンジンについて記述している。例えば、燃料混合気を対象としている燃焼室は、シリンダ壁、ピストンに対向しているシリンダヘッドの表面、このピストンの上側表面、およびボウルの複数の壁によって区切られている。
【0007】
前述の特許文献に詳細に説明されているように、エンジンの燃焼室の壁を通した熱損失(この燃料混合気の燃焼時に発生する熱の損失)を最小にしなければならない。したがって、ボウルの複数の表面は少なくとも1部が非常に低い熱伝導率で特に特徴付けられている例えばセラミック類の断熱被覆によって被覆されている。
【0008】
そのため、この被覆は燃料混合気の燃焼時に発生した熱損失を抑制し、これは高い燃焼温度の維持を可能にする。そして、これらの高温レベルは未燃焼炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)とのより良好な酸化の促進を可能にする。さらに、そのような被覆の使用によって、燃焼室の複数の壁の温度が上昇し、この温度上昇は、特にピストン表面に複数の液体燃料の被膜が形成されることを抑制する効果を有する。実際、これらの液体燃料の被膜は、特にLTC燃焼形式ではHCのかなり大きい発生源である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中華人民共和国特許出願公開第1,434,193号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、この温度上昇は、燃料混合気の自己着火遅れ期間の減少や、燃焼速度の上昇など、燃焼に対して有害な欠点につながる。これらの、高いピークのエネルギー放出に一般に至らしめる過度の燃焼速度は、高レベルの燃焼ノイズ(つまりエンジンノイズ)が伴うという不利がある。
【0011】
本発明は、燃焼ノイズのレベルを減少させることができる燃料噴射方法によって、前述の欠点を克服することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、シリンダヘッドによって閉鎖されているシリンダと、丸くへこんだ部分を有するピストンと、燃料インジェクタとを有する直噴内燃エンジン、特にディーゼル型の直噴内燃エンジンの燃料噴射方法であって、燃料混合気の低温燃焼を行うように、短い間隔で連続している少なくとも2回の連続噴射により、断熱被覆によって被覆されている丸くへこんだ部分の中へ燃料を供給することを特徴とする燃料噴射方法に関する。
【0013】
本方法は、ある噴射の終了から次の噴射の開始までの1°から10°の間の範囲のクランク軸回転角度に相当している遅れ期間を伴った連続的な噴射で燃料を導入してもよい。
【0014】
本方法は、同じ量の燃料を連続的な複数回の噴射で導入してもよい。
【0015】
本方法は、異なる量の燃料を連続的な複数回の噴射で導入してもよい。
【0016】
本方法は、燃料を、燃料の量を増加させながら連続的な複数回の噴射で導入してもよい。
【0017】
本方法は、燃料を、燃料の量を減少させながら連続的な複数回の噴射で導入してもよい。
【0018】
本方法は、燃料を連続的な複数回の噴射で、それらの燃料の総量の5%から50%の間の範囲の量で導入してもよい。
【0019】
本発明のその他の特徴と利点は、添付の図面を参照して、非限定的な例によって説明する以降の説明を読むことで明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法を使用している内燃エンジンの一部の局部投影図である。
【図2】従来技術のエンジンと本発明の方法を使用しているエンジンとについて、クランク角度(°V)の関数としてエネルギー放出(J)を示している複数の曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、部分的な局所断面において、低温燃焼モードで動作する自己着火直噴内燃エンジンを示している。このエンジンはディーゼル型であることが好ましいが、ガソリンや気体燃料(VNG、LPG等)を使用するエンジンなどの他の種類のエンジンを決して除外するものではない。
【0022】
このエンジンは、クランク軸(不図示)に結合されている連接棒14の作用の下で往復直動運動でピストン12が内部を摺動する少なくとも1つのシリンダ10と、シリンダ10の上部を閉鎖しているシリンダヘッド16とを有している。
【0023】
ピストン12の上部は凹状のボウル(丸くへこんだ部分)18を有しており、該ボウルは、ピストン12の上側表面20、ショルダ24経由で上側表面20に繋がっている横向きの面22、およびボウル底部26によって境界を定めている。シリンダヘッド16の方向へ突き出している突起28がこのボウル18内にあることが好ましい。概ね先端を切った形状のこの突起28は、このボウル18の実質的に中心に配置されている。この突起28の丸くなった先端30がボウル底部26の方向へ、実質的に直線状の傾斜した側腹32と、側腹32をボウル底部26と横向きの面22とに接続している曲線部分34とによって延びている。
【0024】
このボウル18の様々な壁は、これらの壁を通した熱損失を最小化できるように断熱被覆36を使用して被覆されている。
【0025】
この被覆36は、セラミック類、特に複数の窒化ケイ素の組の被覆であることが有利である。そのため、明細書の残り部分では、単に例として、このボウル18用のセラミックコーティングについて述べる。
【0026】
こうして、このシリンダ10内に燃焼室38が構成されており、該燃焼室は、ピストン12に対向しているシリンダヘッド16の部分と、シリンダ10の内部周辺表面と、ピストン10の上側表面20と、セラミックコーティング36で被覆されている複数のボウル壁によって、境界を定めている。
【0027】
シリンダヘッド16は、給気弁40と吸気管42とを備えている少なくとも1つの吸気手段と、排気弁44と排気管46とを備えている少なくとも1つの排気手段とを保持している。
【0028】
複数の燃料噴射手段が燃料を燃焼室38内へ供給するようにシリンダヘッド16に配置されている。これらの燃料噴射手段は、燃料インジェクタ48、好ましくは、燃料を複数の噴射物50の形態で燃焼室38の中へ噴霧する複数のオリフィスをノズルの近傍に有しているマルチジェットインジェクタを有している。
【0029】
複数の燃料噴射物50がボウル18の中へ供給されるように、インジェクタ48の軸線が突起28の軸線と同軸であることが有利である。したがって、ボウル18、突起28、および燃料インジェクタ48は互いに同軸に配置されている。
【0030】
図2は、エネルギー放出(J)をクランク角度(°V)の関数として表している複数の曲線を示しており、複数の燃料噴射をしないエンジンであって、セラミックコーティングで被覆されているボウルを備えているピストンを有する従来技術のエンジン(A)については破線で、複数の燃料噴射をしないエンジンであって、セラミックコーティングのないボウルを備えているピストンを有する従来技術の他のエンジン(B)については点線で、また、本発明の方法を使用しているエンジン(I)については太線で示している。
【0031】
この図2のとおり、曲線Aのエネルギー放出を持つ従来技術のエンジンについては、このエンジンの圧縮上死点(TDC、図のPMH)の近くであって当該TDCの前のクランク角度V1での1回の主な噴射において燃焼室38の中へインジェクタ48を通して燃料が供給される。より具体的には、この燃料はボウル18内の複数の流体(空気とEGR)と混合されるように、セラミックコーティングによって被覆されているボウル18の中へ供給される。この燃料によって、ピストンによる圧縮の作用の下で自己着火する状態にある燃料混合気を作ることができる。この燃焼により、エンジンのTDCの前に最大放出D1に到達するように、エンジンの圧縮段階に起因するエネルギー放出Dnによって急激に増大するエネルギー放出を発生させることができる。
【0032】
前述のように、そのような高いエネルギー放出は特に燃焼室38内の高レベルの燃焼ノイズの発生につながる。実際に、セラミックコーティングによって被覆されているボウルを使用すると、燃料混合気の燃焼速度が加速し、したがって、エネルギー放出の増加と燃焼ノイズのレベル増加とにつながる。
【0033】
従来技術の他のエンジンの、曲線Bのエネルギー放出については、燃料混合気となるように、燃料が、セラミックコーティングがされていないボウル18の中へ前述のように供給される。この燃料混合気の自己着火時に、エネルギー放出は点Dnから増加し、曲線Aの最大放出より低い、エンジンのTDCの近くで最大放出D2に到達する。
【0034】
このエネルギー放出は、曲線Aの場合よりも低いレベルの燃焼ノイズを発生させるが、多くのHCの排出が起こる。
【0035】
この問題を克服するために、本発明の、短い間隔で連続している複数の噴射の方法を使用することによって、燃焼ノイズを許容可能なレベルに抑制するように、このエネルギー放出を調整することができる。
【0036】
さらに、短い間隔で連続しているこれらの複数の噴射の方法とセラミックコーティングされているボウルを有する燃焼室とを組み合わせることにより、LTCディーゼル燃焼モードに従って動作しているエンジンについて、HC/CO/ノイズの妥協点の改善も可能になる。
【0037】
より正確には、クランク角度V1からの短い間隔で連続している少なくとも2回の連続的な燃料噴射を行う噴射方法が、本発明による方法を使用しているエンジンのために用意される(曲線I)。
【0038】
図2の曲線Iは、エネルギー放出が、従来技術によるエンジンの燃料の総量と同等の、2回の連続的な燃料噴射に分けられた燃料の総量に相当している本発明の方法を示している。燃料の第1回目の量がクランク角度V1で噴射され、それからこの燃料の第2回目の量が最初の燃料噴射から非常に短い間隔で、好ましくは、前回の噴射の終了から今回の第2回目の噴射開始までの1°から10°の間の範囲のクランク角度に相当している着火遅れ期間内のクランク角度V2で噴射させる。
【0039】
こうして、第1回目の燃料噴射によって、従来技術のエンジンのエネルギー放出D1より低いエネルギー放出D3となる燃料混合気の燃焼をTDCにおいて得ることができる(1/3程度のエネルギー放出の削減)。このエネルギー放出D3は、第2回目の燃料の量が燃焼室内に噴射されるクランク角度V2の時点まで減少する。本明細書では第1回目の燃料の量と実質的に同じこの第2回目の燃料の量によって、クランク角度V3において、第1回目の噴射の燃料混合気の燃焼でのエネルギー放出と同じようなエネルギー放出を伴う燃料混合気の燃焼が達成される。
【0040】
2回の噴射よりも多い複数回数の燃料噴射を実施することも可能である。
【0041】
この場合、噴射されるべき燃料の総量は、従来技術のエンジンと同等な所望の燃料の総量の噴射が得られるまで、実質的に同じ量の燃料を用いて短い間隔で連続する2回の連続的な燃料噴射を行うことによって得ることができる。
【0042】
連続して噴射されるこれらの燃料の量は、燃焼室の中へ噴射されるべき燃料の全部の量が得られるまで、増加したり減少したりするなど、互いに異なっていてもよい。
【0043】
量が減少する場合、これらの量は、前回の噴射での燃料の量の5%から40%の範囲にすることが好ましい。
【0044】
例として、三回の連続的な噴射については、TDC前の角度V1における第1回目の噴射時は全体の量の50%、それから、5°のクランク角度後の角度V2では全体の量の30%の噴射、および、第3回目の噴射時、すなわち第2回目の噴射に続く5°のクランク角度後であってBDC(下止点)の前では残りの量の噴射(つまり全体の量の20%)が考えられる。
【0045】
これらの連続した噴射は、角度V1と前記BDCとの間に均等に分散させることが可能で、それらの回数はTDCの前後で異なっていてもよい。
【0046】
短い間隔で連続しているこれらの複数の燃料噴射によって、特に負荷が最低のエンジン動作点についてHCの排出を減少させ、発生するNOxの量を少ない状態としながら、エネルギー放出の複数のピーク、ひいては、燃焼ノイズを調整することができる。
【0047】
本発明は、記述した例には限定されておらず、本発明が網羅しているあらゆる変形例と等価な例とを含んでいる。
【符号の説明】
【0048】
10 シリンダ
12 ピストン
14 連接棒
16 シリンダヘッド
18 ボウル
20 上側表面
22 横向きの面
24 ショルダ
26 ボウル底部
28 突起
30 先端
32 側腹
34 曲線部分
36 断熱被覆
38 燃焼室
40 吸気弁
42 吸気管
44 排気弁
46 排気管
48 燃料インジェクタ
50 噴射物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッド(16)によって閉鎖されているシリンダ(10)と、丸くへこんだ部分(18)を有するピストン(12)と、燃料インジェクタ(48)とを有する直噴内燃エンジン、特にディーゼル型の直噴内燃エンジンの燃料噴射方法であって、燃料混合気の低温燃焼を行うように、短い間隔で連続している少なくとも2回の連続噴射により、断熱被覆によって被覆されている前記丸くへこんだ部分(18)の中へ燃料を供給することを特徴とする、燃料噴射方法。
【請求項2】
ある噴射の終了から次の噴射の開始までの1°から10°の範囲のクランク軸回転角度に相当している遅れ期間を伴った連続的な噴射で前記燃料を導入することを特徴とする、請求項1に記載の燃料噴射方法。
【請求項3】
同じ量の前記燃料を連続的な複数回の噴射で導入することを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料噴射方法。
【請求項4】
異なる量の前記燃料を連続的な複数回の噴射で導入することを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料噴射方法。
【請求項5】
前記燃料を、燃料の量を増加させながら連続的な複数回の噴射で導入することを特徴とする、請求項4に記載の燃料噴射方法。
【請求項6】
前記燃料を、燃料の量を減少させながら連続的な複数回の噴射で導入することを特徴とする、請求項4に記載の燃料噴射方法。
【請求項7】
前記燃料を連続的な複数回の噴射で、それらの燃料の総量の5%から50%の範囲の量で導入することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−281322(P2010−281322A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127862(P2010−127862)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】