説明

直接描画装置用の画像表示装置、およびプログラム

【課題】描画処理の実行前に、互いに異なる2つのRIPパラメータ各々に基づくRIP展開によって生成された、図形の描画に供される2つの画像データの差分を見落とすことなく速やかに確認できる技術を提供する。
【解決手段】画像処理装置2は、設計データD0が表す所定の処理領域を設定する処理領域設定部25と、指定パラメータPa1と基準パラメータPa2とのそれぞれを用いて、処理領域の表示倍率に応じた解像度で、処理領域に対応する設計データD0をRIP展開する表示用RIP展開部26とを備える。指定パラメータPa1に基づくRIP展開によって得られた指定画像D21と、基準パラメータPa2に基づくRIP展開によって得られた基準画像D22との差分Sが抽出され、その差分Sを視覚的に強調した態様で処理領域表示画面81に指定画像D21と基準画像D22とが表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接描画装置で用いられる描画データを事前にディスプレイ上に表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトマスクを用いずに、CAD(Computer Aided Design)などで設計されたベクトル形式の設計データから、半導体基板などの描画対象物に直接パターンを描画する方式(以下において、直接描画方式と称する)が導入されはじめている。
【0003】
直接描画方式によって、パターンを描画する装置(以下において、「直接描画装置」と称する。)では、ベクトル形式の設計データをRIP(Raster Image Processing)展開することで生成されるラスターデータを使用して描画が行われる。
【0004】
このような直接描画方式の場合、RIP展開が正しく実行されたか否かについてラスターデータ自体の検査を行う必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、ベクトル形式で記述された設計データを描画用のラスターデータに変換してから、再度ラスターデータをベクトル形式に記述されたデータに変換し、設計データとベクトル形式に変換されたデータとを比較する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ベクトル形式に記述された設計データと、設計データから変換された描画データとを比較して差分図形を求め、当該差分図形を除去することで、データ変換による不具合以外の誤差要因を取り除き、ラスターデータの検査を行う技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、基板に配線パターンを描画する際に適用される描画条件の各値と、欠陥の判定に用いられる閾値とが比較されて、欠陥の有無を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−242885号公報
【特許文献2】特開2009−111148号公報
【特許文献3】特許第4450769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このようなRIP展開は、事前に設定された所定のRIPパラメータに基づいて行われる。しかしながら、オペレータは、例えばエッチング液の状態などのプロセス工程の条件、直接描画装置のスペックによる制約、または描画方針の変更などにより、描画処理が行われる直前に、RIPパラメータを変更しなければならない場合がある。この場合、変更後のRIPパラメータの設定ミスが生じる可能性などのため、オペレータは、RIPパラメータ変更の前後で、RIP展開後の画像データが表すパターンがどのように変化しているかを確認する必要がある。
【0010】
特許文献1ないし特許文献3に開示されている技術では、パラメータの変更による画像データが表すパターンの変化部分の見落としが生じやすかった。また、検査を行うにあたって、設計データ全体をRIP展開しなければならないため、時間ロスが増大する問題もあった。
【0011】
そして、このような問題は、描画処理を行う前にRIPパラメータを変更する場合に限られず、一般に、互いに異なる2つのRIPパラメータに基づくRIP展開後の画像データの差分を確認する場合に起こりうる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、描画処理の実行前に、互いに異なる2つのRIPパラメータ各々に基づくRIP展開によって生成された、図形の描画に供される2つの画像データの差分を見落とすことなく速やかに確認できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、描画ビームの走査によって所定のパターンを描画対象物に直接描画する直接描画装置用の画像表示装置であって、前記パターンを記述したベクトル形式の設計データを取得する取得部と、前記設計データのRIP展開に使用される指定パラメータを設定する指定パラメータ設定部と、RIP展開される前記設計データの処理領域を設定する処理領域設定部と、前記指定パラメータと所定の基準パラメータとを用いて、前記設計データのうち前記処理領域に対応する部分をそれぞれRIP展開して、指定画像と基準画像とを得る表示用RIP展開部と、前記指定画像と前記基準画像とを重ね合わせて可視的に表示する表示部と、を備え、前記表示用RIP展開部におけるRIP展開は、前記直接描画のための描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開であり、かつ前記表示部は、前記指定画像と前記基準画像との差分を、前記指定画像と前記基準画像との共通部分とは視覚的に区別可能に表示させることを特徴とする。
【0014】
第2の発明は、第1の発明に係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記表示部は、前記差分を前記共通部分よりも視覚的に強調して表示させることを特徴とする。
【0015】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記指定パラメータの更新に応答して、前記表示用RIP展開がなされ、かつ前記表示部における表示が更新されることを特徴とする。
【0016】
第4の発明は、第1の発明ないし第3の発明に係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記表示用RIP展開部は、前記処理領域が、前記パターンの部分領域に対応する場合には、第1の解像度で前記表示用RIP展開を行う一方で、前記処理領域が、前記パターンの全体領域に対応する場合には、第2の解像度で前記表示用RIP展開を行い、前記第2の解像度は前記第1の解像度よりも低いことを特徴とする。
【0017】
第5の発明は、第1の発明ないし第4の発明のいずれか一つに係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記基準パラメータの決定に関する複数のモードから一のモードを設定するモード設定部と、設定された前記一のモードに応じて、前記基準パラメータを設定する前記基準パラメータ設定部と、をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
第6の発明は、第1の発明ないし第5の発明のいずれか一つに係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記指定画像と前記基準画像と前記差分とが、一の画面エリア中に、相互に位置合わせされた状態で複合表示されていることを特徴とする。
【0019】
第7の発明は、第6の発明に係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記表示部における前記差分の表示色は、前記指定画像と前記基準画像とのそれぞれの表示色とは異なることを特徴とする。
【0020】
第8の発明は、第7の発明に係る直接描画装置用の画像表示装置であって、前記差分の値が正の場合の前記差分の表示色と、前記差分の値が負の場合の前記差分の表示色とが異なることを特徴とする。
【0021】
第9の発明は、描画ビームの走査によって所定のパターンを描画対象物に直接描画する直接描画装置用の表示画面を備えるコンピュータが読み取り可能なプログラムであって、前記コンピュータが前記プログラムを読み取り、前記コンピュータのCPUがメモリを用いて前記プログラムを実行することにより、前記コンピュータを、前記パターンを記述したベクトル形式の設計データを取得する取得部と、前記設計データのRIP展開に使用される指定パラメータを設定する指定パラメータ設定部と、RIP展開される前記設計データの処理領域を設定する処理領域設定部と、前記指定パラメータと所定の基準パラメータとを用いて、前記設計データのうち前記処理領域に対応する部分をそれぞれRIP展開して、指定画像と基準画像とを得る表示用RIP展開部と、前記指定画像と前記基準画像とを重ね合わせて前記表示画面に可視的に表示する表示部と、を備え、前記表示用RIP展開部におけるRIP展開は、前記直接描画のための描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開であり、かつ前記表示部は、前記指定画像と前記基準画像との差分を、前記指定画像と前記基準画像との共通部分とは視覚的に区別可能に表示させることを特徴とする画像表示装置として機能させる。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明から第9の発明によると、描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開でRIP展開して表示させることにより、指定パラメータが設定される都度、速やかにRIP展開を行うことができる。また、指定パラメータに基づく表示用RIP展開によって得られた指定画像と、基準パラメータに基づく表示用RIP展開によって得られた基準画像との差分が視覚的に区別可能な状態で表示部に表示される。このため、指定画像と基準画像との差分を見落とすことなく確認することが可能である。
【0023】
特に、第2の発明によると、差分は指定画像と基準画像との共通部分よりも視覚的に強調して表示されているため、差分の検出が行いやすくなる。
【0024】
特に、第3の発明によると、指定パラメータの更新に応答して、表示用RIP展開がなされて表示が更新されるため、RIP展開後の画像データをより速やかに確認することができる。
【0025】
特に、第4の発明によると、処理領域が、パターンの部分領域に対応する場合には、第1の解像度で表示用RIP展開が行われ、処理領域が、パターンの全体領域に対応する場合には、第1の解像度よりも低い第2の解像度で表示用RIP展開が行われる。このため、表示用RIP展開を速やかに実行することができる。
【0026】
特に、第5の発明によると、基準パラメータの決定に関する複数のモードから選択された一のモードに応じて基準パラメータが設定される。従って、指定パラメータとの比較目的に応じた基準パラメータを設定することができる。
【0027】
特に、第6の発明によると、指定画像と基準画像と差分とが、一の画面エリア中に、相互に位置合わせされた状態で複合表示されている。従って、差分が形成されている位置を容易に把握することができる。
【0028】
特に、第7の発明によると、表示部における差分の表示色は、指定画像と基準画像とのそれぞれの表示色とは異なる。このため、差分の検出は容易に行いやすくなる。
【0029】
特に、第8の発明によると、差分の値が正の場合の差分の表示色と、差分の値が負の場合の差分の表示色とが異なるため、指定画像と基準画像とのうち、いずれの画像が大きいことによる差分であるかが容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態における直接描画装置用の画像表示装置が組み込まれた図形描画システムの構成を示す図である。
【図2】画像処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】画像処理装置の操作GUIを示す概略図である。
【図4】画像処理装置の機能的構成を示す概略図である。
【図5】画像処理装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】各モードにおける差分抽出画像を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0032】
図1には、本発明の実施形態に係る直接描画装置用の画像表示装置が組み込まれた図形描画システム100が示されている。この図形描画システム100は、例えば半導体基板上のレジスト層を選択的に露光することにより、レジスト層に回路パターンに相当する図形を直接描画するシステムとして使用される。
【0033】
図形描画システム100は、設計データ作成装置1、画像処理装置2、および描画装置3を備える。これらの各装置1,2,3は、LANなどのネットワークNを介して相互に接続されている。
【0034】
設計データ作成装置1は、描画対象物に描画すべきパターン領域を記述したデータの作成及び編集を行う装置である。具体的にデータは、CADによってベクトル形式で記述された図形データとして作成される。以下において、このデータを設計データD0と称する。
【0035】
設計データ作成装置1で作成された設計データD0は、画像処理装置2と描画装置(直接描画装置)3との双方で受け取ることができる。画像処理装置2と描画装置3とはいずれもRIP展開機能を有するが、それらのRIP展開は、異なる目的で実行される。すなわち、描画装置3のデータ処理部3aは設計データD0をRIP展開し、描画用のラスターデータとする機能(以下、「描画用RIP展開」と称する。)を有する。そのようにして得られたラスターデータに基づいて、描画制御部3bはレーザビームをON/OFF変調しつつ、描画対象物(基板)の2次元走査を行って選択的な露光を行う。
【0036】
一方、画像処理装置2は、描画用RIP展開を行うよりも前の段階で、設計データ作成装置1から設計データD0を取得し、当該取得した設計データD0を予備的にRIP展開して表示用のラスターデータとする機能(以下、「表示用RIP展開」と称する。)と、そのようにして得られたラスターデータに基づいてリアルタイムで可視的な表示を行う機能とを有する。換言すれば、画像処理装置2はパターン領域の画像のプレビュー機能を有する。プレビュー機能は全パターン領域の縮小表示と、部分パターン領域の拡大表示とのいずれをも含むことができる。本実施形態での画像処理装置2は、この発明における「直接描画装置用の画像表示装置」としての機能を有する。
【0037】
描画用RIP展開は、実際の描画に必要な解像度で描画パターン全体をRIP展開するものである。一方、表示用RIP展開は、ディスプレイ上での表示用に行われるものであり、描画用RIP展開と比較して低解像度で、あるいはパターン領域の全体ではなく部分的な領域だけをRIP展開するなど、描画用RIP展開よりも簡易な処理である。従って、RIP展開に要する処理時間も描画用RIP展開より短く、保持するデータ量も描画用RIP展開よりも少なくて済む。
【0038】
すなわち、画像処理装置2では、描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開で設計データD0の該当部分をRIP展開して表示させることにより、画像のプレビュー表示のためのデータ処理を高速化し、パラメータ更新などに対する画像表示の更新のリアルタイム性を確保している。
【0039】
以下において、表示用RIP展開で得られたラスターデータを画像データD2と称する。
【0040】
なお、これらにおけるラスターデータ(ラスタイメージデータ)とは、周知のように、複数の画素を形成する2値画像データを主走査方向に配列したデータ(ラインデータ)を、主走査方向とは直交する副走査方向に多数配列したものに相当するデータである。
【0041】
描画用RIP展開では、ベクトル形式で記述された設計データD0をラスターデータに変換する。さらに、このラスターデータをランレングス符号化処理し、圧縮された描画用ランレングスデータは、描画装置3内に組み込まれた描画制御部3bに出力される。得られたランレングスデータは、設計データD0におけるパターン領域が、走査線ごとに各露光区間の長さを順次に配列した連鎖によって記述されたデータとなる。
【0042】
本実施形態に係る画像処理装置2では、描画用RIP展開のために設定されるRIPパラメータ(以下において、指定パラメータPa1と称する場合がある。)と、当該指定パラメータPa1と比較される基準のRIPパラメータ(以下において、基準パラメータPa2と称する。)とのそれぞれに基づいて、設計データD0が表示用RIP展開されることで生成された2つの画像データD2の差分抽出も行われる。これについては、後に詳述する。
【0043】
描画装置3は、データ処理部3aが設計データD0をRIP展開して得た描画用の画像データD1に基づいて、走査描画部3cが基板(描画対象物)上にパターン領域を直接露光する装置である。描画装置3の描画制御部3bは、設計データ作成装置1から設計データD0と画像処理装置2から描画用RIP展開に使用される指定パラメータPa1とを取得し、指定パラメータPa1に従って設計データD0のRIP展開(描画用RIP展開)を行う。これによって描画用の画像データD1を生成し、走査描画部3cはその画像データD1に基づいてパターン領域の光ビーム走査による描画を実行する。これにより、図形パターンに相当する二次元画像が描画対象物に記録される。
【0044】
例えば走査描画部3cは、デジタルマイクロミラーデバイス等の空間光変調素子を用いて描画用の画像データD1に応じて変調した光ビームを半導体基板上のレジスト層(一般には感光層)に照射し、基板に配線パターンを描画する。
【0045】
なお、本実施形態では描画装置3内のデータ処理部3aで描画用RIP展開を行う場合について説明しているが、画像処理装置2と描画装置3との間に設けた専用のRIP装置で描画用RIP展開を行ってから、描画用画像データD1を描画装置3に送信する形態であってもよい。また、画像処理装置2において、指定パラメータPa1で設計データD0の描画用RIP展開が行われ、それによって生成された描画用の画像データD1が描画装置3に送信される形態であってもよい。これらの場合には、描画装置3のデータ処理部3aはRIP展開機能を備える必要はない。
【0046】
なお、画像処理装置2は、描画装置3の外部に設置される必要はなく、描画装置3と一体の構成であってもよい。また、画像処理装置2にCADが搭載されており、画像処理装置2に搭載されたCADで直接設計データD0が作成される構成であってもよい。
【0047】
図2には、コンピュータによって構成された画像処理装置2のハードウェア構成がブロック図で示されている。
【0048】
画像処理装置2は、CPU91、ROM92、メモリ93、メディアドライブ94、表示部95、操作部96等で構成されている。これらのハードウェアは、それぞれバスライン97によって電気的に接続された構成となっている。
【0049】
CPU91は、ROM92に記憶されたプログラム(または、メディアドライブによって読み込まれたプログラム)Pに基づいて、上記ハードウェア各部を制御し、画像処理装置2の機能を実現する。
【0050】
ROM92は、画像処理装置2の制御に必要なプログラムPやデータを予め格納した読み出し専用の記憶装置である。
【0051】
メモリ93は、読み出しと書き込みとが可能な記憶装置であり、CPU91による演算処理の際に発生するデータなどを一時的に記憶する。メモリ93は、SRAM、DRAMなどで構成される。
【0052】
メディアドライブ94は、記録媒体(より具体的には、CD−ROM、DVD(Digital Versatile Disk))、フレキシブルディスクなどの可搬性記録媒体)Mからその中に記憶されている情報を読み出す機能部である。
【0053】
操作部96は、キーボード及びマウスによって構成される入力デバイスであり、コマンドや各種データの入力といったユーザ操作を受け付ける。操作部96が受けたユーザ操作は信号としてCPU91に入力される。
【0054】
表示部95は、カラーLCDのようなディスプレイ等を備え、各種のデータや動作状態を可変表示する。この表示部95では、図3に示される操作GUI(Graphic User Interface)80が表示される。
【0055】
ここで、図3を参照しつつ、操作GUI80について説明する。操作GUI80は、例えば図3に示されるように、設計データD0で規定されるパターン領域の一部を表示用RIP展開後の画像データD2に基づいて表示する処理領域表示画面81と、指定パラメータPa1の設定入力が行われる入力欄を表示するパラメータ設定画面82と、を備える。操作GUI80では、これらの処理領域表示画面81とパラメータ設定画面82とが並列的に表示されている。
【0056】
指定パラメータPa1には、例えば設計データD0のファイル名称、レイヤーの番号、サイジング(拡大や縮小)の値、階調反転の有無、回転の角度、ミラー反転の有無、エッジ露光条件などの各項目が挙げられる。
【0057】
なお、基準パラメータPa2も指定パラメータPa1と同様の各項目で構成されている。この基準パラメータPa2として設定されるパラメータ値は、複数のモードから選択された一のモードに基づいて設定されるが、これについては後に詳述する。
【0058】
図3に示されるパラメータ設定画面82の「Input CAD Data」201でCADファイルの名称が入力される。ここで入力されたCADファイルが設計データD0として取り込まれ、それを所定の初期パラメータでRIP展開した初期画像が処理領域表示画面81に表示される。初期パラメータは、サイジングや階調反転などの調整処理を行わずに、設計データD0に忠実にRIP展開するためのRIPパラメータであり、初期表示用としてあらかじめ装置内に設定されている。
【0059】
また、「Layer Merge」202では、レイヤー番号が設定される。「Sizing」203では、X方向及びY方向における線幅の太らせ幅又は細らせ幅が入力される。例えば、図3に示される設定値の場合、線幅は、デフォルトの線幅からX方向に1000nm細らせ、Y方向に500nm太らせた線幅に設定される。「Reverse」204では、画像データD2のパターン領域の階調を反転するか否かについて選択される。「Rotation」205では、画像データD2のパターン領域の回転角度が設定される。回転角度は任意の値が入力されてもよいし、予め設定された値を選択する形態であってもよい。画像データD2のパターン領域を回転させない場合には、ゼロの値が設定される。
【0060】
また、「Mirror」206では、ミラー反転を行うか否かについて設定される。「Wafer Info」207では、描画対象物となる基板のサイズ及び装置における初期設定位置について入力される。「Use Edge Expose」208では、エッジ露光条件が入力される。エッジ露光条件とは、基板に形成されたチップの外側を円形に囲むようにして形成される露光領域の設定条件である。具体的には、エッジ露光を行うか否かについて、また、エッジ露光を行う場合には、露光領域が形成される基板上の位置(外側位置又は内側位置)と露光幅について設定される。なお、これらは、あくまでも指定パラメータPa1の一例であり、これに限られるものではない。
【0061】
これらの指定パラメータPa1は、「Ticket Name」210に保存名が入力され、「Save」キー214がクリックされることによって、指定パラメータPa1のセットとして、後述する指定パラメータ保存部23に保存される。
【0062】
指定パラメータPa1を用いた表示用RIP展開は、これらの指定パラメータPa1が、操作GUI80のパラメータ設定画面82に入力された後で、操作GUI80上の「Update View」キー215がクリックされることにより実行される。なお、指定パラメータPa1が操作GUI80に入力される都度、表示用RIP展開が行われる形態であってもよい。
【0063】
指定パラメータPa1が最初に設定されるまでは、事前に設定されている初期パラメータで設計データD0を比較的低解像度でRIP展開した画像データD2(初期画像)だけが処理領域表示画面81に表示されている状態である。指定パラメータPa1が設定されて、その指定パラメータPa1を用いたRIP展開がなされた後には、初期画像表示は比較画像表示に切り替わる。比較画像表示では、指定パラメータPa1で表示用RIP展開した画像(以下において、指定画像D21と称する。)と、基準パラメータPa2で表示用RIP展開した画像(以下において、基準画像D22)とが重ね合わされた状態で処理領域表示画面81に表示され、そこでは差分Sの部分が強調表示される。なお、初期パラメータは、サイジングや階調反転などの調整処理を行わずに、設計データD0に忠実にRIP展開するためのRIPパラメータであり、初期表示用としてあらかじめ装置内に設定されている。
【0064】
表示用RIP展開は、パターン領域のうちオペレータが処理領域表示画面81に表示させることを意図した部分(以下「表示対象部分」)についてのみリアルタイムで実行される。具体的には、ユーザ操作によって、パターン領域の表示対象部分が設定されると、当該表示対象部分に相当する2次元座標範囲が特定される。この特定された2次元座標範囲に対応する部分の設計データD0のみが、指定パラメータPa1に従ってRIP展開される。そして、RIP展開によって得られた画像データD2に基づく表示対象部分の指定画像D21が、処理領域表示画面81内に、その部分に相当する基準画像D22とともに、差分Sが強調された態様で表示される。
【0065】
上記のような表示対象部分の設定は、処理領域表示画面81の側方に設けられたスクロールバー220によって処理領域表示画面81に表示されているパターン領域をX方向又はY方向に移動させること、またはマウスのダブルクリックなどによりパターン領域の表示倍率を調節することによって行われる。なお、処理領域表示画面81上でマウスをドラッグアンドドロップすることによりパターン領域を移動させる態様であってもよい。
【0066】
操作GUI80の処理領域表示画面81の下方には、モード設定欄230が設けられている。このモード設定欄230で、複数のモードから一のモードが選択されることによって、モード設定部31が基準パラメータPa2の決定に関するモードを設定する。そして、設定された一のモードに応じて基準パラメータ設定部24が基準パラメータPa2を設定する。これについては後に詳述する。
【0067】
なお、RIPパラメータは、操作GUI80上で設定される値に限られない。例えば、最小ランは、描画装置3のスペックによって決定される。この最小ランは、描画装置3が描画可能な最小の画素値を表している。つまり、描画装置3では、この最小ランの値よりも小さい画素は、装置のスペック上、描画することができないため、当該画素よりも小さい画素の隙間を潰すことで描画は行われる。
【0068】
図4には、画像処理装置2の機能的構成を表すブロック図が示されている。
【0069】
画像処理装置2は、設計データ取得部20、設計データ保存部21、指定パラメータ設定部22、指定パラメータ保存部23、処理領域設定部25、表示用RIP展開部26、基準パラメータ設定部24、差分抽出部27、差分強調表示部28、送信部30、およびモード設定部31を備える。これらの各部の機能は、ROM92に予め格納されたプログラムP、あるいはメディアドライブ94によって記録媒体Mに記録されているプログラムPが読み出され、CPU91において実行されることによって実現する。
【0070】
設計データ取得部20は、設計データ作成装置1からネットワークNを介して描画すべきパターン領域が記述された設計データD0を取得する。なお、ネットワークNに限らず、例えば可般型記憶媒体を介して、設計データD0が取得されてもよい。
【0071】
設計データ保存部21は、設計データ取得部20で取得された設計データD0を保存する。保存された設計データD0は適宜読み出されて、表示用RIP展開に使用される。
【0072】
指定パラメータ設定部22は、設計データD0がRIP展開されるときのRIPパラメータ(指定パラメータPa1)を設定する。具体的に、オペレータが、パラメータ設定画面82に操作部96を介して指定パラメータPa1の値を入力することによって、当該指定パラメータPa1が指定パラメータ設定部22に設定される。
【0073】
指定パラメータ保存部23は、指定パラメータ設定部22で設定された指定パラメータPa1を保存する。保存された指定パラメータPa1は、基準パラメータPa2に設定されるため、または描画用RIP展開に使用されるRIPパラメータに設定されるなどのため、適宜読み出される。
【0074】
処理領域設定部25は、初期画像表示、または比較画像表示での画像データD2のパターン領域から処理領域RTを設定する。具体的に、処理領域表示画面81に表示されているパターン領域に対して、スクロール、ズームイン、又はズームアウトなどのユーザ操作が操作部96を介して行われる。これによって、オペレータが目視で確認したいパターン領域の部分またはパターン領域全体が処理領域表示画面81に表示される。これによって、処理領域RTが設定される。つまり、処理領域RTは、処理領域表示画面81に表示されているパターン領域の部分または全体であり、上述の表示対象部分に相当する。
【0075】
一般に、オペレータはパターン領域全体の各部を平等に確認することはなく、オペレータが特に確認したい部分は限定される。それは主として、描画工程やプロセス上でエラーが生じ易い特定の幾何学的特徴を有する部分であり、例えば、パターン領域の曲線部分、鋭角部分、細線部分、頂点部分などの部分領域が処理領域RT(表示対象部分)として設定される。
【0076】
また、パターン領域の画像全体(全体領域)が処理領域RTとして設定される場合には、複数のチップの配置具合、エッジの処理具合、などが確認される。
【0077】
モード設定部31は、指定パラメータPa1と基準パラメータPa2とを比較するモードを設定する。モードとして、例えば、装置制限強調モード、前回条件比較モード、パラメータ調整モード、及びデフォルト比較モードなどが挙げられる。オペレータは、操作GUI80上に設けられたモード設定欄230での選択操作を行うことにより、複数のモードから一のモードを選択する。このようにして選択されたモードがモード設定部31に設定される。
【0078】
基準パラメータ設定部24は、モード設定部31で設定されたモードに応じて基準パラメータPa2を設定する。具体的に、装置制限強調モードでは、最小ランがゼロのときの指定パラメータPa1が、基準パラメータPa2となる。つまり、描画装置3の装置条件による制約が存在しない場合の指定パラメータPa1が基準パラメータPa2として設定される。
【0079】
前回条件比較モードでは、前回の描画用RIP展開で使用した指定パラメータPa1のセットが基準パラメータPa2となる。この場合、モードが設定された段階で、該当する指定パラメータPa1が指定パラメータ保存部23から読み出され、基準パラメータPa2として設定される。
【0080】
パラメータ調整モードでは、前回の表示用RIP展開で使用した指定パラメータPa1のセットが基準パラメータPa2となる。この場合においても、モードが設定された段階で、該当する指定パラメータPa1が指定パラメータ保存部23から読み出され、基準パラメータPa2として設定される。
【0081】
デフォルト比較モードでは、予め指定パラメータ保存部23に基準パラメータPa2として設定されているRIPパラメータのセットが、基準パラメータPa2となる。この基準パラメータPa2は、オペレータによって設定入力されたRIPパラメータである。この場合においても、モードが設定された段階で、該当する指定パラメータPa1が指定パラメータ保存部23から読み出され、基準パラメータPa2として設定される。
【0082】
表示用RIP展開部26は、指定パラメータ設定部22で設定された指定パラメータPa1と、基準パラメータ設定部24で設定された基準パラメータPa2とのそれぞれに基づいて、処理領域RT(表示対象部分)に対応する設計データD0をRIP展開(表示用RIP展開)する。これによって、設計データD0のうち処理領域RTに対応する部分が、指定パラメータPa1と基準パラメータPa2とのそれぞれに対応した表示用の2セットの画像データD2に変換される。表示用RIP展開は、例えば、指定パラメータPa1の入力完了のタイミング、又は操作GUI80上の「Update View」キー215のクリックを契機に開始され、即時実行される。
【0083】
差分抽出部27は、指定パラメータPa1を用いてRIP展開された指定画像D21と基準パラメータPa2を用いてRIP展開された基準画像D22との2つの画像の画素ごとの差分Sを抽出する。例えば、指定画像D21の各画素から対応する基準画像D22の各画素を差し引くことで、差分Sは抽出される。この場合には、差分Sの値が正になる部分は、描画(露光)範囲が増加した部分に相当する。また、差分Sの値が負になる部分は、描画(露光)範囲が減少した部分に相当する。なお、差分抽出処理は、基準画像D22の各画素から対応する指定画像D21の各画素を差し引くことで行われてもよい。
【0084】
差分強調表示部28は、差分抽出部27で抽出された差分Sを視覚的に強調して処理領域表示画面81に表示する。このとき、処理領域表示画面81では、指定画像D21と基準画像D22とが重ねて表示されている。差分Sは、指定画像D21と基準画像D22との非共通部分、すなわち重なりが生じていない部分として表示されている。
【0085】
この差分Sは、重ね合わされた指定画像D21と基準画像D22との共通部分とは異なる表示色で表示されている。また、例えば差分Sの値が正になる部分と、差分Sの値が負になる部分とは異なる表示色が使用される。特に、これらの色は補色の関係にあることが好ましい。
【0086】
なお、表示色が異なる形態に限られず、例えば差分Sの部分に異なる模様が付与された形態(たとえば異なる斜線が引かれた形態)、又は差分Sの階調値が異なる形態など、差異の存在が視覚的に強調して表示された形態であれば構わない。
【0087】
送信部30は、描画用RIP展開で使用することが決定した指定パラメータPa1のセットを描画装置3に送信する。
【0088】
ここで、図5に示されるフローチャートに従って、処理の流れについて説明する。
【0089】
はじめに、設計データ取得部20が、設計データ作成装置1で作成された設計データD0を、ネットワークNを介して取得する(ステップS1)。取得した設計データD0は設計データ保存部21に保存される。
【0090】
オペレータは、操作GUI80を介して設計データ保存部21に保存されている各種の設計データD0の中から所望の設計データD0を選択する。選択された設計データD0が初期パラメータを用いて表示用RIP展開され、これによって、当該設計データD0に忠実な初期画像が操作GUI80の処理領域表示画面81に表示される。なお、設計データ取得部20が取得した設計データD0を直接に初期パラメータで表示用RIP展開し、操作GUI80の処理領域表示画面81に表示させる形態であってもよい。
【0091】
続いて、モードが設定される(ステップS2)。具体的には、オペレータが、操作GUI80のモード設定欄230で、複数のモードの中から一のモードを選択することによって、モードが設定される。
【0092】
続いて、オペレータは、操作部96を介して、処理領域RTを設定する(ステップS3)。具体的には、オペレータは、処理領域表示画面81に表示されているパターン領域を見ながら操作を行い、確認したい領域を処理領域表示画面81に表示させる。このとき、オペレータが部分領域を確認したい場合には、拡大操作を行うことにより、一部の画像が拡大表示され、線幅、又は形状を細かく確認することができる状態になる。
【0093】
続いて、オペレータが操作GUI80のパラメータ設定画面82に指定パラメータPa1を入力する。これによって、指定パラメータPa1が設定される(ステップS4)。操作GUI80への指定パラメータPa1の入力が完了した段階、または「Save」キー214のクリックにより、当該指定パラメータPa1のセットは指定パラメータ保存部23に保存される。
【0094】
そして、基準パラメータPa2が基準パラメータ設定部24によって設定される(ステップS5)。つまり、設定されたモードに応じたRIPパラメータのセットが指定パラメータ保存部23から読み出されて基準パラメータPa2は設定される。特に、モードが装置制限モードである場合には、指定パラメータPa1が設定されることによって、基準パラメータPa2は生成する。なお、モードが装置制限モード以外のその他のモードである場合には、モードが設定された段階で、設定されたモードに応じたRIPパラメータのセットが指定パラメータ保存部23から読み出され、基準パラメータPa2として設定されてもよい。
【0095】
指定パラメータPa1が入力された段階で、パラメータ設定画面82の「Update View」キー215がオペレータによってクリックされる。これを契機に、表示用RIP展開が即時実行される(ステップS6)。
【0096】
このとき、処理領域表示画面81における処理領域RTの表示倍率に応じた解像度で表示用RIP展開は実行される。具体的に、表示倍率が大きくなる場合、すなわち処理領域RTである表示対象部分がパターン領域の部分領域であって、当該部分領域が処理領域表示画面81に拡大表示されている場合には、比較的高解像度で表示用RIP展開が行われる。
【0097】
また、表示倍率が小さくなる場合、すなわち処理領域RTである表示対象部分がパターン領域の全体領域であって、当該全体領域が処理領域表示画面81に縮小表示されている場合には、比較的低解像度で表示用RIP展開が行われる。つまり、処理領域RTがパターン領域の部分領域であるときのRIP展開の解像度は、処理領域RTがパターン領域の全体領域であるときのRIP展開の解像度よりも小さくなる。
【0098】
つまり、処理領域RTがパターン領域の部分領域に対応する場合には、表示用RIP展開は設計データD0の一部分に対して限定的に行われるため、また処理領域RTがパターン領域の全体領域に対応する場合には、表示用RIP展開は粗く行われるため、表示用RIP展開は、描画用RIP展開よりもデータ処理量が抑制されたRIP展開となる。
【0099】
指定画像D21と基準画像D22との共通部分(重なり部分)は、それぞれにおいて描画対象となる各画素を論理値「1」として、対応する画素ごとの論理積をとって得た論理合成画像として特定することができる。
【0100】
差分抽出部27は、この指定画像D21と基準画像D22との差分Sを抽出する(ステップS7)。具体的には、各画素について指定画像D21から基準画像D22を差し引くことで差分Sは抽出される。
【0101】
そして、差分強調表示部28が、差分Sを指定画像D21及び基準画像D22に重ねるようにして処理領域表示画面81に表示させる。具体的には、指定画像D21と基準画像D22と差分Sとを、相互に位置合わせしつつ、同一の画面エリア中に、相互に位置合わせされた状態で複合表示させる。
【0102】
このとき、差分Sは、指定画像D21及び基準画像D22とは異なる表示色で表示されている。また、差分Sの値が正になる部分と差分Sの値が負になる部分とにおいても異なる表示色で表示されている。このようにして、差分Sの領域は視覚的に強調して表示される(ステップS8)。
【0103】
より具体的には、黒く表示された背景部分の中で、指定画像D21と基準画像D22との共通部分(重なり部分)を基準色(たとえば白)で表示させ、差分Sの値が正になる部分は赤系統の色で表示し、差分Sの値が負になる部分は青系統の色で表示することにより、背景部分(非描画部分)、共通部分、増加部分、減少部分の4種を異なる視覚的態様で表示させる。このように、背景部分や共通部分は無彩色とし、差分S(増加部分、減少部分)を有彩色とすることによって、差分Sの視覚的な強調がなされる。
【0104】
なお、差分Sと他の部分(背景部分や共通部分)とが視覚的に区別がつけば他の態様でもかまわない。例えば、差分Sがより強調されるように、たとえば差分Sを間欠的にフラッシュ表示するなどの態様も採用可能である。
【0105】
図6には、各比較モードでの指定画像D21、基準画像D22、そして差分Sが表示された画像(以下において、差分表示画像D23と称する。)が示されている。図6では、いずれも処理領域RTがパターン領域の部分領域として表示されている。なお、ここでは、差分抽出処理は、基準画像D22の各画素から対応する指定画像D21の各画素を差し引くことで行われている。
【0106】
図6には、装置制限強調モードでの指定画像D21、基準画像D22、そして、差分表示画像D23が示されている(ST11)。最小ランが設定されているため、指定画像D21では、画素の隙間がつぶれて表示された領域(つぶれ領域)が部分的に形成される。一方、基準画像D22では、最小ランがゼロであるため、そのようなつぶれ領域は未形成である。従って、差分表示画像D23では、このつぶれ領域の部分が差分Saとして強調表示される(図示の都合上、差分Saは、梨地領域として示されている。)。
【0107】
また、図6には、前回条件比較モード又はデフォルト比較モードでの指定画像D21、基準画像D22、そして差分表示画像D23が示されている(ST12)。指定パラメータPa1と基準パラメータPa2との相違点は、線幅の値である。従って、差分表示画像D23では、この線幅の異なる部分が差分Sbとして、他の部分と区別された形態で強調表示される(図示の都合上、差分Sbは斜線領域として示されている。)。
【0108】
また、図6には、パラメータ調整モードでの指定画像D21、基準画像D22、そして、差分表示画像D23が示されている(ST13)。指定パラメータPa1と基準パラメータPa2との相違点はエッジ露光領域ERの有無に関する項目の設定である。基準画像D22では、エッジ露光領域ERが基板の内側部分に未形成の状態の処理領域RTが示されている。これに対して、指定画像D21では、エッジ露光領域ERが基板の内側部分に形成された状態の処理領域RTが示されている。従って、差分表示画像D23では、このエッジ露光領域ERが形成されている内側部分が差分Scとして強調表示されている(図示の都合上、差分Scは梨地領域として示されている。)。
【0109】
なお、差分Saと差分Scとは、指定画像D21の一部の画素が対応する基準画像D22の一部の画素よりも大きいことによる差分S、すなわち露光範囲が増大した部分であり、差分Sbは、指定画像D21の一部の画素が対応する基準画像D22の一部の画素よりも小さいことによる差分S,すなわち露光範囲が減少した部分である。従って、差分Sa,Scと差分Sbとは表示色が異なる態様で表示される。
【0110】
差分Sの強調表示処理が行われると、処理領域RTを再設定して再度表示用RIP展開を実施するか否かが判断される(ステップS9)。処理領域表示画面81に表示された処理領域RTが新たに設定される(ステップS10)と、表示用RIP展開は新たに行われる。
【0111】
また、差分Sの強調表示処理が行われると、指定パラメータPa1を再設定して表示用RIP展開を再度実施するか否かが判断される(ステップS11)。描画装置3が描画処理を行う際に、差分Sが露光品質に悪影響を及ぼすなどと判断される場合には、指定パラメータPa1が更新され、表示用RIP展開が新たに行われる。
【0112】
オペレータは、指定パラメータPa1または処理領域RTを様々に更新し、差分Sが強調して表示された表示画像を更新させつつ、これらの表示画像を目視で確認する。そして、最適な表示画像が得られる指定パラメータPa1の値が、描画用RIP展開に使用されるRIPパラメータに決定される。決定された指定パラメータPa1は、指定パラメータ保存部23から読み出され、送信部30によって描画装置3に送信される。
【0113】
このように、表示用RIP展開、差分抽出処理、及び差分強調表示処理は、指定パラメータPa1が新たに設定されたとき、又は処理領域表示画面81に表示された処理領域RTが新たに設定されたときに、その都度リアルタイムで実施される。
【0114】
このような指定パラメータPa1の更新あるいは処理領域RTの更新に応答して表示用RIP展開が再度なされ、かつ処理領域表示画面81における表示がリアルタイムで更新されることにより、実質的に画像の変化を動的にモニタしつつ指定パラメータPa1などの調整が可能となる。ただし、ここで言うリアルタイムとは、指定パラメータPa1の更新、あるいは処理領域RTの更新に応答する場合のみならず、指定パラメータPa1の更新後、あるいは処理領域RTの更新後、オペレータが更新指令を与えることによって表示用RIP展開が行われ、表示が更新される場合も含んでいる。換言すれば、描画用RIP展開にかかる時間を要することなくパラメータ更新とその結果の確認が可能という意味において、本実施形態の装置はリアルタイム性を有する。
【0115】
以上のように、本実施形態における画像処理装置2では、描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開でRIP展開が行われる。また、指定パラメータPa1に基づく表示用RIP展開によって得られた指定画像D21と、基準パラメータPa2に基づく表示用RIP展開によって得られた基準画像D22との差分Sが視覚的に区分された状態で処理領域表示画面81に表示される。従って、表示用RIP展開は速やかに行われるとともに、指定画像D21と基準画像D22との差分Sの見落としは生じにくくなる。
【0116】
また、差分Sは指定画像D21と基準画像D22との共通部分よりも視覚的に強調して表示されることによって、視覚的により明らかに区分することが可能である。従って、差分Sの見落としはより生じにくくなる。
【0117】
また、指定パラメータPa1の更新に応答して表示用RIP展開がなされ、処理領域表示画面81における画像の表示が更新される。すなわち、リアルタイムで画像を確認することができるため、差分Sの表示にかかる時間ロスを抑制できる。このため、手軽に指定パラメータPa1及び処理領域を設定し直して差分Sを確認することができる。
【0118】
特に、パターンが細かく、描画領域が広くなる半導体基板においては、描画用RIP展開に時間を要するため、RIPパラメータの設定ミスによる時間ロスが大きな課題であった。また、パターンが細かいため、差分の見落としが生じやすく、確認作業に時間を要していた。画像処理装置2は、これらの問題を解決可能である。
【0119】
また、処理領域RTがパターン領域の部分領域である場合には、比較的高解像度でRIP展開が行われ、処理領域RTがパターン領域の全体領域である場合には、低解像度でRIP展開が行われる。このため、表示用RIP展開を速やかに実行することが可能になる。
【0120】
また、複数のモードから選択された一のモードに応じて、基準パラメータPa2は設定される。このため、指定パラメータPa1と基準パラメータPa2との比較目的に応じた基準パラメータPa2を設定することができる。
【0121】
また、指定画像D21と基準画像D22と差分Sとが相互に位置合わせされた状態で処理領域表示画面81に複合表示されている。このため、差分Sが形成されている画像上の位置を容易に把握することができる。
【0122】
また、差分Sの処理領域表示画面81における表示色は、指定画像D21と基準画像D22とのそれぞれの表示色とは異なる。このため、差分Sは目視によって、より容易に確認することができる。
【0123】
また、差分Sの値が正の場合の差分Sの表示色と、差分Sの値が負の場合の差分Sの表示色とが異なる。このため、差分Sを確認したときに、当該差分Sは、描画範囲が増大したことによる差分であるか、それとも描画範囲が減少したことによる差分であるかを、容易に見分けることができる。
【0124】
また、上記の実施形態の装置は、半導体基板やFDPディスプレイパネル用基板やプリント基板など精密電子基板製造用の光ビーム直接描画装置を想定しているが、印刷などの分野における直接描画においてもこの発明は適用できる。光ビームではなく、電子ビームなどによる直接描画装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0125】
2 画像処理装置(画像表示装置)
3 直接描画装置
20 設計データ取得部
22 指定パラメータ設定部
24 基準パラメータ設定部
25 処理領域設定部
26 表示用RIP展開部
27 差分抽出部
28 差分強調表示部
31 モード設定部
81 処理領域表示画面
82 パラメータ設定画面
95 表示部
100 図形描画システム
RT 処理領域
R パターン領域
Pa1 指定パラメータ
Pa2 基準パラメータ
D0 設計データ
D2 画像データ
D21 指定画像
D22 基準画像
S 差分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画ビームの走査によって所定のパターンを描画対象物に直接描画する直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記パターンを記述したベクトル形式の設計データを取得する取得部と、
前記設計データのRIP展開に使用される指定パラメータを設定する指定パラメータ設定部と、
RIP展開される前記設計データの処理領域を設定する処理領域設定部と、
前記指定パラメータと所定の基準パラメータとを用いて、前記設計データのうち前記処理領域に対応する部分をそれぞれRIP展開して、指定画像と基準画像とを得る表示用RIP展開部と、
前記指定画像と前記基準画像とを重ね合わせて可視的に表示する表示部と、
を備え、
前記表示用RIP展開部におけるRIP展開は、前記直接描画のための描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開であり、かつ
前記表示部は、前記指定画像と前記基準画像との差分を、前記指定画像と前記基準画像との共通部分とは視覚的に区別可能に表示させること、
を特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記表示部は、前記差分を前記共通部分よりも視覚的に強調して表示させることを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記指定パラメータの更新に応答して、前記表示用RIP展開がなされ、かつ前記表示部における表示が更新されることを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項4】
請求項1ないし3に記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記表示用RIP展開部は、
前記処理領域が、前記パターンの部分領域に対応する場合には、第1の解像度で前記表示用RIP展開を行う一方で、
前記処理領域が、前記パターンの全体領域に対応する場合には、第2の解像度で前記表示用RIP展開を行い、
前記第2の解像度は前記第1の解像度よりも低いことを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一つに記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記基準パラメータの決定に関する複数のモードから一のモードを設定するモード設定部と、
設定された前記一のモードに応じて、前記基準パラメータを設定する基準パラメータ設定部と、
をさらに備えることを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記指定画像と前記基準画像と前記差分とが、一の画面エリア中に、相互に位置合わせされた状態で複合表示されていることを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項7】
請求項6に記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記表示部における前記差分の表示色は、前記指定画像と前記基準画像とのそれぞれの表示色とは異なることを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項8】
請求項7に記載の直接描画装置用の画像表示装置であって、
前記差分の値が正の場合の前記差分の表示色と、前記差分の値が負の場合の前記差分の表示色とが異なることを特徴とする直接描画装置用の画像表示装置。
【請求項9】
描画ビームの走査によって所定のパターンを描画対象物に直接描画する直接描画装置用の表示画面を備えるコンピュータが読み取り可能なプログラムであって、
前記コンピュータが前記プログラムを読み取り、前記コンピュータのCPUがメモリを用いて前記プログラムを実行することにより、前記コンピュータを、
前記パターンを記述したベクトル形式の設計データを取得する取得部と、
前記設計データのRIP展開に使用される指定パラメータを設定する指定パラメータ設定部と、
RIP展開される前記設計データの処理領域を設定する処理領域設定部と、
前記指定パラメータと所定の基準パラメータとを用いて、前記設計データのうち前記処理領域に対応する部分をそれぞれRIP展開して、指定画像と基準画像とを得る表示用RIP展開部と、
前記指定画像と前記基準画像とを重ね合わせて前記表示画面に可視的に表示する表示部と、
を備える画像表示装置として機能させ、
前記表示用RIP展開部におけるRIP展開は、前記直接描画のための描画用RIP展開よりもデータ処理量を抑制した表示用RIP展開であり、かつ
前記表示部は、前記指定画像と前記基準画像との差分を、前記指定画像と前記基準画像との共通部分とは視覚的に区別可能に表示させることを特徴とする画像表示装置として機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−77718(P2013−77718A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217065(P2011−217065)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】