説明

直描型水なし平版印刷版原版

【課題】微小網点の現像ラチチュードが広く、耐傷性、特に現像ブラシにより発生する傷に対する耐性に優れた直描型水なし平版印刷版原版を提供すること
【解決手段】基板上に、少なくとも断熱層、感熱層およびシリコーンゴム層をこの順に有する直描型水なし平版印刷版原版であって、該感熱層が少なくとも(A)光熱変換物質、(B)金属含有有機化合物、(C)ノボラック樹脂および(D)ポリウレタン樹脂を含有し、(C)ノボラック樹脂が重量平均分子量の異なる2種類のノボラック樹脂を含有し、ノボラック樹脂のGPC法による分子量分布が、一方は5百以上5千以下に、他方は1万以上5万以下に極大を有し、かつ、該シリコーンゴム層が特定のポリシロキサンを含有することを特徴とする直描型水なし平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直描型水なし平版印刷版原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタル化技術により、デジタル化された画像情報にしたがって、レーザー光のような指向性の高い光を版面に走査することで、リスフィルムを介することなく直接版面に露光処理を行うコンピュータートゥプレート(CTP)技術が開発され、製版に用いられている。レーザー光を用いた方式は、光反応によるフォトンモードと、光熱変換を行って熱反応を起こさせるヒートモードの2つのタイプに分けられる。特にヒートモード方式は、明室で版材を取り扱える利点がある。また、光源となる半導体レーザーの急激な進歩によって、その有用性が見直されてきている。
【0003】
ヒートモード方式の直描型水なし平版印刷版としては、これまで以下のような提案がなされている。例えば、レーザー光を光源として用いる、熱破壊方式の直描型水なし平版印刷版原版(例えば、特許文献1、2参照)が開示されている。この印刷版原版の感熱層は、レーザー光吸収化合物として主としてカーボンブラックを用い、熱分解化合物としてニトロセルロースを使用している。そしてこのカーボンブラックがレーザー光を吸収することによって熱エネルギーに変換され、その熱で感熱層が破壊される。そして最終的に、現像によってこの部分を除去することによって、表面のシリコーンゴム層が同時に剥離され、画線部となる。このような熱破壊方式の印刷版は感熱層を破壊して画像を形成することから、画線部のセルの深さが深くなり、微小網点部のインキ着肉性が悪く、また、インキマイレージが悪いという課題があった。さらに、感熱層を熱破壊させ易くするために、架橋構造を形成しており、印刷版の耐刷性が悪いという課題もあった。さらに、この印刷版は感度が低く、感熱層を破壊させるために高いレーザー光の強度を必要とするものであった。
【0004】
このような課題に対して、基板上に、感熱層およびシリコーンゴム層を有し、レーザー光を熱に変換することにより感熱層とシリコーンゴム層との密着性を低下させることによって画像を形成する直描型水なし平版印刷版原版(例えば、特許文献3参照)や、さらに基板と感熱層の間に断熱層を有する直描型水なし平版印刷版原版が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
近年、CTP技術において、高精細AM(Amplitude Modulation)スクリーン印刷やFM(Frequency Modulation)スクリーン印刷の要求が高まっている。AMスクリーンとは、ある角度をなして規則的に網点を配列し、単位面積あたりの網点の大きさで濃度階調を表現するスクリーン方法である。通常のAMスクリーンの線数は1インチあたり175線であり、200線以上のものが高精細AMスクリーンと呼ばれている。また、FMスクリーンとは、20μm程度の微小網点を、スクリーン角度や線数に関係なくランダムに配置し、単位面積あたりの網点密度で濃度階調を表現するものである。高精細AMスクリーン印刷やFMスクリーン印刷は微小網点を用いるため、平版印刷版原版の解像度が重要な性能となってきている。従来公知の直描型水なし平版印刷版原版は、スクリーン線数175線程度の印刷には適するものであっても、高精細AMスクリーン印刷やFMスクリーン印刷に用いた場合、再現不良が発生する場合や、画線部と非画線部の境界で非画線部が剥がれてしまい、すなわちドットゲインが発生するといった課題があった。この課題に対して、シリコーンゴム層の物性から改良する試みがなされているが、その場合、現像時に現像ブラシにより非画線部に傷が入りやすく、印刷時にその部分にインキが着肉し、非画線部が汚れるという別の課題が生じ、微小網点再現性とブラシ傷とのバランスを取ることが難しい課題を有していた。
【特許文献1】特開平6−55723号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開平7−164773号公報(第4−5頁)
【特許文献3】特開平11−268436号公報(第3−15頁)
【特許文献4】特開2000−330266号公報(第3−8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スクリーン線数200線以上の高精細AMスクリーン印刷やFMスクリーン印刷に適した微小網点の現像ラチチュードが広く、耐傷性、特に現像ブラシにより発生する傷に対する耐性に優れた直描型水なし平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の直描型水なし平版印刷版原版は、上記課題を解決するために次の特徴を有する。すなわち、基板上に、少なくとも断熱層、感熱層およびシリコーンゴム層をこの順に有する直描型水なし平版印刷版原版であって、該感熱層が少なくとも(A)光熱変換物質、(B)金属含有有機化合物、(C)ノボラック樹脂および(D)ポリウレタン樹脂を含有し、(C)ノボラック樹脂が重量平均分子量の異なる2種類のノボラック樹脂を含有し、ノボラック樹脂のGPC法による分子量分布が、一方は5百以上5千以下に、他方は1万以上5万以下に極大を有し、かつ、該シリコーンゴム層が下記一般式(I)で表されるポリシロキサンを含有することを特徴とする水なし平版印刷版である。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、nは2以上の整数を示し、R〜Rは炭素数1〜50の置換あるいは非置換のアルキル基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Xは活性水素含有基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微小網点の現像ラチチュードが広く、耐傷性、特に現像ブラシにより発生する傷に対する耐性に優れた直描型水なし平版印刷版原版が得られる。本発明の直描型水なし平版印刷版原版は、スクリーン線数200線以上の高精細AMスクリーン印刷やFMスクリーン印刷に適したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳しく説明する。本発明の直描型水なし平版印刷版原版は、基板上に、少なくとも断熱層、感熱層およびシリコーンゴム層をこの順に有する。
【0012】
まず、本発明の直描型水なし平版印刷版原版に用いられる感熱層について説明する。感熱層は、描き込みに使用されるレーザー光に感応する層であり、レーザー光を熱に変換(光熱変換)する機能を有する。感熱層にはアブレーション型と光熱剥離型があるが、本発明においては、レーザー照射によるカスの飛散がない点で、光熱剥離型の感熱層が好ましい。
【0013】
本発明において、感熱層は、(A)光熱変換物質、(B)金属含有有機化合物、(C)分子量の異なる2種類のノボラック樹脂および(D)ポリウレタン樹脂を含有する。かかる直描型水なし平版印刷版原版からは、ネガ型の印刷版が得られる。すなわち、レーザー光照射部の感熱層とシリコーンゴム層間の接着力が低下し、その後の現像処理によって、レーザー光を照射した部分のシリコーンゴム層が除去される。その詳細なメカニズムは未解明であるが、おそらく原版作製時に(B)金属含有有機化合物と(C)ノボラック樹脂との反応により形成された架橋構造が、レーザー照射により(A)光熱変換物質の作用によって生じた熱で一部分解したものと考えられる。その結果、レーザー照射部分のシリコーンゴム層と感熱層の界面において、現像工程で使用する処理液に対する感熱層の溶解性が高まり、現像処理によりレーザー照射部のシリコーンゴム層が除去されるものと考えられる。現像によって除去されるのは、シリコーンゴム層だけでも、シリコーンゴム層と感熱層の双方であってもよいが、感熱層は残存した方が、インキマイレージが良好になるため好ましい。
【0014】
感熱層中に重量平均分子量の異なる2種類のノボラック樹脂を含むこと、すなわちノボラック樹脂のGPC法による分子量分布が、一方は5百以上5千以下に、他方は1万以上5万以下に極大を有することが重要である。これにより、現像時に用いられる処理液に対する感熱層の溶解性が高くなり、シリコーンゴム層の剥離が容易となることから、従来公知の印刷版原版に比べ、ドットサイズ20μm以下の微小網点の再現性が飛躍的に向上する。ノボラック樹脂の重量平均分子量が5百未満に極大を有する場合、画線部と非画線部の境界において、残るべき非画線部のシリコーンゴム層が剥離するため、微小網点再現性は、ドット一つが大きくなってしまい、微小網点が形成されず、印刷物としたときにドットゲインが生じ、印刷不良となる。一方、ノボラック樹脂の分子量が5万以上に極大を有する場合、剥離されるべき画線部のシリコーンゴム層が残るため、微小網点再現性は現像不良で不十分となる。
【0015】
また、以下のことが上述されている。本発明の直描型水なし平版印刷版原版からは、ネガ型の印刷版が得られる。すなわち、レーザー光照射部の感熱層とシリコーンゴム層間の接着力が低下し、その後の現像処理によって、レーザー光を照射した部分のシリコーンゴム層が除去される。その詳細なメカニズムは未解明であるが、おそらく原版作製時に(B)金属含有有機化合物と(C)ノボラック樹脂との反応により形成された架橋構造が、レーザー照射により(A)光熱変換物質の作用によって生じた熱で一部分解したものと考えられる。その結果、シリコーンゴム層と感熱層の界面の耐溶剤性が低下し、現像処理によりレーザー照射部のシリコーンゴム層が除去されるものと考えられている。よって、(B)金属含有有機化合物を含まない感熱層に分子量の異なるノボラック樹脂2種類が含まれている場合、架橋構造が形成されないために、レーザー照射をしたとしても、レーザー照射部で変化が起こらず、原版作製時点でシリコーンゴム層と感熱層の界面の耐溶剤性が低下しないために、現像処理によってレーザー照射部だけでなく、未照射部のシリコーンゴム層までが除去されるため画線部と非画線部を形成することは難しく、本発明の最大の特徴を生み出すのは困難である。
【0016】
以下、各成分について説明する。
【0017】
(A)光熱変換物質
光熱変換物質としてはレーザー光を吸収するものであれば特に限定されるものではなく、例えばカーボンブラック、アニリンブラック、シアニンブラックなどの黒色顔料、フタロシアニン、ナフタロシアニン系の緑色顔料、カーボングラファイト、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、硫化クロム、珪酸塩化合物や、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化タングステンなどの金属酸化物、更にはこれらの金属の水酸化物、硫酸塩が挙げられる。また、ビスマス、鉄、マグネシウム、アルミニウムの金属粉なども好ましく用いられる。これらのなかでも、光熱変換率、経済性および取り扱い性の面から、カーボンブラックが好ましい。
【0018】
また上記の物質以外に、赤外線または近赤外線を吸収する染料も、光熱変換物質として好ましく使用される。これら染料としては400nm〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する全ての染料が使用できるが、好ましい染料としては、エレクトロニクス用や記録用の染料で、最大吸収波長が700nm〜900nmの範囲にある、シアニン系染料、アズレニウム系染料、スクアリリウム系染料、クロコニウム系染料、アゾ系分散染料、ビスアゾスチルベン系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、ペリレン系染料、フタロシアニン系染料、ナフタロシアニン金属錯体系染料、ポリメチン系染料、ジチオールニッケル錯体系染料、インドアニリン金属錯体染料、分子間型CT染料、ベンゾチオピラン系スピロピラン、ニグロシン染料などが挙げられる。さらにこれらの染料のなかでも、感度向上効果の観点からモル吸光度係数の大きなものが好ましく使用される。具体的にはε≧1×10であることが好ましく、より好ましくは1×10以上である。
【0019】
これらの光熱変換物質は単独でも感度の向上効果はあるが、2種以上を併用することによって、さらに感度を向上させることも可能である。また、吸収波長の異なる2種以上の光熱変換物質を併用することにより、2種以上の発信波長の異なるレーザーに対応できるようにすることも可能である。
【0020】
これら光熱変換物質の含有量は、レーザー光に対する感度の向上効果の観点から、感熱層中0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。また、得られる印刷版の耐刷性の観点から、70重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。
【0021】
(B)金属含有有機化合物
本発明でいう金属含有有機化合物は、中心金属と有機置換基からなり、中心金属に対して有機置換基が配位結合している錯体化合物、または、中心金属が有機置換基と共有結合している有機金属化合物のことをいう。金属酸化物のような無機化合物はその範疇ではない。これらの金属含有有機化合物は、後述するノボラック樹脂や活性水素基含有化合物と置換反応をおこすことが特徴である。
【0022】
中心金属としては周期表の第2周期から第6周期の金属および半導体原子が挙げられ、なかでも第3周期から第5周期の金属および半導体原子が好ましい。第3周期金属のAl、Si、第4周期金属のTi、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、第5周期金属のIn、Snが特に好ましい。
【0023】
以上のような金属を中心にして有機置換基との間で金属含有有機化合物が形成されるが、それらの形態としては例えば以下の様な具体例が挙げられる。
【0024】
(1)金属ジケテネート
ジケトンのエノール水酸基の水素原子が金属原子と置換したもので、中心金属は酸素原子を介して有機置換基と結合している。ジケトンのカルボニルがさらに金属に対して配位結合することができるため、比較的に安定な化合物である。
【0025】
具体的には、有機置換基が、2,4−ペンタンジオネート(アセチルアセトネート)、フルオロペンタジオネート、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート、ベンゾイルアセトネート、テノイルトリフルオロアセトネートや1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオネートなどである金属ペンタンジオネート(金属アセトネート)類や、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、メタクリルオキシエチルアセトアセテートやアリルアセトアセテートなどである金属アセトアセテート類、サリチルアルデヒド錯塩が挙げられる。
【0026】
(2)金属アルコキサイド
中心金属に対して、酸素原子を介して有機置換基が結合している化合物である。有機置換基が、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、ブトキサイド、フェノキサイド、アリルオキサイド、メトキシエトキサイド、アミノエトキサイドなどである金属アルコキサイドが挙げられる。
【0027】
(3)アルキル金属
中心金属に直接有機置換基が結合しているものであり、この場合金属は炭素原子と結合している。有機置換基がジケトンであっても、金属が炭素原子で結合していればこちらに分類される。なかでもアセチルアセトン金属が好ましく用いられる。
【0028】
(4)金属カルボン酸塩類
酢酸金属塩、乳酸金属塩、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、ステアリン酸金属塩などが挙げられる。
【0029】
(5)その他
チタンオキサイドアセトネートのような酸化金属キレート化合物、チタノセンフェノキサイドのような金属錯体や、2種以上の金属原子を1分子中に有するヘテロ金属キレート化合物が挙げられる。
【0030】
以上のような金属含有有機化合物のうち好ましく用いられる金属含有有機化合物の具体例としては、アルミニウム、鉄(III)、チタンのアセチルアセトネート(ペンタンジオネート)、ヘキサンジオネート、ヘプタンジオネート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、テトラメチルヘプタンジオネート、ベンゾイルアセトネートなどが挙げられる。
【0031】
これら金属含有有機化合物はそれぞれ単独でも使用できるし、2種以上を使用することもできる。金属含有有機化合物の含有量は、後述するノボラック樹脂100重量部に対して3重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましい。また、300重量部以下が好ましく、150重量以下がより好ましい。金属含有有機化合物の含有量が3重量部以上であれば、画像形成がしやすい。また、300重量部以下であれば、耐刷性が低下することもない。
【0032】
(C)ノボラック樹脂
本発明の印刷版原版に好ましく用いられるノボラック樹脂としては、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等が挙げられる。
【0033】
本発明において、感熱層には、上述の重量平均分子量が異なるノボラック樹脂を2種使用することが重要である。ノボラック樹脂のGPC法による分子量分布が、一方は5百以上5千以下に好ましくは千〜3千に、他方は1万以上5万以下に好ましくは1万〜3万に極大を有することである。これにより、現像時に用いられる処理液に対する感熱層の溶解性が高くなり、シリコーンゴム層の剥離が容易となることから、従来公知の印刷版原版に比べ、ドットサイズ20μm以下の微小網点の再現性と印刷適性が飛躍的に向上する。以下にノボラック樹脂の効果について詳細に説明する。
【0034】
前述している通り、レーザー照射される部分、露光部、すなわち画線部において、光熱変換物質から熱が発生し、その熱によりノボラック樹脂と金属含有有機化合物から形成される架橋部が切断される。またこのとき露光部で発生した熱が未露光部へと拡散していく。ノボラック樹脂の分子量が低いほど、架橋切断後、ノボラック樹脂がフリーな分子となり、前処理液に溶解しやすく、シリコーンゴム層が剥離されやすくなり、ドットサイズ20μm以下の微小網点の再現しやすくなる。それと同時に、ノボラック樹脂の分子量が低いほど、画線部と非画線部の境界部分の非画線部で、熱拡散の影響を受けてノボラック樹脂と金属含有有機化合物の架橋切断が起こり、フリーな分子となるため、前処理液に対する溶解性が高まり、ハガレが生じやすくなる。逆に、ノボラック樹脂の分子量が高くなると、架橋切断後、ノボラック樹脂がフリーな分子となりにくくなるため、熱拡散の影響を受けにくく、画線部と非画線部の境界部分の非画線部でハガレが生じないが、画線部で現像不良になりやすくなる。
【0035】
ノボラック樹脂を2種類用いたときに、低分子量成分である5百以上5千以下のものがレーザー照射部による架橋切断によって前処理液に対する溶解性を高め、ドットサイズ20μm以下の微小網点の再現に有効であるが、5百未満に極大を有するものを含む場合、画線部と非画線部の境界部分の画線部が影響を受けて、熱拡散の前処理液に対して溶解しやすくなってしまい、持ちこたえきれずに、残るべき非画線部のシリコーンゴム層が剥離してしまい、微小網点再現性は、ドット一つが大きくなり、さらにはドットゲインとなり、印刷不良が生じる。一方、ノボラック樹脂の高分子量成分において、1万以上5万以下に極大を有するものが、露光部すなわち画線部の現像不良に悪影響を及ぼさない程度で、画線部と非画線部の境界部分の非画線部で熱拡散の影響を受け架橋切断しても、フリーな分子になりにくく、ハガレの発生の抑制に有効である。しかし、分子量が5万を超えて極大を有するものを含む場合、露光部すなわち画線部までも前処理液に対して溶解しにくくなるため、剥離されるべきシリコーンゴム層が残るため、微小網点再現性は現像不良で不十分となる。ゆえに、5百以上5千以下、他方は1万以上5万以下に極大を有するノボラック樹脂を併用することで、ハガレと現像不良を生じない程度にバランスをとることが可能となり、高精細対応の印刷版として機能を果たす。また、1種類のノボラック樹脂を単独で使用する場合、ハガレもしくは現像不良を抑制できないために微小網点再現性と印刷ムラのバランスをとることが出来るような分子量の領域がなく、使用することは難しい。
【0036】
このとき、分子量分布が5百以上5千以下に極大を有するノボラック樹脂(a)と分子量分布が1万以上5万以下に極大を有するノボラック樹脂(b)との重量比には特に限定されないが、塗工性の観点から、(a)/(b)は0.05以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。
【0037】
ノボラック樹脂の分子量を測定する方法としては、GPC法による重量平均分子量測定、溶液粘度および融点の測定が挙げられる。装置の簡便性や測定のしやすさの観点からは、溶液粘度や融点の測定によって分子量を求めるのが有利であるが、本発明における分子量は、GPC(gel permeation chromatography)法により求めたものである。ただし、GPC法で測定されるのは相対的な分子量分布および重量平均分子量であり、このとき測定される分子量は、クロマトグラフの検量線を引くために用いた標準物質に換算された分子量である。この場合、ポリスチレンが標準物質として用いられる。
【0038】
また、感熱層中のノボラック樹脂とポリウレタン樹脂の重量比、すなわちノボラック樹脂/ポリウレタン樹脂の値が7以上50以下であることが好ましい。これにより、現像時に用いられる処理液に対する感熱層の溶解性が高くなり、特にドットサイズ20μm以下の微小網点の再現性が向上する。好ましくは16以上50以下である。ノボラック樹脂とポリウレタン樹脂の重量比が7未満の場合、ポリウレタン樹脂により処理液に対する感熱層の溶解性が低下するため、微小網点の現像ラチチュードが不十分となる。一方、ノボラック樹脂とポリウレタン樹脂の重量比が50を超える場合、処理液に対する感熱層の溶解性が高くなりすぎるために非画線部の感熱層とシリコーンゴム層との接着性が低下し、微小網点の再現性が不十分となる。ノボラック樹脂と後述する(D)ポリウレタン樹脂の含有量の合計は、耐刷性の観点から、感熱層中5重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。また、塗工性の観点から、感熱層中95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。
【0039】
また、ノボラック樹脂に加えて他の活性水素基含有化合物を含有してもよい。活性水素基含有化合物としては、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、チオール基含有化合物などが挙げられるが、水酸基含有化合物が好ましい。水酸基含有化合物としては、フェノール性水酸基含有化合物、アルコール性水酸基含有化合物のいずれも本発明に使用できる。
【0040】
フェノール性水酸基含有化合物としては、例えば、ヒドロキノン、カテコール、グアヤコール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、ジヒドロキシアントラキノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、レゾール樹脂、レゾルシンベンズアルデヒド樹脂、ピロガロールアセトン樹脂、ヒドロキシスチレンの重合体および共重合体、ロジン変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、リグニン変性フェノール樹脂、アニリン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、ビスフェノール類などが挙げられる。
【0041】
また、アルコール性水酸基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、7−オクテン−1,2−ジオール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリビニルアルコール、セルロースおよびその誘導体、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの重合体および共重合体などが挙げられる。
【0042】
また、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレート、ポリビニルブチラール樹脂、および公知の方法によって水酸基を導入したポリマーなども本発明に使用可能である。
【0043】
(D)ポリウレタン樹脂
本発明において、ポリウレタン樹脂は、感熱層の膜としての形成能を付与すること、さらには印刷版として、耐刷性を維持するために必要な成分である。もし、ポリウレタン樹脂を含まない場合、感熱層を後述する断熱層上に形成できなくなってしまう。よって、樹脂成分として感熱層としてノボラック樹脂だけを含む場合は、感熱層を断熱層上に形成できず、本発明の効果を発現することは出来ない。本発明の印刷版原版に用いられるポリウレタン樹脂としては、以下に示すようなポリイソシアネート類と多価アルコールより得られるポリウレタン樹脂を挙げることができる。
【0044】
ポリイソシアネート類としては、パラフェニレンジイソシアネ−ト、2,4−または2,6−トルイレンジイソシアネ−ト(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素化キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0045】
さらには、上記ポリイソシアネート類の変性体、誘導体も好ましく用いられる。このような変性体、誘導体としては、ポリイソシアネートとアルコールとの反応物であるウレタン変性体、2個あるいは3個のポリイソシアネートの反応物としての二量体(別名ウレチジオン)、三量体(別名イソシアヌレート)、脱炭酸ガスにより生成するポリカルボジイミド、あるいはポリイソシアネート、アルコール、アミン化合物などとの反応物であるアロハネート変性体、ビュレット変性体、ウレア変性体など、さらにはブロックドイソシアネートなどが挙げられる。
【0046】
多価アルコール は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、およびその他に大きく分類することができる。
【0047】
ポリエーテルポリオールとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールジヒドロキシプロピルエーテル等が挙げられる。
【0048】
ポリエステルポリオールは、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどにさらに分類することができる。
【0049】
縮合系ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸およびその無水物とグリコール、トリオールとの脱水縮合により得られる。
【0050】
多価カルボン酸および多価カルボン酸無水物としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0051】
具体的には、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリヘキサメチレンネオペンチルアジペート、ポリエチレンヘキサメチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート等を一例として挙げることができる。
【0052】
ラクトン系ポリエステルポリオールとしては、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類の開環重合より得られるものが挙げられる。
【0053】
さらに、β−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水酸基を有するアクリル(あるいはメタクリル)単量体とアクリル(あるいはメタクリル)酸エステルとの共重合体であるアクリルポリオール、末端に水酸基を含有するブタンジエン及びそれらの共重合体であるポリブタジエンポリオール、部分ケン化EVAなど、さらには種々の含燐ポリオール、ハロゲン含有ポリオール、フェノール系ポリオールなどもポリオールとして使用できる。また、分岐したポリウレタン樹脂や水酸基等の種々の官能基を有するポリウレタン樹脂も利用可能である。
【0054】
本発明において、感熱層には上述のポリウレタン樹脂を2種以上使用することができる。また、さらに他のバインダー樹脂を含有してもよい。
【0055】
他のバインダー樹脂としては、有機溶剤に可溶でかつフィルム形成能のあるものであれば特に限定されないが、ガラス転移温度(Tg)が20℃以下のものが好ましく、さらに好ましくはガラス転移温度が0℃以下のものがより好ましい。
【0056】
有機溶剤に可溶でかつフィルム形成能があり、さらに形態保持の機能をも果たすバインダー樹脂の具体例としては、ビニルポリマー類、未加硫ゴム、ポリオキシド類(ポリエーテル類)、ポリエステル類、ポリアミド類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0057】
さらに、本発明において、感熱層には、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤等を必要に応じて含有してもよい。また、断熱層あるいはシリコーンゴム層との接着性を高めるためにシランカップリング剤などの各種カップリング剤を含有することは極めて好ましく行われる。
【0058】
感熱層の厚さは、被覆層にして0.1〜10g/mであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7g/mである。膜厚が0.1g/m以上であれば充分な耐刷性が得られ、10g/m以下であれば、生産性に優れた印刷版原版が得られる。
【0059】
次に、シリコーンゴム層について説明する。シリコーンゴム層は、下記一般式(I)で表されるポリシロキサンを含有することが重要である。シリコーンゴム層にかかるポリシロキサンを含有することによって、水を主成分とする液体を用いて現像する際に、シリコーンゴム層に傷が入るのを防ぐことができる。一般式(I)で表されるポリシロキサンは、片末端のみに活性水素含有基を有するものである。この片末端の活性水素含有基がシリコーンゴム層中の他の成分と反応し、他の末端がフリーで存在しているために、滑り剤としての効果を奏し、水存在下での滑り特性を向上させることが可能である。このため、シリコーンゴム層表面と現像ブラシとの摩擦力を軽減し、その結果、シリコーンゴム層に必要以上の力が加わることを防ぎ、現像ブラシによる傷の発生を防ぐことができると考えられる。
【0060】
【化2】

【0061】
式中、nは2以上の整数を示し、R〜Rは炭素数1〜50の置換あるいは非置換のアルキル基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R〜Rは、全体の50モル%以上がメチル基であることが、印刷版のインキ反発性の面で好ましい。Xは活性水素含有基を示す。活性水素含有基としては、活性水素基、ビニル基、アリル基、メタクリロキシ基、アクリル基、メタクリル基などの不飽和活性水素含有基、アミノ基、エポキシ基、水酸基、カルビノール基、メルカプト基、カルボキシル基などがあり、具体的には、ジメチルアミノ基、アミノプロピル基、アミノエチル基、アミノエチルアミノプロピル基、アミノエチルアミノイソブチル基、カルビノール基、メルカプト基、カルボキシデシル基、カルボキシルプロピル基、エポキシプロポキシ基、エポキシシクロヘキシルエチル基、エポキシプロポキシプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基などが挙げられる。
【0062】
前記一般式(I)で表されるポリシロキサンのGPC法による分子量分布が好ましくは9万以上100万以下に極大ピークを有することが好ましい。極大ピークが9万以上であれば、ブラシ傷に対する耐性がさらに良好になり、100万以下であれば印刷版の耐刷性が損なわれることは少ない。また、これらのポリシロキサンは単独で用いても良いし、分子量、官能基などの異なるものを複数用いても良い。
【0063】
ポリシロキサンの分子量を測定する方法としては、GPC法による重量平均分子量測定、溶液粘度および融点の測定が挙げられる。装置の簡便性や測定のしやすさの観点からは、溶液粘度や融点の測定によって分子量を求めるのが有利であるが、本発明における分子量は、GPC(gel permeation chromatography)法により求めたものである。ただし、GPC法で測定されるのは相対的な分子量分布及び重量平均分子量であり、このとき測定される分子量は、クロマトグラフの検量線を引くために用いた標準物質に換算された分子量である。この場合、ポリスチレンが標準物質として用いられる。
【0064】
一般式(I)で表されるポリシロキサンの含有量は、シリコーンゴム層組成中の3〜49.7重量%が好ましく、より好ましくは5〜40重量%である。含有量が3重量%以上であれば効果が十分に発現し、一方、49.7重量%以下であればシリコーンゴム層の硬化性に悪影響をもたらしたり、インキ反発性に悪影響を与えることがない。
【0065】
本発明の直描型水なし平版印刷版において、シリコーンゴム層は、上記一般式(I)で表されるポリシロキサンを有するものであればよく、付加反応型のもの、縮合反応型のものいずれでも用いることができる。
【0066】
付加反応型のシリコーンゴム層を構成する成分は、分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサン、分子中に2個以上SiH基を含有するポリシロキサンであり、必要に応じて硬化速度を調整する目的で反応抑制剤、および硬化触媒を含有することも可能である。
【0067】
分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサンは、下記一般式(II)で表される構造を有し、かつ、分子末端および/または主鎖中に2個以上ビニル基を有するものである。
【0068】
【化3】

【0069】
式中、nは2以上の整数を示し、RおよびRは炭素数1〜50の置換あるいは非置換のアルキル基、炭素数2〜50の置換あるいは非置換のアルケニル基、炭素数4〜50の置換あるいは非置換のアリール基の群から選ばれる少なくとも1種の基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0070】
上記式中のRおよびRは全体の50モル%以上がメチル基であることが、印刷版のインキ反発性の面で好ましい。また、分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサンの重量平均分子量は、数千〜数十万が好ましいが、その取扱い性や得られる印刷版のインキ反発性の観点から、重量平均分子量1万〜100万、さらには4万〜80万のものがより好ましい。また、分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサンを2種以上混合して用いることも可能である。
【0071】
分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサンの含有量としては、シリコーンゴム層組成中の40〜95重量%であることが好ましく、さらに好ましくは50〜90重量%である。
【0072】
分子中に2個以上SiH基を含有するポリシロキサンとしては、分子鎖中または末端に2個以上SiH基を有する、例えば下記一般式(III)〜(VI)で表されるような化合物を挙げることができる。
【0073】
【化4】

【0074】
上記一般式(III)〜(VI)中、nは2以上の整数、mは1以上の整数を示す。
【0075】
分子中に2個以上SiH基を含有するポリシロキサンの含有量は、シリコーンゴム層組成中の0.1〜20重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜15重量%である。分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサンとの量比ということで言えば、SiH基/分子中に2個以上ビニル基を含有するポリシロキサンのビニル基のモル比が1.5〜30であることが好ましく、さらに好ましくは10〜20である。このモル比が1.5以上であれば、シリコーンゴム層の硬化性が良好になり、30以下の場合にはブラシ傷に対する耐性がより向上する。
【0076】
付加反応型のシリコーンゴム層に、反応抑制剤を含有しても良い。反応抑制剤としては、含窒素化合物、リン系化合物、不飽和アルコールなどが挙げられるが、アセチレン基含有のアルコールなどが好ましく用いられる。反応抑制剤の好ましい含有量は、全シリコーンゴム層中の0.01〜10重量%、さらには0.1〜5重量%である。
【0077】
硬化触媒としては、例えば、VIII族遷移金属化合物が挙げられるが、好ましくは白金化合物である。具体的には、白金単体、塩化白金、塩化白金酸、オレフィン配位白金、白金のアルコール変性錯体、白金のメチルビニルポリシロキサン錯体などを一例として挙げることができる。このような硬化触媒の量は、シリコーンゴム層中に固形分として好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。0.01〜20重量%であれば、良好な硬化性が得られる。全シリコーンゴム層組成物中における白金などの金属の量で言えば、好ましくは10〜1000ppm、より好ましくは100〜500ppmである。
【0078】
また、付加反応型のシリコーンゴム層に、上記した化合物の他に、水酸基含有オルガノポリシロキサンや加水分解性官能基含有シランもしくはシロキサン、ゴム強度を向上させる目的でシリカなどの公知の充填剤、接着性を向上させる目的で公知のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などを含有してもよい。シランカップリング剤としては、アルコキシシラン類、アセトキシシラン類、ケトキシミンシラン類等が好ましく、特にビニル基を有するものや、ケトキシミンシラン類が好ましい。
【0079】
縮合反応型のシリコーンゴム層を構成する成分は、分子中に2個以上水酸基を含有するポリシロキサン、架橋剤(脱酢酸型、脱オキシム型、脱アルコール型、脱アミン型、脱アセトン型、脱アミド型、脱アミノキシ型など)であり、必要に応じて硬化触媒を含有することも可能である。ここで、分子中に2個以上水酸基を含有するポリシロキサンは、下記一般式(II)で表される構造を有し、かつ、分子末端および/または主鎖中に2個以上水酸基を有するものである。
【0080】
【化5】

【0081】
式中、nは2以上の整数を示し、R、Rは炭素数1〜50の置換あるいは非置換のアルキル基、炭素数2〜50の置換あるいは非置換のアルケニル基、炭素数4〜50の置換あるいは非置換のアリール基の群から選ばれる少なくとも1種の基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0082】
およびRは、全体の50モル%以上がメチル基であることが、印刷版のインキ反発性の面で好ましい。また、重量平均分子量は数千〜数十万が好ましいが、その取扱い性や得られた印刷版のインキ反発性、ブラシ傷に対する耐性などの観点から、重量平均分子量1万〜100万、さらには4万〜80万のものがより好ましい。分子末端および/または主鎖中に2個以上水酸基を含有するポリシロキサンの含有量は、全シリコーンゴム層組成中の40〜96重量%であることが好ましく、さらに好ましくは50〜90重量%である。また、分子中に2個以上水酸基を含有するポリシロキサンを2種以上混合して用いることも可能である。
【0083】
架橋剤としては、下記一般式(VII)で表される、アセトキシシラン類、アルコキシシラン類、ケトキシミンシラン類、アリロキシシラン類、アミドシラン類、アミノシラン類などを挙げることができる。
(R104−kSiY (VII)
【0084】
式中、kは2〜4の整数を示し、R10は炭素数1以上の置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらの組み合わされた基を示す。Yはハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシミン基、アミノオキシ基、アミド基またはアルケニルオキシ基を示す。上記式において、加水分解性基の数kは3または4であることが好ましい。
【0085】
一般式(VII)で表される具体的な化合物としては、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリスイソプロペノキシシラン、ビニルメチルビス(メチルエチルケトキシミン)シラン、メチルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン、ビニルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン、テトラ(メチルエチルケトキシミン)シラン、ジイソプロペノキシジメチルシラン、トリイソプロペノキシメチルシラン、テトラアリロキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、インキ反発層の硬化速度、取扱い性などの観点から、アセトキシシラン類、ケトキシミンシラン類が好ましい。また、これらの架橋剤を2種以上混合しても良い。
【0086】
一般式(VII)で表される架橋剤の含有量は、シリコーンゴム層組成中の0.1〜20重量%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜10重量%である。分子中に2個以上水酸基を含有するポリシロキサンとの量比ということで言えば、官能基Y/分子中に2個以上水酸基を含有するポリシロキサンの水酸基のモル比が1.5〜10.0であることが好ましい。このモル比が1.5以上10.0以下であれば、良好な硬化性が得られる。
【0087】
硬化触媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸などの有機カルボン酸、トルエンスルホン酸、ホウ酸等の酸類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ、アミン、およびチタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどの金属アルコキシド、鉄アセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナートジプロポキシドなどの金属ジケテネート、金属の有機酸塩などを挙げることができる。これらの中では、金属の有機酸塩が好ましく、特に、錫、鉛、亜鉛、鉄、コバルト、カルシウム、マンガンから選ばれる金属の有機酸塩が好ましい。このような化合物の具体例としては、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄などを挙げることができる。このような硬化触媒の量は、シリコーンゴム組成中0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。硬化触媒量が0.01重量%以上である場合には十分なシリコーンゴム層の硬化が得られ、20重量%以下であればシリコーンゴム層溶液のポットライフに悪影響を及ぼさない。
【0088】
また、縮合反応型シリコーンゴム層には、ゴム物性を向上させる目的で、シリカ、シリコーンレジン界面活性剤、滑り剤、シリコーンオイルなどの公知の添加剤、接着性を向上させる目的で公知のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などを含有してもよい。
【0089】
本発明に使用するシリコーンゴム層の膜厚は重量換算で0.5〜20g/mが好ましく、さらに好ましくは1〜4g/mである。膜厚が0.5g/m以上であれば、インキ反発性の向上効果が得られ、20g/m以下であれば現像性、インキマイレージにも悪影響を及ぼさない。
【0090】
本発明の直描型水なし平版印刷版原版は、基板上に断熱層を有する。本発明の直描型水なし平版印刷版原版に用いられる断熱層の好ましい特性は、基板あるいは感熱層と良好な接着性を有し、経時において安定であり、さらに現像液あるいは印刷時に使用する溶剤に対する耐性が高いことである。本発明の直描型水なし平版印刷版原版における断熱層としては、特開2004−199016号公報、特開2004−334025号公報などに開示されている金属キレート化合物を含有する断熱層が好ましく用いられる。
【0091】
金属キレート化合物としては、例えば、金属に有機配位子が配位した有機錯体化合物、金属に有機配位子および無機配位子が配位した有機無機錯体化合物、および金属と有機分子が酸素を介して共有結合している金属アルコキシド類などの有機錯塩を挙げることができる。
【0092】
有機錯体化合物を形成する主な金属としては、Al、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Zr、Hfが好ましい。着色性の少ない点でAl、Zrが好ましく、さらに反応性の点でAlがより好ましい。
【0093】
配位子としては、O(酸素原子)、N(窒素原子)、S(硫黄原子)等をドナー原子として有する以下のような配位基を有する化合物が挙げられる。
【0094】
配位基の具体例としては、酸素原子をドナー原子とするものとしては、−OH(アルコール、エノールおよびフェノール)、−COOH(カルボン酸)、>C=O(アルデヒド、ケトン、キノン)、−O−(エーテル)、−COOR(エステル)、−N=O(ニトロソ化合物、N−ニトロソ化合物)、−NO(ニトロ化合物)、>N−O(N−オキシド)、−SOH(スルホン酸)、−PO(亜リン酸)等、窒素原子をドナー原子とするものとしては、−NH(1級アミン、アミド、ヒドラジン)、>NH(2級アミン、ヒドラジン)、>N−(3級アミン)、−N=N−(アゾ化合物、複素環化合物)、=N−OH(オキシム)、−NO(ニトロ化合物)、−N=O(ニトロソ化合物)、>C=N−(シッフ塩基、複素環化合物)、>C=NH(イミン)等、硫黄原子をドナー原子とするものとしては、−SH(チオール)、−S−(チオエーテル)、>C=S(チオケトン、チオアルデヒド)、=S−(複素環化合物)、−C(=O)−SHあるいは−C(=S)−OHおよび−C(=S)−SH(チオカルボン酸)、−SCN(チオシアナート、イソチオシアナート)等が挙げられる。
【0095】
また、金属との間で1個またはそれ以上配位を形成しうる環状構造の配位子がより好ましい。具体的には、β−ジケトン類、ケトエステル類、ジエステル類、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステルや塩類、ケトアルコール類、アミノアルコール類、エノール性活性水素化合物などが挙げられる。特に本発明の水なし平版印刷版原版にはアルコール類、エノール類、ジエステル類およびケトエステル類から選ばれる配位子が1つ以上配位したアルミキレート化合物が好ましく用いられる。これらのアルミキレート化合物は、後述する活性水素含有化合物との間で容易に交換反応を起こすため、加熱時にアルミキレート化合物そのものが昇華、または蒸発することが抑えられる。
【0096】
また、ケトエステル類が2つ以上配位したアルミキレート化合物を用いることが特に好ましい。このようなアルミキレート化合物を用いることで、湿気の影響を受けにくくなり、また断熱層溶液の貯蔵安定性が飛躍的に改善される。
【0097】
金属キレート化合物の含有量は断熱層中の1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。また、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。金属キレート化合物の含有量が1重量%以上であれば、基板あるいは感熱層と良好な接着性が得られ、溶剤に対する耐性が向上する。一方、金属キレート化合物の含有量が30重量%以下であれば、金属キレート化合物が未反応のまま残存し、印刷版の性能に悪影響を与えることがない。
【0098】
断熱層は顔料を含むことが好ましい。顔料を含むことにより、断熱層の光透過率を400〜650nmの全ての波長に対して15%以下とすることが可能となり、これにより、機械読み取りによる検版性が向上する。顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、リトポン等の無機白色顔料や、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、オーカー、チタンイエロー等の無機黄色顔料を用いることが好ましい。これらの顔料の中で、隠蔽力、着色力の点から酸化チタンが特に好ましく用いられる。また、酸化チタン粒子表面をチタネート系カップリング剤で処理してもよい。酸化チタン粒子表面をチタネート系カップリング剤で処理することによって、酸化チタン粒子の分散性を向上させ、酸化チタン粒子を多量に含有することが可能となる。さらには酸化チタン粒子を含有した塗液の分散安定性が良好になる。
【0099】
酸化チタンの含有量は、断熱層中に2体積%以上、30体積%以下が好ましい。2体積%以上であれば良好な隠蔽性能が得られ、30体積%以下であれば、良好な塗工性能を示す。
【0100】
断熱層には活性水素基含有化合物を含有することが望ましい。活性水素基含有化合物としては、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、チオール基含有化合物などが挙げられるが、水酸基含有化合物が好ましい。
【0101】
さらに、水酸基含有化合物としてはフェノール性水酸基含有化合物、アルコール性水酸基含有化合物のいずれも本発明に使用できる。
【0102】
また、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレート、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、および公知の方法によって水酸基を導入したポリマーなども本発明に使用可能である。
【0103】
断熱層には、成膜性を付与する目的から樹脂を含むことが好ましい。例えば、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、カゼイン、ゼラチン等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂を単独、あるいは2種以上用いることが好ましい。
【0104】
断熱層には、塗工性を改良する目的で、アルキルエーテル類(例えばエチルセルロース、メチルセルロースなど)、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、または、ノニオン系界面活性剤を含有することもできる。
【0105】
さらに、断熱層の柔軟性を向上させる目的で、天然ゴムや合成ゴム、およびポリウレタン樹脂等の柔軟性付与剤を含有してもよい。これら柔軟性付与剤の含有量は、断熱層中の10〜80重量%が好ましく、30〜80重量%がより好ましい。
【0106】
本発明の直描型水なし平版印刷版原版に使用する基板としては、寸法的に安定な板状物であれば公知の金属、フィルム等のいずれも使用することができる。この様な寸法的に安定な板状物としては、従来印刷版の基板として使用されたもの等が好ましく挙げられる。
【0107】
本発明における直描型水なし平版印刷版原版の製造方法について説明する。
【0108】
まず、断熱層の形成方法を説明する。断熱層を構成する成分を溶剤を用いて溶解し、断熱層溶液として加工することが一般的である。断熱層溶液に用いられる溶剤は、樹脂、金属キレート化合物、その他の成分を溶解する性質を有することが好ましい。溶剤は単独で用いることもできるし、二種以上用いることもできる。また、顔料を含有する場合には、顔料表面を良く濡らし、良好な顔料分散性が得られる溶剤を選択することが好ましい。
【0109】
断熱層溶液の作製方法としては、例えば、容器に酸化チタン分散液を入れて撹拌を開始し、そこに順次樹脂、金属キレート化合物、その他の添加剤を添加し、高濃度の断熱層溶液を得た後、さらに溶剤で任意の濃度まで希釈する方法が挙げられる。酸化チタン分散液は、例えば、溶剤中に酸化チタンを添加し、ペイントシェイカー、ボールミル等で分散することにより得られる。
【0110】
基板上に、リバースロールコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、メーヤバーコーターなどの通常のコーターあるいはホエラーのような回転塗布装置を用い、上記方法で作製した断熱層溶液を塗布する。その後、例えば100〜300℃で数分間加熱し、あるいは活性光線照射により断熱層を硬化させることが好ましい。
【0111】
次に、感熱層の形成方法について説明する。感熱層を構成する成分を溶剤を用いて溶解し、感熱層溶液として加工することが一般的である。感熱層溶液における溶剤として、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノールまたは2−メチル−2−プロパノールを、感熱層溶液の全溶剤量に対して10重量%以上含むことが好ましい。より好ましくは20重量%以上である。また、塗工性の観点から、50重量%以下が好ましい。中でも、1−ブタノールまたは2−メチル−2−プロパノールを含むことが特に好ましい。これらの溶剤は、断熱層組成物の溶解性が乏しいため、断熱層上に感熱層溶液を塗工するときに、断熱層の未硬化物などの断熱層組成由来の物質を感熱層中に抽出することを抑えることができる。
【0112】
また、感熱層溶液における溶剤として、上記溶剤に加えて、他の溶剤を使用することができる。このような溶剤としては、光熱変換物質、分子内に活性水素を有するポリマー、有機錯化合物等の感熱層構成成分を溶解または分散できるものであれば如何なるものでも使用できる。例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、アミド類等の溶剤が挙げられる。それぞれの類について一例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
上記方法で作製した感熱層溶液を、リバースロールコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、メーヤバーコーターなどの通常のコーターあるいはホエラーのような回転塗布装置を用いて断熱層上に塗布し、例えば100〜180℃で数十秒から数分間加熱乾燥させることにより、感熱層を得る。
【0114】
次に、シリコーンゴム層の形成方法について説明する。シリコーンゴム層を構成する成分を溶剤を用いて溶解し、シリコーンゴム層溶液として加工することが一般的である。シリコーンゴム層溶液に用いられる溶剤は、ポリシロキサン等シリコーンゴム層を構成する成分を溶解する性質を有することが好ましい。溶剤は単独で用いることもできるし、二種以上用いることもできる。
【0115】
上記方法で作製したシリコーンゴム層溶液を、リバースロールコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、メーヤバーコーターなどの通常のコーターあるいはホエラーのような回転塗布装置を用いて感熱層上に塗布し、例えば100〜200℃の温度で数十秒から数分間加熱乾燥させることにより、シリコーンゴム層を得る。
【0116】
本発明の直描型水なし平版印刷版原版は、必要に応じて保護フィルムまたは保護層を有してもよい。保護フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、また各種金属を蒸着したフィルムなどが挙げられる。
【0117】
次に、直描型水なし平版印刷版原版から、印刷版を製造する製版方法について説明する。製版方法は、通常、少なくとも(1)露光工程、(2)レーザー照射部のシリコーンゴム層と感熱層間の接着力を低下させる「前処理工程」、および(3)レーザー照射部のシリコーンゴム層を剥離させる「現像工程」からなる。また、(4)画線部の感熱層を染色液で染色する「後処理工程」、および(5)処理液や染色液を洗い落とす「水洗工程」を加えてもよい。各工程について、詳述する。
【0118】
(1)露光工程
直描型水なし平版印刷版原版をレーザー光で所望の画像状に露光する。保護フィルムを有する場合には、保護フィルムを剥離してから、あるいは保護フィルム上から露光する。
【0119】
露光工程で用いられるレーザー光源としては、通常、発光波長領域が300nm〜1500nmの範囲にあるものが用いられるが、これらの中でも近赤外領域付近に発光波長領域が存在する半導体レーザーやYAGレーザーが好ましく用いられる。具体的には、明室での版材の取扱い性などの観点から、780nm、830nm、1064nmの波長のレーザー光が製版に好ましく用いられる。
【0120】
レーザー照射により光熱変換物質の作用によって感熱層表面は高温になり、分解物が生じる。一方、感熱層内部では感熱層表面に比べて低い温度に加熱されるため、分解は起こらず、硬化が進むのである。
【0121】
(2)前処理工程
前処理工程は、所定温度に保持した前処理液中に、一定時間だけ露光済みの版を浸漬させる工程である。
【0122】
露光工程におけるレーザーの照射エネルギーが大きければ、前処理工程を経ずに、そのまま現像工程に進んでも、レーザー照射部のシリコーンゴム層を剥離させることは可能である。しかし、照射エネルギーが小さい場合には、感熱層の変性が小さいため、現像工程のみでレーザー照射のON/OFFを感知することは難しいため、レーザー照射のON/OFFの差を増幅し、低エネルギーのレーザー照射部の現像を行うために、前処理液で版を処理することが好ましく行われる。
【0123】
前処理工程では、30〜60℃の温度の前処理液に版を10〜100秒浸漬させることが好ましい。30〜60℃の温度の前処理液に版を10〜100℃浸漬させた場合、感熱層の膨潤および溶解が十分であるため、シリコーンゴム層との接着力を低下させることが可能となる。
【0124】
前処理液中に版を浸漬させると、前処理液はシリコーンゴム層中に浸透し、やがて感熱層まで到達する。照射部の感熱層はその上部において、熱分解物が生じていたり、あるいは前処理液に対する溶解性が増大していたりするので、感熱層上部は前処理液によって膨潤、あるいは一部溶解して、シリコーンゴム層と感熱層との間の接着力が低下する。この状態で印刷版面を軽く擦ると、レーザー照射部のシリコーンゴム層は剥離し、下層の感熱層は露出してインキ着肉層となる。一方、未照射部の感熱層は前処理液に対して不溶あるいは難溶なため、シリコーンゴム層は、感熱層と強力に接着しており、強く擦っても剥がれない。このようにして、未照射部のシリコーンゴム層は現像されることなく、この部分がインキを反発し、水なし平版印刷版の画像形成がなされる。
【0125】
このような前処理液としては、水にアルコールやケトン、エステル、カルボン酸、アミンなどの極性溶媒を添加したものや、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの少なくとも1種類からなる溶媒に極性溶媒を少なくとも1種類添加したもの、あるいは極性溶媒が好ましく用いられ、特にアミンを添加することが好ましい。さらに、下記一般式(VII)で示されるグリコール化合物あるいはグリコールエーテル化合物を主成分として用いることが好ましい。
【0126】
【化6】

【0127】
上記式中、R10は水素原子あるいは炭素数1〜5のアルキル基を示し、R11およびR12は水素原子あるいは炭素数1〜15のアルキル基を示し、lは1〜12の整数である。
【0128】
また、前処理液には、アミン化合物や水、アルコール類、カルボン酸類、エステル類、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂肪族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素類(トリクレンなど)を含有してもよい。また、現像時に版面を擦るときに、傷が入るのを防止するために、前処理液中に硫酸塩、燐酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの界面活性剤を含有してもよい。
【0129】
(3)現像工程
前処理により、レーザー照射部では、感熱層表面が膨潤あるいは一部溶解しているため、選択的にシリコーンゴム層が剥がれやすくなっている。そこで、水、その他の溶剤を用いて版面を擦ることにより現像を行う。水による現像が排液の点から最も好ましい。また、前処理液は親水性化合物を主成分とする。したがって、印刷版に浸透している処理液を水で洗い落とすことができるため、水による現像が好ましい。温水や水蒸気を版面に噴射することによっても現像を行ってもよい。現像性を上げるために、水に前処理液を加えたものを用いてもよい。現像液の温度は任意でよいが、10℃〜50℃が好ましい。
【0130】
(4)後処理工程
現像により形成された画線部の確認を容易にするために、染色液で染色する後処理工程を設けてもよい。染色液は染料を溶媒に溶解したものが一般に用いられる。染料としては、塩基性染料、酸性染料、直接染料、分散染料、および反応性染料などの中から単独で、あるいは2種以上用いることができる。なかでも、水溶性の塩基性染料および酸性染料が好ましく用いられる。
【0131】
塩基性染料としては、“クリスタルバイオレット”、“エチルバイオレット”、“ビクトリアピュアブルー”、“ビクトリアブルー”、“メチルバイオレット”、“DIABACIS MAGENTA”(三菱化学(株)製)、“AIZEN BASIC CYANINE 6GH”(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“PRIMOCYANINE BX CONC.”(住友化学(株)製)、“ASTRAZON BLUE G”(FARBENFARRIKEN BAYER 製)、“DIACRYL SUPRA BRILLIANT 2B”(三菱化学(株)製)、“AIZEN CATHILON TURQUOISE BLUE LH”(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“AIZEN DIAMOND GREEN GH”(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“AIZEN MALACHITE GREEN”(保土ヶ谷化学工業(株)製)などが用いられる。
【0132】
酸性染料としては、“ACID VIORET 5B”(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“KITON BLUE A”(CIBA 製)、“PATENT BLUE AF”(BASF 製)、“RAKUTO BRILLIANT BLUE FCF”(洛東化学工業(株)製)、“BRILLIANT ACID BLUE R”(GEIGY 製)、“KAYANOL CYANINE 6B”(日本化薬(株)製)、“SUPRANOL CYANINE G”(FARBENFARRIKEN BAYER 製)、“ORIENT SOLUBLE BLUE OBB”(オリエント化学工業(株)製)、“ACID BRILLIANT BLUE 5G”(中外化成(株)製)、“ACID BRILLIANT BLUE FFR”(中外化成(株)製)、“ACID GREEN GBH”(高岡化学工業(株)製)、“ACID BRILLIANT MILLING GREEN B”(保土ヶ谷化学工業(株)製)などが用いられる。
【0133】
これら染料の染色液中の含有量は、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.1重量%〜5重量%がより好ましい。
【0134】
染色液の溶媒としては、水、アルコール類、グリコール類、グリコールモノアルキルエーテル類、グリコールジアルキルエーテル類が用いられる。これらの溶媒は単独あるいは2種以上用いられる。グリコール類、グリコールモノアルキルエーテル類、グリコールジアルキルエーテル類は、処理液としての効果を有するので、仮に現像工程でレーザー照射部のインキ反発層が現像できず付着していても、後処理工程で現像させることもできる。
【0135】
その他、染色助剤、有機酸、無機酸、消泡剤、可塑剤、界面活性剤を任意に含有してもよい。
【0136】
染色液の温度は任意でよいが、10℃〜50℃が好ましい。また、現像液中に上記染料を添加しておいて、現像と同時に画像部の染色化を行うこともできる。
【0137】
(5)水洗工程
版面に前処理液や染色液が浸透したままになっていると、経時により非画線部のシリコーンゴム層が剥離しやすくなる場合があるため、処理液や染色液を版面から完全に洗い落とす水洗工程を設けてもよい。水洗水の温度は任意でよいが、10℃〜50℃が好ましい。
【0138】
これまで述べてきた工程による現像方法としては、手による現像でも自動現像装置による現像のどちらでも良い。手による現像では、これらの処理液、現像液および染色液を順次不織布、脱脂綿、布、スポンジなどに含浸させて版面を拭き取ることによって行うことができる。自動現像装置を用いる場合には、前処理部、現像部および後処理部がこの順に設けられているものが好ましい。場合によっては後処理部の後方にさらに水洗部が設けられていてもよい。このような自動現像機としては東レ(株)製の“TWL−1160”、“TWL−650”、あるいは特開平4−2265号公報、特開平5−2272号公報、特開平5−6000号公報などに開示されている現像装置が挙げられる。
【0139】
上記方法で得られた印刷版は、微小網点の再現性に優れるため、高精細AMスクリーン印刷やFMスクリーン印刷に好適に用いられる。高精細AMスクリーン印刷物は通常の印刷物に比較して画像の質感の向上、実存感および細部の再現性が向上する等の利点がある。また、FMスクリーン印刷物の特徴としては、干渉モアレやロゼッタパターンが発生しない、50%近傍の中間調部でのトーンジャンプが発生しない、網点同士の重なりが少なく、再現される色が鮮やかに見えるなどの利点がある。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。まず、各実施例における不溶化率の測定方法と微小網点再現性評価方法について説明する。
【0141】
<ノボラック樹脂のGPCによる分子量分布>
ノボラック樹脂のGPCによる分子量分布の測定は以下の条件で行った。
装置:ゲル浸透クロマトグラフGPC(機器管理番号GPC−15)
カラム:TSK−gel G4000HXL、G3000HXL、G2000HXL(内径7.8mm,長さ30cm) (各1本) 東ソー(株)製)
溶媒:テトラヒドロフラン 流速:1.0ml/min試料:濃度;0.2%、
溶解性;完全溶解、 濾過;マイショリデイスクH−13−5 注入量:200μl
検出器:示唆屈折率検出器 RI(8020型、感度32)
標準試料:単分散ポリスチレン(東ソー(株)製)
【0142】
<ポリシロキサンのGPCによる分子量分布>
ポリシロキサンのGPCによる分子量分布の測定は以下の条件で行った。
装置:ゲル浸透クロマトグラフ、GPC−224(WATERS製)(LS1)
データ処理:(株)東レリサーチセンター製GPCデータ処理システム
カラム:TSK−gel−GMHxl(内径7.8mm,長さ30cm)(2本)(東ソー(株)製)
溶媒:トルエン 流速:1.0ml/min試料:濃度;0.3%、
溶解性;完全溶解、 濾過;マイショリデイスクH−13−5 注入量:200μl
検出器:401−示唆屈折率計(WATERS製)
標準試料:単分散ポリスチレン(東ソー(株)製)
【0143】
<微小網点再現性評価−1>
直描型水なし平版印刷版原版に2400dpiでレーザー照射し、Creo社製Trendsetter Quantum 800を用いてドットサイズ20μm×20μm(画線部)、スペース20μm×20μm(非画線部)の微小網点を1cm×1cmの面積内に描画後、現像し、印刷版を作製した。得られた印刷版を、ルーペで観察し、再現されたドットの割合を再現率として表すことで評価した。100%であれば完全に再現しており、0%であれば全く再現されていないことになる。80%以上再現していれば、合格となる。
【0144】
<微小網点再現性評価−2>
直描型水なし平版印刷版原版に2400dpiでレーザー照射し、Creo社製Trendsetter Quantum 800を用いてドットサイズ10μm×10μm(画線部)、スペース10μm×10μm(非画線部)の微小網点を1cm×1cmの面積内に描画後、現像し、印刷版を作製した。得られた印刷版を、ルーペで観察し、再現されたドットの割合を再現率として表すことで評価した。100%であれば完全に再現しており、0%であれば全く再現されていないことになる。80%以上再現していれば、合格となる。
【0145】
<ブラシ傷耐性評価>
上記画像再現性の評価方法に記載した方法で作製した感光性の水なし平版印刷版及び直描型水なし平版印刷版原版を用いて印刷を行い、印刷物の非画線部を観察し、以下に示す評価基準で5段階評価を行った。4点以上であれば、ブラシ傷が入りにくく、傷にインキが着肉して非画線部が汚れる問題が発生しにくい。
5点:印刷物の非画線部において、ブラシ傷の跡が全く認められない。
4点:印刷物の非画線部において、ブラシ傷が目視でわずかに観察される。
3点:印刷物の非画線部において、ブラシ傷が観察される。
2点:印刷物の非画線部において、印刷物上の2/3以上にブラシ傷が観察される。
1点:印刷物の非画線部において、印刷物のほぼ全面に無数の細かいブラシ傷が観察される。
【0146】
<酸化チタン分散液の作製>
N,N−ジメチルホルムアミド10重量部中に、酸化チタン“CR−50”(石原産業(株)製)10重量部を添加して5分間撹拌した。さらに、ガラスビーズ(No.08)を15重量部添加し、20分間激しく撹拌し、その後ガラスビーズを取り去ることで酸化チタン分散液を得た。
【0147】
次に、各実施例に用いた断熱層溶液、感熱層溶液、シリコーンゴム層溶液の組成を詳述する。
【0148】
<断熱層溶液1の組成>
(1)エポキシ樹脂:エピコート(登録商標)1010(ジャパンエポキシレジン(株)製):49重量部
(2)ポリウレタン樹脂:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):480重量部(ポリウレタン98重量部)
(3)アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート):“アルミキレート”ALCH−TR(川研ファインケミカル(株)製):11.2重量部
(4)ビニル系重合物:ディスパロン(登録商標)LC951(楠本化成(株)製):0.2重量部
(5)酸化チタン分散液(濃度50%):84重量部(酸化チタン:42重量部)
(6)N,N−ジメチルホルムアミド:302.5重量部
(7)メチルエチルケトン:315.6重量部。
【0149】
<感熱層溶液1の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):22重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製、Mw:3000):25重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR50731(住友ベークライト(株)製、Mw:13000):65重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:18重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:997重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:427重量部。
【0150】
<感熱層溶液2の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):20重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PSM4261(群栄化学工業(株)製、Mw:800):25重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR50731(住友ベークライト(株)製、Mw:13000):65重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:15重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:802重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:344重量部。
【0151】
<感熱層溶液3の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):24重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製、Mw:3000):25重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:(Mw:45,000):65重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:17重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:837重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:359重量部。
【0152】
<感熱層溶液4の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):21重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製、Mw:3000):15重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR50731(住友ベークライト(株)製、Mw:13000):45重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):50重量部(ポリウレタン:10重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:17重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:660重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:283重量部。
【0153】
<感熱層溶液5の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):19重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製、Mw:3000):15重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR50731(住友ベークライト(株)製、Mw:13000):45重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):125重量部(ポリウレタン:25重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:16重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:683重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:295重量部。
【0154】
<感熱層溶液6の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):20重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製、Mw:3000):90重量部
(d)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(e)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:16重量部
(f)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:637重量部
(g)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:347重量部。
【0155】
<感熱層溶液7の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):23重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:(Mw:13000):90重量部
(d)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(e)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:17重量部
(f)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:831重量部
(g)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:357重量部。
【0156】
<感熱層溶液8の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):22重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:(Mw:400):25重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR50731(住友ベークライト(株)製、Mw:13000):65重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:20重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:800重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:362重量部。
【0157】
<感熱層溶液9の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):20重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製、Mw:3000):25重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:(Mw:70000):65重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:15重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:802重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:344重量部。
【0158】
<感熱層溶液10の組成>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):21重量部
(b)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):10重量部
(c)フェノールノボラック樹脂:(Mw:400):25重量部
(d)フェノールノボラック樹脂:(Mw:70000):65重量部
(e)ポリウレタン:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):25重量部(ポリウレタン:5重量部)
(f)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:17重量部
(g)(希釈溶剤)テトラヒドロフラン:820重量部
(h)(希釈溶剤)2−メチル−2−プロパノール:351重量部。
【0159】
<シリコーンゴム層溶液1の組成>
(a)α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサンDMS−V52(重量平均分子量155,000、GELEST Inc.製):100重量部
(b)両末端メチル(メチルハイドロジェンシロキサン)(ジメチルシロキサン)共重合体、SiH基含有ポリシロキサンHMS−151(MeHSiOのモル%:15〜18%、GELEST Inc.製):4重量部
(c)片末端ビニル片末端トリメチルポリジメチルシロキサン(重量平均分子量50000):10重量部
(d)ビニルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン:3重量部
(e)白金触媒:“SRX−212”(東レダウコーニングシリコーン(株)製):7重量部
(f)アイソパー(登録商標)E(エッソ化学(株)製):1927重量部
【0160】
<シリコーンゴム層溶液2の組成>
(a)α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサンDMS−V52(重量平均分子量155,000、GELEST Inc.製):80重量部
(b)α,ω−ジシラノールポリジメチルシロキサン(重量平均分子量450,000):20重量部
(c)両末端メチル(メチルハイドロジェンシロキサン)(ジメチルシロキサン)共重合体、SiH基含有ポリシロキサンHMS−151(MeHSiOのモル%:15〜18%、GELEST Inc.製):7重量部
(d)片末端SiH基含有末端トリメチルポリジメチルシロキサン(重量平均分子量150,000):10重量部
(e)ビニルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン:3重量部
(f)白金触媒:“SRX−212”(東レダウコーニングシリコーン(株)製):7重量部
(g)アイソパー(登録商標)E(エッソ化学(株)製):1990重量部
【0161】
<シリコーンゴム層溶液3の組成>
(a)α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサンDMS−V52(重量平均分子量155,000、GELEST Inc.製):100重量部
(b)両末端メチル(メチルハイドロジェンシロキサン)(ジメチルシロキサン)共重合体、SiH基含有ポリシロキサンHMS−151(MeHSiOのモル%:15〜18%、GELEST Inc.製):3重量部
(c)片末端SiH基含有末端トリメチルポリジメチルシロキサン(重量平均分子量150,000):10重量部
(d)ビニルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン:3重量部
(e)白金触媒:“SRX−212”(東レダウコーニングシリコーン(株)製):7重量部
(f)アイソパー(登録商標)E(エッソ化学(株)製):1923重量部
【0162】
<シリコーンゴム層溶液4の組成>
(a)α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサンDMS−V52(重量平均分子量155,000、GELEST Inc.製):100重量部
(b)両末端メチル(メチルハイドロジェンシロキサン)(ジメチルシロキサン)共重合体、SiH基含有ポリシロキサンHMS−151(MeHSiOのモル%:15〜18%、GELEST Inc.製):5重量部
(c)ビニルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン:3.5重量部
(d)白金触媒:“SRX−212”(東レダウコーニングシリコーン(株)製):7重量部
(e)アイソパー(登録商標)E(エッソ化学(株)製):1810重量部
【0163】
(実施例1)
厚さ0.225mmの脱脂したアルミ基板(三菱アルミ(株)製)上に断熱層溶液1を塗布し、190℃で78秒間乾燥し、膜厚10g/mの断熱層を設けた。この断熱層の上に前記の感熱層溶液1を塗布し、150℃で80秒間乾燥し、膜厚1.5g/mの感熱層を設けた。この感熱層上に、シリコーンゴム溶液1を塗布し、125℃で80秒間乾燥し、膜厚2.0g/mのシリコーンゴム層を設け、直描型水なし平版印刷版原版を得た。さらに、シリコーンゴム層表面に6μmのポリプロピレンフィルムをラミネートした。
【0164】
得られた直描型水なし平版印刷版原版を、製版機“Trendsetter Quantum 800”(Kodak(株)製)に装着し、半導体レーザー(波長830nm)を用いて、照射エネルギー10.5Wで画像露光を行った。ポリプロピレンフィルムを剥離した後、自動現像機“TWL−860KII”(東レ(株)製)を使用し、前処理液“NP−1”(東レ(株)製)を用い浸漬処理を行った。ただし、浸漬時間は30秒とした。その後、水洗浄下でブラシ現像し、後処理液“PA−F”(東レ(株)製)で染色した。この一連の操作によって、レーザー照射部のシリコーンゴム層が剥離し、その部分の露出した感熱層表面が染色された水なし平版印刷版を得た。
【0165】
各条件を表1およびこの水なし平版印刷版の微小網点再現性評価結果およびブラシ傷耐性評価結果を表1に示す。微小網点再現性評価−1では95%、微小網点再現性評価−2では100%となり、ともに良好な微小網点再現性を得ることができた。ブラシ傷耐性評価では、4点となり良好な結果であった。
【0166】
(実施例2〜5)
実施例1において感熱層溶液1のかわりに各々感熱層溶液2〜5を使用した以外は実施例1と同様にして直描型水なし平版印刷版原版を作製し、水なし平版印刷版を得た。各々の各条件及び微小網点再現性評価結果、ブラシ傷耐性評価結果を表1、表2に示す。微小網点再現性評価−1、2ともに、良好な再現結果となった。ブラシ傷耐性評価では、4点となり、良好な結果であった。
【0167】
(実施例6、7)
実施例1においてシリコーンゴム層溶液1のかわりにシリコーンゴム層溶液2、3を使用した以外は実施例1と同様にして直描型水なし平版印刷版原版を作製し、水なし平版印刷版を得た。各々の各条件及び微小網点再現性評価結果、ブラシ傷耐性評価結果を表2に示す。微小網点再現性評価−1、2ともに、良好な再現結果となった。ブラシ傷耐性評価では、4.5点以上となり、良好な結果であった。
【0168】
【表1】

【0169】
【表2】

【0170】
(比較例1)
実施例1においてシリコーンゴム層溶液1のかわりにシリコーンゴム層溶液4を使用した以外は実施例1と同様にして直描型水なし平版印刷版原版を作製し、水なし平版印刷版を得た。条件及び微小網点再現性評価結果、ブラシ傷耐性評価結果を表3に示す。微小網点再現性評価−1では95%、微小網点再現性評価−2では100%となり、ともに良好な微小網点再現性を得ることができた。ブラシ傷耐性評価では、印刷物上の非画線部に75%の範囲でブラシ傷が観察され、印刷版としての使用に耐えうるものではなかった。
【0171】
(比較例2〜6)
実施例1において感熱層溶液1のかわりに各々感熱層溶液6〜10を使用した以外は実施例1と同様にして直描型水なし平版印刷版原版を作製し、水なし平版印刷版を得た。各々の各条件及び微小網点再現性評価結果、ブラシ傷耐性評価結果を表3、4に示す。微小網点再現性評価−1,2では、画線部と非画線部の境界において非画線部であるシリコーンゴム層のハガレが発生し、画線部にシリコーンゴム層が残る再現不良が確認され、微小網点再現性は80%未満となり、悪い結果となった。また、ブラシ傷耐性評価では、4点となり、良好な結果であった。
【0172】
(比較例7)
実施例1において感熱層溶液1のかわりに感熱層溶液10、シリコーンゴム層溶液1のかわりにシリコーンゴム層溶液4を使用した以外は実施例1と同様にして直描型水なし平版印刷版原版を作製し、水なし平版印刷版を得た。条件及び微小網点再現性評価結果、ブラシ傷耐性評価結果を表4に示す。微小網点再現性評価−1,2では、画線部と非画線部の境界において非画線部であるシリコーンゴム層のハガレが発生し、画線部にシリコーンゴム層が残る再現不良が確認され、微小網点再現性は80%未満となり、悪い結果となった。ブラシ傷耐性評価では、印刷物上の非画線部に75%の範囲でブラシ傷が観察され、印刷版としての使用に耐えうるものではなかった。
【0173】
【表3】

【0174】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも断熱層、感熱層およびシリコーンゴム層をこの順に有する直描型水なし平版印刷版原版であって、該感熱層が少なくとも(A)光熱変換物質、(B)金属含有有機化合物、(C)ノボラック樹脂および(D)ポリウレタン樹脂を含有し、(C)ノボラック樹脂が重量平均分子量の異なる2種類のノボラック樹脂を含有し、ノボラック樹脂のGPC法による分子量分布が、一方は5百以上5千以下に、他方は1万以上5万以下に極大を有し、かつ、該シリコーンゴム層が下記一般式(I)で表されるポリシロキサンを含有することを特徴とする直描型水なし平版印刷版原版。
【化1】

(式中、nは2以上の整数を示し、R〜Rは炭素数1〜50の置換あるいは非置換のアルキル基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Xは活性水素含有基を示す。)
【請求項2】
一般式(I)で表されるポリシロキサンのGPC法による分子量分布が、9万以上100万以下に極大を有することを特徴とする請求項1に記載の直描型水なし平版印刷版原版。

【公開番号】特開2009−175388(P2009−175388A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13354(P2008−13354)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】