説明

相変換冷却器及び携帯機器

【課題】小型軽量で冷却効率が高い相変換冷却器及び携帯機器を提供する。
【解決手段】冷却対象物に接する第1の面2aを有する冷却ヘッド2と、第2の面2bに設けられた第1給排口3と、第3の面2cに設けられた第2給排口4と、第1給排口3に接続された第1配管5と、放熱環境に置かれた放熱部6と、第2給排口4に接続された第2配管7とを備え、冷却ヘッド2が樹脂成形により形成され、冷却ヘッド2の第1の面2aに金属板9を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型軽量で冷却効率が高い相変換冷却器及び携帯機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ内に設けられている部品のうち、大きな発熱を伴う部品については、自然放熱に頼らず、強制的な放熱対策が施される。例えば、CPU(中央演算処理装置)などのLSI(大規模集積回路)は、集積度が高いほど、また、処理速度が速いほど発熱が深刻となるため、放熱対策は省けない。
【0003】
このような電子部品に適用する冷却器として、相変換冷却器が知られている。
【0004】
図7に示されるように、従来の相変換冷却器101は、冷却対象物に接する第1の面(図示裏側の正面)を有した冷却ヘッド102と、冷却ヘッド102の第1の面とは対向しない第2の面102bに設けられた第1給排口103と、冷却ヘッド102の第1の面とも第2の面102bとも対向しない第3の面102cに設けられた第2給排口104と、第1給排口103に接続された第1配管105と、第1配管105に繋がり放熱環境に置かれる放熱部106と、放熱部106に繋がり第2給排口104に接続された第2配管107とを備える。
【0005】
冷却ヘッド102は、ほぼ直方体状に形成された熱伝導率の高い金属製の容器である。冷却ヘッド102の第1の面(図示裏側の正面)が冷却対象物であるLSIの放熱面に接している。
【0006】
第1給排口103に接続された第1配管105は、冷却ヘッド102の第2の面102bに直角な方向に十分に長く延ばされ放熱部106に繋がる。図示した状態では、冷却ヘッド102の第2の面102bは、冷却ヘッド102の上側に位置するので、第1配管105は上に伸びている。
【0007】
放熱部106は、熱伝導率の高い金属管を複数回折り返すなどして表面積を大きくしたものである。放熱部106は、冷却対象物から十分に離れた放熱環境に置かれる。放熱環境とは、放熱に適した環境のことであり、大気に触れやすい環境、大気に触れている熱伝導性の良い部材に接する環境、周囲に熱源や熱に弱い部材が無い環境などを指す。
【0008】
第2給排口104に接続された第2配管107は、冷却ヘッド102の第3の面102cに直角な方向に比較的短く延ばされ、放熱部106の方向に曲げられ、第1配管105と平行に長く延ばされ放熱部106に繋がる。図示した状態では、冷却ヘッド102の第3の面102cは、冷却ヘッド102の横側に位置するので、第2配管107は、いったん横に伸びてから上に伸びている。
【0009】
第1配管105と放熱部106と第2配管107は、1本の連続した管で形成することができる。
【0010】
相変換冷却器101は、冷却ヘッド102から第1配管105、放熱部106、第2配管107を経由して冷却ヘッド102に戻る内部空間に冷媒を収容している。
【0011】
この相変換冷却器101において、冷却対象物からの熱が冷却ヘッド102に熱伝導し、その熱で冷却ヘッド102内の冷媒が気化(沸騰)して気相となる。気相となった冷媒は、冷却ヘッド102内を上昇し第1給排口103を介して第1配管105に流れ込み放熱部106に導かれる。気相の冷媒は、放熱部106で熱を奪われて、液化(凝縮)して液相となる。液相となった冷媒は、放熱部106から第2配管107を降下し第2給排口104を介して冷却ヘッド102に流れ込む。このようにして、従来の相変換冷却器101では、冷媒が冷却対象物の熱を気化熱によって奪い、放熱部106で系外(大気など)に熱を放出し、液相となって冷却ヘッド102に戻る、という冷媒の循環が繰り返される。これにより、冷却対象物は継続的に強制冷却される。
【0012】
この相変換冷却器101は、冷却対象物を空冷する冷却ファンよりも小型で簡素であり、冷媒を機械的な力で押し流して循環させるポンプ機構も必要としない。
【0013】
相変換冷却器全体(冷却ヘッド102から、第1配管105、放熱部106、第2配管107を経由して冷却ヘッド102に戻る内部空間)における液相の比率は体積比で冷媒総量の20〜30%である。冷却ヘッド102内においても、冷媒が気相と液相に適宜な比率で存在している。
【0014】
液相の冷媒は、冷却ヘッド102の下に溜まり、液面sが第2給排口104を越えている。気相の冷媒は、液面sよりも上部の空間を占めている。第1給排口103はその空間の上にある。よって、気化によって体積を増した気相の冷媒は第1配管105に容易に流れ込み、かつ、第1配管105にしか流れ込まない。また、放熱部106で液相となった冷媒は重力に従って第2配管107に流れ落ち冷却ヘッド102に戻る。これにより、気相の冷媒が冷却ヘッド102から上昇して放熱部106に流れ込み、液相の冷媒が放熱部106から下降して冷却ヘッド102に流れ込むという冷媒の循環を促進・円滑化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−85186号公報
【特許文献2】特開平7−142886号公報
【特許文献3】特開2006−125718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、従来の相変換冷却器101は、デスクトップ型のパソコンなどに搭載されていた。しかし、この相変換冷却器101を携帯電話機やノートパソコンなどの携帯機器(モバイル機器)に搭載しようとすると、問題が生じる。
【0017】
モバイル機器は、デスクトップ型のパソコンのような定置式の機器よりも筐体が小さく、内部スペースが狭いため、モバイル機器に搭載する相変換冷却器は、従来よりも小型化、薄型化が必要となるからである。
【0018】
従来の相変換冷却器101は、冷却対象物との熱交換効率を向上する目的で、冷却ヘッド102が全体的に金属で構成されている。同時に冷却ヘッド102は、冷媒を収容する容器でもあるため、中空構造であってしかも密閉構造にする必要がある。具体的には、冷却ヘッド102は、いわゆる板金ものとして、金属板材を立体的に組み合わせ、合わせ目を溶接で閉じて形成される。
【0019】
溶接によって密閉性よく接合するには、金属板材が所定以上の厚さを持たなければならない。なぜなら、薄い金属板材を溶接しようとすると、形が歪んだり孔ができてしまうからである。このため、従来の相変換冷却器は、冷却ヘッドの金属板材が厚い。具体的には、厚さは1mm程度である。一般に銅板は厚さ0.5mm以上が溶接に耐えられる限界である。このために冷却ヘッド102の外形寸法が大きくなる。冷媒を収容する空間を確保しつつ冷却ヘッド102を小型化するには、金属板材の厚さを薄くできないことが障害となる。
【0020】
また、金属板材を立体的に組み合わせると、合わせ目が多数生じる。図7に示すように冷却ヘッド102をほぼ直方体状とするには、6枚の金属板材を組み合わせ、12箇所の稜線を溶接で閉じることになる。さらに、給排口103、104は金属板材に空けた穴である。その給排口103、104に第1配管105、第2配管107となる金属管を継ぐので、ここも溶接箇所となる。このように、冷却ヘッド102を金属板材で形成すると、溶接箇所が多く、加工コストが高くなる。
【0021】
さらに、従来の相変換冷却器101は、前述の通り金属板材が厚いこと、溶接箇所が多いことなどから重量が重くなる。軽量であることが商品価値の重要な要因であるモバイル機器にとって、重量が重いことは欠点となる。
【0022】
また、冷却ヘッド102が全面的に金属であると、冷却対象物から冷却ヘッド102の第1の面に熱伝導した熱が熱伝導によって冷却ヘッド102の他の面に拡散する。このように熱が拡散することは、冷却対象物の冷却に寄与するにはするが、相変換冷却の観点からすると好ましくない。なぜなら、冷却対象物から冷媒に伝わる熱が少なくなり、気化する冷媒の量が減り、相変換冷却の効率が落ちるからである。そして、熱伝導により冷却ヘッド102の全体に拡散した熱がその周囲の雰囲気に熱伝導することにより、冷却対象物の周辺に熱気がこもる。
【0023】
また、冷却ヘッド102は鋳物で作ることもできる。しかし、金属は、溶融した状態でも粘度が高いため、冷却ヘッド102を鋳物で作っても、冷却ヘッド102の金属材の厚さを薄くすることはできない。したがって、上記した壁の厚さ、重量、熱伝導などの問題は、鋳物で作ることでは解決されない。
【0024】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、小型軽量で冷却効率が高い相変換冷却器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために本発明は、冷却対象物に接する第1の面を有した冷却ヘッドと、該冷却ヘッドの上記第1の面とは対向しない第2の面に設けられた第1給排口と、上記冷却ヘッドの上記第1の面とも上記第2の面とも対向しない第3の面に設けられた第2給排口と、上記第1給排口に接続された第1配管と、該第1配管に繋がり放熱環境に置かれる放熱部と、該放熱部に繋がり上記第2給排口に接続された第2配管とを備え、上記冷却ヘッドが樹脂成形により形成され、上記冷却ヘッドの上記第1の面に金属板を有するものである。
【0026】
上記冷却ヘッドの複数の面に金属板を有してもよい。
【0027】
上記冷却ヘッドの複数の面の金属板は、互いに接していてもよい。
【0028】
上記冷却ヘッドの複数の面の金属板のうち、上記第1の面以外に設けられた金属板は、上記冷却ヘッドの内面に設けられていてもよい。
【0029】
上記冷却ヘッドの第1の面の樹脂に開口が形成され、この開口を覆うように金属板が設けられていてもよい。
【0030】
上記金属板に突起部が形成されていてもよい。
【0031】
上記金属板は、インサート成型により上記冷却ヘッドに設けられてもよい。
【0032】
上記第2配管は、上記第1配管側に傾斜した傾斜部を有してもよい。
【0033】
また、上記冷却ヘッドの第1の面が上記冷却ヘッドの下側に位置する姿勢において、上記第1給排口と上記第2給排口の上下方向の高さが異なっていてもよい。
【0034】
また、本発明の携帯機器は、上記相変換冷却器を搭載したものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0036】
(1)小型軽量で冷却効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態を示す相変換冷却器の冷却ヘッドの図であり、(a)は第2、第3、第6の面を見た斜視透視図、(b)は第1、第4、第5の面を見た斜視図、(c)は第1の面を下にした断面図である。
【図2】インサート成型を説明する図であり、(a)は金属板の組み立て斜視図、(b)は樹脂射出成型後の冷却ヘッドの斜視透視図である。
【図3】(a)は正立姿勢、(b)は右傾姿勢、(c)は左傾姿勢における図1の相変換冷却器の正面図である。
【図4】図1の相変換冷却器の配管接続を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態を示す相変換冷却器の水平姿勢における斜視図である。
【図6】(a)は本発明の相変換冷却器を搭載した携帯電話機の斜視図、(b)は同携帯電話機の側断面図である。
【図7】従来の相変換冷却器の正立姿勢における正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0039】
図3(a)〜図3(c)に示されるように、本発明に係る相変換冷却器1は、冷却対象物に接する第1の面2a(図1、図5参照)を有した冷却ヘッド2と、冷却ヘッド2の第1の面2aとは対向しない第2の面2bに設けられた第1給排口3と、冷却ヘッド2の第1の面2aとも第2の面2bとも対向しない第3の面2cに設けられた第2給排口4と、第1給排口3に接続された第1配管5と、第1配管5に繋がり放熱環境に置かれる放熱部6と、放熱部6に繋がり第2給排口4に接続された第2配管7とを備える。
【0040】
相変換冷却器1は、冷却ヘッド2から第1配管5、放熱部6、第2配管7を経由して冷却ヘッド2に戻る内部空間に液相が例えば20%以上を占めるように冷媒が収容される。相変換冷却器1は、冷却ヘッド2の第3の面2cが冷却ヘッド2の下側に位置する姿勢において冷媒の液面sが第3の面2cより上に位置する(図3参照)。具体的には、第2配管7に、第1配管5に対して傾斜した傾斜部8が形成されていることにより、冷媒の液面sが第3の面2cより上に保持されている。
【0041】
図1(a)〜図1(c)に詳しく示すように、本発明においては、冷却ヘッド2は、樹脂成形により外形がほぼ直方体状で内部にほぼ直方体状の空間が形成された容器である。冷却ヘッド2は、エンジニアリングプラスチックからなる。
【0042】
冷却ヘッド2の第1の面2aが冷却対象物(例えば、LSI)の放熱面に接する受熱面である。本発明においては、冷却ヘッド2の少なくとも受熱面である第1の面2aに金属板9を有する。この実施形態では、冷却ヘッド2は、第1の面2aのほかに、第2の面2b、第3の面2c、第2の面2bに対向する第4の面2d、第3の面2cに対向する第5の面2eに金属板9を有する。第2の面2b、第3の面2cに設ける金属板9には、第1給排口3、第2給排口4に臨む穴をあけておく。
【0043】
金属板9は、厚さ0.1mmの銅板である。各面の金属板9は互いに接するように設けるが、金属板9同士を溶接する必要はない。金属板9は、冷却ヘッド2を形成する際に、インサート成型により冷却ヘッド2に設けられる。
【0044】
金属板9は、形状ごとに順次プレスして加工する順送プレス加工で板金部品を加工する方法により形成される。このようにして加工された金属板9を金型にセッティングし、金型の中に液状の樹脂を圧力を加えて射出する樹脂射出成型(インサート成型)により、冷却ヘッド2が形成される。ここで、金属板9には、図2に示されるように、突起部9aが設けられている。金属板9に突起部9aを設けることにより、樹脂との一体性を高めることができ、金属板9が樹脂から脱落するのを防止することができる。
【0045】
金属板9は、冷却ヘッド2の内面又は外面に設けることができる。図1(c)に示すように、本実施形態では、金属板9は、冷却ヘッド2の内面に設けられている。ただし、冷却ヘッド2の第1の面2aの樹脂には開口が形成されており、金属板9は、この開口を覆うように冷却ヘッド2の内面に設けられている。このため、金属板9は冷却対象物の放熱面に接することができる。なお、第1の面2aの金属板9は、冷却ヘッド2の外面に冷却ヘッド2の樹脂の開口を覆うように設けることもできる。
【0046】
第1給排口3は、冷却ヘッド2に一体成型により樹脂で形成される。第1給排口3は、冷却ヘッド2の内部と外部とを連通するようにした中空円筒状の突起であり、第1配管5に嵌合する寸法に形成される。
【0047】
図3(a)に示されるように、第1給排口3に接続された第1配管5は、冷却ヘッド2の第2の面2bに直角な方向に十分に長く延ばされ放熱部6に繋がる。図示した状態では、冷却ヘッド2の第2の面2bは、冷却ヘッド2の上側に位置するので、第1配管5は上に伸びている。
【0048】
放熱部6は、熱伝導率の高い金属管を複数回折り返すなどして表面積を大きくしたものである。放熱部6は、冷却対象物から十分に離れた放熱環境に置かれる。放熱環境とは、放熱に適した環境のことであり、大気に触れやすい環境、大気に触れている熱伝導性の良い部材に接する環境、周囲に熱源や熱に弱い部材が無い環境などを挿す。
【0049】
第2給排口4は、冷却ヘッド2に一体成型により樹脂で形成される。第2給排口4は、冷却ヘッド2の内部と外部とを連通するようにした中空円筒状の突起であり、第2配管7に嵌合する寸法に形成される。
【0050】
なお、図4に示されるように、第2給排口4は、第2配管7に継ぎ手10を介して接続されることもできる。また、図示されていないが、第1給排口3も同様に、第1配管5に継ぎ手10を介して接続されることもできる。
【0051】
図3(a)に示されるように、第2配管7は、冷却ヘッド2の第3の面2cに直角な方向に従来よりも短く延ばされ、放熱部6の方向に曲げられ、冷却ヘッド2の第2の面2bの辺りから第1配管5に対して近付く方向に傾斜して長く延ばされ放熱部6に繋がる。図示した状態では、冷却ヘッド2の第3の面2cは、冷却ヘッド2の横側に位置するので、第2配管7は、少し横に伸び、少し上に伸びてから、大部分を占める傾斜部8が斜めに伸びている。
【0052】
従来の相変換冷却器101では、給排口103、104に第1配管105、第2配管107となる金属管を継ぐために溶接を必要とした。しかし、溶接するためには、第1配管105、第2配管107は、第2の面2b、第3の面2cから十分な長さが必要だった。一方、本発明では、冷却ヘッド2が樹脂成形により形成されているため、第1給排口3、第2給排口4を冷却ヘッド2から突きだした形状に形成することができる。第2給排口4は、第2配管7(または、継ぎ手10)に嵌合する寸法に形成されているため、第3の面2cの直角な方向に延びる第2配管7の長さは、第2給排口4と嵌合するだけあれば良い。このため、第3の面2cの直角な方向に延びる第2配管7の長さを従来の第2配管7より短くすることができる。したがって、本発明では、相変換冷却器1の一層の小型化が実現される。
【0053】
図3を用いて本発明の相変換冷却器の冷却動作を説明する。
【0054】
図3(a)は、本発明の相変換冷却器1を携帯電話機に搭載し、当該携帯電話機が正立姿勢にあるときの状態を示している。ここで、正立姿勢とは、携帯電話機の使用者が立って通話しているときの携帯電話機の姿勢を意味している。相変換冷却器1は、冷却ヘッド2の第2の面2bが冷却ヘッド2の上側に位置する姿勢である。このとき、第2給排口4より上に冷媒の液面sが位置する。
【0055】
この相変換冷却器1において、冷却対象物からの熱が冷却ヘッド2に熱伝導し、その熱で冷却ヘッド内の冷媒が気化(沸騰)して気相となる。気相となった冷媒は、冷却ヘッド2内を上昇し第1給排口3を介して第1配管5に流れ込み放熱部6に導かれる。気相の冷媒は、放熱部6で熱を奪われて、液化(凝縮)して液相となる。液相となった冷媒は、放熱部6から第2配管7を降下し第2給排口4を介して冷却ヘッド2に流れ込む。このようにして、本発明の相変換冷却器1では、冷媒が冷却対象物の熱を気化熱によって奪い、放熱部で系外(大気など)に熱を放出し、液相となって冷却ヘッド2に戻る、という冷媒の循環が繰り返される。これにより、冷却対象物は継続的に強制冷却される。
【0056】
使用者が仰向けに寝て右耳に携帯電話機をあてがうと、携帯電話機は右傾姿勢となる。携帯電話機が右傾姿勢のとき、相変換冷却器1は、図3(b)に示されるように、第1配管5が冷却ヘッド2の比較的下側の位置で横向き、第2配管7が冷却ヘッド2の上側の面から上向きとなる。第2給排口4が液面sの上に位置し、第1給排口3が液面sの下に位置する。このとき、冷媒の循環経路は図3(a)の逆向きとなるが、冷媒の循環が円滑に繰り返されることには変わりない。
【0057】
このように、冷却ヘッド2の第3の面2cが冷却ヘッド2の上側に位置する姿勢においては、第1給排口3より上に冷媒の液面sが位置する。冷却ヘッド2内に液相の冷媒が存在することにより、受熱面を介して冷却対象物を相変換冷却することができる。
【0058】
使用者が仰向けに寝て左耳に携帯電話機をあてがうと、携帯電話機は左傾姿勢となる。携帯電話機が左傾姿勢のとき、相変換冷却器1は、図3(c)に示されるように、第1配管5が冷却ヘッド2の比較的上側の位置で横向き、第2配管7が冷却ヘッド2の下側の面から下向きとなる。第2配管7は下向きに少し伸びてから横に曲げられ、少し横に伸びてから斜め上向きに傾斜して放熱部6に至る。傾斜部8を設けることにより、第2配管7の長さが短くなることに加え、冷却ヘッド2の第3の面2cより下に位置する第2配管7の長さが短くなる。これにより、冷媒が充満している第2配管7の長さが図7の従来技術に比べて短くなるため、液面sは冷却ヘッド2の第3の面2cよりも上に位置するようになる。
【0059】
このように、本発明の相変換冷却器1では、冷却ヘッド2の第3の面2cが冷却ヘッド2の下側に位置する姿勢においては、第3の面2cより上に冷媒の液面sが位置する。したがって、冷却ヘッド2内に液相の冷媒が存在することにより、受熱面を介して冷却対象物を相変換冷却することができる。また、第1給排口3が液面sの上に位置し、第2給排口4が液面sの下に位置するので、図3(a)と同じ冷媒の循環経路で、冷媒の循環が円滑に繰り返される。
【0060】
次に、本発明の相変換冷却器の効果を説明する。
【0061】
本発明の相変換冷却器の効果は、小型軽量化、製造簡易化、冷却効率向上にある。
【0062】
まず、小型軽量化について述べると、本発明では、冷却ヘッド2が樹脂成形により形成されている。従来の冷却ヘッド102のように金属板材を立体的に組み合わせて合わせ目を溶接で閉じて形成すると、金属板材に厚みが必要であるため小型化が困難であったが、本発明では樹脂成形であるため、冷却ヘッド2の壁厚を薄くすることができ、その結果、冷却ヘッド2が小型化される。また、冷却ヘッド2を構成する主な材料が金属から樹脂になったことで、軽量化も達成される。従来の金属板材が厚さ1mmであったのに対し、本発明で用いる金属板9は厚さ0.3mm以下(上記実施形態では、0.1mm)とすることができるため、金属板9の重さは問題にならない。
【0063】
さらに、冷却ヘッド2を構成する主な材料が金属から樹脂になったことで、加工コストも低減される。
【0064】
次に、製造簡易化について述べると、本発明では、冷却ヘッド2が樹脂成形により形成されている。従来の冷却ヘッド102のように金属板材を立体的に組み合わせて合わせ目を溶接で閉じて形成すると、密閉を図るため全ての稜線を溶接すると共に、給排口103、104に第1配管105、第2配管107となる金属管を継ぐためにも溶接を必要とした。本発明では、樹脂成形であるため、溶接工数が全て削減される。また、冷却ヘッド2が樹脂成形により形成されているので、第1給排口3、第2給排口4を冷却ヘッド2から突きだした形状に形成することができ、第1配管5、第2配管7(又は継ぎ手10)の接続が容易である。
【0065】
冷却効率向上については、本発明では、冷却ヘッド2の少なくとも受熱面である第1の面2aに金属板9を有する。金属板9が冷却ヘッド2の内面に設けられる場合、金属板9が冷媒に接することにより、冷却ヘッド2から冷媒への熱伝導が促進される。一方、金属板9が冷却ヘッド2の外面に設けられる場合、金属板9が冷却対象物に直接接することにより、冷却対象物から冷却ヘッド2への熱伝導が促進される。さらに、図1(a)〜図1(c)で説明したように、金属板9が、第1の面2aに形成された冷却ヘッド2の樹脂の開口を覆うように、冷却ヘッド2の内面又は外面に設けられる場合は、冷却対象物から冷却ヘッド2への熱伝導が促進されると共に、冷却ヘッド2から冷媒への熱伝導が促進される。また本発明では、冷却ヘッド2の金属板9を有さない部分は樹脂であるから、熱伝導率が金属より低い。よって、金属板9の熱は冷却ヘッド2の全体にはあまり熱伝導せず、もっぱら冷媒に熱伝導する。このため、冷却対象物からの熱の多くが冷媒の気化に寄与し、熱伝導によって冷却ヘッド2全体やその雰囲気温度が上昇することが回避される。このように、本発明は、相変換冷却の効率を向上させることができる。
【0066】
携帯電話機が使用されているときの姿勢は限られており、図3(a)〜図3(c)で説明したように、本発明の相変換冷却器1を搭載している携帯電話機がどの姿勢にあっても、相変換冷却器1は、冷却ヘッド2内に液相の冷媒が存在する。そして、どの姿勢でも、液相の冷媒は冷却ヘッド2の第1の面2aに必ず接する。よって、第1の面2aに金属板9を設けることで冷媒への熱伝導を確実に達成することができる。
【0067】
冷却ヘッド2の第1の面2aのほかの面にも金属板9を有する場合、第1の面2a以外の面の金属板9も冷媒との熱交換に寄与する。特に、図3(a)〜図3(c)から分かるように、第2の面2bに対向する第4の面2d、第3の面2cに対向する第5の面2e、及び第3の面2cは液相の冷媒に全面的に浸される機会があるので、金属板9を設けるとよい。
【0068】
また、受熱面である第1の面2a以外の面に設けられる金属板9は、冷却ヘッド2の内面に設けられるのが好ましい。このようにすることで、第1の面2aから第1の面2a以外の面に伝わった熱が、冷却ヘッド2の周囲の雰囲気に熱伝導することを抑制することができる。よって、冷却対象物の周辺に熱気がこもることを抑制することができると共に、金属板9の熱の多くを冷媒に熱伝導することができる。よって、相変換冷却の効率を向上させることができる。
【0069】
また、図1(c)で説明したように、各面の金属板9を互いに接するように設けることにより、受熱面である第1の面2aに設けられた金属板9から第1の面2a以外の面に設けられた金属板9に熱が伝わり易くなる。このようにすることで、相変換冷却器1が図3(a)〜図3(c)に示される姿勢の場合に、受熱面である第1の面2aの金属板9から、液相の冷媒に全面的に浸されている面の金属板9に熱が伝わり易くなる。よって、冷却ヘッド2から冷媒への熱伝導を促進し、相変換冷却の効率を向上させることができる。
【0070】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
【0071】
図5に示されるように、相変換冷却器1の冷却ヘッド2は、受熱面である第1の面2aが冷却対象物であるLSI41に接するように実装される。
【0072】
第2給排口4が冷却ヘッド2の第3の面2cの第1の面2aに近い位置に形成されている。一方、第1給排口3が冷却ヘッド2の第1の面2aに対向する第6の面2fに近い位置に形成されている。つまり、冷却ヘッド2の第1の面2aが冷却ヘッド2の下側に位置する姿勢において、第1給排口3と第2給排口4の上下方向の高さが異なっている。
【0073】
この構成において、相変換冷却器1の姿勢が、図示の通り、LSI41の上に冷却ヘッド2が位置し、冷却ヘッド2の第1の面2aがLSI41と接している姿勢であるとする(この姿勢を水平姿勢とする)。第2給排口4は液面sよりも下に位置し、第1給排口3は液面sよりも上に位置する。よって、本実施形態によれば、図3に示される相変換冷却器1の姿勢に加えて、水平姿勢の場合でも、冷媒の循環が円滑に繰り返される。
【0074】
また、受熱面である第1の面2aが全面的に冷媒に浸されていると共に、金属板9を有するので、相変換冷却の冷却効率が大きい。
【0075】
次に、本発明の相変換冷却器1を携帯電話機に実装した実施形態を説明する。
【0076】
図6(a)及び図6(b)に示されるように、携帯電話機51は、キー操作部52と表示器部53とをヒンジ54で回動自在に連結してなる。キー操作部52には基板(図示せず)に実装されたLSI41が内蔵され、LSI41の放熱面に相変換冷却器1の冷却ヘッド2が実装される。表示器部53には、放熱部6が内蔵される。第1配管5と第2配管7は、キー操作部52内から表示器部53内に配管される。
【0077】
図示のように、相変換冷却器1を平坦地に置くか手に持つなどして、キー操作部52を水平にし、表示器部53を開いてキー操作部52に対する開き角が120°になるようにしたとする。このとき、冷却ヘッド2は、図5に示した水平姿勢となるので、相変換冷却器1は冷却効果が大きい。
【0078】
この携帯電話機51を開き角が180°に開いて通話に使用したとする。使用者の姿勢により、携帯電話機は正立姿勢、左傾姿勢、右傾姿勢となるが、図3(a)〜図3(c)で説明したように、相変換冷却器1は、使用姿勢によらず相変換冷却を十分に行うことができ、冷却効果が大きい。
【符号の説明】
【0079】
1 相変換冷却器
2 冷却ヘッド
2a 第1の面
2b 第2の面
2c 第3の面
2d 第4の面
2e 第5の面
2f 第6の面
3 第1給排口
4 第2給排口
5 第1配管
6 放熱部
7 第2配管
8 傾斜部
9 金属板
10 継ぎ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象物に接する第1の面を有した冷却ヘッドと、該冷却ヘッドの上記第1の面とは対向しない第2の面に設けられた第1給排口と、上記冷却ヘッドの上記第1の面とも上記第2の面とも対向しない第3の面に設けられた第2給排口と、上記第1給排口に接続された第1配管と、該第1配管に繋がり放熱環境に置かれる放熱部と、該放熱部に繋がり上記第2給排口に接続された第2配管とを備え、
上記冷却ヘッドが樹脂成形により形成され、上記冷却ヘッドの上記第1の面に金属板を有することを特徴とする相変換冷却器。
【請求項2】
上記冷却ヘッドの複数の面に金属板を有することを特徴とする請求項1記載の相変換冷却器。
【請求項3】
上記冷却ヘッドの複数の面の金属板が互いに接していることを特徴とする請求項2記載の相変換冷却器。
【請求項4】
上記冷却ヘッドの複数の面の金属板のうち、上記第1の面以外に設けられた金属板は、上記冷却ヘッドの内面に設けられていることを特徴とする請求項2記載の相変換冷却器。
【請求項5】
上記冷却ヘッドの第1の面の樹脂に開口が形成され、この開口を覆うように金属板が設けられていることを特徴とする請求項1から4記載の相変換冷却器。
【請求項6】
上記金属板に突起部が形成されていることを特徴とする請求項1から5記載の相変換冷却器。
【請求項7】
上記金属板は、インサート成型により上記冷却ヘッドに設けられることを特徴とする請求項1から6記載の相変換冷却器。
【請求項8】
上記第2配管は、上記第1配管側に傾斜した傾斜部を有することを特徴とする請求項1から7記載の相変換冷却器。
【請求項9】
上記冷却ヘッドの第1の面が上記冷却ヘッドの下側に位置する姿勢において、上記第1給排口と上記第2給排口の上下方向の高さが異なることを特徴とする請求項1から8記載の相変換冷却器。
【請求項10】
請求項1から9記載の相変換冷却器を搭載したことを特徴とする携帯機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−281721(P2009−281721A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84013(P2009−84013)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】