説明

真空成膜装置

【課題】 合成樹脂フィルム上に成膜される昇華材料膜の特性を向上させるために、昇華した昇華材料を安定的に合成樹脂フィルム上に付着させる手段を有する装置を提供する。
【解決手段】 マイクロ波発生手段を用いて予備的に、かつ、均一的に昇華材料を加熱する。また、電子線発生手段を用いて電子線を照射する昇華材料表面がほぼ平滑であり、かつ、材料容器が可動式である。また、材料容器と冷却ロールとの間に高融点材料からなる網目状のフィルターを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂フィルム上に昇華材料を成膜する真空成膜装置に関するものである。特に、マイクロ波発生手段を用いて予備的に、かつ、均一的に昇華材料を加熱することで、昇華材料を安定的に昇華させるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品包装用途として合成樹脂からなる透明フィルムの使用が次第に増えてきている。この透明フィルムは主として可撓性の高分子樹脂材料からなるが、香り、水、酸素を透過させてしまうという欠点を有している。これらの透過を防止するために、アルミニウムホイルまたはアルミニウムを合成樹脂フィルム上に蒸着させたものが主に用いられている。しかしながら、これらは廃棄処分および内容物の状態管理が比較的困難であるという欠点を有する。また、マイクロ波を透過しないため、マイクロ波オーブンが殆ど全ての家庭で利用されている先進国においては、食品包装用途として用いることが難しく、食品包装材料のマイクロ波透過性は多くの場合、極めて重要となる。
【0003】
マイクロ波透過性を有する合成樹脂フィルムの利点と、水、酸素を透過させないアルミニウムホイルの利点を結合させるために、酸化珪素や酸化アルミニウムなどの金属酸化物を合成樹脂フィルム上に蒸着させたものが用いられている。
【0004】
これら金属酸化物を合成樹脂フィルム上に蒸着させる蒸着装置において、例えば酸化珪素膜を蒸着する場合には、蒸着材料を加熱し、蒸発した酸化珪素蒸気は制御された反応性雰囲気下において酸化し、合成樹脂フィルム上にてSiOx(x=1.5〜1.9の酸化度)に達する。このとき、経済的コストの点から毎秒数メートルの速さで合成樹脂フィルム上に酸化珪素を成膜する必要があり、酸化珪素の蒸発温度である1,350℃以上に耐え得る坩堝が必要となる。
【0005】
しかし、金属酸化物を合成樹脂フィルム上に蒸着させる蒸着装置において、一酸化珪素のような固体から直接昇華し、液相を介さずに蒸発する昇華材料を用いた場合と、二酸化珪素のような固体が液相を介して(溶融させて)蒸発する蒸発材料を用いた場合とでは、用いる装置における問題点が大きく異なる。
【0006】
すなわち、昇華材料である一酸化珪素の蒸着膜を安定的に成膜するためには、電子線照射により昇華材料を昇華させる過程において、昇華材料自体に混入する水分等の不純物や、昇華材料の表面状態等により昇華材料が突沸して固相のまま飛散する現象(スプラッシュ)が生じ得る。
【0007】
特許文献1では、固定用蒸着坩堝の上にウール状の隔壁を置いてスプラッシュ発生に対しても直接被蒸着物に対してダメージのない方法が開示されているが、長時間経過により隔壁に材料が付着してしまうことで、本来の蒸着レートが著しく低下するという問題があり、これを高速成膜が要求される巻き取り蒸着システムに応用した例はなく、抜本的なスプラッシュ量の低減策、解決策も未だ発明されていない。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−24681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は合成樹脂フィルム上に成膜される昇華材料膜の特性を向上させるために、昇華した昇華材料を安定的に合成樹脂フィルム上に付着させる手段を有する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、真空雰囲気下にある真空室内で合成樹脂フィルムの少なくとも一方の面上に昇華させた昇華材料を成膜する真空成膜装置において、
前記真空室は少なくとも
前記真空室内の空気を排気する真空ポンプと、
前記合成樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、
前記巻き出しロールを用いて巻き出した合成樹脂フィルムを搬送する冷却ロールと、
前記冷却ロールを用いて搬送した合成樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールと、
前記冷却ロールと対向する位置に配置された昇華材料と、
前記昇華材料を備える材料容器と、
前記昇華材料に電子線を照射する電子線発生手段と、
前記電子線発生手段を用いて電子線を照射した昇華材料の照射部およびその周辺部に、導波管の開口部よりマイクロ波を照射するマイクロ波発生手段と、
前記導波管の開口部付近に配置されたガスパイプよりガスを噴射するガス噴射手段と、
を有することを特徴とする真空成膜装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記昇華材料表面がほぼ平滑であり、かつ、前記材料容器が可動式であることを特徴とする請求項1に記載の真空成膜装置である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記材料容器と冷却ロールとの間に高融点材料からなる網目状のフィルターを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の真空成膜装置である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記マイクロ波発生手段は少なくとも
マイクロ波を発生させる発振器と、前記マイクロ波のインピーダンスを調整する整合器と、前記マイクロ波を伝播する導波管と、前記導波管の開口部付近に設置され、前記導波管と真空室とを分離し、前記マイクロ波を透過する誘電体と、を備え、
前記ガス噴射手段は少なくとも
前記マイクロ波の波長(λ)の1/4倍の長さを有し、前記誘電体よりも真空室側であり、前記導波管内部にマイクロ波の伝播する電気力線を横切らない位置に配置されたガスパイプと、前記誘電体からマイクロ波の波長(λ)の1/2倍離れた位置に配置されたガス噴射口と、前記ガスパイプの先端部に設置された冷却手段と、前記ガスパイプの先端部に設置された永久磁石と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空成膜装置である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記昇華材料が一酸化珪素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真空成膜装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は合成樹脂フィルム上に昇華した昇華材料を安定的に成膜し、成膜される昇華材料膜の特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明における真空成膜装置断面概略図である。
本発明における真空成膜装置1は、隔壁3により真空室1aを2つの領域(領域A、領域B)に分離してなり、各々の空間をそれぞれ真空ポンプ2a、2bを用いて、領域A、領域B内の空気を別々に排気している。
【0017】
真空室1aの内部において、領域Aに配置された巻き出しロール5を用いて合成樹脂フィルム7を巻き出し、領域Aと領域Bにまたがって配置された冷却ロール4を用いて合成樹脂フィルム7を搬送し、領域Aに配置された巻き取りロール6を用いて合成樹脂フィルム7を巻き取ることで、合成樹脂フィルム7が真空中で搬送可能なパスラインを形成している。
【0018】
領域Bには冷却ロール4と対向する位置に配置され、昇華材料9aを備える材料容器9と、昇華材料9aに電子線8aを照射する電子線発生手段8と、電子線発生手段8を用いて電子線8aを照射した昇華材料9aの照射部およびその周辺部に、導波管21の開口部よりマイクロ波12aを照射するマイクロ波発生手段12と、導波管21の開口部付近に配置されたガスパイプ24よりガスを噴射するガス噴射手段13とが備えられている。ここでは図示されていないが、マイクロ波発生手段12の導波管21は合成樹脂フィルム7の幅方向に二股に分岐する形状を有しており、2本の導波管21の開口部より合成樹脂フィルム7上にマイクロ波12aを照射している。
【0019】
材料容器9には材料容器9を動かすための材料容器可動手段11が備えられており、材料容器9と冷却ロール4との間にはタングステンからなる網目状のフィルター10が設置されている。さらに、装置を停止した後に発生する輻射熱から合成樹脂フィルム7を保護するためのシャッター13が設置されている。また、図中の符号9bは昇華した昇華材料を表している。
【0020】
本発明における真空室1aは、真空室1a内の空気を排気したときに真空雰囲気を維持できるよう密封形状であればよく、その形状や材質に制限はない。また、図1には隔壁3により2つの領域に分離された真空室1aが図示されているが、隔壁3は必須の構成ではない。しかし、隔壁3により真空室1aを領域Aと領域Bに分離することで、各プロセスに適した真空度(例えば、領域Aはルーツポンプを用い1〜10−1Paの真空度、領域Bは拡散ポンプにより、10−3Pa程度の真空度)を作り出すことができるため、好ましい。さらに、真空室1a内の全領域を真空雰囲気に減圧する必要がないため、効率良く成膜条件を整えることができる。
【0021】
本発明における真空ポンプ2a、2bは、ルーツポンプ、拡散ポンプ、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ゲッタイオンポンプ等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、設置する個数に制限はなく、任意の真空度に調節できるものであれよい。
【0022】
本発明における巻き出しロール5および巻き取りロール6は、その径や材質に制限はないが、ポリエーテルナフタレート(PEN)やポリエーテルサルフォン(PES)等のロール表面に耐熱性を有するものが好ましい。また、合成樹脂フィルム7の搬送速度を任意に調節できることが好ましく、個々の回転速度を制御できる回転速度制御機能を有していることが好ましい。
【0023】
本発明における冷却ロール4は、材料容器9と対向する位置に配置され、合成樹脂フィルム7を搬送しながら昇華した昇華材料9bを合成樹脂フィルム7に成膜するものであり、その径や材質に制限はないが、ステンレスや鉄材にクロメッキ処理を施したものが好ましい。さらに、加熱した昇華材料からの放射熱により合成樹脂フィルム7が溶解することを防止するために、冷却機能を有していることが好ましい。
冷却手段としては、冷却水を循環させてなる水冷手段や不凍液からなる冷媒等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明における材料容器9は、冷却機構を有する銅等の金属製の坩堝等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。しかし、材料容器9に収める昇華材料9aの表面が平滑となるように、材料容器9内は平滑であることが好ましい。
【0025】
また、昇華した昇華材料9bやスプラッシュにより飛散したその他の材料が、真空室1aの内壁に付着することを防ぐために、図示していないが、真空室1a内が防着板で保護されていることが好ましい。
【0026】
本発明における電子線発生手段8は、熱電子放射型や電界放射型の電子銃等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。しかし、大電流を流せる電子放出法としては熱電子放射型が好ましい。
【0027】
図2は、図1に示すマイクロ波発生手段12を上面から見たときの断面概略図である。
本発明におけるマイクロ波発生手段12は、マイクロ波を発生させる発振器23と、マイクロ波のインピーダンスを調整する整合器22と、マイクロ波を伝播する導波管21と、導波管21の開口部付近に設置され、導波管21と真空室1aとを分離し、マイクロ波を透過する誘電体20と、を備えている。さらに、図1に示すマイクロ波発生手段12では、合成樹脂フィルム7の幅方向に熱分布を与えないように、マイクロ波を分岐するマジックTと呼ばれる2分岐導波管25を備え、2本の導波管21より合成樹脂フィルム7へマイクロ波を照射している。また、図中の符号12aは、マイクロ波を表している。
【0028】
本発明における発振器23は、マイクロ波の発生に用いるものであり、マグネトロンを代表とする一般的なマイクロ波管を用いることができる。また、本発明では、工業用割り当て周波数である2.45GHzを使用している。
【0029】
本発明における整合器22は、電界と磁界の位相を調整できるE−Hチューナを始め、スタブチューナ、4E−チューナ等を用いることができる。ここで用いる整合器22とは、マイクロ波のインピーダンスを調整できるものである。
【0030】
本発明における導波管21は、発振周波数に応じて形状が決められるものであり、電磁波の進行方向によって、様々なモードが選定できる。本発明ではTE波(Transverse Electric Wave)の基本モードを利用し、導波管21はEIAJ(形名:WRJ−2)を選択しており、導波管21の形状は、四角柱であり、その大きさは、長さ100mm〜200mm、長方形の形状をした開口部の寸法60.75mm×109.22mmである。ここで用いる導波管21とは、マイクロ波を伝播できるものである。
【0031】
本発明における誘電体20は、導波管21と真空室1aとを分離し、導波管21と真空室1aとの圧力差を得るため、および、昇華した材料が導波管21内部に付着するのを防ぐために用いられるものであり、マイクロ波が透過しやすく、圧力差があっても変形しないことが必須条件である。用いられる材料としては、マイクロ波を透過し、万が一熱がかかった場合でも溶融する危険性の少ない高融点の材料である石英ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
また、図2には図示していないが、導波管20の中でプラズマが起こらないように、導波管21に複合分子ポンプを直接設置して誘電体20と整合器22の間の圧力を10−3Pa程度とするが好ましい。
【0033】
本発明におけるマイクロ波発生手段12は、一酸化珪素を始めとした昇華材料9aに含有する水分などの極性分子をマイクロ波を照射することにより均一に加熱し、予め取り除くために用いられるものである。また、マイクロ波照射によるエネルギーを利用したプラズマによって、電子線照射により昇華した材料がイオン化され、あるいは、励起されることで、合成樹脂フィルム7上に優れた膜特性を有する蒸着膜を形成するために用いられるものである。
【0034】
図3は、図1および図2に示すガス噴射手段13の断面概略図である。
本発明におけるガス噴射手段13は、誘電体20よりも真空室1a側に設置されたガスパイプ24と、ガスパイプ24の先端部に設置された永久磁石241と、ガスパイプ24の先端部に設置された冷却手段242と、ガスパイプ24の先端部に設置されたガス噴射口243と、図示していないが、ガスボンベと、圧力調整器等から構成されている。
【0035】
本発明におけるマイクロ波発生手段12およびガス噴射手段13を用い、噴射させたガスにマイクロ波を照射することで、ガスが励起・イオン化し、ガス噴射口243周辺にプラズマを発生させることができる。
【0036】
一般的にマイクロ波のエネルギーは放射しやすく、マイクロ波のエネルギーを集中させることは難しい。しかし、本発明におけるガスパイプ24を、マイクロ波を伝播する導波管21内部に電界を集中させるため、つまり、マイクロ波のエネルギーを集中させるためのアンテナとして用いることで、効率よくプラズマを発生させることができる。本発明におけるガスパイプ24は、ガス噴射口243からガスを噴射することでガス噴射口243周辺にのみ集中してプラズマを発生させることができ、真空室1a内の圧力環境の影響を受けにくくするものである。
しかし、より安定的にプラズマを維持させマイクロ波のエネルギーをプラズマ内に安定供給させるためには、負荷側のインピーダンスの著しい変動がないような回路を構成する必要がある。
【0037】
本発明におけるガスパイプ24としては、筒状あるいは先端を絞った形状などが好ましい。ガスパイプ24の長さとしては、マイクロ波の波長λの1/4倍であることが好ましい。ガスパイプ24の材質としては、銅、鉄、ステンレス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
図4は、図1および図2に示すガス噴射手段13の位置関係を示す断面概略図である。
【0039】
本発明におけるガスパイプ24は、マイクロ波をエネルギー減衰なく伝播している導波管21の内部であって、電気力線を横切らない位置に配置されていることが好ましい(TE01モードの場合、導波管21の長辺方向の中心位置である。)。特に、ガスパイプ24はマイクロ波の波長(λ)の1/4倍の長さを有し、誘電体20壁面からマイクロ波の波長(λ)の1/2倍離れた位置にガス噴射口243が配置されていることが好ましい。
【0040】
誘電体20面から垂直真空室1a内方向にマイクロ波の波長(λ)の1/2倍(+2λn倍:nは整数)、導波管21の内壁面から垂直導波管21内方向にマイクロ波(λ)の波長の1/4倍の位置には、電界エネルギーが集中しているため、この位置にガス噴射口243を設けてガスを放射することで、効率よくマイクロ波のエネルギーをガスの励起・イオン化に使用することができ、ガス噴射口243周辺の圧力が放電を励起させやすい圧力領域であれば、容易に狭い空間にてジェット状の高密度なプラズマを形成することができる。
【0041】
また、一般的に材料容器9と合成樹脂フィルム7との間の空間の昇華した昇華材料9aの蒸気圧は、1,100℃近辺において10−3〜10−2Pa程度であるのに対し、安定的にプラズマを供給することができるガス噴射口243周辺の圧力帯域は10−1Pa程度である。これより、図示していないが、ガス噴射手段13に質量流量計を設置し、ガス噴射口周辺の圧力を任意の圧力帯域に維持することが好ましい。
【0042】
本発明におけるガスパイプ24の先端部に永久磁石241を設置することで、永久磁石241周辺に電子が捕捉されるため、低ガス流量であっても安定的にプラズマを供給することができる。また、安定的なプラズマ供給に適したガス噴射口243周辺の圧力帯域は10−1Pa程度であるが、ガス噴射口243周辺の圧力帯域が10−3Pa程度(安定的な昇華物の成膜に適した圧力帯域は10−3Pa程度)に変動したとしても、永久磁石241を設置することで安定的にプラズマを発生させることができる。
永久磁石241に用いられる材料としては、サマリウム−コバルト合金系、鉄−ニッケルーボロン合金系等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
さらに、本発明におけるガスパイプ24の先端部に冷却手段242を設置することで、プラズマによる熱からガスパイプ24の変形を防止することができる。冷却手段としては、冷却水を循環させてなる水冷手段等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明におけるガス噴射手段13に用いるガスとしては、酸素、アルゴン、窒素等のガスを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本発明の真空成膜装置1では、図1に示すように材料容器9と冷却ロール4との間に網目状のフィルター10を備えることが好ましい。
本発明では、マイクロ波発生手段12を用いて昇華材料9aにマイクロ波を照射し、均一に加熱することで、昇華材料9aに混入している不純物を蒸発させることができる。しかし、昇華材料9aに混入している不純物を予め全て取り除くことは困難であり、昇華材料9aに混入している不純物に起因し発生するスプラッシュを、材料容器9と冷却ロール4との間に設置した網目状のフィルター10によりトラップすることで、さらに防止することができる。
【0046】
本発明におけるフィルター10は、高融点材料を用いることができ、タングステン、チタン等の材料からなるものである。また、網目状とはメッシュ状のものであり、その口径は1mm〜10mm程度である。
【0047】
ここで、材料容器9に配置された昇華材料9aは、一酸化珪素、弗化マグネシウム等の真空条件下において昇華する化合物が用いられる。しかし、これらに限定されるものではない。また、本発明の真空成膜装置を用いて積層体を形成するとき、昇華材料9aに一酸化珪素を用いることが好ましい。この積層体がガスバリア用途であるとき、一酸化珪素は化学的に安定しており、水に対しても腐食しづらい特性を有しているため、バリア性に優れた積層体を得ることができるためである。
【0048】
昇華材料9aの形状や個数は、特に制限されるものではないが、昇華材料9aの昇華する量(g/min)を安定させることができ、また、昇華した昇華材料9aの飛散方向を一定に保つことができるため、昇華材料9aの表面形状はほぼ平滑であることが好ましい。昇華材料9aの表面が凹凸形状である場合、電子線の照射角度が一定ではないため、昇華した昇華材料9aの飛散方向が不規則となる。
【0049】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図5は、図1に示す電子線およびマイクロ波の照射概略図である。
ここで用いられる昇華材料9aは、一辺が50mmである一酸化珪素を焼結させた立方体であり、図5に示すようにNo.1〜No.49までそれぞれ配置されている。さらに、1面が7×7のマトリックス状(No.1〜No.49)に並べられているものが、2面合成樹脂フィルム7の幅方向に配置されている。ここでは、1面が7×7のマトリックス状に並べられているが、これは一実施形態にすぎず、昇華材料9aの個数はこれに限定されるものではない。
【0050】
図5における電子線およびマイクロ波の照射手順としては、はじめに、昇華材料(No.1)にマイクロ波12aを照射し昇華材料(No.1)自体に混入している水分などの不純物を除去する。次に、昇華材料(No.1)に電子線8aおよびマイクロ波12aを照射し昇華材料(No.1)を昇華させる。このとき同時に、昇華材料(No.2)にマイクロ波12aを照射し昇華材料(No.2)自体に混入している水分などの不純物を除去する。次に、昇華材料(No.1)に電子線8aおよびマイクロ波12aを照射し昇華材料(No.1)を昇華させる。このとき同時に、昇華材料(No.3)にマイクロ波12aを照射し昇華材料(No.3)自体に混入している水分などの不純物を除去する。これらの工程を昇華材料(No.1)〜昇華材料(No.49)まで順次行う。ここで、電子線発生手段8の軌跡はまったく変更させる必要がなく、常に電子線の照射位置は変わらない。また、マイクロ波発生手段12を用いて照射するマイクロ波の照射位置は、昇華する昇華材料9aの前後1マスずつ(図5ではNo.10〜No.12の3マス分)の範囲200aおよび200bに集中して常に同じ空間にマイクロ波を照射させることが好ましい。これにより、プロセス環境を安定化することができる。
【0051】
電子線発生手段8およびマイクロ波発生手段12を用いて照射される電子線およびマイクロ波の照射位置はほぼ固定されているため、図1に示す真空成膜装置では、材料容器9を移動させることで、電子線およびマイクロ波の照射位置を移行している。材料容器9の移動には、台車等の材料容器可動手段11(図1に示す)を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0052】
図5に示すように、電子線を照射し、材料容器9がX軸のマイナス方向に一定の速度で並進運度を行うことでNo1からNo7まで昇華材料の昇華が順次進む。その後、さらに連続して昇華材料を昇華させるために、Y軸のマイナス方向に1コマ進みX軸方向に先ほどとは逆(プラス)の方向に並進運動する。これらを繰り返すことで、No.1〜No.49まで昇華材料を安定的に昇華させることができる。
【0053】
図5では、No.1〜No.10の昇華材料9aは既に昇華済みの状態、No.11の昇華材料9aは電子線およびマイクロ波照射により昇華中の状態、No.12の昇華材料9aはマイクロ波照射により昇華材料9a自体に混入している水分などの不純物を除去している状態、No.13〜No.49の昇華材料9aは電子線もマイクロ波も照射していない状態を示している。
【0054】
また、図1に示すように、材料容器可動手段11に高融点材料からなる網目状のフィルター10を配置することで、マイクロ波を照射することによる均一な加熱では取り除けなかった無機材料等の不純物に起因するスプラッシュをトラップさせることができる。
さらに、フィルター10が昇華材料9aと合成樹脂フィルム7との間に設置され、フィルター10の上から電子線およびマイクロ波を照射させているため、フィルター10を加熱され、スプラッシュによる付着物を低減させることができる。また、材料容器9および昇華材料9aと一緒にフィルター10も動くため、フィルター10の網目の状態が常に新しいものとして用いることができ、目詰り等の問題を気にする必要がない。
【0055】
本発明に用いる合成樹脂フィルム7としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等からなるポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるポリオレフィン系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミド系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸フィルム等の生分解性プラスチックフィルム等が用いられる。これらのフィルムは延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性を有するものが好ましい。これらの中では、特に耐熱性や寸法安定性等の面から二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく用いられる。また、合成樹脂フィルム7は帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等の各種添加剤を含有するフィルムでもよく、他の層が積層される側の表面には密着性を良くするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理等が施されていても構わない。
【0056】
合成樹脂フィルム7の厚さは特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性、また、他の層を積層する場合の加工適性等を考慮すると、実用的には3μm〜200μmの範囲で、さらには6μm〜30μm程度のものが好ましい。
【実施例】
【0057】
<実施例1>
まず、真空成膜装置内のフィルム巻き出しロールに合成樹脂フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製 T60、25μm厚さ、500mm幅、2000m長さ、ロール巻き)を設置し、水冷された銅製の坩堝(材料容器)に昇華材料として200gの一酸化珪素(住友チタニウム株式会社製)を配置し、真空ポンプにて真空室内の成膜圧力を3×10−3Paまで排気した。
【0058】
次に、マイクロ波発生手段として、2.45GHzのマイクロ波を発生させる発振器と、整合器は4Eチューナを用い、誘電体は石英ガラス(120mm×95mm×厚さ3mm)を使用して導波管の内部の圧力を真空成膜装置よりも低くするために、複合分子ポンプにより導波管内部の圧力を10−4Pa付近に維持した。
このとき、2.45GHzの波長は約122mm(波長=光の波長/2.45GHzより)であるため、石英ガラス(誘電体)から約60mm離れ、導波管の内壁から30mm離れた位置にガス噴射口が配置されるように、導波管の長辺の中心部にガスパイプ(長さが30mm)を固定した。さらに、ガスパイプの材料は銅を用い、ガスパイプの周りに水冷手段(冷却手段)を設置し、1L/分、25℃の冷却水を循環させてガスパイプの温度を安定させた。また、ガスパイプの先端部にはサマリウム−コバルト合金系の永久磁石を設置し、その磁力は約100ガウスであった。
【0059】
次に、ガス噴射口から電子線を照射する前の圧力が1×10−2Paになるように酸素ガスを供給し、マイクロ波電源(発振器)から2kWの電力を供給することで、酸素プラズマを発生させた。
【0060】
次に、電子線加熱手段により昇華材料を加熱昇温させるとともに、PETフィルムを60m/分の走行速度で巻き出し、冷却ロール上での蒸着を開始した。このときの冷却ロールの温度は−20℃であり、材料容器の移動速度は25mm/分、電子線発生手段の加速電圧は−40KV、エミッション電流値は0.25A、真空室の圧力は4×10−2Paであった。
【0061】
<比較例1>
真空室全体にプラズマを発生させたこと以外は実施例1と同様にPETフィルム上に蒸着を行った。
【0062】
<比較例2>
フィルターを一酸化珪素材料の上に配置しないこと以外は実施例1と同様にPETフィルム上に蒸着を行った。
【0063】
<比較例3>
材料容器可動手段を稼働させず、電子線の照射位置を離散的にずらすことで対応したこと以外は実施例1と同様にPETフィルム上に蒸着を行った。
【0064】
<比較例4>
材料容器可動手段の上に設置されたフィルターの代わりにPETフィルムと坩堝の間にガラスウールを固定したこと以外は実施例1と同様にPETフィルム上に蒸着を行った。
【0065】
<評価>
実施例1、比較例1〜4の装置を用いて作成した各SiO付きフィルムを、A4サイズに切り出した。サンプル採取地点は、成膜開始地点を0mとしたときの、合成樹脂フィルムの搬送方向に500m、1000m、1500mの3地点で行った。
まず、各サンプルについて、材料容器周辺のピンホールの状態を目視により観察した。
次に、各サンプルについて、ピンホールの数を光学顕微鏡により観察した。
次に、各サンプルについて、SiOの膜厚を蛍光X線反射率法により測定した。
【0066】
結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1では比較例1〜3と比較して材料容器周辺のピンホールの数が少なく、スプラッシュ量が少ないことがわかる。
実施例1と比較例1とを比べることで、マイクロ波による水分等の不純物であるガスが材料自体から発生するスプラッシュ量と相関関係を有していることがわかる。
また、実施例1と比較例2とを比べることで、フィルターのトラップ効果がフィルムに与えるスプラッシュ量を大幅に抑えていることがわかる。
また、比較例3においては、電子線の焦点距離が逐次変わるために、膜厚の均一性能が悪くなるばかりでなく、マイクロ波による脱ガスの効果も期待できなくなるため、スプラッシュ量が非常に多い結果となってしまった。これは、電子線で加熱されて昇華した昇華材料の表面を電子線が何度も照射することから発生する昇華材料の凹凸状の表面状態がスプラッシュ量と相関関係を有していることがわかる。
また、比較例4においては、長期間の成膜にともないフィルターが目詰まりすることでSiOの膜厚が薄くなっていく傾向にあり、量産性に乏しいことがわかる。

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明における真空成膜装置断面概略図。
【図2】図1に示すマイクロ波発生手段を上面から見たときの断面概略図。
【図3】図1および図2に示すガス噴射手段13の断面概略図。
【図4】図1および図2に示すガス噴射手段13の位置関係を示す断面概略図。
【図5】図1に示す電子線およびマイクロ波の照射手順概略図。
【符号の説明】
【0070】
1 真空成膜装置
2 真空ポンプ
3 隔壁
4 冷却ロール
5 巻き出しロール
6 巻き取りロール
7 合成樹脂フィルム
8 電子線発生手段
8a 電子線
9 材料容器
9a 昇華材料
9b 昇華した昇華材料
10 フィルター
11 材料容器可動手段
12 マイクロ波発生手段
12a マイクロ波
20 誘電体
21 導波管
22 整合器
23 発振器
24 ガスパイプ
25 2分岐導波管
200a マイクロ波照射範囲
200b マイクロ波照射範囲
241 永久磁石
242 冷却手段
243 ガス噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気下にある真空室内で合成樹脂フィルムの少なくとも一方の面上に昇華させた昇華材料を成膜する真空成膜装置において、
前記真空室は少なくとも
前記真空室内の空気を排気する真空ポンプと、
前記合成樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、
前記巻き出しロールを用いて巻き出した合成樹脂フィルムを搬送する冷却ロールと、
前記冷却ロールを用いて搬送した合成樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールと、
前記冷却ロールと対向する位置に配置された昇華材料と、
前記昇華材料を備える材料容器と、
前記昇華材料に電子線を照射する電子線発生手段と、
前記電子線発生手段を用いて電子線を照射した昇華材料の照射部およびその周辺部に、導波管の開口部よりマイクロ波を照射するマイクロ波発生手段と、
前記導波管の開口部付近に配置されたガスパイプよりガスを噴射するガス噴射手段と、
を有することを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
前記昇華材料表面がほぼ平滑であり、かつ、前記材料容器が可動式であることを特徴とする請求項1に記載の真空成膜装置。
【請求項3】
前記材料容器と冷却ロールとの間に高融点材料からなる網目状のフィルターを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の真空成膜装置。
【請求項4】
前記マイクロ波発生手段は少なくとも
マイクロ波を発生させる発振器と、前記マイクロ波のインピーダンスを調整する整合器と、前記マイクロ波を伝播する導波管と、前記導波管の開口部付近に設置され、前記導波管と真空室とを分離し、前記マイクロ波を透過する誘電体と、を備え、
前記ガス噴射手段は少なくとも
前記マイクロ波の波長(λ)の1/4倍の長さを有し、前記誘電体よりも真空室側であり、前記導波管内部にマイクロ波の伝播する電気力線を横切らない位置に配置されたガスパイプと、前記誘電体からマイクロ波の波長(λ)の1/2倍離れた位置に配置されたガス噴射口と、前記ガスパイプの先端部に設置された冷却手段と、前記ガスパイプの先端部に設置された永久磁石と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項5】
前記昇華材料が一酸化珪素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真空成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−291309(P2008−291309A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137691(P2007−137691)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】