説明

真空蒸着方法

【課題】結晶性が良好で、且つ、膜厚分布が均一である蛍光体層を形成することのできる真空蒸着方法を提供することにある。
【解決手段】真空蒸着室内に設けた蒸発部から蒸発させた成膜材料を前記蒸発部の上方を直線状に往復移動する被処理基板の表面に蒸着させる真空蒸着方法において、
前記成膜材料の蒸着は、0.1〜5Paの圧力下で、下記の式(1)の条件を満たす位置に、前記蒸着部および前記往復移動の際の被処理基板の折返し位置を設けて行われることにより、前記課題を解決する。
0<L/L<1.25 (1)
(式中Lは、前記蒸発部の蒸発口が属する水平面から前記被処理基板までの垂直距離を示し、Lは、前記折り返し位置に位置する被処理基板の前記蒸発部側の端部と前記蒸発部の蒸発口の前記被処理基板側の端部との水平距離を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着方法の技術分野に属し、より具体的には、中真空下で蒸着を行う場合において、蒸着膜厚の膜厚分布が均一な蒸着膜が得られる真空蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線,α線,β線,γ線,電子線あるいは紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、上述の蓄積された放射線エネルギーに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)と呼ばれ、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
一例として、この蓄積性蛍光体を含有する層(以下、蛍光体層という)を有するシート(蛍光体シート)を利用する放射線画像情報記録再生システムが知られている。この蛍光体シートは、放射線像変換パネル(IP)とも呼ばれているが、以下の説明では、蛍光体シートという。なお、このようなシステムとして、既に実用化されているものに、FCR(Fuji Computed Radiography:富士写真フイルム(株)商品名)が挙げられる。
【0004】
このシステムにおいては、まず、蛍光体シート(の蛍光体層)に人体等の被写体の放射線画像情報を記録する。記録後に、蛍光体シートをレーザ光等の励起光で2次元的に走査して、輝尽発光光を放出させる。そして、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて再生した画像を、写真感光材料等の記録材料あるいはCRT等の表示装置に可視像として出力する。なお、読み取りの終了した蛍光体シートは、残存する画像を消去して、繰り返し使用される。
【0005】
上述の蛍光体シートは、通常、蓄積性蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗布液を調製して、ガラスや樹脂等で形成されたシート状の支持体に塗布し、乾燥して、蛍光体層を成膜することによって製造される。
これに対して、真空蒸着やスパッタリング等の物理蒸着法(気相成膜法)によって、支持体に蛍光体層を成膜してなる蛍光体シートも知られている(例えば特許文献1)。
【0006】
このように蒸着によって支持体上に成膜される蛍光体層は、真空中で成膜されるため不純物が少なく、また、バインダ等の蓄積性蛍光体以外の成分が殆んど含まれないので、性能のばらつきが少なく、発光効率が良好である。この真空蒸着法は、真空容器内において、成膜材料を蒸発部で蒸発させて、基板表面に蛍光体層を成膜するものである。
【0007】
また、良好な輝尽発光特性を得るためには、蛍光体の結晶を成長させて十分な高さと良好な形状とを備えたコラム(柱状結晶)を形成するのが好ましく、そのためには通常よりも低い真空度で蒸着を行うのが好適であることが知られている。例えば、1〜10Paの比較的低い真空度で蒸着を行うことにより蛍光物質の針状結晶を析出させる方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0008】
上記真空蒸着法を実施する真空蒸着装置には、基板を回転させて基板上に蛍光体層を蒸着する基板回転型の真空蒸着装置や基板を直線搬送しつつ蛍光体層を蒸着する直線搬送型の真空蒸着装置がある。
ここで、図3に直線搬送型の真空蒸着装置の概略構成図を示す。この直線搬送型の真空蒸着装置(以下、単に装置とする)110は、被処理基体としてのシート状のガラス基板(以下、単に基板という)Sの表面に蛍光体層を二元の真空蒸着によって形成して、蛍光体シートを製造するものである。
【0009】
装置110は、基本的に、真空蒸着室としての真空チャンバ112と、基板を保持し直線的に搬送する基板保持搬送機構114と、蒸発部としての加熱蒸発部116とを有して構成される。
装置110は、一例として、臭化セシウム(CsBr)および臭化ユーロピウム(
EuBr)を成膜材料とする二元の真空蒸着を行って、基板S上にCsBr:Euを蓄積性蛍光体とする蛍光体層を成膜して、蛍光体シートを製造するものである。なお、臭化セシウム(CsBr)は、蛍光体の母体成分であり、他方、臭化ユーロピウム(EuBr)は、付活剤成分の材料である。
【0010】
図3に示すように、真空チャンバ112内の下方には、加熱蒸発部116が配置されている。前述のように、図示例の装置110は、臭化セシウム(CsBr)を第一の成膜材料として使用し、臭化ユーロピウム(EuBr)を第二の成膜材料として使用し、これらを別々に加熱して蒸発させる二元の真空蒸着を行うものである。このため、加熱蒸発部116は、第一の蒸発部としてのセシウム蒸発部(以下、Cs蒸発部という)131aと、第二の蒸発部としてのユーロピウム蒸発部(以下、Eu蒸発部という)131bの二種類の蒸発部を有している。
【0011】
ここで、蒸発部131の配置について図4を参照して説明する。図4は、蒸発部131と基板Sとの位置関係を模式的に表した図である。図4に示すように、装置110では、蒸発部131(Cs蒸発部131aおよびEu蒸発部131b)は、基板Sの搬送方向(図4中矢印方向)と直交する方向に、交互に配置(図示例では、計6つ)される。このように、蒸発部131を基板搬送方向と直交する方向に配列し、基板Sを往復搬送しつつ真空蒸着を行うことにより、より膜厚が均一な蛍光体層を形成することができる。
【0012】
【特許文献1】特開2003−172799号公報
【特許文献2】米国特許US2001/0010831A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、直線搬送型の装置110においては、通常、基板Sは、蒸発部131の上方を図中矢印の方向に一定速度で直線状に往復搬送され、所定の膜厚が蒸着される。
このとき、基板Sは、蒸発部131からの蒸発流中を一定の速度で通過することにより、基板S表面に均一に膜を形成することができる。そのため、基板Sが往復搬送される際に折り返す位置(以下、単に折り返し位置とする)が、蒸発部131、特に、蛍光体の母体成分を収容する蒸発部131aからの蒸発流の到達する範囲から完全に抜け切っていない場合には、折り返し位置において、蒸発流が到達する範囲内にある基板Sの一部は、過剰に蒸着されてしまう。
【0014】
例えば、上記装置110において、基板Sの折り返し位置が蒸発部131からの蒸発流の範囲内に位置すると、基板Sが、図4に実線で示す位置で折り返す場合には、蒸発部131からの蒸発流の影響を受ける部分(図4中に斜線で示す領域R付近)では、目的とする膜厚よりも過剰に蒸着されてしまう。そのため、上記領域Rと蒸発流の影響を受けず、すなわち、過剰に蒸着されず、目的の膜厚が蒸着された部分(図4中に斜線で示す以外の部分)とで膜厚に差が生じる。他方、基板Sが、図4に二点鎖線で示す位置で折り返す場合も同様にして、蒸発部131からの蒸発流の影響を受ける部分(図4中に斜線で示す領域付近R付近)と蒸発流の影響を受けず、すなわち、過剰に蒸着されず、目的の膜厚が蒸着された部分(図4中に斜線で示す以外の部分)とで膜厚に差が生じる。
【0015】
すなわち、直線搬送型の装置110において、基板Sの折り返し位置を、蒸発部131、特に、蒸発部131aからの蒸発流の到達する範囲にすると、基板Sの搬送方向の両端部付近における搬送方向と直交する方向の膜厚分布、すなわち、図2にAA’およびBB’で示す直線付近を測定した際の膜厚分布にばらつきが生じる。なお、基板Sの搬送方向の中央付近における搬送方向と直交する方向の膜厚分布、すなわち図2にCC’で示す直線付近を測定した際の膜厚分布は、膜厚分布が小さく、ほぼ均一である。
【0016】
しかし、特許文献1および2を含め、中真空条件下で、直線搬送型の真空蒸着装置を用いて多元蒸着を行う場合に、蒸発部(特に、蛍光体の母体成分を収容する蒸発部)に対する基板Sの折り返し位置についての規定はなんら開示されておらず、そのような問題が内在することを示唆する文献すら存在しない。
【0017】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、結晶性が良好で、且つ、膜厚分布が均一である蛍光体層を形成することのできる真空蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、真空蒸着室内に設けた蒸発部から蒸発させた成膜材料を前記蒸発部の上方を直線状に往復移動する被処理基板の表面に蒸着させる真空蒸着方法において、前記成膜材料の蒸着は、0.1〜5Paの圧力下で、下記の式(1)の条件を満たす位置に、前記蒸着部および前記往復移動の際の被処理基板の折返し位置を設けて行われることを特徴とする真空蒸着方法を提供するものである。
0<L/L<1.25 (1)
(式中Lは、前記蒸発部の蒸発口が属する水平面から前記被処理基板までの垂直距離を示し、Lは、前記折り返し位置に位置する被処理基板の前記蒸発部側の端部と前記蒸発部の蒸発口の前記被処理基板側の端部との水平距離を示す。)
【0019】
本発明においては、前記蒸発部が、前記被処理基板の搬送方向と直交する方向に複数列配置され、且つ、隣り合う蒸発部は、互いに、前記搬送方向に直交する方向にずれて配置されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の蒸着方法は、結晶性が良好で、且つ、膜厚分布が均一である優れた蛍光体層を形成することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置の概略構成を示す模式側面図である。本実施形態に係る真空蒸着装置(以下、単に装置という)10は、被処理基体としてのシート状のガラス基板(以下、単に基板という)Sの表面に蓄積性蛍光体層(以下、単に蛍光体層という)を二元の真空蒸着によって形成して、蛍光体シートを製造するものである。
【0022】
本実施形態に係る装置10は、基本的に、先の従来技術で述べた装置110と同様の構成を有するものであり、真空蒸着室としての真空チャンバ12と、基板Sを保持し直線的に搬送する基板保持搬送機構14と、蒸発部としての加熱蒸発部16とを有して構成される、いわゆる直線搬送型の真空蒸着装置である。また、本実施形態に係る装置10は、真空チャンバ12内に、加熱蒸発部16からの基板方向への輻射熱を遮蔽するための熱遮蔽板(図示省略)を備えていてもよい。
【0023】
なお、本実施形態に係る装置10は、これ以外にも、真空チャンバ12内を排気して所定の真空度にするための図示されていない真空ポンプ(真空引きする手段)等を有しており、さらに、真空チャンバ12内に後述するようなガスを導入するためのガス導入手段が接続されている。
【0024】
本実施形態に係る装置10は、一例として、臭化セシウム(CsBr)および臭化ユーロピウム(EuBr)を成膜材料とする二元の真空蒸着を行って、基板S上にCsBr:Euを蓄積性蛍光体とする蛍光体層を成膜して、蛍光体シートを製造するものである。
【0025】
なお、蓄積性蛍光体は、上述のCsBr:Euには限定されず、各種のものが利用可能である。好ましくは、波長が400nm〜900nmの範囲の励起光により、300nm〜500nmの波長範囲に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体が利用される。
【0026】
蛍光体層を形成する輝尽性蛍光体としては、各種のものが利用可能であるが、一例として、下記の輝尽性蛍光体が好ましく例示される。
米国特許第3,859,527号明細書に記載されている輝尽性蛍光体である、「SrS:Ce,Sm」、「SrS:Eu,Sm」、「ThO2 :Er」、および、「La22 S:Eu,Sm」。
【0027】
特開昭55−12142号公報に開示される、「ZnS:Cu,Pb」、「BaO・xAl23 :Eu(但し、0.8≦x≦10)」、および、一般式「MIIO・xSiO2 :A」で示される輝尽性蛍光体。
(上記式において、MIIは、Mg,Ca,Sr,Zn,CdおよびBaからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Ce,Tb,Eu,Tm,Pb,Tl,BiおよびMnからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0.5≦x≦2.5である。)
【0028】
特開昭55−12144号公報に開示される、一般式「LnOX:xA」で示される輝尽性蛍光体。
(上記式において、Lnは、La,Y,GdおよびLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、Xは、ClおよびBrの少なくとも一種であり、Aは、CeおよびTbの少なくとも一種である。また、0≦x≦0.1である。)
【0029】
特開昭55−12145号公報に開示される、一般式「(Ba1-x ,M2+x)FX:yA」で示される輝尽性蛍光体。
(上記式において、M2+は、Mg,Ca,Sr,ZnおよびCdからなる群より選択される少なくとも一種であり、Xは、Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,YbおよびErからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦x≦0.6であり、0≦y≦0.2である。)
【0030】
特開昭59−38278号公報に開示される、一般式「xM3 (PO42 ・NX2 :yA」または「M3 (PO42 ・yA」で示される輝尽性蛍光体;
(上記式において、MおよびNは、それぞれ、Mg,Ca,Sr,Ba,ZnおよびCdからなる群より選択される少なくとも一種であり、Xは、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Sb,Tl,MnおよびSnからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦x≦6、0≦y≦1である。)
【0031】
一般式「nReX3 ・mAX’2 :xEu」または「nReX3 ・mAX’2 :xEu,ySm」で示される輝尽性蛍光体;
(上記式において、Reは、La,Gd,YおよびLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Ba,SrおよびCaからなる群より選択される少なくとも一種であり、XおよびX’は、それぞれ、F,Cl,およびBrからなる群より選択される少なくとも一種である。また、1×10-4<x<3×10-1であり、1×10-4<y<1×10-1であり、さらに、1×10-3<n/m<7×10-1である。)
【0032】
および、特開昭61−72087号公報に開示される、一般式「MI X・aMIIX’2 ・bMIII X''3 :cA」で示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体。
(上記式において、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIII は、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX''は、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0<c≦0.2である。)
【0033】
特開昭56−116777号公報に開示される、一般式「(Ba1-X ,MIIX )F2 ・aBaX2 :yEu,zA」で示される輝尽性蛍光体。
(上記式において、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,ZnおよびCdからなる群より選択される少なくとも一種であり、Xは、Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、ZrおよびScの少なくとも一種である。また、0.5≦a≦1.25であり、0≦x≦1であり、1×10-6≦y≦2×10-1であり、0<z≦1×10-2である。)
【0034】
特開昭58−69281号公報に開示される、一般式「MIII OX:xCe」で示される輝尽性蛍光体。
(上記式において、MIII は、Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびBiからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、Xは、ClおよびBrの少なくとも一種である。また、0≦x≦0.1である。)
【0035】
特開昭58−206678号公報に開示される、一般式「Ba1-x Ma La FX:yEu2+」で示される輝尽性蛍光体。
(上記式において、Mは、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、Lは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Gd,Tb,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,Ga,InおよびTlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、Xは、Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種である。また、1×10-2≦x≦0.5であり、0≦y≦0.1であり、さらに、aはx/2である。)
【0036】
特開平59−75200号公報に開示される、一般式「MIIFX・aMI X’・bM’IIX''2 ・cMIII3 ・xA:yEu2+」で示される輝尽性蛍光体。(上記式において、MIIは、Ba,SrおよびCaからなる群より選択される少なくとも1種であり、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、M’IIは、BeおよびMgの少なくとも一方の二価の金属であり、MIII は、Al,Ga,In、およびTlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、Aは、金属酸化物であり、X、X’およびX''は、それぞれ、F,Cl,Br,およびIからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a≦2であり、0≦b≦1×10-2であり、0≦c≦1×10-2であり、かつ、a+b+c≧10-6であり、さらに、0<x≦0.5であり、0<y≦0.2である。)
【0037】
特に、優れた輝尽発光特性を有し、かつ、本発明の効果が良好に得られる等の点で、特開昭57−148285号公報に開示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく例示され、中でも特に、MI が、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく、その中でも特に、一般式「CsBr:Eu」で示される輝尽性蛍光体が好ましい。
【0038】
本発明においては、このような輝尽性蛍光体からなる蛍光体層の成膜を真空蒸着で行う。中でも、蛍光体成分の材料と、付活剤(賦活剤:activator)成分の材料とを別々に加熱蒸発させる、多元の真空蒸着を行う。例えば、前記「CsBr:Eu」の蛍光体層であれば、蛍光体成分の材料として臭化セシウム(CsBr)を、付活剤成分の材料として臭化ユーロピウム(EuBr)を、それぞれ用いて、別々に加熱蒸発させる、多元の真空蒸着を行う。真空蒸着における加熱方法には特に限定はないが、本発明のようにいわゆる中真空の条件で蒸着を行うには、抵抗加熱が好ましい。さらに、多元の真空蒸着を行う場合には、全ての材料を同様の同じ加熱手段(例えば、電子線加熱)で加熱蒸発してもよく、あるいは、蛍光体成分の材料は電子線加熱で、微量である付活剤成分の材料は抵抗加熱で、それぞれ加熱蒸発させてもよい。
【0039】
なお、本実施形態に係る真空蒸着装置10においては、真空チャンバ12内の到達真空度は、1×10−5Pa〜1×10−2Pa程度の真空度とする。このとき、真空蒸着装置10内の雰囲気中の水分圧を、ディフュージョンポンプ(もしくは、ターボ分子ポンプ等)との組み合わせ等を用いることにより、7.0×10−3Pa以下にすることが好ましい。次いで、真空引きしながら、Arガス,Neガス,Nガス等の不活性ガスを導入して、0.1〜5Pa程度、より好ましくは、0.1〜3Pa程度の真空度とする。
【0040】
上述の状態を維持しながら、Arガス,Neガス,Nガス等の不活性ガスを導入して、0.1〜5Pa程度、より好ましくは、0.1〜3Pa程度の真空度とするという蒸着条件(いわゆる、中真空の条件)は、形成される蓄積性蛍光体のコラム(柱状構造)を整然とした形状にすることができ、結果として、形成される蓄積性蛍光体のX線特性、特に画像ムラ(ストラクチャー)を向上させることができる。
【0041】
この画像ムラ(ストラクチャー)とは、真空蒸着により、蛍光体層を基板表面に成膜した蛍光体シート(蒸着IP/放射線像変換パネル)を用いてX線撮影を行った場合のX線画像の撮像ムラ、および、蛍光体シートの基板表面に成膜された蛍光体層を構成する、蛍光体の結晶の柱状性、すなわち柱状構造の完全さ(具体的には、柱状形の結晶のアスペクト比の高さ、隙間の均一さ、ヒロックの有無)の程度を指す。
【0042】
なお、基板の加熱等によって、成膜中に、成膜された蛍光体層を50℃〜400℃で加熱してもよい。また、成膜する蛍光体層の厚さにも、限定はないが、10μm〜1000μm、特に、20μm〜800μmが好ましい。
【0043】
真空チャンバ12は、鉄,ステンレス,アルミニウム等で形成される、真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。図示例において、真空チャンバ12内には、上方に基板保持搬送機構14が、また、下方に加熱蒸発部16がそれぞれ配設される。
【0044】
また、前述のように、真空チャンバ12には、真空引きする手段として、図示されていない真空ポンプが接続されている。真空ポンプにも特に制限はなく、必要な到達真空度を達成できるものであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。一例として、油拡散ポンプ,クライオポンプ,ターボモレキュラーポンプ等を利用すればよく、また、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。
【0045】
基板保持搬送機構14は、例えば、基板Sを保持する基板保持手段と、基板保持手段を直線的に移動させるための直線搬送手段とを用いて構成することができる。図1においては、直線搬送手段は、ボールネジ84を用いて構成されている。ボールネジ84のネジ軸84aをモータ86によって回転させることにより、ボールネジ84のナット部84bに固定された基板保持手段82がガイドレールによって案内されつつ直線的に搬送される。ここでは、直線搬送手段としてボールネジ84を用いたが、これに限定されず、リニアモータを利用したリニア搬送装置や、シリンダを利用する搬送装置、ラックアンドピニオン式の搬送装置、モータによって回転されるリング状のチェーンを利用した搬送装置を利用することができる。
【0046】
基板保持搬送機構114による基板Sの搬送においては、十分な膜厚を有し、かつ、膜厚が均一な蛍光体層を形成するために、基板Sを直線状(図1および図2に示す矢印方向)に、複数回、往復移動させる。
また、基板の搬送速度は、基板上に均一な膜厚の膜を形成するためには、1〜1000(mm/sec)が好ましく、20〜300(mm/sec)がより好ましい。
【0047】
なお、ここで用い得る、基板Sには特に限定はなく、蛍光体パネルで使用されている各種のものが利用可能である。一例として、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルム;石英ガラス、無アルカリガラス、ソーダガラス、耐熱ガラス(パイレックス(商標名)等)などから形成されるガラス板;アルミニウムシート、鉄シート、銅シート、クロムシートなどの金属シートあるいは金属酸化物の被服層を有する金属シート;等が例示される。
【0048】
真空チャンバ12内の図中下方には、加熱蒸発部16が配置されている。真空チャンバ12内の図中下方には、加熱蒸発部16が配置されている。前述のように、図示例の装置10は、臭化セシウム(CsBr)を第一の成膜材料として使用し、臭化ユーロピウム(EuBr)を第二の成膜材料として使用し、これらを別々に加熱して蒸発させる二元の真空蒸着を行うものである。このため、加熱蒸発部16は、第一の蒸発部としてのセシウム蒸発部(以下、Cs蒸発部という)31aと、第二の蒸発部としてのユーロピウム蒸発部(以下、Eu蒸発部という)31bの二種類の蒸発部を有している。
【0049】
Cs蒸発部31aは、抵抗加熱装置36によって、蒸発位置(ルツボ)に収容した臭化セシウム(母体結晶材料)を、抵抗加熱して蒸発させる機能を有する。また、Eu蒸発部31bは、抵抗加熱装置34によって、蒸発位置(ルツボ)に収容した臭化ユーロピウム(付活剤材料)を、抵抗加熱して蒸発させる機能を有する。
本実施形態において、臭化セシウムの蒸発手段、および臭化ユーロピウムの蒸発手段は、特に限定はなく、蛍光体が大部分を占めるとともに、200μmを超える蛍光体層の成膜に対して、十分な成膜速度を得られるものであれば、各種の加熱蒸発手段を利用することができる。また、図示は省略したが、各蒸発位置には、それぞれの材料を供給する材料供給手段が設けられている。
【0050】
ここで、本実施形態に係る装置10において、基板Sを直線状(図1および図2に示す矢印方向)に、複数回、往復移動させて蒸着を行う際に、基板Sが折り返しをする位置(以下、単に折り返し位置とする)を、上記蒸発部31に対して、どの位置に設定するかを、図2を参照して説明する。
なお、図2は、上方からみた基板Sと蒸着部31との位置関係を模式的に表した図であり、図1および図2に示す装置10では、蒸着部31は直方体形状を有し、ユーロピウム蒸発部31bよりCs蒸発部31aの方が大きく示されている。蒸着部の大きさや形状は、これに限定されず、用いる成膜材料や、基板上に形成する膜体の組成等に応じて、適宜変更することができる。
【0051】
本実施形態では、図2に示すように、蒸着部31は、基板の搬送方向に4列に配置され、内側の2列にEu蒸発部31bが配置され、その外側にCs蒸発部31aがそれぞれ配置される。図2中左側の2列のそれぞれの蒸発部31は、搬送方向に垂直な方向における位置が互いに一致して配置されている。また、図2中右側の2列の蒸発部31も同様である。さらに、図2中左側の2列の蒸発部は、右側2列の蒸発部に対して搬送方向に垂直な方向にずれて配置されている。また、4列の蒸発部31において、内側2列の列間隔が他の列間隔よりも広くなるように、それぞれの蒸発部31が配置されている。
このように、蒸発部31を基板搬送方向と直交する方向に配列し、基板Sを往復搬送しつつ真空蒸着を行うことにより、より膜厚が均一な蛍光体層を形成することができる。
【0052】
上述のように、本実施形態に係る装置10は、十分な膜厚を有し、かつ、膜厚が均一な蛍光体層を形成するために、基板Sを直線状に、複数回、往復移動させる。この往復移動における基板Sの折り返し位置が、先の従来技術でも述べたように、蒸発部31、特に、蛍光体の母体成分からの蒸発流の到達する範囲にあると、基板Sの両端部付近の搬送方向と直交する方向の膜厚分布にばらつきが生じる。そこで、本実施形態に係る装置10では、蒸発部31からの蒸発流の影響を受けない位置で折り返すように、基板Sは、蒸発部31に対して、次式(1)
0<L/L<1.25 (1)
の関係を満たす位置で折り返すように設定される。
【0053】
ここで、式(1)中Lは、Cs蒸発部31aの蒸発口が属する水平面と基板Sの蒸着面が属する水平面との距離を示す。また、式(1)中Lは、折り返し位置に位置する基板Sの蒸発部31側の端部とCs蒸発部31aの蒸発口の折り返し位置に位置する基板S側の端部との距離を示す。
【0054】
上記式(1)で、L/Lの値を0超かつ1.25未満の範囲としたのは、L/Lの値を0以下にするのは、設計上不可能であり、一方、L/Lの値が、1.25を超えると、基板Sの搬送方向の両端部における搬送方向と直交する方向の膜厚分布のばらつきは解消されるが、いわゆる中真空の条件下では、蒸発部31からの成膜材料が到達し得る距離が短いので、基板Sの表面にまで成膜材料が到達できず、成膜材料の利用効率が非常に悪くなり、生産性が悪化し、実用的ではなくなるからである。また、L/Lは0<L/L<1.25であることが好ましく、より好ましくは、0.01≦L/L≦1である。
【0055】
図2に示す例では、蒸発部31を基板Sの搬送方向に、4列配置しているが、本発明は、これに限定されず、必要に応じて、蒸発部31の列数を変更してもよい。ただし、いずれの場合においても、上記式(1)を満たすように、蒸発部31に対して、基板Sの折り返し位置が設定される。
【0056】
次に、本発明の一の実施形態に係る装置10における蛍光体層の蒸着方法について、より詳細に説明する。
前述のように、本実施形態に係る装置10は、ガスを導入し、抵抗加熱により二元の真空蒸着を行うものである。蛍光体シートを製造する際には、まず、基板Sを基板保持搬送機構14の所定位置に成膜面を下方に向けて装着した後、真空チャンバ12を閉塞して減圧する。
【0057】
真空チャンバ12にArガス等の不活性ガスを導入して、内部を所定の真空度(0.1〜5Pa程度、より好ましくは、0.1〜3Pa程度)にする。真空チャンバ12内が所定の真空度になったら、モータ86によってボールネジ84のネジ軸84aを回転させて、ボールネジ84のナット部84bに固定された基板保持手段82がガイドレールに案内されつつ直線的に搬送される。すなわち、基板Sを所定の速度で搬送しつつ、加熱蒸発部16において、蛍光体層の蒸着を開始する。
【0058】
より具体的には、加熱蒸発部16において、Eu蒸発部31bの抵抗加熱装置34を駆動して蒸発位置(ルツボ)に収容された臭化ユーロピウム(EuBr)を蒸発させ、かつ、同様に、Cs蒸発部31aの抵抗加熱装置36を駆動して蒸発位置の臭化セシウム(CsBr)を蒸発させて、基板SへのCsBr:Euの蒸着、すなわち目的とする蛍光体層の蒸着を開始する。
【0059】
抵抗加熱による蒸着の場合には、このように、抵抗加熱装置に電流を流すことによって蒸発源を加熱する。蒸発源である蓄積性蛍光体の母体成分や付活剤成分等は、加熱されて蒸発・飛散する。そして、両者は、反応を生じて蛍光体を形成するとともに基板表面に堆積する。なお、本実施形態のように、不活性ガスを導入して蒸着を行う場合には、抵抗加熱装置の使用が好ましい。
【0060】
上記説明したように、上記式(1)を満たすように、蒸発部31に対する基板Sの折り返し位置が設定されているため、基板Sは、折り返し位置で、蒸発部31aからの蒸発流で蒸着されることがなくなり、均一な柱状結晶を有し、且つ、膜厚分布の均一な蛍光体層を得ることができ、これにより、X線特性が均一・良好な蛍光体シートを製造することが可能になるという効果が得られる。
【0061】
また、本実施形態においては、基板を、複数回往復させて蒸着をおこなっていたが、基板の搬送は、これに限定されるものではなく、所望の膜が得られるのであれば一方向のみ(ワンパス)移動させるだけでもよく、この場合は、式(1)を満たす位置に基板Sの搬送開始位置と搬送終了位置を設定してもよい。
【0062】
以上、本発明の真空蒸着方法ついて説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されないのは言うまでもない。
【0064】
[実施例1]
まず、第一の成膜材料として、純度4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末を用意し、これを収容した第一の蒸発部としてCs蒸発部を用意した。また、第二の成膜材料として、純度3N以上の臭化ユーロピウム(EuBr)粉末を用意し、これを収容した第二の蒸発部としてEu蒸発部を用意した。第一の成膜材料(臭化セシウム(CsBr)粉末)および第二の成膜材料(臭化ユーロピウム(EuBr)粉末)中の微量元素のICP‐MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析‐質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li,Na,K,Rb)は各々10ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)など他の元素は2ppm以下であった。また、EuBr中のEu以外の希土類元素は、夫々20ppm以下であり、他の元素は10ppm以下であった。
【0065】
次いで、真空チャンバ12内に、上記実施形態と同様に、内側にEu蒸発部31bを2列、その外側に各1列ずつCr蒸発部31aを設けた。図2中左側の2列のそれぞれの蒸発部31は、搬送方向と直交する方向における位置が互いに一致するように配置した。また、図2中右側の2列の蒸発部31も同様に配置した。さらに、図2中左側の2列の蒸発部は、右側2列の蒸発部に対して搬送方向と直交する方向にずらして配置した。また、4列の蒸発部31において、内側2列の列間隔が他の列間隔よりも広くなるように、それぞれの蒸発部31を配置した。
【0066】
上述のように、本実施形態に係る装置10は、蛍光体層を形成するために、基板Sを直線状に、複数回往復移動させる。そのため、蒸発部31の配置を終了した後、この往復移動時の基板Sの折り返し位置を設定する。ここで、Cs蒸発部31aの蒸発口が属する水平面と基板Sの蒸着面が属する水平面との距離Lについては30mm、折り返し位置に位置する基板Sの蒸発部31側の端部とCs蒸発部31aの蒸発口の折り返し位置に位置する基板S側の端部との水平方向の距離Lについては100mmとした。
【0067】
基板Sの搬送における折り返し位置の設定後、支持体として、順にアルカリ洗浄,純水洗浄およびIPA(イソプロピルアルコール)洗浄を施した合成石英で構成された基板Sを用意し、真空蒸着装置10内の基板Sホルダーに装着した。第一の成膜材料としてのCsBr,第二の成膜材料としてのEuBrを前述の実施形態に示したCs蒸発部31a,Eu蒸発部31bに充填し、真空チャンバ12内を1×10−3Paの真空度とした。その後、真空チャンバ12内にArガスを導入して、1.0Paの真空度にした。次いで、基板Sを直線方向に、複数回、往復して搬送し、膜厚が約1000μmになるまで蒸着を行った。
【0068】
[実施例2〜4]
を50mm、Lを100mmとした以外は、実施例1と同様にして(実施例2)、Lを100mm、Lを100mmとした以外は、実施例1と同様にして(実施例3)、Lを10mm、Lを100mmとし、真空チャンバ内にArガスを導入して真空にした際の真空度を3.0Paにした以外は、実施例1と同様にして(実施例4)、蛍光体層を得た。
【0069】
[比較例1〜2]
を0mm、Lを100mmとした以外は、実施例1と同様にして(比較例1)、Lを125mm、Lを100mmとした以外は、実施例1と同様にして(比較例2)、蛍光体層を得た。
【0070】
得られた各種の蛍光体層について、下記のようにして、蒸着後の蛍光体層の中央部および端部の膜厚分布と、蒸着材料の利用効率とを調べた。これらの結果とL、L、L/L、成膜時の真空度とをまとめたものを表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
[膜厚分布の測定]
蛍光体層の蒸着時に搬送方向と直交する方向に位置していた両側辺から50mm内側に入った側辺と平行な直線上を、レーザ変位計で、ラインスキャンをして、蛍光体層の膜厚を測定し、蛍光体層の平均膜厚である1000μmとの差を求め、この結果を、蒸着後の蛍光体層の端部の膜厚分布として、表1に示す。また、蛍光体層の蒸着時に搬送方向に位置していた両側辺の中心を結ぶ直線上を、同様に、レーザ変位計で、ラインスキャンをして、蛍光体層の膜厚を測定し、蛍光体層の平均膜厚である1000μmとの差を求め、この結果を、蒸着後の蛍光体層の中央部の膜厚分布として、表1に併記する。
【0073】
[材料効率]
まず、比較例1における蒸着時に用いた蒸着材料使用量に対する蒸着膜重量の割合を求めた。同様に、比較例2および実施例1〜4の蒸着時に用いた蒸着材料使用量に対する蒸着膜重量の割合を各々求めた。このときの比較例1の割合を100とした場合に、比較例2および実施例1〜4の割合は、何%になるかを求め、比較例1の割合に対して、90%以上であれば「◎」、80%〜90%であれば「○」、60%〜80%であれば「△」、0%〜60%であれば「×」として、表1に結果を併記する。
【0074】
表1の結果より、L/Lが、0<L/L<1.25で、且つ、真空度が0.1Pa〜5Paの条件下で蒸着を行った実施例1〜4は、L/L=0で、且つ、真空度が1Paの条件下で蒸着を行った比較例1と比較して、蒸着後の蛍光体層の中央部と端部との膜圧分布の差が小さく、蛍光体層面内の膜厚均一性が非常に優れていることがわかった。また、実施例1〜4は、L/L=1.25で、且つ、真空度が1Paの条件下で蒸着を行った比較例2と比較して、成膜材料の利用効率が良く、生産的であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る真空蒸着装置の一実施形態の構成概略図である。
【図2】本発明に係る真空蒸着装置における、基板と蒸着部との関係を模式的に表した図である。
【図3】従来の真空蒸着装置の一実施形態の構成概略図である。
【図4】従来の真空蒸着装置における、基板と蒸着部との関係を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0076】
10,110 真空蒸着装置
12,112 真空チャンバ
14,114 基板保持搬送機構
16,116 加熱蒸発部
31a,131a Eu蒸発部
31b,131b Cs蒸発部
34 Eu蒸発部の抵抗加熱装置
36 Cs蒸発部の抵抗加熱装置
82 基板保持手段
84 ボールネジ
84a ネジ軸
84b ナット部
86 モータ
,R 過剰蒸着領域
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着室内に設けた蒸発部から蒸発させた成膜材料を前記蒸発部の上方を直線状に往復移動する被処理基板の表面に蒸着させる真空蒸着方法において、
前記成膜材料の蒸着は、0.1〜5Paの圧力下で、下記の式(1)の条件を満たす位置に、前記蒸着部および前記往復移動の際の被処理基板の折返し位置を設けて行われることを特徴とする真空蒸着方法。
0<L/L<1.25 (1)
(式中Lは、前記蒸発部の蒸発口が属する水平面から前記被処理基板までの垂直距離を示し、Lは、前記折り返し位置に位置する被処理基板の前記蒸発部側の端部と前記蒸発部の蒸発口の前記被処理基板側の端部との水平距離を示す。)
【請求項2】
前記蒸発部が、前記被処理基板の搬送方向と直交する方向に複数列配置され、且つ、隣り合う蒸発部は、互いに、前記搬送方向に直交する方向にずれて配置されている請求項1に記載の真空蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−126698(P2007−126698A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319532(P2005−319532)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】