説明

真空蒸着装置及び真空蒸着方法

【課題】加熱による蒸着材料の劣化を抑制しつつ、より安定に蒸着材料を対象部材に蒸着することのできる真空蒸着装置及び真空蒸着方法を提供することを目的とする。
【解決手段】真空蒸着装置1は、開口部を有し、蒸着材料3を収容可能な容器4と、該容器4に蒸着材料3が収容された場合に、蒸着材料3と接触するよう容器4内に固定配置された、外部から個別に加熱制御可能な複数の熱源5と、を備える。熱源5を蒸着材料3と直接接触させることにより、効率良く蒸着材料3を加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置及び真空蒸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子等の有機層の製造方法として、真空蒸着法が知られている。通常、真空蒸着法は、真空環境下において基板と成膜したい蒸着材料とを対向させて配置し、蒸着材料を蒸気圧温度に加熱して、得られた蒸発物質を基板表面に付着させて行われる。蒸着材料としては、通常粉体が用いられる。
【0003】
蒸着材料を加熱する方法として、蒸着材料を収容した容器を加熱する方法や、蒸着材料の上に加熱体を載せ、加熱体を電子ビーム、誘導加熱、ヒータなどで加熱する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4001296号公報(請求項1及び図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
容器を加熱する方法では、容器全体を加熱し、蒸着材料を下から温めるため、蒸着材料全体が温まった後に、表面から気化することになる。このような方法では、長時間使用することにより蒸着材料が熱により劣化する場合がある。そのため、少しでも加熱部分を減らしたいという課題がある。
【0006】
蒸着材料の上に加熱体を載せる方法では、蒸着材料に接する部分だけを加熱することができるため、材料の劣化を抑えることができる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、図12に示すように、加熱体55は蒸着材料53の上に載せられているだけである。そのため、蒸着材料の蒸発が進み、蒸着材料が減少すると、その減り方によっては加熱体が傾いたりする恐れがある。加熱体が傾くと、加熱体と接する接着材料の面積が減り、加熱効率が低下する。また、成膜したい物質が溶融材料の場合、蒸発する前に一度溶融するため、加熱体が蒸着材料中に沈んでしまう恐れもある。加熱体が蒸着材料中に沈むと、蒸着材料全体を加熱することになり、蒸着材料を劣化させる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、加熱による蒸着材料の劣化を抑制しつつ、より安定に蒸着材料を対象部材に蒸着することのできる真空蒸着装置及び真空蒸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、開口部を有し、蒸着材料を収容可能な容器と、該容器に前記蒸着材料が収容された場合に、前記蒸着材料と接触するよう前記容器内に固定配置された、外部から個別に加熱制御可能な複数の熱源と、を備える真空蒸着装置を提供する。
【0009】
上記発明によれば、熱源を蒸着材料と直接接触させることにより、効率良く蒸着材料を加熱することができる。そのため、熱源で発生させる総熱量を抑制することが可能となり、加熱による蒸着材料の劣化を抑制することができる。熱源は、容器内に分割して複数配置されているため、容器全体を加温する場合と比較して各熱源の大きさは小さくなる。それによって、蒸着レート制御の応答性が向上する。また、熱源は容器内に固定配置されているため、蒸着材料の量によって傾いたり、沈んだりすることはない。各熱源は、外部から個別に加熱制御可能である。それによって、気化が進んで蒸着材料の総量が変化した場合であっても、蒸着材料への余分な加熱を抑制しつつ、蒸着材料を気化させることが可能となる。
【0010】
上記発明の一態様において、前記容器の前記開口部に配設される、1以上の孔を有する蓋部材を更に備えても良い。
【0011】
上記発明の一態様によれば、容器の開口部に1以上の孔が形成された蓋部材を設けることにより、気化された蒸気材料は、上記孔を通過して容器の外へと放出される。それによって、気化された蒸着材料が加熱している熱源の真上以外の位置からも容器外へ放出され得る。そのため、放出される蒸着材料の分布を安定化させることができる。
【0012】
上記発明の一態様において、前記蓋部材を加熱する加熱機構を備えることが好ましい。
加熱機構を備えることで、気化された蒸着材料が蓋部材の孔を通過する際に、該孔に蒸着材料が付着して孔を閉塞させることを防止できる。
【0013】
上記発明の一態様において、前記容器が、熱源と熱源との間を区切る遮熱部材を備えても良い。
そうすることで、加熱していない部分の蒸着材料の温度上昇を抑制することができるため、蒸着材料の劣化を抑制できる。
【0014】
上記発明の一態様において、前記容器が、気体通用口を備えた蒸発室を備え、前記複数の熱源が、前記蒸発室内にそれぞれ固定配置されても良い。
そうすることで、熱源の露出部分を少なくすることができるため、非加熱時の温度の低い熱源に、別の熱源で加熱されて気化した蒸着材料が付着することを抑制できる。
【0015】
上記発明の一態様において、前記容器から放出される気化された蒸着材料の量を計測する計測部と、前記計測部で計測した気化された蒸着材料の量の変化に応じて、前記熱源を加熱制御する制御部と、を更に備えることが好ましい。
上記構成とすることで、蒸着材料の気化量に応じて熱源を加熱制御することができるため、開口部から放出される蒸着材料の量を安定化させることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、開口部を備え、内部に個別に加熱制御可能な複数の熱源が固定配置された容器に、前記熱源と接触するよう蒸着材料を充填する工程と、前記複数の熱源のうち、所定の熱源のみを用いて蒸着材料を加熱する第1加熱工程と、前記所定の熱源による加熱を停止し、前記蒸着材料と接触した別の熱源による加熱を開始する第2加熱工程と、を備えた真空蒸着方法を提供する。
【0017】
上記発明によれば、熱源を蒸着材料と直接接触させることにより、効率良く蒸着材料を加熱することができる。そのため、熱源で発生させる総熱量を抑制することが可能となる。各熱源は、外部から個別に加熱制御可能であるため、容器内での加熱位置を移動させることができる。第1加熱工程では、所定の熱源のみで蒸着材料を加熱する。蒸着材料の気化が進むと、所定の熱源と蒸着材料との接触面積が少なくなるが、別の熱源での加熱を開始することで、気化効率を安定化することができる。その際、所定の熱源による加熱は停止されるため、余分な加熱を抑制することができる。また、充填された蒸着材料を部分的に加熱することにより、使用していない箇所にある蒸着材料の劣化を防ぐことができる。
【0018】
上発明の一態様において、第2加熱工程の前に、前記容器から放出される気化された蒸着材料の量を計測する計測工程を更に備え、前記計測した蒸着材料の量の変化に基づいて、前記別の熱源の加熱を開始することが好ましい。
上記工程を備えることにより、蒸着材料の気化量に応じて熱源を加熱制御することができるため、開口部から放出される蒸着材料の量を安定化させることが可能となる。
【0019】
また、本発明において、開口部を有し、蒸着材料を収容可能な容器と、前記容器に前記蒸着材料が収容された場合に、前記蒸着材料の開口部側表面に、前記蒸着材料と間隔をあけて配設された少なくとも1の熱源と、を備え、前記熱源によって気化された前記蒸着材料が前記熱源を越えて前記開口部に向かって移動可能な真空蒸着装置を提供する。
【0020】
上記発明によれば、熱源は蒸着材料の上に間隔を空けて配設されるため、気化が進み蒸着材料の残量が変化した場合であっても、傾いたり、蒸着材料中に沈んだりすることがない。それによって、再現性良く蒸着材料を気化させることが可能となる。また、充填された蒸着材料全体を温める必要がないため、使用していない箇所の蒸着材料の劣化を防止することができる。また、容器全体を温めるよりも、少ない熱量で蒸着材料を気化させることが可能となる。
【0021】
上記発明の一態様において、前記容器の前記開口部に配設され、1以上の孔を有する蓋部材を更に備えることが好ましい。
容器の開口部に蓋部材を配設することにより、気化された蒸着材料が容器外へ放出される際の蒸着材料の分布を安定化させることができる。
【0022】
上記発明の一態様において、前記蓋部材を加熱する加熱機構を備えることが好ましい。
加熱機構を備えることで、気化された蒸着材料が蓋部材の孔を通過する際に、該孔に蒸着材料が付着して孔を閉塞させることを防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、熱源を容器内に固定することで、傾いたり、沈んだりすることなくより安定に蒸着材料を対象部材に蒸着させることができる。本発明によれば、個別に加熱制御可能な熱源を蒸着材料に接触させることで、蒸着材料を部分的に加熱できるため、蒸着材料の劣化を抑制できる。本発明によれば、熱源を蒸着材料の近くに間隔をあけて配置することで、蒸着材料を表面的に加熱ができるため、蒸着材料の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る真空蒸着装置の概略断面図である。
【図2】蓋部材の配置例を示す図である。
【図3】遮熱部材を備えた容器の断面図である。
【図4】遮熱部材を備えた容器の断面図である。
【図5】第1実施形態に係る真空蒸着方法を説明する図である。
【図6】第1実施形態に係る蓋部材を備えた容器の概略断面図である。
【図7】第2実施形態に係る容器の概略断面図である。
【図8】第3実施形態に係る容器の概略断面図である。
【図9】第4実施形態に係る容器の概略断面図である。
【図10】図8に示す容器の概略上面図である。
【図11】第4実施形態に係る蓋部材を備えた容器の概略断面図である。
【図12】従来の真空蒸着装置の部分概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る真空蒸着装置及び真空蒸着方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
図1に、第1実施形態に係る真空蒸着装置の概略断面図を示す。真空蒸着装置1は、真空チャンバ2、蒸着材料3を収容する容器4、及び容器4内に固定された複数の熱源5を備えている。
真空チャンバ2は、基板6を外部より搬出入可能、且つ、減圧可能に構成されている。真空チャンバ2内では、基板保持部(不図示)によって基板6が上部に保持されるようになっている。
【0026】
容器4は、開口部を有する箱形状とされ、例えば、チタンやステンレス鋼などの金属で構成されている。容器4は、開口部が基板6の板面に向き、底面が水平となるよう真空チャンバ2内に配置されている。
【0027】
熱源5は、容器4内に蒸着材料3が収容された場合に、蒸着材料3と接触するよう容器4内に複数配置されている。熱源5は、容器4内に複数個配置可能で、且つ、容器4上面(開口部)と所定の距離間隔をあけられる大きさとされる。熱源5の数や配置は、容器4の大きさや使用する蒸着材料3の種類などに応じて適宜設定される。例えば、複数の熱源5は、容器4の底面に、互いに間隔をあけて固定されている。複数の熱源5は、蒸着材料3を気化させることができる熱量を放出できるものとされる。例えば、熱源5は、室温〜400℃、少なくとも約200℃〜400℃の範囲で蒸着材料3を加熱できる性能を有する。複数の熱源5は、外部から個別に加熱制御することができる。詳細には、熱源5は、二クロム線などを用いた電気抵抗加熱などとされる。熱源5は、シース式などのようにカバーがされていることが好ましい。
【0028】
容器4の開口部には、蓋部材7が配設されても良い。蓋部材7は、金属、例えば容器と同様の材質から構成され、1以上の孔8を有する。孔8の数、孔8の大きさ及び孔8の配置などは、容器4の大きさ、蒸着材料3の種類、熱源5の数及び熱源5の配置などに応じて適宜設定される。蓋部材7を備えることで、容器4から放出される気化された蒸着材料の分布を均一化させることができる。
蓋部材7は、複数配置されても良い。図2に、蓋部材7の配置例を示す。図2において、蓋部材7a,7bは、熱源5の上方に、上下に2層、間をあけて配置されている。このような構成とすることで、容器4から放出される気化された蒸着材料3の分布を均一化させることが可能となる。
蓋部材7は、自身(特に孔8)を加熱する加熱機構(不図示)を備えていることが好ましい。加熱機構は、例えば、熱源5と同様にシースヒータやカーボンヒータなどとされる。
【0029】
容器4は、容器4内に間をあけて固定された複数の熱源5の、熱源と熱源との間を区切る遮熱部材9を備えていても良い。遮熱部材9は、SUSなどの金属からなる光沢のある板や、熱伝導率の低いセラミックス材料からなる板などとされる。遮熱部材9の厚さ及び大きさは、熱源5の種類、熱源と熱源との距離などに応じて適宜設定される。図3に、遮熱部材9を備えた容器4の断面図を例示する。図3において、遮熱部材9は、熱源5よりも大きい断面積を有し、少なくとも熱源5から放出された熱が水平方向へ移動することを遮ることができる。遮熱部材9は、図4に示すように、箱形状の容器のX方向及びY方向にそれぞれ配置されても良い。遮熱部材9を備えることで、加熱に使用している熱源から離れた位置にある蒸着材料への熱の伝達を遮ることができる。それによって、加熱に使用していない熱源の周辺にある蒸着材料の温度上昇を抑制し、劣化を抑制することができる。
【0030】
真空蒸着装置1は、気化された蒸着材料の量を計測する計測部及び熱源を加熱制御する制御部を備えていることが好ましい(不図示)。
計測部は、蒸着材料3を加熱して気化させた際に、容器4から放出される気化された蒸着材料の量を計測することができる。例えば、計測部は、開口部付近に設けられた水晶振動子式の成膜レートモニターなどとされる。
制御部は、計測部で計測した気化された蒸着材料の変化に応じて、熱源5を加熱制御することができる。例えば、熱源5が通電により発電する抵抗加熱ヒータであるとした場合、成膜レートを一定に保つために、レート信号をPV値、レートの目標値をSV値、熱源5の加熱源である抵抗加熱ヒータの電流量をMV値としたPID制御などにより加熱制御を行う。
【0031】
次に、本実施形態に係る真空蒸着方法について説明する。図5に、本実施形態に係る真空蒸着方法を説明する図を示す。
本実施形態に係る真空蒸着方法は、容器4に蒸着材料3を充填する工程と、蒸着材料3を加熱する第1加熱工程及び第2加熱工程と、を備えている。
【0032】
(1)容器4に蒸着材料3を充填する工程(図5(a))
蒸着材料3が熱源5と接触するよう、蒸着材料3を開口部10から容器4内へ充填する。例えば、熱源5が容器の底面に固定されている場合、すべての熱源5の上部が覆われる程度(すなわち、熱源が埋まる程度)の量の蒸着材料3を、熱源5の周辺に充填する。また、充填の際、熱源5が蒸着材料で完全に覆われる必要はなく、必ずしも全ての熱源5に均等に充填する必要もない。そのため、必要な蒸発量に応じて、一部の熱源5のみの周辺に蒸着材料を充填しても良い。充填される蒸着材料3は、熱をかけると溶融して蒸発する、または昇華する種類の有機材料(例えば、Alq3など)とされる。上記有機材料は、通常、粉体で提供される。
【0033】
真空チャンバ2内に基板6を搬入し、基板6の板面が容器4の開口部10と対向するよう基板保持部に保持させる(不図示)。その後、真空チャンバ2内を減圧する。真空チャンバ2内が所定の真空度、例えば、10−3Pa〜10−5Paに達したところで、減圧を停止する。
【0034】
(2)第1加熱工程(図5(b))
次に、所定の熱源5aによる加熱を開始する。熱源5aは、蒸発量が一定となるように制御して発熱させるか、もしくは加熱される材料の温度が一定となるように制御して発熱させる。熱源5aによって放出された熱は、熱源5aに接触するまたは熱源5aの近傍にある蒸着材料3に伝達され、該蒸着材料3を気化させる。気化された蒸着材料9は、開口部10から容器4の外へと放出され、基板6の板面に付着する。熱源5上部から容器4上部(開口部10)までは、所定の距離間隔があけられている。そのため、熱源5aによって加熱されて気化した蒸着材料9は、開口部10付近に達するまでに、基板6の板面方向に十分に拡散され、容器外へと放出される。容器外へと放出される気化された蒸着材料9の量は、略一定である。
【0035】
熱源5aによる蒸着材料3の気化が進むと、熱源5aに接触するまたは熱源5aの近傍にある蒸着材料3が減少する。蒸着材料3への入熱量が略一定となるよう加熱した場合、熱源5aに接触するまたは熱源5aの近傍にある蒸着材料の量が所定量を下回ると、容器外へ放出される気化された蒸着材料9の量が減少する。第2加熱工程は、第1加熱工程において、容器外へ放出される気化された蒸着材料9の量が変動(減少する)前に実施される。
【0036】
第2加熱工程の開始のタイミングは、使用する蒸着材料3の充填量、使用する蒸着材料3の気化特性、熱源5aから放出される熱量などから、予め上記所定量に達する時間を算出することで設定されて良い。好ましくは、第2加熱工程は、前の加熱工程での容器外へ放出される気化された蒸着材料9の量を計測部で計測し、計測した蒸着材料の量が変化(減少)した場合に開始する。
【0037】
(3)第2加熱工程(図5(c))
第2加熱工程では、熱源5aによる加熱を停止するとともに、別の熱源5bによる加熱を開始する。加熱を停止するとは、例えば熱源5aへの電力の供給を停止することを意味し、加熱停止時に熱源5aからの放熱が完全に停止されていなくても良い。熱源5bは、蒸着材料3への入熱量が略一定となるよう熱を放出する。熱源5bによって放出された熱は、熱源5bに接触するまたは熱源5bの近傍にある蒸着材料3に伝達され、該蒸着材料3を気化させる。気化された蒸着材料11は、開口部10から容器4の外へと放出され、基板6の板面に付着する。容器外へと放出される気化された蒸着材料11の量は、第1加熱工程及び第2加熱工程を通して略一定である。
【0038】
第2加熱工程は、配置された熱源5の数に応じて、繰り返し実施される。詳細には、熱源5bでの加熱により気化され、容器外へ放出される蒸着材料の量11が変化する前に、熱源5bの加熱を停止し、熱源5cの加熱を開始する。熱源5cの加熱を開始するタイミングは、計測部での計測結果に基づき設定されると良い。このように複数配置された熱源5で、順番に蒸着材料3を加熱する。
【0039】
なお、真空チャンバ2内を減圧する前に、容器4の開口部10に蓋部材7を配設する工程を備えても良い。蓋部材7は適当な手段を用いて容器に固定する。図6に示すように蓋部材7を備えることで、容器からの出口が分散されるため、気化された蒸着材料11の分布を均一化させることが可能となる。
上記蓋部材7が加熱機構を備えている場合、第1加熱工程及び第2加熱工程を通して、蓋部材7を加熱する。そうすることで、気化された蒸着材料11が蓋部材7の孔8を通過する際に、冷却されることがないため、気化された蒸着材料11が孔8に付着して、孔8を閉塞させることを防止できる。
【0040】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係る真空蒸着装置は、蒸着材料を収容する容器が2重構造となっている以外は、第1実施形態と同様の構成とされる。
図7に、本実施形態に係る容器の概略断面図を示す。容器24は、蒸着材料を収容し、且つ、複数の熱源25が固定される第1容器24aと、第1容器24aの外側を覆う第2容器24bとから構成されている。
【0041】
第1容器24aは、開口部を有する箱形状とされ、例えば、チタンやステンレス鋼などの金属で構成されている。第1容器24aの内部には、第1実施形態と同様に複数の熱源25が配置されている。第2容器24bは、第1容器24aを完全に収容可能で、且つ、第1容器24aよりも深さのある大きさとされる以外は、第1容器24aと同様の構成とされる。第1容器24a及び第2容器24bの大きさは、適宜設定される。
【0042】
第1容器24aは、開口部が同じ向きとなるよう第2容器24b内に配置されている。第1容器24a及び第2容器24bは各開口部がともに基板の板面に向き、且つ、各底面が水平となるよう真空チャンバ内に配置されている。
【0043】
第1容器24a及び第2容器24bの各開口部には、それぞれ蓋部材27a,27bが配置されている。蓋部材27a,27bは、第1実施形態と同様のものが使用され得る。蓋部材27a,27bの孔28a,28bは、蓋部材27a,27bを配置したときに上下で重ならないように配置されると良い。孔28aと孔28bの数及び大きさは、異なっていても良い。このような構成とすることで、第2容器24bから放出される気化された蒸着材料の分布を均一化することができる。
【0044】
〔第3実施形態〕
本実施形態に係る真空蒸着装置は、蒸着材料を収容する容器が蒸発室を備える以外は、第1実施形態と同様の構成とされる。
図8に、本実施形態に係る容器34の概略断面図を示す。容器34は、熱源35の数に対応する数の蒸発室31を備えている。蒸発室31は、SUSなどの金属や、アルミナなどのセラミックス材料から構成されている。場合によって、熱伝導率の低いセラミックス材料を用いるなどして、他の独立空間への熱伝達が低い構造とすると良い。蒸発室31は、その内部に独立した空間が形成されている。蒸発室31は、容器34の開口部30に向けて開放された気体通用口32を有する。
【0045】
本実施形態において、複数の熱源35は、それぞれ個別に蒸発室内31に配置されている。熱源35により蒸着材料を加熱すると、気化された蒸着材料は上記気体通用口32を経由して開口部から容器の外へと放出される。
第1加熱工程で使用した熱源は、周囲に存在する蒸着材料が少なくなり、露出された状態で降温される。本実施形態によれば、熱源35は蒸発室31内に配置されているため、第2加熱工程で気化された蒸着材料が上記のように露出した状態で降温された熱源やその近傍に付着することを防止できる。よって、第2加熱工程で気化された蒸着材料は、効率良く基板へ蒸着される。
【0046】
〔第4実施形態〕
真空蒸着装置は、真空チャンバ、蒸着材料を収容する容器、及び容器内に固定された熱源を備えている。
真空チャンバは、基板を外部より搬出入可能、且つ、減圧可能に構成されている。真空チャンバ内では、基板保持部によって基板が上部に保持されるようになっている。
【0047】
図9に、第4実施形態に係る熱源45が固定された容器44の概略断面図を示す。図10に、図9に示す容器44の上面概略図を示す。
容器44は、開口部40を有する箱形状とされ、例えば、チタンやステンレス鋼などの金属で構成されている。容器44は、開口部40が基板の板面に向き、底面が水平となるよう真空チャンバ内に配置されている。
【0048】
熱源45は、容器44内に蒸着材料43が収容された場合に、蒸着材料43の上面(開口部側の表面)と対向する位置に、蒸着材料43の上面と間隔をあけて配置されている。例えば、熱源45は、容器44の側面に固定されている。熱源45は、容器44の側面に上下方向または左右方向に移動可能に固定されていても良い。
【0049】
熱源45は、該熱源45によって加熱され気化された蒸着材料49が開口部40に向かって移動できるような形状とされる。熱源45は、容器44内に充填した蒸着材料43の上面の全域を加熱可能に配置されることが好ましい。例えば、図10に示すように、細長い熱源45を蛇行させた配置とすると良い。蒸着材料43を気化させることができる熱量を放出できるものとされる。例えば、熱源45は、室温〜400℃、少なくとも約200℃〜400℃の範囲で蒸着材料を加熱できる性能を有する。熱源45は、外部から加熱制御することができる。詳細には、熱源45は、二クロム線などを用いた電気抵抗加熱などとされる。熱源45は、シース式などのようにカバーがされていることが好ましい。熱源45は、一体型であって良く、あるいは、複数の熱源を並べて配置したものであっても良い。
【0050】
容器44の開口部40には、蓋部材47が配設されても良い。蓋部材47は、金属、例えば容器と同様の材質から構成され、1以上の孔48を有する。孔48の数、孔48の大きさ及び孔48の配置などは、容器44の大きさ、蒸着材料43の種類、熱源45の数及び熱源45の配置などに応じて適宜設定される。図11に、蓋部材47の配置例を示す。蓋部材47を備えることで、容器外へ放出される気化された蒸着材料49の分布を均一化させることができる。
蓋部材47は、第1実施形態と同様に複数配置されても良い。
蓋部材47は、自身(特に孔)を加熱する加熱機構を備えていることが好ましい。加熱機構は、例えば、熱源5と同様にシースヒータやカーボンヒータなどとされる。
【0051】
真空蒸着装置は、気化された蒸着材料の量を計測する計測部及び熱源を加熱制御する制御部を備えていることが好ましい。
計測部は、蒸着材料を加熱して気化させた際に、容器から放出される気化された蒸着材料の量を計測することができる。例えば、計測部は、開口部付近に設けられた水晶振動子式の成膜レートモニターなどとされる。
制御部は、計測部で計測した気化された蒸着材料の変化に応じて、熱源45を加熱制御することができる。例えば、熱源45が通電により発電する抵抗加熱ヒータであるとした場合、成膜レートを一定に保つために、レート信号をPV値、レートの目標値をSV値、熱源45の加熱源である抵抗加熱ヒータの電流量をMV値としたPID制御などにより加熱制御を行う。
【0052】
次に、本実施形態に係る真空蒸着方法について説明する。
まず、蒸着材料43を開口部40から容器44内へと充填する。充填する蒸着材料43の量は、充填した後の蒸着材料43の上面が熱源45と接触しない程度とされる。熱源45が上下方向に移動可能な場合は、熱源45の高さを、蒸着材料43の上面が熱源45と接触しない高さに調整しても良い。充填される蒸着材料43は、熱をかけると溶融して蒸発する、または昇華する種類の有機材料(例えば、Alq3など)とされる。上記有機材料は、通常、粉体で提供される。
【0053】
真空チャンバ内に基板を搬入し、基板面が容器の開口部と対向するよう基板保持部に保持させる。その後、真空チャンバ内を減圧する。真空チャンバ内が所定の真空度、例えば、10−3Pa〜10−5Paに達したところで、減圧を停止する。
【0054】
次に、熱源45による加熱を開始する。熱源45によって放出された熱は、蒸着材料43の上面に輻射伝熱され、該蒸着材料43を気化させる。気化された蒸着材料49は、熱源45を越えて開口部40から容器44の外へと放出され、基板の板面に付着する。
【0055】
熱源45の発熱量は、徐々に増加させると良い。あるいは、熱源45が上下方向に移動可能な場合は、熱源45の発熱量を一定に保持し、熱源45と蒸着材料43の上面との距離が略一定となるように熱源45の高さを徐々に下降させても良い。
【0056】
なお、真空チャンバ内を減圧する前に、容器の開口部に蓋部材47を配設する工程を備えても良い。蓋部材47は適当な手段を用いて容器44に固定する。
上記蓋部材47が加熱機構を備えている場合、熱源45で加熱する際に、蓋部材47を加熱する。そうすることで、気化された蒸着材料49が蓋部材47の孔48を通過する際に、冷却されることがないため、気化された蒸着材料49が孔48に付着して、孔48を閉塞させることを防止できる。
【0057】
本実施形態によれば、蒸着材料43の表面近傍に熱源45を配置して加熱するため、蒸着材料全体を加熱する場合と比較して、少ない熱量で蒸着材料43を気化させることができる。また、熱源45から放出された熱は、表面付近の蒸着材料43を気化することに優先的に利用されるため、熱源45から離れた位置にある蒸着材料43の温度上昇を抑え、劣化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 真空蒸着装置
2 真空チャンバ
3,43,53 蒸着材料
4,24a,24b,34,44 容器
5,5a,5b,5c,25,35,45,55 熱源
6 基板
7,7a,7b,27a,27b,47 蓋部材
8,28a,28b,48 孔
9 遮熱部材
10,40 開口部
11,49 気化された蒸着材料
31 蒸発室
32 気体通用口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し、蒸着材料を収容可能な容器と、
該容器に前記蒸着材料が収容された場合に、前記蒸着材料と接触するよう前記容器内に固定配置された、外部から個別に加熱制御可能な複数の熱源と、
を備える真空蒸着装置。
【請求項2】
前記容器の前記開口部に配設される、1以上の孔を有する蓋部材を更に備える請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記蓋部材を加熱する加熱機構を備える請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記容器が、熱源と熱源との間を区切る遮熱部材を備える請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記容器が、気体通用口を備えた蒸発室を備え、
前記複数の熱源が、前記蒸発室内にそれぞれ固定配置される請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記容器から放出される気化された蒸着材料の量を計測する計測部と、
前記計測部で計測した気化された蒸着材料の量の変化に応じて、前記熱源を加熱制御する制御部と、
を更に備える請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
開口部を備え、内部に個別に加熱制御可能な複数の熱源が固定配置された容器に、前記熱源と接触するよう蒸着材料を充填する工程と、
前記複数の熱源のうち、所定の熱源のみを用いて蒸着材料を加熱する第1加熱工程と、
前記所定の熱源による加熱を停止し、前記蒸着材料と接触した別の熱源による加熱を開始する第2加熱工程と、
を備えた真空蒸着方法。
【請求項8】
第2加熱工程の前に、前記容器から放出される気化された蒸着材料の量を計測する計測工程を更に備え、
前記計測した蒸着材料の量の変化に基づいて、前記別の熱源の加熱を開始する請求項7に記載の真空蒸着方法。
【請求項9】
開口部を有し、蒸着材料を収容可能な容器と、
前記容器に前記蒸着材料が収容された場合に、前記蒸着材料の開口部側表面に、前記蒸着材料と間隔をあけて配設された少なくとも1の熱源と、
を備え、
前記熱源によって気化された前記蒸着材料が前記熱源を越えて前記開口部に向かって移動可能な真空蒸着装置。
【請求項10】
前記容器の前記開口部に配設され、1以上の孔を有する蓋部材を更に備える請求項9に記載の真空蒸着装置。
【請求項11】
前記蓋部材を加熱する加熱機構を備える請求項10に記載の真空蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−132049(P2012−132049A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283421(P2010−283421)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】