説明

真菌病原体を制御する方法、及びそれに有用な物質

【課題】植物又は植物の部分に感染し又は他の方法で外寄生する、例えば原核生物及び真核生物などの植物病原体の増殖及び/又は生存能を阻害し、遅延させる又は他の方法で制御するための糖酸の使用。
【解決手段】動物若しくは植物又は貯蔵された植物産物におけるある範囲の真菌病原体による感染を予防又は治療する方法であって、糖酸、とりわけマンノン酸、グルコン酸若しくはガラクツロン酸の有効量を投与する工程を含む方法が提供される。該糖酸はこの糖酸を製造できる生物制御体により送達できる。例示された生物制御体はシュードモナスAN5株である。この株はアルドースを糖酸に転換する能力により特徴付けられる。病原体の増殖又は生存能を制御するのに十分なレベルで糖酸を生産するように微生物及び植物を変換するために使用できるシュードモナスPQQ酵素経路中の酵素群に由来するヌクレオチド配列も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、植物又は植物の部分に感染し又は他の方法で外寄生する、例えば原核生物及び真核生物などの植物病原体の増殖及び/又は生存能を阻害し、遅延させる又は他の方法で制御するための糖酸の使用に関する。具体的には、本発明は、植物病原体、特に真菌病原体の増殖及び/又は生存能を阻害し、遅延させる又は他の方法で制御するための、グルコン酸、マンノン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、グルカル酸、グルタル酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸及びガラクトン酸から成る群より選択される糖酸の使用に関する。本発明は更に、植物への真菌の外寄生の処置のための植物保護剤の製造における糖酸の使用にも及ぶ。本明細書に開示するように、該糖酸は未精製の剤形又は純粋な剤形で植物又は植物の部分に適用でき、その結果、本発明は更に、D−グルコース及び他の炭素源を対応する糖酸に代謝できる、例えばシュードモナス属の種又は亜種などの適切な基質が与えられた場合に糖酸を生産できる微生物にも及ぶ。本発明は更に、原核生物及び真核生物、特に細菌及び/又は植物における糖酸の合成をコードする及び/又は他の方法で促進するシュードモナス・スピーシーズのヌクレオチド配列を提供する。本発明は更に、一つ以上の植物病原体の増殖及び/又は生存能を制御するのに十分なレベルの糖酸を生産するよう遺伝子工学的に処理されたトランスジェニックの植物及び微生物を意図する。
【0002】
一般論
本明細書は、請求の範囲の後に本明細書に提示され、プログラム・パテントイン2.0版を用いて作製されたヌクレオチド配列情報を含む。各ヌクレオチド配列は、配列同定子(例えば、<210>1、<210>2等)が後に続く数字指標<210>により配列表中で同定される。各ヌクレオチド配列についての配列の長さ、配列の型(DNA、タンパク質(PRT)等)及び生物の起源は、それぞれ数字指標の欄の<211>、<212>及び<213>において提供される情報により示される。本明細書で言及されるヌクレオチド配列は、該配列同定子が後ろに続く「配列番号:」という用語により規定される(例えば、配列番号:1は<400>1と称される配列表中の配列を指す)。
【0003】
本明細書で言及されるヌクレオチド残基の名称はIUPAC−IUB生化学命名委員会により推奨されるものであり、Aはアデニンを表し、Cはシトシンを表し、Gはグアニンを表し、Tはチミンを表し、Yはピリミジン残基を表し、Rはプリン残基を表し、Mはアデニン又はシトシンを表し、Kはグアニン又はチミンを表し、Sはグアニン又はシトシンを表し、Wはアデニン又はチミンを表し、Hはグアニン以外のヌクレオチドを表し、Bはアデニン以外のヌクレオチドを表し、Vはチミン以外のヌクレオチドを表し、Dはシトシン以外のヌクレオチドを表し、そしてNは任意のヌクレオチド残基を表す。
【0004】
本明細書で言及される刊行物の書誌的詳細は本明細書の終わりに収録される。
【0005】
本明細書で用いられるとき、「〜に由来する」という用語は、明記された完全体が、たとえ特定の起源から必ずしも直接的に得られなくとも、その起源から得られうることを示すものと解釈されるべきである。
【0006】
本明細書を通して、文脈が他の意味を要しない限り、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises) 」若しくは「含む(comprising)」などの変形は、言明した工程若しくは要素若しくは完全体又は工程若しくは要素若しくは完全体の群の包含を意味するが、任意の他の工程若しくは要素若しくは完全体又は要素若しくは完全体の群の排除を意味するものではないと理解されるものである。
【0007】
当業者は、本明細書に記載される本発明が具体的に記載されるもの以外の変形及び修飾を受け易いことを理解するであろう。本発明はこのようなあらゆる変形及び修飾を含むと理解されるべきである。本発明は、個別的に又は集合的に、本明細書で言及される又は示される全ての工程、特徴、組成物及び化合物、並びに任意の及び全ての組合わせ又は任意の二つ以上の該工程若しくは特徴をも含む。
【0008】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施態様による範囲に限定されるべきではなく、該態様はただ説明目的用に意図されるものである。機能的に等価な産物、組成物及び方法は、本明細書に記載されるように明らかに本発明の範囲内にある。
【背景技術】
【0009】
動物(ヒト及び農業用動物及び家畜を含む)並びに植物(とりわけ農業に重要な植物)の病原体感染、特に真菌感染は、世界中で生産能力に著しい損失を与えている。
【0010】
実際の真菌病原体は、少なくとも三つの主要な綱である藻菌類、子嚢菌類、及び担子菌類に分類されうる。
【0011】
特にヒト及び他の哺乳動物に感染する真菌病原体に関して、例えば、皮膚真菌類のトリコフィトン・ルブラム、T.・メンタグロフィーテス、エピデルモフィトン・フロコッサム及びマイクロスポラム・カニスの感染による足白癬(水虫)、股部白癬、体幹白癬(白癬)、皮膚のカンジダ症(鵞口瘡)、爪炎、爪囲炎、外性器カンジダ症、カンジダ亀頭炎を含むカンジダ・アルビカンスによるカンジダ症、ピティロスポラム・オルビキュラレ(マラセッツィア・フルフル)によるでん風、並びにジョッキー−ストラップかゆみ等の上皮組織(例えば、頭、皮膚及び爪)を攻撃し生理的欲求を煩わす病気及び不快症状を惹起する40以上の種が知られている。更に、ある種の真菌は、主だった内部器官のものを含む皮下組織に蔓延り、ブラストミセス症、コクシジオイデス真菌症、ヒストプラスマ症、及びスポロトリクス症を含む重篤な全身性の病気を引起こす。これらのより重篤な真菌感染は一般的に、土で運ばれ、容易にエーロゾル化され、気流により蔓延し、その結果、吸入により罹患する。該真菌病原体はほとんどが二形性であり、非病原性状態において菌糸を生じ、感染性の胞子を産生する。
【0012】
より多くの真菌病原体が植物に種々の病気を生じさせ、異なる種の真菌は植物の特定の種及び特定の組織を冒す傾向がある。真菌感染による作物の損害は、毎年の利益損失で数百万ドルを占める。担子菌綱は、とりわけ農業に重大であり、例えば、プッシニア・スピーシーズ、コロナルティウム・リビコラ、及びギムノスポランジウム・ジュニペリ−ヴィルギニアナエ等のサビ菌、例えば、ウスティラゴ・スピーシーズ等の黒穂病菌を含み、これらは中でもトウモロコシ及びオートムギに感染し毎年30%の損害まで生じる。更に、真菌病原体のガエウマノマイセス・グラミニス・ヴァル・トリティサイ(又は通常「立枯れ病」菌として知られる)による小麦植物の感染により惹起される立枯れ病は、世界中で最も著しい小麦の根の病気であり現在オーストラリアでは年間小麦作物の10%の損害に至らしめる(ムレイとブラウン、1987)。植物における他の重大な真菌病には、フィソデルマ・アルファルファエにより惹起されるアルファルファの病気の冠状こぶ(crown wart)、グロメレラ・シングラタにより惹起されるリンゴの病気の苦い腐敗(bitter rot)、ギムノスポランジウム・ジュニペリ−ヴィルギニアナエにより惹起されるリンゴのさび病、ヴェンツリア・イナエキュアリスにより惹起されるリンゴの黒星病、フザリウム・オキシスポラム・F.キュベンセにより惹起されるバナナのしおれ病、ウスティラゴ・ヌダ・ロストルにより惹起される大麦の緩やかな(loose) 黒穂病、セプトリア・アピイコラにより惹起されるセロリの初期及び後期の胴枯れ病、フザリウム・オキシスポラム・F.アピアイ・スナイダー・ハンセンにより惹起されるセロリのフザリウム黄色(Fusarium yellow) 、クラビセプス・プルプレアにより惹起される穀類作物及びイネ科植物の麦角病、プッシニア・スピーシーズ、特にP.グラミニスにより惹起される幹のさび病、フィトプセラ・インフェスタンスにより惹起されるポテトの後期胴枯れ病、並びにアルミラリア・メラエにより惹起される柑橘類の根の腐敗病が含まれる。しかしながら、この列挙は包括的なものではない。
【0013】
動物及び植物における真菌感染及び細菌感染の予防的及び/又は治療的処置方法は、一般的に、抗真菌化学物質及び抗細菌化学物質の適用、生物制御体の使用、並びに植物の場合、より最近では且つより具体的には、病気に対するトレランス又は病気耐性遺伝子を発現するための作物の遺伝子工学を含む。
【0014】
殺真菌性及び静真菌性の化学化合物
抗真菌化学物質は、組成が様々であり、例えば該真菌胞子に対して作用する等により該真菌病原体を根絶するか又は一度宿主に感染した真菌胞子の発芽を妨げるよう設計されている。しかしながら、ほとんどの化学物質は専ら唯一つの範疇に収まるわけではない。例えば、硫黄元素はリンゴの黒星病からリンゴ作物を保護するために使用されてきたが、同じ化学物質がサビ菌に対して使用されるとこれを全滅させてしまう。
【0015】
多様な且つしばしば複合的な作用を有する様々なピリジン化合物及びその誘導体は、真菌病原体に対して農薬及び医薬として使用される。例えば、3−(2−メチルピペリジノ)プロピル−3,4−ジクロロベンゾエート、セファロスポリンC、セファピリンナトリウム、ピリチオン亜鉛(即ち、2−メルカプトピリジンN−オキサイド)及び2−スルファニルアミドピリジンなどがある。
【0016】
ヒトにおける真菌感染を治療するために広く使用されている化合物の多くは、真菌のステロール生合成を妨げる。例えば、皮膚真菌類及び酵母に対して幅広いスペクトルの抗真菌活性を有するイミダゾ−ル類(ビフォナゾール[ 即ち、1−(α−ビフェニル−4−イルベンジル)−イミダゾ−ル] 、クロトリマゾール、エコナゾール硝酸塩、及びミコナゾール硝酸塩[ 即ち、1−[ 2,4−ジクロロ−β−(2,4−ジクロロベンジルオキシ)フェネチル] イミダゾ−ル硝酸塩] )は、エルゴステロール生産を妨げることにより真菌細胞膜を改変する。例えば、テルバフィン塩酸塩(C2125N・HCl)などのアリルアミン類も、皮膚真菌類による感染の治療に使用され、エルゴステロール生産も妨げる。テルバフィンはまた真菌類にスクアレンの蓄積も招き、真菌の細胞死に至る。アモロールフィン塩酸塩(シス−4−[ (RS)−3−[ 4−(1,1−ジメチルプロピル)フェニル] −2−メチルプロピル] −2,6−ジメチルモルフォリン塩酸塩)は、酵母、皮膚真菌類、糸状菌、及び二形真菌の幅広い範囲に対して活性な比較的新しいクラスの化合物に入る。アモロールフィン塩酸塩の殺真菌性/静真菌性効果は該真菌の細胞膜に対する修飾に基づくものであり、該真菌細胞膜におけるエルゴステロール含量を減少させ且つ立体的に非平面のステロールのレベルを増大させることにより生じる。
【0017】
農業用殺真菌剤及びそれらの適用様式はゲンナロら(1990)及びカーク−オスマー(1980)により詳細に概説されている。これらの化合物は一般的に、ポリスルフィド、重金属殺真菌剤、並びに、例えばキノン類(特にクロラニル及びジクロン)、硫黄を含有する有機化合物(特にジチオカルバメート類)、イミダゾリン類及びグアニン類(特にヘプタデシル−2−イミダゾリニウムアセテート及びドデシルグアニジウムアセテート)、トリクロロメチルチオカルボキシミド[ 特に、N−(トリクロロメチルチオ)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシミド(カプタン)及びN−(トリクロロメチルチオ)フタルイミド(フォルペット)] 、塩素化及び/又は硝酸化ベンゼン誘導体[ 特に、2,3,5,6−テトラクロロニトロベンゼン、ペンタクロロニトロベンゼン(PCNB)、1,3,5−トリクロロ−2,4,6−トリニトロベンゼン、1,2,4−トリクロロ−3,5−ジニトロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,6−ジクロロ−4−ニトロアニリン(ジクロラン)、1,4−ジクロロ−2,5−ジメトキシベンゼン、及びテトラクロロイソフタロニトリル(クロロサロニル)] などの有機殺真菌剤のクラスである。農業の適用において全身性抗真菌活性を有する種々の他の化合物(即ち全身性殺真菌剤)には、オキサチイン類(oxathiins)(特にカルボキシン)、ベンズイミダゾール類[ 特にメチル−2−ベンズイミダゾリルカルバメート(MBC)] 、ピリミジン類[ 特に5−ブチル−2−ジメチルアミノ−6−メチル−4(1H)−ピリミヂノン(ジメチリモール)、2−エチルアミノ類似体のエチリモール、及びα−(2,4−ジクロロフェニル)−α−フェニル−5−ピリミジンメタノール(トリアリモール)] が含まれる。シクロヘキシミド、バストシジンS、カスガマイシン及びポリオキシン類を含む抗生物質も広く使用されている。
【0018】
大半の場合において、既知の農業用抗真菌化合物の作用様式は依然確定しにくいものであり、ヒトの真菌病原体に対して効果的な抗真菌化合物と同様に、多くの化合物は真菌の細胞膜の代謝を改変する。例えば、トリアリモール及び関連化合物はステロール生合成における諸段階を阻害する。しかしながら、カルボキシンはコハク酸デヒドロゲナーゼを阻害することによりミトコンドリアの呼吸を遮断することが知られており、一方、ベンズイミダゾール類は有糸分裂に必要な細胞構造等の細胞構造を破壊する。
【0019】
抗真菌生物制御体
生物学的な制御保護とは、植物病原体を制御するための、例えば細菌、真菌、及び昆虫などの生物の導入を指す。真菌病原体からの植物保護における三つの性質が生物制御体を望ましい選択肢にする。第一に、生物制御体は一般に天然産物であり合成化学物質より環境に有害な影響をおよぼしそうにないことである。第二に、生物制御体は合成化学物質と比べて比較的安価であることである。第三に、生物制御体は、微生物を培養で維持でき急速に且つ安価に増やせるため、保護剤の無尽蔵の供給源を持つことである。
【0020】
生物制御体は病原体の感染部位を占領し該植物に由来する栄養素を該病原体と競合することによるか、又は該生物制御体は該真菌病原体を特異的に攻撃する殺真菌性及び/又は静真菌性化合物を生産するかのいずれかにより作用する。生物制御(コロニー形成、抗生作用、ジデロホア(siderophore)の生産など)に重要なかなりの数の因子が同定されてきたが、これらの因子の影響力は環境条件に応じて変化するため生物制御体に普遍的な作用機構を付与することは困難である(ヴェラー、1988)。
【0021】
あらゆる生物制御体の普遍的な性質は、該病原体が感染した細胞及び組織において急速に増殖する能力並びに「コロニー形成」と呼ばれる過程で集落を形成する能力にある(サスロー、1982)。実際に、ヴェラー(1988)は、真菌に対する様々な細菌の抑制的性質の原因となる三因子、すなわち、根のコロニー形成、中でも抗生物質、HCN(フラベル、1988)、又は過酸化水素(ウーら、1955、米国特許第5,516,671 号)を含む殺真菌性及び/又は静真菌性化合物の生産、及び蛍光性ジデロホア、すなわち高親和性鉄輸送因子の生産という三因子を同定した。この点で、生物制御細菌が示す異なるコロニー形成の宿主範囲(ヴェラー、1988)は、コロニー形成において何らかの宿主特異性があり、且つ幾つかの因子が関与していることを示唆している。当業者に知られるように、殺真菌作用においても宿主特異性が存在し、これは一部の株がある病原体に対して効力を持たない理由を説明するかも知れない(シュロスとハンコック、1981)。さらに、殺真菌性又は静真菌性の化合物を生産することにより全ての生物制御体が作用するわけではない(クラウスとローパー、1992)。
【0022】
生物制御が有効な多数の系が存在する(ヴェラー、1988)。一般的に、生物制御体は温室内の制御された条件下で及び野外の多数の状況下で該植物に有益な効果を及ぼすことが示されてきた(べーカーとクック、1974)。現在病気制御のため農業者により多数の生物制御体が使用されており(シュロスとハンコック、1981)、野外で植物の病気を制御する方法として効果的で且つ永続可能であることを示している。
【0023】
例えば、真菌のスクレロティニア・スクレロチオラム(Sclerotinia sclerotiorum)、スクレロティニア・マイナー(Sclerotinia minor) 、及びスクレロティニア・トリフォリオラム(Sclerotinia trifoliorum) により惹起されるスクレロティニア腐敗病は、最も有害な植物病の一つであり、380を超える観賞用植物(例えば、アスター、ベゴニア、キンセンカ、キク、フクシア、ガーベラ、ルピナス、ゼラニウム及びペチュニア)、牧草作物(例えば、アルファルファ、カノーラ、完熟した白インゲン豆、アサ、ヒラマメ、アブラナ、落花生、ポテト、ムラサキツメクサ、ベニバナ、大豆、ヒマワリ、シナガワハギ、及びタバコ)、野菜及び果物(例えば、アーティチョーク、アスパラガス、アボカド、豆、ブロッコリ、キャベツ、ニンジン、セロリ、ヒヨコマメ、チコリ、キュウリ、ナス、エンダイブ、ウイキョウ、キウィ果実、セイヨウニラネギ、レタス、パセリ、エンドウ、トウガラシ(チリ、レッド、又はピーマン)、サヤ豆、トマト、スイカ、ニンニク及びタマネギ)及びハーブ(例えば、コリアンダー、チャイブ、ディル、フェンネル及び越冬カラシナ)を冒す。活性成分として土壌菌のコニオチリウム・ミニタンス(Coniothyrium minitans) の生きた胞子を含むため、これらの真菌病原体の生存構造(菌核)に対する特異的な拮抗作用を有する生物学的植物保護剤が最近開発された。一度適用され土壌中に取込まれると、C.ミニタンスが発芽し、該土壌中の病原体の菌核(休眠中の生存構造)を攻撃することにより、土壌中での該病気の再発を低減させる。
【0024】
小麦における立枯れ病の場合、低分子量のジデロホアを生産し土壌中に鉄欠乏性をもたらすシュードモナス・スピーシーズが同定された(バイアーとレオング、1986、レオング、1986)。ジデロホアは蛍光性のものもあり複合体を形成し鉄を細胞内部に活発に輸送できる。これにより、発芽及び増殖に必要な土壌由来の鉄を真菌病原体から奪い効果的に鉄飢餓にさせる。しかしながら、現在では、ジデロホアの生産は、該真菌にとって鉄が制限栄養素となりうる低い鉄濃度のアルカリ性土壌における立枯れ病の生物制御にのみ重要であると考えられている(クロエッパーら、1980)。さらに、フラベル(1988)、ハムダンら(1991)及びトーマショーら(1990)は、病気抑制における最も重要な因子が、シュードモナス・スピーシーズによる殺真菌性及び/又は静真菌性化合物の生産であり、特に、ある範囲の真菌病原体を阻害する細菌の経路における正常な中間体であるフェナジン−1−カルボン酸(トーマショーら、1993)、及び2,4−ジアセチルフロログルシノールの生産であり、広範囲のシュードモナスに見出される(キールら、1992、1996)ことを示唆した。フェナジンは立枯れ病の生物制御保護において詳しく特性決定されてきたが、立枯れ病に対する2,4−ジアセチルフロログルシノールの有効性は部分的にしか特性決定されていない(ラアジマーカーズとヴェラー、1998)。シュードモナス・フルオレセンスCHA0株も詳しく研究され、タバコの黒色腐敗病及び小麦の立枯れ病の抑制に有効な量の2,4−ジアセチルフロログルシノールを生産することが示された(ラヴィレら、1992)。
【0025】
更に、単離されたシュードモナスAN5株は幾つかの植物種の根にコロニー形成できる限りでは広い宿主範囲を有することが示され、寒天平板検定、植木鉢実験、及び野外実地試験において立枯れ病に対して有効な生物制御体である(ナユヂュら、1994b)。上記著者らは、この細菌の優勢効果がジデロホアの生産よりも殺真菌性及び/又は静真菌性化合物の生産にあるらしいという結論においてトーマショーら(1993)と一致する。
【0026】
例えば非病原性株のG.グラミニス・ヴァル・グラミニス(G. graminis var. graminis) などの他の生物制御体が立枯れ病を制御する能力について試験された(ヴォングら、1996)が、このような真菌を大規模に増殖させるために利用できる技術が現代存在しないので、それらは立枯れ病の大規模な制御法として実施可能とはいえない。このような真菌剤を生産する費用及び野外で該剤を適用する費用は細菌の生物制御体と比べて実施不可能な程に高い。
【0027】
病気耐性又はトレランスを発現する遺伝子操作された植物
植物における病気のある例において、植物にトレランス又は耐性を導入するために、抗真菌(即ち殺真菌性及び/又は静真菌性)化合物の生産に関与する特定の酵素類をコードする遺伝子が同定され、植物で発現された。このような場合、該植物には、導入された遺伝子を発現できること且つ内因性植物代謝産物から又は代替的に若しくは付加的に外因性基質から抗真菌産物を生産することが要求される。当業者に知られるように、合成された該抗真菌化合物は、浸入する病原体に対してその作用を及ぼすために、適切な作用部位にまで拡散又は能動輸送されなければならない。
【0028】
このような保護の一例は、植物でフィトプセラ・インフェスタンス又はヴェルティシリウム・ダーリエ(ムレイら,1997、ストッツら,1996、ヴュら,1995、米国特許第5,516,671 号)を制御するためのアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) 又はタラロマイセス・フラバス(Talaromyces flavus)のグルコースオキシダーゼ酵素(EC1.1.3.4 )をコードする遺伝子の発現である。このアプローチの有効性は不和合な植物−病原体の相互作用での植物防御応答における過酸化水素の関与に基づいたものであった。これは、フィトアレキシン並びに例えばサリチル酸及びグルタチオン−S−トランスフェラーゼなどの他の細胞保護物質(cellular protectants)の生産を活性化し、ヒドロキシプロリンに富んだ糖タンパク質(HPGP)の架橋を誘導し、そして病原体の浸入に応答した過敏な細胞死の誘発に関与する。さらに、過酸化水素はグルコースオキシダーゼの酵素作用の産物であり、該オキシダーゼはδ−グルコノラクトン及び過酸化水素へのグルコースの酸化を触媒し、その結果、植物におけるグルコースオキシダーゼの発現は、抗真菌剤としての過酸化水素を生産するための適切な手段と考えられた。このアプローチへの興味は、ペネシリウム・ダンゲアリアイ(Penecillium dangearii) の該グルコースオキシダーゼ遺伝子がこの生物により効果的なV.ダーリエの効果的な生物制御に関与するという知識から一部生ずる(キムら、1988、1990、米国特許第5,516,671 号)。
【0029】
サビ菌を含む、植物における種々の病気に対する保護の改良を提供するものとして、ヌクレオチド結合部位を含むある範囲のロイシンに富んだ反復タンパク質を発現する植物も記載されている(例えば国際特許出願番号PCT/AU95/00240を参照)。
【非特許文献1】ゲンナロ,エイ.アール.(1990) In: Remington's Pharmaceutical Sciences, 18 版,マック・パブリッシング・カンパニー,イーストン、ペンシルベニア州 18042, USA, PP 1266-1268 。
【非特許文献2】ウェラー,ディー.エム.(1988) Ann. Rev. Phytopathol. 26: 379-407。
【非特許文献3】ストツら(1996) App. Environ. Microbiol. 62: 3183-3186。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
植物又は植物の部分に感染し又は他の方法で外寄生する、例えば原核生物及び真核生物などの植物病原体の増殖及び/又は生存能を阻害し、遅延させる又は他の方法で制御するための糖酸の使用。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明に至る研究で、本発明者らは、植物及び動物における広範囲の真菌病原体の治療のために環境的に許容しうる手段を同定しようと努めた。本発明者らはシュードモナスAN5株が生産する抗真菌性の成分を糖酸と同定し、その生産のための生化学経路及び遺伝的経路を決定した。この具体的な抗真菌物質の同定並びに該抗真菌物質の生合成に必要な遺伝的配列のクローニングにより、植物及び動物における広範囲の真菌病原体を制御するための戦略を開発できる。
【0032】
従って、本発明の一側面は、動物若しくは植物における真菌病原体による感染の予防療法又は治療法であって、真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するのに十分な時間及び条件の下でそれらに有効量の糖酸を投与する工程を含む方法に関する。本発明の代替的態様において、真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するために、アルドース基質の存在下において抗真菌に有効な量の糖酸を生産できる生物制御体が植物又は動物に投与される。
【0033】
本発明の第二の側面は、植物生産物の収穫後の貯蔵を増大させる方法であって、真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するのに十分な時間及び条件の下で該生産物に有効量の糖酸を適用する工程を含む方法を提供する。本発明の代替的態様において、真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するために、アルドース基質の存在下において抗真菌に有効な量の糖酸を生産できる生物制御体が該植物生産物に適用される。本発明のこの側面は、任意の植物生産物に適用され、特にヒト又は動物の消費用に意図される食用生産物に適用される。これらは、中でも、例えばトマト、リンゴ、ナシ、柑橘果物、ブドウ、及びベリーを含む果物及び野菜などで真菌感染による急速な劣化を受け易い。
【0034】
本発明の第三の側面は、植物又は動物における真菌感染の治療用の生物制御体を提供する。該生物制御体はアルドースを含む炭素源の存在下で培養された場合に糖酸を生産できる単離された細菌細胞を含み、該生物制御体はさらにその感染部位にコロニー形成できる。特に好ましい実施態様において、該生物制御体は、シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)の特性を有するシュードモナス・スピーシーズの単離体から成る。
【0035】
本発明の第四の側面は、植物の真菌感染の治療用の植物保護用組成物であって、植物病理学的に許容しうる希釈剤又は湿潤剤と組合わせて有効量の糖酸を含む組成物を提供する。該植物保護用組成物は、PQQ依存性糖オキシダーゼ酵素の発現により適切なアルドース基質の存在下で該糖酸を生産する生物制御体も含みうる。
【0036】
本発明の第五の側面は、ヒト又は他の哺乳動物における真菌感染の治療用の組成物であって、薬学的に許容しうる一つ以上の担体又は希釈剤と組合わせて有効量の糖酸を含む組成物を提供する。本明細書に記載される他の組成物と同様に、動物に使用するための該組成物はPQQ依存性糖オキシダーゼ酵素を発現する生物制御体を含みうる。
【0037】
本明細書に記載されるように、活性な糖酸及び/又は生物制御体、並びにそれらを含む組成物は当業者に知られる任意の手段により製造できる。さらに、グルコン酸を含むある糖酸は、幾つかの供給源のうち任意の一つから一般人でも容易に利用できる。しかしながら、一つの実施態様において、本発明は、糖酸を生産する方法であって、PQQ依存性糖酸生合成酵素をコードする単離された核酸分子を生物に導入する工程並びに糖酸を生産するのに十分な時間及び条件の下でアルドース基質の存在下に該生物を培養する工程を含む方法にも明らかに及ぶ。その後、該糖酸は該生物から抽出されることが好ましい。該糖酸は該生物又はその抽出物から部分的に又は実質的に精製されることがより好ましい。
【0038】
本発明の更なる他の側面は、糖酸の生合成に関与する一つ以上の酵素をコードするヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的な配列を含む単離された核酸分子を提供する。本発明のヌクレオチド配列は糖オキシダーゼ酵素をコードすることが好ましい。
【0039】
全ての細胞が補因子としてPQQを生産し、その結果、本発明の概念通りに糖酸を生産するわけではないことは上記の論議から明白であり、該糖オキシダーゼ酵素をコードする遺伝子に加えて、ある状況下でPQQ生合成に必要な酵素を発現させることが必要でありうる。本発明者らは、PQQの生産に関与するpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、pqqE遺伝子、及びpqqF遺伝子を含むシュードモナスAN5株のPQQオペロンを同定した。従って、本発明はさらに、PQQの生合成に関与する一つ以上のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。
【0040】
本発明のさらなる側面は、真菌病原体による感染に対する植物のトレランスを強化する方法であって、該植物により又は該植物の細胞、組織若しくは器官により糖酸が生産されるのに十分な時間及び条件の下で、糖オキシダーゼをコードする単離された第一の核酸分子、並びに任意選択的に一つ以上のPQQ生合成酵素をコードする単離された第二の核酸分子をその中で発現する工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、動物又は植物又はそれらの細胞、組織若しくは器官における真菌病原体の感染の予防療法又は治療法であって、真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するのに十分な時間及び条件の下でそれらに有効量の糖酸を投与する工程を含む方法に関する。
【0042】
「真菌病原体」とは、植物若しくはヒトを含む動物の生産性又は健康を低下させ、又はそれらに病気、罹患若しくは死亡を惹起するような様式で該植物若しくは動物に感染できる任意の真菌又は酵母を意味する。本文脈において、「真菌病原体」という用語はさらに植物又は動物に感染する任意の真正な真菌又は酵母を含む。
【0043】
本発明はさらに、真菌病原体の感染による食物腐敗の遅延又は予防に有用であり、特に植物生産物(即ち、果物及び野菜)の場合に有用である。その場合、該糖酸又は糖酸を含む組成物を該生産物上に直接噴霧し、標準的な貯蔵条件下で真菌の増殖を部分的に又は完全に阻害することにより生産物の収穫後の賞味期間を延ばしうる。
【0044】
好ましい実施態様において、本発明は、アルテルナリア・スピーシーズ、アルミラリア・メラエ、アルスロボトリス・オリゴスポラス、ボレタス・グラニュラタス、ボトリティス・シネレア、ボトリティス・ファバエ、カンジダ・アルビカンス、クラビセプス・プルプレア、コロナルティウム・リビコラ、エピコッカム・プルプレセンス、エピデルモフィトン・フロコッサム、フォメス・アンノサス、フザリウム・オキシスポラム、ガエウマノマイセス・グラミニス・ヴァル・トリティサイ、グロメレラ・シングラタ、ギムノスポランジウム・ジュニペリ−ヴィルギニアナエ、マイクロスポラム・キャニス、モニリニア・フルクティコラ、フィソデルマ・アルファルファエ、フィトプセラ・インフェスタンス、ピティロスポラム・オルビキュラレ(マラセッツィア・フルフル)、ポリポラス・サルフレウス、プッシニア・スピーシーズ、サッカロマイセス・セレビシエ、セプトリア・アピイコラ、トリコフィトン・ルブラム、T.メンタグロフィテス、ウスティラゴ・スピーシーズ、ヴェンツリア・イナエキュアリス、及びヴェルティシラム・ダーリエから成る群より選択される真菌病原体による感染の予防的又は治療的処置法に関する。
【0045】
本発明は、より好ましくは植物の真菌病原体による感染、更により好ましくはアルテルナリア・スピーシーズ、A.メラエ、A.オリゴスポラス、B.グラニュラタス、B.シネレア、B.ファバエ、C.プルプレア、C.リビコラ、E.プルプレセンス、F.アンノサス、F.オキシスポラム、G.グラミニス・ヴァル・トリティサイ、G.シングラタ、G.ジュニペリ−ヴィルギニアナエ、M.フルクティコラ、P.アルファルファエ、P.インフェスタンス、P.サルフレウス、プッシニア・スピーシーズ、S.アピイコラ、ウスティラゴ・スピーシーズ、V.イナエキュアリス、及びV.ダーリエから成る群より選択される植物の真菌病原体による感染、並びに、より一層好ましくはC.プルプレア、G.グラミニス・ヴァル・トリティサイ、プッシニア・スピーシーズ、及びウスティラゴ・スピーシーズから成る群より選択される単子葉植物の真菌病原体による感染の予防的又は治療的処置法に関する。
【0046】
とりわけ好ましい実施態様において、本発明は、真菌病原体のガエウマノマイセス・グラミニス・ヴァル・トリティサイによる植物の感染の治療法であって、真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するのに十分な時間及び条件の下でそれらに有効量の糖酸を投与する工程を含む方法を提供する。本発明のこの実施態様の対象となる植物は、G.グラミニスの天然宿主であり、中でも、例えばトリティカム・エスティヴァム(Triticum aestivum) 、T.タウスチアイ(T. tauschii) 、又はホルデウム・ヴァルガレ(Hordeum vulgare) などの小麦植物又は小麦の近縁種若しくは祖先種でありうる。
【0047】
本明細書で用いられるとき、「糖酸」という用語は、任意の単糖、二糖又は多糖のカルボン酸誘導体が陰イオン形態若しくは塩であるか否か又は例えば一つ以上の三価リン原子若しくは三価リンを含む部分などのそれらに付加される他の置換基を含むか否かに関わらず、該カルボン酸誘導体を指すと解釈されるべきである。「糖酸」という用語はさらにアルドースの任意のモノカルボン酸誘導体、ジカルボン酸誘導体又はトリカルボン酸誘導体を包含する。
【0048】
該糖酸はケト酸ではないことが好ましいが、必ずしも排他するものではない。さらに、許容されうるが、本発明の実施に使用される該糖酸はラクトン形ではないことが特に好ましい。従って、該ラクトン形が該糖酸を含む任意の組成物中に存在しうるにも関わらず、本発明は、本明細書に記載される発明方法での該糖酸の使用に及ぶが該ラクトンの使用には及ばないことが好ましい。
【0049】
本発明の使用に意図される糖酸としては、アルドン酸、アルダル酸、又はウロン酸が好ましい。当業者は、アルドン酸が例えば次亜ヨウ素酸ナトリウムなどの弱い酸化剤又は特異的な酵素のいずれかを用いてアルデヒドの炭素原子でのアルドースの酸化により天然で又は合成で生産できることを承知している。対照的に、該アルダル酸は、アルデヒドの炭素原子と一級ヒドロキシル基を持つ炭素原子の両方に作用する、より強力な酸化剤を用いて生産され、一方、ウロン酸においては一級ヒドロキシル基を持つ炭素原子のみが酸化される。本発明の実施に使用される糖酸は、D−グルコースの誘導体、特にアルドン酸、グルコン酸、及び/又はアルダル酸、グルカル酸、及び/又はウロン酸、グルクロン酸であることが好ましい。D−ガラクトースの糖酸誘導体、特にガラクトン酸及び/又はガラクタル酸、及び/又はガラクツロン酸の使用も本発明により意図される。D−マンノースの糖酸誘導体、特にマンノン酸及び/又はマンノナル酸、及び/又はマンノヌロン酸の使用も本発明により意図される。または、本発明は、本発明の実施においてリンゴ酸及びアスコルビン酸から成る群より選択される糖酸の使用も意図する。
【0050】
特に好ましい実施態様において、本発明はグルコン酸及び/又はマンノン酸及び/又はガラクツロン酸の使用に関し、より具体的には、グルコン酸の使用に関する。
【0051】
糖酸の「有効量」とは、糖酸が投与される植物又は動物の健康又は生存能力に有意な逆効果を及ぼすことなく、真菌病原体の増殖及び/又は生殖を防止し又は真菌病原体を殺すのに有効な量を意味する。投与される糖酸の有効量は、真菌病原体の性質、投与される糖酸、及び糖酸が提供される様式(即ち、とりわけ生物制御体又は精製糖酸の形で)に応じて変化する。当業者は標準的な実験手段により投与すべき糖酸の有効量を決定でき、唯一の必要条件は該真菌病原体についての適切な生物検定の利用可能性である。このような方法は、当業者によく知られており、又は本明細書に記載される。真菌病原体が増殖できる適切なインビトロの培養条件が確立されていたならば、一般的に、該真菌病原体の増殖及び/又は生存能力を試験する生物検定の実施に、該真菌が正常に感染する宿主細胞を含めることは必須ではない。このような検定が利用できない場合、生物検定は、該真菌病原体の栄養源として適切な動物若しくは植物の宿主、又は単離された細胞若しくは組織を用いて実施されうる。ヒト被験者の具体的な場合、ヒトの試験で使用されるもの以外の生物検定は、適切な動物モデル、特に例えばマウス、ラット、若しくはウサギ、又は単離された哺乳動物の細胞、とりわけ培養された線維芽細胞など、ヒトの真菌病原体の哺乳動物宿主を用いて実施されうる。
【0052】
この点で、本発明者らは、アルテルナリア・スピーシーズ、A.メラエ、A.オリゴスポラス、B.グラニュラタス、B.シネレア、E.プルプレセンス、F.アンノサス、G.グラミニス・ヴァル・トリティサイ、M.フルクティコラ、P.サルフレウス、及びV.ダーリエを含む植物の広範囲な真菌病原体の増殖及び/又は生存能を決定するために、ポプラウスキーら(1988)によって記載された寒天プラグ検定が特に有用であることを見出した。
【0053】
真菌病原体を制御する際の個々の糖酸の有効性を決定するため、様々な用量の該糖酸が、一つ以上の負及び/又は正の対照化合物の有効性と比較して、真菌の増殖を遅らせ若しくは阻害する能力又は該真菌病原体を殺す能力について試験される。適切な負の対照には、試験される糖酸の基質として対応するアルドース糖若しくは対応するラクトンを含む適切な増殖培地の使用、又は該増殖培地からの該試験化合物の除去が含まれる。適切な正の対照には、試験される真菌病原体の増殖を阻害することが知られている濃度又は試験される真菌病原体を殺すことが知られている濃度のグルコン酸を含む適切な増殖培地の使用が含まれる。
【0054】
特定の糖酸が真菌の増殖及び/又は生殖を阻害する範囲内のパラメータが一度確立されると、該糖酸がそれらのパラメータの範囲内で使用された場合に該宿主に逆作用又は重篤な禁忌を引起こさないことを確認するため、該糖酸をさらに試験することが好ましい。
【0055】
治療的処置の場合、一般的に、精製された糖又は生物制御体が該感染部位に投与される。または、予防的処置の場合、一般に、精製された糖酸若しくは生物制御体が、感染しそうな部位に投与される、又は少なくとも感染しそうな部位に輸送するのに適した剤形で投与される。
【0056】
植物又は動物への該糖酸の様々な投与形式が当業者に知られており、本発明は使用される製剤の性質によって制限されない。修飾されていない糖酸は可溶性の親水性分子であるため、投与用のスプレー、溶液、ローション及び局部軟膏が、植物細胞又は動物細胞に有害でありうる化学溶媒系の可溶化剤の必要なく、容易に製剤化される。
【0057】
好都合なことに、該糖酸は、感染部位及び/又は土壌又は他の増殖培地に適用される水溶液の形で、特にスプレーで植物又は植物細胞に投与される。固体又は粉末の剤形での糖酸の適用も除外されない。任意選択的に、該真菌病原体への該糖酸の接近を促進するため、例えば非イオン性界面活性剤などの湿潤剤が含まれうる。本来アルカリ性のイオン性界面活性剤を含む湿潤剤は望ましくない。なぜならそれらは該糖酸に対してpH中和作用又はアルカリ化作用さえ有しうるためである。当業者に知られるように、真菌病原体の菌糸は該植物組織の上皮層を透過し、その結果、該湿潤剤は、根、幹又は葉の下部にある細胞への該糖酸の透過をさらに助けうる。その上、多数の植物組織の上皮細胞は、種々の湿潤剤を用いて透過しうるろう層で覆われている。従って、該湿潤剤は処置されるべき植物細胞に到達する上で該糖酸を助けうる。
【0058】
動物及びヒトの真菌病原体による感染の治療において、本発明は、第一に、皮膚、外性器、及び爪を含む上皮細胞及び角質組織のそれらの感染の治療に関する。従って、局部ローション、軟膏、及び粉末の投与はこのような感染に好ましいものである。当業者はこのような製剤を容易に生産する立場にあり、該製剤は皮膚産物の製剤において有用な種々の補足的な薬学的担体及び/又は賦形剤を含みうる。
【0059】
精製された糖酸の形で提供されることに加えて、該活性成分(即ち該糖酸)は、アルドースを含む炭素源の存在下で培養すると該糖酸を生産する生物制御体の形で植物又は動物に投与されうる。このような生物制御体は、天然資源から単離されうるか、又は天然に存在する生物若しくは遺伝子操作された生物の一つ以上の突然変異体若しくは誘導体のいずれかから成り、唯一の要件は、該生物制御体が該真菌病原体により正常に感染される組織若しくは細胞にコロニー形成でき、且つ、抗真菌に有効な量の糖酸を生産できることである。該生物制御体は、例えば当該病原体の非病原形など、該宿主にコロニー形成できる細胞型に関してさらに限定されることが好ましい。
【0060】
好ましい実施態様において、該生物制御体は非病原性細菌から成る。
【0061】
該糖酸が動物及び/又はヒトの感染の治療用である場合、該生物制御体は、ストレプトコッカス・スピーシーズ(Streptococcus sp.) 、スタフィロコッカス・スピーシーズ(Staphylococcus sp.)、大腸菌(Escherichia coli)、アシドフィラス・スピーシーズ(Acidophilius sp.)、及びラクトバチラス・スピーシーズ(Lactobacillus sp.) から成る群より選択される細菌の非病原性株から成ることが特に好ましい。尿道、膣内、及び肛門の感染の治療用には、大腸菌、アシドフィラス・スピーシーズ及びラクトバチラス・スピーシーズの非病原性株が好ましい。
【0062】
植物の治療には、該生物制御体は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) 、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)、アグロバクテリウム・ラディオバクター(Agrobacterium radiobacter) 、フランキア・スピーシーズ(Frankia sp.) 、及びシュードモナス・スピーシーズから成る群より選択される細菌の非病原性株から成ることが好ましい。アグロバクテリウム・スピーシーズの場合、該株は、不都合なクラウンゴール病を惹起しない、又は植物に変則的な発生パターンを誘導できるレベルの例えばオーキシン、ジベレリン、若しくはサイトカイニンなどの植物ホルモンを生産しないものであることが最も望ましい。本発明の実施における使用に適した株には、例えばA.ツメファシエンスLBA4404株の誘導体、A.ツメファシエンスAGL1株の誘導体、並びにシュードモナスAN5株及びその誘導体が含まれる。
【0063】
特に好ましい実施態様においては、該生物制御体は、シュードモナスAN5株(ナユヂュら、1994b)又はその突然変異体若しくは誘導体により例示されるシュードモナスの単離体から成る。これらの株は、小麦植物又はG.グラミニス・ヴァル・トリティサイの他の宿主の根圏にコロニー形成する能力並びにアルドース基質の存在下で培養すると糖酸を生産する能力があるため、立枯れ病菌のG.グラミニス・ヴァル・トリティサイに対する植物保護において特有の効用を有することが本発明者らにより示された。
【0064】
糖酸を本来の状態で生産する、例えばシュードモナスAN5株の突然変異体又は誘導体などの生物制御体に適用する場合、本明細書の「突然変異体」及び「誘導体」についての言及は、天然で生じる単離体と比べて増大したコロニー形成能及び/又は増大した糖酸生合成能及び/又は増大した糖酸分泌を備え、且つ栄養要求性突然変異体、複製突然変異体、及び例えば染色体外プラスミド又は組込みDNA又は転位遺伝因子などの付加的遺伝物質の挿入により作製された組換え株を含む突然変異体を含むこと意味すると解釈されるべきである。本明細書で使用されるとき、「分泌」という用語は、細胞が生産する糖酸の細胞外局在化に至らしめる活性な輸送過程と拡散過程の両方を含むと解釈されるべきである。
【0065】
酸を本来の状態で生産及び/又は分泌する能力を有しない、例えばA.ツメファシエンスなどの細菌に適用する場合、「突然変異体」及び「誘導体」という用語は、適切なアルドース基質上で増殖すると該糖酸を生産及び/又は分泌するように天然の単離体が突然変異誘発にかけられ及び/又は遺伝子操作されたことを意味すると解釈されるべきである。これは、例えば生物を遺伝子工学により操作し又は突然変異させ、ピロロキノリン−キノン依存性(PQQ依存性)糖オキシダーゼ酵素を発現させることにより遂行されうる。
【0066】
該真菌病原体が感染するのと同じ細胞にコロニー形成する能力を持たない細菌に適用する場合、「突然変異体」及び「誘導体」という用語は、天然の単離体が突然変異誘発にかけられ及び/又は遺伝子工学的に操作され、該真菌病原体が感染する細胞又は組織と同じ細胞又は組織にコロニー形成する能力を有するようになることを意味すると解釈されるべきである。
【0067】
特に有用な突然変異体及び誘導体には、改変された細胞膜又は細胞壁成分を有する生物が更に含まれる。この実施態様に従って、本発明は、以下の本明細書で「シュードモナスAN5rif株」(AGAL受託番号NM00/09624)と呼ばれるシュードモナスAN5株のリファンピシン耐性誘導体を提供する。これは、G.グラミニス・ヴァル・トリティサイに対して天然に存在するシュードモナスAN5株の単離体より高い抗真菌活性を示す。
【0068】
シュードモナスAN5rif株は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約の規定に基づいて、2000年1月28日にオーストラリア国、ニューサウスウェールズ 2073、ピンブル、スアキンストリート 1にあるオーストラリア国政府分析研究所(Australian Government Analytical Laboratories(AGAL)) に寄託され、AGAL受託番号NM00/09624を付与された。
【0069】
本発明のさらに好ましい実施態様において、シュードモナスAN5株又はシュードモナスAN5rif株は、発現すると該生物に糖酸を生産させることのできる遺伝子配列の付加的コピーを導入することにより、本発明を実施する際の生物制御体としての使用がさらに改良される。このような改良は、当業者に知られる他の手法の中でも、細菌用の標準的な形質転換/トランスフェクション、又はトランスポゾン突然変異誘発の手段によりもたらされうる。
【0070】
突然変異体の生産方法は当業者によく知られており、とりわけ化学突然変異源及び物理突然変異源の使用、並びにトランスポゾン突然変異誘発が含まれる。特に好ましい化学突然変異源にはEMS及びメタンスルホン酸エチルエステルが含まれる。当業者に知られるように、EMSは、任意の一ゲノムに導入される点突然変異の数が使用される突然変異源の濃度に比例するよう、一般に無作為の非標的様式で細胞のゲノム内に点突然変異を導入する。従って、具体的な突然変異を同定するため、一般的に、大集団の細胞がEMSで処理された後、該突然変異の効果が該突然変異細胞又は通常その子孫細胞でスクリーニングされる。EMSなどの化学突然変異源の適用方法及び使用方法は当業者に周知である。
【0071】
物理的突然変異源は、細胞の照射、具体的には細胞の紫外線照射及びガンマ照射を含むことが好ましい。これは細胞のゲノムに存在する一つ以上の遺伝子内に点突然変異を導入し又は該ゲノムに染色体の欠失を生じさせる。このような突然変異源の適用方法及び使用方法は当業者に周知である。
【0072】
挿入による突然変異誘発は、アルドースを糖酸に転換する細胞の能力が強化されるよう、該細胞のゲノムに存在する一つ以上の遺伝子内に糖酸の生合成のための遺伝子をコードするDNA分子を発現可能な様式で導入することにより達成されうる。または、糖酸の生合成に必要な遺伝子の負の調節因子を不活性化できる核酸分子が該細胞内に導入されうる。
【0073】
細胞、特に細菌細胞又は植物細胞に遺伝子を導入するための好ましいDNA分子にはトランスポゾン分子及びT−DNA分子が含まれる。トランスポゾンの使用は、炭素源の対応する糖酸への転換を触媒し又は他の方法で促進するために必要な分子をコードできる遺伝物質のクローニング用のマーカーを提供する利点を持っている。多くのトランスポゾンはTn10(細菌)、Tn5(細菌)、Spm(植物)、Ac/Ds(植物)、及びDSG(植物)を含む細菌系及び植物系での使用が知られており、それらの使用についての文献は豊富である。
【0074】
使用される適切な生物制御体の生産方法は本明細書に記載される。
【0075】
本明細書に記載される突然変異体及び誘導体を含む生物制御体は、植物及び動物における真菌感染の治療のための組成物の調製において有用であり、本発明は明らかにこのような使用のいずれか及び全てに及ぶ。例えば、該生物は発酵又は他の培養条件で糖酸を生産するため使用しうる。その後、該糖酸は、従来の抽出及び/又は精製手法を用いて該細胞から抽出されうるか又は該増殖培地中に分泌されうる。
【0076】
本発明はさらに、植物の真菌感染の治療用の植物保護用組成物であって、植物病理学的に許容しうる希釈剤又は湿潤剤と組合わせて有効量の糖酸を含む組成物を提供する。
【0077】
該湿潤剤は、非イオン性界面活性剤(これに限定されない)などの、植物組織の上皮層及び/又はろう層に浸透できる任意の化合物でありうる。
【0078】
このような組成物中の該糖酸の濃度は、該真菌病原体、該病気の進行、穏やかな酸性化に対する該植物のトレランス、及び土壌の型に応じて変化する。酸性化に対してトレランスの小さな植物では、例えばグルコン酸などの弱酸が好ましく、その場合、植物の症状を緩和するために、より高濃度の糖酸が必要となりうる。グルクロン酸及びグルタル酸等のより強い酸はグルコン酸より低濃度で使用されうるが、特定の真菌感染に対するどの特定の糖酸についてもその適性が大規模適用の前の試験で実験的に決定されるべきである。このような試行は当業者の知識範囲内に十分収まるものである。
【0079】
本発明の植物保護用組成物における糖酸の濃度は、約0.001 %(w/v )から約1%(w/v )の糖酸の範囲内にあることが好ましく、約0.01%(w/v )から約1%(w/v )の糖酸の範囲内にあることがより好ましく、約0.01%(w/v )から約0.5 %(w/v )の糖酸の範囲内にあることがより好ましく、そして約0.01%(w/v )から約0.1 %(w/v )の糖酸の範囲内にあることが更により好ましい。
【0080】
代替的態様において、該植物保護用組成物は、PQQ依存性糖オキシダーゼ酵素の発現により、適切なアルドース基質の存在下で該糖酸を生産する生物制御体を含む。さらに、該植物保護用組成物はスプレー、乳濁液、又は乾燥粉末の形態でありうる。
【0081】
本発明はさらに、ヒト又は他の哺乳動物における真菌感染の治療用の組成物であって、薬学的に許容しうる一つ以上の担体又は希釈剤と組合わせて有効量の糖酸を含む組成物を提供する。本明細書に記載される他の組成物と同様に、動物用途のためのこれらの組成物はPQQ依存性糖オキシダーゼ酵素を発現する生物制御体を含みうる。とりわけ、本発明の組成物は、例えば皮膚真菌類のT.ルブラム、T.メンタグロフィテス、E.フロコッサム、M.カニス、C.アルビカンス、及びP.オルビキュラレ(M.フルフル)により惹起される状態などの上皮感染及び皮下感染に伴う状態の治療に、特に向けられる。従って、本発明の組成物は膣内、肛門内、鼻腔内、及び口腔内の使用を含む局所適用のために製剤化されることが好ましい。乳濁液、樹脂ワニス、噴霧用粉末、及び乾燥粉末も本発明により意図される。任意の従来の培地又は薬物が活性成分と不適合である範囲を除いて、該治療組成物におけるそれらの使用が意図される。補足活性成分も該組成物に取入れることができる。
【0082】
該活性成分の性質及び意図される適用に照らして、局所適用のための組成物は、pHが約2.0 から約7.0 の範囲、より好ましくは約2.0 から約5.0 の範囲、及びより好ましくは約2.5 から約4.0 の範囲にあるように製剤化される。
【0083】
局部若しくは膣内若しくは肛門内若しくは耳内の使用を意図する本発明の糖酸を含むクリーム、ローション、軟膏、及びチンキ剤は、例えば、バニシングクリーム、ソルボレン、グリセロール及びその脂肪酸エステル、ポリオキシエチルグリコールを含む液体ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ブチル化ヒドロクスアニソール(hydroxanisole)、液体パラフィン、ジメチコーン、ソルビタン、パルミチン酸セチル若しくは他の脂肪酸、ポリソルベート、並びにそれらの混合物などの、皮膚科用の任意の標準的なローション又は軟膏を含む基剤中で調製できる。
【0084】
このような局部用組成物において、アルコール及び他の有機溶媒は一般的に、親水性の該糖酸の溶解性を維持するために必要とされない。しかしながら、本発明が修飾されていない糖酸と比べて改変された親水性を有する修飾された糖酸を含むので、そしてこのような組成物が溶解性のより低い成分を含みうるため、本発明は非水性の基剤組成物の使用をも包含する。
【0085】
粉末は一般的に、酸化亜鉛、タルク、又は他の均質な粉末基剤を用いて調製される。
【0086】
爪に適用するための樹脂ワニスは一般的に、例えばメタクリル酸共重合体、グリセロールトリアセテート、酢酸ブチル、酢酸エチル、及びエタノールを含む樹脂ワニス基剤中で調製される。
【0087】
噴霧用粉末は、例えばタルク、ソルビタン、若しくは脂肪酸などの粉末状基剤又は水性基剤を用いて調製され、一般的に例えばエタノール、プロパン、又はブタンなどの圧縮不活性ガスも含む。
【0088】
貯蔵及び使用の通常の条件下において、これらの調製物は微生物の増殖を防止するための保存剤をさらに含む。少なくとも、該保存剤は、製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、そして少なくとも販売時点まで微生物の汚染作用から保護されるべきである。これは、中でも、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、安息香酸、フェネチルアルコール、及びベンジルアルコールを含む種々の既知の抗細菌剤及び抗真菌剤を用いて達成できる。例えば、テトラサイクリン、リファンピシン、アンピシリン、ペニシリン、及びストレプトマイシン又はそれらの誘導体などの抗生物質の使用も本発明により意図される。
【0089】
本発明の組成物はさらに、幾つかの異なる病原体に対して幅広い交差保護(cross-protection)を提供しうるように他の抗真菌化合物を含みうる。このような他の抗真菌化合物には、中でも、例えばビフォナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール硝酸塩、ミコナーゾル硝酸塩、テルバフィン塩酸塩、及びアモロルフィン塩酸塩が含まれる。
【0090】
該製剤は、活性な糖酸化合物又は該化合物を生産する生物制御体を、必要な有効量で、上記に列挙した種々の他の成分を含む適切な基剤中に組み込み、必要ならば好ましくは濾過滅菌することにより調製される。
【0091】
活性な糖酸及び/又は生物制御体、並びにそれらを含む組成物は、本明細書に記載されるように、当業者に知られる任意の手段により生産できる。さらに、グルコン酸を含むある種の糖酸は幾つかの供給源の任意の一つから一般人に容易に利用できる。または、該糖酸は、例えば、電荷、大きさ、疎水性又は親和性に基づく分離などのクロマトグラフィー法を含む当業者に知られる幾つかの手法の任意の一つを用いて部分的に又は完全に精製されうる。特に位相分離技法、薄層クロマトグラフィー、及びシリカゲルによる分離が本発明により特に意図される。カラムクロマトグラフィー法は便宜的に高圧条件下で実施されうる(例えばHPLC)。
【0092】
一つの実施態様において、該糖酸は、PQQ依存性糖酸生合成酵素をコードする単離された核酸分子を生物に導入し、且つ、糖酸を生産するのに十分な時間及び条件の下でアルドース基質の存在下に該生物を培養することにより生産される。該糖酸は続いて該生物又は該培養培地から抽出されることが好ましい。該糖酸は、該培地、該生物、又はそれらの抽出物から部分的に又は実質的に精製されることがより好ましい。
【0093】
糖酸の生合成に関与する一つ以上の酵素をコードするヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的な配列は、シュードモナス・スピーシーズに由来することが好ましい。
【0094】
本発明のヌクレオチド配列は糖オキシダーゼ酵素をコードすることが好ましい。
【0095】
本明細書で使用されるとき、「糖オキシダーゼ」という用語はPQQ依存性酵素、PQQ依存性酵素複合体、又は少なくともその一つがPQQ依存性である同じ生化学経路で作用する幾つかの異なる酵素であって、アルドースを糖酸に転換する酵素を指すと解釈されるべきである。例えば、「糖オキシダーゼ」という用語には、ラクトナーゼ酵素を伴って又は伴わずに、グルコース又はガラクトースをその対応するアルドン酸、アルダル酸、又はウロン酸(即ち、グルコン酸、グルカル酸、グルカロン酸、及びガラクトン酸)のいずれか一つ以上に転換するオキシダーゼ酵素の作用が含まれる。当業者に知られるように、該グルコースオキシダーゼ酵素のソラス(solus )はグルコースをδ−グルコノラクトンに転換でき、続いて該δ−グルコノラクトンは非酵素的に糖酸に酸化されうる。このような非酵素的酸化反応の速度は酵素により触媒される反応と比較して遅いにもかかわらず、活性な抗真菌化合物として糖酸が実際に生産されるという要件を前提として、ラクトンから糖酸へのこのような非酵素的酸化と結合したグルコースオキシダーゼの活性は明らかに「糖酸」という用語の範囲内に収まる。「糖オキシダーゼ」という用語はさらに、ラクトナーゼ酵素を伴って又は伴わずに、D−グルコースをその対応する糖酸、グルコン酸及び/又はグルカル酸及び/又はグルカロン酸のいずれか一つ以上に転換するデヒドロゲナーゼ酵素の作用も包含する。
【0096】
「PQQ依存性」とは、該糖オキシダーゼが最適な酵素活性のための補因子としてPQQを必要とすることを意味する。当業者に知られるように、PQQは元来細菌により生産される金属依存性の酵素補因子であり、該金属は一般的にカルシウム又は銅である。本発明の実施においてPQQ依存性糖オキシダーゼを使用する利点は、PQQの生産が解糖に結びつかず、その結果、FAD−又はNAD−依存性酵素の発現と比較して、このような糖オキシダーゼを発現するトランスジェニック細胞上での解糖負荷が少ないことである。
【0097】
本発明の単離された核酸分子は、配列番号:1に示されるヌクレオチドの配列又はコスミドpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に存在する糖オキシダーゼ遺伝子のヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0098】
命名法のために述べると、コスミドpMN−M53はシュードモナスAN5株に由来する糖オキシダーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含む。コスミドpMN−M53を作成するために、シュードモナスAN5株の突然変異株を、シュードモナスAN5株のTn5:uidA挿入突然変異誘発、並びにG.グラミニス・ヴァル・トリティサイに対する活性を失い且つアルドース基質の存在下で培養しても抗真菌に有効な量の糖酸を生産しなかった細菌細胞についてのスクリーニングにより作製された。突然変異株の部分ゲノム断片を取得し、コスミドpLAF−R3を含む細胞に対してテトラサイクリン耐性を付与する遺伝子を含む該コスミドにサブクローニングした。得られたコスミドクローンを、pMN−M53と命名した。このコスミドは、このコスミドを宿す任意の原核細胞に付与するためのシュードモナス・スピーシーズの十分な構造遺伝子情報を含んでおり、又はその糖オキシダーゼをコードする領域、すなわち、アルドースから糖酸を合成できる能力、を有するその誘導体核酸分子を含む。コスミドクローンpMN−M53は、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の規定に基づいて、2000年1月27日にオーストラリア国のニューサウスウェールズ 2073、ピンブル、スアキンストリート 1にあるオーストラリア国政府分析研究所(AGAL)に寄託され、AGAL受託番号NM00/09622を付与された。
【0099】
配列番号:1に示されるヌクレオチド配列は、コスミドクローンpMN−M53に含まれる糖オキシダーゼをコードする遺伝子の末端の757bpに関する。配列番号:1に示されるヌクレオチド配列を得るために、コスミドクローンpMN−M53内のTn5:uidA挿入体の末端にアニーリングする配列決定プライマーを使用した。配列番号:1に示されるヌクレオチド配列は、BLAST調査分析により決定すると、既知遺伝子のいずれに対しても全体で50%未満のヌクレオチド配列同一性しか有さない。しかしながら、BLAST調査分析は、配列番号:1に由来し且つこの配列の553から575までのヌクレオチドを含む長さ23ヌクレオチドの断片が、大腸菌又はパントエア・シトレア(Pantoea citrea)のグルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に対して完全な同一性を有することを明らかにした。これらの限られた相同性は、コスミドクローンpMN−M53に存在する該ヌクレオチド配列が、グルコース代謝に関与する蓋然性は高いとしても、グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むことはありそうにないことを示している。さらに、機能的発現データは、コスミドクローンpMN−M53には、このコスミドを宿す任意の原核細胞に付与するための十分な構造遺伝子情報が存在すること、又はその糖オキシダーゼをコードする領域、すなわち、アルドースを糖酸に転換できる能力、を有するその誘導体核酸分子が存在することを示している。明らかに、該細菌の糖オキシダーゼ遺伝子は、例えばタラロマイセス・フラバス(Talaromyces flavus)又はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) のグルコースオキシダーゼ遺伝子などの他の既知の糖オキシダーゼほど高く保存されていない。
【0100】
従って、本発明は明らかに、pMN−M53と呼ばれる寄託されたコスミドに存在するシュードモナス・スピーシーズのヌクレオチド配列又は配列番号:1のヌクレオチド配列のホモログ、類似体及び誘導体に及ぶ。とりわけコスミドpMN−M53に存在するシュードモナス・スピーシーズのヌクレオチド配列の全長ヌクレオチド配列が本発明により特に意図される。
【0101】
本目的のため、ヌクレオチド配列の「ホモログ」は、配列内に一つ以上のヌクレオチドの置換、挿入、欠失、又は再整列が起きたとしても、本発明の核酸分子又はその相補的なヌクレオチド配列と実質的に同一な単離された核酸分子を指すと解釈されるべきである。
【0102】
本明細書に示されるヌクレオチド配列の「類似体」とは、単離された該核酸分子に通常存在しない、中でも例えば炭水化物、放射性ヌクレオチドを含む放射性化学物質、DIG、アルカリ性ホスファターゼ若しくはホースラディッシュペルオキシダーゼ等の(これらに限定されない)レポーター分子など、任意の非ヌクレオチド構成物質の出現にも関わらず、本発明の核酸分子又はその相補的なヌクレオチド配列と実質的に同一な単離された核酸分子を指すと解釈されるべきである。
【0103】
本明細書に示されるヌクレオチド配列の「誘導体」とは、該配列又はその一部に対して顕著な配列同一性を含む任意の単離された核酸分子を指すと解釈されるべきである。一般的に、本発明のヌクレオチド配列は、単数個又は複数個のヌクレオチドの置換、欠失、及び/又は挿入を生じるように突然変異誘発を受けうる。本発明のヌクレオチド配列のヌクレオチド挿入による誘導体は、単数個又は複数個のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体の配列内挿入物、並びに5′末端及び3′末端の融合体を含む。得られる産物の適切なスクリーニングが実施されるならば任意の挿入も可能であるが、挿入によるヌクレオチド配列変異体は、一つ以上のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体が該配列のヌクレオチド配列内の予め決定された部位に導入されたものである。欠失変異体は、該ヌクレオチド配列からの一つ以上のヌクレオチドの除去により特性付けられる。置換によるヌクレオチド変異体は、該配列内の少なくとも一つのヌクレオチドが除去されその部位に異なるヌクレオチド又はヌクレオチド類似体が挿入されたものである。
【0104】
特に好ましいホモログ、類似体又は誘導体は、下記のもの、すなわち
(i)配列番号:1又はそれに相補的な配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドに少なくとも約50%同一なヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、
(ii)コスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドに少なくとも約50%同一なヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、
(iii)少なくとも低厳格条件下において配列番号:1又はそれに相補的な配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズできる単離された核酸分子、
(vi)少なくとも低厳格条件下においてコスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズできる単離された核酸分子、及び
(vii)配列番号:1又はコスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナス遺伝子配列に縮重するヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、
から選択される単離された核酸分子のいずれか一つ以上を含む。
【0105】
このようなホモログは、糖オキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする列挙された配列及び寄託されたクローンに対して十分な長さと配列同一性を有するものであることが好ましい。本発明の核酸分子はPQQ依存性酵素をコードしており、この補因子は細菌細胞に広く行き渡っているので、そのホモログ、類似体又は誘導体は、細菌源、より好ましくはシュードモナス・スピーシーズから得られることが好ましい。
【0106】
しかしながら、本発明は明らかに全長配列よりも短い分子を意図し、この分子は、本明細書に記載される本発明の範囲内に収まる糖オキシダーゼをコードするヌクレオチド配列を更に同定する際に少なくとも有用である。好ましくは、このホモログ、類似体又は誘導体は、長さが少なくとも約100ヌクレオチドであり、より好ましくは長さが少なくとも約500ヌクレオチドであり、並びに長さが少なくとも約1〜10kbのヌクレオチドを含むことが更により好ましい。
【0107】
配列番号:1のヌクレオチド配列又は寄託されたクローンのヌクレオチド配列に対する同一性百分率は、少なくとも約60%であることが好ましく、少なくとも約70%であることがより好ましく、少なくとも約80%であることが更により好ましく、少なくとも約90%、若しくは95%、若しくは99%であることがより好ましい。二つのヌクレオチド配列が本明細書に列挙された特定の同一性百分率の制限内に収まるか否かを決定する際に、当業者は配列の並列比較又は多重整列を行うことが必要であると承知している。このような比較又は整列において、該整列を行うために使用されるアルゴリズムに応じて非同一性残基の位置決定で相違が生じうる。本文脈において、二つ以上のヌクレオチド配列間での百分率同一性についての言及は、当業者に知られる任意の標準的アルゴリズムを用いて決定された該配列間の同一残基の数を指すと解釈されるべきである。例えば、ヌクレオチド配列を整列し、それらの同一性をアメリカ合衆国、ウィスコンシン州、マディソン、ユニバーシティー・リサーチ・パークのコンピュータ・ジェネティックス・グループ会社のBESTFITプログラム又は他の適切なプログラムを用いて算出しうる(デベリュックスら、1984)。
【0108】
ホモログ、類似体及び誘導体は、核酸ハイブリダイゼーション(オーズベルら、1987)、ポリメラーゼ連鎖反応(マックフェルソンら、1991)、抗体プローブを用いる発現ライブラリーのスクリーニング(フユンら、1985)、又は機能検定等による、当業者に知られる任意の標準手法によって得られうる。
【0109】
核酸ハイブリダイゼーションにおいて、単離された形又はプラスミド若しくはバクテリオファージ若しくはコスミド分子などの適切なクローニングベクター内に含まれた形でのゲノムDNA、mRNA若しくはcDNA又はそれらの断片の一部は、ハイブリダイゼーションが起きるのに十分な時間及び条件の下で配列番号:1又は寄託されたクローンに由来するハイブリダイゼーションに有効な量の核酸プローブと接触させられ、次いで、このハイブリダイズした核酸が検出手段を用いて検出される。検出は、ハイブリダイゼーションの前に同定可能なシグナルを生じることのできるレポーター分子を用いて該プローブを標識することにより実施することが好ましい。好ましいレポーター分子としては、放射活性標識されたヌクレオチド三リン酸及びビオチン化された分子が挙げられる。
【0110】
ゲノム等価物などの本明細書に列挙された遺伝子の変異体は、中等度の又はより好ましくは高度の厳格条件下における該プローブに対するハイブリダイゼーションにより単離されることが好ましい。
【0111】
厳格のレベルを定義するために、低度の厳格は本明細書では28℃で6×SSC緩衝液、0.1%(w/v )のSDS中で実施されるハイブリダイゼーション及び/又は洗浄として、又は本明細書に例示されるものとして定義される。一般的に、該厳格は、SSC緩衝液の濃度を低減することにより、並びに/又はSDSの濃度を増大することにより並びに/又はハイブリダイゼーション及び/若しくは洗浄の温度を上昇させることにより高まる。中度の厳格は、42℃から65℃で0.2×SSC〜2×SSC緩衝液、0.1%(w/v )のSDS中で実施されるハイブリダイゼーション及び/ 又は洗浄を含み、一方、高度の厳格は、少なくとも55℃の温度で0.1×SSC〜0.2×SSC緩衝液、0.1%(w/v )のSDS中で実施されるハイブリダイゼーション及び/ 又は洗浄を含む。ハイブリダイゼーション及び洗浄についての条件は当業者によく理解されている。更に説明する目的のみで、核酸分子間のハイブリダイゼーションに影響を及ぼすパラメータについての言及は、参照により本明細書にインコーポレートされるオーズベルら(1992)に見出される。
【0112】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、配列番号:1又は寄託されたクローンに由来する長さが少なくとも約20ヌクレオチド、より好ましくは長さが少なくとも30ヌクレオチドを含む核酸プライマー分子は、核酸鋳型分子にハイブリダイズし、並びに該鋳型の特異的な核酸分子コピーは、参照により本明細書にインコーポレートされるマックフェルソンら(1991)に記載されるように酵素的に増幅される。
【0113】
cDNAライブラリー又はゲノムライブラリーの発現スクリーニングにおいて、タンパク質又はペプチドをコードする領域は、センス方向で適切なプロモーター配列の制御下に機能しうるように配置され、ペプチド又はポリペプチドを生産するように該プロモーターが機能しうる原核細胞又は真核細胞において発現し、糖オキシダーゼポリペプチドの一つ以上のエピトープに対してモノクローナル抗体分子若しくはポリクローナル抗体分子又はそれらの誘導体を用いてスクリーニングし、次いで、この結合抗体が基本的に参照により本明細書にインコーポレートされるフユンら(1985)により記載された検出手段を用いて検出される。この実施態様の適切な検出手段には、とりわけ最初に言及した抗体に結合できる 125I標識抗体又は酵素標識抗体が含まれる。
【0114】
本発明の該細菌糖オキシダーゼがPQQ依存性酵素であることは上述の論議から明白である。しかしながら、本発明概念の糖酸を生産するために全ての細胞が補因子としてPQQを生産するわけではないので、ある状況では該糖オキシダーゼ酵素をコードするこれらの遺伝子(群)に加えてPQQ生合成に要求される酵素も発現させることが必要でありうる。本発明者らは、PQQの生産に関与するpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、pqqE遺伝子、及びpqqF遺伝子を含むシュードモナスAN5株のPQQオペロンを同定した。
【0115】
細胞内で機能するPQQ補因子を生産するためには、PQQ生合成経路において一つ以上のPQQ前駆体をPQQに転換する十分な数のPQQ生合成遺伝子がそこで発現することを保証すること、並びに例えばCu(II)又はCa2+などの適切な金属イオンをそこに挿入することが必要がある。これらの適切な基質及び金属イオンは、該細胞に内因性であるか又は該細胞に外因的に供給されるかのいずれかでなければならない。この点で、ある細胞は、本明細書に記載されるPQQ生合成遺伝子の一つだけ又は二つ又は三つ又は四つが欠如しうる。結果として、本発明が本明細書に列挙した五つの遺伝子の部分集合のみの使用を包含することは明らかである。その上、生合成経路で下流にあるPQQ前駆体が該細胞に供給されると、該経路の上流で作用する酵素をコードする遺伝子は必要でなくなる。例えば、PQQの中間前駆体がpqqE遺伝子のみを発現する細胞に供給され、そして機能しうるPQQ補因子がそれからでも生産されうる。このような変更は当業者には容易に明らかであろう。
【0116】
従って、本発明はさらにPQQの生合成に関与する一つ以上のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。このような配列は例えばシュードモナス・スピーシーズなどの細菌細胞に由来することが好ましいが、必ずしもそれに限らない。幾つかの細菌のPQQ生合成遺伝子が記載され公開された出典から容易に利用できる。
【0117】
特に好ましい実施態様において、本発明はシュードモナスAN5株のpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、pqqE遺伝子、及びpqqF遺伝子の一つ以上を含む単離された新規な核酸分子を提供する。
【0118】
本発明の単離された核酸分子は、配列番号:2から配列番号:6の任意の一つに示されるヌクレオチド配列又はコスミドpMN- L2(AGAL受託番号NM00/09621)に存在する糖オキシダーゼ遺伝子のヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0119】
命名法について説明するために述べると、コスミドpMN−L2は、シュードモナスAN5株に由来するpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、pqqE遺伝子、及びpqqF遺伝子のヌクレオチド配列を含む。コスミドpMN−L2を作製するために、シュードモナスAN5株の突然変異株を、シュードモナスAN5株のTn5:uidA挿入突然変異誘発、並びにG.グラミニス・ヴァル・トリティサイに対する活性を失った細菌細胞についてのスクリーニングにより作製した。該突然変異株の部分ゲノム断片を取得し、コスミドpLAF−R3にサブクローニングした。該コスミドは、このコスミドを含む細胞にテトラサイクリン耐性を付与する遺伝子を含む。得られるコスミドは、その本来の基質からPQQを細菌細胞中で生産しこのコスミドを宿す任意の原核細胞に付与するためのシュードモナス・スピーシーズの十分な構造遺伝子情報、又はPQQを生産できる該遺伝子を有するそれらの誘導体核酸分子を含む。コスミドクローンpMN−L2は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約の規定に基づいて、2000年1月27日にオーストラリア国、ニューサウスウェールズ 2073、ピンブル、スアキンストリート 1にあるオーストラリア国政府分析研究所(AGAL)により寄託され、AGAL受託番号NM00/09621を付与された。
【0120】
配列番号:2から配列番号:6に示されるヌクレオチド配列は、コスミドクローンpMN−L2に含まれるpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、pqqE遺伝子、及びpqqF遺伝子に関する。特に、配列番号:2はシュードモナスAN5株の全長のpqqA遺伝子及びpqqB遺伝子の断片から成り、細菌のpqqB遺伝子の保存領域に由来する配列決定用プライマーを用いて得られる。配列番号:3に示されるヌクレオチド配列は、シュードモナスAN5株のpqqC遺伝子の断片から成り、細菌のpqqC遺伝子の保存領域に由来する配列決定用プライマーを用いて得られる。配列番号:4に示されるヌクレオチド配列は、シュードモナスAN5株のpqqD遺伝子の断片から成り、細菌のpqqE遺伝子の保存領域に由来する配列決定用プライマーを用いて得られる。配列番号:5に示されるヌクレオチド配列は、シュードモナスAN5株のpqqE遺伝子の断片から成り、コスミドクローンpMN−L2におけるTn5:uidA挿入物の末端にアニーリングする配列決定用プライマーを用いて得られる。配列番号:6に示されるヌクレオチド配列は、シュードモナスAN5株のpqqF遺伝子の断片及びpqqAとpqqFとの間の遺伝子間領域から成り、細菌のpqqB遺伝子の保存領域に由来する配列決定用プライマーを用いて得られた。
【0121】
配列番号:2、配列番号:3、配列番号:5及び配列番号:6のいずれか一つに示されるヌクレオチド配列は、BLAST調査分析により決定すると、任意の既知のPQQ生合成遺伝子のいずれに対しても全体として90%未満のヌクレオチド配列同一性を有し、一方、配列番号:4の全体に対してはヌクレオチド配列同一性はほとんどない。しかし、BLAST調査分析は、配列番号:2から配列番号:6の任意の一つに由来し且つ長さ42未満の連続したヌクレオチドのより小さな断片が、上記のPQQ生合成遺伝子に対してより高い同一性を有することを示した。
【0122】
従って、本発明は明らかに、pMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)と呼ばれる寄託されたコスミドに存在するシュードモナス・スピーシーズのヌクレオチド配列又は配列番号:2から配列番号:6の任意の一つに存在するヌクレオチド配列のホモログ、類似体及び誘導体にも及ぶ。コスミドpMN−L2に由来するシュードモナス・スピーシーズのpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、pqqE遺伝子、及びpqqF遺伝子の全長のヌクレオチド配列が本発明により特に意図される。
【0123】
特に好ましいホモログ、類似体又は誘導体は、下記のもの、すなわち
(i)配列番号:2から配列番号:6のいずれか一つ又はそれに相補的な配列の少なくとも約50個の連続したヌクレオチドに少なくとも約90%同一なヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、
(ii)コスミドクローンpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約50個の連続したヌクレオチドに少なくとも約90%同一なヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、
(iii)少なくとも低厳格条件下において配列番号:2から配列番号:6のいずれか一つ又はそれに相補的な配列の少なくとも約50個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズできる単離された核酸分子、
(iv)少なくとも低厳格条件下においてコスミドクローンpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約50個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズできる単離された核酸分子、及び
(v)配列番号:2から配列番号:6のいずれか一つに縮重し、又はコスミドクローンpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に含まれるシュードモナス遺伝子配列に縮重するヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、
から選択される単離された核酸分子のいずれか一つ以上を含む。
【0124】
このようなホモログは、機能的なPQQ生合成酵素をコードするために十分な長さであり並びに列挙した配列及び寄託されたクローンに対して十分な配列同一性を示すことが好ましい。しかし、本発明は明らかに全長よりも短い分子を意図し、これらは少なくとも本明細書に記載される本発明の範囲内に収まるPQQ生合成遺伝子をさらに同定する際に有用である。好ましくは、該ホモログ、類似体又は誘導体は少なくとも長さ約100ヌクレオチドであり、より好ましくは少なくとも長さ約500ヌクレオチドであり、並びに更により好ましくは少なくとも長さ約1〜10kbのヌクレオチドを含む。
【0125】
配列番号:1又は寄託されたクローンのヌクレオチド配列に対する同一性百分率は、標準的なヌクレオチド配列分析ソフトウェアを用いて決定すると、少なくとも約90%であることが好ましく、少なくとも約95%であることがより好ましく、少なくとも約97%であることが更により好ましく、少なくとも約99%であることがより好ましい。
【0126】
該ハイブリダイゼーション厳格性は、少なくとも中等度の厳格であることが好ましく、新規な配列を同定するために高度に厳格なハイブリダイゼーションが用いられることがより好ましい。
【0127】
ホモログ、又は本明細書に記載される本発明の糖オキシダーゼをコードする遺伝子と同様に、PQQ生合成遺伝子のホモログ、類似体及び誘導体は、核酸ハイブリダイゼーション(オーズベルら、1987)、ポリメラーゼ連鎖反応(マックフェルソンら、1991)、抗体プローブを用いる発現ライブラリーのスクリーニング(フユンら、1985)、又は機能検定等による、当業者に知られる任意の標準手法によって得られうる。
【0128】
本発明をいかなる一理論又は一作用様式に限定する意図はないが、シュードモナスAN5株又はその誘導体、特にシュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)又は本明細書に記載される糖オキシダーゼをコードするヌクレオチド配列(及び任意選択的に本明細書で上述したPQQ生合成遺伝子のヌクレオチド配列)を保持する他の生物は、D−グルコースなどのアルドースをアルデヒドの炭素原子で酸化し、対応する糖酸を形成すると提案する。この転換における第一段階は、ラクトンの形成を伴うPQQ依存性糖オキシダーゼのグルコースオキシダーゼ(GOD)活性により触媒され、この転換における第二段階はPQQ依存性糖オキシダーゼのラクトナーゼ活性により触媒される。
【0129】
従って、本発明の遺伝子が発現すると分かっている生物を用いない本発明の実施態様においては、発現可能な様式で該遺伝子を該生物に導入することが必要である。本発明の遺伝子は細菌に由来するので、コスミドpMN−M53に存在する糖オキシダーゼをコードする遺伝子並びにコスミドpMN−L2のPQQオペロンは、ほとんどの細菌細胞、特にシュードモナス・スピーシーズにおける発現に不可欠な調節配列を含む。
【0130】
本発明はさらに、原核細胞及び真核細胞の両方において発現可能な様式で、本明細書に記載される本発明遺伝子のコンフィギュレーションを提供する。ほとんどの場合、これは、特定の細胞型における又は特定の環境条件の下での発現に必要な一つ以上の調節配列と機能しうるように連結して、本明細書に記載された遺伝子の構造タンパク質をコードする領域の位置決定をすることを必要とする。
【0131】
真核細胞での発現のため、本発明の構造遺伝子配列を、既知の真核性遺伝子から得られるイントロン配列を含めることによりさらに改変して、該構造遺伝子がコードするmRNAの安定性を改良し又は他の方法で発現を増大しうる。例えば、植物細胞における発現を改良するために、コメのアクチン遺伝子、又はトウモロコシのAdh1遺伝子、又はシロイヌナズナのAdh1遺伝子の第一イントロンのイントロン配列がとりわけ有用である。
【0132】
細菌遺伝子が発現する生物において最適となるように該遺伝子のコドン利用を適応させるために行われる、列挙したヌクレオチド配列の改変、又は寄託微生物中に存在する遺伝子の改変を含めることも、本発明の範囲内にある。このようなコドン利用の改変は当分野では周知であり当業者により容易に実施されうる。従って、本発明は、列挙された配列に対する縮重配列を特に意図する。
【0133】
従って、本発明が本発明の核酸分子の導入及び/又は発現を促進するよう設計された遺伝子構築物の使用に及ぶことは明らかである。
【0134】
細菌細胞などの原核細胞、又は昆虫細胞、哺乳動物細胞、植物細胞若しくは酵母細胞などの真核細胞において該核酸分子を発現するために、該構造タンパク質をコードする領域は、強力な普遍プロモーター、即ち種々の外来の刺激に応答して発現を制御できるプロモーター配列の制御下において機能しうるように配置されることが好ましい。当業者は、過度の実験を行うことなく該核酸分子の発現に適切なプロモーター配列を選択する立場にある。
【0135】
本明細書で「プロモーター」についての言及は、最も広い文脈で解釈されるべきであり、CCAATボックス配列並びに発生刺激及び/若しくは外来の刺激に応答して又は組織特異的な様式で遺伝子発現を改変する付加的な制御因子(即ち、上流の活性化配列であるエンハンサー及びサイレンサー)を伴い又は伴わずに、正確な転写開始に必要なTATAボックスを含む、正統的な真核ゲノム遺伝子の転写調節配列を含む。本発明の文脈において、「プロモーター」という用語は正統的な原核遺伝子の転写調節配列も含み、その場合、−35ボックス配列及び/又は−10ボックス転写調節配列を含みうる。
【0136】
本文脈において、「プロモーター」という用語は、細胞におけるセンス分子を発現させ、発現を活性化し又は発現を強化する合成分子、又は融合分子、又は誘導体を記載するためにも使用される。それが機能的に連結している核酸分子の、発現をさらに強化し及び/又は空間的発現及び/又は時間的発現を改変するため、プロモーターは一つ以上の特異的な調節因子の付加コピーを含むことが好ましい。例えば、異種のプロモーター配列に銅誘導性の発現を付与するため、銅に応答性のある調節因子がそのプロモーターに隣接して配置される。
【0137】
核酸分子をプロモーター配列の調節的制御下に配置することは、発現が該プロモーター配列により制御されるよう該核酸分子を配置することを意味する。プロモーターは通常、常にではないが、該プロモーターが調節する核酸分子の上流又は5′側に配置される。さらに、プロモーターを含む該調節因子は、該構造タンパク質をコードするヌクレオチド配列又はそれを含むキメラ遺伝子の転写開始部位の2kb以内に通常配置される。異種プロモーター/構造遺伝子の組合わせの構築において、一般的に、該プロモーターと遺伝子転写開始部位との距離が該プロモーターと本来の遺伝子(本来の状態で該プロモーターが制御する遺伝子、即ち該プロモーターが由来する遺伝子)の間の距離と凡そ同じになるように該プロモーターを配置することが好ましい。当分野で知られるように、この距離の幾らかの変化はプロモーター機能を喪失することなく適応できる。同様に、その制御下に置かれた異種遺伝子に関する調節配列因子の好ましい配置は、その本来の状態での該因子の位置、即ち該因子が由来する遺伝子の位置により規定される。ここでも、当分野で知られるように、この距離の幾らかの変化も生じ得る。
【0138】
本発明の遺伝子構築物での使用に適切なプロモーターには、細菌、酵母、真菌、動物、又は単子葉類植物及び/若しくは双子葉類植物を含む植物に由来する単離された細胞において、並びに/又はこれらの単離された細胞に由来する細胞、組織及び器官において機能できる、ウイルス、酵母、糸状菌、細菌、昆虫、鳥類、哺乳動物及び植物の遺伝子に由来するプロモーターが含まれる。該プロモーターは、構成的に遺伝子発現を調節し、又は発現が起きる組織に関して、若しくは発現が起きる発生段階に関して、若しくはとりわけ生理的ストレス、病原体、若しくは金属イオンなどの外来の刺激に応答して差別的に遺伝子発現を調節しうる。
【0139】
この実施態様を実施する際に有用なプロモーターの例には、CaMV35Sプロモーター、NOSプロモーター、オクトピン合成酵素(OCS)プロモーター、シロイヌナズナSSU遺伝子プロモーター、ナピン(napin )種に特異的なプロモーター、P32プロモーター、BK5−Timmプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、ファージラムダλL 又はλR プロモーター、CMVプロモーター(米国特許第5,168,062 号)、lacUV5プロモーター、SV40初期プロモーター(米国特許第5,118,627 号)、SV40後期プロモーター(米国特許第5,118,627 号)、アデノウイルスプロモーター、バキュロウイルスP10プロモーター、又はポリヘドリンプロモーター(米国特許第5,243,041 号、第5,242,687 号、第5,266,317 号、第4,745,051 号、及び第5,169,784 号)、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV−LTRプロモーター、SCSVプロモーター、SCBVプロモーター等が含まれる。本明細書で確認された特異的プロモーターに加えて、アクチンプロモーター、又はヒストンをコードする遺伝子のプロモーターを含むいわゆるハウスキーピング遺伝子についての細胞性プロモーターが有用である。
【0140】
例えば中でもpKC30(λL:シマタケとローゼンバーグ、1981)、pKK173−3(tac:アマンとボロシウス、1985)、pET−3(T7:スチュディールとモファット、1986)又は発現ベクターのpQEシリーズ(キアーゲン社、カリフォルニア州)など、細菌での発現に適したプロモーター配列を有する多数のベクターが記述されている。
【0141】
特に好ましい実施態様において、該プロモーターはコスミドクローンのpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)又はpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に存在するシュードモナスAN5株の遺伝子に由来する。
【0142】
該遺伝子構築物はさらにターミネーター配列を含み、それが発現できる適切な宿主細胞内に導入されうる。
【0143】
「ターミネーター」という用語は、転写終結を知らせる転写単位の末端にあるDNA配列を指す。ターミネーターはポリアデニル化シグナルを含む3′非翻訳DNA配列であり、該シグナルは一次転写産物の3′末端へのポリアデニレート配列の付加を促進する。ウイルス、酵母、糸状菌、細菌、昆虫、鳥類、哺乳動物及び植物に由来する細胞において活性なターミネーターが知られており文献に記載されている。これらは、細菌、真菌、ウイルス、動物及び/又は植物から単離されうる。
【0144】
特に本発明の遺伝子構築物での使用に適したターミネーターの例には、中でもアグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素(NOS)遺伝子ターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S遺伝子のターミネーター、トウモロコシから得られるzein遺伝子ターミネーター、ルビスコ小サブユニット(SSU)遺伝子ターミネーター配列及びサブクローバースタント(subclover stunt )ウイルス(SCSV)遺伝子配列ターミネーターが含まれる。当業者は、本発明を実施する際の使用に適しうる他のプロモーター配列及びターミネーター配列に通じている。このような配列は、過度のいかなる実験を行うことなく容易に使用されうる。
【0145】
本発明の遺伝子構築物は、該遺伝子構築物が該細胞でエピソーム遺伝要素(例えば、プラスミド又はコスミドの分子)として保持されることが必要である場合、例えば細菌細胞などの特定の細胞型での複製に必要な複製起点配列をさらに含みうる。好ましい複製起点にはf1−ori及びcolE1の複製起点が含まれるが、これらに限定されない。
【0146】
該遺伝子構築物はさらに、該遺伝子構築物が導入される細胞内で機能する選択可能なマーカー遺伝子又は遺伝子群を含みうる。
【0147】
本明細書で用いられるように、「選択可能なマーカー遺伝子」という用語には、本発明の遺伝子構築物又はその誘導体を用いてトランスフェクションされた又は形質転換された細胞の同定及び/又は選択を容易にするために、発現する細胞に表現型を付与する任意の遺伝子が含まれる。
【0148】
本明細書で意図される適切な選択可能なマーカー遺伝子には、中でもアンピシリン耐性(Ampr )、テトラサイクリン耐性遺伝子(Tcr )、細菌のカナマイシン耐性遺伝子(Kanr )、ホスフィノスリシン (phosphinothricin) 耐性遺伝子、ネオマイシンホスフォトランスフェラーゼ遺伝子(nptII)、ハイグロマイシン耐性遺伝子、β- グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子が含まれる。
【0149】
本目的に適した多数の発現ベクターが記載されており、容易に利用できる。
【0150】
好ましい実施態様において、本方法は、他のPQQ生合成遺伝子又はそれを含む一つ以上の遺伝子構築物を伴い又は伴わずに、本発明の核酸分子、特に該糖オキシダーゼをコードする配列を用いて該細胞、組織、器官又は生物を形質転換する追加された最初の工程を含む。上述したように、この核酸分子は遺伝子構築物内に含まれうる。該核酸分子又はそれを含む遺伝子構築物は、該細胞のトランスフェクション又は形質転換のための任意の既知方法を用いて細胞内に導入されうる。真核生物の場合、当業者に知られる任意の方法を用いて、一つの形質転換された細胞から完全な生物体が再生しうる。
【0151】
「トランスフェクト」とは、この導入される核酸分子が該細胞のゲノム内に組込まれることなく該細胞内に導入されることを意味する。
【0152】
「形質転換」とは、この導入される核酸分子若しくはそれを含む遺伝子構築物又はそれらの断片が該細胞のゲノム内に安定に組込まれることを意味する。
【0153】
組換えDNAを植物の組織又は細胞に導入する手段には、CaCl2 を用いる形質転換及びその変法、具体的にはハナハンにより記載される方法(1983)、プロトプラスト内への直接的なDNAの取込み(クレンスら、1982、パスゾウスキーら、1984)、プロトプラストへのPEG媒介取込み(アームストロングら、1990)、微粒子射撃、電気穿孔法(フロムら、1985)、DNAのマイクロインジェクション(クロスウェイら、1986)、組織移殖片又は細胞の微粒子射撃(クリストウら、1988、サンフォード、1988)、核酸の組織への真空浸透、又は植物の場合、主として、アンら(1985)、ヘレラ−エストレラら(1983a、1983b、1985)により記述されたアグロバクテリウムから該植物組織へのT−DNA媒介転移が含まれるが、これらに限定されない。
【0154】
細胞の微粒子射撃では、微粒子が細胞内に発射され形質転換細胞を生じる。任意の適切なバイオリスティック(biolistic )細胞形質転換方法及び装置が本発明を実施する際に使用できる。典型的な装置及び手法は、ストンプら(米国特許第5,122,466 号)及びサンフォードとヴォルフ(米国特許第4,945,050 号)により開示されている。バイオリスティック形質転換法を用いる場合、該遺伝子構築物は、形質転換される該細胞内で複製できるプラスミドを組込みうる。
【0155】
このような系での使用に適した微粒子の例には、1から5μmの金の球が含まれる。該DNA構築物は、沈降法などの任意の適切な技法により該微粒子上に沈着されうる。
【0156】
別法として、該細胞が多細胞生物に由来し、そして関連技術が利用できる場合、当分野で周知の手法通りに、該形質転換細胞から完全な生物体を再生しうる。器官形成又は胚形成によっても次のクローン増殖が可能な植物組織は、本発明の遺伝子構築物を用いて形質転換され、それから完全な植物体を再生しうる。選択される具体的な組織は、形質転換される特定の種にとって利用でき、そして最適なクローン増殖系に応じて変化する。組織標的の例には、葉片 (leaf disks) 、花粉、胚、子葉、胚軸、大配偶体、カルス組織、既存の分裂組織的組織(例えば、頂端分裂組織、腋芽、及び根分裂組織)、並びに誘導された分裂組織(例えば、子葉分裂組織及び胚軸分裂組織)が含まれる。
【0157】
本明細書で用いられる「器官形成」という用語は、新芽及び根が分裂組織の中心から順次発育する過程を意味する。
【0158】
本明細書で用いられる「胚形成」という用語は、新芽及び根が体細胞又は配偶子から協同的に(逐次的ではない)共に発育する過程を意味する。
【0159】
この再生された形質転換植物は、クローン増殖又は伝統的な品種改良技術などの種々の手段により増殖しうる。例えば、第一世代(即ちT1)の形質転換植物は自家受粉し又は他のT1植物と交雑しうる、そして同形接合の第二世代(即ちT2)形質転換体が選択されうる。容易に自家受粉して同形接合植物を作成することのない柑橘類及びブドウ及び他の植物など木本作物の場合、第一形質転換体のクローン誘導体は互いに交雑して同形接合のT2植物を作成する必要がある。次いで、このT2植物はさらに伝統的な品種改良技術により繁殖しうる。
【0160】
本明細書で意図されるこの再生された形質転換生物は、種々の形態を採りうる。例えば、これらは、形質転換細胞と非形質転換細胞のキメラ、クローン形質転換体(例えば、全細胞が該発現カセットを含むように形質転換される)、及び形質転換組織と非形質転換組織の接木(例えば植物では、形質転換された台木を非形質転換接穂に接木する)でありうる。
【0161】
上記の論議から、該形質転換生物はPQQ依存性糖オキシダーゼの発現能のおかげで種々の適用を有することが明らかであろう。実際に、このような形質転換生物は、上述したように真菌感染の治療が必要なあらゆる分野で適用される。形質転換植物の場合、これらはそれ自体が真菌病原体に対して増強された耐性又はトレランスを示しうる。
【0162】
従って、明らかに、本発明は、本明細書に記載されるいずれかの実施態様のPQQ依存性糖オキシダーゼをコードする単離された核酸分子を該植物、又はその細胞、組織若しくは器官で発現させる工程を含む、真菌感染に対する植物のトレランスを強化する方法を提供する。一つ以上のPQQ生合成遺伝子を含むヌクレオチド配列も該植物で発現し、任意選択的に必要ならば、確実に機能的補因子が形成されるよう、発現したPQQ生合成タンパク質の活性に適した基質が該形質転換植物に供給されることが好ましい。
【0163】
本方法は該糖オキシダーゼをコードする核酸とPQQ生合成遺伝子を該植物細胞に導入する最初の工程をさらに含むことが好ましい。
【0164】
本発明方法は該形質転換細胞から完全な植物体を再生する工程をさらに含むことが好ましい。
【0165】
「強化されたトレランス」とは、該真菌病原体が該形質転換植物上で阻害されずに増殖することができないため、該植物が、該真菌病原体により被る感染に罹りにくく及び/又は該真菌による初期感染後に病気を発症しにくいことを意味する。
【0166】
本発明のこの側面が、導入された核酸分子をも発現する形質転換植物の子孫に及ぶことは明らかである。
【0167】
本発明は添付の実施例及び図面を参照してさらに記載する。
【実施例】
【0168】
実施例1
G.グラミニス・ヴァル・トリティサイ(立枯れ)に対する
生物制御体としてのシュードモナスAN5株の使用
小規模の野外実施試験において、本発明者らは、オーストラリアのニューサウスウェールズでの異なる陸地試験場所において、シュードモナスAN5株の適用により、12%から36%の範囲で(P<0.05)コムギの収穫量を一貫して増大できた(表1)。
【0169】
【表1】

【0170】
続いて、ハーデン・ディストリクト・ルーラル・サービス(Harden District Rural Services)(HRS)グループは、オーストラリア国、ニューサウスウェールズ、ハーデンの試験場所でのエーカー規模の区画においてシュードモナスAN5株を用いる大規模試験を確立した。該試験の開始前に、この場所で著しい立枯れ病があった。シュードモナスAN5株を用いる生物制御治療後、コムギの発育期を通して観察された治療区画は、白色頭花の形成(white head formation) のレベル及び根部上の症状の可視的評点により決定されたとき、30%から40%の病気抑制を示した。さらに、収穫された作物の位置を正確に決定するためのバイオインフォマティック・サテライトに基づくグローバル・ポジショニング・システム(bio-informatic satellite-based global positioning system)(GPS)及びNIH画像分析器を用いるコムギ作物の収穫量の測定により、シュードモナスAN5株により与えられた生物制御保護によってコムギの収量が20%増大したことが示された。
【0171】
生物制御計画において、植物の根部上及び土壌中におけるシュードモナスAN5株細菌の生存は、効果的な生物制御保護における最も重要な因子の一つである。一シーズンにわたるコムギの根部上におけるシュードモナスAN5株細菌の典型的な生存パターンは、数の上で減少する。シュードモナスAN5株の減少速度は土壌中の水分含量に関係する。土壌の型が異なると、そして野外の場所が異なると、土壌中に存在するシュードモナスAN5株の数は幾つかのシーズンに渡って減少する。高い細菌数はシーズンの開始時に起こり(1グラムのコムギ根につき約106 〜107 )、この数は乾燥した該シーズン末期に向かうにつれ減少する。非常に乾燥した年では、細菌数のより劇的な減少が該コムギ根部上で観察され、これは生物制御保護の喪失と良く相関する。
【0172】
実施例2
シュードモナスAN5株を用いるボトリティス・ファバエ
(チョコレート色斑点真菌)の生物制御
チョコレート色斑点(起因菌はボトリティス・ファバエ)はソラマメの深刻な病気である。現在、生育シーズン中、殺真菌剤が数回適用される。
【0173】
本発明者らは、シュードモナスAN5株がソラマメのチョコレート色斑点病に対して有効であり、そしてそれがインビトロで実施される生物検定においてB.ファバエの生育を抑制できることを示した。
【0174】
温室において、本発明者らはB.ファバエ真菌を該植物上に噴霧することによりチョコレート色斑点を誘導できた。噴霧の数日以内に該病気の症状が観察できた。病気の症状の重篤度を評点するための基準を考案し、この基準を用いて、B.ファバエの接種前又は接種後のいずれかでシュードモナスAN5株を含む生物制御細菌を噴霧された植物の症状が、未処理の植物と比較して90%まで低減することを示した。本発明者らは更に、チョコレート色斑点病に対して95%までの保護がシュードモナスAN5株の接種により得られることを示した。
【0175】
その上、本発明者らは、インビトロで実施される生物検定において、グルコン酸などの糖酸がB.ファバエ真菌の増殖及び/又は生殖を抑制することを示した。従って、B.ファバエに対するソラマメのトレランスを強化するために本明細書に記載される方法を用いて、糖酸を生産するソラマメのトランスジェニック植物を作成することは本発明の範囲内にある。
【0176】
実施例3
シュードモナス・スピーシーズにおけるG.グラミニス・ヴァル・トリティサイ
(立枯れ病菌)に対して活性な抗真菌化合物の同定
微生物学的方法及び分子生物学的方法
ナユヂュとホロウェイ(1981)、ナユヂュとロルフェ(1987)、ナユヂュら(1994a)及びナユヂュら(1994b)により記載される標準的な方法を使用した。
【0177】
細菌株
AN5、Pf5、及びAN5rifと呼ばれるシュードモナス株は、立枯れ病菌に対して抗真菌活性を有し、他に明記しない限り全実験で使用した。該突然変異のAN5−MN1株及びAN5−MN2株は有意な抗真菌活性を有さず、他に明記しない限り負の対照として使用した。
【0178】
生物検定法
寒天プラグ検定(ポップロウスキーら、1988)の変法を用いて、シュードモナスAN5株又はその誘導株の抽出物の立枯れ病菌に対する生物活性について検定した。ここで、個々の画分の活性を試験するために寒天重層検定を用いた。この検定は、ポテト・デキストロース(PD)ブロス中で増殖した立枯れ病菌を細かく砕く工程及びそれをポテト・デキストロース寒天(PDA)重層に播種する工程を含む。このPDA重層を厚いPDAプレート上に注いだ。活性を試験する画分を重層の最上部に配置し、該プレートを乾燥し、そして16℃で3〜5日間インキュベートした。
【0179】
抗真菌化合物の抽出及び分析
増殖培地としてポテト・デキストロース・ブロスを用いて、シュードモナス・スピーシーズAN5株細菌を25℃で2日間250mlのフラスコ内で培養した。この培養期間後、90mlの細胞培地に150mlのイソプロパノールを添加し、この溶液を15分間振とうすることにより混合し、その後、5000rpmで10分間遠心分離することにより細胞を回収した。この上清を採取し、40℃で回転濃縮器(rotavapor )を用いて濃縮した。この粗濃縮液を100mlのエタノール(30mlで三回)に溶解した。エタノールに不溶性の破砕物に50mlの水を添加した後、50mlのアセトンを添加し、タンパク質様物質を沈殿させた。
【0180】
得られる懸濁液を遠心分離し、この上清及びエタノール溶液から得た全量0.02mlをマイクロピペット(ギルソンピペット)でシリカゲルG・F254 TLCプレート(アスザロスら、1968)にかけた。いくつかの異なる溶媒系を用いて、この粗抽出液の薄層クロマトグラフィーを実施した:
1 メタノール、
2 メタノール:クロロホルム[ 1:9(v/v )] 、
3 クロロホルム、
4 ピリジン:水[ 1:1(v/v )] 、
5 ピリジン:水:エタノール[ 1:1:1(v/v/v )] 、
6 ピリジン:水:エタノール[ 1:1:3(v/v/v )] 、
7 2−プロパノール:水[ 17:3(v/v )] 、
8 2−プロパノール:水[ 4:1(v/v )] 、
9 2−プロパノール:水[ 7:3(v/v )] 、
10 アセトン:水[ 9:1(v/v )] 、
11 アセトン:n−ブタノール:酢酸:水[ 8 :0.5 :0.5 :1 (v/v/v/v)] 、
12 n−プロパノール:水[ 7:1(v/v )] 、
13 n−プロパノール:水[ 7:1.5(v/v )] 、
14 n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:1:4(v/v/v )] 、
15 n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:2:3(v/v/v )] 、
16 n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5.5:2:2.5(v/v/v )] 、
17 酢酸メチル:2−プロパノール:水[ 18:1:1(v/v/v )] 、
18 2−プロパノール:酢酸エチル:水[ 1:1:2(v/v/v )] 、
19 2−プロパノール:酢酸エチル:水[ 6:1:3(v/v/v )] 。
【0181】
この多数の溶媒系は、シリカTLCプレート上でのシュードモナス・スピーシーズAN5株の活性な抗真菌化合物の分離を改良する試みにおいて使用した。
【0182】
TLCプレートにおける任意の個々の化合物が抗真菌活性を有したか否かを決定するために、上述の生物検定を改変して、立枯れ病菌を播種したPDA重層を該TLCプレート上に注ぎ1週間16℃でインキュベートした。活性画分は、培養真菌の不透明な背景内で該プレートでの澄明領域の出現により同定した。
【0183】
この生物検定を用いたところ、立枯れ病菌に対する抗真菌活性を有するシュードモナスAN5株中の化合物は、メタノール、メタノール:クロロホルム[ 1:9(v/v )] 、又はクロロホルムを含む溶媒系では該起点から移動しなかった。該生物活性は、PDAプレートからバンドをかき取り、該化合物を抽出した後、同様にTLCプレート上で試験した。具体的には、同じ活性画分を有するPDAプレートと同様に、これらのTLCプレートの起点に澄明領域が存在した(図1)。
【0184】
この生物検定と連係したTLCを用いることにより、シュードモナスAN5株の生物活性な抗真菌化合物は、ピリジン:水:エタノール[ 1:1:1(v/v/v )] 又はピリジン:水:エタノール[ 1:1:3(v/v/v )] を含む溶媒系を使用すると、該化合物の分離はこの系でも劣っていたものの、約0.7のRf値を有することが示された。
【0185】
アセトニトリル:メタノール:水を含む溶媒系を用いるシリカゲル逆相薄層クロマトグラフィー(SGRPTLC)では、これらのTLC溶媒系よりも優れた分離を得ることはできなかった。
【0186】
続いて、本発明者らは、炭水化物の分離に通常適用される溶媒系、特に二成分又は三成分からなる組成物の有機溶媒を試験した。AN5及びその突然変異体の粗抽出物について得られたように(ヘブレグザッハーら,1976)、水を含まない溶媒、又は水含量の低い溶媒はスポットの拡散を生じるので、水はこのような溶媒系の必要不可欠な構成成分である。
【0187】
上記に列挙した多数の溶媒系の中から、n−プロパノール:酢酸エチル:水の系一つだけが、TLC法におけるシュードモナスAN5株の抗真菌構成要素を分離することに成功した。最適な結果はn−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:2:3(v/v/v )] で得られた。データは図2に示す。この溶媒系は通常ヘキソサミンの分離(ヘブレグザッハーら,1976、ガル,1968)に使用される。従って、これらのデータは、シュードモナスAN5株の抗真菌化合物が炭水化物様分子でありうることを示唆した。
【0188】
実施例4
シュードモナス・スピーシーズにおけるG.グラミニス・ヴァル・トリティサイ
(立枯れ病菌)に対して活性な抗真菌化合物の精製
カラム上又はTLCプレート上の吸着クロマトグラフィーは、単純な糖、糖誘導体及びオリゴ糖の分離並びに精製に有用な方法である。しかし、この技法は、時間がかかり、しばしばバンドのテーリングにより貧弱な分離結果に至る。従って、本発明者らは実質的にもっと迅速な技法である「フラッシュ・クロマトグラフィー」に従って該化合物を精製した(スティルら、1978)。フラッシュ・クロマトグラフィーは基本的に、気圧で駆動される、媒体の圧力と短カラムクロマトグラフィーとのハイブリッドである。
【0189】
基本的にスティルら(1978)により記載されるように、n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:2:3(v/v/v )] 溶媒系によるSGRPTLCを用いて、シュードモナスAN5株、又は突然変異体のAN5−MN1若しくはAN5−MN2の生物学的に活性な抽出物をシリカカラム上で分離した。
【0190】
シュードモナスAN5株、又は突然変異体のAN5−MN1若しくはAN5−MN2の部分精製された抽出物(即ちカラム画分)は、規格化された溶媒系(即ち、n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:2:3(v/v/v )] )を用いてTLCプレート上で分離し、異なるバンドを掻き取って抽出した。シュードモナスAN5株の抽出化合物は、先の実施例に記載した生物検定を用いて、PDAプレート上でそれらの抗真菌活性について試験した。目的のバンドの活性を確認するため、この生物検定もTLCプレート上で該改変手法を用いて実施した。TLCプレート上で同様な活性バンドを有する活性画分をさらなる分析用に収集した。
【0191】
図3Aに示すように、シュードモナスAN5株の生物活性なカラム画分もTLCで生物活性を有することを示した。これらはTLC上で約0.75のRf値に相当する点まで移動した。対照的に、生物学的に不活性な突然変異体のAN5−MN1若しくはAN5−MN2から抽出された同一のシリカゲル画分は、PDA重層を伴うTLCプレート上で実施された生物検定において不活性であった。このことは、シュードモナスAN5株の抽出物の活性画分が特異的に作用していたことを示唆する。
【0192】
しかしながら、シュードモナスAN5株の抽出物から得られた該シリカゲルカラム画分は、これらの画分を含むTLCプレート上で多くのバンドが観察されたため、純粋な化合物を含むとはみなされなかった(図3A)。
【0193】
この生物活性な化合物は、シュードモナスAN5株の収集された活性画分をTLC上で分離し目的のバンドを切り出すことにより更に精製した。これらの切り出されたバンド中の該化合物は、PDAプレート上で立枯れ病菌に対する活性について試験され、生物活性を有することが示された(図4)。
【0194】
実施例5
G.グラミニス・バル・トリティシ(立枯れ病菌)に対して活性な
シュードモナス・スピーシーズ中の抗真菌化合物の糖酸としての化学的特性決定
シュードモナスAN5株由来の抗真菌活性画分を、測定した化合物の 1H・NMRスペクトル、13C・NMRスペクトル、及び質量スペクトルによりさらに分析して、生物学的に活性な化合物の構造を決定した。
【0195】
図5Aに示すように、先の実施例で記述したようにシリカゲル及びTLCを用いて精製した活性画分の 1H・NMRは、5.09、3.57、3.69、3.39、3.26、3.69及び3.63に共鳴を有するピークを示した。これらの共鳴は炭素原子C1、C2、C3、C4、C5及びC6に結合したプロトンに対応し、これは該活性化合物が炭素含有化合物であったことを示唆した。グルコン酸のC2からC6までに特徴的なピークも 3.99 、3.89、3.62、3.62、3.68及び3.52に観察された。
【0196】
図5Bに示すように、先の実施例で記述したようにシリカゲル及びTLCを用いて精製した活性画分の13C・NMRは、α−D−グルコースのC1からC6までの炭素に特徴的な 94.67、75.35 、74.07 、74.02 、72.23 及び63.16 に共鳴を有するピーク、β−D−グルコースのC1からC6までに特徴的な 98.49、78.53 、78.34 、76.71 、72.19 及び 63.32に共鳴を有するピーク、及びグルコン酸のC1からC6までに特徴的な 181.2、76.67 、73.54 、75.16 、73.76 及び65.2に共鳴を有するピークを示した。
【0197】
図5Cに示すように、先の実施例に記述したようにシリカゲル及びTLC由来の活性画分の質量スペクトル分析も、D−グルコース及びグルコン酸が活性画分中に存在したことを示唆した。
【0198】
この活性化合物が糖酸であるという前提で進むこととし、立枯れ病菌(take-all) に対する、純粋なグルコン酸及び他の糖酸の生物活性を、PDAプレートバイオアッセイを用いて試験した。図6Aに示すように、精製したグルコン酸は立枯れ病菌に対する強い生物活性を持っていた。図6Bに提示したデータも、精製したリンゴ酸、アスコルビン酸、グルタル酸、及びグルクロン酸が試験した濃度で立枯れ病菌に対する活性を持つことを示した。
【0199】
さらに、シュードモナスAN5株が産生した活性化合物は他の細菌株が産生した抗真菌化合物と異なっている。立枯れ病菌に対して抗真菌活性を有するシュードモナスAN5株及びシュードモナスPf5株と命名されたこの二つの細菌株をキールら(1996)の方法により2,4−ジアセチルフロログルシノール (2, 4-diacetylphloroglucinol)の存在について試験した。さらに、これらの二つの細菌株の抽出物を、アミン類、糖類、及びカルボニル化合物の存在について、当分野で確立されたニンヒドリン、硝酸銀、及びジニトロフェニルヒドラジンなどのテストをそれぞれ用いて分析した。これらの相違を示す結果の一部を以下に要約する。
【0200】
1.可溶性及び色素産生
フェナジン−1−カルボン酸(PCA)は緑黄色に着色した抗生物質であって、P.フロレッセンス2−79株(グルシッダイアーら,1986)の培養物中に蓄積する。PCAはクロロホルム及び塩化メチレンに極めて可溶性であり、水、メタノール及び酢酸エチルには不溶性である。対照的に、シュードモナスAN5株が生産する抗真菌化合物は水に極めて可溶性である。さらに、シュードモナスAN5株は生育しながら培地中に着色した色素を生産する。同様に、シュードモナス・スピーシーズの2,4−ジアセチルフロログルシノール生産株はキングのB培地(キールら,1996)上で生育すると赤い色素を生産する。対照的に、シュードモナスAN5株をキングの培地で生育させた場合、着色物質は生産されなかった(図7)。
【0201】
2.TLC上での分離
シュードモナスAN5株の抗真菌活性物質のTLC挙動は既知の抗真菌物質について観察されたものとは対応しなかった。とりわけ、抗真菌活性を持つと同定された糖酸は、これまでに同定された化合物を分離するために必要な溶媒を用いてもTLC上で分離できなかった。例えば、シリカゲルのTLCプレート上で、クロロホルム:メタノール〔19:1(v/v)〕を用いると、2,4−ジアセチルフロログルシノールは 0.2のRf値を持ち、ピオルテオリン (pyoluteorin)は 0.5のRf値を持つ(キールら,1992)。さらに、アセトニトリル:メタノール:水〔1:1:1(v/v/v)〕溶媒系で逆相C18TLCを用いると、2,4−ジアセチルフロログルシノールは 0.88 のRf値を持ち、ピオルテオリンは 0.75 のRf値を持ち、そしてピロニトリン (pyronitrine)は 0.28 のRf値を持つ(ロセールズら,1995及びフェンダーら,1993)。対照的に、本発明の糖酸化合物はクロロホルム:メタノール〔19:1(v/v)〕溶媒系を用いると原点から移動しなかった(図1)。そしてアセトニトリル:メタノール:水〔1:1:1(v/v/v)〕を用いても該化合物は僅かに分離したに過ぎなかった。
【0202】
3.プロトンNMRスペクトル
PCAの 1H・NMRでは、プロトンのピークは7ppmの上方にだけ観察される(グルシッダイアーら,1986、図8)のに対し、この新規化合物のスペクトルではこの領域にはピークは観察されなかった。2,4−ジアセチルフロログルシノールのプロトンNMRでは、約 6.00 及び2.5 ppmにある二つのピークがそれぞれ、6個の炭素に結合した水素のプロトンの特徴及び6個のアセチルプロトンの特徴であり(キールら,1992)、そしてこれはシュードモナスAN5株、又はシュードモナスPf5株の粗抽出物について得られたプロトンNMRスペクトルとは適合しなかった(図9)。
【0203】
要約すると、得られた化学的データは全て、シュードモナスAN5株の抗真菌化合物が炭水化物であり、とりわけ糖酸であることを示す。
【0204】
実施例6
シュードモナス・スピーシーズが産生する糖酸は培養培地中の
pH変化を誘導する
指示薬色素、ブロモクレゾール・パープル(0.015 g/l) を含むポテト・デキストロース・プレート上で立枯れ病菌を生育させた。6〜7日培養の後、立枯れ病菌の周りに紫色の輪が生じた。これは該培地がアルカリ性であったことを示す(図10B)。こうして、立枯れ病菌の菌糸が生育し、本来アルカリ性である培地中に化合物を放出する。
【0205】
立枯れ病菌のこのアルカリ化効果が本発明の糖酸により変えられるか否かを決定するために、親株であるシュードモナスAN5株、及び突然変異株であるAN5−MN1、AN5−MN2及びAN5−MN3を、ブロモクレゾール・パープル(0.015 g/l)を補足したPDA上に塗布した。図10Aに示すデータによれば、シュードモナスAN5株を、2%(w/v)グルコースを補足した培地中でインキュベートすると、その培地を酸性にすることが示される。それはブロモクレゾール・パープルが存在するPDAプレートの上に生ずる黄色の輪により検出される。対照的に、突然変異株AN5−MN1は3〜4日後に黄色の輪を作ることはできなかった(図10A)。突然変異株を塗布したプレートはアルカリ性の指標である紫色になった。この呈色の変化の欠如は全ての突然変異株について顕著であった。これらのデータから、シュードモナスAN5株はPDA生育培地のpHを低下させるのに対し、突然変異株はPDAのpHを上昇させることが示される。これらのデータとこれらの細菌株の抗真菌活性との相関関係は、シュードモナスAN5株が生産する抗真菌化合物が本来酸性であるという結論をさらに支持する。
【0206】
立枯れ根病に及ぼす精製した酸の異なる濃度の効果を表2に示す。表2のデータは立枯れ病の防御に培地の酸性化が重要な役割を果たすことを示唆する。特に、グルコン酸は立枯れ病を防御するのに対し、グルコン酸のナトリウム塩はこの真菌病原体を有意に防御しなかった。
【0207】
実施例7
シュードモナスAN5株は異なる糖酸を産生する
アルドース基質を含まないニュートリエント・アガー、キングズB培地、又は麦芽アガー上で生育したシュードモナスAN5株は、培地のpHが示すように、顕著な量の糖酸を産生しない。これらの培地からの抽出物は立枯れ病菌に対する生物活性をほとんど又は全く持っていない。さらに、ポテト・アガー(これは主炭素源として澱粉を含んでいる)上のシュードモナスAN5株は糖酸を産生せず、その培地はアルカリ性であり、ポテト・アガーからのシュードモナスAN5株の抽出物には抗真菌生物制御活性は存在しない。
【0208】
対照的に、炭素源としてグルコースを含むポテト・デキストロース培地で生育したシュードモナスAN5株を抽出すると、強い生物活性が検出される。さらに、この培地のpHはグルコン酸の生産により自然に酸性に変わる。
【0209】
シュードモナスAN5株をインキュベートしたポテト・アガーに異なる炭素源、例えばガラクトース又はマンノースなどを添加すると、糖酸が産生されることを本発明者らは証明した。このような培養物から抽出された抽出物は立枯れ病菌に対する生物活性を持っている。
【0210】
図11A及び11Bに示すデータは、ガラクトースを補足したPD培地上で生育したシュードモナスAN5株の培養物からガラクツロン酸が得られることを示す。
【0211】
さらに、図12A及び12Bのデータから、マンノースを補足したPD培地に生育させたシュードモナスAN5株の培養物からマンノン酸が得られることが示される。
【0212】
しかしながら、マンノン酸又はガラクツロン酸の立枯れ病菌に対する生物活性はグルコン酸程には強くない。アスペルギルス・スピーシーズによる異種アルドース基質の転換効率について知られていることから、グルコースはマンノース又はガラクトースよりも糖酸により効率的に転換されるに過ぎない可能性がある。
【0213】
実施例8
シュードモナスAN5株が生産するグルコン酸の広範囲真菌活性
PDAプレートバイオアッセイを用い、表3に列挙した生物制御用のある範囲の微生物に対しシュードモナスAN5株を試験して、これらの病原体の生育を制御するグルコン酸の効力を決定した。シュードモナスAN5株が生産した抗真菌化合物は、植物病原体、ヒト病原体及び腐生菌を代表する真菌類の広範囲スペクトルに対して活性を示した。細菌種に対して試験したとき、シュードモナスAN5株が生産した化合物により阻害されたグラム陰性及びグラム陽性の一部の種があったが、防御の種スペクトルは真菌類の場合程広くはなかった。観察された阻害の範囲は完全防御から部分的防御に過ぎないものまでの範囲であった。
【0214】
【表2】

【0215】
実施例9
G.グラミニス・バル・トリティチ(立枯れ病菌)に対する活性が変わった
シュードモナス・スピーシーズの突然変異株
本発明者らはシュードモナスAN5細菌の自然発生突然変異株を単離し、アルドース基質で生育すると異なる量の糖酸を生産するシュードモナスAN5細菌の新規な株を遺伝子工学的に得た。これは、例えば、異なる抗生物質上で親株を培養することにより、シュードモナスAN5中に余分の抗真菌遺伝子を持つ多コピープラスミドを導入することにより、又はシュードモナスAN5株のトランスポゾン突然変異誘発により、達成されてきた。周囲の培地中により多くの糖酸を分泌させるために、EPSをほとんど生産しない株も作られた。シュードモナスAN5株のこれらの突然変異体及び誘導体は寒天平板バイオアッセイでより大きな澄明領域を作る。これらの株を環境制御実験室中での試行で立枯れ病菌に対する生物学的制御防御について試験した。
【0216】
抗真菌活性の減少した突然変異株
抗真菌活性の減少した突然変異株は、抗真菌化合物を同定するための実験における負の対照として、又は糖オキシダーゼをコードする遺伝子などの異なる抗真菌性が導入されうるベクターとして、とりわけ有用である。
【0217】
シュードモナスAN5−M1と命名された特に有用な一つの株は、抗真菌活性を失ったAN5の1トランスポゾン突然変異株である。この突然変異株における立枯れ病菌に対する活性に必要な遺伝子にTn5トランスポゾンが挿入された。
【0218】
生物制御活性を失い、抗真菌性代謝物を生産せず、小麦の立枯れ根病を制御できない三種のトランスポゾン突然変異株、AN5−MN1、AN5−MN2、及びAN5−MN3を単離した。これらの突然変異株は親株であるシュードモナスAN5株と類似の経路でグルコースを利用できない。これらの突然変異株ではグルコースを糖酸に転換する酵素が不足している。
【0219】
【表3】

【0220】
抗真菌活性の減少した突然変異株
抗真菌活性の減少した突然変異株は、抗真菌化合物を同定するための実験における負の対照として、又は糖オキシダーゼをコードする遺伝子などの異なる抗真菌性が導入されうるベクターとして、とりわけ有用である。
【0221】
シュードモナスAN5−M1と命名された特に有用な一つの株は、抗真菌活性を失ったAN5の単一トランスポゾン突然変異株である。Tn5トランスポゾンは、この突然変異株において、立枯れ病菌に対する活性に必要な遺伝子に挿入された。
【0222】
生物制御活性を失い、抗真菌性代謝物を生産せず、小麦の立枯れ根病を制御できない三種のトランスポゾン突然変異株、AN5−MN1、AN5−MN2、及びAN5−MN3を単離した。これらの突然変異株は親株であるシュードモナスAN5株と類似の経路でグルコースを利用できない。これらの突然変異株ではグルコースを糖酸に転換する酵素が不足している。
【0223】
立枯れ病菌に対する生物制御を行う能力の欠如を指標として、Tn5:uidAトランスポゾンを保持する二つのさらなるトランスポゾン突然変異株を同定した。これらの突然変異株をPQQ- 及びSOX- と命名した。実施例13に示すように、このPQQ及びSOX突然変異株はシュードモナス・スピーシーズのゲノムのpqqD遺伝子及び糖オキシダーゼ遺伝子中にTn5因子をそれぞれ含んでいた。
【0224】
抗真菌活性の増加した突然変異株
シュードモナスAN5spec株と命名したスペクチノマイシン耐性株を、抗生物質スペクチノマイシン上で生育させるというスクリーニングにより、シュードモナスAN5株の自然発生突然変異株として単離した。シュードモナスAN5spec株は立枯れ病菌に対し十分な生物制御特性を持っている。
【0225】
シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)は、抗生物質リファンピシン上での生育というスクリーニングにより、シュードモナスAN5株の自然発生突然変異株として単離した。従って、シュードモナスAN5rifはリファンピシン耐性である。この株を用いるバイオアッセイは、それがシュードモナスAN5spec株の親株と比べ、PDA平板及びポット試行の両方で、立枯れ病菌に対してより優れた生物制御特性を有することを示す。
【0226】
シュードモナスAN5株ゲノムの野性型領域を挿入したpLAF3ベクターを含むコスミドを導入することにより、シュードモナスAN5−M1株を改変した。コスミドpLAF3は、コピー数は比較的低いものの(染色体当たり10〜15コピー)、多数の細菌プラスミド類と比べ、シュードモナス・スピーシーズでは一般に多コピーである。形質転換体を、立枯れ病菌に対する抗真菌活性についてスクリーニングした。
【0227】
親株、シュードモナスAN5株と同程度の効力で立枯れ病菌を防御した一つの形質転換体が同定された。しかしながら、この改変された細菌株は、その親株のコロニー形成能力と比べ、小麦の根にほとんどコロニーを作らず、その根に存在する細菌の数は極めて少ない。このことは、この形質転換体については、その根にコロニーを作る個々の細胞のそれぞれが親株の個々の細胞と比べより優れた防御を与えることを示唆する。これはおそらく1細胞当たりより高レベルの抗真菌物質を生産することによるものであろう。これらのデータも、抗真菌性化合物を生産する1個の細胞の能力を増加させることにより、より効果的な生物制御株が創出されることを示唆する。
【0228】
本発明者らも正常な様式で小麦の根にコロニーを作り且つ寒天平板バイオアッセイでより大きな澄明領域を示す遺伝子工学的に作製された1群の株を創出した。
【0229】
本発明者らも多−コピープラスミドを導入する(例えば、シュードモナスAN5−M1株、及びシュードモナスAN5−P1株)こと又はこの株のトランスポゾン突然変異株(例えば、シュードモナスAN5−T5株)を得ることのいずれかにより、抗真菌化合物を大量に生産する新規な生物制御株を幾つか遺伝子工学的に創出した。
【0230】
これらの増強された生物制御株は、そのより大きな澄明領域により寒天平板バイオアッセイで立枯れ病菌に対しより強力であることが示された。シュードモナスAN5−P1株及びシュードモナスAN5−T5株での結果は、コロニー形成能力を減ずることなくこれらの株の抗真菌性を増強することにより、立枯れ病菌に対する生物制御的防御を増強することができることを示した。従って、抗真菌活性の増強は生物制御的防御能力を増大させる。
【0231】
温室での試行では、これらの改変された株は、小麦の根に現れる徴候の採点により測定した場合、親株であるシュードモナスAN5株よりも有意に良く防御することが示された。特に、種子上のG.グラミニスをポットに接種した後、上記の株の存在下での該菌の成長阻害が測定された。対照試料としては、該真菌又は生物制御細菌を添加しなかったものか、又は生物制御細菌を含まない真菌を添加したものが用いられた。立枯れ病の病気の評点は、一つの尺度で測定された。この尺度では、該病気の重篤度に対し次のような数の指標が割り当てられる。すなわち、0=病気なし、1=やっと検出可能な病気、そして5=該植物の根頭に最大の病気が見られる、というものである。この実験の終わりに、これらの植物を乾燥し、秤量し、そしてその乾燥重量を対照植物の乾燥重量の百分率として表した。表4のデータは6回を越える処理で得られたデータの平均値を示す。抗生作用の増強はその親株と比べ、遺伝子工学的に作製された株の抗真菌活性の増強により示される。
【0232】
ポットの培地に過剰の立枯れ病菌を人為的に添加したこのようなポット試行では、これらの改良された生物制御株はその親株よりも遙に長い期間立枯れ病菌に対して有意の防御を示した。より高い濃度の糖酸を生産するシュードモナスAN5−P1株及びシュードモナスAN5−T5は、小麦の根上における数がより少ない場合に、より大きな防御を与える能力を有する。従って、これらの株は、より乾燥した冬の成長季の間の小麦の根上における数が減少したときに立枯れ病菌に対しより良好な防御を示すはずである。
【0233】
実施例10
シュードモナスAN5rif株が生産した糖酸の質量スペクトル分析
シュードモナスAN5rif(AGAL受託番号NM00/09624)を100mlの滅菌(オートクレーブした)ポンティアックブロス(ポテト400g/l)中、25℃で2日間培養した。該ポンティアックブロスは2%(w/v)グルコース、又は4%(w/v)グルコース、又は4%(w/v)ガラクトース、又は4%(w/v)マンノースのいずれかを炭素源として含んでいた。生産された糖酸の同定は、先の実施例で記述したように質量スペクトルを用いて行った。
【0234】
活性画分の質量スペクトル分析により、各試料には、これらの条件下で成長した細菌培養に与えられたアルドース糖基質のアルドン酸生産物に対応するたった一つの生産された糖酸が存在することが示された。特に、グルコースはグルコン酸(すなわち、グルコン酸のピークは図5Dに示した)に転換し、ガラクトースはガラクトン酸(ガラクトン酸のピークは図11Bに示した)に転換し、そしてマンノースはマンノン酸(マンノン酸のピークは図12Bに示した)に転換した。
【0235】
【表4】

【0236】
実施例11
唯一炭素源としてグルコースを用いたシュードモナスAN5rif株培養が
生産したグルコン酸の定量
1.シュードモナス・スピーシーズAN5rif株が生産した糖酸の定量
シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)を100mlの滅菌(オートクレーブした)ポンティアックブロス(ポテト400g/l)中、25℃で2日間培養した。該ポンティアックブロスは2%(w/v)グルコース、又は4%(w/v)グルコース、又は2%(w/v)ガラクトース、又は4%(w/v)ガラクトースのいずれかを含んでいた。アルドース基質を添加しなかった負の対照溶液も調製した。糖類はクロロホルムの添加により滅菌した貯蔵溶液から添加した。
【0237】
生きている細胞の総数は、培養の2日後に、標準的手順で測定した。ポンティアックブロス中2%(w/v)グルコースを含む培養の1ml当たりの生菌数は、糖を添加しなかったポンティアックブロス上で生育した培養の僅か6.0×104 に比べ、平均して7.325×107 であった。
【0238】
この培養の上清のpH値は、培養の2日後に、6000rpmで遠心分離して細菌細胞を集め、各上清の部分標本を0.001N〜0.01NのNaOHで滴定することにより測定した。上清のそれぞれについて得られた滴定可能なpH値を確認するため、同容量のアセトンを残りの上清に加え、そして試料を4℃で一晩インキュベートしてあらゆるタンパク質性成分又は細菌細胞を沈殿させた。この沈殿物を6000rpmで遠心分離して除去し、その培養上清のpH値を以前と同様に滴定により測定した。結果は次のとおりであった。すなわち、
2%(w/v)グルコースで培養した細菌: pH=8.0 (8.8**)、
4%(w/v)グルコースで培養した細菌: pH=7.9 (8.5**)、
2%(w/v)ガラクトースで培養した細菌: pH=8.2 (8.8**)、
4%(w/v)ガラクトースで培養した細菌: pH=7.9 (8.3**)、
糖無添加で培養した細菌: pH=9.0 (9.6**)、
ポンティアックブロスのみ pH=6.5 、
**括弧内のpH値はアセトン沈殿後の上清のpHを示す。
【0239】
2%(w/v)ガラクトースを含むポンティアックブロスは指示薬フェノールフタレインを用いるとマゼンタ(暗いピンク)色を呈した。その結果、この培地は水酸化ナトリウム溶液で滴定できなかった。他の培地は、アルドースの不存在下でシュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)を接種したポンティアックブロスが呈した色と同じピンク色を呈するには0.001Nの水酸化ナトリウムの少量を要するだけであった。各100ml培養(n=3)が生産した糖酸を中和するのに必要な0.001NのNaOHの平均量は以下のとおりであった。すなわち
2%(w/v)グルコースで培養した細菌: 0.6 mL、
4%(w/v)グルコースで培養した細菌: 0.8 ml、
2%(w/v)ガラクトースで培養した細菌: nd**
4%(w/v)マンノースで培養した細菌: 0.45 ml、そして
糖無添加で培養した細菌: 0.0 ml。
**測定されなかった。)
【0240】
固形培地では、ポンティアック寒天培地を調製し、pH値を6.5 、8.5 、10.5、及び12.5に調整した。各平板にブロモクレゾールパープル(15mg/l) を添加した。ポンティアック寒天平板にシュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)を線状に塗布することにより接種し、25℃で1日インキュベートした。この期間の後、pH 6.5から10.5のpH範囲にあったこれらの平板は黄色に変わり始めた。しかしながら、pH12.5の平板については色の変化は見られなかった。細菌の増殖も培養培地のpHにより影響され、6.5 =8.5 >10.5>12.5の順序で、より低いpHでより多くの増殖が観察された。増殖はpH12.5では極めて悪かった。
【0241】
要約すると、炭素源がグルコース以外の場合、細菌の増殖には溶液が高いアルカリ性pHを持つことが要求されるため、細菌培養の滴定は糖酸の定量にとって最適の方法ではない。しかしながら、この方法は、固形培地との関連では使用に適する。または、糖は次の引用文献に記述される手順を用いて定量される。Microbiology 143: 1595-1603, 1997 。
【0242】
2.シュードモナスAN5rifによるグルコン酸生産の検定
シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)をリファンピシン(100μg/ml)を含むニュートリエントアガー上に線状に塗布し、25℃で2日間インキュベートした。これらの平板から、ニュートリエントブロス及びポンティアックブロスに1細菌ループ接種した。これらのブロスも振盪機上で25℃で2日間インキュベートした。これらのブロスの5mlをそれぞれのブロスの100mlに接種した。これらを一晩約15−18時間増殖させた。これらの部分標本の少量を用い、何回もの希釈をして、生細胞数を計測した。これらの培養を6000rpmで15分間遠心分離して細胞のペレットを得た。この細菌のペレットをオートクレーブした蒸留水で2回洗浄しブロスを除き、次いで100mlの0.01Mグルコース溶液(pH7グルコース1.8 g/l) に再懸濁した。細菌懸濁液を振盪機上25℃でインキュベートした。3.5時間の後、これらの溶液がブロモクレゾールパープル(15mg/l) の存在下で黄色を呈するのを観察した。上清を−30℃で凍結しついで凍結乾燥した。凍結乾燥物質の部分標本を水に溶解し、溶液の5mlを 0.01 NのNaOHで滴定した。糖酸は上記のようにして定量された。
【0243】
データは、出発培養としてポンティアックブロスから得られ、次いで純粋なグルコース溶液で増殖させた細菌が、これらの条件下で、3.5時間の間に存在するグルコース基質の40%をグルコン酸に転換できたことを示す。同様の実験で出発培養としてニュートリエントブロスを用いた場合、グルコース基質の32%が同じ時間内にグルコン酸に転換した。これらの結果は、唯一炭素源としてグルコースが用いる場合、グルコン酸の生産にとっての細菌の出発培養用の培地としては、ポンティアックブロスがより良好であることを示唆する。
【0244】
実施例12
異なる炭素源上での異なるシュードモナス株による糖酸生産の要約
シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)が生産した糖酸のレベル、及びpqqD遺伝子及び糖オキシダーゼ遺伝子(実施例9)中にTn5:uidAトランスポゾンを保持する二つのトランスポゾン突然変異株であるPQQ- 及びSOX- が生産した糖酸のレベルを、培養培地に2%(w/v)アルドースを添加若しくは無添加のポンティアック培地で増殖させた後に測定した。データを表5に示す。
【0245】
【表5】

【0246】
データは、グルコースがシュードモナスAN5株及びその誘導株にとってのアルドース基質から糖酸を生産するための好ましい炭素源であることと一致する。
【0247】
実施例13
シュードモナスAN5株による小麦の根上での糖酸の
抗真菌有効量のイン・サイチュ生産
小麦の種子を種々の生物制御細菌で処理し、バーミキュライト中、滅菌マゼンタジャー検定中で成長させた。これらの種々の生物制御株を接種された小麦の根の根滲出物を集めた。これらには、親株(即ち、シュードモナスAN5株)、シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)、及びPQQ- 突然変異株及びSOX- 突然変異株などの種々の突然変異株が含まれていた。滲出物を凍結乾燥により濃縮し、次いで水に再懸濁した。シュードモナスAN5株及びシュードモナスAN5rif株だけが立枯れ病病原体に対する強力な生物活性をバイオアッセイで示した。残りの突然変異株、又は未処理の小麦からの滲出物は生物活性を示さなかった。これらのデータは、小麦の根上で糖酸がシュードモナスAN5株又はシュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)により生産され、小麦の根上で立枯れ病病原体を抑制することを示唆する。
【0248】
実施例14
PQQ依存性糖オキシダーゼ遺伝子及びPQQ生合成遺伝子をコードする
シュードモナス・スピーシーズのヌクレオチド配列の単離
糖酸の生産のための遺伝子をコードするシュードモナス・スピーシーズの遺伝子領域を同定するため、Tn5:uidAトランスポゾンを用いるトランスポゾン突然変異誘発により突然変異株系統を作製した。バイオアッセイで立枯れ病菌を防御できない二つの突然変異系統を同定した。
【0249】
これらの突然変異株系統から制限酵素断片(例えば、BamHI、HindIII 、EcoRI)が得られた。このクローニングされた断片の地図化及び配列決定から、以下に示すように、該トランスポゾンがゲノムの二つの非隣接領域中に挿入されたことが示された。すなわち、
1. アルドースの糖酸への転換の触媒に関与する酵素をコードする第一の領域であって、その部分配列は配列番号:1に記載されている、及び
2. 補因子であるPQQの合成に要求される酵素をコードする第二の領域であって、その部分配列を配列番号:4に示す。
【0250】
配列番号:1に記載したヌクレオチド配列と細菌のデヒドロゲナーゼとの相同性が限られることは、前者の配列が糖代謝に関与する酵素をコードすることを示唆する。
【0251】
ヌクレオチド配列分析も、該トランスポゾンが第二領域のpqqD遺伝子中に挿入されたことを示す。特に、他の細菌のpqqD遺伝子を持つシュードモナスAN5株のpqqD遺伝子と並べてみると、これらの同一性が限定的であることが分かる(図示せず)。これらのデータから、このシュードモナス・スピーシーズのゲノムのこの標識された領域がPQQオペロンを含むことが示される。
【0252】
サザンブロットハイブリダイゼーション地図化分析はシュードモナスAN5株の糖オキシダーゼ遺伝子が下記のDNA断片上に含まれることを示す。すなわち、3.8kbのBamHI断片、7.6kbのBglII断片、6.5kbのPstI断片、約18kbのHindIII 断片、及び約22kbのEcoRI断片である。
【0253】
サザンブロットハイブリダイゼーション地図化分析はシュードモナスAN5株のPQQオペロンオキシダーゼ遺伝子が下記のDNA断片上に含まれることを示す。すなわち、約20kbのBamHI断片、8.0kbのPstI断片、約18kbのHindIII 断片、及び約20kbのEcoRI断片である。
【0254】
抗真菌活性を有するシュードモナスAN5株から、適当なゲノム領域を単離し、コスミドベクターpLAF3中にクローニングして下記のコスミドクローンを作製した。すなわち、
1. コスミドpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)であって、糖オキシダーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列を含むシュードモナスAN5株DNAの30〜40kbを含むコスミド、及び
2. コスミドpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)であって、PQQオペロンのヌクレオチド配列を含むシュードモナスAN5株DNAの30〜40kbを含むコスミド。
【0255】
該PQQオペロンの種々の遺伝子のヌクレオチド配列を決定した。これらを配列番号:2〜6に記載する。図13に示す地図化データは、他の細菌と比べた場合の、シュードモナス・スピーシーズのPQQオペロンの遺伝子の相対的配列を示す。
【0256】
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【図面の簡単な説明】
【0268】
【図1】図1は、シュードモナスAN5株の粗抽出物から得られる抗立枯れ病化合物の生物活性を示す寒天重層検定の薄層クロマトグラム(TLC)についての写真のコピーである。パネルAはクロロホルム中10%(w/v)のメタノールを含む溶媒を用いて実施されたTLCを示す。パネルBはクロロホルム中30%(w/v)のメタノールを含む溶媒を用いて実施されたTLCを示す。パネルCはクロロホルム中50%(w/v)のメタノールを含む溶媒を用いて実施されたTLCを示す。立枯れ病菌は、ポテト・デキストロース重層寒天中のTLCプレートの最上部に接種し、該菌はよく増殖する能力を有する。矢印で示される阻害ゾーンは、立枯れ病菌に対するシュードモナスAN5株の抗真菌剤の位置に相当する。この抗真菌成分は、この起点に存在し、試験されるいずれの溶媒の存在下においても移動しない。
【図2A】図2Aは、n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:2:3( v/v)]を含む溶媒系を用いるシリカゲル60F254 TLCプレートの写真のコピーであり、シュードモナスAN5株(パネルa)及び突然変異AN5−MN1株(パネルb)の粗抽出物における化合物の分離を示す。該データはシュードモナスAN5株と比較して突然変異AN5−MN1株により生産された単純な糖の相違点を示す。
【図2B】図2Bは、寒天重層検定における図2AのTLCプレートの写真のコピーであり、矢印(阻害ゾーン)で証明されるように、立枯れ病菌に対してシュードモナスAN5株(パネルa)により生産された化合物は生物活性を示すが、突然変異AN5−MN1株(パネルb)では活性は示されない。溶媒条件は図2Aで示すものと同じである。
【図3A】図3Aは、n−プロパノール:酢酸エチル:水[ 5:2:3( v/v)]を含む溶媒系を用いるシリカゲル60F254 TLCプレートの写真のコピーであり、シュードモナスAN5株のシリカカラム画分を示す。各レーンの基部にある番号はシリカカラムから回収された画分番号を示し、Cは、シリカカラムの出発材料として使用されたシュードモナスAN5株の粗抽出物を示す。
【図3B】図3Bは、立枯れ病菌を接種されたPDAプレートの写真像のコピーであり、図3Aで示されるシリカカラム画分の17から20までの立枯れ病菌に対する生物活性を示す。番号は該シリカカラムの画分番号に相当する。澄明領域は、真菌が増殖する白い区画と比較して真菌増殖の阻害を示す。データは、画分の17から20までが立枯れ病菌に対して活性であり、且つ画分の19及び20が最大の活性を含むことを示している。
【図4】図4は、寒天重層生物検定におけるPDAプレートについての写真のコピーであり、図3Aの備考に記載されるようにTLC上で再クロマトグラフィーした後の、シュードモナスAN5株のシリカカラム画分の17から20までの立枯れ病菌に対する活性を示している。この活性画分は1〜4と番号を付した四つの試料(RF値に基づく)で溶出した。阻害ゾーンにより証明されるように、画分3(Rf値0.75)のみが立枯れ病菌に対して活性であった。
【図5A】図5Aは、図3A及び図4の凡例に示されるようにシリカカラム及びTLCにより精製された活性画分の 1HNMRスペクトルの写真のコピーである。x軸上の番号はppmを示す。
【図5B】図5Bは、図3A及び図4の備考に示されるようにシリカカラム及びTLCにより精製された活性画分の13CNMRスペクトルの写真のコピーである。x軸上の番号はppmを示す。
【図5C】図5Cは、図3A及び図4の備考に示されるようにシリカカラムにより精製された、立枯れ病真菌に対するシュードモナスAN5株の活性画分の質量分析データの写真のコピーである。シュードモナスAN5株は唯一の炭素源としてのグルコースで培養した。上段パネル:データは質量/電荷の関数として各断片の存在量を示す。下段パネル:データは溶離時間(分)の関数として各断片の存在量を示す。矢印はグルコノラクトンの位置を示す。
【図5D】図5Dは、図4の備考に示すようにシリカカラムにより精製された、立枯れ病菌に対するシュードモナスAN5株の活性画分の質量分析データの写真のコピーである。シュードモナスAN5株は唯一の炭素源としてのグルコースで培養した。上段パネル:データは質量/電荷の関数として各断片の相対量を示す。下段パネル:データは溶離時間(分)の関数として各断片の存在量を示す。矢印はグルコン酸の位置を示す。
【図6A】図6Aは、シュードモナスAN5株を接種したPDAプレートの写真のコピーであり、寒天重層生物検定による立枯れ病菌に対する異なる量の純粋なグルコン酸(シグマ・ケミカル)の生物活性を示す。番号は下記の通りに使用される糖酸の量を示す:(1)25mg、(2)15mg、(3)12.5mg、及び(4)7.5mg。データは、使用されるグルコン酸の量と該阻害ゾーン(澄明領域)の大きさとの間に正の相関関係があることを示し、この阻害ゾーンは立枯れ病菌に対する活性を示す。
【図6B】図6Bは、シュードモナスAN5株を接種したPDAプレートの写真のコピーであり、寒天重層生物検定による立枯れ病菌に対する異なる精製糖酸(シグマ・ケミカル)の生物活性を示す。使用された糖酸の量は各場合で12.5mgであった。番号は下記の通りに使用された糖酸の量を示す:(1)リンゴ酸、(2)アスコルビン酸、(3)グルタル酸、及び(4)グルクロン酸。四つの糖酸は全て強力な阻害ゾーン(澄明領域)を生じ、立枯れ病菌に対する活性を示す。
【図7】図7は、キングB培地を含み且つシュードモナスAN5株(パネルa)又はシュードモナス・フルオレセンスPf−5(パネルb)を接種された細菌プレートのカラー写真の白黒コピーである。データは、パネルaにおけるプレートの白い外観と比較すると暗い、このプレートの外観(実物のカラープレートでは赤色である)によって、シュードモナス・フルオレセンスPf−5が2,4−ジアセチルフロログルシノールを生産することを示している。対照的に、シュードモナスAN5株はこの検定で検出可能なレベルの2,4−ジアセチルフロログルシノールを生産しない。実物のカラー写真は請求あり次第入手できる。
【図8】図8は、フェナジン−1−カルボン酸の 1HNMRスペクトルの写真のコピーである。x軸上の番号はppmを示す。
【図9A】図9Aは、麦芽寒天から得られるシュードモナス・フルオレセンスPf−5の粗抽出物の 1HNMRの写真のコピーである。x軸上の番号はppmを示す。
【図9B】図9Bは、麦芽寒天から得られるシュードモナスAN5株の粗抽出物の 1HNMRの写真のコピーである。x軸上の番号はppmを示す。
【図10A】図10Aは、シュードモナス・スピーシーズAN5株(パネルa及びパネルb)又は突然変異AN5−MN1株(パネルc)を接種された三枚のPDAプレートのカラー写真の白黒コピーである。パネルb及びパネルcでは、指示薬色素のブロモクレゾールパープルが成長培地に添加され、実物の写真(白黒コピーの淡灰色の背景より暗い灰色)のパネルbの黄色はシュードモナスAN5による該培地の酸性化を示す。パネルcでは、実物の写真の紫色(白黒コピーの淡灰色の背景よりもはるかに暗い灰色)はシュードモナスAN5−MN1による培地のアルカリ化を示す。実物のカラー写真は請求あり次第入手できる。
【図10B】図10Bは、指示薬色素のブロモクレゾールパープルを含み且つ立枯れ病菌を接種されたPDAプレートのカラー写真の白黒コピーである。実物の写真では、該立枯れ病菌は増殖の黄色ゾーンに囲まれた黒色の中央ゾーンとして示され、そして該立枯れ病菌の周囲には紫色ゾーンが存在する。これは該培地のpHを高める化合物が放出されていることを示唆している。白黒コピーでは、該立枯れ病菌は淡灰色ゾーンにとり囲まれた黒色の中央ゾーンとして示され、そして該立枯れ病菌の周囲の紫色ゾーンは該プレートの縁の方向へのより暗い暗灰色ゾーンによって表される。実物のカラー写真は請求あり次第入手できる。
【図11A】図11Aは、図3Aの備考に示すようにシリカカラムにより精製された、シュードモナスAN5の立枯れ病菌に対する活性画分の質量スペクトルデータの写真のコピーである。シュードモナスAN5は唯一の炭素源としてガラクトースで培養した。上段パネル:データは質量/電荷の関数として各断片の相対量を示す。下段パネル:データは溶出時間(分)の関数として各断片の相対量を示す。矢印はガラクトノラクトンの位置を示す。
【図11B】図11Bは、図3Aの備考に示すようにシリカカラムにより精製された、シュードモナスAN5の立枯れ病菌に対する活性画分の質量スペクトルデータの写真のコピーである。シュードモナスAN5は唯一の炭素源としてガラクトースで培養した。上段パネル:データは質量/電荷の関数として各断片の相対量を示す。下段パネル:データは溶出時間(分)の関数として各断片の相対量を示す。矢印はガラクトン酸の位置を示す。
【図12A】図12Aは、図3Aの備考に示すようにシリカカラムにより精製された、シュードモナスAN5の立枯れ病菌に対する活性画分の質量スペクトルデータの写真のコピーである。シュードモナスAN5は唯一の炭素源としてマンノースで培養した。上段パネル:データは質量/電荷の関数として各断片の相対量を示す。下段パネル:データは溶出時間(分)の関数として各断片の相対量を示す。矢印はマンノノ−1,4−ラクトンの位置を示す。
【図12B】図12Bは、図3Aの備考に示されるようにシリカカラムにより精製された、立枯れ病菌に対するシュードモナスAN5の活性画分の質量スペクトルデータの写真のコピーである。シュードモナスAN5は唯一の炭素源としてマンノースで培養した。上段パネル:データは質量/電荷の関数として各断片の相対量を示す。下段パネル:データは溶出時間(分)の関数として各断片の相対量を示す。矢印はマンノン酸の位置を示す。
【図13】図13は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae) 、シュードモナス・フルオレセンスCHAO株、アシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus) 、及びシュードモナスAN5株の整列させたPQQオペロンを示す図式的表示のコピーであり、該オペロン内のpqqA遺伝子、pqqB遺伝子、pqqC遺伝子、pqqD遺伝子、及びpqqE遺伝子の位置を示す。各遺伝子は下部の相応する遺伝子名とともに黒塗り枠で示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物若しくは非水生植物における真菌感染の予防的又は治療的処置法であって、該動物若しくは非水生植物における真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するのに十分な量で金属塩以外の糖酸を投与する工程を含み、該糖酸が単離された形又はシュードモナス・スピーシーズAN5株以外の生物制御体の形である方法。
【請求項2】
該真菌病原体が、アルテルナリア・スピーシーズ(Alternaria spp.) 、アルミラリア・メラエ(Armilaria mellae)、アルスロボトリス・オリゴスポラス(Arthrobotrys oligospoprus) 、ボレタス・グラニュラタス(Boletus granulatus)、ボトリティス・ファバエ(Botrytis fabae)、ボトリティス・シネレア(Botritis cinerea)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クラビセプス・プルプレア(Claviceps purpurea)、コロナルティウム・リビコラ(Cronartium ribicola) 、エピコッカム・プルプレセンス(Epicoccum purpurescens)、エピデルモフィトン・フロコッサム(Epidermophyton floccosum)、フォメス・アンノサス(Fomes annosus) 、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、ガエウマノマイセス・グラミニス・ヴァル・トリティサイ(Gaeumannomyces graminis var. tritici)、グロメレラ・シングラタ(Glomerella cingulata)、ギムノスポランジウム・ジュニペリ−ヴィルギニアナエ(Gymnosporangium junipen-virginianae) 、マイクロスポラム・キャニス(Microsporum canis) 、モニリニア・フルクティコラ(Monilinia fructicola)、フィソデルマ・アルファルファエ(Physoderma alfalfae) 、フィトプセラ・インフェスタンス(Phytopthera infestans) 、ピティロスポラム・オルビキュラレ(マラセッツィア・フルフル)(Pityrosporum orbiculare(Malassezia furfur))、ポリポラス・サルフレウス(Polyporus sulphureus)、プッシニア・スピーシーズ(Puccinia spp.) 、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、セプトリア・アピイコラ(Septoria apiicola) 、トリコフィトン・ルブラム(Trichophyton rubrum) 、T.メンタグロフィテス(T. mentagrophytes) 、ウスティラゴ・スピーシーズ(Ustilago spp.) 、ヴェンツリア・イナエキュアリス(Venturia inaequalis) 、及びヴェルティシラム・ダーリエ(Verticillium dahliae)から成る群より選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該真菌病原体がG.グラミニス(G. graminis) (立枯れ病菌)である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
該真菌病原体がボトリティス・ファバエである、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項5】
該糖酸がマンノン酸、グルコン酸、及びガラクツロン酸から成る群より選択されるものである、請求項1〜請求項4いずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該糖酸がグルコン酸である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該糖酸が純粋な形又は部分精製された形で投与されるものである、請求項1〜請求項6いずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該生物制御体が、アルドース基質を含む培地でインキュベートされた場合、抗真菌に有効な量の該糖酸を生産できるものである、請求項1〜請求項6いずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該生物制御体が細菌細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該細菌細胞がシュードモナス属に属するものである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
該シュードモナスが、PQQに依存してアルドースを糖酸に転換する能力を有するものである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該シュードモナスが、AGAL受託番号NM00/09624として寄託された該細菌株に特徴的な糖酸生合成を有するものである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該シュードモナスが、AN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
非水生植物の生産物の収穫後の貯蔵量を増大させる方法であって、該生産物上の真菌の増殖若しくは生殖を阻害又は予防するのに十分な量で該生産物に金属塩以外の糖酸を適用する工程を含み、該糖酸が単離された形又はシュードモナス・スピーシーズAN5株以外の生物制御体の形である方法。
【請求項15】
該糖酸がマンノン酸、グルコン酸、及びガラクツロン酸から成る群より選択されるものである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該糖酸がグルコン酸である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
該糖酸が純粋な形か又は部分精製された形で投与されるものである、請求項14〜請求項16いずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
該生物制御体が、アルドース基質を含む培地でインキュベートされた場合、抗真菌に有効な量の該糖酸を生産できるものである、請求項14〜請求項16いずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
該生物制御体が細菌細胞である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
該細菌細胞がシュードモナス属に属するものである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
該シュードモナスが、PQQに依存してアルドースを糖酸に転換する能力を有するものである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
該シュードモナスが、AGAL受託番号NM00/09624として寄託された該細菌株に特徴的な糖酸生合成を有するものである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
該シュードモナスが、AN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
植物又は動物における真菌感染を処置するための単離された生物制御体であって、下記の特徴、すなわち
(i) それがアルドースを含む炭素源の存在下で培養された場合に糖酸を生産する、
(ii) それが該真菌の感染部位にコロニーを形成できる、
(iii) それがシュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)の生物制御特性を有する、
を有するシュードモナスAN5株以外の細菌細胞を含むものである生物制御体。
【請求項25】
シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)又はその誘導体を含む請求項24記載の生物制御体。
【請求項26】
請求項25記載の生物制御体であって、該誘導体が、アルドースを含む炭素源の存在下で培養された場合に、シュードモナスAN5rif株と比較して強化された糖酸生産能力を有するものである生物制御体。
【請求項27】
請求項25又は請求項26記載の生物制御体であって、該誘導体が、シュードモナスAN5rif株と比較して植物の根圏にコロニーを形成する能力が強化されたものである生物制御体。
【請求項28】
非水生植物の真菌感染の治療用の植物保護用組成物であって、植物病理学的に許容しうる希釈剤又は湿潤剤と共に有効量の糖酸を含み、該糖酸が金属塩以外の形のものである組成物。
【請求項29】
該糖酸がマンノン酸、グルコン酸、及びガラクツロン酸から成る群より選択されるものである、請求項28記載の植物保護用組成物。
【請求項30】
該糖酸がグルコン酸である、請求項29記載の植物保護用組成物。
【請求項31】
植物の真菌感染の治療用の植物保護用組成物であって、植物病理学的に許容しうる希釈剤又は湿潤剤と共に、請求項24〜27いずれか1項に記載の生物制御体を含む組成物。
【請求項32】
該湿潤剤が非イオン性界面活性剤である、請求項28〜請求項31いずれか1項に記載の植物保護用組成物。
【請求項33】
該真菌感染が、アルテルナリア・スピーシーズ、A.メラエ、A.オリゴスポラス、B.グラニュラタス、B.シネレア、B.ファバエ、C.プルプレア、C.リビコラ、E.プルプレセンス、F.アンノサス、F.オキシスポラム、G.グラミニス・ヴァル・トリティサイ、グロメレラ・シングラタ、G.ジュニペン−ヴィルギニアナエ、M.フルクティコラ、P.アルファルファエ、P.インフェスタンス、P.サルフレウス、プッシニア・スピーシーズ、エス・アピイコラ、ウスティラゴ・スピーシーズ、V.イナエキュアリス、及びV.ダーリエから成る群より選択される真菌病原体による感染であり、更により好ましくは、単子葉植物の真菌病原体が、C.プルプレア、G.グラミニス・ヴァル・トリティサイ、プッシニア・スピーシーズ、及びウスティラゴ・スピーシーズから成る群より選択されるものである、請求項28〜請求項32いずれか1項に記載の植物保護用組成物。
【請求項34】
該真菌病原体がG.グラミニス(立枯れ病菌)である、請求項33記載の植物保護用組成物。
【請求項35】
該真菌病原体がボトリティス・ファバエである、請求項34記載の植物保護用組成物。
【請求項36】
ヒト又は他の哺乳動物における真菌感染の治療用の組成物であって、薬学的に許容しうる一つ以上の担体又は希釈剤と共に有効量の糖酸を含み、該糖酸が金属塩以外の形のものである組成物。
【請求項37】
該糖酸がマンノン酸、グルコン酸、及びガラクツロン酸から成る群より選択されるものである、請求項36記載の組成物。
【請求項38】
該糖酸がグルコン酸である、請求項37記載の組成物。
【請求項39】
ヒト又は他の哺乳動物における真菌感染の治療用の組成物であって、薬学的に許容しうる一つ以上の担体又は希釈剤と共に請求項24〜請求項26いずれか1項に記載の該生物制御体を含む組成物。
【請求項40】
足白癬(水虫)、股部白癬、体幹白癬(白癬)、カンジダ症、爪炎、爪囲炎、外性器カンジダ症、カンジダ亀頭炎、でん風及びジョッキー−ストラップ(jockey-strap)かゆみから成る群より選択される状態の治療用の請求項36〜請求項39いずれか1項に記載の組成物。
【請求項41】
アルドースの糖酸へのPQQ依存性酸化が生じるのに十分な時間及び条件の下で、アルドースの存在下に、シュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)の生物制御特性を有する、シュードモナスAN5株ではない細菌細胞をインキュベートする工程を含む糖酸を生産する方法。
【請求項42】
該細菌株がシュードモナスAN5rif株(AGAL受託番号NM00/09624)である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
該アルドースが、グルコース、マンノース及びガラクトースから成る群より選択されるものである、請求項41又は請求項42記載の方法。
【請求項44】
該アルドースがグルコースである、請求項43記載の方法。
【請求項45】
該培養条件が、アルドース基質を含むポテト・デキストロース培地又はポンティアック(pontiac)培地上での増殖を含むものである、請求項41〜請求項44いずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
該アルドース基質が培養液中約2%(w/v)から約4%(w/v)である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
該培養条件が、ポテト・デキストロース培地又はポンティアック培地上での増殖させた後に、アルドース基質の濃縮溶液中でインキュベーションすることを含むものである、請求項41〜請求項44いずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
糖酸の生合成に関与する一つ以上の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子であって、該ヌクレオチド配列が、
(i)配列番号:1又はそれに相補的な配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドに少なくとも約50%同一なヌクレオチド配列、
(ii)コスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドに少なくとも約50%同一なヌクレオチド配列、
(iii)少なくとも低厳格条件下において、配列番号:1又はそれに相補的な配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズできるヌクレオチド配列、
(vi)少なくとも低厳格条件下において、コスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約30個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズできるヌクレオチド配列、及び
(vii)配列番号:1に縮重するか又はコスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナス遺伝子配列に縮重するヌクレオチド配列、から成る群より選択されるものである核酸分子。
【請求項49】
該ヌクレオチド配列が糖オキシダーゼ酵素をコードするものである、請求項48記載の単離された核酸分子。
【請求項50】
該糖オキシダーゼ酵素がPQQ依存性糖オキシダーゼ酵素である、請求項49記載の単離された核酸分子。
【請求項51】
配列番号:1のヌクレオチド配列を含む請求項48〜請求項50いずれか1項に記載の単離された核酸分子。
【請求項52】
コスミドクローンpMN−M53(AGAL受託番号NM00/09622)に含まれるシュードモナスゲノムのヌクレオチド配列を含む請求項48〜請求項51いずれか1項に記載の単離された核酸分子。
【請求項53】
PQQの生合成に関与する一つ以上の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子であって、該ヌクレオチド配列が、
(i)配列番号:2から配列番号:6のいずれか一つ又はそれに相補的な配列の少なくとも約50個の連続したヌクレオチドを有するヌクレオチド配列、
(ii)コスミドクローンpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に含まれるシュードモナス遺伝子配列の少なくとも約50個の連続したヌクレオチドを有するヌクレオチド配列、
(iii) 配列番号:2から配列番号:6のいずれか一つに縮重するか又はコスミドクローンpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に含まれるシュードモナス遺伝子配列に縮重するヌクレオチド配列
から成る群より選択されるものである核酸分子。
【請求項54】
配列番号:2のヌクレオチド配列を含む請求項53記載の単離された核酸分子。
【請求項55】
配列番号:3のヌクレオチド配列を含む請求項53記載の単離された核酸分子。
【請求項56】
配列番号:4のヌクレオチド配列を含む請求項53記載の単離された核酸分子。
【請求項57】
配列番号:5のヌクレオチド配列を含む請求項53記載の単離された核酸分子。
【請求項58】
配列番号:6のヌクレオチド配列を含む請求項53記載の単離された核酸分子。
【請求項59】
コスミドクローンpMN−L2(AGAL受託番号NM00/09621)に含まれるシュードモナスゲノムのヌクレオチド配列を含む請求項53〜請求項58いずれか1項に記載の単離された核酸分子。
【請求項60】
細胞、組織又は生物において請求項48、請求項49、請求項50、請求項51又は請求項52記載の単離された核酸分子を発現する工程、並びに糖酸を生産するのに十分な時間及び条件の下アルドース基質の存在下で該細胞、組織又は生物を培養する工程を含む糖酸を生産する方法。
【請求項61】
該核酸分子を該細胞、組織又は器官に発現可能な形態で導入する工程をさらに含む請求項60記載の方法。
【請求項62】
生産された該糖酸を抽出又は精製する工程をさらに含む請求項60又は請求項61記載の方法。
【請求項63】
該細胞が細菌細胞である、請求項60〜請求項62いずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
該細菌細胞がシュードモナス・スピーシーズである、請求項63記載の方法。
【請求項65】
該細胞、組織又は器官が植物の細胞、組織又は器官である、請求項60〜請求項62いずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
該細胞、組織又は器官においてPQQを生産するのに十分な時間及び条件の下で請求項53〜請求項59いずれか1項に記載の核酸分子を発現する工程をさらに含む請求項60〜請求項65いずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
該植物により又は該植物の細胞、組織若しくは器官により糖酸が生産されるのに十分な時間及び条件の下で、請求項48〜請求項52いずれか1項に記載の単離された核酸分子、並びに任意選択的に一つ以上のPQQ生合成酵素をコードする単離された第二の核酸分子をその中で発現する工程を含む、真菌病原体による感染に対する植物のトレランスを強化する方法。
【請求項68】
該単離された第二の核酸分子が請求項53〜請求項59いずれか1項に記載の核酸分子である、請求項67記載の方法。
【請求項69】
請求項48〜請求項59いずれか1項に記載の単離された核酸分子を含む形質転換された植物。
【請求項70】
請求項69記載の植物の子孫植物、細胞、組織又は器官であって、該子孫、細胞、組織又は器官が請求項48〜請求項59いずれか1項に記載の単離された核酸分子を含むもの。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−332147(P2007−332147A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188388(P2007−188388)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【分割の表示】特願2000−595542(P2000−595542)の分割
【原出願日】平成12年1月28日(2000.1.28)
【出願人】(301070069)ザ オーストラリアン ナショナル ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】