説明

眼鏡レンズの製造方法

【課題】眼鏡レンズの使用感を損なうことなくプリズム作用の調整を行うための手段を提供する。
【解決手段】眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行い、次いで切除領域表面を研磨加工することを含み、前記研磨加工を、研磨治具表面を該表面に向かって開口する貫通穴を複数有する研磨パッドにより被覆した状態で、該研磨パッド表面と前記切除領域表面との間に研磨剤を供給しながら前記眼鏡レンズと前記研磨治具とを相対移動させることによって行うことを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関するものであり、詳しくは、プリズム作用の調整がなされ装用感が改善された眼鏡レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多焦点眼鏡レンズには、遠方視のための遠用屈折力を有する遠用部と近方視のための近用屈折力を有する近用部が存在する。また、多焦点眼鏡レンズの中で屈折力が上部から下部へ向かって連続的に変化する累進面を有する累進屈折力レンズは、上記遠用部と近用部の間に屈折力が連続的に変化する中間部を有する。
【0003】
一般に、眼鏡レンズの処方の中には、上記の遠用部屈折力や近用部屈折力といった焦点作用に関係した屈折力の他に、視線の方向を変化させる作用を有するプリズム屈折力が存在する。多焦点眼鏡レンズを製造する場合は遠用部のプリズム屈折力を決めると、近用部のプリズム屈折力は累進面の形状や遠用部屈折力および加入屈折力によって定まり、また同様の理由から、近用部のプリズム屈折力を決めると遠用部のプリズム屈折力が決まってしまう。したがって遠用部および近用部のプリズム屈折力をそれぞれ自由に選択することは困難である。
しかし、ほとんどの眼鏡装用者は左右同じ視力ではない。したがって、遠用部または近用部の一方で左右レンズのプリズム量を一致させると他方では左右のレンズのプリズム量に違いが生じることになる。これをプリズム誤差といい、左右の度数に大きな差がある、いわゆる不同視の装用者用の眼鏡レンズではプリズム誤差が極めて大きくなってしまい眼精疲労や頭痛の原因となり、プリズム誤差による左右の眼に入射される光のずれが人間の脳が有像できる限界を超えてしまうと二重像を生じて複視という症状を起こしてしまう。
【0004】
上記現象の発生を抑制する手段として、従来よりスラブオフ加工が知られている。スラブオフ加工とは、レンズのプリズム作用を調整するためにレンズ表面の一部を切除する加工であり、切除することでプリズム量を低減することができる。このようなスラブオフ加工が施された眼鏡レンズでは、特許文献1に記載されているように、スラブオフ加工が施された切除領域と未切除領域との境界線(以下、「スラブオフライン」と呼ぶ。)の存在が目視で確認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/072528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、スラブオフ加工は、特に不同視のユーザーに使用される眼鏡レンズにおいて、装用感を改善する有効な手段である。しかしスラブオフ加工後にスラブオフラインが鮮明に現れるため、装用時にユーザー自身にスラブオフラインの存在が意識され、快適な視界が得られない点が課題である。
【0007】
そこで本発明の目的は、眼鏡レンズの使用感を損なうことなくプリズム作用の調整を行うための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得るに至った。
レンズ表面の一部領域を切除し、その他領域を未切除の状態とすることでプリズム作用の調整がなされるスラブオフ加工では、加工済表面は機械加工面であり粗く、通常そのままでは光学面として使用することはできない。したがって、スラブオフ加工後に研磨加工を行いスラブオフ加工済表面に光学面を創成する。通常、上記研磨加工は研磨治具上に研磨パッドを配置し、研磨パット表面と被研磨面(スラブオフ加工面)とを、これらの間に研磨剤を供給しつつ相対移動させることで行われる。本発明者らは、かかる研磨工程において切除領域と未切除領域との境界部分に磨き残しが発生することが、スラブオフ加工済みレンズにおいて、スラブオフラインが装用者に意識される原因であると考えるに至った。
本発明者らは、かかる知見に基づき更に検討を重ねた結果、スラブオフ加工後の研磨加工を貫通穴を有する研磨パッドを用いて行うことで、装用者にその存在が認識されないほどスラブオフラインの視認性を低下させることができることを新たに見出した。これは貫通穴が存在することで研磨パッドが被研磨面に馴染みやすくなる結果、上記境界部分における磨き残しの発生を抑制できることによるものと、本発明者らは推察している。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行い、次いで切除領域表面を研磨加工することを含み、
前記研磨加工を、研磨治具表面を該表面に向かって開口する貫通穴を複数有する研磨パッドにより被覆した状態で、該研磨パッド表面と前記切除領域表面との間に研磨剤を供給しながら前記眼鏡レンズと前記研磨治具とを相対移動させることによって行うことを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
[2]前記研磨治具表面は弾性材料からなる[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[3]前記研磨治具の内部に流体を供給し膨張させることでドーム状表面を形成し、
該ドーム状表面を前記研磨パッドにより被覆して前記研磨加工を行う[2]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[4]前記研磨パットは、所定の方向に貫通穴が列をなしている貫通穴列を有する[1]〜[3]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[5]前記研磨加工中、切除領域と未切除領域との境界に対して前記貫通穴列の方向が略直交するように前記研磨治具を首振り移動させる期間を含む[4]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スラブオフ加工により装用感が改善されるとともに、良好な使用感を有する眼鏡レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スラブオフ加工工程の一態様の説明図である。
【図2】スラブオフ加工領域の説明図である。
【図3】プラスチック製のバイフォーカルレンズの断面形状の具体例を示す。
【図4】図3(a)〜(c)に示すバイフォーカルレンズの近用部の光学中心の位置を示す図である。
【図5】本発明において使用可能な研磨装置の概略構成図である。
【図6】研磨対象のレンズをレンズ保持体に取り付けた状態を示す断面図である。
【図7】揺動装置と研磨治具の首振り旋回運動の説明図である。
【図8】研磨治具の一例を示す平面図である。
【図9】図8に示す研磨治具に研磨パッドを取り付けた状態を示す平面図である。
【図10】研磨治具の一例を示す底面図である。
【図11】図9のXII-XII線断面図である。
【図12】研磨パッドの平面図である。
【図13】研磨対象のレンズの移動軌跡の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行い、次いで切除領域表面を研磨加工することを含む眼鏡レンズの製造方法に関する。本発明の眼鏡レンズの製造方法は、前記研磨加工を、研磨治具表面を該表面に向かって開口する貫通穴を複数有する研磨パッドにより被覆した状態で、該研磨パッド表面と前記切除領域表面との間に研磨剤を供給しながら前記眼鏡レンズと前記研磨治具とを相対移動させることによって行う。これにより、スラブオフラインの視認性を大きく低下させることができるため、装用者の快適な使用感を損なうことなく、スラブオフ加工により装用感を改善することが可能となる。
以下、本発明の眼鏡レンズの製造方法について、図面を参照し更に詳細に説明する。
【0013】
図1は、バイフォーカルレンズ(セミフィニッシュドレンズ)の光学面にスラブオフ加工を行う工程の説明図である。図1(a)に示す被加工レンズは、台玉レンズに小玉レンズが埋め込まれたバイフォーカルレンズであって、小玉レンズによって近用部が形成されている。このような構成のバイフォーカルレンズでは、近方視する場合、台玉レンズの光学中心よりも8〜10mm程度下方の領域を使用することとなり、レンズ度数の強弱によって近用部にプリズムが発生する。左右レンズの度数差が1.00D以下であればプリズムも1△以内であり両眼視時に装用感を損なうことはないが、1.5D以上も差がつくとプリズムによる左右のアンバランスが顕著となる。この場合、少なくとも左右どちらかのレンズの一部を切除すること(スラブオフ加工)で左右レンズのプリズム作用を調整し両眼視時の装用感を改善することができる。具体的には、図1(b)に示すように被加工面の形状を転写した面形状を有するダミーレンズを被加工面に貼り合わせる。次いで、図1(c)に示すように、切除すべき領域(スラブオフ加工領域)をダミーレンズごと機械加工により除去する。
【0014】
上記機械加工は、研削加工、切削加工等により行うことができる。一般的なスラブオフ加工では、カーブジェネレーターにより被切除領域を球面研削または研削する。ただし機械加工済表面は粗く、通常そのままでは光学面として使用することはできないため、スラブオフ加工後に研磨加工を行いスラブオフ加工済表面に光学面を創成する。研磨工程の詳細は後述する。
【0015】
図1ではセミフィニッシュドレンズを加工する例を示しているが、セミフィニッシュドレンズの非光学面(図1では凹面)に光学面を創成する機械加工(研削または切削、およびその後の研磨加工)は、通常スラブオフ加工後に残ったダミーレンズを除去する前に行われる。こうして光学面が創成されたレンズは図1(d)に示す状態となり、この状態のレンズからダミーレンズを除去することでスラブオフ加工がなされた眼鏡レンズ(図1(e))が得られる。図1(e)に示すように、ダミーレンズを取り除いたレンズ表面には、ダミーレンズにより保護されていた未切除領域と切除領域との境界(スラブオフライン)が存在する。
【0016】
図1ではセミフィニッシュドレンズに対してスラブオフ加工を施す態様について説明したが、本発明においてスラブオフ加工が施される眼鏡レンズは、両面光学面であるフィニッシュドレンズであっても、一方の面が光学面であり他方の面が非光学面であって受注を受けた後にユーザーのニーズに応じて所望の光学特性を有する光学面が創成されるセミフィニッシュドレンズであってもよい。また、スラブオフ加工が施される表面の形状は、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。スラブオフ加工を施す眼鏡レンズの素材は、特に限定されるものではなく、プラスチック、無機ガラス等の通常眼鏡レンズの素材として使用される各種材料を挙げることができる。
【0017】
図1に基づき説明した態様では、例えば図1に示すように被加工面が凸面である場合には、該凸面形状を転写した面形状の凹面を有するダミーレンズを作製し、このダミーレンズの凹面を被加工面(凸面)と嵌合させる。被加工面が球面であれば、これを転写した面形状(即ち球面)をダミーレンズに形成することは容易である。
一方、前記した累進屈折力レンズとは、遠用部および近用部を有し、かつ遠用部から近用部にかけて屈折力が累進的に変化する累進面を有するレンズである。累進屈折力レンズには、凸面に累進面を配置した凸面(外面)累進屈折力レンズ、凹面に累進面を配置した凹面(内面)累進屈折力レンズがある。凸面累進屈折力レンズは、凸面に累進面を有し、凸面の光学面表面形状により累進屈折力を形成している。凹面屈折力レンズも凹凸の違いを除けば同様である。上記累進屈折力レンズのように面内で曲率の異なる複雑な形状の光学面を有する眼鏡レンズについて、該光学面を転写した面形状を有するダミーレンズを作製することは困難であり、仮に作製できたとしてもレンズ処方に応じた様々な面形状に対応するダミーレンズをそれぞれ用意しなければならず製造コスト増の原因となる。また、バイフォーカルレンズの中でプラスチック製のバイフォーカルレンズは凸面側(物体側)に小玉を突出させることで近用部と遠用部を持たせているため、凸面側の面形状に対応するダミーレンズを作製することは難しい。
【0018】
本発明において、上記のように複雑な面形状を有するレンズ表面にスラブオフ加工を施す場合には、ダミーレンズによらず、被加工表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域を被膜により被覆した状態でスラブオフ加工を行うことが好ましい。後述するように被膜は光硬化型樹脂やマスキングテープ等により形成することができるため、複雑な面形状の表面に対応させることは容易である。したがって本態様によれば累進要素を含む自由曲面に対してスラブオフ加工を容易に行うことができる。また、突出部を有するバイフォーカルレンズ凸面に対しても、被膜を形成することでスラブオフ加工を容易に行うことができる。このように、本態様によれば、様々な面形状のレンズ表面に対してスラブオフ加工を行いプリズム作用を調整することができる。
以下に、上記被膜を用いるスラブオフ加工について、図面を参照し説明する。
【0019】
図2左図は、物体側が凸面、眼球側が凹面の累進屈折力レンズ(フィニッシュドレンズ)の断面図であり、光学中心の下方に近用部が配置されている。図2右図は上記凹面の平面図である。この凹面において、近用部より上の領域(実線より上の領域)を機械加工により所定量切除することで遠方視の縦方向のプリズム差を低減することができる。この場合、図2右図の斜線部が未切除領域とすべき領域となるため、当該領域を被膜により被覆する。被膜は、無機材料や金属材料を蒸着、スパッタ等の公知の成膜法によって堆積させることにより形成してもよく、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法等の公知の塗布法によって被膜形成用塗布液を塗布することにより形成してもよい。例えば、未被覆とすべき領域をマスキングテープで保護した状態でレンズ全面に被膜形成処理を施し、該処理後にマスキングテープを除去することで、所望領域に被膜を形成することができる。被膜形成の容易性の観点からは、塗布法を用いることが好ましい。塗布液としては、熱硬化性成分または光硬化性成分を含む組成物(硬化性組成物)を用いることができ、塗布後に所定の硬化処理(加熱または光照射)を行うことでレンズ表面の所望の位置に硬化被膜を形成することができる。短時間での硬化処理が可能である点で、紫外線硬化性組成物等の光硬化性組成物を用いることが好ましい。このような硬化性組成物は、公知の方法で調製可能であり、また一般に眼鏡レンズのハードコート用塗料として市販されているものを何ら制限なく用いることができる。または、マスキングテープを被膜として用いることも可能である。マスキングテープとしては、支持体フィルムの一方または両方の面に接着層または粘着層を有する市販の保護テープ等を使用することができる。被膜の厚さは特に限定されるものではなく、例えば10〜50μm程度とすることができる。被膜の厚さは、成膜条件や塗布条件によって制御することができる。また、上記のマスキングテープを用いる態様では、総厚が所望の厚さとなるよう必要に応じて複数枚のマスキングテープを積層してもよい。
【0020】
一方、プラスチック製のバイフォーカルレンズは、上記の通り通常、少なくとも一方の面の一部に突出部(近用部)を設けることにより、遠用部と近用部とを持たせている。このようなバイフォーカルレンズの断面形状の具体例を、図3に示す。図3(a)は、遠用部、近用部共に+の屈折力、図3(b)は遠用部が−の屈折力、近用部が+の屈折力、図3(c)は、遠用部、近用部共に−の屈折力のレンズである。図3中、Aは遠用部の光学中心、Bは近用部の幾何中心であり、それぞれの場合の近用部の光学中心は、それぞれ図4(a)〜(c)に示すように、AとBの間、Bより下側、Aより上側の位置で、遠用部と近用部の屈折力差(加入度数)に応じて移動する。
このように一部に突出部を有する凸面に対して図1に基づき説明した態様によりスラブオフ加工を施す場合には、ダミーレンズの凹面に上記突出部と嵌合する凹部を形成することとなるが、このような面形状のダミーレンズを作製することは困難である。この場合、例えば図3(a)〜(c)に示す断面形状を有するバイフォーカルレンズにおいて、凸面の突出部を含む下方領域(図4(a)〜(c)中、点線以下の領域)を被膜で覆い、突出部より上の領域を未被覆とした状態でスラブオフ加工を行うことで、凸面の突出部より上の領域においてプリズム作用を調整することができる。
【0021】
上記スラブオフ加工において、機械加工に使用する治具は、被膜に接触してもかまわない。被膜によって保護されているため、被膜下の領域は未切除領域となる。
【0022】
次に、以上説明したスラブオフ加工によるプリズム作用の調整後、スラブオフ加工済表面に施す研磨加工について説明する。
【0023】
本発明においてスラブオフ加工済表面に施される研磨加工は、研磨治具表面を該表面に向かって開口する貫通穴を複数有する研磨パッドにより被覆した状態で、該研磨パッド表面と前記切除領域表面との間に研磨剤を供給しながら前記眼鏡レンズと前記研磨治具とを相対移動させることによって行われる。これによりユーザーが眼鏡レンズ装用時に視界上にスラブオフラインが存在することを意識しないほど、スラブオフラインの視認性を低下させることができる。これは先に説明したように、貫通穴の存在によりスラブオフ加工により切除された領域と未切除領域との境界部分の磨き残しを低減できることによるものと考えられる。
【0024】
研磨治具としては、金属製の研磨皿を使用してもよいが、境界部分の磨き残しを効果的に低減するためには弾性材料からなる研磨体を使用することが好ましい。弾性材料の変形により、被研磨面に対する研磨パッドの馴染みやすさをより一層高めることができるからである。弾性材料からなる研磨治具としては、全体が弾性材料からなる研磨体を用いることができ、または、内部に空洞(中空構造)を有するバルーン部材であり、この空洞に流体を供給することによりバルーン部材に張りを与えながら研磨を行うことができる研磨体を用いることもできる。後者の研磨体は、流体により加える圧力によっても研磨条件を制御することができるため、切除領域と未切除領域との境界部分の磨き残しをより一層低減するうえで有利である。
【0025】
弾性材料としては、弾性体としての性質を有し、JIS k 6253(デュロメータタイプAまたはタイプE)により定義される硬さ5〜70程度のものが好ましい。具体例としては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびシリコンゴムなどの合成ゴム等を挙げることができる。前記バルーン部材としては、弾性材料部分の厚さが1〜10mm程度のものが好適である。このバルーン部材に供給される流体としては、通常、圧縮空気、窒素、水等の液体が使用される。バルーン部材を含む研磨治具の具体的構成については、例えば特開2004−261954号公報段落[0033]〜[0037]、特開2008−283714号公報段落[0036]〜[0057]等を参照できる。
【0026】
研磨加工時に研磨治具表面に配置される研磨パッドは、研磨剤を保持し研磨効率を高める役割を果たすものである。研磨パッドとしては、例えば、発泡ポリウレタン、フェルト、不織布、羊毛等の繊維性の布、合成樹脂等を材料とするものを用いることができる。その厚さは、通常0.5〜3.0mm程度である。研磨パッドの形状および配置方法については、例えば特開2004−261954号公報段落[0034]、特開2008−183714号公報段落[0026]〜[0027]、[0058]〜[0061]等を参照できる。そして本発明では、上記研磨パッドとして、研磨治具上に配置した際に研磨治具表面に向かって開口する貫通穴を複数有する研磨パッドを使用する。貫通穴の開口サイズおよび数は、研磨治具の表面形状を考慮して決定することが好ましい。通常、研磨治具の研磨パッドで被覆される表面の形状は、平面視円形ないし楕円形である。その直径または長径は、一般的な眼鏡レンズを加工する際には80〜100mm程度とする。上記サイズの表面を覆う研磨パッド表面には、開口サイズが1〜5mm程度の貫通穴を5〜10mmの間隔で配置することが好ましい。貫通穴の開口形状は、円形、楕円形、正方形、長方形等の任意の形状であることができるが、市販の工具で容易に加工可能な円形であることが好ましい。後述する図12には貫通穴を一列に配置した例を示したが、貫通穴は、研磨パッド上にランダムに配置してもよく、所定の方向に整列させてもよく、また同心円状に配置してもよい。また、貫通穴列は1列に限らず同一方向に2本、3本またはそれ以上の本数で並べて配置してもよい。更には貫通穴列同士を交差させることも可能である。
【0027】
研磨パッド表面と被研磨面との間に供給される研磨剤としては、研磨処理に通常使用される市販のスラリーを使用することができる。または、アルミナ、ダイヤモンドパウダー等の研磨砥粒を水または水系溶媒に分散させることにより調製したスラリーを使用することもできる。
【0028】
研磨加工はスラブオフ加工が施された切除領域の機械加工による粗さを解消するための工程であるため、少なくとも切除領域に対して行われる。ただし、研磨治具は切除領域以外の部分に接触してもかまわない。研磨加工時の研磨治具、研磨対象である眼鏡レンズの動作は、通常の研磨工程と同様とすることができる。好ましくは、研磨治具を被研磨面に押し付けた状態で、研磨治具を首振り旋回運動させ、かつ眼鏡レンズを往復運動させることにより、研磨の軌跡が1周毎に少しずつずれる無軌道研磨軌跡で被研磨面を研磨する。また、研磨加工中、研磨治具を切除領域と未切除領域との境界に対して略直交する方向に首振り移動させることで、境界部分の磨き残しをより一層低減することができる。この場合、貫通穴列が切除領域と未切除領域との境界に対して略直交するように研磨治具を首振り移動させることがより好ましい。なお前述の態様によりスラブオフ加工が行われたレンズ表面には、残留したダミーレンズまたは被膜が存在する。ダミーレンズまたは被膜により被覆された部分が未切除領域であり、未被覆部分が切除領域である。ダミーレンズや被膜は研磨加工前に除去してもしなくてもよい。また、被膜またはダミーレンズをつけた状態での研磨を行った後、被膜またはダミーレンズを除去して表面全体に研磨を行うことも可能である。ダミーレンズや被膜の存在は切除領域と未切除領域の境界の目印となるため、研磨治具を両領域の境界に対して略直交する方向に首振り移動させる期間を設ける場合には、除去せずに研磨加工を行うことが好ましい。上記首振り移動は、境界に対して略直交する方向で研磨治具を複数回往復移動させて行うことが好ましい。切除領域と未切除領域との境界線が直線ではない場合には近似直線を想定し、該近似直線に対して略直交する方向に研磨治具を首振り移動させればよい。なお、上記「略直交」とは、直交方向から±10°程度異なる場合も含む意味で用いている。
【0029】
次に、研磨工程の具体的実施態様の一例を図面に基づき説明する。
図5は本発明において使用可能な研磨装置の概略構成図である。
同図において、全体を符号30で示す研磨装置は、床面に設置された装置本体32と、この装置本体32に紙面において左右方向(矢印X方向)に移動自在でかつ水平な軸33を中心として紙面と直交する方向(矢印AB方向)に回動自在に配設されたアーム34と、このアーム34を左右方向に往復移動させるとともに紙面と直交する方向に回動させる図示しない駆動装置と、前記アーム34に設けられた眼鏡レンズ(以下、単に「レンズ」ともいう)1を、ブロック治具37を介して保持するレンズ取付部36と、このレンズ取付部36の下方に位置するように前記装置本体32に配設され、図示しない駆動装置により垂直な軸線Kを中心として首振り旋回運動(自転はしない)を行う揺動装置38等を備えている。
【0030】
図6は前記レンズをレンズ保持体37に取付けた状態を示す断面図である。
同図において、レンズ1を保持するレンズ保持体37は、金属製(工具鋼等)のヤトイ44と、このヤトイ44とレンズ1を接合する接着剤45とで構成されている。ヤトイ44の背面側には、前記レンズ取付部36に対して嵌合する嵌合凹部47が形成されている。この嵌合凹部47は、ハメアイの方向性を有している。接着剤45としては、通常低融点のアロイ(例えば、Bi,Pb,Sn,In,Gaの合金、融点約49℃)が用いられる。レンズ1の凸面2aと接着剤45との間には、傷防止用の保護フィルム46が介在されている。接着剤45によってレンズ1をヤトイ44に接合するには、例えばLOH社製のレイアウトブロッカーと呼ばれる装置が用いられる。ヤトイ44としては、レンズ1の度数、外径、凸面2aの曲率に応じて大きさの異なるものが用いられる。
【0031】
図5において、前記揺動装置38は、垂直な回転軸48の上端に垂直方向に所要角度(α)傾斜して取付けられており、上端面に前記研磨治具39が着脱可能に設置されている。回転軸48は研磨時に軸線周りに回転する。揺動装置38は回転軸48が回転すると、回転軸48の軸線周りを首振り旋回運動するように構成されている。回転軸48に対する揺動装置38の傾斜角度αは、例えば、5°である。図7は揺動装置38と研磨治具39の首振り旋回運動の軌跡50を示す。揺動装置38は、首振り旋回運動において回転軸48の周りを公転するだけで自転はしない。
【0032】
図8〜図11において、前記研磨治具39は、弾性材料によってカップ状に形成された下面側が開放するバルーン部材51と、このバルーン部材51の下面側開口部を閉塞し内部を気密に保持する固定具52と、前記バルーン部材51の内部に圧縮空気を供給するバルブ53とで構成されている。
【0033】
前記バルーン部材51は、ドーム部51Aと、このドーム部51Aの外周より下方に向かって一体に延設された略楕円形の筒部51Bと、この筒部51Bの下端に一体に延設された環状の内フランジ51Cとで構成されている。
【0034】
前記固定具52は、内側固定具55と外側固定具56の2部材からなり、これらによってバルーン部材51の内フランジ51Cを内側と外側から挟持することにより、バルーン部材51の下面側開口部を気密に封止している。このため、バルーン部材51の内部は、密閉空間57を形成している。内側固定具55は、バルーン部材51の筒部51Bの内側の形状と略同一の大きさの楕円板からなり、下面外周部に前記内フランジ51Cが嵌合する環状溝58が形成されている。
【0035】
前記外側固定具56は、上方が開放するカップ状に形成されていることにより、円板状の底板56Aと、この底板56Aの上面外周に一体に突設された円筒部56Bとからなり、この円筒部56B内に前記内側固定具55が前記バルーン部材51の筒部51Bとともに嵌挿される。円筒部56Bは、外形が円形で、内形がバルーン部材51の筒部51Bの外形と略同一の大きさの楕円形に形成されている。そして、外側固定具56は、内側固定具55が複数個の止めねじ60によって一体的に結合された後、前記揺動装置38の上面に、前記バルーン部材51の基準軸方向(図7の矢印F方向)を、被研磨面2bの基準軸方向である、前記アーム34の往復移動方向(図5のX方向)と一致させて取付けられる。
【0036】
前記バルブ53は逆止弁からなり、前記内側固定具55に取付けられている。
【0037】
前記バルーン部材51の密閉空間57に圧縮空気を前記バルブ53を介して供給すると、ドーム部51Aは上方に膨張し、ドーム部51Aの中心軸を含む断面の平均曲率が短軸方向(図7の矢印G方向)で最大、長軸方向(矢印F方向)で最小なトーリック面となる。この場合、ドーム部51Aの曲率は、ドーム部51Aの中央高さ(頂点高さ)に対応して変化するため、適宜な装置によってドーム中央の高さを測定し調整することにより、ドーム部51Aの曲率を所望の曲率とすることができる。
【0038】
研磨パッド40は、図12に平面図を示すように、前記バルーン部材51のドーム部51Aの正面視形状と略同一の大きさの楕円形に形成された研磨部70と、この研磨部70の周縁から外側に伸びる複数本の固定片71とで構成されている。研磨パッド上の貫通穴の配置の態様については先に説明した通りであり、図12に示す態様では、複数の貫通穴を一方向に配列させている。
【0039】
研磨部70は、外周より中心に向かって形成された複数の溝72により放射状に形成された8個の花弁片73で構成されている。各花弁片73は、中心側の幅が狭く、外周側の幅が広くなるように平面視台形状に形成されている。前記固定片71は、前記8個の花弁片73のうち、長軸方向と短軸方向に位置する合計4つの花弁片73の外縁に径方向にそれぞれ延設されている。固定片71の幅は、花弁片73の外縁の幅より狭く設定されている。これは、研磨中にバルーン部材51の変形や固定片71が後述する締付部材76から引き出された際、固定片71の撓みを容易にするためである。
【0040】
前記固定片71は、幅が広すぎると柔軟性に欠けて撓み難くなり、狭すぎると強度的に弱くなるため研磨時に破断し易くなる。したがって、固定片71の幅は強度と柔軟性を考慮して決められる。例えば、厚さ1mmのフェルトを使用した場合、幅は5〜15mm程度とすることが望ましい。5mm以下では耐久性が低下し、15mm以上であると柔軟性が低下し、バルーン部材51の変形に追随しずらくなる。固定片71は2つ以上が一定の間隔をおいて配置されることが望ましい。固定片71の数が多すぎると、固定片71と後述する締付部材76との接触面積が大きくなり、固定片71にかかる締付部材76の圧力が分散して小さくなるため外れ易くなる。反対に少なすぎると研磨パッド40の研磨治具39に対する安定した固定が得られなくなる。以上の点から、固定片71の数は3〜5つ程度が好ましい。
【0041】
研磨パッド40は、前記締付部材76によって前記研磨治具39に着脱自在に取付けられる。前記締付部材76は、適宜な太さの線ばねをリング状に塑性変形させて両端部を重ね合わせたもので、自然状態では前記外側固定具56の外径より小さい直径を有し、両端部76a,76bが外側にそれぞれ略直角に折り曲げられている。
【0042】
前記研磨パッド40を研磨治具39に取付けるには、先ず圧縮空気の供給によってバルーン部材51のドーム部51Aを所定のドーム形状に膨張させた後、その上に研磨パッド40の研磨部70を載置する。次に、締付部材76の両端部76a、76bを指先で挟んでその間隔を弾性に抗して狭めることにより締付部材76を拡径化し、この状態で締付部材76を研磨パッド40の固定片71に上方から押しつけてこれらの固定片71を下方に折り曲げ外側固定具56の外周に接触させる。そして、両端部76a、76bから指先を離すと、締付部材76は元の形状に復帰して固定片71を外側固定具56の外周に締付け固定し、もって研磨パッド40の取付けが終了する。ここでバルーン部材51の基準軸方向と研磨パッドの貫通穴列方向を一致するように研磨パッドを取り付ければ、貫通穴列によって基準軸方向を容易に確認できるため操作性を向上することができる。
【0043】
このような構造からなる研磨装置30によるレンズ1の研磨は、以下の手順によって行うことができる。
まず、アーム34のレンズ取付部36にレンズ1をブロック治具37に固着する。次に、揺動装置38の上面に研磨パッド40が取付けられた研磨治具39を設置する。レンズ取付部36にレンズ1を取付ける際には、レンズ1の被研磨面2bの基準軸方向がアーム34の往復移動方向(図5の矢印X方向)と一致するように取付けることが好ましい。研磨治具39を揺動装置38に設置する際には、バルーン部材51の基準軸方向(F方向)をアーム34の往復移動方向(矢印X方向)と一致させて設置することが好ましい。
【0044】
レンズ1がレンズ取付部36に取付けられると、昇降装置41によってレンズ1を下降させ、被研磨面2bを研磨パッド40の表面に押し付ける。この状態で研磨剤を研磨パッド40の表面に供給し、アーム34を左右方向に往復移動させるとともに軸33を中心として前後方向に回動させる。このようなアーム34の動きによるレンズ1の移動軌跡を図13に示す。
【0045】
また、回転軸48の回転によって揺動装置38を図7に示すように首振り旋回運動させる。このようなレンズ1と揺動装置38の運動により、研磨の軌跡が1周毎に少しずつずれる無軌道研磨軌跡でレンズ1の被研磨面2bを前記研磨パッド40と研磨剤によって研磨し、所望の面形状を有する光学面に仕上げる。
【0046】
研磨時の研磨治具の動作軌跡は、上記無軌道研磨軌跡に限られるものではなく、先に説明したように切除領域と未切除領域との境界に略直交する方向に研磨治具を首振り移動させる期間を設けてもよい。例えば、切除領域と未切除領域の境界線が図5の矢印X方向と直交するようにレンズ1を研磨装置30に取り付けた状態で、アーム34を図5の矢印X方向に往復移動させることで、上記境界線に対して直交する方向に研磨治具39を首振り移動させることができる。
【0047】
被研磨面の研磨は1段階の研磨で行ってもよく、2段階以上の研磨で行ってもよい。カーブジェネレーターによって切削加工された表面には、NC制御によるバックラッシュ等に起因する加工段差が含まれている場合があるので、その場合には光学面を得るために加工段差を研磨によって除去する必要がある。したがって、その場合には、研磨工程を荒研磨と仕上げ研磨の2段階研磨とすることが好ましい。例えば、荒研磨においては、研磨砥粒の平均粒径が1.6〜1.8μmのものを用い、温度を8〜14℃に制御して研磨することができる。また、研磨時間は2〜6分、研磨圧は5〜400ミリバール、回転速度は400〜1000rpmとすることができる。
【0048】
次に、仕上げ研磨においては、例えば、研磨砥粒の平均粒径が0.8μm程度のものを用いて研磨することができる。研磨時間は30秒〜1分程度、研磨圧は5〜400ミリバール、回転速度は400〜1000rpmとすることができる。このように研磨条件を変えて研磨することにより、加工段差を確実に取り除くことができる。
【0049】
上記研磨加工後のレンズは、ダミーレンズまたは被膜の除去、洗浄工程等の後工程に付される。被膜の除去は、溶剤による拭き取り等の公知の方法で行うことができる。また、マスキングテープを被膜として用いた場合には、レンズ上からテープを剥離すればよい。セミフィニッシュドレンズについては、スラブオフ加工後に他方の面(非光学面)を光学面に創成するための加工を行うことで、両面が光学面に仕上げられた眼鏡レンズを得ることができる。この場合のダミーレンズまたは被膜の除去は、上記光学面の創成前に行ってもよく、創成後に行ってもよい。
【0050】
以上説明した本発明によれば、プリズム作用の調整がなされ優れた装用感を有するとともに、スラブオフラインにより快適な視界が損なわれることのない使用感が良好な眼鏡レンズを提供することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
物体側が凸面、眼球側が凹面の累進屈折力レンズ(フィニッシュドレンズ)の凹面に以下の手順でスラブオフ加工を施した。
上記凹面の光学中心から3mm下方の領域の全面に、図2右図に示すように市販の保護テープ(厚さ20μm)を粘着層を介して貼り付けた後、3次元NC制御を行うカーブジェネレータによって切削加工を施した。これにより保護テープによって被覆されていない遠用部側の領域が球面切削された。
次いで、市販の保護フィルムをレンズの凸面に粘着層を介して貼着した。その後、図6に示すようにレンズをブロック治具に固定した。レンズの固定には、LOH社製のレイアウトブロッカーと呼ばれるアロイブロッカーを使用した。
次いで、ブロック治具に固着した状態で、図5に示す研磨装置にレンズを取り付け、図7〜11に示す研磨治具により研磨時間5分、研磨圧200ミリバール、回転速度530rpm、研磨剤として平均粒径0.8μmのアルミナを水に分散させたスラリーを使用して、先に説明した無軌道研磨軌跡で研磨加工を行った。研磨パッドとしては厚さ約2mmの羊毛製の研磨パッドに市販の穴あけ工具によって、直径2mmの開口径を有する円形の貫通穴を5mm間隔で合計10個、図12に示すように一列に形成したものを使用した。バルーン部材としては、外径90φmm、JIS k 6253(デュロメータタイプE)で定義される硬度50、素材厚み約3mmのスチレンブタジエンゴム(SBR)を使用した。
その後、ブロック治具からレンズを取り外した後、研磨加工を施したレンズ表面上から保護テープを剥離した。
【0053】
[実施例2]
切削加工後に保護テープを目印として、切除領域と未切除領域の境界線が図5の矢印X方向と直交するようにレンズ1を研磨装置30に取り付けた。この状態で、研磨剤として平均粒径0.8μmのアルミナを水に分散させたスラリーを使用し、アーム34を図5の矢印X方向に繰り返し往復移動させることで、研磨パッド上の貫通穴列が上記境界線に対して直交する方向に移動するように研磨治具39を首振り移動させた(研磨時間1分、研磨圧200ミリバール)。以降、実施例1と同様に無軌道研磨軌跡による研磨加工を行った。その後ブロック治具からレンズを取り外した後、研磨加工を施したレンズ表面上から保護テープを剥離した。
【0054】
[比較例1]
貫通穴の形成を行わず、貫通穴なしの研磨パッドを使用した点を除き、実施例1と同様の操作を行いスラブオフ加工済みレンズを得た。
【0055】
[実施例3]
以下の方法で被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行いスラブオフ加工済眼鏡レンズを得た。
眼鏡レンズの凹面の光学中心から3mm下方の領域を除く領域に、実施例1で使用した保護テープを貼り付けた後、上記凹面全面にスピンコート法により硬化後の厚さが20μm程度となる塗布量で市販のアクリル系UV硬化型樹脂を塗布し、引き続きUV硬化処理を施し硬化膜を形成した。その後、マスキングテープを該テープ上に形成された硬化膜とともに除去した。これにより、光学中心から3mm下方の領域を厚さ約20μmの硬化膜により被覆することができた。
【0056】
[実施例4]
図3(a)に示す断面形状を有するプラスチック製のバイフォーカルレンズの凸面の突出部を含む下方領域(図4(a)中の点線以下の領域)に実施例1で使用した保護テープを貼り付け、以降実施例1と同様の操作を行った。
【0057】
実施例1〜4および比較例1について、スラブオフ加工前後の遠用部測定基準点におけるプリズム屈折力をレンズメーターにより測定し、スラブオフ加工によりプリズム屈折力が低下したことを確認した。
実施例1〜4および比較例1で得られた眼鏡レンズをそれぞれ蛍光灯下で装用したところ、実施例1〜4の眼鏡レンズは、装用時にスラブオフラインの存在を意識することなく快適に使用することができた。これに対して比較例1で得られた眼鏡レンズでは、装用者にスラブオフラインの存在が確認された。
【0058】
以上の結果から、本発明によれば、眼鏡レンズの使用感を損なうことなくプリズム作用を調整できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行い、次いで切除領域表面を研磨加工することを含み、
前記研磨加工を、研磨治具表面を該表面に向かって開口する貫通穴を複数有する研磨パッドにより被覆した状態で、該研磨パッド表面と前記切除領域表面との間に研磨剤を供給しながら前記眼鏡レンズと前記研磨治具とを相対移動させることによって行うことを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記研磨治具表面は弾性材料からなる請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記研磨治具の内部に流体を供給し膨張させることでドーム状表面を形成し、
該ドーム状表面を前記研磨パッドにより被覆して前記研磨加工を行う請求項2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記研磨パットは、所定の方向に貫通穴が列をなしている貫通穴列を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記研磨加工中、切除領域と未切除領域との境界に対して前記貫通穴列の方向が略直交するように前記研磨治具を首振り移動させる期間を含む請求項3に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−213822(P2012−213822A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79558(P2011−79558)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】