説明

睡眠呼吸障害の無呼吸発作又は低呼吸発作に伴うCVHRの検出装置

【課題】 睡眠呼吸障害に伴うCVHRを正確に検出することができる技術を提供する。
【解決手段】 CVHR検出装置2では、R−R間隔時系列データより心拍変動の高周波数成分の振幅を算出する。CVHR検出装置2は、高周波数成分の振幅の値から、個々のデータに固有の値として、ディップの深さに対する閾値を決定し、閾値より大きな深さを有するディップ群を特定する。さらに、CVHR検出装置2は、形状に類似性を有するディップを特定する。さらに、CVHR検出装置2は、周期性を持って連続して出現しているディップ群を特定する。CVHR検出装置2は、最後に特定されたディップ群をCVHRとして検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠呼吸障害の無呼吸発作又は低呼吸発作に伴う心拍数の周期的変動を検出する技術に関する。なお、本明細書では、睡眠呼吸障害の無呼吸発作又は低呼吸発作に伴う心拍数の周期的変動のことをCVHR(cyclic variation of heart rate)と簡単に表現する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には心拍変動解析による睡眠時無呼吸の検出方法が開示されている。この検出方法では、心拍間隔時系列データから、心拍変動の周波数成分の強度を表すパワースペクトルを作成している。このパワースペクトルで超低周波数領域(0.003〜0.04Hz)に相当する周波数帯のパワーが増加している場合に、睡眠時無呼吸が存在すると判定している。
【0003】
【非特許文献1】Roche et al.、“Cardiac Interbeat Interval Increment for the Identification of Obstructive Sleep Apnea”、Journal of Pacing and Clinical Electrophysiology、(米国)、2002年8月、第25巻、第8号、p.1192―1199
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
睡眠時無呼吸発作に随伴して現れるCVHRは周期が25〜120秒、すなわち0.008〜0.04Hzの周波数をもつが、この周波数帯には生理的な心拍変動成分である超低周波数成分(0.003〜0.04Hz)も同時に存在し、スペクトル分析のような周波数解析だけでは両者を区別することができない。また、スペクトル分析では、たとえCVHRの存在をある程度推定することができたとしても、CVHRの頻度や個々のCVHRの時間的な位置を特定することができない。さらに、無呼吸や低呼吸にともなうCVHRは自律神経によって媒介され、CVHRの強度(心拍の変化に見られるピークの高さ)は副交感神経活動のレベルと関連する。このため、CVHRが存在するとしても、自律神経機能の個体差や個体の健康状態による自律神経系活動の変化によって、CVHRの強度が大きく変化する。
したがって、非特許文献1の方法では、生理的な超低周波数成分の個体差や個体の状態による増減によって、CVHRの検出が不正確となり、睡眠時無呼吸の検出の特異度や感度が低下する。また、非特許文献1の方法では、CVHRを直接検出しないので、CVHRの頻度や個々のCVHRの時間的位置を知ることができず、無呼吸や低呼吸発作の頻度や時間的分布を正確に把握することができない。さらに、非特許文献1の方法では、CVHRの強度の個体差や個体の状態による変化を考慮していないので、自律神経機能の障害や活動低下がある場合にはCVHRを適切に検出することができない。なお、睡眠時無呼吸は循環器疾患や肥満等の生活習慣病に合併しやすいが、これらの疾患は一般に、自律神経機能障害、特に副交感神経機能障害を伴いやすい。
【0005】
本明細書では、生理的な超低周波数成分の強度や自律神経活動のレベルに関わらずCVHRを正確に検出し、その頻度や時間的位置を特定することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示される技術は、睡眠呼吸障害の無呼吸発作又は低呼吸発作に伴うCVHRの検出装置である。このCVHR検出装置は、時系列データ入力手段とピーク検出手段とピーク高さ算出手段と心拍変動指標算出手段とピーク高さ閾値決定手段とピーク群特定手段と解析結果出力手段とを備える。
【0007】
時系列データ入力手段は、心拍又は脈拍の拍間隔の時系列データもしくは心拍又は脈拍の拍頻度の時系列データを入力する。拍間隔の時系列データとしては、1拍毎の拍間隔の時系列データ(心電図R−R間隔等)や、瞬時の拍間隔の時系列データ(拍周期関数等)等を採用してもよい。拍頻度の時系列データとしては、所定時間毎の心拍数や脈拍数の時系列データや、瞬時心拍数や瞬時脈拍数の時系列データ等を採用してもよい。なお、時系列データには、拍間隔に換算して10ms程度の分解能があることが好ましい。
【0008】
時系列データ入力手段によって入力された時系列データに対して、必要に応じて前処理を行なうことが好ましい。前処理によって、期外収縮や心ブロック等の不整脈に起因するデータ変動を除去することが好ましい。また、測定や記録に起因するアーチファクトを除去することが好ましい。
【0009】
続いて、これらの演算処理を行なった時系列データを補間処理し、再サンプリングを行なうことが好ましい。再サンプリングは、2Hz程度の周波数で行なうことが好ましい。補間の方法については、特に限定されないが、ステップ補間、直線補間、スプライン補間等を使用してもよい。
【0010】
ピーク検出手段は、時系列データから複数の局所的なピークを検出する。この「ピーク」という用語は、減少ピークと増加ピークの両方を含む概念である。拍間隔の時系列データからは減少ピーク(即ちディップ)が検出される。拍頻度の時系列データからは増加ピークが検出される。なお、ピークの検出方法については、特に限定されない。例えば、時系列データのデータ変動の形状に基づいてピークを算出してもよい。例えば、予め設定しておいたピーク形状に類似している形状を有するデータ変動をピークとして検出してもよい。あるいは、予め設定しておいたピーク形状に相似している形状を有するデータ変動をピークとして検出してもよい。また、例えば、増加ピークを検出する場合には、所定のデータ変動の頂点が隣接するデータ変動の頂点よりも大きい値を示す場合に、そのデータ変動をピークとして検出してもよい。逆に、減少ピークを検出する場合には、所定のデータ変動の頂点が隣接するデータ変動の頂点よりも小さい値を示す場合に、そのデータ変動をピークとして検出してもよい。
【0011】
ピーク高さ算出手段は、ピーク検出手段によって検出された複数の局所的ピークのそれぞれの高さを算出する。なお、ピーク高さの算出方法は、特に限定されない。例えば、ピークの上端と下端の間の距離をピーク高さとして算出してもよい。また、例えば、ピーク毎に基準のベースラインを決め、そのベースラインとピークの頂点の間の距離をピーク高さとして算出してもよい。ベースライン及びピークの頂点の設定方法は多様である。ベースラインは、例えば、ピークの前後において所定の時間範囲内のデータの変動の分布から算出した移動平均値や移動中央値であってもよい。ピークの頂点は、例えばピーク幅の中心時刻における値であってもよい。
【0012】
無呼吸や低呼吸にともなうCVHRの強度は、自律神経活動のレベル等の個人差や個人の健康状態等によって変化する。例えば、冠動脈疾患や心不全、糖尿病等による副交感神経活動の抑制や機能障害があるとCVHRの強度、すなわちピークの高さが減少する。このために、複数の被験者について同じ基準値を用いてピーク高さからCVHRの候補となる変動を識別しようとすると、特異度や感度が低下する。このために、本発明では、時系列データ毎に自律神経活動を反映する心拍変動指標を算出し、その指標からそれぞれの時系列データに固有の値として、ピーク高さに関する閾値を決定し、そのピーク高さ閾値よりも大きい高さを有するピークを特定することによって、CVHRを検出する手法を採用している。
【0013】
心拍変動指標算出手段は、自律神経活動を反映する心拍変動指標を算出する。心拍変動指標としては、拍周期もしくは拍頻度の変動の高周波数成分(high frequency component,例えば0.15〜0.45Hz)のパワーもしくは振幅や、連続する拍周期もしくは拍頻度の差分値の自乗平均(root mean square of successive difference)等の主に副交感神経機能を反映する指標を利用することが好ましいが、心拍変動指標はこれらに限定されない。例えば、拍周期もしくは拍頻度の変動の低周波数成分(low frequency component,0.04〜0.15Hz)も、特に夜間は副交感神経機能を反映することから、指標として用いてもよい。また、前記の心拍変動の高周波数成分の周波数帯も、0.15〜0.45Hzに限定されない。この周波数帯の中の一部の周波数帯もしくはより高い周波数帯まで拡大した周波数帯を高周波数成分の算出のための周波数帯としてもよい。また、高周波数成分や低周波数成分のパワーもしくは振幅を算出する方法は、特に限定されない。例えば、周波数領域のスペクトル分析などによって分析区間内のパワーや振幅の平均値を求めてもよいし、時間・周波数領域のウェイブレット分析などや時間領域の複素復調分析などによって、パワーや振幅を時間の関数として計算してもよい。なお、心拍変動指標を算出するのに用いるデータの時間の長さは特に限定されない。例えば24時間の時系列データから心拍変動指標を算出してもよいし、夜間もしくはその他の時間帯の時系列データから心拍変動指標を算出してもよい。
【0014】
ピーク高さ閾値決定手段は、心拍変動指標を用いて、ピーク検出手段によって検出されたピークの中から、CVHRの候補となるピークを識別するためのピーク高さに関する閾値を、それぞれの時系列データに固有の値として決定する。前述したように、無呼吸や低呼吸にともなうCVHRの強度は、自律神経活動レベルの個人差や個人の健康状態などによって変化するので、CVHRが存在するとしても、期待されるピークの高さは、時系列データ毎に異なる。そこで、ピーク高さ閾値決定手段では、個々の時系列データから得られた心拍変動指標からピーク高さ閾値を時系列データ毎に決定する。ここで、ピーク高さ閾値は、心拍変動指標の値の関数として算出する。この関数は心拍変動指標の種類に依存するが、心拍変動指標の値を、拍周期の高周波数成分(0.15〜0.45Hz)の振幅に換算した場合、その値の2〜4倍程度の値がピーク高さ閾値の候補となる。ただし、心拍変動指標の値は、同一の指標であっても、時系列データの分解能、不整脈やアーチファクトの除去に関する前処理の方法や精度、心拍変動指標の計算方法等によって変化する。したがって、前記の拍周期の高周波数成分の振幅に対するピーク高さ閾値の倍率も、前記の値に限定されるものではない。
【0015】
ピーク群特定手段は、ピーク検出手段によって検出されたピークの中から、ピーク高さ閾値よりも大きいピーク高さを有しており、かつ、周期性を持って連続しているピーク群を特定する。無呼吸発作及び低呼吸発作は周期的に起きることが多く、これに伴って心拍又は脈拍も周期的に減少と増加を繰り返すことで、CVHRを形成する。前述したようにCVHRと共通もしくはそれに近い周波数帯には、生理的な心拍変動である超低周波数成分が存在するが、超低周波数成分はCVHRと異なり周期性を持たない非周期性変動であることが知られている。したがって、超低周波数成分による変動は、CVHRのようなピークの方向性(増加ピークか減少ピークか)が一定でなく、ピークの出現に周期性を持たない。ピーク群特定手段は、この性質を利用し、複数の局所的ピークの中から、上記のピーク高さ閾値より大きい高さを有しており、かつ、周期性を持って連続しているピーク群を特定する。これによって、CVHRを反映するピーク群を、超低周波数成分によるピークと識別して検出する。ピーク群特定手段によって特定されたピーク群を最終的にCVHRと判定する。なお、ピーク群特定手段は、ピーク高さ閾値より大きいピーク高さを有するピーク群と、周期性を持って連続しているピーク群のうち、これらのピーク群を特定する順序について限定されるものではない。
【0016】
解析結果出力手段は、ピーク群特定手段によって特定されたピーク群の頻度および時間的分布を含む解析結果を出力する。解析結果出力手段におけるピーク群の頻度および時間的分布の出力の方法は多様である。例えば、ピーク群の頻度については、一晩のピークもしくは一晩のCVHRの総数、時間あたりの頻度、各時間帯の頻度を出力してもよい。ピーク群の時間的分布については、各ピークの出現時刻を出力しても良いし、ピークの時間的位置を単独でまたは心電図や拍間隔、拍頻度と共に時間軸に対するグラフとして出力してもよい。さらに、ピーク高さ及びピーク幅のデータを出力してもよいし、前後に出現しているピークとの時刻差を出力してもよい。また、解析結果出力手段によって出力されるデータの形式も多様である。解析結果出力手段は、ピーク群に関するデータを画面に表示してもよいし、プリンタに出力してもよい。あるいは、解析結果出力手段は、CD−Rなどの記憶媒体にデータを保存してもよいし、外部のコンピュータにデータを送信してもよい。
【0017】
本発明のCVHR検出装置では、時系列データ毎に算出した心拍変動指標に基づいて決定したピーク高さ閾値を用いて、そのピーク高さ閾値よりも大きいピーク高さを有しているピーク群を特定することができる。これによって、無呼吸や低呼吸に伴うCVHRの強度の個人差や個人の健康状態による変化に関わらずCVHRを正確に検出することができる。また、周期性を持って連続しているピーク群を特定することで、超低周波数成分等の周期性を持たない変動によるピークを除外することができ、CVHRを正確に検出することができる。
【0018】
心拍変動指標算出手段は、時系列データから少なくとも心拍変動の0.15〜0.45Hzの周波数帯に含まれる変動(即ち、高周波数成分)のパワーもしくは振幅を算出してもよい。心拍変動の高周波数成分のパワーもしくは振幅は、副交感神経機能を反映する指標である。
【0019】
心拍変動指標算出手段は、時系列データから少なくとも連続する拍周期もしくは拍頻度の差分値の自乗平均(root mean square of successive difference)を算出してもよい。連続する拍周期もしくは拍頻度の差分値の自乗平均は、副交感神経機能を反映する指標である。
【0020】
ピーク高さに関する時系列データ固有の閾値を副交感神経機能を反映する指標(心拍変動の高周波数成分のパワーもしくは振幅、又は連続する拍周期もしくは拍頻度の差分値の自乗平均)に基づいて時系列データ毎に決定することによって、副交感神経活動レベルの個人差や個人の健康状態による変化によるCVHRの強度の変化に関わらず、CVHRを正確に検出することができる。例えば、自律神経機能が健全で夜間の副交感神経活動レベルが高い人に無呼吸や低呼吸が起こると、それに伴ってピーク高さの大きなCVHRが発生するが、そのような人では超低周波数成分等を含む生理的な心拍変動も強い。この場合、心拍変動指標に基づいてピーク高さ閾値を大きな値にすることで、CVHR以外の変動によるピークを、CVHRとして誤検出する率を下げることができ、CVHR検出の特異度が高くなる。逆に、自律神経機能障害のある人や、夜間の副交感神経活動レベルが抑制された状態にある人に無呼吸や低呼吸が起こっても、それに伴うCVHRは小さなピーク高さしか生じない。このような人では超低周波数成分等を含む生理的な心拍変動も小さい。この場合、心拍変動指標に基づいてピーク高さ閾値を小さな値にすることで、拍間隔や拍頻度にわずかな変化しか生じないCVHRを見落とす検出欠損率を下げることができ、CVHR検出の感度が高くなる。
【0021】
ピーク群特定手段は、時系列データ毎に算出した心拍変動指標に基づいて決定したピーク高さ閾値を用いて、複数の局所的ピークの中から、ピーク高さ閾値よりも大きいピーク高さを有しているピーク群を特定し、そのピーク群の中から周期性を持って連続しているピーク群を特定することが好ましい。これによって、超低周波数成分等の周期性を持たない変動によるピークを除去することができ、CVHRを正確に検出することができる。
【0022】
ピーク群特定手段は、連続している2つのピークの間の時刻差が所定範囲内に存在する連続している3つ以上のピークを特定することによって、周期性を持って連続しているピーク群を特定してもよい。例えば、上記の所定範囲は、25秒間から120秒間であってもよい。また、連続している複数の時刻差のばらつきが所定の範囲内に含まれるピーク群を特定してもよい。また、連続している4つ以上のピークを特定してもよい。
【0023】
無呼吸又は低呼吸発作に伴うCVHRでは、形状が類似しているピークが連続して出現することが多い。ピーク群特定手段は、複数の局所的ピークの中から、ピーク高さ閾値より大きい高さを有しており、類似の形状を有しており、かつ、周期性を持って連続しているピーク群を特定してもよい。ピーク群特定手段によって最終的に特定されたピーク群をCVHRと判定する。ピーク群特定手段は、例えば、隣り合う2つのピークの形状が類似しているのか否かを判断してもよい。ピークの類似性は、例えば、ピーク幅及び/又はピーク高さに基づいて判断されてもよい。例えば、ピーク幅が第1所定範囲に含まれるピーク群は類似性を有すると判断されてもよい。また、例えば、ピーク高さが第2所定範囲に含まれるピーク群は類似性を有すると判断されてもよい。ピーク高さ閾値よりも大きいピーク高さと周期性に加えて、類似性を有するピークを特定することで、CVHRを正確に検出することができる。
【0024】
ピーク群特定手段は、複数の局所的ピークの中からピーク高さ閾値より大きいピーク高さを有しているピーク群を特定し、そのピーク群の中から所定の類似の形状を有しているピーク群を特定し、そのピーク群の中から所定の周期性を持って連続しているピーク群を特定することが好ましい。周期性を持って連続しているピーク群を最後に特定することで、他の順序で特定を行なうよりも、正確な特定結果を得ることができる。
【0025】
本明細書では、CVHR検出装置を実現するコンピュータプログラムも提供する。このコンピュータプログラムは、コンピュータに以下の各処理を実行させる。
(1)心拍又は脈拍の拍間隔の時系列データもしくは心拍又は脈拍の拍頻度時系列データを入力する時系列データ入力処理。
(2)時系列データから複数の局所的ピークを検出するピーク検出処理。
(3)複数の局所的ピークのそれぞれの高さを算出するピーク高さ算出処理。
(4)時系列データから自律神経活動を反映する心拍変動指標を算出する心拍変動指標算出処理。
(5)心拍変動指標から、それぞれのデータに固有の値として、ピーク高さに関する閾値を決定するピーク高さ閾値決定処理。
(6)複数の局所的ピークの中から、ピーク高さ閾値より大きい高さを有しており、かつ、周期性を持って連続しているピーク群を特定するピーク群特定処理。
(7)ピーク群の頻度および時間的分布を含む解析結果を出力する解析結果出力処理。
このコンピュータプログラムを利用すると、自律神経活動の個人差や個人の健康状態による変化に関わらずCVHRの頻度と時間的位置を特定し得るCVHR検出装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に説明する実施例の主要な特徴を整理しておく。なお、この実施例では心拍間隔の時系列データを用いることとし、CVHRが減少方向のピーク(ディップ)を形成する場合について述べる。したがって、ここではピーク高さとはディップの深さを意味する。
(特徴1)ピーク検出手段は、時系列データを時間軸に対するグラフとして描いたときに下方に頂点を有する所定の形状の放物線(例えばH=T/49,ここでTは放物線の中心からの時間[秒]、Hは放物線の頂点からの高さ[ミリ秒])が内接し得る部位をピーク候補として特定し、当該ピーク候補が前後の所定時間(例えば前後10秒間)に存在する他のピーク候補より内接する放物線の頂点の値が小さい場合に当該ピーク候補をピークとして特定する。
(特徴2)ピーク高さ算出手段は、個々のピークについて、それぞれの中心時刻の前後所定時間(例えば前後25秒間)の時系列データの移動平均を求め、それぞれの移動平均の最大値を算出する。ピーク高さ算出手段は、ピークの中心時刻における値と、前後の移動平均の最大値の平均値との差として、個々のピークの高さを算出する。なお、移動平均の窓の幅(フィルタの長さ)は所定の値(例えば5秒)とする。
(特徴4)ピーク高さ閾値決定手段は、拍間隔時系列データから求めた心拍変動の高周波数成分(0.15〜0.45Hz)の振幅を2.5倍した値を、その時系列データに固有のピーク高さ閾値として用いる。
(特徴5)ピーク群特定手段は、隣接するピークに対して所定範囲内のピーク幅を有しており、隣接するピークに対して所定範囲内のピーク高さを有しており、かつ、隣接するピークに対して所定範囲内のピーク幅とピーク高さの比を有しているピークを類似性を有するピークとして特定する。
(特徴6)ピーク群特定手段は、4つの連続するピークのうちの隣接する2つのピークの全てについて、隣接する2つのピークの時刻差が所定時間(例えば25秒間〜120秒間)の範囲内であり、かつ、時刻差の大きさのばらつきが所定範囲内である場合に、その4つのピークを周期性を有するピークとして特定する。例えば、4つの連続するピークがP1,P2,P3,P4であり、P1とP2の時刻差がT12であり、P2とP3の時刻差がT23であり、P3とP4の時刻差がT34である場合、T12とT23とT34の全てが上記の所定時間の範囲内であり、かつ、T12とT23とT34のばらつきが所定範囲内である場合に、P1,P2,P3,P4を周期性を有するピークとして特定する。
【実施例】
【0027】
図面を参照して実施例を説明する。図1は、本実施例のCVHR検出装置2の構成を示すブロック図である。CVHR検出装置2は、R−R間隔時系列データ入力部16とディップ検出部18とディップ深さ算出部20と心拍変動指標算出部22と個別閾値決定処理部24とディップ幅算出部26とディップ間隔算出部28とディップ群特定部30とその他の演算部32と記憶部34と操作部36と表示部38とを備えている。なお、CVHR検出装置2に搭載されているコンピュータがプログラムに従って処理を実行することによって、上記の各部16〜32等が実現される。
【0028】
R−R間隔時系列データ入力部16は、通信回線14に接続されている。通信回線14は、R−R間隔測定装置(例えばホルター心電図解析装置やホルター心電図解析機能を備えたホルター心電計等)に接続されている。R−R間隔時系列データ入力部16は、R−R間隔測定装置によって測定されて出力されたR−R間隔測定データを入力する。図7や図8のチャート70は、R−R間隔測定データの一例を示す。チャート70では、R−R間隔が途中から周期的に増減を繰り返している。ディップ検出部18は、R−R間隔時系列データから複数の局所的ディップを検出する。ディップ検出部18は、ディップ幅及びディップ深さ等のデータから、所定のディップ形状を満たすディップ群を検出する。ディップの検出方法については、後で詳しく説明する。ディップ深さ算出部20は、ディップ検出部18によって検出されたディップ群のそれぞれの深さを算出する。ディップ深さを算出する方法については、後で詳しく説明する。
【0029】
心拍変動指標算出部22は、R−R間隔時系列データから高周波数成分(0.15Hz〜0.45Hz)の振幅を算出する。心拍変動指標算出部22は、以下に示す演算方法のいずれかによって周波数成分を抽出することができる。例えば心拍変動指標算出部22は、複素復調分析によって高周波数成分の振幅を算出してもよい。また、心拍変動指標算出部22は、高速フーリエ変換又は自己回帰分析によって高周波数成分の振幅を算出してもよい。心拍変動指標算出部22は、ウェイブレッド変換又は短時間フーリエ変換によって周波数成分の振幅を算出してもよい。心拍変動指標算出部22は、高周波数成分の振幅の推定値として連続するR−R間隔の差分値の自乗平均(root mean square of successive difference)を算出してもよい。
【0030】
個別閾値決定処理部24は、心拍変動指標算出部22によって抽出された高周波数成分の振幅から、CVHRの候補となるディップの深さに関するデータ固有の閾値を、データ固有閾値として決定する。この実施例では、高周波数成分の振幅の2.5倍の値を、データ固有閾値として採用している。ディップ幅算出部26は、複数の局所的ディップのそれぞれの幅(即ち各ディップが出現している時間の長さ)を算出する。ディップ間隔算出部28は、連続する各2つのディップの間隔を算出する。ディップ間隔は、ディップ幅の中心値から、隣接するディップのディップ幅の中心値までの時間である。
【0031】
ディップ群特定部30は、以下の各処理を実行する。
(1)複数の局所的ディップの中から、データ固有閾値よりも大きいディップ深さを有しているディップ群を、有意ディップ群として特定する。
(2)上記の(1)で特定された有意ディップ群の中から、所定の類似の形状を有しているディップ群を類似ディップ群として特定する。
(3)上記の(2)で特定された類似ディップ群の中から、所定の周期性を持って連続しているディップ群を周期性ディップ群として特定する。
(3)で特定された周期性ディップ群がCVHRである。
【0032】
上記の(1)ではデータ毎に算出されるデータ固有閾値をディップの深さの有意性の判定基準としているため、上記の(1)で特定されるディップ群を、有意ディップ群と呼ぶ。上記の(2)で特定されるディップ群を、類似ディップ群と呼ぶ。上記の(3)で特定されるディップ群を、周期性ディップ群と呼ぶ。その他の演算部32は、上記以外の様々な演算処理を行なう。演算部32が行なう演算処理については、後で詳しく説明する。
【0033】
記憶部34は、ROM、EEPROM、RAM等によって構成されている。記憶部34は、様々な情報を記憶することができる。例えば、記憶部34は、ディップ群特定部30によって特定されたディップ群に関する様々な情報を記憶することができる。例えば、記憶部34は、R−R間隔時系列データ入力部16に入力されたR−R間隔時系列データを記憶してもよい。あるいは、記憶部34は、各ディップの出現時刻を記憶してもよいし、ディップ群の出現時刻帯を記憶してもよい。あるいは、記憶部34は、各ディップの幅及び深さ等のデータを記憶してもよい。操作部36は、複数のキーを有する。ユーザは操作部36を操作することによって、様々な情報をCVHR検出装置2の各部に入力することができる。表示部38は、様々な情報を画面に表示することができる。
【0034】
CVHR検出装置2に搭載されたコンピュータプログラムが実行するCVHR検出処理の内容について説明する。図2〜4は、CVHR検出処理のフローチャートを示す。R−R間隔時系列データ入力部16は、通信回線14を介してR−R間隔時系列データを入力する(S10)。このR−R間隔時系列データは、10ms程度の時間分解能(即ち10ms以上のR−R間隔の差異を識別できる分解能)を有していることが好ましい。図7や図8の符号70は、R−R間隔時系列データの一例を示す。
【0035】
S10で入力されたR−R間隔時系列データには、期外収縮や心ブロック等の非生理的不整脈、及びアーチファクトに起因するデータの変動が含まれている。そこで、演算部32は、非生理的不整脈及びアーチファクトに起因するデータの変動を除去する演算処理を行なう(S12)。これによって、生理的心拍変動及び無呼吸及び低呼吸による心拍変動以外の原因によるデータの変動を除去することができる。
【0036】
S14では、演算部32は、R−R間隔時系列データの補間を行なう。例えばステップ補間を行う場合、個々のR−R間隔の間は、関数値がそのR−R間隔の値に等しい一定値をとるような補間関数を用いる。続いて、演算部32は、2Hzの周波数で補間関数の値を再サンプリングする。これによって、等間隔でサンプリングされたR−R間隔時系列データX(t)を作成する。続いて、ディップ検出部18は、時系列データX(t)の上で、次の(式1)を−5から5秒の範囲の全てのTに対して満たす時点tをディップ候補の存在時刻として検出する(S16)。
(式1){X(t)+T/49≧X(t+T),T=−5,5}
(式1)は、時系列データX(t)を時間tに対するグラフとして描いたときに下方に頂点を有する放物線(H=T/49,ここでTは放物線の中心からの時間[秒],Hは放物線の頂点からの高さ[ミリ秒])が内接し得る変動部位をディップ候補の存在時刻として検出する。
【0037】
ディップ検出部18は、ディップ候補に内接する放物線の頂点が、前後10秒間に存在するどのディップ候補に内接する放物線の頂点の値よりも小さい場合に、当該ディップ候補をディップとして特定する。(S18)。
【0038】
ディップ深さ算出部20は、S18で検出された複数の局所的ディップにおいて、それぞれのディップ深さDを算出する。iは検出されたディップの序数である。図4は、ディップ深さDの算出処理のフローチャートを示す。ディップ深さ算出部20は、S18で検出されたそれぞれのディップについて、図4の処理(S50〜S56)を実行する。
【0039】
ディップ深さ算出部20は、ディップの中心時刻の前後25秒間の時系列データについて窓幅5秒の移動平均を算出する。得られた移動平均値の位相のずれを補正した時系列をXMV5(t)とする(S50)。ディップの時間軸方向の中央点(中心時刻)dにおいてX(d)を算出する(S54)。X(d)は、ディップの頂点付近の値である。ディップ深さ算出部20は、以下の(式2)によってディップ深さDを算出する(S56)。
(式2)D={max[XMV5(t),t=di−25,d]+max[XMV5(t),t=d,di+25]}/2−X(d
即ち、ディップ深さ算出部20は、ディップの中央点dの前の25秒間における移動平均 XMV5(t)の最大値と、中央点dの後の25秒間における移動平均 XMV5(t)の最大値を算出し、両者の平均値をベースラインの値として算出している。ディップ深さ算出部20は、ベースラインと頂点付近の値の差を算出することにより、ディップ深さDを算出する。
【0040】
図2のS22では、心拍変動指標算出部22は、R−R間隔時系列データから高速フーリエ変換によって高周波数成分(0.15〜0.45Hz)の振幅HFAMPを算出する。心拍変動指標算出部22は、テータに固有のディップの深さに関する閾値DDTHを、HFAMPの2.5倍の値とする(S24)。高周波数成分の振幅HFAMPはそれぞれのデータについて算出される。したがって、DDTHはデータに適応したデータ固有の閾値となる。
【0041】
i番目のディップをディップ、その深さをDと記載する。ディップ群特定部30は、ディップ深さDがデータ固有閾値DDTHよりも大きいか否かによってディップが有意なディップか否かを判断する(S25)。ここでYESの場合は、ディップ群特定部30はディップを有意なディップとして残す(S26)。S26で残されたディップ群が、有意ディップ群である。続いてディップ群特定部30はディップがR−R間隔時系列データの最後のディップであるか否かを判断する(S28)。ここでYESの場合は、図3のS30に進む。一方において、S28でNOの場合、ディップ群特定部30は、次のディップを特定し(S29)、S25に戻る。これにより、次のディップについて、ディップ深さDとデータ固有閾値DDTHが比較される。
【0042】
一方において、S25でNOの場合は、ディップ群特定部30はディップを除去する(S27)。続いてディップ群特定部30はディップがR−R間隔時系列データの最後のディップであるか否かを判断する(S28)。ここでYESの場合は、図3のS30に進む。一方において、S28でNOの場合、ディップ群特定部30は、次のディップを特定し(S29)、S25に戻る。
【0043】
図3のS30では、演算部32は、ディップの最低値からDの2/3の高さにおけるディップ幅Wを算出する。続いて、ディップ群特定部30は、各ディップについて以下の(式3)、(式4)、(式5)を全て満たすか否かを判断する(S31)。
(式3)abs(log(D/Di+1)<log(2.5)
(式4)abs(log(W/Wi+1)<log(2.5)
(式5)abs(log(W・Di+1/Wi+1・D)<log(2.5)
ここでは、ディップ群特定部30はディップの幅及び深さから、連続するディップ,ディップi+1の形状が類似しているか否かを判断する。S31でYESの場合は、ディップ群特定部30はディップ,ディップi+1を残す(S32)。S32で残ったディップ群が、類似ディップ群である。続いてディップ群特定部30はディップがR−R間隔時系列データの最後のディップであるか否かを判断する(S34)。ここでYESの場合は、S36に進む。一方において、S34でNOの場合、ディップ群特定部30は、次のディップを特定し(S35)、S31に戻る。S31では、ディップ群特定部30は、次のディップについて、類似性の有無を判断する。
【0044】
一方において、S31でNOの場合は、ディップ群特定部30はディップを除去する(S33)。続いてディップ群特定部30はディップがR−R間隔時系列データの最後のディップであるか否かを判断する(S34)。ここでYESの場合は、S36に進む。一方において、S34でNOの場合、ディップ群特定部30は、次のディップを特定し(S35)、S31に戻る。
【0045】
図5は、R−R間隔時系列データの模式図である。図5を用いて、ディップ群特定部30がS31の処理を終えた後に、どのディップを残すのかを判断する判断方法について詳しく説明する。ディップ〜ディップi+3は時系列に連続して出現している。Wはディップのディップ幅である。Dはディップのディップ深さである。まず、ディップ群特定部30は、ディップとディップi+1の組合せAの類似性を判断する。続いて、ディップi+1とディップi+2の組合せBの類似性を判断する。続いて、ディップi+2とディップi+3の組合せCの類似性を判断する。
【0046】
組合せAが類似性を満たす場合は、ディップ群特定部30はディップとディップi+1の両方を残す。続いて組合せBも類似性を満たす場合には、ディップ群特定部30はディップi+1とディップi+2を残す。このとき、ディップi+1は組合せA,Bの両方の処理において残されることになる。一方において、組合せBが類似性を満たさない場合には、ディップi+2のみが除去される。組合せAで一度残ったディップi+1は、組合せBの結果に関わらず、除去されることはない。
【0047】
組合せBが類似性を満たさない場合に、組合せCが類似性を満たす場合には、ディップ群特定部30はディップi+2とディップi+3を残す。即ち、ディップi+2は組合せBでは除去されたが、組合せCにおいて残ることができる。
【0048】
S36では、演算部32は、S34で残ったディップ群のうち、4つの連続するディップの中の隣接する2つのディップの時刻差I、Ii+1、Ii+2をそれぞれ算出する。時刻差Iは、ディップの中心時刻dと連続するディップi+1の中心時刻di+1との時刻差である。ディップ群特定部30は、以下の(式6)、(式7)、(式8)を全て満たす4つの連続するディップ群を残す(S38)。
(式6)25<I,Ii+1,Ii+2<120
(式7)(3−2I/S)(3−2Ii+1/S)(3−2Ii+2/S)>0.6
(式8)S=(I+Ii+1+Ii+2)/3
ここでは、ディップ群特定部30は、時刻差の大きさと、連続する時刻差の大きさのばらつきから、時刻差I、Ii+1、Ii+2を形成する4つのディップ群に周期性があるか否かを判断する。S38で残ったディップ群が、周期性ディップ群である。CVHR装置2では、S38で残った周期性ディップ群をCVHRとして検出する。
【0049】
図6は、R−R間隔時系列データの模式図である。図6を用いて、ディップ群特定部30がS38の処理において、どのディップ群を残すのかを判断する判断方法について詳しく説明する。ディップ〜ディップi+7は、時系列に連続して出現している。まず、ディップ群特定部30は、I〜Ii+2で構成される組合せAの周期性を判断する。続いて、ディップ群特定部30は、Ii+1〜Ii+3で構成される組合せBの周期性を判断する。ディップ群特定部30は、同様にディップを1つずつ時系列順にずらして判断し、Ii+4〜Ii+7で構成される組合せEの周期性を判断する。
【0050】
組合せAが周期性を満たす場合には、ディップ群特定部30はディップ〜ディップi+3を残す。続いて組合せBが周期性を満たす場合には、ディップ群特定部30はディップi+1〜ディップi+4を残す。このとき、ディップi+1〜ディップi+3は組合せA,Bの両方の処理において残されることになる。一方において、組合せBが周期性を満たさない場合には、組合せBを構成するディップi+1〜ディップi+4のうちディップi+4のみが除去される。組合せAで一度残ったディップi+1〜ディップi+3は、組合せBの結果に関わらず、除去されることはない。
【0051】
組合せBが周期性を満たさない場合に、組合せEが周期性を満たす場合には、ディップ群特定部30はディップi+4〜ディップi+7を全て残す。即ち、ディップi+4は組合せBでは除去されたが、組合せEにおいて残ることができる。また、組合せBと組合せEの間には図示しない組合せが存在しているが、これらの判断結果に関わらず、組合せEが周期性を満たす場合には、ディップi+4〜ディップi+7が残される。
【0052】
S40では、表示部38はS38で残ったディップ群に関するデータを画面に表示する。図7は、表示部38が表示するデータの一例を示す。チャート70は、R−R間隔時系列データを示す。棒グラフ72は、CVHR装置2によって特定されたディップ群の出現時刻を示している。チャート74は、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)のチャートを示す。チャート76は、呼吸による換気量のチャートを示す。
【0053】
表示部38は、特定したディップの出現時刻を、R−R間隔時系列データと合わせて表示してもよい。また、表示部38は、特定したディップの出現時刻を、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)や等の他の解析結果と合わせて表示してもよい。また、表示部38は、所定時間当りのCVHRの出現頻度や、ディップの出現頻度が最大となる短い時刻帯(例えば30分間)及びその間のディップの出現頻度や、ディップ深さとディップ幅の平均値及び標準偏差等を表示してもよい。
【0054】
ここで、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)による閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome,OSAS)の診断方法について説明する。SpOによってOSASを診断する方法は、信頼性の高い方法として知られている。この方法では、無呼吸状態では血液中の酸素濃度が低下することを利用している。即ち、チャート74における一定以上の深さ(例えば3%以上の低下)のディップの頻度が多いほど、OSASである可能性が高いということを示している。本実施例では、SpOと同等の解析結果が得られるということを、CVHRを正確に検出する検出感度および特異度の指標として設定している。
【0055】
上記に説明したCVHR検出装置2で実際に解析処理を行なった内容について説明する。図7,8は、異なるOSAS患者のR−R間隔時系列データの解析結果を示す。図7,8のR−R間隔時系列データのチャート70を比較すると、図7では大きなディップが周期的に出現しており、R−R間隔時系列データのチャート70を目視することによってもCVHRを判断しやすい。一方、図8では、大きいディップが少なく、またディップ深さにもばらつきがあるために、R−R間隔時系列データのチャート70を目視することによって、CVHRを判断することは困難である。
【0056】
本実施例のCVHR検出装置2の解析結果は、棒グラフ72に示されている。図7では、R−R間隔時系列データのチャート70において大きいディップが出現している時刻と同時刻に、棒グラフ72において棒グラフが出現している。また、SpOのチャート74でディップが出現している時刻と同じ時刻に、棒グラフ72において棒グラフが出現している。このことから、CVHR検出装置2では、R−R間隔時系列データのチャート70を目視することで判別できるようなCVHRを確実に検出することができるということが言える。また、CVHR検出装置2では、SpOの解析結果と同等の解析結果を得られるということが言える。
【0057】
図8では、R−R間隔時系列データのチャート70を目視することによってCVHRを判別することは困難であるが、SpOのチャート74でディップが出現している。棒グラフ72では、SpOのチャート74でディップが出現している時刻と同時刻に、棒グラフが出現している。このことから、CVHR検出装置2では、R−R間隔時系列データのチャート70を目視することでは判別できないようなCVHRでも、SpOと同等の検出感度でCVHRを検出することができるということが言える。
【0058】
SpOが所定量低下した1時間当りの回数(即ちチャート74のディップの数)を、酸素飽和度低下指数(oxygen desaturation index,ODI)と呼ぶ。特に、SpOが3%以上低下した1時間あたりの回数を3%ODIと呼ぶ。3%ODIが15/hr以上である被験者は、中程度以上のOSASである可能性が高いことが知られている。
【0059】
図9は、CVHR検出装置2の解析結果とSpOの解析結果との相関図を示す。一晩の就床中のR−R間隔時系列データに基づいて、CVHR検出装置2を用いて1時間あたりのCVHRの頻度(縦軸)を算出した。横軸は、同条件でSpOを測定したときの、1時間あたりの3%ODIを示している。被験者の条件は、OSAS患者とOSASでない者を含む62人である。3%ODIが15/hrより大きい被験者は36名(58%)である。1プロットが、1人の被験者のデータを示している。
【0060】
CVHR検出装置2で検出されたCVHRの頻度(回/hr)と3%ODIとの相関係数rは0.90であり、説明率rは81%である。これによって、CVHR検出装置2の解析結果とSpOの解析結果は高い相関を示すことが分かる。CVHR検出装置2は、正確にCVHRを検出することができる。
【0061】
ここで、S22〜29の処理を行なってS26で有意ディップ群を特定する処理をデータ適応性の検査と呼ぶ。S30〜S35の処理を行なってS32で類似性を有するディップ群を特定する処理を類似性の検査と呼ぶ。S36の処理を行なってS38で周期性を有するディップ群を特定する処理を周期性の検査と呼ぶ。CVHR検出装置2では、データ適応性と類似性と周期性の3項目の検査を達成したディップ群をCVHRとして検出している。3項目の検査のうちの1項目あるいは2項目の検査だけでも正確にCVHRを検出できるか否かについて、実際に解析を行なって検討を行なった。
【0062】
図10は、各検査項目の組合せテーブル100を示している。Full86は、データ適応性の検査80と類似性の検査82と周期性の検査84の3項目全てを採用する場合の組合せを示す。Fixed DT(44ms)88は、類似性の検査82と周期性の検査84を採用する場合の組合せを示す。このとき、データ固有閾値の換わりに、固定値として44msを用いてS26の処理を行なった。Simi off90は、データ適応性の検査80と周期性の検査84を採用する場合の組合せを示す。CL off92は、データ適応性の検査80と類似性の検査82を採用する場合の組合せを示す。
【0063】
ADT only94は、データ適応性の検査80のみを採用する場合の組合せを示す。Simi only96は、類似性の検査82のみを採用する場合の組合せを示す。CL only98は、周期性の検査84のみを採用する場合の組合せを示す。
【0064】
図11は、図10に示した各組合せにおける、CVHR検出装置2の解析結果とSpOの解析結果との相関図を示す。解析条件は図9と同様であるので、詳しい説明を省略する。図10の相関図から、FullとSimi offにおいて、80%に近い説明率rが得られた。このことから、FullとSimi offでは、CVHR検出装置2の解析結果がSpOの解析結果と高い相関を示すことが分かる。
【0065】
図12は、OSAS検出能力テーブル120を示す。図12は、図10で示した各組合せにおける、感度110と特異度112と陽性的中率114と陰性的中率116と一致率118を示す。感度110と特異度112と陽性的中率114と陰性的中率116と一致率118は、それぞれCVHR検出装置2の検出感度をSpOの解析結果と比較して評価する項目である。各評価項目は、図11の解析結果から算出している。ここで、3%ODIが15/hrよりも大きい被験者を、「真のOSAS患者」と定義する。3%ODIが15/hr以下である被験者を「偽のOSAS患者」と定義する。CVHR検出装置2では、CVHRの出現回数が15/hrよりも大きい被験者をOSASであると判断する。CVHR検出装置2では、CVHRの出現回数が15/hr以下である被験者をOSASでないと判断する。
【0066】
感度110は、真のOSAS患者数に対するCVHR検出装置2によってOSASであると判断された被験者数の割合である。感度110の値が高いほど、検出感度が高いということが言える。特異度112は、偽のOSAS患者に対する、CVHR検出装置2によってOSASでないと判断された被験者数の割合である。特異度が高いほど、誤検出が低いということを示す。
【0067】
陽性的中率114は、CVHR検出装置2によってOSASであると判断された被験者数に含まれる真のOSAS患者の割合を示す。陽性的中率が高いほど、検出感度が高いということを示す。陰性的中率116は、CVHR検出装置2によってOSASでないと判断された被験者数に含まれる偽のOSAS患者の割合を示す。図12の結果によると、全ての評価項目110〜118において、FullとSimi offで、高い値が得られている。図11,12の解析結果から、データ適応性と周期性の2項目のみ(即ち、Simi off)でも、正確にCVHRを検出することができる。データ適応性と周期性に類似性の解析を追加することによって(即ちFullの組合せ)、CVHR検出の正確性をさらに向上させることができる。
【0068】
本実施例のCVHR検出装置2では、R−R間隔時系列データの高周波数成分の振幅からデータ固有の値としてディップ深さに関する閾値を算出する。CVHR検出装置2は、データ固有のディップ深さ閾値DDTHよりも大きいディップ深さを有するディップ群を有意ディップ群として識別することができる。さらに、CVHR検出装置2は、ディップの幅及び深さから、形状に類似性を有する類似ディップ群を識別することができる。さらに、CVHR検出装置2は、連続するディップの発生時刻の時刻差から、周期性を有する周期性ディップ群を識別することができる。CVHR検出装置2は、データ適応性と類似性と周期性を有するディップ群をCVHRとして検出することができる。CVHR検出装置2によって得られた解析結果は、SpOの解析結果との相関が高く、OSASの検出に用いた場合も、検出感度および特異度が共に高い。このために、CVHR検出装置2では、正確にCVHRを検出することができる。
【0069】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】CVHR検出装置の構成を示すブロック図を示す。
【図2】CVHR検出処理のフローチャートを示す。
【図3】図2の続きのフローチャートを示す。
【図4】ディップ深さ算出処理のフローチャートを示す。
【図5】R−R間隔時系列データを模式的に示す。
【図6】R−R間隔時系列データを模式的に示す。
【図7】CVHR検出装置の解析結果の一例を示す。
【図8】CVHR検出装置の解析結果の一例を示す。
【図9】CVHR検出装置の解析結果とSpOの解析結果との相関図を示す。
【図10】CVHR検出装置の検査項目の組合せテーブルを示す。
【図11】CVHR検出装置の解析結果とSpOの解析結果との相関図を示す。
【図12】CVHR検出装置のOSAS検出能力を示す。
【符号の説明】
【0071】
2:CVHR検出装置
16:R−R間隔時系列データ入力部
18:ディップ検出部
20:ディップ深さ算出部
22:心拍変動指標演算部
24:個別閾値決定処理部
26:ディップ幅算出部
28:ディップ間隔算出部
30:ディップ群特定部
32:その他の演算部
34:記憶部
36:操作部
38:表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠呼吸障害の無呼吸発作又は低呼吸発作に伴うCVHRの検出装置であり、
心拍又は脈拍の拍間隔の時系列データもしくは心拍又は脈拍の拍頻度の時系列データを入力する時系列データ入力手段と、
前記時系列データから複数の局所的ピークを検出するピーク検出手段と、
前記複数の局所的ピークのそれぞれの高さを算出するピーク高さ算出手段と、
前記時系列データから自律神経活動を反映する心拍変動指標を算出する心拍変動指標算出手段と、
前記心拍変動指標から、それぞれの前記時系列データに固有の値として、前記ピーク高さに関する閾値を決定するピーク高さ閾値決定手段と、
前記複数の局所的ピークの中から、前記ピーク高さ閾値より大きい高さを有しており、かつ、周期性を持って連続しているピーク群を特定するピーク群特定手段と、
前記ピーク群特定手段によって特定されたピーク群の頻度および時間的分布を含む解析結果を出力する解析結果出力手段と
を備えるCVHR検出装置。
【請求項2】
前記心拍変動指標算出手段は、少なくとも心拍変動の0.15〜0.45Hzの周波数帯に含まれる変動のパワーもしくは振幅を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のCVHR検出装置。
【請求項3】
前記心拍変動指標算出手段は、少なくとも連続する拍周期もしくは拍頻度の差分値の自乗平均を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のCVHR検出装置。
【請求項4】
前記ピーク群特定手段は、前記複数の局所的ピークの中から前記ピーク高さ閾値より大きい高さを有しているピーク群を特定し、そのピーク群の中から前記周期性を持って連続しているピーク群を特定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のCVHR検出装置。
【請求項5】
前記ピーク群特定手段は、連続している2つのピークの間の時刻差が所定範囲内に存在する連続している3つ以上のピークを特定することによって、前記周期性を持って連続しているピーク群を特定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のCVHR検出装置。
【請求項6】
前記ピーク群特定手段は、前記複数の局所的ピークの中から、前記ピーク高さ閾値より大きい高さを有しており、類似の形状を有しており、かつ、前記周期性を持って連続しているピーク群を特定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のCVHR検出装置。
【請求項7】
前記ピーク群特定手段は、前記複数の局所的ピークの中から前記ピーク高さ閾値より大きい高さを有しているピーク群を特定し、そのピーク群の中から前記類似の形状を有しているピーク群を特定し、そのピーク群の中から前記周期性を持って連続しているピーク群を特定する
ことを特徴とする請求項6に記載のCVHR検出装置。
【請求項8】
睡眠呼吸障害の無呼吸発作又は低呼吸発作に伴うCVHRを検出するためのコンピュータプログラムであり、
心拍又は脈拍の拍間隔の時系列データもしくは心拍又は脈拍の拍頻度時系列データを入力する時系列データ入力処理と、
前記時系列データから複数の局所的ピークを検出するピーク検出処理と、
前記複数の局所的ピークのそれぞれの高さを算出するピーク高さ算出処理と、
前記時系列データから自律神経活動を反映する心拍変動指標を算出する心拍変動指標算出処理と、
前記心拍変動指標から、それぞれの前記時系列データに固有の値として、前記ピーク高さに関する閾値を決定するピーク高さ閾値決定処理と、
前記複数の局所的ピークの中から、前記ピーク高さ閾値より大きい高さを有しており、かつ、周期性を持って連続しているピーク群を特定するピーク群特定処理と、
前記ピーク群特定手段によって特定されたピーク群の頻度および時間的分布を含む解析結果を出力する解析結果出力処理と
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−51387(P2010−51387A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217131(P2008−217131)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(000132194)株式会社スズケン (12)
【Fターム(参考)】