説明

石油化学製品廃棄物の油化装置

【課題】種々の石油化学製品廃棄物から再利用可能な精製油、ガス及び炭化品を生成する装置を提供すること。
【解決手段】石油化学製品廃棄物の油化装置10は、主として、熱風発生炉30、熱分解機40、触媒蒸留器50から構成される。原料受入れホッパー20に石油化学製品廃棄物が供給され、熱風発生炉30により加熱槽の伝熱面が加熱された熱分解機40において、廃棄物がまず溶解油となり、溶解油が熱で分解され、ガス及び炭化品が生成される。ガスは、触媒蒸留器50内で油と非凝縮性ガスであるプロパンガス等に蒸留される。プロパンガス等は熱風発生炉30に送られ、装置の燃料として利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃油、高粘度油、及び、使用済みプラスチック製包装容器、廃タイヤのような、種々の石油化学製品廃棄物から、精製油、ガス、及び炭化品を分解して生成するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油危機以降、プラスチックの原料が石油であることに着目して、プラスチックを熱分解し、液体燃料を生成するリサイクルが進められるようになった。
そこで、従来技術として、特許文献1及び2に示す発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−235562号公報
【特許文献2】特開2002−294252号公報
【0004】
特許文献1及び2の発明は、いずれも廃プラスチックを熱分解し、油を回収するための装置である。
しかし、特許文献1の発明は、都市ごみから分別されたプラスチックを多く含むゴミを熱分解の対象とし、攪拌しながら熱分解を行う装置であり、特許文献2の発明は、家電製品や包装等に利用された後のプラスチックの廃棄物を熱分解の対象とし、熱分解槽内の溶融液と攪拌プロペラにより、熱分解を行う装置である。従って、いずれも用途が限定されている上に、熱分解の効率が悪く、時間がかかる、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、石油枯渇の危機が叫ばれるようになり、石油燃料の代替品として、大豆、小麦、トウモロコシ、サトウキビ等の穀物を原料とするバイオ燃料が注目されているが、食料としての穀物を使用するため、穀物の価格の上昇と品不足を招いている。バイオ燃料の原料として大豆の需要が高まったことにより、大豆畑を増やすための土地として、アマゾンの熱帯雨林が伐採されているため、地球温暖化の原因にもなっている。
【0006】
また、近年活発化するリサイクルの一環として、廃自動車や廃家電等のシュレッダーダスト、廃プラスチック、発泡スチロール、廃タイヤ等の石油化学製品廃棄物を焼却し、燃料として再利用する方法もとられている。しかし、石油化学製品廃棄物を燃焼させることで、二酸化炭素の排出量が増加し、焼却時に大量のダイオキシンが発生する恐れがあるばかりでなく、残滓を埋め立てにより処分する場合は、その場所の地質汚染を招くこととなり、資源を有効活用した結果が環境破壊につながる、という矛盾が生じている。
【0007】
さらに、機械を使用する多くの工場から排出される廃油や高粘度油も、埋め立てて処分することができないため、石油化学製品廃棄物と同様に、再利用できるように処理及び加工することが望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、廃油、高粘度油、廃自動車や廃家電等のシュレッダーダスト、廃プラスチック、発泡スチロールや廃タイヤ等の石油化学製品廃棄物から再利用可能な精製油、ガス、炭化品を生成する装置を提供し、二次公害の原因となっていた石油化学製品廃棄物を、環境破壊をせずに再利用できるようにすべく、液体燃料、ガス及び炭化品に変える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、投入される石油化学製品廃棄物を分解する熱分解機であって、該熱分解機は円筒状の加熱槽の中心に設けられた回転軸に取付けられた複数の基羽根が回転することによって前記石油化学製品廃棄物が該基羽根に掬い上げられ、遠心力で前記加熱槽内周の伝熱面に押付けられるようにしたものであり、且つ、加熱作動中は内部の気密状態が維持されるように弁機構を具えた前記熱分解機と、 前記熱分解機の伝熱面を加熱する熱風発生炉と、
前記加熱槽で前記石油化学製品廃棄物の溶解油から分解されたガスを、油と非凝縮性ガスに蒸留する触媒蒸留器を具え、
前記加熱槽の残存物から炭化品を生成することを特徴とする石油化学製品廃棄物の油化装置により、前記課題を解決した。
また、触媒蒸留器で蒸留された非凝縮性ガスを、熱風発生炉の燃料として再利用することで、二酸化炭素の排出量を削減することができる上に、燃料のコストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、廃油、高粘度油及び廃自動車、廃家電等のシュレッダーダスト、廃プラスチック、発泡スチロールや廃タイヤ等の石油化学製品廃棄物から再利用可能、且つ、無害な油、ガス、炭化品を生成することができるため、石油化学製品廃棄物を燃料として再利用したことにより発生する二次公害を防止することができる。生成された精製油及び炭化品は燃料として、ガスは本発明の装置の燃料として再利用される。また、廃自動車や廃家電等のシュレッダーダスト、廃プラスチック、発泡スチロールや廃タイヤ等多種類に及ぶ石油化学製品廃棄物を選別、洗浄せずに、再利用可能、且つ、環境に無害な精製油、ガス、炭化品を生成することができる上に、石油化学製品を焼却した場合に比べて、二酸化炭素の排出量を約95%削減でき、地球温暖化防止に貢献する。
また、必要な装置は、基本的に、熱風発生炉、熱分解機、触媒蒸留器の3点でよく、その他の装置は適宜追加するだけでよいため、油化及び炭化の対象が限定されず、汎用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の油化装置の基本的概要図。
【図2】本発明の第1実施形態の油化装置の第1実施形態の概要フロー図。
【図3】本発明の第2実施形態の油化装置の概要フロー図。
【図4】本発明の第3実施形態の油化装置の概要フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面1〜4を参照して、本発明の実施形態を説明する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の油化装置の基本的概要図、図2は、本発明の油化装置の第1実施形態の概要フロー図、図2は、本発明の油化装置の第2実施形態の概要フロー図、図3は、本発明の油化装置の第3実施形態の概要フロー図である。
まず、図1に示す油化装置の基本的概要図について説明する。
本発明の装置10は、主として、熱風発生炉30、熱分解機40、触媒蒸留器50から構成される。原料受入れホッパー20に石油化学製品廃棄物が供給され、熱風発生炉30により加熱槽の伝熱面が加熱された熱分解機40において、廃棄物がまず溶解油となり、溶解油が熱で分解され、ガス及び炭化品が生成される。ガスは、触媒蒸留器50内で油と非凝縮性ガスであるプロパンガス等に蒸留される。プロパンガス等は、熱風発生炉30に送られ、装置の燃料として利用される。
なお、「油化」とは、液状である廃油及び高粘度油から油を精製すること、及び固形物である石油化学製品廃棄物を分解し、油を精製することを言う。
【0013】
次に、図2に示す、使用済みプラスチック製包装容器や廃タイヤのような、固形物である石油化学製品廃棄物を油化の対象とした第1実施形態の油化装置10Aについて説明する。
適宜手段で回収された石油化学製品廃棄物(以下、「廃棄物」と略称することがある。)は原料受入れホッパー20に投入された後、熱分解機40により分解可能な大きさにするため、破砕機22により粉砕される。なお、廃棄物の種類が発泡スチロール等に限定されている等、粉砕する必要がない場合は、破砕機22を設けなくてもよい。
【0014】
粉砕された廃棄物に含まれる酸を中和するため、ホッパー24の中和剤としての触媒が廃棄物に添加される。この触媒には、例えば、人工ゼオライトを用いるのが好適である。廃棄物が供給される熱分解機40は酸素の混入による燃焼を防ぐため、その内部は、無酸素状態(1%以下)に保たれている。無酸素状態(1%以下)にするには、作動開始時に、熱分解機40に窒素を入れることで内部の空気を外部に放出し、空気から窒素への置換を行う。また、熱分解機40に外部から空気が混入しないように、各機器の配管の接続部には弁機構として、バルブ21がある。熱分解機40により、供給された廃棄物の分解が行われる。
【0015】
ここで、熱分解機40には、例えば、特開平10−185138号に開示されているものが使用される。熱分解機40は、円筒状の加熱槽41を有し、熱風発生炉30からの熱風により加熱される外周ジャケット42、伝熱面46、廃棄物を回転させて伝熱面46に遠心力で押付けるため、加熱槽41の中心の回転軸43に取付けられた複数の基羽根44を具える。外周ジャケット42は熱風発生炉30から送られる約600℃の熱風により加熱され、伝熱面46の温度は約450℃となる。
【0016】
熱分解機40の最大の特長は、本体中央下部で、回転軸43に等複数の基羽根44にある。これが回転することにより、廃棄物は伝熱面46に沿って掬い上げられると同時に、薄膜状に押付けられる。その際、遠心力の働きによって、より重いものが優先的に伝熱面46に押付けられる。これにより、廃棄物は急激に加熱され、溶解する。基羽根44により掬い上げられ、薄膜状となった廃棄物の内側の面45も、高温の雰囲気にさらされる。このようにして溶解した油から、分解により、ガスが発生する。熱分解機40内部に残存する固形物は、無酸素状態で、炭化される。
【0017】
投入された廃棄物は、複数の基羽根44により約450℃の伝熱面46に沿って掬い上げられると同時に、薄膜状に押付けられることで、即時に溶解するため、熱効率がよく、溶解に時間がかからない。
さらに、熱分解機40は無酸素状態(1%以下)にしているため、ポリ塩化ビニル等を400〜450℃に加熱しても、全く酸化反応が起きず、ポリ塩化ビニルに結合している塩素や、ベンゼンに結合している水素等が別々に分離ガス化される。この際、ダイオキシンは発生しない。これにより、ダイオキシンの発生要因となり得る廃棄物を分別する必要がないため、従来問題とされていた廃棄物の分別の手間を解消できる。
【0018】
熱分解機40内部で粒状になって炭化された固形物は、冷却機60に搬送される。熱分解機40と冷却機60は、熱分解機40に設置した排出管48、バルブ21、冷却機60に設置した導入管62を介して接続されている。排出管48及び導入管62の内部にはスクリューコンベアが設けられているため、熱分解機40に固形物が逆流することなく、炭化された固形物を冷却機60まで搬送することができる。
【0019】
冷却機60は、基羽根66及び冷却面68を具え、その構造は熱分解機40と同様である。冷却面は、外周ジャケット64に送られる冷却水により冷却され、基羽根の回転により、炭化された固形物が冷却面66に沿って掬い上げられると同時に、薄膜状に押付けられることで、急速に冷却され、炭化品が生成される。生成された炭化品には、ダイオキシン等の有害物質は含まれておらず、燃料として再利用される。この炭化品の主たる成分は、カーボンである。
【0020】
一方、熱分解機40において溶解した廃棄物の分解により発生したガスは、熱分解機40と配管56により接続されている触媒蒸留器50に導かれる。触媒蒸留器50内で、ガスは、油とプロパンガス等に蒸留される。
【0021】
プロパンガス等は、熱風発生炉30に送られ、燃料として使用される。蒸留により精製された油は、触媒蒸留器50から遠心分離機52に送られる。遠心分離機52は油中の固形沈殿物除去のために用いる。さらに、この精製油は、水分除去のため、蒸発缶54に送られる。また、熱分解機40に廃棄物が供給される前に追加された触媒により、熱分解時に塩素の生成が抑制されるため、精製された油は中性である。このため、分離された精製油は、ディーゼルエンジンにも使用できる等級のものである。
【0022】
次に、図3に示す、廃油を分解の対象とした第2実施形態の油化装置10Bについて説明する。
廃油の代表的なものが廃潤滑油で、各種機械類の部品の潤滑のため、使用済みとなったもので、機械部品の摩耗粉、水分、有機、無機の固形物等を含むものである。
本実施形態においては、遠心分離機26を設け、廃油に含まれる固形沈殿物と油を分離した後、水分除去のため、蒸発缶28に導入する。蒸発缶28の構造は、多管式の間接加熱型で、加熱が行なわれる。その後、熱分解機40により気化及び炭化を行う。
熱分解機40により、炭化された廃油成分は、さらに、炭化機70に供給される。熱分解機40の後に炭化機70を使用する理由は、熱分解機40で気化された残渣中の油分を完全に除去するためである。炭化機70において残渣の油分除去が行われ、冷却機76により炭化品が生成される。熱分解機40後の工程については、前述したとおりであるから、説明は省略する。
【0023】
次に、図4に示す、高粘度油を分解の対象とした第3実施形態の油化装置10Cについて説明する。
高粘度油は、原油が精製された後に残る残存物や、石油タンク等に沈殿する物質で、粘度が高く、遠心分離による処理が不可能なものである。
本実施形態においては、油分を取出すため、乾燥蒸発機29を設け、高粘度油を乾燥させてから、熱分解機40により炭化及び気化を行う。乾燥蒸発機29の構造は、例えば、縦型回転掻上式であり、ここで水分除去が行なわれる。
その後の工程については、第2実施形態と同様のため、説明は省略する。但し、高粘度油からは、沸点の差を利用して冷却することで、重油及び軽油に分留が可能なため、触媒蒸留器50の構造を塔状にするのが好適であり、また、触媒蒸留器50にコンデンサ80を接続して、ここから、軽質油を得ることができる。
【0024】
このように、本発明によれば、廃油、高粘度油を含む石油化学製品廃棄物から再利用可能かつ無害な精製油、ガス及び炭化品を生成することができるため、廃棄物を燃料として再利用したことにより生じる二次公害を防ぐことができる。生成された精製油及び炭化品はディーゼルエンジン等の燃料として、また、ガスは本発明における加熱源として再利用されるため、石油化学製品を焼却した場合に比べて、二酸化炭素の排出量を約95%削減でき、地球温暖化防止に貢献する。
また、廃棄物等を分解する熱分解機は、基羽根により、伝熱面に沿って掬い上げられると同時に、薄膜状に押付けられることで、効率良く、廃棄物を溶解するため、熱効率がよく、時間がかからない。しかも、その内部は、無酸素状態(1%以下)に保持されているため、熱分解機内部で廃棄物が加熱により酸化することがなく、ポリ塩化ビニル等が混在しても、ダイオキシンが殆ど発生しない。従って、シュレッダーダスト等を油化の対象とした場合は、粉砕して酸を中和するための触媒とともに熱分解機に投入すればよく、従来不可能とされていた、廃自動車や廃家電等のシュレッダーダスト、廃プラスチック、発泡スチロールや廃タイヤ等から油、ガス、炭化品の生成を、廃棄物の分別をせずに実現することができる、という顕著な効果を奏する。
さらに、装置の構成に必要な装置は、基本的に、熱風発生炉、熱分解機、触媒蒸留器の3点でよく、分解の対象となる廃棄物により、構成を変えることができるため、汎用性がある。
【符号の説明】
【0025】
10,10A,10B,10C: 石油化学製品廃棄物の油化装置
21: バルブ(弁機構)
26: 遠心分離機
28: 蒸発缶
29: 乾燥蒸発機
30: 熱風発生炉
40: 熱分解機
41: 加熱槽
43: 回転軸
44: 基羽根
46: 伝熱面
50: 触媒蒸留器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入される石油化学製品廃棄物を分解する熱分解機であって、該熱分解機は円筒状の加熱槽の中心に設けられた回転軸に取付けられた複数の基羽根が回転することによって前記石油化学製品廃棄物が該基羽根に掬い上げられ、遠心力で前記加熱槽内周の伝熱面に押付けられるようにしたものであり、且つ、加熱作動中は内部の気密状態が維持されるように弁機構を具えた前記熱分解機と、
前記熱分解機の伝熱面を加熱する熱風発生炉と、
前記加熱槽で前記石油化学製品廃棄物の溶解油から分解されたガスを、油と非凝縮性ガスに蒸留する触媒蒸留器を具え、
前記加熱槽の残存物から炭化品を生成することを特徴とする、
石油化学製品廃棄物の油化装置。
【請求項2】
前記触媒蒸留器で発生する非凝縮性ガスを前記熱風発生炉に導入する、請求項1の石油化学製品廃棄物の油化装置。
【請求項3】
前記石油化学製品廃棄物が固形物で、前記加熱槽への投入前に中和剤としての触媒が添加される、請求項1又は2の石油化学製品廃棄物の油化装置。
【請求項4】
前記石油化学製品廃棄物が廃油で、該廃油が、遠心分離機と蒸発缶を順次経由した後、前記加熱槽に投入される、請求項1又は2の石油化学製品廃棄物の油化装置。
【請求項5】
前記石油化学製品廃棄物が高粘度油で、該高粘度油が乾燥蒸発機を経由して、前記加熱槽に投入される、請求項1又は2の石油化学製品廃棄物の油化装置。
【請求項6】
前記熱分解機の後に、該熱分解機と同一構造の炭化機をさらに具えた、請求項4又は5の石油化学製品廃棄物の油化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−6528(P2011−6528A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149360(P2009−149360)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(391060199)
【Fターム(参考)】