説明

研削加工装置及び方法

【課題】カップ砥石の摩耗やワークの形状を簡易に監視しつつ加工を行うことができる研削加工装置及び方法を提供すること。
【解決手段】砥石部材20に付随して設けられた付随センサ51が研削対象10の形状に関する情報を測定するので、研削対象10を第1ホルダ37から外さずに測定することができ、加工の途中段階で研削対象10の加工状態を確認することができる。これにより、第2ホルダ37等が変位しても、研削対象10の形状のズレ又はこれに相当する砥石部材20の摩耗を監視しつつ研削対象10の加工を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の研磨又は研削のために用いられる研削加工装置及び研削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子に球面を創成するための研削方法として、研削ホイールとワークとを回転駆動させつつ、研削ホイールをワークに対して当接させて切り込むように移動させ、かかる切り込みの終了後に、研削ホイールを創成した球面に平行な方向に揺動させるものがある(特許文献1参照)。
【0003】
また、カップ砥石をワークの回転軸に対して傾斜状態に固定しカップ砥石をその回転軸に沿って前進させることで研削するものであるが、加工個数と深さ誤差との関係からカップ砥石の摩耗速度を算出し、摩耗速度に対応する補正量だけカップ砥石の軸方向の送り停止位置への加算を行うものがある(特許文献2参照)。
【0004】
研削ホイールに相当するカップ砥石をワークの回転軸(Z軸)に対して傾斜状態に固定しワークをその回転軸に沿って前進させることでその研削を行うものであって、加工時間等に基づいてカップ砥石の摩耗量を予測し、摩耗量に対応する補正量だけカップ砥石をXZ面内で移動させるものがある(特許文献3参照)。
【0005】
同様に、カップ砥石をワークの回転軸に対して傾斜状態に固定しワークをその回転軸に沿って前進させることでその研削を行うものであって、カップ砥石の軸方向摩耗を検出し、軸方向摩耗を相殺するようにカップ砥石を軸心方向に移動させるものがある(特許文献4参照)。
【0006】
その他、光学素子を加工機に保持したままの状態で測定するため、球面計の測定端子を加工中の光学素子に対向配置可能にする研削加工方法があり、この方法では、球面計の出力をカーブジェネレータのコンローラに接続することで、自動計測及び自動補正を行っている(特許文献5参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、研削ホイールの揺動によってワークの仕上げ精度を簡易に高めることができるが、研削ホイールの摩耗について考慮されておらず、研削ホイールの摩耗に伴って加工精度が経時的に劣化する。
【0008】
また、上記特許文献2、3の方法では、カップ砥石の摩耗量を予測するが、リアルタイムで摩耗の監視を行ってワークの加工状態を修正することができない。
【0009】
上記特許文献4の方法では、カップ砥石の摩耗を加工途中や加工終了直後に監視することができるが、カップ砥石を揺動させる動作を前提としていない。また、カップ砥石の摩耗を監視するだけでは、必ずしもワークの加工精度を監視することにはならない。
【0010】
上記特許文献5の方法では、ワークの加工状態を加工途中や加工終了直後に監視することができるが、砥石の摩耗に原因する精度低下に対処する手法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平07−186032号公報
【特許文献2】特開平01−301048号公報
【特許文献3】特開2009−90414号公報
【特許文献4】特開平05−192856号公報
【特許文献5】特開平03−111702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記背景技術の課題に鑑みてなされたものであり、カップ砥石の摩耗やワークの形状を簡易に監視しつつ加工を行うことができる研削加工装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る研削加工装置は、研削対象を第1ホルダに支持して第1回転軸のまわりに回転させる第1駆動機構と、砥石部材を第2ホルダに支持して第2回転軸のまわりに回転させる第2駆動機構と、砥石部材に付随して設けられ研削対象の形状に関する情報を測定する付随センサと、第1駆動機構と第2駆動機構との動作を制御して、砥石部材によって研削対象に球状面の研削加工を行わせる制御部とを備える。
【0014】
上記研削加工装置では、砥石部材に付随して設けられた付随センサが研削対象の形状に関する情報を測定するので、研削対象を第1ホルダから外さずに測定することができ、加工の途中段階で研削対象の加工状態を確認することができる。これにより、第2ホルダが変位しても、研削対象の形状のズレ又はこれに相当する砥石部材の摩耗を監視しつつ研削対象の加工を行うことができる。
【0015】
本発明の具体的な側面では、上記研削加工装置において、第2回転軸を第1回転軸に対して旋回させる旋回機構と、砥石部材を第2回転軸に沿って先端側に移動させる送り込みを行う送込機構とをさらに備える。この場合、旋回中心を曲率中心に一致させれば、送込機構による送り込み量の調整によって、砥石部材の摩耗を補償した加工を簡易に実行することができる。
【0016】
本発明の別の側面では、制御部が、砥石部材の摩耗を補償するように送込機構に砥石部材の送り込みを行わせる。この場合、制御部によって砥石部材の摩耗の自動的な補償が可能になる。
【0017】
本発明のさらに別の側面では、付随センサが、研削対象の加工表面に当接することで当該加工表面の位置を検出し、制御部が、付随センサの検出した位置に基づいて研削対象の加工表面の曲率及び研削対象の中心厚みの少なくとも一方が目標値からずれているか否かを監視する。この場合、研削対象の加工表面を直接的に計測することができ、或いは砥石部材の摩耗を間接的に計測することができ、加工表面の位置が目標値からずれている場合には、第2駆動機構等の動作を適宜調整して、研削対象を目標の形状に近づけるように動作させることができる。
【0018】
本発明のさらに別の側面では、制御部が、研削対象の加工表面の曲率及び研削対象の中心厚みの少なくとも一方が目標値から所定の許容範囲以上にずれた場合、送込機構による砥石部材の送り込みの基準値を変更する。この場合、砥石部材の摩耗を補償するような砥石部材の送り込みが可能になり、砥石部材の摩耗に関わらず研削対象を高精度で加工することができる。
【0019】
本発明のさらに別の側面では、砥石部材が、円形の加工部を先端に有する円筒状の部材である。この場合、砥石部材による加工を簡易に高精度化することができる。なお、付随センサは、砥石部材の内側に配置される。
【0020】
本発明のさらに別の側面では、付随センサが、砥石部材の中心軸に沿って形成された貫通孔に挿通されるとともに研削対象の加工表面に付勢可能なプローブを有し、砥石部材の中心軸に沿ったプローブの先端位置を検出する。この場合、付随センサを簡易な構造とすることができ、加工表面の曲率に関する情報を検出でき、或いは研削対象の中心厚みを検出することができる。
【0021】
上記課題を解決するため、本発明に係る研削加工方法は、研削対象を第1ホルダに支持して第1回転軸のまわりに回転させつつ、砥石部材を第2ホルダに支持して第2回転軸のまわりに回転させることにより、砥石部材によって研削対象に球状面の研削を行わせる研削加工方法であって、砥石部材に付随して設けられた付随センサが測定した研削対象の形状に関する情報に基づいて、砥石部材及び研削対象の相対的な配置を調整する。
【0022】
上記研削加工方法では、砥石部材に付随して設けられた付随センサが計測する研削対象の形状に関する情報に基づいて、砥石部材及び研削対象の相対的な配置を調整するので、第2ホルダが変位しても、砥石部材の摩耗の影響を抑制しつつ、研削対象の形状のズレを低減した精密な加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係る加工装置の構造と、これを用いた光学素子の研削とを概念的に説明するブロック図である。
【図2】図1の加工装置のうち砥石部材や付随センサを説明する拡大断面図である。
【図3】(A)及び(B)は、図2の付随センサによって検出される情報を説明する図である。
【図4】図1の加工装置を用いた光学素子の作製を概念的に説明するフローチャートである。
【図5】図4の動作の変形例を説明するフローチャートである。
【図6】図4の動作の別の変形例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る光学素子の研削加工装置及びこれを用いた研削加工方法について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に示すように、光学素子の研削加工装置100は、カーブジェネレータ型の駆動機構を有する駆動装置30と、駆動装置30に研削液を供給する研削液供給部40と、研削対象10の加工状態を測定する測定部50と、駆動装置30の動作を数値的に制御する制御部70とを備える。
【0026】
駆動装置30は、台座31上に第1ステージ32と第2ステージ33とを載置した構造を有する。ここで、第1ステージ32は、第1可動部35を支持しており、この第1可動部35は、第1ホルダ37を介してレンズ等の光学素子となるべき研削対象10を間接的に支持している。この第1ステージ32は、研削対象10を支持する第1可動部35を、例えば水平なZ軸方向に沿った所望の位置に移動させることができる。また、第1ステージ32は、研削対象10を支持する第1可動部35を、Z軸方向に垂直なXY面に沿って変位させる微調整機構を有している。なお、第1可動部35は、第1駆動機構として、研削対象10を第1ホルダ37とともにZ軸に平行な水平回転軸である第1回転軸RA1のまわりに所望の速度で回転させることができる。一方、第2ステージ33は、第2可動部36を支持しており、この第2可動部36は、第2ホルダ38を介して砥石部材20を間接的に支持している。第2ステージ33は、旋回機構として、研削対象10を支持する第2可動部36を、例えばY軸に平行な鉛直旋回軸PXのまわりの所望の角度方向に配置することができるとともに、所望の角度範囲及び角速度で揺動させることができる。また、第2ステージ33は、砥石部材20を支持する第2可動部36等をZ軸方向に沿った所望の位置に移動させることができ、鉛直旋回軸PXまでの相対的な距離を調整することができる。なお、第2可動部36は、第2駆動機構として、第2ホルダ38とともに砥石部材20をZ軸に平行に配置可能な水平回転軸である第2回転軸RA2のまわりに所望の角速度で回転させることができる。さらに、第2可動部36は、送込機構として、第2ホルダ38とともに砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って先端側に所望の速度で移動させる送り込みを実行することができる。
【0027】
第1ホルダ37に保持される研削対象10は、レンズ等の光学素子となるべきものであり、例えばガラス等の材料で形成されたブロックである。研削対象10の根元側は、第1ホルダ37の先端に設けたチャックCAに埋め込むように固定されている。
【0028】
第2ホルダ38に保持される砥石部材20は、円筒状の部材であり、中心軸に沿って貫通孔PPが形成されている。砥石部材20は、先端に環状の砥石部20cを有する。砥石部20cは、円形の加工部であり、例えばダイヤモンド粒子をボンド材料で焼結したものである。なお、砥石部材20の側面には、複数の開口25が形成されており、研削液を外部に排出できるようになっている。
【0029】
測定部50は、砥石部材20に付随して研削対象10の加工形状に関する情報を測定する付随センサ51と、付随センサ51を駆動するセンサ駆動部52とを有する。なお、付随センサ51は、ケーブル線CLを介してセンサ駆動部52に接続されている。
【0030】
制御部70は、高精度の数値制御を可能にするものであり、駆動装置30に内蔵されたモータや位置センサ等を駆動することによって、第1及び第2ステージ32,33や、第1及び第2可動部35,36を目的とする状態に適宜動作させる。例えば、第1ステージ32の第1可動部35によって、第1ホルダ37に保持された研削対象10をその中心軸と一致する第1回転軸RA1のまわりに比較的低速で回転させる。同時に、第2ステージ33の第2可動部36によって、第2ホルダ38に保持された砥石部材20をその対称軸と一致する第2回転軸RA2のまわりに比較的高速で回転させつつ、第2ステージ33によって第2可動部36すなわち砥石部材20を鉛直旋回軸PXのまわりに旋回させて、第2回転軸RA2を所期の角度方向に配置する。この際、第2ステージ33によって第2可動部36すなわち砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って先端側に適宜移動させる送り込みを行う。さらに、砥石部材20を鉛直旋回軸PXのまわりに揺動させつつ砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って先端側に適宜移動させることで、砥石部材20の加工面20sを目標とする球面形状SSに沿ってその曲率中心のまわりに揺動させることができる。つまり、研削対象10の加工表面10sの形状を球面に調製しつつ、その曲率半径を砥石部材20の加工面20sの先端から鉛直旋回軸PXまでの距離(目標曲率半径)に一致させる加工が可能になる。なお、砥石部材20をその加工面20sの曲率中心のまわりに旋回させることで、円筒型の砥石部材20による加工精度を高めることができる。さらに、砥石部材20をその加工面20sの曲率中心のまわりに揺動させることで、研削ムラの発生を抑制することができる。
【0031】
砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って先端側に移動させる送り込みは、砥石部材20を徐々に前進させることにより、その加工面20sが目標の球面形状SSと一致するように、上記曲率半径に対応する目標の送り込み量となるまで徐々に行われる。この際、第2可動部36に内蔵されたモータの負荷を監視し、その負荷が増大した場合、第2可動部36による切り込み動作の速度を遅くする。これにより、研削対象10の加工速度を調整することができ、研削対象10の加工表面10sの面粗さの一様性を高めることができる。
【0032】
なお、砥石部材20は、研削対象10の研削加工を繰り返すことで徐々に磨耗する。例えば、砥石部材20の加工面20sの磨耗厚みが所定の閾値以下である場合、制御部70は、砥石部20cが一様に磨耗しているとして、第2可動部36による送り込み量の値を磨耗厚み分だけ修正する。これにより、砥石部材20の磨耗を考慮した動作が可能になり、研削対象10の加工精度を高めることができる。砥石部材20の磨耗の程度は、研削対象10の処理枚数によって判定することができる。また、砥石部材20の磨耗の程度は、センサ駆動部52を介して取得される付随センサ51の検出出力に基づいて監視することもできる。
【0033】
以下、図2を参照して、付随センサ51について詳細に説明する。付随センサ51は、プローブ部51aと、プローブ部51aの根元側を支持する支持部51bとを有する。プローブ部51aは、電気マイクロメータである。プローブ部51aは、第2回転軸RA2に沿って第2ホルダ38(図1参照)の中心を貫通し、砥石部材20の貫通孔PPに挿通されており、その先端部51eは、実線で示す図示の状態では、第2回転軸RA2に沿って砥石部材20の加工面20sの位置まで達している。プローブ部51aは、その先端部51eを研削対象10の加工表面10sに適当な圧力で付勢可能になっている。支持部51bは、砥石部材20や第2ホルダ38から独立してプローブ部51aを支持しており、砥石部材20が回転してもプローブ部51aは回転しない。支持部51bは、プローブ部51aを、第2回転軸RA2に沿って前進させた実線で示す測定位置と、第2回転軸RA2に沿って後退させた点線で示す退避位置とに配置することができる。プローブ部51aを、前進させて測定位置にセットした場合、先端部51eによって研削対象10の加工表面10sの位置をミクロン単位で精密に計測することができる。プローブ部51aによって計測された研削対象10の加工表面10sの位置に関する情報は、センサ駆動部52を介して制御部70に出力される。
【0034】
なお、第2ホルダ38の貫通孔PPの根元側には、通気孔53を介してエアー供給管54が連結されている。また、第2ホルダ38の貫通孔PPの奥側には、内径を小さくする環状のシール部材55が設けられている。エアー供給管54に適度の圧力でエアーを送り込むことにより、貫通孔PP内を陽圧にしてプローブ部51aの内部に研削液が入り込まないようにできる。さらに、エアー供給管54に供給するエアーの量を多くすることで、研削対象10の加工表面10sを測定時にブローする効果を持たせることもできる。なお、エアー供給管54を省略しても、シール部材55によって研削液の流入をある程度阻止することができる。
【0035】
図3(A)及び3(B)は、砥石部材20による研削対象10の加工状態を、付随センサ51によって検出する例を示している。図3(A)に示す場合、研削対象10の加工表面10sの曲率半径が、目的とする球面形状SSよりも大きな場合を示しており、付随センサ51は、加工表面10sの頂部が目標値よりも低いという検出結果を出力する。また、図3(B)に示す場合、砥石部材20の砥石部20cが摩耗しており、研削対象10の中心の厚みが目的とする球面形状SSよりも厚くなっている場合を示しており、付随センサ51は、加工表面10sの頂部が目標値よりも高いという検出結果を出力する。なお、点線で示す砥石部20cは、摩耗前の状態に相当している。このように、付随センサ51は、研削対象10の加工表面10sの曲率の異常や研削対象10の中心厚みの異常を簡易に検出することができる。この際、付随センサ51の出力の基準値からのずれに基づいて、研削対象10の加工表面10sの曲率のズレ量や中心厚みのズレ量を見積もることができる。
【0036】
以下、図4のフローチャートにより、図1等に示す研削加工装置100を用いた研削加工の動作の流れの一例を説明する。
【0037】
まず、制御部70に対して基本データを入力するとともに、加工量データを入力する(ステップS11,S12)。なお、データに変更がない場合には、この動作を省略するものとしてもよい。
【0038】
次に、第2回転軸RA2側の第2ホルダ38に砥石部材20を固定し(ステップS13)、第1回転軸RA1側の第1ホルダ37に研削対象10を固定する(ステップS14)。
【0039】
次に、第2ホルダ38に固定された砥石部材20の動作開始位置を記憶させ(ステップS15)、装置を起動させる(ステップS16)。これにより、各駆動軸が回転する。すなわち、第1可動部35によって研削対象10を適当な回転数で回転させるとともに、第2可動部36によって砥石部材20を適当な回転数で回転させる。
【0040】
次に、研削液供給部40を動作させて、駆動装置30に加工液を供給する(ステップS17)。次に、第2ステージ33等を適宜動作させて、研削対象10に対する切削加工処理を行う(ステップS18)。この際、第2ステージ33を適宜動作させて砥石部材20を鉛直旋回軸PXのまわりに旋回又は揺動させることができ、第2可動部36を適宜動作させて砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って先端側に移動させる送り込みを行うこともできる。砥石部材20の送り込み量が目標値に達した段階で、砥石部材20の送り込みを停止させ、砥石部材20の第2回転軸RA2に沿って根元側に後退させる。
【0041】
その後、測定部50の付随センサ51を動作させて研削対象10の加工表面10sの表面形状すなわち位置を計測する(ステップS19)。この際、測定部50は、プローブ部51aを測定位置まで前進させて加工表面10sに接触させ、研削対象10の加工表面10sの頂部の高さ位置を計測する。
【0042】
制御部70は、計測された研削対象10の加工表面10sの位置計測結果を予め設定された目標値と比較して位置ズレが許容範囲内か否かを判断する(ステップS21)。ここで、目標値は、研削対象10の目的とする球面形状SSの曲率から算出される。例えば、目的とする球面形状SSの曲率半径がRで、砥石部材20の半径がrであるとすると、砥石部材20の先端から研削対象10の加工表面10sの頂部までの距離dは、幾何学的関係から、以下の式で与えられる。
d={R−√(R−r)}
制御部70は、加工表面10sの位置計測結果に基づいて算出した位置ズレが許容範囲外である場合、第2可動部36による砥石部材20の送り込み量の修正を行う。すなわち、砥石部材20の加工面20sが摩耗したものと想定して、摩耗量だけ当初の基準値に加算を行って砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って前進させる。ここで、砥石部材20の摩耗量は、例えば前回の修正時からの研削対象10の加工枚数に基づいて概算される。具体的には、研削対象10の加工枚数が20枚であれば、砥石部材20の基準位置を例えば5μm前進させて、再度の送り込みにより研削対象10に対する切削加工処理を行う(ステップS22)。
【0043】
その後、測定部50の付随センサ51を動作させて研削対象10の加工表面10sの表面形状すなわち位置を再度計測する(ステップS23)。
【0044】
制御部70は、計測された研削対象10の加工表面10sの位置計測結果を予め設定された目標値と比較して位置ズレが許容範囲内か否かを判断する(ステップS24)。ここで、目標値は、ステップS21と同様に、研削対象10の目的とする球面形状SSの曲率から算出されたものである。なお、砥石部材20の送り込み量を基準値(送り込み基準位置)からずらす方法を用いた場合、研削対象10の加工表面10sの曲率と研削対象10の中心厚との双方を同時に補正する効果があり、補正の作業が極めて簡単になり、砥石部材20による加工動作を安定化させることができる。
【0045】
制御部70は、再度の位置計測結果から得た位置ズレが許容範囲外である場合(ステップS24でN)、研削対象10の加工表面10sが目標値からずれたままで修正できなかった旨のエラーメッセージを加工不完全表示としてオペレータに提示する警告を行って処理を終了する(ステップS25)。この際、付随センサ51によって測定された研削対象10の加工表面10sの目標値からのズレ量を、高さ位置の誤差又はこれを曲率に換算した誤差として、制御部70に表示させることができる。一方、制御部70は、再度の位置計測結果から得た位置ズレが許容範囲内である場合(ステップS24,S21でY)、研削対象10の加工表面10sが目標値となって加工が完了した旨のメッセージを加工完了表示としてオペレータに通知して処理を終了し(ステップS26)、詳細な説明を省略するがステップS16に移行する。つまり、研削対象10を未加工のものに交換して、ステップS16〜S26の動作を繰り返すことになる。
【0046】
図5は、図4に示す動作の変形例を説明するフローチャートである。この場合、ステップS21の判断結果として、加工表面10sの位置計測結果に基づいて算出した位置ズレが許容範囲外となっている場合、制御部70は、測定部50による研削対象10の加工表面10sの計測結果に基づいて、砥石部材20の送り込み量の修正を行う(ステップS122)。具体的には、研削対象10の加工表面10sの頂部の高さ位置が目標値よりも高くなっている場合、その高さ増加量Δhだけ砥石部材20の基準位置を前進させて、再度の送り込みにより研削対象10に対する切削加工処理を行う。
【0047】
図6は、図4に示す動作の別の変形例を説明するフローチャートである。この場合、ステップS11,S12で基本データや加工量データを入力した後に、制御部70は、研削対象10の連続処理回数が既定回数以上になったか否かを判断する(ステップS31)。連続処理回数が既定回数以上となっている場合、砥石部材20の摩耗がある程度進行したと判断して、摩耗量だけ予算に砥石部材20を第2回転軸RA2に沿って前進させるような送り込み量となるように加工量データを修正する(ステップS31)。ここで、砥石部材20の摩耗量は、図3に示すフローチャートのステップS22と同様に、例えば前回の修正時からの研削対象10の加工枚数に基づいて概算される。なお、加工後にステップS19で研削対象10の加工表面10sの表面形状を計測して、算出した位置ズレが許容範囲外である場合、第2可動部36による砥石部材20の送り込み量の修正を行うことなく、エラーメッセージを加工不完全表示としてオペレータに対する警告を行って処理を終了する(ステップS25)。この際、研削対象10の加工表面10sの目標値からのズレ量を、高さ位置の誤差又はこれを曲率に換算した誤差として制御部70に表示させることができる。なお、研削対象10の加工表面10sが目標値となって加工が完了した場合(ステップS26)、研削対象10を未加工のものに交換して、ステップS31,S16〜S26の動作を繰り返す。
【0048】
以上説明した、本実施形態に係る研削加工装置100では、砥石部材20に付随して設けられた付随センサ51が研削対象10の形状に関する情報を測定するので、研削対象10を第1ホルダ37から外さずに測定することができ、加工の途中段階で研削対象10の加工状態を確認することができる。これにより、第2ホルダ37等が変位しても、研削対象10の形状のズレ又はこれに相当する砥石部材20の摩耗を監視しつつ研削対象10の加工を行うことができる。
【0049】
以上、実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、付随センサ51のプローブ部51aが電気マイクロメータであるとしたが、電気マイクロメータをその他の測長器に置き換えることができる。また、電気マイクロメータに代えて表面状態を例えば光学的に観察又は検出可能にするセンサを設けることもできる。この場合、研削対象10の加工表面10sの表面粗さ、ツールマークや突起状の研削不良部の有無等を監視することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、研削対象10の加工表面10sとして凸の球状面を形成する例を示しているが、研削対象10の加工表面10sとして凹の球状面を形成することもできる。
【0051】
砥石部材20は、カップ状の砥石に限らず、全体に亘って凹又は凸の球面状の加工面20sを有するものとできる。
【0052】
上記実施形態では、砥石部材20の軸心に沿ってプローブ部51aを配置しているが、プローブ部51aを軸心からずらして配置することもできる。また、単一のプローブ部51aに限らず、砥石部材20内に複数のプローブ部51aを配置することもできる。これらの場合、プローブ部51aによって検出された位置を第1回転軸RA1上の位置に換算して利用することが望ましい。
【0053】
上記実施形態では、砥石部材20を第2回転軸RA2方向に沿って送り込むことで、研削対象10の加工表面10sの曲率や厚みを調整しているが、第2可動部36は、第2回転軸RA2に沿った駆動軸を有するものに限らず、砥石部材20をその摩耗量に応じてXZ方向に2次元的に移動させるものであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…研削対象、 10s…加工表面、 20…砥石部材、 20c…砥石部、 20s…加工面、 30…駆動装置、 31…台座、 32,33…ステージ、 35…第1可動部、 36…第2可動部、 37…第1ホルダ、 38…第2ホルダ、 40…研削液供給部、 50…測定部、 51…付随センサ、 51a…プローブ部、 51b…支持部、 51e…先端部、 52…センサ駆動部、70…制御部、 100…研削加工装置、 CA…チャック、 CL…ケーブル線、 PP…貫通孔、 PX…鉛直旋回軸、 RA1…回転軸、 RA2…回転軸、 SS…球面形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削対象を第1ホルダに支持して第1回転軸のまわりに回転させる第1駆動機構と、
砥石部材を第2ホルダに支持して第2回転軸のまわりに回転させる第2駆動機構と、
前記砥石部材に付随して設けられ、前記研削対象の形状に関する情報を測定する付随センサと、
前記第1駆動機構と前記第2駆動機構との動作を制御して、前記砥石部材によって前記研削対象に球状面の研削加工を行わせる制御部と
を備える研削加工装置。
【請求項2】
前記第2回転軸を前記第1回転軸に対して旋回させる旋回機構と、前記砥石部材を前記第2回転軸に沿って先端側に移動させる送り込みを行う送込機構とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の研削加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記砥石部材の摩耗を補償するように前記送込機構に前記砥石部材の送り込みを行わせることを特徴とする請求項2に記載の研削加工装置。
【請求項4】
前記付随センサは、前記研削対象の加工表面に当接することで当該加工表面の位置を検出し、
前記制御部は、前記付随センサの検出した位置に基づいて前記研削対象の加工表面の曲率及び前記研削対象の中心厚みの少なくとも一方が目標値からずれているか否かを監視することを特徴とする請求項2及び3のいずれか一項に記載の研削加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記研削対象の加工表面の曲率及び前記研削対象の中心厚みの少なくとも一方が目標値から所定の許容範囲以上にずれた場合、前記送込機構による前記砥石部材の送り込みの基準値を変更する請求項4に記載の研削加工装置。
【請求項6】
前記砥石部材は、円形の加工部を先端に有する円筒状の部材であることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載の研削加工装置。
【請求項7】
前記付随センサは、前記砥石部材の中心軸に沿って形成された貫通孔に挿通されるとともに前記研削対象の加工表面に付勢可能なプローブを有し、前記砥石部材の中心軸に沿った前記プローブの先端位置を検出することを特徴とする請求項6に記載の研削加工装置。
【請求項8】
研削対象を第1ホルダに支持して第1回転軸のまわりに回転させつつ、砥石部材を第2ホルダに支持して第2回転軸のまわりに回転させることにより、前記砥石部材によって前記研削対象に球状面の研削を行わせる加工方法であって、
前記砥石部材に付随して設けられた付随センサが測定した前記研削対象の形状に関する情報に基づいて、前記砥石部材及び前記研削対象の相対的な配置を調整することを特徴とする研削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240177(P2012−240177A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115283(P2011−115283)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】