説明

研削方法および研削盤

【課題】簡便な構成により研削状態もしくは砥石成形状態においても短時間に砥石車の外径を計測可能とすることで、安価に研削盤の稼働率を向上させる、研削方法または研削盤を提供する。
【解決手段】コア71の外周に砥石層72を備えたコア型砥石車を用いて、超音波を研削液20を介して砥石層72に超音波センサ14より出力し、砥石層72の表面からの反射波とコア71の外周表面からの反射波の到達時間差と砥石層72の音速から砥石層72の厚さを演算する超音波計測装置制御部34を用い、計測した砥石層72の厚さとコア71の外径から算出される砥石車7の外径に基づき研削工程および砥石成形工程を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削動作制御に関するものであり、詳しくは研削中の砥石車の外径変化を計測し研削動作を制御する研削方法および研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削においては、研削に伴う砥石車の消耗や、研削後の砥石車の形状乱れを砥石層除去修正する砥石成形により砥石車の外径が変化する。この外径の変化量を検出して研削動作を制御することが、研削精度や研削能率の向上に不可欠である。
砥石車の外径の測定方法として、タッチプローブを用いて砥石車による研削部の表面位置を計測して砥石車の外径を算出する従来技術(例えば、特許文献1参照)がある。
また、超音波測定方法により砥石車の摩耗を測定する従来技術(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−277428号公報
【特許文献2】特開平5−104407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、低熱膨張材製のアームに保持されたタッチプローブを用いて転写ピンの研削、転写ピン表面位置の計測を含む砥石車測定工程により砥石車の外径を算出するので、計測のために余分な工程を必要とし研削盤の稼働率が低下する。
従来技術2では、砥石車表面と超音波センサヘッドの距離の変動で砥石車の摩耗量を計測するので、超音波センサヘッドの設置位置と砥石車の回転中心位置の距離の変動も摩耗量の変動に含まれて誤差を発生する。特に温度変化による構成部材の熱膨張による距離変動を低減するのは困難である。構成部材に低熱膨張材料を使用することや、環境温度を一定に保つことで原理的には距離の変動を低減できるが、材料費、温度制御装置が高価で機械の価格が高くなる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便な構成により研削状態もしくは砥石成形状態においても短時間に砥石車の外径を計測可能とすることで、安価に研削盤の稼働率を向上させる、研削方法または研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、コアの外周に砥石層を備えた砥石車を用いて工作物を研削する研削方法において、
前記コアの外径と、前記砥石層の厚さである第1厚さと、前記第1厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第1時間差とを記録する工程と、
前記砥石層の厚さである第2厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第2時間差を記録する工程と、
前記第1時間差と前記第2時間差の差である短縮時間を算出する工程と、
前記砥石層を構成する部材の音速である部材音速と前記短縮時間の積で所定減少量を算出する工程と
前記第1厚さから前記所定減少量を差し引いて前記第2厚さを算出する工程と
前記第2厚さの倍数と前記コアの外径の和から前記砥石車の外径を算出する工程により算出された前記砥石車の外径に基づき、研削動作および砥石成形動作を制御することである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記部材音速を前記砥石層の構成部材の音速の中で最も速い音速とし、前記短縮時間を複数の場所で測定された前記短縮時間の中で最も短い時間として前記所定減少量を算出することである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記部材音速を前記砥石層の構成部材の音速の中で最も遅い音速とし、前記短縮時間を複数の場所で測定された前記短縮時間の中で最も長い時間として前記所定減少量を算出することである。
【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記工作物の研削中に前記砥石車の外径を計測し、外径の変化量を研削による前記砥石車の消耗量として前記研削動作を制御することである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記砥石車の砥石成形中に前記砥石車の外径を計測し、外径の変化量を砥石成形による前記砥石車の除去量として前記砥石成形動作を制御することである。
【0010】
請求項6に係る発明の特徴は、工作物を支持して駆動させる工作物支持手段と、
コアの外周に砥石層を備えた砥石車を支持し駆動装置で回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記砥石車で前記工作物を研削するべく、前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させる駆動手段と、
超音波を前記砥石層に出力し、前記砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の到達時間差と前記砥石層の音速から前記砥石層の厚さを計測する超音波計測手段と、
前記砥石車を成形する砥石車成形手段と、
前記コアの外径と、前記砥石層の厚さである第1厚さと、前記第1厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第1時間差とを記録する工程と、前記砥石層の厚さである第2厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第2時間差を記録する工程と、前記第1時間差と前記第2時間差の差である短縮時間を算出する工程と、前記砥石層を構成する部材の音速である部材音速と前記短縮時間の積で所定減少量を算出する工程と、前記第1厚さから前記所定減少量を差し引いて前記第2厚さを算出する工程と、前記第2厚さの倍数と前記コアの外径の和から前記砥石車の外径を算出する工程により、算出された前記砥石車の外径に基づき、研削動作および砥石成形動作を制御する制御手段と、を備えたことである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、砥石径減少前の砥石層の表面からの反射波とコアの外周表面からの反射波の到達時間差と砥石径減少後の砥石層の表面からの反射波とコアの外周表面からの反射波の到達時間差の差と砥石層の音速から砥石径の減少量を計測するので、超音波ヘッドと砥石車の距離の変動に影響されない正確な砥石外径の計測ができる。
研削液が砥石車の表面に付着した状態で砥石外径を測定できるので、研削中および研削終了直後、または砥石成形中および砥石成形直後にも砥石車の外径測定工程を実施できる。このため、砥石車の外径測定工程に要する時間が短くなり研削盤の稼働率の低下を少なくできる。
【0012】
請求項2、請求項3に係る発明によれば、除去された砥石層の構成部材を特定し、その部材の音速を用いた除去量を正確に算出できるので、正確な砥石車外径の測定ができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、研削中に砥石車の外径を短時間で測定できる。この砥石車の外径の値を用いて、砥石車の研削開始位置の変更や、砥石車の消耗量を判定し砥石成形の要否判定などができる。それにより、空研作時間の短縮や、砥石の寿命限界まで使用した後に砥石成形を実施することができ、能率向上と研削コストの低減が可能となる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、砥石成形中に砥石車の外径の変化を連続的に測定できる、このため実際の砥石除去量に基づいた無駄な砥石除去をしない正確な砥石成形動作の制御ができ、砥石コストの低減が可能となる。
【0015】
請求項6に係る発明によれば、砥石層の表面からの反射波とコアの外周表面からの反射波の到達時間差と砥石層の音速から砥石車の外径を計測するので、超音波ヘッドと砥石車の距離の変動に影響されない正確な厚さ計測ができる。
研削液が砥石車の表面に付着した状態で砥石車の外径を測定できるので、研削中および研削終了直後、または砥石成形中および砥石成形直後にも砥石車の外径測定工程を実施できる。また、砥石成形中に砥石除去量を連続的に測定でき、無駄な砥石除去をしない砥石成形ができる。このため、砥石車の外径測定工程に要する時間を短くでき、砥石車を有効に使用できるので、稼働率の低下が少なく、研削コスト低減が可能な研削盤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】本実施形態の砥石車の構成を示す概略図である。
【図4】本実施形態の超音波計測の原理図である。
【図5】本実施形態の超音波反射波の測定を示す図である。
【図6】本実施形態の砥石車の砥石層の構造を示す詳細図である。
【図7】本実施形態の砥石層の模式図ある。
【図8】本実施形態の研削工程を示すフローチャート図である。
【図9】本実施形態の砥石車外径測定工程を示すフローチャート図である。
【図10】本実施形態の砥石成形動作を示す概略図である。
【図11】本実施形態の砥石成形工程を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の超音波計測機による砥石径測定工程を備えた研削工程と、砥石成形工程の実施の形態を円筒研削盤の実施事例に基づき、図1〜図11を参照しつつ説明する。
図1および図2に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石車7を回転自在に支持し、砥石車7を回転させる砥石軸モータ(図示省略する)を備え、砥石軸モータは砥石車7の回転位相を計測する位相検出器(図示省略する)を備えている。砥石車7は図3に示すように金属製のコア71の外周に砥石層72を備えた構造のコア型砥石車である。砥石台3の上面には保持部13と超音波センサ14と研削液供給ノズル15で構成された超音波計測装置12が設置されている。
テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。砥石成形モータ11により回転駆動される砥石成形ロール9を回転自在に支持した砥石成形装置10が、主軸5に付設されている。
【0018】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削工程や砥石成形工程や砥石径測定工程を実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、砥石成形装置10を制御する砥石成形制御手段33、超音波計測装置12を制御する超音波計測装置制御手段34、砥石車7の回転を制御する砥石軸制御手段35などを具備している。
【0019】
上記の研削盤1で砥石車7の外径を測定する方法について図3〜図8に基づき以下に説明する。
原理を以下に説明する。図3に示すように砥石車7の外径D1はコア71の外径をDc、砥石層72の厚さをWtとすると、D1=Dc+2・Wtとなる。コア71の外径Dcが既知であれば、研削時に消耗する砥石層72の厚さWtを計測することで砥石車7の外径D1を算出することが可能となる。コア71の外径Dcは砥石車7の製造時などにあらかじめ計測することは容易である。
砥石層72の厚さWtは以下のように計測する。図4に示すように超音波センサ14は超音波出力方向が砥石層72の外周面と直交し、超音波センサ14と砥石層72の外周面の間は研削液供給ノズル15で供給された研削液20で満たされて、砥石層72の外周面から所定の距離で配置されている。超音波センサ14から出力された超音波は研削液20を伝わり砥石層72の表面に達する。この時超音波の一部は反射し、残りは砥石層72の内部を伝わりコア71の外周面に達する、ここでも超音波の一部は反射し、残りはコア71の内部に伝わる。ここで、砥石層72の表面から反射した超音波とコア71の外周面から反射した超音波を超音波センサ14にて受信する。図5に示すように2つの反射波の到達時間差をΔTとし、砥石層72内部の超音波の音速をVとすると、砥石層72の厚さWtは、Wt=ΔT・V/2として測定できる。
【0020】
砥石層72は図6に示すように砥粒721、結合材722、骨材723の異なる音速を持った複数の材料からなる複合材である。このため、砥石層72内部の音速Vは各材料固有の音速と、各材料の砥石層72における占有比率から決まる平均的なものとなる。
このため、砥石層7の除去量がどの場所においても一定だとしても、場所による占有比率のばらつきや、表面層の除去された材料の種類により、2つの反射波の到達時間差には場所による差が発生する可能性がある。結果として、砥石層72の厚さ測定に誤差を生じる恐れがある。
【0021】
以上の課題を解決するため、以下のように超音波計測を行う。
複数の砥石層の超音波計測実施場所を所定の位置に定め、その場所の初期の砥石層厚さWtと、砥石層72の表面から反射した超音波とコア71の外周面から反射した超音波の超音波センサ14への到達時間差のΔTを測定し、制御装置内に格納しておく。具体的には、場所1の初期砥石層厚さをWt10、到達時間差をΔT10とし、場所nの初期砥石層厚さをWtn0、到達時間差をΔTn0とする。
所定場所1の例で砥石層の厚さ変化の測定方法を説明する。砥石層が減少した後の所定場所1の1回目の砥石層7の厚さの変化ΔWt11は、所定場所1の2つの反射波の到達時間差の初期値ΔT10と計測時の到達時間差ΔT11の差分ΔT10−ΔT11と、実測した所定場所1の表層の除去された材料の音速Vの積の1/2となる。つまり、ΔWt11=(ΔT10−ΔT11)・V/2として、所定場所1の1回目の計測時の砥石層72の厚さWt11はWt11=Wt10−ΔWt11=Wt10−(ΔT10−ΔT11)・V/2として算出できる。同様にして、所定場所1の2回目の砥石層72の厚さWt12は、Wt12=Wt11−(ΔT11−ΔT12)・V/2として算出できる。以下,順次前回の砥石層厚さに対する厚さ変化量を減算していくことで現在の砥石層厚さを測定することが可能となる。
【0022】
以上の説明は、砥石層72の除去された部分の音速が一定の場合には成り立つが、すでに述べたように、砥石層72は異なる音速を持った複数の材料からなる複合材である。このため、砥石層72の除去が進むと異なる材料を除去することになり音速が変わる、このため前述の連続性が絶たれ前回の砥石層厚さに対する厚さ変化量を減算していく計算が成り立たなくなる。
そこで、複数の場所で前述の砥石層厚さに対する厚さ変化量を減算していく操作を行い、除去された材料が単独でその音速が特定できる場所のデータのみを使用して減算することで連続性を成立させる。
【0023】
具体的には、図6に示すような3種類の材料がランダムに混合された砥石層72をモデル化した図7に基づき説明する。図7aは、砥石層の厚さがWt10で、厚さ変化量がΔWt11で、表層に厚さがΔWt11より大きな骨材723が配置された第1部分、表層に厚さがΔWt11より小さな骨材723が配置された第2部分、表層に厚さがΔWt11より大きな砥粒721が配置された第3部分、表層に厚さがΔWt11より大きな結合材722が配置された第4部分で構成されたモデル図である。図7bは、初期状態から表層が厚さΔWt11だけ除去された後にさらにΔWt12除去される状態を示している。
【0024】
砥粒721の音速をV、結合材722の音速をV、骨材723の音速をVとし、V>V>Vする。表層がΔWt11除去され砥石層の厚さがWt10からWt11に減少したため、各部分の砥石層72の表面から反射した超音波とコア71の外周面から反射した超音波の超音波センサ14への到達時間差はΔT10からΔT11になり短くなっている。短くなった時間差(ΔT10−ΔT11)をΔtと表し、第1部分〜第4部分に対応するΔtをΔt〜Δtとする。Δtは除去された材料の音速と除去量ΔWt11により決まり、第1部分では骨材723が除去されたのでΔt=ΔWt11/Vとなる、同様にして、第3部分では砥粒721が除去されたのでΔt=ΔWt11/Vと、第4部分では結合材722が除去されたのでΔt=ΔWt11/Vとなる。第2部分では骨材723と結合材722の両方が除去されたので、Δtは夫々の材料の除去量に応じて短縮された時間の和となる。
【0025】
ここで、短くなった時間差Δtの大きさを比較してみると、除去量は各部分同じなのでΔtの大きさは除去部材の音速に反比例する、つまり、Δt=ΔWt11/V>Δt=ΔWt11/V>Δt=ΔWt11/Vとなり、第2部分の平均音速VaはV>Va>Vなので、Δt>Δt>Δt>Δtとなる。複数の測定部分のうちでΔtが最小の部分は砥粒721のみを除去された部分で、Δtが最大の部分は骨材723のみが除去された部分である。複数の材料が除去された部分のΔtは、この最大値と最小値の間に存在する。このため、Δtの最小値であるΔtminと材料の音速の最大値であるVの積、もしくはΔtの最大値であるΔtmaxと材料の音速の最小値であるVの積が砥石層の除去量となる。つまり、砥石層の除去量がほぼ等しい同一場所で複数の個所の短縮時間Δtを測定し、Δtminと材料の音速の最大値であるVの積、もしくはΔtmaxと材料の音速の最小値であるVの積を求めることで砥石層の正確な除去量を算出できる。
同一場所の測定は、超音波測定ヘッド14を砥石車7の研削作用面に対向する位置に配置し、砥石車7の回転位相を砥石車駆動モータに備えた位相検出器で測定し同一回転位相で測定することで可能となる。
通常の砥石層の構成部材の大きさは50μm以上であり、測定対象とする砥石層の除去量は10μm以下であるので、複数の測定場所の内でかなりの場所で同一材料内での除去が行われる。
【0026】
具体的な超音波計測方法を図8のフローチャートに基づき説明する。
砥石車7の交換取付時に、コア径Dc、初期砥石層厚さWt、n個所の所定場所の砥石層72の表面から反射した超音波とコア71の外周面から反射した超音波の超音波センサ14への到達時間差ΔT10〜ΔTn0を記録する(STP1)。砥石径測定指令により、超音波センサ14と砥石車7の隙間に研削液供給ノズル15を介して研削液20を供給する(STP2)。砥石車7の回転位相を所定の位相に割出す(STP3)。超音波センサ14から砥石層72に超音波を出力する(STP4)。n個所の所定場所の砥石層72の表面から反射した超音波とコア71の外周面から反射した超音波の超音波センサ14への到達時間差ΔT11〜ΔTn1を記録する(STP5)。n個所の所定場所の到達時間差ΔTの短縮時間Δtを式、Δt=ΔT10−ΔT11〜Δt=ΔTn0−ΔTn1を用いて計算する(STP6)。短縮時間Δt〜Δtの最大値Δtmaxと最小値Δtminを選定する(STP7)。砥石層除去量ΔWtを式、ΔWt=Δtmax・VまたはΔWt=Δtmin・Vを用いて計算する(STP8)。砥石層の厚さWtを式、Wt=Wt−ΔWtを用いて計算する(STP9)。砥石車7の直径DをD=Dc+2・Wtとして計算する(STP10)。初期値を、Wt=Wt、ΔT=ΔT11〜ΔTn=ΔTn1と書換える(STP11)。研削液を停止する(STP12)。
以上のように、砥石層の除去量を単一の材料のみ除去された場所のデータを選択し、除去による超音波の反射時間の差とその材料の音速を用いて除去量を算出するので、砥石層の厚さの正確な測定ができ、結果として正確な砥石車7の外径測定が可能となる。また、測定は数ms以下の短時間で測定可能で、研削液の存在に無関係に測定可能なため、研削工程や砥石成形工程の途中に測定をすることができる。
【0027】
上記の研削盤1で工作物Wを砥石車7を用いてプランジ研削をする研削工程を図9に示すフローチャートに基づき説明する。
砥石車7を回転駆動した状態で、工作物Wを主軸5と心押台6で保持できるように搬入する(STP1)。工作物Wの加工部が砥石車7の研削作用面に対応する位置にテーブル4を移動させる(STP2)。工作物Wを回転させ、工作物Wの表面から砥石車7の表面が所定量離れた位置まで砥石台3を速送りで前進させる(STP3)。工作物Wの仕上径表面から砥石車7の表面がC1離れた位置まで砥石台3を粗研削送りで前進させる(STP4)。工作物Wの仕上径表面に砥石車7の表面が接する位置まで砥石台3を仕上研削送りで前進させ、研削を終了する(STP5)。工作物Wの仕上径表面から砥石車7の表面がC0離れた位置まで砥石台3を速送りで後退させる(STP6)。超音波計測装置により砥石車7の研削作用面の外径を測定する砥石径測定工程を起動する(STP7)。STP7と同時平行して工作物Wを研削盤の機外に搬出する(STP8)。STP7で計測した砥石径が研削による摩耗により所定値以下になったか否か判定する(STP9)。砥石径が所定値以下の場合は所定の砥石成形工程を実行し(STP10)終了後に研削工程を終了する。砥石径が所定値より大きい場合はそのまま研削工程を終了する。
以上のように、砥石車外径を測定することにより、研削による砥石車の研削作用面の摩耗量を研削工程毎に測定して砥石車使用の可否を判定するので、あらかじめ定めた本数の工作物を研削したら砥石成形を実施する従来研削方法に比較して、砥石車を有効に使用でき、さらに、異常摩耗による不良工作物の発生も防止できる。
【0028】
次に、上記の超音波による砥石径測定を用いた砥石車7の成形工程を図10、図11に基づき説明する。
砥石車7の研削作用面は研削による摩耗で砥石径が減少し、図10に示すように研削に使用しない部分と段差ができる。この段差を除去しさらに研削作用面を所定の量除去することで、砥石車7の形状精度と切れ味を維持することが砥石成形の目的である。砥石の除去量は必要最小限として砥石の無駄な消耗を避けることが重要である。そのためには、消耗した研削作用面の外径の測定と、砥石成形中の除去量を測定することが必要である。
研削作用面の外形はすでに述べた研削工程における砥石径測定工程により測定されており、その減少量に基づき砥石成形の要否を判定している。
【0029】
具体的な砥石成形方法について、図11のフローチャートに基づき説明する。
砥石成形ロール9をZ軸方向にテーブル4により移動させ、図10に示す開始位置dへ割出す(STP1)。砥石成形ロール9と砥石車7を回転させ、砥石車7をX軸方向に砥石成形ロール9に接近するように前進させる(STP2)。
次に、砥石成形ロール9を、砥石車7に接触した状態でZ軸方向にテーブル4により右進させ、砥石車7と砥石成形ロール9の接触が終了する位置eで停止する(STP3)。砥石径測定工程を実施する(STP4)。除去完了か判定する、完了であれば(STP10)へ移行し、未完了であればSTP6へ移行する(STP5)。砥石車7を所定の量X軸方向に前進させることにより、砥石成形ロール9を砥石車7に切込む(STP6)。砥石成形ロール9を、砥石車7に接触した状態でテーブル4により左進させ、砥石車7と砥石成形ロール9の接触が終了する位置dで停止する(STP7)。砥石径測定工程を実施する(STP8)。除去完了か判定する、完了であればSTP10へ移行し、未完了であればSTP2へ移行する(STP9)。除去完了後、砥石台を後退させる(STP10)。テーブルを割出し砥石成形サイクルを終了する(STP11)。
以上のように、砥石成形工程中に砥石除去の工程毎に砥石車外径を短時間で測定できるので、必要最小限の砥石除去の砥石成形が可能となり、砥石車の無駄な消耗を防止できる。
【符号の説明】
【0030】
W:工作物 4:テーブル 7:砥石車 9:砥石成形ロール 10:砥石成形装置 12:超音波計測装置 13:保持部 14:超音波センサ 15:研削液供給ノズル 30:制御装置 31:X軸制御手段 32:Z軸制御手段 34:超音波計測装置制御手段 35:砥石軸制御手段 71:コア 72:砥石層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの外周に砥石層を備えた砥石車を用いて工作物を研削する研削方法において、
前記コアの外径と、前記砥石層の厚さである第1厚さと、前記第1厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第1時間差とを記録する工程と、
前記砥石層の厚さである第2厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第2時間差を記録する工程と、
前記第1時間差と前記第2時間差の差である短縮時間を算出する工程と、
前記砥石層を構成する部材の音速である部材音速と前記短縮時間の積で所定減少量を算出する工程と
前記第1厚さから前記所定減少量を差し引いて前記第2厚さを算出する工程と
前記第2厚さの倍数と前記コアの外径の和から前記砥石車の外径を算出する工程により算出された前記砥石車の外径に基づき、研削動作および砥石成形動作を制御する研削方法。
【請求項2】
前記部材音速を前記砥石層の構成部材の音速の中で最も速い音速とし、前記短縮時間を複数の場所で測定された前記短縮時間の中で最も短い時間として前記所定減少量を算出する、請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
前記部材音速を前記砥石層の構成部材の音速の中で最も遅い音速とし、前記短縮時間を複数の場所で測定された前記短縮時間の中で最も長い時間として前記所定減少量を算出する、請求項1に記載の研削方法。
【請求項4】
前記工作物の研削中に前記砥石車の外径を計測し、外径の変化量を研削による前記砥石車の消耗量として前記研削動作を制御する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の研削方法。
【請求項5】
前記砥石車の砥石成形中に前記砥石車の外径を計測し、外径の変化量を砥石成形による前記砥石車の除去量として前記砥石成形動作を制御する請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の研削方法。
【請求項6】
工作物を支持して駆動させる工作物支持手段と、
コアの外周に砥石層を備えた砥石車を支持し駆動装置で回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記砥石車で前記工作物を研削するべく、前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させる駆動手段と、
超音波を前記砥石層に出力し、前記砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の到達時間差と前記砥石層の音速から前記砥石層の厚さを計測する超音波計測手段と、
前記砥石車を成形する砥石車成形手段と、
前記コアの外径と、前記砥石層の厚さである第1厚さと、前記第1厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第1時間差とを記録する工程と、前記砥石層の厚さである第2厚さの砥石層の表面からの反射波と前記コアの外周表面からの反射波の超音波センサへの到達時間差である第2時間差を記録する工程と、前記第1時間差と前記第2時間差の差である短縮時間を算出する工程と、前記砥石層を構成する部材の音速である部材音速と前記短縮時間の積で所定減少量を算出する工程と、前記第1厚さから前記所定減少量を差し引いて前記第2厚さを算出する工程と、前記第2厚さの倍数と前記コアの外径の和から前記砥石車の外径を算出する工程により、算出された前記砥石車の外径に基づき、研削動作および砥石成形動作を制御する制御手段と、を備えた研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−24904(P2012−24904A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168011(P2010−168011)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】