説明

研削盤および研削方法

【課題】ワークの撓み量による影響を考慮して、高精度な研削を行うことができる研削盤および研削方法を提供する。
【解決手段】ワークWに砥石43を押圧してワークWを撓ませながらワークWを研削する研削盤であって、ワークWと砥石43との接触範囲におけるワークWの撓み量の差ΔXf(t)を算出し、算出された撓み量の差ΔXf(t)が所定閾値ΔXth以上となった場合に、砥石43のワークWに対する相対的な送り速度を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤および研削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筒状ワークの外周面を径方向に切り込む研削盤として、特開平7−214466号公報(特許文献1)に記載されたものがある。当該研削盤は、加工の際に、砥石台を一定の送り速度で前進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−214466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸状のワークの両端を主軸センタと心押センタにより支持し、砥石車を軸状のワークの外周面に押圧して研削する場合には、ワークの軸方向位置によって撓み量が異なる。より高精度化が求められる近年、砥石車によってワークの軸方向位置における外径を同一に仕上げようとしても、軸方向位置によって撓み量が異なることによって、テーパ状に研削されてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ワークの撓み量による影響を考慮して、高精度な研削を行うことができる研削盤および研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
ワークに砥石を押圧して前記ワークを撓ませながら前記ワークを研削する研削盤であって、
前記ワークと前記砥石との接触範囲における前記ワークの撓み量の差を算出する撓み量差算出手段と、
前記撓み量差算出手段により算出された前記撓み量の差が所定閾値以上となった場合に、前記砥石の前記ワークに対する相対的な送り速度を変更する制御手段と、
を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記制御手段は、前記撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における前記砥石の切込量と同一以下の前記砥石の切込量となるように前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することである。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記研削盤は、前記ワークの研削径を測定する定寸装置を備え、
前記制御手段は、前記定寸装置により測定される前記ワークの研削径に基づいて、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における前記砥石の切込量と同一以下の前記砥石の切込量となるように、前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することである。
【0009】
請求項4に係る発明は、
前記制御手段は、前記撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における研削抵抗と同一以下の研削抵抗となるように前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することである。
【0010】
請求項5に係る発明は、
前記研削盤は、前記研削抵抗を検出する抵抗検出センサを備え、
前記制御手段は、前記抵抗検出センサにより検出される前記研削抵抗に基づいて、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における研削抵抗と同一以下の研削抵抗となるように、前記研削抵抗によるフィードバック制御を行うことによって、前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することである。
【0011】
請求項6に係る発明は、
前記制御手段は、前記撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における前記相対的な送り速度以下の前記相対的な送り速度となるように、前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することである。
【0012】
請求項7に係る発明は、
前記制御手段は、研削抵抗の増加に伴って前記ワークの撓み量が増加している際に、前記ワークの撓み量の差が前記所定閾値以上となったか否かを判定することを特徴とする研削盤。
【0013】
請求項8に係る発明は、
前記制御手段は、前記砥石の前記接触範囲の幅方向両端の撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記相対的な送り速度を変更することである。
【0014】
請求項9に係る発明は、
前記撓み量差算出手段は、前記砥石の前記接触範囲の幅方向両端の撓み量の差、および、前記砥石の前記接触範囲の幅方向中央の撓み量と前記砥石の前記接触範囲の端部の撓み量との差を算出し、
前記制御手段は、算出された前記撓み量の差のうちの最大値が、前記所定閾値以上となった場合に、前記相対的な送り速度を変更することである。
【0015】
請求項10に係る発明は、
ワークに砥石を押圧して前記ワークを撓ませながら前記ワークを研削する方法であって、
前記ワークと前記砥石との接触範囲における前記ワークの撓み量の差が所定閾値以上となった場合に、前記砥石の前記ワークに対する相対的な送り速度を変更することである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、ワークと砥石との接触範囲におけるワークの撓み量の差が所定閾値以上となった場合に、送り速度を変更するようにしている。これにより、ワークのうち砥石との接触範囲においては、撓み量の差が所定閾値以下となるような研削が可能となる。つまり、ワークのうち砥石との接触範囲における撓み量の差が所定閾値以下とすることにより、ワークの研削部位の精度を一定以上に確保することができる。従って、撓み量の差に起因するテーパ誤差が生じることを抑制できる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、砥石の切込量を、撓み量の差が所定閾値に達した時点における砥石の切込量以下となるようにしている。ここで、撓み量の差が所定閾値に達した時点における砥石の切込量以下であれば、撓み量の差が所定閾値を超えないようにすることができる。これにより、確実に高精度な研削を実現できる。
請求項3に係る発明によれば、ワークの研削径を把握できることで、砥石の切込量を監視しながら砥石の相対的な位置を制御できる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、研削抵抗を、撓み量の差が所定閾値に達した時点における研削抵抗以下となるようにしている。ここで、撓み量の差が所定閾値に達した時点における研削抵抗以下であれば、撓み量の差が所定閾値を超えないようにすることができる。これにより、確実に高精度な研削を実現できる。
請求項5に係る発明によれば、研削抵抗を検出しながら、研削抵抗によるフィードバック制御を行うことで、確実に、所定の研削抵抗以下となるように砥石の相対的な位置を制御できる。なお、抵抗検出センサとしては、例えば、ワークを支持する主軸に設けられる力センサ、砥石の移動を駆動するモータ電流を検出するセンサなどが適用される。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、砥石の相対的な送り速度を、撓み量の差が所定閾値に達した時点における送り速度以下となるようにしている。ここで、撓み量の差が所定閾値に達した時点における送り速度以下であれば、撓み量の差が所定閾値を超えないようにすることができる。これにより、確実に高精度な研削を実現できる。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、撓み量の差が所定閾値以上となったか否かを確実に判定することができる。なお、ワークの撓み量が増加している際とは、砥石により研削を開始した直後が該当する。いわゆる非定常状態または過渡状態といわれる。
【0021】
請求項8に係る発明によれば、砥石の接触範囲の幅方向両端の撓み量の差を判定対象としている。これにより、撓み量の差を容易に算出することができる。請求項9に係る発明によれば、砥石の接触範囲の幅方向両端の撓み量の差に加えて、砥石の接触範囲の幅方向中央の撓み量と端部の撓み量との差を考慮して、最大値を所定閾値との判定対象としている。これにより、より高精度にかつ比較的容易に、撓み量の差を算出することができる。なお、砥石の接触範囲の幅方向中央の撓み量と端部の撓み量とは、幅方向中央の撓み量と幅方向の一端部の撓み量との差、および、幅方向中央部の撓み量と幅方向の他端部の撓み量の差を含む意味である。
【0022】
請求項10に係る発明によれば、研削方法を対象としており、請求項1の研削盤に係る発明の効果と同様の効果を奏する。また、当該研削方法に係る発明については、研削盤に係る発明の他の特徴部分について同様に適用することができる。この場合の効果はそれぞれの特徴における効果と同様の効果となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】工作機械の平面図である。
【図2】制御装置の機能ブロック図である。
【図3】経過時間に対する砥石台位置を示す図である。
【図4】ワークの撓み量を示す図である。
【図5】研削抵抗に対するワークの撓み量および撓み量差の関係を示す図である。
【図6】粗研削における制御装置による処理のフローチャートである。
【図7】(a)図6のステップS1,S2,S3,S4となる場合における、経過時間に対する砥石台位置、研削抵抗および撓み量差の関係を示す図である。(b)図6のステップS1,S2,S3,S5,S6となる場合における、経過時間に対する砥石台位置、研削抵抗および撓み量差の関係を示す図である。
【図8】ワークと砥石車との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の研削盤および研削方法を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の研削盤の一例として、砥石台トラバース型円筒研削盤を例に挙げて説明する。そして、当該研削盤の研削対象ワークWは、軸状ワークを例に挙げる。
【0025】
当該研削盤について、図1を参照して説明する。図1に示すように、研削盤1は、ベッド10と、主軸台20と、心押台30と、砥石支持装置40と、力センサ50と、定寸装置60と、制御装置70とから構成される。
【0026】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、一対の砥石台用ガイドレール11a、11bが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。一対の砥石台用ガイドレール11a、11bは、砥石支持装置40を構成する砥石台トラバースベース41が摺動可能なレールである。さらに、ベッド10には、一対の砥石台用ガイドレール11a、11bの間に、砥石台トラバースベース41を図1の左右方向に駆動するための、砥石台用Z軸ボールねじ11cが配置され、この砥石台用Z軸ボールねじ11cを回転駆動する砥石台用Z軸モータ11dが配置されている。
【0027】
主軸台20は、主軸台本体21と、主軸22と、主軸モータ23と、主軸センタ24とを備えている。主軸台本体21は、ベッド10の上面のうち、図1の左下側に固定されている。ただし、主軸台本体21は、ベッド10に対するZ軸方向位置を僅かに調整することが可能である。この主軸台本体21の内部には、主軸22が軸周り(図1のZ軸周り)に回転可能に挿通支持されている。この主軸22の図1の左端には、主軸モータ23が設けられ、主軸22は、主軸モータ23により主軸台本体21に対して回転駆動される。この主軸モータ23はエンコーダを有しており、エンコーダにより主軸モータ23の回転角を検出することができる。また、主軸22の右端に、軸状のワークWの軸方向一端を支持する主軸センタ24が取り付けられている。
【0028】
心押台30は、心押台本体31と、心押センタ32とを備えている。心押台本体31は、ベッド10の上面のうち、図1の右下側に固定されている。ただし、心押台本体31は、ベッド10に対するZ軸方向位置を僅かに調整することが可能である。この心押台本体31は、図1の左右方向に貫通する穴が形成されている。この心押台本体31の貫通孔に、心押センタ32が回転可能に挿通支持されている。この心押センタ32の回転軸は、主軸22の回転軸と同軸上に位置している。そして、この心押センタ32は、ワークWの軸方向他端を支持する。つまり、心押センタ32は、主軸センタ24に対向するように配置されている。そして、主軸センタ24と心押センタ32とにより、ワークWの両端を回転可能に支持している。さらに、心押センタ32は、心押台本体31の右端面からの突出量を変更可能である。つまり、ワークWの位置に応じて、心押センタ32の突出量を調整することができる。このように、ワークWは、主軸センタ24および心押センタ32により、主軸軸周り(Z軸周り)に回転可能に保持されている。
【0029】
砥石支持装置40は、砥石台トラバースベース41と、砥石台42と、砥石車43(本発明の「砥石」に相当)と、砥石回転用モータ44とを備えている。砥石台トラバースベース41は、矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面のうち、一対の砥石台用ガイドレール11a、11b上を摺動可能に配置されている。砥石台トラバースベース41は、砥石台用Z軸ボールねじ11cのナット部材に連結されており、砥石台用Z軸モータ11dの駆動により一対の砥石台用ガイドレール11a、11bに沿って移動する。この砥石台用Z軸モータ11dはエンコーダを有しており、エンコーダにより砥石台用Z軸モータ11dの回転角を検出することができる。
【0030】
この砥石台トラバースベース41の上面には、砥石台42が摺動可能な一対のX軸ガイドレール41a、41bが、図1の上下方向(X軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、砥石台トラバースベース41には、一対のX軸ガイドレール41a、41bの間に、砥石台42を図1の上下方向に駆動するための、X軸ボールねじ41cが配置され、このX軸ボールねじ41cを回転駆動するX軸モータ41dが配置されている。このX軸モータ41dはエンコーダを有しており、エンコーダによりX軸モータ41dの回転角を検出することができる。
【0031】
砥石台42は、砥石台トラバースベース41の上面のうち、一対のX軸ガイドレール41a、41b上を摺動可能に配置されている。そして、砥石台42は、X軸ボールねじ41cのナット部材に連結されており、X軸モータ41dの駆動により一対のX軸ガイドレール41a,41bに沿って移動する。つまり、砥石台42は、ベッド10、主軸台20および心押台30に対して、X軸方向(プランジ送り方向)およびZ軸方向(トラバース送り方向)に相対移動可能となる。
【0032】
そして、この砥石台42のうち図1の下側部分には、図1の左右方向に貫通する穴が形成されている。この砥石台42の貫通孔に、砥石車回転軸部材(図示せず)が、砥石中心軸周り(Z軸周り)に回転可能に支持されている。この砥石車回転軸部材の一端(図1の左端)に、円盤状の砥石車43が同軸的に取り付けられている。つまり、砥石車43は、砥石台42に対して、片持ち支持されている。具体的には、砥石車43の図1の右端側を砥石台42に支持され、砥石車43の図1の左端側は自由端となる。この砥石車43の回転軸は、主軸22の回転軸に平行に設けられている。また、砥石台42の上面には、砥石回転用モータ44が固定されている。そして、砥石車回転軸部材の他端(図1の右端)と砥石回転用モータ44の回転軸とにプーリが懸架されることで、砥石回転用モータ44の駆動により、砥石車43が砥石軸周りに回転する。
【0033】
力センサ50(本発明の「抵抗検出センサ」に相当)は、主軸22に設けられ、主軸22に加わるX軸方向成分の力を計測している。つまり、この力センサ50は、砥石車43によりワークWが研削されることにより生じる研削抵抗を検出している。ここでは、砥石車43をワークWに対してX方向のみに移動させながら研削するため、力センサ50は、X軸方向成分の力を計測するのみとしている。この力センサ50により計測される信号は、制御装置70へ出力される。
定寸装置60は、研削部位におけるワークWの外径を計測している。この定寸装置60により計測される信号は、制御装置70へ出力される。
【0034】
制御装置70(本発明の「撓み量差算出手段」「制御手段」に相当)は、各モータを制御して、ワークWを主軸周りに回転させ、砥石車43を回転させ、且つ、ワークWに対する砥石車43のZ軸方向およびX軸方向の相対的な位置を変更することにより、ワークWの外周面の研削を行う。
【0035】
この制御装置70について図2を参照して詳細に説明する。ここで、本発明の特徴部分は、砥石台42のX軸方向の移動についてである。そこで、ここでは、制御装置70を構成する各部のうち、特に、砥石台42のX軸方向の制御に関する部分のみについて説明するものとする。図2に示すように、制御装置70のうち砥石台42のX軸方向の制御に関する部分は、モータ制御部71と、撓み量差算出部72と、補正部73とを備える。
【0036】
モータ制御部71は、NCデータを入力し、当該NCデータのうち砥石台42のX軸位置指令値に基づいて、X軸モータ41dを制御する。つまり、モータ制御部71は、NCデータのX軸指令位置に砥石台42が位置するように、位置制御されている。この位置指令値について、図3を参照して説明する。図3に示すように、まず、時刻t1〜t2の間において粗研削を行う。粗研削終了時点t2における研削径は、D1となる。そして、時刻t2〜t3の間において、粗研削よりも高い研削精度を得ることができる精研削を行う。精研削終了時点t3における研削径は、D2となる。時刻t3〜t4の間において、精研削よりも高い研削精度を得ることができる微研削を行う。そして、微研削終了時点t4において、最終仕上径D3となるようにしている。ここで、NCデータにおいて、砥石車43のX軸方向の送り速度は、図3より明らかなように、粗研削、精研削、微研削の順に遅くなるように設定されている。さらに、粗研削、精研削および微研削のそれぞれにおける砥石車43のX軸方向の送り速度は、一定となるように設定されている。
【0037】
撓み量差算出部72は、力センサ50により検出される研削抵抗F(t)に基づいて、撓み量差ΔXf(t)を算出する。撓み量差ΔXf(t)の算出の詳細は後述する。
補正部73は、撓み量差算出部72により算出されたたわみ量差ΔXf(t)、および、定寸装置60により測定されるワークWの研削部位の外径を入力する。そして、補正部73は、これらの情報に基づいてNCデータを補正すべきか否かを判定し、補正すべきと判定された場合にはNCデータを補正する。つまり、補正部73によりNCデータが補正された場合には、モータ制御部71は、補正されたNCデータに基づいてX軸モータ41dを制御する。
【0038】
次に、撓み量差算出部72にて算出されるワークWの撓み量差ΔXf(t)について、図4および図5を参照して説明する。図4に示すように、ワークWの外周面に砥石車43を押圧してワークWを研削することにより、ワークWには研削抵抗F(t)が発生する。そして、ワークWは、主軸センタ24と心押センタ32とにより両端支持されている。つまり、図4の撓み量曲線として示すように、ワークWの中心軸に撓みが生じる。ここで、研削抵抗F(t)は、ワークWの外周面のうち砥石車43の幅方向中央にかけられるものとする。
【0039】
また、砥石車43の幅はbとする。また、ワークWと砥石車43の接触範囲のうち、砥石車43の幅方向中央をPCとし、砥石車43の幅方向左端をPLとし、砥石車43の幅方向右端をPRとする。また、ワークWの軸方向長さをLとし、ワークWの左端から砥石車43の幅方向中央PCまでの長さをL1とし、ワークWの右端から砥石車43の幅方向中央PCまでの長さをL2とする。
【0040】
このとき、砥石車43の幅方向左端PLにおけるワークWの撓み量Xf_left(t)は、式(1)のように表される。砥石車43の幅方向中央PCにおけるワークWの撓み量Xf_center(t)は、式(2)のように表される。砥石車43の幅方向右端PRにおけるワークWの撓み量Xf_right(t)は、式(3)のように表される。つまり、研削抵抗F(t)が分かれば、ワークWの撓み量Xf_left(t),Xf_center(t),Xf_right(t)を求めることができる。
【0041】
【数1】

【0042】
式(1)〜(3)および図4から分かるように、L1≠L2の場合には、砥石車43の幅方向左端PLにおけるワークWの撓み量Xf_left(t)と、砥石車43の幅方向中央PCにおけるワークWの撓み量Xf_center(t)と、砥石車43の幅方向右端PRにおけるワークWの撓み量Xf_right(t)とは異なる。従って、ワークWの砥石車43の接触範囲において撓み量が異なることに起因して、ワークWはテーパ状に研削されるおそれがある。
【0043】
ここで、式(1)〜(3)より、ワークWの撓み量Xf_left(t),Xf_center(t),Xf_right(t)は何れも研削抵抗F(t)の関数となっている。そこで、ワークWの撓み量Xf(t)と研削抵抗F(t)との関係について図5を参照して説明する。図5の黒菱形印にて、ワークWの撓み量Xf_left(t)を示し、白四角印にて、ワークWの撓み量Xf_right(t)を示す。これらから明らかなように、研削抵抗F(t)が増加すると、ほぼ比例して、ワークWの撓み量Xf_left(t), Xf_right(t)は増加している。
【0044】
そして、図4および式(1)〜(3)を用いて説明したが、図5からも明らかなように、L1≠L2の場合には、ワークWの撓み量Xf_left(t), Xf_right(t)は異なる。従って、砥石車43の幅方向左端PLにおけるワークWの撓み量Xf_left(t)と、砥石車43の幅方向右端PRにおけるワークWの撓み量Xf_right(t)との差ΔXf(t)が発生する。ここで、図5において、当該両端の撓み量の差ΔXf(t)を白丸印にて示す。また、図5より、両端の撓み量の差ΔXf(t)は、研削抵抗F(t)が増加するにつれて、比例して増加していることが分かる。つまり、研削抵抗F(t)が大きいほど、ワークWに生じるテーパ誤差が大きくなることになる。
【0045】
ここで、本実施形態において、ワークWの撓み量差ΔXf(t)は、簡易的に以下のようにしている。第一の撓み量差ΔXf1(t)を、砥石車43の幅方向右端PRにおけるワークWの撓み量Xf_right(t)と、砥石車43の幅方向左端PLにおけるワークWの撓み量Xf_left(t)との差とする。第二の撓み量差ΔXf2(t)を、砥石車43の幅方向右端PRにおけるワークWの撓み量Xf_right(t)と、砥石車43の幅方向中央PCにおけるワークWの撓み量Xf_center(t)との差とする。第三の撓み量差ΔXf3(t)を、砥石車43の幅方向左端PLにおけるワークWの撓み量Xf_left(t)と、砥石車43の幅方向中央PCにおけるワークWの撓み量Xf_center(t)との差とする。つまり、これら第一〜第三の撓み量差ΔXf1(t),ΔXf2(t),ΔXf3(t)は、式(4)により表される。
【0046】
【数2】

【0047】
そして、このように得られた第一の撓み量差ΔXf1(t)、第二の撓み量差ΔXf2(t)、および、第三の撓み量差ΔXf3(t)の最大値を、ワークWの撓み量差ΔXf(t)とする。この他に、精度は落ちるがより簡易的に、両端の撓み量差、すなわち、第一の撓み量差ΔXf1(t)をワークWの撓み量差ΔXf(t)とすることもできる。
【0048】
次に、制御装置70による粗研削(図2のt1〜t2)を行う場合における処理について図6を参照して説明する。まず、NCデータに基づいて粗研削が開始される(S1)。続いて、撓み量差算出部72にて撓み量差ΔXf(t)を算出する(S2)。この算出処理は、上述したとおりである。つまり、研削抵抗F(t)に基づいて、ワークWの撓み量Xf_left(t),Xf_center(t),Xf_right(t)を算出し、これらの差分の最大値としての撓み量差ΔXf(t)を算出する。
【0049】
続いて、補正部73にて、撓み量差算出部72にて算出された撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上となったか否かを判定する(S3)。そして、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上でない場合には(S3:N)、定寸装置60により測定されるワークWの研削径D(t)が粗研削終了径D1に達したか否かを判定する(S4)。そして、まだ現在のワークWの研削径D(t)が、粗研削終了径D1に達していなければ(S4:N)、粗研削を継続して行い、ステップS2に戻り、処理を繰り返す。一方、現在のワークWの研削径D(t)が、粗研削終了径D1に達した場合には(S4:Y)、粗研削を終了する。
【0050】
つまり、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上とならなければ、NCデータによりX軸モータ41dが制御される。この場合の経過時間に対する砥石台42のX軸方向位置、研削抵抗F(t)、および、撓み量差ΔXf(t)について、図7(a)を参照して説明する。ここで、図7(a)において、横軸のt1およびt2は、図2に対応している。
【0051】
図7(a)に示すように、粗研削が開始されてから(時刻t1)、徐々に研削抵抗F(t)が増加していく。ここで、研削抵抗F(t)が増加している間を、非定常状態、または過渡状態という。そして、図5を用いて説明したように、研削抵抗F(t)が増加すればするほど、ワークWの撓み量Xf_left(t),Xf_center(t),Xf_right(t)が増加していく。そうすると、図7(a)に示すように、撓み量差ΔXf(t)も増加していく。この間、図6のステップS3にて、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上であるか否かを判定し続ける。
【0052】
さらに粗研削を継続して行っていると、そのうち、研削抵抗F(t)が一定となる、いわゆる定常状態に達する。定常状態においては、ワークWの撓み量Xf_left(t),Xf_center(t),Xf_right(t)が一定となる。つまり、撓み量差ΔXf(t)も一定となる。そうすると、算出される撓み量差ΔXf(t)は、予め設定された閾値ΔXth以上となることはない。従って、初期の予定通りのNCデータの指令に従って、X軸モータ41dが制御される。つまり、砥石台42のX軸方向の送り速度は、一定の状態を維持し続ける。
【0053】
ここで、図6のフローチャートに戻り説明を繰り返す。上記には、ステップS3において、算出された撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上でない場合(S3:N)について説明した。一方、ステップS3にて、算出された撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上になった場合には(S3:Y)、その時点から定常制御が開始される(S5)。そして、定寸装置60により測定されるワークWの研削径D(t)が粗研削終了径D1に達したか否かを判定する(S6)。そして、まだ現在のワークWの研削径D(t)が、粗研削終了径D1に達していなければ(S6:N)、定常制御による粗研削を継続して行う。一方、現在のワークWの研削径D(t)が、粗研削終了径D1に達した場合には(S6:Y)、粗研削を終了する。
【0054】
次に、図6のステップS5の定常制御について、図7(b)および図8を参照して説明する。図7(b)に示すように、粗研削が開始されてから(時刻t1)、徐々に研削抵抗F(t)が増加していく。そして、図5を用いて説明したように、研削抵抗F(t)が増加すればするほど、ワークWの撓み量Xf_left(t),Xf_center(t),Xf_right(t)が増加していく。そうすると、図7(b)に示すように、撓み量差ΔXf(t)も増加していく。この間、図6のステップS3にて、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上であるか否かを判定し続ける。
【0055】
そして、時刻taにて、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXth以上になったとする。そうすると、その後は、研削抵抗F(t)が、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXthに達した時点taにおける研削抵抗F(ta)で一定となるように制御される。そうすると、時刻ta以降において、砥石台42のX軸方向の送り速度は、時刻t1から時刻taまでの送り速度に比べて遅くなる。つまり、図7(b)において、砥石台42のX軸方向位置の傾きが緩やかになるように変化する。その結果、時刻ta以降は、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXthを超えることがなく、ワークWに生じるテーパ誤差は、所定の範囲内に収めることができる。つまり、高い研削精度を得ることができる。
【0056】
ここで、上述したように、定常制御において研削抵抗F(t)が、撓み量差ΔXf(t)が予め設定された閾値ΔXthに達した時点taにおける研削抵抗F(ta)で一定となるように制御される。この制御方法について、詳細に説明する。
【0057】
粗研削を行っている場合には、ワークWと砥石車43の位置は、図8に示すようになる。ここで、ある時刻tにおける砥石台位置Xref(t)は、式(5)のように表される。また、時刻t+Tにおける砥石台位置Xref(t)は、式(6)のように表される。そして、式(5)(6)の両辺の差をとると、式(7)のように表される。なお、式(7)における第二段と第三段は、フックの法則に基づくものである。
【0058】
【数3】

【0059】
【数4】

【0060】
ここで、上述したように、図7(b)の時刻taの後には、研削抵抗F(t)が一定となるようにする。そうすると、時刻tにおける研削抵抗F(t)と時刻t+Tにおける研削抵抗F(t+T)が一致することになる。つまり、式(8)のように表される。また、切込量−ε(t)も一定となるようにするため、時刻tにおける切込量−ε(t)と時刻t+Tにおける切込量−ε(t+T)が一致することになる。つまり、式(9)のように表される。
【0061】
【数5】

【0062】
式(8)(9)の関係を、式(7)に代入すると、式(10)のように表される。つまり、時刻ta以降における単位時間当たりの砥石台42のX軸方向の移動量は、時刻tにおける切込量−Δε(t)となる。
【0063】
【数6】

【0064】
そして、切込量−Δε(t)は、図8より、定寸装置60によりワークWの研削径D(t)を把握できれば、算出することができる。つまり、時刻ta以降において、定寸装置により測定されたワークWの研削径D(t)に基づいて、切込量−Δε(t)が一定となるように制御される。このような制御を、図6のステップS5における定常制御と称している。
【0065】
<他の実施形態>
上記実施形態においては、定常制御において、定寸装置60により測定されるワークWの研削径D(t)に基づいて、切込量−Δε(t)が一定となるようにした。ここで、図7(b)に示したように、時刻ta以降は、研削抵抗F(t)が一定となるようにしている。つまり、力センサ50により検出される研削抵抗F(t)が一定となるように、研削抵抗に基づくフィードバック制御を行うようにしてもよい。この場合も、上記と同様の効果を奏する。
【0066】
また、上記においては、時刻ta以降において、研削抵抗F(t)が一定となるようにしたが、研削抵抗F(t)が、時刻taにおける研削抵抗F(ta)以下となるようにしてもよい。これにより、研削精度は高くできる。ただし、研削抵抗F(t)を小さくしすぎると、研削時間が長くなるため、研削抵抗F(t)を一定とするのが最適である。
【0067】
また時刻ta以降において、単に砥石台42のX軸方向の送り速度を所定値毎に遅くなるように変更してもよい。この場合も、十分な効果を発揮できる。例えば、速度オーバーライドなどを適用する。
【0068】
また、上記実施形態においては、研削抵抗F(t)を検出するセンサとして力センサ50を用いた。この他に、研削抵抗F(t)を検出するセンサとして、例えば、砥石台42のX軸方向の移動を駆動するX軸モータ41dのモータ電流を検出するセンサが適用される。このX軸モータ41dは、上記実施形態においては、X軸ボールねじ41cを回転駆動するモータとして説明した。
【0069】
この他に、X軸モータ41dをリニアモータに置き換えて、当該X軸モータ41dのモータ電流を検出するようにしてもよい。特に、モータ電流を用いる場合には、リニアモータとする方がより高精度に研削抵抗F(t)を検出することができる。また、研削抵抗F(t)を検出するセンサとして、上記の他に、砥石回転用モータ44の動力を検出するセンサを適用して、当該動力から研削抵抗F(t)を算出することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1:研削盤
10:ベッド、 20:主軸台、 21:主軸台本体
22:主軸、 23:主軸モータ、 24:主軸センタ
30:心押台、 31:心押台本体、 32:心押センタ
40:砥石支持装置、 41:砥石台トラバースベース、 41d:X軸モータ
42:砥石台、 43:砥石車、 44:砥石回転用モータ
50:力センサ、 60:定寸装置
70:制御装置、 71:モータ制御部、 72:撓み量差算出部、 73:補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに砥石を押圧して前記ワークを撓ませながら前記ワークを研削する研削盤であって、
前記ワークと前記砥石との接触範囲における前記ワークの撓み量の差を算出する撓み量差算出手段と、
前記撓み量差算出手段により算出された前記撓み量の差が所定閾値以上となった場合に、前記砥石の前記ワークに対する相対的な送り速度を変更する制御手段と、
を備えることを特徴とする研削盤。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、前記撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における前記砥石の切込量と同一以下の前記砥石の切込量となるように前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することを特徴とする研削盤。
【請求項3】
請求項2において、
前記研削盤は、前記ワークの研削径を測定する定寸装置を備え、
前記制御手段は、前記定寸装置により測定される前記ワークの研削径に基づいて、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における前記砥石の切込量と同一以下の前記砥石の切込量となるように、前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することを特徴とする研削盤。
【請求項4】
請求項1において、
前記制御手段は、前記撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における研削抵抗と同一以下の研削抵抗となるように前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することを特徴とする研削盤。
【請求項5】
請求項4において、
前記研削盤は、前記研削抵抗を検出する抵抗検出センサを備え、
前記制御手段は、前記抵抗検出センサにより検出される前記研削抵抗に基づいて、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における研削抵抗と同一以下の研削抵抗となるように、前記研削抵抗によるフィードバック制御を行うことによって、前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することを特徴とする研削盤。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御手段は、前記撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記撓み量の差が前記所定閾値に達した時点における前記相対的な送り速度以下の前記相対的な送り速度となるように、前記ワークと前記砥石の相対位置を制御することを特徴とする研削盤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記制御手段は、研削抵抗の増加に伴って前記ワークの撓み量が増加している際に、前記ワークの撓み量の差が前記所定閾値以上となったか否かを判定することを特徴とする研削盤。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項において、
前記制御手段は、前記砥石の前記接触範囲の幅方向両端の撓み量の差が前記所定閾値以上となった場合に、前記相対的な送り速度を変更することを特徴とする研削盤。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項において、
前記撓み量差算出手段は、前記砥石の前記接触範囲の幅方向両端の撓み量の差、および、前記砥石の前記接触範囲の幅方向中央の撓み量と前記砥石の前記接触範囲の端部の撓み量との差を算出し、
前記制御手段は、算出された前記撓み量の差のうちの最大値が、前記所定閾値以上となった場合に、前記相対的な送り速度を変更することを特徴とする研削盤。
【請求項10】
ワークに砥石を押圧して前記ワークを撓ませながら前記ワークを研削する方法であって、
前記ワークと前記砥石との接触範囲における前記ワークの撓み量の差が所定閾値以上となった場合に、前記砥石の前記ワークに対する相対的な送り速度を変更することを特徴とする研削方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−104675(P2011−104675A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259716(P2009−259716)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】