説明

研磨剤及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法

【課題】絶縁膜を平坦化するCMP技術において、絶縁膜を高速かつ低研磨傷で研磨でき、また酸化珪素膜とストッパ膜との高い研磨速度比を有する研磨剤を提供する。
【解決手段】水、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤を含有する研磨剤であって、該添加剤はカチオン性の重合体および多糖類の少なくとも一方を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子製造技術である、基板表面の平坦化工程、特に、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等の平坦化工程において使用される研磨剤、それを保管する際の研磨剤セット及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子製造工程では、高密度化・微細化のための加工技術の重要性がますます増している。その一つであるCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング:化学機械研磨)技術は、半導体素子の製造工程において、シャロートレンチ分離の形成、プリメタル絶縁膜や層間絶縁膜の平坦化、プラグ及び埋め込み金属配線の形成に必須の技術となっている。
【0003】
従来、半導体素子の製造工程において、CVD(ケミカル・ベーパー・デポジション:化学基層成長)法や回転塗布法等の方法で形成される酸化珪素膜などの絶縁膜を平坦化するために、フュームドシリカ系の研磨剤が一般的に検討されている。フュームドシリカ系研磨剤は、四塩化珪酸を熱分解する等の方法で粒成長させ、pH調整を行って製造している。
【0004】
しかしながら、この様なシリカ系研磨剤は、研磨速度が低いという技術課題がある。また、デザインルール0.25μm以降の世代では、集積回路内の素子分離にシャロートレンチ分離が用いられている。
【0005】
シャロートレンチ分離では、基板上に成膜した余分の酸化珪素膜を除くためにCMPが使用され、研磨を停止させるために、酸化珪素膜の下に研磨速度の遅いストッパ膜が形成される。ストッパ膜には窒化珪素などが使用され、酸化珪素膜とストッパ膜との研磨速度比が大きいことが望ましい。従来のコロイダルシリカ系の研磨剤は、上記の酸化珪素膜とストッパ膜の研磨速度比が3程度と小さく、シャロートレンチ分離用としては実用に耐える特性を有していなかった。
【0006】
一方、フォトマスク、レンズ等のガラス表面研磨剤として、酸化セリウム系研磨剤が用いられている。酸化セリウム系研磨剤は、シリカ系研磨剤やアルミナ系研磨剤に比べて研磨速度が速い利点がある。
【0007】
近年、高純度酸化セリウム砥粒を用いた半導体用研磨剤が使用されている。例えば、その技術は特許文献1に開示されている。また、酸化セリウム系研磨剤の研磨速度を制御し、グローバルな平坦性を向上させるために添加剤を加えることが知られている。例えば、この技術は特許文献2に開示されている。
【0008】
近年、半導体素子製造工程はさらに微細化が進行しており、研磨時に発生する研磨傷が問題となってきた。この問題に対し、上記のような酸化セリウムを用いた研磨剤の、酸化セリウム粒子の平均粒径を小さくする試みがなされているが、平均粒径を小さくすると機械的作用が低下するため、研磨速度が低下してしまう問題がある。
【0009】
この問題に対し、4価の金属水酸化物粒子を用いた研磨剤が検討されており、この技術は特許文献3に開示されている。この技術は、4価の金属水酸化物粒子の化学的作用を活かし、かつ機械的作用を極力小さくし、それによって粒子による研磨傷の低減と、研磨速度の向上とを両立させようとしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特開平10−106994号公報
【特許文献2】日本国特開平08−022970号公報
【特許文献3】国際公開第02/067309号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、研磨速度は一般的に高い方が好まれるため、研磨傷を低く抑えつつ、さらに高速に研磨できる研磨剤が求められている。一般的に、研磨速度は砥粒の濃度を増やすことによって向上するが、同時に研磨傷を増加させるポテンシャルを上げてしまう。このため、砥粒の濃度を増やすことなく、高速に研磨できる研磨剤が望ましい。
【0012】
また、シャロートレンチ分離用の研磨剤の場合には、酸化珪素と窒化珪素の研磨速度比を得ること、すなわち高い選択比が得られることが求められる。この点について、前記特許文献3に記載される研磨剤も所定の選択比が得られることが記載されているが、選択比は大きければ大きいほど良いので、さらに高い選択比を有する研磨剤が求められている。
【0013】
本発明は、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、絶縁膜を高速かつ低研磨傷で研磨できる研磨剤及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法を提供するものである。
【0014】
さらに、酸化珪素膜とストッパ膜との高い研磨速度比を有する研磨剤、それを保管する際の研磨剤セット及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法を提供するものである。
【0015】
さらに、低砥粒濃度においても高速に研磨できる研磨剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤として、カチオン性の重合体および多糖類の少なくとも一方を含む研磨剤を提供することを特徴としている。
【0017】
この添加剤に含まれるアミノ基は、4価の金属水酸化物粒子及び/又は被研磨膜に作用する。この際、アミノ基−酸化珪素膜、アミノ基−ストッパ膜の相互作用の差により、高い酸化珪素膜とストッパ膜の研磨速度比をもたらすものと推定される。すなわち、上記アミノ基が、特に酸化珪素膜とストッパ膜とにそれぞれ相互作用し、場合によって吸着するが、その相互作用の程度に差がある。例えば、酸化珪素に対しては影響は小さいが、ストッパ膜に対しては保護膜となって研磨を阻害する。このため、結果として研磨速度に差が生じるものと推測される。
【0018】
さらに、カチオン性の、重合体および多糖類は、砥粒濃度の低濃度化にも効果がある。研磨中、研磨パッドの切削屑が発生し、一部の砥粒は切削屑に吸着されてしまい、研磨に寄与しない無効砥粒となる。砥粒濃度を低濃度にすると、前記吸着による無効砥粒が無視できなくなり、研磨速度が低下してしまう。一方、カチオン性の重合体または多糖類は、研磨パッドの切削屑に吸着し、表面の電荷を正電荷に変化させ、砥粒の吸着を抑制する。これにより無効砥粒が減少し、低砥粒濃度としても実用的な研磨速度を得ることができ、コスト、廃棄物の観点から有効である。
【0019】
本発明は、以下の(1)〜(14)に関する。
【0020】
(1)水、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤を含有する研磨剤であって、該添加剤はカチオン性の重合体および多糖類の少なくとも一方を含む研磨剤。
【0021】
(2)水、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤を含有する研磨剤であって、前記添加剤のうち少なくとも1成分が、以下の[1]〜[6]からなる群から選ばれる研磨剤。
【0022】
[1]アミノ糖又はアミノ糖をもつ多糖類
[2]エチレンイミン重合体又はその誘導体
[3]アリルアミン重合体又はその誘導体
[4]ジアリルアミン重合体又はその誘導体
[5]ビニルアミン重合体又はその誘導体
[6]下記一般式(I)〜(IV)の群から選ばれる少なくとも1種類の単量体成分を含む重合体
【化1】

【0023】
(一般式(I)〜(IV)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表しXは2価の有機基を表す。)
(3)前記4価の金属水酸化物粒子の平均粒径が、1nm以上400nm以下である前記(1)または(2)に記載の研磨剤。
【0024】
(4)研磨剤のpHが3.0以上7.0以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の研磨剤。
【0025】
(5)前記4価の金属水酸化物粒子の含有量が、研磨剤100重量部に対して0.001重量部以上5重量部以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の研磨剤。
【0026】
(6)前記4価の金属水酸化物粒子の研磨剤中でのゼータ電位が、+10mV以上である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の研磨剤。
【0027】
(7)前記カチオン性の重合体および多糖類の合計の含有量が、研磨剤100重量部に対して0.0001重量部以上である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の研磨剤。
【0028】
(8)前記添加剤が、キトサンおよびその誘導体のいずれかである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の研磨剤。
【0029】
(9)さらにポリビニルアルコールを含有する前記(1)〜(8)のいずれかに記載の研磨剤。
【0030】
(10)少なくとも表面に酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用される前記(1)〜(9)のいずれかに記載の研磨剤。
【0031】
(11)4価の金属水酸化物が、希土類金属水酸化物及び水酸化ジルコニウムの少なくとも一方である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の研磨剤。
【0032】
(12)被研磨膜を形成した基板を研磨定盤の研磨布に押しあて加圧し、前記(1)〜(11)のいずれかに記載の研磨剤を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する基板の研磨方法。
【0033】
(13)前記研磨布のショアD硬度が70以上である研磨布を用いる前記(12)記載の研磨方法。
【0034】
(14)スラリと、添加液とに分けて保存され、研磨直前又は研磨時に混合されて前記(1)〜(11)のいずれかに記載の研磨剤とされる研磨剤セットであって、スラリは4価の金属水酸化物粒子と水を含み、添加液は添加剤と水を含む研磨剤セット。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、絶縁膜を高速かつ低研磨傷で研磨することができる研磨剤及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法を提供することを目的とするものである。
【0036】
さらに、酸化珪素膜とストッパ膜との高い研磨速度比を有する研磨剤、それを保管する際の研磨剤セット及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法を提供することを目的とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】評価用ウエハの部分拡大断面図である。
【図2】評価用ウエハの上面図である。
【図3】図2の凹凸の領域分布を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の研磨剤とは、水、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤を含有し、研磨時に被研磨膜に触れさせる組成物のことである。以下、各成分及び任意に添加できる成分について、順に説明する。
【0039】
本発明の研磨剤において、砥粒として4価の金属水酸化物粒子を適用する。4価の金属水酸化物粒子は、シリカや酸化セリウム等の従来の砥粒と比較して、酸化珪素との反応性が高く、高研磨速度である点で好ましい。
【0040】
4価の金属水酸化物粒子としては、希土類金属水酸化物及び水酸化ジルコニウムの少なくとも一方を使用するのが好ましい。希土類金属水酸化物及び水酸化ジルコニウムから二種以上を選択して使用してもよい。希土類金属水酸化物としては、水酸化セリウムを使用することが高研磨速度である点で好ましい。
【0041】
4価の金属水酸化物粒子を作製する方法として、4価の金属塩とアルカリ液とを混合する手法が使用できる。この方法は、例えば、「希土類の科学」(足立吟也編、株式会社化学同人、1999年)304〜305頁に説明されている。
【0042】
4価の金属塩として、例えば、M(SO、M(NH(NO、M(NH(SO(ただし、Mは希土類元素を示す。)、Zr(SO・4HOが好ましい。特に、化学的に活性なCeがより好ましい。
【0043】
アルカリ液は、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが使用できる。好ましくはアンモニア水が良い。上記方法で合成された4価の金属水酸化物粒子は、洗浄して金属不純物を除去できる。金属水酸化物の洗浄は、遠心分離などで固液分離を数回繰り返す方法等が使用できる。
【0044】
上記で得られた4価の金属水酸化物粒子は凝集しているため、適切な方法で水中に分散させることが好ましい。4価の金属水酸化物粒子を主な分散媒である水中に分散させる方法としては、通常の攪拌機による分散処理の他に、ホモジナイザ、超音波分散機、湿式ボールミル等を用いることができる。分散方法、粒径制御方法については、例えば、「分散技術大全集」(株式会社情報機構、2005年7月)に記述されている方法を用いることができる。
【0045】
こうして作製された、研磨剤中の4価の金属水酸化物粒子の平均粒径は、研磨速度が低くなりすぎることを避ける点で、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、研磨する膜に傷がつきにくくなる点で、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
また、研磨剤中の4価の金属水酸化物粒子の比表面積は、被研磨膜と化学的作用を増大させて研磨速度を向上させる観点から、100m/g以上であることが好ましい。粒子の比表面積はBET法によって測定できる。
【0047】
本発明で、4価の金属水酸化物粒子の平均粒径とは、動的光散乱法を用い、キュムラント解析で得られるZ−average Sizeをいう。測定には、例えば、マルバーン社製商品名ゼータサイザーナノSを使用できる。より具体的な例としては、4価の金属水酸化物粒子の濃度を、0.2重量部となるように水で希釈し、1cm角のセルに約1mL入れ、ゼータサイザーナノSに設置する。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887とし、25℃において測定を行い、Z−average Sizeとして表示される値を読み取る。
【0048】
4価の金属水酸化物粒子の濃度は、好適な研磨速度を得ることができる点で、研磨剤100重量部に対して0.05重量部以上であることが好ましく、0.1重量部以上であることがより好ましい。また、研磨剤の保存安定性を高くできる点で、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、2重量部以下がさらに好ましい。
【0049】
本発明における研磨剤は、添加剤を含む。ここで添加剤とは、4価の金属水酸化物粒子の分散性、研磨特性、保存安定性等を調整するために、水、4価の金属水酸化物粒子以外に含まれる物質を指す。
【0050】
本発明における添加剤は、カチオン性の、重合体および多糖類の少なくとも一方を含む。カチオン性の重合体および多糖類は、分子内にカチオンとなる官能基を有する化合物であり、カチオンとなる官能基としては、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基、含窒素複素環化合物から水素原子を一つ除いた基(例えば、ピリジン環、イミダゾール環、トリアゾール環)があげられる。
【0051】
具体的には、
(1)アミノ糖又はアミノ糖をもつ多糖類、(2)エチレンイミン重合体又はその誘導体、(3)アリルアミン重合体又はその誘導体、(4)ジアリルアミン重合体又はその誘導体、(5)ビニルアミン重合体又はその誘導体、(6)下記一般式(I)〜(IV)の群から選ばれる少なくとも1種類の単量体成分を含む重合体からなる群から、少なくとも一成分が選ばれる。これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。以下、(1)〜(6)について説明する。
【化2】

【0052】
(一般式(I)〜(IV)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表しXは2価の有機基を表す。)
(1)アミノ糖又はアミノ糖をもつ多糖類
本発明において、アミノ糖とは、アミノ基を有する糖類であり、グルコサミン、ガラクトサミンがあげられ、これらの誘導体でもよい。
【0053】
誘導体としては、例えば、N−アセチルグルコサミン、硫酸グルコサミン、N‐カルバモイルグルコサミン、グルコサミン塩酸塩、グルコサミン酢酸塩、グルコサミン硫酸塩、N−アセチルガラクトサミン等が挙げられる。
【0054】
また、本発明において、アミノ糖をもつ多糖類とは、単糖類がグリコシド結合で結合したものであり、前記アミノ糖を少なくとも1つ以上含むものである。このようなアミノ糖を持つ多糖類としては、キチン、キトサン、グルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、デルマタン硫酸等が挙げられ、これらの誘導体でもよい。
【0055】
研磨速度、高い酸化珪素膜とストッパ膜の研磨速度比(以下、選択比とも言う。)の観点から、キトサン及びキトサン誘導体が好ましい。
【0056】
キトサン誘導体としては、例えば、キトサンピロリドンカルボン酸塩、カチオン化キトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、キトサン乳酸塩、グリセリル化キトサン、グリコールキトサン、カルボキシメチルキトサン(CM−キトサン)、カルボキシメチルキトサンサクシナミド等が挙げられる。
【0057】
添加剤としてキトサンを用いる場合、脱アセチル化度は、選択比を向上させる観点から、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上が最も好ましい。なお、キトサンの脱アセチル化度は、キチン、キトサン研究会編「キチン、キトサン実験マニュアル」技報道出版(1994)記載のコロイド滴定法により測定した値のことである。
【0058】
また、添加剤としてキトサンを用いる場合、キトサン水溶液の粘度は、研磨剤の取扱い性と研磨速度の観点から、1〜10000mPa・sであることが好ましく、1〜2000mPa・sがより好ましく、2〜1000mPa・sであることが最も好ましい。ここでキトサン水溶液の粘度とは、キトサン0.5%及び酢酸0.5%からなる水溶液を、20℃にてB型粘度計を用いて測定した値であり、キトサンの分子量と相関することが知られている。
【0059】
添加剤として用いるカチオン性の重合体および多糖類の合計の濃度は、研磨剤100重量部に対して0.0001重量部以上が好ましく、0.0005重量部以上5重量部以下がより好ましく、0.001重量部以上0.5重量部以下が最も好ましい。該添加剤の濃度が低すぎると選択比が低下する傾向があり、逆に高すぎると研磨速度が低下しやすい傾向がある。
【0060】
(2)エチレンイミン重合体又はその誘導体
本発明において、エチレンイミン重合体とは、エチレンイミンを重合したポリマのことであり、直鎖であっても、分岐構造を有していてもよい。また、エチレンイミン重合体は、アミノ基を有するが、このアミノ基は1級、2級、3級、4級アミンのいずれであってもよく、分子内に複数種混在していてもよい。
【0061】
また、エチレンイミン重合体のアミノ基を修飾し、誘導体として用いても良い。修飾方法としては、特に制限はないが、例えば、アルデヒド類、ケトン類、アルキルハライド、イソシアネート類、チオイソシアネート類、2重結合、エポキシ化合物、シアナマイド類、グアニジン類、尿素、カルボン酸、酸無水物、アシルハライド等と反応させる方法が挙げられる。
【0062】
添加剤として用いるエチレンイミン重合体又はその誘導体の分子量は、水に溶解できるのであれば特に制限はないが、重量平均分子量で100以上が好ましく、300以上100万未満がより好ましく、1000以上20万未満が最も好ましい。分子量が小さすぎると酸化珪素膜とストッパ膜の研磨速度比(以下、選択比という。)が低下する傾向があり、大きすぎると粘度が上昇しすぎて取り扱い性が低下する傾向がある。
【0063】
(3)〜(5)アリルアミン重合体、ジアリルアミン重合体、ビニルアミン重合体又はその誘導体
本発明において、アリルアミン重合体、ジアリルアミン重合体、ビニルアミン重合体(以下、これらの重合体をまとめてアリルアミン系重合体ということがある)とは、アリルアミン、ジアリルアミン、ビニルアミン(以下これらの化合物をアリルアミン系単量体ということがある)を単量体の一つとして重合させた重合体のことであり、これらの誘導体であっても、他の単量体との共重合体であってもよい。また、これらの重合体はアミノ基を有するが、1級、2級、3級、4級のいずれであってもよく、また複数種有していてもよい。
【0064】
アリルアミン系重合体において、アリルアミン系単量体以外を単量体成分として使用する場合、他の単量体化合物としては、アリルアミン系単量体と重合できれば特に制限はなく、具体的には例えば、二酸化硫黄、分子内に炭素−炭素二重結合を有する単量体化合物として、マレイン酸、フマル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0065】
アリルアミン重合体は、例えば、アリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミンアミド硫酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩共重合体、アリルアミン・ジメチルアリルアミン共重合体、部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、部分メチルカルボニル化アリルアミン酢酸塩重合体等を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0066】
ジアリルアミン重合体は具体的には例えば、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、部分3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体、ジアリルアミンアミド硫酸塩・マレイン酸共重合体重合体、マレイン酸・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体等を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0067】
ビニルアミン重合体は具体的には例えば、ビニルアミン共重合体、ビニルアルコール・ビニルアミン共重合体等を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0068】
添加剤として用いるアリルアミン系重合体の重量平均分子量としては、水に溶解できるのであれば特に制限はないが、100以上が好ましく、300以上100万未満がより好ましく、1000以上30万未満が最も好ましい。分子量が小さすぎると酸化珪素膜とストッパ膜の研磨速度比(以下、選択比という。)が低下する傾向があり、大きすぎると粘度が上昇しすぎて取り扱い性が低下する傾向がある。
【0069】
(6)下記一般式(I)〜(IV)の群から選ばれる少なくとも1種類の単量体成分を含む重合体
(I)〜(IV)の群から選ばれる少なくとも1種類の単量体成分を含む重合体は、下記(I)〜(IV)の群から選ばれる少なくとも1種類の単量体成分を単量体の一つとして重合させた重合体のことである。
【化3】

【0070】
(一般式(I)〜(IV)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表しXは2価の有機基を表す。)
上記一般式(I)〜(IV)において、R〜Rで表される一価の有機基としては、特に制限はないが、具体的には、例えば、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、シアノ基等を挙げることができ、それらの基が置換基を有していてもよい。中でも、入手性や水への溶解性の観点から、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0071】
上記一般式(I)〜(IV)において、具体的にXで表される二価の有機基としては、特に制限はないが、具体的には例えば、炭素数1〜6のアルキレン基、フェニレン基等を挙げることができ、これらの基が置換基を有していてもよい。中でも、入手性や水への溶解性の観点から、炭素数1〜3のアルキレン基がより好ましい。
【0072】
本発明で用いるカチオン性単量体成分を含む重合体は、種々の当業者公知の合成法により製造できる。例えば、上記カチオン性単量体成分の炭素−炭素2重結合部分をラジカル重合させる方法等が利用できる。
【0073】
また、本発明において、添加剤として(I)〜(IV)の単量体成分のみを重合させた、重合体(ホモポリマ)又は共重合体(コポリマ)を用いてもよく、(I)〜(IV)以外の単量体成分との共重合体(コポリマ)であっても良い。
【0074】
共重合体を使用する場合、上記(I)〜(IV)の単量体成分と併用する単量体成分としては、水溶性であれば特に制限はないが、ノニオン性単量体成分やアニオン性単量体成分を用いることができ、研磨剤の保存安定性の観点から、ノニオン性単量体成分が好ましい。
【0075】
上記一般式(I)〜(IV)の単量体成分のみからなる、重合体(ホモポリマ)又は共重合体を使用する場合の使用量としては、研磨剤100重量部に対して0.0001重量部以上が好ましく、0.00052重量部以上5重量部以下がより好ましく、0.0051重量部以上0.52重量部以下が最も好ましい。該添加剤の濃度が低すぎると選択比が低下する傾向があり、逆に高すぎると研磨速度が低下しやすい傾向がある。
【0076】
上記一般式(I)〜(IV)の単量体成分と、他の単量体成分との共重合体(コポリマ)を使用する場合の使用量としては、研磨剤100重量部に対して0.0001重量部以上が好ましく、0.00052重量部以上5重量部以下がより好ましく、0.0051重量部以上0.52重量部以下が最も好ましい。
【0077】
また、カチオン性の重合体および多糖類は、研磨剤の安定性を向上させる効果もある。特にキトサンは、その水酸基が研磨粒子と相互作用することにより、凝集を抑制し、研磨剤の粒径変化を抑制して安定性を向上できるため特に好ましい。
【0078】
本発明において、添加剤として用いるカチオン性の重合体および多糖類は、分子内に有する−NRや−N(Rは水素原子又は1価の有機基)が、酸化珪素膜やストッパ膜(例えば窒化珪素)と相互作用するが、相互作用の程度が異なる。この差により、高い選択比をもたらすことが可能となる。
【0079】
したがって、−NRや−N構造を有することが重要である。また、特に、多糖類の場合、相互作用の差を大きくとることができ、選択比を向上できることからより好ましい。
【0080】
添加剤として用いるカチオン性単量体成分を含む重合体の重量平均分子量としては、水に溶解できるのであれば特に制限はないが、100以上が好ましく、300以上、100万未満がより好ましく、1000以上、30万未満が最も好ましい。重量平均分子量が100以上であれば、選択比が充分高くなる傾向があり、100万未満であれば粘度が適切で取り扱い性が容易な傾向がある。
【0081】
本発明における研磨剤は、カチオン性の重合体および多糖類の他に、さらに別の添加剤(以下、第二の添加剤ともいう。)を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、カルボン酸、アミノ酸、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。中でも、分散性、研磨速度の観点から、カルボン酸、アミノ酸、両性界面活性剤が好ましい。
【0082】
カルボン酸は、pHを安定化させる効果があり、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸等が挙げられる。
【0083】
アミノ酸は、上記4価の金属水酸化粒子の分散性を向上させ、研磨速度を向上させる効果があり、具体的には、例えば、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、チロシン、トリプトファン、セリン、トレオニン、グリシン、アラニン、β−アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシンが挙げられる。
【0084】
両性界面活性剤も、上記4価の金属水酸化粒子の分散性を向上させ、研磨速度を向上させる効果があり、具体的には、例えば、ベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。中でも、分散性安定性が向上する観点から、ベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインがさらに好ましい。
【0085】
陰イオン性界面活性剤は、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する効果があり、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、特殊ポリカルボン酸型高分子分散剤等が挙げられる。
【0086】
非イオン性界面活性剤は、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する効果があり、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0087】
陽イオン性界面活性剤、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する効果があり、例えば、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0088】
これら第二の添加剤の添加量は、研磨剤100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下の範囲が好ましい。添加量が10重量部以下であれば沈降が低減される傾向がある。
【0089】
これらの添加剤のうち、分散性安定性が向上する観点から、両性界面活性剤剤が好ましく、ベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインがさらに好ましい。
【0090】
また、本発明の研磨剤は、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する目的で、他の水溶性高分子を含んでいてもよい。ここで水溶性とは、水100gに対して、0.1g以上溶解すれば水溶性であるとする。他の水溶性高分子の具体例としては、特に制限はなく、例えば、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン及びプルラン等の多糖類;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリアミド酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩及びポリグリオキシル酸などのポリカルボン酸及びその塩;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレインなどのビニル系ポリマ;ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド等のアクリル系ポリマ、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。また、ポリビニルアルコールは、平坦性を向上でき、特に好ましい。
【0091】
これら水溶性高分子の重量平均分子量は、研磨特性を調整する効果を得る点で、500以上が好ましい。また、これら水溶性高分子の配合量は研磨剤100重量部に対して、0.01重量部以上添加することが好ましい。また、添加量は5重量部以下の範囲で添加することが好ましい。5重量部以下であれば粒子のサイズによらず粒子の凝集沈降を避けることができる。
【0092】
本発明における研磨剤は、例えば、上記の特徴を有する4価の金属水酸化物粒子と、カチオン性の重合体および/または多糖類である添加剤と、水を配合して粒子を分散させ、必要に応じさらに第二の添加剤や水溶性高分子を添加することによって得られる。
【0093】
多糖類や高分子の分子量は、静的光散乱法を用いて測定することができる。本発明において測定は、マルバーン社製、商品名ゼータサイザーナノSを使用し、濃度の異なる試料の散乱光量を測定し、Debyeプロットを行って求める。また、この際、屈折率の濃度増分(dn/dC)は、示差屈折計(大塚電子製商品名DRM−3000)を用いて測定する。なお、いずれも測定は水を溶媒とし、25℃で行う。
【0094】
具体的には、例えば、多糖類や高分子の濃度が0.01mg/mL〜5mg/mLとなるように溶解し、0.2μmのフィルタでろ過し、濃度の異なる試料溶液を4つ以上調製する。まず、標準物質として、ろ過したトルエンを1cm角の石英セルに1mL程度入れ、ゼータサイザーナノSの試料室にセットし、散乱光量を測定する。同様の方法で水を測定し、溶媒の散乱光量を測定する。次いで順次試料溶液を測定し、試料溶液の散乱光量を測定する。
【0095】
一方、示差屈折計DRM−3000の試料注入部に水5mL注入し、5分程度放置してからゼロ点調整をし、1分間測定を行う。次いで、上記試料溶液を3mL注入し、5分程度放置してから測定を行う。濃度に対して屈折率をプロットし、dn/dCとして表示される値を読み取る。
【0096】
一連の測定後、ゼータサイザーナノSのソフトウェアで、dn/dCに上記測定で得られた値、Shape Correction ModelにSmall Moleculeを選び、Debyeプロットを行い、Molecular Weightとして表示される値を読み取る。
【0097】
本発明の研磨剤のpHは、研磨剤の保存安定性や研磨速度に優れる点で3.0以上、7.0以下の範囲にあることが好ましい。pHの下限は主に研磨速度に影響し、3.0以上であることがよりこのましく、4.0以上であることがさらに好ましい。また、上限は主に保存安定性に影響し、7.5以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。
【0098】
pHは、酸成分又はアンモニア、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、イミダゾール等のアルカリ成分の添加によって調整可能である。また、pHを安定化させるため、緩衝液を添加してもよい。このような緩衝液としては、例えば、酢酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液などが挙げられる。
【0099】
本発明の研磨剤のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製のModel pH81)で測定する。フタル酸塩pH緩衝液(pH4.01)と中性りん酸塩pH緩衝液(pH6.86)を標準緩衝液として用いてpHメータを2点校正した後、pHメータの電極を研磨剤に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。このとき、標準緩衝液と研磨剤の液温は共に25℃とする。
【0100】
研磨剤の分散性の評価方法として、本発明では、研磨剤中の粒子のゼータ電位を用いることができる。ゼータ電位測定には、例えば、マルバーン社製、商品名ゼータサイザー3000HSを使用でき、例えば、研磨剤をゼータサイザー3000HSの推奨される散乱光量となるように水で希釈して測定することができる。良好な分散性を得るためには、粒子のゼータ電位は+10mV以上の正の電荷に帯電していることが好ましく、より具体的には、+10〜+70mVの範囲内であることが好ましい。
【0101】
本発明の研磨剤は、少なくとも4価の金属水酸化物粒子と水を含む4価の金属水酸化物スラリと、少なくとも添加剤と水を含む添加液とを分けた二液式の研磨剤セットとして保存しても、4価の金属水酸化物粒子、添加剤、水を含んだ一液式研磨剤として保存してもよい。前記研磨剤セットは、研磨直前又は研磨時に混合されて研磨剤とされる。
【0102】
また、いずれの場合においても、水の含有量を減じた濃縮4価の金属水酸化物スラリ、濃縮添加液、濃縮研磨剤として保存し、研磨時に水で希釈して用いてもよい。
【0103】
4価の金属水酸化物スラリと添加液とを分けた二液式研磨剤として保存する場合、これら二液の配合を任意に変えられることにより研磨速度の調整が可能となる。二液式研磨剤で研磨する場合、研磨定盤上への研磨剤の供給方法としては、例えば、4価の金属水酸化物スラリと添加液とを別々の配管で送液し、これらの配管を合流、混合させて供給する方法、濃縮4価の金属水酸化物スラリ、濃縮添加液、水を別々の配管で送液し、これらを合流、混合させて供給する方法、あらかじめ4価の金属水酸化物スラリ、添加液を混合しておき供給する方法、あらかじめ濃縮4価の金属水酸化物スラリ、濃縮添加液、水を混合しておき供給する方法などを用いることができる。
【0104】
4価の金属水酸化物粒子、添加剤、水を含んだ一液式研磨剤の場合、研磨定盤上への研磨剤の供給方法としては、例えば、研磨剤を直接送液して供給する方法、濃縮研磨剤、水を別々の配管で送液し、これらを合流、混合させて供給する方法、あらかじめ濃縮研磨剤、水を混合しておき供給する方法などを用いることができる。
【0105】
本発明の研磨方法は、被研磨膜を形成した基板を研磨定盤の研磨布に押し当て加圧し、上記本発明の研磨剤を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨することを特徴とする。
【0106】
基板として、半導体素子製造に係る基板、例えばシャロートレンチ分離パターン、ゲートパターン、配線パターン等が形成された半導体基板上に絶縁膜が形成された基板が挙げられる。そして、被研磨膜は、これらのパターンの上に形成された絶縁膜、例えば酸化珪素膜や窒化珪素膜等が挙げられる。
【0107】
このような半導体基板上に形成された酸化珪素膜や窒化珪素膜を上記研磨剤で研磨することによって、酸化珪素膜層表面の凹凸を解消し、半導体基板全面にわたって平滑な面とすることができる。このように、本発明の研磨剤は、少なくとも表面に酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用されるのが好ましい。
【0108】
また、本発明の研磨剤は、シャロートレンチ分離にも好適に使用できる。シャロートレンチ分離に使用するためには、選択比が10以上であることが好ましい。選択比が10未満では、酸化珪素膜研磨速度とストッパ膜研磨速度の差が小さく、シャロートレンチ分離をする際、所定の位置で研磨を停止しにくくなるためである。選択比が10以上の場合は研磨の停止が容易になり、シャロートレンチ分離により好適である。
【0109】
また、シャロートレンチ分離に使用するためには、研磨時に傷の発生が少ないことが好ましい。ストッパ膜としては、例えば、窒化珪素、ポリシリコン等を用いることができる。
【0110】
さらに、プリメタル絶縁膜の研磨にも使用できる。プリメタル絶縁膜として、酸化珪素の他、例えば、リン−シリケートガラスやボロン−リン−シリケートガラスが使用され、さらに、シリコンオキシフロリド、フッ化アモルファスカーボン等も使用できる。
【0111】
以下、絶縁膜が形成された半導体基板の場合を例に挙げて研磨方法を説明する。
【0112】
本発明の研磨方法において、研磨する装置としては、半導体基板等の被研磨膜を有する基板を保持可能なホルダーと、研磨布(以後、研磨パッド、パッドと呼ぶこともある。)を貼り付け可能な研磨定盤とを有する一般的な研磨装置が使用できる。
【0113】
基板ホルダーと研磨定盤には、それぞれに回転数が変更可能なモータ等が取り付けてある。例えば、株式会社荏原製作所製の研磨装置:型番EPO−111が使用できる。
【0114】
研磨布としては、一般的な不織布、発泡体、非発泡体などが使用でき、材質としてはポリウレタン、アクリル、ポリエステル、アクリル−エステル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン、セルロース、セルロースエステル、ナイロン及びアラミド等のポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリシロキサン共重合体、オキシラン化合物、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂等の樹脂が使用できる。特に研磨速度や平坦性の観点から、発泡ポリウレタン、非発泡ポリウレタンが好ましい。
【0115】
また、研磨布のショアD硬度は、平坦性を向上させる観点から、70以上が好ましく、75以上がより好ましく、80以上が特に好ましい。ショアD硬度はショアD硬度計(例えば高分子計器(株)アスカーゴム硬度計 形式D)で測定できる。
【0116】
また、研磨布には研磨剤がたまるような溝加工を施すことが好ましい。研磨条件に制限はないが、定盤の回転速度は半導体基板が飛び出さないように200min−1以下が好ましく、半導体基板にかける圧力(加工荷重)は研磨傷が発生しないように100kPa以下が好ましい。研磨している間、研磨布には研磨剤をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨剤で覆われていることが好ましい。
【0117】
研磨終了後の半導体基板は、流水中で良く洗浄して基板に付着した粒子を除去することが好ましい。洗浄には純水以外に希フッ酸やアンモニア水を併用してもよく、洗浄効率を高めるためにブラシを併用してもよい。また、洗浄後はスピンドライヤなどを用いて半導体基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。
【0118】
本発明の研磨剤が使用される絶縁膜の作製方法として、低圧CVD法、準常圧CVD法、プラズマCVD法等に代表されるCVD法や、回転する基板に液体原料を塗布する回転塗布法などが挙げられる。
【0119】
低圧CVD法による酸化珪素膜は、例えば、モノシラン(SiH)と酸素(O)を熱反応させることにより得られる。低圧CVD法による窒化珪素膜は、例えば、ジクロルシラン(SiHCl)とアンモニア(NH)を熱反応させることにより得られる。
【0120】
準常圧CVD法による酸化珪素膜は、例えばテトラエトキシシラン(Si(OC)とオゾン(O)を熱反応させることにより得られる。プラズマCVD法による酸化珪素膜は、例えばモノシランと二酸化窒素(NO)をプラズマ反応させることにより得られる。
【0121】
その他の例として、テトラエトキシシランと酸素をプラズマ反応させても同様に酸化ケイ素膜が得られる。
【0122】
プラズマCVD法による窒化珪素膜は、例えば、モノシラン、アンモニア及び窒素(N)をプラズマ反応させることにより得られる。
【0123】
回転塗布法による酸化珪素膜は、例えば無機ポリシラザンや無機シロキサン等を含む液体原料を基板上に塗布し、炉体などで熱硬化反応させることにより得られる。
【0124】
以上のような方法で得られた酸化珪素膜、窒素珪素膜等の絶縁膜の膜質を安定化させるために、必要に応じて200℃〜1000℃の温度で熱処理をしてもよい。
【0125】
また、以上のような方法で得られた酸化珪素膜には、埋込み性を高めるために微量のホウ素(B)、リン(P)、炭素(C)等が含まれていてもよい。
【0126】
本発明の研磨剤及び研磨方法は、酸化珪素膜や窒素珪素膜のような絶縁膜以外の膜にも適用できる。例えば、Hf系、Ti系、Ta系酸化物等の高誘電率膜、シリコン、アモルファスシリコン、ポリシリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、有機半導体等の半導体膜、GeSbTeなどの相変化膜、ITOなどの無機導電膜、ポリイミド系、ポリベンゾオキサゾール系、アクリル系、エポキシ系、フェノール系等のポリマ樹脂膜等が挙げられる。
【0127】
また、本発明の研磨剤及び研磨方法は、膜状の材料だけでなく、ガラス、シリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、サファイヤ、プラスチック等の各種基板材料にも適用できる。
【0128】
さらに、本発明の研磨剤及び研磨方法は、半導体素子の製造だけでなく、TFT、有機EL等の画像表示装置、フォトマスク、レンズ、プリズム、光ファイバー、単結晶シンチレータ等の光学部品、光スイッチング素子、光導波路等の光学素子、固体レーザ、青色レーザLED等の発光素子、磁気ディスク、磁気ヘッド等の磁気記憶装置の製造に用いることができる。
【実施例】
【0129】
(水酸化セリウム粒子の合成および濃縮水酸化セリウムスラリの調製)
430gのCe(NH(NOを7300gの純水に溶解し、次いでこの溶液に240gのアンモニア水(25%水溶液)を混合・攪拌して、160gの水酸化セリウム(黄白色)を得た。
【0130】
得られた水酸化セリウムを遠心分離(1000G、5分間)によって、固液分離を施した。液体を除去し、新たに純水を加えて、再び上記条件で遠心分離を行った。このような操作を4回繰り返し、洗浄を行った。得られた水酸化セリウム粒子をBET法によって比表面積を測定したところ、200m/gであった。
【0131】
また、得られた水酸化セリウム粒子10gと水990gを混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、濃縮水酸化セリウムスラリ(水酸化セリウム濃度1重量%)を調製した。
【0132】
この濃縮水酸化セリウムスラリを水で希釈し、マルバーン社製、商品名ゼータサイザーナノSを用いて平均粒径(Z−average Size)を測定したところ、100nmであった。
【0133】
また、研磨剤中の粒子のゼータ電位を測定するため、適当な濃度に水で希釈した後、マルバーン社製、商品名ゼータサイザー3000HSを用いて測定したところ、+43mVであった。なお、測定は25℃で行った。
【0134】
(実施例1)
キトサン500(和光純薬工業株式会社製、0.5%酢酸水溶液にキトサンを0.5%溶解した場合の粘度500mPa・s)1重量%、酢酸0.3重量%及び水98.7重量%を含有する濃縮添加液を調製した。この濃縮添加液10g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水390gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液をpHが5.6になるまで加えて研磨剤を調製した。
【0135】
平均粒径は100nm、ゼータ電位は+44mVであった。なお、平均粒径およびゼータ電位は、上記と同様に測定した。
【0136】
(実施例2)
キトサン50(和光純薬工業株式会社製、0.5%キトサン、0.5%酢酸水溶液の粘度50mPa・s)1重量%、酢酸0.3重量%及び水98.7重量%を含有する濃縮添加液を調製した。この濃縮添加液10g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水390gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液をpHが5.6になるまで加えて研磨剤を調製した。
【0137】
(実施例3)
キトサン5(和光純薬工業株式会社製、0.5%キトサン、0.5%酢酸水溶液の粘度5mPa・s)1重量%、酢酸0.3重量%及び水98.7重量%を含有する濃縮添加液を調製した。この濃縮添加液10g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水390gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液をpHが5.6になるまで加えて研磨剤を調製した。
【0138】
(比較例1)
上記濃縮水酸化セリウムスラリ100gと水400gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液を所定のpHになるまで加えて研磨剤を調製した。
【0139】
(比較例2)
酸化セリウム粒子1kg、市販のポリアクリル酸アンモニウム塩水溶液(40重量%)23g及び脱イオン水8977gを混合し、攪拌しながら超音波分散を行った。1ミクロンフィルターでろ過をし、さらに脱イオン水を加えることにより酸化セリウム5重量%の濃縮酸化セリウムスラリを得た。上記の濃縮酸化セリウムスラリ100gと水900gを混合し、pHが4になるまで1N硝酸を加え、研磨剤(固形分:0.5重量%)を調製した。
【0140】
実施例2〜3、比較例1〜2の各研磨剤のpH、平均粒径及びゼータ電位を実施例1と同様に測定した。
【0141】
(絶縁膜の研磨)
研磨装置(株式会社荏原製作所製の型番EPO−111)の基板ホルダーに、直径200mmのシリコン(Si)基板上に膜厚1000nmの酸化珪素(SiO)を全面に形成した評価用ウエハを固定し、一方で直径600mmの研磨定盤に多孔質ウレタン樹脂製の研磨パッドIC−1000(ロデール社製型番、溝形状:パーフォレート)を貼り付けた。
【0142】
研磨パッド上に酸化珪素膜がパッドと接するように基板ホルダーを押し付け、加工荷重を30kPaに設定した。研磨パッド上に上記で調製した研磨剤を200mL/分の速度で滴下しながら、定盤と基板ホルダーとをそれぞれ50min−1で作動させて評価用ウエハを60秒間研磨した。
【0143】
研磨後の評価用ウエハを純水で良く洗浄後、乾燥した。その後、光干渉式膜厚装置(ナノメトリクス社製商品名Nanospec AFT−5100)を用いて、酸化珪素の残膜厚を測定した。ここで、(酸化珪素膜の減少量)/(研磨時間)より1分あたりの酸化珪素研磨速度(RR(SiO))を求めた。
【0144】
また、直径200mmのシリコン(Si)基板上に膜厚200nmの窒化珪素(SiN)を全面に形成し、同様の方法で60秒間研磨し、窒化珪素の残膜厚を測定し、1分あたりの窒化珪素研磨速度(RR(SiN))を求めた。選択比はRR(SiO)/RR(SiN)より算出した。
【0145】
また、直径200mmのシリコン(Si)基板上に膜厚1000nmの酸化珪素(SiO)を全面に形成し、同様の方法で60秒間研磨し、研磨後のウエハを純水、フッ酸、アンモニア水で良く洗浄した後、乾燥し、走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置で研磨傷数をカウントした。比較例2の研磨傷数を1として相対研磨傷数を算出した。
【0146】
上記の各実施例及び各比較例の結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0147】
表1に示されるように、本発明の研磨剤を用いることにより、研磨傷の低減、選択比の向上をもたらすことが明らかである。
【0148】
(平坦性評価用ウエハ)
パターンウエハの研磨特性の評価には、市販のCMP特性評価用ウエハ(SEMATECH 864、直径200mm)を用いた。図1は、評価用ウエハの部分拡大断面図であり、図2は、評価用ウエハの上面図であり、図3は、図2の凹凸の領域分布を示す部分拡大図である。この評価用ウエハは、シリコン基板3上へCVD法により厚み150nmの窒化珪素(SiN)膜2を成膜、その後深さ470nm(320nm+150nm)の溝を形成し、さらにHDP−CVD(高密度プラズマ化学気相成長法)により厚み610nmの酸化珪素(SiO)膜1を形成することで作製されている。
【0149】
また、前記溝、SiOは次のようなパターンとなっている。すなわち、図2に示すように、ウエハ面内が61個の領域(20mm×20mm)に分割されており、各領域は、さらに25個の小領域(4mm×4mm)に分割されている(図3)。各小領域は、2箇所を除き線条の凹凸パターンが形成されている。図3における0〜100%の数値は、それぞれ、小領域を平面視したときに見える凸部の総面積が、小領域中に占める割合(凸部面密度)を示している。0%は全てが凹部であり、一方、100%は全てが凸部からなり、線条パターンは形成されていない。また、図1、図3におけるL、Sの値は、Lが凸部の線幅、Sが凹部の線幅を示している。また、図2において、Cと表記した領域(以下、センターという)は、後述するように、膜厚や段差の測定を行った領域である。
【0150】
(膜厚測定)
膜厚測定には、光干渉式膜厚装置(ナノメトリクス社製商品名Nanospec AFT−5100)を用いて、センターの、L=500μm、S=500μmパターン(以下、500/500と呼ぶ)、L=100μm、S=100μmパターン(以下、100/100と呼ぶ)、L=25μm、S=25μmパターン(以下、25/25と呼ぶ)、それぞれの凸部と凹部のSiO残膜厚を測定した。また、凸部は、SiOが除去された場合、SiN残膜厚を測定した。
【0151】
(平坦性評価)
上記評価用ウエハに対し、まず荒削り研磨を実施した。研磨装置(株式会社荏原製作所製 型番EPO−111)の基板ホルダーに上記評価用ウエハを固定し、一方で直径600mmの研磨定盤にIC−1000(ロデール社製型番、溝形状:パーフォレート)研磨パッドを貼り付けた。研磨パッド上に絶縁膜4面がパッドと接するように基板ホルダーを押し付け、加工荷重を30kPaに設定した。研磨パッド上に、上記濃縮水酸化セリウムスラリ500gと水500gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液をpHが6.5になるまで加えて調製した研磨剤(水酸化セリウム濃度0.5%)を、200mL/分の速度で滴下しながら、定盤と基板ホルダーとをそれぞれ50rpmで作動させて評価用ウエハを140秒間研磨し、荒削り済みウエハを得た。センターの100/100の凸部SiO残膜厚は約200nmであった。
【0152】
こうして得た荒削り済みウエハに対し、後述する実施例4〜5、比較例3で調製した研磨剤を用いて仕上げ研磨を実施した。研磨剤とパッドを変更した以外は前記荒削りと同様にして研磨を行い、センターの100/100の凸部のSiNが露出するまで研磨を行った。
【0153】
平坦性評価は、センターの500/500、100/100、25/25それぞれの凸部と凹部の段差を、接触式表面形状測定器(米国Veeco Instruments社製商品名Dektak V200Si)を用い、針圧を5mgに設定して測定することにより行った。
【0154】
(実施例4)
研磨剤として、ダイキトサン100D(VL)(大日精化工業株式会社製極低粘度キトサン、脱アセチル化度98%以上。0.5%の酢酸水にキトサンを0.5%溶解した場合の溶液の粘度6mPa・s)2重量%、酢酸1重量%及び水97重量%を含有する濃縮添加液を調製した。この濃縮添加液を48g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ320g、水1232gを混合し、10重量%のイミダゾール水溶液をpHが6.5になるまで加えて調製した研磨剤(水酸化セリウム濃度0.2%、ダイキトサン100D(VL)濃度0.06%)を用い、研磨パッドとして、ショアD硬度87のポリウレタン製パッドを用い、前記仕上げ研磨を実施した。
【0155】
(実施例5)
研磨剤として、上記ダイキトサン100D(VL)2重量%、酢酸1重量%、ポリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社製、重合度約2000)1重量%、及び水96重量%を含有する濃縮添加液を調製した。この濃縮添加液を48g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ320g、水1232gを混合し、10重量%のイミダゾール水溶液をpHが6.5になるまで加えて調製した研磨剤(水酸化セリウム濃度0.2%、ダイキトサン100D(VL)濃度0.06%、ポリビニルアルコール濃度0.03%)を用い、研磨パッドとして、ショアD硬度87のポリウレタン製パッドを用い、前記仕上げ研磨を実施した。
【0156】
(比較例3)
研磨剤として、比較例2の濃縮酸化セリウムスラリ100g、市販のポリアクリル酸アンモニウム塩水溶液(40重量%)5g、水895gを混合し、pHが4.5になるまで1N硝酸を加えて調製した研磨剤(酸化セリウム濃度0.5%、ポリアクリル酸アンモニウム塩濃度0.2%)を用い、前記仕上げ研磨を実施した。
【0157】
実施例4〜5、比較例3の、センターの500/500、100/100、25/25の段差を表2に示す。本発明の研磨剤を用いることにより、平坦に研磨することが可能であることが明確に示された。
【表2】

【0158】
(研磨剤の安定性評価)
(実施例6)
実施例4で調製した研磨剤(水酸化セリウム濃度0.2%、ダイキトサン100D(VL)濃度0.06%、pH=6.5)の平均粒径の時間変化を追跡した。25℃で100時間放置しても、平均粒径は変化しなかった。
【0159】
(比較例4)
上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ320g、水1232gを混合し、10重量%のイミダゾール水溶液をpHが6.5になるまで加えて研磨剤を調製した(水酸化セリウム濃度0.2%、pH=6.5)。平均粒径の時間変化を追跡したところ、25℃で10時間後に平均粒径は171%に増大し、さらに24時間後には研磨粒子の沈降が認められた。
【0160】
実施例6、比較例4より、キトサンの添加により粒径変化が抑制され、研磨剤の安定性向上にも効果が高いことが明白になった。
【0161】
(砥粒の低濃度化)
(実施例7)
上記したダイキトサン100D(VL)0.6重量%、酢酸0.5重量%、イミダゾール0.64重量%、及び水98.26重量%を含有する濃縮添加液100g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ200g、水700gを混合し、研磨剤を調製した(水酸化セリウム濃度0.2%、ダイキトサン100D(VL)濃度0.06%)。研磨剤のpHは6.3であった。研磨パッドとして、ショアD硬度81のポリウレタン製パッドを用い、実施例1と同様の方法で研磨を行い、酸化珪素研磨速度、窒化珪素研磨速度、選択比を求めた。
【0162】
さらに、この研磨剤を純水を用いて2倍、4倍、10倍、50倍に希釈し、同様の方法で酸化珪素研磨速度、窒化珪素研磨速度、選択比を求めた。
【0163】
(比較例5)
酢酸0.5重量%、イミダゾール0.64重量%、及び水98.86重量%を含有する濃縮添加液100g、上記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ200g、水700gを混合し、キトサンを含まない研磨剤を調製した(水酸化セリウム濃度0.2%)。研磨剤のpHは6.3であった。研磨パッドとして、ショアD硬度81のポリウレタン製パッドを用い、実施例1と同様の方法で研磨を行い、酸化珪素研磨速度、窒化珪素研磨速度、選択比を求めた。
【0164】
さらに、この研磨剤を純水を用いて2倍、10倍に希釈し、同様の方法で酸化珪素研磨速度、窒化珪素研磨速度、選択比を求めた。
【0165】
(比較例6)
比較例2で調製した研磨剤(酸化セリウム濃度0.5重量%)を純水で2.5倍、10倍に希釈し、実施例1と同様の方法で研磨を行い、酸化珪素研磨速度、窒化珪素研磨速度、選択比を求めた。
【0166】
実施例7、比較例2、比較例5〜6の、酸化珪素研磨速度、窒化珪素研磨速度、選択比を表3に示す。本発明の研磨剤は、砥粒濃度を低濃度としても、高い研磨速度を得ることが可能であることが明確に示された。
【表3】

【0167】
(実施例8)
アリルアミン重合体(日東紡績株式会社製PAA−H−10C)1重量%、酢酸0.3重量%、水98.7重量%を含有する濃縮添加液2.5g、上記濃縮水酸化セリウムスラリ100g及び水395gを混合し、5重量パーセントのイミダゾール水溶液をpHが5.5になるまで加えて研磨剤を調製した。平均粒径は100nm、ゼータ電位は+47mVであった。なお、平均粒径およびゼータ電位は、上記と同様に測定した。
【0168】
(実施例9〜10)
実施例8と同様にして、濃縮添加液の添加量を5.0g、7.5gに変え、研磨剤を調製した。
【0169】
上記の各実施例8〜10及び上記比較例1〜2で調製した研磨剤の絶縁膜研磨、pH、平均粒径及びゼータ電位を実施例1と同様に測定した。結果を表4にまとめて示す。相対研磨傷数は比較例2の研磨傷数を1として算出した。表4に示されるように、本発明の研磨剤が、研磨傷の低減、選択比の向上をもたらすことが明らかである。
【表4】

【0170】
(実施例11)
エチレンイミン重合体(株式会社日本触媒製、商品名エポミン(登録商標)SP−200、数平均分子量10,000)1重量%、酢酸0.3重量%及び水98.7重量%を含有する濃縮添加液15g、上記濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水385gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液をpHが5.5になるまで加えて研磨剤を調製した。平均粒径は100nm、ゼータ電位は+36mVであった。なお、平均粒径およびゼータ電位は、上記と同様に測定した。
【0171】
(実施例12〜13)
下記の表5記載の各組成になるように、実施例11から濃縮添加液の添加量を25g、50gに変え、研磨剤を調製した。
【0172】
(実施例14)
エチレンイミン重合体(株式会社日本触媒製、商品名エポミンP−1000、30重量%水溶液、数平均分子量70,000)1重量%(ポリマ含有量として)、酢酸0.3重量%及び水98.7重量%を含有する濃縮添加液5g、上記濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水395gを混合し、5重量%のイミダゾール水溶液をpHが5.5になるまで加えて研磨剤を調製した。
【0173】
上記各実施例11〜14及び各比較例1〜2で調製した研磨剤の絶縁膜研磨、pH、平均粒径及びゼータ電位を実施例1と同様に測定した。結果を表5にまとめて示す。相対研磨傷数は比較例2の研磨傷数を1として算出した。表5に示されるように、本発明の研磨剤を用いることにより、研磨傷の低減、選択比の向上をもたらすことが明らかである。
【表5】

【0174】
(実施例15)
(添加剤の合成)
丸底フラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(株式会社興人製DMAPAA)15g、水281gを入れ、窒素ガスを導入した。80℃に加熱し、攪拌しながら2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩696mg、水4gからなる水溶液を加えた。80℃で2時間加熱攪拌後、室温(25℃)まで冷却して濃度5重量%の重合体(以下添加剤Xという)溶液を得た。静的光散乱法を用いて分子量を測定したところ、23,000であった。
【0175】
得られた添加剤X溶液(濃度5重量%)1g、酢酸0.25g、水399g、上記濃縮水酸化セリウムスラリ100gを混合し、研磨剤を調製した。研磨剤のpHは5.70、平均粒径は100nm、ゼータ電位は+35mVであった。なお、平均粒径およびゼータ電位は、上記と同様に測定した。
【0176】
上記実施例15及び比較例1〜2で調製した研磨剤の絶縁膜研磨、pH、平均粒径及びゼータ電位を実施例1と同様に測定した。結果を表6にまとめて示す。相対研磨傷数は比較例2の研磨傷数を1として算出した。表6に示されるように、本発明の研磨剤を用いることにより、研磨傷の低減、選択比の向上をもたらすことが明らかである。
【表6】

【0177】
本発明によれば、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、絶縁膜を高速かつ低研磨傷で研磨することができる研磨剤及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法を提供することを目的とするものである。
【0178】
さらに、酸化珪素膜とストッパ膜との高い研磨速度比を有する研磨剤、それを保管する際の研磨剤セット及びこの研磨剤を用いた基板の研磨方法を提供することを目的とするものである。
【符号の説明】
【0179】
1 酸化珪素膜
2 窒化珪素膜
3 シリコン基板
L 凸部の線幅
S 凹部の線幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤を含有する研磨剤であって、該添加剤はカチオン性の重合体および多糖類の少なくとも一方を含む研磨剤。
【請求項2】
水、4価の金属水酸化物粒子及び添加剤を含有する研磨剤であって、前記添加剤のうち少なくとも1成分が、以下の(1)〜(6)からなる群から選ばれる研磨剤。
(1)アミノ糖又はアミノ糖をもつ多糖類
(2)エチレンイミン重合体又はその誘導体
(3)アリルアミン重合体又はその誘導体
(4)ジアリルアミン重合体又はその誘導体
(5)ビニルアミン重合体又はその誘導体
(6)下記一般式(I)〜(IV)の群から選ばれる少なくとも1種類の単量体成分を含む重合体
【化1】

(一般式(I)〜(IV)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表しXは2価の有機基を表す。)
【請求項3】
前記4価の金属水酸化物粒子の平均粒径が、1nm以上400nm以下である請求項1または2に記載の研磨剤。
【請求項4】
研磨剤のpHが3.0以上7.0以下である請求項1〜3のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項5】
前記4価の金属水酸化物粒子の含有量が、研磨剤100重量部に対して0.001重量部以上5重量部以下である請求項1〜4のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項6】
前記4価の金属水酸化物粒子の研磨剤中でのゼータ電位が、+10mV以上である請求項1〜5のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項7】
前記カチオン性の重合体および多糖類の合計の含有量が、研磨剤100重量部に対して0.0001重量部以上である請求項1〜6のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項8】
前記添加剤が、キトサンおよびその誘導体のいずれかである請求項1〜7のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項9】
さらにポリビニルアルコールを含有する請求項1〜8のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項10】
少なくとも表面に酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用される請求項1〜9のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項11】
4価の金属水酸化物が、希土類金属水酸化物及び水酸化ジルコニウムの少なくとも一方である請求項1〜10のいずれかに記載の研磨剤。
【請求項12】
被研磨膜を形成した基板を研磨定盤の研磨布に押しあて加圧し、請求項1〜11のいずれかに記載の研磨剤を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する基板の研磨方法。
【請求項13】
前記研磨布のショアD硬度が70以上である研磨布を用いる請求項12記載の研磨方法。
【請求項14】
スラリと、添加液とに分けて保存され、研磨直前又は研磨時に混合されて請求項1〜11のいずれかに記載の研磨剤とされる研磨剤セットであって、スラリは4価の金属水酸化物粒子と水を含み、添加液は添加剤と水を含む研磨剤セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−62512(P2013−62512A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223011(P2012−223011)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2010−509192(P2010−509192)の分割
【原出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】