説明

研磨剤及び研磨方法

【課題】 研磨速度の向上及び金属汚染を防止(ウエーハ品質を向上)すると共に、低コストで研磨する研磨剤及び研磨方法を提供する。
【解決手段】 コロイダルシリカ0.1〜30wt%を含む研磨剤であって、アミノ基2個以上、C6個以上であるアミンが添加(例えば、1,6−ヘキサンジアミン0.001〜1mol/L)されている研磨剤。またこの研磨剤を用い、ウエーハを保持した状態で研磨布表面に押しつけ、研磨剤を所定流量で研磨布上に供給し、研磨剤を介してウエーハの被研磨面を研磨布表面と摺擦させるウエーハの研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明はシリコンウエーハ及び同様な材料を研磨するための研磨剤及びその研磨剤を用いた研磨方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般にシリコンなどの半導体ウエーハの製造方法は、単結晶インゴットをスライスして薄円板状のウエーハを得るスライス工程と、該スライス工程によって得られたウエーハの割れ、欠けを防止するためにその外周部を面取りする面取り工程と、このウエーハを平坦化するラッピング工程と、面取り及びラッピングされたウエーハに残留する加工歪みを除去するエッチング工程と、そのウエーハ表面を鏡面化する研磨(ポリッシング)工程と、研磨されたウエーハを洗浄して、これに付着した研磨剤や異物を除去する洗浄工程を有している。上記工程は、主な工程を示したもので、他に熱処理工程や平面研削工程等の工程が加わったり、工程順が入れ換えられたりする。
【0003】研磨工程ではウエーハを高平坦度に鏡面研磨する事及び研磨能力の向上が望まれている。シリコンウエーハの研磨工程で用いられる研磨剤は主にコロイダルシリカ(SiO)を含有した研磨剤が多く使用されている。このコロイダルシリカ(SiO)を水で希釈し更にアルカリが添加された懸濁液(スラリー)状の研磨剤が使用されている。
【0004】研磨能力を向上する方法として、研磨に使用する研磨剤を工夫することがある。例えば、上記シリカ系の研磨剤は、粒径が4〜100nm程度のものが用いられている。この粒度を大きくすれば研磨能力は向上する。しかし粒径が大きくなるほどウエーハ表面に研磨ダメージ等が生じ易い。
【0005】他の方法として研磨速度の向上のため、上記研磨剤に添加剤を入れることがある。例えば、添加剤としてN−(β−アミノエチル)エタノールアミンやアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミンなど炭素原子数が5個以下の比較的低級アルキル基であるアミン、また環状化合物であるピペラジン等が使用されることがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】研磨速度の向上のために用いられるN−(β−アミノエチル)エタノールアミンなどの添加剤は、ウエーハ内への金属汚染、特にCu汚染を推進することがわかってきた。これは、添加剤であるN−(β−アミノエチル)エタノールアミン自体が汚染されやすく、この添加剤の汚染をスラリー中に持ち込んでしまいウエーハ表面と接触させ研磨するため、結果的にウエーハを汚染してしまうことが考えられる。そこで研磨速度を向上しつつ、高平坦度なウエーハとし、且つ金属汚染もなく、さらにコスト的に安価な添加剤が要求されていた。
【0007】本発明では研磨速度の向上(生産性の向上)及び金属汚染の防止(ウエーハ品質の向上)を行うと共に、低コストで研磨することのできる研磨剤及び研磨方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明はシリコンウエーハ及び同様の材料を研磨するために改良された研磨剤及びこの研磨剤を用いた研磨方法であり、その研磨剤はコロイダルシリカを含む研磨剤であって、アミノ基が2個以上、炭素数が6個以上であるアミンを添加したことを特徴とする研磨剤である。
【0009】アミンを添加する場合、炭素数が増加すると金属を捕獲する効果(キレート効果)が無くなっていくことがわかった。炭素数が6個以上では、ほとんどキレート効果がない。キレート効果がない事から余計な金属不純物を吸着することなしに研磨剤に添加でき、研磨剤を汚すことなく研磨することができるため、結果的にウエーハへの金属汚染もなくなる。またアミノ基を2個以上もつアミンであるため研磨速度も向上している。このアミンは主として脂肪族、分岐状又は直鎖状のジアミン、ポリアミンが挙げられる。
【0010】特に前記アミンの化学式がHN−R−NHで表わされるジアミンが好ましく。R部分の炭化水素の炭素鎖が少なくとも6個以上の炭素原子を含む鎖式化合物であることが好ましい。
【0011】このように化学式HN−R−NHで表わされるジアミンについて、R部分の直鎖の炭素数が増加すると金属を捕獲する効果(キレート効果)が無くなっていくことがわかった。炭素数が6個以上では、ほとんどキレート効果がない。キレート効果がない事から余計な金属不純物を吸着することなしに研磨剤に添加でき、研磨剤を汚すことなく研磨することができるため、ウエーハへも金属汚染をすることはなく好ましい添加剤となる。またアミンを2基以上もつアミンであるため研磨速度も向上している。
【0012】特に前記アミンが1,6−ヘキサンジアミンであると好ましい。このアミンは、安価であり入手しやすく、またアミノ基に水素が多い為、研磨速度がより高くなり好ましい。また、炭素数もアミノ基の間に6個以上あるため研磨剤に対する金属汚染も少なくすることができる。
【0013】研磨剤はコロイダルシリカを純水中に0.1〜30wt%分散させたものが好適に用いられる。この研磨剤中に本発明のアミンを添加するが、添加するアミンの量は、研磨剤1L(リットル)当たり1.000mol以下の量で十分である。特に好ましくは0.001〜0.05mol/Lである。この範囲の量を添加すれば研磨速度も向上し、金属汚染も十分に防止することができる。
【0014】この研磨剤は種々の研磨装置で使用できる。つまりウエーハを保持した状態で研磨布の表面にウエーハを押し付け、同時に研磨剤を所定の流量で研磨布上に供給し、この研磨剤を介してウエーハの被研磨面が研磨布表面と摺擦されてウエーハを研磨するものであれば、好適にこの研磨剤が使用でき、高平坦度で、研磨速度も速く、金属汚染なども防止した研磨を行なうことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】研磨装置については、特に限定されるものではないが、例えば、図3に示すような研磨装置が使用される。図3はバッチ式の研磨装置の一例を示すもので、研磨装置Aは回転軸37により所定の回転速度で回転せしめられる研磨定盤30を有している。該研磨定盤30の上面には研磨布Pが貼設されている。33はワーク保持盤で上部荷重35を介して回転シャフト38によって回転せしめられる。複数枚のウエーハWは接着の手段によってワーク保持盤33の下面に保持された状態で上記研磨布Pの表面に押し付けられ、同時に研磨剤供給装置(図示せず)より研磨剤供給配管34を通して所定の流量で、研磨剤溶液(スラリー)39を研磨布P上に供給し、この研磨剤溶液19を介してウエーハWの被研磨面が研磨布P表面と摺擦されてウエーハWの研磨が行われる。枚葉式の研磨装置でも、基本的な研磨構成はバッチ式とほぼ同じである。バッチ式の研磨と大きく異なる点は、ウエーハを保持する部分に枚葉式のヘッドを有し、1ヘッド当たり1枚のウエーハを保持して研磨するという点である。
【0016】研磨能力(研磨速度)を向上するには、アミノ基が多いアミンが好ましい。この点からアミノ基は2個以上含まれるアミンが好ましい。
【0017】また、添加物による汚染を少なくするため、炭素原子の数が異なるジアミンのキレート性を確認した。確認したアミンは、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミンで確認した。
【0018】炭素数が増え1,6−ヘキサンジアミンになるとキレート性がなくなり、添加物自体に金属汚染がないことがわかった。これ以下の炭素数のものでは、研磨能力は高いもののキレート効果を有する。このキレート能力が強く添加剤自体から金属が放出されなければこれら炭素数の少ないアミンを添加しても問題無いが、研磨中にウエーハ側に金属が移動してしまうこともあり、添加前に添加剤に金属が含まれていた場合にウエーハを汚染する事になる。研磨中にキレート効果のない添加物を用いた場合、つまりこの炭素数が6個以上の1,6−ヘキサンジアミンを用い研磨した場合、研磨されたウエーハも殆ど金属汚染がないことがわかった。このように炭素数は6個以上つながった直鎖状のアミンが好ましい。
【0019】以下、具体的な例を挙げ本発明について説明する。本発明の実施例として、1,6−ヘキサンジアミン(実施例1)、及び比較例として研磨能力の高いN−(β−アミノエチル)エタノールアミン(比較例1)、ピペラジン(比較例2)を添加した。
【0020】
【実施例】コロイダルシリカ(SiO)を含有した研磨剤を用い研磨した。ベースとなる研磨剤は、研磨剤全体に対し平均粒度が50nmのコロイダルシリカ(SiO)を約2.5wt%含有させ、pHを約11に調整したものである。
【0021】(実施例1)上記ベースとなる研磨剤に1,6−ヘキサンジアミンをスラリー1リットル当たり、0.007mol添加した研磨剤を準備した。この時のpHは10.96であった。
【0022】(比較例1)上記ベースとなる研磨剤にN−(β−アミノエチル)エタノールアミンをスラリー1リットル当たり、0.060mol添加した研磨剤を準備した。この時のpHは10.95であった。
【0023】(比較例2)上記ベースとなる研磨剤にピペラジンをスラリー1リットル当たり、0.085mol添加した研磨剤を準備した。この時のpHは10.91であった。
【0024】一般的なウエーハ製造工程でエッチング工程を経た直径150mmのシリコンウエーハに対し、これらの研磨剤を用い研磨した。鏡面研磨条件としては、特に限定するものではないが、発泡ウレタン樹脂製研磨パッドを使用し、上記研磨剤を10L/分で添加し、研磨荷重(250g/cm2)及び研磨時間(10分)の研磨条件でシリコンウエーハの研磨を行なった。
【0025】上記3種類の添加物を添加した研磨剤によって研磨した後のウエーハの平坦度はいずれも良好であり、研磨傷等の発生もなかった。
【0026】これらの研磨剤を使用した時の研磨速度及び汚染状況を確認した。研磨速度は10分間研磨した時点での研磨取り代から計算した。汚染状況としては研磨後のウエーハ表面に付着した金属不純物を確認した。これはVPD-AAS(Vapor Phase Decomposition and Atomic Absorption Spectroscopy)により評価した。VPD-AASはウエーハ表面の自然酸化膜をHF蒸気で気相分解し、その時同時に分解された不純物をHClやHF等の薬液で回収し原子吸光光度計で定量分析する手法である。
【0027】その結果を図1及び図2に示す。研磨速度は図1に示すように実施例1の1,6−ヘキサンジアミンを添加した場合は、比較例1のN−(β−アミノエチル)エタノールアミンの研磨速度を100とした場合、約20%の研磨能力の向上があった。何も添加しない研磨剤に比べ、N−(β−アミノエチル)エタノールアミンを添加した場合でも研磨能力は向上しているが、さらに向上していることがわかる。また、ピペラジンを添加した比較例2でも、N−(β−アミノエチル)エタノールアミンに比べ約17%程度の研磨能力の向上があった。
【0028】ウエーハ表面の汚染(金属不純物)については、付着した場合に特に問題となる銅(Cu)について観察した。図2に示すように、この金属不純物濃度は実施例1では約0.77×1010atoms/cm、比較例1では約1.8×1010atoms/cm、比較例2では約0.38×1010atoms/cmであった。
【0029】以上のように1,6−ヘキサンジアミンを添加した実施例1の研磨速度は、比較例1に比べ20%以上向上している。また、ウエーハ表面の汚染も、比較例1に比べ半分以下に抑えられている。つまり従来の添加剤より研磨能力が向上し、生産性が上がる。また汚染も少ない事から品質的に安定したウエーハの製造ができる。
【0030】なお、ピペラジンを添加した比較例2によっても実施例1と研磨速度は同程度に向上及びウエーハ表面の汚染を防止することは可能である。1,6−ヘキサンジアミンは、0.01mol/L以下の少量の添加量で高い研磨能力が得られ添加量が少なくて済み、価格も安価なことから研磨1回当たりの研磨剤のコストを削減できる。
【0031】
【発明の効果】上記のように本発明の研磨剤を使用することにより、研磨速度の向上(生産性向上)及び金属汚染防止(ウエーハ品質向上)ができ、また低コストで研磨が行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】各添加物を添加した研磨剤の研磨速度を示す図である。
【図2】各添加物を添加した研磨剤により研磨した後の、ウエーハ表面の金属汚染濃度を示す図である。
【図3】研磨装置の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コロイダルシリカを含む研磨剤であって、アミノ基が2個以上、炭素原子数が6個以上であるアミンが添加されていることを特徴とする研磨剤。
【請求項2】 前記アミンの炭素鎖が少なくとも6個以上の炭素原子を含む鎖式化合物であることを特徴とする請求項1記載の研磨剤。
【請求項3】 前記アミンが1,6−ヘキサンジアミンであることを特徴とする請求項1または2記載の研磨剤。
【請求項4】 コロイダルシリカを0.1〜30.0wt%含み、1,6−ヘキサンジアミンを0.001〜1.000mol/L添加したことを特徴とする請求項1〜3記載の研磨剤。
【請求項5】 ウエーハを保持した状態で研磨布の表面にウエーハを押しつけ、同時に研磨剤を所定の流量で研磨布上に供給し、この研磨剤を介してウエーハの被研磨面が研磨布表面と摺擦されてウエーハを研磨する方法において、請求項1〜4記載の研磨剤を用い研磨することを特徴とする研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−105440(P2002−105440A)
【公開日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−298791(P2000−298791)
【出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】