説明

研磨剤及び研磨方法

【課題】セリア系研磨剤を用いたCMP技術において、凹凸を持った被研磨膜の凸部を高速に研磨し、かつ被研磨膜に与える研磨傷を低減する研磨剤及びこの研磨剤を用いた研磨方法を提供する。
【解決手段】砥粒として少なくとも4価の酸化セリウム粒子と4価の水酸化セリウム粒子とを含み、媒体として少なくとも水を含む研磨剤であり、酸化セリウム粒子の1次粒径と水酸化セリウム粒子の1次粒径が、それぞれ1nm以上70nm以下であり、研磨剤中での前記酸化セリウム粒子の2次粒径と前記水酸化セリウム粒子の2次粒径が、それぞれ10nm以上400nm以下である研磨剤、及び該研磨剤を用いて被研磨膜を研磨する研磨方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造に用いる研磨剤及び研磨方法に関し、特に基板上に形成された被研磨膜を化学機械研磨で平坦化するための研磨剤及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模集積回路(LSI)に代表される半導体デバイスは、世代ごとに回路寸法を縮小することで高性能化を実現している。このため半導体デバイスの製造工程では、様々な高精度の加工技術が要求されている。中でも化学機械研磨(CMP)による平坦化技術は、現在の半導体デバイスの製造工程には不可欠であり、シャロー・トレンチ・アイソレーションの形成、プリメタル絶縁膜や層間絶縁膜の平坦化、コンタクトプラグや銅ダマシン配線の形成等に広く使われている。
【0003】
一般にCMP工程では、被研磨膜が形成された半導体基板を研磨パッドに押し付けながら互いに摺動させることで研磨を進行させる。このとき研磨パッドには研磨剤が連続的に滴下されるが、この研磨剤は被研磨膜の研磨速度、平坦性、欠陥密度等のCMP特性を決定する重要な因子である。特に研磨剤に含まれる砥粒の種類や濃度を変更することで、CMP特性は大きく変化する。
【0004】
CMP用の研磨剤として最も一般的に使われているのは、ヒュームドシリカやコロイダルシリカ等のシリカ砥粒を含む研磨剤である。シリカ系研磨剤は汎用性が高いことが特徴であり、砥粒濃度、pH、添加剤等を適切に選択することで、絶縁膜や導電膜を問わず幅広い種類の膜を研磨することができる。
【0005】
一方で、主に酸化シリコン膜等の絶縁膜を対象とした、セリア砥粒を含む研磨剤の適用も拡大している。セリア系研磨剤は、シリカ系研磨剤よりも低い砥粒濃度で高速に酸化シリコン膜を研磨できるのが特徴である。また、セリア系研磨剤に適当な添加剤を加えれば、被研磨膜の研磨後の平坦性を改善できたり、異なる被研磨膜の研磨速度に選択性を付与できたりすることが知られている。CMP工程に用いるセリア系研磨剤は、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0006】
しかしながら、一方で、酸化セリウム研磨剤を使用する場合、高い研磨速度と少ない研磨傷を両立するのは必ずしも容易ではなかった。酸化セリウムの場合、酸化セリウム自体が有する化学的活性による化学的作用と、粒子としての機械的除去作用で加工が進行すると考えられ、粒子による機械的除去作用が強いと研磨傷が入る傾向がある。
【0007】
研磨剤中の粒子による研磨傷を無くすために、粒子の化学的作用を活かし、かつ機械的作用を極力小さくして研磨することに着目して、4価の金属水酸化物の粒子、又は、密度が3〜6g/cmであり2次粒子の平均粒径が1〜300nmであるセリウム化合物粒子のいずれかを含む研磨剤が知られており、例えば、4価の金属水酸化物の粒子のみを含む研磨剤を用いて酸化シリコン膜のブランケット基板を研磨したときに、光学顕微鏡による観察で研磨傷が無いことが示されている(特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平8−22970号公報
【特許文献2】特開平10−106994号公報
【特許文献3】再公表特許WO2002/067309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体デバイスの回路寸法が微細化するのに伴い、CMP工程で発生する研磨傷が深刻な問題となってきている。この問題に対して、前記特許文献3に記載されるように砥粒の1次粒径を小さくして研磨傷を減らそうとする試みがなされているが、近年の技術の進歩に伴って、さらに高レベルでの研磨傷の低減が求められている。
【0010】
砥粒の1次粒径を小さくすると、研磨傷は低減できる傾向にあるが、同時に機械的作用も低下する。このため、表面に凹凸のない、いわゆるブランケット基板は研磨できるものの、表面に凹凸を持った、いわゆるパターン基板の凸部の研磨速度(以下、パターン研磨速度)が低下してしまう問題が新たに発生することがわかった。例えば、前記特許文献3に記載の研磨剤は、ブランケット基板に対する研磨速度(以下、ブランケット研磨速度)が良好であることが記載されているが、パターン基板に対する研磨速度については一切触れられていない。
【0011】
また、パターン研磨速度が低下することによって、ブランケット研磨速度に対するパターン研速度の比が小さくなると、被研磨膜のパターン密度の違いによる研磨速度の変動が大きくなる傾向がある。すなわち、同一面内にパターン密度の差がある被研磨面を研磨する場合に、場所によって研磨量が異なってしまうこととなる。従って、パターン密度に依存せず、安定して研磨できる研磨剤が求められている。
【0012】
本発明は、前記問題点に鑑みなされてものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
本発明の目的は、セリア系研磨剤を用いたCMP技術において、凹凸を持った被研磨膜の凸部を高速に研磨し、かつ被研磨膜に与える研磨傷を低減する研磨剤及びこの研磨剤を用いた研磨方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、パターン密度の差がある被研磨面を研磨する場合に、場所による研磨量の差を小さくすることのできる研磨剤及びこの研磨剤を用いた研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は以下の本発明により解決される。
(1)砥粒として少なくとも4価の酸化セリウム粒子と4価の水酸化セリウム粒子とを含み、媒体として少なくとも水を含む研磨剤であり、
前記酸化セリウム粒子の1次粒径が1nm以上70nm以下であり、
前記水酸化セリウム粒子の1次粒径が1nm以上70nm以下であり、
研磨剤中での前記酸化セリウム粒子の2次粒径と前記水酸化セリウム粒子の2次粒径が、それぞれ10nm以上400nm以下であることを特徴とする研磨剤。
【0014】
(2)前記水酸化セリウム粒子が砥粒全量に対して5重量%以上95重量%以下含まれることを特徴とする前記(1)に記載の研磨剤。
【0015】
(3)前記砥粒が研磨剤に対して0.01重量%以上10重量%以下含まれることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の研磨剤。
【0016】
(4)前記水酸化セリウム粒子が4価のセリウム塩とアルカリ液とを混合して得られたものであることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の研磨剤。
【0017】
(5)添加剤をさらに含むことを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の研磨剤。
【0018】
(6)前記(5)に記載の研磨剤を、少なくとも前記砥粒を含むスラリと、少なくとも前記添加剤を含む添加液とに分割してなる2液式の研磨剤。
【0019】
(7)被研磨膜を形成した基板を研磨パッドに押し当てて加圧し、前記(1)から(5)のいずれかに記載の研磨剤を被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨パッドとを互いに摺動させることで被研磨膜を研磨することを特徴とする研磨方法。
【0020】
(8)被研磨膜を形成した基板を研磨パッドに押し当てて加圧し、前記(6)に記載の2液式の研磨剤を混合した状態で被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨パッドとを互いに摺動させることで被研磨膜を研磨することを特徴とする研磨方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セリア系研磨剤を用いたCMP工程において、被研磨膜の研磨傷低減を達成しつつ、凹凸を持った被研磨膜の凸部を高速に研磨することが可能となる。またブランケット研磨速度に対するパターン研磨速度の比が大きく、被研磨膜の凹凸の存在割合による研磨速度の変動の割合が小さい研磨剤を提供することができる。これにより、CMP工程のスループットを向上でき、また、CMP工程に起因する欠陥を減らすことで半導体デバイスの歩留まりを向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<研磨剤>
本発明の研磨剤は、砥粒として少なくとも4価の酸化セリウム粒子と4価の水酸化セリウム粒子とを含み、媒体として少なくとも水を含む研磨剤であり、前記酸化セリウム粒子の1次粒径が1nm以上70nm以下であり、前記水酸化セリウム粒子の1次粒径が1nm以上70nm以下であり、研磨剤中での前記酸化セリウム粒子の2次粒径と前記水酸化セリウム粒子の2次粒径が、それぞれ10nm以上400nm以下であることを特徴としている。
以下に、本発明の各構成要素について詳述する。
【0023】
(砥粒)
本発明の研磨剤において、砥粒は、4価の酸化セリウム粒子と、4価の水酸化セリウム粒子とを少なくとも含む。また、本発明の研磨剤の効果を損なわない程度において、必要に応じて他の粒子を含むこともできる。
【0024】
(4価の酸化セリウム粒子)
一般に、4価の酸化セリウム粒子(以下、単に酸化セリウム粒子)は、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、しゅう酸塩等のセリウム化合物を酸化することによって得られる。酸化の方法としては、焼成又は過酸化水素等による酸化法を使用することができる。焼成の場合、焼成温度は350℃以上900℃以下が好ましい。また、酸化セリウム粒子を作製する方法として、水熱合成法を用いることもできる。例えば、水酸化セリウム等の前駆体を、水中で100℃以上に加熱する方法を挙げることができる。
【0025】
酸化セリウム粒子として、市販のセリア粒子を用いることもできる。例えば、ナノフェーズ・テクノロジーズ社、フェロ社、アドバンスド・ナノ・プロダクツ社、ローディア・エレクトロニクス・アンド・カタリシシス社、シーアイ化成株式会社等により販売されているものなどを挙げることができる。
【0026】
(4価の水酸化セリウム粒子)
一般に、4価の水酸化セリウム粒子(以下、単に水酸化セリウム粒子)は、セリウム塩とアルカリ液とを混合して水酸化セリウム粒子を析出する方法で得られる。この方法は、例えば「希土類の科学」(足立吟也編、株式会社化学同人、1999年)304〜305頁に説明されている。セリウム塩としては、例えばCe(SO、Ce(NH(NO、Ce(NH(SO等が好ましい。アルカリ液はアンモニア水、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等が使用できる。研磨剤を半導体デバイス製造に用いる観点からは、アルカリ金属を含まないアンモニア水が好ましい。前記方法で合成された水酸化セリウム粒子は、洗浄して金属不純物を除去できる。洗浄方法としては、遠心分離等で固液分離を数回繰り返す方法等が使用できる。
また、半導体デバイスの製造に係る研磨に使用することから、アルカリ金属及びハロゲン類の含有率は水酸化セリウム粒子中10ppm以下に抑えることが好ましい。
【0027】
本発明において、砥粒は、酸化セリウム粒子と、水酸化セリウム粒子と、必要に応じて他の粒子とを混合することで得られる。この際、混合方法には特に制限が無く、それぞれの乾燥粉を混合する方法、どちらか一方を媒体に分散した分散液に他の乾燥粉を混合する方法、それぞれの分散液を混合する方法等を挙げることができる。
【0028】
また、酸化セリウム粒子の分散液、セリウム塩及びアルカリ液を混合し、酸化セリウム粒子の分散液中で水酸化セリウム粒子を析出させてもよい。また、水酸化セリウム粒子を水中で加熱し、水酸化セリウム粒子の一部を酸化セリウム粒子に変換してもよい。
【0029】
また、研磨剤中で酸化セリウム粒子と水酸化セリウム粒子とは、結合していても結合していなくてもよい。結合している場合、結合形態には特に制限が無く、共有結合、ファンデルワールス力、静電引力、双極子−双極子相互作用、疎水結合、水素結合等が挙げられる。
【0030】
本発明において、砥粒の分散性を向上させるために砥粒を機械的に粉砕してもよい。粉砕方法としては、ジェットミル等による乾式粉砕や遊星ビーズミル等による湿式粉砕が好ましい。
【0031】
また、砥粒を水中に分散させる際、その分散方法に特に制限は無い。通常の攪拌機による分散処理の他に、ホモジナイザ、超音波分散機、湿式ボールミル等を用いることができる。分散方法、粒径制御方法については、例えば、分散技術大全集(情報機構、2005年7月)に記述されている方法を用いることができる。
【0032】
酸化セリウム粒子や水酸化セリウム粒子の1次粒径は、大きいほど高速研磨が可能となるが、研磨傷が入りやすい傾向がある。そこで、本発明で用いる酸化セリウム粒子と水酸化セリウム粒子の1次粒径は、それぞれ1nm以上70nm以下とする。少なくとも一方の粒子の1次粒径が1nmより小さいと実用的な研磨速度が得られない傾向があり、また、いずれか一方の粒子の1次粒径が70nmより大きいと研磨傷が顕著になる傾向がある。当該1次粒径は、1nm以上70nm以下が好ましく、2nm以上50nm以下がより好ましく、3nm以上15nm以下がさらに好ましい。
【0033】
(1次粒径)
本発明において、1次粒子とは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)等により粉体状態で観察した際に認められる結晶子に相当する最小単位の粒子をいう。本発明では、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮り、1次粒子を2本の平行線で挟んだとき、その間隔が最小の部分の値を短径、最大の部分の値を長径とし、その短径と長径との平均を結晶子の粒径とした。そしてランダムに選択した100個の結晶子の粒径を測定し、その算術平均を1次粒径とする。
【0034】
なお、セリウム化合物を焼成して得られる酸化セリウム粒子は、その焼成条件によって、結晶粒界に囲まれた複数の結晶子からなる多結晶体を形成することがある。多結晶体は、複数の一次粒子が単に凝集した凝集体とは異なる。この場合、前記1次粒子とは、多結晶体一つではなく、結晶粒界に囲まれた結晶子一つを指す。
【0035】
(2次粒径)
砥粒の2次粒径(研磨剤中での凝集体粒径)が小さすぎると、粒子の表面エネルギーが高くなり、粒子同士が凝集しやすくなる。その結果、研磨剤中で2次粒径が変動してしまい、研磨速度等のCMP特性が安定しなくなる傾向がある。また、砥粒の2次粒径が大きすぎると、粒子の重量が増加して研磨剤中で沈降しやすくなるため、研磨に寄与する砥粒の有効数が減少して研磨速度が低下する傾向がある。
そこで、本発明で用いる砥粒の2次粒径は、10nm以上400nm以下とする。2次粒径が10nm以上であれば研磨剤中で2次粒径の安定性の低下を抑制することができ、また、2次粒径が400nm以下であれば研磨剤中で粒子の沈降を抑制できる傾向がある。そのような観点で、前記2次粒径としては40nm以上300nm以下が好ましく、60nm以上200nm以下がより好ましい。
【0036】
本発明で、4価の金属水酸化物粒子の平均粒径とは、動的光散乱法を用い、キュムラント解析で得られるZ−average Sizeをいう。測定には、例えば、ゼータサイザーナノS(マルバーン・インスツルメンツ社)を使用でき、動的光散乱測定において多重散乱が起こらない程度に研磨剤を水で希釈して測定することができる。具体的には、例えば、研磨剤を砥粒濃度が0.05重量%となるように水で希釈し、分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887とし、25℃において測定を行い、Z−average Sizeとして表示される値を読み取る。
【0037】
(水酸化セリウム粒子の含有量)
本発明において、パターン研磨速度を向上させることができる点で、水酸化セリウム粒子が砥粒全量に対して5重量%以上含まれることが好ましい。水酸化セリウムを5重量%以上含むことで、酸化セリウム粒子を単独で用いた場合に比べてパターン研磨速度が加速される効果を顕著に得ることができる。含有量としては、パターン研磨速度がより向上するという点で、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましく、20重量%以上であることが極めて好ましい。
【0038】
前記水酸化セリウム粒子を添加すると、酸化セリウム粒子を単独で用いた場合に比べてパターン研磨速度が加速される傾向があるが、ある程度の添加量を超えると、それ以上パターン研磨速度が加速されなくなる傾向がある。また、水酸化セリウム粒子の添加量を増やすことによりブランケット研磨速度が少しずつ向上する傾向がある。このため、水酸化セリウム粒子を多量に添加すると、ブランケット研磨速度に対するパターン研磨速度の比が小さくなってしまう傾向がある。
このような点で、前記酸化セリウムの含有量としては、砥粒全量に対して95重量%以下含まれることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましく、85重量%以下であることがさらに好ましく、80重量%以下であることが特に好ましく、75重量%以下であることが極めて好ましく、70重量%以下であることが最も好ましい。
【0039】
最終的な研磨剤に含まれる砥粒において水酸化セリウム粒子の含有量を同定する方法として、熱重量分析法が挙げられる(前記「希土類の科学」参照)。例えば、米国特許第5389352号明細書で開示しているようにセリウム塩の焼成によって得られた酸化セリウム粒子と、セリウム塩とアルカリ液との混合によって得られた水酸化セリウムを、それぞれ40℃で15時間乾燥した後に熱重量分析する。このとき、1000℃までの重量減少は、酸化セリウム粒子の場合は3重量%、水酸化セリウム粒子の場合は17〜26重量%である。水酸化セリウム粒子の化学式はCe(OH)又はCeO・2HOと表され、酸化セリウム粒子との重量減少の差は結晶水である。例えば、水酸化セリウム粒子が砥粒全量に対して5重量%含まれる場合、前記方法で測定される砥粒の重量減少は3.7〜4.2重量%であり、酸化セリウム粒子単独の重量減少(3重量%)と区別できる。また例えば、水酸化セリウム粒子が砥粒に対して95重量%含まれる場合、前記方法で測定される砥粒の重量減少は16.3〜24.9重量%であり、水酸化セリウム粒子単独の重量減少(17〜26重量%)と区別できる。
【0040】
本発明において、砥粒の研磨剤中でのゼータ電位は正電位であることが好ましい。これにより、砥粒の研磨中でのゼータ電位が負電位である場合に比べて、凹凸を持った被研磨膜の凸部の研磨速度が高速化する。ゼータ電位測定には、例えば、商品名ゼータサイザー3000HS(マルバーン・インスツルメンツ社)を使用でき、研磨剤をゼータサイザー3000HSの推奨される散乱光量(500〜2000KCts)となるように水で希釈して測定することができる。
【0041】
(その他の粒子)
一方、砥粒として、酸化セリウム粒子及び水酸化セリウム粒子以外の粒子を含有させることができ、該粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ダイヤモンド粒子、炭素粒子などの無機粒子類、ウレタン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、メタクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、エポキシ系樹脂粒子などの有機樹脂粒子類などが挙げられる。
その他の砥粒を含有させる場合、その含有量は、砥粒全量に対して5〜95重量%とすることが好ましく、10〜90重量%とすることがより好しく、15〜85重量%とすることがさらに好ましい。
【0042】
砥粒の研磨剤中での濃度は、低すぎると研磨速度が低くなり、高すぎても粒子が凝集しやすくなって研磨速度が低下する傾向がある。そこで砥粒の含有量は、研磨剤に対して0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.05重量%以上5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以上1重量%以下がさらに好ましい。
【0043】
(媒体)
本発明の研磨剤において、媒体としては少なくとも水を含むものである。また、必要に応じて水以外の媒体を含むことができ、具体的には例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類の他、エーテル類、ケトン類、エステル類等が挙げられる。
【0044】
(研磨剤のpH)
本発明において、研磨剤のpHは、良好な研磨速度が得られ、かつ粒子の凝集を抑えられる点で、3.0〜9.0であることが好ましい。研磨速度に優れる点で、pHは、4.0以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましい。また、粒子の凝集を抑えやすい点で、pHとしては8.0以下がより好ましく、7.0以下がさらに好ましい。
【0045】
前記pHは公知のpH調整剤によって調整することができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、主としてpHの調整に寄与することができ、研磨特性に悪い影響を与えないものが好ましい。そのような観点から、pH調製剤としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸等の酸や、アンモニア、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、イミダゾール等のアルカリ成分を挙げることができる。また、pHを安定化させるため、緩衝液を添加してもよい。このような緩衝液としては、例えば、酢酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液等を挙げることができる。
【0046】
研磨剤のpHは、一般的なガラス電極を用いたpHメータによって測定できる。具体的には、例えば、横河電機株式会社のModel pH81を用いた。フタル酸塩pH緩衝液(pH4.21)と中性リン酸塩pH緩衝液(pH6.86)を標準緩衝液として用い、pHメータを2点校正した後、pHメータの電極を研磨剤に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することで得られる。このとき、標準緩衝液と研磨剤の液温は、例えば、共に25℃とすることができる。
【0047】
(添加剤)
本発明において、研磨剤は添加剤を含んでいてもよい。ここで添加剤とは、砥粒及び媒体以外に含まれる物質を指す。添加剤を加えることで、研磨剤の分散性や保存安定性等を調整することができる。また、被研磨膜の研磨速度を向上する、研磨後の平坦性を改善する、異なる被研磨膜の研磨速度に選択性を付与する等、研磨特性を調整することもできる。なお、研磨剤のpHを調整するための酸成分やアルカリ成分も添加剤と見なすことができる。
【0048】
本発明に用いる添加剤は、単量体であっても重合体であってもよく、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の添加量は、研磨剤に対して、0.01重量%以上30重量%部以下であることが好ましい。通常、添加量が少なすぎると研磨特性を調整する効果を充分得ることが難しくなり、添加量が多すぎると粒子が沈降しやすくなる傾向がある。
【0049】
単量体である添加剤としては、例えば、例えば、カルボン酸、アミノ酸、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0050】
前記カルボン酸としては、水への溶解性を有していれば特に限定されないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸が挙げられる。
【0051】
前記アミノ酸としては、例えば、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、チロシン、トリプトファン、セリン、トレオニン、グリシン、アラニン、β−アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシンが挙げられる。
【0052】
前記両性界面活性剤としては、例えば、ベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。
【0053】
前記陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、特殊ポリカルボン酸型高分子分散剤等が挙げられる。
【0054】
前記非イオン性界面活性剤としては例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0055】
前記陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0056】
これらの添加剤のうち、分散性、研磨速度に優れる点で、カルボン酸、アミノ酸、両性界面活性剤が好ましい。さらに、研磨剤の安定性に優れる点で、両性界面活性剤がより好ましく、中でもベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインが特に好ましい。
【0057】
添加剤として、研磨速度を向上させるために水溶性の重合体を使用することもできる。具体的には、例えばアルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン及びプルラン等の多糖類;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリアミド酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩及びポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレイン等のビニル系ポリマ等;ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド等のアクリル系ポリマ等、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これら水溶性高分子の分子量は500以上が好ましい。
【0058】
前記水溶性の重合体の分子量は、静的光散乱法を用いて測定することができ、具体的には例えば、ゼータサイザーナノ(マルバーン・インスツルメンツ社)を使用し、濃度の異なる試料の散乱光量を測定し、Debyeプロットを作製して求めることができる。また、この際、屈折率の濃度増分(dn/dC)は、示差屈折計(大塚電子社DRM−3000)を用いて測定することができる。いずれの測定においても、水を溶媒として25℃で測定する。
【0059】
本発明において、研磨剤の保存方法に特に制限は無い。砥粒、水、及び必要に応じて添加剤を含む1液式研磨剤として保存してもよい。また例えば、少なくとも砥粒を含むスラリ(以下、単にスラリ)と、少なくとも添加剤を含む添加液に分割して、2液式研磨剤として保存してもよい。また、いずれの場合においても、水の含有量を減じた濃縮研磨剤、濃縮スラリ、又は濃縮添加液として保存し、研磨時に水で希釈して用いてもよい。
【0060】
砥粒、水、及び必要に応じて添加剤を含む1液式研磨剤を用いて研磨する場合、研磨剤の供給方法としては、例えば、研磨剤を直接送液して供給する方法、濃縮研磨剤と水を別々の配管で送液し、これらを合流、混合させて供給する方法、あらかじめ濃縮研磨剤、水を混合しておき供給する方法などを用いることができる。
【0061】
砥粒と添加液とを分けた2液式研磨剤の場合、これら2液の配合を任意に変えることにより、研磨特性を調整することができる。2液式研磨剤を用いて研磨する場合、研磨剤の供給方法としては、例えば、スラリと添加液とを別々の配管で送液し、これらの配管を合流、混合させて供給する方法を用いることができる。また、濃縮スラリ、濃縮添加液、水を別々の配管で送液し、これらを合流、混合させて供給する方法も用いることができる。また、あらかじめスラリと添加液を混合しておいたものを供給する方法も用いることができる。さらには、あらかじめ濃縮スラリ、濃縮添加液、水を混合しておいたものを供給する方法も用いることができる。
【0062】
前記のように1液式の濃縮研磨剤とする場合、濃縮研磨剤中の砥粒の2次粒径は、10nm以上400nm以下であることが好ましい。このようにすることで、濃縮研磨剤を水で希釈して研磨剤を調整する際に、研磨剤中の砥粒の2次粒径を10nm以上400nm以下に制御するのが容易になる。
【0063】
同様に、2液式研磨剤とする場合も、スラリ又は濃縮スラリ中の砥粒の2次粒径は、10nm以上400nm以下であることが好ましい。このようにすることで、スラリ又は濃縮スラリを、添加液、濃縮研磨液、水と混合して研磨剤を調整する際に、研磨剤中の砥粒の2次粒径を10nm以上400nm以下に制御するのが容易になる。
【0064】
<研磨方法>
本発明の研磨剤を用いて被研磨膜を研磨する研磨方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、被研磨膜を有する基板を、研磨布が貼り付けられた研磨定盤に対して、被研磨膜と研磨布とが接するように押し付け、被研磨膜と研磨布との間に本実施形態に係るCMP研磨剤を供給しながら、基板及び/又は研磨定盤を動かすことにより被研磨膜を研磨する方法などがある。この方法は、特に、表面に段差を有する基板を研磨し、これにより段差を平坦化するような研磨工程に好適である。
【0065】
本発明において、使用することができる研磨装置には特に制限は無く、基板を保持可能な基板ホルダーと、研磨パッドを貼り付け可能な研磨定盤とを有する一般的な研磨装置が使用できる。基板ホルダーと研磨定盤には、それぞれに回転数が変更可能なモータ等が取り付けられる。例えば、株式会社荏原製作所のEPO−111、EPO−222、FREX−200、FREX−300、アプライド・マテリアルズ社のMIRRA、Reflexion等が研磨装置として使用できる。
【0066】
これら研磨装置による研磨の条件に特に制限は無いが、基板が基板ホルダーから外れないように、定盤の回転速度は200rpm以下が好ましく、基板にかける圧力(研磨荷重)は100kPa以下が好ましい。また、研磨パッド上への研磨剤供給量に特に制限は無いが、研磨パッドの表面が常に研磨剤で覆われていることが好ましい。
【0067】
本発明において、使用することができる研磨パッドには特に制限が無く、一般的な不織布、非発泡樹脂、発泡樹脂、多孔質樹脂等が使用できる。また、研磨パッドには研磨剤が溜まるような溝加工を施すことが好ましい。
【0068】
研磨パッドの材質には特に制限が無く、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、アクリル−エステル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン、セルロース、セルロースエステル、ナイロン及びアラミド等のポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリシロキサン共重合体、オキシラン化合物、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂等の樹脂が使用できる。
【0069】
研磨パッドの表面は、研磨の回数を増しても常に同一の状態であることが好ましい。このため、研磨の最中、又は各回の研磨後に、研磨パッドのコンディショニングをすることが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いてコンディショニングをすることができる。
【0070】
研磨終了後の基板は、よく洗浄して基板に付着した粒子を除去することが好ましい。洗浄には純水以外に希フッ酸やアンモニア水を併用してもよいし、洗浄効率を高めるためにブラシを併用してもよい。また、洗浄後はスピンドライヤ等を用いて基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。
【0071】
本発明の研磨剤及び研磨方法は、半導体デバイスの製造において、被研磨膜の平坦化が必要な工程に広く適用できる。例えば、シャロー・トレンチ・アイソレーション用の絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜を平坦化する工程、コンタクトプラグや銅ダマシン配線を形成する工程等に適用することができる。このような平坦化工程において、本発明の研磨方法によって被研磨膜の凹凸が解消され、基板全面にわたって平滑な面が得られる。
【0072】
本発明の研磨剤及び研磨方法で研磨できる製膜方法には特に制限が無く、化学気相成長(CVD)法、物理気相成長(PVD)法、塗布法、熱酸化法、メッキ法等を用いることができる。
【0073】
また、被研磨膜の材質には特に制限が無く、絶縁膜、半導体、金属を研磨することができる。中でも、本発明の研磨剤は、シリコン系化合物を含む被研磨膜を研磨する用途において、優れた研磨速度と研磨傷の抑制を両立することができる。シリコン系化合物としては、具体的には例えば、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜等のシリコン系絶縁膜を挙げることができる。
【0074】
シリコン系化合物の被研磨膜の例としては、アモルファスシリコン膜、ポリシリコン膜、シリコンゲルマニウム膜、金属シリサイド膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、炭化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、炭窒化シリコン膜、炭酸化シリコン膜等が挙げられる。
【0075】
酸化シリコン膜の製膜方法としては、例えば、モノシランと酸素を熱反応させる熱CVD法、テトラエトキシシランとオゾンを熱反応させる準常圧CVD法、モノシランと二酸化窒素(又はテトラエトキシシランと酸素)をプラズマ反応させるプラズマCVD法、無機ポリシラザンや無機シロキサン等を含む液体原料を基板上に塗布する塗布法等が挙げられる。以上のような方法で得られた酸化シリコン膜には、水素、ホウ素、リン、炭素等、シリコンと酸素以外の元素が含まれていてもよく、これにより、下地の凹凸に対する埋め込み性や膜質を調整することができる。また、以上のような方法で得られた酸化シリコン膜の膜質を安定化させるために、製膜後に必要に応じて150℃から1000℃の温度で熱処理をしてもよい。
【0076】
窒化シリコン膜の製膜方法としては、例えば、ジクロルシランとアンモニアを熱反応させる低圧CVD法、モノシラン、アンモニア及び窒素をプラズマ反応させるプラズマCVD法等が挙げられる。
【0077】
シリコン系化合物以外の被研磨膜の例としては、例えば、ハフニウム系、チタン系、タンタル系酸化物等の高誘電率膜、銅、アルミニウム、タンタル、チタン、タングステン、コバルト等の金属膜、ゲルマニウム、窒化ガリウム、リン化ガリウム、ガリウム砒素、有機半導体等の半導体膜、ゲルマニウム・アンチモン・テルル等の相変化膜、酸化インジウムスズ等の無機導電膜、ポリイミド系、ポリベンゾオキサゾール系、アクリル系、エポキシ系、フェノール系等のポリマ樹脂膜等が挙げられる。
【0078】
本発明の研磨剤及び研磨方法は、膜材料の研磨に限定されるものでは無く、ガラス、シリコン、シリコンカーバイド、シリコンゲルマニウム、ゲルマニウム、窒化ガリウム、リン化ガリウム、ガリウム砒素、サファイヤ、プラスチック等、各種基板材料の研磨にも適用しうる。さらに本発明の研磨剤及び研磨方法は、半導体デバイスの製造に限定されるものでは無く、液晶、有機EL等の画像表示装置、フォトマスク、レンズ、プリズム、光ファイバー、単結晶シンチレータ等の光学部品、光スイッチング素子、光導波路等の光学素子、固体レーザー、青色レーザーLED等の発光素子、磁気ディスク、磁気ヘッド等の磁気記憶装置の製造にも適用しうる。
【0079】
(研磨傷の測定)
本発明の研磨剤は、これまで説明したとおり、高い研磨速度と研磨傷の抑制という効果を両立することができる。ここで研磨傷とは、従来は目視又は光学顕微鏡で観測されていたものであり、光学顕微鏡の平均的な倍率は約500倍であるので、明確な傷として観測される傷の大きさはせいぜい数十μmのオーダーであった。
【0080】
本発明の研磨剤は、前記数十μmの大きさの傷が無いことはもとより、走査型電子顕微鏡を用いて観測される微小な傷も低減することができ、例えば、0.2μm以上の傷の数を低減することができる。0.2μm以上の傷の数としては、8インチウエハ一枚あたり20個以下とすることが好ましく、10個以下とすることがさらに好ましい。前記走査型電子顕微鏡の検出限界は数十nmであるが、測定精度及び特性の点から、0.2μm以上の傷を検出すれば充分であると言える。
【0081】
このような微小な研磨傷を測定する場合には、走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を使用することができ、例えば、アプライド・マテリアルズ社のSEMVisionを使用することができる。具体的には例えば、研磨後のブランケット評価基板又はパターン評価基板の表面をレーザーでスキャンして欠陥の位置とサイズを検出する。次に前記装置に検出する欠陥の最低サイズを入力して、それ以上のサイズの欠陥を走査型電子顕微鏡で撮影する。例えば0.2μmとすれば、画像上、0.2μmの大きさの欠陥が全て撮影される。しかし撮影された欠陥が全て研磨傷であるとは限らず、異物や研磨剤中の砥粒が残存している場合もある。撮影された欠陥についてはモニタ上で画像を見ることができるので、目視で傷か異物かを確認し、傷の数だけをカウントする。まれに、画像を目視しても傷であるのか、異物であるのか判別できない欠陥が存在する場合がある。その場合は、その欠陥を三方向から電子顕微鏡で観察すれば、欠陥の立体情報を得ることができる。被研磨基板に対して凹状になっていれば研磨傷であり、凸状になっていれば傷ではない。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
(研磨剤の調製)
市販の酸化セリウム粒子であるシーアイ化成株式会社のNanotekセリア(商品名、以下酸化セリウム粒子Aという)と水とを混合して、0.5重量%の酸化セリウム粒子Aの懸濁液を用意した。この懸濁液を十分に乾燥させて得られた粉体をTEMで観察したところ、酸化セリウム粒子の1次粒径は14nmであった。
【0083】
別途、430gのCe(NH(NOを7300gの純水に溶解し、次にこの溶液に240gの25重量%のアンモニア水溶液を混合・攪拌することにより、160gの水酸化セリウム粒子Bを得た。得られた水酸化セリウム粒子Bを遠心分離(4000rpm、5分間)によって、固液分離を施した。液体を除去し、新たに純水を加えて、再び前記条件で遠心分離を行った。このような操作を5回繰り返して、水酸化セリウム粒子Bを洗浄した。最後に、水酸化セリウム粒子Bに適当な量の水を加えて、0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を得た。この懸濁液を十分に乾燥させて得られた粉体をTEMで観察したところ、水酸化セリウム粒子Bの1次粒径は3nmであった。
【0084】
前記の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを4対1の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.4重量%の酸化セリウム粒子及び0.1重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤1を得た。研磨剤1において、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して20重量%含まれる。
【0085】
このようにして得られた研磨剤1を、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ85nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+44mVであった。
【0086】
(研磨評価)
直径200mmのシリコン基板を用意し、膜厚1000nmのプラズマCVD法による酸化シリコン(SiO)膜を基板全面に形成し、SiO膜を形成したブランケット基板を得た。以下、この基板を「SiOブランケット評価基板」という。
【0087】
別途、直径200mmのシリコン基板を用意し、溝幅100μm、溝ピッチ200μm、溝深さ400nmの溝パターンを基板全面に形成した。溝パターンの形成には、半導体デバイスの製造工程として周知のフォトリソグラフィーとドライエッチングを用いた。溝パターンの形成後、溝を埋め込むように、厚さ600nmのプラズマCVD法によるSiO膜を基板全面に形成した。このようにして、段差400nmの凹凸を持ったSiO膜形成されたシリコン基板を得た。以下、この基板を、「SiOパターン評価基板」と呼ぶ。
【0088】
また、以下において、前記SiOブランケット評価基板上に形成されたSiO膜のことを「ブランケットSiO膜」といい、SiOパターン評価基板上に形成されたSiO膜を「パターンSiO膜」という。なお、表1においては、それぞれSiOBTW、SiOPTWと示す。
【0089】
研磨装置(株式会社荏原製作所のEPO−111)の基板ホルダーに、前記SiOブランケット評価基板又はSiOパターン評価基板を固定した。直径600mmの研磨定盤に多孔質ウレタン樹脂製で同心円状溝を有する研磨パッド(ロデール社のIC−1000)を貼り付けた。研磨パッド上に前記評価基板が接するように基板ホルダーを押し当て、加工荷重を30kPaに設定した。研磨パッド上に研磨剤を200mL/分の速度で滴下しながら、定盤と基板ホルダーとをそれぞれ50rpmで回転させて、評価基板を60秒間研磨した。研磨の終了後、評価基板を純水でよく洗浄し、さらに乾燥した。
【0090】
その後、光干渉式膜厚装置(ナノメトリクス社のNanospec AFT−5100)を用いて、ブランケットSiO膜又はパターンSiO膜の残膜厚を測定した。ここで単位時間あたりに研磨されたSiO膜の減少量を研磨速度として定義した。さらに、光学顕微鏡(ニコン社のECLIPSE L200)及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置(アプライド・マテリアルズ社のSEMVision)を用いて、ブランケットSiO膜又はパターンSiO膜に発生した研磨傷の数を測定した。なお、研磨速度を、以下R/Rと略記することがある。
【0091】
前記評価の結果、研磨剤1を用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は680nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で480nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0092】
(実施例2)
(研磨剤の調製)
実施例1における水酸化セリウム粒子Bの含有量を20重量%から60重量%に変えた実験を行った。
すなわち、実施例1と同様の方法で、0.5重量%の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを2対3の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、スラリ2を得た。スラリ2に5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.2重量%の酸化セリウム粒子及び0.3重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤2を得た。研磨剤2において、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して60重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤2を、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ81nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+46mVであった。なお、スラリ2についても同様に砥粒の濃度が0.05重量%になるように希釈して、砥粒の2次粒径を測定した。スラリ2の砥粒の2次粒径は77nmであった。
【0093】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤2を用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は800nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で450nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0094】
(実施例3)
実施例1において1次粒径が14nmの酸化セリウム粒子を使用したのに対し、実施例3においては、1次粒径が43nmの酸化セリウム粒子を使用した。
(研磨剤の調製)
炭酸セリウム水和物2kgを400℃で焼成して酸化セリウムを得た。酸化セリウム50gと純水9950gを混合し、ビーズミルによって粉砕・分散を施した。その後、1μmのメンブレンフィルタでろ過を行い、0.5重量%の酸化セリウム粒子(以下、酸化セリウム粒子C)の懸濁液を得た。この懸濁液を十分に乾燥させて得られた粉体をTEMで観察したところ、酸化セリウム粒子の1次粒径は43nmであった。
一方で、実施例1と同様の方法で、0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Cの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを4対1の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.4重量%の酸化セリウム粒子及び0.1重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤3を得た。研磨剤3において、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して20重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤3を、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ93nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+45mVであった。
【0095】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤3を用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は715nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で485nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0096】
(実施例4)
実施例1において1次粒径が14nmの酸化セリウム粒子を使用したのに対し、実施例4においては、1次粒径が67nmの酸化セリウム粒子を使用した。
(研磨剤の調製)
炭酸セリウム水和物2kgを425℃で焼成して酸化セリウムを得た。酸化セリウム50gと純水9950gを混合し、ビーズミルによって粉砕・分散を施した。その後、1μmのメンブレンフィルタでろ過を行い、0.5重量%の酸化セリウム粒子(以下、酸化セリウム粒子D)の懸濁液を得た。この懸濁液を十分に乾燥させて得られた粉体をTEMで観察したところ、酸化セリウム粒子の1次粒径は67nmであった。
一方で、実施例1と同様の方法で、0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Dの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを4対1の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.4重量%の酸化セリウム粒子及び0.1重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤4を得た。研磨剤4において、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して20重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤4を、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ111nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+46mVであった。
【0097】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤4を用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は740nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で490nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0098】
(実施例5)
実施例1における水酸化セリウム粒子Bの含有量を20重量%から10重量%に変えた実験を行った。
(研磨剤の調製)
実施例1と同様の方法で、0.5重量%の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを45対5の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.45重量%の酸化セリウム粒子及び0.05重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤5を得た。研磨剤5において、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して10重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤5を、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ88nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+43mVであった。
【0099】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤5を用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は645nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で360nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0100】
(実施例6)
実施例1における水酸化セリウム粒子Bの含有量を20重量%から90重量%に変えた実験を行った。
(研磨剤の調製)
実施例1と同様の方法で、0.5重量%の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを5対45の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.05重量%の酸化セリウム粒子及び0.45重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤6を得た。研磨剤6において、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して90重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤6を、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ82nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+47mVであった。
【0101】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤6を用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は820nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で295nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0102】
(比較例1)
実施例1における水酸化セリウム粒子Bの含有量を20重量%から0重量%に変えた実験を行った。すなわち、砥粒を全て酸化セリウム粒子Aとして実験を行った。
(研磨剤の調製)
実施例1と同様の方法で、0.5重量%の酸化セリウム粒子Aの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子の懸濁液を超音波洗浄機で分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.5重量%の酸化セリウム粒子を含む研磨剤Aを得た。研磨剤Aにおいて、水酸化セリウム粒子の含有率は砥粒全量に対して0重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤Aを、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ93nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+42mVであった。
【0103】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤Aを用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は610nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で260nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0104】
(比較例2)
実施例1における水酸化セリウム粒子Bの含有量を20重量%から100重量%に変えた実験を行った。すなわち、砥粒を全て水酸化セリウム粒子Bとして実験を行った。
(研磨剤の調製)
実施例1と同様の方法で、0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の水酸化セリウム粒子の懸濁液を超音波洗浄機で分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.5重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤Bを得た。研磨剤Bにおいて、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して100重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤Bを、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ77nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+48mVであった。
【0105】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤Bを用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は830nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で240nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0106】
(比較例3)
(研磨剤の調製)
実施例1と同様の方法で、0.5重量%の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Aの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを2対3の割合で混合し、攪拌棒を用いて手動で攪拌して分散させ、スラリCを得た。スラリCに5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.2重量%の酸化セリウム粒子及び0.3重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤Cを得た。研磨剤Cにおいて、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して60重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤Cを、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ440nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+39mVであった。なお、スラリCについても同様に砥粒の濃度が0.05重量%になるように希釈して、砥粒の2次粒径を測定した。スラリ2の砥粒の2次粒径は410nmであった。
【0107】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤Cを用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は330nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で175nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。
【0108】
(比較例4)
(研磨剤の調製)
炭酸セリウム水和物2kgを450℃で焼成して酸化セリウムを得た。酸化セリウム50gと純水9950gを混合し、ビーズミルによって粉砕・分散を施した。その後、1μmのメンブレンフィルタでろ過を行い、0.5重量%の酸化セリウム粒子(以下、酸化セリウム粒子E)の懸濁液を得た。この懸濁液を十分に乾燥させて得られた粉体をTEMで観察したところ、酸化セリウム粒子の1次粒径は83nmであった。
前記の酸化セリウム粒子Eの懸濁液を超音波洗浄機で分散させ、さらに、5重量%の酢酸水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.5重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤Dを得た。研磨剤Dにおいて、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して0重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤Dを、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ185nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+24mVであった。
【0109】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤Dを用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は720nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で440nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。一方で、走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、それぞれ33個と25個だった。このとき、走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察された典型的な傷の大きさは0.2〜1μmであった。
【0110】
(比較例5)
(研磨剤の調製)
比較例4と同様の方法で、0.5重量%の酸化セリウム粒子Eの懸濁液を、実施例1と同様の方法で、0.5重量%の水酸化セリウム粒子Bの懸濁液を用意した。
前記の酸化セリウム粒子Eの懸濁液と水酸化セリウム粒子Bの懸濁液とを4対1の割合で混合し、超音波洗浄機を用いて分散させ、さらに、5重量%のアンモニア水溶液を分散液のpHが6.0になるまで加えて、0.4重量%の酸化セリウム粒子及び0.1重量%の水酸化セリウム粒子を含む研磨剤Eを得た。研磨剤Eにおいて、水酸化セリウム粒子は砥粒全量に対して20重量%含まれる。
このようにして得られた研磨剤Eを、砥粒の濃度が0.05重量%になるように水で希釈した後、マルバーン社のゼータサイザー3000ナノSを用いて砥粒の2次粒径を測定したところ128nmであった。また、マルバーン社のゼータサイザー3000HSを用いてゼータ電位を測定したところ、+46mVであった。
【0111】
(研磨評価)
研磨剤が異なる以外は実施例1と同じ方法で評価した結果、研磨剤Eを用いた場合、ブランケットSiO膜の研磨速度は760nm/分、パターンSiO膜の研磨速度は凸部で495nm/分、凹部で0nm/分であった。また、光学顕微鏡を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、ともに0個だった。一方で、走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察されたブランケットSiO膜とパターンSiO膜の研磨傷は、それぞれ28個と22個だった。このとき、走査型電子顕微鏡式欠陥検査装置を用いて観察された典型的な傷の大きさは0.2〜1μmであった。
【0112】
これらの結果をまとめたのが表1である。
【0113】
【表1】

【0114】
実施例1〜6、比較例1〜5から、所定の酸化セリウム粒子と所定の水酸化セリウム粒子とを併用することにより、被研磨膜の研磨傷を少なく保ったまま、パターンSiO膜の研磨速度を大きくすることができることが明らかである。すなわち、酸化セリウム粒子Aと水酸化セリウム粒子Bを併用した研磨剤1〜2、5〜6では、酸化セリウム粒子A又は水酸化セリウム粒子Bのみを用いた研磨剤A及びBに比べて、研磨傷が少なく保たれたまま、パターンSiO膜の研磨速度が向上している。特に研磨剤1〜5については、比較例1及び2の研磨剤A及びBに比べて、ブランケットSiO膜の研磨速度に対するパターンSiO膜の研磨速度の比が大きくなる効果も確認された。また、研磨剤3〜4の評価結果から明らかなように、研磨剤1の酸化セリウム粒子の粒径を本発明の範囲内で変更した場合においても、研磨傷が少なく、パターンSiO膜の研磨速度が大きく、さらに、ブランケットSiO膜の研磨速度に対するパターンSiO膜の研磨速度の比が大きいことが確認された。
一方で、研磨剤Aの酸化セリウム粒子の粒径を単純に大きくした研磨剤Dについては、研磨剤Aに比べてパターンSiO膜の研磨速度が向上したものの、研磨傷が増加した。同様に、研磨剤1の酸化セリウム粒子の粒径を本発明の範囲外で変更した研磨剤Eについても、研磨剤1に比べてパターンSiO膜の研磨速度が向上したものの、研磨傷が増加した。以上の事実から、本発明の研磨剤及び研磨方法が、研磨傷を少なく保ったまま、パターン研磨速度を大きくできることが確認された。
図1は同じ一次粒径を有する酸化セリウム粒子及び同じ一次粒径を有する水酸化セリウム粒子を使用し、その混合割合のみが異なる実施例1〜2、5〜6と比較例1〜2を抽出し、水酸化セリウム粒子の重量比と、ブランケットSiO膜及びパターンSiO膜に対する研磨速度との関係をプロットしている。図1からも、本発明の研磨剤及び研磨方法が、パターン研磨速度を向上させることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】SiO膜の研磨速度と、水酸化セリウム粒子の砥粒全量に対する含有率との関係をグラフで示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒として少なくとも4価の酸化セリウム粒子と4価の水酸化セリウム粒子とを含み、媒体として少なくとも水を含む研磨剤であり、
前記酸化セリウム粒子の1次粒径が1nm以上70nm以下であり、
前記水酸化セリウム粒子の1次粒径が1nm以上70nm以下であり、
研磨剤中での前記酸化セリウム粒子の2次粒径と前記水酸化セリウム粒子の2次粒径が、それぞれ10nm以上400nm以下であることを特徴とする研磨剤。
【請求項2】
前記水酸化セリウム粒子が砥粒全量に対して5重量%以上95重量%以下含まれることを特徴とする請求項1に記載の研磨剤。
【請求項3】
前記砥粒が研磨剤に対して0.01重量%以上10重量%以下含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨剤。
【請求項4】
前記水酸化セリウム粒子が4価のセリウム塩とアルカリ液とを混合して得られたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の研磨剤。
【請求項5】
添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の研磨剤。
【請求項6】
請求項5に記載の研磨剤を、少なくとも前記砥粒を含むスラリと、少なくとも前記添加剤を含む添加液とに分割してなることを特徴とする2液式の研磨剤。
【請求項7】
被研磨膜を形成した基板を研磨パッドに押し当てて加圧し、請求項1から5のいずれか1項に記載の研磨剤を被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨パッドとを互いに摺動させることで被研磨膜を研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項8】
被研磨膜を形成した基板を研磨パッドに押し当てて加圧し、請求項6に記載の2液式の研磨剤を混合した状態で被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨パッドとを互いに摺動させることで被研磨膜を研磨することを特徴とする研磨方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−290188(P2009−290188A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301301(P2008−301301)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】