説明

研磨布

【課題】基板表面粗さの低減を達成しながらも、従来の研磨布よりもさらにスクラッチ欠点を抑えることのできる研磨布を提供する。
【解決手段】平均繊維径0.3〜3.0μmの極細繊維の束が絡合してなる不織布を有してなり、研磨布の厚み方向と直交する断面において、前記極細繊維束の断面が50〜1000個/mm存在することを特徴とする研磨布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨布、特に磁気記録ディスクに用いるアルミニウム合金基板やガラス基板を超高精度の仕上げで研磨加工および/またはクリーニング加工を施す際に好適に用いられ得る研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録ディスクには、高容量化、高記憶密度化に伴いディスク表面の極限までの平滑化が求められている。具体的には、基板表面粗さを0.2nm以下とし、かつスクラッチ欠点と呼ばれる基板表面の傷を極小化することが要求されている。
【0003】
磁気記録ディスクの基板には、硬質ポリウレタンフォームなどからなる研磨パッドによってスラリー研削を行った後、微小な傷や突起を研削して平滑性を高めるべく、研磨布の表面に遊離砥粒を付着させ、研磨加工を行う。
【0004】
研磨加工は具体的には、磁気記録ディスクの基板を連続回転させた状態で、テープ状の研磨布(研磨テープ)をゴムローラーにより基板に押し付けながら、基板の径方向に往復運動させ、連続的に研磨テープを走行させる。このとき、スラリーを研磨テープと基板との間に供給し、スラリー中に含まれる遊離砥粒が、研磨テープ表面の繊維に微分散した状態で把持され、基板に押し付けられることによって研磨を行っている。
【0005】
研磨布として、例えば特許文献1〜4には、不織布を構成する繊維を極細化して磁気記録ディスクの基板表面粗さを小さくし、さらに不織布に弾性重合体を含浸させてクッション性を持たせることによりスクラッチ欠点を極少化するという開示がなされており一定の成果を上げている。
【0006】
また近年では、超極細繊維(ナノファイバー)を研磨布表面に分散させるものも開示されている(特許文献5)。
【0007】
しかしながら、最近の研磨加工の精度の向上により、より一層のスクラッチ欠点を抑えることが求められている。
【特許文献1】特開2001−1252号公報
【特許文献2】特開2002−273650号公報
【特許文献3】特開平6−272114号公報
【特許文献4】特許第3457478号公報
【特許文献5】特開2007−144614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基板表面粗さの低減を達成しながらも、従来の研磨布よりもさらにスクラッチ欠点を抑えることのできる研磨布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、平均繊維径0.3〜3.0μmの極細繊維の束が絡合してなる不織布を有してなり、研磨布の厚み方向と直交する断面において、前記極細繊維束の断面が50〜1000個/mm存在することを特徴とする研磨布である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、研磨布シート中に厚み方向に配向した繊維が研磨表面に多く存在することにより、従来の研磨布に対比して砥粒の把持性が適度に弱くなり、スクラッチ等の欠点を発生することなく、基板表面を平滑化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の研磨布は、極細繊維の束(極細繊維束)が絡合してなる不織布を有してなる。極細繊維を採用することにより、研磨対象の表面粗さを小さくすることができる。
【0012】
極細繊維を形成するポリマーとしては例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等を挙げることができる。ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、研磨加工時に発生する熱に対する耐熱性に優れより好ましい。ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポチトリメチレンテレフタレート等を挙げることができる。またポリアミドの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等を挙げることができる。
【0013】
また、極細繊維を構成するポリマーには、他の成分が共重合されていても良いし、粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させても良い。
【0014】
極細繊維の平均繊維径としては、0.3〜3.0μmとすることが重要である。3.0μm以下、好ましくは2.5μm以下とすることで、研磨対象の表面粗さを小さくすることができる。一方、0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上とすることで、繊維強度及び剛性を維持できるため研磨を効率良く行うことができる。
【0015】
なお、実施例の測定方法においても後述するように、繊維径が10μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に該当しないものとして平均繊維径の測定対象から除外するものとする。
【0016】
極細繊維束の形態としては、極細繊維同士が多少離れていてもよいし、部分的に結合していてもよいし、凝集していてもよい。
【0017】
本発明の研磨布に用いられる不織布において、上記に定義される極細繊維よりも太い繊維が混合されていてもよい。そうすることで、研磨布の強度を補強し、またクッション性を向上させることができる。かかる極細繊維よりも太い繊維を形成するポリマーとしては、前述の極細繊維を構成するポリマーと同様のものを採用することができる。かかる極細繊維よりも太い繊維の不織布に対する混合量としては、30質量%以下、より好ましくは10質量%以下とすることで、研磨布表面の平滑性を維持することができる。
【0018】
本発明の研磨布に用いられる不織布としては、短繊維をカード、クロスラッパーを用いて積層ウェブを形成させた後にニードルパンチやウォータジェットパンチを施して得られる短繊維不織布や、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維不織布、抄紙法で得られる不織布などを採用することができる。なかでも、短繊維不織布やスパンボンド不織布は、後述するような極細繊維束の態様をニードルパンチ処理により得ることができ好ましい。
【0019】
本発明の研磨布は、前記不織布が弾性重合体を含有していることも好ましい。弾性重合体のバインダー効果により極細繊維が研磨布から抜け落ちるのを防止し、また研磨布にクッション性を付与しスクラッチ欠点をより少なくすることができる。
【0020】
弾性重合体としては例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマーなどを用いることができる。
【0021】
中でも、ポリウレタン、ポリウレタン・ポリウレアエラストマーなどのポリウレタン系エラストマーが好ましい。ポリウレタン系エラストマーのポリオール成分としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系のジオール、もしくはこれらの共重合物を用いることができる。また、ジイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂環式イソシアネート、脂肪族系イソシアネートなどを使用することができる。
【0022】
ポリウレタン系エラストマーの重量平均分子量としては50,000〜300,000が好ましい。重量平均分子量を50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは150,000以上とすることにより、研磨布の強度を保持し、また極細繊維の脱落を防ぐことができる。また、300,000以下、より好ましくは250,000以下とすることで、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて極細繊維層への含浸を行いやすくすることができる。
【0023】
また、弾性重合体には、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが含まれていても良い。
【0024】
また、弾性重合体には、必要に応じて着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤、防臭剤などの添加剤が配合されていてもよい。
【0025】
弾性重合体の含有率としては、極細繊維束が絡合してなる不織布に対し、5〜200質量%が好ましい。含有量によって、研磨布の表面状態、クッション性、硬度、強度などを調節することができる。5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上とすることで、繊維脱落を少なくすることができる。一方、200質量%以下、より好ましくは100質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下とすることにより、加工性及び生産性が向上するとともに、表面上において極細繊維が均一分散した状態を得ることができる。
【0026】
本発明の研磨布の、後述する補強層を除く部分の目付としては、100〜600g/mが好ましい。100g/m以上、より好ましくは150g/m以上とすることで、研磨布の形態安定性・寸法安定性に優れ、研磨加工時の研磨布の伸びによる加工ムラ、スクラッチ欠点の発生を抑えることができる。一方、600g/m以下、より好ましくは300g/m以下とすることで、研磨テープの取扱い性が容易となり、また、研磨布のクッション性を適度に抑え、研磨加工時において非研磨面からのゴムローラーによる押付圧を研磨表面に適度に伝播させ、効率的な研磨加工を行うことができる。
【0027】
また本発明の研磨布の、後述する補強層を除く部分の厚さとしては、0.1〜10mmが好ましい。0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上とすることで、研磨布の形態安定性・寸法安定性に優れ、研磨加工時の研磨布の伸びによる加工ムラ、スクラッチ欠点の発生を抑えることができる。一方、10mm以下、より好ましくは5mm以下とすることで、研磨加工時の押付圧を充分に伝播させることができる。
【0028】
また本発明の研磨布は、後述する極細繊維束の切断端を有する面(研磨に供する側の面)の他方の面に補強層を有することも好ましい。そうすることで、研磨布の形態安定性・寸法安定性に優れ、研磨加工時の研磨布の伸びによる加工ムラ、スクラッチ欠点の発生を抑えることができる。補強層としては、織物、編物、不織布(紙を含む)、フィルム状物(プラスチックフィルム、金属薄膜シートなど)等を採用することができる。
【0029】
本発明の研磨布は、研磨布の厚み方向と直交する断面において、極細繊維束が50〜1000個/mm存在することが重要である。一般的な人工皮革タイプの研磨布は極細繊維が厚み方向に対してほぼ垂直に配列している(表面に極細繊維が寝た状態で覆われている)ため、回転するディスクに研磨布を押し当てる研磨加工時においては、表面に寝た状態の極細繊維が砥粒を把持することになる。すると、砥粒の把持性が必要以上に高くなり、砥粒の逃げ場が無くなり、スクラッチが発生しやすくなる。一方、本発明の研磨布は、研磨表面に厚み方向に配列した繊維が充分存在するため、あたかもブラシライクな構造となり、従来の研磨布に対比して、研磨加工時に砥粒の押付圧を適度に低減することができ、結果としてスクラッチ等の欠点を十分に抑えることが可能となる。50個/mm以上、好ましくは100個/mm以上、より好ましくは200個/mm以上とすることで、スクラッチ等の欠点を十分に抑える効果を奏することができる。一方、1000個/mm以下、より好ましくは800個/mm以下、さらに好ましくは600個/mm以下とすることで、研磨布の強力を維持することができる。
【0030】
また本発明の研磨布は、少なくとも片面、すなわち研磨に供する側の面の表面における極細繊維束の切断端が、10〜150個/mm存在することが好ましい。極細繊維束の切断端を10個/mm以上、より好ましくは50個/mm以上とすることで、上記のようなブラシライクな構造をより効果的にとることができる。一方、150個/mm以下、好ましくは130個/mm以下とすることで、研磨布の強力を維持することができる。
【0031】
また本発明の研磨布は、研磨布の厚み方向と平行な断面において、極細繊維束が幅1cmあたり80〜500本存在することが好ましい。幅1cmあたり80本以上、より好ましくは90本以上、さらに好ましくは100本以上とすることで、上記のようなブラシライクな構造をより効果的にとることができる。一方、500本以下、より好ましくは300本以下、さらに好ましくは200本以下とすることで、研磨布の強力を維持することができる。
【0032】
本発明の研磨布は、研磨に供する側の面の表面に立毛処理が施されていることが好ましい。そうすることで、上記のようなブラシライクな構造をより効果的にとることができる。またクッション性にも優れるのでスクラッチ欠点をより少なくすることができる。 次に、本発明の研磨布を製造する方法について説明する。
【0033】
極細繊維束が絡合してなる不織布を得る手段としては、極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維から直接不織布を製造するのは困難であるが、極細繊維発生型繊維から不織布を製造し、この不織布における海島型複合繊維から極細繊維を発生させることにより、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0034】
極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分・島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。
【0035】
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い海・島の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海・島の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがあるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点から、海島型複合繊維がより好ましい。
【0036】
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸などを用いることができる。
【0037】
海成分の溶解除去は、弾性重合体を付与する前、付与した後、起毛処理後、のいずれのタイミングで行ってもよい。
【0038】
不織布を得る方法としては、前述のとおりウェブをニードルパンチやウォータジェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法、抄紙法などを採用することができ、なかでも、前述のような極細繊維束の態様とする上で、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどの処理を経るものが好ましい。
【0039】
ニードルパンチ処理において、バーブの本数としては1〜9本が好ましい。1本以上とすることで効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、9本以下とすることで繊維損傷を抑えることができる。
【0040】
バーブのトータルデプスとしては、0.05〜0.09mmが好ましい。0.05mm以上とすることで、繊維束への充分な引掛かりが得られるため効率的な繊維絡合が可能となる。一方、0.09mm以下とすることで繊維損傷を抑えることが可能となる。
【0041】
パンチング本数としては、4500〜14000本/cmが好ましい。4500本/cm以上とすることで、緻密性が得られ、高精度の仕上げを得ることができる。一方、14000本/cm以下とすることで、加工性の悪化、繊維損傷、及び強度低下を防ぐことができる。
【0042】
また、ウォータージェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させると良い。
【0043】
ニードルパンチ処理あるいはウォータジェットパンチ処理後の極細繊維発生型繊維不織布の見掛け密度としては、0.15〜0.30g/cmが好ましい。0.15g/cm以上とすることで、研磨布の形態安定性・寸法安定性に優れ、研磨加工時の研磨布の伸びによる加工ムラ、スクラッチ欠点の発生を抑えることができる。一方、0.30g/cm以下とすることで、弾性重合体を付与するための充分な空間を維持することができる。
【0044】
このようにして得られた極細繊維発生型繊維不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱、またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
【0045】
極細繊維発生型繊維から易溶解性ポリマー(海成分)を溶解する溶剤としては、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィンであればトルエンやトリクロロエチレン等の有機溶媒、ポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いることができる。また極細繊維発生加工(脱海処理)は、溶剤中に極細繊維発生型繊維(からなる不織布)を浸漬し、窄液することによって行うことができる。
【0046】
また、極細繊維発生加工には、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機、ジッガー染色機等の公知の装置を用いることができる。
【0047】
また、極細繊維発生加工は、立毛処理前に行ってもよいし、立毛処理後に行ってもよい。
【0048】
弾性重合体は、極細繊維発生加工の前に付与してもよいし、後に付与してもよい。
【0049】
弾性重合体を付与させる際に用いる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を好ましく用いることができる。また、水中にエマルジョンとして分散させた水系ポリウレタンとしてもよい。
【0050】
溶媒に溶解した弾性重合体溶液に不織布を浸漬する等して弾性重合体を不織布に付与し、その後、乾燥することによって弾性重合体を実質的に凝固し固化させる。乾燥にあたっては不織布及び弾性重合体の性能が損なわない程度の温度で加熱してもよい。
【0051】
研磨布の立毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて行うことができる。特に、サンドペーパーを用いることにより、均一かつ緻密な立毛を形成することができる。さらに、研磨布の表面に均一な立毛を形成させるためには、研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするためには例えば、バフ段数を3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手をJIS規定の150番〜600番の範囲とすることがより好ましい。
【0052】
本発明の研磨布は、例えば加工効率と安定性の観点から30〜50mm幅のテープ状にカットして研磨加工用テープとして用いると良い。
【0053】
研磨加工方法としては、上記のような研磨テープと遊離砥粒を含むスラリーとを用いて、アルミニウム合金等からなる磁気記録ディスク基板の研磨加工を行うと良い。スラリーとしては、ダイヤモンド微粒子などの高硬度砥粒を水系分散媒に分散したものが好ましく用いられる。砥粒径としては、0.2μm以下が本発明の研磨布を構成する極細繊維に適合した砥粒の保持性と分散性の観点から好ましい。
【実施例】
【0054】
[測定方法・評価用加工方法]
(1)融点
パーキンエルマー社(Perkin Elmaer)製DSC−7を用いて2nd runでポリマーの溶融を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0055】
(2)メルトフローレイト(MFR)
試料ペレット4〜5gを、MFR計電気炉のシリンダーに入れ、荷重325gf、温度270℃の条件で、外径9.5mm、内径2.0955mm、高さ8mmの垂直な穴を有するオリフィスから10分間に押し出される樹脂の量(g)を測定した。同様の測定を3回繰り返し、平均値をMFRとした。
【0056】
(3)極細繊維の平均繊維径
研磨布の極細繊維を含む厚み方向に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE−7800型)にて3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径を測定した。ただし、これを3ヶ所で行い、合計150本の単繊維の直径を測定し、小数点以下を四捨五入して平均値を算出した。
なお、繊維径が10μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に該当しないものとして平均繊維径の測定対象から除外するものとする。
また、極細繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求める。
【0057】
(4)研磨布の厚み方向と直交する断面における繊維束数
研磨布の厚み方向と直交する断面(研磨布表面と平行する面)をエンドレスのバンドナイフを有する半裁機により(補強層を除く)厚み方向の中間で切り出し、SEMにて100倍で写真撮影した。得られた写真を4倍に拡大し、0.5mm×0.5mmあたりの繊維束断面の数を数え、面積1mmあたりの切断端個数に換算した。これを10箇所で行い、平均値を算出した。
【0058】
(5)研磨布の表面に存在する繊維束の切断端
研磨布表面をSEMにて100倍で写真撮影し、得られた写真を4倍に拡大し、0.5mm×0.5mmあたりの極細繊維束の切断端部分の個数を数え、面積1mmあたりの切断端個数に換算した。これを10箇所で行い、平均値を算出した。
【0059】
(6)研磨布の厚み方向と平行な断面における繊維束数
研磨布の厚み方向と平行な断面を切り出し、SEMにて50倍で写真撮影した。得られた写真を4倍に拡大し、厚み方向と直交する直線上の幅1cmの範囲に存在する繊維束の本数を数え、10箇所の平均値を算出した。
【0060】
(7)研磨加工
研磨布を40mm幅のテープとした。
研磨対象として、アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工し、平均表面粗さ0.2nmに制御したディスクを用いた。
研磨布表面に1次粒子径1〜10nmの単結晶ダイヤモンド粒子が平均径100nmにクラスター化した遊離砥粒のスラリーを滴下し、テープ走行速度5cm/分にて20秒間研磨した。これを各ディスクの両面について実施した。
【0061】
(8)基板表面粗さ
JIS B 0601:2001に基づいて測定した。表面粗さ測定機(シュミットメジャーメントシステム社製 TMS−2000)を用いて、研磨加工後のディスク基板サンプル表面の10カ所について平均粗さを測定し、10カ所の測定値を平均することにより基板表面粗さを算出した。数値が低いほど高性能であることを示す。
【0062】
(9)スクラッチ点数
研磨加工後の基板5枚の両面、すなわち計10表面の全領域を測定対象として、光学表面分析計(Candela6100)を用いて、深さ2nm以上の溝をスクラッチとしてスクラッチ点数を測定し、10表面の測定値の平均値で評価した。数値が低いほど高性能であることを示す。
【0063】
[実施例1]
(原綿)
(海成分・島成分)
融点220℃、MFR10.5のナイロン6を島成分とし、融点53℃、MFR12のアクリル酸2‐エチルヘキシルを22mol%共重合した共重合ポリスチレン(co−PSt)を海成分とした。
【0064】
(紡糸・延伸)
上記海成分・島成分を用い、376島/ホールの海島型複合口金を用いて、紡糸温度285℃、島/海質量比率40/60、吐出量1.3g/分・ホール、紡糸速度1000m/分にて溶融紡糸した。次いで、85℃の液浴中で3.0倍に延伸し、押し込み型捲縮機にて捲縮を付与し、カットして、繊度3.6dtex、繊維長51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0065】
(極細繊維発生型繊維不織布)
上記原綿を用い、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成した。次いで、トータルバーブデプス0.08mmのニードル1本を植込んだニードルパンチ機にて、針深度8mm、パンチ本数10500本/cmでニードルパンチし、目付695g/m、見掛け密度0.22g/cmの極細繊維発生型繊維不織布を作製した。
【0066】
(研磨布)
上記極細繊維発生型繊維不織布を95℃で熱水収縮させた後、ポリビニルアルコールを繊維質量に対し24質量%付与後、乾燥させた。
この不織布に、ポリマージオールがポリエーテル系75質量%とポリエステル系25質量%とからなるポリウレタンを、繊維質量に対して固形分で20質量%付与し、液温35℃の30%DMF水溶液でポリウレタンを凝固させ、約85℃の熱水でDMF、およびポリビニルアルコールを除去した。その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁機により厚み方向に半裁し、半裁面をJIS#600番のサンドペーパーにて3段研削し、立毛を形成させ研磨布を作製した。
得られた研磨布は、極細繊維の平均繊維径が0.75μm、厚さ0.53mm、目付170g/m、見かけ密度0.32g/cmであった。
【0067】
[実施例2]
(原綿)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0068】
(極細繊維発生型繊維不織布)
ニードルパンチ本数を13500本/cmとした以外は実施例1と同様にして、極細繊維発生型繊維不織布を得た。
【0069】
(研磨布)
上記極細繊維発生型繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
得られた研磨布は、厚さ0.52mm、目付156g/m、見かけ密度0.30g/cmであった。
【0070】
[実施例3]
(原綿)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0071】
(極細繊維発生型繊維不織布)
ニードルパンチ本数を4500本/cmとした以外は実施例1と同様にして、極細繊維発生型繊維不織布を得た。
【0072】
(研磨布)
上記極細繊維発生型繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
得られた研磨布は、厚さ0.55mm、目付170g/m、見かけ密度0.31g/cmであった。
【0073】
[比較例1]
(原綿)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0074】
(極細繊維発生型繊維不織布)
ニードルパンチ本数を1500本/cmとした以外は実施例1と同様にして、極細繊維発生型繊維不織布を得た。
【0075】
(研磨布)
上記極細繊維発生型繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
得られた研磨布は、厚さ0.55mm、目付175g/m、見かけ密度0.32g/cmであった。
【0076】
[実施例4]
(原綿)
島本数36島/ホールの海島型複合口金を用いて、吐出量1.0g/分・ホールとした以外は実施例1と同様にして、繊度2.8dtex、繊維長51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0077】
(極細繊維発生型繊維不織布)
上記原綿を用いた以外は実施例1と同様にして、極細繊維発生型繊維不織布を得た。
【0078】
(研磨布)
上記極細繊維発生型繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
得られた研磨布は、極細繊維の平均繊維径が2.11μm、厚さ0.55mm、目付167g/m、見かけ密度0.30g/cmであった。
【0079】
[比較例2]
(原綿)
島本数16島/ホールの海島型複合口金を用いて、吐出量2.0g/分・ホールとした以外は実施例1と同様にして、繊度5.6dtex、繊維長51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0080】
(極細繊維発生型繊維不織布)
上記原綿を用いた以外は実施例1と同様にして、極細繊維発生型繊維不織布を得た。
【0081】
(研磨布)
上記極細繊維発生型繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
得られた研磨布は、極細繊維の平均繊維径が3.10μm、厚さ0.56mm、目付177g/m、見かけ密度0.32g/cmであった。
【0082】
研磨加工後のディスクは、表面の均一性に欠けるものであった。
【0083】
[比較例3]
(原綿)
(海成分・島成分)
実施例1で用いたのと同様のものをそれぞれ海成分・島成分とした。
【0084】
(紡糸・延伸)
上記海成分・島成分を島/海質量比率30/70にてチップブレンドし、吐出量1.3g/分・ホール、紡糸速度600m/分にて溶融紡糸した。次いで、85℃の液浴にて2.5倍延伸し、押し込み型捲縮機にて捲縮を付与し、カットして、繊度4.3dtex、繊維長51mmの繊維の原綿を得た。
【0085】
(極細繊維発生型繊維不織布)
上記原綿を用いた以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
得られた研磨布は、極細繊維の平均繊維径が0.28μm、厚さ0.54mm、目付172g/m、見かけ密度0.32g/cmであった。
【0086】
研磨加工後のディスクは、研削量が低いためディスク表面にうねりがあり、均一性に欠けるものであった。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の研磨布は、磁気記録ディスクに用いるアルミニウム合金基板やガラス基板を超高精度の仕上げで研磨加工したりクリーニング加工を施す際に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径0.3〜3.0μmの極細繊維の束が絡合してなる不織布を有してなり、研磨布の厚み方向と直交する断面において、前記極細繊維束の断面が50〜1000個/mm存在することを特徴とする研磨布。
【請求項2】
少なくとも片面の表面における極細繊維束の切断端が、10〜150個/mm存在する、請求項1に記載の研磨布。
【請求項3】
研磨布の厚み方向と平行な断面において、前記極細繊維束が幅1cmあたり80〜500本存在する、請求項1または2に記載の研磨布。
【請求項4】
弾性重合体を含有してなる、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨布。

【公開番号】特開2010−29981(P2010−29981A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194613(P2008−194613)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】