説明

研磨装置

【課題】回転する研磨工具を被加工物に押し付ける研磨荷重を高精度に制御する。
【解決手段】研磨工具1を被加工物に当接して研磨加工する研磨装置において、研磨工具1の工具軸2に取り付けられた第1部材3にラジアル方向の磁気吸引力を発生する第2部材4を嵌合させ、第2部材4を回転させることにより研磨工具1を回転駆動する。第2部材4をモータ12によってスラスト方向に移動させることにより、研磨工具1を被加工物に押し付ける研磨荷重を与える。研磨工具1の回転数や回転トルクによって研磨荷重が影響されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する研磨工具によって被加工物を研磨加工する研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、研磨加工において、除去量は、工具を被加工面に押し付ける荷重、工具の回転数、加工時間に比例することがプレストンの経験則として知られている。除去量を高精度に制御するためには、工具を被加工面に押し付ける研磨荷重と工具の回転数を高精度に制御しなくてはならない。
【0003】
従来の研磨装置は、工具に荷重を加える加圧機構と、工具を回転させる回転駆動機構を工具軸の別の位置に設けていた(特許文献1参照)。図3は一従来例による研磨ヘッドを示すもので、工具101は、軸102の一端に固着され、軸102の外周には、回転体105が固着されている。回転体105は、空気静圧軸受108a、108bによって非接触で回転自在に支持されている。また、軸102は、軸102に固着されたロータ106aとステータ106bからなるモータ106により非接触にて回転駆動される。さらに、シリンダ室104の空気圧を制御することにより回転体105を移動させ、工具101を被加工面に押し付ける荷重(研磨荷重)を発生させる。このような構成を用いれば、工具を被加工面に押し付ける荷重と工具の回転数を制御することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−232929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の研磨ヘッドでは、軸102の軸方向の移動により、ロータ106aとステータ106bとの間において磁気吸引力が変化する。さらに、工具101の回転数や回転トルクを変化させると、ロータ106aとステータ106bの間の磁気吸引力が変化する。そのため、工具101を被加工面に押し付ける荷重を高精度に制御することが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、研磨加工中の研磨荷重を高精度で制御することのできる研磨装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の研磨装置は、被加工物に当接されて回転する研磨工具と、前記研磨工具の工具軸部に配置された第1の筒状部材と、前記第1の筒状部材に嵌合する第2の筒状部材と、前記第2の筒状部材と前記第1の筒状部材との間にラジアル方向の磁気吸引力を発生する手段と、前記第2の筒状部材を前記工具軸部のスラスト方向に駆動するスラスト駆動手段と、前記第2の筒状部材を回転駆動することで前記研磨工具を回転させる回転駆動手段と、を有し、前記スラスト駆動手段によって、前記研磨工具を被加工物に当接するための研磨荷重を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、研磨工具のスラスト方向の位置が変化しても、あるいは研磨工具の回転数や回転トルクを変化させても、研磨工具を被加工面に押し付ける研磨荷重を一定に保つことができる。また、研磨加工中の研磨荷重を任意に制御可能であるため、加工精度を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1による研磨装置を示すもので、(a)はその主要部を示す模式部分断面図、(b)は第1部材と第2部材の間に磁気吸引力を発生する手段を示す部分拡大平面図である。
【図2】実施例2及びその変形例による研磨装置をそれぞれ断面で示す図である。
【図3】一従来例による研磨装置の主要部を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
図1(a)に示すように、研磨装置の主要部である研磨ヘッドは、研磨工具である工具1と、工具軸部を構成する工具軸2と、第1の筒状部材である第1部材3と、で構成される。工具1は、工具軸2の一端に固着され、工具軸2には第1部材3が工具軸2と同軸に配置され固着されている。第1部材3に嵌合する第2の筒状部材である第2部材4は、回転体5に固着されており、第2部材4と回転体5は、一個体として運動する。第1部材3と第2部材4とは同軸に配置され、両者の間には、互いにラジアル方向の磁気吸引力が働いている。回転体5は、上部外周面が歯車となっており、回転駆動手段であるモータ6の回転トルクをモータ歯車7を介して伝達され、回転運動を行う。
【0011】
第2部材4は、モータ6によって回転駆動され、工具軸2を回転させる。工具軸2は、静圧空気軸受8a、8bによってラジアル方向に支持されており、回転と上下方向の移動は自在に行うことができる。回転体5は、ベアリング9a、9bによって回転自在に支持されている。ベアリング9a、9b、モータ歯車7、モータ6、ナット10は、一体として構成されており、図示しないリニアガイドによって上下方向に自在に運動可能となっている。ナット10は、送りねじ11によって上下方向に移動し、第2部材4は、回転体5、ナット10、送りねじ11を介して、スラスト駆動手段であるモータ12によりスラスト方向である上下方向に移動する。静圧空気軸受8a、8b、リニアガイド、モータ12は、筐体13に固着されており、筐体13は図示しない手段により並進方向の位置決めと、姿勢を変化させることが可能である。
【0012】
図1(b)は、第1部材3と第2部材4の間に磁気吸引力を発生する手段を示すもので、第1部材3と一体である内輪30の外周面に12個の第1の磁石31を配置し、第2部材4と一体である外輪40の内周面に12個の第2の磁石41を配置している。周方向に配列された磁石31、41は、ラジアル方向に対向している磁石対が逆磁極になるように配置され、ラジアル方向の磁気吸引力が働いている。内輪30が外輪40の中心にあればスラスト方向の力の大きさは0であるが、内輪30がスラスト方向に並進移動すると、内輪30を中心側へ引き戻すようにスラスト方向の力が働く。
【0013】
本実施例の研磨装置の動作を以下に説明する。図示しない手段により筐体13の位置と姿勢を変化させ、工具1が被加工物の被加工面に近接するよう筐体13の位置と姿勢を定める。このとき、第1部材3と第2部材4の間には磁気吸引力が働いており、工具1と工具軸2と第1部材3で構成される工具軸部は、上記のスラスト方向に働く力と工具軸部に作用する重力がつりあう位置にとどまっている。ここで、モータ12の駆動により第2部材4を下降させると、工具軸部が下降し、工具1が被加工面に当接し、さらに第2部材4を下降させると、上記のように第1部材3に作用するスラスト方向の力により、工具1が被加工面に押し付けられる。モータ12によって第1部材3と第2部材4の相対位置を変化させることで、工具1が被加工面に押し付けられる荷重(研磨荷重)を制御することができる。工具1を所望の研磨荷重で被加工面に押し付けた状態で第1部材3と第2部材4の相対位置を維持したままでモータ6により工具1を回転させることで、研磨加工を行う。
【0014】
研磨加工中に、工具1の位置が上下方向に変化したり、工具1の回転数や回転トルクを変化させる場合においても、工具1を被加工面に押し付ける研磨荷重を一定に保つことができ、任意に制御することも可能である。このように、工具位置や工具の回転数、回転トルクに係わりなく、工具1を被加工面に押し付ける研磨荷重を高精度に制御することで、より高精度な研磨加工が可能となる。
【実施例2】
【0015】
本実施例は、図2(a)に示すように、第1部材3と第2部材4の相対変位を検出するための第1変位検出手段14及び第2変位検出手段15を付加した点のみが実施例1と異なる。
【0016】
第1変位検出手段14は、回転体5の上面の上下方向の変位を非接触にて検出する。第2変位検出手段15は、工具軸2の上端面の上下方向の変位を非接触にて検出する。第2部材4の変位は、回転体5の変位と等しく、第1部材3の変位は、工具軸2の変位に等しいので、第1変位検出手段14と第2変位検出手段15で検出した変位の差をとることにより、第1部材3と第2部材4の相対位置の変化を検知可能である。検知した第1部材3と第2部材4の相対位置を一定にするようにモータ12を駆動することで、より高精度に工具1の被加工面に対する押し付け荷重である研磨荷重を一定に保つことが可能となる。また、第1部材3と第2部材4の相対位置と研磨荷重の関係を明らかにしておけば、モータ12によって研磨荷重を任意に制御することができる。これによって、研磨量を必要に応じて変化させることが可能となる。
【0017】
図2(b)は、本実施例の一変形例を示すもので、変位検出手段14、15の代わりに、工具軸2との距離を検出するために取付ステー16に取り付けられた距離検出手段17を設ける。取付ステー16は、ナット10の上下動にともなって上下に移動するので、第2部材4の上下動と同じ距離だけ上下に変位する。距離検出手段17により、第1部材3と第2部材4の相対位置の変化を検知することで、工具1が被加工面を押し付ける研磨荷重を一定に保持することや任意に制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0018】
1 工具
2 工具軸
3 第1部材
4 第2部材
5 回転体
6、12 モータ
7 モータ歯車
13 筐体
14、15 変位検出手段
17 距離検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に当接されて回転する研磨工具と、
前記研磨工具の工具軸部に配置された第1の筒状部材と、
前記第1の筒状部材に嵌合する第2の筒状部材と、
前記第2の筒状部材と前記第1の筒状部材との間にラジアル方向の磁気吸引力を発生する手段と、
前記第2の筒状部材を前記工具軸部のスラスト方向に駆動するスラスト駆動手段と、
前記第2の筒状部材を回転駆動することで前記研磨工具を回転させる回転駆動手段と、を有し、
前記スラスト駆動手段によって、前記研磨工具を被加工物に当接するための研磨荷重を制御することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記第1の筒状部材は、前記工具軸部の周方向に配置された第1の磁石を備え、
前記第2の筒状部材は、前記第1の磁石に対向して逆磁極になるように配置された第2の磁石を備えたことを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−280039(P2010−280039A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135772(P2009−135772)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】