研磨装置
【課題】丸刀のような円弧状の刃先をもつ刃物でも、その刃先を短時間で容易かつ良好に研磨できる研磨装置を提供する。
【解決手段】ベースプレート1上に設置されたモータ21、刃物を保持する治具5、ならびに治具を支持する受座4を備える。モータ21の回転軸には、刃物を研磨するための砥石G1,G2が装着される。治具5は、受座4により回転自在に支持される筒状胴部51aと、筒状胴部51a内に挿入された刃物の柄部を保持するチャック部57とを備える。又、治具5には、チャック部57による刃物の保持位置を筒状胴部51aの軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段と、チャック部57を筒状胴部51aの軸線に直交する軸回りに回動させるチャック回動手段との少なくとも一方が設けられる。受座4は、ベースプレート1の上面に沿って、筒状胴部51aの軸線に直交する第1方向とその第1方向に交差する第2方向とに移動可能とされている。
【解決手段】ベースプレート1上に設置されたモータ21、刃物を保持する治具5、ならびに治具を支持する受座4を備える。モータ21の回転軸には、刃物を研磨するための砥石G1,G2が装着される。治具5は、受座4により回転自在に支持される筒状胴部51aと、筒状胴部51a内に挿入された刃物の柄部を保持するチャック部57とを備える。又、治具5には、チャック部57による刃物の保持位置を筒状胴部51aの軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段と、チャック部57を筒状胴部51aの軸線に直交する軸回りに回動させるチャック回動手段との少なくとも一方が設けられる。受座4は、ベースプレート1の上面に沿って、筒状胴部51aの軸線に直交する第1方向とその第1方向に交差する第2方向とに移動可能とされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃物などの研磨に用いられる研磨装置に係わり、特に丸刀や角刀といった彫刻刀の刃先を研磨するのに用いて好適な研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、彫刻刀や包丁といった刃物が摩耗した場合、その刃先を砥石により研磨して切れ味を回復させているが、固定配置された砥石に対し刃先を手動で繰り返し摺り付ける方法では時間が掛かるだけでなく熟練を要し、回転する砥石に対して刃先を押し付ける方法では短時間で研磨することはできても、熟練者でなければ刃先を良好に研磨することができず、不慣れな作業者が研磨した場合では刃先角が不良となり、所期の切れ味が得られないという難点があった。特に、丸型彫刻刀(丸刀)のように刃先が円弧状の刃物では、熟練者といえども良好に研磨すること極めて困難であった。
【0003】
そこで、鉛直軸回りに回転する砥石(研磨盤)の近傍に、彫刻刀などの刃物を固定支持する固定部を設け、その固定部に、研磨盤に対する刃先の接触角を調整する機能のほか、刃物をその軸線回りに回転させる機能を付与するという研磨装置が発案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−288683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される研磨装置でも、丸刀のような刃物の刃先を良好に研磨すること困難である。すなわち、丸刀といっても刃先の曲率は様々で、その曲率中心が柄部の軸線上に位置していないことが通例であって、特許文献1の固定部に対して刃物がその回転中心(例えば、特許文献1の回転部30の中心)と刃先の曲率中心とを合致した状態に取り付けられるとは限らないから、刃物を回転させただででは円弧状の刃先を均等に研磨することができず、刃先角が部分的に異なった状態で研磨されてしまうことになる。
【0006】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は丸刀のような円弧状の刃先をもつ刃物でも、その刃先を短時間で容易かつ良好に研磨できる研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、
刃物を研磨するための砥石が装着される回転軸を有してベースプレート上に設置された駆動源を含む研磨装置本体と、
前記刃物を保持する治具と、
前記治具を支持する受座と、を備えた研磨装置であり、
前記治具は、
前記受座により回転自在に支持される筒状胴部と、
前記筒状胴部内に挿入された刃物の柄部を保持して当該刃物を前記筒状胴部に対して固定するチャック部と、
前記チャック部による刃物の保持位置を前記筒状胴部の軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段および前記チャック部を前記筒状胴部の軸線に直交する軸回りに回動させるチャック回動手段の少なくとも一方と、を有し、
前記受座は、前記ベースプレートの上面に沿って、前記筒状胴部の軸線に直交する第1方向とその第1方向に交差する第2方向とに移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
更に、上記のような構成に加え、前記駆動源の回転軸に装着された砥石に対し、前記治具にて保持された刃物の接触角を調整可能な接触角調整手段を備えていることを特徴とする。
【0009】
又、前記受座に前記筒状胴部の回転移動を制限するストッパが設けられ、前記筒状胴部の外周には前記ストッパに対応する凸部が設けられていることを特徴とし、好ましくは前記凸部の移動経路上において、前記ストッパが前記筒状胴部の回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に設けられていることを特徴とする。
【0010】
又、前記治具には、前記凸部の位置を筒状胴部の周方向に変位可能とする凸部位置決め手段が設けられていることを特徴とする。
【0011】
更に、前記受座に半円弧状の支持部が形成され、前記治具は前記支持部に対応する環状凹部を前記筒状胴部の外周に有して前記受座に対し着脱自在とされており、前記筒状胴部の外底部にはバランスウェイトが固定されていること、ならびに前記研磨装置本体は、砥石の外周を覆うカバーを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る研磨装置によれば、丸刀のような円弧状の刃先をもつ刃物でも、その刃先を短時間で容易かつ良好に研磨することができる。
【0013】
加えて、駆動源の回転軸に装着された砥石に対し、治具で保持された刃物の接触角を調整可能な接触角調整手段を備えているものでは、刃物の刃先を一定の刃先角で研磨することができる。
【0014】
又、受座に筒状胴部の回転移動を制限するストッパが設けられる構成では、筒状胴部を回転規制した状態で角刀や平刀の刃先を均等に研磨することができ、ストッパが筒状胴部の回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に設けられている構成では、直交する2つの刃面をもつ角刀の刃先を容易かつ良好に研磨することができる。
【0015】
更に、ストッパに対応する凸部の位置が筒状胴部の周方向に変位可能とされる構成では、角刀や平刀の刃先面を砥石の研磨面に平行させた状態で筒状胴部の回転位置決めを行うことができる。
【0016】
又、受座に対して治具が着脱自在とされる構成では、チャック部に対する刃物の着脱作業が容易であり、しかも筒状胴部の外底部にバランスウェイトが固定されていれば、治具が受座から不用意に離脱せず、筒状胴部の回転安定性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る研磨装置を示す斜視図
【図2】受座の配置部分を示す平面図
【図3】受座及び治具を示す斜視図
【図4】治具を示す平面図
【図5】図4のX1−X1断面図
【図6】図5のX2−X2断面図
【図7】チャック部を示す正面図
【図8】治具の上部を示す正面図
【図9】チャック部で刃物が保持された状態を示す説明図
【図10】丸刀の刃部の曲率中心を筒状胴部の軸線上に位置付けた状態を示す説明図
【図11】刃物のセッティングに用いる照準器を示す斜視図
【図12】図11の照準器の使用状態を示す説明図
【図13】本発明に係る研磨装置の使用状態を示す平面図
【図14】丸刀の刃部を砥石に接触させる状態を示す部分拡大図
【図15】角刀を研磨する場合の説明図
【図16】角刀の刃先面を砥石に接触された状態を示す部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。先ず、図1に本発明に係る研磨装置の実施形態を示してその全体的構成を概説すれば、1は平板状のベースプレートであり、このベースプレート1上には、研磨装置本体2を構成する駆動源としてAC100V電源に接続して駆動するモータ21が設置されている。モータ21の回転軸には、その一端側において円盤状をなす2枚の砥石G1,G2が所定の間隔をあけて装着されており、その両砥石G1,G2がモータ21の駆動により同方向に同期して回転する構成とされている。
【0019】
砥石G1,G2はいずれも円盤状の基板に砥粒を固定せしめた市販品であり、このうち一方の砥石G1は砥粒径が大きい粗研磨用とされ、他方の砥石G2は粗研磨用砥石G1よりも砥粒径が小さい仕上げ研磨用とされている。尚、モータ21の回転軸の他端側には砥石G1,G2による刃物の研磨により刃裏に生ずるバリを除去するための不織布製のバフBが装着されている。
【0020】
又、モータ21には、砥石G1,G2の外周を覆う円筒形のカバー22が取り付けられており、これにより刃物の研磨に際して生ずる粉塵や砥石G1,G2に塗布される研磨液などが遠心力によって周囲に飛散することを防止されている。特に、カバー22は、上下両側がピン23によって支持され、そのピン23を回動軸として若干ながらの回動が許容されている。
【0021】
一方、3は研磨装置本体2に隣接する位置でベースプレート1上に設けた可動テーブルであり、この可動テーブル3は、ベースプレート1の上面に沿って砥石G1,G2の軸線(モータ21の回転軸線)に直交する方向に移動可能とされた下部テーブル31と、下部テーブル31上に設けた上部テーブル32とにより構成されており、その上部プレート32は下部テーブル31の上面に直交する軸回りに回動可能とされている。
【0022】
又、ベースプレート1には、下部テーブル31の移動案内を行うガイドレール33が敷設され、上部テーブル32には、下部テーブル31の移動方向に対して交差するガイドレール34が敷設されている。尚、下部テーブル31の底面において、その一端側にはガイドレール33に嵌合するレール受け31aが取り付けられ、他端側にはベースプレート1に対して滑り接触する摺接部材31bが取り付けられている。そして、上部テーブル32上には、ガイドレール34により移動案内される受座4が設置され、その受座4により治具5が支持されている。
【0023】
治具5は、研磨対象となる刃物を保持するためのものであって、上記刃物の柄部が挿入される円筒形の筒状胴部51aを有しており、その筒状胴部51aが受座4により回転自在に支持される構成とされている。尚、治具5は、筒状胴部51aの軸線がベースプレート1の上面に平行し、且つ筒状胴部51aの軸線とガイドレール34が直交する状態で支持されるようになっている。従って、治具5及び受座4は、ベースプレート1の上面に沿って、筒状胴部51aの軸線に直交する第1方向(ガイドレール34の長さ方向)と、その第1方向に交差する第2方向(ガイドレール33の長さ方向)とに移動可能とされている。
【0024】
ここで、図1および図2により可動テーブル3について説明を補足すると、上部テーブル32は、その回動中心(支点軸32a)を曲率中心とする円弧状の孔32bを有し、その孔32bを通して下部テーブル31にねじ込まれる締結ネジ32cの締め付けにより回動が抑止されるようになっている。又、上部テーブル32には、ガイドレール34上の任意の位置に固定可能な受座ストッパ35が設けられており、これによりガイドレール34の一端側における受座4の停止位置を調整可能とされている。
【0025】
尚、下部テーブル31は、上部テーブル32、受座4、及び治具5を載せたまま、ベースプレート1に対して着脱自在とされている。これによれば、特殊の刃物を研磨するに際し、下部テーブル31をベースプレート1上から排除し、刃物を手で保持しながら、砥石G1,G2による研磨を治具5などで邪魔されることなく行うこともできる。
【0026】
次に、治具5および受座4の構造について詳述すれば、治具5は、図3から明らかなように、筒状胴部51aと当該筒状胴部51aに対して直角に連なる円筒形の頚部51bとからなる側面視T字形の治具本体51をベースとし、その治具本体に51複数の部材を組み付けて構成されている。
【0027】
例えば、組付部材の一つとして、筒状胴部51aの外底部にバランスウェイト52が固定されているほか、筒状胴部51aの一端部外周にウォームホイール53aが設けられている。ウォームホイール53aは、筒状胴部51aに対して回転可能に設けられており、その外周部には筒状胴部51aの軸線に直交する凸部54が固着されている。53bはウォームホイール53aに噛み合うウォームであり、このウォーム53bは頚部51bの外面に固定したブラケット53cにより回転自在に支持されている。しかして、ウォーム53bを回転操作すると、これに噛み合うウォームホイール53aが回転し、そのウォームホイール53aに固着した凸部54が筒状胴部51aの周方向に移動する。すなわち、ウォーム53b及びウォームホイール53aは、凸部54の位置を筒状胴部51aの周方向に変位可能とする凸部位置決め手段を構成する。尚、凸部54とその位置決め手段の作用については追って説明する。
【0028】
ここに、受座4は、相対向する前後一対の端板41,42を連結軸43にて連結した構成であり、このうち一方の端板41には凸部54を挟んで当該凸部54の移動方向両側に位置するストッパ44a,44bが設けられており、その両ストッパ44a,44bが凸部54に干渉することで筒状胴部51aの回転移動が所定の角度範囲に制限されるようになっている。
【0029】
図3において、係るストッパ44a,44bは、筒状胴部51aの回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に固定されているが、本例ではその固定位置を変えて筒状胴部51aの回転移動角度を30度に制限したり、120度に制限したりすることが可能とされている。詳しくは、凸部54の移動経路上において、端板41にストッパ44a,44bを取り付けるための孔41a,41b,41cが穿設されており、図3に示される位置にあるストッパ44a,44bを孔41bに移設した場合に筒状胴部51aの回転移動角度が30度に制限され、ストッパ44a,44bを孔41cに移設した場合には筒状胴部51aの回転移動角度が120度に制限されるようになっている。
【0030】
又、受座4を構成する端板41,42には、上部開放した半円弧状の支持部45が形成されており、その支持部45により筒状胴部51aが回転自在に支持される構成とされている。従って、治具5は、支持部45に対して筒状胴部51aの下部半周が支持されるだけで、受座4に対して着脱自在であり、支持部45上での回転はバランスウェイト52によって安定性が確保されている。加えて、筒状胴部51aの外周には一方の支持部45に対応して環状凹部51cが形成され、その環状凹部51cに支持部45が嵌り込むことにより筒状胴部51aが軸線方向への移動を規制された状態で回転を許容されるようになっている。
【0031】
一方、図3〜図5から明らかなように、治具5には頚部51bの上端においてキャップ55が固着され、頚部51b内には図5および図6のようにスライド筒56が嵌合されている。スライド筒56は、頚部51b内においてその軸線方向と周方向とに摺動可能な金属部品であり、その内側における上端中央部には軸56aにて支持された駒56bが設けられ、その駒56bにネジ軸56cの一端(下端)が固定されている。ネジ軸56cの上端部はキャップ55を貫通し、その上端部にナット部56dを有するハンドル56eが装着されている。そして、そのハンドル56eを回転操作することにより、スライド筒56が頚部51bの軸線方向(筒状胴部51aの軸線に直交する方向)に移動する構成とされている。
【0032】
又、スライド筒56内には、刃物を保持するためのチャック部57が設けられている。チャック部57は、上端部が軸56aで支持された左右一対のチャック爪57a,57bから構成されており、その下部が刃物の柄部を保持する保持部57cとしてスライド筒56の下部より筒状胴部51a内に突出され、その保持部57cが軸56aを支点として開閉するようになっている。特に、両チャック爪57a,57bの間にはその両者を開く方向に付勢するバネ57dが介在され、スライド筒56には両チャック爪57a,57bを閉じる方向に押圧する締付ネジ58が相対向して取り付けられている。しかして、その締付ネジ58を締め付けてチャック爪57a,57bを閉じる方向に押圧することにより、筒状胴部51a内に挿入された刃物Cの柄部Chが図7のように保持される構成とされている。
【0033】
ここに、上記のスライド筒56、ネジ軸56c、ハンドル56e、ならびに締付ネジ58は、チャック部57による刃物の保持位置を筒状胴部51aの軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段を構成する。すなわち、ハンドル56eを回転操作すると、スライド筒56とチャック部57が一体として図5の上下方向に移動するので、チャック部57で保持された刃物Cも同方向に移動し、またチャック部57に対して締付ネジ58の一方を締付方向に回転させながら他方を弛緩方向に回転操作すれば、チャック部57に保持された刃物Cが図5の左右方向に移動することとなる。尚、治具本体51の頚部51bには、締付ネジ58の位置にてルーズホール51dが開口されており、これにより頚部51b内でのスライド筒56の軸方向移動と回転移動がルーズホール51dの直径範囲内において許容されている。
【0034】
更に、頚部51bには、図8のように締付ネジ58の位置とは別にルーズホール51eが開口されている。そして、スライド筒56の外周部にはルーズホール51eを通じて外部に突出するピン59aが固着され、そのピン59aが調整ネジ59bのヘッド59b1に押し付けられるようになっている。詳しくは、図5に示したネジ軸56cの外周にはスライド筒56を一方向に付勢する図示せぬ捩りバネが設けられ、その一端がキャップ55に係止されていると共に他端が軸56aに係止されており、これにより上記ピン59aが調整ネジ59bのヘッド59b1に対して押圧される方向へのスライド筒56の付勢が行われている。又、図8のように、調整ネジ59bは、筒状胴部51aの外周部に固着したブラケット59cの上部に取り付けられ、その回転操作によりヘッド59b1がスライド筒56の接線方向(図8の左右方向)に移動する構成とされている。従って、調整ネジ59bを回転操作することにより、スライド筒56を介してチャック部57を回動させることができる。要するに、上記のピン59a及び調整ネジ59bは、チャック部57を筒状胴部51aの軸線に直交する軸(頚部51bの軸線)回りに回動させるチャック回動手段を構成し、これによってチャック部57で保持された刃物Cを図4のように筒状胴部51aの軸線に対して傾けることが可能とされている。尚、上記捩りバネからスライド筒56に与えられる付勢力により、ハンドル56eの回転操作時において、スライド筒56及びチャック部57は回転せずして頚部51bの軸線方向にのみ移動する。
【0035】
次に、以上のように構成される研磨装置の作用を説明すれば、図4のように筒状胴部51a内には刃物Cの柄部Chが挿入され、その柄部Chが上記チャック部57により保持される。ここに、研磨対象となる刃物Cが図9のように円弧状の刃部Crを有する彫刻刀の丸刀であるとき、その刃部Crの曲率中心Paが筒状胴部51aの軸線L上に位置していない状態のまま筒状胴部51aを回転させると、チャック部57にて保持された刃物Cの刃部Crが筒状胴部51aの軸線Lを中心として回転することになる。このため、筒状胴部51aの回転時において、砥石G1,G2の研磨面に対する刃部Crの接触態様が変化し、刃先を均等に研磨できなくなる。
【0036】
そこで、前述の保持位置調整手段を構成するハンドル56eや締付ネジ58を回転操作するか、あるいはチャック回動手段を構成する調整ネジ59bを回転操作し、これにより刃部Crの曲率中心Paを図10のように筒状胴部51aの軸線L上に位置付ける。以下、そのような操作を「芯合わせ」とするが、チャック回動手段による芯合わせを行うには、チャック部57に対する刃物Cの保持態様に関し、刃部Crの曲率中心Paと筒状胴部51aの軸線Lとがチャック部57の回動中心となる頚部51bの軸線に直交する面内に位置付けられていることが条件となるところ、芯合わせの観点からすれば、上記の保持位置調整手段を省略してチャック回動手段のみを設ける構成は好ましくなく、上記のようなチャック回動手段を設ける場合、保持位置調整手段としてチャック部57による刃物Cの保持位置をチャック回動手段によるチャック部57の回動軸方向に移動させる上記のハンドル56eを具備する構成が好ましい。但し、彫刻刀の柄部Chは軸直角断面が円形でなく楕円形で、刃部Crの曲率中心が柄部Chの短軸線上に位置していることが通例であって、これに対応してチャック部57の保持部57cが図示例のように柄部Chを短軸方向から挟み込む楕円状の形態とされている構成では、筒状胴部51aの軸線Lの位置において頚部51bの軸線に直交する面内に、刃部Crの曲率中心Paが位置するように刃物を取り付けることは容易であるから、チャック回動手段のみを備える構成でも適正な芯合わせを行うことができる。
【0037】
加えて、上記のような芯合わせは、治具5を受座4から取り外した状態で図11に示すような照準器6を用いて容易に行うことができる。図11において、係る照準器6は筒状胴部51aの先端に一端を嵌合して接続することのできる円筒形の器具本体61を含み、その器具本体61の他端開口部に同心円状の基準線Sa,Sb,・・を記した透明表示板62が装着された構成とされている。透明表示板62は、器具本体61を筒状胴部51aに接続したとき、チャック部57に保持された刃物の刃部に近接し、その刃部を外部から透視できるようになっている。しかして、その透明表示板62を透して刃部を視ながら芯合わせを行うことにより、例えば図12の一点鎖線で示される位置にある刃部Crを実線で示される位置に移動させることができる。
【0038】
そして、以上のようにして芯合わせを完了したら、図13のように治具5を受座4上に配置し、その状態で下部テーブル31を研磨装置本体1に近寄せ、更には接触角調整手段を構成する上部テーブル32を支点軸32a回りに回動させ、これにより図14のように砥石G2(粗研磨の場合は砥石G1)の研磨面に対する刃物Cの接触角θ(図示例において刃物の軸線と研磨面とのなす角)を調整して、刃先面Cfを研磨面に接触させる。その後、締結ネジ32cの締め付けにより上部テーブル32を固定し、モータ21を駆動して砥石G1,G2を一方向に回転させながら、砥石G2に刃先面Cfを押し付けたまま筒状胴部51aを正逆に回転させることを数回繰り返すことにより、刃先面Cfを所定の刃先角(接触角θに同じ)で均等に研磨することができる。
【0039】
尚、前述のように、カバー22はピン23を支点として若干ながら回動を許容されているが、この点について説明を補足すると、カバー22はピン23を回動中心としながら図13に示すカバー止め24に対し一端部が押し付けられる方向にバネ付勢されている。更に、カバー22の部位は、刃物の先端部を差し入れるための切欠部22a,22bとして切除されており、刃物の研磨に際して切欠部22a,22bの端縁が柄部Chで押圧されることによりカバー22が図14の一点鎖線で示されるように回動するようになっているが、カバー22はその回動許容範囲内において砥石G1,G2の外周全体を覆い、切欠部22a,22bの位置においても研磨液などが外部に飛散することを防止することができる。又、図13において、25はカバー22に近接して設けた固定片であり、この固定片25により粗研磨に際して切欠部22aに差し入れられた刃物の刃部が砥石G1に対して過剰に押し付けられることが防止されるようにしてある。
【0040】
このように、本発明に係る研磨装置によれば、曲率が異なる丸刀などでも研磨液の飛散を防止しながら、その刃先を均等に研磨して刃先角を一定にすることができるが、係る研磨装置は丸刀に限らず、その他刃物の刃先を良好に研磨することができる。
【0041】
例えば、図15のように、角刀(直交する2つの刃面fa,fbをもつ刃部Ca)を研磨する場合、一方の刃面faが砥石G2(粗研磨の場合は砥石G1)の研磨面に平行するまで受座4上にて筒状胴部51aを一方向に回転させ、次いでウォーム53bを回転操作して凸部54を一方のストッパ44aに押し付ける。
【0042】
又、上記調整ネジ59b(図8参照)を回転操作してチャック部57を回動(丸刀を除く角刀などの研磨において、チャック回動手段を構成する調整ネジ59bは接触角調整手段を兼ねる)させるか、あるいは上部テーブル32を回動させ、これによって図16のように一方の刃面faの刃先面fa1を砥石G2の研磨面に接触させる。しかして、モータ21を駆動して砥石G1,G2を一方向に回転させながら、受座4の移動により刃先面fa1を砥石G2に押し付けて研磨した後、上記とは逆側のストッパ44bに凸部54が押し当るまで筒状胴部51aを回転(90度回転)させ、その状態で他方の刃先面fbを受座4の移動により砥石G2の研磨面に押し付ければ、筒状胴部51aの回転角ψがストッパ44a,44bにより90度とされることに関係して、両刃先面fa1,fb1を均等に研磨することができる。
【0043】
尚、2つの刃面fa,fbが30度で交わる角刀を研磨する場合にはストッパ44a,44bを孔41bに固定し、また2つの刃面fa,fbが120度で交わる角刀を研磨する場合にはストッパ44a,44bを孔41cに固定して、上記と同様の調整、操作を行うことにより、それら角刀についても良好に研磨することができ、平刀の場合ではストッパ44a,44bの固定位置に関係なく、ストッパ44a,44bのいずれか一方を用いて刃先面を均等に研磨することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、係る研磨装置は丸刀、角刀、あるいは平刀といった彫刻刀に限らず、その他の刃物の研磨にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
G1,G2 砥石
1 ベースプレート
2 研磨装置本体
21 駆動源
22 カバー
3 可動テーブル
32 上部テーブル(接触角調整手段)
4 受座
44a,44b ストッパ
45 支持部
5 治具
51a 筒状胴部
51c 環状凹部
52 バランスウェイト
53a ウォームホイール(凸部位置決め手段)
53b ウォーム(凸部位置決め手段)
54 凸部
56 スライド筒(保持位置調整手段)
56c ネジ軸(保持位置調整手段)
56e ハンドル(保持位置調整手段)
58 締付ネジ(保持位置調整手段)
57 チャック部
59a ピン(チャック回動手段)
59b 調整ネジ(チャック回動手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃物などの研磨に用いられる研磨装置に係わり、特に丸刀や角刀といった彫刻刀の刃先を研磨するのに用いて好適な研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、彫刻刀や包丁といった刃物が摩耗した場合、その刃先を砥石により研磨して切れ味を回復させているが、固定配置された砥石に対し刃先を手動で繰り返し摺り付ける方法では時間が掛かるだけでなく熟練を要し、回転する砥石に対して刃先を押し付ける方法では短時間で研磨することはできても、熟練者でなければ刃先を良好に研磨することができず、不慣れな作業者が研磨した場合では刃先角が不良となり、所期の切れ味が得られないという難点があった。特に、丸型彫刻刀(丸刀)のように刃先が円弧状の刃物では、熟練者といえども良好に研磨すること極めて困難であった。
【0003】
そこで、鉛直軸回りに回転する砥石(研磨盤)の近傍に、彫刻刀などの刃物を固定支持する固定部を設け、その固定部に、研磨盤に対する刃先の接触角を調整する機能のほか、刃物をその軸線回りに回転させる機能を付与するという研磨装置が発案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−288683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される研磨装置でも、丸刀のような刃物の刃先を良好に研磨すること困難である。すなわち、丸刀といっても刃先の曲率は様々で、その曲率中心が柄部の軸線上に位置していないことが通例であって、特許文献1の固定部に対して刃物がその回転中心(例えば、特許文献1の回転部30の中心)と刃先の曲率中心とを合致した状態に取り付けられるとは限らないから、刃物を回転させただででは円弧状の刃先を均等に研磨することができず、刃先角が部分的に異なった状態で研磨されてしまうことになる。
【0006】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は丸刀のような円弧状の刃先をもつ刃物でも、その刃先を短時間で容易かつ良好に研磨できる研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、
刃物を研磨するための砥石が装着される回転軸を有してベースプレート上に設置された駆動源を含む研磨装置本体と、
前記刃物を保持する治具と、
前記治具を支持する受座と、を備えた研磨装置であり、
前記治具は、
前記受座により回転自在に支持される筒状胴部と、
前記筒状胴部内に挿入された刃物の柄部を保持して当該刃物を前記筒状胴部に対して固定するチャック部と、
前記チャック部による刃物の保持位置を前記筒状胴部の軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段および前記チャック部を前記筒状胴部の軸線に直交する軸回りに回動させるチャック回動手段の少なくとも一方と、を有し、
前記受座は、前記ベースプレートの上面に沿って、前記筒状胴部の軸線に直交する第1方向とその第1方向に交差する第2方向とに移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
更に、上記のような構成に加え、前記駆動源の回転軸に装着された砥石に対し、前記治具にて保持された刃物の接触角を調整可能な接触角調整手段を備えていることを特徴とする。
【0009】
又、前記受座に前記筒状胴部の回転移動を制限するストッパが設けられ、前記筒状胴部の外周には前記ストッパに対応する凸部が設けられていることを特徴とし、好ましくは前記凸部の移動経路上において、前記ストッパが前記筒状胴部の回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に設けられていることを特徴とする。
【0010】
又、前記治具には、前記凸部の位置を筒状胴部の周方向に変位可能とする凸部位置決め手段が設けられていることを特徴とする。
【0011】
更に、前記受座に半円弧状の支持部が形成され、前記治具は前記支持部に対応する環状凹部を前記筒状胴部の外周に有して前記受座に対し着脱自在とされており、前記筒状胴部の外底部にはバランスウェイトが固定されていること、ならびに前記研磨装置本体は、砥石の外周を覆うカバーを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る研磨装置によれば、丸刀のような円弧状の刃先をもつ刃物でも、その刃先を短時間で容易かつ良好に研磨することができる。
【0013】
加えて、駆動源の回転軸に装着された砥石に対し、治具で保持された刃物の接触角を調整可能な接触角調整手段を備えているものでは、刃物の刃先を一定の刃先角で研磨することができる。
【0014】
又、受座に筒状胴部の回転移動を制限するストッパが設けられる構成では、筒状胴部を回転規制した状態で角刀や平刀の刃先を均等に研磨することができ、ストッパが筒状胴部の回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に設けられている構成では、直交する2つの刃面をもつ角刀の刃先を容易かつ良好に研磨することができる。
【0015】
更に、ストッパに対応する凸部の位置が筒状胴部の周方向に変位可能とされる構成では、角刀や平刀の刃先面を砥石の研磨面に平行させた状態で筒状胴部の回転位置決めを行うことができる。
【0016】
又、受座に対して治具が着脱自在とされる構成では、チャック部に対する刃物の着脱作業が容易であり、しかも筒状胴部の外底部にバランスウェイトが固定されていれば、治具が受座から不用意に離脱せず、筒状胴部の回転安定性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る研磨装置を示す斜視図
【図2】受座の配置部分を示す平面図
【図3】受座及び治具を示す斜視図
【図4】治具を示す平面図
【図5】図4のX1−X1断面図
【図6】図5のX2−X2断面図
【図7】チャック部を示す正面図
【図8】治具の上部を示す正面図
【図9】チャック部で刃物が保持された状態を示す説明図
【図10】丸刀の刃部の曲率中心を筒状胴部の軸線上に位置付けた状態を示す説明図
【図11】刃物のセッティングに用いる照準器を示す斜視図
【図12】図11の照準器の使用状態を示す説明図
【図13】本発明に係る研磨装置の使用状態を示す平面図
【図14】丸刀の刃部を砥石に接触させる状態を示す部分拡大図
【図15】角刀を研磨する場合の説明図
【図16】角刀の刃先面を砥石に接触された状態を示す部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。先ず、図1に本発明に係る研磨装置の実施形態を示してその全体的構成を概説すれば、1は平板状のベースプレートであり、このベースプレート1上には、研磨装置本体2を構成する駆動源としてAC100V電源に接続して駆動するモータ21が設置されている。モータ21の回転軸には、その一端側において円盤状をなす2枚の砥石G1,G2が所定の間隔をあけて装着されており、その両砥石G1,G2がモータ21の駆動により同方向に同期して回転する構成とされている。
【0019】
砥石G1,G2はいずれも円盤状の基板に砥粒を固定せしめた市販品であり、このうち一方の砥石G1は砥粒径が大きい粗研磨用とされ、他方の砥石G2は粗研磨用砥石G1よりも砥粒径が小さい仕上げ研磨用とされている。尚、モータ21の回転軸の他端側には砥石G1,G2による刃物の研磨により刃裏に生ずるバリを除去するための不織布製のバフBが装着されている。
【0020】
又、モータ21には、砥石G1,G2の外周を覆う円筒形のカバー22が取り付けられており、これにより刃物の研磨に際して生ずる粉塵や砥石G1,G2に塗布される研磨液などが遠心力によって周囲に飛散することを防止されている。特に、カバー22は、上下両側がピン23によって支持され、そのピン23を回動軸として若干ながらの回動が許容されている。
【0021】
一方、3は研磨装置本体2に隣接する位置でベースプレート1上に設けた可動テーブルであり、この可動テーブル3は、ベースプレート1の上面に沿って砥石G1,G2の軸線(モータ21の回転軸線)に直交する方向に移動可能とされた下部テーブル31と、下部テーブル31上に設けた上部テーブル32とにより構成されており、その上部プレート32は下部テーブル31の上面に直交する軸回りに回動可能とされている。
【0022】
又、ベースプレート1には、下部テーブル31の移動案内を行うガイドレール33が敷設され、上部テーブル32には、下部テーブル31の移動方向に対して交差するガイドレール34が敷設されている。尚、下部テーブル31の底面において、その一端側にはガイドレール33に嵌合するレール受け31aが取り付けられ、他端側にはベースプレート1に対して滑り接触する摺接部材31bが取り付けられている。そして、上部テーブル32上には、ガイドレール34により移動案内される受座4が設置され、その受座4により治具5が支持されている。
【0023】
治具5は、研磨対象となる刃物を保持するためのものであって、上記刃物の柄部が挿入される円筒形の筒状胴部51aを有しており、その筒状胴部51aが受座4により回転自在に支持される構成とされている。尚、治具5は、筒状胴部51aの軸線がベースプレート1の上面に平行し、且つ筒状胴部51aの軸線とガイドレール34が直交する状態で支持されるようになっている。従って、治具5及び受座4は、ベースプレート1の上面に沿って、筒状胴部51aの軸線に直交する第1方向(ガイドレール34の長さ方向)と、その第1方向に交差する第2方向(ガイドレール33の長さ方向)とに移動可能とされている。
【0024】
ここで、図1および図2により可動テーブル3について説明を補足すると、上部テーブル32は、その回動中心(支点軸32a)を曲率中心とする円弧状の孔32bを有し、その孔32bを通して下部テーブル31にねじ込まれる締結ネジ32cの締め付けにより回動が抑止されるようになっている。又、上部テーブル32には、ガイドレール34上の任意の位置に固定可能な受座ストッパ35が設けられており、これによりガイドレール34の一端側における受座4の停止位置を調整可能とされている。
【0025】
尚、下部テーブル31は、上部テーブル32、受座4、及び治具5を載せたまま、ベースプレート1に対して着脱自在とされている。これによれば、特殊の刃物を研磨するに際し、下部テーブル31をベースプレート1上から排除し、刃物を手で保持しながら、砥石G1,G2による研磨を治具5などで邪魔されることなく行うこともできる。
【0026】
次に、治具5および受座4の構造について詳述すれば、治具5は、図3から明らかなように、筒状胴部51aと当該筒状胴部51aに対して直角に連なる円筒形の頚部51bとからなる側面視T字形の治具本体51をベースとし、その治具本体に51複数の部材を組み付けて構成されている。
【0027】
例えば、組付部材の一つとして、筒状胴部51aの外底部にバランスウェイト52が固定されているほか、筒状胴部51aの一端部外周にウォームホイール53aが設けられている。ウォームホイール53aは、筒状胴部51aに対して回転可能に設けられており、その外周部には筒状胴部51aの軸線に直交する凸部54が固着されている。53bはウォームホイール53aに噛み合うウォームであり、このウォーム53bは頚部51bの外面に固定したブラケット53cにより回転自在に支持されている。しかして、ウォーム53bを回転操作すると、これに噛み合うウォームホイール53aが回転し、そのウォームホイール53aに固着した凸部54が筒状胴部51aの周方向に移動する。すなわち、ウォーム53b及びウォームホイール53aは、凸部54の位置を筒状胴部51aの周方向に変位可能とする凸部位置決め手段を構成する。尚、凸部54とその位置決め手段の作用については追って説明する。
【0028】
ここに、受座4は、相対向する前後一対の端板41,42を連結軸43にて連結した構成であり、このうち一方の端板41には凸部54を挟んで当該凸部54の移動方向両側に位置するストッパ44a,44bが設けられており、その両ストッパ44a,44bが凸部54に干渉することで筒状胴部51aの回転移動が所定の角度範囲に制限されるようになっている。
【0029】
図3において、係るストッパ44a,44bは、筒状胴部51aの回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に固定されているが、本例ではその固定位置を変えて筒状胴部51aの回転移動角度を30度に制限したり、120度に制限したりすることが可能とされている。詳しくは、凸部54の移動経路上において、端板41にストッパ44a,44bを取り付けるための孔41a,41b,41cが穿設されており、図3に示される位置にあるストッパ44a,44bを孔41bに移設した場合に筒状胴部51aの回転移動角度が30度に制限され、ストッパ44a,44bを孔41cに移設した場合には筒状胴部51aの回転移動角度が120度に制限されるようになっている。
【0030】
又、受座4を構成する端板41,42には、上部開放した半円弧状の支持部45が形成されており、その支持部45により筒状胴部51aが回転自在に支持される構成とされている。従って、治具5は、支持部45に対して筒状胴部51aの下部半周が支持されるだけで、受座4に対して着脱自在であり、支持部45上での回転はバランスウェイト52によって安定性が確保されている。加えて、筒状胴部51aの外周には一方の支持部45に対応して環状凹部51cが形成され、その環状凹部51cに支持部45が嵌り込むことにより筒状胴部51aが軸線方向への移動を規制された状態で回転を許容されるようになっている。
【0031】
一方、図3〜図5から明らかなように、治具5には頚部51bの上端においてキャップ55が固着され、頚部51b内には図5および図6のようにスライド筒56が嵌合されている。スライド筒56は、頚部51b内においてその軸線方向と周方向とに摺動可能な金属部品であり、その内側における上端中央部には軸56aにて支持された駒56bが設けられ、その駒56bにネジ軸56cの一端(下端)が固定されている。ネジ軸56cの上端部はキャップ55を貫通し、その上端部にナット部56dを有するハンドル56eが装着されている。そして、そのハンドル56eを回転操作することにより、スライド筒56が頚部51bの軸線方向(筒状胴部51aの軸線に直交する方向)に移動する構成とされている。
【0032】
又、スライド筒56内には、刃物を保持するためのチャック部57が設けられている。チャック部57は、上端部が軸56aで支持された左右一対のチャック爪57a,57bから構成されており、その下部が刃物の柄部を保持する保持部57cとしてスライド筒56の下部より筒状胴部51a内に突出され、その保持部57cが軸56aを支点として開閉するようになっている。特に、両チャック爪57a,57bの間にはその両者を開く方向に付勢するバネ57dが介在され、スライド筒56には両チャック爪57a,57bを閉じる方向に押圧する締付ネジ58が相対向して取り付けられている。しかして、その締付ネジ58を締め付けてチャック爪57a,57bを閉じる方向に押圧することにより、筒状胴部51a内に挿入された刃物Cの柄部Chが図7のように保持される構成とされている。
【0033】
ここに、上記のスライド筒56、ネジ軸56c、ハンドル56e、ならびに締付ネジ58は、チャック部57による刃物の保持位置を筒状胴部51aの軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段を構成する。すなわち、ハンドル56eを回転操作すると、スライド筒56とチャック部57が一体として図5の上下方向に移動するので、チャック部57で保持された刃物Cも同方向に移動し、またチャック部57に対して締付ネジ58の一方を締付方向に回転させながら他方を弛緩方向に回転操作すれば、チャック部57に保持された刃物Cが図5の左右方向に移動することとなる。尚、治具本体51の頚部51bには、締付ネジ58の位置にてルーズホール51dが開口されており、これにより頚部51b内でのスライド筒56の軸方向移動と回転移動がルーズホール51dの直径範囲内において許容されている。
【0034】
更に、頚部51bには、図8のように締付ネジ58の位置とは別にルーズホール51eが開口されている。そして、スライド筒56の外周部にはルーズホール51eを通じて外部に突出するピン59aが固着され、そのピン59aが調整ネジ59bのヘッド59b1に押し付けられるようになっている。詳しくは、図5に示したネジ軸56cの外周にはスライド筒56を一方向に付勢する図示せぬ捩りバネが設けられ、その一端がキャップ55に係止されていると共に他端が軸56aに係止されており、これにより上記ピン59aが調整ネジ59bのヘッド59b1に対して押圧される方向へのスライド筒56の付勢が行われている。又、図8のように、調整ネジ59bは、筒状胴部51aの外周部に固着したブラケット59cの上部に取り付けられ、その回転操作によりヘッド59b1がスライド筒56の接線方向(図8の左右方向)に移動する構成とされている。従って、調整ネジ59bを回転操作することにより、スライド筒56を介してチャック部57を回動させることができる。要するに、上記のピン59a及び調整ネジ59bは、チャック部57を筒状胴部51aの軸線に直交する軸(頚部51bの軸線)回りに回動させるチャック回動手段を構成し、これによってチャック部57で保持された刃物Cを図4のように筒状胴部51aの軸線に対して傾けることが可能とされている。尚、上記捩りバネからスライド筒56に与えられる付勢力により、ハンドル56eの回転操作時において、スライド筒56及びチャック部57は回転せずして頚部51bの軸線方向にのみ移動する。
【0035】
次に、以上のように構成される研磨装置の作用を説明すれば、図4のように筒状胴部51a内には刃物Cの柄部Chが挿入され、その柄部Chが上記チャック部57により保持される。ここに、研磨対象となる刃物Cが図9のように円弧状の刃部Crを有する彫刻刀の丸刀であるとき、その刃部Crの曲率中心Paが筒状胴部51aの軸線L上に位置していない状態のまま筒状胴部51aを回転させると、チャック部57にて保持された刃物Cの刃部Crが筒状胴部51aの軸線Lを中心として回転することになる。このため、筒状胴部51aの回転時において、砥石G1,G2の研磨面に対する刃部Crの接触態様が変化し、刃先を均等に研磨できなくなる。
【0036】
そこで、前述の保持位置調整手段を構成するハンドル56eや締付ネジ58を回転操作するか、あるいはチャック回動手段を構成する調整ネジ59bを回転操作し、これにより刃部Crの曲率中心Paを図10のように筒状胴部51aの軸線L上に位置付ける。以下、そのような操作を「芯合わせ」とするが、チャック回動手段による芯合わせを行うには、チャック部57に対する刃物Cの保持態様に関し、刃部Crの曲率中心Paと筒状胴部51aの軸線Lとがチャック部57の回動中心となる頚部51bの軸線に直交する面内に位置付けられていることが条件となるところ、芯合わせの観点からすれば、上記の保持位置調整手段を省略してチャック回動手段のみを設ける構成は好ましくなく、上記のようなチャック回動手段を設ける場合、保持位置調整手段としてチャック部57による刃物Cの保持位置をチャック回動手段によるチャック部57の回動軸方向に移動させる上記のハンドル56eを具備する構成が好ましい。但し、彫刻刀の柄部Chは軸直角断面が円形でなく楕円形で、刃部Crの曲率中心が柄部Chの短軸線上に位置していることが通例であって、これに対応してチャック部57の保持部57cが図示例のように柄部Chを短軸方向から挟み込む楕円状の形態とされている構成では、筒状胴部51aの軸線Lの位置において頚部51bの軸線に直交する面内に、刃部Crの曲率中心Paが位置するように刃物を取り付けることは容易であるから、チャック回動手段のみを備える構成でも適正な芯合わせを行うことができる。
【0037】
加えて、上記のような芯合わせは、治具5を受座4から取り外した状態で図11に示すような照準器6を用いて容易に行うことができる。図11において、係る照準器6は筒状胴部51aの先端に一端を嵌合して接続することのできる円筒形の器具本体61を含み、その器具本体61の他端開口部に同心円状の基準線Sa,Sb,・・を記した透明表示板62が装着された構成とされている。透明表示板62は、器具本体61を筒状胴部51aに接続したとき、チャック部57に保持された刃物の刃部に近接し、その刃部を外部から透視できるようになっている。しかして、その透明表示板62を透して刃部を視ながら芯合わせを行うことにより、例えば図12の一点鎖線で示される位置にある刃部Crを実線で示される位置に移動させることができる。
【0038】
そして、以上のようにして芯合わせを完了したら、図13のように治具5を受座4上に配置し、その状態で下部テーブル31を研磨装置本体1に近寄せ、更には接触角調整手段を構成する上部テーブル32を支点軸32a回りに回動させ、これにより図14のように砥石G2(粗研磨の場合は砥石G1)の研磨面に対する刃物Cの接触角θ(図示例において刃物の軸線と研磨面とのなす角)を調整して、刃先面Cfを研磨面に接触させる。その後、締結ネジ32cの締め付けにより上部テーブル32を固定し、モータ21を駆動して砥石G1,G2を一方向に回転させながら、砥石G2に刃先面Cfを押し付けたまま筒状胴部51aを正逆に回転させることを数回繰り返すことにより、刃先面Cfを所定の刃先角(接触角θに同じ)で均等に研磨することができる。
【0039】
尚、前述のように、カバー22はピン23を支点として若干ながら回動を許容されているが、この点について説明を補足すると、カバー22はピン23を回動中心としながら図13に示すカバー止め24に対し一端部が押し付けられる方向にバネ付勢されている。更に、カバー22の部位は、刃物の先端部を差し入れるための切欠部22a,22bとして切除されており、刃物の研磨に際して切欠部22a,22bの端縁が柄部Chで押圧されることによりカバー22が図14の一点鎖線で示されるように回動するようになっているが、カバー22はその回動許容範囲内において砥石G1,G2の外周全体を覆い、切欠部22a,22bの位置においても研磨液などが外部に飛散することを防止することができる。又、図13において、25はカバー22に近接して設けた固定片であり、この固定片25により粗研磨に際して切欠部22aに差し入れられた刃物の刃部が砥石G1に対して過剰に押し付けられることが防止されるようにしてある。
【0040】
このように、本発明に係る研磨装置によれば、曲率が異なる丸刀などでも研磨液の飛散を防止しながら、その刃先を均等に研磨して刃先角を一定にすることができるが、係る研磨装置は丸刀に限らず、その他刃物の刃先を良好に研磨することができる。
【0041】
例えば、図15のように、角刀(直交する2つの刃面fa,fbをもつ刃部Ca)を研磨する場合、一方の刃面faが砥石G2(粗研磨の場合は砥石G1)の研磨面に平行するまで受座4上にて筒状胴部51aを一方向に回転させ、次いでウォーム53bを回転操作して凸部54を一方のストッパ44aに押し付ける。
【0042】
又、上記調整ネジ59b(図8参照)を回転操作してチャック部57を回動(丸刀を除く角刀などの研磨において、チャック回動手段を構成する調整ネジ59bは接触角調整手段を兼ねる)させるか、あるいは上部テーブル32を回動させ、これによって図16のように一方の刃面faの刃先面fa1を砥石G2の研磨面に接触させる。しかして、モータ21を駆動して砥石G1,G2を一方向に回転させながら、受座4の移動により刃先面fa1を砥石G2に押し付けて研磨した後、上記とは逆側のストッパ44bに凸部54が押し当るまで筒状胴部51aを回転(90度回転)させ、その状態で他方の刃先面fbを受座4の移動により砥石G2の研磨面に押し付ければ、筒状胴部51aの回転角ψがストッパ44a,44bにより90度とされることに関係して、両刃先面fa1,fb1を均等に研磨することができる。
【0043】
尚、2つの刃面fa,fbが30度で交わる角刀を研磨する場合にはストッパ44a,44bを孔41bに固定し、また2つの刃面fa,fbが120度で交わる角刀を研磨する場合にはストッパ44a,44bを孔41cに固定して、上記と同様の調整、操作を行うことにより、それら角刀についても良好に研磨することができ、平刀の場合ではストッパ44a,44bの固定位置に関係なく、ストッパ44a,44bのいずれか一方を用いて刃先面を均等に研磨することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、係る研磨装置は丸刀、角刀、あるいは平刀といった彫刻刀に限らず、その他の刃物の研磨にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
G1,G2 砥石
1 ベースプレート
2 研磨装置本体
21 駆動源
22 カバー
3 可動テーブル
32 上部テーブル(接触角調整手段)
4 受座
44a,44b ストッパ
45 支持部
5 治具
51a 筒状胴部
51c 環状凹部
52 バランスウェイト
53a ウォームホイール(凸部位置決め手段)
53b ウォーム(凸部位置決め手段)
54 凸部
56 スライド筒(保持位置調整手段)
56c ネジ軸(保持位置調整手段)
56e ハンドル(保持位置調整手段)
58 締付ネジ(保持位置調整手段)
57 チャック部
59a ピン(チャック回動手段)
59b 調整ネジ(チャック回動手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃物を研磨するための砥石が装着される回転軸を有してベースプレート上に設置された駆動源を含む研磨装置本体と、
前記刃物を保持する治具と、
前記治具を支持する受座と、を備えた研磨装置であり、
前記治具は、
前記受座により回転自在に支持される筒状胴部と、
前記筒状胴部内に挿入された刃物の柄部を保持して当該刃物を前記筒状胴部に対して固定するチャック部と、
前記チャック部による刃物の保持位置を前記筒状胴部の軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段および前記チャック部を前記筒状胴部の軸線に直交する軸回りに回動させるチャック回動手段の少なくとも一方と、を有し、
前記受座は、前記ベースプレートの上面に沿って、前記筒状胴部の軸線に直交する第1方向とその第1方向に交差する第2方向とに移動可能に設けられていることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記駆動源の回転軸に装着された砥石に対し、前記治具にて保持された刃物の接触角を調整可能な接触角調整手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
前記受座に前記筒状胴部の回転移動を制限するストッパが設けられ、前記筒状胴部の外周には前記ストッパに対応する凸部が設けられていることを特徴とする請求項1、又は2記載の研磨装置。
【請求項4】
前記凸部の移動経路上において、前記ストッパが前記筒状胴部の回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に設けられていることを特徴とする請求項3記載の研磨装置。
【請求項5】
前記治具には、前記凸部の位置を筒状胴部の周方向に変位可能とする凸部位置決め手段が設けられていることを特徴とする請求項3記載の研磨装置。
【請求項6】
前記受座に半円弧状の支持部が形成され、前記治具は前記支持部に対応する環状凹部を前記筒状胴部の外周に有して前記受座に対し着脱自在とされており、前記筒状胴部の外底部にはバランスウェイトが固定されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項7】
前記研磨装置本体は、砥石の外周を覆うカバーを備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項1】
刃物を研磨するための砥石が装着される回転軸を有してベースプレート上に設置された駆動源を含む研磨装置本体と、
前記刃物を保持する治具と、
前記治具を支持する受座と、を備えた研磨装置であり、
前記治具は、
前記受座により回転自在に支持される筒状胴部と、
前記筒状胴部内に挿入された刃物の柄部を保持して当該刃物を前記筒状胴部に対して固定するチャック部と、
前記チャック部による刃物の保持位置を前記筒状胴部の軸線に直交する2方向に移動させる保持位置調整手段および前記チャック部を前記筒状胴部の軸線に直交する軸回りに回動させるチャック回動手段の少なくとも一方と、を有し、
前記受座は、前記ベースプレートの上面に沿って、前記筒状胴部の軸線に直交する第1方向とその第1方向に交差する第2方向とに移動可能に設けられていることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記駆動源の回転軸に装着された砥石に対し、前記治具にて保持された刃物の接触角を調整可能な接触角調整手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
前記受座に前記筒状胴部の回転移動を制限するストッパが設けられ、前記筒状胴部の外周には前記ストッパに対応する凸部が設けられていることを特徴とする請求項1、又は2記載の研磨装置。
【請求項4】
前記凸部の移動経路上において、前記ストッパが前記筒状胴部の回転移動を90度の回転角度範囲に制限する2ヶ所に設けられていることを特徴とする請求項3記載の研磨装置。
【請求項5】
前記治具には、前記凸部の位置を筒状胴部の周方向に変位可能とする凸部位置決め手段が設けられていることを特徴とする請求項3記載の研磨装置。
【請求項6】
前記受座に半円弧状の支持部が形成され、前記治具は前記支持部に対応する環状凹部を前記筒状胴部の外周に有して前記受座に対し着脱自在とされており、前記筒状胴部の外底部にはバランスウェイトが固定されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項7】
前記研磨装置本体は、砥石の外周を覆うカバーを備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の研磨装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−218091(P2012−218091A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84357(P2011−84357)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(511087143)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(511087143)
【Fターム(参考)】
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