説明

硬化性樹脂組成物、フィルム、積層体、及び硬化物

【課題】保存安定性に優れ、かつ、良好なフィルム状の成形体、並びに、配線埋め込み平坦性、絶縁信頼性に優れた硬化物、積層体、多層回路基板及び電子機器を与える硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】極性基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、多価エポキシ化合物(B)、イミダゾール化合物(C)、並びに、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を含有してなる硬化性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、フィルム、積層体、及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化、通信高速化などの追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のさらなる高密度化が要求されており、このような高密度化の要求に応えるために、回路基板の多層化が図られている。このような多層回路基板は、例えば、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、さらに、これら電気絶縁層の積層と、導体層の形成と、を繰り返し行うことにより形成される。このような多層回路基板の作製においては電気絶縁層が平坦であることが求められる。さらに、導体層が高密度のパターンである場合、電気絶縁層を形成するために用いられる絶縁膜には、誘電率が低いなどの良好な電気特性に優れていることが求められる。
【0003】
これらの電気絶縁層を構成するための材料としては、一般的にセラミックや熱硬化性樹脂が用いられている。中でも、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、経済性と性能のバランスの点で優れるため、広く使用されている。しかしながら、エポキシ樹脂は、使用する用途によっては低誘電率性が不十分であり、そのため、より低い誘電率を有する材料として、脂環式オレフィン重合体が検討されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、保存安定性、硬化特性及び配線埋め込み性に優れた材料を与える硬化性樹脂組成物として、無水マレイン酸変性ノルボルネン系開環重合体水素添加物、多官能エポキシ化合物、及び環構造含有置換基を有するイミダゾール化合物からなる硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、エポキシ樹脂において、保存安定性を向上させるとともに、樹脂流動性を保ち、かつ熱による効率的な硬化速度を実現するために、エポキシ樹脂に、芳香族カルボン酸化合物とイミダゾール化合物とを含有する包接錯体を配合してなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。なお、この特許文献2において硬化剤として用いているイミダゾール化合物は、2級アミンや3級アミンなどの他の硬化剤と比較して、室温では反応しにくく、安定である一方で、加熱すると急激に硬化する優れた特徴を持っている。そして、特許文献2においては、このようなイミダゾール化合物を、硬化剤として用いることにより、保存安定性、樹脂流動性及び硬化反応性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−316569号公報
【特許文献2】国際公開第2009/037862号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、多層回路基板の一層の高性能化が求められており、電気絶縁層を構成するための樹脂材料にも、さらなる改善が求められている。しかしその一方で、上述の特許文献1に記載の硬化性樹脂組成物では、保存安定性、及び回路基板のパターン埋め込み性が必ずしも十分ではなく、そのため、多層回路基板の高性能化に対応できないものであった。
また、上述の特許文献2に記載のエポキシ樹脂組成物では、保存安定性に優れるものの、本発明者らが検討したところ、特許文献2に記載の技術では、組成物中において、錯体の分散単位が大きかったり、さらには、錯体が凝集してしまい、信頼性が不十分となってしまうことが明らかになった。
【0008】
本発明の目的は、保存安定性、樹脂流動性、及び配線埋め込み性に優れ、かつ、耐熱性、耐水性、及び信頼性に優れた硬化物を与える硬化性樹脂組成物、これを用いて得られるフィルム、積層体、硬化物、多層回路基板及び電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、極性基を有する脂環式オレフィン重合体、多価エポキシ化合物、イミダゾール化合物、及びイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩を含有してなる硬化性樹脂組成物が、保存安定性に優れ、また、良好なフィルム状の成形体を与えることができ、さらには、このような硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物が、低線膨張であり、配線埋め込み平坦性、耐熱性、及び絶縁信頼性に優れているものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕極性基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、多価エポキシ化合物(B)、イミダゾール化合物(C)、並びに、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を含有してなる硬化性樹脂組成物、
〔2〕前記イミダゾール化合物(C)、及び前記イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の含有割合が、「化合物(C)/化合物(D)」のモル比で、95/5〜10/90である前記〔1〕に記載の硬化性樹脂組成物、
〔3〕前記イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を10重量%以上溶解しない溶剤(E)をさらに含有する前記〔1〕又は〔2〕に記載の硬化性樹脂組成物、
〔4〕前記イミダゾール化合物(C)及び前記イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を溶剤(E)に溶解又は分散した溶液と、前記脂環式オレフィン重合体(A)及び前記多価エポキシ化合物(B)とを配合することで製造される前記〔3〕に記載の硬化性樹脂組成物、
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなるフィルム、
〔6〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物、又は前記〔5〕に記載のフィルムを硬化してなる硬化物、
〔7〕前記〔5〕に記載のフィルムを基材に積層してなる積層体、
〔8〕表面に導体層を有する基板と、前記〔6〕に記載の硬化物からなる電気絶縁層とを、積層してなる積層体、
〔9〕前記〔8〕に記載の積層体の、電気絶縁層上にさらに導体層を形成してなる多層回路基板、並びに、
〔10〕前記〔9〕に記載の多層回路基板を備えた電子機器、
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保存安定性に優れ、かつ、良好なフィルム状の成形体を与えることができる硬化性樹脂組成物、及び、このような硬化性樹脂組成物を用いて得られ、低線膨張であり、配線埋め込み平坦性、耐熱性、及び絶縁信頼性に優れた硬化物、積層体、多層回路基板及び電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硬化性樹脂組成物は、極性基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、多価エポキシ化合物(B)、イミダゾール化合物(C)、並びに、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を含有してなる。
【0013】
(脂環式オレフィン重合体(A))
本発明で用いる極性基を有する脂環式オレフィン重合体(A)(以下、適宜、「脂環式オレフィン重合体(A)」と略記する。)を構成する脂環構造としては、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造などが挙げられるが、機械的強度や耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。また、脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋架け環や、これらを組み合わせてなる多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素原子数は、特に限定されないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であり、環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲にある場合に、機械的強度、耐熱性、及び成形性の諸特性が高度にバランスされ好適である。また、脂環式オレフィン重合体(A)は、通常、熱可塑性のものである。
【0014】
脂環式オレフィン重合体(A)中の脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合は、特に限定されないが、通常30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合が過度に少ないと、耐熱性に劣り好ましくない。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、格別な限定はなく、目的に応じて適宜選択される。
【0015】
脂環式オレフィン重合体(A)に含有される極性基の種類としてはエポキシ化合物と反応、結合を形成するような官能基であれば特に限定はなく、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などを含有する極性基が挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、珪素原子、ハロゲン原子などが挙げられるが、酸素原子や窒素原子が好ましい。このような極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基などが挙げられ、中でも室温で反応しにくく、加熱することにより反応性を向上することが出来る多官能の極性基としてカルボキシル基、カルボン酸無水物基、ヒドロキシル基、エポキシ基が好ましく、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、ヒドロキシフェニル基が特に好ましい。
なお、これらの極性基は、重合体の主鎖を構成する原子に直接結合していても、炭素数1〜10のアルキレン基やフェニレン基などの他の二価の基を介して結合していてもよい。脂環式オレフィン重合体(A)中の極性基の含有率は、特に制限されないが、脂環式オレフィン重合体(A)を構成する全繰り返し単位のモル数に対して、通常5〜60モル%、好ましくは10〜50モル%である。
【0016】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)は、たとえば、以下の方法により得ることができる。すなわち、(1)極性基を有する脂環式オレフィンを、必要に応じて他の単量体を加えて、重合する方法、(2)極性基を有しない脂環式オレフィンを、極性基を有する単量体と共重合する方法、(3)極性基を有する芳香族オレフィンを、必要に応じて他の単量体を加えて、重合し、これにより得られる重合体の芳香環部分を水素化する方法、(4)極性基を有しない芳香族オレフィンを、極性基を有する単量体と共重合し、これにより得られる重合体の芳香環部分を水素化する方法、又は、(5)極性基を有しない脂環式オレフィン重合体に極性基を有する化合物を変性反応により導入する方法などにより得ることができる。これらのなかでも、前述の(1)の方法によって得られる重合体が好適である。
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)を得る重合法は開環重合や付加重合が用いられるが、開環重合の場合には得られた開環重合体を水素添加することが好ましい。
【0017】
極性基を有する単量体として用いられ得る、極性基を有する脂環式オレフィンの具体例としては、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−カルボキシメチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−エキソ−10−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、などのカルボキシル基を有する脂環式オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン−9,10−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[10.2.1.13,10.15,8.02,11.04,9]ヘプタデカ−6−エン−13,14−ジカルボン酸無水物などのカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン;(5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−(4−ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、N−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドなどのヒドロキシフェニル基を有する脂環式オレフィン;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
極性基を有しない脂環式オレフィンの具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−ビニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−プロペニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−フェニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン、シクロペンテン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0019】
極性基を有しない芳香族オレフィンの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0020】
脂環式オレフィンや芳香族オレフィンと共重合することができる、極性基を有する脂環式オレフィン以外の、極性基を有する単量体としては、極性基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0021】
脂環式オレフィンや芳香族オレフィンと共重合することができる、脂環式オレフィン以外の、極性基を有しない単量体としては、極性基を有しないエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレン又はα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)の分子量は、特に限定されないが、テトロヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜1,000,000の範囲であることが好ましく、1,000〜500,000の範囲であることがより好ましく、特に好ましくは、5,000〜300,000の範囲である。重量平均分子量が小さすぎると硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の機械的強度が低下し、大きすぎるとシート状又はフィルム状に成形して成形体とする際に作業性が悪化したり、組成物の流動性が悪化する傾向にある。
【0023】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)を、開環重合法により得る場合の重合触媒としては、従来公知のメタセシス重合触媒を用いることができる。メタセシス重合触媒としては、Mo,W,Nb,Ta,Ruなどの原子を含有してなる遷移金属化合物が例示され、なかでも、Mo,W又はRuを含有する化合物は重合活性が高くて好ましい。特に好ましいメタセシス重合触媒の具体的な例としては、(1)ハロゲン基、イミド基、アルコキシ基、アリロキシ基又はカルボニル基を配位子として有する、モリブデンあるいはタングステン化合物を主触媒とし、有機金属化合物を第二成分とする触媒や、(2)Ruを中心金属とする金属カルベン錯体触媒を挙げることができる。
【0024】
上記(1)の触媒で主触媒として用いられる化合物の例としては、MoCl、MoBrなどのハロゲン化モリブデン化合物やWCl、WOCl、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルなどのハロゲン化タングステン化合物が挙げられる。また、上記(1)の触媒で、第二成分として用いられる有機金属化合物としては、周期表第1族、2族、12族、13族又は14族の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシドなどを挙げることができ、さらに、これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られるアルミノキサン化合物も用いることができる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。これらの有機金属化合物の量は、用いる有機金属化合物によって異なるが、主触媒の中心金属に対して、モル比で、0.1〜10,000倍が好ましく、0.2〜5,000倍がより好ましく、0.5〜2,000倍が特に好ましい。
【0025】
また、上記(2)のRuを中心金属とする金属カルベン錯体触媒としては、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン−〔1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジブロモイミダゾール−2−イリデン〕−〔ベンジリデン〕ルテニウムジクロリド、4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムなどが挙げられる。
【0026】
メタセシス重合触媒の使用割合は、重合に用いる単量体に対して、(メタセシス重合触媒中の遷移金属:単量体)のモル比で、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1:1,000,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去や重合制御が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られないおそれがある。
【0027】
重合反応は、通常、有機溶媒中で行なう。用いられる有機溶媒は、重合体が所定の条件で溶解又は分散し、重合に影響しないものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用されているものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒;などを挙げることができる。これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0028】
有機溶媒の使用量は、重合溶液中の単量体の濃度が、1〜50重量%となる量であることが好ましく、2〜45重量%となる量であることがより好ましく、3〜40重量%となる量であることが特に好ましい。単量体の濃度が1重量%未満の場合は生産性が悪くなり、50重量%を超えると、重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素添加反応が困難となる場合がある。
【0029】
重合反応は、重合に用いる単量体とメタセシス重合触媒とを混合することにより開始される。これらを混合する方法としては、単量体溶液にメタセシス重合触媒溶液を加えてもよいし、その逆でもよい。用いるメタセシス重合触媒が、主触媒である遷移金属化合物と第二成分である有機金属化合物とからなる混合触媒である場合には、単量体溶液に混合触媒の反応液を加えてもよいし、その逆でもよい。また、単量体と有機金属化合物との混合溶液に遷移金属化合物溶液を加えてもよいし、その逆でもよい。さらに、単量体と遷移金属化合物の混合溶液に有機金属化合物を加えてもよいし、その逆でもよい。
【0030】
重合温度は特に制限はないが、通常、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、特に制限はないが、通常、1分間〜100時間である。
【0031】
得られる脂環式オレフィン重合体の分子量を調整する方法としては、ビニル化合物又はジエン化合物を適当量添加する方法を挙げることができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。分子量調整に用いるジエン化合物としては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、又は、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを挙げることができる。ビニル化合物又はジエン化合物の添加量は、目的とする分子量に応じて、重合に用いる単量体に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0032】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)を、付加重合法により得る場合の重合触媒としては、たとえば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が好適に用いられる。これらの重合触媒は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合触媒の量は、重合触媒中の金属化合物:重合に用いる単量体のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000の範囲である。
【0033】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)として、開環重合体の水素添加物を用いる場合の、開環重合体に対する水素添加は、通常、水素添加触媒を用いて行われる。水素添加触媒は特に限定されず、オレフィン化合物の水素添加に際して一般的に使用されているものを適宜採用すればよい。水素添加触媒の具体例としては、たとえば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのような遷移金属化合物とアルカリ金属化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929号公報、特開平7−149823号公報、特開平11−209460号公報、特開平11−158256号公報、特開平11−193323号公報、特開平11−209460号公報などに記載されている、たとえば、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドなどのルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;などの均一系触媒が挙げられる。また、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒、たとえば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどを用いることもできる。また、上述したメタセシス重合触媒をそのまま、水素添加触媒として用いることも可能である。
【0034】
水素添加反応は、通常、有機溶媒中で行う。有機溶媒は生成する水素添加物の溶解性により適宜選択することができ、上述した重合反応に用いる有機溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。したがって、重合反応後、有機溶媒を入れ替えることなく、そのまま水素添加触媒を添加して反応させることもできる。さらに、上述した重合反応に用いる有機溶媒の中でも、水素添加反応に際して反応しないという観点から、芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族エーテル系溶媒が好ましく、芳香族エーテル系溶媒がより好ましい。
【0035】
水素添加反応条件は、使用する水素添加触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。反応温度は、通常、−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃である。−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常、0.01〜10.0MPa、好ましくは0.05〜8.0MPaである。水素圧力が0.01MPa未満では水素添加速度が遅くなり、10.0MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。
【0036】
水素添加反応の時間は、水素添加率をコントロールするために適宜選択される。反応時間は、通常、0.1〜50時間の範囲であり、重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上を水素添加することができる。
【0037】
水素添加反応を行った後、水素添加反応に用いた触媒を除去する処理を行ってもよい。触媒の除去方法は特に制限されず、遠心分離、濾過などの方法が挙げられる。さらに、水やアルコールなどの触媒不活性化剤を添加したり、また活性白土、アルミナ、珪素土などの吸着剤を添加したりして、触媒の除去を促進させることができる。
本発明で用いられる脂環式オレフィン重合体(A)は、重合や水素添加反応後の重合体溶液として使用しても、溶媒を除去した後に使用してもどちらでもよいが、樹脂組成物を調製する際に添加剤の溶解や分散が良好になるとともに、工程が簡素化できるため、重合体溶液として使用するのが好ましい。
【0038】
(多価エポキシ化合物(B))
本発明で用いられる多価エポキシ化合物(B)は、分子内に少なくとも2つのエポキシ構造を有する化合物である。
【0039】
多価エポキシ化合物(B)の例としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールF 型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物等のグリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物や、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、脂環式オレフィン重合体(A)との相溶性が良好であり、得られるフィルム、積層体及び硬化物の機械物性を良好なものとすることができるという点より、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルなどのビスフェノールA 型エポキシ化合物や、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。なお、これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0040】
脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有するエポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂〔たとえば、商品名「エピクロン(登録商標)HP7200L、エピクロン(登録商標)HP7200、エピクロン(登録商標)HP7200H、エピクロン(登録商標)HP7200HH」(以上、大日本インキ化学工業社製);商品名「Tactix(登録商標)558」(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製);商品名「XD−1000−1L、XD−1000−2L」(以上、日本化薬社製)〕や、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂〔たとえば、商品名「オンコートEX−1010、オンコートEX−1011、オンコートEX−1012、オンコートEX−1020、オンコートEX−1030、オンコートEX−1040、オンコートEX−1050、オンコートEX−1051」(以上、長瀬産業社製);商品名「オグゾールPG−100、オグゾールEG−200、オグゾールEG−250)」(以上、大阪ガスケミカル社製)〕などが挙げられる。
【0041】
多価エポキシ化合物(B)の配合量は、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、好ましくは30〜2000重量部、より好ましくは50〜1500重量部、さらに好ましくは80〜1000重量部の範囲である。多価エポキシ化合物(B)の配合量を上記範囲とすることにより、硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の機械的強度及び電気特性を良好なものとすることができるため、好ましい。
【0042】
(イミダゾール化合物(C))
本発明で用いられるイミダゾール化合物(C)としては、イミダゾール骨格を有する化合物であればよく、特に限定されないが、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の芳香族炭化水素基、ヒドロキシメチル基、及びアシル基などの置換基を有する置換イミダゾール化合物が好ましく、特に、1,2,4,5位(下記式(1)参照)のいずれかに脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を有するものがより好ましく、1,2位の一方に炭素数1〜10のアルキル基を有し、他方に芳香族炭化水素基を有するもの、又は2,4位の一方に炭素数1〜10のアルキル基を有し、他方に芳香族炭化水素基を有するものが特に好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物中において、イミダゾール化合物(C)は、後述するイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)とともに、硬化剤として作用する。
【化1】

【0043】
置換イミダゾール化合物の具体例としては、たとえば、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ビス−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのアルキル置換イミダゾール化合物;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−(2’−シアノエチル)イミダゾールなどのアリール基やアラルキル基などの環構造を含有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物;などが挙げられる。
【0044】
これらの中でも、環構造を含有する炭化水素基を有するイミダゾール化合物が脂環式オレフィン重合体(A)との相溶性の観点から好ましく、なかでも、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールが特に好ましい。イミダゾール化合物(C)は1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0045】
イミダゾール化合物(C)の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、多価エポキシ化合物(B)100重量部に対して、好ましくは、0.01〜10重量部、より好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。イミダゾール化合物(C)の配合量が少なすぎると、硬化物とした際における耐熱性や絶縁信頼性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、硬化性樹脂組成物の保存安定性が低下するおそれがある。
【0046】
(イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D))
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述した脂環式オレフィン重合体(A)、多価エポキシ化合物(B)、及びイミダゾール化合物(C)に加えて、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を含有する。
【0047】
本発明で用いられるイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)は、下記式(2)に示すイミダゾール化合物と、有機カルボン酸とが塩構造を形成してなる化合物である。
【化2】

(上記式(2)中、Rは、水素原子、又は、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基もしくはシアノエチル基を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、もしくはアシル基を表す。)
【0048】
ここで塩構造とは、2種又は3種以上の分子が共有結合以外の結合により結合した化合物をいい、特に、本発明では、2種又は3種以上の分子が共有結合以外の結合により結合した結晶性化合物をいう。
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物において、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)は、硬化剤として作用する。このようなイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)は、2級アミンや3級アミンなどの他の硬化剤と比較して、室温では反応しにくく、安定である一方で、加熱すると急激に硬化する優れた特徴を持っているものである。しかしその一方で、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)は、室温において固体状の物質であり、上述した脂環式オレフィン重合体(A)、及び多価エポキシ化合物(B)、さらには、後述する溶剤(E)に対して、溶解性をほとんど示さないものである。そのため、これらと組み合わせて用いた場合には、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)は、分散が悪かったり凝集してしまい、これにより、得られる硬化物の特性にバラツキが発生したり、クラックが発生してしまい各種特性を劣化させてしまうという問題がある。これに対して、本発明では、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)と、上述したイミダゾール化合物(C)とを併用して用いることにより、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の、本発明の硬化性樹脂組成物中における分散性、特に、後述する溶剤(E)に対する溶解性を改善することができる。そして、これにより、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の作用により、硬化性樹脂組成物を保存安定性に優れたものとしながら、得られる硬化物を、配線埋め込み平坦性、耐熱性、及び絶縁信頼性に優れたものとすることができるものである。
【0050】
本発明で用いられるイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を構成するイミダゾール化合物としては、たとえば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6(2’−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−ウンデシルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−エチル,4−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−3,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0051】
また、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を構成する有機カルボン酸としては、たとえば、モノクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、マレイン酸、蓚酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、テトラキス(カルボキシフェニル)化合物等の芳香族カルボン酸;等が挙げられる。これらのなかでも、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が好ましく、トリメリット酸が特に好ましい。
【0052】
イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の具体例としては、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのテレフタル酸塩、トリメリット酸塩又はピロメリット酸塩;1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのテレフタル酸塩、トリメリット酸塩又はピロメリット酸塩;2−ウンデシルイミダゾールのテレフタル酸塩、トリメリット酸塩又はピロメリット酸塩;2−ヘプタデシルイミダゾールのテレフタル酸塩、トリメリット酸塩又はピロメリット酸塩;2−フェニル−4−メチルイミダゾールのテレフタル酸塩、トリメリット酸塩又はピロメリット酸塩;1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールのテレフタル酸塩、トリメリット酸塩又はピロメリット酸塩;2−エチル−4−メチルイミダゾールの5−ヒドロキシイソフタル酸塩、5−ニトロイソフタル酸塩;2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールの5−ヒドロキシイソフタル酸塩、5−ニトロイソフタル酸塩等が挙げられる。
【0053】
本発明で用いられるイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)における、イミダゾール化合物と有機カルボン酸との割合は、これらが塩構造を形成可能である限り特に制限されないが、有機カルボン酸1モルに対して、イミダゾール化合物の割合が、0.1〜5.0モルであることが好ましく、0.5〜4.0モルであることがより好ましい。
【0054】
また、本発明の硬化性樹脂組成物中における、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の配合割合は、イミダゾール化合物(C)の溶液に溶解可能な量とすればよいが、「イミダゾール化合物(C)/イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)」のモル比で、好ましくは95/5〜10/90の範囲、より好ましくは90/10〜30/70の範囲、さらに好ましくは85/15〜50/50の範囲である。イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の配合割合が少なすぎると、硬化性樹脂組成物の保存安定性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、硬化性樹脂組成物への分散が低下するおそれがある。
【0055】
また、本発明の硬化性樹脂組成物中における、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の配合量は、上述したイミダゾール化合物(C)との関係で決定すればよいが、多価エポキシ化合物(B)100重量部に対して、好ましくは、0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜3重量部である。
【0056】
(溶剤(E))
本発明の硬化性樹脂組成物には、上記成分以外に、溶剤(E)を含有していてもよい。本発明においては、溶剤(E)としては、上述したイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)に対して貧溶媒として作用するものが好ましい。具体的には、溶剤(E)としては、常温(25℃)で上述したイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を10重量%以上溶解しないものが好ましく、より好ましくは5重量%以上溶解しないものがより好ましく、上述したイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を実質的に溶解しないものが特に好ましい。なお、溶剤(E)は、本発明の硬化性樹脂組成物をフィルム状に成形し、フィルム化する際に、加熱等により揮発除去されることとなる。
【0057】
溶剤(E)としては、フィルム状に成形する際に、加熱等により揮発除去させるという観点から、その沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものがより好ましい。このような溶剤(E)の具体例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、及びアニソールなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタンやシクロヘキサン、シクロペンタノン、及びシクロヘキサノンなどの脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、及びトリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;などが挙げられる。これらのなかでも、本発明の硬化性樹脂組成物を構成する各成分との相溶性の観点より、環式オレフィン重合体(A)を重合体溶液の形態で用いる場合には、該重合体溶液に使用する溶剤と同様のものを用いることが好ましい。また、この場合において、さらに溶解性や粘度を調整するために、2種以上の溶剤を混合して用いてもよいが、上述したイミダゾール化合物(C)を溶解するものを用いることが好ましい。特に、本発明においては、溶剤(E)として、上述したイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を単独の状態では溶解しない一方で、溶剤(E)に、イミダゾール化合物(C)を溶解させた際には、該溶剤(E)及びイミダゾール化合物(C)を含有する溶液に、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を溶解できるようなものを用いることが好ましい。溶剤(E)の好適例としては具体的に、トルエン、アニソール、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノンなどが挙げられる。
【0058】
本発明の硬化性樹脂組成物中における、溶剤(E)の配合割合は、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは15〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%である。
【0059】
(その他の成分)
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、フェノール化合物を配合することができる。フェノール化合物としては、分子中にフェノール性水酸基を有するものであれば特に限定するものではない。このようなフェノール化合物としては、たとえば、フェノールノボラック樹脂、キシリレン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン樹脂、又はこれらの変性樹脂が挙げられる。また、フェノール化合物としては、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化性の観点から、水酸基当量が50〜300のものを用いることが好ましい。
【0060】
フェノール化合物を配合する場合における配合量は、多価エポキシ化合物(B)100重量部に対して、好ましくは5〜200重量部、より好ましくは10〜150重量部、さらに好ましくは20〜100重量部の範囲である。
【0061】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、さらに、無機充填材を配合してもよい。無機充填材としては、工業的に一般に使用されるものであれば特に限定されず、たとえば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、水和アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、クレーなどを挙げることができる。無機充填材を配合することで、得られる硬化物の線膨張を低くすることができる。
【0062】
上述した無機充填材の中でも、耐熱性、低吸水率、誘電特性、低不純物性、放熱性等に優れるという点より、シリカが好ましく、特に、その表面をシランカップリング剤で処理してなるシリカがより好ましい。特に、表面をシランカップリング剤で処理してなるシリカを用いることにより、得られる硬化物の機械的特性、信頼性を向上させることができる。なお、シランカップリング剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0063】
本発明で用いられる無機充填材は、平均粒子径が、好ましくは0.05〜1.5μmであり、より好ましくは0.1〜1μmである。無機充填材の平均粒子径が小さすぎると、硬化性樹脂組成物の流動性が悪くなり埋め込み平坦性が不十分となる場合があり、一方、大きすぎると、微細な配線パターンを埋め込んだときに配線間の絶縁不良を引き起こす場合がある。なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
【0064】
無機充填材を配合する場合の配合割合は、通常、30〜90重量%であり、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは50〜70重量%である。
【0065】
さらに、本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、ゴム質重合体や、上記した脂環式オレフィン重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂を配合することができる。ゴム質重合体としては、常温(25℃)以下のガラス転移温度を持つ重合体であり、一般的なゴム状重合体及び熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0066】
ゴム状重合体やその他の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、30重量部以下の配合量とすることが好ましい。
【0067】
本発明の硬化性樹脂組成物には、硬化物とした際における難燃性を向上させる目的で、例えば、ハロゲン系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤などの一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される難燃剤を配合してもよい。本発明の硬化性樹脂組成物に難燃剤を配合する場合の配合量は、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下であり、より好ましくは60重量部以下である。
【0068】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、難燃助剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤(レーザー加工性向上剤)、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤などの任意成分を配合してもよい。これらの任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択すればよい。
【0069】
本発明の硬化性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されず上述した各成分を混合すればよいが、溶剤(E)を用いる場合には、まず、溶剤(E)に、イミダゾール化合物(C)、及びイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を溶解又は分散し、これらを溶解又は分散した溶液を、上述した脂環式オレフィン重合体(A)及び多価エポキシ化合物(B)、さらには必要に応じて用いられるその他の成分の混合物に添加し、混合する方法が好ましい。イミダゾール化合物(C)、及びイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を予め溶剤(E)に溶解又は分散させることにより、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を良好に分散させることができ、これにより、得られる硬化性樹脂組成物の保存安定性をより向上させることができる。
【0070】
(フィルム)
本発明のフィルムは、上述した本発明の硬化性樹脂組成物をシート状又はフィルム状に成形してなる成形体である。あるいは、本発明のフィルムとしては、本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させることにより得られる、シート状又はフィルム状の複合成形体であってもよい。
【0071】
本発明の硬化性樹脂組成物を、シート状又はフィルム状に成形して成形体とする際には、本発明の硬化性樹脂組成物を、必要に応じて有機溶剤を添加して、支持体に塗布、散布又は流延し、次いで乾燥することより得ることが好ましい。
【0072】
この際に用いる支持体としては、樹脂フィルムや金属箔などが挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これらのフィルムのうち、耐熱性、耐薬品性、剥離性などの観点からポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンナフタレートフィルムが好ましい。金属箔としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などが挙げられる。
【0073】
シート状又はフィルム状の成形体の厚さは、特に限定されないが、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。また、支持体の表面平均粗さRaは、通常、300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0074】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布する方法としては、ディップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコート、グラビアコートなどが挙げられる。
【0075】
なお、本発明で用いる成形体においては、本発明の硬化性樹脂組成物が未硬化又は半硬化の状態であることが好ましい。ここで未硬化とは、成形体を、脂環式オレフィン重合体(A)を溶解可能な溶剤に漬けたときに、実質的に脂環式オレフィン重合体(A)の全部が溶解する状態をいう。また、半硬化とは、加熱すれば更に硬化しうる程度に途中まで硬化された状態であり、好ましくは、脂環式オレフィン重合体(A)を溶解可能な溶剤に脂環式オレフィン重合体(A)の一部(具体的には7重量%以上)が溶解する状態であるか、あるいは、溶剤中に成形体を24時間浸漬した後の体積が、浸漬前の体積の200%以上(膨潤率)である状態をいう。
【0076】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を、支持体上に塗布した後、必要に応じて、乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、本発明の硬化性樹脂組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、硬化反応が進行しすぎて、得られる成形体が未硬化又は半硬化の状態とならなくなるおそれがある。また、乾燥時間は、通常、30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
【0077】
そして、このようにして得られる本発明のフィルムは、支持体上に付着させた状態で、又は支持体からはがして、使用される。
【0078】
あるいは、本発明のフィルムとしては、本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させることにより、シート状又はフィルム状の複合成形体の形態として得られるものであってもよい。
【0079】
この場合に用いる繊維基材としては、たとえば、ロービングクロス、チョップドマット、サーフェシングマットなどの織布、不織布;繊維の束や塊などが挙げられる。これら繊維基材の中で、寸法安定性の観点からは織布が好ましく、加工性の観点からは不織布が好ましい。
【0080】
シート状又はフィルム状の複合成形体の厚さは、特に限定されないが、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。また、複合成形体中の繊維基材の量は、通常、20〜90重量%、好ましくは30〜85重量%である。
【0081】
本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させる方法としては、特に限定されないが、粘度などを調整するために本発明の硬化性樹脂組成物に有機溶剤を添加し、有機溶剤を添加した硬化性樹脂組成物に繊維基材を浸漬する方法、有機溶剤を添加した硬化性樹脂組成物を繊維基材に塗布や散布する方法などが挙げられる。塗布又は散布する方法においては、支持体の上に繊維基材を置いて、これに、有機溶剤を添加した硬化性樹脂組成物を塗布又は散布することができる。なお、本発明で用いる複合成形体においては、上述した成形体と同様に、本発明の硬化性樹脂組成物が未硬化又は半硬化の状態で含有されていることが好ましい。
【0082】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させた後、必要に応じて、乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、本発明の硬化性樹脂組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、硬化反応が進行しすぎて、得られる複合成形体が未硬化又は半硬化の状態とならなくなるおそれがある。また、乾燥時間は、通常、30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
【0083】
そして、このようにして得られる本発明のフィルムは、これを加熱し、硬化させることにより硬化物とすることができる。
【0084】
硬化温度は、通常、30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃である。また、硬化時間は、0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンなどを用いて行えばよい。
【0085】
(積層体)
本発明の積層体は、上述した本発明のフィルムを積層してなるものである。本発明の積層体としては、少なくとも、上述した本発明のフィルムを積層してなるものであればよいが、表面に導体層を有する基板と、上述した本発明のフィルムからなる電気絶縁層とを積層してなるものが好ましい。
【0086】
表面に導体層を有する基板は、電気絶縁性基板の表面に導体層を有するものである。電気絶縁性基板は、公知の電気絶縁材料(たとえば、脂環式オレフィン重合体、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、ポリフェニルエーテル、ガラス等)を含有する硬化性樹脂組成物を硬化して形成されたものである。導体層は、特に限定されないが、通常、導電性金属等の導電体により形成された配線を含む層であって、更に各種の回路を含んでいてもよい。配線や回路の構成、厚み等は、特に限定されない。表面に導体層を有する基板の具体例としては、プリント配線基板、シリコンウェーハ基板等を挙げることができる。表面に導体層を有する基板の厚みは、通常、10μm〜10mm、好ましくは20μm〜5mm、より好ましくは30μm〜2mmである。
【0087】
本発明で用いる表面に導体層を有する基板は、電気絶縁層との密着性を向上させるために、導体層表面に前処理が施されていることが好ましい。前処理の方法としては、公知の技術を、特に限定されず使用することができる。例えば、導体層が銅からなるものであれば、強アルカリ酸化性溶液を導体層表面に接触させて、導体表面に酸化銅の層を形成して粗化する酸化処理方法、導体層表面を先の方法で酸化した後に水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどで還元する方法、導体層にめっきを析出させて粗化する方法、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、及び導体層にチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法等が挙げられる。これらの内、微細な配線パターンの形状維持の容易性の観点から、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、及び、チオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法が好ましい。
【0088】
本発明の積層体は、通常、表面に導体層を有する基板上に、上述した本発明のフィルム(すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物を、シート状又はフィルム状に成形してなる成形体、又は本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させてなる複合成形体)を加熱圧着することにより、製造することができる。
【0089】
加熱圧着の方法としては、支持体付きの成形体又は複合成形体を、上述した基板の導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)する方法が挙げられる。加熱加圧することにより、基板表面の導体層と成形体又は複合成形体との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させることができる。
【0090】
加熱圧着操作の温度は、通常、30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常、10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常、30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。また、加熱圧着は、配線パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために減圧下で行うのが好ましい。加熱圧着を行う減圧下の圧力は、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paである。
【0091】
そして、このようにして得られる積層体について、本発明のフィルムを硬化する処理を行なうことで、硬化物とすることができる。硬化は、通常、導体層上に、本発明のフィルムが形成された基板全体を加熱することにより行う。硬化は、上述した加熱圧着操作と同時に行うことができる。また、先ず加熱圧着操作を硬化の起こらない条件、すなわち比較的低温、短時間で行った後、硬化を行ってもよい。
【0092】
また、電気絶縁層の平坦性を向上させる目的や、電気絶縁層の厚みを増す目的で、基板の導体層上に本発明のフィルムを2以上接して貼り合わせて積層してもよい。
【0093】
(多層回路基板)
本発明の多層回路基板は、上述した本発明の積層体の電気絶縁層上に、さらに別の導体層を形成してなるものである。以下、本発明の多層回路基板の製造方法について、説明する。
【0094】
まず、積層体に、電気絶縁層を貫通するビアホールやスルーホールを形成する。ビアホールは、多層回路基板とした場合に、多層回路基板を構成する各導体層を連結するために形成される。ビアホールやスルーホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、又は、ドリル、レーザー、プラズマエッチングなどの物理的処理などにより形成することができる。これらの方法の中でもレーザーによる方法(炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、UV−YAGレーザーなど)は、より微細なビアホールを電気絶縁層の特性を低下させずに形成できるので好ましい。
【0095】
次に、積層体の電気絶縁層(すなわち、本発明の硬化物)の表面を、過マンガン酸塩の水溶液で粗化する表面粗化処理を行う。表面粗化処理は、電気絶縁層上に形成する導電層との接着性を高めるために行う。
電気絶縁層の表面平均粗さRaは、好ましくは0.05μm以上0.3μm未満、より好ましくは0.06μm以上0.2μm以下であり、かつ表面十点平均粗さRzjisは、好ましくは0.3μm以上4μm未満、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。なお、本明細書において、RaはJIS B0601−2001に示される中心線平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
【0096】
表面粗化処理方法としては、特に限定されないが、電気絶縁層表面と酸化性化合物とを接触させる方法などが挙げられる。酸化性化合物としては、無機酸化性化合物や有機酸化性化合物などの酸化能を有する公知の化合物が挙げられる。電気絶縁層の表面平均粗さの制御の容易さから、無機酸化性化合物や有機酸化性化合物を用いるのが特に好ましい。無機酸化性化合物としては、過マンガン酸塩、無水クロム酸、重クロム酸塩、クロム酸塩、過硫酸塩、活性二酸化マンガン、四酸化オスミウム、過酸化水素、過よう素酸塩などが挙げられる。有機酸化性化合物としてはジクミルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、m−クロロ過安息香酸、過酢酸、オゾンなどが挙げられる。
【0097】
無機酸化性化合物や有機酸化性化合物を用いて電気絶縁層表面を表面粗化処理する方法に格別な制限はない。例えば、上記酸化性化合物を溶解可能な溶媒に溶解して調製した酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法が挙げられる。
たとえば、上述した酸化性化合物を溶解可能な溶媒に溶解して調製した酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法が挙げられる。酸化性化合物溶液を、電気絶縁層の表面に接触させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、電気絶縁層を酸化性化合物溶液に浸漬するディップ法、酸化性化合物溶液の表面張力を利用して、酸化性化合物溶液を、電気絶縁層に載せる液盛り法、酸化性化合物溶液を、電気絶縁層に噴霧するスプレー法、などいかなる方法であってもよい。表面粗化処理を行うことにより、電気絶縁層の、導体層など他の層との間の密着性を向上させることができる。
【0098】
これらの酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる温度や時間は、酸化性化合物の濃度や種類、接触方法などを考慮して、任意に設定すればよいが、温度は、通常、10〜250℃、好ましくは20〜180℃であり、時間は、通常、0.5〜60分間、好ましくは1〜40分間である。
【0099】
なお、表面粗化処理後、酸化性化合物を除去するため、表面粗化処理後の電気絶縁層表面を水で洗浄する。また、水だけでは洗浄しきれない物質が付着している場合には、その物質を溶解可能な洗浄液でさらに洗浄したり、他の化合物と接触させたりすることにより水に可溶な物質にしてから水で洗浄する。例えば、過マンガン酸カリウム水溶液や過マンガン酸ナトリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を電気絶縁層と接触させた場合は、発生した二酸化マンガンの皮膜を除去する目的で、硫酸ヒドロキシアミンと硫酸との混合液などの酸性水溶液により中和還元処理した後に水で洗浄することができる。
【0100】
次いで、積層体の電気絶縁層について表面粗化処理を行った後、電気絶縁層の表面及びビアホールやスルーホールの内壁面に、導体層を形成する。
導体層の形成方法は、特に限定されないが、密着性に優れる導体層を形成する観点からめっき法が好ましい。
【0101】
導体層をめっき法により形成する方法としては特に限定されず、例えば、電気絶縁層上にめっきなどにより金属薄膜を形成し、次いで厚付けめっきにより金属層を成長させる方法を採用することができる。
【0102】
たとえば、金属薄膜の形成を無電解めっきにより行う場合、金属薄膜を電気絶縁層の表面に形成させる前に、電気絶縁層上に、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの触媒核を付着させるのが一般的である。触媒核を電気絶縁層に付着させる方法は特に制限されず、例えば、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの金属化合物やこれらの塩や錯体を、水又はアルコールもしくはクロロホルムなどの有機溶剤に0.001〜10重量%の濃度で溶解した液(必要に応じて酸、アルカリ、錯化剤、還元剤などを含有していてもよい。)に浸漬した後、金属を還元する方法などが挙げられる。
【0103】
無電解めっき法に用いる無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液を用いればよく、めっき液中に含まれる金属種、還元剤種、錯化剤種、水素イオン濃度、溶存酸素濃度などは特に限定されない。例えば、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸、水素化硼素アンモニウム、ヒドラジン、ホルマリンなどを還元剤とする無電解銅めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−リンめっき液;ジメチルアミンボランを還元剤とする無電解ニッケル−ホウ素めっき液;無電解パラジウムめっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解パラジウム−リンめっき液;無電解金めっき液;無電解銀めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−コバルト−リンめっき液などの無電解めっき液を用いることができる。
【0104】
金属薄膜を形成した後、基板表面を防錆剤と接触させて防錆処理を施すことができる。また、金属薄膜を形成した後、密着性向上などのため、金属薄膜を加熱することもできる。加熱温度は、通常、50〜350℃、好ましくは80〜250℃である。なお、この際において、加熱は加圧条件下で実施してもよい。このときの加圧方法としては、例えば、熱プレス機、加圧加熱ロール機などの物理的加圧手段を用いる方法が挙げられる。加える圧力は、通常、0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜10MPaである。この範囲であれば、金属薄膜と電気絶縁層との高い密着性が確保できる。
【0105】
このようにして形成された金属薄膜上にめっき用レジストパターンを形成し、更にその上に電解めっきなどの湿式めっきによりめっきを成長させ(厚付けめっき)、次いで、レジストを除去し、更にエッチングにより金属薄膜をパターン状にエッチングして導体層を形成する。従って、この方法により形成される導体層は、通常、パターン状の金属薄膜と、その上に成長させためっきとからなる。
【0106】
以上のようにして得られた多層回路基板を、上述した積層体を製造するための基板とし、これを上述した成形体又は複合成形体とを加熱圧着し、硬化して電気絶縁層を形成し、さらにこの上に、上述した方法に従い、導電層の形成を行い、これらを繰り返すことにより、更なる多層化を行うことができ、これにより所望の多層回路基板とすることができる。
【0107】
このようにして得られる本発明の多層回路基板は、本発明の硬化性樹脂組成物からなる電気絶縁層(本発明の硬化物)を有してなり、該電気絶縁層は、低線膨張であり、配線埋め込み平坦性、耐熱性、及び絶縁信頼性に優れるものであるため、本発明の多層回路基板は、各種用途に好適に用いることができる。
【0108】
(電子機器)
本発明の電子機器は、上述した本発明の多層回路基板を備えてなるものである。
本発明の電子機器としては、特に制限されないが、例えば、携帯電話機、PHS、ノート型パソコン、PDA(携帯情報端末)、携帯テレビ電話機、パーソナルコンピューター、スーパーコンピューター、サーバー、ルーター、液晶プロジェクタ、エンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置などが挙げられる。本発明によれば、本発明の電子機器における、CPUやメモリなどの半導体素子、その他の実装部品用基板として好適に使用することができる多層回路基板を備えてなるものとすることにより、高性能で高品質なものとすることができる。
【実施例】
【0109】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0110】
(1)脂環式オレフィン重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0111】
(2)脂環式オレフィン重合体の水素添加率
水素添加前における脂環式オレフィン重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率を、400MHzのH−NMRスペクトル測定により求め、これを水素添加率とした。
【0112】
(3)脂環式オレフィン重合体のカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率
脂環式オレフィン重合体中の総単量体単位モル数に対するカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位のモル数の割合を、400MHzのH−NMRスペクトル測定により求めた。
【0113】
(4)フィルム状態
フィルム成形体の100mm×100mmの範囲について、表面状態を目視により観察することで、フィルム状態の評価を行った。なお、フィルム状態は、下記の基準で評価した。
A:凹みや異物の発生箇所が4箇所以下
B:凹みや異物の発生箇所が5〜10箇所
C:凹みや異物の発生箇所が11箇所以上
【0114】
(5)配線埋め込み平坦性
内層回路基板(IPC MULTI−PURPOSE TESTBOARD No.IPC−B−25、導体厚25μm、0.8mm厚)の両面に、硬化性樹脂組成物のフィルム成形体が接するように積層した。積層は、一次プレスは、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータにて、200Paの減圧下で温度110℃、圧力0.1MPaで90秒間の加熱圧着である。さらに、金属製プレス板を上下に備えた油圧プレス装置を用いて、圧着温度110℃、1MPaで90秒間、加熱圧着した。この積層体から支持フィルムを剥がし、180℃で60分間硬化した。硬化後、導体幅165μm、導体間隔165μmのくし型パターン部分の導体がある部分とない部分との段差を触針式段差膜厚計(Tencor Instruments製 P−10)にて測定し、以下の基準で、配線埋め込み平坦性を評価した。
A:段差が2μm未満
B:段差が2μm以上、3μm未満
C:段差が3μm以上
【0115】
(6)保存安定性
硬化性樹脂組成物のフィルム成形体について、50℃、30分間熱処理を行い、熱処理後のフィルム成形体を用いて、上記(5)と同様にして、積層体を作製し、同様の基準で、配線埋め込み平坦性の評価を行うことにより、保存安定性の評価を行った。
【0116】
(7)絶縁信頼性
配線パターン付き多層積層基板を、130℃、85%RH、印加電圧5Vの条件下で200時間処理した。次いで、200時間の処理後の多層積層基板の電気絶縁層間の絶縁抵抗を測定し、以下の基準で絶縁信頼性を評価した。
A:1.0×10Ω以上
C:1.0×10Ω未満
【0117】
製造例1
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン70モル部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、アニソール590モル部及びルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に入れ、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を入れ、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行って、高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の溶液を得た。得られた脂環式オレフィン重合体(A1)の重量平均分子量は50,000、数平均分子量は26,000、分子量分布は1.9であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。脂環式オレフィン重合体(A1)の溶液の固形分濃度は25%であった。
【0118】
実施例1
(硬化性樹脂組成物)
イミダゾール化合物(C)として、2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)をアニソールに溶解して2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)の70%アニソール溶液を作製した。得られた70%アニソール溶液に、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)として、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(イミダゾール:トリメリット酸=1:1(モル比))(D1)を溶解することで、透明な2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液(C1:D1=4:1モル比)を得た。
【0119】
次いで、製造例1で得られた脂環式オレフィン重合体(A1)のアニソール溶液400部(重合体として100部)、多価エポキシ化合物(B)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(B1)(商品名「エピクロンHP7200L」、大日本インキ化学工業社製)70部、同じく多価エポキシ化合物(B)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(B2)(jER828EL、三菱化学社製)20部、エポキシ樹脂(B3)として多官能エポキシ樹脂(jER1032H60、三菱化学社製)15部、上記にて得られた2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液0.57部、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノール樹脂(商品名「レヂトップGDP−6095LR」、群栄化学工業社製)50部、及び、無機充填材としてのシランカップリング剤処理シリカ(商品名「アドマファインシリカSC2500−SXJ」、アドマテックス社製)450部を、アニソールに混合して、配合剤濃度が65%になるように混合することで、硬化性樹脂組成物を得た。
【0120】
(フィルム成形体)
次いで、上記にて得られた硬化性樹脂組成物を、ダイコーターを用いて、厚さが38μm、表面平均粗さRaが0.08μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体:ルミラー(登録商標)T60 東レ社製)上に塗工し、次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥し、支持体上に厚さ25μmの硬化性樹脂組成物のフィルム成形体を得た。
【0121】
(積層基板)
次いで、ガラスフィラー及びハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材の表面に、厚みが18μmの銅が貼られた、厚み0.8mm、150mm角(縦150mm、横150mm)の両面銅張り基板表面に、表面が有機酸との接触によってマイクロエッチング処理された導体層を形成して内層基板を得た。
【0122】
この内層基板の両面に、上記にて得られたフィルム成形体を150mm角に切断したものを、硬化性樹脂組成物面が内層基板側となるようにして貼り合わせた後、一次プレスを行った。一次プレスは、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、200Paの減圧下で、温度110℃、圧力0.1MPaで90秒間の条件で、加熱圧着することにより行なった。さらに、金属製プレス板を上下に備えた油圧プレス装置を用いて、圧着温度110℃、1MPaの条件で90秒間、加熱圧着した。次いで支持体を剥がすことにより、硬化性樹脂組成物層と内層基板との積層体を得た。さらに積層体を空気雰囲気下、180℃で60分間放置し、硬化性樹脂組成物層を硬化させて内層基板上に電気絶縁層を形成した。
【0123】
次いで、得られた積層体を無電解銅めっき処理して積層体表面に金属薄膜層を形成し、空気雰囲気下において150℃で30分間アニール処理を行った。
【0124】
そして、アニール処理が施された積層体に、市販の感光性レジストを用いてレジストパターンを得た。そして、レジスト非形成部分に電解銅めっきを施し、厚さ18μmの電解銅めっき膜を形成させた。その後、積層体上のレジストパターンを、剥離液を用いて除去し、塩化第二銅と塩酸混合溶液によりレジスト除去した部分の銅エッチング処理を行った。次いで、エッチング処理を行った積層体を180℃で60分間加熱処理することにより、積層体上に金属薄膜層及び電解銅めっき膜からなる導体層で回路を形成した両面2層の配線パターン付き多層積層基板を得た。
【0125】
そして、上記のようにして得られた硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を用いて、上記方法に従い、フィルム状態、配線埋め込み平坦性、保存安定性、及び絶縁信頼性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
実施例2
イミダゾール(C)として、2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)の代わりに、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)を使用した以外は、実施例1と同様にして、透明な1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液(C2:D1=4:1モル比)を得た。
そして、2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液の代わりに、上記にて得られた1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液0.76部を使用した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
実施例3
1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液の代わりに、イミダゾール(C)として、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)の70%アニソール溶液0.57部を用い、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)として、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(D2)0.1部を使用した以外は、実施例2と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
実施例4
イミダゾールのトリメリット酸塩(D)として、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D2)を使用した以外は、実施例2と同様にして、透明な1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)と1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D2)とのアニソール溶液(C2:D2=4:1モル比)を得た。
そして、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)と1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液の代わりに、上記にて得られた1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(C2)と1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D2)とのアニソール溶液0.86部を使用した以外は、実施例2と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
比較例1
2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)と1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液の代わりに、2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)の70%アニソール溶液0.71部を使用した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を得て、同様に評価を行った。すなわち、比較例1では、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を使用しなかった。結果を表1に示す。
【0130】
比較例2
2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)と1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液の代わりに、粉末状の1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)1部を使用した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を得て、同様に評価を行った。すなわち、比較例2では、イミダゾール化合物(C)を使用しなかった。また、比較例2では、イミダゾール(C)を使用せず、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)を単独で使用したため、アニソールに溶解させることができず、粉末状態のままで使用した。結果を表1に示す。
【0131】
比較例3
2−フェニル−4−メチルイミダゾール(C1)と1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D1)とのアニソール溶液の代わりに、粉末状の1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D2)1部を使用した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及び多層積層基板を得て、同様に評価を行った。すなわち、比較例2では、イミダゾール化合物(C)を使用しなかった。また、比較例2では、イミダゾール(C)を使用せず、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールのトリメリット酸塩(D2)を単独で使用したため、アニソールに溶解させることができず、粉末状態のままで使用した。結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
表1に示すように、脂環式オレフィン重合体(A)、多価エポキシ化合物(B)、イミダゾール化合物(C)、及びイミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を含有する硬化性樹脂組成物は、保存安定性に優れ、また、良好なフィルム成形体を与えることができ、さらには、配線埋め込み平坦性、並びに、絶縁信頼性に優れた多層積層基板を与えることが可能であることが分かる(実施例1〜4)。
一方、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を配合しない場合には、保存安定性、及び配線埋め込み性に劣る結果であった(比較例1)。
また、イミダゾール化合物(C)を配合しない場合には、得られた多層積層基板の絶縁信頼性に劣る結果となり、さらには、フィルム状態に劣るものでもあった(比較例2,3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、多価エポキシ化合物(B)、イミダゾール化合物(C)、並びに、イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を含有してなる硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記イミダゾール化合物(C)、及び前記イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)の含有割合が、「化合物(C)/化合物(D)」のモル比で、95/5〜10/90である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を10重量%以上溶解しない溶剤(E)をさらに含有する請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記イミダゾール化合物(C)及び前記イミダゾール化合物の有機カルボン酸塩(D)を溶剤(E)に溶解又は分散した溶液と、前記脂環式オレフィン重合体(A)及び前記多価エポキシ化合物(B)とを配合することで製造される請求項3に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物、又は請求項5に記載のフィルムを硬化してなる硬化物。
【請求項7】
請求項5に記載のフィルムを基材に積層してなる積層体。
【請求項8】
表面に導体層を有する基板と、請求項6に記載の硬化物からなる電気絶縁層とを、積層してなる積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の積層体の、電気絶縁層上にさらに導体層を形成してなる多層回路基板。
【請求項10】
請求項9に記載の多層回路基板を備えた電子機器。

【公開番号】特開2012−214606(P2012−214606A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80599(P2011−80599)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】