説明

硬化性樹脂組成物及びその製造方法並びに樹脂硬化物

【課題】異種材料からなり微視的スケールで混合された硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】熱及び/又は光硬化性樹脂からなる液状の硬化性樹脂材料と、その硬化性樹脂材料に対して相溶性が低く且つ表面に極性官能基が導入された体積平均粒径が10μm以下の粒子としてその硬化性樹脂材料中に分散された、液状の又は分散後に固体化した有機成分と、その硬化性樹脂材料及び有機成分の界面に偏析し且つ体積平均粒径が1nm〜100nmであるシリカからなる微粒子材料とを有する。微粒子材料が界面に偏析することで、相溶性が低い異種材料の混合物であってもミクロドメイン構造を安定して形成可能になった。微粒子材料の粒径として1nm〜100nmを採用することで相溶性が低い樹脂材料を混合してミクロドメイン構造を形成することが可能になった。つまり、微粒子材料は界面活性剤に類似する作用によって相溶性の低い材料を混合するものと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ構造に特徴を持つ硬化性樹脂組成物及びその製造方法並びにそのような硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物(応力緩和材料、光散乱材料)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤や半導体素子の封止用途として硬化性樹脂組成物が採用されている。硬化性樹脂組成物は熱又は光硬化性樹脂中に粒子状の無機基材を分散させた組成物である。このような硬化性樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物は、無機基材との界面剥離が生じやすく硬く脆いため、耐熱衝撃性に乏しい場合があった。そこで、樹脂硬化物に柔軟性を付与し、耐熱衝撃性、剥離性を向上させる目的で、柔軟性を有するポリマー成分(ゴム成分など)を微粒子として配合する方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、樹脂組成物中に微粒子状に分散させるためには、始めに非常に細かい微粒子を製造した上で分散させる必要があったが、求められる微粒子としては粒径が小さいものが要求されることも多く、そのような微粒子を製造することが困難な場合もあった。
【0004】
また、重合可能な材料を界面活性剤を添加して分散させた後に重合硬化させる方法もあるが、基本的に界面活性剤は樹脂硬化物中においては物性を低下させる不純物として作用するものであり、可能ならば添加量を低減することが求められていた。
【0005】
ところで、従来より、種々の材料を微視的スケールで混合することで材料特性の改善が行われている。性質の異なる異種材料間を微視的なスケールにて混合することで優れた性能や予期せぬ性質を持った材料を提供することが可能になる。例えば、相溶性の低い複数の有機材料を混合してミクロドメイン構造を形成して新規な複合材料を提供する試みがなされている。
【0006】
ところで、材料の組み合わせとして相溶性が高い材料を採用する場合には容易に混合することが出来るが、相溶性が低い材料の間での混合は非常に困難である。相溶性が低い材料を混合しても、時間が経つにつれて、相溶性が低い材料の分離が進行することになって、混合状態を充分に制御することが困難であった。
【0007】
従来、相溶性が低い異種材料を微視的スケールで混合された材料としては、エポキシ基と反応する官能基を有する架橋ゴム粒子と単官能エポキシ化合物とを有機溶剤中で混合し、反応性官能基を反応させた後、アクリル系ポリマーと混合する架橋ゴム粒子の分散方法、該分散方法により得られた分散物と、多官能エポキシ化合物と光カチオン重合開始剤とを含む硬化型粘接着剤組成物がある(特許文献1)。特許文献1に記載の組成物はエポキシ化合物を架橋ゴム粒子に反応させることでアクリル系ポリマーとの相溶性を向上するものである。
【0008】
また、(A)液状エポキシ樹脂、(B)液状芳香族アミンを含む硬化剤、(C)ゴム粒子及び(D)無機充填剤成分を含有してなる封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。そして、粒子分散体と有機又は無機ポリマーとで構成されている樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。粒子分散体は、機能性粒子と、無機ゾルの溶液とで構成されており、機能性粒子の分散性が改善されている。
【0009】
その他にも、従来、相溶性が低い異種材料を微視的スケールで混合された材料を得る方法としては、それぞれの高分子材料の分子構造をもつブロック共重合体を形成する方法、温度などの混合条件を適正化する方法、適正な添加剤を用いて相溶性を向上する方法などがある。
【特許文献1】特開平11−60818号公報
【特許文献2】特開2001−270976号公報
【特許文献3】特開2001−26416号公報
【特許文献4】特許第3847923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、従来とは異なる手法にて異種材料からなり微視的スケールで混合された材料である樹脂硬化物を得ることが出来る硬化性樹脂組成物及びその製造方法並びにその硬化性樹脂組成物を硬化させることで得られる樹脂硬化物を提供することを解決すべき課題とする。樹脂硬化物を利用する応力緩和材料及び光散乱材料を提供することも解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、互いに相溶性が低い材料である、熱及び/又は光硬化性樹脂からなる硬化性樹脂材料と有機成分との間の相溶性を向上することを目的として鋭意検討を行った結果、有機成分に極性官能基を導入した上でシリカから形成され粒径が小さい微粒子材料を添加することにより、硬化性樹脂材料及び有機成分の間を微視的スケールで混合できることを発見した。特許文献2や特許文献3に開示された樹脂組成物においてもシリカなどの粒子を混合することが開示されているが、特許文献2ではゴム粒子と液状エポキシ樹脂との間、特許文献3では機能性粒子と高分子材料との間の相溶性を向上するものであるなど、固体の粒子と樹脂との間の相溶性を向上する技術であり、本発明のように、双方共、液状の樹脂材料を混合してミクロドメイン構造を形成する技術とは異なるものである。ここで、シリカ微粒子は樹脂材料と比較して熱的性質や熱的・化学的な安定性に優れるなど添加することによる物性への悪影響が少ない材料である上、本来混合しない2種類の材料中に混合して撹拌するだけで高度な分散状態を実現できるといった作用をもつ。
(1)本発明は上記知見に基づき完成したものである。すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物は、熱及び光硬化性樹脂からなる群より選択される1以上の材料であって液状の硬化性樹脂材料と、前記硬化性樹脂材料に対して相溶性が低く且つ表面に極性官能基が導入された体積平均粒径が10μm以下の粒子として前記硬化性樹脂材料中に分散された、液状の又は分散後に固体化した有機成分と、前記硬化性樹脂材料及び前記有機成分の界面に偏析し且つ体積平均粒径が1nm〜100nmであるシリカからなる微粒子材料と、を有することを特徴とする。
微粒子材料が界面に偏析することで、相溶性が低い異種材料の混合物であってもミクロドメイン構造を安定して形成可能になった。微粒子材料の粒径として1nm〜100nmを採用することで相溶性が低い硬化性樹脂材料を混合してミクロドメイン構造を形成することが可能になった。つまり、微粒子材料は界面活性剤に類似する作用によって相溶性の低い材料を混合するものと考えられる。
【0012】
ここで、「ミクロドメイン構造」とは、硬化性樹脂材料と有機成分とが混合して形成する領域が、1nm〜100μm程度の大きさをもつことを意味する。そして、「相溶性が低い」とは2種類又はそれ以上の材料を混合したときに相分離が進行することで、継続してnmオーダー乃至はμmオーダーで混合できないことを示す。具体的には、混合する量の硬化性樹脂材料を混合した後、すぐにそれらの成分の間の分離が進行する場合をいう。つまり、混合する量によって相溶性が低いか否かが変化する場合もある。
【0013】
また、前記極性官能基アミノ基、アミド基、ウレア基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、SiH基及びシラノール基からなる群より選択される1以上の官能基であることが望ましい。これらの官能基を極性官能基としてもつことにより、微粒子材料を構成するシリカとの間の親和性が向上でき、結果として硬化性樹脂材料との間の相溶性も向上できる。
【0014】
そして、前記硬化性樹脂材料はエポキシ樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリオール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂及びシアネート樹脂からなる群から選択されることが望ましい。
【0015】
更に、前記有機成分は分子構造中に架橋構造をもつか、架橋可能な官能基をもつことが望ましい。硬化性樹脂材料中に分散させた有機成分について架橋させることにより、硬度や弾性を制御できるため、望ましい性質の実現が容易になる。
【0016】
そして更に、前記微粒子材料の表面はシランカップリング剤にて処理されていることが望ましい。シランカップリング剤により適正な官能基を微粒子材料の表面に導入することにより、硬化性樹脂材料及び/又は有機成分との間の親和性を制御できる。
(2)そして、上記課題を解決する本発明の樹脂硬化物は、上述した本発明の硬化性樹脂組成物における前記硬化性樹脂材料を硬化させた硬化物であることを特徴とする。
【0017】
また、上記課題を解決する本発明の応力緩和材料はその本発明の樹脂硬化物である。硬化性樹脂材料が硬化したマトリクス中に有機成分が分散された構造を有するため、有機成分に起因する柔軟性が付与され、外部から加えられる応力を緩和することができる上に、有機成分と硬化性樹脂材料との密着性が高いので外部から加えられる応力に対する機械的特性や耐久性に優れた応力緩和材料として好適な材料が提供できる。
【0018】
そして、上記課題を解決する本発明の光散乱材料もその本発明の樹脂硬化物である。硬化性樹脂材料が硬化したマトリクス中に小さな粒径をもつ有機成分が分散された構造を有するため、外部から入射される光を有機成分により散乱させることが可能になる。有機成分の粒径は分散の程度により制御可能にであると共に、有機成分と硬化性樹脂材料との密着性が高く、機械的特性にも優れている。
(3)上記課題を解決する本発明の樹脂硬化物の製造方法は、熱及び光硬化性樹脂からなる群より選択される1以上の材料である液状の硬化性樹脂材料に、体積平均粒径が1nm〜100nmであるシリカからなる微粒子材料を分散させた微粒子分散材料を調製する微粒子材料分散工程と、極性官能基を化学構造中にもち、前記硬化性樹脂材料に対して相溶性が低い液状の有機成分を体積平均粒径が10μm以下で且つ界面に前記微粒子材料が偏析するように前記微粒子分散材料中に分散させる有機成分分散工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
すなわち、微粒子材料を混合することで、相溶性の低い硬化性樹脂材料及び有機成分を高度に分散させた状態にて混合できる。混合した微粒子材料は界面活性剤に類似の作用を発揮して、相溶性の低い2つの材料の間に介在することで、高度に分散させた状態で混合できるものと推測される。
【0020】
また、前記極性官能基アミノ基、アミド基、ウレア基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、SiH基及びシラノール基からなる群より選択される1以上の官能基であることが望ましい。これらの官能基を極性官能基としてもつことにより、微粒子材料を構成するシリカとの間の親和性が向上でき、結果として硬化性樹脂材料との間の相溶性も向上できる。
【0021】
そして、前記有機成分は架橋可能な官能基を化学構造中にもち、前記有機成分分散工程後に架橋反応を進行させる架橋工程をもつことが望ましい。マトリクスとしての硬化性樹脂材料中に分散させた有機成分について架橋させることにより、その硬度や弾性を制御することが可能になって、必要とする性能をもつ樹脂硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物を製造することができる。
【0022】
また、前記微粒子材料の表面はシランカップリング剤にて処理されていることが望ましい。シランカップリング剤により適正な官能基を微粒子材料の表面に導入することにより、硬化性樹脂材料及び/又は有機成分との間の親和性を制御できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の硬化性樹脂組成物及びその製造方法並びに樹脂硬化物は、微粒子材料を添加することにより、相溶性の低い硬化性樹脂材料及び有機成分を混合してミクロドメイン構造をもつ樹脂硬化物、硬化性樹脂組成物などを形成することができる。また、微粒子材料はシリカから形成されるので、高分子材料に混合することで、強度の向上、熱膨張率の低下など機械的特性を向上することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(硬化性樹脂組成物及び樹脂硬化物)
本発明の硬化性樹脂組成物及び樹脂硬化物について以下実施形態に基づいて詳細に説明を行う。本実施形態の硬化性樹脂組成物は微粒子材料と硬化性樹脂材料と有機成分とを有する。本実施形態の樹脂硬化物は、本実施形態の硬化性樹脂組成物を硬化(含有する硬化性樹脂材料を硬化)させたものであり、コーティング剤や塗料、半導体封止材、接着剤などに添加して用いたり、適正な材料と混合した状態で固化・成形して、電子基板に用いられるワニス、プリプレグ、絶縁用のフィルムなどに用いることができる。これらの用途に採用する場合には外部からの応力を弱めることができる応力緩和材料としての作用も期待できる。また、マトリクスを形成する硬化性樹脂材料について透明な材料を採用することにより(有機成分についても透明であることが望ましい)、光散乱材料として利用可能である。光散乱材料は、液晶などのバックライトや、その他照明機器の輝度を均一化するために用いることができる。
【0025】
微粒子材料はシリカからなる。微粒子材料の体積平均粒径は1nm〜100nmである。体積平均粒径の上限としては50nmであることが望ましい。微粒子材料の形態は特に限定しないが、球状、繊維状、板状、不定形などの形態が採用可能である。微粒子材料の添加量としては特に限定されず、混合する1つ以上の硬化性樹脂材料と有機成分とが分散できる量であれば充分であるが、全体の質量を基準として1質量%超、3質量%以上、3質量%超、5質量%以上、10質量%以上などの添加量を選択することができる。添加量の上限としては特に限定しないが、選択した硬化性樹脂材料によっては10%以下、5%以下などの量を選択可能である。
【0026】
微粒子材料はシリカからそのまま形成されたものでも良いし、シランカップリング剤やシリル化剤などの表面改質剤にて処理することで、表面に何らかの官能基を導入したものでも良い。導入する官能基としては、採用した硬化性樹脂材料の種類によって適正なものが異なるが、アルキル基、ビニル基、アミノ基、シアネート基、メルカプト基、エポキシ基などを採用することができる。導入する官能基は、採用した硬化性樹脂材料と反応する官能基を必要に応じて選択する。硬化性樹脂材料と反応する官能基としては、硬化性樹脂材料の硬化に関連する官能基を導入する。このような官能基を導入することで、微粒子材料が採用した硬化性樹脂材料の双方に親和性をもつようにすることができる。微粒子材料表面への官能基の導入方法としては特に限定されないが、一般的なOH基の反応を用いた官能基の導入法方法、例えば、導入したい官能基をもつシランカップリング剤で処理する方法が挙げられる。
【0027】
微粒子材料を製造する方法としては特に限定しないが、シリカから微粒子材料を製造する方法としては四塩化ケイ素を熱分解するエアロジル合成法のような気相合成法や、水ガラスから合成する方法、ケイ素のアルコキシドを分解する方法などの液相合成法を挙げることができる。その他にも、いわゆるVMC法や溶融法を採用することもできる。VMC法は、金属ケイ素からなり、必要に応じてシリカが添加された原料無機物粉体を火炎中にて燃焼させることで、金属と火炎中の雰囲気ガスとを反応させて、球状無機物粉体を製造する方法である。溶融法はシリカからなる粉末を火炎中に投入して加熱溶融させて後に冷却して粉末を得る方法である。
【0028】
硬化性樹脂材料は熱及び光硬化性樹脂からなる群より選択され、硬化前には液状の樹脂材料である。熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂としては熱及び/又は光にて重合反応が進行して硬化することの他は特に限定しないが、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリオール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂が例示できる。特に、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリオール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂及びシアネート樹脂からなる群から選択される樹脂が望ましい。選択される硬化性樹脂材料は適宜、硬化剤(重合開始剤と称されるものを含む)を含む。硬化剤は硬化性樹脂材料とは別に添加されることで硬化性樹脂材料を硬化させたり、硬化性樹脂材料自身の化学構造中に含まれることで自身を硬化させたりする。硬化剤は光(紫外線など)や熱により硬化性樹脂材料を硬化させる。
【0029】
有機成分は採用される硬化性樹脂材料との間で互いに相溶性が低い有機材料である。従って有機成分としては硬化性樹脂材料が決定されるまでは確定しがたいが、樹脂硬化物に柔軟性を付与する目的で添加する有機成分としてはシリコーンが例示できる。
【0030】
有機成分は樹脂材料又は反応により高分子化する材料を採用することが望ましい。更に、有機成分は極性官能基を表面にもつ粒子として硬化性樹脂材料中に分散される。極性官能基としては、アミノ基、アミド基、ウレア基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、SiH基及びシラノール基からなる群より選択される1以上の官能基が例示できる。これらの極性官能基を化学構造中にもつことにより微粒子材料や硬化性樹脂材料との間の親和性を向上することが可能になる。また、有機成分は架橋構造をもつか、架橋可能な官能基をもつことが望ましい。硬化性樹脂材料に液体状態で分散した後に架橋させることにより得られた樹脂硬化物の物性を適正に制御可能である。
【0031】
硬化性樹脂材料と有機成分とは界面近傍に微粒子材料が偏析している状態で分散している。ここで、有機成分は硬化していても良い。有機成分の硬化は有機成分を硬化性樹脂材料中に分散させた後に行う。例えば、有機成分として、硬化(重合)可能な化合物を採用し、硬化性樹脂材料中に分散させた状態にて、硬化性樹脂材料を硬化する前に予め硬化させることもできる。有機成分が液体状であるときには、硬化性樹脂材料が硬化して得られた樹脂硬化物中に液体状の有機成分が分散された状態になる。ここで、界面近傍に微粒子材料が偏析しているとは、微粒子材料のすべてが界面に集まっている場合はもちろん、微粒子材料が界面以外にも存在する場合であっても界面における相対的な濃度が大きい場合も含む概念である。
【0032】
硬化性樹脂材料と有機成分とはミクロドメイン構造を形成している。その中でも島相のドメインサイズが10μm以下である海島構造であることが望ましい。ここで、海島構造は硬化性樹脂材料が連続するマトリクス中に、有機成分が概ね球状に分散した構造である。
【0033】
(硬化性樹脂組成物の製造方法)
本発明の硬化性樹脂組成物の製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明する。本実施形態の硬化性樹脂組成物の製造方法は、微粒子材料分散工程と有機成分分散工程とを有する。硬化性樹脂材料と有機成分とは相溶性が低いのでそのままでは混合しても安定的に分散状態を保つことが出来ないから、相溶性の低い硬化性樹脂材料及び有機成分に微粒子材料を混合することで安定的に分散状態を保つことを可能にした製造方法である。
【0034】
微粒子材料分散工程は液状の硬化性樹脂材料中に微粒子材料を分散して微粒子分散材料を得る工程である。微粒子分散材料は硬化性樹脂材料中に微粒子材料が分散された材料であり、その混合比は最終的な目的物である硬化性樹脂組成物における混合比と同じである。なお、硬化性樹脂材料及び微粒子材料については前述した本実施形態の硬化性樹脂材料の欄で説明したものと同様のものを採用可能であるから重複する説明は省略する。
【0035】
有機成分分散工程は微粒子分散材料中に有機成分を混合・分散させる工程である。分散された有機成分の体積平均粒径は10μm以下とする。なお、有機成分については前述した本実施形態の硬化性樹脂材料の欄での説明を流用可能であるから重複する説明は省略する。
【0036】
有機成分を混合する量としては特に限定しない。有機成分の量を増加することで製造された硬化性樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の物性が有機成分の物性に近づくことが予想される。
【0037】
有機成分としては架橋可能な官能基を化学構造中にもつことができる。架橋可能な官能基としてはアミノ基、アミド基、ウレア基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、SiH基、シラノール基、ビニル基などのうち互いに結合可能な官能基を採用できる。有機成分に架橋可能な官能基が導入されている場合には、有機成分分散工程後に架橋反応を進行させる架橋工程を有することができる。架橋工程は有機成分がもつ架橋可能な官能基を反応させて架橋させる工程である。
【0038】
微粒子材料分散工程において硬化性樹脂材料中に微粒子材料を分散する具体的に方法については限定しない。例えば、硬化性樹脂材料中に微粒子材料をそのまま添加して撹拌や超音波照射などを行うことで微粒子材料を分散する方法や、硬化性樹脂材料及び微粒子材料の双方に混和可能な分散媒を用い、その分散媒中に予め微粒子材料を分散させた後に硬化性樹脂材料中に添加して分散させる方法などが挙げられる。
【0039】
例えば、微粒子材料を水性スラリーとして調製する工程により微粒子材料を製造することができる。例えば、微粒子材料を構成する材料を水系媒質に溶解した溶液を用意し、その材料の溶解性を何らかの方法(イオン交換、化学反応による置換基の導入・脱離、pHや温度などの制御など)にて低下させることで微粒子材料を析出し、微粒子材料を含む水性スラリーを得ることができる。例えば、水ガラス水溶液をイオン交換樹脂でイオン交換することによって、微粒子材料としてのコロイドシリカを含む水性スラリーを調製することができる。
【0040】
この水性スラリーを硬化性樹脂材料に混合した後に有機成分(有機成分分散工程)及び水系有機溶媒を添加することが望ましい。水系有機溶媒は水系媒質よりも沸点が高く、水系媒質と混合できる有機溶媒である。沸点が高いことで、蒸発等により除去する場合に水系媒質から除去が進行し、微粒子材料を分散する媒質を水系媒質から水系有機溶媒に徐々に置換することができる。ここで、沸点がより高いとは水系媒質を除去する場合の雰囲気における沸点が高いことを意味する。例えば、減圧雰囲気下にて水系媒質を除去する場合にはその圧力下における沸点にて比較する。また、他の添加物により沸点が変化するような場合(共沸混合物の形成、沸点上昇など)はその効果も考慮することが望ましい。
【0041】
水系媒質を添加する量としては、水系媒質を蒸発除去した後に、混合する硬化性樹脂材料及び有機成分を溶解可能な量とする。
【0042】
水系媒質として水を採用する場合に、水系有機溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(プロピレングリコール−1−メチルエーテル、沸点119℃程度;プロピレングリコール−2−メチルエーテル、沸点130℃程度)、ブタノール(沸点117.7℃)、N−メチル−2−ピロリドン(沸点204℃程度)、γ−ブチロラクトン(沸点204℃程度)などが例示できる。
【0043】
微粒子材料にシランカップリング剤を反応させる際には微粒子材料分散工程の前後にて行うことができる。シランカップリング剤としては、1官能性の化合物で、微粒子材料間を接続しないものか、2官能性の化合物で2つの微粒子材料間を結合するに留まるものが望ましい。シランカップリング剤の添加量は特に限定しないが、微粒子材料表面の一部乃至全部に付着乃至被覆できる量を添加する。また、シランカップリング剤が微粒子材料の表面に形成する被覆は一層であってもよいことはもちろん、2層以上で微粒子材料を被覆するものであってもよい。2層以上で被覆する場合には複数種類のシランカップリング剤にて各層を形成してもよい。
【0044】
なお、添加した水系媒質や水系有機溶媒を添加する場合には、最終的に蒸発・除去する工程にて除去する。水系媒質や水系有機溶媒は加熱したり、減圧したりすることで蒸発させることができる。
【実施例】
【0045】
・樹脂硬化物の調製
100質量部のコロイドシリカOS(水系媒質としての水にコロイドシリカが分散されている:シリカ含有量20質量%:日産化学製:微粒子材料に相当)と、200質量部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM:水系有機溶媒に相当)と、コロイドシリカの表面積に応じた量の非反応性シランカップリング剤(KBM−1003:(CH33SiCH=CH2:信越化学製)とを混合し40℃で72時間保持することでコロイドシリカの表面を改質した。
【0046】
その後、80質量部のエポキシ樹脂(東都化成製:硬化性樹脂材料に相当)を混合し、水とPGMとを蒸発除去させた。
【0047】
質量基準でコロイドシリカの含有量が、1%、5%、10%になるようにエポキシ樹脂に添加して試験用樹脂組成物を調製した。それぞれの試験用樹脂組成物に対して、変性シリコーンオイル(KF865:信越化学製:有機成分に相当)を全体の質量を基準にして3%添加して2000rpmで5分間撹拌を行うことで硬化性樹脂組成物を得た。
【0048】
得られた硬化性樹脂組成物に硬化剤(Ethacure100:ジエチルトルエンジアミン:Albemarle製)を添加して170℃で2時間加熱することで硬化させ樹脂硬化物を得た。
【0049】
また、コロイドシリカの添加量が5%である試験用樹脂組成物に対して、変性シリコーンオイル(X−22−161A:両末端に(−C36NH2)が導入されている:信越化学製)を全体の質量を基準として、それぞれ1質量%、3質量%、5質量%、7質量%及び10質量%添加して樹脂硬化物を得た。比較のために、変性シリコーンオイルを添加しない(0質量%)樹脂硬化物も製造した。
【0050】
更に、有機成分として、変性シリコーンオイルであるX−22−161AとKF105(エポキシ変性:信越化学工業製)との混合物を用いたもの、X−22−161AとKE109A/B(2液型RTVゴム(付加型):信越シリコーン製)との混合物を用いたもの、KF16001(カルビノール変性:信越シリコーン製)を用いたものの3つについても樹脂硬化物を製造した。
・調製した樹脂硬化物の観察
得られた各樹脂硬化物についてSEM及びTEMで観察した。結果の一部を図1及び2に示す。図1はコロイドシリカの添加量が5質量%、シリコーンオイル(KF865)の添加量が3質量%であるときのSEM写真であり、図2はコロイドシリカの添加量が5質量%、シリコーンオイル(KF865)の添加量が3質量%であるときのTEM写真である。SEM写真は樹脂硬化物の内部が露出するように切断した後に撮影した。TEM写真は樹脂硬化物の内部組織からテストピースを切り出して作成した。
【0051】
図1より明らかなように、シリコーンオイルから形成されたシリコーンゴムの粒子が抜けた丸い穴が均一に分散されていることが観察され、コロイドシリカを添加した樹脂硬化物の内部にはシリコーンオイルが反応して生成したシリコーンゴムが均一に分散されることが明らかになった。図2からはシリコーンゴムとエポキシ樹脂との界面にコロイドシリカが偏析していることが明らかになった。
【0052】
詳述すると、シリコーンオイル(KF865)を5質量%添加した場合に、コロイドシリカの量が1質量%の場合には分散状態は均一ではなく、分散しているシリコーンオイルの粒径も2〜3μm程度であった。コロイドシリカを3質量%添加した場合には分散状態は均一ではなく、分散しているシリコーンオイルの粒径は1μm程度であった。コロイドシリカを5質量%添加した場合には分散状態は均一であり、分散しているシリコーンオイルの粒径は1μm程度であった。コロイドシリカを10質量%添加した場合には分散状態は均一であり、分散しているシリコーンオイルの粒径は1μm程度であった。
【0053】
つまり、シリコーンオイルの分散状態はコロイドシリカの添加量が多くなるに連れて良好になることが明らかになり、その効果は3質量%を超える程度で飽和することが分かった。
【0054】
次に、コロイドシリカの添加量を5質量%とした状態で、シリコーンオイル(X−22−161A)の添加量を変化させた場合、シリコーンオイルを3質量%及び5質量%添加したときには分散状態は均一であって、分散しているシリコーンオイルの粒径は0.5μm程度であった。シリコーンオイルを7質量%添加したときには分散状態は均一で無くなり20μm前後の凝集体が分散されていた。凝集体内のシリコーンオイルの粒径は0.5μm程度であった。なお、微粒子材料を添加する量を増やすことにより、シリコーンオイルの粒径は小さくできた。
【0055】
つまり、コロイダルシリカが5質量%含まれると、シリコーンオイルを7%未満の範囲において均一に分散させることができることが分かった。
【0056】
シリコーンオイルの添加による樹脂硬化物の物性(ヤング率)を評価した。シリコーンオイルの添加量が0質量%のときには3.5GPa、1質量%のときには3.3GPa、5質量%のときには3.0GPa、10質量%のときには2.5GPaであり、シリコーンオイルの添加量の増加に応じてヤング率が低下しており、容易にヤング率の制御ができることが分かった。
【0057】
また、、有機成分として、変性シリコーンオイルであるX−22−161AとKF105との混合物を用いたもの、X−22−161AとKE109A/Bとの混合物を用いたもの、KF16001(カルビノール変性:信越シリコーン製)を用いたものの3つについても製造した樹脂硬化物を評価した結果、有機成分が安定して分散されていることが分かった。
【比較例】
【0058】
・コロイドシリカを添加しない以外はすべて実施例と同じ操作・同じ試薬を用いて樹脂硬化物を得た。シリコーンオイル(KF865)は3質量%添加した。得られた樹脂硬化物は硬いエポキシ樹脂の部分と柔らかいシリコーンオイルの部分とがmmオーダーで分離して不均一な樹脂硬化物になった。
・極性官能基を有しない有機成分(非変性シリコーンオイル(KF96:信越シリコーン製))を用いた他は実施例と同じ操作・同じ試薬を用いて樹脂硬化物を得た。断面の観察の結果、有機成分は安定的に分散できていなかった。
・微粒子材料に替えて体積平均粒径0.5μmのシリカ粒子(アドマファインSE2050:アドマテックス製)を用いた以外は実施例と同じ操作・同じ試薬を用いて樹脂硬化物を得た。断面の観察の結果、有機成分は安定的に分散できていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例の樹脂硬化物の断面のSEM写真である。
【図2】実施例の樹脂硬化物のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱及び光硬化性樹脂からなる群より選択される1以上の材料であって液状の硬化性樹脂材料と、
前記硬化性樹脂材料に対して相溶性が低く且つ表面に極性官能基が導入された体積平均粒径が10μm以下の粒子として前記硬化性樹脂材料中に分散された、液状の又は分散後に固体化した有機成分と、
前記硬化性樹脂材料及び前記有機成分の界面に偏析し且つ体積平均粒径が1nm〜100nmであるシリカからなる微粒子材料と、
を有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記極性官能基はアミノ基、アミド基、ウレア基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、SiH基及びシラノール基からなる群より選択される1以上の官能基である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化性樹脂材料はエポキシ樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリオール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂及びシアネート樹脂からなる群から選択される請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機成分の分子構造中には、架橋構造をもつか、架橋可能な官能基をもつ請求項1〜3の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記微粒子材料の表面はシランカップリング剤にて処理されている請求項1〜4の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物における前記硬化性樹脂材料を硬化させた硬化物であることを特徴とする樹脂硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂硬化物であることを特徴とする応力緩和材料。
【請求項8】
請求項6に記載の樹脂硬化物であることを特徴とする光散乱材料。
【請求項9】
熱及び光硬化性樹脂からなる群より選択される1以上の材料である液状の硬化性樹脂材料に、体積平均粒径が1nm〜100nmであるシリカからなる微粒子材料を分散させた微粒子分散材料を調製する微粒子材料分散工程と、
極性官能基を化学構造中にもち、前記硬化性樹脂材料に対して相溶性が低い液状の有機成分を体積平均粒径が10μm以下で且つ界面に前記微粒子材料が偏析するように前記微粒子分散材料中に分散させる有機成分分散工程と、
を有することを特徴とする硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記極性官能基はアミノ基、アミド基、ウレア基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、SiH基及びシラノール基からなる群より選択される1以上の官能基である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記有機成分は架橋可能な官能基を化学構造中にもち、前記有機成分分散工程後に架橋反応を進行させる架橋工程をもつ請求項9又は10に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記微粒子材料の表面はシランカップリング剤にて処理されている請求項9〜11の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155390(P2009−155390A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332667(P2007−332667)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】