説明

磁性体検出装置および磁性体検出方法

【課題】常磁性体を高感度に、かつ環境変化に対し安定して検出できる磁性体検出装置を提供する。
【解決手段】コイル11およびコイル12に電流源14から電流を与えることで、磁性体20に磁場を印加する。第1のコイル2は、磁場を印加された磁性体20を検出する。第2のコイル3は、第1のコイル2と差動接続され、磁場の影響を打ち消す。第3のコイル4は、第1のコイル2および第2のコイル3と直列に接続される。第4のコイル6は、磁性材料により構成されたコア5によって、第3のコイル4と磁気結合される。電流源7は、第4のコイルに駆動電流を与えることでコア5を磁化する。検出器9は駆動電流の変化に基づいて、磁性体20を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスゲート法を用いて磁性体を検出する磁性体検出装置および磁性体検出方法に関し、とくに高感度での検出を可能とする磁性体検出装置および磁性体検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ビーズを用いたDNAの検出方法が提案されている。この方法では、磁気ビーズをマーカーとして用い、磁気ビーズを検出することでターゲットDNAの存在を検知している。磁気ビーズの検出器としては、ホール素子やGMR(磁気抵抗効果素子)を用いた例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ホール素子を検出器として用いる例としては、ホール素子の上に予め抗体を配置する方法が知られている。この方法では、磁気ビーズを付加した被検出タンパク質を抗原−抗体反応によりホール素子上の抗体に結合させた後、外部から磁場を加え、磁気ビーズに発生した磁化をホール素子で検出している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−184312号公報
【特許文献2】特開2004−037338号公報
【特許文献3】特開2004−309325号公報
【非特許文献1】Comparison of a prototype magnetoresistive biosensor to standard fluorescent DNA detection /J.Schotter 他 /Biosensor and Bioelectronics 19(2004) 1149-1156頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、DNA検出に用いられる磁気ビーズは常磁性体であり、外部の磁場を磁気ビーズに印加したときのみ磁化が発生する。外部磁場をゼロにすると瞬時にその磁化はゼロとなるため、強い外部磁場を印加した状態で磁気ビーズの微小な磁化を検出する必要がある。したがって、外部磁場により検出時のS/N比が低下し、高感度で磁気ビーズを検出できないという問題がある。また一般に、ホール素子を用いて、微小な磁気ビーズの磁化を検出するのに充分な検出感度を獲得することは困難である。ホール素子の感度を上げるためには、ホール係数の大きな化合物半導体を使用する必要があるが、ホール係数が大きいと素子の温度依存性が強くなるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、常磁性体を高感度に、かつ環境変化に対し安定して検出できる磁性体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁性体検出装置は、磁性体を検出する磁性体検出装置において、磁性体に磁場を印加する磁場印加手段と、磁場を印加された前記磁性体を検出するための第1のコイルと、前記第1のコイルと差動接続され、前記磁場の影響を打ち消す第2のコイルと、前記第1のコイルおよび前記第2のコイルと直列に接続された第3のコイルと、磁性材料により構成されたコアによって、前記第3のコイルと磁気結合された第4のコイルと、前記第4のコイルに駆動電流を与えることで前記コアを磁化する電流供給手段と、前記駆動電流を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。
この磁性体検出装置によれば、第1のコイルと差動接続された第2のコイルが磁場の影響を打ち消すので、検出のS/N比が向上し検出感度を大幅に高めることができる。また、ホール素子が不要であるため、環境変化に対し安定した検出が可能となる。
【0008】
前記磁場印加手段は、磁場を発生させるコイルと、そのコイルに交流電流を供給する電源とからなってもよい。
【0009】
前記電流供給手段は、前記第4のコイルに前記駆動電流として交流電流を与えてもよい。
【0010】
前記検出手段は前記交流電流に同期した同期検波による検出を行ってもよい。
【0011】
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルが形成された基板を備えてもよい。
【0012】
前記基板には、前記第3のコイル、前記コアおよび前記第4のコイルが形成されていてもよい。
【0013】
前記磁性体は磁気ビーズであってもよい。
【0014】
本発明の磁性体検出方法は、磁性体を検出する磁性体検出方法において、磁性体に磁場を印加するステップと、磁場を印加された前記磁性体を検出するための第1のコイルと、前記第1のコイルと差動接続され、前記磁場の影響を打ち消す第2のコイルと、前記第1のコイルおよび前記第2のコイルと直列に接続された第3のコイルと、磁性材料により構成されたコアによって、前記第3のコイルと磁気結合された第4のコイルと、を用い、前記第4のコイルに駆動電流を与えることで前記コアを磁化するステップと、前記駆動電流を検出するステップと、を備えることを特徴とする。
この磁性体検出方法によれば、第1のコイルと差動接続された第2のコイルが磁場の影響を打ち消すので、検出のS/N比が向上し検出感度を大幅に高めることができる。また、ホール素子が不要であるため、環境変化に対し安定した検出が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁性体検出装置によれば、第1のコイルと差動接続された第2のコイルが磁場の影響を打ち消すので、検出のS/N比が向上し検出感度を大幅に高めることができる。また、ホール素子が不要であるため、環境変化に対し安定した検出が可能となる。
【0016】
本発明の磁性体検出方法によれば、第1のコイルと差動接続された第2のコイルが磁場の影響を打ち消すので、検出のS/N比が向上し検出感度を大幅に高めることができる。また、ホール素子が不要であるため、環境変化に対し安定した検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1〜図3を参照して、本発明による磁性体検出装置の一実施形態について説明する。
【0018】
図1および図2は本実施形態の磁性体検出装置の構成を示す図であり、図1(a)は磁性体検出装置の平面図、図1(b)は図1(a)のB−B線断面図、図2は磁性体検出装置の斜視図である。
【0019】
図1および図2に示すように、本実施形態の磁性体検出装置は、基板1の表面に形成された磁性体検出用の第1のコイル2と、第1のコイル2と逆向きに形成された第2のコイル3と、第1のコイル2および第2のコイル3と直列に接続された第3のコイル3(信号コイル)と、を備える。第1のコイル2と、第2のコイル3の中間点で交差する配線間は非接触とされている。第1のコイル2、第2のコイル3および第3のコイル3は、全体として基板1上で閉じる独立したループを構成する。
【0020】
なお、基板1を生体高分子の検出基板として用いる場合には、第1のコイル2が形成された領域に、抗体やDNAプローブを配置すればよい。
【0021】
また、図1(a)および図1(b)に示すように、基板1の内部には、特定の磁性材料からなる直方体状のコア5が埋め込まれている。上記第3のコイル4はコア5の位置に対応して設けられている。
【0022】
さらに、図1および図2に示すように、基板1の表面にはコイル6aが、基板1の裏面にはコイル6bが形成されており、基板1の側面を介してコイル6aおよびコイル6bは直列に接続され(図2)、全体として第4のコイル6を構成する。第4のコイル6はコア5の位置に対応して設けられ、第4のコイル6に電流を与えた際の磁界により、コア5を磁化することができる。
【0023】
図2に示すように、第4のコイル6には、電流源7および抵抗Rが直列に接続され、抵抗Rの両端に発生する波形は波形計測器8で計測される。
【0024】
図2に示すように、基板1の外側には、第1のコイル2および第2のコイル3の領域を挟みこむ一対のコイル11およびコイル12が設けられている。コイル11およびコイル12は直列接続され、電流源14から電流が与えられる。電流源14からの電流により、第1のコイル2および第2のコイル3の領域には実質的に均一な磁場が形成される。
【0025】
第1のコイル2および第2のコイル3は差動接続され、第1のコイル2および第2のコイル3の実質的なコイル面積は等しくされている。このため、第1のコイル2および第2のコイル3に等しく与えられる磁場の影響が打ち消される。
【0026】
次に、本実施形態の磁性体検出装置を用いた磁性体検出の方法について説明する。
【0027】
電流源14は、周波数f1の電流を一対のコイル11およびコイル12に供給する。周波数f1の電流は矩形波でもよいし、正弦波でもよい。一方、電流源7は、周波数f0(>周波数f1)の電流(例えば、正弦波の電流)を第4のコイル6に供給する。電流は抵抗Rで電圧に変換され、その電流波形は波形計測器8で計測される。
【0028】
磁性体が存在しない場合、上記のように第1のコイル2および第2のコイル3で発生する電圧は互いに打ち消され、磁場の影響は排除される。この場合、波形計測器8では一定の電流波形が計測される。この電流波形は、コア5を構成する磁性材料の磁化曲線に依存している。
【0029】
図2に示すように、磁性体20が第1のコイル2に接近すると、コイル11およびコイル12に基づく磁場によって磁化された磁性体20により、第1のコイル2に発生する電圧波形が変化し、第1のコイル2および第2のコイル3の均衡状態が崩れる。このため、第1のコイル2、第2のコイル3および第3のコイル4が形成するループに電流が発生し、第3のコイル4に流れる電流によりコア5に磁場が加えられる。
【0030】
このとき、コア5に加えられた磁場によりコア5を構成する磁性材料の磁化曲線がシフトするため、波形計測器8で計測される電流波形が変化する(歪む)。したがって電流変化を図2に示す検出器9で捉えることにより、磁性体20が検出できる。検出器9において、電流源7の電流の周波数f0に同期した同期検波を行うことも可能であり、この場合には電源ノイズが効率的に除去され、よりS/N比の高い検出ができる。
【0031】
なお、磁化曲線の変化を介して磁場の変化を検出する手法は、フラックスゲート法として知られている技術であるため、その詳細については説明を省略する。
【0032】
上記実施形態では、差動接続された第1のコイル2および第2のコイル3により、コイル11およびコイル12による磁場の影響が打ち消され、磁性体20の磁化に基づく磁場の変化のみが抽出される。また、第1のコイル2および第2のコイル3が受信する同一成分の磁気ノイズが打ち消される。このため、高いS/N比で磁性体20を検出でき、検出感度を高めることができる。例えば、磁性ビーズを検出するために必要な検出感度を確保することができる。
【0033】
図3に検出コイルの変形例を示す。図3(a)は、磁場の影響を打ち消すコイル対のそれぞれを、磁性体に与える磁場の磁力線方向にシフトさせて設けた例を示す図である。
【0034】
図3(a)の例では、磁性体20を検出するための第1のコイル21と、第1のコイル21とは逆向きでコイル面積が実質的に同一の第2のコイル22とが、磁力線に沿った方向に離れて配置されている。両者を貫く磁力線が同一であれば、上記実施形態と同様、磁場の影響が打ち消されるため、高いS/N比で磁性体20を検出できる。なお、第1のコイル21および第2のコイル22をそれぞれ基板の表面および裏面に配置することで、上記実施形態と同様、基板を用いて検出装置を構成することもできる。
【0035】
図3(b)は、磁場の影響の打ち消し精度をより高めることができるコイルの配置を示す図である。
【0036】
図3(b)の例では、検出コイル31とコイル32とがコイル対を形成し、コイル33とコイル34とが別のコイル対を形成する。さらに、コイル対同士が差動の関係になるよう接続されている。このため、x軸方向についての磁力の1次微分の項を打ち消すことができる。したがって、磁場が与えられる領域35において、x軸方向の磁場の傾きが存在していても、その傾きが一定であれば磁場の影響が完全に打ち消される。
【0037】
以上説明したように、本発明の磁性体検出装置および磁性体検出方法によれば、第1のコイルと差動接続された第2のコイルが磁場の影響を打ち消すので、検出のS/N比が向上し検出感度を大幅に高めることができる。また、ホール素子が不要であるため、環境変化に対し安定した検出が可能となる。
【0038】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、磁性体を検出する磁性体検出装置および磁性体検出方法に対し、広く適用することができ、磁性体の種類は限定されない。検出信号電流が流れるループ全体を超電導物質で構成し、臨界温度以下に冷却することで、検出感度の向上を図ることもできる。
【0039】
また、超伝導のジョセフソン効果を利用したSQUID磁束計を磁気検出器として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態の磁性体検出装置の構成を示す図であり、(a)は磁性体検出装置の平面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図2】磁性体検出装置の構成を示す斜視図。
【図3】変形例を示す図であり、(a)は、磁場の影響を打ち消すコイル対のそれぞれを磁力線方向にシフトさせて設けた例を示す図、(b)は、磁場の1次微分成分の打ち消しを行うためのコイルの配置を示す図。
【符号の説明】
【0041】
1 基板
2 第1のコイル
3 第2のコイル
4 第3のコイル
5 コア
6 第4のコイル
7 電流源(電流供給手段)
9 検出器(検出手段)
11 コイル(磁場印加手段)
12 コイル(磁場印加手段)
14 電流源(電源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を検出する磁性体検出装置において、
磁性体に磁場を印加する磁場印加手段と、
磁場を印加された前記磁性体を検出するための第1のコイルと、
前記第1のコイルと差動接続され、前記磁場の影響を打ち消す第2のコイルと、
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルと直列に接続された第3のコイルと、
磁性材料により構成されたコアによって、前記第3のコイルと磁気結合された第4のコイルと、
前記第4のコイルに駆動電流を与えることで前記コアを磁化する電流供給手段と、
前記駆動電流を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする磁性体検出装置。
【請求項2】
前記磁場印加手段は、磁場を発生させるコイルと、そのコイルに交流電流を供給する電源とからなることを特徴とする請求項1に記載の磁性体検出装置。
【請求項3】
前記電流供給手段は、前記第4のコイルに前記駆動電流として交流電流を与えることを特徴とする請求項1または2に記載の磁性体検出装置。
【請求項4】
前記検出手段は前記交流電流に同期した同期検波による検出を行うことを特徴とする請求項3に記載の磁性体検出装置。
【請求項5】
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルが形成された基板を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性体検出装置。
【請求項6】
前記基板には、前記第3のコイル、前記コアおよび前記第4のコイルが形成されていることを特徴とする請求項5に記載の磁性体検出装置。
【請求項7】
前記磁性体は磁気ビーズであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁性体検出装置。
【請求項8】
磁性体を検出する磁性体検出方法において、
磁性体に磁場を印加するステップと、
磁場を印加された前記磁性体を検出するための第1のコイルと、前記第1のコイルと差動接続され、前記磁場の影響を打ち消す第2のコイルと、前記第1のコイルおよび前記第2のコイルと直列に接続された第3のコイルと、磁性材料により構成されたコアによって、前記第3のコイルと磁気結合された第4のコイルと、を用い、前記第4のコイルに駆動電流を与えることで前記コアを磁化するステップと、
前記駆動電流を検出するステップと、
を備えることを特徴とする磁性体検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−183217(P2007−183217A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2755(P2006−2755)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】