説明

磁性多層膜及びこれを用いた光磁気記録媒体

【課題】 磁気光学効果が大きく、安定性に優れた磁性多層膜及びこれを用いた光磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 強磁性材料の薄膜11と、絶縁材料の薄膜12とを、交互に積層した構造を有する磁性多層膜10を構成する。また、この磁性多層膜10により、情報を記録する記録膜(光磁気膜)が構成されている光磁気記録媒体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カー回転角の大きい磁性多層膜に関わり、例えば光を利用した磁気情報の記録・検出用材料として好適なものである。また、本発明は、この磁性多層膜を記録膜として用いた光磁気記録媒体に関わる。
【背景技術】
【0002】
磁気情報を高い記録密度で記録したり、高感度で検出したりするために、光磁気記録媒体としては、記録感度が高いことや、磁気光学効果が大きいこと、大面積のものが均質且つ安価に製作できること、安定性に優れていること等が要請される。
特に、多層構造における磁気光学効果は、高記録密度の記録媒体を実現するために有用である可能性から、注目されてきた(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照)。
【0003】
このような要請を満たすものとして、従来から、MnBi,MnCuBi,MnCo等の多結晶、希土類ガーネット等の単結晶、或いはGdCo,GdFe,TbFeCo等のアモルファス合金等が用いられている。
【0004】
そして、現在では、希土類と遷移金属とのアモルファス合金が光磁気記録材料の主流になっている。
これらの材料は、簡単な方法で作製できること、記録感度が高いこと、高密度記録ができること、粒界が存在しないので媒体ノイズが低いこと等の長所を有している。
【0005】
光磁気ディスク等の光磁気記録媒体では、レーザー光を用いて、強磁性体の薄膜から成る記録膜の磁性変化により、記録すべき情報の書き込み(記録)を行い、記録膜の磁性変化をレーザー光のカー回転角の変化から読み取ることにより、記録された情報の再生を行う手法が、有力な磁気光学記録方式として採用されている。
【0006】
【非特許文献1】Y.Ochiai,S.hashimoto and K.Aso,IEEETrans.Magn.25,1989,p.3755
【非特許文献2】S.hashimoto,Y.Ochiai and K.Aso,J.Appl.Phys.67,1990,p.4429
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した希土類と遷移金属とのアモルファス合金材料は、カー回転角が小さい、アモルファスであるために結晶化するおそれがある、酸化してしまい安定性に不安がある、等の問題点を有している。
【0008】
そして、より高密度で磁気情報を記録することや、より高感度で記録した情報を検出することを可能にするために、従来の材料の欠点を克服する磁性材料が望まれている。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、磁気光学効果が大きく、安定性に優れた磁性多層膜及びこれを用いた光磁気記録媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁性多層膜は、強磁性材料の薄膜と、絶縁材料の薄膜とを、交互に積層した構造を有するものである。
即ち、この磁性多層膜は、厚さxの強磁性材料Tの薄膜と厚さyの絶縁材料Iの薄膜とを繰り返し数nで交互に積層させたものである。
【0011】
本発明の光磁気記録媒体は、上記本発明の磁性多層膜により、情報を記録する記録膜即ち光磁気膜が構成されているものである。
【0012】
本発明の発明者は、強磁性材料の薄膜と絶縁材料の薄膜とを交互に積層して、人工格子構造を有する磁性多層膜を形成することにより、磁性材料膜単体で構成された磁性膜と比較して、波長400〜900nmの全領域において、1.5倍〜2倍に及ぶカー効果増大現象を示すことを見い出した。
例えば、強磁性材料をFeとした場合に、Fe膜の膜厚が1〜2nmであり、かつ絶縁材料の膜厚が1〜2nmのとき、このカー効果増大現象が発現する。
このカー効果増大現象は、交互に積層した強磁性体及び絶縁体の人工格子の堆積状態に起因していると考えられる。
【0013】
強磁性材料は、金属や合金、フェライト等であり、光に対して比較的高い反射率を有する。一方、絶縁材料は、光に対して比較的高い透過率を有する。
従って、強磁性材料の薄膜と絶縁材料の薄膜とを交互に積層した磁性多層膜に光を入射させると、それぞれの強磁性材料膜で光が反射する。これらの各強磁性材料膜による反射光(多重反射光)が互いに強め合うことにより、磁気光学効果を大きくしてカー回転角を増大させるように作用する。
また、強磁性材料の薄膜及び絶縁材料の薄膜により人工周期が形成されるため、この人工周期により多重反射光が干渉する作用を生じ、また絶縁材料が強磁性材料間に挿入されることにより強磁性材料間の磁気相互作用を生じる。
これらの作用が総合的に作用することにより、磁気光学効果が増大する。
【発明の効果】
【0014】
上述の本発明の磁性多層膜によれば、磁気光学効果を増大させて、カー回転角を大きくすることができる。
また、本発明の磁性多層膜は、強磁性材料の薄膜と絶縁材料の薄膜とを交互に積層したものであり、これら強磁性材料の薄膜及び絶縁材料の薄膜が、蒸着法やスパッタ法等により容易に成膜することができることから、容易にかつ安価に製造することができる。これにより、大面積で均質かつ安価に磁性膜を作製することができ、かつ安定性に優れた磁性膜を実現することができる。
【0015】
そして、磁性多層膜を記録膜に用いて光磁気記録媒体を構成することにより、記録膜におけるカー回転角が大きいことから、記録感度が高く、記録した情報を高い感度で検出することができる。これにより、光磁気記録媒体の記録容量を増やすことや、ディスクの直径等のサイズを縮小し、光磁気記録装置を小型化することも可能になる。
また、磁性多層膜が安定性に優れているため、磁性多層膜を用いた光磁気記録媒体や光アイソレーター等の光通信機器、光磁気ホログラフィー、磁気検出器の信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の磁性多層膜の一実施の形態として、磁性多層膜の概略構成図を図1に示す。
この磁性多層膜は、基板1上に、Feから成る強磁性材料膜11と、SiOから成る絶縁材料膜12とが、交互に多層積層されて、磁性多層膜(積層膜)10が構成されている。
【0017】
磁性多層膜10を構成する各層11,12内においては、原子や分子による層状の格子が間隔dで形成されている。
そして、強磁性材料膜11の膜厚x及び絶縁材料膜12の膜厚yの合計が、人工格子の周期Dとなり、この周期Dで強磁性材料膜11及び絶縁材料膜12が交互に積層されている。
【0018】
この磁性多層膜10は、強磁性材料T(例えばFe)から成る強磁性材料膜11の膜厚をx[nm]とし、絶縁材料I(例えばSiO)から成る絶縁材料膜12の膜厚をy[nm]として、繰り返し数nとから、[T(x)/I(y)]と表すことができる。
【0019】
強磁性材料膜11のFe膜と、絶縁材料膜12のSiO膜との成膜は、それぞれFe及びSiOをターゲットとして、蒸着法又はスパッタリング法によって行うことができる。
そして、それぞれの膜厚x,yは、投入電力と堆積時間の調整により、容易に制御することができる。
【0020】
また、図1の磁性多層膜10では、強磁性材料膜11としてFe膜を用い、絶縁材料膜12としてSiO膜を用いているが、強磁性材料膜及び絶縁材料膜にはその他の強磁性材料及び絶縁材料を使用することも可能である。
本発明の磁性多層膜による、カー回転角の増大効果は、nm程度の比較的薄い強磁性材料膜と絶縁材料膜との組み合わせによる人工格子に起因するものであり、強磁性材料や絶縁材料の種類によらず得られるものである。
強磁性材料膜に用いられる強磁性材料としては、Fe,Co,Ni,Fe、遷移金属を含む強磁性合金、並びに強磁性化合物から選ばれる1種以上を使用することができ、例えば、従来から用いられているMnBi,MnCuBi,MnCo,GdCo,GdFe,TbFeCo,Fe等が挙げられる。
絶縁材料膜に用いられる絶縁材料としては、例えば、SiO,Al,MgFから選ばれる1種以上を使用することができる。
【0021】
強磁性材料膜は、金属や合金、フェライト等により形成されるため、光に対して比較的高い反射率を有する。
一方、絶縁材料膜は、光に対して比較的高い透過率を有する。特に、SiO2等、ガラス質で光の透過率の高い絶縁材料を用いるとよい。
従って、図1に示す磁性多層膜10に光を入射させると、図2に模式的断面図で示すように、それぞれの強磁性材料膜11で光が反射する。
そして、図2に矢印で示すように、1層目の強磁性材料膜11で反射した反射光L1と、2層目の強磁性材料膜11で反射した反射光L2と、3層目の強磁性材料膜11で反射した反射光L3とが、互いに強め合うことになる。
【0022】
このように、それぞれの強磁性材料膜11で多重反射した光が強め合うことにより、磁気光学効果を大きくして、カー回転角を増大させるように作用する。
【0023】
また、強磁性材料膜11及び絶縁材料膜12により人工周期Dが形成されるため、この人工周期Dにより多重反射光が干渉する作用を生じ、また絶縁材料膜12が強磁性材料膜11の間に挿入されることにより強磁性材料膜12間で磁気相互作用を生じる。
これらの作用が総合的に作用することによっても、磁気光学効果が増大する。
【0024】
なお、強磁性材料膜11は、あまり膜厚xが薄くなり過ぎないようにする。強磁性材料のバルクの性質(磁気特性等)を失わない程度の膜厚がよい。
【0025】
上述の本実施の形態の磁性多層膜10によれば、強磁性材料膜11と絶縁材料膜12とを交互に多層積層して構成していることにより、強磁性材料膜11が光に対して比較的高い反射率を有し、絶縁材料膜12が光に対して比較的高い透過率を有することから、磁性多層膜10に光を入射させると、それぞれの強磁性材料膜11で光が反射する。これらの各強磁性材料膜11による反射光(多重反射光)が互いに強め合うことにより、磁気光学効果を大きくしてカー回転角を増大させるように作用する。
また、強磁性材料膜11及び絶縁材料膜12により形成される人工周期Dにより多重反射光が干渉する作用を生じ、また強磁性材料膜11間に磁気相互作用を生じる。
これらの作用が総合的に作用することにより、磁気光学効果が増大する。
従って、磁気光学効果を増大させて、カー回転角が大きい磁性膜を構成することができる。
【0026】
また、本実施の形態の磁性多層膜10は、強磁性材料膜11及び絶縁材料膜12が、蒸着法やスパッタ法等により容易に成膜することができることから、容易にかつ安価に製造することができる。これにより、大面積で均質かつ安価に磁性膜を作製することができ、かつ安定性に優れた磁性膜を実現することができる。
【0027】
そして、本実施の形態の磁性多層膜10を記録膜に用いることにより、光磁気記録媒体を構成することができる。
例えば、図1の磁性多層膜10を光磁気膜(記録膜)23として用いて、図3に示すような構造を有するディスク状の光磁気記録媒体20を構成することができる。
【0028】
図3に示す形態の光磁気記録媒体20は、円周方向に沿った溝部即ちグルーブ28が形成された、ポリカーボネート樹脂から成る基板21に、誘電体膜22、光磁気膜(記録膜)23、誘電体膜24、反射膜25が積層され、下側及び上側の表面にそれぞれ紫外線硬化性樹脂から成る保護膜26,27が形成されて成る。
光磁気膜(記録膜)23は、光の照射と磁場の印加により情報の記録が行われるものであり、ここでは図1に示した強磁性材料膜11及び絶縁材料膜12が交互に積層された磁性多層膜(積層膜)10から構成される。
この光磁気記録媒体20では、基板21のグルーブ28の間にある部分、即ちランド29が記録部として用いられる構成となっている。そして、ランド29の部分の光磁気膜(記録膜)23に、磁性体の磁化状態が情報として記録される。
情報の記録や記録された情報の読み出し(再生)用の光は、光磁気記録媒体20の基板21側、即ち図中上側から照射され、光磁気膜(記録膜)23に入射する。
【0029】
そして、光磁気膜(記録膜)23が図1に示した磁性多層膜10により構成されているため、光磁気膜(記録膜)23におけるカー回転角が大きいことから、記録感度が高く、記録した情報を高い感度で検出することができる。これにより、光磁気記録媒体20の記録容量を増やすことや、ディスクの直径等のサイズを縮小し、光磁気記録装置を小型化することも可能になる。
【0030】
なお、本発明の光磁気記録媒体は、図3に示した光磁気記録媒体20の形態の層構成に限定されるものではなく、磁性多層膜を用いて記録膜(光磁気膜)を形成した構成であれば、特に層構成が限定されるものではない。
そして、光磁気記録媒体としては、通常は図3に示したようなディスク状の媒体が使用されているが、本発明では、光磁気記録媒体の形状を特にディスク状に限定するものではなく、カード状やその他の形状とすることも可能である。
【0031】
また、本発明の磁性多層膜は、光磁気記録媒体に限らず、その他磁気光学効果や磁気特性等を利用するものに適用することが可能である。例えば、光アイソレーター等の光通信機器、光磁気ホログラフィー、磁気検出器一般等に適用することが可能である。
そして、磁性多層膜が安定性に優れているため、磁性多層膜を用いた光磁気記録媒体や光アイソレーター等の光通信機器、光磁気ホログラフィー、磁気検出器の信頼性を向上することができる。
【実施例】
【0032】
次に、実際に本発明に係る磁性多層膜を作製して、その特性を調べた。
【0033】
基板1上に、膜厚2nmのFe膜から成る強磁性材料膜11と、SiO膜から成る絶縁材料膜12とを、交互に繰り返して積層して、図1に示したような多層膜構造10を形成し、磁性多層膜の試料とした。
そして、投入電力と堆積時間を調整することにより、SiO膜の膜厚y(nm)を変更して、それぞれ磁性多層膜の試料を作製した。なお、各試料は、繰り返し数nを、多層膜構造10の総厚さが約1μmとなるように調整して作製した。
この多層膜構造を前述した記号で表すと、[Fe(2)/SiO(y)]となる。
【0034】
(1)X線回折パターンの測定
まず、磁性多層膜の各試料に対して、それぞれ、X線回折パターンの測定を行った。
このうち、絶縁材料膜12の膜厚yを0.4nm,2.5nm,4.0nmとした各試料の測定結果を図4に示す。
【0035】
図4中、7度以下の小角領域に観察されるピークは、人工格子の周期を示すもので、これから人工格子の周期Dと化学構造式が確認される。
また、2θ=44度近傍のやや広い回折線は、Fe(110)の回折線であり、Fe膜は、やや乱れているものの、バルク状態におけるFeの基本構造(体心立方格子構造;bcc structure)を保持することを示している。
また、図4では縦軸の強度が小さいために現れていないが、縦軸を拡大すると2θ=20度近傍の中角領域に幅広い回折線が観察される。この中角領域の幅広い回折線は、SiO層が非晶質状態になっていることを示している。これらの回折線は、これらの試料がFe層とSiO層が周期Dで交互に堆積した人工格子を形成していることを示している。
なお、絶縁材料膜12の膜厚を他の膜厚とした試料も、ほぼ同様の結果が得られた。
【0036】
(2)磁化測定
絶縁材料膜12のSiO膜の膜厚y(nm)を、0.2nm,0.4nm,1.0nm,1.5nm,2.0nm,2.5nmと変更して、それぞれ磁性多層膜の試料を作製した。
なお、各試料は、繰り返し数nを、多層膜構造10の総厚さが約1μmとなるように調整して作製した。また、比較対照の試料として、厚さ約1μmのバルクのFe膜を作製した。
各試料について、超伝導量子干渉計(SQUID)によって磁化曲線を測定し、得られた磁化曲線から膜面内方向の飽和磁化σを求めた。
測定結果を図5に示す。なお、図5では、比較対照のFe膜の試料の飽和磁化σを、厚さ0nmの所に示している。
【0037】
図5からわかるように、飽和磁化σは、絶縁材料膜12のSiO膜が厚くなるのに応じて、単調に減少している。これは、強磁性材料膜11間の磁気相互作用が、絶縁材料膜12に隔てられて減少するためと理解される。
なお、SiO膜の膜厚が0.4nm以下の範囲では、Fe膜単体との飽和磁化の差が少なくなっている。
【0038】
(3)カー回転角の測定
絶縁材料膜12のSiO膜の膜厚y(nm)を、0.4nm,2.5nm,4nm,12nm,16nmと変更して、それぞれ磁性多層膜の試料を作製した。なお、各試料は、繰り返し数nを、多層膜構造10の総厚さが約1μmとなるように調整して作製した。
各試料について、磁性膜に所定の波長の光を照射して、その波長の光に対するカー回転角を測定した。そして、磁性膜に照射する光の波長を、500nm〜900nmの範囲内で変更して、測定を行った。また、厚さ約1μmのバルクのFe膜の比較対照の試料についても測定を行った。
測定結果として、カー回転角θkのスペクトルを図6に示す。
【0039】
図6より、カー回転角θは測定されたすべての波長範領域にわたり、絶縁材料膜の膜厚yの増加に伴い最初増加するが、y=2〜4nm近傍で極大を示した後、さらに膜厚yが増加すると減少に転ずる現象が観察された。カー回転角θの増加は層間の光の多重散乱により、カー回転角θの減少は強磁性材料膜11間の磁気相互作用の減少によると考えられる。この両者の作用によりカー回転角θが極大値を有している。
極大を示す波長位置は絶縁材料膜の膜厚yによって若干異なっているが、カー回転角θの極大値は、純Fe膜と比較して1〜1.5倍に増大している。
【0040】
ところで、人工格子多層膜のカー回転角θは、仮想光学定数法によって計算して求めることが可能であり、下記式(1)で与えられる。
θ=Re(Exy/√Exx(1−Exx) (1)
なお、
xy =(N+2 −N−2 )/2i (2)
xx =(N+2 +−2 )/2 (3)
である。
また、N及び は、それぞれ波長λの右(+)円偏向光及び左(−)円偏向光に対する、二層膜の仮想光学定数であり、これらは上層膜(厚さh)の光学定数n+−及び下層膜の光学定数n+−を用いて、以下の(4)〜(6)式で与えられる。
【0041】
【数1】

【0042】
この理論式は、人工格子多層膜に適用すると、磁気光学効果をよく説明することが知られている(例えば、アグネ技術センター刊「金属人工格子」,1995年等を参照のこと)。
【0043】
次に、上述した仮想光学定数法を用いて計算して求めた、磁性多層膜[Fe(2)/SiO(y)]nのカー回転角θのスペクトルを図7に示す。なお、Fe膜とSiO膜の光学定数は文献値を用いた。
【0044】
図7より、SiO膜をFe膜の間に挿入することにより、カー回転角が増大すること、SiO膜の膜厚yが4nmのときにカー回転角が極大になること等、実験値とよく対応することがわかった。
【0045】
従って、強磁性体と絶縁体を積層して成る人工格子磁性多層膜10の磁気光学効果の増大は、強磁性体と絶縁体との界面からの多重反射の増加と、周期的な人工格子が形成されることによる光の干渉作用、さらには絶縁体が挿入されることによる強磁性体間の磁気相互作用、これらが総合的に作用して、絶縁体の膜厚によりカー回転角が変化するものと考えられる。
【0046】
ここで、人工格子多層膜[Fe(2nm)/SiO(y)]nに対して一定波長660nmの光を照射した場合のSiO膜の膜厚yによるカー回転角の変化を、図6に示した実験値及び図7に示した計算値について、それぞれプロットして図8に示す。
【0047】
図8より、カー回転角は、最初SiO膜の膜厚yの増加につれて増加し、y=2〜4nm近辺で極大に達したのち、さらにyが増加すると逆に減少する現象が見られ、実験と理論はほぼ一致している。
【0048】
(4)各種強磁性材料の検討
前述したように、本発明によるカー回転角の増大効果は、強磁性体と絶縁体の材料によらない一般的特徴であると思われる。
そこで、種々の強磁性体と絶縁体の各材料の組み合わせによる、種々の人工格子磁性多層膜のカー回転角を、強磁性体の膜厚を2nmに固定し、絶縁体の膜厚y(nm)の関数としてシミュレーション計算を実行した。なお、光の波長λは633nm(He−Neレーザー波長に相当)に固定した。
【0049】
その結果、強磁性体の材料に関わらず、図8と同様に、絶縁体をある膜厚としたときに、カー回転角が極大を示すことがわかった。
それぞれの材料の計算結果を、表1にまとめて示す。表1では、強磁性体の種類と膜厚、絶縁体の種類とカー回転角が極大を示す絶縁体の膜厚、カー回転角、カー回転角増大率(人工格子多層膜のカー回転角の強磁性体単体のカー回転角に対する比)の順に示している。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より、カー回転角が最大を示す絶縁体の膜厚は、強磁性体の材料により異なるが、膜厚比(絶縁体の膜厚/強磁性体の膜厚)が1〜8であり、またカー回転角増大率が1.2〜2.0倍となることが示された。
【0052】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る磁性多層膜は、例えば、光磁気記録媒体一般、光アイソレーター等の光通信機器、光磁気ホログラフィー、磁気検出器一般等に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態の磁性多層膜の概略構成図である。
【図2】図1の磁性多層膜に入射した光の反射を示す模式的断面図である。
【図3】図1の磁性多層膜を用いた光磁気記録媒体の一形態の概略構成図である。
【図4】図1の磁性多層膜のX線回折の測定結果を示す図である。
【図5】図1の磁性多層膜における絶縁材料膜の膜厚による飽和磁化の変化を示す図である。
【図6】絶縁材料膜の膜厚を変えて、図1の磁性膜のカー回転角のスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図7】絶縁材料膜の膜厚を変えて、図1の磁性膜のカー回転角のスペクトルを、仮想光学定数法により計算して求めた結果を示す図である。
【図8】図1の磁性膜の、波長660nmにおけるカー回転角と絶縁材料膜の膜厚との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 基板、10 磁性多層膜(積層膜)、11 強磁性材料膜、12 絶縁材料膜、20 光磁気記録媒体、23 光磁気膜(記録膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性材料の薄膜と、絶縁材料の薄膜とを、交互に積層した構造を有する
ことを特徴とする磁性多層膜。
【請求項2】
前記強磁性材料として、Fe,Co,Ni,Fe、遷移金属を含む強磁性合金、並びに強磁性化合物から選ばれる1種以上を使用し、前記絶縁材料として、SiO,Al,MgFから選ばれる1種以上を使用したことを特徴とする請求項1に記載の磁性多層膜。
【請求項3】
強磁性材料の薄膜と、絶縁材料の薄膜とを、交互に積層した構造を有する磁性多層膜により、情報を記録する記録膜が構成されている
ことを特徴とする光磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−146994(P2006−146994A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332282(P2004−332282)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月17日 日本応用磁気学会主催の「Magneto Optical Recording International Symposium 2004」において文書をもって発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】