説明

磁性粉末材料、その磁性粉末材料を含む低損失複合磁性材料、及びその低損失複合磁性材料を含む磁性素子

【課題】 保持力の高さという非晶質粉末の特性を生かしつつ、低圧で成形が可能であり、コア損失の低い材料を提供することを目的とする。
【解決手段】 磁性粉末材料の重量に対して、45〜80wt%の非晶質粉末と、55〜20wt%の結晶質粉末とを含む磁性粉末材料と;結合材とを含む磁性粉末材料を提供する。ここで、前記磁性粉末材料は、その重量に対して、4.605〜6.60mass%のSiと、2.64〜3.80mass%のCrと、0.225〜0.806mass%のCと、
0.018〜0.432mass%のMnと、0.99〜2.24mass%のBと、
0.0248mass%以下のPと、0.0165mass%以下のSと、0.0165mass%以下のCoと、残部としてFe及び不可避不純物とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料粉末、その磁性粉末材料を含む低損失複合磁性材料、及びその低損失複合磁性材料を含む磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源電圧が低電圧となったことに伴い、大電流に対応できるパワーインダクタに対する要請が高まっている。特に、ノートパソコンやPDA用その他の電子機器で高周波電源が使用されるようになってきた。
そして、それまで使用されてきた金属磁性材料粉末に代わって、コスト面でメリットが大きいフェライトが多用されるようになり、種々のチョークコイルやノイズフィルタ等の製造に用いられてきた。
一方で、小型で大電流に対応できる磁性素子を製造するには、フェライトの飽和磁束密度では低いため、飽和磁束密度の高い金属磁性材料粉末が、磁性素子用磁芯の製造に再び用いられるようになってきた。
【0003】
こうした磁性素子用の金属磁性材料粉末としては、例えば、Fe粉、Fe−Si合金粉末、Fe−Si−Al合金粉末等のFeを主成分とする合金粉末がある。一般に、金属磁性粉末を用いた磁性素子ではコア損失が大きいため、非晶質の合金粉末と結晶質の合金粉末とを混合することで、コア損失を低下させるという技術が提案されている(特許文献1参照、以下「従来例1」という。)。
また、非晶質の合金粉末に結晶質の合金粉末を加えることで、これらの粉末を金型に充填する際の充填率を高め、製造された磁性素子の透磁率と強度とを向上させるという技術も提案されている(特許文献2参照、以下「従来例2」という。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−134381号公報
【特許文献2】特開2010−118486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例1の技術は、結晶性の異なる2種類の合金粉末と、絶縁性の結着剤とを使用することによって、コア損失を低下させるという面では優れたものである。
圧粉磁芯の製造を例にとると、圧粉磁芯の材料で生じるコア損失のうち、80〜90%近くがヒステリシス損失によるものである。こうしたヒステリシス損失は、保磁力が小さい非晶質粉末を使用することによって改善することができる。
【0006】
一般に、合金粉末を使用した磁性素子は、常温で金属系粉末と結着剤とを混合し、その後、その混合粉末を加圧成形して製造される。ここで、合金粉末として非晶質粉末を使用すると、硬度が高く塑性変形しにくいため、所定の成形体密度を得る上で、高圧力成形が必要となる。しかし、非晶質粉末を高圧で成形すると、成形時に生じる応力によってコア損失が大きくなるという問題がある。
このため、保磁力が小さい非晶質粉末の特性を生かすことができ、低圧成形を行うことができる低損失磁性材料に対するという社会的要請がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような状況の下で完成されたものであり、電気的特性に優れ、かつ磁性素子の生産性を向上させることができる磁性粉末材料、その磁性粉末材料を用いた低損失複合磁性材料、及びその低損失複合磁性材料を用いた磁性素子を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の第1の態様は、磁性粉末材料の重量に対して、45〜80wt%の非晶質粉末と、55〜20wt%の結晶質粉末とを含む、磁性粉末材料である。ここで、前記磁性粉末材料は、45〜55wt%の前記非晶質粉末と55〜45wt%の前記結晶質粉末とを含むものであることが好ましい。
【0008】
また、本発明の磁性粉末材料は、前記磁性粉末材料の重量に対して、4.605〜6.60mass%のSiと、2.64〜3.80mass%のCrと、0.225〜0.806mass%のCと、0.018〜0.432mass%のMnと、0.99〜2.24mass%のBと、0.0248mass%以下のPと、0.0165mass%以下のSと、0.0165mass%以下のCoと、残部としてFe及び不可避不純物とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の磁性粉末材料では、前記非晶質粉末が、前記磁性粉末材料の重量に対して、6.2mass%以上7.2mass%以下のSiと、2.3mass%以上2.7mass%以下のCrと、0.5mass%以上1.0mass%以下のCと、0.04mass%以上0.49mass%以下のMnと、2.2mass%以上2.8mass%以下のBと、残部としてFe及び不可避不純物とを含み;前記結晶質粉末は、前記磁性粉末材料の重量に対して、3.3mass%以上4.2mass%以下のSiと、4.0mass%以上4.7mass%以下のCrと、0.03mass%以下のCと、0.20mass%以下のMnと、0.045mass%以下のPと、0.03mass%以下のSと、0.03mass%以下のCoと、残部としてFe及び不可避不純物とを含むことを特徴とする。
【0010】
前記非晶質粉末の平均粒径(D50A)が45μm未満、かつ前記結晶質粉末の平均粒径(D50C)が13μm未満であり、D50A/D50Cの比が2.18以上であることを特徴とする。
本発明の第2の態様は、圧縮成形されたときに、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、及びフェノール系樹脂からなる群から選ばれるいずれかの熱硬化性樹脂である結合材と、上記の磁性粉末材料とを含む複合磁性材料である。前記複合磁性材料中の前記結合材の含有量は、前記磁性粉末材料の重量に対して、2.0〜4.0wt%であることが好ましい。また、前記複合磁性材料は、磁束密度50mT、実効周波数250kHzで測定したときのコア損失が1,400kw/m以下であり、比透磁率が20を越えることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、上述した組成と特性とを有する複合磁性粉末を用いて製造された磁性素子である。前記磁性素子は、例えば、メタルコンポジットインダクタとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた特性を有する複合磁性粉末を製造することができる。また、この複合磁性粉末を使用することによって、低損失、かつ低圧で成形できる磁性素子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の磁性粉末材料は、その重量に対して、45〜80wt%の非晶質粉末と、55〜20wt%の結晶質粉末とを含む。ここで、前記磁性粉末材料は、その重量に対して、45〜55wt%の前記非晶質粉末と、55〜45wt%の前記結晶質粉末とを含むものであることが好ましい。
非晶質粉末の配合量が45wt%未満で結晶質粉末の配合量が55wt%を越える場合、及び結晶質粉末の配合量が20wt%未満で非晶質粉末の配合量が80wt%を超える場合は、いずれもコア損失の改善が不十分であることによる。
【0013】
前記磁性粉末材料は、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、炭素(C)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、リン(P)、イオウ(S)及びコバルト(Co)を各々所定の配合比で含み、残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることが好ましい。具体的には、前記磁性粉末材料の重量に対して、4.605〜6.60mass%のSiと、2.64〜3.80mass%のCrと、0.225〜0.806mass%のCと、0.018〜0.432mass%のMnと、0.99〜2.24mass%のBと、0.0248mass%以下のPと、0.0165mass%以下のSと、0.0165mass%以下のCoとを含み、残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることが好ましい。
【0014】
一般的に、結晶質粉末中では、Cは不純物とされている。しかし、非晶質粉末においては必須の元素とされており、本願発明の磁性粉末材料中のC含量は、0.225〜0.806mass%であることが好ましい。複合磁性粉末中のC含量が0.225mass%未満では非晶質粉末とならず、0.806mass%を越えると保磁力が大きくなり、コア損失が劣化することによる。
【0015】
また、前記磁性粉末材料に使用する前記非晶質粉末は、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、炭素(C)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)を所定の配合比で含み、残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることが好ましい。具体的には、前記磁性粉末材料の重量に対して、6.2mass%以上7.2mass%以下のSiと、2.3mass%以上2.7mass%以下のCrと、0.5mass%以上1.0mass%以下のCと、0.04mass%以上0.49mass%以下のMnと、2.2mass%以上2.8mass%以下のBと、残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることが好ましい。
【0016】
前記結晶質粉末は、Si、Cr、C、Mn、P、S及びCoとを所定の配合比で含み、残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることが好ましい。具体的には、前記磁性粉末材料の重量に対し、3.3mass%以上4.2mass%以下のSiと、4.0mass%以上4.7mass%以下のCrと、0.03mass%以下のCと、0.20mass%以下のMnと、0.045mass%以下のPと、0.03mass%以下のSと、0.03mass%以下のCoと、残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることが好ましい。
【0017】
上述した磁性粉末材料の作製に使用する結晶質粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法等で製造することができる。例えば、水アトマイズ法は、溶解した金属をダンディッシュ底部の小孔から流下させ、この溶湯流に高圧の水を吹き付けるという方法である。
また、非晶質粉末は、水アトマイズ法とガスアトマイズ法とを組み合わせて、冷却速度10K/sという超急冷アトマイズ法で製造することができる。
【0018】
また、前記非晶質粉末の平均粒径(D50A)が45μm未満、かつ前記結晶質粉末の平均粒径(D50C)が13μm未満であり、D50A/D50Cの比が2.18以上であることが好ましい。D50Aが45μmを越え、かつD50Cが13μmを越えると、D50A/D50Cの比が2.18以上であってもコア損失が改善されない。また、前記非晶質粉末の平均粒径(D50A)が45μm未満、かつ前記結晶質粉末の平均粒径(D50C)が13μm未満であっても、D50A/D50Cの比が2.18未満であると、コア損失は改善されないことによる。
ここで、前記非晶質粉末及び結晶質粉末の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定することが、測定精度が高いことから好ましく、例えば、LA−920((株)堀場製作所製)等を使用することが好ましい。
【0019】
本発明の複合磁性材料で使用する前記結合材は、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂及びフェノール系樹脂といった熱硬化型樹脂であることが好ましく、これらの中でも耐熱温度が比較的高いシリコーン系樹脂を使用することが好ましい。
前記複合磁性粉末中の前記結合材の含有量は、前記磁性粉末材料の2.0〜4.0wt%であることが好ましい。結合材が2.0wt%未満では成形体の強度が不十分であり、4.0wt%を越えると、目標とする比透磁率が得られないためである。
【0020】
本発明の磁性素子は、下記のようにして製造される。
超急冷アトマイズ法にて調製した非晶質粉末と、水アトマイズ法にて調製した結晶質粉末とを、これらを混合して得られる磁性粉末材料の重量に対して、前記非晶質粉末が45〜80wt%、前記結晶質粉末が55〜20wt%となるように秤量して混合し、磁性粉末材料を調製する。
次いで、上述した熱硬化性樹脂を得られた磁性粉末材料に噴霧して、粉末粒子の表面が被覆された複合磁性材料を得る。
【0021】
以上のようにして得られた複合磁性材料をリング状コアにプレス成形する。次いで得られた成形体を150〜250℃にて、30分〜1.5時間加熱して結合材を硬化させることにより、圧粉磁芯を得ることができる。なお、前記磁性素子は、コイル状に成形した銅線を磁性材料にモールドしている。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を用いて、さらに詳細に本発明を説明するが、本発明は何ら以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1) C含量の検討
(1)磁性粉末材料の調製
本実施例で使用した非晶質粉末と、結晶質粉末の成分を下記表1に示す。下記表1に示す組成の非晶質粉末は超急冷アトマイズ法にて調整し、また、下記表1に示す結晶質粉末を、水アトマイズ法にて調製した。
まず、上記のようにして得られた金属粉末を、それぞれ、分散溶液としてメタノールを使用して、超音波分散機で分散させた。その後、これらの試料の平均粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920((株)堀場製作所製)にて測定して平均粒径(D50)を求めた。この測定装置では、ある粉末試料が真球でない場合には、その試料粉末の長軸及び短軸の平均が粒子径とされる。
【0023】
【表1】

【0024】
(2)混合粉末の調製
上記の非晶質粉末(C含量:0.5〜1.0mass%)と結晶質粉末(C含量:Max 0.03mass%)とを下記表2に示す割合で混合し、比較例1〜3及び本発明例1〜4の混合粉末を得た。
【0025】
【表2】

【0026】
次に、得られた合金粉末に結合材であるシリコーン系樹脂を噴霧して、合金粉末の表面がシリコーン系樹脂で被覆された複合磁性材料を得た。
以上のようにして得られた複合磁性材料を用いて下記の成形条件に基づき、比透磁率及びコア損失(Pcv)の測定に使用する成形体(リング状コア)を得た。
【0027】
[成形条件]
成形方法:圧縮成形
成形体形状:リング状コア
成形体寸法:外径15mm、内径10mm、厚み2.5mm
成形圧力:比較品=2〜4ton/cm
本発明品=2ton/cm
比較例1及び2は2ton/cm、比較3は4ton/cmの圧力で成形を行うと、本発明品と同じ粉末占積率の製品が得られた。
次に、得られたそれぞれの成形体を、大気中にて、200℃で1時間加熱して結合材を硬化させ、リング状コア(圧粉磁芯)を得た。
【0028】
(2)圧粉磁芯の物性の検討
本発明例1〜4及び比較例1〜3の複合磁性材料を使用して作製した圧粉磁芯比透磁率及びコア損失(Pcv(kw/m))を磁気特性として測定し、評価した。それぞれの磁気特性の測定条件及び評価の基準を以下に示す。
(a)比透磁率:Agilent製インピーダンスアナライザ4294Aを用いて、周波数1MHzのインダクタンスを測定し、コア定数から比透磁率を得た。この比透磁率(μ)は、以下の式より求めた。
【0029】
(μ)=(Ls×le)/(μ×Ae×N
ここで、Lsはインダクタンス(H)、leは磁路長(m)、Aeは断面積(m)、μは真空中における透磁率(4π×10−7(H/m))、Nはコイルの巻数を表す。
(b)コア損失(Pcv;w/m):上記のようにして製造したリング状コアを使用し、岩通製B−HアナライザSY8232を用いて、Bm=50mT、f(実効周波数)=250kHzの条件でコア損失を測定した。
【0030】
製品のインダクタンスの確保及び回路効率の向上という2つの観点から、比透磁率を20以上、回路効率上昇の観点からコア損失を1,400kw/m以下と設定した(上記表2参照)。
比較例1〜3の圧粉磁芯では、比透磁率は目標値を達成したが、Pcvの値が高く、目標値に達しなかった。また、比較例2の圧粉磁芯では、非晶質粉末の配合割合が少ないため、コア損失が目標値を満足しなかった。従って、非晶質粉末の配合割合は、40wt%以下では不十分であると判定した。
【0031】
一方、比較例3の圧粉磁芯では、非晶質粉末の配合割合が多いために、成形圧力が高くなり、コア損失が目標値を満足しなかった。従って、非晶質粉末の配合割合は、85wt%以上では過剰であることが示された。
以上より、C含量0.225mass%〜0.80mass%のときに、十分なコア損失の低下が見られると判定した。
【0032】
(実施例2) 粒径比、粉末粒径と目標特性との関係の検討
非晶質粉末(D50A=45μm)及び結晶質粉末(D50C=13μm)、非晶質粉末(D50A=24μm)及び結晶質粉末(D50C=7μm)を、50/50(w/w)となるように混合し、実施例1と同様にして、下記表3に示す圧粉磁芯を製造した。
得られた圧粉磁芯の比透磁率及びコア損失を実施例1と同様にして測定し、粒径によってこれらがどのように変動するかを検討した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
非晶質の粒径が45μm、結晶質の粒径が13μmと粒径の大きな粒子を使用した比較例4では、粒径比は3.46と高い値を示したが、コア損失が目標値に達しなかった。また、非晶質の粒径を24μmとした比較例5では、粒径比が2未満であり、比較例4の場合と同様にコア損失が目標値に達しなかった。
比較例4と本発明例7とは、粒径比はほぼ同等であったが、コア損失(Pcv値)に大きな相違が見られた。すなわち、本発明例7では、比較例4で使用した粉末(非晶質45μm、結晶質13μm)よりも粒径の小さい粉末(非晶質24μm、結晶質7μm)を使用したために、粒子内部を流れる渦電流が低下し、これによってコア損失が低下したものと考えられた。
以上より、使用する粉末の粒径が渦電流の低下に大きく影響することが示され、非晶質粉末の平均粒径が45μm未満、結晶質粉末の平均粒径が13μm未満のときに、十分なコア損失の低下が見られた。
【0035】
また、比較例5、本発明例5、6及び7を比較すると、結晶質粉末の粒径が小さくなるにつれて、Pcvが低下した。特に、比較例5と本発明例5との間におけるPcvの低下幅が大きく、非晶質粉末と結晶質粉末の粒径比が、コア損失に大きな影響を与えることが示された。これら2種類の粉末の粒径比が大きくなると、非晶質粉末粒子同士の隙間に結晶質粉末粒子が入り込み易くなり、低圧で成形が可能となる。このため、コア損失が低下したものと考えられる。
以上より、非晶質粉末と結晶質粉末の粒径比は、2.18以上のときに十分なコア損失の低下が見られた。
【0036】
一般的に、非晶質粉末のみを使用すると、コア損失の少ない圧粉磁芯を製造することができる。しかし、非晶質粉末は固いため、固化には20ton/cm程度の高い圧力をかける必要がある。また、非晶質粉末を使用した場合には、特性を回復させるために成形時の応力を除去する必要があり、約450℃という高温での熱処理を行わなければならない。
これに対し、使用する合金粉末を非晶質と結晶質の2種類とし、これらの粒径比を2.18以上とすることによって、2ton/cm程度という低い圧力での成形が可能となった。この圧力は、結晶質粉末のみを使用した場合と同程度である。また、低圧成形が可能となることによって、成形時に生ずる応力も小さくなり、成形時の応力を除去するための熱処理を行わなくても、低損失の磁性素子を製造することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、PDAその他の電子機器類を小型化、軽量化、高性能化を行う上で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末材料の重量に対して、45〜80wt%の非晶質粉末と、55〜20wt%の結晶質粉末とを含む、磁性粉末材料。
【請求項2】
前記磁性粉末材料は、その重量に対して、45〜55wt%の前記非晶質粉末と、55〜45wt%の前記結晶質粉末とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の磁性粉末材料。
【請求項3】
前記磁性粉末材料の重量に対して、
4.605〜6.60mass%のSiと、
2.64〜3.80mass%のCrと、
0.225〜0.806mass%のCと、
0.018〜0.432mass%のMnと、
0.99〜2.24mass%のBと、
0.0248mass%以下のPと、
0.0165mass%以下のSと、
0.0165mass%以下のCoと、
残部としてFe及び不可避不純物とを含むものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁性粉末材料。
【請求項4】
前記非晶質粉末は、前記磁性粉末材料の重量に対して、
6.2mass%以上7.2mass%以下のSiと、
2.3mass%以上2.7mass%以下のCrと、
0.5mass%以上1.0mass%以下のCと、
0.04mass%以上0.49mass%以下のMnと、
2.2mass%以上2.8mass%以下のBと、
残部としてFe及び不可避不純物とを含み;
前記結晶質粉末は、前記磁性粉末材料の重量に対して、
3.3mass%以上4.2mass%以下のSiと、
4.0mass%以上4.7mass%以下のCrと、
0.03mass%以下のCと、
0.20mass%以下のMnと、
0.045mass%以下のPと、
0.03mass%以下のSと、
0.03mass%以下のCoと、
残部としてFe及び不可避不純物とを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の磁性粉末材料。
【請求項5】
前記非晶質粉末の平均粒径(D50A)が45μm未満、かつ前記結晶質粉末の平均粒径(D50C)が13μm未満であり、D50A/D50Cの比が2.18以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の磁性粉末材料。
【請求項6】
エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、及びフェノール系樹脂からなる群から選ばれるいずれかの樹脂である結合材と、請求項1〜5のいずれかに記載の磁性粉末材料とを含む、複合磁性材料。
【請求項7】
圧縮成形されたときに、磁束密度50mT、実効周波数250kHzで測定したときのコア損失が1,400kw/m以下であり、比透磁率が20を越えることを特徴とする、請求項6に記載の複合磁性材料。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の複合磁性粉末を用いて製造された磁性素子。
【請求項9】
前記磁性素子がメタルコンポジットインダクタであることを特徴とする、請求項8に記載の磁性素子。

【公開番号】特開2012−160726(P2012−160726A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9046(P2012−9046)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000107804)スミダコーポレーション株式会社 (285)
【Fターム(参考)】