説明

磁気共鳴装置

【課題】測定対象の体動によるアーティファクトを抑制しつつ、計測時間を短縮して高速なイメージングが可能な磁気共鳴測定技術を提供する
【解決手段】複数のスライス面を励起する励起パルスとそのスライス面と直交するスライス面を励起する励起パルスとを印加し、実質的に平行な複数の線状の交差領域を同時に計測する。交差領域の線方向の空間情報は傾斜磁場による変調で取得し、線方向に直交する方向の空間情報は平面の位置を変化させることで取得し、画像を再構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴装置に関する。特に体動によるアーティファクトを抑制しながら高速イメージングを行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴装置は、静磁場中に置かれた測定対象に特定周波数の高周波磁場(RFパルス)を照射して核磁気共鳴現象を誘起し、測定対象の物理的化学的情報を取得する装置である。現在、広く普及している磁気共鳴イメージング(MRI、 Magnetic Resonance Imaging)は、主として水分子中の水素原子核の核磁気共鳴現象を用い、組織によって異なる水素原子核密度や緩和時間の差などを画像化する。MRIでは、RFパルス照射後、スライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、読み出し傾斜磁場を印加し、画像を再構成するために必要な空間的情報を磁気共鳴信号(エコー)に付与する。
【0003】
エコー形成前に印加量の異なる位相エンコード傾斜磁場を繰り返し与えて空間的情報を付与する場合、測定対象に動き(体動)があると、位相エンコード傾斜磁場を印加する方向(位相エンコード方向)に、位相誤差が混入し易く、そのエコーから再構成される画像に、位相エンコード方向に流れるアーティファクト(体動アーティファクト)が発生しがちである。水分子の拡散運動の激しさを測定する拡散強調イメージングでは、この体動アーティファクトが顕著となる。拡散傾斜磁場は、拡散係数の高さに応じて信号減衰を生じさせることを意図したものであり、この拡散傾斜磁場の印加中に体動があると、大きな位相誤差が生じるためである。
【0004】
上記位相エンコード傾斜磁場の繰り返しの印加を行わず、体動アーティファクトの影響が少ない撮像方法には、Echo Planar Imaging(EPI)法とラインスキャン法とがある。しかしながら、EPI法では、エコー取得中に振動傾斜磁場という傾斜磁場を高速にスイッチングしながら印加する。このため、高性能な傾斜磁場系が必要とされ、また静磁場不均一の影響で画像が歪むことがある。
【0005】
ラインスキャン法は、第1のRFパルスで一つのスライス面を選択励起し、第2のRFパルス(反転パルス)で選択励起されたスライス面と交差する他の一つのスライス面を選択反転し、二つのスライス面の交差領域であるライン状の領域からのエコーを計測する。ライン状の領域を順次移動させて計測を繰り返し、画像再構成に必要な領域の計測を行う。ラインスキャン法は位相エンコード傾斜磁場を用いないため、体動の影響を受けやすい拡散強調イメージングに用いられる(例えば、非特許文献1参照。)。ラインスキャン法に、代謝物のケミカルシフトを利用して代謝物分布を分離画像化するケミカルシフトイメージングや拡散強調イメージング(EPSI:Echo Planar Spectroscopic Imaging)を組み合わせる手法もある(例えば、特許文献1、非特許文献2、3)。
【0006】
ラインスキャン法の計測時間を短縮するために、二つのスライス面のいずれとも角度を持たせた方向に交差領域を移動させて待ち時間を短縮する方法(例えば、特許文献2参照。)、第1の励起パルスを2回印加することで、得られるエコーを二つにし、2スライスを同時に取得する方法(例えば、非特許文献4参照。)等が提案されている。また、ラインスキャン法により得られる再構成画像の品質を高めるため、交差領域を走査する際に前回励起した交差領域の高周波信号が混入しないようクラッシャー傾斜磁場の印加強度を変化させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。さらに、ラインスキャン法により得られる画像の空間分解能を高めるために、交差領域を重ね合わせて取得するとともに、交差領域内をさらに細かく高速イメージングで画像化する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。大きな体動があった場合に生じる画像抜けを防ぐため、大きな体動を検知して再測定する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0007】
一方、MRIにおける一般的な計測方法において、計測時間を短縮するために、複数のRFコイルの感度分布の差を用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献5、6参照。)。位相エンコード傾斜磁場の印加回数を間引いて計測し、位相エンコード方向に折り返しを有する画像から、各コイルの感度分布の差を利用して折り返しを除去する。位相エンコード印加回数が減少するために計測時間が短縮される。さらには、計測時間の短縮に伴い、計測時間中に体動が起きる確率も低下し、体動アーティファクトも抑制される。
【0008】
【特許文献1】特許第3588690号
【特許文献2】特開昭63−105749号
【特許文献3】特許第3342853号
【特許文献4】特許第3415754号
【特許文献5】特許第3884283号
【非特許文献1】GudbjartssonH他、Line scan diffusion imaging. Magnetic Resonance in Medicine、36巻、509-519頁(1996年)
【非特許文献2】BitoY他、Echo-planar diffusion spectroscopic imaging:reduction of motion artifacts using line-scan technique. Proceedings of International Society for Magnetic Resonance in Medicine、1235頁(1998年)
【非特許文献3】OshioK他、Line scan echo planar spectroscopic imaging. Magnetic Resonance in Medicine、44巻、521-524頁(2000年)
【非特許文献4】GudbjartssonH他、Double line scan diffusion imaging. Magnetic Resonance in Medicine、38巻、101-109頁(1997年)
【非特許文献5】SodicksonDK他、Simultaneous acquisition of spatial harmonics(SMASH): fast imaging with radiofrequency coil arrays. Magnetic Resonance inMedicine、38巻、591-603頁(1997年)
【非特許文献6】PruessmannKP他、SENSE: Sensitivity encoding for fast MRI. Magnetic Resonance in Medicine、42巻、952-962頁(1999年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2、3に記載の方法では、1回のエコーを計測するために最低限必要な時間、傾斜磁場のスイッチングスピードおよびRF印加量などの制約があり、計測時間の短縮効果は十分ではない。特に、ラインスキャンとEPSIとを組み合わせたケミカルシフトイメージングでは、計測時間のいっそうの短縮が望まれている。これは、強力な拡散傾斜磁場を印加するため、体動アーティファクトの影響が出やすいためである。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、測定対象の体動によるアーティファクトを抑制しつつ、計測時間を短縮して高速なイメージングが可能な磁気共鳴測定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、実質的に平行な複数の線状の交差領域を同時に計測し、計測結果から画像を再構成する。
【0012】
具体的には、測定対象に高周波磁場(RF)パルスを印加するRFパルス印加部と、前記高周波信号に空間的な変調を加えるための傾斜磁場を印加する傾斜磁場印加部と、前記RFパルスに起因する高周波信号を計測する信号検出部と、前記信号検出部が計測する前記高周波信号から、画像を再構成する計算部と、前期RFパルス印加部、前記信号検出部、前記傾斜磁場印加部、および、前記計算部の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、第1の傾斜磁場とともに複数の実質的に平行な励起面を有する第1のRFパルスを印加し、前記第1の傾斜磁場を印加する方向と異なる方向の第2の傾斜磁場とともに第2のRFパルスを印加するよう制御するとともに、前記信号検出部が前記高周波信号を計測する期間中、前記傾斜磁場印加部を、前記第1の傾斜磁場および前記第2の傾斜磁場のいずれにも直交する方向に第3の傾斜磁場を印加するよう前記RFパルス印加部と前記傾斜磁場印加部とを制御することを特徴とする磁気共鳴装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定対象の体動によるアーティファクトを抑制しつつ、計測時間を短縮して高速なイメージングが可能な磁気共鳴測定技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<<第一の実施形態>>
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。まず、本発明を適用する第一の実施形態を説明する。本実施形態では、複数の線状の交差領域(ライン)のスキャンを同時に行う。以下、一例として、2つのラインのスキャンを同時に行う場合を例にあげて説明する。
【0015】
まず、本実施形態の磁気共鳴装置の装置構成を説明する。図1は、本実施形態の磁気共鳴装置100の概要を説明するための図である。磁気共鳴装置100は、静磁場発生磁石11、傾斜磁場発生コイル12、高周波磁場コイル系13、制御装置14、傾斜磁場電源15、シンセサイザ16、変調装置17、増幅器18、AD変換器19、データ処理装置20を備える。
【0016】
シンセサイザ16および変調装置17は送信部を構成する。シンセサイザ16は高周波を発生し、変調装置17は、シンセサイザ16が発生させた高周波を波形整形、電力増幅し、高周波磁場コイル系13に電流を供給する。高周波磁場コイル系13は、供給された電流により測定対象10の核スピンを励起する高周波磁場(励起パルス:RFパルス)を発生させ、測定対象10に照射する。傾斜磁場電源15は、傾斜磁場発生コイル12に電流を供給し、電流を供給された傾斜磁場発生コイル12は傾斜磁場を発生し、測定対象10からの磁気共鳴信号である高周波信号を空間的な位置に応じて変調する。高周波磁場コイル系13は、変調された高周波信号を受信(検出)する。増幅器18は、高周波磁場コイル系3が受信した高周波信号を増幅する。AD変換器19は、増幅された高周波信号をA/D変換し、データ処理装置20に入力する。データ処理装置20は、入力された信号をデータ処理し保存する。制御装置14は、予めプログラムされたタイミングで各装置が動作するように制御を行う。
【0017】
本実施形態の磁気共鳴装置100は、以上の装置により、測定対象に高周波磁場を照射するRFパルス印加部と、RFパルス印加部が印加した高周波磁場に起因する高周波信号を検出する信号検出部と、高周波信号に空間情報を付与する傾斜磁場を印加する傾斜磁場印加部と、信号検出部が検出した高周波信号から画像を再構成する計算部の各機能を実現する。RFパルス印加部は、高周波磁場コイル系13のうち高周波磁場の照射に係る部分と、シンセサイザ16と、変調装置17と、制御装置14のうち高周波磁場を印加するハードウェアおよび制御ソフトウェアとにより実現される。信号検出部は、高周波磁場コイル系13のうち高周波磁場の検出に係る部分と、増幅器18と、AD変換器19と、制御装置14のうち高周波磁場を検出するハードウェアおよび制御ソフトウェアとにより実現される。傾斜磁場印加部は、傾斜磁場発生コイル12と、傾斜磁場電源15と、制御装置14のうち傾斜磁場を印加するハードウェアおよび制御ソフトウェアとにより実現される。また、計算部は、データ処理装置20および制御装置14のうちデータ処理に係るハードウェアおよび制御ソフトウェアにより実現される。
【0018】
なお、構成によっては、これらRFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部、計算部は、ハードウェアやソフトウェアを共用し分離できない場合もある。例えば、高周波磁場コイル系13が高周波磁場の送信コイルと受信コイルを兼用する送受兼用コイルの高周波磁場コイルで構成される場合、この高周波磁場コイルはRFパルス印加部にも信号検出部にも属する。また、高周波磁場の印加や検出、傾斜磁場による変調などは、それぞれ独立に動作するものではないため、各部に属する制御ソフトウェアには、それら動作を統合する部分が含まれる。なお、本構成は典型的な構成を示したもので、これに限るものでない。
【0019】
次に、高周波磁場コイル系13について詳述する。図2は、本実施形態の高周波磁場コイル系13の構成を示す図である。本実施形態の高周波磁場コイル系13は、RFコイル21、22、23と、デチューニング回路24、25、26とを備える。
【0020】
RFコイル21はRFパルス印加部に属し、測定対象10に励起パルスを送信するアンテナとして機能する。RFコイル21は、コイルとコンデンサとを備え、コイルのサイズ(インダクタンス(L))とコンデンサの容量(C)とは、磁気共鳴信号の共振周波数に合致するよう調整される。RFコイル22およびRFコイル23は信号検出部に属し、測定対象10から発生する磁気共鳴信号を受信するアンテナとして機能する。RFコイル22およびRFコイル23は、コイルとコンデンサとを備え、コイルサイズ(L)とコンデンサ容量(C)とは、RFコイル21と同様に、磁気共鳴信号の共振周波数に合致するよう調整される。RFコイル22および23はそれぞれ別の増幅器18に接続され、取得される高周波信号は別個にデータ処理装置20に渡される。また、本実施形態では、RFコイル22およびRFコイル23は、それぞれループコイルであり、xz平面にそのループ面が平行になるよう配置される。
【0021】
デチューニング回路24、25、26は、高周波磁場の送信時と受信時とに、それぞれRFコイル22、23とRFコイル21とのLC共振周波数を磁気共鳴信号の周波数からずらし、コイル間の干渉を防ぐ。すなわち、励起パルス印加時には、制御装置14からの制御信号に基づき、デチューニング回路25、26を動作させて、RFコイル22、23がアンテナとして機能しないようにこれらのLC共振周波数を磁気共鳴信号の周波数からずらす。また、信号検出時には、制御装置14からの制御信号に基づき、デチューニング回路24を動作させて、RFコイル21がアンテナとして機能しないようにRFコイル21のLC共振周波数を磁気共鳴信号の周波数からずらす。
【0022】
なお、本構成は典型的な例を示したもので、RFコイルの個数や形状、デチューニング回路などはこれに限られない。例えば、信号検出に使用するRFコイルの個数は3つ以上であってもよい。また、測定対象の周囲を囲むよう配置されていてもよい。また、複数のRFコイルが送受信兼用であっても構わない。また、それぞれのRFコイルは、円形、四角形、鳥かご形、蝶型、鞍型など様々な形状でよく、コンデンサの配置も特に制限はない。また、図では簡単のため、デチューニング回路24、25、26はそれぞれ1箇所しか記されていないが、デチューニングの効果を高めるために複数箇所に設置してもよい。
【0023】
次に、本実施形態のRFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部、計算部の処理について詳述する。本実施形態では、RFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部は、制御装置14からの指示に従って動作し、測定対象からエコーを取得する。計算部は、得られたエコーを処理し、画像に再構成する。
【0024】
まず、本実施形態のRFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部によるエコーの取得手法および取得されるエコーについて説明する。制御装置14が予めプログラムされたタイミング(撮像パルスシーケンス)に従って、これら各部を制御する。以下、本実施形態の撮像パルスシーケンスに従って、各部の動作を説明する。
【0025】
図3(a)は、本実施形態の撮像パルスシーケンスである。ここでは、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、x、y、z方向の傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度とを表す。ADは、データ取得期間である。
【0026】
x方向のスライス傾斜磁場32の印加とともに、二つの励起面を持つ周波数fnの第1RFパルス31を印加し、x方向の所定の二つのスライス内に核磁気共鳴現象を誘起する。ここで、sinc波形を連続した周期的関数波形で変調することにより、複数の励起面を持つRFパルスを得ることができる。本実施形態では、第1RFパルス31として、(式1)に示す、sinc波形をコサイン波形で変調し、強度を90度に設定したパルス(90度パルス)を用いる。
【数1】

この波形を図3(b)に示す。本図に示すRFパルスは、二つの変調周波数帯を有する。このようなRFパルスを、RFパルス印加期間中一定強度を保つ傾斜磁場とともに印加することにより、二つの変調周波数帯に相応する二つの磁場強度帯である平行な二平面が励起される。一定強度の傾斜磁場印加の下で、本波形のRFパルスが印加された際に励起される実空間での励起領域のプロファイルを図3(c)に示す。なお、本図において、Xiは励起される二つのスライス面の距離、Xwは二つのスライス面のそれぞれの厚さを示す。すなわち、本波形のRFパルスの印加により、厚さXwを持ち、互いに距離Xiだけ離れた2つの領域が励起される。
【0027】
次に、z方向のスライス傾斜磁場34の印加とともに、一つの励起面を持つ周波数fmの第2RFパルス33を印加し、z方向の所定の一つのスライス内の磁化を反転する。第2RFパルス33として、sinc波形を有し、強度を180度に設定したパルス(180度パルス)を用いる。その後、y方向にリードアウト傾斜磁場36を印加しながら高周波信号であるエコー35をAD取得37する。
【0028】
なお、前述したように高周波磁場コイル系13のRFコイル22、23で取得された高周波信号は、それぞれ別個に取得される。以下において、区別する必要がある場合、それぞれエコー3522、3523と呼ぶ。また、以下、簡単のため、第1RFパルス31とスライス傾斜磁場32を合わせて第1励起パルス、第2RFパルスとスライス傾斜磁場34を合わせて第2励起パルスと呼ぶ。
【0029】
第1励起パルスおよび第2励起パルスで核磁気共鳴現象が誘起される領域を図4に図示する。スライス面41、42は第1励起パルスで励起される面、スライス面43は第2励起パルスで励起される面である。本図に示すように、エコー35を発生する領域は、スライス面41とスライス面43とが交差する領域(交差領域)44と、スライス面42とスライス面43が交差する領域(交差領域)45と、の二つの線状の領域である。なお、y方向の空間情報は、リードアウト傾斜磁場36の印加によって得られる。エコー35は、この二つの交差領域からの高周波信号により形成される。従って、本実施形態では、得られたエコー35を分離し、それぞれの領域からの高周波信号を抽出する必要がある。分離は計算部により行う。
【0030】
次に、計算部の処理について説明する。計算部は上述のように、上記撮像パルスシーケンスに従って得られたエコー35から画像を再構成する。本実施形態では、各RFコイル22、23の感度分布を用い、2つの交差領域44、45からの高周波信号を分離する。
【0031】
計算部は、まず、各RFコイル22、23で得られたエコー3522、3523を、それぞれフーリエ逆変換し、y方向の空間情報を得、y方向の一次元画像を得る。ただし、ここで得られたy方向の一次元画像は、2つの交差領域44、45からの信号が混合したものである。そして、各RFコイル22、23の感度分布を用い、その一次元画像を2つの交差領域44、45の一次元画像に分離する。以下、分離の手順を説明する。図5は、各RFコイル22、23で得られた一次元画像を、各RFコイル22、23の感度分布を用い、2つの交差領域44、45の画像に分離する手法を説明するための図である。
【0032】
交差領域44上の座標(x,y)からの信号(計測信号)の強度をF(x,y)、交差領域45上の座標(x,y)からの信号(計測信号)の強度をF(x,y)とし、RFコイル22で計測される高周波信号を1次元画像に変換したデータをS(a,y)、RFコイル23で計測される高周波信号を1次元画像に変換したデータをS(b,y)とする。各RFコイル22、23の感度分布Wは、位置と計測対象の構造とにより定まる。以下、位置(x、y)の信号を計測する場合のRFコイル22およびRFコイル23の感度をそれぞれW(a,x,y)、W(a,x,y)と表す。
【0033】
データS(a、y)は、交差領域44上の座標(x,y)からの計測信号の強度F(x,y)にその位置のRFコイル22の感度W(a,x,y)を乗算したものと、交差領域45上の座標(x,y)からの信号(計測信号)の強度F(x,y)にその位置のRFコイル22の感度W(a,x,y)を乗算したものとの和である。データS(b、y)についても同様である。従って、各RFコイル22、23で計測されるデータSと、本来の信号強度Fと、感度Wとは、以下の(式2)のように表される。
【数2】

ここで、(式2)において感度Wからなる行列を感度行列Aと呼ぶ。感度行列Aの行列式が0ではない場合には、その逆行列を用い、交差領域44、45の各座標点の計測信号の強度Fは、(式3)により得られる。
【数3】

以上のように、RFコイル22、23それぞれの感度Wの分布を用い、各RFコイル22、23で得られたエコー3522、3523から算出した一次元画像を、それぞれの各交差領域44、45の一次元画像(信号強度)に分離することができる。
【0034】
なお、各RFコイル22、23の感度分布は、以下の方法等により予め求める。例えば、一般的な撮像パルスシーケンスを用いて、励起強度を変えた複数の画像を取得し、それぞれの差から、RFコイル22、23それぞれの感度を計算する。この場合、RFコイル22、23の感度は空間的に滑らかに変化することが多いので、低周波領域のみ取得することで計測時間を短縮し、体動アーティファクトを抑えることができる。例えば、RFパルス印加部に属するRFコイル21が空間的に均一な感度分布を持つ場合、RFコイル21で送受して得た画像と、RFコイル21を送信、RFコイル22、23を受信に使用して得た画像との強度の差から、RFコイル22、23それぞれの感度分布を計算する。例えば、従来のラインスキャン法でデータを取得し、RFコイル22、23それぞれで取得した計測信号の比を感度分布とすることもできる。この場合、RFコイル22、23の感度は空間的に滑らかに変化することが多いので、全てのラインの計測を行うのではなく間引きして計測することにより計測時間を短縮し、かつ、体動アーティファクトを抑えることができる。なお、感度分布は、測定対象の構造や組成に依存するため、感度分布算出のための計測は、実際の測定対象を用いて行うことが望ましい。しかしながら、模擬試料を用いて予備計測を行い、感度分布を算出し、その結果をデータ処理装置20に保存し、使用してもよい。
【0035】
なお、本実施形態では、両交差領域44、45からの信号を分離するために、RFコイル22、23の感度分布の差を利用するため、計測対象の交差領域44、45(同時に計測する座標(x,y)と(x、y)と)が、RFコイル22、23に感度差を生じさせる配置でなければならない。すなわち、上述の(式3)において、感度行列Aの行列式が0にならないようにすることが重要である。一般にループコイルの感度分布は、ループ面に水平な方向に関しては、ループの中心からの距離に応じて単調に減少する。一方、ループ面に垂直な方向に関しては、ループ面からの距離に応じて単調に減少する。本実施形態では、計測対象の交差領域44、45は、xy平面に平行なスライス面43上のx座標が異なる領域である。すなわち、x方向にアレイ状に並んでいる。従って、このようなx方向に離れた2点から各RFコイル22、23の中心までの距離の比が異なるよう、RFコイル22、23を配置する。本実施形態では、一例として、RFコイル22、23を、そのループ面をスライス41、42に直交させ、かつ、スライス41と42の法線方向にアレイ状に配置する。ここでは、ループ面をxz平面に平行にしてx方向にアレイ状に配置する。なお、ここでは典型的な例を示しており、ループ面はスライス41、42と平行でなければよく、またアレイ状に配置する方向も前記法線方向と垂直な方向でなければよい。
【0036】
次に、本実施形態のMRI装置100における計測および画像再構成の手順を説明する。図6は、本実施形態の処理フローである。
【0037】
制御装置14は、撮像パルスシーケンスに従ってRFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部を動作させ、二つの交差領域44、45から発生する高周波信号を二つのRFコイル22、23で取得する(ステップ601)。次に、制御装置14は、計算部にRFコイル22、23で取得した二つの線状の交差領域44、45からの高周波信号(エコー3522、3523)をフーリエ逆変換させる(ステップ602)。これにより、各RFコイル22、23で取得した高周波信号(エコー3522、3523)は、y方向の1次元画像に変換される。ただし、この1次元画像には、交差領域44および45からの計測信号が混合されている。次に、制御装置14は、計算部に、各RFコイル22、23の感度分布を用いて、両交差領域44、45からの計測信号が混合している1次元画像を、各交差領域44、45の一次元画像に分離させる(ステップ603)。
【0038】
制御装置14は、励起する交差領域44、45をシフトしながら、以上のステップ601〜603の処理を全計測領域を計測し終えるまで繰り返し(ステップ604)、2次元画像(xy平面の画像)を取得する。なお、励起する交差領域44、45のシフトは、第1RFパルス31の周波数fnを変えることにより行う。例えば、第1RFパルス31の第一回目の計測で印加する周波数(初期周波数)を、計測毎にΔfだけ増加させ、ステップ状に励起周波数fnを変化させる。すなわち、k回目の計測における第1RFパルス31の周波数fnは、fn=fn0+k・Δf(ここで、fn0は初期周波数、kは計測回数、Δfは増加量)と表される。このように励起周波数を変化させることにより、励起されるスライス面41、42をx方向に移動させることができ、結果として、交差領域44、45をx方向に移動させることができる。なお、1つのスライス面内を隙間なく計測する場合の増加量Δfは、2/C(Cは、変調前のsinc波形の周期(秒))である。また、スライス面41、42の厚さXwとCとの間には、Xw=4π/(γ・Gsx・C)(γは磁気回転比、Gsxは傾斜磁場32の印加強度(T/m))の関係がある。
【0039】
従来のラインスキャン法では、交差領域が一つだったために、全領域をカバーするために線状の領域の幅で除算した回数の繰り返しが必要である。しかし、本実施形態によれば、同時に二つの交差領域の信号を取得できるために、繰り返し回数を削減できる。特に、二つの交差領域である線状領域44、45の間隔を、視野(FOV)の半分に設定すると、繰り返し回数が従来の半分になり、計測時間が半減する。
【0040】
このように、本実施形態によれば、二つの面が交差する1ラインを走査する従来のラインスキャンに比べて、最高2倍の高速イメージングが可能となる。具体的には、例えば、視野256mm、分解能2mm、画素数128、一回のライン計測に要する時間を1sとすると、従来の単一ラインスキャンによれば計測に128秒かかるところ、本実施形態の方法では計測時間を64秒に削減できる。
【0041】
本実施形態によれば、従来のラインスキャンと同様に位相エンコード傾斜磁場を使用していないために、これによる体動アーティファクトの抑制効果は保持される。その上、計測時間の短縮により測定対象の計測中の動きが減るため、その分、さらに体動アーティファクトを抑制できる。特に、本実施形態によれば、交差領域を計測しながら分離処理も行うため、画像再構成に要する時間をさらに短縮することができる。なお、高速化により生じた余裕の時間を信号加算に用いることにより、SN比も向上させることができる。
【0042】
また、複数のRFコイルの感度分布を用いて複数の交差領域からの計測信号を分離するため、計測時間の短縮だけでなく、空間的な誤差の混入を抑制することもできる。
【0043】
また、本実施形態では、交差領域44、45をシフトする際に、前回の第2励起パルスで励起されたスライス面43内をシフトする。このため、スライス面43の磁化が十分回復するのを待たずに交差領域をシフトして計測を続けるよう構成することができ、T1強調を施した画像を取得しやすい。
【0044】
なお、本実施形態では、交差領域、RFコイル数をともに2つとした場合を例にあげて説明している。しかし、これらは、2つに限られない。
【0045】
例えば、本実施例では、第1励起パルスで2面を励起し、第2励起パルスで1面を励起することで、2つの交差領域を同時に計測し、その後分離処理を行う。これを拡張し、RFコイルの個数を3つにし、第1励起パルスが励起する面を3面に増加してもよい。なお、励起面を3面に増加するには、例えば、sinc波形と(式1)で表されるコサイン変調されたsinc波形とを加算した波形を、第1RFパルスとして用いればよい。この場合、3つの交差領域の分離処理において3行3列の逆行列演算が必要となる。3次元以上であっても、LU分解などの一般的な解法で解くことができる。また、RFコイルの個数を第1励起パルスが励起する面の数より多くしてもよい。例えば、RFコイルの数を3つにし、第1励起パルスが励起する面を2面にする。この場合、感度行列は2行3列の行列となる。これは、一般的な行列の解法である、行列の正規化を経て2行2列の正則行列に変換し、その逆行列を求めるといった手法で解くことができる。
【0046】
このように、交差領域数が2、3の計測方法はそのまま4以上の交差領域の処理に拡張でき、同時に信号計測が可能な交差領域の数を増加させると、その分、高速化が図れる。ただし、感度行列Aに逆行列を持たせるためには、交差領域の数は、RFコイルの数以下に設定する必要がある。これにより、複数のRFコイルの感度分布を用いた計測信号の分離算出の際に、混入する誤差を低減することが可能となる。また、感度行列Aの行列式の値が小さいと高周波信号に混入するノイズを増幅し、分離計算の誤差に伴うアーティファクトが発生しやすくなる。従って、複数のRFコイルの感度分布の差異がなるべく大きくなるような位置に、交差領域が設定されるよう、第1励起パルスと第2励起パルスとを制御する必要がある。
【0047】
また、本実施形態では、撮像パルスシーケンスにおいて、第1RFパルス31が90度パルス、第2RFパルス33が180度パルスの場合を例にあげて説明した。しかし、スライス面43を励起する第2RFパルスが90度パルスで時間的に先にあり、続いてスライス面41、42を励起する第1RFパルスが180度パルスに設定されていてもよい。すなわち、前記第1RFパルス31もしくは第2RFパルス33のどちらか一方を90度パルス、他方を180度パルスにする。90度と180度とのパルスを組み合わせることにより高周波信号の強度を高くすることができる。また、第2RFパルス33の周波数fmを変化させて、z方向にも走査するようにし、3次元画像を取得するよう構成してもよい。
【0048】
なお、本実施形態では、周波数fnを変化させ励起させるスライス面を移動させているが、第1の励起パルスの印加中に時間的に連続して第1のRFパルスの位相を変化させ、スライス面を移動させてもよい。周波数fnを変化させる場合、位相の連続性を保持するために、変化させる幅や時間に制限がかかる場合がある。例えば、シンセサイザ16の仕様によっては、周波数fnを変化させる場合、周波数を変化させる命令を受けた後、次に同じ位相となるまでの1/(周波数変化幅)の時間待つ必要がある。具体的には、100Hz変化させる場合、最大10msの待ち時間が必要になる。しかし、位相を時間的に連続的して変化させる場合、このような待ち時間がなくなる。
【0049】
また、二つのラインの間隔を視野の半分以下にし、測定対象10の存在する領域のみ両交差領域44、45として重複して計測し、この領域のSN比を高めるよう構成してもよい。また、両交差領域の間隔を、交差領域の幅のn+0.5倍(nは整数)とし、二つの交差領域が交差領域の幅の半分だけずれた状態にし、交差領域44を移動して視野全体を走査するとともに交差領域45を交差領域の幅が半分だけずれた状態で視野全体を走査してもよい。これにより、得られる画像の空間分解能を交差領域の幅の半分に向上することが可能となる。簡単に説明するため、交差領域44により視野の左端の1次元画像が取得され、交差領域45により視野の左端から交差領域の半分の幅だけ右にずれた位置の1次元画像が取得されているものとする。また、視野の端では測定対象がなく信号量が0という条件があるものとする。このとき、左端の半分の幅の1次元画像は0を値としてとり、右側に半分の幅ずれた1次元画像は、交差領域44の1次元画像から左端の半分の幅の1次元画像(すなわち0)を減算した値をとる。その右側に半分の幅ずれた1次元画像は、交差領域45の1次元画像から、先に計算した一つ左側の1次元画像を減算して得られる。このように逐次的に交差領域の半分の幅の1次元画像を計算していき、2次元画像を構成する。この結果、空間分解能を交差領域の半分の幅に向上した画像を得ることができる。
【0050】
なお、第1RFパルス31に用いられるパルス形状は、図3(b)に示すものに限られない。例えば、交差領域44、45の末端でのリンギングを抑えるためにパルスの両端の強度を下げるなどの最適化処理を施した波形を用いてもよい。また、(式4)に示すように、sinc波形にサイン波形で強度変調を加えたものを用いてもよい。
【数4】

この波形を図7(a)に示す。本波形を用いる場合、図7(b)に示すように実空間の励起領域のプロファイルにおいて二つの励起領域の励起位相は逆転する。励起位相が同一の場合、高周波信号のエコー中心での信号強度は二つを合わせたものとなるため、受信ゲインを低くする必要がある。これに対して、励起位相が逆転する場合、高周波信号のエコー中心での信号強度は二つを引いたものとなり、受信ゲインを高めることができ、結果として、ダイナミックレンジを拡大することができる。すなわち、第1RFパルス31もしくは第2RFパルス33もしくはその両方のRFパルスが励起する実質的に平行な複数の面の励起位相が、交互に逆転するよう励起パルスの波形形状を設定する。これにより、最大信号強度が抑制され、高周波信号のダイナミックレンジを高めることができる。また、パルス形状を強度変調したものではなく、(式5)に示すように、二つの周波数fn+α、fn−αの周波数を持つsincパルスを、同時に印加してもよい。
【数5】

このときのsincパルスの形状を図7(c)に、実空間での励起領域のプロファイルを図7(d)に示す。
【0051】
<第二の実施形態>>
次に第二の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に第一の実施形態と同様の構成を有する。第一の実施形態では、計測対象の交差領域44、45を計測し終える毎に、RFコイル22、23の感度分布を用いて両信号を分離し、各交差領域の1次元画像を取得する。しかし、本実施形態では、各線状領域の計測結果をメモリ等に保持し、測定対象の全領域の計測を終えた後に画像を分離し、全体画像を得る。また、本実施形態では、RFコイル22、23の感度分布の取得を、交差領域44,45の計測中に行う。以下、本実施形態の詳細について、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0052】
まず、本実施形態における感度分布取得の手法を説明する。感度分布は、単一のラインスキャンにより得られた信号の強度比を用いる。すなわち、単一スキャンで得た交差領域(L、y)のRFコイル22、23の計測結果S(a,y),S(b,y)と、各RFコイル22、23の感度W(a,L,y)、W(b,L,y)とは、以下の(式6)の関係がある。
【数6】

ここで、F(L、y)は、交差領域(L、y)の信号強度である。従って、感度Wの比は、計測結果Sの比で表すことができる。本実施形態では、複数箇所の交差領域(L,y)の感度Wの比を求め、内挿または外挿により、全領域でのx方向のRFコイル22、23の感度Wの比の分布を算出する。
【0053】
次に、本実施形態の計測領域の計測手順について説明する。図8は、本実施形態の計測領域の計測手順を説明するための図である。本実施形態では、交差領域44、45の計測(2ラインスキャン計測)の間に単一ラインスキャン計測を行い、単一ラインスキャン計測でられた信号の強度比からRFコイル22、23の感度分布を得る。本図において、領域(i〜vi)は、2ラインスキャン計測により計測される交差領域である。同じ符号の領域が交差領域44、45として計測される領域である。また、領域(L,L,L)は、単一ラインスキャン計測により計測される領域である。このように、本実施形態では、2ラインスキャン計測を行いながら励起する交差領域44、45をシフトさせ、L,L,Lの位置に来た際、単一ラインスキャン計測を行う。なお、上述のように、各L,L,Lの領域において取得した感度Wの比から内挿または外挿入により全計測領域の感度Wの分布を算出する。従って、L,L,Lの領域は、全計測領域を満遍なく代表するとともに、測定対象が存在する可能性の高い場所から選択する。また、各領域間の間隔は、未計測領域の誤差が大きくならないよう選択する。
【0054】
次に、本実施形態のMRI装置100における計測および画像再構成の手順を説明する。図9は、本実施形態の計測処理を説明するためのフローである。
【0055】
制御装置14は、撮像パルスシーケンスに従って、RFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部を動作させ、二つの交差領域44、45から発生する高周波信号を二つのRFコイル22、23で取得する(ステップ813)。取得した高周波信号は、データ処理装置20のメモリ(不図示)などに保存する。第一の実施形態と同様の手法で励起する交差領域44、45をシフトさせながら、計測対象領域を計測し終えるまで計測を繰り返す(ステップ811〜816)。このとき、本実施形態では、制御装置14は、図8の示す領域(i〜vi)を計測する場合は、二つの交差領域44、45を同時に計測する2ラインスキャン計測を行い、LおよびL、Lを計測する場合は、従来の単一ラインスキャン計測を行うよう各部を制御する(ステップ812)。図8の例では、励起する交差領域44、45をシフトさせ、2ラインスキャン計測で、領域i〜iiiを計測し、次に、単一ラインスキャン計測で、領域LおよびLを順に計測し、その後、2ラインスキャン計測で領域iv〜viを計測し、最後に単一ラインスキャン計測でLを計測する。
【0056】
全計測領域の計測を終えると、制御装置14は、計算部に、RFコイル22、23それぞれで取得した高周波信号(領域i〜vi、L、L,Lからの高周波信号)をy方向にフーリエ逆変換することによりy方向の一次元画像を算出させる(ステップ817)。
【0057】
次に、制御装置14は、計算部に、単一ラインスキャンで得た領域L、L、Lの、RFコイル22、23それぞれの計測結果から、全計測領域のx方向のRFコイル22、23の感度Wの比の分布を作成させる(ステップ818)。
【0058】
制御装置14は、計算部に、ステップ814で得られた感度Wの比の分布を用い、第一の実施形態と同様に、交差領域44、45の信号が混合した領域i〜viの一次元画像を、それぞれ、交差領域44、45の一次元画像に分離させる(ステップ819)。
【0059】
制御装置14は、計算部に、分離後の各交差領域i〜vi、i〜viの一次元画像と、単一ラインスキャンで取得したL、L、Lから算出した一次元画像とを合わせ、二次元画像を再構成させる(ステップ820)。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、2ラインスキャン計測の合間に、単一ラインスキャン計測を行うことにより、計測中に感度W(の比)の分布を取得することができる。従って、より正確な感度分布を得ることができるとともに、別個に感度分布を取得する計測を行う場合に比べ、計測全体にかかる時間を短縮することができる。
【0061】
なお、本実施形態においても、予め取得した感度分布を用いて計測をおこなってもよい。このときの制御装置14の制御による処理のフローを図10に示す。本図に示すように、二つの交差領域44、45から発生する高周波信号を二つのRFコイル22、23で取得する(ステップ801)。取得した高周波信号は、データ処理装置20のメモリなどに保存する。第一の実施形態と同様の手法で励起する線状領域44、45をシフトしながら、全計測対象領域を計測し終えるまで計測を繰り返す(ステップ802)。
【0062】
次に、保存された各高周波信号をy方向にフーリエ逆変換することにより、各RFコイル22、23について、2次元画像を算出する(ステップ803)。
【0063】
ここで得られた2次元画像には、同時に取得した交差領域44および交差領域45の計測信号が混入している。従って、これらを分離する処理を行い、画像を再構成する(ステップ804)。本実施形態においても、第一の実施形態と同様に、RFコイル22、23の感度分布を用い、交差領域44側から得られた高周波信号による2次元画像と、交差領域45側から得られた高周波信号による2次元画像とに分離する。なお、2次元画像において、感度分布を用いて分離処理を行う。従って、従来のSENSE法で用いられるアルゴリズムを分離処理に適用することができる。また、本実施形態において、ステップ803の処理をステップ801の直後に行うよう構成することにより、計測後の画像再構成の処理がステップ804のみとなり、処理時間を短縮することができる。すなわち、高周波信号取得後y方向にフーリエ逆変換を行い、メモリに格納し、それを全計測領域について繰り返す。
【0064】
<<第三の実施形態>>
次に、第三の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に第一の実施形態と同様の構成を有する。第1の実施形態では、第1励起パルスの周波数fnを変化させ、第2励起パルスにより励起するスライス面内で励起させる交差領域を移動させている。本実施形態では、第1励起パルスの周波数fnを変化させ、直前に印加された第2励起パルスにより励起する励起面外に交差領域を移動させる。以下、本実施形態の詳細につき、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0065】
まず、本実施形態の、RFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部によるエコーの取得法および取得されるエコーについて説明する。本実施形態においても、制御装置14が、予めプログラムされたタイミング(撮像パルスシーケンス)に従ってこれらの各部を制御する。以下、本実施形態の撮像パルスシーケンスに従って、各部の動作を説明する。
【0066】
図11は、本実施形態の撮像パルスシーケンス図である。ここでは、横軸に時間(t)、縦軸にRFパルス印加部により印加される高周波磁場RF、傾斜磁場印加部により印加される傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度とを表す。ADは、信号検出部によるデータ取得期間である。また、図12は、本実施形態の撮像パルスシーケンスにより励起される領域を、説明するための図である。ここでは、xz平面で説明する。
【0067】
x方向のスライス傾斜磁場92とz方向のスライス傾斜磁場93との印加とともに、周波数fnで二つの励起面をもつ第1RFパルス91を印加し、図12に示す二つのスライス101および102内に核磁気共鳴現象を誘起する。ここで、第1RFパルス91には、第一の実施形態と同様の、sin波形を連続した周期的関数波形で変調し、強度を90度に設定したパルスを用いる。また、本実施形態においても、以降、簡単のため、第1RFパルス91とスライス傾斜磁場92、93とを合わせて第1励起パルスと呼ぶ。
【0068】
次に、x方向のスライス傾斜磁場95とz方向のスライス傾斜磁場96との印加とともに、周波数fmで一つの励起面をもつ第2RFパルス94を印加し、図12のスライス103内の磁化を反転する。第2RFパルス94には、第一の実施形態と同様の、sinc波形の強度を180度に設定したパルスを用いる。また、スライス傾斜磁場96は、スライス傾斜磁場93と極性を反転させる。ここでも、以後、簡単のため、第2RFパルス94とスライス傾斜磁場95、96とを合わせて第2励起パルスと呼ぶ。
【0069】
スライス傾斜磁場93と96との極性が反転していることから、第1の励起パルスにより励起されるスライス101および102と、第2の励起パルスにより励起されるスライス103とは交差し、この交差領域からエコーが発生する。なお、交差領域は、二つの線状の領域104および105である。その後、y方向にリードアウト傾斜磁場98を印加しながら交差領域104および105からの高周波信号であるエコー97をAD取得99する。これにより、y方向の空間情報が得られる。なお、前述したように高周波磁場コイル系13のRFコイル22、23で取得された高周波信号は、それぞれ別個に信号検出部に送られ、処理される。
【0070】
本実施形態においても、制御装置14は、励起する領域104および105をシフトさせ、全計測領域を計測する。すなわち、制御装置14は、第1RFパルス91の周波数fnと第2RFパルス94の周波数fmとを変えることにより、スライス面101、102、103をx方向に移動させ、結果として、交差領域である104、105をx方向、すなわち、スライス面103外に移動させる。これを繰り返し、所定の2スライス内の、全領域の計測信号を取得する。
【0071】
本実施形態においても、第一の実施形態と同様にRFパルスの周波数をステップ状に変化させ、交差領域104、105を移動させる。ここでは、第1RFパルス91の周波数fnおよび第2RFパルス94の数端数fmを、計測毎にそれぞれΔfnおよびΔfm増加させ、ステップ状に励起周波数を変化させる。すなわち、k回目の計測における第1RFパルス91および第2RFパルス94の周波数は、それぞれ、fn=fn0+k・Δfn、fm=fm0+k・Δfm(ここで、fn0およびfm0は初期周波数、kは計測回数、ΔfnおよびΔfmはそれぞれ増加量)と表される。
【0072】
また、スライス面101および102と、スライス面103との厚みが等しく、かつ、直交している場合、すなわち、交差領域104および105のxz平面への投影面が正方形となる場合、重なること無しに隙間なく全計測領域のスライスを走査するためには、Δfn=4/C、Δfm=−4/Cとすればよい。ここで、Cは、第一の実施形態同様、変調前のsinc波形の周期(秒)である。
【0073】
なお、ここでは、周波数fn、fmを変化させ、計測信号を取得する線状の交差領域を移動させる場合を例にあげて説明した。しかし、交差領域を移動させる手法はこれに限られない。例えば、第一の実施形態同様、第1励起パルスおよび第2励起パルスの印加中に時間的に連続してそれぞれ第1RFパルス91および第2励起パルス94の位相を変化させ、スライス面101、102、103を移動させてもよい。位相を時間的に連続して変化させて交差領域を移動させる場合、位相の連続性を保持するための待ち時間が不要になる。
【0074】
本実施形態においても、計算部は制御装置14の指示に従って、以上の撮像パルスシーケンスにより取得したエコー97から画像を再構成する。再構成にあたり、本実施形態においても、2つの交差領域104、105からの高周波信号が混合したエコー97を、各領域からのものに分離する。本実施形態において、エコーの分離および画像の再構成は、第一の実施形態および第二の実施形態、いずれの方法も用いることができる。なお、本実施形態において、RFコイル22、23は、第一、第二の実施形態同様、両交差領域104、105からの信号が分離可能なように配置する。
【0075】
以上説明したように、本実施形態においても、同時に二つの交差領域から高周波信号を取得するために、画像を再構成するために必要なラインスキャン計測を繰り返す回数が従来の半分になる。また、第一および第二の実施の形態では、前回の第2励起パルスで励起されたスライス面43内で線状領域44、45をシフトさせる。従って、T1強調を求めない場合は、スライス面43内の磁化が十分回復するのを待つため、繰り返し時間TRを十分長くとる必要がある。これに対し、本実施形態によれば、線状領域104、105をシフトする方向は、前回の第1、2励起パルスでは励起されていない領域の方向である。従って、磁化の回復を待つために長い繰り返し時間TRをとる必要はなく、短い繰り返し時間TRで十分な信号強度が得られる。なお、励起プロファイルの不完全性により隣接した領域で前回の計測の影響が残る場合は、逐次的に線状領域104、105をシフトするのではなく、数個置きにシフトするなどのシーケンス上の工夫をし、影響を除くことが可能である。
【0076】
以上、本実施形態によれば、繰り返し時間TRを短く設定することができるため、さらに、画像再構成に必要な領域全体を計測する時間を短縮することができる。具体的には、例えば、視野256mm、分解能2mm、画素数128、一回のライン計測に要する時間を100msとすると、従来法では取得に、1スライスあたり12.8秒必要である。一方、本実施形態によれば、2スライスを同時に取得できるため、1スライスに換算すれば、6.4秒で計測できることとなる。本実施形態においても、位相エンコードを行わないため、ラインスキャン法が本来有する体動アーティファクトの少なさは保持される。さらに、計測時間が短縮されるために、測定対象が計測時間中に動いてしまう確率を低減することができ、結果的に体動アーティファクトを更に抑制できる。
【0077】
<<第四の実施形態>>
次に、第四の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に第一の実施形態と同様の構成を有する。前記各実施形態では、同時に2つの線状の交差領域を計測する。しかし、本実施形態では、同時に4つの線状の交差領域を計測する。従って、撮像パルスシーケンスが同時の4つの線状領域を励起可能なものであることに加え、コイルの配置が、4つの線状領域からの高周波信号を分離可能なものである点が上記各実施形態とは異なる。以下、本実施形態について、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0078】
まず、本実施形態の、RFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部によるエコーの取得法および取得されるエコーについて説明する。本実施形態においても、制御装置14が、予めプログラムされたタイミング(撮像パルスシーケンス)に従ってこれらの各部を制御する。以下、本実施形態の撮像パルスシーケンスに従って、各部の動作を説明する。
【0079】
図13は、本実施形態の撮像パルスシーケンスである。ここでは、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度を表す。ADはデータ取得期間である。また、図14は、本実施形態の撮像パルスシーケンスにより励起される領域を説明するための図である。ここでは、xy平面で説明する。なお、図14において、111、112、113、114は、本実施形態の周波磁場コイル系13を構成するRFコイルである。詳細は後述する。
【0080】
x方向のスライス傾斜磁場122とy方向のスライス傾斜磁場123との印加とともに、周波数fnで二つの励起面をもつ第1RFパルス121を印加し、図14に示す二つのスライス131および132内に核磁気共鳴現象を誘起する。ここで、第1RFパルス121には、第一の実施形態と同様の、sinc波形を連続した周期関数波形で変調し、強度を90度に設定したパルスを用いる。また、本実施形態のおいても、以降、簡単のため、第1RFパルス121とスライス傾斜磁場122、123とを合わせて第1励起パルスと呼ぶ。
【0081】
次に、x方向のスライス傾斜磁場125とy方向のスライス傾斜磁場126との印加とともに、周波数fmで二つの励起面をもつ第2RFパルス124を印加し、図14に示す二つのスライス133および134内の磁化を反転する。第2RFパルス124には、第1RFパルス121と同様の、sinc波形を連続した周期関数波形で変調したものであって、強度は180度に設定したパルスを用いる。また、スライス傾斜磁場126は、スライス傾斜磁場123と極性を反転させる。ここでも、以後、簡単のため、第2RFパルス124とスライス傾斜磁場125、126とを合わせて第2励起パルスと呼ぶ。
【0082】
本実施形態においても、スライス傾斜磁場123と126との極性が反転していることから、第1の励起パルスにより励起されるスライス131、132と、第2の励起パルスにより励起されるスライス133、134とは交差し、この交差領域からエコーが発生する。なお、交差領域は、四つの線状の領域135、136、137、138である。
【0083】
その後、z方向にリードアウト傾斜磁場128を印加しながら高周波信号であるエコー127をAD取得129する。これにより、z方向の空間情報が得られる。なお、本実施形態においても、高周波磁場コイル計13のRFコイルで取得される高周波信号は、それぞれ別個に信号検出部に送られ、処理される。
【0084】
本実施形態においても、制御装置14は、第1RFパルス121の周波数fnと第2RFパルス124の周波数fmとをそれぞれ変更し、スライス面131、132、133、134をx方向に移動し、結果として、交差領域135、136、137、138をx方向に移動する。さらに、y方向についても同様に第1RFパルス121の周波数fnと第2RFパルス124の周波数fmとを変更して各スライス面を移動させ、各交差領域を移動させる。これを繰り返し、3次元の全領域の計測信号を取得する。
【0085】
本実施形態においても、第三の実施形態と同様に、第1RFパルス121の周波数fnおよび第2RFパルス124の周波数fmを、計測毎にそれぞれΔfnおよびΔfm増加させ、ステップ状に励起周波数を変化させ、交差領域135、136、137、138を移動させる。すなわち、k回目の計測における第1RFパルス121および第2RFパルス124の周波数は、それぞれ、fn=fn0+k・Δfn、fm=fm0+k・Δfm(ここで、fn0およびfm0は初期周波数、kは計測回数、ΔfnおよびΔfmはそれぞれ増加量)と表される。
【0086】
以上のように各スライス面を移動させ、各線状領域を移動させることにより、3次元の全領域の計測信号を取得し、3次元画像を再構成する。本実施形態の画像再構成の手法は、基本的に第一から第三の実施形態と同じである。すなわち、計算部は制御部14の指示に従って、以上の撮像パルスシーケンスにより取得したエコー127を、各交差領域からの信号に分離し、画像を再構成する。ただし、4つの交差領域135、136、137、138からの信号を分離する必要がある。このため、各高周波信号を受信するRFコイルは、最低4つ必要であり、かつ、感度行列Aの逆行列が0でないように、すなわち、各RFコイルについて、4つの交差領域からの信号を異なる感度で受信可能なように配置する必要がある。
【0087】
上記条件を満たす高周波磁場コイル系13のRFコイルの配置の一例を図15に示す。本例では、4つのRFコイル111、112、113、114がそれぞれxy平面上の断面が略1/4の円弧形状を有し、全体で円筒形を成すように構成される。それぞれのRFコイルは増幅器18に別個に接続され、計測された高周波信号は別個に取得される。なお、本図では、簡単のため、送信用のRFコイルやデチューニング回路を省略する。また、この例では4つのRFコイルが重ならないように表示されているが、実際には円筒形の側面において、隣り合うRFコイルの一部が重なるよう配置される。もちろん、RFコイルの個数や形状は、4つの交差領域からの信号を異なる感度で受信可能であれば、これに限られず、様々な変形が可能である。
【0088】
なお、上述のように、本実施形態では、4つの交差領域からの信号を分離する必要があり、RFコイル数も4つであるため、各RFコイルの感度分布から得られる感度行列も4×4行列となる。このため、逆行列演算には、LU分解やSingular Value Decompositionなどの高次行列の逆行列演算に使用する解法を使う。
【0089】
以上説明したように、本実施形態によれば、同時に4つの線状領域の高周波信号を取得できるため、繰り返し回数が従来の1/4になり、その分全体の計測時間も短縮する。本実施形態においても、第2励起パルスが励起する面数を3以上に増加させてもよい。第2励起パルスが励起する面も実質的に平行な複数の面となり、交差領域の個数が増加し、計測時間の短縮率を高めることができる。
【0090】
さらに、第一〜第三の実施形態と比較すると、本実施形態によれば、本実施形態特有のRFコイルの配置により、励起させる複数の線状領域の設定(ライン設定)の自由度が上昇する。例えば、第1の実施の形態では、RFコイルの感度の差がx方向にのみ高いため、感度の差を明確にして分離するため、励起する複数の交差領域は、x方向に離れるよう設定する必要がある。これに対し、本実施形態の上記配置によれば、RFコイルの感度の差はx方向にもy方向にも高く、いずれの方向に離して複数の交差領域を設定しても計測信号を分離することができる。
【0091】
なお、本実施形態によれば、交差領域選択について高い自由度を有し、かつ、高速化が可能である。しかし、2次元画像のみが必要な場合でも、不必要な計測信号を取得することとなる。以下、本実施形態において、4つの交差領域のうち、2つの交差領域からの信号を抑制する手法を説明する。撮像パルスシーケンス以外は、4つの交差領域からの信号を取得する実施形態と同様であるため、以下、撮像パルスシーケンスのみ説明する。
【0092】
図16は、2つの交差領域のみから計測信号を発生させるための撮像パルスシーケンスである。また、図17は、図16の撮像パルスシーケンスにより励起される領域を説明するための図である。ここでは、xy平面で説明する。なお、図16では、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度を表す。ADはデータ取得期間である。また、制御装置14は、本撮像パルスシーケンスに従って、RFパルス印加部、信号検出部、傾斜磁場印加部の動作を制御し、エコーを取得する。
【0093】
スライス傾斜磁場142およびスライス傾斜磁場143の印加とともに、二つの励起面を有する二つのRFパルスの組で、最初のRFパルスの周波数がfn、2番目のRFパルスの周波数がfmである第1RFパルス141を印加する。個々のRFパルスをそれぞれ141−1、141−2とする。ここで、第1RFパルス141の個々のRFパルス141−1、141−2には、二つの励起領域の励起位相が逆転するよう変調を施されたsincパルス、例えば、図7(a)に示すサイン変調を施したsincパルス、を用いる。また、第1RFパルスを構成する個々のRFパルス141−1,141−2の強度はそれぞれ45度とする。また、図16に示すように、第1RFパルス141の2番目のパルス141−2を印加する際、スライス傾斜磁場143を反転させる。
【0094】
第1RFパルス141の最初のパルス141−1と傾斜磁場142、143とにより、図17に示す二つのスライス151および152内に核磁気共鳴現象を誘起する。ただし、スライス151の励起プロファイルの位相はプラス(+)、スライス152のそれはマイナス(−)で、核磁化は45度倒される。次いで、第1RFパルス141の2番目のパルス141−2と傾斜磁場142、143とにより、図17に示す二つのスライス153および154内に核磁気共鳴現象を誘起する。ただし、スライス153の励起プロファイルの位相は+、励起スライス154のそれは−で、核磁化は45度倒される。このように、第1RFパルス141と傾斜磁場142、143とにより、ともに励起プロファイルの位相が+で核磁化が倒される交差領域157と、ともに−で核磁化が倒される交差領域158とは、結果として90度核磁化が倒されることになる。これに対し、他の交差領域155、156では核磁化は0度になり励起されない。
【0095】
次に、スライス傾斜磁場145およびスライス傾斜磁場146の印加とともに、二つの励起面を有する二つのRFパルスの組で、最初のRFパルスの周波数がfn、2番目のRFパルスの周波数がfmである第2RFパルス144を印加する。個々のRFパルスをそれぞれ144−1、144−2とする。ここで、第2RFパルス144の個々のRFパルス144−1、144−2にも、図7(a)に示すサイン変調を施したsincパルスを用いる。ただし、第2RFパルスを構成する個々のRFパルス144−1,144−2の強度はそれぞれ90度とする。これにより、第1RFパルス141と傾斜磁場142、143とにより核磁化が倒されている交差領域157および158のみ180度核磁化が倒され、エコー147を発生する。従って、エコー147には、交差領域157および158からの計測信号のみが混合される。
【0096】
本実施形態においても、制御装置14は、第1RFパルス141の周波数fn、fmと第2RFパルス144の周波数fn、fmとをそれぞれ変更し、スライス面151、152、153、154をx方向に移動し、結果として、交差領域157、158をx方向に移動する。これを繰り返し、x方向に平行な所定の2スライス内の全領域の計測信号を取得する。本実施形態においても、第1RFパルス141および第2RFパルス144の周波数fn、fmを、計測毎にそれぞれΔfnおよびΔfm増加させ、ステップ状に励起周波数を変化させ、交差領域155、156、157、158を移動させる。すなわち、k回目の計測における第1RFパルス141および第2RFパルス144の周波数は、それぞれ、fn=fn0+k・Δfn、fm=fm0+k・Δfm(ここで、fn0およびfm0は初期周波数、kは計測回数、ΔfnおよびΔfmはそれぞれ増加量)と表される。
【0097】
また、スライス面151および152と、スライス面153、155との厚みが等しく、かつ、直交している場合、すなわち、交差領域157および158のxy平面への投影面が正方形となる場合、重なること無しに隙間なく全計測領域のスライスを走査するためには、Δfn=4/C、Δfm=−4/Cとすればよい。ここで、Cは、第一の実施形態同様、変調前のsinc波形の周期(秒)である。
【0098】
なお、本実施形態において、交差領域157および158を含むスライス、すなわち、y方向に平行な1つのスライスを高速に取得するためには、交差領域157および158をy方向に移動させるよう励起周波数を変化させる。例えば、上記Δfn=4/C、Δfm=4/Cとする等、走査する方向に応じて周波数の変更ステップの符号を変更する。なお、変更ステップの符号は、傾斜磁場の印加符号に応じて変化する。一般にスライス位置のオフセットΔpsは、Δps=2π・Δf/(γ・gs)(Δfは周波数のオフセット、gsはスライス傾斜磁場の印加強度、γは磁気回転比)の関係がある。この関係を用い、励起位置を調整する。
【0099】
なお、本撮像パルスシーケンスだけでは、励起プロファイルの不完全性により、端点から計測信号が若干発生する。このため、励起プロファイルが完全なものに近づくようSLR(Shinnar−LeRoux)パルスなどの最適化パルスを使用し、不要な計測信号の発生を抑える。また、本撮像パルスシーケンスのプリパルスとして、OVS(Outer Volume Suppression)パルスを印加し、不要な信号をさらに抑制してもよい。また、不要なラインを測定対象やRFコイルの感度の外に設定してもよい。
【0100】
以上説明したように、第1RFパルス141の最初のRFパルス141−1および2番目のRFパルス141−2の励起位相が複数の面で反転するパルス形状を用い、これらを45度パルスとして印加した後、さらに第2RFパルス144の最初のRFパルス144−1および2番目のRFパルス144−2を90度パルスとして印加し、前記複数の交差領域のうち第1RFパルスの最初のRFパルス141−1および2番目のRFパルス141−2の両方の励起位相が合致した交差領域からの高周波信号のみを実質的に取得する。これにより、第一〜第三の実施形態と比較して交差領域選択の自由度が高い中で、実質的に計測信号を発する交差領域の個数を抑制することが可能となり、交差領域の数を必要数に抑えることができる。
【0101】
なお、本実施形態において、RFコイルの個数を8つにし、第1励起パルスで励起する面数を3面、第2励起パルスで励起する面数を2面とし、交差領域の数を6つとするよう設定してもよい。また、2つの交差領域からの計測信号を抑圧する方法を用い、第1励起パルスで励起する面数を3面、第2励起パルスで励起する面数を3面とし、9つの交差領域のうち4つの交差領域からの信号を抑圧するよう設定してもよい。このように、計測信号を発生する交差領域数を、RFコイルの個数以下に制限する工夫を撮像パルスシーケンスにいれることで、画像再構成時に感度行列の逆行列が得られる可能性が高まり、複数の交差領域からの信号を分離できる可能性も高まる。さらに第1励起パルスや第2励起パルスで励起する面の数を3よりも多くし、同時に取得する交差領域の数を増やしてもよい。なお、励起する面の数を多くするには、sinc波形、コサイン変調sinc波形、サイン変調sinc波形の変調周波数を変え、適切に加減算した波形を生成し、RFパルスとして用いればよい。もしくは周波数の異なるsinc波形を適切に加減算して生成した波形を用いてもよい。これは、励起する面を加えたいときには、相当するRFパルスを加算すればよいという、いわゆる加法性が成立しているためである。
【0102】
<<第五の実施の形態>>
次に、第五の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に前述の各実施形態と同様の構成を有する。本実施形態では、前述の各実施形態の手法に拡散強調用傾斜磁場を加え、拡散画像を取得する。ここでは、一例として、第三の実施形態で示した撮像パルスシーケンスに拡散強調傾斜磁場を加えた場合を例に挙げて説明する。以下、第三の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0103】
図18は、本実施形態の撮像パルスシーケンスである。本図は、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度を表す。ADはデータ取得期間である。ここでは、第三の実施形態の撮像パルスシーケンスと同じ機能を有するものには同じ番号を付与する。
【0104】
第三の実施形態の撮像パルスシーケンスとの違いは、第2RFパルス94の前後に拡散傾斜磁場161、162が印加されている点である。この二つの拡散傾斜磁場161、162は、強度と時間の積が等しくなるように調整され、分子拡散の激しい程信号を減衰させる。それにより拡散の程度を計測する。なお、計測フローと画像再構成方法は第三の実施形態と同一である。
【0105】
以上説明したように、本実施形態では、体動の影響を受けやすい拡散強調画像を再構成するために必要なエコーを取得するため、傾斜磁場印加部は、第1もしくは第2の励起パルスの時間的に早い方から、信号検出部が高周波信号を計測するまでの間に、分子拡散を検出するための互いに補償する少なくとも一組の拡散強調傾斜磁場を印加する。位相エンコード傾斜磁場を使用するシーケンスの場合、拡散傾斜磁場が印加されると、僅かな体動があっても大きな位相誤差となり、位相エンコード方向に画像が流れたようなアーティファクトが発生する。従来の単一ラインのラインスキャン法では、このようなアーティファクトを抑制することができるが、計測時間が長くかかる。本実施形態によれば、複数の交差領域の計測信号を同時に取得でき、1スライス当りの計測時間に換算すれば、計測時間を短縮できる。
【0106】
なお、本シーケンスは典型的な一例を示したもので、拡散傾斜磁場をバイポーラ形に変更する、拡散傾斜磁場の強度や時間間隔等を変更して分子拡散による信号減衰の割合を変化させた画像を複数取得し、ADC(Apparent Diffusion Coefficient)を計算する等、撮像パルスシーケンスの変更は可能である。また、拡散傾斜磁場の印加方向を複数にし、拡散異方性を計算することやトラクトグラフィを行うなど拡散計測に関する様々な手法を組み合わせることも可能である。さらに、ここでは、第三の実施形態の撮像パルスシーケンスを基本とした場合を例にあげて説明したが、第一、第二、第四のいずれの実施形態の撮像パルスシーケンスであっても適用できる。
【0107】
<<第六の実施形態>>
次に、第六の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に第一から第四の各実施形態と同様の構成を有する。本実施形態では、EPI(Echo Planar Imaging)などの高速イメージング技術に第一から第四の各実施形態で説明した複数ラインスキャンの手法を適用するものである。以下、EPIに第一の実施形態の手法を適用する場合を例にあげて説明する。ここでは、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0108】
図19は、本実施形態の撮像パルスシーケンスである。本図は、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度を表す。ADはデータ取得期間である。ここでは、第一の実施形態の撮像パルスシーケンスと同じ機能を有するものは同じ番号を付与する。
【0109】
第一の実施形態の撮像パルスシーケンスとの違いは、スライス傾斜磁場34の印加強度が第一の実施形態の撮像パルスシーケンスに比べて小さくなっている点、および、リードアウト傾斜磁場として、EPIで使用される振動傾斜磁場172およびブリップ状の傾斜磁場173がそれぞれy方向およびz方向に印加される点である。スライス傾斜磁場34の印加強度が第一の実施形態の撮像パルスシーケンスに比べて小さくなっているため、本実施形態では、励起するスライス面の幅が第一の実施形態の場合に比べて広くなる。また、振動傾斜磁場172およびブリップ状の傾斜磁場173が印加されるため、計測されるエコー171が複数になる。
【0110】
図20を用いて、本撮像パルスシーケンスによる励起領域について説明する。図20(a)に示すように、図4に示す場合と比べ、第2励起パルスによるスライス面183の厚さが増し、スライス面181、182とスライス面183との交差領域184、185がスラブ状となる。励起された交差領域(スラブ)184、185は、それぞれ、y方向に印加される振動傾斜磁場172とz方向に印加されるブリップ状の傾斜磁場173とにより、図20(b)に示すようにk空間上でデータが充填される。各RFコイル22、23で計測された高周波信号を、一般にEPIで用いられる画像再構成方法により処理すると、各コイル22、23の感度分布に応じて計測された2つの交差領域(スラブ)184、185からの高周波信号が混入した二つの画像が得られる。これに対し、本実施形態においても、第一の実施形態と同様の分離処理を行い、各交差領域184、185の2次元画像を得る。
【0111】
以上の処理を繰り返し、全計測領域をくまなく走査し、得られたエコーから3次元画像を再構成する。図20(c)はxz平面上での走査順序の一例を示したものである。ここで、同じ数字が付与されている二つのスラブは同時に取得されるスラブ(交差領域)である。この一組のスラブ(交差領域)からの計測信号の取得を、付与された番号の順に繰り返す。本図に示す走査は、第1RFパルス31の周波数fnをスラブの端から端までに相当する周波数間でステップ状に変化させ、第2RFパルス34の周波数fmをfmとfm+Δfmを交互に繰り返すことにより実現できる。
【0112】
例えば、以下のとおりである。ここで、fn0およびfm0は初期周波数、kは計測回数、ΔfnおよびΔfmはそれぞれ増加量、mod(k、2)は、kが偶数の時に0、奇数の時に1となる関数である。
計測回数k=1,2,3,4の場合
fn=fn0+(k−1)・Δfn、
fm=fm0+mod((k−1)、2)・Δfm
計測回数k=5,6,7の場合
fn=fn0+(k−4)・Δfn、
fm=fm0+mod(1−(k−1)、2)・Δfm
計測回数k=8の場合
fn=fn0+(k−4)・Δfn、
fm=fm0+mod(1−(k−1)、2)・Δfm
【0113】
本図に示すように取得する交差領域を移動させると、第三の実施の形態で述べたように、次の交差領域にシフトする場合、前回の励起スライスの影響を受けることが少ない。このため、磁化が回復するための長い待ち時間を設定する必要がなく、計測時間の短縮が可能となる。なお、本実施形態において、その他の計測フロー、複数スライス(スラブ)からの高周波信号の分離手法、画像再構成法は基本的に第一の実施形態と同一である。
【0114】
以上説明したように、本実施形態によれば、交差領域の断面が広くなり画像の空間分解能が低下するのを防ぐために、傾斜磁場印加部は、交差領域のy方向およびそれと垂直な第1もしくは第2の方向、あるいは、y方向に垂直な2方向に傾斜磁場を印加し、交差領域の内部の空間的な情報を取得する。これにより交差領域内の2次元画像もしくは3次元画像が取得できるため、画像の空間分解能を高めることができる。すなわち、本実施形態によれば、スラブ状の交差領域内について、ブリップ状の傾斜磁場によりジグザグにk空間が充填されるため、kz方向に十分データを取得すれば、空間分解能を高めることができる。また、本実施形態によれば、空間情報を付与するための繰り返しの位相エンコード傾斜磁場が使用されていないため、これによる体動アーティファクトは抑制される。その上で2つのスラブが同時に取得されるので計測時間を短縮することができる。
【0115】
なお、本実施形態では、スラブ状の交差領域内をイメージングする方法としてEPIを用いる場合を例にあげて説明した。しかし、用いるイメージング技術はこれに限られない。例えば、FLASHやFast Spin Echoなどの高速イメージングを組み合わせることも可能である。また、高速イメージング技術に第一の実施形態の複数ラインスキャンの手法を適用する場合を例にあげて説明したが、第二〜第四の実施形態も同様に適用できる。
【0116】
さらにスラブ内で、コイル感度分布を用いて位相エンコード回数を減らすSENSE法などを組み合わせてもよい。例えば、EPIの位相エンコード(ブリップ位相エンコード)を減らし、T2やT2*の影響を小さくすることができる。
【0117】
なお、本実施形態の複数ラインスキャンで励起するスラブの大きさと高速イメージングの視野とは必ずしも同一でなくても良い。高速イメージングの視野をスラブより大きくすることでスラブの端での信号の落ち込みを計算し、補正処理を加えたり、隣り合うスラブの画像を滑らかに接続することが可能となる。
【0118】
ブリップ状の傾斜磁場173の印加強度もしくは印加時間を低下させると,y方向の視野が広がる。従って、y方向の視野Ly(=2π/(γ・Gbz・Tbz))と、RFパルス33により励起される面の厚さSy(=4π/(γ・Gsz・C))とが、Ly>Syとの関係を満たすようブリップ状の傾斜磁場の強度Gbzもしくは印加時間Tbzを調整すればよい。ここで、γは磁気回転比,Gbzはブリップ状の傾斜磁場173の印加強度,Tbzは各ブリップの印加時間,Cはsinc波形の周期(秒),Gszは傾斜磁場34の印加強度である。
【0119】
なお、全計測領域の走査は、上記手順に限られない。例えば、第1RFパルスfnをステップ状に変化させ、x方向の全計測領域の走査を終えた後、第2のRFパルスfmをステップ状に変化させ、z方向の計測領域を移動させるといった手順を繰り返してもよい。
【0120】
<<第七の実施形態>>
次に、第七の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に第一から第四の各実施形態と同様の構成を有する。本実施形態では、ケミカルシフトイメージング技術に第一から第四の各実施形態で説明した複数ラインスキャンの手法を適用するものである。以下、第一の実施形態の手法を適用する場合を例にあげて説明する。ここでは、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0121】
図21は、本実施形態の撮像パルスシーケンスである。本図は、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度を表す。ADはデータ取得期間である。ここでは、第一の実施形態の撮像パルスシーケンスと同じ機能を有するものは同じ番号を付与する。
【0122】
第一の実施形態の撮像パルスシーケンスとの違いは、リードアウト傾斜磁場として振動傾斜磁場192がy方向に印加される点である。それに伴い、計測されるエコー191は複数となる。振動傾斜磁場192は、y方向の空間情報とケミカルシフト情報とをエコー191に付与する。画像再構成処理において、取得した各エコー191を偶奇で正負向きを逆転させてk空間に充填し、もしくは偶数エコーのみ奇数エコーのみを別個に抽出してk空間に充填し、2次元FFTを適用すると、y方向の空間情報とケミカルシフト情報とを有する1次元のケミカルシフトイメージングデータを得る。なお、本実施形態の撮像パルスシーケンスでは、ケミカルシフトイメージングに必要な、水抑圧パルスやOVS(Outer Volume Suppression)パルスの記載は省略する。
【0123】
第一の実施形態と同様に、各RFコイル22、23で取得する1次元のケミカルシフトイメージングデータには、二つの交差領域44、45の計測信号が混合している。第一の実施形態で説明した分離方法を用いて、それぞれの領域のケミカルシフトデータに分離する。また、第一の実施形態同様、第1励起パルスの周波数を変えて交差領域44、45をシフトさせ、同様の処理を繰り返すことにより、2次元ケミカルシフトイメージングデータを取得する。さらに交差領域をz方向にもシフトさせて同様の処理を繰り返すことにより、3次元ケミカルシフトイメージングデータも取得できる。なお、本実施形態において、その他の計測フロー、画像再構成法は基本的に第一の実施形態と同一である。
【0124】
以上、第一の実施形態に適用する場合を例にあげて説明したが、第二〜第四の実施形態いずれにも適用可能である。例えば、RFコイル構成を第四の実施形態と同様の構成にし、第四の実施形態の撮像パルスシーケンスを用いることにより、3次元ケミカルシフトイメージングを行うことができる。さらに、本実施形態は、第五の実施の形態で述べた拡散強調を加えたシーケンスに応用することも可能である。
【0125】
以上説明したように、本実施形態によれば、計測時間が長くなりやすいケミカルシフトイメージングのために必要なエコーを、高速に取得するため、傾斜磁場印加部は、高周波信号の計測時間に、交差領域の線状の方向の空間的な情報とケミカルシフト情報とを付与するための振動傾斜磁場を印加する。さらに、各代謝物の分子拡散情報を取得するために、拡散傾斜磁場を追加する。一般に、ケミカルシフトイメージングが対象としている代謝物は、拡散係数が水分子よりも低く、強力な拡散傾斜磁場を印加する必要があるために、体動アーティファクトが出やすい。しかし、本実施形態によれば、複数のラインを同時に走査するため、計測時間を短縮でき、この体動アーティファクトを効果的に抑制できる。
【0126】
本実施形態においても、第六の実施形態のように、交差領域の断面が広くなり画像の空間分解能が低下するのを防ぐために、傾斜磁場印加部は、交差領域のy方向およびそれと垂直な第1もしくは第2の方向、あるいは、y方向に垂直な2方向に傾斜磁場を印加し、交差領域の内部の空間的な情報を取得してもよい。これにより2次元ケミカルシフトイメージングや3次元ケミカルシフトイメージングの空間分解能が向上する。
【0127】
本実施形態よれば、一般の単一ラインスキャンに比べ、計測時間も短縮可能であり、また、それに伴い、体動アーティファクトが混入する可能性がさらに減少する。
【0128】
<<第八の実施形態>>
次に、第八の実施形態を説明する。本実施形態のMRI装置は、基本的に前述の各実施形態と同様の構成を有する。ただし、本実施形態では、複数の交差領域からの信号が混合しないよう受信するため、高周波信号の分離処理を行わない。従って、処理にRFコイルの感度分布を用いないため、受信側のRFコイルは必ずしも複数でなくてもよい。以下、本実施形態について、第一の実施形態の撮像パルスシーケンスを用いる場合を例に挙げて説明する。ここでは、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。
【0129】
図22(a)は、本実施形態の撮像パルスシーケンスである。本図は、横軸に時間(t)、縦軸に高周波磁場RF、傾斜磁場Gx、Gy、Gzをとり、それぞれの動作タイミングと強度とを表したものである。ADはデータ取得期間である。ここでは、第一の実施形態の撮像パルスシーケンスと同じ機能を有するものは同じ番号を付与する。
【0130】
第一の実施形態の撮像パルスシーケンスとの差異は、リードアウト傾斜磁場201、202がxy方向に印加されている点である。本実施形態では、交差領域44、45からの二つの高周波信号をそれぞれ独立したものとして受信するため、投影した信号が重ならない方向にリードアウト傾斜磁場を印加する。
【0131】
図22(b)は、本実施形態の空間情報付与を説明するための図である。第1励起パルスと第2励起パルスとにより励起された交差領域44、45から発生する高周波信号をf(xi,y)、f(xj,y)とすると、それぞれを投影した信号が重ならない方向にリードアウト傾斜磁場を印加する。すなわち、リードアウト傾斜磁場は、交差領域44、45を2辺とする長方形の対角線に直交する方向と両交差領域44、45に直交する方向との間の角度を有するよう印加する。具体的には、y方向の視野をLy、2つの交差領域44、45の間隔を|xi−xj|とすると、リードアウト傾斜磁場印加の方向の角度は、arctan(Ly/|xi−xj|≠0)以下にすればよい。すなわち、リードアウト傾斜磁場201の印加強度をgx,リードアウト傾斜磁場202の印加強度をgyとすると、gy/gx<=|xi−xj|/Ly(gx≠0,gy≠0)を満たすようその印加の方向を制御する。
【0132】
以上のようにリードアウト傾斜磁場201、202を印加することにより、得られる単一のエコーにおいて、高周波成分は交差領域45からの計測信号、低周波成分は交差領域44からの計測信号となり、両交差領域からの計測信号を区別することが可能となる。
【0133】
本実施形態においても、複数のラインからの計測信号を同時に取得することができるため、計測時間を短縮することができる。もちろん、ラインスキャンが本来持つ体動アーティファクト抑制効果は保持される。
【0134】
以上説明したように、各実施形態によれば、複数のスライス面を励起する励起パルスとそのスライス面と直交するスライス面を励起する励起パルスとを印加し、実質的に平行な複数の線状の交差領域を同時に計測する。その際、平面(スライス)が交差する領域の両平面に平行な方向(線方向)の空間情報は傾斜磁場による変調で取得し、線方向に直交する方向の空間情報は平面の位置を変化させることで取得する。これにより、2次元画像や3次元画像、2次元ケミカルシフトイメージングや3次元ケミカルシフトイメージングを高速に取得することが可能となる。従って、上記各実施形態によれば、磁気共鳴装置の測定時間短縮、精度向上等を図ることができ、性能を向上させることができる。特に、測定対象に体動がある場合に生じる体動アーティファクトを抑制しながら、計測時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】第一の実施形態の磁気共鳴装置の概要を説明するための図である。
【図2】第一の実施形態の高周波磁場コイル系の構成図である。
【図3】第一の実施形態の撮像パルスシーケンスおよび印加するRFパルスを説明するための図である。
【図4】第一の実施形態の撮像パルスシーケンスで励起される領域の模式図である。
【図5】第一の実施形態の一次元画像を分離する方法を説明するための図である。
【図6】第一の実施形態の計測および画像再構成の処理フローである。
【図7】第一の実施形態で印加するRFパルスの別の例を説明するための図である。
【図8】第二の実施形態の計測領域の計測手順を説明するための図である。
【図9】第二の実施形態の計測および画像再構成の処理フローである。
【図10】第二の実施形態の計測および画像再構成の別の処理フローである。
【図11】第三の実施形態の撮像パルスシーケンスである。
【図12】第三の実施形態の撮像パルスシーケンスで励起される領域の模式図である。
【図13】第四の実施形態の撮像パルスシーケンスである。
【図14】第四の実施形態の撮像パルスシーケンスで励起される領域の模式図である。
【図15】第四の実施形態の高周波磁場コイル系の構成図である。
【図16】第四の実施形態の別の撮像パルスシーケンスである。
【図17】第四の実施形態の別の撮像パルスシーケンスで励起される領域の模式図である。
【図18】第五の実施形態の撮像パルスシーケンスである。
【図19】第六の実施形態の撮像パルスシーケンスである。
【図20】第六の実施形態の撮像パルスシーケンスで励起される領域を説明するための図である。
【図21】第七の実施形態の撮像パルスシーケンスである。
【図22】第八の実施形態の撮像パルスシーケンスと空間情報付与を説明するための図である。
【符号の説明】
【0136】
10:測定対象、11:静磁場発生磁石、12:傾斜磁場発生コイル、13:高周波磁場コイル系、14:制御装置、15:傾斜磁場電源、16:シンセサイザ、17:変調装置、18:増幅器、19:AD変換器、20:データ処理装置、21:RFコイル、22:RFコイル、23:RFコイル、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に高周波磁場(RF)パルスを印加するRFパルス印加部と、
前記RFパルスに起因する高周波信号を計測する信号検出部と、
前記高周波信号に空間的な変調を加えるための傾斜磁場を印加する傾斜磁場印加部と、
前記信号検出部が計測する前記高周波信号から、画像を再構成する計算部と、
前期RFパルス印加部、前記信号検出部、前記傾斜磁場印加部、および、前記計算部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、第1の傾斜磁場とともに複数の実質的に平行な励起面を有する第1のRFパルスを印加し、前記第1の傾斜磁場を印加する方向と異なる方向の第2の傾斜磁場とともに第2のRFパルスを印加するよう制御するとともに、前記信号検出部が前記高周波信号を計測する期間中、前記傾斜磁場印加部を、前記第1の傾斜磁場および前記第2の傾斜磁場のいずれにも直交する方向に第3の傾斜磁場を印加するよう前記RFパルス印加部と前記傾斜磁場印加部とを制御すること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴装置であって、
前記信号検出部は、前記第1の傾斜磁場および前記第1のRFパルスにより励起される複数の励起面と前記第2の傾斜磁場および前記第2のRFパルスにより励起される励起面とが交差する複数の交差領域の数以上のRF受信コイルを備え、
前記複数のRF受信コイルは、前記複数の交差領域からの高周波信号を、それぞれ異なる感度で受信する位置に配置され、
前記制御部は、前記計算部に、前記複数の交差領域からの高周波信号を、前記複数のRF受信コイルの感度分布を用いて、それぞれの交差領域の高周波信号に分離させ、
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の磁気共鳴装置であって、
前記第2のRFパルスは、実質的に平行な複数の励起面を有すること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項記載の磁気共鳴装置であって、
前記第1のRFパルスは、当該第1のRFパルスと前記第1の傾斜磁場とが励起する複数の励起面の隣り合う励起面の励起位相が交互に逆転するよう変調されること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の磁気共鳴装置であって、
前記第2のRFパルスは、当該第2のRFパルスと前記第2の傾斜磁場とが励起する複数の励起面の隣り合う励起面の励起位相が交互に逆転するよう変調されること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項6】
請求項1から5いずれか1項記載の磁気共鳴装置であって、
前記第1のRFパルスおよび前記第2のRFパルスのいずれか一方は強度を90度に設定した90度パルスであり、他方は強度を180度に設定した180度パルスであること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項7】
請求項3記載の磁気共鳴装置であって、
前記第1のRFパルスおよび前記第2のRFパルスは、ともに当該第1のRFパルスまたは当該第2のRFパルスが励起する複数の励起面の隣り合う励起面の励起位相が交互に逆転するよう変調され、
前記制御部は、前記複数の交差領域を各励起面に沿って交互に抑制するRFパルスを、前記第1のRFパルスおよび前記第2のRFパルス印加それぞれの直後に印加するよう前記RFパルス印加部を制御すること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載の磁気共鳴装置であって、
前記制御部は、前記第1のRFパルスの周波数を変化させて前記励起面を移動させ、前記第1のRFパルスの印加と前記第2のRFパルスの印加とを繰り返すこと
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項9】
請求項2から7いずれか1項記載の磁気共鳴装置であって、
前記制御部は、前記第1のRFパルスの周波数を変化させて前記励起面を移動させ、前記第1のRFパルスの印加と前記第2のRFパルスの印加と前記それぞれの高周波領域の高周波信号の分離とを繰り返すこと
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項10】
請求項1から9記載の磁気共鳴装置であって、
前記制御部は、前記第1RFパルスまたは前記第2のRFパルスの時間的に早く印加が行われる方から前記信号検出部が高周波信号を計測するまでの間に、前記傾斜磁場印加部が分子拡散を検出するための互いに補償する少なくとも一組の拡散強調傾斜磁場を印加するよう制御すること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項11】
請求項1から9記載の磁気共鳴装置であって、
前記第3の傾斜磁場は、ケミカルシフト情報と空間情報とを同時に前記高周波信号に付与する振動傾斜磁場であること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項12】
請求項1から9記載の磁気共鳴装置であって、
前記制御部は、前記信号検出部が前記高周波信号を計測する期間中、前記傾斜磁場印加部を、前記第1の傾斜磁場の方向および前記第2の傾斜磁場の方向の少なくとも一方にさらに傾斜磁場を印加するよう制御すること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項13】
請求項2記載の磁気共鳴装置であって、
前記複数のRF受信コイルは、それぞれループコイルであり、
各ループコイルは、それぞれのループ面が前記第1のRFパルスによる励起面とは平行にならないように、かつ、当該励起面とは平行にならないように並置されること
を特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項14】
請求項1記載の磁気共鳴装置であって、
前記第3の傾斜磁場は、前記第1の傾斜磁場と前記第1のRFパルスとにより励起される第1の励起面と前記第2の傾斜磁場と前記第2のRFパルスとにより励起される第2の励起面との複数の交差領域のうち隣り合う2つの交差領域を2辺とする長方形の対角線に直交する方向と前記交差領域に直交する方向との間の角度で印加されること
を特徴とする磁気共鳴装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−82178(P2009−82178A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251893(P2007−251893)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】