説明

磁気特性が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】良好なグラス皮膜形成と優れた磁気特性を有する完全固溶窒化型高磁束密度方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】一次再結晶焼鈍時の水蒸気分圧と温度を810〜890℃で60〜180秒間均熱し、その雰囲気のPH2O/PH2を0.30〜0.70とし、引き続く後半部の温度条件を850〜900℃で5〜30秒間、その雰囲気のPH2O/PH2を0.20以下の2段とし、その後窒化し、二次再結晶焼鈍前の鋼板酸素が板厚0.30mm換算酸素で450ppm以上700ppm以下とし、引き続く二次再結晶焼鈍においてコイル外周部最熱点の温度が室温から950℃までの間の雰囲気を窒素25〜75%、残部水素、PH2O/PH2を0.01〜0.15とする磁気特性とグラス皮膜が優れた方向性電磁鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にトランス等の鉄芯として使用される方向性電磁鋼板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の磁気特性は、鉄損、磁束密度及び磁歪である。鉄損は磁束密度が高い(Goss方位集積度が先鋭だ)と磁区制御技術(特許文献1、特許文献2、特許文献3等)により改善される。磁歪もまた、磁束密度が高いと小さく(良好に)なる。また、磁束密度が高いと変圧器の励磁電流を小さくできるのでサイズが小さく出来る。すなわち、製造する上で方向性電磁鋼板の最も基本な注目すべき磁気特性は、磁束密度であり、その向上がこの分野での大きな技術開発項目である。本発明の目的は、磁束密度を従来より更に向上させ、かつ良好なグラス皮膜を形成させることである。
【0003】
本発明は、AlNを二次再結晶の主なインヒビターとする高温スラブ加熱を用いた方向性電磁鋼板の製造方法において、従来、磁気特性が劣化するため不可であった窒化を有効に活用し、極めて磁気特性が優れた方向性電磁鋼板を得る製造方法において、良好なグラス皮膜の形成と高磁束密度を両立する方法を示すものである。
【0004】
【表1】

【0005】
AlNを二次再結晶の主なインヒビターとする方向性電磁鋼板の製造方法は、冶金的には熱間圧延でのスラブ加熱の考え方とインヒビターの補強のための後工程窒化の有無により分類される。それを表−1に示す。即ち、1)完全固溶非窒化型、2)充分析出窒化型、3)完全固溶窒化型、4)不完全固溶窒化型である。
【0006】
本発明では、3)の中温度スラブ加熱でインヒビター物質を完全固溶させる場合について、溶製時のNの含有量を限定し,二次インヒビターとして不足するAlNを窒化で補償させ、AlN以外のMnSe,MnS,Cu−S等のインヒビター物質も1)の場合よりその含有量を減じて固溶させ、非常にGoss方位の先鋭性が良好な方向性電磁鋼板が得られることは公知である。しかし、この場合、グラス皮膜を良好にならしめるためには、2)の場合と同様に脱炭焼鈍後の鋼板酸素を増やす必要があったが、酸素を増やすと二次再結晶が不安定になるという課題がある。この理由は、未だに明確ではないが、過剰な酸素があると表面ではAlの酸化が必然的に起こる。また表層には窒化後の窒素が過分にあるためAlNになりうるAlが相対的に少なくなるので、二次再結晶焼鈍時でのAlNの分解が遅くなり、通常良好な(方位集積度が良い)Goss二次再結晶は表層から起こるのだが、この場合は、板厚中心層からも粒成長が起こり結果として二次再結晶不良が発生すると考える。
【0007】
一方、脱炭焼鈍後の酸素含有量を低減するとGoss二次再結晶集合組織は極めて先鋭になるものの本発明を適用しないとグラス形成反応に重要な鉄系酸化物が減じ、また耐雰囲気シール性が不足してフォルステライト皮膜形成は不十分となる。この課題を解決するために、少酸素でもグラス皮膜が良好に形成できる技術が待たれていた。
【0008】
同様な技術は、特許文献11で示されているが、これは、スラブ加熱温度が高く、窒化しないので1)に相当するので、本発明とはインヒビター物質の含有量をはじめとしてその他二次再結晶焼鈍条件等が異なる。
【0009】
さらに、本発明ではスラブ加熱時にインヒビター物質を完全固溶させるので一次再結晶粒径の脱炭焼鈍温度依存性が無くなるので、フォルステライトを主成分とするグラス被膜形成が容易になる利点もある。
【0010】
本発明の特徴はAlを含有する高磁束密度方向性電磁鋼板の製造に関して、溶製段階のNの変動は不可避であり工業生産において極めて厳しい製造条件の困難性を窒化により克服した点である。この様な方法には、特許文献8、特許文献9、特許文献10があるが、これらの技術は、1)スラブ加熱温度を下げる、2)グラス被膜欠陥率低減が主な目的である。現行の工業生産設備ではAlNを主なインヒビターとする完全固溶型がGoss方位集積度が最も高いことは論を待たない。
【0011】
上表の第一の“完全固溶非窒化型”では、溶製時の含有窒素が0.008%程度の場合は、脱炭焼鈍から二次再結晶開始までに窒化するとGoss集積度(非特許文献1及び非特許文献2、非特許文献3)が低下することは広く知られている。また、溶製時窒素が少ないと二次再結晶不良が生じることもよく知られている。
【0012】
そこで、発明者らは鋭意研究・開発を試み次のことを見出した。
【0013】
i)溶製時の窒素が少ない場合は、後工程で窒化することでインヒビターが脱炭焼鈍前の熱処理で微細に析出した先天的インヒビターと窒化により形成された後天的インヒビターとから成りインヒビターの種類も考慮すると多段インヒビター状態となり、二次再結晶焼鈍(仕上げ焼鈍)時に板厚方向の表層で先鋭なGoss核が発生し、これが極めて優先的に二次再結晶することを見出した。ここに、Goss方位二次再結晶の完全制御が可能になった。言い換えると、インヒビターとしては、AlN以外のインヒビターMnS、MnSe、Cu−S、Cu-Seについては、これらAlN以外の物質について従来の方法(完全固溶非窒化型)より少なめに含有せしめ、後工程の少量窒化によりインヒビター強度を多段とすることである。即ち、微細析出AlN、微細析出(MnS,Cu-S、MnSe)及び後工程窒化による粗大なAlNの3種類である。そして、これまでに無い極めて磁束密度が高い方向性電磁鋼板の製造が可能となった。
【0014】
また、ii)溶製段階でのアルミニウムと窒素の不可避的変動により生じる二次インヒビターの不適は最終冷間圧延前焼鈍条件と窒化により吸収できることを見出した。
【0015】
【非特許文献1】ISIJ,Vol.43 (2003),No.3,pp.400-409
【非特許文献2】Acta Metall.,42(1994),2593
【非特許文献3】川崎製鉄技法Vol.29(1997)3,129-135)
【非特許文献4】Materials Science Forum Vol.204-206,Part2:pp:631
【特許文献1】特開昭55-18566号公報
【特許文献2】特開昭59-197520号公報
【特許文献3】特開昭61-117218号公報
【特許文献4】特公昭40-15644号公報
【特許文献5】特開昭58-23414号公報
【特許文献6】米国特許第2599340号公報
【特許文献7】米国特許第5244511号公報
【特許文献8】特開平5-112827号公報
【特許文献9】特開2001-152250号公報
【特許文献10】特開2000-199015号公報
【特許文献11】特許第2579717号公報
【特許文献12】特公昭54-160514号公報
【特許文献13】特開平7-252532号公報
【特許文献14】特公平6-57854号公報
【特許文献15】特公平7-5926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このようにして極めて磁気特性が優れた方向性電磁鋼板の製造が可能になったものの工業生産では、二次再結晶焼鈍時のコイル位置での温度・雰囲気履歴の不均一のためコイル全体に渡り磁気特性とグラス皮膜形成を高位に安定して製造することは極めて難しく工程条件、特に一次再結晶焼鈍条件の制御を精密に保つ必要があった。そこで、発明者らは鋭意検討して、一次再結晶焼鈍条件と二次再結晶焼鈍時の雰囲気の適正化により、磁気特性とグラス皮膜形成が高位安定することを見出し、更に、焼鈍分離剤中への塩素を添加すると二次再結晶焼鈍分離剤の水和水分範囲を広げられることを見出した。
【0017】
即ち、一次再結晶焼鈍の前半では、脱炭を主に行うため脱炭に適した温度と雰囲気とし、後半では酸化層の改質のために温度を上げ、雰囲気をややドライ側にする。この方法は、従来の方向性電磁鋼板の製造方法においても適用可能であるが、充分析出窒化型では後半の温度を上げると一次再結晶粒径が大きく変動し二次再結晶が不完全になることがしばしば起こるので実際上適用できない。
【0018】
また、完全固溶非窒化型については、特許文献12で同様な技術が述べられているが、酸素の規定がない。言うまでも無く、方向性電磁鋼板のグラス皮膜形成では酸化層の量と質が非常に重要でありまた、酸素の質・量は鋼成分にも大きく影響されるので詳細な検討が必要である。本発明は、一次再結晶焼鈍後の酸素を規定すること、窒化することが必須であり、さらに二次再結晶焼鈍昇温時の雰囲気の影響を見出し、磁気特性、特に磁束密度が高いことを特徴とする方法であり、特許文献12とは、異なる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、AlNを二次再結晶の主なインヒビターとする完全固溶窒化型3)で、特に高くないスラブ加熱温度を適用する方向性電磁鋼板の製造方法において、一次再結晶焼鈍の雰囲気、酸素量、二次再結晶焼鈍時の雰囲気、焼鈍分離剤の水和水分及び塩素含有量を規定し、課題であるグラス皮膜形成を解決するものである。本発明は以下の構成からなる。
【0020】
(1)質量%で、C:0.025〜0.09%、Si:2.5〜4.0%、酸可溶性Al:0.022〜0.033%、N:0.003〜0.006%、SとSeをSeq(S当量)=S+0.405Se として Seq=0.008〜0.018%、Mn:0.03〜0.10%、Ti≦0.005%、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを1280℃以上のインヒビター物質の固溶温度以上で再加熱し、熱間圧延を施して熱間圧延鋼帯とし、この熱間圧延鋼帯に含有されるNのうちAlNとしての析出率を20%以下とし、この熱延鋼帯を焼鈍しもしくは焼鈍せず、引き続き1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行って最終板厚とするが、最終冷間圧延前に1回以上の熱処理を施し、最終冷間圧延の圧延率を83%〜92%とし、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒の円相当の平均粒径(直径)を7μm以上〜18μm未満とし、ストリップ走行状態下で水素、窒素及びアンモニアの混合ガス中の窒化処理で全窒素含有量を0.015〜0.024%として、その後MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終仕上げ焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造において、窒化前の脱炭焼鈍工程の前半部の温度を810℃〜890℃で60秒〜180秒間均熱し、その雰囲気のPH2O/PH2を0.30〜0.70とし、引き続く後半部の温度条件を850〜900℃で5秒〜30秒間、その雰囲気のPH2O/PH2を0.20以下とし、その後窒化し、二次再結晶焼鈍前の鋼板酸素が板厚0.30mm換算酸素(So)で450ppm以上700ppm以下とし、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、引き続く二次再結晶焼鈍においてコイル外周部最熱点の温度が室温から950℃までの間の雰囲気を窒素25%〜75%、残部水素、PH2O/PH2を0.01〜0.15とする磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0021】
ここで、板厚0.30mm換算酸素(So)とは、鋼板実厚(tmm)の場合、実酸素分析値(S:ppm)にt/0.30を掛けた数値を言い、So(ppm)=S×t/0.30 である。
【0022】
(2)二次再結晶焼鈍時の最熱点が950℃以上でPH2O/PH2≦0.01である(1)記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0023】
(3)質量%で、Cuを0.05〜0.30%含む(1)もしくは(2)に記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0024】
(4)前記スラブの成分として、更に、質量%で、Sn、Sb、Pの少なくとも1種を0.02〜0.30%含有する (1)〜(3)のいずれかに記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法。
【0025】
(5)前記スラブの成分として、更に、質量%で、Crを0.02〜0.30%含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0026】
(6)MgOを主成分とする焼鈍分離剤の水和水分を2.0%以下とする(1)〜(5)のいずれかに記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0027】
(7)MgOを主成分とする焼鈍分離剤へ塩素化合物を総塩素含有量を0.020%〜0.080%となるように添加する(1)〜(6)のいずれかに記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0028】
(8)MgOを主成分とする焼鈍分離剤の水和水分とCl含有量の関係が次の式を満たす(1)〜(5)のいずれかに記載の磁束密度が極めて高い方向性電磁鋼板の製造方法。
【0029】
Clmax.=−0.04×水和+0.1 :(%)
Clmin.=−0.04×水和+0.06:(%)
0.5%≦水和≦2.0(%)
0.020%≦塩素≦0.080%
【発明の効果】
【0030】
本発明においては、従来の方向性電磁鋼板製造の課題である、1)完全固溶非窒化型の方向性電磁鋼板の熱間圧延時の超高温スラブ加熱を脱却し、2)充分析出窒化型での一次再結晶焼鈍温度を変更することなく、磁気特性をグラス皮膜の極めて優れた方向性電磁鋼板が製造可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に本発明におけるスラブの成分範囲の限定理由について述べる。
【0032】
Cは、0.025%より少ないと一次再結晶集合組織が適切でなくなり、0.09%を超えると脱炭が困難になり工業生産に適していない。
【0033】
Siは、2.5%より少ないと良好な鉄損が得られず、4.0%を超えると冷延が極めて困難となり工業生産に適していない。
【0034】
SおよびSeは、Mn、Cuと結合して微細に析出しインヒビターを形成し、AlNの析出核としても有用である。S当量(Seq=S+0.405Se)が0.008%以上0.018%以下である。S当量が0.008%より少ないと、二次再結晶が不安定なる。また0.018%、を超えると完全固溶させために1420℃を超えてスラブ加熱温度が必要で現実的でなくなる。
【0035】
酸可溶性AlはNと結合してAlNを形成し、主に一次・二次インヒビターとして機能する。このAlNは、窒化前に形成されるものと窒化後高温焼鈍時に形成されるものがあり、この両方のAlNの量確保のために0.022〜0.033%必要である。この上限を外れるとスラブ加熱温度を極めて高くする必要があり、また、下限を外れるとGoss方位集積度が劣化する。
【0036】
上述の如く本発明では微細に析出した硫化物、セレン化物とAlNが一次・二次インヒビターの役割を果たしているので、スラブに含まれるAlNも一次再結晶粒を制御するために重要なものであり、Nが0.003%未満では一次再結晶粒径の制御が困難になる。0.006%を超えた場合は、窒化すると前述の様にGoss方位集積度は低下する。
【0037】
Mnは、0.03%より少ない熱延鋼帯では割れが発生しやすく、歩留まりが低下し二次再結晶が安定しない。一方、0.10%を超えるとMnS、MnSeが多くなり、固溶の程度が場所により不均一となり実工業生産では安定生産に問題が生じる。
【0038】
Tiについて、0.005%を超えて含有すると、NはTiNとなって実質低N含有鋼となり、インヒビター強度が確保されず二次再結晶不良が生じる。
【0039】
Cuは、スラブを1280℃以上で加熱し急速に熱間圧延を完了してもその冷却中に早期にSやSeとともに微細な析出物を形成し、一次・二次インヒビター効果を発揮する。また、この析出物はAlNの分散をより均一にする析出核ともなり二次インヒビターの役割も演じ、この効果が二次再結晶を良好ならしめる。0.05%より少ないと上記効果が減じ工業生産の安定性が劣ることがあり、0.30%を超えると上記効果が飽和するとともに、熱延時に「カッパーヘゲ」なる表面疵の原因になる。
【0040】
また、Sn、Sb、Pは一次再結晶集合組織の改善に有効である。これらの元素の含有量が0.02%より少ないと改善効果が少なく、また、0.30%を超えると安定したフォルステライト皮膜(一次皮膜、グラス皮膜)形成が困難となる。さらに、Sn,Sb、Pは粒界偏析元素であり二次再結晶を安定化ならしめる効果があることは周知である。
【0041】
Crはフォルステライト皮膜(一次皮膜、グラス皮膜)形成に有効であるので0.02〜0.30%含むことが望まれる。0.02%未満では酸素が確保されにくく、0.30%を超えると皮膜が形成されない。
【0042】
その他、Ni、Mo,Cdについては、添加することを妨げない。また電気炉溶製の場合は必然的に混入するものでもある。Niは一次、二次インヒビターとしての析出物の均一分散に著しい効果があるので、Niを添加すると磁気特性は更に良好且つ安定する。0.02%より少ないと効果が無く、0.3%を超えると、脱炭焼鈍後の酸素の富化し難くくになりフォルステライト皮膜形成が困難になる。Mo、Cdは硫化物もしくはセレン化物を形成しインヒビターの強化に資する。0.008%未満では効果が無く、0.3%を超えると析出物が粗大化してインヒビターの機能を得られず、磁気特性が安定しない。
【0043】
次に本発明における製造条件の限定理由について述べる。
【0044】
スラブを得るための鋳造は、従来の連続鋳造でよい。さらにスラブ加熱をたやすくするために分塊法を適用することは構わない。この場合、炭素含有量を減じることができることは周知である。具体的には、公知の連続鋳造法により初期の厚みが150mmから300mmの範囲、好ましくは200mmから250mmの範囲のスラブを製造する。
【0045】
この代わりに、近年、通常の連続熱間圧延を補完するものとして、厚み30mm〜100mmの薄スラブ鋳造、直接鋼帯を得る鋼帯鋳造(ストリップキャスター)が実用化されているが、本発明に関して、適用は妨げない。しかし、実際問題として、これらでは凝固時に所謂“中心偏析”が見られ完全な均一固溶状態を得ることは極めて困難である。完全な均一固溶状態を得るためには熱延鋼帯を得る前に一度固溶化熱処理が強く望まれる。
【0046】
熱延に先立つスラブ加熱温度の条件は本発明の重要な点である。スラブ加熱温度は1280℃以上でインヒビター物質を固溶させることが必要である。1280℃未満では、スラブ(又は熱延鋼帯)でのインヒビター物質の析出状態が不均一となり最終製品で所謂スキッドマークが発生する。上限は、特に限定されないが実際的には1420℃程度である。この完全固溶処理は温度を1420℃と言う超高温まで上げずに近年の誘導加熱等の設備技術の発達で可能になった(特許文献14、特許文献15)。もちろん、工業生産上で熱延の加熱方法には通常のガス加熱方法に加え、誘導加熱、直接通電加熱を用いてもよいし、これらの特別な加熱方法のための形状を確保するために、ブレイクダウンを鋳込みスラブに施しても何ら問題ない。また、加熱温度が高い1300℃以上になる場合は、このブレイクダウンにより集合組織の改善を施しC量を減じてもよい。これらは従来の公知技術の範囲である。
【0047】
熱延鋼帯でのAlNの析出率が20%を超えると、鋼帯内の二次再結晶性が変動し、工業生産に適しない。20%を超える場合は、スラブ加熱を含んで熱間圧延が適切に行われなかったことを意味する。
【0048】
最終冷間圧延前の焼鈍は、主に熱延時に生じた鋼帯内の組織の均一化及びインヒビターの微細分散析出のために行われる。熱延鋼帯での焼鈍でも良いし、最終冷間圧延前の焼鈍でも良い。すなわち、最終冷間圧延前に熱延での履歴の均一化を行うために1回以上の連続焼鈍を行うことが必須である。この場合の最高温度は、インヒビターに大きな影響を与える。比較的に低い場合は、一次再結晶粒径が小さく、高いと大きくなる。焼鈍後の冷却は、微細なインヒビターを確保し焼き入れハード相(主にベーナイト相)を確保するために15℃/秒以上であることが望ましい。
【0049】
冷間圧延における最終冷延率は83%未満であると{110}<001>集合組織がブロードになり高磁束密度が得られず、92%を超えると{110}<001>集合組織が極端に少なくなり二次再結晶が不安定になる。
【0050】
最終冷間圧延は常温で実施してもよいが、少なくとも1パスを100〜300℃の温度範囲に1分以上保つと一次再結晶集合組織が改善され磁気特性が極めて良好になる。これは、公知である。
【0051】
脱炭焼鈍完了後の一次再結晶粒の平均粒径は、例えば特許文献13では一次再結晶粒の平均粒径を18〜35μmとしているが、本発明では、一次再結晶粒の平均粒径を7μm以上18μm未満とする必要がある。このことは磁気特性(特に鉄損)を良好ならしめる本発明の非常に重要な点である。即ち、一次再結晶粒径が小さいと、粒成長の観点からも、一次再結晶の段階で二次再結晶の核となるGoss方位粒の体積分率が多くなる(非特許文献4)。また、更に粒径が小さいためGoss核の数も相対的に多くなる。結果としてGoss核の絶対数は、一次再結晶粒の平均半径が18〜35μmの場合より本発明の場合の方が約5倍程度多くなるので、二次再結晶粒径もまた相対的に小さくなり、この結果著しい鉄損の向上となる。
【0052】
また、充分析出窒化型と比べて一次再結晶粒の平均粒径が小さく窒化量が少なくないことは、二次再結晶の駆動力が大きくなり、二次再結晶が低温度で開始するので、最終仕上げ燒鈍の昇温段階の早い時期に(より低温で)二次再結晶が開始する。このことは、最終仕上げ燒鈍がコイル状で行われている現状では最高温度までのコイル各点での温度履歴がより均一となるので(コイル各点での昇温速度が一定になる)、コイル部位の不均一性が著しく減少して磁気特性が極めて安定する。窒化する方法としては、アンモニア雰囲気濃度を均一にした処理設備の中を鋼板を走行せしめることで十分可能である。また、二次再結晶開始温度が低いため、等量両面窒化が望まれる。
【0053】
本発明は、上述したように完全固溶窒化型であり、脱炭焼鈍後二次再結晶開始前に鋼板に窒化処理を施すことは本発明では必須である。その方法は、高温焼鈍時の焼鈍分離剤に窒化物(CrN,MnN等)を混合させる方法と、脱炭焼鈍後にストリップを走行させた状態下でアンモニアを含んだ雰囲気で窒化させる方法がある。どちらの方法を採用しても良いが、後者の方が工業生産で現実的であり本発明では後者に限定する。窒化量は酸可溶性Alと結合するNを確保することであり、少ないと二次再結晶が不安定となり、多いと地鉄が露出した一次皮膜(グラス皮膜)欠陥が多発し、Goss方位集積度が極めて劣化する。このため、高磁束密度を得るためには、窒化後の総窒素含有量は0.015%〜0.024%が必須である。
【0054】
脱炭燒鈍における室温から650〜850℃までの加熱速度を100℃/sec以上とすると、一次再結晶集合組織が改善され磁気特性が良好になるので適用を妨げない。加熱速度を確保するためには種々な方法が考えられる。即ち、抵抗加熱、誘導加熱、直接エネルギー付与加熱等がある。加熱速度を早くすると一次再結晶集合組織においてGoss方位が多くなり二次再結晶粒径が小さくなることは特許文献16等で公知である。特許文献16では、加熱速度を140℃/sec以上としているが、本発明では、前記加熱速度が100℃/secでも効果があり、望ましくは150℃/sec以上である。
【0055】
本発明の最大のポイントである一次再結晶・脱炭焼鈍条件について述べる。本発明の最大のポイントは、脱炭酸化層の質と酸素量を規定・確保することである。良く知られているように脱炭酸化層は、引き続く二次再結晶焼鈍時のグラス皮膜形成および二次再結晶挙動に大きく影響する。前述の如く、完全固溶窒化型では、磁気特性は極めて良好であるものの良好なグラス皮膜形成との両立に困難が伴う。これは、完全固溶で形成される一次インヒビターの絶対量が完全固溶非窒化型と比べて少ないため、二次再結晶焼鈍時のグラス皮膜形成に二次再結晶性が大きく影響を受けるものと考えられ、微妙な制御が必要となる。このため、この微妙な制御を分離することが考案された。そもそも二次再結晶焼鈍は、コイル状態で箱型炉でバッチ方式で行われるので、コイル各部位で同じような微妙な雰囲気・温度履歴制御を行うことは極めて困難である。このため、二次再結晶焼鈍は、各制御因子について閾値反応をベースとして設計することが理想である。今回この思想に基づいて発明者らは鋭意検討を行った。
【0056】
酸化層の有すべき特性は、1)MgOとのフォルステライトを主とするグラス皮膜形成のための絶対酸素量の確保、2)フォルステライト形成反応のための反応助剤としての鉄系酸化物の確保、3)フォルステライト形成時までの二次再結晶焼鈍中での酸化層の変質を防ぐためのシール性である。
【0057】
1)は単純な化学反応であるため必要酸素量は脱炭焼鈍条件の水蒸気分圧(PH2O/PH2)で制御できる。これは、前半の水蒸気分圧と温度で既定でき従来の技術である。これは、一次再結晶粒径の確保と炭素を0.0030%以下とするべく規定される。フォルステライト反応は鋼板表面反応であるため、厳密には酸素は量/面積で評価されるべきであるが、分析の実際上表面の酸素のみを評価するのは非常に困難であるので、全厚みの量/体積(重量)で評価する。このため、含有量をある板厚の場合で規格化して評価する。本発明では、板厚0.30mmの場合を基準とする。この前半の条件で付加される酸素で脱炭焼鈍後の酸素量は殆ど規定される。板厚0.30mm換算酸素(So)は、鋼板実厚(tmm)の場合、実酸素分析値(S:ppm)にt/0.30を掛けた数値で求められる。即ち、So(ppm)=S×t/0.30 である。
【0058】
本発明の完全固溶窒化型では、この酸素が450ppm〜700ppmであることを見出した。二段焼鈍を行ってこの範囲の酸素とすると緻密なSiO2の膜が鋼板表面に形成され,二次再結晶焼鈍時のシール性が優れることを見出した。また、フォルステライト形成には化学反応的にこの範囲の酸素で充分である。即ち、450ppm以下であるとフォルステライト形成が不完全でありグラス皮膜が充分形成されない。700ppmを超えると過剰な酸素により一次インヒビターであるAlNのAlが酸化されて一次インヒビター強度が低下して二次再結晶が不安定になる。酸素上限は、グラス皮膜形成のみのためには多くても構わないが、本発明の様に,良好な磁気特性とグラス被膜品質を両立させるために,必要最小限の良質の酸化膜を二次再結晶焼鈍で活かしフォルステライト形成反応を充分に行わせるためには反応助剤の役割が重要になる。即ち,良質の鉄系酸化物の形成と緻密な層の形成である。このためには、前半の比較的高水蒸気分圧で形成された酸化層を、後半で前半より高温度・低水蒸気分圧(PH2O/PH2)で処理すると,最表層の適度な改質と共に,良質の鉄系酸化物(主にファイアライト)と緻密なシリカ層が追加的に形成される。この様な方法で酸化層を形成するとフォルステライト形成反応が促進され,低温度化できる利点がある。また、シリカ層は緻密化され,二次再結晶焼鈍時での不可避的に変動する雰囲気による酸化層の変化を妨げる効果がある。このように低温度でグラス皮膜が形成されると二次再結晶のためのインヒビター強度変動が少なくなり、インヒビターの機能が十二分に発揮され、極めて磁気特性が良好になることを見出した。
【0059】
前半の水蒸気分圧PH2O/PH2は、0.30〜0.70であるが、これより低いと脱炭が不十分となり、高いと,たとえ後半の処理を適切に行ってもシリカ層が厚くなり二次再結晶が不安定になる。本発明では、完全固溶型であるので一次インヒビターが強く一次再結晶粒径は焼鈍温度に殆ど影響しないので、810〜890℃とする。810℃未満および890℃を超えると脱炭が極めて困難になるため810〜890℃とする。望ましくは、脱炭が進みやすい830〜860℃である。
【0060】
後半のPH2O/PH2は、基本的には前半の酸化層を改質したり,追加的に緻密な酸化膜(ファイヤライト,SiO2)を形成させるものであるから低温0.20以下とする。温度については、温度を前半と同じにすることは可能であるが、反応を進め高生産性のためには高温度の方が望まれ、完全固溶型であるので900℃まで可能である。これを超えると(一次再結晶後の)粒成長が起こり,二次再結晶が不安定になる。850℃未満であるとシリカの形成に時間を要し、900℃を超えると一次再結晶粒の成長が起こりその結果、二次再結晶が不良となる。
【0061】
次に,二次再結晶焼鈍時の雰囲気について述べる。本材料は二次再結晶開始温度が充分析出窒化型と比べて低いので最熱点での950℃が二次再結晶焼鈍時の管理温度となる。コイル最熱点の温度が950℃までの雰囲気を窒素25〜75%とし残部水素とする。残部水素は、アルゴン等の不活性ガスでも良いが、コストの点から水素が適切である。窒素は、窒化系であるため、インヒビター制御のために必要である。25%未満であると脱窒してインヒビターが弱まり二次再結晶が不安になる。また、75%を超えると脱炭焼鈍後の酸化層が追加酸化を受けて低級酸化層が形成されてグラス皮膜が不良になる。この場合,最熱点の温度が950℃までは、ある程度の酸化雰囲気がグラス皮膜形成に効果的でこの範囲が0.01≦PH2O/PH2≦0.15である。また、950℃を超えると鋼板表面での追加酸化防止のためにドライ雰囲気が必要でPH2O/PH2≦0.01とする。さらに焼鈍分離剤からの水分の放出は、600℃程度から起こるので、コイルの質量効果(コイル位置による温度履歴に違い)を考慮すると特に、コイル最熱点の温度が、600℃〜950℃間のPH2O/PH2が重要である。
【0062】
MgOを主成分とする焼鈍分離剤の水和水分も閾値をもたせる(上限値)ことが、実生産の立場から都合が良いが、従来は脱炭焼鈍後の酸化層が不安定であるためある程度の水和が必要であった。このMgOの水和範囲をある範囲に保つことは、その製造過程の条件を厳しく管理する必要があり大変であり、さらに製造後使用までの保管も厳重な管理が必要であった。本発明を用いるとこの範囲を上限の2.0%以下とすれば良好なグラス皮膜が形成される。下限は、酸化膜のグラス被膜形成開始時期までの品質保持のために0.5%程度必要となる。
【0063】
焼鈍分離剤中への塩素の添加は、本発明の脱炭焼鈍工程による酸化膜の場合においてもグラス皮膜形成を促進し磁気特性とグラス皮膜欠陥率の低減に大きく寄与する。通常の脱炭焼鈍酸化膜の場合,塩素は仕上げ焼鈍の条件によっては酸化過度等の弊害をもたらす場合がある。本発明のように,緻密な酸化膜を形成する工程においては,この様な問題が小さく,相乗的により優れた被膜を形成する。焼鈍分離剤中の全塩素量が0.020%未満では効果が少なく、0.080%を超えると,本発明の酸化膜をもってしても逆にグラス形成されなくなる。添加方法は、HCl、FeCl3、MgCl2等の塩素化合物または、Sb2(SO43等の不純物として塩素を含む物質がある。
【0064】
水和水分と塩素含有量の関係を
Clmax.=−0.04×水和+0.1 :(%)
Clmin.=−0.04×水和+0.06:(%)
0.5%≦水和≦2.0(%)
0.020%≦塩素≦0.080%
とすると、フォルステライト形成反応がコイル全体で過不足無く生じ、磁気特性も優れグラス皮膜との両立が可能となった。
【実施例】
【0065】
<実施例1>
C:0.068%、Si:3.35%、酸可溶性Al:0.0260%、N:0.0046%、Mn:0.045%、S:0.014%、Sn:0.15%,Cu:0.09%、Ti:0.0020の溶鋼を通常の方法で鋳込み、スラブ加熱温度1310℃で完全にインヒビター物質を固溶させ、熱間圧延後急冷して2.2mm熱間圧延鋼帯を得た。AlNの析出割合は10%以下であった。その後1120℃×10秒焼鈍後900℃に2分間保定し750℃から水冷した。酸洗後、250℃の3回の時効処理を含むリバース冷間圧延機で0.220mmに圧延した。その後、脱脂して850℃で110秒間の一次再結晶・脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%で、引き続いて後半焼鈍を、焼鈍なし、875℃×15秒の焼鈍とし、その条件として酸素を板厚0.30mm換算で400〜850ppmとし、その後、窒化後窒素が0.0190〜0.021%となるようにストリップ走行中でアンモニア雰囲気で窒化した。焼鈍分離剤の水和水分とその中への塩素添加量をそれぞれ、0.04%,水和水分を1.5%焼鈍分離剤を塗布した。その後、二次再結晶焼鈍を1200℃まで15℃/時間で昇温を各条件で行い、1200℃20時間のH2:100%で純化処理を行い冷却した。その後通常用いられる絶縁張力コーティング塗布と平坦化処理を行った。その結果を表2に示した。ここで、グラス皮膜欠陥率は2.0%以下を、磁束密度B8(T)は、1.940T以上を良好とした。
【0066】
【表2】

【0067】
<実施例2>
実施例1の冷間圧延素材を用いて脱炭焼鈍の後半のPH2O/PH2を0.008〜0.30とし、板厚0.30mm換算酸素550〜650ppmとし、窒化後窒素を0.0190%〜0.0215%とした。その後、塩素含有量を0.045%、水和水分1.0%の焼鈍分離剤を塗布した。その後、水素50%、窒素50%雰囲気で1200℃まで15℃/時間で昇温する通常の二次再結晶焼鈍を施した。その二次再結晶焼鈍の最熱点のPH2O/PH2を0.0002〜0.17とした。この結果のグラス皮膜欠陥率を図1に示す。図1から分かるように本発明の効果が認められる。図1の右の破線の中は皮膜欠陥率は良好なるも磁束密度が低位であった。
【0068】
<実施例3>
C:0.065%、Si:3.30%、酸可溶性Al:0.0265%、N:0.0045%、Mn:0.047%、S:0.014%、Sn:0.10%,Cu:0.05%,Ti:0.0018%の溶鋼を通常の方法で鋳込み、スラブ加熱温度1300℃で完全にインヒビター物質を固溶させ、熱間圧延後急冷して2.3mm熱間圧延鋼帯を得た。AlNの析出割合はすべて10%以下であった。その後1120℃×10秒の焼鈍後900℃に2分間保定し750℃まで空冷して水冷した。酸洗後、250℃の3回の時効処理を含むリバース冷間圧延機で0.285mmに圧延した。その後、脱脂して850℃で150秒間の一次再結晶・脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、露点65℃(PH20/PH2:0.437)、引き続いて875℃×15秒、露点36℃(PH2O/PH2:0.08)として焼鈍し、酸素を板厚0.30mm換算で600〜650ppmとしてその後窒化後窒素が0.0190〜0.0210%となるようにストリップ走行中でアンモニア雰囲気で窒化した。焼鈍分離剤の水和水分とその中への塩素添加量をそれぞれ、0.04%〜2.2%、0.01%〜0.09%として塗布した。その後、950℃まで窒素50%残部水素の雰囲気でPH2O/PH2:0.13とし、その後H2:75%、PH2O/PH2:0.005として1200℃まで15℃/時間で昇温した。その後、H2:100%で純化処理を行い冷却した。その後、通常用いられる絶縁張力コーティング塗布と平坦化処理を行った。図2にこの場合のグラス皮膜欠陥率を記す。このように塩素と水和水分の調整で皮膜欠陥率が極めて良好になる。因みにこれらの磁気特性は、磁束密度(B8:1.940〜1.965T)で鉄損(W17/50:0.920〜0.965W/kg)で、磁気特性も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】脱炭焼鈍後半及び二次再結晶焼鈍時のPH2O/PH2並びにグラス皮膜欠陥率を示す図。
【図2】焼鈍分離剤中の水和水分及び塩素含有量ならびに皮膜欠陥率の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.025〜0.09%、Si:2.5〜4.0%、酸可溶性Al:0.022〜0.033%、N:0.003〜0.006%、SとSeをSeq(S当量)=S+0.405Se として Seq=0.008〜0.018%、Mn:0.03〜0.10%、Ti≦0.005%、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを1280℃以上のインヒビター物質の固溶温度以上で再加熱し、熱間圧延を施して熱間圧延鋼帯とし、この熱間圧延鋼帯に含有されるNのうちAlNとしての析出率を20%以下とし、この熱延鋼帯を焼鈍しもしくは焼鈍せず、引き続き1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行って最終板厚とするが、最終冷間圧延前に1回以上の熱処理を施し、最終冷間圧延の圧延率を83%〜92%とし、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒の円相当の平均粒径(直径)を7μm以上〜18μm未満とし、ストリップ走行状態下で水素、窒素及びアンモニアの混合ガス中の窒化処理で全窒素含有量を0.015〜0.024%として、その後MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終仕上げ焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造において、窒化前の脱炭焼鈍工程の前半部の温度を810℃〜890℃で60秒〜180秒間均熱し、その雰囲気のPH2O/PH2を0.30〜0.70とし、引き続く後半部の温度条件を850〜900℃で5秒〜30秒間、その雰囲気のPH2O/PH2を0.20以下とし、その後窒化し、二次再結晶焼鈍前の鋼板酸素が板厚0.30mm換算酸素(So)で450ppm以上700ppm以下とし、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、引き続く二次再結晶焼鈍においてコイル外周部最熱点の温度が室温から950℃までの間の雰囲気を窒素25%〜75%、残部水素、PH2O/PH2を0.01〜0.15とすることを特徴とする磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
ここで、板厚0.30mm換算酸素(So)とは、鋼板実厚(tmm)の場合、実酸素分析値(S:ppm)にt/0.30を掛けた数値を言い、So(ppm)=S×t/0.30 である。
【請求項2】
二次再結晶焼鈍時の最熱点が950℃以上でPH2O/PH2≦0.01であることを特徴とする請求項1記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
質量%で、Cuを0.05〜0.30%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記スラブの成分として、更に、質量%で、Sn、Sb、Pの少なくとも1種を0.02〜0.30%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法。
【請求項5】
前記スラブの成分として、更に、質量%で、Crを0.02〜0.30%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
MgOを主成分とする焼鈍分離剤の水和水分を2.0%以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
MgOを主成分とする焼鈍分離剤へ塩素化合物を総塩素含有量を0.020%〜0.080%となるように添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の磁束密度が極めて優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
MgOを主成分とする焼鈍分離剤の水和水分とCl含有量の関係が次の式を満たすことを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の磁束密度が極めて高い方向性電磁鋼板の製造方法。
Clmax.=−0.04×水和+0.1 :(%)
Clmin.=−0.04×水和+0.06:(%)
0.5%≦水和≦2.0(%)
0.020%≦塩素≦0.080%

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−238984(P2007−238984A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60660(P2006−60660)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】