説明

磁石およびその製造方法

【課題】成形時に高温を必要とせず、かつ優れた磁気特性を有する磁石およびその製造方法を提供する。
【解決手段】磁石10は、分子の一端に反応性の官能基を有する膜化合物の形成する被膜12で表面が被覆された磁性微粒子11と、官能基と反応して結合を形成する複数の架橋反応基を有する架橋剤13とを含み、被覆された磁性微粒子11が、官能基と架橋反応基との反応により形成された結合を介して成形および硬化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、表面に反応性の官能基を導入した磁性微粒子と架橋反応基を有する架橋剤とを用いて作製した磁石およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、希土類系(Sm−Co系、Nd−Fe−B系等)、およびフェライト系等の磁性微粒子を焼結した焼結磁石(セラミックス磁石)や、プラスチックやゴム等の樹脂中に磁性微粒子を分散し成形固化したボンド磁石(例えば、特許文献1参照)が数多く知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−264360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、焼結磁石においては、1000℃以上の高温で焼結するために多くの熱エネルギーが必要であるとともに、磁性粒子の磁気特性が劣化して高性能な磁石が得にくいという問題点を有している。
また、ボンド磁石では、樹脂をバインダーにしているため成形が容易で、可撓性を有するなどの長所を有するものの、磁化強度に優れた磁石が得にくいという問題点を有している。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、成形時に高温を必要とせず、かつ優れた磁気特性を有する磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る磁石は、分子の一端に反応性の官能基を有する膜化合物の形成する被膜で表面が被覆された磁性微粒子と、前記官能基と反応して結合を形成する複数の架橋反応基を有する架橋剤とを含み、前記被覆された磁性微粒子が、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との反応により形成された結合を介して成形および硬化している。
【0007】
第1の発明に係る磁石において、前記膜化合物は、Siを介して前記磁性微粒子の表面に共有結合していてもよい。
【0008】
第1の発明に係る磁石において、前記被膜が単分子膜であることが好ましい。
【0009】
第1の発明に係る磁石において、前記反応性の官能基および前記架橋反応基が、熱反応性およびイオン反応性の官能基のいずれかであることが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る磁石において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とエポキシ基との反応により形成されたN−CHCH(OH)結合であってもよい。
【0011】
第1の発明に係る磁石において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とイソシアネート基との反応により形成されたNH−CONH結合であってもよい。
【0012】
第2の発明に係る磁石の製造方法は、反応性の官能基および結合基を分子の両端にそれぞれ有する膜化合物を磁性微粒子と接触させ、結合基と前記微粒子の表面との間で結合を形成させ、前記膜化合物の形成する被膜で表面が覆われた反応性磁性微粒子を製造する工程Aと、前記反応性磁性微粒子と、前記官能基と反応して結合を形成する複数の架橋反応基を有する架橋剤を混合し鋳型に入れ、該鋳型内で前記反応性の官能基と前記架橋反応基との反応により結合を形成させる工程Bとを含む。
【0013】
第2の発明に係る磁石の製造方法において、前記膜化合物の形成する被膜が単分子膜であることが好ましい。
【0014】
第2の発明に係る磁石の製造方法において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とエポキシ基との反応により形成されたN−CHCH(OH)結合であってもよい。
【0015】
第2の発明に係る磁石の製造方法において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とイソシアネート基との反応により形成されたNH−CONH結合であってもよい。
【0016】
第2の発明に係る磁石の製造方法において、前記工程Bを磁場中で行うことが好ましい。
また、超音波を印加しながら前記工程Bを行うことがより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜6記載の磁石、および請求項7〜12記載の磁石の製造方法においては、磁性微粒子の表面に形成された膜化合物の形成する被膜の官能基と、架橋剤の有する架橋反応基との反応により形成された結合を介して、磁性微粒子が成形および硬化している。そのため、任意の形状に成形できる。
また、結合の形成のために必要な温度は、磁性微粒子の焼結温度およびキュリー温度よりも低いので、製造に必要なエネルギーコストを低減できるとともに、成形時の加熱による自発磁化の消失を抑制できる。
さらに、樹脂等のバインダーを必要としないため、よりエネルギー密度の高い磁石を提供できる。
【0018】
請求項2記載の磁石においては、膜化合物はSiを介して磁性微粒子の表面に共有結合しているので、膜化合物が磁性微粒子表面から剥離しにくくなり、磁石の耐久性を向上できる。
【0019】
請求項3記載の磁石および請求項8記載の磁石の製造方法においては、前記膜化合物の形成する被膜が単分子膜であるので、磁石中の膜化合物の含量を必要最低限に抑え、磁石の性能を向上できる。
【0020】
請求項4記載の磁石においては、反応性の官能基が熱反応性およびイオン反応性の官能基のいずれかであるので、特殊な製造設備を必要とせず、通常の成形用金型内で反応性の官能基と架橋反応基との反応を起こさせることができる。
【0021】
請求項5記載の磁石および請求項9記載の磁石の製造方法においては、反応性の官能基と架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とエポキシ基との反応により形成され、強度が高いN−CHCH(OH)結合であるので、機械的強度および耐久性の高い磁石を提供できる。
【0022】
請求項6記載の磁石および請求項10記載の磁石の製造方法においては、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とイソシアネート基との反応により形成され形成され、強度が高いNH−CONH結合であるので、機械的強度および耐久性の高い磁石を提供できる。
【0023】
請求項11記載の磁石の製造方法においては、反応性磁性微粒子と架橋剤とを混合し鋳型に入れ、反応性の官能基と架橋反応基との反応により形成された結合を形成させる工程Bを磁場中で行うので、磁気異方性に優れた磁石を製造できる。
請求項12記載の磁石の製造方法においては、磁場中で超音波を印加しながら工程Bを行うので、さらに磁気異方性に優れた磁石を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る磁石の断面構造を模式的に表した説明図、図2は同磁石の製造方法において、エポキシ化マグネタイト微粒子を製造する工程を説明するために分子レベルまで拡大した模式図であり、(a)は反応前のマグネタイト微粒子の断面構造、(b)はエポキシ基を含む単分子膜が形成されたエポキシ化マグネタイト微粒子の断面構造をそれぞれ表す。
【0025】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る磁石10は、分子の一端にエポキシ基(反応性の官能基の一例)を有するアルコキシシラン化合物(膜化合物の一例)の形成する単分子膜(被膜の一例)12で表面が被覆されたエポキシ化マグネタイト微粒子11(膜化合物の形成する被膜で表面が被覆された磁性微粒子の一例)と、2−メチルイミダゾール13(架橋剤の一例)とを含み、エポキシ化マグネタイト微粒子11が、エポキシ基と、2−メチルイミダゾール13のアミノ基およびイミノ基(架橋反応基の一例)との反応により形成された結合を介して成形および硬化している。
【0026】
磁石10は、エポキシ基およびアルコキシシリル基(結合基の一例)を分子の両端にそれぞれ有する膜化合物をマグネタイト微粒子(磁性微粒子の一例)21と接触させ、アルコキシシリル基とマグネタイト微粒子の表面のヒドロキシル基22との間で結合を形成させ、エポキシ化マグネタイト微粒子11を製造する工程Aと、エポキシ化マグネタイト微粒子11と、2−メチルイミダゾール13とを混合し鋳型に入れ、鋳型内で加熱して、エポキシ基と、2−メチルイミダゾール13のアミノ基およびイミノ基(架橋反応基の一例)との反応により結合を形成させる工程Bとを含む方法により製造される。
【0027】
以下、工程AおよびBについてより詳細に説明する。
工程Aでは、エポキシ基を有する膜化合物の単分子膜12で表面が覆われたエポキシ化マグネタイト微粒子11を製造する。
エポキシ化マグネタイト微粒子11の製造に用いるマグネタイト微粒子21の直径に特に制限はないが、100μm以下であることが好ましい。直径が100μmよりも大きくなると、エポキシ化微粒子11間の空隙が大きくなるため、磁石10の磁気特性が低下するとともに、表面積に対する質量の割合が大きくなり、架橋反応によりその質量を支持できなくなるので機械的強度が低下する。
市場での入手可能性、製造コスト、二次凝集等によるハンドリング等の種々の要因を考慮すると、マグネタイト微粒子21の直径は、10〜500nmであることが好ましい。
用いられるマグネタイト微粒子21の粒径は単一であってもよいが、2以上の異なる粒径を有するマグネタイト微粒子を混合して用いてもよい。
【0028】
エポキシ化マグネタイト微粒子11の製造に用いる反応液は、エポキシ基を含むアルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基とマグネタイト微粒子21の表面のヒドロキシル基22との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0029】
エポキシ基を含むアルコキシシラン化合物としては、直鎖状アルキレン基の両末端に、エポキシ基(オキシラン環)を含む官能基およびアルコキシシリル基をそれぞれ有し、下記の一般式(化1)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0030】
【化1】

【0031】
上式において、Eはエポキシ基を含む官能基を、mは3〜20の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
【0032】
工程Aにおいて用いることができるエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の一例としては、下記(1)〜(12)に示した化合物が挙げられる。
【0033】
(1) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OCH)3
(2) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OCH)3
(3) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OCH)3
(4) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(5) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(6) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(7) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OC)3
(8) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OC)3
(9) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OC)3
(10) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(11) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(12) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
【0034】
ここで、(CHOCH)CHO−基は、化2で表される官能基(グリシジルオキシ基)を表し、(CHCHOCH(CH)CH−基は、化3で表される官能基(3,4−エポキシシクロヘキシル基)を表す。
【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0038】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0039】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0040】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレート類の具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0041】
反応液をマグネタイト微粒子21の表面に塗布し、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基とマグネタイト微粒子21の表面のヒドロキシル基22とが縮合反応を起こし、下記の化4で示されるような構造を有するエポキシ基を有する膜化合物の単分子膜12を生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合はマグネタイト微粒子21の表面または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本はマグネタイト微粒子21の表面のケイ素原子と結合している。
【0042】
【化4】

【0043】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、マグネタイト微粒子21の表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、マグネタイト微粒子21をよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0044】
上述の金属塩の代わりに、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として用いた場合、反応時間を1/2〜2/3程度まで短縮できる。
【0045】
あるいは、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間をさらに短縮できる。
【0046】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズオキサイドの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用い、その他の条件は同一にしてエポキシ化マグネタイト微粒子11の製造を行うと、エポキシ化マグネタイト微粒子11の品質を損なうことなく反応時間を1時間程度にまで短縮できる。
【0047】
さらに、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズビスアセチルアセトネートとの混合物(混合比は1:1)を用い、その他の条件は同一にしてエポキシ化マグネタイト微粒子11の製造を行うと、反応時間を20分程度に短縮できる。
【0048】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0049】
また、用いることができる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0050】
反応液の調製には、有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、シリコーン系溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。アルコキシシラン化合物の加水分解を防止するために、乾燥剤または蒸留により使用する溶媒から水分を除去しておくことが好ましい。また、溶媒の沸点は50〜250℃であることが好ましい。
【0051】
具体的に使用可能な溶媒としては、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
さらに、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれらの混合物を用いることもできる。
【0052】
また、用いることができるフッ化炭素系溶媒としては、フロン系溶媒、フロリナート(米国3M社製)、アフルード(旭硝子株式会社製)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、ジクロロメタン、クロロホルム等の有機塩素系溶媒を添加してもよい。
【0053】
反応液におけるアルコキシシラン化合物の好ましい濃度は、0.5〜3質量%である。
【0054】
反応後、溶媒で洗浄し、未反応物として表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、膜化合物の単分子膜12で表面が覆われたエポキシ化マグネタイト微粒子11が得られる。
洗浄には、連続処理およびバッチ処理のいずれの方法を用いてもよい。洗浄溶媒とエポキシ化マグネタイト微粒子との分離は、ろ過、デカンテーション、および遠心分離等の任意の公知の方法を用いて行うことができる。
このようにして製造されるエポキシ化マグネタイト微粒子11の断面構造の模式図を図2(b)に示す。
【0055】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0056】
反応後、生成したエポキシ化マグネタイト微粒子11を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、エポキシ化マグネタイト微粒子11の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、エポキシ化マグネタイト微粒子11の表面に共有結合により固定されていないが、エポキシ基を含んでいるため、2−メチルイミダゾールに対して膜化合物の単分子膜12と同様の反応性を有している。そのため、洗浄を行わなくても、以後の磁石10の製造工程に特に支障をきたすことはない。
【0057】
本実施の形態においては、エポキシ基を有するアルコキシシラン化合物を用いたが、直鎖状アルキレン基の両末端に、アミノ基およびアルコキシシリル基をそれぞれ有し、下記の一般式(化5)で表されるアルコキシシラン化合物を用いることもできる。
【0058】
【化5】

【0059】
上式において、mは3〜20の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。なお、エポキシ基は、アルコキシシリル基との副反応を避けるために、保護基によって保護されていてもよい。保護基は加水分解等により容易に除去できるものが好ましく、ケトンとアミノ基との反応により生成するケチミン誘導体等が挙げられる。
また、アミノ基は、化5に示したような1級アミン以外に2級アミンでもよく、アミノ基の代わりにピロール基、イミダゾール基等のイミノ基を有する官能基を含むアルコキシシラン化合物を用いることができる。
この場合において、用いることができるアミノ基を有するアルコキシシラン化合物の一例としては、下記(21)〜(28)に示した化合物が挙げられる。
【0060】
(21) H2N(CH2)Si(OCH)3
(22) H2N(CH2)Si(OCH)3
(23) H2N(CH2)Si(OCH)3
(24) H2N(CH2)Si(OCH)3
(25) H2N(CH2)Si(OC)3
(26) H2N(CH2)Si(OC)3
(27) H2N(CH2)Si(OC)3
(28) H2N(CH2)Si(OC)3
【0061】
縮合触媒のうち、スズ(Sn)塩を含む化合物は、アルコキシシラン誘導体に含まれるアミノ基と反応して沈殿を生成するため、縮合触媒として用いることができない。
したがって、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物を用いる場合には、カルボン酸スズ塩、カルボン酸エステルスズ塩、カルボン酸スズ塩ポリマー、カルボン酸スズ塩キレートを除き、反応液と同様の化合物を単独でまたは2種類以上を混合して縮合触媒として用いることができる。
用いることのできる助触媒の種類およびそれらの組み合わせ、溶媒の種類、アルコキシシラン化合物、縮合触媒、および助触媒の濃度、反応条件ならびに反応時間についてはエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物を用いる場合と同様であるので、説明を省略する。
【0062】
なお、本実施の形態においては、磁性微粒子としてマグネタイト微粒子を用いたが、磁石の製造に用いられる任意の磁性微粒子を用いることもできる。
磁性微粒子の具体例としては、鉄、コバルト、およびニッケル微粒子、マルテンサイト鋼−コバルト、鉄−クロム−コバルト、鉄−白金、アルニコ等の合金系磁性微粒子、フェライト、酸化クロム等の金属酸化物系微粒子、SmCo、NdFe14B等の希土類系磁性微粒子等が挙げられる。
用いることができる磁性微粒子の粒径については、一義的に決定することが困難であり、個々の材料特性、市場での入手可能性、製造コスト等の種々の要因に応じてそれぞれ異なる最適範囲を有する。例えば、球形鉄粉の場合には、十分な保持力を確保するために、その粒径は10〜100nmでなければならない。
(以上工程A)
【0063】
工程Bでは、エポキシ化マグネタイト微粒子11と、2−メチルイミダゾール13とを混合し鋳型に入れ、鋳型内で加熱して、エポキシ基と、2−メチルイミダゾール13のアミノ基およびイミノ基との反応により結合を形成させ、磁石10を製造する(図1)。
2−メチルイミダゾールはエポキシ基と反応するアミノ基(>NH)およびイミノ基(=N−)を、それぞれ1−位および3−位に有しており、下記の化6に示すような架橋反応により結合を形成する。
【0064】
【化6】

【0065】
2−メチルイミダゾール13の添加量は、エポキシ化マグネタイト微粒子11の5〜15重量%が好ましい。2−メチルイミダゾール13の添加量がエポキシ化マグネタイト微粒子11の5重量%未満であると、製造させる磁石10の機械的強度が低くなり、15重量%を上回ると、エポキシ化マグネタイト微粒子11との存在比率が低下するので得られる磁石10の磁気特性が悪化する。
【0066】
エポキシ化マグネタイト微粒子11と、2−メチルイミダゾール13とは、固体状態で混合してもよいが、エポキシ化マグネタイト微粒子11を混合しながら2−メチルイミダゾール13を含む溶液を加えて、エポキシ化マグネタイト微粒子11の表面に2−メチルイミダゾール13が均一に付着した混合物を作製してもよい。
あるいは、溶媒の添加量を増大させ、ペースト状あるいはスラリー状の混合物を調製してもよい。
【0067】
2−メチルイミダゾール13の溶液の調製には、2−メチルイミダゾール13が可溶な任意の溶媒を用いることができるが、価格、室温での揮発性、および毒性等を考慮すると、イソプロピルアルコール、エタノール等の低級アルコール系溶媒が好ましい。
【0068】
ペースト状あるいはスラリー状の混合物の調製に用いる溶媒の量は、エポキシ化マグネタイト微粒子11の直系等によって適宜定められるため一義的に決定することは困難であるが、エポキシ化マグネタイト微粒子11および2−メチルイミダゾール13の10〜50重量%である。
具体的には、エポキシ化マグネタイト微粒子11の表面を2−メチルイミダゾール13の単分子被膜で被覆するために必要な量に設定すればよい。
エポキシ化マグネタイト微粒子11、2−メチルイミダゾール13、および溶媒の混合は、撹拌ばね、ハンドミキサー等の任意の手段により行うことができる。
【0069】
このようにして得られたエポキシ化マグネタイト微粒子11と、2−メチルイミダゾール13との混合物を金型に充填し、加圧しながら加熱して、エポキシ化マグネタイト微粒子11の表面のエポキシ基と、2−メチルイミダゾール13の窒素官能基との間で架橋反応を形成させる。金型の加圧および加熱は、任意の公知の手段を用いて行うことができる。
加熱温度は、エポキシ化マグネタイト微粒子の粒径、製造しようとする磁石10の大きさおよび形状等の種々の因子に依存するため一義的に決定するのは困難であるが、50〜300℃が好ましい。加熱温度が50℃未満だと、架橋反応が十分に進行しない上に、溶媒が完全に除去できない。加熱温度が300℃を超えると、エポキシ基を有する膜化合物の単分子膜12や、2−メチルイミダゾール13の熱分解が起こる。
加熱時間は、エポキシ化マグネタイト微粒子の粒径、製造しようとする磁石10の大きさおよび形状等に加え、加熱温度にも依存するので、これらの因子を考慮して適宜決定される。
【0070】
金型への充填、ならびに金型の加圧および加熱を磁場中で行うことにより(磁場配向処理)、エポキシ化マグネタイト微粒子11の配向性を向上させ、より強力な磁石10を得ることができる。磁場の印加には、永久磁石、電磁石、および超伝導磁石のいずれを用いてもよい。印加する磁場の強度および方向は、製造する磁石10の形状、用途等に応じて適宜決定される。
【0071】
また、金型への充填の際に、磁場中でさらに超音波を印加することが好ましい。超音波によって、エポキシ化マグネタイト微粒子11の配向が促進され、より強力な磁石10を得ることができる。
超音波の印加にも、任意の公知の手段を用いることができる。
【0072】
本実施の形態においては、架橋剤として2−メチルイミダゾールを用いたが、下記化7で表される任意のイミダゾール誘導体を用いることができる。あるいは、イミダゾール−金属錯体を用いてもよい。
【0073】
【化7】

【0074】
化7で表されるイミダゾール誘導体の具体例としては、下記(31)〜(38)に示すものが挙げられる。
(31) 2−メチルイミダゾール(R=Me、R=R=H)
(32) 2−ウンデシルイミダゾール(R=C1123、R=R=H)
(33) 2−ペンタデシルイミダゾール(R=C1531、R=R=H)
(34) 2−メチル−4−エチルイミダゾール(R=Me、R=Et、R=H)
(35) 2−フェニルイミダゾール(R=Ph、R=R=H)
(36) 2−フェニル−4−エチルイミダゾール(R=Ph、R=Et、R=H)
(37) 2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(R=Ph、R=Me、R=CHOH)
(38) 2−フェニル−4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール(R=Ph、R=R=CHOH)
なお、Me、Et、およびPhは、それぞれメチル基、エチル基、およびフェニル基を表す。
【0075】
また、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる無水フタル酸、無水マレイン酸等の酸無水物、ジシアンジアミド、ノボラック等のフェノール誘導体等の化合物を架橋剤として用いてもよい。この場合、架橋反応を促進するためにイミダゾール誘導体を触媒として用いてもよい。
【0076】
なお、本実施の形態においてはエポキシ基を有する膜化合物を用いた場合について説明しているが、工程Aにおいて、アミノ基またはイミノ基を有する膜化合物を用いる場合には、架橋反応基として2もしくは3以上のエポキシ基または2もしくは3以上のイソシアネート基を有するカップリング剤を用いる。イソシアネート基を有する化合物の具体例としては、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネート等が挙げられる。
これらのジイソシアネート化合物の添加量は、2−メチルイミダゾールの場合と同様、エポキシ化シリカ微粒子の5〜15重量%が好ましい。この場合、膜前駆体の製造に用いることのできる溶媒としては、キシレン等の芳香族有機溶媒が挙げられる。
また、架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の2または3以上のエポキシ基を有する化合物を用いることもできる。
(以上工程B)
【実施例】
【0077】
以下、本願発明の詳細を実施例を用いて説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
本実施例では、磁性微粒子としてマグネタイト微粒子を用いた場合について説明する。
【0078】
実施例1:磁石の製造[1]
(1)エポキシ化マグネタイト微粒子の製造
粒径が100nm程度の乾燥したマグネタイト微粒子を用意し、よく乾燥した。
3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(化8)0.99重量部、およびジブチルスズビスアセチルアセトナート(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン溶媒に溶解し、反応液を調製した。
【0079】
【化8】

【0080】
このようにして得られた反応液中にマグネタイト微粒子を混合し、撹拌しながら空気中(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。
その後、トリクレンで洗浄し、余分なアルコキシシラン化合物およびジブチルスズビスアセチルアセトナートを除去した。
【0081】
(2)エポキシ化マグネタイト微粒子の成形および硬化
(1)で調製したエポキシ化マグネタイト微粒子100重量部に、2−メチルイミダゾールを5%重量部加え十分混合し、金型へ充填した。磁場中で超音波照射しながら加圧し、さらに50〜100℃程度に加熱すると、エポキシ基と、イミダゾール基の窒素官能基との架橋反応により形成された共有結合を介して硬化し、十分な機械的強度を有する磁石を製造できた。
【0082】
実施例2:磁石の製造[2]
(1)アミノ化マグネタイト微粒子の製造
粒径が100nm程度の乾燥したマグネタイト微粒子を用意し、よく乾燥した。
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(化9、信越化学工業株式会社製)0.99重量部、および酢酸(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン溶媒に溶解し、反応液を調製した。
【0083】
【化9】

【0084】
このようにして得られた反応液中にマグネタイト微粒子を混合し、撹拌しながら空気中(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。
その後、トリクレンで洗浄し、余分なアルコキシシラン化合物およびジブチルスズビスアセチルアセトナートを除去した。
【0085】
(2)アミノ化マグネタイト微粒子の成形および硬化
(1)で調製したアミノ化マグネタイト微粒子100重量部に、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート5重量部を加え十分混合し、金型へ充填した。磁場中で超音波照射しながら加圧し、さらに50〜100℃程度に加熱すると、アミノ基と、イソシアネート基の窒素官能基との架橋反応により形成された共有結合を介して硬化し、十分な機械的強度を有する磁石を製造できた。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施の形態に係る磁石の断面構造を模式的に表した説明図である。
【図2】同磁石の製造方法において、エポキシ化マグネタイト微粒子を製造する工程を説明するために分子レベルまで拡大した模式図であり、(a)は反応前のマグネタイト微粒子の断面構造、(b)はエポキシ基を含む単分子膜が形成されたエポキシ化マグネタイト微粒子の断面構造をそれぞれ表す。
【符号の説明】
【0087】
10:磁石、11:エポキシ化マグネタイト微粒子、12:エポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の形成する単分子膜、13:2−メチルイミダゾール、21:マグネタイト微粒子、22:ヒドロキシル基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の一端に反応性の官能基を有する膜化合物の形成する被膜で表面が被覆された磁性微粒子と、前記官能基と反応して結合を形成する複数の架橋反応基を有する架橋剤とを含み、前記被覆された磁性微粒子が、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との反応により形成された結合を介して成形および硬化していることを特徴とする磁石。
【請求項2】
請求項1記載の磁石において、前記膜化合物は、Siを介して前記磁性微粒子の表面に共有結合していることを特徴とする磁石。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか1項に記載の磁石において、前記被膜が単分子膜であることを特徴とする磁石。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁石において、前記反応性の官能基および前記架橋反応基が、熱反応性およびイオン反応性の官能基のいずれかであることを特徴とする磁石。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁石において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とエポキシ基との反応により形成されたN−CHCH(OH)結合であることを特徴とする磁石。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁石において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とイソシアネート基との反応により形成されたNH−CONH結合であることを特徴とする磁石。
【請求項7】
反応性の官能基および結合基を分子の両端にそれぞれ有する膜化合物を磁性微粒子と接触させ、結合基と前記微粒子の表面との間で結合を形成させ、前記膜化合物の形成する被膜で表面が覆われた反応性磁性微粒子を製造する工程Aと、
前記反応性磁性微粒子と、前記官能基と反応して結合を形成する複数の架橋反応基を有する架橋剤を混合し鋳型に入れ、該鋳型内で前記反応性の官能基と前記架橋反応基との反応により結合を形成させる工程Bとを含むことを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の磁石の製造方法において、前記膜化合物の形成する被膜が単分子膜であることを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項9】
請求項7および8のいずれか1項に記載の磁石の製造方法において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とエポキシ基との反応により形成されたN−CHCH(OH)結合であることを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項10】
請求項7および8のいずれか1項に記載の磁石の製造方法において、前記反応性の官能基と前記架橋反応基との架橋反応により形成された結合が、アミノ基またはイミノ基とイソシアネート基との反応により形成されたNH−CONH結合であることを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の磁石の製造方法において、前記工程Bを磁場中で行うことを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の磁石の製造方法において、超音波を印加しながら前記工程Bを行うことを特徴とする磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−277663(P2008−277663A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121866(P2007−121866)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】