説明

磁石発電機およびその製造方法

【課題】リラクタの加工に必要な時間を低減させて、リラクタの加工コストを低減させることができる磁石発電機を得る。
【解決手段】有底円筒形状に形成されたフライホイール3、フライホイール3の外側底面に設けられたドーナツ形状のリラクタ4およびフライホイール3の内周面に設けられた複数の磁石5を有した回転子1と、フライホイール3の内側に設けられ、外周部が磁石5と対向した積層鉄心6および積層鉄心6に設けられた発電コイル8を有した固定子2と、フライホイール3の外周側壁面より径方向外側に設けられた信号発電子13とを備え、リラクタ4は、内周部に形成された基部4a、フライホイール3の外周側壁面より径方向外側に設けられた被検出部4bおよび基部4aと被検出部4bとの間に形成された、被検出部4bを信号発電子13へ対向可能にした屈曲部4cを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フライホイールと、このフライホイールの外側に設けられたリラクタと、フライホイールより径方向外側に設けられた信号発電子とを備えた磁石発電機およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底円筒形状に形成されたフライホイールと、このフライホイールの円筒部の外周面に一体に形成され、径方向外側へ突出した複数の被検出部を有したリラクタと、フライホイールの外側に設けられ、それぞれの被検出部と対向したことを検出する信号発電子とを備えた磁石発電機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このものの場合、信号発電子と対向可能にするために、リラクタのそれぞれの被検出部は、信号発電子が取り付けられる位置に合わせて、フライホイールの円筒部の外周面に切削加工によって形成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−244057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このものの場合、リラクタが切削加工によって形成されているので、リラクタの加工に多大な時間がかかってしまい、リラクタの加工コストが増大するという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような問題点を解決することを課題とするものであって、その目的は、リラクタの加工時間を低減させて、リラクタの加工コストを低減させることができる磁石発電機およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る磁石発電機は、有底円筒形状に形成されたフライホイール、前記フライホイールの外側に設けられたドーナツ形状のリラクタおよび前記フライホイールの内周面に設けられた複数の磁石を有した回転子と、前記フライホイールの内側に設けられ、外周部が前記磁石と対向した積層鉄心および前記積層鉄心に設けられた発電コイルを有した固定子と、前記フライホイールの外周側壁面より径方向外側に設けられた信号発電子とを備え、前記回転子が回転することで、前記磁石と前記発電コイルとの電磁誘導作用により発電する磁石発電機において、前記リラクタは、前記フライホイールの底面に設けられた基部と、前記フライホイールの外周側壁面より径方向外側に設けられた被検出部と、前記基部と前記被検出部とに渡って設けられた、前記被検出部を前記信号発電子に対向可能にした屈曲部とを含み、前記信号発電子は、前記被検出部と対向したことを検出する。
【0007】
また、この発明に係る磁石発電機の製造方法は、板金プレス加工によって前記リラクタを平板形状に形成する板金プレス加工工程と、せん断加工によって前記リラクタに前記被検出部を形成するせん断加工工程と、絞り加工によって前記リラクタに前記屈曲部を形成する絞り加工工程とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る磁石発電機によれば、リラクタは、屈曲部によって被検出部が信号発電子に対向可能となっているので、リラクタを切削加工によって形成する必要がなく、リラクタの加工時間を低減させて、リラクタの加工コストを低減させることができる。
【0009】
また、この発明に係る磁石発電機の製造方法によれば、絞り加工によって被検出部が信号発電子に対向可能となっているので、リラクタを切削加工によって形成する必要がなく、リラクタの加工に必要な時間を低減させて、リラクタの加工コストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の各実施の形態を図に基づいて説明するが、各図において、同一または相当の部材、部位については、同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
図1はこの実施の形態に係る磁石発電機を示す平面図、図2は図1の磁石発電機を示す側断面図である。
この実施の形態に係る磁石発電機は、回転子1と、この回転子1の内側で固定部材(図示せず)に固定された固定子2とを備えている。
回転子1は、有底円筒形状に形成されたフライホイール3と、このフライホイール3の外側に取り付けられたリラクタ4と、フライホイール3の内周面に固定された複数の磁石5とを有している。
それぞれの磁石5は、フライホイール3の周方向に等間隔に並べられている。
フライホイール3の中心部には、回転軸(図示せず)が装着するボス部3aが形成されている。
【0011】
固定子2は、フライホイール3の内側に配置された積層鉄心6と、この積層鉄心6に取り付けられた絶縁部材7と、この絶縁部材7に取り付けられた発電コイル8とを有している。
積層鉄心6は、中空円柱形状に形成されており、外周面が磁石5と対向している。
絶縁部材7は、樹脂モールド成形材から構成されている。なお、絶縁部材7は、樹脂モールド成形材に限らず、例えば、エポキシ系パウダから構成されてもよい。
発電コイル8は、絶縁部材7によって積層鉄心6と絶縁されている。
積層鉄心6は、フライホイール3の軸線方向に積層された複数枚の薄板鋼板9と、この薄板鋼板9の積層方向の両端に配置された一対の端板10とを含んでいる。
【0012】
それぞれの磁石5の積層鉄心6側には、筒形状の保護環11がそれぞれの磁石5に密着して嵌合している。
磁石5および保護環11には、フライホイール3に対する磁石5および保護環11の位置を決めて、磁石5および保護環11をフライホイール3に固定する磁石位置決め部材12が取り付けられている。
この磁石位置決め部材12は、樹脂から構成されている。なお、磁石位置決め部材12は、樹脂に限らず、例えば、モールド成形材から構成されてもよい。
【0013】
また、この磁石発電機は、フライホイール3の外周側壁面より径方向外側に、固定部材(図示せず)に固定された信号発電子13を備えている。
リラクタ4は、フライホイール3の底面に面接触した基部4aと、フライホイール3の外周側壁面より径方向外側に設けられた複数の被検出部4bと、基部4aと被検出部4bとに渡って一体に形成された屈曲部4cとを含んでいる。
それぞれの被検出部4bは、周方向に等間隔に配置されている。
屈曲部4cによって、被検出部4bは、信号発電子13に対向可能となっている。
屈曲部4cは、基部4aから軸線方向へ屈曲された軸線方向部14aと、軸線方向部14aの先端部から径方向外側へ屈曲された径方向部14bとから構成されている。
リラクタ4は、軸線方向部14aがフライホイール3の底面部の外周に嵌合することで、フライホイール3に固定されている。
【0014】
次に、この実施の形態に係る磁石発電機の動作について説明する。
まず、回転軸が回転することで、連動して、フライホイール3が回転する。
フライホイール3が回転することで、連動して、リラクタ4が回転し、リラクタ4の被検出部4bが信号発電子13と対向することで、信号発電子13を通過する磁束が変化して、信号発電子13の信号コイル(図示せず)に信号電圧が誘起される。
信号発電子13は、この信号電圧を測定することにより、リラクタ4の被検出部4bが信号発電子13と対向したことを検出して、フライホイール3の回転数およびフライホイール3の回転角度、または、フライホイール3に連結された回転軸の回転数および回転軸の回転角度を検出する。
【0015】
次に、この実施の形態に係る磁石発電機の製造方法について説明する。
まず、板金プレス加工工程を開始し、板金プレス加工によってリラクタ4を平面形状に形成する。
次に、せん断加工工程を開始し、せん断加工によってリラクタ4に被検出部4bを形成する。
さらに、絞り加工工程を開始し、絞り加工によってリラクタ4に屈曲部4cを形成する。
最後に、リラクタ4をフライホイール3に嵌合する。
【0016】
以上説明したように、この実施の形態に係る磁石発電機によれば、リラクタ4は、屈曲部4cによって被検出部4bが信号発電子13に対向可能となっているので、リラクタ4を切削加工によって形成する必要がなく、リラクタ4の加工に必要な時間を低減させて、リラクタ4の加工コストを低減させることができる。
また、リラクタ4に屈曲部4cが形成されているので、平板形状のリラクタ4と比較して、剛性が強化されるので、回転軸からリラクタ4に振動が伝達された場合に、その振動によりリラクタ4が変形することを抑制する。
その結果、信号発電子13が検出するフライホイール3の回転数および回転角度の誤差を低減させることができる。
【0017】
また、この実施の形態に係る磁石発電機の製造方法によれば、絞り加工によって被検出部4bが信号発電子13に対向可能となっているので、リラクタ4を切削加工によって形成する必要がなく、リラクタ4の加工に必要な時間を低減させて、リラクタ4の加工コストを低減させることができる。
【0018】
実施の形態2.
図3はこの実施の形態に係る磁石発電機の要部を示す平面図、図4は図3の磁石発電機の要部を示す断面図である。
この実施の形態に係る磁石発電機は、リラクタ4の被検出部4bが、周方向に等間隔ではなく、一部に偏って形成されている。
リラクタ4には、フライホイール3の凸部(図示せず)と係合することでフライホイール3との相対位置を決める位置決め穴4dが2個形成されている。
フライホイール3の凸部およびリラクタ4の位置決め穴4dから係合手段が構成されている。
被検出部4bが一部に偏って形成されることにより、リラクタ4の重心は、回転軸からずれてしまい、静アンバランスが生じる。
フライホイール3の凸部およびリラクタ4の位置決め穴4dは、この静アンバランスを低減させる位置に形成されている。
なお、フライホイール3に静アンバランスがある場合には、フライホイール3の静アンバランスを考慮して、フライホイール3の凸部およびリラクタ4の位置決め穴4dを形成する。
また、回転子1の全体に静アンバランスがある場合には、回転子1の全体の静アンバランスを考慮して、フライホイール3の凸部およびリラクタ4の位置決め穴4dを形成する。
また、係合手段は、フライホイール3に形成された位置決め穴と、リラクタ4に形成された、フライホイール3の位置決め穴と係合する凸部とから構成されてもよい。
この場合であっても、フライホイール3の位置決め穴およびリラクタ4の凸部は、回転子1の静アンバランスを低減する位置に形成される。
【0019】
図5は図3の磁石発電機の要部を拡大した断面図である。
また、この磁石発電機は、フライホイール3の外側底面の周縁隅部に沿って切り取られた段差部3bが形成されている。
段差部3bの軸線方向の深さHは、屈曲部4cの軸線方向部14aの長さD、つまり、基部4aのフライホイール3側の面から径方向部14bの反基部4a側の面までの距離より小さくなっている。
これにより、屈曲部4cの径方向部14bがフライホイール3の段差部3bの径方向に沿った面に、基部4aの撓み変形による弾性力によって、押し当てられた状態となる。
その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0020】
この実施の形態に係る磁石発電機によれば、フライホイール3が外側底面の周縁隅部に沿って切り取られた段差部3bを含み、屈曲部4cの径方向部14bがフライホイール3の段差部3bの径方向に沿った面に、基部4aの撓み変形による弾性力によって、押し当てられているので、フライホイール3が回転するときに、屈曲部4cの径方向部14bが微小に振動することを低減させて、信号発電子13が検出するフライホイール3の回転数および回転角度の誤差を低減させることができる。
【0021】
また、フライホイール3には凸部が形成され、リラクタ4には、フライホイール3の凸部と係合することでフライホイール3との相対位置を決める位置決め穴4dが形成されており、フライホイール3の凸部およびリラクタ4の位置決め穴4dは、回転子1の静アンバランスを低減する位置となっているので、回転子1の静アンバランスを調整する工数を削減することができる。
【0022】
なお、上記各実施の形態では、リラクタ4をフライホイール3に嵌合することで、リラクタ4をフライホイール3に固定する磁石発電機について説明したが、勿論このものに限らず、例えば、リラクタ4をフライホイール3に溶接することで、リラクタ4をフライホイール3に固定したり、また、リベット等を用いて、リラクタ4をフライホイール3にかしめ固定したりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1に係る磁石発電機を示す平面図である。
【図2】図1の磁石発電機を示す側断面図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る磁石発電機の要部を示す平面図である。
【図4】図3の磁石発電機の要部を示す側断面図である。
【図5】図3の磁石発電機の要部を拡大した側断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 回転子、2 固定子、3 フライホイール、3a ボス部、3b 段差部、4 リラクタ、4a 基部、4b 被検出部、4c 屈曲部、4d 位置決め穴(係合手段)、5 磁石、6 積層鉄心、7 絶縁部材、8 発電コイル、9 薄板鋼板、10 端板、11 保護環、12 磁石位置決め部材、13 信号発電子、14a 軸線方向部、14b 径方向部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒形状に形成されたフライホイール、前記フライホイールの外側に設けられたドーナツ形状のリラクタおよび前記フライホイールの内周面に設けられた複数の磁石を有した回転子と、
前記フライホイールの内側に設けられ、外周部が前記磁石と対向した積層鉄心および前記積層鉄心に設けられた発電コイルを有した固定子と、
前記フライホイールの外周側壁面より径方向外側に設けられた信号発電子とを備え、
前記回転子が回転することで、前記磁石と前記発電コイルとの電磁誘導作用により発電する磁石発電機において、
前記リラクタは、前記フライホイールの底面に設けられた基部と、前記フライホイールの外周側壁面より径方向外側に設けられた被検出部と、前記基部と前記被検出部とに渡って設けられた、前記被検出部を前記信号発電子に対向可能にした屈曲部とを含み、
前記信号発電子は、前記被検出部と対向したことを検出することを特徴とする磁石発電機。
【請求項2】
前記フライホイールは、外側底面の周縁隅部に沿って切り取られた段差部を含み、
前記屈曲部は、前記基部から軸線方向へ屈曲された軸線方向部と、前記軸線方向部の先端部から径方向外側へ屈曲された径方向部とから構成され、
前記径方向部は、前記段差部の径方向に沿った面に、前記基部の撓み変形による弾性力によって、押し当てられていることを特徴とする請求項1に記載の磁石発電機。
【請求項3】
前記フライホイールおよび前記リラクタには、互いに係合することで、互いの相対位置を決める係合手段が形成され、
前記係合手段は、前記回転子の静アンバランスを低減する位置となっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁石発電機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の磁石発電機の製造方法であって、
板金プレス加工によって前記リラクタを平板形状に形成する板金プレス加工工程と、
せん断加工によって前記リラクタに前記被検出部を形成するせん断加工工程と、
絞り加工によって前記リラクタに前記屈曲部を形成する絞り加工工程とを備えたことを特徴とする磁石発電機の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−110107(P2010−110107A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279600(P2008−279600)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】