神経新生促進剤
【課 題】本発明は、神経疾患を治療するのに有効な神経新生を促進させうる薬剤を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とする神経新生促進剤。
【解決手段】(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とする神経新生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は神経新生促進剤に関し、更に詳しくは肝細胞増殖因子(以下、HGFと略記する。)又はそれをコードするDNAを含むDNAを有効成分とする神経新生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞は、一旦分化成熟すると、分裂できないため神経変性が神経細胞数の減少に直結する。例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)又はハンチントン病等は、選択的な神経細胞死が進行性に起きる神経変性疾患として知られている。現在、これら疾患に対する治療に、神経変性に伴う神経伝達物質の枯渇を補う補充療法剤や対症療法剤等が使用されている。しかしながら、それら補充療法剤や対症療法剤が神経変性の進行を抑制させるわけではなく、病状の進行とともにそれらの効果は徐々に失われていく。その為、神経変性の進行を抑制し、残存した神経再生を促す薬剤の開発が望まれるが、現状ではこのような作用を有する薬剤は見出されていない。また、これまで長い間中枢神経系において神経変性が生じた場合、神経新生が不可能とされてきた。しかし、ごく最近になりヒトを含む成熟した哺乳動物の中枢神経系には神経を新生しうる神経幹細胞及び神経前駆細胞が存在する事が相次いで明らかにされ、内在性の神経幹細胞を活性化することにより障害された神経組織及び機能を再生する可能性が検討され始めた(例えば非特許文献1,2)。
【0003】
一方、HGFは、最初に成熟肝細胞に対する強力なマイトゲンとして同定され、1989年にその遺伝子クローニングがなされた(非特許文献3、4参照)。HGFの投与は、抗アポトーシス活性によって劇症肝炎を伴うマウスにおけるエンドトキシン誘発致死的肝障害を予防し、HGF遺伝子治療は致命的な肝硬変を持つラットの生存率を改善し得る(非特許文献5、6参照)。また、ノックアウト/ノックインマウスの手法を含む発現及び機能的解析における近年の多数の研究により、HGFは新規な神経栄養因子であることも明らかにされた(非特許文献7、8参照)。とりわけHGFは、in vitroでグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)に匹敵する運動ニューロンに対する最も強力な生存促進因子の一つとして知られている(非特許文献9参照)。
【0004】
また、特許文献1には、パーキンソン病で変性する中脳黒質ドーパミンニューロンを薬剤投与により特異的に死滅させる中脳黒質ドーパミンニューロン細胞死誘導ラットを用いて、HGF遺伝子の神経変性疾患への作用効果を行動学的に及び組織学的に検討した実施例が示されている。具体的には、HGF遺伝子の前投与が、中脳黒質ドーパミンニューロンを神経毒6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)から保護し、中脳黒質ドーパミンニューロン細胞死誘導ラットの症状を抑えたことが示されている。そして、この特許文献1では、このような実験結果に基づいて、HGF遺伝子がドーパミンニューロンに対する保護作用を有すると記載されている。また、特許文献2には、HGFは運動ニューロンに対する直接的神経栄養因子活性と、運動ニューロンに対するグルタミン酸細胞毒性の間接的な改善作用(神経保護作用)の2つの作用を有すると記載されている。しかしながら、HGFが神経毒6−OHDAやグルタミンに対して神経保護作用を示したからといって、HGFが神経細胞の新生を促進するとは到底予測できない。
さらに、特許文献3には、HGFを有効成分とする脳神経障害治療剤が記載され、HGFは神経細胞の生存を延長させるが、神経是由来の細胞であるラット好クロム性細胞腫PC12細胞のDNA合成を促進することはない旨記載されている。還元すれば、HGFはPC12細胞の新生を促進することはないということを示すものである。このことからも、HGFが神経細胞の新生を促進するということは予測すらできない。
【特許文献1】国際公開第2003/045439号パンフレット
【特許文献2】特開2002−87983号公報
【特許文献3】特許第3680114公報
【非特許文献1】ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)、1998年、第4巻、1313−1317頁
【非特許文献2】ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)、2000年、第6巻、271−277頁
【非特許文献3】中村(Nakamura)ら,バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・アンド・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),1984年,第122巻,p.1450−1459
【非特許文献4】中村(Nakamura)ら,ネイチャー(Nature),1989年,第342巻,p.440−443
【非特許文献5】コウサイ(Kosai)ら,ヘパトロジー(Hepatology),1999年,第30,p.151−159
【非特許文献6】ウエキ(Ueki)ら,ネイチャー・メディシン(Nat.Med.),1999年,第5巻,p.226−230.
【非特許文献7】松本(Matsumoto)ら,チバ・ファウンデイション・シンポジウム(Ciba Found.Symp.),1997年,第212巻,p.198−211;ディスカッション211−194
【非特許文献8】船越(Funakoshi)ら,クリニカ・チミカ・アクタ(Clin.Chim.Acta.),2003年,第327巻,p.1−23
【非特許文献9】ニューロン(Neuron),1996年,第17巻,p.1157−1172
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、神経新生に有効な薬剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、HGF蛋白質もしくはHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド(以下において、HGF蛋白質等ということもある。)、あるいはそれらをコードするDNA又は前記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNA(以下において、HGF遺伝子ということもある。)が神経新生効果を奏することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明者らは、まず神経細胞死を誘発するモデルマウスとしてR6/2形質転換マウスを用いて、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子の神経新生への関与を検討した。
本発明者らは、神経向性を有し複製能を欠如したベクター(I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター)を用いてR6/2形質転換マウスにラットHGF遺伝子を線条体に導入し、線条体においてラットHGF蛋白質を発現するR6/2形質転換マウスを作製し、当該マウスを用いて、実際にHGF遺伝子が神経新生に対して効果を示すか否かを検討した。神経新生には、新しい神経細胞が生まれるので細胞分裂がなされなければいけない。細胞分裂時には、遺伝情報をコピーするためにDNAが合成さる。DNAが合成されたかどうかを知る手がかりとなる物質としてBrdU(ブロモデオキシウリジン)がある。BrdUを体内に注入すると新しく生まれる神経(細胞)には、このBrdUが取り込まれる。このためBrdUを指標に神経新生の有無を判定できる。そこで、前記ラットHGF蛋白質を発現するR6/2形質転換マウスにBrdUを投与し、線条体の神経細胞に取り込まれるBrdUを測定したところ、少なくとも線条体において神経が新生されるということを見出した。また、培養神経幹細胞(neurosphere)を用いた分化アッセイにおいて、HGF受容体が神経幹細胞や該神経幹細胞から分化した神経細胞及びアストロサイト前駆細胞に存在することを見出した。さらに、培養神経幹細胞(neurosphere)を用いた分化アッセイにおいて、HGFは神経幹細胞から新生神経細胞への分化(新生神経細胞の増加)を促進し、かつ分化した神経細胞における神経線維の伸張及び神経突起の分岐を促進させることを見出した。
このような、HGF蛋白質又はHGF遺伝子の神経新生作用は本発明において初めて見出されたものであり、発明者らはこれら知見に基づきさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1](1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とする神経新生促進剤、
[2] 有効成分が、(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAであることを特徴とする前記[1]記載の神経新生促進剤、
[3] HGF蛋白質をコードするDNAが、(a)配列番号1、2又は5で表される塩基配列からなるDNA又は(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNAであることを特徴とする前記[2]記載の神経新生促進剤、
[4] DNAが、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする前記[2]又は[3]記載の神経新生促進剤、
[5] 有効成分が、(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩であることを特徴とする前記[1]記載の神経新生促進剤、
[6] HGF蛋白質が、(a)配列番号3、4又は6で表されるアミノ酸配列と同一又は(b)前記アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であることを特徴とする前記[5]記載の神経新生促進剤、
[7] 神経新生促進剤が、局所投与用であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の神経新生促進剤、
[8] 局所投与が、髄腔内投与であることを特徴とする前記[7]記載の神経新生促進剤、
[9] 神経栄養因子と組み合わせて使用されることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載の神経新生促進剤、及び
[10] 神経栄養因子が、NT−3、NT−4、CNTF、GDNF及びBDNFから選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記[9]記載の神経新生促進剤、
に関する。
【0009】
また、本発明は(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを哺乳動物に投与することを特徴とする神経新生の促進方法に関する。さらに、本発明は、神経新生を促進する医薬を製造するための(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAの使用に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の神経新生促進剤は、神経の変性又は神経細胞死を伴う神経変性疾患や神経障害において、神経の変性や神経細胞死が誘発された部位において新たな神経の新生を促進し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において「HGF蛋白質をコードするDNA」とは、HGF蛋白質を発現し得るDNAをいう。HGF蛋白質をコードするDNAを含むDNAとしては、例えば、Nature,342,440(1989);特許第2777678号公報;Biochem.Biophys,Res.Commun.,1989年,第163巻,p.967-973;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1991年,第88巻(16号),p.7001-7005等に記載され、例えば、GeneBank/EMBL/DDBJにAccession No.M60718、M73240、AC004960、AY246560、M29145又はM73240等として登録されているヒト由来のHGF蛋白質をコードするDNA等が好ましく挙げられる。また、本発明のHGF蛋白質をコードするDNAには、前記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性、例えばマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する蛋白質をコードするDNA等が包含される。
【0012】
HGF蛋白質をコードするDNAの具体例としては、例えば、配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNA、若しくは配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性、例えばマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する蛋白質をコードするDNA等が好ましく挙げられる。ここで、配列番号1で表される塩基配列は、Accession No.M60718の塩基配列第73乃至2259に相当し、該DNAは配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるHGF蛋白質をコードするDNAに相当する。配列番号2で表される塩基配列は、Accession No.M73240の塩基配列第66乃至2237に相当し、該DNAは配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるHGF蛋白質をコードするDNAに相当する。
【0013】
配列番号1又は2で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば上記DNAの部分配列をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、約65℃でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムよりなる。)を用い、約65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。ストリンジェントな条件は、以下において同様である。
【0014】
上記の配列番号1又は2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとして具体的には、配列番号1又は2で表わされる塩基配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNA等が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning,A laboratory Manual,Third Edition(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,2001:以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す。)に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0015】
さらに、本発明のHGF蛋白質をコードするDNAは上記に限定されず、発現する蛋白質がHGF蛋白質と実質的に同じ作用を有する蛋白質をコードするDNAである限り、本発明のHGF蛋白質をコードするDNAとして使用できる。例えばHGF蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA等も好ましく使用できる。
【0016】
HGF蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAとしては、上記した部分ペプチドをコードする塩基配列を有しかつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAであればいかなるものであってもよい。具体的な本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(a)配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA、(b)配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNA等が挙げられる。このようなDNAとしては、より具体的には、例えば、配列番号1で表されるヒトHGFの塩基配列の第94番目から第630番目までの塩基配列(HGFのN末端ヘアピンループから第1クリングルドメインまでのペプチドをコードするDNA)を有するDNAや、配列番号1で表されるヒトHGFの塩基配列の第94番目から第864番目までの塩基配列(HGFのN末端ヘアピンループから第2クリングルドメインまでのペプチドをコードするDNA)を有するDNA等が好ましく挙げられる。
【0017】
HGF蛋白質をコードするDNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAは、例えば通常のハイブリダイゼーション法やPCR法等により容易に得ることができ、該DNAの取得は具体的には例えば前記モレキュラー・クローニング第3版等の基本書等を参考にして行うことができる。
【0018】
なお、本発明で用いられるHGF蛋白質をコードするDNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAを含むDNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞・組織由来のcDNA、細胞もしくは組織由来のcDNAライブラリー又は合成DNA等が好ましく挙げられる。前記ライブラリーにゲノムDNA断片がクローニングされるベクターとしては、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド又はファージミド等が挙げられる。
また、本発明で用いられるHGF蛋白質をコードするRNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドをコードするRNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするRNAも、逆転写酵素によりHGF蛋白質又は部分ペプチドを発現することができるものであれば、本発明に用いることができる。該RNAとしては、例えば細胞又は組織よりmRNA画分を調製して、RT−PCR法によって増幅したRNA等が挙げられ、本発明の範囲内である。また該RNAも公知の手段により得ることができる。
【0019】
本発明で使用されるHGF蛋白質は公知物質であり、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。
HGF蛋白質は、例えばHGF蛋白質を産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGF蛋白質を得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法によりHGF蛋白質をコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清液から目的とする組換えHGF蛋白質を分離すること等により得ることもできる。(例えば、特開平5−111382号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.1989年、第163巻,p.967等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母又は動物細胞等を用いることができる。このようにして得られたHGF蛋白質は、天然型HGF蛋白質と実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数個(例えば、1〜約20個、好ましくは1〜約10個;以下同様である。)のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失若しくは付加されていてもよい。そのようなHGF蛋白質として、下記する5アミノ酸欠損型HGF蛋白質を挙げることができる。ここで、アミノ酸配列について、「1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的手段により、又は天然に生じうる程度の数(1〜複数個)が、欠失、置換若しくは付加等されていることを意味する。糖鎖が置換、欠失若しくは付加したHGF蛋白質とは、例えば天然のHGF蛋白質に付加している糖鎖を酵素等で処理し糖鎖を欠損させたHGF蛋白質、また糖鎖が付加しない様に糖鎖付加部位のアミノ酸配列に変異が施されたもの、あるいは天然の糖鎖付加部位とは異なる部位に糖鎖が付加するようアミノ酸配列に変異が施されたもの等をいう。具体的には、例えばNCBIのデータベースに登録されているAccession No.NP_001010932のヒトHGFに対し、糖鎖付加部位の289位AsnをGlnに、397位AsnをGlnに、471位ThrをGlyに、561位AsnをGlnに、648位AsnをGlnにそれぞれ置換することによって糖鎖が付加しないようにしたHGF[Fukuta K et al.,Biochemical Journal,388,555-562(2005)]等を挙げることができる。
さらに、HGF蛋白質のアミノ酸配列と少なくとも約80%以上の相同性を有する蛋白質、好ましくは約90%以上の相同性を有する蛋白質、より好ましくは約95%以上の相同性を有する蛋白質であって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質も本発明に使用されるHGF蛋白質に含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。
【0020】
上記HGF蛋白質としては、例えばNCBIのデータベース等に登録されている例えばAccession No.P14210(配列番号3)又はAccession No.NP_001010932(配列番号4)で表されるアミノ酸配列で示されるヒト由来の蛋白質等が好ましく挙げられる。配列番号4で表されるHGF蛋白質は、配列番号3で表されるアミノ酸配列の第161〜165番目の5個のアミノ酸残基が欠失している5アミノ酸欠損型HGF蛋白質である。配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、両者ともヒト由来の天然HGF蛋白質であって、HGFとしてのマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する。
配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と少なくとも約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む蛋白質であって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質、例えば配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列から、1〜複数個のアミノ酸残基を挿入又は欠失させたアミノ酸配列、1〜複数個のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と置換させたアミノ酸配列又は1〜複数個のアミノ酸残基が修飾されたアミノ酸配列等を含む蛋白質であって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質であることが好ましい。挿入されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。非天然アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を有する限りどのような化合物でもよいが、例えばγ−アミノ酪酸等が挙げられる。
これらの蛋白質は、単独であっても、これらの混合蛋白質であってもよい。配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、例えばNCBIのデータベースに登録されているAccession No.BAA14348又はAAC71655等のヒト由来HGFが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
なお、本発明で用いられるHGF蛋白質又はそれをコードするDNAは、ヒトに適用する場合は前記したヒト由来のものが好適に用いられるが、ヒト以外の哺乳動物(例えばサル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンパンジー等)に由来するHGF蛋白質又はそれをコードするDNAであってもよい。このようなHGFとしては、例えばNCBIのデータベース等に登録されている例えば、マウス由来HGF(例えばAccession No.AAB31855,NP_034557,BAA01065,BAA01064等)、ラット由来HGF[例えばAccession No.NP_58713(配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質)等]、ウシ由来HGF(例えばAccession No.NP_001026921、XP874086,BAD02475等)、ネコ由来HGF(例えばAccession No.NP_001009830、BAC10545,BAB21499等)、イヌ由来HGF(例えばAccession No.NP_001002964、BAC57560等)又はチンパンジー由来HGF(例えばAccession No.XP519174等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明に用いられるHGF蛋白質は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシラート[−COOM(Mは金属を示す)]、アミド(−CONH2)又はエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチル等のC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル等のC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチル等のC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチル等のフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチル等のα−ナフチル−C1−2アルキル基等のC7−14アラルキル基のほか、アセチルオキシメチル、ピバロイルオキシメチル等のC2−6アルカノイルメチル基等が用いられる。本発明で用いられるHGF蛋白質が、C末端以外にカルボキシル基又はカルボキシラートを有している場合、カルボキシル基又はカルボキシラートがアミド化又はエステル化されているものも本発明におけるHGF蛋白質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステル等が用いられる。さらに、本発明に用いられるHGF蛋白質には、上記した蛋白質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の反応性基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾリル基、インドリル基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質等の複合蛋白質等も含まれる。
【0023】
本発明で用いるHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド(以下、HGF部分ペプチドと略記する場合がある。)としては、上記したHGF蛋白質の部分ペプチドであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するものであればいずれのものであってもよい。本発明において、HGF部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記したHGF蛋白質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも約20個以上、好ましくは約50個以上、より好ましくは約100個以上のアミノ酸配列を含有するペプチド等が好ましい。具体的には、例えば、配列番号3で表されるヒトHGFアミノ酸配列のN末端側から32番目のアミノ酸から210番目のアミノ酸までのアミノ酸配列(HGFのN末端ヘアピンループから第1クリングルドメインまでの配列)で示されるペプチドや、配列番号3で表されるヒトHGFアミノ酸配列のN末端側から32番目のアミノ酸から288番目のアミノ酸までのアミノ酸配列(HGFのN末端ヘアピンループから第2クリングルドメインまでの配列)で示されるペプチド等が好ましく挙げられる。
本発明のHGF部分ペプチドにおいては、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシラート[−COOM(Mは上記と同意義)]、アミド(−CONH2)又はエステル(−COOR;Rは上記と同意義)のいずれであってもよい。さらに、HGF部分ペプチドには、上記したHGF蛋白質と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチド等の複合ペプチド等も含まれる。
【0024】
本発明に用いられるHGF蛋白質又はその部分ペプチドの塩としては、酸又は塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)との塩等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられるHGF蛋白質の部分ペプチド又はその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいはHGF蛋白質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれでも良い。すなわち、HGF蛋白質を構成し得る保護基を有していてもよい部分ペプチドもしくはアミノ酸と保護基を有していてもよい残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は、保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、M.Bodanszky及びM.A.Ondetti、ペプチド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)、Schroeder及びLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide),Academic Press,New York(1965年)等に記載された方法等が挙げられる。反応後は通常の精製方法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、結晶化又は再結晶等を組み合わせてHGF蛋白質の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0026】
本発明において「神経新生」とは、幼弱な未分化細胞(例えば神経幹細胞等)から神経芽細胞を経て新しい神経(神経細胞)に分化させることをいい、神経細胞に分化する神経芽細胞や未分化細胞等の増殖を含む。また神経新生は、損傷した神経の再生や神経修復を含む。
「神経」には、中枢神経(例えば脳、脊髄等)及び末梢神経(例えば尺骨神経、橈骨神経、腓骨神経等)を含む。
【0027】
本発明の神経新生促進剤は、ヒトのほか、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンパンジー等)にも適用できる。
【0028】
本発明の神経新生促進剤を患者に投与する場合、その投与形態、投与方法、投与量等は、有効成分がHGF蛋白質の場合と、HGF蛋白質をコードするDNAの場合と若干異なってもよい。
例えば、有効成分がHGF蛋白質である場合の本発明の製剤は、種々の製剤形態、例えば液剤、固形剤等をとりうるが、一般的にはHGF蛋白質のみを又はそれを慣用の担体と共に注射剤、噴射剤、徐放性製剤(例えば、デポ剤)等に製剤されるのが好ましい。上記注射剤は、水性注射剤又は油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)又はpH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等)等を適宜添加した溶液に、HGF蛋白質を溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。また適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)又は非イオン界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50等)等をさらに配合してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油又は大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコール等を配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプル又はバイアル等に充填される。注射剤中のHGF蛋白質含量は、通常約0.0002〜0.2w/v%、好ましくは約0.001〜0.1w/v%に調整され得る。なお、注射剤等の液状製剤は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
【0029】
噴霧剤も製剤上の常套手段によって調製することができる。噴霧剤として製造する場合、その噴霧剤に配合される添加剤としては、一般に吸入用製剤に使用される添加剤であればいずれのものであってもよく、例えば、噴射剤の他、上記した溶剤、保存剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤等を配合し得る。噴射剤としては、液化ガス噴射剤又は圧縮ガス等が挙げられる。液化ガス噴射剤としては、例えば、フッ化炭化水素(HCFC22、HCFC−123、HCFC−134a、HCFC142等の代替フロン類等)、液化石油、ジメチルエーテル等が挙げられる。圧縮ガスとしては、例えば、可溶性ガス(炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等)又は不溶性ガス(窒素ガス等)等が挙げられる。
【0030】
また、本発明で用いられるHGF蛋白質は、生体分解性高分子と共に、徐放性製剤(例えばデポ剤)とすることもできる。HGF蛋白質は特にデポ剤とすることにより、投薬回数の低減、作用の持続性及び副作用の軽減等の効果が期待できる。該徐放性製剤は公知の方法に従って製造することができる。本徐放性製剤に使用される生体内分解性高分子は、公知の生体内分解性高分子のなかから適宜選択できるが、例えばデンプン、デキストラン又はキトサン等の多糖類;コラーゲン又はゼラチン等の蛋白質;ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリロイシン、ポリアラニン又はポリメチオニン等のポリアミノ酸;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体;ポリカプロラクトン、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ酸無水物又はフマル酸・ポリエチレングリコール・ビニルピロリドン共重合体等のポリエステル;ポリオルソエステル又はポリメチル−α−シアノアクリル酸等のポリアルキルシアノアクリル酸;ポリエチレンカーボネート又はポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート等が挙げられる。好ましくはポリエステル、更に好ましくはポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体である。乳酸−グリコール酸共重合体を使用する場合、その組成比(乳酸/グリコール酸)(モル%)は徐放期間によって異なるが、例えば徐放期間が約2週間ないし3カ月、好ましくは約2週間ないし1カ月の場合には、約100/0乃至50/50が好ましい。該ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量は、一般的には約5,000乃至20,000が好ましい。ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体は、公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の製造法に従って製造できる。生体分解性高分子とHGF蛋白質の配合比率は特に限定はないが、例えば生体分解性高分子に対して、HGF蛋白質が約0.01〜30w/w%が好ましい。
【0031】
投与方法としては、注射剤もしくは噴霧剤を直接神経変性や神経細胞死が誘発された部位に直接注射(髄腔内投与又は脊髄実質投与、徐放性ポンプによる髄腔内持続投与等)もしくは噴霧するか、あるいは徐放性製剤(デポ剤)を神経変性や神経細胞死が誘発された部位のある組織に近い部位に埋め込むのが好ましい。また、投与量は、剤形、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜選択されるが、通常、1回当たり1μg〜500mg、好ましくは10μg〜50mg、さらに好ましくは1〜25mgである。また、投与回数も剤形、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜選択され、1回投与とするか、ある間隔をおいて持続投与とすることもできる。持続投与の場合、投与間隔は1日1回から数ヶ月に1回でよく、例えば、徐放性製剤(デポ剤)による投与や徐放性ポンプによる髄腔内持続投与の場合は、数ヶ月に1回でもよい。
【0032】
一方、HGF遺伝子を患者に投与するには、常法、例えば別冊実験医学,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、別冊実験医学,遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス,1999等に記載の方法に従って、行うことが好ましい。
具体的な投与方法としては、例えば、HGF遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクター等を神経変性や神経細胞死が誘発された部位の組織(例えば脊髄神経、脳等)へ局所注射する方法、又は、患者の病変部位の組織又は脊髄等から細胞を体外に取り出して、該細胞にHGF遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクターを導入し形質転換させた後に、形質転換された前記細胞を、患者の病変部位又は脊髄に移植する方法等が挙げられる。
【0033】
発現ベクターとしては、nakedプラスミド、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(I型単純ヘルペスウイルス等)、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40又は免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルス又はRNAウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。前記発現ベクターに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることにより、細胞内にHGF蛋白質をコードするDNAを導入することが可能である。中でも、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等が好ましい。
前記HSV−1ベクターは神経向性を有するベクターである。HSV−1ベクターとしては、多重遺伝子(30kbまで)が組み込まれている大きな(152kb)ゲノムを有し、かつ生涯にわたり潜在的に神経細胞に対して感染を樹立する能力を有するものが好ましい。具体的なHSV−1ベクターとしては、ウイルス複製のためのICR4,ICP34.5及びVP16(vmw65)をエンコードする3つの遺伝子の欠失により、重篤な障害状態にある複製能力のないHSV−1(HSV1764/4−/pR19)ベクター(Coffin RS,et al.,J.Gen.Virol.1998年,第79巻,p.3019-3026;Palmer JA,et al.,J.Virol.,2000年,第74巻,p.5604-5618;Lilley CE,et al.,J.Virol.,2001年,第75巻,p.4343-4356)等が挙げられる。また、AAVベクターは、非病原性ウイルスに属し、安全性が高く、また神経細胞等の非分裂細胞に効率よく遺伝子導入できるベクターである。AAVベクターとしては、AAV−2、AAV−4、AAV−5等が挙げられる。これらHSV−1ベクターやAAVベクターは目的遺伝子を神経細胞等において長期間発現させ得る。
HGFの神経新生に対する効果の評価のためには、例えば、HSV−1ベクター、AAVベクターを使用してHGF遺伝子を神経変性や神経細胞死が誘発された部位、例えば線条体や髄腔内等へ形質導入するのが好ましい。
【0034】
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の公知の製剤形態[例えば、注射剤、噴霧剤、徐放性製剤(デポ剤)、マイクロカプセル剤等]をとり得ることができる。注射剤、噴霧剤、徐放性製剤(デポ剤)はHGF蛋白質の場合と同様にして調製できる。また、マイクロカプセル剤を製造する場合、例えばHGF遺伝子を含む発現プラスミドを導入した宿主細胞等を芯物質としてこれを公知の方法(例えばコアセルベーション法、界面重合法又は二重ノズル法等)に従って被膜物質で覆うことにより直径約1〜500、好ましくは約100〜400μmの微粒子として製造することができる。被膜物質としては、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ゼラチン・アラビアゴム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール又はヒドロキシプロピルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、キトサン−アルギン酸塩、硫酸セルロース−ポリ(ジメチルジアリル)アンモニウムクロライド、ヒドロキシエチルメタクリレート−メチルメタクリレート、キトサン−カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩−ポリリジン−アルギン酸塩等の膜形成性高分子等が挙げられる。
製剤中のDNAの含量や投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができる。また投与量は、HGF遺伝子導入ベクターの種類により異なるが、HGF遺伝子導入ベクターに換算して、通常1×106pfu〜1×1012pfu、好ましくは1×107pfu〜2×1011pfu、さらに好ましくは1.5×107pfu〜1.5×1011pfuを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。
【0035】
本発明の神経新生促進剤は、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子の神経新生促進効果の補完及び/又は増強等のために他の神経栄養因子と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
HGF蛋白質等又はHGF遺伝子と他の神経栄養因子の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与、時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子を含有する製剤を先に投与し、他の神経栄養因子を含有する製剤を後に投与してもよいし、他の神経栄養因子を含有する製剤を先に投与し、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子を含有する製剤を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。神経栄養因子には、未分化な神経芽細胞の増殖と分化、或いは成熟した神経細胞の生存と機能の維持又は促進をはかる因子を含む。さらに、神経栄養因子は、神経組織が障害を受けると一時的に合成分泌が亢進され、組織の変性脱落の予防や機能修復に関与するlesion factorとしての性質を示すものも含まれる。神経栄養因子としては、特に限定されず、例えばNT−3(Neurotrophin3)、NT−4(Neurotrophin4)、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor;毛様体神経栄養因子)、GDNF(Glial-Derived Neurotrophic Factor)又はBDNF(brain-derived neurotrophic factor;脳由来神経栄養因子)等が挙げられる。
【0036】
本発明の神経新生促進剤は、神経の変性や神経細胞死が誘発された部位において新たな神経の新生を促進し得るので、神経の変性又は神経細胞死を伴う神経変性疾患や神経障害等において、例えば神経再生、神経修復又は神経機能改善等のために用いることができる。
神経変性疾患や神経障害には、神経の変性や細胞死が誘発される全ての神経変性疾患又は神経障害が含まれる。神経変性疾患や神経障害が誘発される要因は特に限定されず、例えば遺伝、物理的なけが(例えば、激しい運動、事故、冷気や熱気に長時間体がさらされる、圧迫の繰り返し等)、放射線照射、感染症、有毒物質や薬物、癌の神経への浸潤、糖尿病等の疾患の合併症等が含まれる。
また、神経変性疾患や神経障害には、中枢性神経疾患、中枢神経障害、末梢神経疾患及び末梢神経障害等が含まれる。
中枢性神経疾患又は中枢神経障害としては、例えば、失語症、失行、失認、健忘(ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候、一過性全健忘、虚偽性(心因性)健忘症)、昏迷と昏睡、せん妄と痴呆、アルツハイマー病、けいれん性疾患、睡眠障害、不眠症、過眠症[睡眠発作(ナルコレプシー)]、睡眠時無呼吸症候群、錯眠等の大脳脳葉の障害;うつ病、躁うつ病、統合失調症等の精神疾患;虚血性症候群[一過性脳虚血性発作(TIA)、虚血性発作、出血性症候群、頭蓋内出血、クモ膜下出血]、脳動静脈奇形等の脳血管疾患;頭部外傷;急性細菌性髄膜炎、急性ウイルス性脳炎と無菌性髄膜炎、亜急性及び慢性髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下蓄膿、中枢神経系の感染症;神経系の放射線傷害;大脳皮質基底核神経節変性症;脊柱管狭窄症;脊椎分離すべり症、後縦靭帯骨化症;ホルネル症候群、核間性眼筋麻痺、注視麻痺、網膜症等の視神経障害;第3脳神経麻痺、第4脳神経麻痺、第6脳神経麻痺、三叉神経痛、顔面神経疾患(ベル麻痺)等の脳神経疾患;振戦、ジスキネジア(ミオクローヌス、チック、トゥレット症候群、アテトーシス(ジストニア);ハンチントン舞踏病、球脊髄性筋委縮症、脊髄小脳失調症1型、脊髄小脳失調症2型、脊髄小脳失調症3型、脊髄小脳失調症6型、脊髄小脳失調症7型、脊髄小脳失調症12型及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体委縮症等のポリグルタミン病;薬物誘発性の運動障害、進行性核上性麻痺等の運動の障害;脊髄圧迫、硬膜下と硬膜外の膿瘍と血腫、空洞症、血管疾患、遺伝性痙性対麻痺、急性横断性脊髄炎、脊髄損傷等の脊髄疾患;又は、糖尿病性網膜症等が挙げられる。
末梢神経疾患又は末梢神経障害としては、例えば、神経切断等を伴う外傷;下位,及び上位運動ニューロン疾患(遺伝性脊髄性筋萎縮症)、神経根疾患(髄核ヘルニア、頸椎症)、神経叢疾患、胸郭出口圧迫症候群、末梢神経障害(ギラン−バレー症候群、遺伝性ニューロパシー、神経線維腫症、プロテウス症候群)、神経筋伝達疾患(重症筋無力症)等の末梢神経系の疾患;筋ジストロフィ、ミオパシー、チャネロパシー(筋強直性疾患、家族周期性麻痺)等の筋障害等;又は、糖尿病性神経障害等が挙げられる。
【0037】
神経新生には、新しい神経細胞が生まれるので細胞分裂がなされなければいけない。細胞分裂時には、遺伝情報をコピーするためにDNAが合成さる。DNAが合成されたかどうかを知る手がかりとなる物質としては、例えばBrdU(ブロモデオキシウリジン)等が挙げられる。例えば、BrdUを体内に注入すると新しく生まれる細胞には、このBrdUが取り込まれるのでこのBrdUを指標に神経細胞の新生を判定できる。従って、神経新生作用は、神経細胞に取り込まれるBrdUを指標に測定する方法を用いて測定することができる。また、in vitroで培養神経幹細胞から神経膠細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)又は神経細胞への分化を測定する方法を含む後述の試験例等に記載されている方法等を用いて測定することができる。なお、前記した神経細胞は細胞体、樹状突起及び軸索を含む。神経膠細胞はアストロサイト、オリゴデンドロサイト及びミクログリア細胞を含む。アストロサイトはさらに神経細胞へ分化し得る。なお、本発明においてアストロサイトはGFAP陽性の細胞全てを包含する。
【実施例】
【0038】
以下に試験例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において%は特に明記しない場合は質量%を示す。
【0039】
〔試験例1〕
脳神経細胞の新生に対するHGFの作用
1.実験動物
B6CBA−TgN(HDエクソン1)62Gpb/J雌性マウス(Mangiarini Lら,Cell,1996年,第87巻,p.493-506)から摘出した卵巣が移植されたB6CBAF1/J雌性マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から入手し、B6CBAF1/J雄性マウスと共に飼育し、交配した。
交配した子は、その尾組織から抽出したゲノムDNAのPCR解析により遺伝子系を決定し、TgN62Gpb遺伝子を有するマウスをハンチントン舞踏病モデルマウスR6/2マウス(以下、R6/2マウスと略記する。)とした。また、前記R6/2マウスと同腹でTgN(HDエクソン1)62Gpb遺伝子を持たないマウスを野生型同腹子マウスとして使用した。
全ての実験は大阪大学動物倫理委員会のガイドラインに従って行なった。すべての取り組みはできるだけ動物の負担を少なくし、できるだけ少ない数の動物を使用した。
【0040】
2.ベクターの構築、製造及び精製
pR19GFPWPRE(Lilley CEら,J.Virol,2001年,第75巻,p.4343-4356)のGFP(green fluorescent protein;緑色蛍光タンパク)遺伝子を、ラットHGFをコードするDNAの全長(ratHGF;配列番号5)にKT3タグ(3’−CCGCCCGAGCCAGAGACT−5’ ;配列番号7)を付加したcDNA(Sun Wら,J.Neurosci,2002年,第22巻,p.6537-6548)で置換し、pR19ratHGFKT3WPREを構築した。このベクター(pR19ratHGFKT3WPRE)のシークエンスは、ABI 310キャピラリーシークエンサーを使用する分析により確認した。次いで、M49細胞を用いて、プラスミドpR19ratHGFKT3WPREのDNAと、HSV1764/−4/pR19LacZウイルスDNAとのコトランスフェクションにより相同組換えを行なった。白色プラークを選択し、3回精製し、Palmer JAらの方法(J.Virol,2000年,第74巻,p.5604-5618)に従い、複製能力のないウイルスを増殖させた。ラットHGFの発現を、免疫染色によって確認した。該発現を更にウエスタンブロット法及びラットHGFの酵素抗体免疫測定法(ELISA)により確認した。本試験に使用するために、タイター(titer)が1〜2×109 pfu(プラーク・フォーミング・ユニット)/mLであるHSV1764/−4/pR19HGFウイルスベクター(HGF発現ベクター;以下、HSV−HGFと略記する)と、タイターが1〜1.5×109pfu/mLであるHSV1764/−4/pR19LacZウイルスベクター(HGF非発現ベクター;以下、HSV−LacZと略記する)を調製した。
【0041】
3.脳内へのHSV挿入(In vivo)
4週令のR6/2マウスに、ペントバルビタールを50mg/kg静脈注射して深く麻酔した。線条体(−0.4mm前後,±1.8mm内外側方向、及び−3.5mm背腹方向)へ注射するために、該マウスをKopf脳定位固定装置に入れ固定した。5μLのHSV−LacZ(5×106pfu)又はHSV−HGF(3×105pfu)を該マウスに注射した。注射は、マウスの前記線条体に10μLのハミルトンシリンジを用いて速度0.3μL/minで実施された。以下、HSV−LacZを注射したマウスをR6/2(HSV−LacZ)マウス、HSV−HGFを注射したマウスをR6/2(HSV−HGF)マウスという。
【0042】
4.免疫組織化学的分析
マウスに深く麻酔し、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を心臓から流入してマウスの全身を灌流し、次いで4%(w/w%、以下同様)パラホルムアルデヒド含有PBSで灌流固定した。脳を段階的に10%及び20%シュークロースで凍結保護した後、凍結し、その後凍結した脳を、20μmの連続切片とした。得られた凍結切片は、ニッスル物質を染色するためクレシル・バイオレットで染色した。
免疫組織化学的染色は、凍結切片を、PBSで洗浄し、10%ヤギ又はロバ血清を含むPBSに1時間浸漬し、次いで抗体と共に4℃で一晩インキュベートすることによって行なわれた。
【0043】
(1)Ki−67細胞に対するHGFの作用
脳室下帯(subventricular zone;SVZ)及び線条体での神経細胞増殖を検討した。増殖細胞のマーカーとしてKi−67を選択し、Ki−67の免疫染色を行い、脳室下帯及び線条体でのKi−67陽性細胞数を測定した。線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスでのKi−67陽性細胞数は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスにおけるそれと比較して有意に増加した。(図1).
【0044】
(2)BrdU取り込みに対するHGFの作用
5週令マウスにBrdU(4×75mg/kg i.p.,生理食塩液に溶解、2時間毎に合計4回)を投与し、BrdU注射28日後(9週令)に屠殺した。マウスに麻酔し、心臓からPBSを流入してマウスの全身を灌流し、次いで4%パラホルムアルデヒド含有PBSで灌流固定した。脳を段階的に10%及び20%シュークロースで凍結保護した後、凍結し、その後凍結した脳を、20μmの連続切片とした。
BrdU免疫組織化学的染色のために、凍結切片は、1N塩酸で60℃、30分インキュベートし、10%ヤギ血清を含むPBSに1時間浸漬した。その後、凍結切片は、抗BrdU(ラットモノクロナール抗体;Oxford Biotechnology社製;カタログ番号OBT0030)と共に4℃で36時間インキュベートした。二重染色は蛍光色素アレクサ488と蛍光色素アレクサ546をコンジュゲートした2次抗体(Molecular Probes社製)で視覚化し、かつ切片はTopro−3(Molecular Probes社製)で核を対比染色した。蛍光画像は、Zeiss LSM−510共焦点蛍光顕微鏡で検出した。
脳室下帯及び線条体におけるBrdU陽性細胞数を測定した結果、脳室下帯において、各群間にBrdU陽性細胞数の有意な差は認められなかった。しかし、線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスのBrdU陽性細胞数は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較して有意に増加した(図2)。これらのデータは、HSV−HGF処置により神経細胞増殖が増強されることを示す。
【0045】
(3)ネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
ネスチン(Nestin)は、神経幹細胞のマーカーである。ネスチンは、抗体としてネスチン抗体[マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
ネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。脳室下帯及び線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図3)。
【0046】
(4)ダブルコルチンとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
ダブルコルチン(doublecortin;DCX)は遊走神経芽細胞のマーカーである。DCXは、抗体としてDCX抗体[ヤギポリクロナール抗体(Santa Cruz Biotechnology社製;カタログ番号sc−8066)を100倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
DCXとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるDCXとBrdUにおける両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図4)。
【0047】
(5)PSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
PSA−NCAMは、遊走神経芽細胞のマーカーである。PSA−NCAMは、抗体としてPSA−NCAM抗体[マウスモノクロナール抗体(AbCys S.A.社製;カタログ番号AbC0019)を800倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
PSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるPSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体においてR6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図5)。
【0048】
(6)βIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
βIIIチューブリンは神経細胞の初期〜分化型マーカーである。βIIIチューブリンは、抗体としてβIIIチューブリン抗体[TuJ1、マウスモノクロナール抗体(R&Dシステムズ社製;カタログ番号MAB1195)を200倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
βIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるβIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図6)。
【0049】
(7)NeuNとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
NeuNは分化した神経細胞のマーカーである。NeuNは、抗体としてNeuN抗体[マウスモノクロナール抗体(Chemicon International社製;カタログ番号MAB377)を500倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
NeuNとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるNeuNnとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図7)。
【0050】
(8)リン酸化c−Metとネスチンの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
神経細胞新生におけるHGFの役割を検討するために、ネスチン陽性細胞において、HGFがc−Metのチロシンリン酸化反応に変化を与えるかどうかを検討した。リン酸化c−Met及びネスチンは、抗体としてそれぞれリン酸化c−Met抗体[ウサギポリクロナール抗体(Biosource社製;カタログ番号44−888G)を100倍希釈して使用]及びネスチン抗体[マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences社製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
R6/2(HSV−HGF)マウスでは、ネスチンとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞が、他のグループと比較して有意に増加した(図8)。
【0051】
(9)リン酸化c−MetとDCXの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
神経細胞新生におけるHGFの役割を検討するために、DCX陽性細胞において、HGFがc−Metのチロシンリン酸化反応に変化を与えるかどうかを検討した。リン酸化c−Met及びDCXは、上記と同様に免疫組織化学的染色を行なった。
R6/2(HSV−HGF)マウスでは、リン酸化c−MetとDCXの両者が陽性である細胞が、他のグループと比較して有意に増加した(図9)。
〔試験例2〕
HGF蛋白質をコードするDNA含有ベクターの脊髄投与による脊髄におけるHGFの発現
1.ベクターの構築、製造及び精製
(1)HGF蛋白質をコードするDNA挿入HSV−1ベクター
HGF遺伝子を挿入したI型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクターとしては、試験例1で作成したHSV1764/−4/pR19HGFウイルスベクターを用いた。該ベクターを以下、HSV−HGFと略記する。
(2)HGF蛋白質をコードするDNA挿入AAV−2ベクター及びAAV−4ベクター
AAV Helper−Free System(Stratagene,USA;カタログ番号#240071)キット中に含まれるpCMV−MCSのマルチクローニングサイトにラットHGF−KT3[ラットHGFをコードするDNA(配列番号5)のC末端にKT3タグ配列(3’−CCGCCCGAGCCAGAGACT−5’;配列番号7)を付加したもの;Sun,Funakoshiら,J.Neurosci.,2002年,第22巻,p.6537-6548]を挿入した。挿入が正しいことをシークエンスにより確認した。NotIサイトでベクターを2つのフラグメントに開裂し、ラットHGF−KT3含む断片をpAAV−MCSを同様にして開列したものと入れ替えることで、AAV2−HGF作成のためのpAAV−ラットHGF−KT3を作製した。AAV4−HGF作成のためにはpAAV−MCSをAAV4用に改変したものを用いることで同様に処理し、pAAV4−ラットHGF−KT3を作製した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000年,第97巻,p.3428-3432)。次いで上記キットに含まれるHEK193細胞に、ラットHGF−KT3が挿入されたpAAV−MCSをキットの使用説明書に従い導入した。該細胞におけるラットHGF−KT3の発現とその活性は、ELISA法及びMDCK細胞に対する散乱分析法により確認した。得られたベクターをAAV2−HGF及びAAV4−HGFと略記する
【0052】
2.脊髄実質への投与によるHGFの発現
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄実質に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu、3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、動物をペントバルビター深麻酔下に屠殺した。速やかに脊髄を取り出し、脊髄の上部(upper spinal;吻側;U)、中部(middle spinal;中央部;M)及び下部(lower spinal;尾側;L)の3つの領域に分け、それぞれの脊髄断片を、前記の方法でホモゲナイズした。酵素抗体免疫測定(ELISA)法にてHGF蛋白質量を測定した。ELISA法は、抗HGFポリクロナール抗体(Tokushu Meneki製)を用いてSun Wら、Brain Res Mol Brain Res,2002年,第103巻,p.36-48に記載に従って実施した。
その結果を図10に示す。ベクターを腰髄部の脊髄実質に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、尾側(腰髄を含む)>=中央部>吻側であった。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
【0053】
3.脊髄腔への投与によるHGFの発現
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄腔に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu、3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、上記脊髄実質への投与における方法と同様に、脊髄を取り出し、脊髄の吻側、中部及び尾側のHGF蛋白質量を上記と同様にELISA法にて測定した。
その結果を図11に示す。ベクターを腰髄部の脊髄腔に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、脊髄実質への注射よりHGFの発現量は低かったが、脊髄のいずれの部位[尾側(腰髄を含む)、中央部、吻側]において、ほぼ同じ程度であった。即ち、脊髄腔への投与では、広範囲な神経細胞へのHGFの供給が可能であった。これは、脊髄実質にベクターを投与した場合に比べ、脊髄液により、ベクターが脊髄全体に拡散されたためであると考えられた。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
【0054】
〔試験例3〕
神経幹細胞の分化に対するHGFの効果
(1)神経幹細胞(neurosphere)の培養方法
E15 C57BL6マウス胎児からE14線条体をガス麻酔科に取り出し、機械的ピペッティングにより細胞をバラバラにし、NeuroCult Basal Medium(神経細胞培養用基礎培地;Stem cell technologies Inc.製)にNeuroCult Proliferation Supplements(神経細胞増殖用サプリメント;Stem cell technologies Inc.製)を1/10容量添加した培地に、EGF(epidermal growth factor;上皮増殖因子)を20ng/mLとなるよう培地(マウス一胎/20mL)に添加して浮遊培養し、培養した細胞を初代培養マウスneurosphere(神経幹細胞)とした。
浮遊培養2週間後に、初代培養マウスneurosphereを神経細胞培養用基礎培地にNeuroCult Differentiation medium(神経細胞分化用培地;Stem cell technologies Inc.製)を1/10添加した培地(EGFを添加していない培地)20mLに再懸濁し、ポリ−L−リシン(PLL)をコートした培養皿(24穴プレート;初代培養マウスneurosphereを再懸濁した液1mL/穴)にて2日培養した。培養は、37℃、CO2インキュベータ[5%(V/V)CO2−95%(V/V)空気]を用いて行った。得られた細胞をマウス線条体由来2次neurosphereとした。
【0055】
(2)免疫染色の方法
上記(1)における細胞を培養した培地を除去し、そこに4%パラホルムアルデヒド(PFA)添加リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)を添加して室温下、15分間静置することにより細胞を固定した。その後固定した細胞をPBSで3回洗浄し、ブロッキング用緩衝液(5%ヤギ血清/PBS/0.3%トリトンX−100)を添加してブロッキング(室温15分)した。ブロッキングした細胞を、PBSで3回、洗浄後、一次抗体を添加したブロッキング用緩衝液で4℃、1晩インキュベートした。その後PBSで3回洗浄後、アレクサ488でコンジュゲートした抗ウサギIgG(Invitrogen社製;600希釈)添加PBSを加え、室温で20分間インキュベートした。インキュベート後、細胞をPBSで3回洗浄し、LSM510共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
なお、下記c−Met抗体の特異性を確認するため、吸収試験を行なった。吸収試験は、予め過剰量(c−Met抗体に対しモル比で100倍量)のc−Met抗体ブロッキングペプチド(sc162P)(Santa Cruz Biotechnology社製)で処理したc−Met抗体を用いて前記と同様に免疫染色を行なった。吸収試験において染色像が陰性であれば、該抗体による陽性像は、c−Metのみを特異的に検出していることを意味する。
一次抗体としては、以下を使用した。
ネスチン抗体:マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用した。
MAP2抗体:マウスモノクロナール抗体(Sigma社製;カタログ番号M4403)を500倍希釈して使用した。
NeuN抗体:マウスモノクロナール抗体(Chemicon社製;カタログ番号MAB377)を500倍希釈して使用した。
A2B5:マウスモノクロナール抗体(Chemicon International製;カタログ番号MAB312R)を100倍希釈して使用した。
c−Met:SP260、ウサギポリクロナール抗体(Santa Cruz Biotechnology社製;カタログ番号sc−162)を50倍希釈して使用した。
GFAP抗体:マウスモノクロナール抗体(Chemicon International製)を600倍希釈して使用した。
【0056】
(3)初代培養マウスneurosphereの分化アッセイ
初代培養マウスneurosphereの分化アッセイを図12に示した。神経幹細胞は浮遊培養系では球状の塊になって増殖するため、neurosphereと呼ばれる。図12において、ネスチン(NESTIN)は神経幹細胞のマーカーを示し、MAP2は神経細胞のマーカーを示し、GFAPはアストロサイトのマーカーを示す。Heochstは、Heochst33342により核が染色されてることを示す。ネスチン像、MAP2像又はGFAP像と核染色像とを重ね合わせる(図中のMERGE)と、各細胞と核の位置が一致し、初代培養マウスneurosphereは神経細胞とアストロサイトを作出できる能力を保有していることが分かる。
【0057】
(4)線条体由来2次neurosphereの分化アッセイ
次いで、線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおいて、c−Metと他の細胞マーカー(ネスチン、GFAP、Heochst、A2B5)との共染色を行なうことで、neurosphereから神経新生過程に於けるまでの様々な分化過程の細胞群におけるHGFの標的細胞を特定した。
その結果を図13〜16に示す。ネスチン(Nestin)陽性の神経幹細胞はHGF受容体であるc−Metが陽性であることが確認できる(図13,14)。また、アストロサイトのマーカーであるGFAP陽性細胞にc−Metが発現していることを確認できる(図15)。なお、neurosphereから分化して間もないGFAP陽性細胞はc−Metの発現が非常に弱いことを確認した。また、A2B5陽性オリゴデンドロサイト前駆細胞にc−Metの発現が確認された(図16)。一方、A2B5で染色されない細胞群にもc−Met陽性細胞を認めた。加えて吸収試験によりc−Metの免疫染色性が消失することから、c−Metの免疫染色におけるc−Met抗体の特異性が確認された。
以上のように、c−Metは神経幹細胞並びに、神経幹細胞から分化したグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)及び神経細胞に発現することが確認された。この結果は、これらc−Metが発現した細胞が、HGFの標的細胞となり得ることを示している。
【0058】
(5)各種栄養因子存在下におけるneurosphereの神経新生分化アッセイ
本試験の概略を図17に示した。
マウス胎児由来のneurosphereをEGF(20ng/mL)存在下で2週間以上浮遊培養した後、分化培地でEGF非存在下にPLLコートしたプレート上で2日間接着培養した。2日間接着培養後、HGF及び/又は栄養因子(NT−3、CNTF)の添加条件でさらに5日間培養した(以下、EGF除去7日後という。)。その後4%PFAで固定後、免疫染色法により染色した。染色した細胞をLSM510共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察し、細胞タイプを同定した。なお、HGFは、最終濃度が3ng/mLとなるよう前記培地に添加した。また、CNTFは、最終濃度3ng/mLとなるよう、NT−3は最終濃度50ng/mLとなるよう前記培地に添加した。免疫染色は上記(2)に従い実施した。なお、核は、Topro3(Molecular Probes社製)を用い、対比染色を行なった。
【0059】
その結果を図18〜29に示す。図18及び19は、EGF除去7日後のコントロールneurosphereの染色像を示す。コントロール条件下においても多くのneurosphereにおいて、神経新生を認めた。しかし、新生神経細胞数は少なく、神経繊維の長さが短く分岐の少ないことを特徴とした成熟度の低い神経新生を認めた。
【0060】
図20及び21は、EGF除去7日後のCNTF処理neurosphereの染色像を示す。コントロールと比較して、CNTF添加によりMAP2陽性神経細胞数が増加することが明らかである。CNTF添加により得られる神経細胞は、神経繊維の分岐が少ないが、神経繊維の長さが非常に長いという特徴を示した。
【0061】
図22及び23は、EGF除去7日後のNT−3処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してNT−3添加により新生神経細胞の増加を認めた。但しその程度はCNTF添加の場合と比較すると若干程度が弱かった。NT−3添加による新生神経細胞の特徴は、神経繊維長がコントロールに比べて若干長いものの伸張促進効果は著名とはいえなかった。一方、神経突起の分岐に関しては著しい分岐数の増加を認め、コントロールと異なる神経分化(より成熟した神経新生)が惹起されていることが確認された。
【0062】
図24及び25は、EGF除去7日後のHGF処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してHGF添加により新生神経細胞の増加を認めた。その程度は、コントロールはもとよりNT−3添加時に比べても著しく、また、CNTF添加時より強いといえる。HGF添加による新生神経細胞の特徴は、神経繊維長がコントロールに比べて若干長いもののCNTF添加時に比べると伸張促進効果は程度が弱かった。一方、神経突起の分岐に関しては著しく、HGF添加により分岐数の著しい増加を認めた。さらにHGF添加による新生神経細胞は、NT−3添加時に比べてより太い神経線維をもつことを特徴としており、コントロール、CNTF又はNT−3添加群とは明らかに異なる神経分化(より成熟した神経新生)が惹起されていることが確認された。
【0063】
図26及び27は、EGF除去7日後のHGF及びNT−3処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してHGFとNT−3の同時添加により新生神経細胞数の著名な増加を認めた。新生神経細胞数は、NT−3単独添加時よりさらに多いことを特徴とした。また、HGFとNT−3の同時添加においてできた新生神経は神経繊維がコントロールより長く非常に分岐が多い形態的特徴を示した。さらに神経繊維の太さも太く、HGFとNT−3の同時添加では新生神経はコントロール、CNTF、NT−3、HGF単独添加群に比べて異なる形態、すなわちより成熟した形態を示した。
【0064】
図28及び29は、EGF除去7日後のHGF及びCNTF処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してHGFとCNTF同時添加により新生神経細胞数の著名な増加を認めた。新生神経細胞数は、CNTF単独添加時よりさらに多いことを特徴とした。新生神経は神経繊維がコントロールより非常に長くさらに分岐も非常に多い形態的特徴を示した。さらにHGFとCNTF同時添加では新生神経繊維の太さも太い等の特徴を示していた。以上からコントロール、CNTF及びNT−3単独添加群に比べて異なる形態を示しており、HGFとCNTF同時添加により、より成熟した多数の神経新生の形成が起こることが確認された。
【0065】
(6)HGFの有無によるneurosphere形成能の比較
Neurosphere形成をこれまで知られるEGFの代わりにHGFを用いた場合、EGF添加時と同様にneurosphereを形成できるか(神経新生のもととなる神経幹細胞の増加を認めるか否か)を検討した。前記試験例3の[1)神経幹細胞(neurosphere)の培養方法の項において、EGF(20ng/mL)の代わりにHGF(10ng/mL)を添加して初代培養マウスneurosphereを調製した。なお、コントロールは、マウス胎児由来のneurosphereをEGF又はHGF無添加で同様に浮遊培養した。
その結果を図30に示した。HGFによりEGFを添加しなくてもコントロールに比較してneurosphere形成数の増加をみることはもとより、neurosphereの大きさの著名な増大傾向を求めた。このことから、HGFが神経幹細胞群の分裂及び/又は生存の著著名な促進効果があることがわかった。
【0066】
〔統計的分析〕
データは平均値±標準偏差(SD)で示し、統計学的有意差の検定は、フィッシャーの最小有意差法(PLSD)を用いる分散分析で評価した。
各グループのデータは、解析ソフトStatview 5.0(SAS Institute,Inc.製)で分析した。p<0.05の確率値の違いを統計的有意差ありとした。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の神経新生促進剤は、神経変性又は神経細胞死を伴う神経疾患や神経障害における神経再生や神経修復ための薬剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、R6/2(HSV−HGF)マウス及び野生型同腹子の線条体におけるKi−67陽性細胞の免疫染色像を示す図である。図中、Strは線条体を、LVは脳室を、SVZは脳室下帯を示す。
【図2】図2は、マウス脳室下帯及び線条体におけるBrdU陽性細胞数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。*は野生型同腹子に対する有意差(p<0.05)を、**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図3】図3は、マウス脳室下帯及び線条体におけるネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図4】図4は、マウス脳室下帯及び線条体におけるDCXとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**R6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図5】図5は、マウス脳室下帯及び線条体におけるPSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。*は野生型同腹子に対する有意差(p<0.05)を、**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図6】図6は、マウス脳室下帯及び線条体におけるβIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図7】図7は、マウス脳室下帯及び線条体におけるNeuNとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図8】図8は、マウス線条体におけるネスチンとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞の免疫染色像を示す図である。
【図9】図9は、マウス線条体におけるDCXとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞の免疫染色像を示す図である。
【図10】図10は、HGF蛋白質をコードするDNAを挿入したHSV−HGF、AAV2−HGF及びAAV4−HGFの3種のベクターをラット腰髄の脊髄実質に注射し、5日後の脊髄におけるHGFの発現量を示す図である。図中、Uは脊髄の吻側を、Mは中央部を、Lは尾側を示す。*はコントロールに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図11】図11は、HGF蛋白質をコードするDNAを挿入したHSV−HGF、AAV2−HGF及びAAV4−HGFの3種のベクターをラット腰髄の脊髄腔に注射し、5日後の脊髄におけるHGFの発現量を示す図である。図中、Uは脊髄の吻側を、Mは中央部を、Lは尾側を示す。*はコントロールに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図12】図12は、初代培養マウスneurosphereの分化アッセイにおけるネスチン、MAP2,GFAP及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:免疫染色像を重ねた図;上段:ネスチンと核;中段:MAP2と核;下段:GFAPと核。
【図13】図13は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおけるネスチン、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:ネスチン、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図14】図14は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおけるネスチン、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:ネスチン、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図15】図15は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおけるGFAP、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:GFAP、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図16】図16は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイ(4日後)におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞(A2B5)、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。c-Met-Absorption:吸収試験後のc−Metの染色像;Merge:A2B5、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図17】図17は、各種栄養因子存在下におけるneurosphereの神経新生分化アッセイのプロトコルを示す概略図である。
【図18】図18は、EGF除去7日後のコントロールneurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図19】図19は、EGF除去7日後のコントロールneurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図20】図20は、EGF除去7日後のCNTF処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図21】図21は、EGF除去7日後のCNTF処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図22】図22は、EGF除去7日後のNT−3処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図23】図23は、EGF除去7日後のNT−3処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図24】図24は、EGF除去7日後のHGF処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図25】図25は、EGF除去7日後のHGF処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図26】図26は、EGF除去7日後のHGF及びNT−3処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。図中Aは、高度な分化を示し、Bは増加した数を示す。
【図27】図27は、EGF除去7日後のHGF及びNT−3処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図28】図28は、EGF除去7日後のHGF及びCNTF処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図29】図29は、EGF除去7日後のHGF及びCNTF処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図30】図30は、HGFの有無によるneurosphere形成能の比較を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は神経新生促進剤に関し、更に詳しくは肝細胞増殖因子(以下、HGFと略記する。)又はそれをコードするDNAを含むDNAを有効成分とする神経新生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞は、一旦分化成熟すると、分裂できないため神経変性が神経細胞数の減少に直結する。例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)又はハンチントン病等は、選択的な神経細胞死が進行性に起きる神経変性疾患として知られている。現在、これら疾患に対する治療に、神経変性に伴う神経伝達物質の枯渇を補う補充療法剤や対症療法剤等が使用されている。しかしながら、それら補充療法剤や対症療法剤が神経変性の進行を抑制させるわけではなく、病状の進行とともにそれらの効果は徐々に失われていく。その為、神経変性の進行を抑制し、残存した神経再生を促す薬剤の開発が望まれるが、現状ではこのような作用を有する薬剤は見出されていない。また、これまで長い間中枢神経系において神経変性が生じた場合、神経新生が不可能とされてきた。しかし、ごく最近になりヒトを含む成熟した哺乳動物の中枢神経系には神経を新生しうる神経幹細胞及び神経前駆細胞が存在する事が相次いで明らかにされ、内在性の神経幹細胞を活性化することにより障害された神経組織及び機能を再生する可能性が検討され始めた(例えば非特許文献1,2)。
【0003】
一方、HGFは、最初に成熟肝細胞に対する強力なマイトゲンとして同定され、1989年にその遺伝子クローニングがなされた(非特許文献3、4参照)。HGFの投与は、抗アポトーシス活性によって劇症肝炎を伴うマウスにおけるエンドトキシン誘発致死的肝障害を予防し、HGF遺伝子治療は致命的な肝硬変を持つラットの生存率を改善し得る(非特許文献5、6参照)。また、ノックアウト/ノックインマウスの手法を含む発現及び機能的解析における近年の多数の研究により、HGFは新規な神経栄養因子であることも明らかにされた(非特許文献7、8参照)。とりわけHGFは、in vitroでグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)に匹敵する運動ニューロンに対する最も強力な生存促進因子の一つとして知られている(非特許文献9参照)。
【0004】
また、特許文献1には、パーキンソン病で変性する中脳黒質ドーパミンニューロンを薬剤投与により特異的に死滅させる中脳黒質ドーパミンニューロン細胞死誘導ラットを用いて、HGF遺伝子の神経変性疾患への作用効果を行動学的に及び組織学的に検討した実施例が示されている。具体的には、HGF遺伝子の前投与が、中脳黒質ドーパミンニューロンを神経毒6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)から保護し、中脳黒質ドーパミンニューロン細胞死誘導ラットの症状を抑えたことが示されている。そして、この特許文献1では、このような実験結果に基づいて、HGF遺伝子がドーパミンニューロンに対する保護作用を有すると記載されている。また、特許文献2には、HGFは運動ニューロンに対する直接的神経栄養因子活性と、運動ニューロンに対するグルタミン酸細胞毒性の間接的な改善作用(神経保護作用)の2つの作用を有すると記載されている。しかしながら、HGFが神経毒6−OHDAやグルタミンに対して神経保護作用を示したからといって、HGFが神経細胞の新生を促進するとは到底予測できない。
さらに、特許文献3には、HGFを有効成分とする脳神経障害治療剤が記載され、HGFは神経細胞の生存を延長させるが、神経是由来の細胞であるラット好クロム性細胞腫PC12細胞のDNA合成を促進することはない旨記載されている。還元すれば、HGFはPC12細胞の新生を促進することはないということを示すものである。このことからも、HGFが神経細胞の新生を促進するということは予測すらできない。
【特許文献1】国際公開第2003/045439号パンフレット
【特許文献2】特開2002−87983号公報
【特許文献3】特許第3680114公報
【非特許文献1】ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)、1998年、第4巻、1313−1317頁
【非特許文献2】ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)、2000年、第6巻、271−277頁
【非特許文献3】中村(Nakamura)ら,バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・アンド・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),1984年,第122巻,p.1450−1459
【非特許文献4】中村(Nakamura)ら,ネイチャー(Nature),1989年,第342巻,p.440−443
【非特許文献5】コウサイ(Kosai)ら,ヘパトロジー(Hepatology),1999年,第30,p.151−159
【非特許文献6】ウエキ(Ueki)ら,ネイチャー・メディシン(Nat.Med.),1999年,第5巻,p.226−230.
【非特許文献7】松本(Matsumoto)ら,チバ・ファウンデイション・シンポジウム(Ciba Found.Symp.),1997年,第212巻,p.198−211;ディスカッション211−194
【非特許文献8】船越(Funakoshi)ら,クリニカ・チミカ・アクタ(Clin.Chim.Acta.),2003年,第327巻,p.1−23
【非特許文献9】ニューロン(Neuron),1996年,第17巻,p.1157−1172
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、神経新生に有効な薬剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、HGF蛋白質もしくはHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド(以下において、HGF蛋白質等ということもある。)、あるいはそれらをコードするDNA又は前記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNA(以下において、HGF遺伝子ということもある。)が神経新生効果を奏することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明者らは、まず神経細胞死を誘発するモデルマウスとしてR6/2形質転換マウスを用いて、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子の神経新生への関与を検討した。
本発明者らは、神経向性を有し複製能を欠如したベクター(I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター)を用いてR6/2形質転換マウスにラットHGF遺伝子を線条体に導入し、線条体においてラットHGF蛋白質を発現するR6/2形質転換マウスを作製し、当該マウスを用いて、実際にHGF遺伝子が神経新生に対して効果を示すか否かを検討した。神経新生には、新しい神経細胞が生まれるので細胞分裂がなされなければいけない。細胞分裂時には、遺伝情報をコピーするためにDNAが合成さる。DNAが合成されたかどうかを知る手がかりとなる物質としてBrdU(ブロモデオキシウリジン)がある。BrdUを体内に注入すると新しく生まれる神経(細胞)には、このBrdUが取り込まれる。このためBrdUを指標に神経新生の有無を判定できる。そこで、前記ラットHGF蛋白質を発現するR6/2形質転換マウスにBrdUを投与し、線条体の神経細胞に取り込まれるBrdUを測定したところ、少なくとも線条体において神経が新生されるということを見出した。また、培養神経幹細胞(neurosphere)を用いた分化アッセイにおいて、HGF受容体が神経幹細胞や該神経幹細胞から分化した神経細胞及びアストロサイト前駆細胞に存在することを見出した。さらに、培養神経幹細胞(neurosphere)を用いた分化アッセイにおいて、HGFは神経幹細胞から新生神経細胞への分化(新生神経細胞の増加)を促進し、かつ分化した神経細胞における神経線維の伸張及び神経突起の分岐を促進させることを見出した。
このような、HGF蛋白質又はHGF遺伝子の神経新生作用は本発明において初めて見出されたものであり、発明者らはこれら知見に基づきさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1](1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とする神経新生促進剤、
[2] 有効成分が、(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAであることを特徴とする前記[1]記載の神経新生促進剤、
[3] HGF蛋白質をコードするDNAが、(a)配列番号1、2又は5で表される塩基配列からなるDNA又は(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNAであることを特徴とする前記[2]記載の神経新生促進剤、
[4] DNAが、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする前記[2]又は[3]記載の神経新生促進剤、
[5] 有効成分が、(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩であることを特徴とする前記[1]記載の神経新生促進剤、
[6] HGF蛋白質が、(a)配列番号3、4又は6で表されるアミノ酸配列と同一又は(b)前記アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であることを特徴とする前記[5]記載の神経新生促進剤、
[7] 神経新生促進剤が、局所投与用であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の神経新生促進剤、
[8] 局所投与が、髄腔内投与であることを特徴とする前記[7]記載の神経新生促進剤、
[9] 神経栄養因子と組み合わせて使用されることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載の神経新生促進剤、及び
[10] 神経栄養因子が、NT−3、NT−4、CNTF、GDNF及びBDNFから選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記[9]記載の神経新生促進剤、
に関する。
【0009】
また、本発明は(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを哺乳動物に投与することを特徴とする神経新生の促進方法に関する。さらに、本発明は、神経新生を促進する医薬を製造するための(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAの使用に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の神経新生促進剤は、神経の変性又は神経細胞死を伴う神経変性疾患や神経障害において、神経の変性や神経細胞死が誘発された部位において新たな神経の新生を促進し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において「HGF蛋白質をコードするDNA」とは、HGF蛋白質を発現し得るDNAをいう。HGF蛋白質をコードするDNAを含むDNAとしては、例えば、Nature,342,440(1989);特許第2777678号公報;Biochem.Biophys,Res.Commun.,1989年,第163巻,p.967-973;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1991年,第88巻(16号),p.7001-7005等に記載され、例えば、GeneBank/EMBL/DDBJにAccession No.M60718、M73240、AC004960、AY246560、M29145又はM73240等として登録されているヒト由来のHGF蛋白質をコードするDNA等が好ましく挙げられる。また、本発明のHGF蛋白質をコードするDNAには、前記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性、例えばマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する蛋白質をコードするDNA等が包含される。
【0012】
HGF蛋白質をコードするDNAの具体例としては、例えば、配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNA、若しくは配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性、例えばマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する蛋白質をコードするDNA等が好ましく挙げられる。ここで、配列番号1で表される塩基配列は、Accession No.M60718の塩基配列第73乃至2259に相当し、該DNAは配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるHGF蛋白質をコードするDNAに相当する。配列番号2で表される塩基配列は、Accession No.M73240の塩基配列第66乃至2237に相当し、該DNAは配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるHGF蛋白質をコードするDNAに相当する。
【0013】
配列番号1又は2で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば上記DNAの部分配列をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、約65℃でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムよりなる。)を用い、約65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。ストリンジェントな条件は、以下において同様である。
【0014】
上記の配列番号1又は2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとして具体的には、配列番号1又は2で表わされる塩基配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNA等が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning,A laboratory Manual,Third Edition(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,2001:以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す。)に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0015】
さらに、本発明のHGF蛋白質をコードするDNAは上記に限定されず、発現する蛋白質がHGF蛋白質と実質的に同じ作用を有する蛋白質をコードするDNAである限り、本発明のHGF蛋白質をコードするDNAとして使用できる。例えばHGF蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA等も好ましく使用できる。
【0016】
HGF蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAとしては、上記した部分ペプチドをコードする塩基配列を有しかつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAであればいかなるものであってもよい。具体的な本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(a)配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA、(b)配列番号1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNA等が挙げられる。このようなDNAとしては、より具体的には、例えば、配列番号1で表されるヒトHGFの塩基配列の第94番目から第630番目までの塩基配列(HGFのN末端ヘアピンループから第1クリングルドメインまでのペプチドをコードするDNA)を有するDNAや、配列番号1で表されるヒトHGFの塩基配列の第94番目から第864番目までの塩基配列(HGFのN末端ヘアピンループから第2クリングルドメインまでのペプチドをコードするDNA)を有するDNA等が好ましく挙げられる。
【0017】
HGF蛋白質をコードするDNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAは、例えば通常のハイブリダイゼーション法やPCR法等により容易に得ることができ、該DNAの取得は具体的には例えば前記モレキュラー・クローニング第3版等の基本書等を参考にして行うことができる。
【0018】
なお、本発明で用いられるHGF蛋白質をコードするDNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAを含むDNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞・組織由来のcDNA、細胞もしくは組織由来のcDNAライブラリー又は合成DNA等が好ましく挙げられる。前記ライブラリーにゲノムDNA断片がクローニングされるベクターとしては、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド又はファージミド等が挙げられる。
また、本発明で用いられるHGF蛋白質をコードするRNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドをコードするRNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするRNAも、逆転写酵素によりHGF蛋白質又は部分ペプチドを発現することができるものであれば、本発明に用いることができる。該RNAとしては、例えば細胞又は組織よりmRNA画分を調製して、RT−PCR法によって増幅したRNA等が挙げられ、本発明の範囲内である。また該RNAも公知の手段により得ることができる。
【0019】
本発明で使用されるHGF蛋白質は公知物質であり、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。
HGF蛋白質は、例えばHGF蛋白質を産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGF蛋白質を得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法によりHGF蛋白質をコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清液から目的とする組換えHGF蛋白質を分離すること等により得ることもできる。(例えば、特開平5−111382号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.1989年、第163巻,p.967等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母又は動物細胞等を用いることができる。このようにして得られたHGF蛋白質は、天然型HGF蛋白質と実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数個(例えば、1〜約20個、好ましくは1〜約10個;以下同様である。)のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失若しくは付加されていてもよい。そのようなHGF蛋白質として、下記する5アミノ酸欠損型HGF蛋白質を挙げることができる。ここで、アミノ酸配列について、「1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的手段により、又は天然に生じうる程度の数(1〜複数個)が、欠失、置換若しくは付加等されていることを意味する。糖鎖が置換、欠失若しくは付加したHGF蛋白質とは、例えば天然のHGF蛋白質に付加している糖鎖を酵素等で処理し糖鎖を欠損させたHGF蛋白質、また糖鎖が付加しない様に糖鎖付加部位のアミノ酸配列に変異が施されたもの、あるいは天然の糖鎖付加部位とは異なる部位に糖鎖が付加するようアミノ酸配列に変異が施されたもの等をいう。具体的には、例えばNCBIのデータベースに登録されているAccession No.NP_001010932のヒトHGFに対し、糖鎖付加部位の289位AsnをGlnに、397位AsnをGlnに、471位ThrをGlyに、561位AsnをGlnに、648位AsnをGlnにそれぞれ置換することによって糖鎖が付加しないようにしたHGF[Fukuta K et al.,Biochemical Journal,388,555-562(2005)]等を挙げることができる。
さらに、HGF蛋白質のアミノ酸配列と少なくとも約80%以上の相同性を有する蛋白質、好ましくは約90%以上の相同性を有する蛋白質、より好ましくは約95%以上の相同性を有する蛋白質であって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質も本発明に使用されるHGF蛋白質に含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。
【0020】
上記HGF蛋白質としては、例えばNCBIのデータベース等に登録されている例えばAccession No.P14210(配列番号3)又はAccession No.NP_001010932(配列番号4)で表されるアミノ酸配列で示されるヒト由来の蛋白質等が好ましく挙げられる。配列番号4で表されるHGF蛋白質は、配列番号3で表されるアミノ酸配列の第161〜165番目の5個のアミノ酸残基が欠失している5アミノ酸欠損型HGF蛋白質である。配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、両者ともヒト由来の天然HGF蛋白質であって、HGFとしてのマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する。
配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と少なくとも約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む蛋白質であって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質、例えば配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列から、1〜複数個のアミノ酸残基を挿入又は欠失させたアミノ酸配列、1〜複数個のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と置換させたアミノ酸配列又は1〜複数個のアミノ酸残基が修飾されたアミノ酸配列等を含む蛋白質であって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質であることが好ましい。挿入されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。非天然アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を有する限りどのような化合物でもよいが、例えばγ−アミノ酪酸等が挙げられる。
これらの蛋白質は、単独であっても、これらの混合蛋白質であってもよい。配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、例えばNCBIのデータベースに登録されているAccession No.BAA14348又はAAC71655等のヒト由来HGFが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
なお、本発明で用いられるHGF蛋白質又はそれをコードするDNAは、ヒトに適用する場合は前記したヒト由来のものが好適に用いられるが、ヒト以外の哺乳動物(例えばサル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンパンジー等)に由来するHGF蛋白質又はそれをコードするDNAであってもよい。このようなHGFとしては、例えばNCBIのデータベース等に登録されている例えば、マウス由来HGF(例えばAccession No.AAB31855,NP_034557,BAA01065,BAA01064等)、ラット由来HGF[例えばAccession No.NP_58713(配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質)等]、ウシ由来HGF(例えばAccession No.NP_001026921、XP874086,BAD02475等)、ネコ由来HGF(例えばAccession No.NP_001009830、BAC10545,BAB21499等)、イヌ由来HGF(例えばAccession No.NP_001002964、BAC57560等)又はチンパンジー由来HGF(例えばAccession No.XP519174等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明に用いられるHGF蛋白質は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシラート[−COOM(Mは金属を示す)]、アミド(−CONH2)又はエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチル等のC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル等のC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチル等のC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチル等のフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチル等のα−ナフチル−C1−2アルキル基等のC7−14アラルキル基のほか、アセチルオキシメチル、ピバロイルオキシメチル等のC2−6アルカノイルメチル基等が用いられる。本発明で用いられるHGF蛋白質が、C末端以外にカルボキシル基又はカルボキシラートを有している場合、カルボキシル基又はカルボキシラートがアミド化又はエステル化されているものも本発明におけるHGF蛋白質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステル等が用いられる。さらに、本発明に用いられるHGF蛋白質には、上記した蛋白質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の反応性基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾリル基、インドリル基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質等の複合蛋白質等も含まれる。
【0023】
本発明で用いるHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド(以下、HGF部分ペプチドと略記する場合がある。)としては、上記したHGF蛋白質の部分ペプチドであって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するものであればいずれのものであってもよい。本発明において、HGF部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記したHGF蛋白質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも約20個以上、好ましくは約50個以上、より好ましくは約100個以上のアミノ酸配列を含有するペプチド等が好ましい。具体的には、例えば、配列番号3で表されるヒトHGFアミノ酸配列のN末端側から32番目のアミノ酸から210番目のアミノ酸までのアミノ酸配列(HGFのN末端ヘアピンループから第1クリングルドメインまでの配列)で示されるペプチドや、配列番号3で表されるヒトHGFアミノ酸配列のN末端側から32番目のアミノ酸から288番目のアミノ酸までのアミノ酸配列(HGFのN末端ヘアピンループから第2クリングルドメインまでの配列)で示されるペプチド等が好ましく挙げられる。
本発明のHGF部分ペプチドにおいては、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシラート[−COOM(Mは上記と同意義)]、アミド(−CONH2)又はエステル(−COOR;Rは上記と同意義)のいずれであってもよい。さらに、HGF部分ペプチドには、上記したHGF蛋白質と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチド等の複合ペプチド等も含まれる。
【0024】
本発明に用いられるHGF蛋白質又はその部分ペプチドの塩としては、酸又は塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)との塩等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられるHGF蛋白質の部分ペプチド又はその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいはHGF蛋白質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれでも良い。すなわち、HGF蛋白質を構成し得る保護基を有していてもよい部分ペプチドもしくはアミノ酸と保護基を有していてもよい残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は、保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、M.Bodanszky及びM.A.Ondetti、ペプチド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)、Schroeder及びLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide),Academic Press,New York(1965年)等に記載された方法等が挙げられる。反応後は通常の精製方法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、結晶化又は再結晶等を組み合わせてHGF蛋白質の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0026】
本発明において「神経新生」とは、幼弱な未分化細胞(例えば神経幹細胞等)から神経芽細胞を経て新しい神経(神経細胞)に分化させることをいい、神経細胞に分化する神経芽細胞や未分化細胞等の増殖を含む。また神経新生は、損傷した神経の再生や神経修復を含む。
「神経」には、中枢神経(例えば脳、脊髄等)及び末梢神経(例えば尺骨神経、橈骨神経、腓骨神経等)を含む。
【0027】
本発明の神経新生促進剤は、ヒトのほか、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンパンジー等)にも適用できる。
【0028】
本発明の神経新生促進剤を患者に投与する場合、その投与形態、投与方法、投与量等は、有効成分がHGF蛋白質の場合と、HGF蛋白質をコードするDNAの場合と若干異なってもよい。
例えば、有効成分がHGF蛋白質である場合の本発明の製剤は、種々の製剤形態、例えば液剤、固形剤等をとりうるが、一般的にはHGF蛋白質のみを又はそれを慣用の担体と共に注射剤、噴射剤、徐放性製剤(例えば、デポ剤)等に製剤されるのが好ましい。上記注射剤は、水性注射剤又は油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)又はpH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等)等を適宜添加した溶液に、HGF蛋白質を溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。また適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)又は非イオン界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50等)等をさらに配合してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油又は大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコール等を配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプル又はバイアル等に充填される。注射剤中のHGF蛋白質含量は、通常約0.0002〜0.2w/v%、好ましくは約0.001〜0.1w/v%に調整され得る。なお、注射剤等の液状製剤は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
【0029】
噴霧剤も製剤上の常套手段によって調製することができる。噴霧剤として製造する場合、その噴霧剤に配合される添加剤としては、一般に吸入用製剤に使用される添加剤であればいずれのものであってもよく、例えば、噴射剤の他、上記した溶剤、保存剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤等を配合し得る。噴射剤としては、液化ガス噴射剤又は圧縮ガス等が挙げられる。液化ガス噴射剤としては、例えば、フッ化炭化水素(HCFC22、HCFC−123、HCFC−134a、HCFC142等の代替フロン類等)、液化石油、ジメチルエーテル等が挙げられる。圧縮ガスとしては、例えば、可溶性ガス(炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等)又は不溶性ガス(窒素ガス等)等が挙げられる。
【0030】
また、本発明で用いられるHGF蛋白質は、生体分解性高分子と共に、徐放性製剤(例えばデポ剤)とすることもできる。HGF蛋白質は特にデポ剤とすることにより、投薬回数の低減、作用の持続性及び副作用の軽減等の効果が期待できる。該徐放性製剤は公知の方法に従って製造することができる。本徐放性製剤に使用される生体内分解性高分子は、公知の生体内分解性高分子のなかから適宜選択できるが、例えばデンプン、デキストラン又はキトサン等の多糖類;コラーゲン又はゼラチン等の蛋白質;ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリロイシン、ポリアラニン又はポリメチオニン等のポリアミノ酸;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体;ポリカプロラクトン、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ酸無水物又はフマル酸・ポリエチレングリコール・ビニルピロリドン共重合体等のポリエステル;ポリオルソエステル又はポリメチル−α−シアノアクリル酸等のポリアルキルシアノアクリル酸;ポリエチレンカーボネート又はポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート等が挙げられる。好ましくはポリエステル、更に好ましくはポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体である。乳酸−グリコール酸共重合体を使用する場合、その組成比(乳酸/グリコール酸)(モル%)は徐放期間によって異なるが、例えば徐放期間が約2週間ないし3カ月、好ましくは約2週間ないし1カ月の場合には、約100/0乃至50/50が好ましい。該ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量は、一般的には約5,000乃至20,000が好ましい。ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体は、公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の製造法に従って製造できる。生体分解性高分子とHGF蛋白質の配合比率は特に限定はないが、例えば生体分解性高分子に対して、HGF蛋白質が約0.01〜30w/w%が好ましい。
【0031】
投与方法としては、注射剤もしくは噴霧剤を直接神経変性や神経細胞死が誘発された部位に直接注射(髄腔内投与又は脊髄実質投与、徐放性ポンプによる髄腔内持続投与等)もしくは噴霧するか、あるいは徐放性製剤(デポ剤)を神経変性や神経細胞死が誘発された部位のある組織に近い部位に埋め込むのが好ましい。また、投与量は、剤形、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜選択されるが、通常、1回当たり1μg〜500mg、好ましくは10μg〜50mg、さらに好ましくは1〜25mgである。また、投与回数も剤形、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜選択され、1回投与とするか、ある間隔をおいて持続投与とすることもできる。持続投与の場合、投与間隔は1日1回から数ヶ月に1回でよく、例えば、徐放性製剤(デポ剤)による投与や徐放性ポンプによる髄腔内持続投与の場合は、数ヶ月に1回でもよい。
【0032】
一方、HGF遺伝子を患者に投与するには、常法、例えば別冊実験医学,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、別冊実験医学,遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス,1999等に記載の方法に従って、行うことが好ましい。
具体的な投与方法としては、例えば、HGF遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクター等を神経変性や神経細胞死が誘発された部位の組織(例えば脊髄神経、脳等)へ局所注射する方法、又は、患者の病変部位の組織又は脊髄等から細胞を体外に取り出して、該細胞にHGF遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクターを導入し形質転換させた後に、形質転換された前記細胞を、患者の病変部位又は脊髄に移植する方法等が挙げられる。
【0033】
発現ベクターとしては、nakedプラスミド、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(I型単純ヘルペスウイルス等)、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40又は免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルス又はRNAウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。前記発現ベクターに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることにより、細胞内にHGF蛋白質をコードするDNAを導入することが可能である。中でも、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等が好ましい。
前記HSV−1ベクターは神経向性を有するベクターである。HSV−1ベクターとしては、多重遺伝子(30kbまで)が組み込まれている大きな(152kb)ゲノムを有し、かつ生涯にわたり潜在的に神経細胞に対して感染を樹立する能力を有するものが好ましい。具体的なHSV−1ベクターとしては、ウイルス複製のためのICR4,ICP34.5及びVP16(vmw65)をエンコードする3つの遺伝子の欠失により、重篤な障害状態にある複製能力のないHSV−1(HSV1764/4−/pR19)ベクター(Coffin RS,et al.,J.Gen.Virol.1998年,第79巻,p.3019-3026;Palmer JA,et al.,J.Virol.,2000年,第74巻,p.5604-5618;Lilley CE,et al.,J.Virol.,2001年,第75巻,p.4343-4356)等が挙げられる。また、AAVベクターは、非病原性ウイルスに属し、安全性が高く、また神経細胞等の非分裂細胞に効率よく遺伝子導入できるベクターである。AAVベクターとしては、AAV−2、AAV−4、AAV−5等が挙げられる。これらHSV−1ベクターやAAVベクターは目的遺伝子を神経細胞等において長期間発現させ得る。
HGFの神経新生に対する効果の評価のためには、例えば、HSV−1ベクター、AAVベクターを使用してHGF遺伝子を神経変性や神経細胞死が誘発された部位、例えば線条体や髄腔内等へ形質導入するのが好ましい。
【0034】
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の公知の製剤形態[例えば、注射剤、噴霧剤、徐放性製剤(デポ剤)、マイクロカプセル剤等]をとり得ることができる。注射剤、噴霧剤、徐放性製剤(デポ剤)はHGF蛋白質の場合と同様にして調製できる。また、マイクロカプセル剤を製造する場合、例えばHGF遺伝子を含む発現プラスミドを導入した宿主細胞等を芯物質としてこれを公知の方法(例えばコアセルベーション法、界面重合法又は二重ノズル法等)に従って被膜物質で覆うことにより直径約1〜500、好ましくは約100〜400μmの微粒子として製造することができる。被膜物質としては、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ゼラチン・アラビアゴム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール又はヒドロキシプロピルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、キトサン−アルギン酸塩、硫酸セルロース−ポリ(ジメチルジアリル)アンモニウムクロライド、ヒドロキシエチルメタクリレート−メチルメタクリレート、キトサン−カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩−ポリリジン−アルギン酸塩等の膜形成性高分子等が挙げられる。
製剤中のDNAの含量や投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができる。また投与量は、HGF遺伝子導入ベクターの種類により異なるが、HGF遺伝子導入ベクターに換算して、通常1×106pfu〜1×1012pfu、好ましくは1×107pfu〜2×1011pfu、さらに好ましくは1.5×107pfu〜1.5×1011pfuを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。
【0035】
本発明の神経新生促進剤は、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子の神経新生促進効果の補完及び/又は増強等のために他の神経栄養因子と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
HGF蛋白質等又はHGF遺伝子と他の神経栄養因子の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与、時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子を含有する製剤を先に投与し、他の神経栄養因子を含有する製剤を後に投与してもよいし、他の神経栄養因子を含有する製剤を先に投与し、HGF蛋白質等又はHGF遺伝子を含有する製剤を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。神経栄養因子には、未分化な神経芽細胞の増殖と分化、或いは成熟した神経細胞の生存と機能の維持又は促進をはかる因子を含む。さらに、神経栄養因子は、神経組織が障害を受けると一時的に合成分泌が亢進され、組織の変性脱落の予防や機能修復に関与するlesion factorとしての性質を示すものも含まれる。神経栄養因子としては、特に限定されず、例えばNT−3(Neurotrophin3)、NT−4(Neurotrophin4)、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor;毛様体神経栄養因子)、GDNF(Glial-Derived Neurotrophic Factor)又はBDNF(brain-derived neurotrophic factor;脳由来神経栄養因子)等が挙げられる。
【0036】
本発明の神経新生促進剤は、神経の変性や神経細胞死が誘発された部位において新たな神経の新生を促進し得るので、神経の変性又は神経細胞死を伴う神経変性疾患や神経障害等において、例えば神経再生、神経修復又は神経機能改善等のために用いることができる。
神経変性疾患や神経障害には、神経の変性や細胞死が誘発される全ての神経変性疾患又は神経障害が含まれる。神経変性疾患や神経障害が誘発される要因は特に限定されず、例えば遺伝、物理的なけが(例えば、激しい運動、事故、冷気や熱気に長時間体がさらされる、圧迫の繰り返し等)、放射線照射、感染症、有毒物質や薬物、癌の神経への浸潤、糖尿病等の疾患の合併症等が含まれる。
また、神経変性疾患や神経障害には、中枢性神経疾患、中枢神経障害、末梢神経疾患及び末梢神経障害等が含まれる。
中枢性神経疾患又は中枢神経障害としては、例えば、失語症、失行、失認、健忘(ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候、一過性全健忘、虚偽性(心因性)健忘症)、昏迷と昏睡、せん妄と痴呆、アルツハイマー病、けいれん性疾患、睡眠障害、不眠症、過眠症[睡眠発作(ナルコレプシー)]、睡眠時無呼吸症候群、錯眠等の大脳脳葉の障害;うつ病、躁うつ病、統合失調症等の精神疾患;虚血性症候群[一過性脳虚血性発作(TIA)、虚血性発作、出血性症候群、頭蓋内出血、クモ膜下出血]、脳動静脈奇形等の脳血管疾患;頭部外傷;急性細菌性髄膜炎、急性ウイルス性脳炎と無菌性髄膜炎、亜急性及び慢性髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下蓄膿、中枢神経系の感染症;神経系の放射線傷害;大脳皮質基底核神経節変性症;脊柱管狭窄症;脊椎分離すべり症、後縦靭帯骨化症;ホルネル症候群、核間性眼筋麻痺、注視麻痺、網膜症等の視神経障害;第3脳神経麻痺、第4脳神経麻痺、第6脳神経麻痺、三叉神経痛、顔面神経疾患(ベル麻痺)等の脳神経疾患;振戦、ジスキネジア(ミオクローヌス、チック、トゥレット症候群、アテトーシス(ジストニア);ハンチントン舞踏病、球脊髄性筋委縮症、脊髄小脳失調症1型、脊髄小脳失調症2型、脊髄小脳失調症3型、脊髄小脳失調症6型、脊髄小脳失調症7型、脊髄小脳失調症12型及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体委縮症等のポリグルタミン病;薬物誘発性の運動障害、進行性核上性麻痺等の運動の障害;脊髄圧迫、硬膜下と硬膜外の膿瘍と血腫、空洞症、血管疾患、遺伝性痙性対麻痺、急性横断性脊髄炎、脊髄損傷等の脊髄疾患;又は、糖尿病性網膜症等が挙げられる。
末梢神経疾患又は末梢神経障害としては、例えば、神経切断等を伴う外傷;下位,及び上位運動ニューロン疾患(遺伝性脊髄性筋萎縮症)、神経根疾患(髄核ヘルニア、頸椎症)、神経叢疾患、胸郭出口圧迫症候群、末梢神経障害(ギラン−バレー症候群、遺伝性ニューロパシー、神経線維腫症、プロテウス症候群)、神経筋伝達疾患(重症筋無力症)等の末梢神経系の疾患;筋ジストロフィ、ミオパシー、チャネロパシー(筋強直性疾患、家族周期性麻痺)等の筋障害等;又は、糖尿病性神経障害等が挙げられる。
【0037】
神経新生には、新しい神経細胞が生まれるので細胞分裂がなされなければいけない。細胞分裂時には、遺伝情報をコピーするためにDNAが合成さる。DNAが合成されたかどうかを知る手がかりとなる物質としては、例えばBrdU(ブロモデオキシウリジン)等が挙げられる。例えば、BrdUを体内に注入すると新しく生まれる細胞には、このBrdUが取り込まれるのでこのBrdUを指標に神経細胞の新生を判定できる。従って、神経新生作用は、神経細胞に取り込まれるBrdUを指標に測定する方法を用いて測定することができる。また、in vitroで培養神経幹細胞から神経膠細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)又は神経細胞への分化を測定する方法を含む後述の試験例等に記載されている方法等を用いて測定することができる。なお、前記した神経細胞は細胞体、樹状突起及び軸索を含む。神経膠細胞はアストロサイト、オリゴデンドロサイト及びミクログリア細胞を含む。アストロサイトはさらに神経細胞へ分化し得る。なお、本発明においてアストロサイトはGFAP陽性の細胞全てを包含する。
【実施例】
【0038】
以下に試験例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において%は特に明記しない場合は質量%を示す。
【0039】
〔試験例1〕
脳神経細胞の新生に対するHGFの作用
1.実験動物
B6CBA−TgN(HDエクソン1)62Gpb/J雌性マウス(Mangiarini Lら,Cell,1996年,第87巻,p.493-506)から摘出した卵巣が移植されたB6CBAF1/J雌性マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から入手し、B6CBAF1/J雄性マウスと共に飼育し、交配した。
交配した子は、その尾組織から抽出したゲノムDNAのPCR解析により遺伝子系を決定し、TgN62Gpb遺伝子を有するマウスをハンチントン舞踏病モデルマウスR6/2マウス(以下、R6/2マウスと略記する。)とした。また、前記R6/2マウスと同腹でTgN(HDエクソン1)62Gpb遺伝子を持たないマウスを野生型同腹子マウスとして使用した。
全ての実験は大阪大学動物倫理委員会のガイドラインに従って行なった。すべての取り組みはできるだけ動物の負担を少なくし、できるだけ少ない数の動物を使用した。
【0040】
2.ベクターの構築、製造及び精製
pR19GFPWPRE(Lilley CEら,J.Virol,2001年,第75巻,p.4343-4356)のGFP(green fluorescent protein;緑色蛍光タンパク)遺伝子を、ラットHGFをコードするDNAの全長(ratHGF;配列番号5)にKT3タグ(3’−CCGCCCGAGCCAGAGACT−5’ ;配列番号7)を付加したcDNA(Sun Wら,J.Neurosci,2002年,第22巻,p.6537-6548)で置換し、pR19ratHGFKT3WPREを構築した。このベクター(pR19ratHGFKT3WPRE)のシークエンスは、ABI 310キャピラリーシークエンサーを使用する分析により確認した。次いで、M49細胞を用いて、プラスミドpR19ratHGFKT3WPREのDNAと、HSV1764/−4/pR19LacZウイルスDNAとのコトランスフェクションにより相同組換えを行なった。白色プラークを選択し、3回精製し、Palmer JAらの方法(J.Virol,2000年,第74巻,p.5604-5618)に従い、複製能力のないウイルスを増殖させた。ラットHGFの発現を、免疫染色によって確認した。該発現を更にウエスタンブロット法及びラットHGFの酵素抗体免疫測定法(ELISA)により確認した。本試験に使用するために、タイター(titer)が1〜2×109 pfu(プラーク・フォーミング・ユニット)/mLであるHSV1764/−4/pR19HGFウイルスベクター(HGF発現ベクター;以下、HSV−HGFと略記する)と、タイターが1〜1.5×109pfu/mLであるHSV1764/−4/pR19LacZウイルスベクター(HGF非発現ベクター;以下、HSV−LacZと略記する)を調製した。
【0041】
3.脳内へのHSV挿入(In vivo)
4週令のR6/2マウスに、ペントバルビタールを50mg/kg静脈注射して深く麻酔した。線条体(−0.4mm前後,±1.8mm内外側方向、及び−3.5mm背腹方向)へ注射するために、該マウスをKopf脳定位固定装置に入れ固定した。5μLのHSV−LacZ(5×106pfu)又はHSV−HGF(3×105pfu)を該マウスに注射した。注射は、マウスの前記線条体に10μLのハミルトンシリンジを用いて速度0.3μL/minで実施された。以下、HSV−LacZを注射したマウスをR6/2(HSV−LacZ)マウス、HSV−HGFを注射したマウスをR6/2(HSV−HGF)マウスという。
【0042】
4.免疫組織化学的分析
マウスに深く麻酔し、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を心臓から流入してマウスの全身を灌流し、次いで4%(w/w%、以下同様)パラホルムアルデヒド含有PBSで灌流固定した。脳を段階的に10%及び20%シュークロースで凍結保護した後、凍結し、その後凍結した脳を、20μmの連続切片とした。得られた凍結切片は、ニッスル物質を染色するためクレシル・バイオレットで染色した。
免疫組織化学的染色は、凍結切片を、PBSで洗浄し、10%ヤギ又はロバ血清を含むPBSに1時間浸漬し、次いで抗体と共に4℃で一晩インキュベートすることによって行なわれた。
【0043】
(1)Ki−67細胞に対するHGFの作用
脳室下帯(subventricular zone;SVZ)及び線条体での神経細胞増殖を検討した。増殖細胞のマーカーとしてKi−67を選択し、Ki−67の免疫染色を行い、脳室下帯及び線条体でのKi−67陽性細胞数を測定した。線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスでのKi−67陽性細胞数は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスにおけるそれと比較して有意に増加した。(図1).
【0044】
(2)BrdU取り込みに対するHGFの作用
5週令マウスにBrdU(4×75mg/kg i.p.,生理食塩液に溶解、2時間毎に合計4回)を投与し、BrdU注射28日後(9週令)に屠殺した。マウスに麻酔し、心臓からPBSを流入してマウスの全身を灌流し、次いで4%パラホルムアルデヒド含有PBSで灌流固定した。脳を段階的に10%及び20%シュークロースで凍結保護した後、凍結し、その後凍結した脳を、20μmの連続切片とした。
BrdU免疫組織化学的染色のために、凍結切片は、1N塩酸で60℃、30分インキュベートし、10%ヤギ血清を含むPBSに1時間浸漬した。その後、凍結切片は、抗BrdU(ラットモノクロナール抗体;Oxford Biotechnology社製;カタログ番号OBT0030)と共に4℃で36時間インキュベートした。二重染色は蛍光色素アレクサ488と蛍光色素アレクサ546をコンジュゲートした2次抗体(Molecular Probes社製)で視覚化し、かつ切片はTopro−3(Molecular Probes社製)で核を対比染色した。蛍光画像は、Zeiss LSM−510共焦点蛍光顕微鏡で検出した。
脳室下帯及び線条体におけるBrdU陽性細胞数を測定した結果、脳室下帯において、各群間にBrdU陽性細胞数の有意な差は認められなかった。しかし、線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスのBrdU陽性細胞数は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較して有意に増加した(図2)。これらのデータは、HSV−HGF処置により神経細胞増殖が増強されることを示す。
【0045】
(3)ネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
ネスチン(Nestin)は、神経幹細胞のマーカーである。ネスチンは、抗体としてネスチン抗体[マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
ネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。脳室下帯及び線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図3)。
【0046】
(4)ダブルコルチンとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
ダブルコルチン(doublecortin;DCX)は遊走神経芽細胞のマーカーである。DCXは、抗体としてDCX抗体[ヤギポリクロナール抗体(Santa Cruz Biotechnology社製;カタログ番号sc−8066)を100倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
DCXとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるDCXとBrdUにおける両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図4)。
【0047】
(5)PSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
PSA−NCAMは、遊走神経芽細胞のマーカーである。PSA−NCAMは、抗体としてPSA−NCAM抗体[マウスモノクロナール抗体(AbCys S.A.社製;カタログ番号AbC0019)を800倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
PSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるPSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体においてR6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図5)。
【0048】
(6)βIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
βIIIチューブリンは神経細胞の初期〜分化型マーカーである。βIIIチューブリンは、抗体としてβIIIチューブリン抗体[TuJ1、マウスモノクロナール抗体(R&Dシステムズ社製;カタログ番号MAB1195)を200倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
βIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるβIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図6)。
【0049】
(7)NeuNとBrdUの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
NeuNは分化した神経細胞のマーカーである。NeuNは、抗体としてNeuN抗体[マウスモノクロナール抗体(Chemicon International社製;カタログ番号MAB377)を500倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
NeuNとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるNeuNnとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図7)。
【0050】
(8)リン酸化c−Metとネスチンの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
神経細胞新生におけるHGFの役割を検討するために、ネスチン陽性細胞において、HGFがc−Metのチロシンリン酸化反応に変化を与えるかどうかを検討した。リン酸化c−Met及びネスチンは、抗体としてそれぞれリン酸化c−Met抗体[ウサギポリクロナール抗体(Biosource社製;カタログ番号44−888G)を100倍希釈して使用]及びネスチン抗体[マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences社製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用]を用いて上記免疫組織化学的染色に従って染色した。
R6/2(HSV−HGF)マウスでは、ネスチンとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞が、他のグループと比較して有意に増加した(図8)。
【0051】
(9)リン酸化c−MetとDCXの両者が陽性である細胞に対するHGFの作用
神経細胞新生におけるHGFの役割を検討するために、DCX陽性細胞において、HGFがc−Metのチロシンリン酸化反応に変化を与えるかどうかを検討した。リン酸化c−Met及びDCXは、上記と同様に免疫組織化学的染色を行なった。
R6/2(HSV−HGF)マウスでは、リン酸化c−MetとDCXの両者が陽性である細胞が、他のグループと比較して有意に増加した(図9)。
〔試験例2〕
HGF蛋白質をコードするDNA含有ベクターの脊髄投与による脊髄におけるHGFの発現
1.ベクターの構築、製造及び精製
(1)HGF蛋白質をコードするDNA挿入HSV−1ベクター
HGF遺伝子を挿入したI型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクターとしては、試験例1で作成したHSV1764/−4/pR19HGFウイルスベクターを用いた。該ベクターを以下、HSV−HGFと略記する。
(2)HGF蛋白質をコードするDNA挿入AAV−2ベクター及びAAV−4ベクター
AAV Helper−Free System(Stratagene,USA;カタログ番号#240071)キット中に含まれるpCMV−MCSのマルチクローニングサイトにラットHGF−KT3[ラットHGFをコードするDNA(配列番号5)のC末端にKT3タグ配列(3’−CCGCCCGAGCCAGAGACT−5’;配列番号7)を付加したもの;Sun,Funakoshiら,J.Neurosci.,2002年,第22巻,p.6537-6548]を挿入した。挿入が正しいことをシークエンスにより確認した。NotIサイトでベクターを2つのフラグメントに開裂し、ラットHGF−KT3含む断片をpAAV−MCSを同様にして開列したものと入れ替えることで、AAV2−HGF作成のためのpAAV−ラットHGF−KT3を作製した。AAV4−HGF作成のためにはpAAV−MCSをAAV4用に改変したものを用いることで同様に処理し、pAAV4−ラットHGF−KT3を作製した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000年,第97巻,p.3428-3432)。次いで上記キットに含まれるHEK193細胞に、ラットHGF−KT3が挿入されたpAAV−MCSをキットの使用説明書に従い導入した。該細胞におけるラットHGF−KT3の発現とその活性は、ELISA法及びMDCK細胞に対する散乱分析法により確認した。得られたベクターをAAV2−HGF及びAAV4−HGFと略記する
【0052】
2.脊髄実質への投与によるHGFの発現
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄実質に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu、3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、動物をペントバルビター深麻酔下に屠殺した。速やかに脊髄を取り出し、脊髄の上部(upper spinal;吻側;U)、中部(middle spinal;中央部;M)及び下部(lower spinal;尾側;L)の3つの領域に分け、それぞれの脊髄断片を、前記の方法でホモゲナイズした。酵素抗体免疫測定(ELISA)法にてHGF蛋白質量を測定した。ELISA法は、抗HGFポリクロナール抗体(Tokushu Meneki製)を用いてSun Wら、Brain Res Mol Brain Res,2002年,第103巻,p.36-48に記載に従って実施した。
その結果を図10に示す。ベクターを腰髄部の脊髄実質に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、尾側(腰髄を含む)>=中央部>吻側であった。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
【0053】
3.脊髄腔への投与によるHGFの発現
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄腔に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu、3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、上記脊髄実質への投与における方法と同様に、脊髄を取り出し、脊髄の吻側、中部及び尾側のHGF蛋白質量を上記と同様にELISA法にて測定した。
その結果を図11に示す。ベクターを腰髄部の脊髄腔に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、脊髄実質への注射よりHGFの発現量は低かったが、脊髄のいずれの部位[尾側(腰髄を含む)、中央部、吻側]において、ほぼ同じ程度であった。即ち、脊髄腔への投与では、広範囲な神経細胞へのHGFの供給が可能であった。これは、脊髄実質にベクターを投与した場合に比べ、脊髄液により、ベクターが脊髄全体に拡散されたためであると考えられた。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
【0054】
〔試験例3〕
神経幹細胞の分化に対するHGFの効果
(1)神経幹細胞(neurosphere)の培養方法
E15 C57BL6マウス胎児からE14線条体をガス麻酔科に取り出し、機械的ピペッティングにより細胞をバラバラにし、NeuroCult Basal Medium(神経細胞培養用基礎培地;Stem cell technologies Inc.製)にNeuroCult Proliferation Supplements(神経細胞増殖用サプリメント;Stem cell technologies Inc.製)を1/10容量添加した培地に、EGF(epidermal growth factor;上皮増殖因子)を20ng/mLとなるよう培地(マウス一胎/20mL)に添加して浮遊培養し、培養した細胞を初代培養マウスneurosphere(神経幹細胞)とした。
浮遊培養2週間後に、初代培養マウスneurosphereを神経細胞培養用基礎培地にNeuroCult Differentiation medium(神経細胞分化用培地;Stem cell technologies Inc.製)を1/10添加した培地(EGFを添加していない培地)20mLに再懸濁し、ポリ−L−リシン(PLL)をコートした培養皿(24穴プレート;初代培養マウスneurosphereを再懸濁した液1mL/穴)にて2日培養した。培養は、37℃、CO2インキュベータ[5%(V/V)CO2−95%(V/V)空気]を用いて行った。得られた細胞をマウス線条体由来2次neurosphereとした。
【0055】
(2)免疫染色の方法
上記(1)における細胞を培養した培地を除去し、そこに4%パラホルムアルデヒド(PFA)添加リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)を添加して室温下、15分間静置することにより細胞を固定した。その後固定した細胞をPBSで3回洗浄し、ブロッキング用緩衝液(5%ヤギ血清/PBS/0.3%トリトンX−100)を添加してブロッキング(室温15分)した。ブロッキングした細胞を、PBSで3回、洗浄後、一次抗体を添加したブロッキング用緩衝液で4℃、1晩インキュベートした。その後PBSで3回洗浄後、アレクサ488でコンジュゲートした抗ウサギIgG(Invitrogen社製;600希釈)添加PBSを加え、室温で20分間インキュベートした。インキュベート後、細胞をPBSで3回洗浄し、LSM510共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
なお、下記c−Met抗体の特異性を確認するため、吸収試験を行なった。吸収試験は、予め過剰量(c−Met抗体に対しモル比で100倍量)のc−Met抗体ブロッキングペプチド(sc162P)(Santa Cruz Biotechnology社製)で処理したc−Met抗体を用いて前記と同様に免疫染色を行なった。吸収試験において染色像が陰性であれば、該抗体による陽性像は、c−Metのみを特異的に検出していることを意味する。
一次抗体としては、以下を使用した。
ネスチン抗体:マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用した。
MAP2抗体:マウスモノクロナール抗体(Sigma社製;カタログ番号M4403)を500倍希釈して使用した。
NeuN抗体:マウスモノクロナール抗体(Chemicon社製;カタログ番号MAB377)を500倍希釈して使用した。
A2B5:マウスモノクロナール抗体(Chemicon International製;カタログ番号MAB312R)を100倍希釈して使用した。
c−Met:SP260、ウサギポリクロナール抗体(Santa Cruz Biotechnology社製;カタログ番号sc−162)を50倍希釈して使用した。
GFAP抗体:マウスモノクロナール抗体(Chemicon International製)を600倍希釈して使用した。
【0056】
(3)初代培養マウスneurosphereの分化アッセイ
初代培養マウスneurosphereの分化アッセイを図12に示した。神経幹細胞は浮遊培養系では球状の塊になって増殖するため、neurosphereと呼ばれる。図12において、ネスチン(NESTIN)は神経幹細胞のマーカーを示し、MAP2は神経細胞のマーカーを示し、GFAPはアストロサイトのマーカーを示す。Heochstは、Heochst33342により核が染色されてることを示す。ネスチン像、MAP2像又はGFAP像と核染色像とを重ね合わせる(図中のMERGE)と、各細胞と核の位置が一致し、初代培養マウスneurosphereは神経細胞とアストロサイトを作出できる能力を保有していることが分かる。
【0057】
(4)線条体由来2次neurosphereの分化アッセイ
次いで、線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおいて、c−Metと他の細胞マーカー(ネスチン、GFAP、Heochst、A2B5)との共染色を行なうことで、neurosphereから神経新生過程に於けるまでの様々な分化過程の細胞群におけるHGFの標的細胞を特定した。
その結果を図13〜16に示す。ネスチン(Nestin)陽性の神経幹細胞はHGF受容体であるc−Metが陽性であることが確認できる(図13,14)。また、アストロサイトのマーカーであるGFAP陽性細胞にc−Metが発現していることを確認できる(図15)。なお、neurosphereから分化して間もないGFAP陽性細胞はc−Metの発現が非常に弱いことを確認した。また、A2B5陽性オリゴデンドロサイト前駆細胞にc−Metの発現が確認された(図16)。一方、A2B5で染色されない細胞群にもc−Met陽性細胞を認めた。加えて吸収試験によりc−Metの免疫染色性が消失することから、c−Metの免疫染色におけるc−Met抗体の特異性が確認された。
以上のように、c−Metは神経幹細胞並びに、神経幹細胞から分化したグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)及び神経細胞に発現することが確認された。この結果は、これらc−Metが発現した細胞が、HGFの標的細胞となり得ることを示している。
【0058】
(5)各種栄養因子存在下におけるneurosphereの神経新生分化アッセイ
本試験の概略を図17に示した。
マウス胎児由来のneurosphereをEGF(20ng/mL)存在下で2週間以上浮遊培養した後、分化培地でEGF非存在下にPLLコートしたプレート上で2日間接着培養した。2日間接着培養後、HGF及び/又は栄養因子(NT−3、CNTF)の添加条件でさらに5日間培養した(以下、EGF除去7日後という。)。その後4%PFAで固定後、免疫染色法により染色した。染色した細胞をLSM510共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察し、細胞タイプを同定した。なお、HGFは、最終濃度が3ng/mLとなるよう前記培地に添加した。また、CNTFは、最終濃度3ng/mLとなるよう、NT−3は最終濃度50ng/mLとなるよう前記培地に添加した。免疫染色は上記(2)に従い実施した。なお、核は、Topro3(Molecular Probes社製)を用い、対比染色を行なった。
【0059】
その結果を図18〜29に示す。図18及び19は、EGF除去7日後のコントロールneurosphereの染色像を示す。コントロール条件下においても多くのneurosphereにおいて、神経新生を認めた。しかし、新生神経細胞数は少なく、神経繊維の長さが短く分岐の少ないことを特徴とした成熟度の低い神経新生を認めた。
【0060】
図20及び21は、EGF除去7日後のCNTF処理neurosphereの染色像を示す。コントロールと比較して、CNTF添加によりMAP2陽性神経細胞数が増加することが明らかである。CNTF添加により得られる神経細胞は、神経繊維の分岐が少ないが、神経繊維の長さが非常に長いという特徴を示した。
【0061】
図22及び23は、EGF除去7日後のNT−3処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してNT−3添加により新生神経細胞の増加を認めた。但しその程度はCNTF添加の場合と比較すると若干程度が弱かった。NT−3添加による新生神経細胞の特徴は、神経繊維長がコントロールに比べて若干長いものの伸張促進効果は著名とはいえなかった。一方、神経突起の分岐に関しては著しい分岐数の増加を認め、コントロールと異なる神経分化(より成熟した神経新生)が惹起されていることが確認された。
【0062】
図24及び25は、EGF除去7日後のHGF処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してHGF添加により新生神経細胞の増加を認めた。その程度は、コントロールはもとよりNT−3添加時に比べても著しく、また、CNTF添加時より強いといえる。HGF添加による新生神経細胞の特徴は、神経繊維長がコントロールに比べて若干長いもののCNTF添加時に比べると伸張促進効果は程度が弱かった。一方、神経突起の分岐に関しては著しく、HGF添加により分岐数の著しい増加を認めた。さらにHGF添加による新生神経細胞は、NT−3添加時に比べてより太い神経線維をもつことを特徴としており、コントロール、CNTF又はNT−3添加群とは明らかに異なる神経分化(より成熟した神経新生)が惹起されていることが確認された。
【0063】
図26及び27は、EGF除去7日後のHGF及びNT−3処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してHGFとNT−3の同時添加により新生神経細胞数の著名な増加を認めた。新生神経細胞数は、NT−3単独添加時よりさらに多いことを特徴とした。また、HGFとNT−3の同時添加においてできた新生神経は神経繊維がコントロールより長く非常に分岐が多い形態的特徴を示した。さらに神経繊維の太さも太く、HGFとNT−3の同時添加では新生神経はコントロール、CNTF、NT−3、HGF単独添加群に比べて異なる形態、すなわちより成熟した形態を示した。
【0064】
図28及び29は、EGF除去7日後のHGF及びCNTF処理neurosphereの染色像を示す。コントロールに比較してHGFとCNTF同時添加により新生神経細胞数の著名な増加を認めた。新生神経細胞数は、CNTF単独添加時よりさらに多いことを特徴とした。新生神経は神経繊維がコントロールより非常に長くさらに分岐も非常に多い形態的特徴を示した。さらにHGFとCNTF同時添加では新生神経繊維の太さも太い等の特徴を示していた。以上からコントロール、CNTF及びNT−3単独添加群に比べて異なる形態を示しており、HGFとCNTF同時添加により、より成熟した多数の神経新生の形成が起こることが確認された。
【0065】
(6)HGFの有無によるneurosphere形成能の比較
Neurosphere形成をこれまで知られるEGFの代わりにHGFを用いた場合、EGF添加時と同様にneurosphereを形成できるか(神経新生のもととなる神経幹細胞の増加を認めるか否か)を検討した。前記試験例3の[1)神経幹細胞(neurosphere)の培養方法の項において、EGF(20ng/mL)の代わりにHGF(10ng/mL)を添加して初代培養マウスneurosphereを調製した。なお、コントロールは、マウス胎児由来のneurosphereをEGF又はHGF無添加で同様に浮遊培養した。
その結果を図30に示した。HGFによりEGFを添加しなくてもコントロールに比較してneurosphere形成数の増加をみることはもとより、neurosphereの大きさの著名な増大傾向を求めた。このことから、HGFが神経幹細胞群の分裂及び/又は生存の著著名な促進効果があることがわかった。
【0066】
〔統計的分析〕
データは平均値±標準偏差(SD)で示し、統計学的有意差の検定は、フィッシャーの最小有意差法(PLSD)を用いる分散分析で評価した。
各グループのデータは、解析ソフトStatview 5.0(SAS Institute,Inc.製)で分析した。p<0.05の確率値の違いを統計的有意差ありとした。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の神経新生促進剤は、神経変性又は神経細胞死を伴う神経疾患や神経障害における神経再生や神経修復ための薬剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、R6/2(HSV−HGF)マウス及び野生型同腹子の線条体におけるKi−67陽性細胞の免疫染色像を示す図である。図中、Strは線条体を、LVは脳室を、SVZは脳室下帯を示す。
【図2】図2は、マウス脳室下帯及び線条体におけるBrdU陽性細胞数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。*は野生型同腹子に対する有意差(p<0.05)を、**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図3】図3は、マウス脳室下帯及び線条体におけるネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図4】図4は、マウス脳室下帯及び線条体におけるDCXとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**R6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図5】図5は、マウス脳室下帯及び線条体におけるPSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。*は野生型同腹子に対する有意差(p<0.05)を、**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図6】図6は、マウス脳室下帯及び線条体におけるβIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図7】図7は、マウス脳室下帯及び線条体におけるNeuNとBrdUの両者が陽性である細胞の数を示す図である。図中、Aは野生型同腹子を、BはR6/2マウスを、CはR6/2(HSV−LacZ)マウスを、DはR6/2(HSV−HGF)マウスを示す。**はR6/2(HSV−LacZ)マウスに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図8】図8は、マウス線条体におけるネスチンとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞の免疫染色像を示す図である。
【図9】図9は、マウス線条体におけるDCXとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞の免疫染色像を示す図である。
【図10】図10は、HGF蛋白質をコードするDNAを挿入したHSV−HGF、AAV2−HGF及びAAV4−HGFの3種のベクターをラット腰髄の脊髄実質に注射し、5日後の脊髄におけるHGFの発現量を示す図である。図中、Uは脊髄の吻側を、Mは中央部を、Lは尾側を示す。*はコントロールに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図11】図11は、HGF蛋白質をコードするDNAを挿入したHSV−HGF、AAV2−HGF及びAAV4−HGFの3種のベクターをラット腰髄の脊髄腔に注射し、5日後の脊髄におけるHGFの発現量を示す図である。図中、Uは脊髄の吻側を、Mは中央部を、Lは尾側を示す。*はコントロールに対する有意差(p<0.05)を示す。
【図12】図12は、初代培養マウスneurosphereの分化アッセイにおけるネスチン、MAP2,GFAP及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:免疫染色像を重ねた図;上段:ネスチンと核;中段:MAP2と核;下段:GFAPと核。
【図13】図13は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおけるネスチン、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:ネスチン、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図14】図14は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおけるネスチン、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:ネスチン、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図15】図15は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイにおけるGFAP、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。Merge:GFAP、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図16】図16は、マウス線条体由来2次neurosphereの分化アッセイ(4日後)におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞(A2B5)、c−Met及び核(Hoechst)の免疫染色像を示す図である。c-Met-Absorption:吸収試験後のc−Metの染色像;Merge:A2B5、c−Met及び核の免疫染色像を重ねた図。
【図17】図17は、各種栄養因子存在下におけるneurosphereの神経新生分化アッセイのプロトコルを示す概略図である。
【図18】図18は、EGF除去7日後のコントロールneurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図19】図19は、EGF除去7日後のコントロールneurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図20】図20は、EGF除去7日後のCNTF処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図21】図21は、EGF除去7日後のCNTF処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図22】図22は、EGF除去7日後のNT−3処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図23】図23は、EGF除去7日後のNT−3処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図24】図24は、EGF除去7日後のHGF処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図25】図25は、EGF除去7日後のHGF処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図26】図26は、EGF除去7日後のHGF及びNT−3処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。図中Aは、高度な分化を示し、Bは増加した数を示す。
【図27】図27は、EGF除去7日後のHGF及びNT−3処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図28】図28は、EGF除去7日後のHGF及びCNTF処理neurosphereのMAP2の免疫染色像を示す典型例の拡大図である。
【図29】図29は、EGF除去7日後のHGF及びCNTF処理neurosphereのMAP2及び核(Topro3)の免疫染色像を示す図である。
【図30】図30は、HGFの有無によるneurosphere形成能の比較を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とする神経新生促進剤。
【請求項2】
有効成分が、(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAであることを特徴とする請求項1記載の神経新生促進剤。
【請求項3】
HGF蛋白質をコードするDNAが、(a)配列番号1、2又は5で表される塩基配列からなるDNA又は(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNAであることを特徴とする請求項2記載の神経新生促進剤。
【請求項4】
DNAが、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする請求項2又は3記載の神経新生促進剤。
【請求項5】
有効成分が、(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩であることを特徴とする請求項1記載の神経新生促進剤。
【請求項6】
HGF蛋白質が、(a)配列番号3、4又は6で表されるアミノ酸配列と同一又は(b)前記アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であることを特徴とする請求項5記載の神経新生促進剤。
【請求項7】
神経新生促進剤が、局所投与用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の神経新生促進剤。
【請求項8】
局所投与が、髄腔内投与であることを特徴とする請求項7記載の神経新生促進剤。
【請求項9】
神経栄養因子と組み合わせて使用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の神経新生促進剤。
【請求項10】
神経栄養因子が、NT−3、NT−4、CNTF、GDNF及びBDNFから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載の神経新生促進剤。
【請求項1】
(1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とする神経新生促進剤。
【請求項2】
有効成分が、(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAであることを特徴とする請求項1記載の神経新生促進剤。
【請求項3】
HGF蛋白質をコードするDNAが、(a)配列番号1、2又は5で表される塩基配列からなるDNA又は(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNAであることを特徴とする請求項2記載の神経新生促進剤。
【請求項4】
DNAが、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする請求項2又は3記載の神経新生促進剤。
【請求項5】
有効成分が、(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩であることを特徴とする請求項1記載の神経新生促進剤。
【請求項6】
HGF蛋白質が、(a)配列番号3、4又は6で表されるアミノ酸配列と同一又は(b)前記アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であることを特徴とする請求項5記載の神経新生促進剤。
【請求項7】
神経新生促進剤が、局所投与用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の神経新生促進剤。
【請求項8】
局所投与が、髄腔内投与であることを特徴とする請求項7記載の神経新生促進剤。
【請求項9】
神経栄養因子と組み合わせて使用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の神経新生促進剤。
【請求項10】
神経栄養因子が、NT−3、NT−4、CNTF、GDNF及びBDNFから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載の神経新生促進剤。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図17】
【図1】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図17】
【図1】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2007−284410(P2007−284410A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116594(P2006−116594)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(502068908)クリングルファーマ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(502068908)クリングルファーマ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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