説明

秘匿化データ生成装置、秘匿化データ生成方法、秘匿化装置、秘匿化方法及びプログラム

【課題】人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせる。
【解決手段】フレーム抽出処理31は、音声データ4、音楽データ5を入力し、各々に対して所定の区間単位のフレームに分割する。周波数解析処理32は、単一の音声最大値スペクトルデータ12を出力し、フレームごとに、近傍に位置する音楽フレーム群11の一部の音楽フレームに基づいて算出される複数の音楽平均値スペクトルデータ13を出力する。フィルタ関数作成処理33は、音声最大値スペクトルデータ12、音楽平均値スペクトルデータ13を入力し、フレームごとに、対応する音楽平均値スペクトルデータ13を用いてフィルタ関数データ14を出力する。フィルタリング処理34は、音楽データ5、フィルタ関数データ14を入力し、フレームごとに、対応するフィルタ関数データ14を用いて秘匿化データ6を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対話音声を秘匿化する音楽データを生成する秘匿化データ生成装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療機関(調剤薬局などの受付カウンター)、金融機関・保険会社の相談カウンター、法律事務所などの面談室、携帯電話店のカウンター、会食に使われる飲食店などにおいて交わされる対話音声は、第3者に聴取されることが好ましくない個人情報や企業の機密情報が含まれることが少なくない。しかしながら、従来は、簡易的な間仕切りのみによって済ませている施設が多い。これは、事務所や店のスペース・コストの制約から、カラオケボックスのように遮音機能をもつ什器を導入したり、内装工事を行ったりすることは必ずしも容易ではないからである。そこで、現状設備に殆ど手を加えることなく、対話音声を秘匿化する手法が求められている。
【0003】
音を秘匿化する手法の1つとして、電気的に消音する能動消音法(ANC:Active Noise Control:特許文献1参照)があるが、対象は定常的な騒音に限定されるため、音声のように時間変化が顕著な音には適用できない。
【0004】
もう1つの音を秘匿化する手法として、BGM(BackGround Music)を利用する手法がある。例えば、ショッピングセンター、カクテルパーティ、飲食店などではBGMが流れていることが多い。これは、人間の聴覚マスキング効果を活用して雑踏騒音を和らげることを意図している。しかし、人間はカクテルパーティ効果と呼ばれる、聴覚マスキング効果とは全く逆の特性も備えている。カクテルパーティ効果とは、カクテルパーティのように多くの人がそれぞれ雑談している中でも、自分が興味のある人の会話などは自然に聴き取ることができるという音声の選択的聴取のことである。
人間は、カクテルパーティ効果によって、より大きな音源(BGM等)により部分的にマスクされた音声を補間して興味のある音声を聴取しようとする働きがある為、通常のBGMによって音声を完全に秘匿化することまでは期待できない。このような問題を解決する為に、(1)エネルギーマスキング、(2)インフォメーションマスキングという2つの手法が提案されている。
【0005】
(1)エネルギーマスキングについては、例えば、特許文献2に記載されている。特許文献2には、白色雑音(少なくとも可聴域にて、パワーが周波数によらず略均一な傾向を有した雑音)等をマスキング音として流し、聴覚マスキング効果によって音声等をマスキングすることが記載されている。
【0006】
(2)インフォメーションマスキングについては、例えば、特許文献3、4に記載されている。特許文献3には、ある音響空間に設置されたマイクロホンから音信号を受取り、受け取った音信号にスクランブルをかけてマスキングサウンドを生成し、他の音響空間(音声信号が漏洩して欲しくない空間)に放音することが記載されている。また、特許文献4には、リアルタイムに録音された対話音声を解析し、対話音声を加工してマスキング音を生成し、出力することが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の手法では、音圧が高いマスキング音が四六時中流れることになり、待合室の人々の雑談や面談中の会話が聞き取り難くなるという問題が指摘されている。
また、特許文献3、4に記載の手法では、マスキング音が人間に不快感を与えるとう問題が指摘されている。また、録音する為のマイクロホン、高速信号処理装置などが必要となり、コストがかかるという問題が指摘されている。尚、不快なマスキング音を和らげるために、更にBGMを合成するという手法も考えられるが、音圧が大きくなり煩わしくなるという別の問題が発生する。
【0008】
そこで、本発明者は、人間にとって心地良く、かつ秘匿効果が高い秘匿化データを安価に生成することができる秘匿化データ生成装置等を発明した(特許文献5参照)。特許文献5では、BGM信号をブロック分割して時系列に複数のフィルタ関数を用いてフィルタ処理を施すようにする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2544899号公報
【特許文献2】特開2010−031501号公報
【特許文献3】特許第4245060号公報
【特許文献4】特許第4336552号公報
【特許文献5】特願2010−192133号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献5の「BGM信号をブロック分割して時系列に複数のフィルタ関数を用いてフィルタ処理を施す」という方法において、ブロック分割が必要以上に細かくなされる場合、フィルタ処理の段差が目立ち、音楽が不連続に不自然になるという問題があった。一方、ブロック分割が粗過ぎると、マスキング効果即ち音声の秘匿化が適切に働かない箇所が目立つようになるという問題があり、楽曲の楽章・部構成を考慮して、人間が手動でブロック分割を行うという運用が現実的であった。
【0011】
ところが、特にクラシック楽曲では、楽曲の楽章・部構成を考慮しても、各分割ブロック内に音量や音色の変化が激しい部分が含まれてしまうことが多く、マスキング効果が適切に働かない箇所が残る。前述した通り、人間の聴覚認識系にはカクテルパーティ効果があるので、秘匿化されない成分が増えてくれると音声が完全に聞き取れてしまう。これを回避する為には、特許文献5に記載の前述の方法ではブロック分割を細かくするしかないが、ブロック分割が細か過ぎると、フィルタ処理の段差が目立ち、音楽が不自然になるというジレンマを抱えていた。
【0012】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせることができる秘匿化データ生成装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために第1の発明は、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成する秘匿化データ生成装置であって、予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析手段と、前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成手段と、前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリング手段と、を具備することを特徴とする秘匿化データ生成装置である。
第1の発明によって、人手を費やさずに、どの再生箇所においてもマスキング効果が満遍なく働く秘匿化データを生成することができる。
【0014】
第1の発明における前記フィルタ関数作成手段は、前記音声最大値スペクトルVv(j)を、周波数jよりも高域側の範囲内の最大値に置換することによって、置換音声最大値スペクトルを算出し、前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)を、周波数jの前後の範囲内の平均値に置換することによって、置換音楽平均値スペクトルを算出し、前記置換音声最大値スペクトルを前記置換音楽平均値スペクトルによって除した値を前記除算値スペクトルDiv(f,j)とすることが望ましい。
マスキングは、高音側(周波数が高域側)に働きやすいという性質がある為、音声最大値スペクトルVv(j)を、周波数jよりも高域側の範囲内の最大値に置換すれば、音声スペクトルを周波数方向に低音側に非線形シフトする補正を行っていることになり、ひいては、マスキング効果を高めることができる。
【0015】
第1の発明における前記フィルタ関数作成手段は、前記除算値スペクトルDiv(f,j)を、周波数jの前後の範囲内の平均値に置換することによって、前記除算値スペクトルDiv(f,j)を平滑化することが望ましい。
これによって、フィルタ関数が滑らかになり、ひいては、最終的に生成される秘匿化データが、人間にとって心地良い音楽データとなる。
【0016】
第1の発明では、複数の前記音楽データを記憶する音楽データ記憶手段と、前記音楽データ記憶手段によって記憶されている前記音楽データの中から単一の前記音楽データを選択する音楽データ選択手段と、を更に具備し、前記音楽データ選択手段によって選択された単一の前記音楽データに基づいて、前記秘匿化データを生成することが望ましい。
これによって、複数の音楽データに基づいて、複数の秘匿化データを生成することができる。
【0017】
第2の発明は、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成する秘匿化データ生成方法であって、予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、を含むことを特徴とする秘匿化データ生成方法である。
第2の発明によって、人手を費やさずに、どの再生箇所においてもマスキング効果が満遍なく働く秘匿化データを生成することができる。
【0018】
第3の発明は、第1の発明の秘匿化データ生成装置が生成する複数の前記秘匿化データを記憶する秘匿化データ記憶手段と、前記秘匿化データ記憶手段によって記憶されている前記秘匿化データの中から単一の前記秘匿化データを選択する秘匿化データ選択手段と、前記秘匿化データ選択手段によって選択された単一の前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生手段と、を具備することを特徴とする秘匿化装置である。
第3の発明によって、人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせることができる。
【0019】
第4の発明は、前記秘匿化データ再生手段が前記秘匿化データを波面が平面波に近い音波として所定平面から均一に放射する機構をもつ平面型スピーカで構成されていることが望ましい。
これによって、秘匿化対象位置に伝搬される過程で減衰する音波のエネルギー量が、前記対話音声に比べ前記秘匿化データの方が小さくなり、相対的に前記秘匿化データのエネルギー量が前記対話音声に比べ大きくなるため、マスキング効果を高めることができる。
【0020】
第5の発明は、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成し、再生する秘匿化装置であって、予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析手段と、前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成手段と、前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリング手段と、前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生手段と、を具備することを特徴とする秘匿化装置である。
第5の発明によって、人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせることができる。
【0021】
第6の発明は、第2の発明の秘匿化データ生成方法によって生成する複数の前記秘匿化データを記憶する秘匿化データ記憶ステップと、前記秘匿化データ記憶手段によって記憶されている前記秘匿化データの中から単一の前記秘匿化データを選択する秘匿化データ選択ステップと、前記秘匿化データ選択手段によって選択された単一の前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生ステップと、を含むことを特徴とする秘匿化方法である。
第6の発明によって、人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせることができる。
【0022】
第7の発明は、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成し、再生する秘匿化方法であって、予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生ステップと、を含むことを特徴とする秘匿化方法である。
第7の発明によって、人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせることができる。
【0023】
第8の発明は、コンピュータに、予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、を実行させるためのコンピュータ読取可能なプログラムである。
第8の発明のプログラムを汎用のコンピュータにインストールすることによって、第1の発明の秘匿化データ生成装置を得ることができる。
【0024】
第9の発明は、コンピュータに、予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生ステップと、を実行させるためのコンピュータ読取可能なプログラムである。
第9の発明のプログラムを、音楽スピーカが接続された汎用のコンピュータにインストールすることによって、第5の発明の秘匿化装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の秘匿化データ生成装置等により、人手を費やさずに、秘匿化データのどの再生箇所においてもマスキング効果を満遍なく働かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】秘匿化装置の概要図
【図2】秘匿化データ生成装置のハードウエア構成図
【図3】聴覚マスキング現象を説明する図
【図4】秘匿化処理の流れを示すフローチャート
【図5】秘匿化データ生成処理の流れを示す図
【図6】周波数解析処理を説明する図(1)
【図7】周波数解析処理を説明する図(2)
【図8】フィルタ関数作成処理を説明する図(1)
【図9】フィルタ関数作成処理を説明する図(2)
【図10】フィルタリング処理を説明する図
【図11】秘匿化装置の第1の設置例
【図12】秘匿化装置の第2の設置例
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、秘匿化装置1の概要図である。図1に示すように、秘匿化装置1は、少なくとも、秘匿化データ生成装置2及び音楽再生装置3から構成される。
秘匿化データ生成装置2は、例えば、コンピュータ等であり、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データ6を生成する。秘匿化データ生成装置2の記憶部には、少なくとも音声データ4及び音楽データ5が記憶される。
音楽再生装置3は、音楽プレーヤ及びスピーカから構成され、秘匿化データ6を再生する。音楽再生装置3の記憶部には、少なくとも秘匿化データ生成装置2によって生成される秘匿化データ6が記憶される。
【0028】
秘匿化装置1は、用途に応じて様々な構成を採ることが可能である。秘匿化装置1を構成する秘匿化データ生成装置2及び音楽再生装置3は、図1に示すように異なる筐体としても良いし、1つの筐体としても良い。
また、秘匿化データ生成装置2及び音楽再生装置3は、図1に示すように有線によって接続されても良いし、無線によって接続されても良いし、ネットワークを介して接続されても良いし、接続されていなくても良い。
秘匿化データ生成装置2及び音楽再生装置3が接続されていない場合、秘匿化データ生成装置2は、秘匿化データ6を記憶媒体(CD、MD、USBメモリ、SDカードなどコンピュータ及び音楽プレーヤが読取可能な記憶媒体)に出力し、音楽再生装置3は、記憶媒体から秘匿化データ6を入力する。
【0029】
少なくとも音楽再生装置3は、対話音声の秘匿化を所望する音響空間に設置される。このような音響空間としては、例えば、調剤薬局などの受付カウンターに隣接する待合室などが考えられる。そして、音楽再生装置3は、このような待合室において秘匿化データ6を再生する。
ここで、本発明の実施の形態に係る秘匿化データ生成装置2が生成する秘匿化データ6は、受付カウンターと待合室の間が簡易的な間仕切りのみであっても、通常の音量によって、待合室にいる人が受付カウンターの対話音声の内容を聞き取ることができない程度に、秘匿化することが可能である。
音楽再生装置3が設置される音響空間としては、その他に、金融機関、保険会社、携帯電話店などのカウンターに隣接する待機スペース、法律事務所などの面談室に隣接する通路、企業などの応接室、飲食店などの個室などが挙げられる。
【0030】
図2は、秘匿化データ生成装置2のハードウエア構成図である。尚、図2のハードウエア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
秘匿化データ生成装置2は、制御部21、記憶部22、メディア入出力部23、通信制御部24、入力部25、表示部26、周辺機器I/F部27等が、バス28を介して接続される。
【0031】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
CPUは、記憶部22、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス28を介して接続された各装置を駆動制御し、秘匿化データ生成装置2が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、秘匿化データ生成装置2のブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部22、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0032】
記憶部22は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部21が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部21により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0033】
メディア入出力部23(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MDドライブ等のメディア入出力装置を有する。
通信制御部24は、通信制御装置、通信ポート等を有し、秘匿化データ生成装置2とネットワーク間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワークを介して、他の装置間との通信制御を行う。ネットワークは、有線、無線を問わない。
【0034】
入力部25は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部25を介して、秘匿化データ生成装置2に対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
表示部26は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータ1のビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0035】
周辺機器I/F(インタフェース)部27は、秘匿化データ生成装置2に周辺機器を接続させるためのポートであり、秘匿化データ生成装置2は周辺機器I/F部27を介して周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部27は、USBやSDカードリーダ等で構成されている。
バス28は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0036】
図3は、聴覚マスキング現象を説明する図である。
マスキングとは、一方の音が、他方の音によってかき消され(マスクされ)、聞こえなくなる現象を意味する。聴覚マスキング現象は、図3に示すように、2種類に大別される。
【0037】
第1の聴覚マスキング現象は、周波数マスキング(同時マスキング)である。図3(a)は、周波数マスキングを示す模式図である。周波数マスキングは、同一時刻に到達した2種類の音波間の干渉である。2種類の音波の周波数が近接している場合、図3(a)に示すように、マスカー音7a(一方の音をかき消す音)の強さが、マスキー音8a(他方の音によってかき消される音)の強さより大きい場合に、マスキング効果が働く。
尚、マスカー音7aの周波数が、マスキー音8aの周波数より僅かに低い方が、僅かに高い場合に比べマスキング効果は大きいが、両者の周波数が完全に一致する場合、互いに強め合うことになり、マスキング効果は生じない。また、マスカー音7aの周波数が、マスキー音8aの周波数より所定の範囲(臨界帯域幅とよばれる)より高いまたは低い場合も、マスキング効果は生じない。
【0038】
第2の聴覚マスキング現象は、時間マスキング(経時マスキング)である。図3(b)は、時間マスキングを示す模式図である。時間マスキングは、若干の時間差を伴って到達した2種類の音波間の干渉である。2種類の音波の周波数が、周波数マスキングと同様に近接している場合、図3(b)に示すように、順向マスキングや逆向マスキングが働く。
順向マスキングは、マスカー音7bが先行して到達し、マスキー音8bが若干遅れて到達する場合、具体的には時間差が100msec以下の場合に働く。この場合、後続の音であるマスキー音8bが聞こえない。
逆向マスキングは、マスカー音7cがマスキー音8cよりも強く、かつ、マスキー音8cが先行して到達し、マスカー音7cが非常に微小な時間だけ遅れて到達する場合、具体的には時間差が20msec以下の場合に働く。この場合、先行音であるマスキー音8cが、後続音であるマスカー音7cに抜かれ、聞こえなくなる。マスキー音8cがマスカー音7cに抜かれる理由は、強い音であるマスカー音7cの方が、人間の耳の中での伝播時間が早まる為である。
尚、逆向マスキングよりも順向マスキングの方が、マスキング効果は高い。
【0039】
本発明の技術的思想は、特願2010−192133号(特許文献5)において活用されている「周波数マスキング」に加えて、「時間マスキング」も活用するものである。
【0040】
図4は、秘匿化処理の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、秘匿化データ生成装置2の制御部21は、音声データ4及び音楽データ5を記憶部22に記憶する(S101)。音楽データ5は、複数記憶するようにしても良い。
音声データ4は、秘匿化対象の音響空間における対話音声ではなく、固定のサンプルデータとする。すなわち、本発明の実施の形態における秘匿化データ生成装置2は、リアルタイムにサンプリングされた秘匿化対象の対話音声は使用しない。音声データ4は、予め録音された種々の男声、女声が混在した対話音声である。
音楽データ5は任意である。例えば、聴取者にとって意味のあるメロディ・リズム・和声進行が含まれている必要は必ずしもなく、川のせせらぎ音などの自然音でもかまわない。秘匿化対象の対話音声に類似した周波数成分を多く含む音楽データであれば、マスキング効果が働きやすくなるので、マスキング効果を高めるという意味では、声楽データが含まれていることが望ましい。但し、声楽データが含まれると騒がしくなるため、器楽データのみであり、楽器編成が少ない室内楽曲などが現実的である。秘匿化データ生成装置2は、音楽データ5ごとに秘匿化データ6を生成する。
【0041】
次に、秘匿化データ生成装置2の制御部21は、単一の音楽データ5を選択する(S102)。音楽データ5の選択は、入力部25を介してユーザが指示するようにしても良い。
次に、秘匿化データ生成装置2の制御部21は、S102において選択された単一の音楽データ5に基づいて、秘匿化データ6の生成処理を行う(S103)。秘匿化データ6の生成処理の詳細は後述する。
S102及びS103の処理を繰り返し、複数の秘匿化データ6を生成するようにしても良い。
【0042】
次に、音楽再生装置3は、S103にて生成された秘匿化データ6を記憶する(S104)。秘匿化データ6は、複数記憶するようにしても良い。
次に、音楽再生装置3は、単一の秘匿化データ6を選択する(S105)。秘匿化データ6の選択は、ユーザが指示するようにしても良い。
次に、音楽再生装置3は、S105において選択された単一の秘匿化データ6を再生する(S106)。再生音量は、環境の変化に応じて、ユーザの指示により適宜変更される。
【0043】
以上により、秘匿化装置1は、音響空間Aにおける対話音声が、所定の距離だけ離れている音響空間Bにいる人に聴取されないように秘匿化することができる。
以下では、秘匿化データ6の生成処理の詳細について説明する。
【0044】
図5は、秘匿化データ生成処理の流れを示す図である。図5に示すように、秘匿化データ生成処理は、フレーム抽出処理31、周波数解析処理32、フィルタ関数作成処理33及びフィルタリング処理34を含む。
ここでは、各処理の概要について説明し、詳細は後述する。
【0045】
フレーム抽出処理31は、音声データ4及び音楽データ5を入力し、各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、音声フレーム群10及び音楽フレーム群11を生成する。
所定の区間単位(フレームの長さ)は、例えば、100msec以下が望ましい。これは、前述の時間マスキング、特に、順向マスキングによるマスキング効果を活用する為である。尚、所定の区間単位(フレームの長さ)を例えば10msec以下などにいたずらに短く設定しても、フレーム数が増えて計算時間が長くなるだけで効果は変わらない。
【0046】
周波数解析処理32は、音声フレーム群10及び音楽フレーム群11を入力し、フレームfごとに、音声最大値スペクトルデータ12及び音楽平均値スペクトルデータ13を出力する。周波数解析処理32は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、音声フレーム群10及び音楽フレーム群11の各クレームに対して周波数解析を行い、音声フレームの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、音楽フレームの前後Mフレーム(M個)に渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)を算出する処理である。
尚、Vv(j)の添え字「v」は、voiceの頭文字である。また、Vm(f、j)の添え字「m」は、musicの頭文字である。
【0047】
ここで、Mは、前述した所定の区間単位(フレームの長さ)に応じて定めることが望ましく、「M(個)×フレームの長さ(秒)」が数秒程度であることが望ましい。これは、「M(個)×フレームの長さ(秒)」が短すぎると、音楽が不自然に聞こえてしまい、「M(個)×フレームの長さ(秒)」が長すぎると、マスキング効果、即ち音声の秘匿化が適切に働かない箇所が目立つようになるからである。
【0048】
音声データ4は、スペクトルの時系列変動が大きく、無音部も含まれるため、平均値では適切な評価ができない。そこで、本発明の実施の形態では、音声最大値スペクトルVv(j)を1つだけ算出する。
音楽データ5は、フレーム単位の各瞬時スペクトル(位相成分は無視したエネルギー量)に対して、フレームfごとに、前後所定のフレーム数に対応する瞬時スペクトルを平均化した平均スペクトルVm(f,j)に置換する。
【0049】
フィルタ関数作成処理33は、音声最大値スペクトルデータ12及び音楽平均値スペクトルデータ13を入力し、フレームfごとに、フィルタ関数データ14を出力する。フィルタ関数作成処理33は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成する処理である。
【0050】
フィルタリング処理34は、音楽データ5及びフィルタ関数データ14を入力し、フレームfごとに、秘匿化データ6を出力する。フィルタリング処理34は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、音楽データ5を所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応するフィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、秘匿化データ6を生成する処理である。
【0051】
図6、図7は、周波数解析処理を説明する図である。図6、図7に示すように、周波数解析処理32は、(狭義の)周波数解析32a、瞬時スペクトル算出処理41、平均スペクトル算出処理42を含む。
【0052】
最初に、音声データ4に対する周波数解析処理について説明する。
例えば、サンプリング周波数Fsを「44100Hz」、サンプル数Nを「4096」とする。サンプリング周波数Fs及びサンプル数Nによって、音声データ4に含まれるフレーム数Fvが定まる。
フレーム抽出処理31では、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、サンプリング周波数Fsのモノラル音声信号(ステレオの場合はLR(左右)の合算値とする。)に対して、各々N/2サンプル間隔ごとに(すなわち、N/2サンプル分ずつ重複する。)、N個ずつ、各々Fvフレーム抽出する。
【0053】
次に、周波数解析処理32では、制御部21は、抽出したf番目のフレームデータXv(f、i)(f=0、・・・、Fv−1;i=0、・・・、N−1)に対して、ハニング窓関数H(i)=0.5−0.5cos(2πi/N)を用いてフーリエ変換を行う。
次に、制御部21は、変換データの実部 Av(f、j)(f=0、・・・、Fv−1;j=0、・・・、N−1)、虚部Bv(f、j)(f=0、・・・、Fv−1;j=0、・・・、N−1)及び強度値の時系列の最大値スペクトルVv(j)を各々、次式のように算出する。
【0054】
【数1】

【0055】
図6には、音声フレームデータXv(f、i)のフレーム1〜フレームFに対して、周波数解析42aが行われ、音声スペクトル1〜音声スペクトルFが算出され、音声最大値スペクトルVv(j)が算出されることが図示されている。
【0056】
次に、音楽データ5に対する周波数解析処理について説明する。
音声データ4と同様、サンプリング周波数Fsを「44100Hz」、サンプル数Nを「4096」とする。サンプリング周波数Fs及びサンプル数Nによって、音楽データ5に含まれるフレーム数Fmが定まる。
フレーム抽出処理31では、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、サンプリング周波数Fsのモノラル音楽信号(ステレオの場合はLR(左右)の合算値とする。)に対して、各々N/2サンプル間隔ごとに(すなわち、N/2サンプル分ずつ重複する。)、N個ずつ、各々Fmフレーム抽出する。
【0057】
次に、周波数解析処理32では、制御部21は、抽出したf番目のフレームデータXm(f、i)(f=0、・・・、Fm−1;i=0、・・・、N−1)に対して、ハニング窓関数H(i)=0.5−0.5cos(2πi/N)を用いてフーリエ変換を行う。
次に、制御部21は、瞬時スペクトル算出処理41として、フレームごとに、位相成分は無視したエネルギー量である瞬時スペクトルを算出する。また、制御部21は、平均スペクトル算出処理42として、前後Mフレーム(M個)の瞬時スペクトルの平均値である平均スペクトルを算出する。
【0058】
具体的には、制御部21は、変換データの実部 Am(f、j)(f=0、・・・、Fm−1;j=0、・・・、N−1)、虚部Bm(f、j)(f=0、・・・、Fm−1;j=0、・・・、N−1)、及び、対象フレームを中点として前後M/2フレーム(M/2個)ずつ、合計Mフレーム(M個)(M<Fm)の平均値スペクトルVm(f、j)(f=0、・・・、Fm−1;j=0、・・・、N/2)を各々、次式のように算出する。
但し、音楽データ5の先頭部、すなわち、f<M/2の場合、前後M/2フレーム(M/2個)ずつの平均を取ることができないことから、Vm(f、j)=Vm(M/2、j)とする。同様に、音楽データ5の後尾部、すなわち、f>Fm−M/2の場合、前後M/2フレーム(M/2個)ずつの平均を取ることができないことから、Vm(f、j)=Vm(Fm−M/2−1、j)とする。
【0059】
【数2】

【0060】
図6には、一例として、音楽データ5のフレームfとフレームf+1に対する周波数解析処理が示されている。
図6には、音楽フレームデータXm(f、i)のフレーム1〜フレームM+1に対して、周波数解析42aが行われ、フレーム1〜フレームMまでの時系列平均が算出され、フレームfに対する音楽平均値スペクトルVm(f、j)が算出されることが図示されている。同様に、図6には、フレーム2〜フレームM+1までの時系列平均が算出され、フレームf+1に対する音楽平均値スペクトルVm(f+1、j)が算出されることが図示されている。
【0061】
また、図7には、図6の補足的な説明として、音楽データ5を入力とし、瞬時スペクトル算出処理41によって、フレームごとに瞬時スペクトルが算出されることが図示されている。また、処理対象のフレームに対して、前後Mフレーム(M個)の瞬時スペクトルの平均値が算出され、平均値スペクトルに置換され、音楽平均値スペクトルデータ13が出力されることが図示されている。
【0062】
図8、図9は、フィルタ関数作成処理を説明する図である。フィルタ関数作成処理33は、図8に示す臨界帯域幅補正処理43、並びに、図9に示す除算処理44及び平滑化処理45を含む。
【0063】
まず、図8を参照して臨界帯域幅補正処理43について説明する。
臨界帯域幅補正処理43は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、音声最大値スペクトルVv(j)を、周波数jごとに所定の範囲内の最大値に置換することによって、単一の置換音声最大値スペクトルVv’(j)を作成する処理である。また、臨界帯域幅補正処理43は、フレームfごとに、音楽平均値スペクトルVm(f、j)を、周波数jごとに所定の範囲内の平均値に置換することによって、置換音楽平均値スペクトルVm’(f、j)を作成する処理である。図8には、一例として、フレームfとフレームf+1に対する臨界帯域幅補正処理が示されている。
【0064】
臨界帯域幅とは、ある周波数jの周波数成分Vv(j)またはVm(f、j)を中心にマスキングが及ぶ周波数の範囲(臨界帯域幅、Barkと呼ばれる。)である。臨界帯域幅の近似式としては、次式に示すE.Zwickerの式が知られている。尚、一般に、周波数が高くなると、臨界帯域幅は広くなることが分かっている。
【0065】
【数3】

【0066】
式(7)におけるfrの単位も「Hz」である。frとBz(fr)を本実施の形態におけるフーリエ変換のポイント数の次元に変換すると、次式となる。
【0067】
【数4】

【0068】
臨界帯域幅補正処理43では、秘匿化データ生成装置2の制御部21は、音声信号スペクトルに対して、周波数jごとに周波数成分Vv(j)をjc=j−(1−α)×Bz(j)からjc=j+α×Bz(j)の範囲の最大値に置換する。即ち、制御部21は、j=0、・・・、N/2に対して、置換後のスペクトル(置換音声最大値スペクトル)Vv’(j)を次式のように算出する。
【0069】
【数5】

【0070】
αは0から1までの実数であり、通常はα=1.0とする。式(9)によって、音声スペクトルを周波数方向に低音側に非線形シフトする補正を行っていることになる。
マスキングは、高音側(周波数が高域側)に働きやすいという性質がある為、音声最大値スペクトルVv(j)を、周波数jよりも高域側の範囲内の最大値に置換すれば、音声スペクトルを周波数方向に低音側に非線形シフトする補正を行っていることになり、ひいては、マスキング効果を高めることができる。
【0071】
一方、音楽信号スペクトルに対しては、制御部21は、フレームfごとに処理を行い、周波数jごとに周波数成分Vm(f、j)をjc=j−0.5×Bz(j)からjc=j+0.5×Bz(j)の範囲の平均値に置換する。即ち、制御部21は、j=0、・・・、N/2に対して、置換後のスペクトル(置換音楽平均値スペクトル)Vm’(f、j)を次式のように算出する。
【0072】
【数6】

【0073】
式(10)によって、音楽スペクトルを周波数方向に平滑化をかけていることになる。
【0074】
図8では、W(j)が、置換の際の計算範囲を示している。音声最大値スペクトルVv(j)に対して、単一の置換音声最大値スペクトルVv’(j)が算出されることが図示されている。また、音楽平均値スペクトルVm(f、j)に対しては、置換音楽平均値スペクトルVm’(f、j)が算出され、音楽平均値スペクトルVm(f+1、j)に対しては、置換音楽平均値スペクトルVm’(f+1、j)が算出されることが図示されている。
【0075】
次に、図9を参照して、除算処理44及び平滑化処理45について説明する。
除算処理44は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、フレームfごとに、音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を音楽平均値スペクトルVm(j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値を除算値スペクトルDiv(f、j)として算出する処理である。特に、制御部21は、フレームfごとに、置換音声最大値スペクトルVv’(j)を置換音楽平均値スペクトルVm’(f、j)によって除した値を除算値スペクトルDiv(f、j)とすることが望ましい。
図9には、一例として、フレームfとフレームf+1に対する除算処理が示されている。
【0076】
また、平滑化処理45は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、除算値スペクトルDiv(f、j)を、周波数jの前後の範囲内の平均値に置換することによって、除算値スペクトルDiv(f、j)を平滑化する処理である。
図9には、一例として、フレームfとフレームf+1に対する平滑化処理が示されている。
【0077】
具体的には、制御部21は、周波数(j=0、・・・、N/2)ごとに、除算値スペクトルDiv(f、j)=Vv’(j)/Vm’(f、j)を算出し、これに対して所定のタップ数T(<N/2)によって、次式のように、平滑フィルタをかけた結果をF(f、j)とする。
【0078】
【数7】

【0079】
βは、音圧を調整するための比例定数(実数値)である。音声信号の音圧と音楽信号の音圧を同程度とする場合、β=1.0とする。
F(f、j)の上限値と下限値は予め設定しておく。例えば、中央値を1とすると、上限値を10倍の「10」、下限値を1/10の「0.1」とする。除算結果が上限値を上回る場合、又は、下限値を下回る場合、制御部21は、それぞれ、F(f、j)に上限値又は下限値を設定する。
【0080】
図9に示すように、除算値スペクトルDiv(f、j)は、極値(極大値及び極小値)を数多く持つ関数となっている。特に、ところどころ0で割り算する箇所が発生してしまい、その箇所では上限値をもつ極値になり不連続点になる。除算値スペクトルDiv(f、j)をそのままフィルタ関数とすると、人間にとって聞き苦しい秘匿化データ6が生成されてしまう。そこで、本発明の実施の形態では、平滑化処理45を行っている。
図9に示すように、平滑化処理45を行うことで、フィルタ関数F(f、j)は、極値が少なく、滑らかな関数となっている。
【0081】
図10は、フィルタリング処理を説明する図である。図10に示すように、フィルタリング処理34は、フーリエ変換処理46、フィルタ関数乗算処理47及びフーリエ逆変換処理48を含む。
前述の周波数解析処理32及びフィルタ関数作成処理33では、実数値に対して計算を行っているが、フィルタリング処理34では、複素数値をもつ瞬時スペクトルに対して計算を行う。
【0082】
フーリエ変換処理46は、秘匿化データ生成装置2の制御部21が、音楽フレームデータXml(f、i)及びXmr(f、i)(f=0、・・・、Fm−1;i=0、・・・、N−1)をフーリエ変換し、ソース複素スペクトルを算出する処理である。
フィルタ関数乗算処理47は、制御部21が、ソース複素スペクトルにフィルタ関数F(f、j)を乗じ、改変複素スペクトルを算出する処理である。
フーリエ逆変換処理48は、制御部21が、改変複素スペクトルのフーリエ逆変換を行い、秘匿化フレームデータXml’(f、i)及びXmr’(f、i)(f=0、・・・、Fm−1;i=0、・・・、N−1)を算出する処理である。
【0083】
フーリエ変換処理46では、制御部21は、サンプリング周波数Fsのステレオ音声信号(モノラル信号の場合は一方を0とする。)に対して、各々N/2サンプル間隔ごとに(すなわち、N/2サンプル分ずつ重複する。)、N個ずつ、各々Fmフレーム抽出したf番目の音楽フレームデータXml(f、i)及びXmr(f、i)に対して、ハニング窓関数H(i)=0.5−0.5cos(2πi/N)を用いてフーリエ変換を行い、以下のように、変換データの実部Aml(f、j)及びAmr(f、j)、並びに、虚部Bml(f、j)及びBmr(f、j)(f=0、・・・、Fm)−1;j=0、・・・、N−1)を算出する。
【0084】
【数8】

【0085】
フィルタ関数乗算処理47では、制御部21は、Fm個のフィルタ関数F(f、j)を用いて、フレームfごとに所定の周波数区間[j1、j2]の全ての周波数成分に乗算する。即ち、制御部21は、各フレームf=0、・・・、Fm−1、及び、各周波数j=j1、・・・、j2において、次式のように変換を行う。
【0086】
【数9】

【0087】
各フレームfのAml(f、j)、Bml(f、j)、Amr(f、j)、Bmr(f、j)の各要素に対してフィルタ関数乗算処理47の結果を各々Aml’(f、j)、Bml’(f、j)、 Amr’(f、j)、Bmr’(f、j)とする。
フーリエ逆変換処理48では、制御部21は、変換対象のフレームfの秘匿化フレームデータXml’(f、i)及びXmr’(f、i)に対して、直前に変換されたフレームf−1の秘匿化フレームデータXml’(f−1、i)及びXmr’(f−1、i)が存在する場合、両者が時間軸においてN/2サンプル分重複することを考慮し、次式のように計算を行う。
【0088】
【数10】

【0089】
以上、本発明の実施の形態における秘匿化データ生成処理について説明したが、本発明の実施の形態によれば、固定長の短い所定区間を定義し、フレーム単位に近傍の所定区間でスペクトルを平滑化し、平滑化されたスペクトルをもとにフレーム単位に異なるフィルタ関数を定義する。これにより、音量や音色の急激な変化に対してフィルタ関数が連続的に変化し、不自然な段差を発生させることなく、いかなる再生箇所でもマスキング効果が働くようになり、長い楽曲でも人手による作業は不要になる。また、本発明の実施の形態によれば、近傍の周波数特性をもとに楽曲信号が補正されているため、周波数マスキングに加えて、時間マスキングも働くようになり、音声の秘匿化効果が更に高まる。
そして、本発明の実施の形態では、フィルタ関数を生成する負荷が若干増大するものの、長時間のBGMを用いて、従来の館内BGMと同様の設備によって安価に対話音声の秘匿化を効果的に実現できる。
【0090】
次に、図11、図12を参照しながら、秘匿化装置の設置例について説明する。図11及び図12に示す例では、秘匿化データ生成装置2によって秘匿化データ6が生成され、音楽再生装置3である音楽プレーヤ52に記憶されているものとする。
【0091】
図11は、秘匿化装置1の第1の設置例を示している。
図11に示す例では、平面スピーカ51a及び51bを挟んで左側が面談スペース60であり、右側が待合スペース65になっている。
面談スペース60には、面談カウンターテーブル61、店員用椅子62、来客用椅子63等が設置されている。面談カウンターテーブル61は、パーティション64によって区切られている。また、待合スペース65には、待合ソファー65が設置されている。顧客は、来店すると待合スペース65において待機し、順番に面談スペース60に呼ばれて店員と面談する。
【0092】
平面スピーカ51a及び51bは、ハニカム構造のパネル及びスピーカ(エキサイタ)から構成されており、例えば、ポスラサウンドパネル(本出願人の登録商標)等である。
平面スピーカ51a及び51bのパネルは、待合スペース65より面談カウンターテーブル61にいる店員や来客が覗き込めないパーティション程度の大きさがあること望ましいが、A3サイズ程度の面積しかない立て看板などでも十分に効果を発揮する。すなわち、会話音声71が、平面スピーカ51a及び51bに物理的に遮られることなく、待合ソファー65まで到達しても、本発明の秘匿化データ6によって十分なマスキング効果が得られる。
尚、ポスラ(本出願人の登録商標)サウンドパネルは、横幅1メートル程度まで製作可能である。
【0093】
音楽プレーヤ52は、平面スピーカ51a及び51bと接続され、本発明の実施の形態に係る秘匿化データ6を再生する。
図11に示す例では、平面スピーカ51a及び51bが、それぞれ、マスカー音であるBGMサウンドL72a及びBGMサウンドR72bを出力している(ステレオ再生)。尚、BGMサウンドは、モノラル再生でも良く、平面スピーカの数や配置位置は、環境に応じて適宜変更すれば良い。
【0094】
平面スピーカ51a及び51bは、音楽プレーヤ52によって、秘匿化データ6の波面が平面波に近い音波として、平面から均一に放射する機構を有することが望ましい。これによって、待合スペース65に伝搬される過程で減衰する音波のエネルギー量が、面談スペース60から発声される会話音声71に比べ前記平面スピーカ51a及び51bから出力されるBGMサウンド72a及び72bの方が小さくなり、相対的にBGMサウンド72a及び72bのエネルギー量が面談スペース60から発声される会話音声71に比べ大きくなるため、マスキング効果を高めることができる。このような平面スピーカ51a及び51bの一例としては、特開2007−301888号公報に開示されている。特開2007−301888号公報に開示されているスピーカは、微細な管構造アレイのパネルによって構成されており、平面波に近い音波を均一に放射する。
【0095】
ここで、平面スピーカ51a及び51bが平面波に近い音波を放射することによって、マスキング効果を高めることができる理由について説明する。
図11に示すように、会話音声71は、球面波の音波として、観測位置である待合スペース65に到達する。同様に、通常のダイナミックスピーカから再生されるBGMも、球面波の音波である。
ここで、球面波の場合、距離の2乗に比例して伝搬される表面積が大きくなり音源に集中していたエネルギーが分散するため、エネルギー(音圧)が距離の2乗に反比例して減衰していくことが知られている。一方、平面波の場合、距離が離れてもエネルギーがあまり減衰しない。
【0096】
すなわち、通常のダイナミックスピーカから再生されるBGMは、球面波の音波であり、離れるとエネルギーが減衰するから、面談スペース60により近い位置に待機している顧客に合わせて音量を調節すると、面談スペース60により遠い位置に待機している顧客にはマスキング効果が十分に働かない場合がある。
一方、平面波に近い音波を放射する平面スピーカ51a及び51bを用いれば、再生されるBGMサウンドL72a、BGMサウンドR72bは、平面波の音波であり、離れてもエネルギーがあまり減衰しないから、面談スペース60により近い位置に待機している顧客に合わせて音量を調節しても、面談スペース60により遠い位置に待機している顧客に対して十分なマスキング効果が働く。
【0097】
図12は、秘匿化装置1の第2の設置例を示している。
図12に示す例では、平面スピーカ51c及び51dを挟んで左側が第1応接スペース81aであり、右側が第2応接スペース81bになっている。
第1応接スペース81a及び第2応接スペース81bには、それぞれ、1つの応接テーブル82と4つの椅子83が設置されている。
第1応接スペース81a及び第2応接スペース81bでは、それぞれ独立して、別々の顧客を応接するようになっている。
【0098】
平面スピーカ51c及び51dは、ハニカム構造のパネル及びスピーカ(エキサイタ)から構成されており、例えば、ポスラサウンドパネル(本出願人の登録商標)等である。図12に示す平面スピーカ51c及び51dは、第1の設置例よりも横幅のサイズを大きくして、パーティションの機能も果たすものである。
平面スピーカ51c及び51dには、複数のスピーカ(エキサイタ)を備えており、それぞれのスピーカから、マスカー音であるBGMサウンドL72a、BGMサウンドR72bが出力される。
第1の設置例と同様、平面スピーカ51c及び51dは、音楽プレーヤ52によって、秘匿化データ6の波面が平面波に近い音波として、平面から均一に放射する機構を有することが望ましい。
【0099】
図12に示すように、マスキー音である第1会話音声71aは、球面波の音波として、観測位置である第2応接スペース81bに到達する。同様に、マスキー音である第2会話音声71bは、球面波の音波として、観測位置である第1応接スペース81aに到達する。
第1会話音声71aに対しては、第2応接スペース81bにおいて、平面スピーカ51dから出力されるBGMサウンドL72a、BGMサウンドR72bがマスカー音となり、マスキング効果を発揮する。同様に、第2会話音声71bに対しては、第1応接スペース81aにおいて、平面スピーカ51cから出力されるBGMサウンドL72a、BGMサウンドR72bがマスカー音となり、マスキング効果を発揮する。
【0100】
以上、秘匿化装置1の設置例を説明したが、前述したように、楽曲信号を再生するスピーカとして、平面波に近い音波を放射する平面スピーカを使用することによって、比較的低い音量でBGMを流しても音声秘匿化効果を発揮できる。
また、平面スピーカは、A3サイズ程度の立て看板から、横幅1メートル程度のパーティションまで、様々な態様とすることができる。
また、平面スピーカのパネル面の絵柄としては、壁紙などのインテリア素材やポスター広告を用いることができ、視覚的にもスピーカがむき出しになるようなインテリア上の不自然さを回避することができる。
【0101】
尚、前述の説明では、平面スピーカが立て看板やパーティションとしたが、本発明の実施の形態はこれに限定されない。例えば、スピーカを部屋の壁に内蔵し、部屋の四方からマスカー音であるBGMサウンドを出力させることも可能である。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る秘匿化データ生成装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0103】
1………秘匿化装置
2………秘匿化データ生成装置
3………音楽再生装置
4………音声データ
5………音楽データ
6………秘匿化データ
10………音声フレーム群
11………音楽フレーム群
12………音声最大値スペクトルデータ
13………音声平均値スペクトルデータ
14………フィルタ関数データ
31………フレーム抽出処理
32………周波数解析処理
32a………周波数解析
33………フィルタ関数作成処理
34………フィルタリング処理
41………瞬時スペクトル算出処理
42………平均スペクトル算出処理
43………臨界帯域幅補正処理
44………除算処理
45………平滑化処理
46………フーリエ変換処理
47………フィルタ関数乗算処理
48………フーリエ逆変換処理
51a、51b、51c、51d………平面スピーカ
52………音楽プレーヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成する秘匿化データ生成装置であって、
予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析手段と、
前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成手段と、
前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリング手段と、
を具備することを特徴とする秘匿化データ生成装置。
【請求項2】
前記フィルタ関数作成手段は、
前記音声最大値スペクトルVv(j)を、周波数jよりも高域側の範囲内の最大値に置換することによって、置換音声最大値スペクトルを算出し、
前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)を、周波数jの前後の範囲内の平均値に置換することによって、置換音楽平均値スペクトルを算出し、前記置換音声最大値スペクトルを前記置換音楽平均値スペクトルによって除した値を前記除算値スペクトルDiv(f,j)とすることを特徴とする請求項1に記載の秘匿化データ生成装置。
【請求項3】
前記フィルタ関数作成手段は、
前記除算値スペクトルDiv(f,j)を、周波数jの前後の範囲内の平均値に置換することによって、前記除算値スペクトルDiv(f,j)を平滑化することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の秘匿化データ生成装置。
【請求項4】
複数の前記音楽データを記憶する音楽データ記憶手段と、
前記音楽データ記憶手段によって記憶されている前記音楽データの中から単一の前記音楽データを選択する音楽データ選択手段と、
を更に具備し、
前記音楽データ選択手段によって選択された単一の前記音楽データに基づいて、前記秘匿化データを生成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の秘匿化データ生成装置。
【請求項5】
対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成する秘匿化データ生成方法であって、
予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、
前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、
前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、
を含むことを特徴とする秘匿化データ生成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の秘匿化データ生成装置が生成する複数の前記秘匿化データを記憶する秘匿化データ記憶手段と、
前記秘匿化データ記憶手段によって記憶されている前記秘匿化データの中から単一の前記秘匿化データを選択する秘匿化データ選択手段と、
前記秘匿化データ選択手段によって選択された単一の前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生手段と、
を具備することを特徴とする秘匿化装置。
【請求項7】
請求項6に記載の前記秘匿化データ再生手段が前記秘匿化データを波面が平面波に近い音波として所定平面から均一に放射する機構をもつ平面型スピーカで構成されていることを特徴とする秘匿化装置。
【請求項8】
対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成し、再生する秘匿化装置であって、
予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析手段と、
前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成手段と、
前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリング手段と、
前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生手段と、
を具備することを特徴とする秘匿化装置。
【請求項9】
請求項5に記載の秘匿化データ生成方法によって生成する複数の前記秘匿化データを記憶する秘匿化データ記憶ステップと、
前記秘匿化データ記憶手段によって記憶されている前記秘匿化データの中から単一の前記秘匿化データを選択する秘匿化データ選択ステップと、
前記秘匿化データ選択手段によって選択された単一の前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生ステップと、
を含むことを特徴とする秘匿化方法。
【請求項10】
対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成し、再生する秘匿化方法であって、
予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、
前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、
前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、前記秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、
前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生ステップと、
を含むことを特徴とする秘匿化方法。
【請求項11】
コンピュータに、
予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、
前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、
前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、
を実行させるためのコンピュータ読取可能なプログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
予め記憶された音声データ及び音楽データの各々に対して所定の区間単位のフレームfに分割し、フレームfごとに周波数解析を行い、前記音声データの時間軸方向に最大のスペクトルである単一の音声最大値スペクトルVv(j)(jは周波数)を算出し、前記音楽データの各フレームfの前後Mフレームに渡って時間軸方向に平均化したスペクトルである音楽平均値スペクトルVm(f,j)をフレームfごとに算出する周波数解析ステップと、
前記音声最大値スペクトルVv(j)に基づく値を、フレームfに対応する前記音楽平均値スペクトルVm(f,j)に基づく値によって互いに対応する周波数jごとに除した値である除算値スペクトルDiv(f,j)に基づいて、フィルタ関数F(f,j)をフレームfごとに作成するフィルタ関数作成ステップと、
前記音楽データを所定の区間単位であるフレームfに分割し、分割された各フレームfをフーリエ変換し、各フレームfに対応する前記フィルタ関数F(f,j)を乗じ、フーリエ逆変換することによって、対話音声を秘匿化するための音楽データである秘匿化データを生成するフィルタリングステップと、
前記秘匿化データを再生する秘匿化データ再生ステップと、
を実行させるためのコンピュータ読取可能なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−141524(P2012−141524A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−929(P2011−929)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】