説明

移動体位置推定検出システム及び移動体位置推定検出方法

【課題】高精度に移動体の位置等を推定、検出することができるシステム等を提供する。
【解決手段】異なる場所にそれぞれ設置されて、移動体により生じる物理量の信号を検出する複数の磁気検出器1と、各磁気検出器1の検出した信号に対応したパラメータの値を最小自乗法により算出し、パラメータの値に基づいて、各磁気検出器1の検出に係る移動体の位置をそれぞれ算出する位置算出器4A及び4Bと、位置算出器4A及び4Bが算出した位置に基づいて、移動体の位置を推定検出する位置推定検出器10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気等、物理量を表す信号に基づいて、移動体の位置等を推定検出する移動体位置推定検出システム等に関するものである。特に移動体と検出手段(センサ)との距離が短くても、高い精度を維持できるようにするためのものである。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体の位置を検出する方法として、例えば、3軸磁気センサを用いて船舶が発生する磁気信号の直交3軸成分を検知し、3軸磁気センサと等速直線運動をする移動船舶との相対位置を最小自乗法を用いて算出するものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−333484公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような方法で位置を推定する際、磁界の発生源(移動体)がダイポール(双極子)であるとみなし、その計算にはダイポール磁気モーメントに基づく式を用いている。そして、実測により得られた磁気等に係る値(以下、実測値という)が式とできるだけ整合し、満足するように設定した未知の変数(パラメータ)の値を決定し、パラメータに基づいて位置の推定を行う。ここで、磁界の発生源がダイポールであるということは、移動体とセンサ(検出器)との距離が十分に大きいとみなせる場合には有効である。
【0005】
しかしながら、例えば、移動体とセンサとの距離が短いと、磁界の発生源がダイポールであるものとした場合の式が、実際の条件と沿わなくなってくる。そのため、実測値を式に整合させたとしても、パラメータの値も真のものとは異なってくることとなり、位置推定の精度が低下してしまう。
【0006】
このような推定精度の低下を回避するためには、移動体が有していると仮定するダイポール磁気モーメントの数を増やすことが考えられる。しかし、数を増やすことによりパラメータの数も増えることとなる。このため、推定に係る演算量が指数的に増大してしまうこととなり、リアルタイムでの位置検出等の処理を行うのが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は上記のような問題点を解決し、高精度に移動体の位置等を推定、検出することができるシステム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る移動体位置推定検出システムは、異なる場所にそれぞれ設置されて、移動体により生じる物理量の信号を検出する複数の検出手段と、各検出手段の検出した信号に対応したパラメータの値を最小自乗法により算出し、パラメータの値に基づいて、各検出手段の検出に係る移動体の位置をそれぞれ算出する位置算出手段と、位置算出手段が算出した位置に基づいて、移動体の位置を推定検出する位置推定検出手段とを備える。
【発明の効果】
【0009】
異なる場所(位置)にそれぞれ設置された複数の検出手段が検出した信号に基づいて、位置算出手段がパラメータの値、さらには複数の位置を算出し、算出された位置に基づいて、位置推定検出手段が最終的に移動体の位置を推定検出するようにしたので、複数の位置に基づくことで、パラメータの数を増やさなくても、高精度の位置の推定検出を維持することができる。このため、精度を維持するために必要となる演算量を抑えることで、リアルタイムでの推定検出も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1に係る移動体位置推定検出システムを表す図である。
【図2】移動体の位置と磁気信号との関係を表す図である。
【図3】複数の検出装置100と移動体との関係を表す図である。
【図4】実施の形態2に係る移動体位置推定検出システムを表す図である。
【図5】移動体の位置と電界信号との関係を表す図である。
【図6】移動体と点電流源との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る移動体位置推定検出システムを表す図である。図1ではシステムを構成する検出装置100の構成を中心に表している。本実施の形態の位置推定検出システムでは、例えば、一定の間隔で複数の検出装置100を設置し、互いをケーブル200によって接続し、データ等を含む信号を送受信(通信)できるようにしている。ここで、各検出装置100の設置については、例えば移動体のおよその移動方向があらかじめわかっている場合には、移動方向と直交する方向に沿って配置するようにすることが望ましい。また、ここでは、ケーブル200を用いた有線通信を行っているが、これに限るものではない。例えば、検出に係る物理量(本実施の形態では磁気)に影響を与えないような通信(例えば音響通信)を行うことができる場合には無線通信を行うこともできる。
【0012】
本実施の形態の検出装置100は、磁気検出器(磁気センサ)1、A/D変換器2、データ収集器3、位置算出器4A及び4Bを有しているものとする。また、システム内の特定の検出装置100には、他の検出装置100がそれぞれ算出した移動体の位置(データ)に基づいて、最終的に位置を推定検出する位置推定検出器10を有しているものとする。そして、ここでは特定の検出装置100が設置されている位置を基準の位置とする。
【0013】
磁気検出器1は磁界(磁束密度)を検出し、電気等の信号(以下、磁気信号という)に変換する。ここで、磁気検出器1とは、各々直交する3つの検出手段を有する検出器又は3軸センサを表す検出器であり、直交(相対)座標系の3軸方向での検出ができるものとする。
【0014】
A/D変換器2は、例えばサンプリング等の処理を施して、磁気検出器1の検出に係る磁気信号をそれぞれデジタル信号に変換する。データ収集器3は、データ処理部3Aとデータ記録部3Bで構成される。データ処理部3Aは、デジタル信号に変換された3軸方向の磁気信号及び検出した時刻を関連づける処理等を行う。データ記録部3Bは、記録装置で構成されており、データ処理部3Aの処理に基づいて、磁気信号(3軸方向の成分)及び検出した時刻をそれぞれデータとして、少なくとも一定時間分又は一定個数分記録する記録手段である。以下、データ収集器3に記録されたデータを磁気データという。
【0015】
位置算出器4A及び4Bは、データ収集器3に記録された磁気データに基づいて移動体の位置を推定演算により検出する。ここで、位置の推定検出精度はあらかじめ設定する初期値(特に移動体の速度)に対して依存する傾向がある。そこで、本実施の形態では、移動体速度について、2つの初期値をあらかじめ定めておき、それぞれの初期値に基づいて位置の推定検出を行うことで精度を高めるようにする。
【0016】
特に限定するものではないが、本実施の形態では、少なくとも位置算出器4A及び4B並びに位置推定検出器10に関しては、例えばCPU(Central Prosessing Unit )を中心とするコンピュータ等のような処理手段で構成されているものとする。そして、位置等の推定演算処理手順をあらかじめプログラム化したものを処理手段が実行し、そのプログラムに基づく処理を行うことで、後述する各式に基づく加減乗除等の演算を行い、さらに演算結果に基づいて収束等を判断することにより位置の推定検出等を実現する。以下、位置算出器4A及び4Bについて、特に区別をしない場合には位置算出器4として説明する。
【0017】
ここで、磁気検出器1の検出に係る磁気信号に基づき、位置算出器4を用いて移動体の接近、移動等を検出することも可能であるが、本実施の形態では、さらに接近検知器5、移動検知器6を設けている。そして、移動体の接近、移動を判断(検知)し、例えばデータ収集器3において、磁気データの記録開始又は終了等を制御することができるようにしている。接近検知器5、移動検知器6を用いて移動体の接近、移動を検知した後に、位置算出器4による演算を行うことで、位置算出器4及び位置推定検出器10の処理動作を常に行う必要がない。このため、例えば、検出装置100及びシステム全体における消費電力の低減等をはかることができる。
【0018】
さらに本実施の形態では深度計7を磁気検出器1の近辺に備えている。これにより、例えば、推定検出対象の移動体が水面上を走行する船舶(航走体)の場合は、Z軸方向の距離である深度(高さ)を深度計7により計測しておくことで、既知の値(一定値)として用いることができる。そのため、後述するパラメータ(未知の変数)の数を少なくすることができる。
【0019】
本実施の形態では、海面又は海中を移動する航走体を移動体と想定して説明する。そのため、検出装置100を中心とする移動体位置推定検出システムは海中(海底も含む)に設けられている。また、移動体は等速直線運動を行っているものとする。ここで、本実施の形態では、海面等に合わせた座標軸を設定するようにする。磁気検出器1を原点とする座標系のXY平面を海面と平行とするためには、例えば、ジンバル機構(図示せず)を用い、Z軸と海面とが垂直に交わるように設置すればよい。また、例えば設置場所が凹凸によりジンバル機構を用いることができない場合、傾斜計(図示せず)を設け、傾斜計から得た磁気検出器1(移動体位置等検出装置)の傾きのデータに基づいて位置算出器4が軸方向について補正を行い、演算を行うようにしてもよい。
【0020】
図2は移動体の位置と磁気信号との関係を表す図である。次に、各検出装置100の位置算出器4における移動体の位置算出の概要について説明する。例えば移動体が等速直線運動で移動する場合、磁気信号の3軸成分(HX ,HY ,HZ )は、ダイポール磁気モーメントを用いて、次式(1)〜(3)で表される。
X ={(2X2 −Y2 −Z2 )Mmx+3XYMmy+3ZXMmz
/(X2 +Y2 +Z2 5/2 …(1)
y ={3XYMmx+(2Y2 −Z2 −X2 )Mmy+3YZMmz
/(X2 +Y2 +Z2 5/2 …(2)
z ={3XZMmx+3YZMmy+(2Z2 −Y2 −X2 )Mmz
/(X2 +Y2 +Z2 5/2 …(3)
【0021】
ここで、Mmx,Mmy,Mmzについては、次式(4)〜(6)となる。
mx=Mm ・sinθ・cosφ …(4)
my=Mm ・sinθ・sinφ …(5)
mz=Mm ・cosθ …(6)
また、X,Y,Zについては、次式(7)〜(9)となる。
X=X0 +Vcosα・t …(7)
Y=Y0 +Vsinα・t …(8)
Z=Z0 …(9)
【0022】
ただし、
m :移動体の磁気モーメント
θ :磁気モーメントの方向と磁気検出器1のz軸方向とのなす角
φ :磁気モーメントの方向と磁気検出器1のx軸方向とのなす角
t :時間
V :移動体速度
α :磁気検出器1と移動体の移動方向とのなす角
0 ,Y0 :移動体の初期位置
0 :磁気検出器1と移動体との距離の高さ成分(例えば船舶の場合は一定となる)
である。
【0023】
磁気信号による位置検出について、例えばダイポール磁気モーメント数が1とした場合のパラメータの組は、(1)〜(9)式から次式(10)のようになる。ここで、ダイポール磁気モーメントが1つ増えるごとに4つのパラメータ(その磁気モーメントのM,θ、φ及び基準となる磁気モーメントとの間隔に係るパラメータ)が増えることになる。
m =(Mm ,X0 ,Y0 ,V,α,θ,φ) …(10)
【0024】
そして各パラメータを調整し、ガウス・ニュートン法を磁気信号(磁気信号のデータ)に適用すると、次式(11)〜(13)が成立する。ここでは、計算時間と収束安定性とのバランス、関数との関係等を考慮した上で、ガウス・ニュートン法を基本としたレーベンベルグ・マルカート(Levenberg-Marquardt )法を用いて行うことを想定しているが、ダンピング法、パウエル法等、ガウス・ニュートン法に基づく他の解法を用いてもよい。また、ガウス・ニュートン法でなくても、最急降下法等、他の非線形最小自乗法の解法を用いてもよい。
【0025】
mtm ・Δam =−Pmtm …(11)
mtm =Pmxt mx+Pmyt my+Pmzt mz …(12)
mtm =Pmxt mx+Pmyt my+Pmzt mz …(13)
【0026】
ただし、
mx:x軸方向の磁気信号の各パラメータの一階微分からなる行列
my:y軸方向の磁気信号の各パラメータの一階微分からなる行列
mz:z軸方向の磁気信号の各パラメータの一階微分からなる行列
m :残差の自乗和
Δam :パラメータの修正値
である。
【0027】
そして、位置算出器4は、(11)式における残差の自乗和が所定の収束条件を満たすまで(例えば残差の自乗和が所定の値以下になる又は自乗和の変化率の減少が所定の値以下になるまで)反復計算を行う。ここで反復計算に当たり、移動体が最接近すると判断するまでの間は、実際の磁気信号をそれぞれデジタル信号化(サンプリング、量子化)して得られた最新のデータに基づいて算出された値を、次の反復計算を行う際のX0 ,Y0 の初期値として用いる。そして、収束条件を満たし、決定されたパラメータ(X0 ,Y0 )に基づいて、CPA(Closest Point of Approach :最接近位置(t=0における位置))を算出する。さらに決定したパラメータV及びαの値を(7)、(8)式に代入することで、移動体の現在位置等を算出することができる。また、移動体は等速直線運動をしているものとしているので、推定検出した現在位置、速度に基づいて、将来の位置についても予測することができる。このとき、位置算出器4は、特定の検出装置100が設置された位置を基準とした位置に変換する。
【0028】
ここで、本実施の形態では、例えば、上述したように本実施の形態の検出装置100は位置算出器4A及び4Bを有しており、それぞれ移動体速度Vの初期値をV1、V2として、上記の数式等に基づいて、磁気データを処理し、位置の推定を行うようにする。これにより、さらに精度の高い演算を行うことができる。
【0029】
図3は複数の検出装置100と移動体との関係を表す図である。次に、移動体位置推定検出器10の動作について説明する。本実施の形態では複数の検出装置100を通信できるようにシステムとして連携しながら移動体位置の推定検出を行う。そのため、各検出装置100において算出した位置に係る2つのデータを含む信号が、ケーブル200を介して、移動体位置推定検出器10に送られる。
【0030】
移動体位置推定検出器10は、各検出装置100が算出したそれぞれの位置、パラメータのデータに基づいて、移動体の位置を推定検出する。ここで、最終的な移動体の位置推定検出方法については特に限定するものではないが、本実施の形態では、以下のようにして最終的に位置を推定検出する。
【0031】
移動体位置推定検出器10は、各検出装置100の演算における残差に基づいて、最終的な位置推定を行うようにする。本実施の形態では、残差の自乗和rm がパラメータとなっているため、残差の自乗和rm を用いて行うものとする。各検出装置100が決定した残差の自乗和rm のパラメータの中で、残差の自乗和rm が最小となる検出装置100を決定し、この検出装置100の推定に係る位置が正しい位置であるものとして推定する(以下、位置を最終位置という)。
【0032】
本実施の形態では、磁気検出器1が検出した磁気データに基づいて、検出装置100が、2パターンの移動体速度Vの初期値に基づいて、2パターンの位置推定を行っている。このため、2つの残差の自乗和rm を組とし、例えば、2つの残差の自乗和rm の和が最も小さい組において、残差の自乗和rm が小さい方の検出装置100の推定に係る位置が最終位置であるものとする。ここで、残差の自乗和rm から残差を求め、残差の和等により最終位置を特定するようにしてもよい。ここで、例えば残差の自乗和rm の和が最も小さい組が複数ある場合には、各組の検出装置100の推定に係る位置を最終位置であると仮定する。
【0033】
以上のようにして、例えば組を1つ特定できれば、その組に係る最終位置として推定するだけでもよいが、ここでは、さらに、最終位置が採用できるものであるかどうか(有効なものとなり得るかどうか)等の判断を行うようにする。例えば、各検出装置100が決定した磁気信号の3軸成分(HX ,HY ,HZ )のパラメータに基づいて、次式(14)により磁気信号の信号レベルHt をそれぞれ算出し、最も大きい信号レベルHt のパラメータを決定した検出装置100の推定に係る位置を決定する(以下、信号決定位置という)。
t =(HX2+HY2+HZ21/2 …(14)
【0034】
そして、移動体位置推定検出器10は、最終位置と信号決定位置との間の距離が、所定の範囲内であるかどうかを判断する。所定の範囲内であると判断すると、最終位置が採用し、例えば他の装置への指示等を行う。一方、所定の範囲外であると判断すると最終位置を採用しない。
【0035】
また、最終位置であると仮定した位置が複数ある場合(残差の自乗和rm の和が最も小さい組が複数ある場合)には、信号決定位置との間の距離が最も短い最終位置を決定する。
【0036】
以上のように、第1の実施の形態によれば、複数の検出装置100における磁気検出器1が検出した3軸(直交座標軸)方向の磁気信号に基づいて、位置算出器4が、移動体における磁気に係る式を用いて、最小自乗法を適用して磁気信号に基づく値を満足するようにパラメータの値を決定し、決定した値に基づいて移動体の位置を算出し、位置推定検出器10が、算出された複数の位置のデータに基づいて、最終的に移動体の位置を推定検出するようにしたので、例えば、検出装置100を浅深度に設置している場合に、最も近い検出装置100が算出した位置の精度が低くなった場合でも、別の検出装置100において算出した位置により移動体の位置を推定検出することで、パラメータの数を増やすことなく、高精度の位置の推定検出を維持することができる。
【0037】
例えば、上記の(11)〜(13)式では、パラメータの数を行数とする正方行列の逆行列を算出し、さらに反復計算を繰り返すことになるため、パラメータの数により演算量が増大する。これに比べ、本実施の形態のシステムにおいては、全体としての演算量は、1つの検出装置100による位置等の検出を行った場合に比べて増えることとなるものの、パラメータ数を増やした場合より、演算量に係るオーダを少なくしつつ、精度が高い推定を行うことができることになる。
【0038】
また、各検出装置100の演算に係る残差に基づいて、移動体位置推定検出器10が、各検出装置100の算出に係る位置のうちから、最終位置を特定して推定検出を行うようにしたので、残差が小さくて高精度の位置の推定検出を行うことができる。そして、信号レベルが大きな信号に基づいて算出された信号決定位置と最終位置との間の距離に基づいて、特定した最終位置を採用するかどうかを判断するようにしたので、高精度の位置の推定検出を維持することができる。
【0039】
また、複数の位置算出器4により、それぞれ異なる移動体速度の初期値に基づいて位置を算出するようにしたので、初期値に依存する傾向がある場合でも、より現実に近い位置を算出することができるため、高精度の位置検出を行うことができる。また、複数の位置算出器4により分散して位置を算出するようにしたので、リアルタイムで移動体の位置推定を行うことができる。
【0040】
また、移動体の現在及び/又は将来の位置を推定検出するだけでなく、決定したパラメータの値に基づいて最接近位置、速度等も推定検出することができるので、移動体に関する詳細なデータを推定し、得ることができる。そして、例えば移動体による磁気強度、パラメータの値等のデータと移動体又はその種別のデータとを関連づけておけば、得られた磁気信号のデータ、決定したパラメータの値から、移動体又はその種類(大きさ等)を特定することもできる。
【0041】
さらに、最小自乗法の解法としてガウス・ニュートン法、特にレーベンベルグ・マルカート法又は修正マルカート法を用いるようにしたので、計算時間の短縮を図りつつ、収束安定性のよい最小自乗法を適用し、位置等の検出をすばやく高精度に行うことができる。
【0042】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2に係る位置検出システムを表す図である。上述の実施の形態1においては、磁気検出器1を用いて、磁気信号に基づく位置等を推定して検出を行った。本実施の形態の検出装置100Aは、電界強度を信号として検出(受信)して電気信号(以下、電界信号という)に変換する電界検出器(電界センサ)8を有している点で、実施の形態1の検出装置100とは異なる。そのため、A/D変換器2及びデータ収集器3は電界信号を処理し、電界に係るデータを記録することとなる。また、位置算出器4A及び4Bは、電界信号に基づくデータにより位置等を推定する処理を行うため、パラメータ等が異なることとなるが、本実施の形態ではこれらの手段には同じ符号を付して説明するものとする。
【0043】
図5は移動体の位置と電界信号との関係を表す図である。本実施の形態においても海面又は海中を移動する航走体(船舶)を移動体と想定して説明する。海水は電解質溶液であるために海水中に異種金属が存在すると、電位差を生じる。この場合、イオン化傾向が大きい金属からイオン化傾向が小さい金属に電流が流れ、陽極表面が腐食する。船舶においては、例えば船体外板が陽極(鉄鋼)、プロペラが陰極(アルミ/銅)となり、プロペラ主軸を介して船体外板へ電流が戻ってくることにより閉回路が構成される。この電流が腐食電流である。また、このような腐食電流による金属の腐食を防止するため、防食電流を流すこともある。そのため、例えば防食用の保護亜鉛や白金等の陽極電極が船体に設けられる。また、船尾部分に設けられているプロペラ、舵等は、海水を介して電流が流れ込む(電流を吸い込む)ための陰極電極として機能する。そして、これらは海水を流れる電流に対して、電流源(以下、点電流源という)となる。本実施の形態では、単極子である点電流源に合わせた計算を行うことで、現実に沿った式に基づいて移動体の位置の推定検出ができるようにする。
【0044】
図6は移動体と点電流源との関係を表す図である。電界検出器8の直上近傍を移動体が等速直線運動で移動する場合、移動体に設けられた点電流源による電界信号の3軸成分(EX ,EY ,EZ )は、次式(15)〜(17)で表される。
【0045】
X =ΣIσi・Xi/(Xi2+Yi2+Zi23/2 …(15)
y =ΣIσi・Yi/(Xi2+Yi2+Zi23/2 …(16)
z =ΣIσi・Zi/(Xi2+Yi2+Zi23/2 …(17)
【0046】
ここで、基準位置から第1の点電流源の位置X1 ,Y1 を、
1 =X0 +Vcosα・t …(18)
1 =Y0 +Vsinα・t …(19)
とし、
i =X1 +di ・cosα・t …(20)
i =Y1 +di ・sinα・t …(21)
とする。
【0047】
ただし、
0 ,Y0 :基準位置
i :点電流源の個数(1,2,…)
σi:Ii /4πσ1
i :各点電流源の電流量
σ1 :海水の電気伝導度(導電率)
t :時間
V :移動体速度
i :第1の点電流源と各点電流源との船体長方向の間隔(1,2,…,i−1)
i :電界検出器8からの移動体の高さ(水上を走行する船舶ではほぼ水深と同じ)
α :電界検出器8のX軸方向と移動体の移動方向とのなす角
を表す。ここで、点電流源Iを点電荷Qとして見た場合、点電流源Iと点電荷QとはI=σ・Q/εの関係となる。εは誘電率である。また、ΣIi =0、すなわち各点電流源の総和は0となる。
【0048】
以上のようにして得られた電界の理論式において、実測した電界信号に基づく値との整合を図るために決定するパラメータ(未知)は、次式(22)のように設定される。
e =(Iσi,di ,X0 ,Y0 ,Zi ,V,α) …(22)
【0049】
位置算出器4は、データ収集器3に記録されたデータに基づいて、電界検出器8が実際に検知した電界に基づく値が理論式を満足させるため、実施の形態1と同様に、最小自乗法により各パラメータを調整してパラメータの値を決定し、決定した値に基づいて移動体の位置を算出する。電界信号(電界信号のデータ)に適用すると、次式(23)〜(25)が成立する。
【0050】
ete ・Δae =−Pete …(23)
ete =Pext ex+Peyt ey+Pezt ez …(24)
ete =Pext ex+Peyt ey+Pezt ez …(25)
【0051】
ただし、
ex:x軸方向の電界信号の各パラメータの一階微分からなる行列
ey:y軸方向の電界信号の各パラメータの一階微分からなる行列
ez:z軸方向の電界信号の各パラメータの一階微分からなる行列
e :残差の自乗和
Δae :パラメータの修正値
である。
【0052】
そして、位置算出器4は、(23)式における残差の自乗和が所定の収束条件を満たすまで(例えば残差の自乗和が所定の値以下になる又は自乗和の変化率の減少が所定の値以下になるまで)反復計算を行う。
【0053】
以上のようにして、複数の検出装置100Aにおいて算出された複数の位置に基づいて、位置推定検出器10が最終位置を特定し、最終的な移動体の位置を推定検出する。位置推定検出器10による位置の推定検出処理については上述した実施の形態1と基本的には同じである。
【0054】
本実施の形態では、磁気信号の代わりに電界信号に基づいて処理を行っているため、例えば信号決定位置の決定を行うのに、次式(26)に基づいて、電界信号の信号レベルEt をそれぞれ算出する。そして、最も大きい信号レベルEt のパラメータを決定した検出装置100の推定に係る信号決定位置を決定するようにする。
t =(EX2+EY2+EZ21/2 …(26)
【0055】
以上のように、第2の実施の形態のシステムによれば、実施の形態1と同様に、複数の検出装置100Aにおける電界検出器8が検出した3軸(直交座標軸)方向の電界信号に基づいて、位置算出器4が、移動体における電界に係る式を用いて、最小自乗法を適用して磁気信号に基づく値を満足するようにパラメータの値を決定し、決定した値に基づいて移動体の位置を算出し、位置推定検出器10が、算出された複数の位置のデータに基づいて、最終的に移動体の位置を推定検出するようにしたので、例えば、検出装置100Aを浅深度に設置している場合に、最も近い検出装置100Aが算出した位置の精度が低くなった場合でも、別の検出装置100Aにおいて算出した位置により移動体の位置を推定検出することで、パラメータの数を増やすことなく、高精度の位置の推定検出を維持することができる。
【0056】
実施の形態3.
上記の実施の形態1においては磁気検出器1の検出に係る磁気信号に基づいて移動体の位置を推定した。また、実施の形態2においては電界検出器8の検出に係る電界信号に基づいて推定を行った。例えば、より精度の高い推定等を行うため、磁気検出器1及び電界検出器8を備え、電界信号及び磁界信号を組み合わせて最小自乗法を適用することもできる。このとき、電界信号及び磁界信号に係るデータに基づくパラメータの組は次式(27)のようになる。
a=(Me ,Mm ,x0 ,y0 ,V,α,θ,φ,d) …(27)
【0057】
以上のように、実施の形態3のシステムによれば、磁気信号及び電界信号を組み合わせて、実施の形態1、2と同様に位置を推定検出するようにしたので、磁気信号又は電界信号だけの場合に比べると、パラメータ数は多くなるが、モーメント数増加によるパラメータ数の増加に比べると少ないため、位置算出器4の演算量を少なくした上で、精度の高い位置算出を維持することができる。
【0058】
実施の形態4.
上述の各実施の形態においては、各検出装置100において、それぞれ位置の算出を行うようにしたが、これに限定するものではない。例えば、位置推定検出器10を有する検出装置100において、1又は複数の位置算出器4等を集中して設け、他の検出装置100は、磁気信号、電界信号等をその検出装置100に送信するようにしてもよい。また、場合によっては複数の磁気検出器1、電界検出器8等だけを所定の位置に配置して、データ収集器3、位置算出器4、位置推定検出器10を有する検出装置100が集中して記録、推定処理等を行うようにしてもよい。
【0059】
実施の形態5.
上述の実施の形態では、磁気検出器1、電界検出器8の検出に係る磁気信号、電界信号に基づいて、移動体の位置を推定検出するようにしたが、例えば、水圧センサ、音響センサ等を用いて検出した圧力に基づいて位置を推定検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 磁気検出器、2 A/D変換器、3 データ収集器、3A データ処理部、3B データ記録部、4,4A,4B 位置算出器、5 接近検知器、6 移動検知器、7 深度計、8 電界検出器、10 位置推定検出器、100,100A 検出装置、200 ケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる場所にそれぞれ設置されて、移動体により生じる物理量の信号を検出する複数の検出手段と、
各検出手段の検出した信号に対応したパラメータの値を最小自乗法により算出し、前記パラメータの値に基づいて、前記各検出手段の検出に係る前記移動体の位置をそれぞれ算出する位置算出手段と、
該位置算出手段が算出した前記位置に基づいて、前記移動体の位置を推定検出する位置推定検出手段と
を備えることを特徴とする移動体位置推定検出システム。
【請求項2】
前記位置算出手段は、複数の初期値に基づいて最小自乗法による演算を行ってパラメータの値を算出し、各々の前記パラメータの値に基づいて、前記移動体の位置を算出することを特徴とする請求項1記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項3】
前記位置算出手段を複数有し、前記移動体の位置の算出を分散して行うことを特徴とする請求項1又は2記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項4】
前記位置推定検出手段は、前記各検出手段の検出に基づく各位置の算出に係る残差に基づいて、最小の残差に係る前記位置を推定検出に係る位置として特定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項5】
前記位置推定検出手段は、各検出手段の検出した信号のうち、信号レベルが最も大きな信号に基づいて算出された前記位置と前記特定に係る位置との距離に基づいて、前記特定に係る位置を推定検出した位置として採用するかどうかを判断する処理をさらに行うことを特徴とする請求項4に記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項6】
前記移動体の速度及び前記位置との最接近位置をさらに推定検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項7】
前記物理量の大きさ又は前記パラメータの値に基づいて前記移動体又はその種別を判断することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項8】
前記物理量を、電界又は磁界のうち、少なくとも一方とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の移動体位置推定検出システム。
【請求項9】
移動体に対して異なる場所に設置した複数の検出手段が、移動体により生じる物理量による信号を同時に受信していった時系列のデータから、
位置算出手段が、最小自乗法に基づいて、各検出手段が受信した信号に基づく前記移動体の位置をそれぞれ算出する工程と、
位置推定検出手段が、前記位置算出手段が算出した各位置に基づいて、前記移動体の位置を推定検出する工程と
を有することを特徴とする移動体位置推定検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−191153(P2011−191153A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56933(P2010−56933)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(509202558)ユニバーサル特機株式会社 (12)
【Fターム(参考)】