説明

移動体搭載アレーアンテナのビーム形成手法

【課題】物理的、機械的な制約を受けることなく、サイドローブ、グレーティングローブを軽減することができ、さらには広帯域での利用を可能とする。
【解決手段】アレーアンテナ11の移動中にアレーアンテナ11を構成するアンテナ素子A1〜Anの座標を、移動によるその移動軌跡の中から決定し、一定のずれ量dX1,dX2,…が生じる間隔で複数回のパルス送受信を行うものとし、複数回のパルス送受信における基準位相同士の位相差を各パルス送受信時点のアンテナ基準座標の差を用いてビーム走査方向に対して波面が揃うように決定し、複数回のパルス送受信それぞれの送受信信号の合成により一つの指向性パターンを生成し、移動によるずれ量を調整することでサイドローブレベルを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体搭載のレーダや通信で使用されるアレーアンテナのビーム形成手法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、アレーアンテナのサイドローブレベルを低減させる手段として、アンテナ開口内の励振分布をコサイン分布やテイラー分布などに対応するように分布させる方法がある。しかしながら、開口アンテナでそのような分布を実現することは物理的に非常に困難である。また、アレーアンテナの場合、サイドローブ低減を目的として開口上に非一様な振幅分布を持たせる方法があるが、その実現には機械的な制限がかかることが多い。
【0003】
さらに、アンテナ素子間隔を一定以上離すと、グレーティングローブが可視領域内に発生してしまう。このため、アンテナ素子間隔は規定の値より短くするのが一般的である。しかしながら、この規定の素子間隔は波長によって決まるため、適切な素子間隔の選択には周波数の制限がかかることが多い。この際、アンテナの開口長を大きくすることにより、発生するグレーティングローブのレベルを小さくすることが可能であるが、サイドローブレベルがそのアンテナ単体のサイドローブレベルよりも大きくなってしまう傾向がある。特に、移動体搭載のレーダや通信で使用されるアレーアンテナにあっては、搭載場所の制約から上記の問題がいっそう顕著になる。
【0004】
尚、衛星や航空機等のプラットフォームに搭載するレーダ装置において、アレーアンテナのアンテナ角度とプラットフォーム速度と送信時の高周波パルスのパルス繰り返し周期に応じてアンテナのベースライン長を算出することが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平11−352224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来の移動体搭載のアレーアンテナでは、物理的、機械的な制約によってサイドローブ、グレーティングローブを軽減することが困難であった。
【0006】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、移動体搭載のアレーアンテナにおけるアンテナ指向性パターンにおいて、物理的、機械的な制約を受けることなく、サイドローブ、グレーティングローブを軽減することができ、さらには広帯域での利用を可能とするビーム形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明に係る移動体搭載のアレーアンテナに用いられるビーム形成手法は、前記アレーアンテナの移動中に前記アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の座標を、移動によるその移動軌跡の中から決定し、一定のずれ量が生じる間隔で複数回のパルス送受信を行うものとし、前記複数回のパルス送受信における基準位相同士の位相差を各パルス送受信時点のアンテナ素子それぞれの基準座標の差を用いてビーム走査方向に対して波面が揃うように決定し、前記複数回のパルス送受信それぞれの送受信信号の合成により一つの指向性パターンを生成し、前記ずれ量を調整することでサイドローブレベルを調整することを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明に係る移動体搭載アレーアンテナのビーム形成方法では、アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の座標をその移動軌跡の中から複数点決定することによって、実際のアンテナ個数より多数の座標を用いてビーム形成処理を行う。これにより、アダプティブアレー技術における自由度が大きくなるなど、サイドローブもしくはグレーティングローブの発生を軽減させることができる。このビーム形成方法では、使用周波数によって発生する制限を緩和できるという特徴から、広帯域での利用が可能となる。
【0009】
よって、移動式のレーダや通信の利用におけるアンテナ指向性パターンにおいて、サイドローブレベルおよびグレーティングローブレベルの軽減、広帯域での利用が可能となる。
【0010】
尚、上記特許文献1には、本発明と同じように、移動体搭載のアレーアンテナにおいて、移動速度に基づくパルス送受信のビーム形成手法について記載されているが、その目的とするところはパルス繰り返し周期を自由に設計できるようにすることにあり、サイドローブもしくはグレーティングローブの発生を軽減することを目的とする本発明とは基本的な構成が異なる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、移動体搭載のアレーアンテナにおけるアンテナ指向性パターンにおいて、物理的、機械的な制約を受けることなく、サイドローブ、グレーティングローブを軽減することができ、さらには広帯域での利用を可能とするビーム形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係るビーム形成方法が適用される移動体搭載のリニアアレーアンテナ11の一実施形態を示す概念図で、X−Y平面上を移動するリニアアレーアンテナ11の軌跡と、その中でパルス送受信を行った時刻t1 ,t2 ,…tn での位置を示している。図2は、上記リニアアレーアンテナ11に対して、本発明に係るビーム形成を行うシステム構成を示すブロック図である。
【0014】
図1において、A1,A2,…,Anはそれぞれ素子間隔dX でX軸方向に配列されてリニアアレーアンテナ11を構成するアンテナ素子である。これらのアンテナ素子A1〜Anは、図2に示すビーム形成器12により、それぞれビーム走査方向に対して波面を揃えることが可能な一様振幅分布を持つX軸方向の開口長aX の開口アンテナを実現する。
【0015】
ここで、図1に示すように、リニアアレーアンテナ11がX−Y平面上を移動したとする。このとき、n個の時刻t1 〜tn でのアンテナ素子A1〜Anの座標のX軸方向の座標のずれdXK(k=1〜n−1)が図1のようになるタイミングで、n回のパルス送受信を行う。さらに、n回のパルス送受信における位相差は、X−Zカット面上にビーム走査を行うとき、n回のパルス送受信におけるX軸方向のアンテナ基準座標の差を用いてビーム走査方向に対して波面を揃うように決定する。そして、n回の送受信信号の合成により1つの指向性パターンを生成可能となるようにする。この際、n回の時刻t1 〜tn でのアンテナ素子A1〜Anの座標のX軸方向の座標のずれを、アンテナ移動速度とパルス送受信を行うタイミングにより調節することで、X−Zカット面の指向性におけるグレーティングローブレベルを調節することが可能となる。また、このようにn回のパルス送受信を行った方が、1回のパルス送受信に比べてX−Zカット面上でグレーティングローブの発生を抑えられる。この他、サイドローブレベルも軽減でき、さらにメインローブ以外の指向性レベルはどの方位も1回のパルス送受信の指向性レベル以下に抑えることが可能となり、利得を高くすることができる。
【0016】
尚、このときY軸方向のn回の時刻でのアンテナ素子の座標のずれは任意のものでよいが、X−Zカット面以外の指向性パターンも考慮した場合、dYK(k=1〜n−1)は半波長程度もしくはそれ以下になるようにした方がよい。
【0017】
上記構成に示した中で、dXK(k=1〜n−1)を(1)式および(2)式の2つの条件が成り立つように調節すると、グレーティングローブの発生を抑えることが可能となる。なお、(2)式は指向性パターンの可視領域を考慮して詳細を決めればよい。(λは波長)
XK =dX /n (k=1〜n−1) (1)
XK ≒λまたはdXK <λ (k=1〜n−1) (2)
図3は、アレーアンテナを移動させた場合と固定した場合のX−Zカット面の指向性パターンを示した図である。横軸はZ軸を0deg とした方位を示しており、0〜90deg までを示している。ビーム走査方向は0deg としてあるので、−90〜0degは0〜90degを対称としたものとなる。縦軸は指向性強度を示しており、カット面上の最高値を0deg としている。
【0018】
例えば、リニアアレーアンテナの素子間隔dX が2λの場合、以下のように数値を決めると、(1)式および(2)式の条件を成立させることができる。
n=4
X1 =dX2 =dX3 =λ/2
このときの指向性パターンは図3の実線のようになる。破線は、アレーアンテナ11を移動させずに固定した場合の指向性パターンを示したものである。一般に、素子間隔が1波長以上のアレーアンテナでは、破線の曲線のようにグレーティングローブが発生する。一方で、実線の指向性パターンでは、破線のように発生していたグレーティングローブが発生していないことが確認できる。
【0019】
素子間隔が1波長以上離れたアレーアンテナにおいても、上記のように複数回のパルス送受信を行うことにより、グレーティングローブの発生を抑えられるほか、サイドローブレベルも軽減でき、さらにメインローブ以外の指向性レベルはどの方位も1回のパルス送受信の指向性レベル以下に抑えることが可能となり、利得を高くすることができる。この際に用いられた複数のパルス送受信信号を応用して、MTI(移動目標指示装置)も同時に用いることができる。
【0020】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、例えば他の励振分布の場合、他のパルス送受信回数の場合でもよく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るビーム形成方法が適用される移動体搭載のアレーアンテナの一実施形態を示す概念図。
【図2】図1に示す実施形態のビーム形成を行うためのシステム構成を示すブロック図。
【図3】図1に示すアレーアンテナについて、固定時と移動時のX−Zカット面における指向性パターンを比較して示すパターン波形図。
【符号の説明】
【0022】
11…開口アンテナ、12…ビーム形成器、aX …開口長、dX1〜dXn…X軸方向ずれ量、dY1〜dYn…Y軸方向ずれ量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されるアレーアンテナのビーム形成方法において、
前記アレーアンテナの移動中に前記アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の座標を、移動によるその移動軌跡の中から決定し、一定のずれ量が生じる間隔で複数回のパルス送受信を行うものとし、
前記複数回のパルス送受信における基準位相同士の位相差を各パルス送受信時点のアンテナ素子それぞれの基準座標の差を用いてビーム走査方向に対して波面が揃うように決定し、
前記複数回のパルス送受信それぞれの送受信信号の合成により一つの指向性パターンを生成し、
前記ずれ量を調整することでサイドローブレベルを調整することを特徴とする移動体搭載アレーアンテナのビーム形成方法。
【請求項2】
前記パルス送受信を行うずれ量の間隔は、開口アンテナの開口長より短い間隔とすることを特徴とする請求項1記載の移動体搭載アレーアンテナのビーム形成方法。
【請求項3】
前記パルス送受信を行うずれ量の間隔は、前記開口アンテナの移動速度に基づいて決定することを特徴とする請求項1記載の移動体搭載アレーアンテナのビーム形成方法。
【請求項4】
前記パルス送受信の送受信信号は広帯域信号であることを特徴とする請求項1記載の移動体搭載アレーアンテナのビーム形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−85790(P2009−85790A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256516(P2007−256516)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】