説明

稲藁等からの高効率乳酸・コハク酸生産方法及び石膏系土壌改良材・建築用資材生産方法

【課題】稲藁等の農林業系廃棄物からの生分解性プラスチック製造等に必要な有機酸を高効率で製造する方法および石膏系土壌改良材・建築用資材を生産する方法を提供する。
【解決手段】稲藁、小麦ふすま、廃木材等の農林業廃棄物を粉砕後、硫酸糖化した上で炭酸カルシウム若しくは酸化カルシウムを加え中和した糖化液に、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)の3種のいずれかを植菌し培養する事によって乳酸生産を行うと同時に、中和後の固液分離によって発生する「石膏を大量に含むバイオマス残渣」を、塩類集積土壌等用の土壌改良材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材等として活用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲藁等の農林業系廃棄物から生分解性プラスチック製造等に必要な有機酸を高効率で製造する方法および石膏系土壌改良材・建築用資材を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人類は今、ハバートピークを越えつつあり石油資源の枯渇が半世紀後に迫るというシュミレーション結果も示され、石油に過度に依存してきた従来のエネルギー資源戦略を根底から見直さないといけない局面に入っている(石井吉徳、エネルギーの未来と食料、環境、富山国際大学地域学部紀要、2004,3:27−46)。そういった背景下、素材産業分野においても石油資源への依存度を低減できるような新たな素材技術開発が求められており、その一環として生分解性プラスチックがここ数年急速に市場規模を拡大している(常盤豊、川島信之、望月政嗣、染宮昭義、大島一史、三友、脱石油素材化に向けた生分解性プラスチックの高機能化とその応用、2003、株式会社エヌ・ティー・エス)。
しかしながら、現在、最もシェアが大きいポリ乳酸系生分解性プラスチックはトウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ等の可食部(の澱粉)を原料としており、アフリカや北朝鮮等で大量の餓死者が出ている現状を考えると、必ずしも望ましい「食の利用方法」とは言えない。現在、米国ではネブラスカにおいてネィチャーワークス社(前カーギル・ダウ社)がトウモロコシで、インドネシアではトヨタ自動車(株)がサツマイモで(小坂橋津子、トヨタが生分解性プラスチック生産−バイオ技術導入で原料植物から開発、日経バイオビジネス、2001、http://biobiz.nikkeibp.co.jp/biobiz/newsscan.html)、それぞれ可食部を乳酸発酵させ生分解性プラスチック化するバイオコンビナートの設立を進めているが、可食部を使う限り上の問題点は解決できない。
また、2003年、三菱化学(株)は、従来のポリ乳酸系生分解性プラスチックと比較して柔軟性の特徴を有するコハク酸系生分解性プラスチック「GS Pla」を上市し、その原料となるコハク酸を植物由来原料を用いて製造する技術について、味の素(株)との共同開発により2006年の商業生産開始を目標に検討が進められている(植物由来の生分解性プラスチック原料の共同開発について、味の素株式会社、三菱化学株式会社、2003、味の素HP、http://www.ajinomoto.co.jp/press/2003 09 29 2.html)が、これもトウモロコシ等の可食部に着目した方向性であり、コハク酸に着目し素材機能を高めた点が新しいものの、上の問題点は解決できない。
一方、最近、北九州、群馬県において「可食部の廃棄物」という位置づけとなる「生ゴミ」から乳酸発酵を行う試験プラント設置が進められているが、生ゴミは多様な食材を含むため品質の均一化が難しく、また大量の生ゴミを毎日収集してくる事自体が困難なため、実用化が難しい状況にあると見られる(白井義人、生ゴミからポリ乳酸ができるまで、九州工業大学生命体工学研究科生体機能専攻HP、http://www.life.kyutech.ac.jp/shirai/namagomi.html;群馬県農政部流通園芸課、東京理科大学工学部工業化学科、株式会社クラウド・スカイビーンズ、群馬県有機性廃棄物リサイクル実験、2001、http://www.clouds.co.jp/pdf/GunmaTest.pdf)。
また、中国、オーストラリアをはじめ世界各国で塩類集積による土壌荒廃が問題となっているが、塩類集積土壌・アルカリ土壌に対する土壌改良の基本は土壌のナトリウムコロイドをカルシウムで置換し、構造性の優れたカルシウムコロイドを生成させると同時に、土壌pHを低下させることにある。この場合、ナトリウムとの置換を着実に行わせるには、溶解度積定数の低いカルシウム塩を用いることが重要で、難溶性塩であえる硫酸カルシウム(2水塩)が有効に働く事が報告されている(松本聰、世界の問題土壌とその再生への要素技術の開発、2000、http://a−yo.ch.a.u−tokyo.ac.jp/2000/reikail/matsumoto.html)が、現時点では十分には普及していないためもあり土壌荒廃が止まらない状況にある。更に石膏は土壌改良材、肥料に留まらず建築用資材としての需要も大きい。
本発明は以上の背景を鑑みなされたものであり、C6糖(澱粉等由来)が多い農作物の可食部を使うのではなく、C5糖(ヘミセルロース等由来)が多い稲藁、籾殻、小麦ふすま、廃木材といった農林業系廃棄物を用いながらも、糖化条件と微生物条件を適切に組み合わせる事によって、食として貴重な可食部を利用する際と大きくは変わらない効率で乳酸及びコハク酸を生産できる事を実証した点に新規性、独自性がある。
発明者らは稲藁等のヘミセルロース系バイオマスの硫酸糖化液がバクテリアから真核微生物に至る様々な発酵微生物の乳酸生産に適している事を見出し、中でもL−乳酸生産性バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)の3種が3日間の培養期間で乾燥稲藁1kgあたり20〜50gという高効率で乳酸を実際に生産している事を確認した。また、酵母であるクルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)に関しては乳酸だけでなくコハク酸も同時に乾燥稲藁1kgあたり24g生産している事を確認した。すなわち従来、乳酸発酵には現場利用されていないヘミセルロース系バイオマスの新たな利用方法を既知乳酸生産株を用いて見出したという位置付けになろう。
なお一般に乳酸発酵において糖質からの乳酸理論収率は84%(再生可能資源からなるポリ乳酸の収率(理論値)、三井化学株式会社、http://www.mitsui−chem.co.jp/info/lacea/nature.html)とされているが、理論ではなく実測値に関してはモンサント社の27%(群馬県農政部流通園芸課、東京理科大学工学部工業化学科、株式会社クラウド・スカイビーンズ、群馬県有機性廃棄物リサイクル実験、2001、http://www.clouds.co.jp/pdf/GunmaTest.pdf)という数値以外は公表されていない。従って、澱粉含量15%であるジャガイモにこの数値を当てはめるとジャガイモ可食部1kgから40g程の乳酸しか生産できていない事になる。微生物にとっても人間にとっても栄養物・食品として利用しやすいC6糖(澱粉等由来)系バイオマスからではなく、栄養物としては人間には利用できない廃棄物である稲藁等C5糖系バイオマスから、ジャガイモ可食部に匹敵する1kgあたり20〜50gという高効率で乳酸生産できた例は今までない。本発明によって今後はジャガイモ等の可食部を材料とするのではなく稲藁等の廃棄物を材料として用いてポリ乳酸系生分解性プラスチックプラントを設立できる可能性が出てきた点が本発明の意義と考えられよう。
また、稲藁等の農林業系廃棄物バイオマスの濃硫酸糖化過程で炭酸カルシウム若しくは酸化カルシウムを中和に用いる事によって大量に石膏(硫酸カルシウム)を発生せしめ、固液分離後に発生する大量の石膏を含んだバイオマス残渣を塩類集積土壌修復用の土壌改良材、高機能肥料用素材、建築用石膏資材として活用できる事を示した点にもう一つの新規性、独自性がある。特に土壌改良材としての利用方法に関しては、硫酸カルシウムによるナトリウム土壌の改良効果自体は1970年代にオーストラリアで開発された後、世界中で用いられ、近年では松本らによる中国河北省でのポプラ植林におけるアルカリ土壌改良でも用いられているが、生物系廃棄物を硫酸糖化し中和した石膏残渣を、そのまま土壌改良材若しくは「堆肥機能を追加した高機能肥料」として再利用するという概念は今まで存在しない。
今後、本発明を用いて世界各地の農林業地域に農林業系廃棄物を活用したバイオコンビナート(秋田魁新報、夢あるイネ丸ごと活用〜横手バイオマスビジネス研究会報告書〜秋田魁新報社説、2005.2.27)が設立できる日が来る事を祈りたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、資源循環社会への移行を促進するため稲藁等の農林業系廃棄物からの生分解性プラスチック製造等に必要な有機酸を高効率で製造する方法および石膏系土壌改良材・建築用資材を生産する方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、(1)稲藁、小麦ふすま、廃木材等の農林業廃棄物を粉砕後、硫酸糖化した上で炭酸カルシウム若しくは酸化カルシウムを加え中和した糖化液に、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)の3種の乳酸生産菌のいずれかを植菌し培養する事によって乳酸生産を行うと同時に、中和後の固液分離によって発生する「石膏を大量に含むバイオマス残渣」を、塩類集積土壌等用の土壌改良材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材等として活用する事を特徴とする資源循環方法、(2)1において記した発酵微生物の代わりにサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)等の有機酸産生酵母やリゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)等の有機酸産生糸状菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)等の乳酸菌を用いて、乳酸、コハク酸等の有機酸若しくはエタノールを生産する方法、(3)1において固液分離後の液体部分の有機酸・エタノール発酵後に生じる残渣、若しくは発酵液を用いて肥料、土壌改良材、プロバイオティクス剤、健康食品、微生物タンパク(SCP)等を製造する方法の計3技術を適用すればよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明を適用すれば、従来、大量に廃棄していた稲藁、籾殻等の農林業系廃棄物から生分解性プラスチックが生産できるだけでなく、その過程で生産できる石膏を大量に含んだバイオマス残渣を「塩類集積土壌を回復させるための土壌改良材」や建築用石膏資材として活用できる事になり、廃棄物処理の面でも地域雇用創出の面でも、そして石油資源節約の面でも社会貢献を行う事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。まず、稲藁、籾殻、米糠、小麦ふすま、廃木材等の農林業系廃棄物を必要に応じて破砕機で粉砕する(籾殻や小麦ふすまの場合は破砕する必要がない)。糖化の方法は濃硫酸法、希硫酸法のいずれでも良いが、重要なのは硫酸を用いるという点である。これは後ほど使用後の硫酸を石膏(硫酸カルシウム)として回収し石膏系土壌改良材・建築用資材等として活用するためである。この方法論を採用すれば、糖化に用いる硫酸経費は石膏系資材の事業化で回収できるので糖化経費を回収するためにも資源循環を促進するためにも有利である。なお、希硫酸法の場合、破砕した農林業系廃棄物に添加する水の量は糖化を行う廃棄物が水に浸る最小量程度が望ましく、あまり多すぎると硫酸が希釈されすぎるし、少なすぎると硫酸が廃棄物全体に行き渡らない。また懸濁するために添加する水には予め濃硫酸等の酸を加えておいた方が後から添加するより良い。なお濃硫酸の添加量は糖化を行う廃棄物重量の10%程度を目安とし必要に応じて増減すれば良い。
【0007】
希硫酸糖化法の場合は次に加圧加温して酸加水分解する訳であるが、条件は120℃、3時間程度を目安として必要に応じて加圧加温条件を調節すればよい。糖化を行った後、炭酸カルシウム若しくは酸化カルシウムで中和する。なお、この時、炭酸カルシウムの代わりにホタテの貝殻廃棄物等を用いればより資源循環の面で望ましい。固液分離後に発生する固体部分は中和の過程で生成した石膏(硫酸カルシウム)を大量に含んだ残渣となるが、硫酸カルシウムはナトリウム系塩類集積土壌等に対する有効な土壌改良材であり土壌の物理性が改善できる事が知られているので、「石膏に炭素源を加えた土壌改良材」としてそのまま資源化する事が望ましい。また必要ならば本資材に窒素源を別途添加しC/N比を整えて肥料化、堆肥化する事も可能と考えられる。なお、その場合の窒素源として糞尿を用いれば資源循環上、更に望ましいだろう。ところで秋田県においては大潟村から排出される農業用排水に代掻きに起因するSS(浮遊物質量)が大量に含まれ八郎湖残存湖水質問題の主因になっているが、石膏に含まれるカルシウムイオンはSSの分散を抑止する効果もあるので大潟村の農耕地のようなケースでは本資材を施用する事によって水質問題を軽減できる可能性も考えられる。また石膏は建築用資材としても広く需要があるので、このバイオマス残渣を含んだ石膏をそのまま建設用資材に利用してもよい。
【0008】
なお、糖化の過程で硫酸を用いるのでこの過程でほぼ無菌状態になっており、この石膏資材には生物学的な危険性は存在しないものと考えられる。この点は特にバーゼル条約を考慮する上で重要であり、輸出相手国に植物防疫上の問題点がない事を強調する上で有利に働く。廃棄物の輸出は有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約によって厳しく制限されているが構成成分の無害性を証明できれば輸出は困難ではない。実際、堆肥に関しても,シンガポール,マレーシア,インドネシア等のプランテーション用土壌改良資材として輸出されている例もあり、本石膏系バイオマス残渣も今後、我が国の新たな輸出品になりうる。
【0009】
前述のように中和した後で固液分離後に得られる糖化液は硫酸処理を経るため、ほぼ無菌状態になっているが、これは特定の光学異性体の有機酸のみを発酵生産したい場合に特に有効となる(例えばL−乳酸を選択的に合成したい場合はL−乳酸生産性バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)を用いればよい)。中和処理した糖化液はそのまま発酵タンクに移行させ、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)の3種の乳酸生産微生物のうちのいずれかを植菌し静置培養させればよい。培養は25℃前後の常温が望ましく、冬場以外は外部から熱を加える必要は特にない。培養期間は3日を目安に必要に応じて期間延長すればよい。発明者らはこれらの微生物株を用い3日間の培養期間で稲藁1kgあたり20〜50gという高効率で乳酸を生産できている事を確認できている。また、酵母であるクルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)に関しては乳酸を稲藁1kgあたり27g生産していただけでなく(乳酸と同じく生分解性プラスチック材料となる)コハク酸も同時に稲藁1kgあたり24g生産している事を確認できている。
【0010】
また、これらの発酵微生物の代わりにサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)等の有機酸産生酵母やリゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)等の有機酸産生糸状菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)等の乳酸菌を用いて、乳酸、コハク酸等の有機酸を生産する事も可能であり、必要に応じて用いる微生物株を選択すればよい。特に、酵母に関しては、発明者らはクルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)NBRC 4707の計4種の真核微生物に関しては乳酸だけでなくコハク酸も同時に生産している事を確認できている。実際、一般に清酒は乳酸だけでなくコハク酸やエタノールも含まれる事は広く知られている。コハク酸は乳酸と共に生分解性プラスチックの材料になりうるだけでなく、エタノールはガソホールとして自動車燃料にもなりうるので、乳酸、コハク酸、エタノールを3つ同時に作る真核微生物のこの性質は今後益々重要視されるだろう。そういった意味で今後、日本各地(あるいは世界各地)の既存の醸造用酵母・糸状菌バンクをこの3つの物質の生産能の面で詳細にスクリーニングし直した方がよいと考える。またそこで得た優良株の最適化条件をpH、温度、時間、酸素条件等の面で固めた上で古典遺伝学や分子遺伝学を用いて菌株を改良すれば更に目的物質生産性は高まるであろう。また、必要ならば、当該発酵において培地として用いる生物系バイオマス糖化液に必要に応じて他の栄養分を補充してもよい。
【0011】
なお、本発明を行うための装置としては廃棄物破砕後に加温加圧処理・固液分離・中和を行う糖化タンクと有機酸発酵を行う発酵タンクを組み合わせた形となり、発酵タンクはpH、温度、酸素条件が調整できる形になっているものが望ましいが、炭酸カルシウムが培地に入っていれば特にpH調整を行う必要はなく、温度も冬場以外は常温でも構わないので簡単な構造のタンクで対応できると考えられる。
【0012】
また、有機酸発酵後の残渣は、濃硫酸によって加水分解を受けた糖と発酵微生物の双方を大量に含むので、高機能肥料もしくは土壌改良材として使える可能性が高い。また特に発酵微生物として乳酸菌を用いた場合、乳酸菌を大量に含む糖液が残渣として得られるので家畜用プロバイオティクス剤(飼料)として活用できる可能性もあろう。また少なくとも稲藁、籾殻、小麦ふすま、廃木材の糖化液は他に栄養物質を添加しなくてもそれだけでバクテリアから糸状菌に至る様々な微生物の良好な増殖基質になるので、この生物系廃棄物糖化液を微生物タンパク(SCP)生産に用いる事も可能と考えられる。なお、こういった目的を同時に考える場合、リゾプス属のような植物病原性を有する微生物を選択するのは必ずしも相応しくないかもしれない。醸造用酵母や乳酸菌のような目的の有機酸産生能と共に「食の安全性」が確保された株を選択する方が無難である。
【実施例】
【0013】
稲藁100gを鋏で細片化しミルで粉砕後、濃硫酸10mlを予め加えた蒸留水1Lを加え懸濁した上で、120℃、3時間、加温加圧処理後、吸引濾過で固液分離し糖化液を得た。得られた糖化液を炭酸カルシウムでpH5.8に中和後、硫酸カルシウムを主とする沈殿物を吸引濾過で除いた上で1Lにフィルアップした。得られた糖化液を100ml三角フラスコに20mlずつ分注しシリコ栓を設定した上でオートクレーブ滅菌し稲藁糖化液培地とした。本培地には稲藁糖化物以外は含まれていない。次にこの培地に計10種の微生物を各々植菌した。
【0014】
用いた微生物は以下の通りである。(1)クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)(2)サッカロマイセス・サケ(Saccharomyces sake)、(3)デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、(4)リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)NBRC 4707、(5)バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)NBRC12714、(6)ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)NBRC13956、(7)ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)NGRI0107、(8)ラクトバチルス・ラムノスス(Lactobacillus rhamnosus)NGRI0110、(9)ラクトバチルス アミロフィルス(Lactobacillus amylophilus)NBRC15881、(10)ラクトバチルス・ムリヌス(Lactobacillus murinus)NBRC14221。このうち(1)〜(3)の酵母3株は株式会社秋田今野商店から特に有機酸産生が強い株を推薦して頂き分譲を受けたものである。
【0015】
3日間、25℃で静置培養後、培養液を遠心分離し上清をSepPak(C18)でクリーンアップし、2種類の条件でHPLC分析した。一つめの条件は逆相ODS−HPLC(カラム:Mightysil RP−18GP Aqua、4.6×250mm、移動相:0.1vol% H3PO4,H2O/CH3CN=97.5/2.5、流速:1.0ml/min、検出:UV 215nm)で、二つめの条件はイオン交換HPLC(カラム:Waters Organic Acid Column7.8×300mm、移動相:3mM HC104、流速:1.0ml/min、検出:UV215nm)を用い、乳酸は双方の分析条件の両方が標準物質と一致する事を確認した上で各々の物質の定量を行い、稲藁1kgあたりに換算した場合、各々何gの有機酸生産性を有しているかを推定した。なお、コハク酸に関してはイオン交換HPLCでの乳酸とコハク酸の保持時間が近かったためピークが別れにくく、逆相HPLCの結果のみで判断した。その結果、特に乳酸生産量が大きかったのはバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)の3株であり、それぞれ53g、22g、29gという数値を示していた。このうちバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)に関してはL乳酸のみを選択的に生産しているものと考えられる。なお、本株は上で示した培地濃度を5分の1にした方がより乳酸生産量が高く、培地濃度が比較的薄い方が乳酸生産性が高い事が示唆された。また、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)をはじめとする酵母3種およびリゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)NBRC4707の真核微生物4種に関しては乳酸だけでなく、いずれもコハク酸も生産しており、特にクルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)に関しては生産量が大きく、稲藁1kgあたり24gという数値を示した。この結果は本株を用いればポリ乳酸系生分解性プラスチックとコハク酸系生分解性プラスチックの双方が同時に作れる事を示唆している。なお、2つの条件で分析したとはいえHPLC分析の信頼性は限られるので、今後これらの結果はMSやキャピラリー電気泳動法などの別の原理での分析方法や統計学的手法も用いて裏付け確認をする必要があるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
従来、生分解性プラスチックを生産するにあたっては、ジャガイモ、トウモロコシ、サツマイモ等の農作物の可食部のデンプンをまず酵素(アミラーゼ)でグルコースに変換し、その上で乳酸、若しくはコハク酸発酵させる事によって生分解性プラスチックの材料となる乳酸やコハク酸を生産していた。ところが本発明では稲藁等の農林業系廃棄物を乳酸・コハク酸発酵生産に回す事ができ廃棄物処理代を逆に活用できる。従って相応の経済効率が期待できるだけでなく、バイオコンビナート設立を通した社会の持続的発展に貢献できるものと考えられる。今後半世紀の間に石油資源が枯渇に向かえば向かうほど原油の値段が上がるためこういった新産業の競争力は高まるものと考えられる。ハバートらが主張しているように今後、半世紀で石油が枯渇するのかどうかは専門外の発明者らにはわからないが、遅かれ早かれ枯渇する事だけは間違いない以上、今の段階で出来る限り石油資源に頼らない社会システムを構築していく必要があるのは確かであろう。また硫酸糖化物を中和する過程で大量に発生する石膏(硫酸カルシウム)は塩類集積土壌に対する土壌改良材や建築用資材として使えるので、本ビジネスモデル様特許プランを用いると、稲藁等のヘミセルロース系バイオマスを資源循環の面で非常に効率的に産業利用する事が出来るものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稲藁、小麦ふすま、廃木材等の農林業廃棄物を必要に応じて粉砕後、硫酸糖化した上で炭酸カルシウム若しくは酸化カルシウムを加え中和した糖化液に、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ストレプトコッカス・サリバリス(Streptococcus salivarius)、クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyreromyces thermotolerans)の3種の乳酸生産菌のいずれかを植菌し培養する事によって乳酸生産(及びコハク酸生産)を行うと同時に、中和後の固液分離によって発生する「石膏を大量に含むバイオマス残渣」を、塩類集積土壌・アルカリ土壌等用の土壌改良材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材等として活用する事を特徴とする資源循環方法。
【請求項2】
請求項1において農林業廃棄物の代わりに堤防刈草、糞尿等の各種生物系廃棄物バイオマスを用いる方法。
【請求項3】
請求項1において記した発酵微生物の代わりにサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)等の有機酸産生酵母やリゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)等の有機酸産生糸状菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)等の乳酸菌を用いて、乳酸、コハク酸等の有機酸、若しくはエタノールを生産する方法。
【請求項4】
請求項1〜3において固液分離後の液体部分の有機酸・エタノール発酵後に生じる残渣、若しくは発酵液を用いて肥料、土壌改良材、プロバイオティクス剤、微生物タンパク(SCP)等を製造する方法。
【請求項5】
請求項1で用いる発酵微生物の種類や目的に関わらず(すなわちエタノール発酵時も含める)、生物系バイオマスを硫酸糖化し酸化カルシウム若しくは炭酸カルシウムで中和した後に発生する石膏を塩類集積土壌・アルカリ土壌等用の土壌改良材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材等として活用する事を特徴とする資源循環方法。

【公開番号】特開2006−312157(P2006−312157A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161958(P2005−161958)
【出願日】平成17年5月4日(2005.5.4)
【出願人】(500412183)
【Fターム(参考)】