説明

積層はんだ材およびそれを用いたはんだ付方法ならびにはんだ接合部

【課題】酸化しやすいZn−Sn系はんだ合金によるはんだ付において高耐熱性を有し、欠陥の少ない接合形成を可能にするはんだ材およびそれを用いたはんだ付方法ならびにそれによるはんだ接合部を提供する。
【解決手段】内層と表面層とを備える積層はんだ材であって、内層は、Zn単独または50質量%以上のZnを含み、残部がSnおよび不可避不純物からなるZn基合金により構成され、表面層は、Sn単独または50質量%以上のSnを含み、残部がZnおよび不可避不純物からなるSn基合金により構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などを構成する配線基板の部品実装あるいは半導体素子と基材との接合に用いられる積層はんだ材および該はんだ材によるはんだ付方法、ならびにそれによるはんだ接合部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下水の汚染などによってPbの毒性が問題となり、電気電子製品への使用を制限する動きが世界的に強まる中、これまで電子機器の配線版への部品実装用として広く用いられていたSn−Pb系はんだが、Sn―Ag系,Sn−Zn系などのSn基Pb非含有合金に置き換えられている。従来、最も多く用いられていたSn−Pb系合金は、該合金系において最も融点が低くなる63質量%がSnであり、37質量%がPbからなる組成比あるいはその近傍の組成比の合金(63質量%Sn−37質量%Pbと表記する。以下これに倣う)であり、その融点は約183℃であったが、Pb非含有はんだとして一般に用いられるはんだ合金はSn−Ag系の場合で220℃前後、Sn−Zn系の場合で200℃前後と、従来のPb含有はんだ合金に比較して高い融点を持っている。
【0003】
一方、電子回路基板への実装時に電子部品内部のはんだ接続部が溶融することのないよう、電子部品内部の接続は、基板への実装用はんだ合金よりも高い融点を持つはんだ合金によって行われていなければならない。電子回路基板への電子部品実装時には250℃程度の温度に加熱されるため、電子部品の内部接続に用いるはんだ合金は250℃を超える融点を持つ必要がある。前記Sn−Pb系合金は、SnとPbとの含有比率を調整することで比較的大きく融点を変化させることが可能であり、Pbの含有比率を高めることで高い融点を得ることができ、たとえば、5質量%Sn−95質量%Pb合金の場合、その融点は300℃を超える。従来の電子部品内部接続には、たとえば、5質量%Sn−95質量%Pb合金が用いられていたが、Pbによる環境汚染を防止するため、電子部品の内部接続にもPb非含有合金を用いることが社会的に求められている。
【0004】
前記5質量%Sn−95質量%Pb合金のように250℃を越え、300℃程度の融点を有するPb非含有合金の候補としてはAu−Sn系,Zn−Sn−Al−Mg系,Sn−Sb系,Bi−Sn系,Bi−Ag系などの合金が考えられるが、従来のSn−Pb系合金に比較していずれも硬く脆い機械的特性であり、また、Au−Sn系は極めて高価であり、Sn−Sb系に含まれるSbは毒性が高いことが問題である。
【0005】
これに対し、比較的柔軟な機械特性を持ち、300℃以上の液相線温度を持つ合金としてZn−Sn系合金が考えられる。しかしながら、Znは酸化しやすく、かつ一旦酸化したZn酸化膜は破壊され難いため、はんだ付性を阻害する要因となりやすい。この問題を解決するために、Zn−Sn系合金に0.001質量%〜1質量%のPを添加した合金が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
一方、Sn−Zn系、Sn−Zn−Bi系はんだ及びその表面処理方法並びにそれを用いた実装品に関する特許文献2や、Sn−Zn系鉛フリーはんだ合金粉末およびその製造方法に関する特許文献3においては、Sn−Zn系合金粉末の表面をAu、Sn、Ni、Cu、Pd、Agの少なくともいずれかを被覆することにより、Sn−Zn合金の酸化を防止する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記のような組成からなる従来のZn−Sn系はんだ合金は、0.001質量%〜1質量%のPを添加することで、Pが優先的に酸化してはんだ材表面をリン酸化膜が覆うため、ZnやSnの酸化をある程度抑制することができ、はんだ付性を多少改善できるものの、Znの酸化を完全に防止することは困難であり、未接合部やボイドなどの接合欠陥の発生は避けられないという問題があった。
【0008】
また、AuやSnなどで表面被覆したSn−Zn系合金粉末の場合、粉末であるために比表面積が大きく、その結果、合金表面の酸化物量が多くなるため、空孔(ボイド)などの接合欠陥を発生しやすい問題がある。さらに、上記特許文献3において提案されているSnなどの被覆を施したSn−Zn合金粉末では、Sn−Zn合金中のZn濃度が最大でも10質量%と低いため、その融点は200℃前後であり、高耐熱はんだとして用いることができないという問題がある。
【特許文献1】特開2005−52869号公報
【特許文献2】特開平8−164496号公報
【特許文献3】特開2003−19591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、はんだ付性を著しく劣化させる酸化膜の生成を抑制できるとともに、空孔などの接合欠陥のない接合部を形成することができるはんだ材を提供することを目的とする。また、該はんだ材を用いるはんだ付方法、およびはんだ接合部を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、内層と表面層とを備える積層はんだ材であって、内層は、Zn単独または50質量%以上のZnを含み、残部がSnおよび不可避不純物からなるZn基合金により構成され、表面層は、Sn単独または50質量%以上のSnを含み、残部がZnおよび不可避不純物からなるSn基合金により構成されていることを特徴とする積層はんだ材に関する。
【0011】
上記表面層は、その厚みが100nm以上であることが好ましく、またその厚みが20μm以下であることが好ましい。
【0012】
また、上記内層は、その厚みが、内層と表面層との全体におけるSnの配合比が50質量%未満となる厚みであり、かつ表面層におけるSn組成比が均一であることが好ましい。
【0013】
上記表面層は、めっき、真空蒸着およびスパッタのいずれかにより形成することができる。また、上記表面層は、クラッド工法により形成することも可能である。
【0014】
また、本発明は、上記積層はんだ材を用いたはんだ付方法であって、積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、積層はんだ材を加熱する加熱工程と、積層はんだ材と被接合材とを冷却することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、上記加熱工程は、積層はんだ材の内層または表面層を構成する金属または合金の融点以上に加熱するはんだ付方法に関する。
【0015】
上記積層はんだ材を用いたはんだ付方法としては、積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、積層はんだ材を加熱する加熱工程と、積層はんだ材と被接合材とを冷却することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、上記加熱工程は、積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上であって、内層を構成する金属または合金の融点以下に加熱する方法を採用することもできる。
【0016】
また、上記積層はんだ材を用いたはんだ付方法として、積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、積層はんだ材を加熱する加熱工程と、積層はんだ材と被接合材とを前記加熱する工程における加熱温度を保持することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、上記加熱工程は、積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上であって、内層を構成する金属または合金の融点以下に加熱するはんだ付方法を用いてもよい。
【0017】
さらに、本発明は、上記のようなはんだ付方法により接合したはんだ接合部に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定の組成からなる内層をSnまたはSn基合金からなる表面層で被覆した構造とすることにより、はんだ付性を著しく劣化させる酸化膜の生成を抑制できる積層はんだ材を提供することが可能となる。
【0019】
また、本発明によれば、空孔などの接合欠陥のない高耐熱はんだ接合部を形成できるはんだ付方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<積層はんだ材>
本発明における積層はんだ材は、内層と表面層とを備える積層はんだ材であり、内層がZn単独または50質量%以上のZnを含み、残部がSnおよび不可避不純物からなるZn基合金により構成され、表面層がSn単独または50質量%以上のSnを含み、残部がZnおよび不可避不純物からなるSn基合金により構成される。上記積層はんだ材は、積層構造を備えていればその形状は特に限定されないが、高耐熱性を有するはんだ材とするために、たとえば、内層を構成する板状体に表面層を積層した構造を有することが好ましい。
【0021】
ここで、電極材(被接合材)として多用されるCuとはんだ材として汎用されるZnとは極めて反応しやすく、また、形成されたCu−Zn金属間化合物は成長しやすいという特性を有する。そして、このCu−Zn金属間化合物は、一般に機械特性が脆弱であるため、このような化合物が成長することははんだ材として好ましくない。本発明においては、SnまたはSn基合金による表面層が形成されている上記特定の積層構造を有することから、被接合材であるCuと直接反応するのはSnまたはSn基合金となり、はんだ付において形成される金属間化合物もCu−Sn合金となる。一方、Cu−Zn金属間化合物は形成されないので、該化合物の層が成長することはなく、はんだ接合部の機械特性を改善することができるようになる。
【0022】
<内層>
上記内層は、Zn単独または50質量%以上のZnを含み、残部がSnおよび不可避不純物からなるZn基合金により構成される。内層を構成する金属または合金の組成を上記特定のものとすることにより、積層はんだ材全体として高耐熱性を付与することができる。
【0023】
上記内層がZn基合金からなる場合、Znの含有量は、50質量%以上であればよいが、60〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、70〜80質量%の範囲内であることがさらに好ましい。Zn含有量を上記範囲とすることにより、耐熱性をより向上させることができ、また、半導体に対する熱的ダメージを抑制できることから好ましい。
【0024】
上記内層は、その残部はSnおよび不可避不純物からなるZn基合金であるが、他の組成の配合によっても、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲であれば、適宜他の組成を含むものとする。
【0025】
このような内層としては、所望の厚みを有する市販のZn板状体を用いてもよいし、Zn−Sn合金を用いることもできる。
【0026】
<表面層>
上記表面層は、Sn単独または50質量%以上のSnを含み、残部がZnおよび不可避不純物からなるSn基合金により構成される。表面層をSn単独またはSn基合金により構成することにより、はんだ材の最表面の大部分がSnにより構成されることとなり、この場合表面酸化層はSn酸化被膜となる。このSn酸化被膜は、はんだ付において一般に用いられる、ロジン系フラックスにより容易に除去することが可能であり、積層はんだ材の大気中での劣化を抑制することができると同時に、はんだ付特性に悪影響を及ぼすことがない。
【0027】
本発明において上記表面層は内層の少なくとも1表面に設けられるものであり、好ましくは被接合材と接する全面に表面層を設ける態様である。
【0028】
上記表面層をSn基合金とする場合、配合するSn以外の金属としては、Zn、Ag、Cu、Ni、Ge、Bi、Sbなどが例示される。
【0029】
上記表面層はその厚みが、10nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。表面層の厚みを10nm以上とすることにより、最表面に形成される酸化被膜をSn酸化物のみとすることができるが、はんだ材が大気中で加熱されると内部のZnまたはZn基合金からなる内層からZnが表面に拡散し、最表面にZn酸化物が形成される傾向があるため、このような拡散を極力防ぐためには、表面層の厚みを100nm以上とすることがより好ましい。また、表面層の厚みは、20μm以下であることが好ましく、耐熱性を向上させる効果を考慮すると10μm以下であることがより好ましい。表面層の厚みはをこのような厚み範囲で形成することにより、内層を構成するZnの酸化を効率よく抑制することができ、またはんだ付において、ロジン系フラックスによる表面酸化被膜の除去効率を良好なものとすることができる。
【0030】
なお、表面層をこのような厚み範囲とする場合、上記内層は、その厚みが、内層と表面層との全体における、すなわち積層はんだ材全体におけるSnの配合比が50質量%未満となる厚みであることが好ましく、30質量%未満となる厚みであることがより好ましい。内層の厚みと表面層のSnの配合比がこのような関係を満足することにより、積層はんだ材が高耐熱性を有し、またはんだ特性に優れたはんだ材とすることができる。
【0031】
また、はんだ材においては、融点が最も低い部分で接合材全体としての耐熱性が決定されるため、部分的であってもSn濃度の高い部分が存在すると接合部全体としての耐熱性は向上させることができない。したがって、低融点元素であるSnを接合部を形成するはんだ材の全体に拡散させることが好ましく、すなわち、表面層におけるSn組成が均一であることが好ましい。
【0032】
<表面層の形成方法>
本発明において、上記表面層は、めっき、真空蒸着およびスパッタのいずれかにより形成することができる。また、上記表面層は、クラッド工法により形成することも可能である。表面層をめっき、真空蒸着およびスパッタのいずれかにより形成する場合は、得られる表面層の厚みおよび組成を均一に形成させることができ、また、クラッド工法によりその表面層を形成する場合は、高い量産性を期待することができる。
【0033】
<はんだ付方法>
本発明におけるはんだ付方法の第1の方法は、積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、積層はんだ材を加熱する加熱工程と、積層はんだ材と被接合材とを冷却することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、上記加熱工程は、積層はんだ材の内層または表面層を構成する金属または合金の融点以上に加熱するはんだ付方法である。加熱工程をこのような温度範囲で施すことにより、積層はんだ材の表面層および内層をすべて溶融・混合させ、均一な接合層を形成することができる。また、加熱工程後に積層はんだ材と被接合材とを冷却する条件は特に限定されるものではない。
【0034】
また、本発明におけるはんだ付方法の第2の方法は、積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、積層はんだ材を加熱する加熱工程と、積層はんだ材と被接合材とを冷却することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、上記加熱工程は、積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上であって、内層を構成する金属または合金の融点以下に加熱するはんだ付方法である。加熱工程の温度条件を内層を構成する金属または合金の融点以下とすることにより、接合層の厚さ制御を容易にすることができる。
【0035】
本発明におけるはんだ付方法の第3の方法としては、積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、積層はんだ材を加熱する加熱工程と、積層はんだ材と被接合材とを前記加熱する工程における加熱温度を保持することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、上記加熱工程は、積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上であって、内層を構成する金属または合金の融点以下に加熱するはんだ付方法である。加熱工程における条件を積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上とすることにより、表面層のみが溶融し、被接合材と金属的に接合する。また、第3の方法においては、はんだ付の完了は、加熱工程における加熱温度を保持することによる。表面層の金属元素と内層の金属元素とが相互に拡散し、表面層の構成元素が変化することによって融点が次第に上昇し、その結果、一定の温度に保持したままで凝固してはんだ付が完了することをいう。
【0036】
これらのはんだ付方法は、積層はんだ材の内層および表面層を構成する金属または合金の組成により適宜選択して適用することができ、いずれの場合も、空孔の発生がなく、はんだ材と所望の被接合材との接合を強固なものとすることができる。
【0037】
<はんだ接合部>
本発明はまた、上記のような積層はんだ材を用いて、上記はんだ付方法により接合されたはんだ接合部に関する。本発明のはんだ接合部は、上記高耐熱性を有する特定の積層はんだ材を用いており、高温接合が必要とされる被接合材との接合が強固なものとすることができる。また、上記はんだ付方法により接合することにより、空孔の発生のない強固なはんだ接合部を形成させることができる。
【0038】
以下、実施の形態を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1による積層はんだ材を示す断面図である。図1の積層はんだ材は、Zn基合金で構成された内層1、Sn基合金で構成された表面層2により構成される。上記内層としては、たとえばその厚みが0.1mmであるZn板を用いることができ、上記表面層としては、たとえば真空蒸着により形成されたSn膜である。このように構成された積層はんだ材では、最表面にZnが存在せず、Snのみしか存在しないため、大気中において酸素と反応して形成される酸化膜はSnOまたはSnOのみであり、Zn酸化物は存在しない。従って、この積層はんだ材を用いて例えば半導体素子とリードフレームなどの被接合材と接合する場合、一般的なはんだ接合で用いられるロジン系フラックスを用いることで容易に積層はんだ材表面の酸化膜を除去することが可能であり、Zn酸化物を除去する場合のような多量のガスを発生することがないため、ボイドや未接合などの接合欠陥を生じることがない。
【0040】
なお、SnまたはSn基合金からなる表面層2の厚みが10nm以上であれば、最表面の酸化膜はSn酸化物のみで構成されるが、大気中で加熱されると内部のZn層1からZnが表面に拡散し、最表面にZn酸化物が形成される傾向があるため、Sn層2の厚みは100nm以上である方が望ましい。
【0041】
ここでは、内層がZn板であり、その両表面に配された表面層がSnにより構成される積層はんだ材の場合について述べたが、内層を構成する金属板がZn−Sn系合金でもSnが50%以下の場合であれば同様の効果が得られる。また、表面処理膜の形成方法としては例えば真空蒸着があるが、めっきやスパッタ、クラッド工法などの方法によって構成しても同様の効果が得られる。さらに、被接合材として半導体チップとリードフレームとを用いた場合について述べたがこれに限るものではなく、はんだ接合を行う被接合材であれば同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0042】
<実施の形態2>
図2は本発明の実施の形態2による積層はんだ材によるはんだ付方法を示す構成図である。図2の積層はんだ材は、はんだと濡れる表面処理を施された被接合材3,4を備えるものであり、この被接合材は、たとえば半導体チップと基材としてのリードフレームである。なお、図2における積層はんだ材は、実施の形態1と同一の構成、すなわちZn基合金で構成された内層1と、Sn基合金で構成された表面層2とにより構成される。この積層構造を有する積層はんだ材を加熱すると、内層のZnまたはZn基合金からなる内層1および表面層のSnまたはSn基合金からなる表面層2が溶融拡散し、内層および表面層が均一に混合して均質なZn−Sn合金層5を形成する。
【0043】
上記均質な合金層のを得るためのはんだ付方法として、まず、内層1および表面層2により構成される積層はんだ材を被接合材3,4で挟む挟持工程があり、ついで、内層であるZnまたはZn基合金からなる層2の融点である420℃以上に加熱する加熱工程を施すと、融点が230℃であるSnまたはSn基合金からなる層2も含めて積層はんだ材全体が溶融し、ZnまたはZn基合金からなる層2とSnまたはSn基合金からなる層2が均一に混合して、新たに単層のZn−Sn合金からなる合金層5が形成される。ついで、積層はんだ材および被接合材を冷却することではんだ接合が完遂される。
【0044】
ここでは、内層がZn板でその両面に配された表面層がSnで構成される積層はんだ材の場合について述べたが、内層の金属板がZn−Sn系合金でもSnが50%以下の場合であれば同様の効果が得られる。さらに、被接合材として半導体チップとリードフレームとを用いた場合について述べたがこれに限るものではなく、はんだ接合を行う被接合材であれば同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0045】
<実施の形態3>
図3は、本発明の実施の形態3による積層はんだ材によるはんだ付方法を示す構成図である。図3の積層はんだ材は、ZnまたはZn基合金からなる内層1とその表面に施された表面層2からなり、表面層は、たとえば厚みが1μmのSnからなる層とすることができる。このような構成からる積層はんだ材を加熱して、はんだ付するとZn−Sn合金層7が形成されるである。なお、実施の態様3において、その他の構成物は実施の形態2と同じである。
【0046】
上記はんだ付方法としては、内層1および表面層6により構成される積層はんだ材を被接合材3,4で挟み、Snからなる表面層6の融点である230℃以上で、たとえば250℃に加熱すると、Snからなる表面層6が溶融し、さらに、Snからなる表面層6と共晶反応によって、内層であるZnからなる内層1とSnからなる表面層6との界面近傍も溶融し、表面層であるSnからなる層6中のZn濃度が上昇して表面層6の融点が上昇し、冷却することなく表面層6は凝固し、接合が完遂される。即ち、加熱前は純Snであった表面層6は、加熱後、Zn−Sn合金に変化し、その融点は加熱した温度まで上昇する。
【0047】
ここでは、250℃まで加熱した場合について述べたが、この温度を上昇させることで、形成される接合部の耐熱性を上昇させることが可能になり、例えば、300℃に加熱し、そのまま凝固させると300℃の融点を持つ接合部が形成される。また、Snからなる表面層6の厚みが1μmの場合について述べたが、薄くなるほどZnの濃度が上昇しやすくなるため、凝固するまでの時間を短縮できる。
【0048】
また、本実施の形態においては、内層がZn板でその両面に配された表面層がSnで構成される積層はんだ材の場合について述べたが、内層の金属板がZn−Sn系合金でもSnが50%以下の場合であれば同様の効果が得られる。さらに、被接合材として半導体チップとリードフレームとを用いた場合について述べたがこれに限るものではなく、はんだ接合を行う被接合材であれば同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0049】
<実施の形態4>
図4は、本発明の実施の形態4による積層はんだ材によるはんだ付方法を示す構成図である。図4における積層はんだ材は、実施の形態3と同様の構成をしており、はんだ付の際の加熱により、Zn−Sn合金層8が形成される。
【0050】
上記はんだ付方法としては、内層1および表面層6により構成される積層はんだ材を被接合材3,4で挟み、Snからなる表面層6の融点である230℃以上で例えば250℃に加熱すると、Snからなる表面層6が溶融し、さらに、Snからなる表面層6と共晶反応によってZnからなる内層1とSnからなる表面層6との界面近傍も溶融し、Snからなる表面層6中のZn濃度が上昇して表面層6の融点が上昇し、冷却することなく表面層6は凝固する。そのまま冷却せずに250℃のまま保つと、Sn原子のZnからなる内層1中への拡散がさらに進み、Zn−Sn合金層8の厚みが増大するとともに、該合金層中のSn濃度はさらに低下し、融点は加熱温度の250℃以上に上昇する。最終的には層全体にわたって均一なZn−Sn合金が形成され、融点は400℃以上にまで到達する。
【0051】
ここでは、250℃に加熱した場合について述べたが、この温度を上昇させることで、Snの拡散を速め、早期に均一な合金層を形成できる。
【0052】
ここでは、内層がZn板でその両面に配された表面層がSnで構成される積層はんだ材の場合について述べたが、内層の金属板がZn−Sn系合金でもSnが50%以下の場合であれば同様の効果が得られる。さらに、被接合材として半導体チップとリードフレームとを用いた場合について述べたがこれに限るものではなく、はんだ接合を行う被接合材であれば同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0053】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の各実施の形態の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1による積層はんだ材を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2による積層はんだ材を用いたはんだ付方法を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3による積層はんだ材を用いたはんだ付方法を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態4による積層はんだ材を用いたはんだ付方法を示す構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 Zn板、2,6 表面層、3,4 被接合材、5,7,8 Zn−Sn合金層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と表面層とを備える積層はんだ材であって、
前記内層は、Zn単独または50質量%以上のZnを含み、残部がSnおよび不可避不純物からなるZn基合金により構成され、
前記表面層は、Sn単独または50質量%以上のSnを含み、残部がZnおよび不可避不純物からなるSn基合金により構成された積層はんだ材。
【請求項2】
前記表面層は、その厚みが100nm以上である請求項1に記載の積層はんだ材。
【請求項3】
前記表面層は、その厚みが20μm以下である請求項1または2に記載の積層はんだ材。
【請求項4】
前記内層は、その厚みが、前記内層と前記表面層との全体におけるSnが50質量%未満となる厚みであり、かつ表面層におけるSn組成比が均一である請求項1〜3のいずれかに記載の積層はんだ材。
【請求項5】
前記表面層は、めっき、真空蒸着およびスパッタのいずれかにより形成される層である請求項1〜4のいずれかに記載の積層はんだ材。
【請求項6】
前記表面層は、クラッド工法により形成される層である請求項1〜4のいずれかに記載の積層はんだ材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層はんだ材を用いたはんだ付方法であって、
前記積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、
前記積層はんだ材を加熱する加熱工程と、
前記積層はんだ材と被接合材とを冷却することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、
前記加熱工程は、前記積層はんだ材の内層または表面層を構成する金属または合金の融点以上に加熱するはんだ付方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層はんだ材を用いたはんだ付方法であって、
前記積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、
前記積層はんだ材を加熱する加熱工程と、
前記積層はんだ材と被接合材とを冷却することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、
前記加熱工程は、前記積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上であって、前記内層を構成する金属または合金の融点以下に加熱するはんだ付方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層はんだ材を用いたはんだ付方法であって、
前記積層はんだ材を被接合材の間に挟む挟持工程と、
前記積層はんだ材を加熱する加熱工程と、
前記積層はんだ材と被接合材とを前記加熱する工程における加熱温度を保持することによりはんだ付を完了する完了工程とを含み、
前記加熱工程は、前記積層はんだ材の表面層を構成する金属または合金の融点以上であって、前記内層を構成する金属または合金の融点以下に加熱するはんだ付方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のはんだ付方法により接合したはんだ接合部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−142890(P2009−142890A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326010(P2007−326010)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】