説明

積層セラミック電子部品及びその製造方法

【課題】 誘電体層の薄層化及び多層化が進んだ場合であっても、積層体におけるノンラミネーション欠陥の抑制とショート不良の低減とを両立するとともに、焼成過程において外装部と内装部との界面にデラミネーション欠陥が発生することを抑制して歩留まりの向上を図る。
【解決手段】 誘電体層2と電極層3とが交互に積層されてなる内装部8と、内装部8の積層方向両側に配された外装誘電体層6とを有する積層セラミック電子部品であって、電極層3のうち最も広い電極層3幅をWf、最も狭い電極層3幅をWfとしたとき、.00<Wf/Wf<1.23であり、且つ、幅Wfを有する電極層3に隣接する誘電体層2の厚みをTf、幅Wfを有する電極層3に隣接する誘電体層2の厚みをTfとしたとき、0.85<Tf/Tf<1.15である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体層と電極層とが交互に積層されてなる積層セラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば積層セラミックコンデンサに代表される積層セラミック電子部品は、通常、複数の誘電体層と電極層とが交互に積層されるとともに積層方向両側に外装誘電体層が配され、電極層に導通する一対の外部電極が設けられた構造とされている。近年の電子機器の小型化に伴い、積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品においても小型化・大容量化が求められており、これに対応して、積層セラミック電子部品を構成する誘電体層や電極層にもさらなる薄層化及び多層化が求められている。
【0003】
このような構造の積層セラミック電子部品は、例えば以下のような方法で製造される。すなわち、先ず、誘電体粉末、バインダ、有機溶剤等を含む塗料を準備し、この塗料をドクターブレード法等を用いてPETフィルム等の支持体上に塗布、乾燥させた後、PETフィルムを剥離して内装グリーンシートを得る。次に、導電材料を含む電極前駆体層を前記内装グリーンシート上に形成する。次に、電極前駆体層が形成された内装グリーンシートを積層するとともに、積層方向両側に外装誘電体層となる外装グリーンシートを積層した後、チップ状に切断してグリーンチップとする。このグリーンチップを焼成した後、外部電極を形成することにより積層セラミック電子部品が製造される。
【0004】
電極層に含まれる導電材料としては、一般にPdやPd合金が用いられているが、Pdは高価であるため、近年では比較的安価なNiやNi合金等の卑金属が使用されるようになってきている。
【0005】
しかしながら、Ni等の卑金属は、グリーンシートを構成する誘電体粉末よりも低い温度で焼結するという性質を有しているため、電極層に使用されると次のような理由により製品歩留まりの低下を引き起こす。すなわち、電極前駆体層に含まれるNiの影響により、電極前駆体層と内装グリーンシートとが交互に積層された部分(内装部)の焼結温度が、その周囲の電極前駆体層の形成されていない領域及び外装グリーンシート(外装部)に比較して低くなるため、内装部と外装部とで焼成時の収縮挙動に差を生じる。この挙動差が大きいと外装部と内装部との界面に応力が集中し、結果として例えば内装部のコーナー部近傍においてデラミネーション欠陥等の構造欠陥が発生するからである。
【0006】
一方、積層体を形成するに際しては、電極前駆体層と内装グリーンシートとの接着強度が不充分であることに起因するノンラミネーション欠陥が発生することがあり、歩留まりに大きな影響を及ぼしている。よって、通常は、積層体を高圧で加圧することによって電極前駆体層と内装グリーンシートとの接着性を確保している(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−40457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるようなノンラミネーション欠陥の発生を減少させる加圧条件は、ショート不良を多発させる要因となる。また、例えば誘電体層の積層数を150層以上、前記誘電体層の厚みを3μm以下のように薄層化及び多層化を進めた場合、積層セラミック電子部品を焼成する際、外装部と内装部との界面に発生するデラミネーション欠陥を確実に解消する技術は未だ開発されていない。
【0008】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、誘電体層の薄層化及び多層化が進んだ場合であっても、積層体におけるノンラミネーション欠陥の抑制とショート不良の低減とを両立するとともに、焼成過程において外装部と内装部との界面にデラミネーション欠陥が発生することを抑制して歩留まりの向上を図ることが可能な積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、本発明に係る積層セラミック電子部品は、誘電体層と電極層とが交互に積層されてなる内装部と、前記内装部の積層方向両側に配された外装誘電体層とを有する積層セラミック電子部品であって、前記電極層のうち最も広い電極層幅をWf、最も狭い電極層幅をWfとしたとき、1.00<Wf/Wf<1.23であり、且つ、前記幅Wfを有する電極層に隣接する誘電体層の厚みをTf、前記幅Wfを有する電極層に隣接する誘電体層の厚みをTfとしたとき、0.85<Tf/Tf<1.15であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、誘電体粉末を含む内装グリーンシートと導電材料を含む電極前駆体層とを交互に積層して内装部を形成するとともに、前記内装部の積層方向両側に外装グリーンシートを積層して積層体を得、前記積層体を加圧した後、焼成することにより、誘電体層と電極層とが交互に積層されてなる積層セラミック電子部品を製造するに際し、前記内装グリーンシートの積層数をn、前記内装部の積層方向両端からそれぞれm層目(ただしmは0.05n〜0.25nである。)までに配する内装グリーンシートの厚みをTg、その他の位置に配する内装グリーンシートの厚みをTgとしたとき、1.02<Tg/Tg<1.50となる関係を満たす内装グリーンシートを用いるとともに、前記加圧後の積層体において、前記電極前駆体層のうち最も狭い電極前駆体層幅をWg、最も広い電極前駆体層幅をWgとしたとき、1.02<Wg/Wg<1.25となるように前記加圧を行うことを特徴とする。
【0011】
積層体を加圧するに際しては、積層方向両端から積層方向中央に向かうほど大きな圧力が働き、圧力の大きさに応じて電極前駆体層の幅は広くなる傾向を示す。よって、以上のような製造方法では、加圧後の電極前駆体層幅の最大値と最小値との比を加圧条件の指標とする。具体的には、最も狭い電極前駆体層の幅をWg、最も広い電極前駆体層の幅をWgとしたとき、1.02<Wg/Wg<1.25となるように積層体の加圧を行う。言い換えると、焼成後の積層セラミック電子部品における電極層幅が1.00<Wf/Wf<1.23の関係を満たすように、加圧を行う。前記条件のように充分に加圧を行うことで、焼成前の積層体においてグリーンシートと電極前駆体層との接着強度が確保され、ノンラミネーション欠陥の発生が抑制される。
【0012】
ただし、内装グリーンシートの厚さを全て等しくした場合、加圧工程においては積層体の積層方向中央付近に大きな圧力が働く関係で積層方向中央付近の内装グリーンシートが薄く伸ばされ、ショート不良を招く。
【0013】
そこで、積層方向両端付近には薄い内装グリーンシートを、大きな圧力の加わる積層方向中央付近には相対的に厚い内装グリーンシートをそれぞれ配する。具体的には、厚みの比が1.02<Tg/Tg<1.50となる関係を満たすような厚みTgを有する内装グリーンシートを、内装部の積層方向両端からそれぞれm層目(ただしmは0.05n〜0.25nである。)までに用い、且つ、厚みTgを有する内装グリーンシートを積層方向中央付近に用いる。このように、積層位置に応じて厚みの異なる内装グリーンシートを用いるので、加圧後の積層体において内装グリーンシートの厚みはほぼ均一となり、これを焼成した積層セラミック電子部品における誘電体層の最も厚い厚みTfと最も薄い厚みTfとの比が0.85<Tf/Tf<1.15の範囲内におさめられる。したがって、ノンラミネーション欠陥が発生しない程度に充分に積層体の加圧を行ったとしても、ショート不良の問題を起こすことはない。
【0014】
また、詳細なメカニズムは明らかではないが、内装グリーンシートの厚みと積層体の加圧条件を前述のように制御して、内装部の積層方向両端付近に中央付近とは焼結挙動の異なる部分を設けることで、内装部全体の焼結挙動が改善され、内装部と外装部との界面においてデラミネーション欠陥が発生することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、誘電体層の薄層化及び多層化が進んだ場合であっても、ショート不良低減とノンラミネーション欠陥抑制とを両立することができ、さらには焼成過程で生じる構造欠陥の発生を抑えることができるため、高い歩留まりにて積層セラミック電子部品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した積層セラミック電子部品及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
先ず、製造対象となる積層セラミック電子部品について、図1及び図2を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、複数の誘電体層2と電極層3とを有する素子本体4を有する。電極層3は、素子本体4の対向する2端面に各側端面が交互に露出するように積層されており、素子本体4の両側端部に配置された一対の外部電極5と各々導通するように形成される。素子本体4においては、誘電体層2及び電極層3の積層方向の両端の外側に外装誘電体層6が配置されている。素子本体4の電極層3の幅方向両側には、誘電体層からなる無電極領域が配されており、外装誘電体層6と無電極領域とからなる外装部7が、誘電体層2と電極層3とが交互に積層されてなる内装部8を保護している。
【0018】
素子本体4の形状は特に制限されるものではないが、通常、直方体状とされる。その寸法も特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法に設定すればよい。例えば、縦0.6mm〜5.6mm(好ましくは0.6mm〜3.2mm)×横0.3mm〜5.0mm(好ましくは0.3mm〜1.6mm)×厚み0.1mm〜1.9mm(好ましくは0.3mm〜1.6mm)程度である。
【0019】
誘電体層2及び外装誘電体層6は、誘電体磁器組成物で構成される。誘電体磁器組成物としては、組成式ABO(式中、Aサイトは、Sr、Ca及びBaから選ばれる少なくとも1種の元素で構成される。Bサイトは、Ti及びZrから選ばれる少なくとも1種の元素で構成される。)で表されるペロブスカイト型結晶構造を持つ誘電体酸化物を主成分として含有することが好ましい。ここで、酸素(O)量は、前記組成式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。前記誘電体酸化物の中でも、AサイトをBaで主として構成し、BサイトをTiで主として構成し、チタン酸バリウムとすることが好ましい。より好ましくは、組成式BaTiO2+m(式中、0.995≦m≦1.010であり、0.995≦Ba/Ti≦1.010である。)で表されるチタン酸バリウムである。
【0020】
誘電体磁器組成物中には、主成分の他、各種副成分が含まれていてもよい。副成分としては、Sr、Zr、Y、Gd、Tb、Dy、V、Mo、Zn、Cd、Ti、Sn、W、Ba、Ca、Mn、Mg、Cr、Si及びPの酸化物から選ばれる少なくとも1種が例示される。副成分を添加することにより、主成分の誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となる。また、誘電体層2を薄層化した場合の信頼性不良が低減し、長寿命化が可能となる。
【0021】
内装部を構成する誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、用途等に応じ適宜決定すればよく、積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化を図る観点では、誘電体層2の厚みを3μm未満、誘電体層2の積層数を150層以上とすることが好ましい。外装誘電体層6の厚みも、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば20μm〜数百μm程度である。
【0022】
電極層3に含まれる導電材料は特に制限されないが、例えばNi、Cu、Ni合金又はCu合金等の卑金属を用いることができる。電極層3の厚みは、用途等に応じて適宜決定すればよく、例えば0.5μm〜5μm程度であり、好ましくは1.5μm未満である。
【0023】
外部電極5に含まれる導電材料は特に制限されないが、通常、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Ag、Ag−Pd合金等が用いられる。Cu、Cu合金、Ni及びNi合金は、安価な材料なため有利である。外部電極5の厚みは、用途等に応じて適宜決定すればよく、例えば10μm〜50μm程度である。
【0024】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1においては、図2に示すように電極層3の幅方向に沿って素子本体4を切断したとき、積層方向中央付近の電極層3の幅が以下のように広くされており、内装部8が積層方向中央付近で若干膨らんだような形状とされている。また、切断面における誘電体層2の1層あたりの厚みが以下のように設定されている。
【0025】
すなわち、電極層3の幅については、最も幅の広い電極層3の幅をWf、最も幅の狭い電極層3の幅をWfとしたとき、1.00<Wf/Wf<1.23となるように設定されている。一方、誘電体層2については、最も幅の広い電極層3、すなわち幅Wfに対応する電極層3に隣接する誘電体層2の厚みをTf、最も幅の狭い電極層3、すなわちWfに対応する電極層3に隣接する誘電体層2の厚みをTfとしたとき、0.85<Tf/Tf<1.15となるように設定されている。
【0026】
なお、幅Wfに対応する電極層3に隣接する誘電体層2の厚みTfとは、幅Wfの電極層3の上下方向に位置する誘電体層2のうち厚みの薄い誘電体層のことを指す。また、幅Wfに対応する電極層3に隣接する誘電体層2の厚みTfとは、幅Wfの電極層3の上下方向に位置する誘電体層2のうち厚みの厚い誘電体層のことを指す。
【0027】
以下、電極層3の幅の比が1.00<Wf/Wf<1.23であり、且つ誘電体層2の厚み比が0.85<Tf/Tf<1.15を実現した積層セラミックコンデンサ1を製造する方法について説明する。
【0028】
先ず、積層工程において、各種グリーンシートを積層し、図3に示すような積層体11を作製する。積層体11は、具体的には、焼成後に誘電体層2を構成する内装グリーンシート22、電極層3を構成する電極前駆体層21、及び外装誘電体層4を構成する外装グリーンシート23を準備し、電極前駆体層21が形成された内装グリーンシート22を複数積層するとともに、その積層方向両側に外装グリーンシート23を単層又は複層で積層することにより作製される。積層体11は、複数の電極前駆体層21と電極前駆体層21に挟まれた内装グリーンシート22とからなる内装部12と、内装部12の周囲に配された外装部13とを有している。
【0029】
本実施形態では、積層体11を作製する際、相対的に厚みの薄い内装グリーンシート22を内装部12の積層方向両端付近に用いる。具体的には、内装グリーンシート22の積層数をn、内装部12の積層方向両端からそれぞれm層目(ただしmは0.05n〜0.25nである。)までに配する内装グリーンシート22の厚みをTg、その他の位置に配する内装グリーンシート22の厚みをTgとしたとき、1.02<Tg/Tg<1.50となる関係を満たすように、内装部12の積層方向両端に厚みの薄い(Tg)内装グリーンシート22を配する。Tg/Tg≧1.50とした場合、静電容量を低下させたり、所望の製品寸法を得られなくなる。
【0030】
Tg/Tg≦1.02の場合、焼成過程で内装部12と外装部13との界面にデラミネーション欠陥が発生し、また、焼成後の積層セラミックコンデンサ1においてショート不良を招く。なお、特開平10−12475号公報及び特開2001−44058号公報においては、Tg/Tg<1とすること、すなわち、外装部付近の誘電体層厚みを中央部に積層された誘電体層厚みより厚くすることが開示されているが、デラミネーション欠陥、ノンラミネーション欠陥、及びショート不良の全てを解消させる技術ではなく、また、薄層化及び多層化を進めた積層セラミックコンデンサにおいては充分な静電容量を得ることができないという問題がある。
【0031】
厚みTgとされた内装グリーンシート22は、内装グリーンシート22の積層数をnとしたとき、内装部12の積層方向両端からそれぞれm層目(ただしmは0.05n〜0.25nである。)までに配することとする。これは、mが前記範囲を外れると、焼成過程でのデラミネーション欠陥抑制効果を得られなくなるからである。
【0032】
内装グリーンシート22は、誘電体層2の原料となる誘電体粉末を含むグリーンシート用塗料を調製し、ドクターブレード法等により支持体としてのキャリアシート上に前記グリーンシート用塗料を塗布し、乾燥させることにより得られる。グリーンシート用塗料は、誘電体層2の原料となる誘電体粉末と有機ビヒクル又は水系ビヒクルとを混練することにより調製される。
【0033】
内装グリーンシート22に用いる誘電体粉末としては、前述の主成分や副成分の酸化物や複合酸化物を用いることができる。また、焼成により酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等からも適宜選択して用いることができる。
【0034】
前記誘電体粉末の平均粒径が大きすぎると、内装グリーンシート22を薄く成膜することが難しくなるため誘電体層2の薄層化が難しくなり、逆に誘電体粉末の平均粒径が小さすぎると、誘電体粉末の比表面積が増大し、焼成時に異常粒成長するおそれがある。したがって、内装グリーンシート22に含まれる誘電体粉末の平均粒径Raは、0.1μm〜1.0μmであることが好ましい。
【0035】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に制限されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、有機ビヒクルに用いる有機溶剤も特に限定されず、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。水系ビヒクルとは、水溶性のバインダや分散剤を水中に溶解したものであり、水溶性バインダとしては特に制限されず、例えばポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂等を用いればよい。
【0036】
電極前駆体層21は、前記内装グリーンシート22の所定領域に電極層3の原料を含む内部電極ペーストを印刷することにより形成される。電極前駆体層21を形成するための内部電極ペーストは、前述した導電材料と、前述した有機ビヒクルとを混練することにより調製される。
【0037】
電極前駆体層21には、共材として誘電体粉末が添加されていてもよく、その場合、添加する誘電体粉末の粒径を以下のように設定することが好ましい。具体的には、内装グリーンシート22に含まれる誘電体粉末の平均粒径をRa、電極前駆体層21に添加する誘電体粉末の平均粒径をRbとしたときに、Rb/Ra≦1/3である関係を満たすように、電極前駆体層21に添加する誘電体粉末を微細化することが好ましい。これは、誘電体層2の厚みが3μm以下、誘電体層2の積層数が150層以上であるように、積層セラミックコンデンサ1の誘電体層2を薄層化及び多層化する場合、電極層3の厚みもこれに対応して例えば1.5μm以下に薄層化しなければならず、そして、電極層3の薄層化に対応するには電極前駆体層21に添加する誘電体粉末も微細化する必要があるからである。
【0038】
外装誘電体層6を形成する外装グリーンシート23は、外装誘電体層6の原料となる誘電体粉末を含む外装グリーンシート用塗料を調製し、ドクターブレード法等により支持体としてのキャリアシート上に前記外装グリーンシート用塗料を塗布し、乾燥させることにより得られる。
【0039】
外装グリーンシート23に含まれる誘電体粉末としては、前述の主成分や副成分の酸化物や複合酸化物、また、焼成により酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等を用いることができるが、内装グリーンシート22と同様の誘電体粉末を用いることもできる。
【0040】
積層工程後、加圧工程を行う。加圧工程では、積層体11に加圧を施し、図4に示すような積層体31を得る。加圧後の積層体31を電極層の幅方向に沿って切断すると、内装部12が積層方向中央付近で若干膨らんだような形状、すなわち、積層方向の中央付近に位置する電極前駆体層21の幅が両端付近に比べて長くなるように変形している。これは、積層方向中央付近に向かうほど圧力が大きく働く関係による。本実施形態では、加圧前の電極前駆体層21の幅を一定とした場合における加圧後の電極前駆体層21の幅を加圧条件の指標とする。
【0041】
本実施形態では、加圧後の積層体31を切断した切断面において、最も狭い電極前駆体層21の幅をWg、最も広い電極前駆体層21の幅をWgとしたとき、1.02<Wg/Wg<1.25となるように、加圧を行う。ただし、加圧前の積層体11においては、Wg/Wg=1.00とする。
【0042】
Wg/Wg≦1.02となる加圧条件では、電極前駆体層21と内装グリーンシート22との接着性が不良となり、ノンラミネーション欠陥を生じさせる。Wg/Wg≧1.25となる加圧条件では、ノンラミネーション欠陥は低減するものの、ショート不良が増加する傾向にある。
【0043】
前記加圧工程後、焼成工程を行い、焼結体(素子本体)を得る。焼成に先立って、脱バインダ処理を行うことが好ましい。また、焼成後、誘電体層2及び外装誘電体層6を再酸化させるための熱処理を行うことが好ましい。脱バインダ処理、焼成及び再酸化のための熱処理は、これらを連続して行ってもよく、それぞれを独立に行ってもよい。
【0044】
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、電極層3の導電材にNi、Ni合金等の卑金属を用いる場合、下記の条件で行うことが好ましい。すなわち、昇温速度を5〜300℃/時間、特に10〜50℃/時間とし、保持温度を200〜400℃、特に250〜340℃とし、保持時間を0.5〜20時間、特に1〜10時間とし、雰囲気を加湿したNとHとの混合ガスとする。
【0045】
焼成は下記の条件で行うことが好ましい。すなわち、昇温速度を50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間とし、保持温度を1100〜1350℃、特に1150〜1300℃とし、保持時間を0.5〜8時間、特に1〜3時間とし、雰囲気を加湿したNとHとの混合ガスとする。
【0046】
焼成に際して、雰囲気中の酸素分圧は、10−2Pa以下とすることが好ましい。前記範囲を上回ると電極層3が酸化するおそれがある。ただし、酸素分圧が低すぎると、電極材料が異常焼結を起こし、電極層3が途切れる傾向にある。したがって、焼成雰囲気の酸素分圧は、10−2Pa〜10−8Paとすることが好ましい。
【0047】
焼成後の熱処理は、保持温度又は最高温度を通常は1000℃以上、好ましくは1000℃〜1100℃として行う。前記範囲未満の場合、誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲を上回ると、電極層3中の導電材(Ni)が酸化し、積層セラミックコンデンサの容量や寿命に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0048】
前記熱処理の雰囲気は焼成よりも高い酸素分圧とし、好ましくは10−3Pa〜1Pa、より好ましくは10−2〜1Paである。前記範囲未満の場合には誘電体層の再酸化が困難となり、逆に前記範囲を上回ると電極層3が酸化するおそれがある。前記熱処理の条件は、保持時間を0〜6時間、特に2〜5時間とし、冷却速度を50〜500℃/時間、特に100〜300℃/時間とし、雰囲気を加湿したNガス等とする。
【0049】
焼成工程後、外部電極形成工程において、素子本体4に外部電極5を形成する。外部電極5は、焼結体にバレル研磨、サンドブラスト等により端面研磨を施し、外部電極用塗料を焼き付けることにより形成すればよい。以上の各工程を行うことにより、積層セラミックコンデンサ1を作製することができる。
【0050】
以上のような製造方法によれば、積層工程において、積層方向両端からm層目までの内装グリーンシート22の厚みTgと、それ以外の内装グリーンシート22の厚みTgとの比を1.02<Tg/Tg<1.50とし、且つ、最も幅広の電極前駆体層21の幅Wgと最も幅狭の電極前駆体層21の幅Wgとの比が1.02<Wg/Wg<1.25となるように加圧することによって、積層方向中央付近の電極前駆体層21の幅が広がり、これを焼成した積層セラミックコンデンサにおいて電極層3の幅の比が1.00<Wf/Wf<1.23となる。また、積層体11の作製に際して内装部12の積層方向両端に薄い内装グリーンシート22を、中央付近に厚い内装グリーンシート22をそれぞれ配置したので、加圧によって内装グリーンシート22の厚みの差は縮小し、これを焼成した積層セラミックコンデンサにおける誘電体層2の厚み比は0.85<Tf/Tf<1.15となる。以上のように積層セラミックコンデンサを作製することで、ショート不良を引き起こすことなく内装グリーンシート22と電極前駆体層21との間の接着性を確保し、ノンラミネーション欠陥発生を抑えることができる。それとともに、焼成過程において外装部7と内装部8との界面でデラミネーション欠陥が発生することを抑えることができる。
【0051】
特に、焼成後の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層の厚みが3μm以下であり、電極層の厚みが1.5μm以下であり、誘電体層の積層数が150層以上である場合、特に効果が大きい。これは、積層セラミックコンデンサの誘電体層の薄層化及び多層化が進むと電極層の構成割合が大きくなり、外装部と内装部との焼結挙動の差が著しくなるからである。なお、ここで誘電体層の厚みが3μm以下であるとは、内装部を構成する誘電体層の厚みの平均値が3μm以下であることをいう。
【0052】
なお、前述の実施形態では積層セラミックコンデンサを例に挙げて説明したが、本発明は積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品全般に適用可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
先ず、誘電体粉末としてBaTiO粉末を含む内装グリーンシート用塗料を使用して、PETフィルム上に乾燥後の厚みが所定の厚みとなるように内装グリーンシートを形成した。この内装グリーンシートの所定領域上に、導電材料としてNiを含む内部電極ペーストを使用して電極前駆体層を印刷した後、PETフィルムからシートを剥離した。一方、誘電体粉末としてBaTiO粉末を含む外装グリーンシート用塗料を使用して、PETフィルム上に乾燥後の厚みが8μmとなるように外装グリーンシートを形成し、PETフィルムからシートを剥離した。
【0054】
次に、電極前駆体層を形成した内装グリーンシートをn層積層するとともに、この積層方向の両側に外装グリーンシートを複数積層し、積層体を作製した。以下の実施例では、内装グリーンシートの積層数nは、160とした。サンプル1〜サンプル3では、厚み2.4μm(Tg)の内装グリーンシートをn層用いて積層体を作製した。サンプル4〜サンプル17では、積層方向両端付近の内装グリーンシートを、厚みTgを有するグリーンシートに変更した。用いた内装グリーンシートの厚みTg(TgとTgの比率で表す。)と、厚みTgなる内装グリーンシートの使用数を表1に示す。なお、表中、シート積層数の項目においては、四捨五入することにより小数点以下の桁数を2桁に揃えて表記した。
【0055】
次に、得られた積層体を加圧した。加圧条件は、加圧後の積層体における最も幅の広い電極前駆体層の幅Wgと、最も幅の狭い電極前駆体層の幅Wgとの比Wg/Wgが表1及び表2に示す値となるように設定した。ただし、サンプル1では加圧処理を行わなかった。なお、加圧前のWg/Wgは、全てのサンプルで1.00に設定してある。
【0056】
加圧後の積層体における電極前駆体層の幅Wgは、以下のように測定した。すなわち、電極前駆体層の幅方向に沿ってグリーンチップを切断し、切断面を研磨した後、研磨面を金属顕微鏡により観察し、観察した画像についてデジタル処理を行うことにより求めた。
【0057】
加圧後の積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを得た後、チップの外観を顕微鏡にて観察し、欠陥の無いチップを脱バインダ処理、焼成及びアニールを行って、焼結体を得た。得られた焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、焼結体の長手方向端面に外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサ試料を得た。得られた積層セラミックコンデンサの寸法は、1.0mm×0.5mm×0.5mmであった。
【0058】
得られた各積層セラミックコンデンサにおける電極層の幅の比Wf/Wf、及び誘電体層の厚み比Tf/Tfを、表1及び表2に示す。電極層の幅Wf及びWfは、具体的には、電極層の幅方向に沿って積層セラミックコンデンサを切断し、切断面を研磨した後、研磨面を金属顕微鏡により観察し、観察した画像についてデジタル処理を行うことによって求めた。誘電体層の厚みTf及びTfは、前記Wfと認定した電極層に隣接する誘電体層の厚みTfと、前記Wfと認定した電極層に隣接する誘電体層の厚みTfとをそれぞれ測定することにより求めた。
【0059】
<評価>
ノンラミネーション欠陥
各サンプルを100個作製したときのノンラミネーション欠陥発生数を調べた。具体的には、グリーンチップについて、電極前駆体層の幅方向に沿って切断し、切断面を研磨した後、研磨面を顕微鏡により観察を行い、内装部と外装部および内装誘電体層、電極前駆体層の界面にノンラミネーション欠陥が確認されたものを欠陥ありとした。
【0060】
デラミネーション欠陥
各サンプルを100個作製したときのデラミネーション欠陥発生数を調べた。外部電極形成前の焼成済み試料について電極層の幅方向に沿って積層セラミックコンデンサを切断し、切断面を研磨した後、研磨面を顕微鏡観察したときに、内装部と外装部との界面にデラミネーション欠陥が確認されたものを欠陥有りとした。
【0061】
ショート不良
各サンプルを50個作製したときのショート不良発生数を調べた。具体的には、各サンプルを抵抗計にて抵抗値を測定し、1MΩ以下であったものをショート不良とした。
【0062】
容量低下−10%以上
各積層セラミックコンデンサについて、容量低下の有無を調べた。容量低下ありとは、具体的には、25℃においてデジタルLCRメータにて1kHz、1.0Vrmsの条件で、1000個の試料の静電容量を測定し、サンプルNo.1における1000個の測定結果の平均を平均容量とし、平均容量に対して−10%以下の容量である積層セラミックコンデンサ試料のサンプルを容量低下ありとした。
【0063】
以上のサンプルの評価結果を、表1に示す。表1は、加圧条件を一定とし、内装グリーンシートの厚み比Tg/Tgを変化させた結果である。表2は、内装グリーンシートの厚み比Tg/Tgを一定とし、加圧条件を変化させた結果である。表3は、厚みTgの内装グリーンシートの積層数を変化させたときの結果である。表中、本発明の範囲外のサンプルには*印を付した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、全て同じ厚みの内装グリーンシートを用い、且つ加圧を行わない場合においては、ノンラミネーション欠陥及びデラミネーション欠陥のいずれも多発した(サンプル1)。また、全て同じ厚みの内装グリーンシートを用いた場合においては、ノンラミネーション欠陥を解消する程度に加圧を行ったとしても、デラミネーション欠陥を完全に解消することはできず、加圧力を高めるにつれてショート不良が増加する傾向を示した(サンプル2,サンプル3)。
【0066】
これに対し、サンプル14〜サンプル17に示すように、積層体を加圧することによりノンラミネーション欠陥及びデラミネーション欠陥ともに改善する傾向を示した。ただし、加圧が不充分であるとノンラミネーション欠陥の完全な解消には至らず、逆に加圧を強めると、ショート不良の発生を招いた。このことから、サンプル15〜サンプル16の加圧条件が適正であるとわかる。
【0067】
一方、積層方向両端付近に配する内装グリーンシートの厚みTgとその他の内装グリーンシートの厚みTgとの比は、小さすぎる場合にはデラミネーション欠陥を完全に解消することができず(サンプル4)、逆に、比Tg/Tgを大きくしすぎると、容量低下が生じた(サンプル8)ため、サンプル5〜サンプル7が適正であるとわかる。
【0068】
また、サンプル9〜サンプル13に着目すると、厚みTgを有する薄い内装グリーンシートの積層数mを0.05n〜0.25n層とすることによって、デラミネーション欠陥の発生が確実に解消可能されている。
【0069】
以上のように、内装部の積層方向両端からそれぞれ0.05n〜0.25n層目に配置する内装グリーンシートの厚みTgを、1.02<Tg/Tg<1.50の関係を満たすように設定するとともに、電極前駆体層の幅比が1.02<Wg/Wg<1.25の関係を満たすように加圧を行うことにより、積層セラミックコンデンサにおける電極層幅比が1.00<Wf/Wf<1.23となり、且つ誘電体層厚みの比が0.85<Tf/Tf<1.15となった。このような条件で積層セラミック電子部品を作製し、焼成後のWf/Wf及びTf/Tfを前記範囲内とすることで、ノンラミネーション欠陥とショート不良とを両方とも抑制し、さらにはデラミネーション欠陥の発生を確実に抑えることが可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明により製造される積層セラミックコンデンサの一例を示す要部断面図である。
【図2】図1の積層セラミックコンデンサのX−X線(幅方向)に沿った断面図である。
【図3】加圧前の積層体の幅方向に沿った要部断面図である。
【図4】加圧後の積層体の幅方向に沿った要部断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 積層セラミックコンデンサ、2 誘電体層、3 電極層、4 素子本体、5 外部電極、6 外装誘電体層、7 外装部、8 内装部、11 積層体、12 内装部、13 外装部、21 電極前駆体層、22 内装グリーンシート、23 外装グリーンシート、31 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と電極層とが交互に積層されてなる内装部と、前記内装部の積層方向両側に配された外装誘電体層とを有する積層セラミック電子部品であって、
前記電極層のうち最も広い電極層幅をWf、最も狭い電極層幅をWfとしたとき、1.00<Wf/Wf<1.23であり、
且つ、前記幅Wfを有する電極層に隣接する誘電体層の厚みをTf、前記幅Wfを有する電極層に隣接する誘電体層の厚みをTfとしたとき、0.85<Tf/Tf<1.15であることを特徴とする積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層の積層数が150層以上、前記誘電体層の厚みが3μm以下、且つ、前記電極層の厚みが1.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記内装部と前記外装誘電体層とにより素子本体が形成され、前記素子本体において、前記内装部の幅方向両側に無電極領域が配されていることを特徴とする請求項1又は2記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
誘電体粉末を含む内装グリーンシートと導電材料を含む電極前駆体層とを交互に積層して内装部を形成するとともに、前記内装部の積層方向両側に外装グリーンシートを積層して積層体を得、前記積層体を加圧した後、焼成することにより、誘電体層と電極層とが交互に積層されてなる積層セラミック電子部品を製造するに際し、
前記内装グリーンシートの積層数をn、前記内装部の積層方向両端からそれぞれm層目(ただしmは0.05n〜0.25nである。)までに配する内装グリーンシートの厚みをTg、その他の位置に配する内装グリーンシートの厚みをTgとしたとき、1.02<Tg/Tg<1.50となる関係を満たす内装グリーンシートを用いるとともに、
前記加圧後の積層体において、前記電極前駆体層のうち最も狭い電極前駆体層幅をWg、最も広い電極前駆体層幅をWgとしたとき、1.02<Wg/Wg<1.25となるように前記加圧を行うことを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
焼成後の積層セラミック電子部品において、前記誘電体層の積層数を150層以上とし、前記誘電体層の厚みを3μm以下とし、且つ、前記電極層の厚みを1.5μm以下とすることを特徴とする請求項4記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記内装グリーンシートの面積よりも前記電極前駆体層の面積を小とするとともに、焼成後の前記内装部の幅方向両側に無電極領域が形成されるようにすることを特徴とする請求項4又は5記載の積層セラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−258279(P2007−258279A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77744(P2006−77744)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】