説明

積層フィルム

【課題】
本発明は、実質的にハロゲン系難燃剤を含まずに、各積層膜の接着性に優れ、耐熱性、難燃性優れた積層フィルムを提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明の積層フィルムは、本発明の積層フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの両面に、リン系難燃剤と窒素系難燃剤を必須成分とする難燃性樹脂組成物からなるアンカーコート層とポリイミドを主成分とする樹脂層をこの順に積層せしめてなる少なくとも5層からなる構造としたことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、難燃性に優れた積層フィルムに関する。特に積層膜とフィルムとの密着力の高い積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステルフィルムやポリオレフィンフィルムなどの熱可塑性樹脂フィルムは、その透明性、機械的特性、電気的特性などから磁気記録材料、電気絶縁材料、コンデンサ用材料、包装材料、写真、グラフィック、感熱転写などの各種工業材料として使用されている。しかし、熱可塑性樹脂フィルムには、熱によって軟化あるいは溶融し、かつ燃焼しやすいなどの耐熱性、難燃性に関する欠点があった。
【0003】
そのため、熱可塑性樹脂フィルムの耐熱性、難燃性を向上させる方法として、従来からハロゲン系難燃剤、含水無機化合物などを熱可塑性樹脂中に含有させフィルム化する方法や、これらを含有する組成物をフィルム表面に塗布などで積層する方法、あるいはポリイミドフィルムなどの難燃性フィルムを張り合わせるなどの方法が知られている。また近年、脱ハロゲン化合物での難燃性を目的として、リン系化合物と熱可塑性樹脂を共重合したり、リン系化合物を含む重合体を添加するなどの方法が提案されている(例えば、特許文献1−4参照)。
【0004】
また、ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等の耐熱樹脂溶液を熱可塑性樹脂フィルムに塗布、乾燥して、耐熱樹脂層を積層させることで、熱可塑性樹脂フィルムの耐熱性、難燃性を向上させる方法も知られている。ところが、これらの樹脂は、熱可塑性樹脂フィルムとの接着力が十分とはいえず、フィルムを使用する際の加工処理などにおいて、積層した樹脂層が剥離してしまうなどの問題が生じていた。そこで、接着力を向上させる目的で耐熱樹脂溶液中に接着性樹脂成分を添加する方法などが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平5−65339号公報(第1−3頁)
【特許文献2】特開平7−82358号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開平8−73720号公報(第1−3頁)
【特許文献4】特開平8−157584号公報(第1−3頁)
【特許文献5】特公平5−71398号公報(第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のかかるハロゲン系難燃剤、含水無機化合物、リン系化合物を用いた方法では、いずれも耐熱性が不足して、熱により簡単に熱可塑性樹脂フィルムが変形する問題があった。また、ポリイミドフィルムのような難燃性フィルムの張り合わせ品は、燃焼粒の滴下防止には効果があるものの、貼り合わせるフィルムの厚みを厚くしなければ難燃効果が発現しないため、生産性やコストの面で問題があった。
【0006】
また、特許文献5の技術を用いても、熱可塑性樹脂フィルムと耐熱樹脂層との接着力は、満足できるものではなかった。さらに接着力を上げようとして接着性樹脂成分を添加すると、耐熱樹脂層の耐熱性、難燃性が損なわれるなどの問題が生じていた。
【0007】
本発明は、これら従来技術の背景に鑑み、各積層膜の接着性に優れ、耐熱性、難燃性に優れた積層フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の積層フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの両面に、リン系難燃剤及び/又は窒素系難燃剤を必須成分とする難燃性樹脂組成物からなるアンカーコート層とポリイミドを主成分とする樹脂層をこの順に積層せしめてなる少なくとも5層からなる構造としたことを特徴とするものである。かかる積層フィルムの好ましい態様は、
(i)該リン系難燃剤が、分子内にリンを含有するエポキシ樹脂であること、
(ii)該分子内にリンを含有するエポキシ樹脂が、下記一般式(1)または(2)で表される構造を分子内に有するものを含むこと、
【0009】
【化1】

【0010】
(iii)該分子内にリンを含有するエポキシ樹脂が、ノボラック型エポキシ樹脂であること、
(iv)該窒素系難燃剤が、トリアジン変性ノボラック樹脂であること、
(v)該難燃性樹脂組成物が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂を更に含有するものであること、
(vi)該難燃性樹脂組成物が、カルボキシル基含有アクリルニトリルブタジエンゴムを更に含有するものであること、
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱可塑性フィルムの両面に難燃性、耐熱性、接着性に優れたアンカーコート層と樹脂層を積層しているため、燃えにくく、熱に強いフィルムを低コストで作製することができる。特に難燃化については、本発明によれば、実質的にハロゲンを含まない難燃剤でも、良好な難燃性を示すことができるため、地球環境衛生に優れたフィルムを提供することができ、特に電子部品、電気絶縁用途等に広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、前記課題、つまり各積層膜の接着性に優れ、耐熱性、難燃性にも優れた積層フィルムについて、鋭意検討し、特定な難燃剤を含有するアンカーコート層と特定な樹脂層を熱可塑性フィルムの両面に積層してみたところ、かかる課題を一挙に解決をすることを究明することができたものである。
【0013】
本発明の積層フィルムにおける熱可塑性樹脂フィルムとは、溶融押し出し可能な熱可塑性樹脂から製造されたフィルムであれば特に限定されない。かかる熱可塑性樹脂としては、たとえばポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネートなどを使用することができるが、好ましくはポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィドであり、これらの中でも、ポリエステルからなるフィルムが、さらに透明性、寸法安定性、機械的特性などの点で好ましく使用される。かかるポリエステルとしては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどが、さらに好ましく使用され、かかるポリエステルは2種以上を混合して用いてもよい。また、かかるポリエステルは、さらに他のジカルボン酸成分やジオール成分が共重合されたものであってもよい。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂として、上述したポリエステルを使用する場合には、その極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は0.4〜1.2dl/gが好ましく、0.5〜0.8dl/gであることがより好ましい。
【0015】
また かかる熱可塑性樹脂フィルム中には、本発明の効果が阻害されない範囲内で、各種の添加剤や樹脂組成物、架橋剤などが含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機,無機の粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、難燃剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化、アルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを用いることができる。
【0016】
これらの中でも無機の粒子、例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末などを添加した場合には、易滑性、耐傷性などが向上するので好ましい。かかる無機粒子の平均粒子径は好ましくは0.005〜5μm、より好ましくは0.05〜1μmであるのが前記易滑性、耐傷性の効果の上からよい。また、その添加量は、好ましくは0.05〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%であるのが、前記効果の上からよい。
【0017】
また、本発明の効果をより効果的に発現させるために各種難燃性化合物を添加したり、あるいは、リン系化合物との共重合体を用いるのが好ましい。添加する難燃剤としては、たとえば三酸化アンチモン、酸化スズ、酸化モリブデン、ホウ酸亜鉛、各水酸化アルミニウムなどの種金属水酸化物、フッ素、臭素、塩素などのハロゲン元素を含有したもの、リン化合物などが用いられる。これらの中でも、特に非ハロゲン(ハロゲンを含まない)系難燃剤は環境に対する負荷も小さく、より好ましい。
【0018】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、二軸配向されたものであることが、機械的強度や寸法安定性などの点で好ましい。二軸配向しているとは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものを言い、例えば、未延伸、すなわち結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ2.5〜5.0倍程度延伸し、その後熱処理することにより、結晶配向を完了させたものである。熱可塑性樹脂フィルムが二軸配向していない場合には、本発明の積層フィルムの寸法安定性、特に、高温、高湿下での寸法安定性や機械的強度が不十分であったり、平面性が悪化することがある。
【0019】
また、かかる熱可塑性樹脂フィルムとしては、内層と表層の2層以上から成る複合体フィルムであってもよい。かかる熱可塑性フィルムの膜厚は、好ましくは5〜500μm程度であり、用途に応じて適宜選択されて使用される。例えば、かかる複合体フィルムの好ましい態様として、内層は実質的に粒子を含有せず、表層に粒子を含有する層を設けた複合体フィルム、内層は粗大粒子を含有し、表層に微細粒子を含有する層を複合させた複合体フィルム、内層が微細な気泡を含有した層であって表層は実質的に気泡を含有しない層である複合体フィルムなどが挙げられる。また、上記複合体フィルムは、内層と表層が異種のポリマーであっても同種のポリマーであってもよい。
【0020】
また、かかる熱可塑性フィルムの表面を改質するために、予め熱可塑性フィルムにコロナ処理、プラズマ処理、サンドブラスト処理、プライマー処理等を施し、濡れ性改善や接着力の強化を図ることができるので好ましい。
【0021】
次に、本発明のアンカーコート層について説明する。本発明の積層フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの両面に、リン系難燃剤及び/又は窒素系難燃剤を必須成分とする難燃性樹脂組成物からなるアンカーコート層とポリイミドを主成分とする樹脂層がこの順に積層されてなることを特徴とする積層フィルムである。かかるアンカーコート層の膜厚は、0.01〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜2μm、さらに好ましくは0.1〜1μmである。アンカーコート層の膜厚がこの範囲より厚いと、積層フィルムの耐熱性、難燃性が低下し、好ましくない。また薄すぎると、熱可塑性フィルムと樹脂層の接着力が低下し、好ましくない。
【0022】
本発明のアンカーコート層に用いられる難燃性樹脂組成物について説明する。本発明のアンカーコートに用いられる必須の難燃剤の1つであるリン系難燃剤としては、赤リンやポリリン酸、リン酸エステル、リン酸アミド、各種反応型リン化合物が挙げられる。この中でも、有機系のリン系難燃剤が好ましい。高い難燃効果を有するリンは、吸湿性を併せ持つため、アンカーコート層中に含まれる量を出来るだけ少量にして、かつ、燃えにくい化学構造を有する化合物とすることが好ましい。そのため、ポリマー骨格内にリンを固定できる反応型リン系難燃剤がより好ましい。ポリマーとしては、熱可塑性樹脂フィルム及びポリイミドを主成分とする樹脂層との接着性が高く、また高い耐熱性を有することから、エポキシ樹脂を用いることが特に好ましい。分子内にリンを含有するエポキシ樹脂としては、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドやその誘導体と、1,4−ベンゾキノン、1,2−ベンゾキノン、トルキノン、1,4−ナフトキノン等が反応して得られる化合物に、エポキシ樹脂を予め反応させたもの等が挙げられる。これらの中でも、分子内にリンを含有するエポキシ樹脂としては、下記一般式(1)又は(2)の構造単位を分子内に有するものであることがより好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
かかる一般式(1)又は(2)の構造単位を分子内に有するリン含有エポキシ樹脂を用いた難燃性樹脂組成物は、接着性、耐熱性の点からもより好ましく、熱硬化後の硬化物のガラス転位温度(Tg)が高く、機械特性(屈曲特性)、特に高温環境下での高耐熱、高屈曲特性が良好である。かかる難燃性樹脂組成物の硬化後のガラス転位温度(Tg)は、80℃より高いものであることが好ましい。かかるガラス転移温度が80℃以下では、例えば、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、フラットケーブル、面状発熱体やモーター、電子部品等の絶縁材料等に使用された場合、車載用途など過酷な使用条件下では温度が80℃程度まで上昇することがあるため、密着力、機械強度、屈曲特性の低下を招く。ここでいう熱硬化後とは、アンカーコート層を塗工した後、所定のキュアを行って少なくともアンカーコート層の硬化反応が80%以上進行した状態のことをいう。また硬化反応の進行は示差走査熱量計法(DSC法)での発熱量測定によって判断することができる。アンカーコート用難燃性樹脂組成物を室温で乾燥し、室温から硬化反応が終了する温度(例えば200℃)まで昇温させ、硬化反応熱量A(J/g)を測定する。この後、所定のキュアを終了したアンカー層を同様にして硬化反応熱量B(J/g)を測定し、反応率=100×B/A(%)を求めることができる。
【0025】
上記構造単位を分子内にリンを含有するエポキシ樹脂とは、単純な反応型リン系難燃剤である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、レゾルシルジフェニルフォスフェート、フェニルホスフィン酸、ジフェニルフォスフィン酸等を含むようなものとは異なり、該エポキシ樹脂中の構造単位としてリンを含んでいるものを意味するものである。そのため、上記分子内にリンを含有するエポキシ樹脂を接着剤組成物のベースとなるエポキシ樹脂として反応させることによって、接着剤の基本性能である接着力等をコントロールし易く、また未反応のリン化合物を残すことなく、かつ確実にリンを樹脂マトリックス中に固定することができる。そのため、単純な反応型リン系難燃剤にくらべて吸水率がより小さく、これを含む樹脂組成物も吸湿しにくいほか、リンの加水分解による弊害もほとんどない。単純な反応型リン系難燃剤のように、樹脂中で加水分解などの影響を受けて未反応のリン系難燃剤が存在したり、遊離のリンなどを発生する場合は、過酷な使用条件下、例えば80℃以上の高温で、リンが溶出してくることが懸念されるが、上記構造単位として分子内にリンを含有するエポキシ樹脂を使用することにより、はじめてそのような問題を回避・解決することに成功したものである。
【0026】
さらに単純な反応型リン系難燃剤やリン酸エステルなどの添加型リン系難燃剤を用いた場合、難燃性樹脂組成物中に含まれるリン含有量が多いと、アンカーコート層の粘着性が強くなり、ポリイミドを主成分とする樹脂層の加工に悪影響を及ぼすが、前記構造単位として分子内にリンを含有するエポキシ樹脂を用いた場合は、そのような問題を生じない。そのため、本発明の難燃性樹脂組成物をアンカーコート層として用いることにより、良好な耐熱性、接着強度、高絶縁性及び易加工性を同時に満足に達成することができたものである。
【0027】
かかる構造単位を分子内にリンを含有するエポキシ樹脂としては、エポキシ基を分子中に少なくとも2個以上含むものであれば使用することができるが、非臭素化エポキシ樹脂であることが好ましく使用される。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシノール、ジヒドロキシナフタレン、ジシクロペンタジエンジフェノール等のジグリシジルエーテル、エポキシ化フェノールノボラック、エポキシ化クレゾールノボラック、エポキシ化クレゾールノボラック、エポキシ化トリスフェニロールメタン、エポキシ化テトラフェニロールエタン等の脂環式エポキシ樹脂、あるいはビフェノール型エポキシ樹脂あるいはノボラック型エポキシ樹脂などが好ましく使用される。これらの中でも難燃性に対する効果を高めるために、ノボラック型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0028】
また、本発明のアンカーコート層に用いられる難燃性樹脂組成物には、リン含有エポキシ樹脂とは別に、リンを含有しないエポキシ樹脂として、非臭素化エポキシ樹脂であって、エポキシ基を分子中に少なくとも2個以上含むものを添加することができる。その種類は特に限定されないが、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシノール、ジヒドロキシナフタレン、ジシクロペンタジエンジフェノール等のジグリシジルエーテル、エポキシ化フェノールノボラック、エポキシ化クレゾールノボラック、エポキシ化クレゾールノボラック、エポキシ化トリスフェニロールメタン、エポキシ化テトラフェニロールエタン等の脂環式エポキシ樹脂、あるいはビフェノール型エポキシ樹脂あるいはノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特に接着剤層の柔軟性を向上させ、接着力を向上させる上で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0029】
また本発明のアンカーコート層に用いられる難燃性樹脂組成物中のリン含有量としては、2重量%から10重量%が好ましく、3重量%から7重量%がより好ましい。2重量%未満では十分な難燃性が得られない場合があり、10重量%より多くなると硬化後のエポキシ樹脂の架橋密度が低下すること等により耐熱性、接着性などの物性が低下する傾向がある。なお、上記リン含有量は元素分析法で測定することができる。例えば、難燃性樹脂を強酸で分解させ、ICP発光分析法でリンの含有量を定量する。また、リン含有エポキシ樹脂だけで所定のリン含有量を確保できない場合には、リン含有エポキシ樹脂のもつ優れた特性を失わない範囲内で、別の反応型リン化合物を添加することはなんら制限されない。アンカーコート層として用いた際に、安定した耐熱性、接着強度、高絶縁性及び易加工性を達成するためにはリン含有量の内の少なくとも12%以上がリン含有エポキシ樹脂由来のリンであることが好ましい。
【0030】
本発明のアンカーコート層に用いられる必須の難燃剤の1つである窒素系難燃剤としては、メラミンやその誘導体であるメラミンシアヌレート、メラミンフォスフェート、メラム、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、トリアジン変性フェノールノボラック樹脂などが挙げられる。この中でも、有機溶媒に可溶で、他の樹脂との相溶性に優れており、かつ窒素含有量の調整が容易なことからトリアジン変性フェノールノボラック樹脂が特に好ましい。かかるトリアジン変性フェノールノボラック樹脂としては、例えば、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0031】
【化3】

【0032】
かかる窒素系難燃剤の難燃性効果を高めるために、該トリアジン変性フェノールノボラック樹脂中の窒素含有量は、好ましくは少なくとも8重量%、より好ましくは12重量%以上のものがよい。
【0033】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、硬化剤として、芳香族ポリアミンである3,3´5,5´−テトラメチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、3,3´5,5´−テトラエチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、3,3´−ジメチル−5,5´−ジエチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、3,3´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、2,2´3,3´−テトラクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、4,4´−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3´−ジアミノベンゾフェノン、3,3´−ジアミノジフェニルスルホン、4,4´−ジアミノジフェニルスルホン、3,4´−ジアミノジフェニルスルホン、4,4´−ジアミノベンゾフェノン、3,4,4´−トリアミノジフェニルスルホン等やフェノールノボラック樹脂などを更に添加配合して用いても良い。さらにはフェノールアラルキル樹脂、ナフタレンアラルキル樹脂なども、吸水率を低くしたり、難燃性を高めるために添加配合して用いることはより好ましいことである。
【0034】
また、必要に応じて硬化促進剤を添加することができる。硬化促進剤としては三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯体等の三フッ化ホウ素のアミン錯体、2−アルキル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−アルキルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、無水フタル酸、無水トリメリット酸等の有機酸、ジシアンジアミド等が挙げられ、これらを単独または2種以上混合して用いても良い。
【0035】
また本発明の難燃性樹脂組成物中の窒素含有量としては0.5重量%から10重量%が好ましく、1重量%から8重量%がより好ましい。0.5重量%未満では十分な難燃性が得られないことがあり、10重量%より多くなると硬化後の吸湿性が高くなり、耐熱性、接着性などの物性が低下する傾向がある。なお、上記窒素含有量は元素分析法で測定することができる。すなわち難燃性樹脂組成物を熱分解させ、窒素成分はNガスに分解し、ガスクロマトグラフィー法で定量化する。
【0036】
本発明のアンカーコート層は、リン系難燃剤又は窒素系難燃剤を必須成分としており、特にリン系難燃剤と窒素系難燃剤の両方を混合して用いるのがより好ましい。リン系難燃剤は炭化促進、酸素濃度希釈効果により、高い難燃性を示すが、高濃度に添加すると吸湿性が高く、電気絶縁抵抗が低くなるという欠点もある。一方、窒素系難燃剤は不燃性ガス放出による酸素濃度希釈効果による燃焼抑制により難燃性を示すと考えられており、リン系難燃剤と窒素系難燃剤を組み合わせて使うのが、より好ましい。
【0037】
本発明のアンカーコート層は、難燃性樹脂を有機溶剤に溶解させ、各種塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などにより塗布して形成することができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン系、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン等の非プロトン系極性溶剤の単独あるいは混合物が好ましく用いられる。
【0038】
この他に、本発明の難燃性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂フィルムとポリイミドを主成分とする樹脂層との接着性を向上させるために、エラストマー成分としてカルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム(以下NBR−Cと称する)を含むことが好ましく、例えばアクリロニトリルとブタジエンを約10/90〜50/50のモル比で共重合させた共重合ゴムの末端基をカルボキシル化したもの、あるいはアクリロニトリル、ブタジエンとアクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有重合性単量体の三元共重合ゴムなどを添加配合するのが好ましい。かかるカルボキシル基含有量は1〜8モル%が好ましい。1モル%未満ではエポキシ樹脂との反応点が少なく、最終的に得られる硬化物の耐熱性が劣る傾向がある。一方、8モル%を越えると、塗布の際に接着剤溶液とした場合の粘度増加および安定性の低下を招く傾向がある。アクリロニトリル量は10〜50モル%が好ましく、10モル%未満では硬化物の耐薬品性が悪くなる傾向がある。一方、50モル%を越えると通常の溶剤に溶解しにくくなるので、生産性の低下につながる。
【0039】
具体的なNBR−Cとしては、PNR−1H(日本合成ゴム(株)製)、“ニポール”(R)1072J、“ニポール”DN612、“ニポール”DN631(以上日本ゼオン(株)製)、“ハイカー”(R)CTBN(BFグッドリッチ社製)等がある。上記のNBR−Cと全エポキシ樹脂との配合割合は、NBR−Cが100重量部に対してエポキシ樹脂50〜600重量部が好ましい。50重量部未満ではアンカーコート層に使用した場合の耐熱性の低下を招く傾向がある。また、600重量部を越えると接着性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0040】
一方、本発明のアンカーコート層の中には、本発明の効果が阻害されない範囲内で、各種の無機系添加剤を添加配合してもよい。例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カルシウム・アルミネート水和物、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、ジルコニウム系難燃剤、モリブデン系難燃剤などであり、これらを添加した場合には、易滑性、耐傷性、耐熱性、難燃性などが向上するので好ましい。特に難燃性の点で水酸化アルミニウムが好ましい。無機粒子の平均粒子径は、0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜1μmである。また、その添加量は、0.05〜90重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜60重量%、特に好ましくは0.5〜40重量%である。かかる平均粒子径や添加量は、前記効果を好都合に発揮させる上から選択されるものである。
【0041】
さらに、アンカーコート層の特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、イオン捕捉剤、シリコーン系化合物等の有機、無機成分を添加することができる。
【0042】
次に、本発明のポリイミドを主成分とする樹脂層について説明する。本発明の積層フィルムは、前記難燃性樹脂組成物からなるアンカーコート層と、以下に説明するポリイミドを主成分とする樹脂層が、熱可塑性樹脂フィルムの両面に、該アンカーコート層/該樹脂層の順に積層された積層フィルムである。かかる樹脂層の膜厚は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは0.7〜3μmである。かかる樹脂層の膜厚がこの範囲より厚いと、生産性が低下したり、樹脂層の応力により積層フィルムがカールしたり、難燃性が低下する傾向があり、また、この範囲より薄いと、耐熱性、密着性が低下する傾向が出てくる。
【0043】
本発明において、かかる樹脂層に用いられるポリイミドとしては、については特に限定されないが、一般には、有機溶剤に可溶なポリアミド酸の溶液を塗布、乾燥した後、さらに熱処理によりアミド基とカルボキシル基を脱水閉環させ、イミド化せしめるのが好ましい。本発明の樹脂層に用いられるポリイミドは、ポリアミド酸のイミド化率が50%以上であることが好ましい。イミド化率が50%未満であると、耐熱性、難燃性の機能を十分に発現することができず、好ましくない。イミド化率は、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0044】
ここで言うイミド化率とは、ポリアミド酸中のアミド基とカルボキシル基の間で脱水閉環反応が起こり、イミド基となっている割合のことである。このイミド化率を測定する方法としては特に限定されないが、本発明では、樹脂層の赤外吸収スペクトルを赤外分光光度計を用いてATR法によって測定し、そのとき1400cm−1から1300cm−1に現れるイミド基の特性吸収の強度から求める方法を用いて計算する。
【0045】
本発明の樹脂層に使用されるポリイミドの種類は、耐熱性、難燃性などの点から、ポリアミド酸としては、下記式(4)および/または(5)で表される単位構造が全単位構造中の70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上含まれるのが好ましい。70モル%以上にすることにより、耐熱性、難燃性の効果が著しく向上し、樹脂層の積層膜厚を薄くすることができ、アミド酸合成時の原料コストを安くできるなど、生産性やコスト面で優位になり、特に好ましい。
【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
式(4)、(5)中のRは、下記式(6) の中から選ばれる少なくとも1種の基であり、ここで、式(6)中のX、Yは、O,CH,CO,SO,S,C(CHの中から選ばれる少なくとも1種の基である。
【0049】
【化6】

【0050】
さらに、上記式(4)および/または(5)で表される構造単位のうち、下記式(7)で表される構造単位を有するポリアミド酸は、耐熱性、難燃性、生産性、コストなどの面で特に優れており、下記式(7)で表される構造単位を70モル%以上含有することが好ましく、下記式(7)で表される構造単位を90モル%以上含有することが特に好ましい。
【0051】
【化7】

【0052】
これらのポリアミド酸樹脂の溶剤としては、たとえばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスフォルアミド等のアミド系溶媒、γ−ブチロラクタム等のラクタム系溶媒などが用いられる。
【0053】
本発明の樹脂層としてポリアミド酸溶液を塗布して形成する場合、該溶液中には、下記式(8)で示されるヒドロキシピリジン系化合物、下記式(9)で示されるイミダゾ−ル系化合物、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシフェニル酢酸、p−フェノールスルホン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物が、ポリアミド酸の繰り返し単位に対して1モル%以上含まれていることが好ましい。
【0054】
【化8】

【0055】
式中、R1、R2、R3、R4およびR5のうち少なくとも1つは水酸基を示し、その他は、それぞれ水素原子、脂肪族基、芳香族基、シクロアルキル基、アラルキル基、ホルミル基のいずれかを示す。
【0056】
【化9】

【0057】
式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、脂肪族基、芳香族基、シクロアルキル基、アラルキル基、ホルミル基のいずれかを示す。R1、R2、R3およびR4としては、例えば、脂肪族基の場合は炭素数1〜17のアルキル基、ビニル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基が好ましく、芳香族基の場合はフェニル基が好ましく、アラルキル基の場合はベンジル基が好ましい。
【0058】
上記式(8)で示されるヒドロキシピリジン系化合物、式(9)で示されるイミダゾ−ル系化合物、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシフェニル酢酸、p−フェノールスルホン酸には、アミド酸成分の脱水閉環促進効果があることから、これらの化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が添加されていると、添加しない場合よりも低温、短時間の熱処理でイミド化率を上げることができるので、生産効率が良くなり好ましい。
【0059】
式(8)のヒドロキシピリジン系化合物の具体例としては、2−ヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシ−6−メチルピリジン、3−ヒドロキシ−2−メチルピリジンなどが挙げられる。
【0060】
式(9)のイミダゾール系化合物の具体例としては、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、1−ヒドロキシエチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ベンジルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、4−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ブチル−4−ホルミルイミダゾール、2,4−ジフェニルイミダゾール、4,5−ジメチルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2,5−トリメチルイミダゾール、1,4,5−トリメチルイミダゾール、1−メチル−4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチル−4,5−ジフェニルイミダゾール、2,4,5−トリメチルイミダゾール、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
【0061】
これらの化合物の添加量は、より好ましくはポリアミド酸の繰り返し単位に対して10モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。添加量がポリアミド酸の繰り返し単位に対して1モル%未満であると低温、短時間でイミド化率を上げる効果が得られにくい。添加量の上限は特に規定されないが、ポリアミド酸の繰り返し単位に対して300モル%以下であることが好ましい。300モル%を越えて添加しても効果を著しく向上させるものではなく、逆に使用量が多くなることによりコスト面で不利益になることがある。
【0062】
本発明の樹脂層には、ポリイミド樹脂成分以外の樹脂や有機化合物等が、共重合や混合により含有されていてもよい。ポリイミド樹脂成分以外の樹脂や有機化合物としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、各種難燃剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化、アルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを用いることができる。特に、絶縁性材料が好ましい。しかし、ポリイミド樹脂成分以外の樹脂や有機化合物等が過度に含有される場合は耐熱性、難燃性の低下などを招くことがあり、かかる理由から、本発明におけるポリイミドを主成分とする樹脂層とは、樹脂層中におけるイミド化率50%以上のポリアミド酸樹脂の含有量が70重量%以上である。より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0063】
一方、本発明の樹脂層の中には、本発明の効果が阻害されない範囲内で、各種の無機系添加剤を添加配合してもよい。例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カルシウム・アルミネート水和物、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、ジルコニウム系難燃剤、モリブデン系難燃剤などであり、これらの無機系添加剤は、易滑性、耐傷性、耐熱性、難燃性などが向上するので好ましい。かかる無機粒子の平均粒子径は0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜1μmである。また、その添加量は、0.05〜60重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは0.5〜20重量%である。
【0064】
また、本発明の積層フィルムにおいて、該樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合は、0.3%以上30%以下であることが好ましい。より好ましくは1%以上15%以下、特に好ましくは2%以上10%以下である。ここで、かかる樹脂層の厚みは、両面の樹脂層の合計厚みである。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合が0.3%未満であると、耐熱性、難燃性の効果が十分に発揮されないなどの問題が生じ、好ましくない。また、樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合が30%を越えると、生産性が低下すること、また原料価格が高くなる傾向になり、好ましくない。
【0065】
本発明において、ポリアミド酸溶液の塗布方法は公知の各種塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0066】
この後、熱処理によりポリアミド酸中のアミド基とカルボキシル基を脱水閉環させ、イミド化する。熱処理方法は、好ましくは150℃以上の熱風又は遠赤外線等により加熱処理して脱水閉環させる方法が好適に用いられる。かかる加熱処理の温度条件としては、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。加熱処理時間は、1秒から120秒が好ましく、より好ましくは5秒から60秒、さらに好ましくは10秒から30秒である。これより温度が低かったり、加熱処理時間が短いとイミド化率が低くなり、好ましくない。また、加熱処理時間がこれより長くなると生産性が悪くなり、好ましくない。加熱処理は、樹脂層形成後、その都度行っても良いが、両面の樹脂層を形成後、一括して行っても良い。
【0067】
このようにして得られた本発明の積層フィルムは、耐熱性、難燃性に優れており、かつ各層の接着性にも優れているため、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、フラットケーブル、面状発熱体やモーター、電子部品等の絶縁材料として好適に使用することができる。これ以外のも、包装材料、建築材料、コンデンサー材料、磁気記録材料等各種工業材料として好適に使用できる。
【0068】
また、本発明の積層フィルムは、熱可塑性フィルム、アンカーコート層、樹脂層の各材料に非ハロゲン化物を用いることにより、環境に優しい難燃性フィルムとして、特に有用である。
【0069】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。
【0070】
(1)アンカーコート層、樹脂層、及び積層フィルム全体の厚み:
(株)日立製作所製の透過型電子顕微鏡HU−12型を用い、アンカーコート層、樹脂層を設けた積層フィルムの断面を観察した写真から、一方の面のアンカーコート層の厚み、樹脂層の厚み、もう一方の面のアンカーコート層の厚み、樹脂層の厚み、さらに積層フィルム全体の厚みを求めた。
【0071】
(2)樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合:
R上記(1)で求めた両面の樹脂層の厚みの和(TB)、積層フィルム全体の厚み(T)から樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rを、下記式より求めた
R(%)=100×TB/T 。
【0072】
(3)イミド化率:Im
樹脂層の赤外吸収スペクトルを、日本分光(株)社製フーリエ変換型赤外吸収分光光度計FT/IR−5000を用いて、Geの45°の結晶をプリズムとしたATR法にて測定し、1550cm−1から1450cm−1に現れるベンゼン環の特性吸収の吸光度(a1)と1400cm−1から1300cm−1に現れるイミド基の特性吸収の吸光度(a2)を求めた。このとき下記式から、a1を基準にしたa2の相対値を求め、それをrとする
r=a2/a1
続いて、この積層フィルムを250℃で120分間熱処理し、このフィルムにおける樹脂層の赤外吸収スペクトルを、同様にATR法で測定し、ベンゼン環の特性吸収の吸光度(a1’)を基準にしたイミド基の特性吸収の吸光度(a2’)の相対値を求め、それをr’とする。ここで、この熱処理後のポリアミド酸のイミド化率は100%とする
r’=a2’/a1’
本発明においては、下記式から、r’を基準にしたrの相対値を求めてイミド化率Imとした
Im(%)=100×(r/r’) 。
【0073】
(4)剥離強度(接着力):
本発明の積層フィルムの片面に、接着シート(#7100、東レ(株)製、)を100℃、2.7MPaの押し圧でラミネートし、接着剤を積層した。カバーフィルムを剥離した後、接着剤と1/2ozの電解銅箔(日鉱グルード・フォイル(株)製、JTC箔)の非光沢面を合わせるようにして150℃、2.7MPaの押し圧でラミネートし、さらに150℃5時間熱処理を行い、銅張りサンプルを作製した。エッチングにより、2mm幅の長細いパターンを形成し、テンシロンを用いて2mm幅の銅箔を90°方向に50mm/分の速度で引き剥がした場合の強度(g)を測定する。この値を5倍し、単位g/cmで剥離強度を示す。3段階評価として、×:400g/cm未満、○:400g/cm以上800g/cm未満、◎:800g/cm以上とし、◎と○を剥離強度(接着力)良好とした。
【0074】
(5)難燃性:
積層フィルムを12.7mm×127mmの短冊状に切り出し、このフィルムの長手方向の一端を長手方向が地面と垂直方向になるように把持し、他端を、約20mmの火炎に10秒間さらした後、離炎した。このとき、離炎後の積層フィルムの燃焼状態を観察し、3段階評価(◎:5秒以内に自己消火する、○:10秒以内に自己消火する、×:10秒以内に自己消火しないまたは燃え尽きる)した。◎と○を難燃性良好とした。
【実施例】
【0075】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
<熱可塑性フィルム>
平均粒径0.4μmのコロイダルシリカを0.015重量%、平均粒径1.4μmのコロイダルシリカを0.005重量%含有するポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(以降、PETペレットと記載することがある)(極限粘度0.63dl/g)を十分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化し未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.3倍延伸し、一軸延伸フィルム(基材PETフィルム)とした。ついで、一軸延伸フィルムをクリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、90℃で乾燥後、引き続き連続的に105℃の加熱ゾーンで幅方向に3.5倍延伸し、更に、230℃の加熱ゾーンで熱処理を施し、結晶配向の完了した積層PETフィルムを得た。PETフィルム厚みは75μmであった。
【0077】
<アンカーコート層形成用塗液1〜5>
水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、H−421)をトルエンを加え、サンドミルで分散し、分散液を作製した。この分散液に、
(1) リン含有ノボラック型エポキシ樹脂(東都化成(株)製、ZX−1548−3、リン含有率3wt%又は、東都化成(株)製、FX−279BEK、リン含有率2wt%)、
(2) クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ工業(株)製、“エピクロン”(R)N−660)又はビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル(株)製、“エピコート”(R)834)、
(3) リン化合物(三光(株)製、HCA−HQ、リン含有率9.5wt%)、
(4) トリアジン変性ノボラック樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、“フェノライト”(R)LA−1398、窒素含有率22wt%又は、大日本インキ化学工業(株)製、フェノライトLA−7054、窒素含有率12wt%)、
(5) NBR−C(日本合成ゴム(株)製、PR−1H)、
および溶媒としてメチルエチルケトンを加え、攪拌混合し、アンカーコート層形成用塗液1〜5を作製した。アンカーコート層形成用塗液1〜5の組成比を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
<アンカーコート層形成用塗液6>
下記のポリエステル樹脂1とポリエステル樹脂2を、固形分重量比で70/30となるように混合した樹脂の水溶液をプライマー塗液とした。
(1)ポリエステル樹脂1(Tg82℃)
・酸成分
テレフタル酸 90モル%
5−ナトリウムスルホイフタル酸 10モル%
・ジオール成分
エチレングリコール 98モル%
ジエチレングリコール 2モル%
(2)ポリエステル樹脂2
・酸成分
イソフタル酸 95モル%
5−ナトリウムスルホイフタル酸 5モル%
・ジオール成分
エチレングリコール 8モル%
ジエチレングリコール 92モル% 。
【0080】
<樹脂層形成用ポリアミド酸溶液>
ステンレス製の重合釜に、秤量した4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをN−メチル−2−ピロリドンとともに加え、撹拌して溶解した。次に、この溶液にピロメリット酸二無水物を4,4’−ジアミノジフェニルエーテル100molに対して100mol、反応温度が60℃以下になるように添加した。その後、粘度が一定になったところで重合を終了し、ポリアミド酸の重合溶液を得た。これに、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、”ハジライト”(R)H−42M)を固形分重量比で、ポリアミド酸/水酸化アルミニウム=70/30となるように添加し、分散させた。樹脂層の厚みに応じた所望濃度となるように、この溶液をN−メチル−2−ピロリドンで適宜希釈して、さらに塗布前に4−ヒドロキシピリジンをポリアミド酸の繰り返し単位に対して100モル%添加し、これをポリアミド酸溶液とした。なお、このポリアミド酸は、下記式(7)における2種の構造単位の両方が混在したものであった。
【0081】
【化10】

【0082】
実施例1
膜厚75μmのポリエステルフィルムの片面に、アンカーコート層形成用塗液1をグラビアコーターで塗布、150℃で30秒間乾燥した。同様にしてポリエステルフィルムの反対面にも同様にしてアンカーコート層を積層した。
【0083】
次に、ポリアミド溶液を、ポリエステルフィルムの片面に、グラビアコーターで塗布し、150℃で30秒間乾燥し、樹脂層を形成した。ポリエステルフィルムの反対面にも同様にしてポリアミド溶液をグラビアコーターで塗布し、乾燥した。このあと、200℃で30秒間熱処理して積層フィルムを形成した。
【0084】
アンカーコート層の膜厚は1.5μmであった。樹脂層の膜厚は、両面とも2.3μmで、イミド化率Imは93%であった。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rは5.6%であった。剥離強度は1000g/cmと、◎レベルであった。難燃試験では5秒以内に自己消火し、◎レベルであった。
【0085】
実施例2
アンカーコート層形成用塗液2を用いた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを形成した。アンカーコート層の膜厚は1.5μmであった。樹脂層の膜厚は、両面とも2.3μmで、イミド化率Imは93%であった。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rは5.6%であった。剥離強度は1000g/cmと、◎レベルであった。難燃試験では5秒以内に自己消火し、◎レベルであった。
【0086】
実施例3
アンカーコート層形成用塗液3を用いた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを形成した。アンカーコート層の膜厚は1.5μmであった。樹脂層の膜厚は、両面とも2.3μmで、イミド化率Imは93%であった。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rは5.4%であった。剥離強度は800g/cmと、○レベルであった。難燃試験では5秒以内に自己消火し、◎レベルであった。
【0087】
実施例4
アンカーコート層形成用塗液4を用いた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを形成した。アンカーコート層の膜厚は1.5μmであった。樹脂層の膜厚は、両面とも2.3μmで、イミド化率Imは93%であった。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rは5.6%であった。剥離強度は1000g/cmと、◎レベルであった。難燃試験では10秒以内に自己消火し、○レベルであった。
【0088】
実施例5
アンカーコート層形成用塗液5を用いた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを形成した。アンカーコート層の膜厚は1.5μmであった。樹脂層の膜厚は、両面とも2.3μmで、イミド化率Imは93%であった。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rは5.6%であった。剥離強度は700g/cmと、○レベルであった。難燃試験では10秒以内に自己消火し、○レベルであった。
【0089】
比較例1
膜厚75μmのポリエステルフィルムの片面に、アンカーコート層形成用塗液6をグラビアコーターで塗布、150℃で60秒間乾燥した。同様にしてポリエステルフィルムの反対面にも同様にしてアンカーコート層を積層した。
【0090】
次に、ポリアミド溶液を、ポリエステルフィルムの片面に、グラビアコーターで塗布し、150℃で30秒間乾燥し、樹脂層を形成した。ポリエステルフィルムの反対面にも同様にしてポリアミド溶液をグラビアコーターで塗布し、乾燥した。このあと、200℃で30秒間熱処理して積層フィルムを形成した。
【0091】
アンカーコート層の膜厚は1.5μmであった。樹脂層の膜厚は、両面とも2.3μmで、イミド化率Imは93%であった。樹脂層の積層フィルム全体に対する厚みの割合Rは5.6%であった。剥離強度は300g/cmと低く、×レベルであった。難燃試験では10秒以内に自己消火せず、×レベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムの両面に、リン系難燃剤及び/又は窒素系難燃剤を必須成分とする難燃性樹脂組成物からなるアンカーコート層とポリイミドを主成分とする樹脂層をこの順に積層せしめてなる少なくとも5層からなる構造としたことを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
該リン系難燃剤が、分子内にリンを含有するエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
該分子内にリンを含有するエポキシ樹脂が、下記一般式(1)または(2)で表される構造単位を分子内に含有することを特徴とする請求項2記載の積層フィルム。
【化1】

【請求項4】
該分子内にリンを含有するエポキシ樹脂が、ノボラック型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項2又は3記載の積層フィルム。
【請求項5】
該窒素系難燃剤が、トリアジン変性ノボラック樹脂であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項6】
該難燃性樹脂組成物が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂を、更に含有するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
該難燃性樹脂組成物が、カルボキシル基含有アクリルニトリルブタジエンゴムを更に含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。

【公開番号】特開2006−116796(P2006−116796A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306523(P2004−306523)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】