説明

積層体及び積層体の製造方法

【課題】電磁波シールド性に優れた積層体及び当該積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂50質量%〜99質量%と、
平均繊維長が1mm〜20mmである導電性繊維1質量%〜50質量%とを含有する
導電性樹脂組成物からなる導電層と、
熱可塑性樹脂を含む基材層とを有する積層体であって、
導電層が、繊維低濃度層と、繊維高濃度層とを有し、かつ導電層が下記の(I)〜(III)の要件を全て満たす積層体。
(I)導電層の厚み(L0)が1mm以下であること。
(II)導電層の厚み(L0)に対する繊維高濃度層の厚み(L1)の比(L1/L0)が0.74以下であること。
(III)導電層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(x)に対する繊維高濃度層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(y)の比(y/x)が1.2以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関するものであり、より詳細には、電磁波シールド性に優れた積層体及びその積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の筐体や電気自動車の部品には、機器の誤作動を防ぐために、電磁波シールド性が必要とされている。
電磁波シールド性を有する樹脂成形品として、例えば、特許文献1には、導電性を有する網状物を成形品の表面近傍に埋没せしめてなる樹脂成形品が記載されている。また、特許文献2には、基材樹脂シートの1面に導電性樹脂層を有し、当該導電性樹脂層が、表面が金属で被覆された繊維からなる繊維状導電性シールド材と樹脂とからなるものである電磁波シールド性積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−267499号公報
【特許文献2】特開2001−223496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂成形品および特許文献2に記載の積層体は、電磁波シールド性において十分に満足のいくものではなかった。
【0005】
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、電磁波シールド性に優れた積層体及び当該積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、熱可塑性樹脂50質量%〜99質量%と、平均繊維長が1mm〜20mmである導電性繊維1質量%〜50質量%とを含有する導電性樹脂組成物(熱可塑性樹脂、及び導電性繊維の含有量の合計を100質量%とする)からなる導電層と、熱可塑性樹脂を含む基材層とを有する積層体であって、
導電層が、3次元計測X線CT装置を用いて撮影された導電層の断面のX線CT像において、繊維のX線CT像が見えない領域である繊維低濃度層と、繊維のX線CT像が見える領域である繊維高濃度層とを有し、かつ導電層が下記の(I)〜(III)の要件を全て満たす積層体に係るものである。
(I)導電層の厚み(L0)が1mm以下であること。
(II)導電層の厚み(L0)に対する繊維高濃度層の厚み(L1)の比(L1/L0)が0.74以下であること。
(III)導電層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(x)に対する繊維高濃度層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(y)の比(y/x)が1.2以上であること。
【0007】
本発明の第2は、導電性樹脂組成物を射出成形することにより導電層を得る上記の積層体の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電磁波シールド性に優れた積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態である積層体の断面図である。
【図2】実施例で成形を行った本発明の積層体である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂と、導電性繊維とを含有する導電性樹脂組成物からなる導電層と、熱可塑性樹脂からなる基材層を有する。以下、図を用いて説明する。
【0011】
[積層体の構造]
図1は、本発明に係る積層体の断面を示した図である。積層体1は、導電性繊維4を含む導電層2と、基材層3を有する。積層体1は、導電層2を2層以上有していてもよい。導電層2は、一つの基材層の表面に配置されていてもよいし、同一または異なる2つの基材層の間に配置されていてもよい。電磁波シールド性を向上させるために、積層体は、導電層の表面にシボを有することが好ましい。
【0012】
導電層2は、繊維低濃度層2bと、繊維高濃度層2aとを有する。繊維低濃度層2bは、3次元計測X線CT装置を用いて撮影された導電層の断面のX線CT像において、繊維のX線CT像が見えない領域である。また、繊維高濃度層2aは、3次元計測X線CT装置を用いて撮影された導電層の断面のX線CT像において、繊維のX線CT像が見える領域である。X線CT像は、成形品から試験片を切り出し、樹脂流れ方向(MD方向、MD=Machinary Direction)に当該試験片を切断し、切断して露出させた面を3次元計測X線CT装置によって撮影することにより得られる。
【0013】
導電層2の厚み(L)は1mm以下であり、好ましくは1mm〜0.1mmであり、より好ましくは0.85mm〜0.3mmである。
【0014】
また、導電層2の厚み(L0)に対する繊維高濃度層2aの厚み(L1)の比(L1/L0)は、0.74以下である。
【0015】
また、導電層2の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(x)に対する繊維高濃度層2aの断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(y)の比(y/x)は、1.2以上である。ここで、導電層2の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(x)は、導電層2の像の中に存在する導電性繊維の像の面積の合計を、導電層2の像の面積で除した値であり、繊維高濃度層2aの断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(y)は、繊維高濃度層2aの像の中に存在する導電性繊維の像の面積の合計を、繊維高濃度層2aの像の面積で除した値である。X線CT像中の導電層の面積、繊維高濃度層の面積、導電層内における導電性繊維の像の面積の合計、および繊維高濃度層内における導電性繊維の像の面積の合計は、VG Studio MAX 2.0などの解析ソフトを用いてX線CT像を解析することによって求めることができる。
【0016】
[導電性樹脂組成物]
導電性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。これらは単独重合体であってもよく、他のモノマーとの共重合体であってもよい。共重合体はブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。ポリスチレン樹脂としては、汎用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66が挙げられる。これらのうちポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を用いることがより好ましい。
【0018】
ポリエチレン樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数4以上のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと炭素原子数4以上の環状オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。エチレン単独重合体としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが挙げられる。炭素原子数4以上のα−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素原子数4〜8のα−オレフィンが挙げられる。
【0019】
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンと炭素原子数4以上の環状オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。炭素原子数4以上のα−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素原子数4〜8のα−オレフィンが挙げられる。
【0020】
プロピレンとエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα−オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。プロピレンとエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα−オレフィンとのブロック共重合体は、プロピレンの単独重合によって得られるプロピレン単独重合体成分と、プロピレンとエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα−オレフィンとを共重合させて得られる共重合体成分とを有する共重合体である。
【0021】
ポリプロピレン樹脂がプロピレンとエチレン及び/又はα−オレフィンとのランダム共重合体である場合、当該共重合体が含有するエチレンに由来する単量体単位の量とα−オレフィンに由来する単量体単位の量との合計は、当該共重合体が含有する全単量体単位の量を100質量%として、好ましくは1質量%〜49質量%である。
【0022】
ポリプロピレン樹脂がプロピレンとエチレンとのブロック共重合体(以下、プロピレン−エチレンブロック共重合体)である場合、プロピレン−エチレンブロック共重合体の全質量を100質量%として、プロピレン−エチレンブロック共重合体中のプロピレン単独重合部分の含有量は、積層体の耐衝撃性を良好にするため、好ましくは60質量%〜95質量%であり、エチレンとプロピレンとを共重合して得られる共重合部分の含有量は、好ましくは40質量%〜5質量%である。また、エチレンとプロピレンとを共重合して得られる共重合部分に含有されるエチレン由来の構成単位の含有量は、10質量%〜60質量%であることが好ましい。
【0023】
ポリプロピレン樹脂が、プロピレン単独重合体とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体とを含む混合物である場合、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の含有量は、プロピレン単独重合体とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体との合計量を100質量%として、好ましくは1質量%〜20質量%であり、より好ましくは3質量%〜10質量%である。
【0024】
導電性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂である場合、当該ポリプロピレンのJIS K 7210に準拠し、230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート(以下、MFRともいう)は、導電層に含まれる導電性繊維の分散状態および絡み合いを良好にし、電磁波シールド性を向上させるために、好ましくは20g/10分以上であり、より好ましくは50g/10分以上である。また、積層体の耐衝撃性を高めるため、好ましくは500g/10分以下であり、より好ましくは300g/10分以下である。
【0025】
導電性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、積層体の電磁波シールド性を向上させるため、熱可塑性樹脂と導電性繊維との含有量の合計を100質量%として、50質量%〜99質量%であり、好ましくは80質量%〜98質量%であり、より好ましくは90質量%〜97質量%である。
【0026】
導電性樹脂組成物に含まれる導電性繊維としては、金属繊維、金属で被覆された有機繊維、金属で被覆された無機繊維、および、炭素繊維が挙げられる。これらのうち金属繊維又は金属で被覆された有機繊維が好ましく、金属で被覆された有機繊維がより好ましい。導電性繊維が金属で被覆された有機繊維であれば、成形時に繊維が折れて短くなることが少ないので、繊維同士が絡みやすくなり、積層体の電磁波シールド性が向上する。
【0027】
導電性繊維として、金属繊維を用いる場合、好ましい金属種としては、ステンレス、黄銅、銅、アルミニウム、鉄、金、銀、ニッケル、チタン、錫、亜鉛、マグネシウム、白金、ベリリウム、これらの金属種の合金、又は、これらの金属種とリンとの化合物等からなる金属が挙げられる。これらの金属種の中では、黄銅、銅、アルミニウム、鉄、金、銀、ニッケル、チタンであることが好ましく、ステンレス、銅であることがより好ましい。
【0028】
また、導電性繊維として、金属で被覆された有機繊維を用いる場合、有機繊維としては、アラミド繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、綿、麻等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0029】
金属で被覆された無機繊維を用いる場合、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チッ化ケイ素繊維、ジルコニア繊維、ケイ酸カルシウム繊維、酸化マグネシウム繊維、マグネシウムオキシサルフェート繊維、水酸化マグネシウム繊維、石膏繊維が挙げられる。
【0030】
上記有機繊維又は無機繊維を被覆する金属としては、例えば、銅、黄銅、金、銀、ニッケル、アルミ、錫、亜鉛が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。被覆方法としては、無電界メッキ、真空蒸着、スパッタリング等の方法が挙げられる。被覆する金属の厚みは、好ましくは0.1〜1μmである。
【0031】
導電性繊維の平均繊維長は、1mm〜20mmであり、導電性繊維の添加量をより少なくするため、好ましくは1mm〜10mmであり、より好ましくは1mm〜6mmである。繊維の長さが1mm未満であると、積層体の電磁波シールド性が低下する。
なお、本発明における、導電性繊維の平均繊維長は、導電性樹脂組成物中の導電性繊維の長さをいう。樹脂組成物中の導電性繊維の平均繊維長は、樹脂組成物中の樹脂成分を溶解または燃焼させて除去した後、残渣として得られた約500本の繊維の長さを計測し算出された平均値である。
【0032】
導電性繊維の断面形状は略円形であることが好ましい。繊維同士の接触を良好にし、導電性を高め、積層体の電磁波シールド性を向上させるために、導電性繊維の繊維径は1μm〜100μmであることが好ましく、5μm〜80μmであることがより好ましい。導電性繊維の繊維径の測定方法としては、導電性繊維の断面積を測定し、導電性繊維の断面積と同じ面積を有する円の直径を導電性繊維の繊維径とする方法が挙げられる。導電性繊維の断面積は、例えば、繊維の断面を顕微鏡などで拡大し、写真撮影をした後、スケールあるいはデジタイザーなどの測定器具を用いて測定することができる。
【0033】
導電性樹脂組成物中の導電性繊維の含有量は、熱可塑性樹脂と導電性繊維との含有量の合計を100質量%として、1質量%〜50質量%であり、積層体の電磁波シールド性を向上させるため、好ましくは2質量%〜20質量%であり、より好ましくは3質量%〜10質量%である。
【0034】
導電性樹脂組成物は、導電性繊維以外に、必要に応じて他の導電性充填材を含有していてもよい。当該導電性充填材としては、金属粉や粉状または粒状の低融点金属が挙げられる。
【0035】
金属粉としてはステンレス、黄銅、銅、アルミニウム、鉄、金、銀、ニッケル、チタン、錫、アンチモン、亜鉛、マグネシウム、タングステン、白金、リチウム、モリブデン、ベリリウム及びこれら2種類以上の組み合わせの合金、もしくはこれらを主体とする合金、さらにはこれらとリンとの化合物等が挙げられる。
【0036】
粉状または粒状の低融点金属としては、導電性繊維よりも融点が低く、導電性繊維と良好な融着性を示すものであることが好ましい。低融点金属の融点は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。低融点金属は鉛を含有しない金属であり、例えば、銀、亜鉛および銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属種とスズとの合金などが挙げられる。
【0037】
導電性充填材の含有量は熱可塑性樹脂と導電性繊維の合計量を100質量部として、1重量部〜100質量部であることが好ましく、30重量部〜100質量部であることがより好ましい。
【0038】
導電性樹脂組成物は、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、造核剤、分散剤、可塑剤、銅害防止剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0039】
導電性樹脂組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂、導電性繊維、および必要に応じて添加剤等を、ドライブレンドまたはメルトブレンドする方法が挙げられる。ドライブレンドする方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等の各種ブレンダーを用いる方法が挙げられ、メルトブレンドする方法としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロール等の各種ミキサーを用いる方法が挙げられる。
また、導電性樹脂組成物として、プルトルージョン法により導電性繊維に溶融状の熱可塑性樹脂を含浸させて製造されたペレットを用いてもよい。
【0040】
[基材層]
積層体の基材層に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
基材層に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、基材層全体を100質量%として、好ましくは50重量%以上100重量%以下であり、より好ましくは60重量%以上95重量%以下である。
【0042】
基材層に含まれる熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合、JIS K 7210に従って測定温度230℃、荷重2.16kgで測定した当該ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは1g/10分〜500g/10分であることが好ましく、5g/10分〜300g/10分であることがより好ましい。
【0043】
基材層は、フィラーを含有していてもよい。含有するフィラーとしては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、クレー、炭酸マグネシウム、シリカ、無機繊維、有機繊維などが挙げられ、成形体の剛性を高めるために、好ましくはタルクまたは無機繊維である。フィラーの含有量は、基材層全体を100質量%として、樹脂成形品の強度、耐熱性、寸法安定性を高めるために、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。また、軽量化のため、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0044】
基材層は、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、難燃剤、造核剤、分散剤、可塑剤、銅害防止剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0045】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体を製造する方法として、基材層または導電層の一方を先に成形し、その後に他方を成形する方法を挙げることができ、中でも、基材層を先に成形し、その後に基材層の上に導電層を射出成形する方法が好ましい。
【0046】
積層体の基材層の成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、射出プレス成形、圧縮成形、真空成形などの成形方法を挙げることができる。
【0047】
基材層を成形した後、導電層を基材層の上に積層する好ましい方法として、成形した基材層と金型との間に空間を有するように基材層を金型内にインサートし、基材層と金型との間の空間内に樹脂を射出することにより導電層を得る方法を挙げることができる。
【0048】
積層体の製造方法として、1つの金型で基材層と導電層を逐次的に成形する方法を用いてもよい。当該方法としては、キャビティを2つ有する金型を使用し、一方のキャビティにて基材層を成形し、その後、基材層を他方のキャビティに移動して導電層を成形する方法、および、基材層を成形し、その後に金型可動側を後退させて基材層と対向する金型キャビティ面との間に空間を形成させ、当該空間内に樹脂を射出することにより導電層を得る方法を挙げることができる。
【0049】
導電層の表面にシボを有する積層体を製造する場合は、シボを有する金型を用いることが好ましい。
【0050】
導電層は、先に成形された基材層と、この基材層に対向する一方の金型のキャビティ面との間に形成される空間に樹脂を射出充填することにより成形される。基材層とキャビティ面との間に形成される空間の大きさは、任意に設定することができる。例えば、目的とする導電層の厚み(L)と同じクリアランスにあらかじめ設定する方法、あるいは、目的とする導電層の厚み(L)よりも大きなクリアランスに設定して導電性樹脂組成物を充填した後に、クリアランスを小さくする圧縮工程を経て、目標の導電層の厚み(L)に調整する射出圧縮成形法を用いることもできる。好ましくは、用いる繊維の長さに応じて決定される最終の導電層の厚み(L)に等しいクリアランスに設定した後、導電性樹脂組成物を射出充填する方法である。
【0051】
導電層の成形における射出速度は、導電性繊維の絡み合いを効率的に形成させて導電性を向上させ、電磁波シールド性を向上させるために、好ましくは450mm/s以上であり、より好ましくは480mm/s以上である。ここでいう射出速度は、射出成形装置における射出工程時のスクリュー移動速度を示し、成形機にあらかじめ設置されている計測装置あるいは、外部計測装置を用いて計測することができる。
【0052】
[積層体の用途]
本発明の積層体は、電磁波シールド性に優れることから、自動車部品、家電部品、日用品、その他工業用製品であって、電磁波シールド性が必要とされる製品に好適に使用することができる。また、本発明の積層体は、導電性繊維と樹脂とを含む組成物を射出成形する方法によって導電層を成形でき、かつ基材層も射出成形によって成形できるので、種々の形状を有する成形品とすることができる。
【実施例】
【0053】
実施例で使用した金型及び評価法は、以下のとおりである。
【0054】
(1)金型
底部寸法が290mm×370mm、高さ45mmの箱型形状(ゲート構造:バルブゲート、成形体中央部分、シボ部有、キャビティクリアランスは変更可能)のキャビティ(図2)を有する雌雄一対の金型を用いた。
(2)内部抵抗値の評価
。図2に示す形状を有する成形品の12a部または12b部から、100mm×100mmの大きさの試験片を切り出し、樹脂組成物の流れと平行な方向(MD方向、MD=Machinary Direction)の両端部に銀ペースト(福田金属箔粉工業製シルコートRL−10)を塗布し、乾燥させた後、銀ペースト塗布部にミリオームテスターの電極を当てて、内部抵抗値を測定した。内部抵抗値の値が小さいほど、電磁波シールド性に優れる。
【0055】
(3)導電性繊維の面積占有率、および各層厚みの評価
図2に示す形状を有する成形品の12a部または12b部から、100mm×100mmの大きさの試験片を切り出し、MD方向に試験片をさらに切断し、切断して露出させた断面のX線CT像を撮影した。X線CT像の撮影には、3次元計測X線CT装置(3D Measuring X−ray CT Scanner, TDM1000−IS/SP)を用いた。得られた上記断面のX線CT像から、導電層、繊維高濃度層、繊維低濃度層を特定し、それぞれの厚みL0、L1を測定した。観察面の視野は5mm四方とした。導電層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(x)は、X線CT像中の導電層内に存在する導電性繊維の像の面積の合計を、X線CT像中の導電層の面積で除すことにより求めた。繊維高濃度層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(y)は、X線CT像中の繊維高濃度層内に存在する導電性繊維の像の面積の合計を、X線CT像中の繊維高濃度層の面積で除すことにより求めた。X線CT像中の導電層の面積、繊維高濃度層の面積、導電層内における導電性繊維の像の面積の合計、および繊維高濃度層内における導電性繊維の像の面積の合計は、解析ソフト(VG Studio MAX 2.0)を用いて求めた。
【0056】
[実施例1]
射出成形機として、エンゲル社製ES2550/400HL−MuCell(型締力400トン)を使用し、前記(1)の金型を用いて射出成形を実施した。
基材層の熱可塑性樹脂として、エチレン−プロピレンブロック共重合体(MFR=50g/10min)60質量%、エチレン−ブテン共重合体ゴム(エチレン含量62質量%、MFR=5g/10min、密度0.87g/cm3)20質量%、タルク(平均粒径5μm)20質量%からなる樹脂組成物を用いた。
導電性樹脂組成物として熱可塑性樹脂(ホモポリプロピレン、商品名:住友ノーブレンU501E1、MFR:120g/10分)を95質量%、導電性繊維含有マスターバッチ(ダイワボウオーシャンテック株式会社製、商品名:メタックス(銅メッキ繊維60質量%含有、繊維長5mm))を5質量%でドライブレンドしたものを用いた。
【0057】
基材層の熱可塑性樹脂を用いて、キャビティクリアランスを2.5mmとした前記金型を用いて射出成形することで基材層を得た。
次に、得られた成形品(基材層)をキャビティ厚み3.0mmにした前記金型の可動側キャビティにインサートした後、金型を閉じ、インサートされた基材層と金型意匠面との間に形成される0.5mmの空間に、導電性樹脂組成物を用いて射出速度500mm/sの条件で射出充填し、導電層を成形し、2層積層体を得た。
この2層積層体の図2の12aの位置する箇所(シボなし)をサンプリングした。その評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例2]
導電層の成形時の射出速度を50mm/sの条件とし、得られた2層積層体の図2の12bに位置する箇所(シボあり)をサンプリングした以外、実施例1と同様の方法で2層積層体および評価サンプルを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
導電層の成形時の射出速度を50mm/sの条件とした以外、実施例1と同様の方法で2層積層体および評価サンプルを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【符号の説明】
【0061】
1…積層体、2…導電層、2a…繊維高濃度層、3…基材層、4…導電性繊維、11…ゲート、13…シボ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂50質量%〜99質量%と、
平均繊維長が1mm〜20mmである導電性繊維1質量%〜50質量%とを含有する
導電性樹脂組成物(熱可塑性樹脂、及び導電性繊維の含有量の合計を100質量%とする)からなる導電層と、
熱可塑性樹脂を含む基材層とを有する積層体であって、
導電層が、3次元計測X線CT装置を用いて撮影された導電層の断面のX線CT像において、繊維のX線CT像が見えない領域である繊維低濃度層と、繊維のX線CT像が見える領域である繊維高濃度層とを有し、かつ導電層が下記の(I)〜(III)の要件を全て満たす積層体。
(I)導電層の厚み(L0)が1mm以下であること。
(II)導電層の厚み(L0)に対する繊維高濃度層の厚み(L1)の比(L1/L0)が0.74以下であること。
(III)導電層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(x)に対する繊維高濃度層の断面のX線CT像における導電性繊維の面積占有率(y)の比(y/x)が1.2以上であること。
【請求項2】
導電層の表面にシボを有する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
導電性樹脂組成物を射出成形することにより導電層を得る請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
導電性樹脂組成物を450mm/s以上の射出速度で射出成形することにより導電層を得る請求項3に記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−89842(P2013−89842A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230473(P2011−230473)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(308031108)内浜化成株式会社 (18)
【Fターム(参考)】