説明

積層塑性加工木材

【課題】傷跡や凹みが極めて付き難く、長時間意匠面を良好に維持することができると共に、その用途を拡大でき、しかも、製品化後に周囲環境条件の変化を受けた場合における寸法形状安定性を損なうことがないこと。
【解決手段】積層塑性加工木材LPWは、木材NWの木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮され、塑性加工されて気乾比重を1.05以上とした表層材SWの片面側に接着剤を介して内層材IWを接合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層部分に圧密成形加工木材を使用した積層塑性加工木材に関するものであり、特に、製品化後の木材の周囲環境条件の変化における寸法形状安定性を損なうことなく優れた耐衝撃性・耐摩耗性・表層硬度を得ることができ、傷跡や凹みが極めて付き難い積層塑性加工木材に関するもので、ハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を受ける床材等としても利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の樹種として、例えば、スギ材のように低密度で硬度が不足しているものにあっては、圧縮して高密度化すれば実用に耐え得る硬度が得られることが知られている。
ここで、木材を圧縮して高密度化することは元の木材の体積を低下することを意味している。一方で、木材の価格は一般に、元の木材の体積を基準として流通している。また、上記木材の圧密加工にかかる種々の費用を加味して算出される価格は、体積の低下に見合うだけの付加価値が認められないことに起因して余り高く設定できない。このため、このように圧縮して高密度化された木材は、圧縮が施されていない木材との組み合わせによる積層構造として製品化されることが多く、例えば、腰板やテーブルの天板等の構造体の特に表層部分を構成していた。
【0003】
そして、これに関連するものとして、例えば、特許文献1に示されるような圧密化処理(塑性加工)をしない内層材に圧密化処理(塑性加工)をした表層材が接着されてなる積層材(積層塑性加工木材)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−205503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、この種の従来の積層塑性加工木材は、何れも、学校校舎や体育館等の公共施設や住宅向け等の内装用の床材、腰板材、屋内家屋材、住宅用外装材等に以前から使用されていた広葉樹のナラ材やカバ材等に代わるものとして、即ち、それ程高い硬度が要求されないこれらの用途に利用されることを目的として開発が行われており、広葉樹のナラ材やカバ材等と同等くらいまたは少し高めの表面硬度が得られるくらいにスギ材等の針葉樹からなる表層材が圧縮してあれば十分であるとされていた。
そして、圧密化されることの多いスギ材等においてはそれ以上の圧縮を要求しても、圧縮に応じて硬度が連続的に推移する程度で高い硬度に達成することは到底困難であると考えられ、更には、圧縮に従い周囲環境条件の変化による寸法変化率(収縮率及び膨張率)が大きくなっていって寸法形状安定性が大きく損なわれるという不具合も懸念されていた。これらのことから、高度の高い圧縮については、コスト面や塑性加工のし易さの観点と合わせると実用的でないとして検討もなされていなかった。
そこで、本発明者らが確認したところによれば、この種の従来の積層塑性加工木材は何れも、その表層部分(表層材)の気乾比重が約0.7〜0.9で、稀にみる気乾比重でも最大で1.05未満となっており、また、表層部分(表層材)が主に針葉樹で形成されることが多かった。
なお、基本的に、従来においては、上記表面硬度を得るための尺度が圧縮率となっていたが、樹種ごとで空隙率がまちまちであることから、圧縮率を基準尺度としたものでは必ずしも一義的に所望する硬度が得られなかった。
【0006】
ところが、近年、木材が持つ温かみや癒し効果等が見直されていることから、頻繁にハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を多く受けることになる飲食店やショッピングモール等の商業施設や今流行の社交ダンス場等の床材にも木材を使用したいという要望が増えてきている。そして、これらに対応するため、広葉樹の中でも特に硬度が高いウリン材、セランガンバツ材やイペ材等を使用した床材が実用化されている。しかし、これら硬度が高い広葉樹からなる木材は、その数が少なく、将来的に伐採等が制限される可能性があることから、これらに代わる木質材が望まれている。
一方、従来の積層塑性加工木材では、木材の表面における硬度・耐摩耗性・耐衝撃性がかなり不足していて上記集中荷重や衝撃荷重による傷跡や凹みが付き易いことから対応できない。
【0007】
そこで、本発明は、積層された木材の表層部分において傷跡や凹みが極めて付き難く、長時間意匠面を良好に維持することができると共に、ハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を受ける床材等にも耐用できてその用途を拡大でき、しかも、製品化後に周囲環境条件の変化を受けた場合における寸法形状安定性を損なうことのない積層塑性加工木材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の積層塑性加工木材は、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮され、塑性加工されて気乾比重を1.05以上とした表層材の片面側を内層材に接合したものである。
なお、上記気乾比重とは、木材を大気中で乾燥した時の比重で、通常、含水率15%の時の比重で表すものであり、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。数値が大きいほど重く、小さいほど軽いことを表す。例えば、自然物の黒檀は0.85〜1.04、紫檀は1.03程度で、国産或いは国内でよく使用される材木のヒノキは0.44、カラマツは0.50、ドドマツは0.44、 キリは0.25、クリは0.60、ブナは0.65、ナラは0.58、カバは0.60、イタジイは0.61、カリン0.61、アピトンは0.72、ファルカタは0.27、マラパパイヤは0.50、グメリナは0.45、ゴムは0.64、イエローポプラは0.45、イタリアポプラは0.35、ユーカリは0.75、カユプティは0.75、アカシアマンギウムは0.63程度である。
【0009】
ところで、上記表層材は、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体にほぼ均一に圧縮が加えられ塑性加工されたことで気乾比重が1.05以上となったものである。上記木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮とは、木材の木口面に対する並行方向に加熱圧縮して少なくとも木口面の面積を小さくすることを意味する。なお、上記木材の木目の長さ方向とは木材の繊維方向のことであり、上記木材の木目の長さ方向に対する垂直方向とは、木材の柾目方向(接線方向)または木材の柾目方向(接線方向)のことである。木材が板目方向(半径方向、放射方向)に圧縮されるかまたは柾目方向(接線方向)に圧縮されるかという加熱圧縮の方向性は木材の種類等が考慮されて選定されるが、加熱圧縮の際における目割れが少なくて済み、また、製品化の周囲環境条件における寸法変化率が小さい方向に加熱圧縮されるのが好ましい。
また、上記厚み全体がほぼ均一の圧縮率となる塑性加工は、例えば、木材の含水率を厚み全体でほぼ均一となるように設定し、所定の条件で加熱圧縮することによって形成することができる。なお、このときの所定の条件となる温度、圧力、時間、圧縮スピード等については、樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって決定される。また、通常、厚みは1〔mm〕乃至5〔mm〕程度に設定されるが、厳格に1〔mm〕乃至5〔mm〕に特定するものではなく、概略1〔mm〕乃至5〔mm〕程度であればよい。
【0010】
ここで、上記気乾比重の1.05以上とは、本発明者らが、鋭意実験研究を重ねた結果、多少のばらつきが存在するが、木材を高圧縮して気乾比重を0.8以上としたものでは、製品化後の周囲環境条件の変化における含水率1%当たりの寸法変化率が増大しなくなり、木材を更に高圧縮して気乾比重を1.05以上にすると、硬度・耐摩耗性・耐衝撃性が顕著に向上し、傷跡や凹みが極めて付き難くなりハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を受ける床材等にも利用できることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。更に、木材を高圧縮して気乾比重を、更に、1.1以上にすると、硬度・耐摩耗性・耐衝撃性が顕著に向上し、より、製品のばらつきが少なくなり物性的安定性が増す。
なお、上記表層材の気乾比重は、最終的には、樹種や、コストや、必要とされる硬度・耐摩耗性・耐衝撃性等を考慮して設定されるが、気乾比重を大きくするために圧縮率を余りに高くすると木材を構成する繊維が破壊されてクラックが生じ商品性が失われることになるから、高圧縮によりクラックが発生する直前に測定される気乾比重の値が最大値となる。因みに、本発明者らの実験研究によれば、上記表層材としてスギ材を用いた場合には約1.2、イエローポプラ材を用いた場合には約1.3が上記気乾比重の上限であることが判明している。したがって、本発明における気乾比重の最大値は、樹種等によって決定される有限値である。
【0011】
また、上記内層材は、前記表層材と接着剤等の接合手段を介在して一体に接合されるものであり、通常、コスト面から、ラワン合板等の圧密化処理(塑性加工)をしない木材が使用されるが、厚み全体が低密度に塑性加工された木材または両表層もしくは片方の表層のみが高密度に塑性加工された木材を用いてもよい。
なお、上記内層材と前記表層材とをプレス盤等による圧締で接着剤を介して一体に接合する場合には、両者の間に接着剤を均一に塗布した後、圧力ができる限り均等にかかるようにする。なお、このときの両者を締め付ける圧締圧力及び圧締時間は、接着剤の種類や樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって最適値が設定される。
【0012】
請求項2の積層塑性加工木材の前記表層材は、スギ材の辺材で構成されるものである。
ここで、上記辺材とは、スギ材の中心部である心材(赤身・赤味)に対して外周部に位置する部分、即ち、幹樹の外周部の淡色の部分のことであり、白太とも呼ばれているところである。そして、上記辺材は、一般的に、心材(赤身・赤味)よりもヤニが少なくなっている。
【0013】
請求項3の積層塑性加工木材は、前記表層材としてスギ材またはイエローポプラ材を用いたもので、入手しやすく加工性に優れた樹種を用いたものである。
なお、上記イエローポプラ(学名:Liriodendron tulipifera)は、別名でハンテンボク、チューリップポプラ、キャナリーホワイトウッド、ユリノキとも呼ばれるものである。
【0014】
請求項4の積層塑性加工木材の前記表層材は、所定の高さからおもりを落下させ衝撃変形による損傷によりその衝撃強度を決定する衝撃試験装置であるデュポン衝撃試験等の衝撃試験において重さ1,000〔g〕、撃芯先端径φ13〔mm〕の重錘を500〔mm〕の高さから落下させたときに形成される圧痕深さが平均で0.5〔mm〕以下であるものである。
【0015】
ところで、上記デュポン衝撃試験等の衝撃試験は、前記表層材における耐衝撃性を評価するためのものであり、ここでは、重さ1,000〔g〕、撃芯先端径φ13〔mm〕の重錘を500〔mm〕の高さから落下させたときに形成される圧痕深さを測定することで、その評価を行うものである。そして、圧痕深さが平均で0.5〔mm〕以下とは、ハイヒール等の履物による集中衝撃荷重を受けても傷跡や凹みが極めて付き難く、履物による集中衝撃荷重を受ける床等に利用するのに十分な耐衝撃性を有することを意味する。
【0016】
請求項5の積層塑性加工木材の前記表層材は、複数に分割された構造体によって内部空間を形成し、前記内部空間の容積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤を用いて、前記内部空間内に載置される前記木材をその木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態の前記内部空間内に保持し、保持された前記密閉空間内の蒸気圧を制御して固定化することによって厚み全体に圧縮率がほぼ均一に塑性加工されたものである。
【0017】
ここで、上記プレス盤は、その内部空間の容積を変化させることによりプレス圧縮自在とするものであり、通常、単純に上下に2分割した上下プレス盤構造体、上下プレス盤と枠体とした構造体等、その他の複数の構成体によって構成される。
【0018】
請求項6の積層塑性加工木材の前記表層材は、前記木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮の際に、加熱圧縮方向に対する直角方向の変形が拘束されるものである。
【0019】
ここで、上記加熱圧縮方向に対する直角方向への変形が拘束されるとは、前記木材が木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮され押し潰される際に、加熱圧縮方向、即ち、前記木材の垂直方向に対する直角方向に前記木材の長さが自由に伸長するのが規制されてなることを意味し、通常、前記木材を加熱圧縮する際に、木材の製品としての品質を損なわせない程度の表面精度、かつ、プレス耐強度を有するスペーサを前記木材の加熱圧縮方向に対する直角方向に配置することによって行われる。
【0020】
請求項7の積層塑性加工木材の前記表層材及び前記内層材は、互いに木目の長さ方向を交差させることなく接合されたもの、即ち、接合面で互いに木目の長さ方向を一致させたものであり、周囲環境条件の変化における寸法変化率が小さい木目の長さ方向を揃えて接合することで、接合面における互いの寸法変化率の差を小さくし、接合面にストレスがかからないようにしたものである。
【0021】
請求項8の積層塑性加工木材の前記表層材及び前記内層材は、互いに木目の長さ方向を交差させて接合されたもの、即ち、接合面で互いに木目の長さ方向を交差させたものであり、積層塑性加工木材全体の周囲環境条件の変化における寸法変化率が小さい木目の長さ方向を交差して接合することで、積層塑性加工木材全体の互いの寸法変化率の差を小さくし、全体の一部にのみストレスがかからないようにしたものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の積層塑性加工木材によれば、内層材に接合される表層材は、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮され、塑性加工されてその気乾比重を1.05以上としたものであるから、表層材における細胞壁を構成する成分の構造がかなり密となり表層材の硬度・耐摩耗性・耐衝撃性が著しく向上し、傷跡や凹みが極めて付き難くなっている。したがって、表層材側を製品表面に用いることで、長時間意匠面を良好に維持できると共に、頻繁にハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を多く受けることになる飲食店やショッピングモール等の商業施設・社交ダンス場等の内装用床材、デッキ材等にも耐用することができ、その用途を拡大することができる。しかも、表層材における細胞壁を構成する成分の構造が密となり細胞壁に結合できる水分子が減少することから、製品化後の周囲環境条件の変化における表層部分の寸法形状変化率が増大することがなく、寸法形状安定性が損なわれることもない。
【0023】
請求項2の積層塑性加工木材によれば、前記表層材には、スギ材の辺材が使用されることから、請求項1に記載の効果に加えて、比重が1.05以上となるように高圧縮したときのヤ二の表出量を抑制することができる。また、高圧縮による濃色化を抑えることもでき、良好な外観を保持することができる。
【0024】
請求項3の積層塑性加工木材は、前記表層材としてスギ材またはイエローポプラ材を用いたものであり、スギ材またはイエローポプラ材は入手しやすく加工を施しやすいことから、請求項1に記載の効果に加えて、生産性を向上させることができ、また、低コスト化を図ることができる。殊に、イエローポプラ材は元来の色調が明るいため、前記表層材としてイエローポプラ材を用いた場合には、材料によっては変色するものもあるが、一般に、高圧縮による濃色化を抑制することができ、良好な外観を保持することができる。一方、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、前記表層材としてスギ材を用いた場合には、環境保全に貢献することができる。
【0025】
請求項4の積層塑性加工木材によれば、前記表層材は、所定の高さから、おもりを落下させ衝撃変形による損傷によりその衝撃強度を決定する衝撃試験法、例えば、デュポン衝撃試験法において重さ1,000〔g〕、撃芯先端径φ13〔mm〕の重錘を500〔mm〕の高さから落下させたときに形成される圧痕深さが平均で0.5〔mm〕以下であるから、請求項1乃至請求項3に記載の効果に加えて、ハイヒール等の履物の集中衝撃荷重を受ける床材等に用いるのに十分な耐衝撃性を有しており、傷跡や凹みが一層付き難くなっている。
【0026】
請求項5の積層塑性加工木材によれば、前記表層材は、複数に分割された構造体によって内部空間を形成し、前記内部空間の容積を変化させることによってプレス圧縮ができるプレス盤を用いて、前記内部空間内に載置される前記木材をその木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした前記内部空間に保持するものである。即ち、前記表層材は、上記プレス盤の面接触によって加熱圧縮され、しかも、上記内部空間の密閉状態で加熱圧縮処理が一定時間保持されるから、効率的に圧縮変形されてなるものであり、また、圧縮解除後の復元力による戻りが抑制されたものである。更に、保持された前記内部空間内の蒸気圧を制御したのち、徐々に解圧し、内部蒸気圧を開放するから、圧縮解除後の内圧による膨らみ変形や、パンクと呼ばれる表面割れが抑制される。故に、請求項1乃至請求項4に記載の効果に加えて、高い品質を確保することができる。また、前記表層材は効率的に圧縮変形されてなるものであるため生産性も良好である。
【0027】
請求項6の積層塑性加工木材によれば、前記表層材は、前記木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮の際に、加熱圧縮方向に対する直角方向への変形が拘束されているから、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮のときに、木目がその垂直方向に対する直角方向に密度が上がり、割れ難くなる。したがって、請求項1乃至請求項5に記載の効果に加えて、高い品質を確保することができる。
【0028】
請求項7の積層塑性加工木材によれば、前記表層材及び前記内層材は、互いの木目の長さ方向が交差することがないように接合されたものである。ここで、一般的に、周囲環境条件が変化したときの木材における木目の長さ方向の寸法変化率は僅かである。一方、本発明者らの実験によれば、塑性加工された木材においても、木目の長さ方向の寸法変化率は僅かであることが確認された。したがって、前記表層材及び前記内層材の接合面で互いに木目の長さ方向を一致させることで、積層全体における長さ方向または幅方向または厚さ方向の何れか1つの寸法変化率が両者で略等しくなるから、請求項1乃至請求項6に記載の効果に加えて、接合面における両者の寸法変化率の差を小さくすることができ、接合面へのストレスを少なくすることができる。
【0029】
請求項8の積層塑性加工木材によれば、前記表層材及び前記内層材は、互いの木目の長さ方向が交差するように接合されたものであるから、周囲環境条件が変化したときの積層塑性加工木材全体の寸法変化率は僅かである。特に、本発明者らの実験によれば、塑性加工された木材において、木目の長さ方向の寸法変化率は僅かであることが確認され、前記表層材及び前記内層材の接合面で互いに木目の長さ方向を交差させても、積層全体における長さ方向または幅方向または厚さ方向の寸法変化率が略等しくなるから、請求項1乃至請求項6に記載の効果に加えて、接合面における両者の寸法変化率の差を小さくすることができ、接合面へのストレスを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材を構成する表層材を製造するための塑性加工木材製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材を形成するための原材料となる木材の板目面、柾目面、木口面を示す斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材の製造工程を説明するための説明図である。
【図4】図4は塑性加工された木材の気乾比重と硬度との関係を示す特性図である。
【図5】図5は塑性加工された木材の気乾比重と耐摩擦性の指標となる摩耗深さとの関係を示す特性図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態の実施例及び比較例の硬度及び耐衝撃性の指標となる圧痕深さを示す表図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材の特性を説明するための特性図であり、(a)は気乾状態にある塑性加工木材を乾燥させて全乾状態にした場合における塑性加工木材の気乾比重と含水率1%当たりの平均寸法変化率(収縮率)との関係を示す特性図であり、(b)は全乾状態にある塑性加工された木材に対して吸湿を行った場合における塑性加工木材の気乾比重と含水率1%当たりの平均寸法変化率(膨張率)との関係を示す特性図である。
【図8】図8は本発明に係る表層材において、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮の際に、加熱圧縮方向に対する直角方向への変形が拘束されてなる表層材の特性を説明するための特性図であり、(a)は気乾状態にある塑性加工木材を乾燥させて全乾状態にした場合における塑性加工木材の気乾比重と含水率1〔%〕当たりの平均寸法変化率(収縮率)との関係を示す特性図であり、(b)は全乾状態にある塑性加工された木材に対して吸湿を行った場合における塑性加工木材の気乾比重と含水率1〔%〕当たりの平均寸法変化率(膨張率)との関係を示す特性図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0032】
まず、本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWを構成する表層材SWを製造する手順について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0033】
図1において、本実施の形態の表層材SWを製造する塑性加工木材製造装置1は、主として、上プレス盤10Aと下プレス盤10Bとの2分割された構造体によって内部空間ISを形成するプレス盤10と、内部空間ISを密閉状態とするために下プレス盤10Bの周縁部10bに対向して上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されるシール部材11と、下プレス盤10Bの側面側から内部空間IS内に連通され、内部空間IS内から水蒸気を排出するための配管口12aを有する配管12、配管12内の蒸気圧を検出する圧力計P2、その下流側のバルブV5、バルブV5に接続されたドレン配管13、内部空間IS内にバルブV6に接続された配管14を介して蒸気を供給する上プレス盤10Aの配管口14a等から構成されている。
【0034】
また、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10B内には、それらを高温の水蒸気を通すことによって所望の温度に昇温するための配管路14b,14cが形成されており、これら配管路14b,14cには蒸気供給側の配管ST1から分岐された配管ST2,ST3、蒸気排出側の配管ET1,ET2がそれぞれ接続されている。そして、蒸気供給側の配管ST1,ST2,ST3の途中にはバルブV1,V2,V3、配管ST1内の蒸気圧を検出する圧力計P1が配設されており、蒸気排出側の配管ET1,ET2は、バルブV4を介してドレン配管13に接続されている。なお、配管ST1に水蒸気を供給するボイラ装置、また、プレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇/下降させ加圧するための油圧機構を含むプレス昇降装置は省略されている。また、本実施の形態では、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内を加熱するためにバルブV6に接続された配管14を用いて高温の水蒸気を導入しているが、この他、高周波加熱、マイクロ波加熱等を用いることもできる。特に、木材に対する高周波加熱は、マイクロ波による誘電過熱よりも、マイクロ波よりも周波数の低い高周波で、木材の中心から加熱する方法が好適である。
【0035】
更に、プレス盤10には、上プレス盤10A及び下プレス盤10B内に形成された配管路14b,14cに水蒸気に換えて低温の冷却水を通すことによって所望の温度に冷却するため、冷却水供給側の配管ST11から分岐された配管ST12,ST13が、上記配管ST2,ST3にそれぞれ接続されている。また、冷却水供給側の配管ST11,ST12,ST13の途中にはバルブV11,V12,V13が配設されている。なお、配管ST11に冷却水を供給する冷却水供給装置は省略されている。
【0036】
そして、本実施の形態においては、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISが、シール部材11を介して密閉状態となったときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔は、プレス盤10によって未加工の加工前木材NWが気乾比重1.05以上の表層材SWとなるときの厚み方向の仕上がり寸法に設定されている。
【0037】
ここで、本実施の形態の表層材SWの原材料となる加工前木材NWは、図2に示すように、前以って所定の寸法(厚み・幅・長さ)に製材されたものである。そして、この加工前木材NWは、板目面(木表及び木裏の2面)、柾目面(2面)、木口面(2面)を有しており、本実施の形態においては、木目の長さ方向に対して垂直方向で年輪の外側の平面となる板目面の木裏側がプレス盤10の下プレス盤10Bに載置される。
勿論、本発明を実施する場合には、プレス盤10にてプレス圧縮される面は、木目の長さ方向としての木口面以外であれば柾目面でもよく、板目面をプレス圧縮するかまたは柾目面をプレス圧縮するかの加熱圧縮の方向性は加工前木材NWの種類等が考慮されて選定される。しかし、一般的に、板目方向(半径方向、放射方向)における周囲環境条件の変化による寸法変化率は柾目方向(接線方向)のそれよりも小さい。したがって、本実施の形態によれば、加工前木材NWの板目方向(半径方向、放射方向)に加熱圧縮されるため、周囲環境条件の変化による寸法変化率を小さくすることができる。また、加熱圧縮の際に目割れが発生するのを防止することできる。
また、本実施の形態において、スギ材を用いた表層材SWを形成する加工前木材NWには、辺材が用いられている。なお、表層材SWを形成する加工前木材NWとしては、例えば、加工前の気乾比重が平均約0.36であるスギ材や、加工前の気乾比重が平均約0.50であるイエローポプラ材等が好適である。
【0038】
そして、このように構成される塑性加工木材製造装置1によって原材料の加工前木材NWから表層材SWを製造するにあたり、まず、図3(a)に示すように、塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aが上昇され、予め所定の条件に乾燥させた加工前木材NWが、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内に載置される。
次に、図3(b)に示すように、固定側の下プレス盤10B上に載置された加工前木材NWに対して上プレス盤10Aを所定圧力にて下降させて加工前木材NWの上面具体的には、本実施の形態においては、木目の長さ方向に対して垂直方向で年輪の内側の平面となる板木目の表側に当接させる。そして、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに所定温度(例えば、110〜160〔℃〕)の水蒸気が通されることによって、内部空間IS内が所定温度(例えば、110〜180〔℃〕)に保持される。
【0039】
続いて、図3(c)に示すように固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aの圧縮圧力が所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に設定され、加工前木材NWが上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて所定時間(例えば、5〜40〔min:分〕)加熱圧縮される。なお、このときの圧縮圧力は、加工前木材NWの温度上昇、即ち、加工前木材NWの内部の温度の伝達状態に応じて徐々に大きくするのが望ましく、加熱圧縮の時間も伝達時間を考慮して設定するのが好ましい。
そして、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接すると上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されたシール部材11によって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて形成される内部空間ISが密閉状態となる。更には、内部空間ISの密閉状態で上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる圧縮圧力が保持されたまま、所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)まで上昇させる。
【0040】
更に、図3(c)に示す内部空間ISの密閉状態で、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの圧縮圧力が維持され、かつ、内部空間ISが所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)のまま、所定時間(例えば、30〜120〔min〕)保持され、この後の冷却圧縮を解除したときに戻りのない表層材SWを形成するための加熱処理が行われる。このとき、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで密閉状態とされている内部空間ISを介して、加工前木材NWの周囲面とその内部とで高温高圧の蒸気圧が出入り自在となっている。
このように、本実施の形態においては、加工前木材NWの表裏面に上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが面接触し、密閉状態の内部空間ISに保持されるため、加工前木材NWは、厚み全体にほぼ均一に、かつ、十分に加熱され、1.05以上の所望の気乾比重となるよう効率よく圧縮変形される。なお、上述したように、密閉状態となったときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔は、プレス盤10によって未加工の加工前木材NWが気乾比重1.05以上の表層材SWとなるときの厚み方向(本実施の形態においては、板目方向)の仕上がり寸法に設定されていことから、加工前木材NWの厚み全体の圧縮率、即ち、加工前木材NWの圧縮による板厚の変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。
【0041】
次に、図3(d)に示すように、内部空間ISが密閉状態で加熱圧縮処理が行われているときに、蒸気圧制御処理として圧力計P2で内部空間ISの蒸気圧が検出され、バルブV5が適宜、開閉される。これにより、配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出されることで、特に、加工前木材NWの表層の含水率に基づく余分な内部空間IS内の水分が除去され、内部空間IS内が所定の蒸気圧となるように調節される。また、必要に応じて、バルブV6に接続された配管14、配管口14a(図1)を介して内部空間ISに所定の蒸気圧を供給することができる。
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる加熱圧縮から冷却圧縮へと移行する直前に、蒸気圧制御処理としてバルブV5が開状態とされることで配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出される。これにより、木材の加熱圧縮処理、所謂、木材の固定化がより促進されることとなる。
【0042】
続いて、図3(e)に示すように、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに常温の冷却水が通されることによって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが常温前後まで冷却され、材料によって異なる所定時間(例えば、10〜120〔min〕)保持される。なお、このときの固定側の下プレス盤10Bに対する上プレス盤10Aの圧縮圧力は、加熱圧縮の際の圧力と同じ所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に保持されたまま、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが冷却される。
このように、本実施の形態においては、蒸気圧を制御したのち、徐々に解圧して内部蒸気圧を開放し、また、冷却によって板材内の水蒸気圧を下げるので、冷却圧縮を解除したときの膨らみ変形やパンクと呼ばれる表面割れのない表層材SWを形成できる。
最後に、図3(f)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇させ、内部空間ISから仕上がり品である表層材SWが取出され一連の処理工程が終了する。このようにして、本実施の形態に係る表層材SWが製造される。
【0043】
そして、このように製造された表層材SWは、厚み全体にほぼ均一に圧縮が加えられ、塑性加工されて気乾比重が1.05以上となっており、また、圧縮解除後に膨らみ変形を生じることもなくて安定した品質が確保されている。
【0044】
ここで、一般的に、木材にはヤ二が存在し、特に針葉樹においてはその量が多いことから、気乾比重が1.05以上となるようにスギ材等を高圧縮した場合、ヤ二が多く表出し、商品としての品質が損なわれたり、ヤ二除去に多大な手間がかかったりすることが懸念される。
しかし、本実施の形態においては、スギ材を用いた表層材SWには、上述したように、辺材が用いられているため、気乾比重が1.05以上となるように高圧縮しても、ヤ二の表出量が少なく、商品としての品質が損なわれることはなく、ヤ二除去に多大な手間がかかることもない。
また、芯材(赤身・赤味)に比べ辺材は白太とも呼ばれるように明るい色彩であることから、辺材を使用することで、高圧縮したときの濃色変化が芯材(赤身・赤味)よりも抑制される。故に、本実施の形態によれば、スギ材を用いた表層材SWは、良好な外観が保持される。
【0045】
ところで、本発明を実施する場合には、加工前木材NWがプレス盤10によって木目の垂直方向(本実施の形態においては、板目方向)に圧縮変形される際に、加熱圧縮方向に対する直角方向(本実施の形態においては、柾目方向)に広げられるのを防止するため、下プレス盤10Bに載置される加工前木材NWの加熱圧縮方向に対する直角方向(本実施の形態においては、柾目方向)の側面側に図示しないスペーサを配置固定することもできる。
これにより、下プレス盤10Bの図示しないスペーサ間に載置された加工前木材NWに対して上プレス盤10Aを所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)にて下降させ、加工前木材NWを加熱圧縮していった時に、加工前木材NWの加熱圧縮方向に対する直角方向の側面(本実施の形態においては、柾目面)が図示しないスペーサに当接して加熱圧縮方向に対する直角方向(本実施の形態においては、柾目方向)への伸長が規制される。よって、加工前木材NWの木目の長さ方向に対する垂直方向へのプレス盤10による加熱圧縮のときに、加工前木材NWの木目が加熱圧縮方向に対する直角方向(本実施の形態においては、柾目方向)に密度が上がり、割れ難くなる。故に、このようにプレス盤10にて木材NWが木目の長さ方向に対する垂直方向(本実施の形態においては、板目方向)に加熱圧縮される際に、図示しないスペーサによって加熱圧縮方向に対する直角方向(本実施の形態においては柾目方向)への変形が拘束されてなる表層材では、高い品質が確保される。
【0046】
続いて、上述のようにして形成された本実施の形態の表層材SWの特性について図4乃至図7を参照して説明する。
まず、塑性加工木材製造装置1を用いて木目の長さ方向に対して垂直方向(ここでは、板目方向)の加熱圧縮により厚み全体が圧縮され塑性加工された木材における気乾比重と硬度〔N/mm2〕との関係について、図4を参照して説明する。
【0047】
図4は、上述した塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となるときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔を様々変えることによって得られる気乾比重が異なるスギ材のそれぞれの硬度についてJIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を特性図にしたものである。具体的には、図4において、硬度H〔N/mm2〕は、試験体の表面に直径10〔mm〕の鋼球を平均圧入速度0.5〔mm/min〕で圧入して、圧入深さが0.32〔mm〕になるときの荷重P〔N〕を測定し、下記の式(1)から算出したものである。
H=P/10・・・(1)
なお、図4において、参考のために、横軸の最小値には、加工前の木材における硬度〔N/mm2〕の測定結果を示してある。
【0048】
図4に示すように、塑性加工された木材の気乾比重が大きくなるにしたがって、硬度〔N/mm2〕は次第に、しかも、指数関数的に増大しており、気乾比重が1.05以上のものでは、その値が顕著に高くなっていることが分かる。即ち、塑性加工によって気乾比重を1.05以上にすることで、集中荷重を受ける床材等の表層部分を構成するのに十分な硬度が得られることが分かる。
このことから、気乾比重が1.05以上となるように塑性加工された表層材SWは、従来のものと比較して、著しく硬度が高くなっていて、優れた硬度を有している。
【0049】
次に、上記塑性加工木材製造装置1を用いて木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により厚み全体が圧縮され塑性加工された木材における気乾比重と耐摩耗性との関係について、図5を参照して説明する。
図5は、耐摩耗性についてJIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものであり、上述した塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となるときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔を様々変えることによって得られる気乾比重が異なるスギ材において、それぞれ耐摩耗性の指標となる摩耗深さ〔mm〕を比較したものである。具体的には、図5において、摩耗深さD〔mm〕は、いわゆる摩耗試験装置を用い、試験体に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように試験体と摩耗輪を500回転させたときの試験体の重量m2〔g〕を測定し、試験前の試験体の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから下記の式(2)によって算出したものである。
D=(m1−m2)/A・ρ・・・(2)
なお、図5において、比較のために、横軸の最小値には、加工前の木材における摩耗深さ〔mm〕の測定結果を示してある。
【0050】
図5に示すように、塑性加工された木材の気乾比重が大きくなるにしたがって、摩耗深さ〔mm〕は次第に減少しており、気乾比重が1.05以上のものでは、その値がとても小さくなっており、塑性加工によって気乾比重を1.05以上にすることで、集中荷重を受ける床材等の表層部分を構成するのに十分な耐摩耗性が得られることが分かる。
このことから、気乾比重が1.05以上となるように塑性加工された表層材SWは、従来のものと比較して、耐摩耗性が極めて高くなっていて、集中荷重を受ける床材等の表層部分を構成するのに十分な耐摩耗性を有している。
【0051】
続いて、本実施の形態の表層材SWとしてスギ材及びイエローポプラ材を用いた場合における硬度及び耐衝撃性について図6を参照して説明する。
図6において、硬度〔N/mm2〕は、上述したJIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものである。また、耐衝撃性の指標となる圧痕深さ〔mm〕は、デュポン衝撃試験によって測定した結果を示したものである。
具体的には、耐衝撃性については、プラスチック表面の物性測定に用いられるようないわゆるデュポン衝撃試験器を使用して、試験体に、撃芯先端径φが13〔mm〕である1,000〔g〕の錘を500〔mm〕の高さから落下して衝突させたときの、衝撃を受けた試験体における圧痕深さ〔mm〕を測定した。
そして、図6には、実施例1として塑性加工によって気乾比重を1.05以上としたスギ材からなる表層材SWの評価結果が示してあり、また、実施例2として塑性加工によって比重を1.05以上としたイエローポプラ材からなる表層材SWの評価結果が示してある。さらには、比較のために、比較例1として上述した塑性加工木材製造装置1を用いて塑性加工された従来例のスギ材、比較例2乃至比較例5として以前から公共施設や住宅向けの床材等に用いられてきた広葉樹の木材、比較例6及び比較例7として針葉樹の木材における評価結果が示してある。なお、図6の測定結果は、各試験体につき10点を測定し、更に1試験体につき3箇所測定した結果の平均となっている。
【0052】
図6から、実施例1及び実施例2は、比較例と比較して、極めてその硬度が高くなっていることが分かる。殊に、塑性加工によって気乾比重を1.05以上としたスギ材(実施例1)と従来例のスギ材(比較例1)との比重差及び硬度差と、従来例のスギ材(比較例1)と塑性加工されていない無垢のスギ材(比較例6)との比重差及び硬度差とを比較すると、前者では後者より比重差が小さいにも関わらず硬度差は遥かに大きくなっている。
先にも述べたように、本実施の形態に係る実施例1は、従来例の比較例1と比較すると、硬度が顕著に大きくなっていることが分かる。また、実施例2においても、硬度が従来例の比較例1よりも顕著に大きくなっている。このことから、スギ材、イエローポプラ材等の木材を気乾比重が1.05以上となるように塑性加工してなる表層材SWは、従来例よりも極めて優れた硬度を有していることが分かった。
【0053】
また、図6における比較例から、硬度と圧痕深さ(mm)については必ずしも相対関係がないところ、本実施の形態に係る実施例1及び実施例2は、いずれもその値が0.5〔mm〕以下となっていて、従来例や他の比較例より顕著に小さくなっている。このことから、本実施の形態の表層材SWは耐衝撃性が優れていて、衝撃集中荷重を受ける床材等の表層部分を構成するのに十分な耐衝撃性を有している。
【0054】
このように、本実施の形態の表層材SWは、従来のものと比較して、硬度・耐摩耗性・耐衝撃性が顕著に大きく、集中荷重や衝撃荷重を受けても、傷跡や凹みが極めて付き難くなっている。これは、気乾比重が1.05以上となるように塑性加工することで、細胞壁を構成する成分がかなり密となり、細胞壁を構成する成分間の隙間がなくなってきたためと考えられる。
【0055】
ここで、一般に塑性加工が施されていない木材は比重が大きいほど周囲環境条件の変化における寸法変化に寄与する細胞壁中の結合水吸着点が多いため吸脱着で変化する水分体積量が大きく、周囲環境条件の変化における寸法変化率が大きくなる傾向にある。このため、本実施の形態の表層材SWは、原材料となる加工前木材NWをその木目の長さ方向に対して垂直方向に高圧縮して比重を1.05以上としたものであるから、従来のものと比較して寸法変化率(収縮率及び膨張率)が高くなり、製品化後の周囲環境条件の変化における寸法形状安定性が損なわれることが懸念される。
そこで、塑性加工木材製造装置1を用いて木目の長さ方向に対して垂直方向(ここでは、板目方向)の加熱圧縮により厚み全体に圧縮率がほぼ均一に塑性加工された木材の気乾比重と含水率1%当たりの寸法変化率との関係について実験を行った。
【0056】
まず、上述した塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となるときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔を様々変えることによって得られる気乾比重が異なるスギ材において、乾燥を行ってから、それぞれ所定の同寸法に切削して、試験体を作製した。そして、気乾状態で各試験体の重量m1〔g〕、厚さ方向、幅方向、長さ方向の各長さh1〔mm〕を測定した後、乾燥器で完全乾燥(以下、単に「全乾」という)させ、その後の重量m2〔g〕、上記各方向の長さh2〔mm〕を測定し、下記の式(3)によって含水率1[%]当たりの平均寸法変化率(収縮率)を算出した。その結果を示す特性図が図7(a)である。即ち、図7(a)は、厚さ・幅・長さの各方向についての、気乾状態の塑性加工木材を全乾状態にした場合における塑性加工木材の気乾比重と含水率1〔%〕当たりの平均寸法変化率(収縮率)α〔%〕との関係を示したものである。なお、本実験において、各試験体は、木目の長さ方向に対して垂直方向である板目方向に加熱圧縮されたものであり、ここでは、上記長さ方向とは、木目の長さ方向(木口方向)のことであり、上記厚さ方向とは、加熱圧縮方向(板目方向)、上記幅方向とは、加熱圧縮方向に対する直角方向(柾目方向)のことである。
α=[(h1−h2)/h2}/[(m1−m2)/m2}・・・(3)
【0057】
また、上記全乾寸法測定後、温度20℃湿度80%の環境下で所定時間各試験体に吸湿を行わせ、吸湿後に重量m3〔g〕、上記各方向の長さh3〔mm〕を測定し、下記の式(4)によって含水率1〔%〕当たりの平均寸法変化率(膨張率)を算出した。その結果を示す特性図が図7(b)である。即ち、図7(b)は、厚み[T]・幅[W]・高さ[L]の各方向について、全乾状態の塑性加工木材に対して吸湿を行った場合における塑性加工木材の気乾状態の比重と含水率1〔%〕当たりの平均寸法変化率(膨張率)β〔%〕との関係を示したものである。
β=[(h3−h2)/h2}/[(m3−m2)/m2}・・・(4)
なお、本試験における気乾比重は、気乾状態における各試験片の重量及び寸法(幅、厚さ、長さ)から算出したものである。
また、加熱圧縮時に幅方向の変形を拘束してなる試験体を作成し、同様に実験を行った。その結果を図8に示す。
【0058】
図7に示すように、厚さ方向及び幅方向の含水率1%当たりの平均寸法変化率は、気乾比重が0.8以上で一定となる傾向または減少する傾向にある。これは、木材を高圧縮して気乾比重が0.8以上となると、空隙がなくなり、細胞壁が重なり合った状態となり、寸法変化の原因となる細胞壁に結合できる水(結合水)の吸着点が制約されてくるため、即ち、細胞壁を構成する成分が密となって水が結合できる隙間が少なくなり繊維飽和点が下がるためと考えられる。
殊に、加熱圧縮時に幅方向の変形を拘束してなるものにおいては、図8に示すように、厚さ方向の含水率1%当たりの平均寸法変化率(膨張率)は、気乾比重が0.8以上で大きく減少する傾向にあり、また、幅方向における含水率1%当たりの平均寸法変化率も、気乾比重が0.8以上で一定となる傾向にある。これは、加熱圧縮時に幅方向の変形が規制され、細胞壁が重なりやすく水の吸着点が一層制約されたためと考えられる。なお、幅方向において含水率1%当たりの平均寸法変化率(収縮率)が気乾比重0.8以上のもので大きく減少しなかったのは、幅方向への変形が規制されて幅方向への内部応力が大きかったためと思われる。
これより、気乾比重が1.05以上である表層材SWは、製品化後の周囲環境条件の変化における含水率1%当たりの寸法変化率が従来と比較してほとんど増大しておらず、寸法形状安定性が損なわれることはない。また、加熱圧縮時に加熱圧縮方向に対する直角方向の変形を拘束してなるものにおいても同様である。
【0059】
次に、上述のようにして製造された表層材SWを用いて構成される本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWについて、図9を参照して説明する。
本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、図9に示すように、厚み全体に圧縮率がほぼ均一に塑性加工されて気乾比重を1.05以上とした表層材SWの片面に、図示しない接着剤を介して内層材IWが接合されたものである。
【0060】
内層材IWとしては、表層材SWと同一樹種であって塑性加工されていない木材を使用することもできるし、表層材SWとは異なる樹種の木材、例えば、ラワン合板等を使用することもできる。勿論、塑性加工された木材を使用してもよい。なお、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWにおいては、内層材IWとしてラワン合板を使用している。
そして、表層材SWと内層材IWとの間に介在し、両者を一体に接合する図示しない接着剤としては、具体的には、水性ビニールウレタン系の接着剤(水性高分子イソシアネート系の接着剤)、その他の接着剤を使用することができる。
【0061】
なお、本実施の形態において、表層材SW及び内層材IWは、図示しないプレス盤による圧締で接着剤を介在させ一体に接合されたものである。具体的には、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、表層材SWと内層材IWとの間に接着剤を均一に塗布したものを図示しないプレス盤の圧縮空間内に載置したのち、図示しないプレス盤の圧縮圧力で圧締することによって、表層材SWと内層材IWとを一体に接合したものである。
なお、このときの所定の条件となる圧締圧力及び圧締時間等については、接着剤の種類や樹種や含水率等をパラメータとして圧力ができる限り均等にかかるように予め実験等によって最適値が設定されている。
【0062】
そして、本実施の形態においては、表層材SW及び内層材IWは互いの木目の長さ方向が交差することがないように接合面で互いに木目の長さ方向を一致させて接合されており、表層材SWが、内層材IWの木表側板目面に接合されている。ここで、一般的に、乾燥収縮によって、木材は年輪の逆方向に変形するとされている。したがって、表層材SWの板目面を内層材IWの木表側板目面に接合し表層材SW側を製品表面に用いることで、乾燥収縮における内層材IWの変形によって積層塑性加工木材LPW全体の逆凹形となって表出するのを防止することができる。
ところで、周囲環境条件が変化したときの無垢の木材における木目の長さ方向の寸法変化率は僅かであり、図7及び図8に示したように、本発明者らの実験によれば、気乾比重が1.05以上となるように塑性加工された木材においても、周囲環境条件が変化したときにおける木目の長さ方向の寸法変化率は僅かであることが確認された。そして、本実施の形態においては、上述したように、積層全体における長さ方向表層材SWを内層材IWの木表側板目面に接合する際に、表層材SW及び内層材IWの互いの木目の長さ方向が交差しないように接合面で互いに木目の長さ方向を一致させている。したがって、本実施の形態によれば、接合面における両者の寸法変化率の差が小さくなり、接合面へのストレスが少なくなる。また、寸法変化率が接合面で大きく異なることに起因する歪みの発生を防止することもできる。
しかし、本発明を実施する場合には、表層材SWと内層材IWとの接合方向は必ずしも上述のように特定されるものではない。
【0063】
このように、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、表層に硬度・耐摩耗性・耐衝撃性に優れた表層材SWが形成され、内層材IWを下部層としてその間に接着剤を介在させて一体に接合された2層構造にて構成されたものであるから、表層材SW側を製品表面に用いることで、集中荷重や衝撃荷重を受けても、表面となる表層材SWによって傷跡や凹みが極めて付き難くなっている。このため、ハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を受ける床材、具体的には、飲食店やショッピングモール等の商業施設・社交ダンス場等の内装用床材、デッキ材等に用いるのに適しており、用途を拡大することができる。勿論、腰板材、屋内家具材、表面塗装して使用する住宅用外装材、学童机、テーブルの天板、扉等にも利用することができ、広範な用途に使用可能であり、傷跡や凹みが極めて付き難いため従来のものより意匠面が長時間良好に維持される。
【0064】
なお、ハイヒール等の履物による集中荷重や衝撃荷重を受ける床材等に用いるのに、表層材SWは約1〔mm〕乃至5〔mm〕程度の厚みがあれば十分であることが、本発明者らの実験で確認されており、表層材SWの厚みを薄くできることから、内層材IWの緩衝機能を引き出すことが可能となる。殊に、本実施の形態においては、内層材IWに塑性加工されていない木材であるラワン合板を使用しているため、内層材IPWによる防音効果や断熱効果をも期待できる。
【0065】
また、従来、上記接合におけるプレスの際等に表面に傷跡が付くことがあり、製品化において表面の切削加工を必要とする場合があったが、表層材SWは、上述の如く、硬度・耐摩耗性・耐衝撃性に優れているため、表層材SWと内層材IWとをプレス盤10によって圧締する等の積層塑性加工木材LPWの製造途中において表層材SWに傷跡が付き難い。このため、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、製品化の際に使用表面の切削加工を省略することができ、製品化における生産性を向上させることができる。また、水分や汚れの対策としてはコーティングした方がよいが、コーティングしなくとも耐摩耗性等を向上させ、使用表面が傷付き難くなる。しかし、本発明を実施する場合には、一般に、製造途中で表面の平面性が損なわれたり、汚れが発生したりした際の対応等として切削加工を施したり、樹脂等による表面コーティングを行ってもよい。
【0066】
なお、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWは、上述したように、効率よく加熱圧縮変形された表層材SWを用いてなるため、生産性を向上させることができる。
また、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWを構成する表層材SWとしてスギ材またはイエローポプラ材を用いた場合には、スギ材またはイエローポプラ材が入手しやすく加工を施しやすいものであることから、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることができる。殊に、イエローポプラ材は元来の色調が明るいため、表層材SWとしてイエローポプラ材を用いた場合には、高圧縮による黒色化が抑制され、良好な外観が保持される。一方、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、表層材SWとしてとしてスギ材を用いた場合には、環境保全に貢献することができる。
勿論、本発明を実施する場合には、表層材SWはこれらに限定されるものではなく、ヒノキ、ヒバ等を用いることも可能である。ヒノキは我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができ、加工も施しやすいため、スギ材を用いた場合と同様の効果が得られる。また、ヒノキやヒバには元来抗菌性・防虫性を有する成分が含有されているため、抗菌性・防虫性等の効果も期待できる。
【0067】
また、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SWは、加工前木材NWを板目方向(接線方向)に加熱圧縮してなるものであるため、製品後における周囲環境条件の変化における加熱圧縮方向(厚み方向)の寸法変化率を小さく(変化しなく)することができる。また、加熱圧縮の際における木目の変形が小さく、木目割れが防止されている。
【0068】
このように、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWは、加工前木材NWの木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮され、塑性加工されて気乾比重を1.05以上とした表層材SWと、表層材SWの片面側に接合された内層材IWとを具備するものである。
【0069】
したがって、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWによれば、製品化後の周囲環境条件が変化した場合における表層部分の寸法形状安定性を損なうことなく、表層部分において優れた硬度・耐摩耗性・耐衝撃性が得られ、傷跡や凹みが極めて付き難くなっている。このため、長時間意匠面を良好に維持できると共に、ハイヒール等の履物の集中荷重や衝撃荷重を受ける床材等にも耐用できて用途を拡大できる。
殊に、本実施の形態の実施例1及び実施例2に係る表層材SWは、所定の高さからおもりを落下させ衝撃変形による損傷によりその衝撃強度を決定するデュポン衝撃試験法において重さ1,000〔g〕、撃芯先端径φ13〔mm〕の重錘を500mmの高さから落下させたときに形成される圧痕深さが平均で0.5〔mm〕以下であるから、ハイヒール等の履物の集中衝撃荷重を受ける床材等に用いるのに十分な耐衝撃性を有しており、傷跡や凹みが一層付き難くなっている。
【0070】
また、表層材SWには、特に、スギ材では辺材が用いられていることから、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWによれば、比重が1.05以上となるように高圧縮したときのヤ二の表出量を抑制することができる。また、高圧縮による濃色化を抑えることもでき、良好な外観を保持することができる。
【0071】
さらに、表層材SWは、複数に分割された構造体としての上プレス盤10A、下プレス盤10Bによって内部空間ISを形成し、内部空間ISの容積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤10を用いて、内部空間IS内に載置される加工前木材NWを木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした内部空間内ISに保持し、保持された内部空間IS内の蒸気圧を制御して固定したのち冷却してなるものである。即ち、表層材SWは、効率的に圧縮変形されてなるものであり、圧縮解除後の戻り、膨らみ変形、パンクと呼ばれる表面割れも防止されている。故に、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWによれば、高い品質を確保することができ、また、生産性が良好となる。
【0072】
そして、表層材SW及び内層材IWは、周囲環境条件の変化における寸法変化率が小さい木目の長さ方向が互いに交差しないよう接合されたものであるため、本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWによれば、接合面における両者の寸法変化率の差を小さくすることができ、接合面へのストレスを少なくすることができる。
【0073】
しかし、本発明を実施する場合には、逆に、表層材SW及び内層材IWは、互いの木目の長さ方向が交差するように接合してもよい。このとき、周囲環境条件が変化したときの積層塑性加工木材LPWの全体の寸法変化率は僅かである。特に、本発明者らの実験によれば、塑性加工された木材において、木目の長さ方向の寸法変化率は僅かであることが確認され、表層材SW及び内層材IWの接合面で互いに木目の長さ方向を交差させても、積層全体における長さ方向または幅方向または厚さ方向の寸法変化率が略等しくなるから、接合面における両者の寸法変化率の差を小さくすることができ、接合面へのストレスを少なくすることができる。
【0074】
なお、上記実施の形態では、表層材SWと内層材IWが各1枚の積層加工木材LPWについて説明したが、本発明を実施する場合には、表層材SWを2枚として表裏に利用することも可能である。即ち、1枚の内層材IWを2枚の表層材で挟んでサンドイッチ構造とすることもできる。これによっても、上記実施の形態及びその変形例と同様の効果を得ることが可能である。また、例えば、床板等として利用する場合において表裏を問うことなく使用できるようになるため、便利である。更に、積層加工木材の表裏面のバランスがよくなることから、周囲環境条件が変化したときにおける全体の歪みの発生を防止することが可能になる。
【0075】
更に、本発明を実施する場合には、表層材SWとして、間伐材、風害・水害・雪害・森林火災・凍害・虫害等の自然災害によって倒れたり芯割れを起こしたりして丸太の状態では使えなくなった傷害木材、端材等を用いることもできる。これによって、低コスト化を図ることができ、また、環境美化にも貢献することができる。
加えて、表層材SWに内層材IWを接合する手段として接着剤で接着する実施の形態で説明したが、本発明を実施する場合には、木材相互間の機械的に結合する手段とすることができる。また、接続手段によって結合することもできる。
【符号の説明】
【0076】
LPW 積層塑性加工木材
SW 表層材
IW 内層材
NW 加工前木材
IS 内部空間
10 プレス盤
10A 上プレス盤
10B 下プレス盤
11 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮され、塑性加工されて気乾比重を1.05以上とした表層材と、
前記表層材の片面側に接合された内層材と
を具備することを特徴とする積層塑性加工木材。
【請求項2】
前記表層材には、スギ材の辺材が使用されることを特徴とする請求項1に記載の積層塑性加工木材。
【請求項3】
前記表層材としては、スギ材またはイエローポプラ材を用いたことを特徴とする請求項1に記載の積層塑性加工木材。
【請求項4】
前記表層材は、所定の高さからおもりを落下させ衝撃変形による損傷によりその衝撃強度を決定する衝撃試験において、重さ1,000〔g〕、撃芯先端径φ13〔mm〕の重錘を500〔mm〕の高さから落下させたときに形成される圧痕深さが平均で0.5〔mm〕以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。
【請求項5】
前記表層材は、複数に分割された構造体によって内部空間を形成し、前記内部空間の体積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤で、前記内部空間内に載置される前記木材を木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした前記内部空間内に保持し、該保持された前記内部空間内の蒸気圧を制御して固定化してなることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。
【請求項6】
前記表層材は、前記木材の木目の長さ方向に対して垂直方向の加熱圧縮の際に、加熱圧縮方向に対する直角方向への変形が拘束されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。
【請求項7】
前記表層材及び前記内層材は、互いに木目の長さ方向が交差しないように接合されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。
【請求項8】
前記表層材及び前記内層材は、互いに木目の長さ方向が交差するように接合されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−183667(P2011−183667A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51294(P2010−51294)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(501115689)マイウッド・ツー株式会社 (16)
【出願人】(592069078)
【Fターム(参考)】