説明

積層成形体及びその製造方法

【課題】意匠性、品質、剛性及び生産性に優れた積層成形体を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂成形体からなる表層に、機械的強度・弾性率が優れた架橋ノルボルネン系樹脂重合体を積層一体化して、十分な剛性を付与する。また、注型成形型12の型面に対して所定の間隙13を設けた状態でアクリル樹脂成形体1を配置し、そのアクリル樹脂成形体と型面との間隙13に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を充填し硬化させることにより、アクリル樹脂成形体1に架橋ノルボルネン系樹脂層2が積層一体化された積層成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば浴槽、防水パン、キッチンカウンター、洗面ボウル、便器、外装材、デッキ材、壁材等に用いられる積層成形体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アクリル樹脂シートの成形体は、耐候性、耐水性、成形性、表面光沢があり意匠性に優れているなどの特性を有していることから、浴槽、洗面ボウル等の表面材として好適に使用されている。しかし、アクリル樹脂シート単独では機械的強度・剛性が不足するため、裏面をバックアップ補強する必要がある。その補強法として、例えば、ガラス繊維で強化した不飽和ポリエステル樹脂(FRP)にてアクリル樹脂シートをバックアップ補強する方法がある(例えば特開平9−109287号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記したようなバックアップ補強方法においては、アクリル樹脂成形体の裏面に、ガラス繊維と不飽和ポリエステルとをスプレーした後、ロールなどを用いて脱泡・含浸させて積層一体化する、という方法が一般に採用される。
【0004】しかし、これらの一連の作業は人手による作業であるため、作業者の熟練度や作業時の体調等によって品質のばらつきが大きい。しかも人件費が高くつく上、不飽和ポリエステル樹脂に含まれるスチレンモノマーによる人体への悪影響等の多々の問題がある。
【0005】また、積層作業や樹脂の硬化に多くの時間を要する。例えばアクリル浴槽の場合、アクリル樹脂真空成形体の裏面にスプレーアップ法で樹脂とガラス繊維とを積層し、加熱硬化させてバックアップ補強するわけであるが、バックアップ補強層を目的肉厚で1度に積層すると、樹脂の硬化収縮が大きいためクラックが発生したり、ひけ等の外観不良になってしまう。このため、バックアップ補強層を数回に分けて積層しなければならず、従来では、バックアップ補強したアクリル浴槽を生産するのに1体あたり約2時間を要していた。
【0006】本発明の目的は、意匠性、品質、剛性及び生産性に優れた積層成形体の提供と、そのような積層成形体を、良好な品質、生産性及び作業環境にて製造することのできる積層成形体の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の積層成形体は、アクリル樹脂成形体に架橋ノルボルネン系樹脂層が積層一体化されていることによって特徴づけられる。
【0008】本発明の積層成形体において、架橋ノルボルネン系樹脂はジシクロペンタジエン系樹脂であることが好ましい。また、架橋ノルボルネン系樹脂層は、架橋ノルボルネン系樹脂に無機充填材を含有させたものであることが好ましい。
【0009】本発明の積層成形体の製造方法は、注型成形型の型面に対して所定の間隙を設けた状態でアクリル樹脂成形体を配置し、そのアクリル樹脂成形体と型面との間隙に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を充填し硬化させることにより、アクリル樹脂成形体に架橋ノルボルネン系樹脂層が積層一体化された積層成形体を得るをことによって特徴づけられる。
【0010】本発明の積層成形体の製造方法において、架橋ノルボルネン系樹脂はジシクロペンタジエン系樹脂であることが好ましい。また、アクリル樹脂成形体と型面との間隙に充填する重合性組成物は、ノルボルネン系モノマーに無機充填材を含有させたものであることが好ましい。
【0011】本発明の積層成形体の詳細を説明する。
【0012】まず、本発明の積層成形体に用いる架橋ノルボルネン系樹脂は、特に限定されるものではなく、1種もしくは2種以上のノルボルネン系モノマーをメタセシス重合触媒によって開環メタセシス重合し、架橋させて得られる樹脂を挙げることができる。
【0013】上記ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエンやジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フェニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、及び、これらのアルキル置換体(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)はもちろんのこと、エポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基等の極性基を有する誘導体が挙げられる。これらノルボルネン系モノマーは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】また、上記ノルボルネン系モノマーは、本発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて、当該ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーと共重合されてもよい。
【0015】ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの単環シクロオレフィンあるいはインデン、クマロン、クマロンインデン系コモノマーのような、メタセシス重合活性を有する環状モノマーなどが挙げられる。
【0016】これらのノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】また、ノルボルネン系モノマーを開環メタセシス重合させるための触媒としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ルテニウム、レニウム、オスミウム、チタンなどの金属ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、酸化物、有機アンモニウム塩などが挙げられる。これらのメタセシス重合触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合を、プロセスとして空気中で行う必要がある場合には、上記メタセシス重合触媒の中でも空気中での経時安定性に優れる触媒を選択することが好ましい。具体的には、下記一般式[I]のルテニウムカルベン触媒や一般式「II」のルテニウムビニリデン触媒が好ましい。これらのルテニウムカルベン触媒やルテニウムビニリデン触媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
【化1】


【0020】式中、R1及びR2は、互いに独立に、水素、C2〜C20−アルケニル、C1〜C20−アルキル、アリール、C1〜C20−カルボキシレート、C1〜C20−アルコキシ、C2〜C20−アルケニルオキシ、アリールオキシ、C2〜C20−アルコキシカルボニル、C1〜C20−アルキルチオ(これらは、C1〜C5−アルキル、ハロゲン、C1〜C5−アルコキシによって必要に応じて置換されていてもよいし、あるいはC1 〜C5 −アルキル、ハロゲン、C1 〜C5−アルコキシによって置換されたフェニルによって必要に応じて置換されていてもよい)、フェロセン誘導体を意味し、また、式中、X1 及びX2 は、互いに独立に、任意のアニオン性配位子を意味し、L1 及びL2 は、互いに独立に、任意の中性電子供与体を意味している。そして、X1 、X2 、L1 及びL2 の2個または3個は、一緒に多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0021】より好ましくは、一般式(I)及び一般式(II)の式中において、R1及びR2が、互いに独立に、水素、メチル、エチル、フェニル、フェロセニル、または、メチル、エチル、フェニルもしくはフェロセニルによって必要に応じて置換されたビニルであり、X1及びX2が、互いに独立に、Cl、Brであり、L1及びL2が、互いに独立に、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリフェニルホスフィン、またはトリシクロヘキシルホスフィンである、ルテニウムカルベン触媒やルテニウムビニリデン触媒である。
【0022】ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合時における上記メタセシス重合触媒の使用量は、メタセシス重合触媒の活性によって異なるので、一義的には言えないが、全モノマーに対して1/5〜1/50万モル当量であることが好ましい。全モノマーに対するメタセシス重合触媒の使用量が1/5当量よりも多いと得られる樹脂の分子量が十分に上がらず、1/50万当量より少ないと重合速度が低くなる。
【0023】また、前記架橋ノルボルネン系樹脂には、本発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて、充填材、補強材、酸化防止剤(老化防止剤)、発泡剤、消泡剤、揺変性付与剤、帯電防止剤、分子量調整剤、高分子改質剤、難燃剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤、顔料、染料、着色剤、エラストマー類等の種々の添加剤の1種もしくは2種以上が添加されていてもよい。
【0024】充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、フライアツシュ、モンモリロナイト、ガラスバルーン、シリカバルーン、熱膨張性塩化ビニリデン粒子等が挙げられる。これらの充填材は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの充填材は、必要に応じてカップリング剤、表面処理剤等によって表面処理を行って用いてもよい。
【0025】補強材としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等の繊維が挙げられる。これらの繊維の形態は特に限定されず、短繊維であっても長繊維であってもよいし、クロス状、マット状、不織布状等に加工したものであってもよい。これらの繊維は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの繊維は、必要に応じてカップリング剤、表面処理剤等によって表面処理を行って用いてもよい。
【0026】エラストマー類としては、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共集合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共集合体及びこれらの水素化物が挙げられれる。これらのエラストマー類は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】本発明の積層成形体に用いるアクリル樹脂成形体には公知のアクリル樹脂を用いることができる。代表例としては、アクリル酸エステルであり、具体的な一例を挙げるとメタクリル酸メチルが挙げられる。このようなアクリル樹脂は、特に機械的強度や耐熱性が要求される用途で用いる場合には、架橋されていることが望ましい。
【0028】アクリル樹脂成形体は、それ自体に染料、顔料、着色剤等による着色が施されていてもよいし、何らかの方法によって石目調、木目調等の意匠性が付与されたものであってもよい。また、透明アクリル樹脂の裏面を、印刷、シートまたは模様材入り樹脂等で加飾したものであってもよい。
【0029】さらに、アクリル樹脂成形体には、本発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて、充填材、補強材、酸化防止剤(老化防止剤)、発泡剤、消泡剤、揺変性付与剤、帯電防止剤、分子量調整剤、高分子改質剤、難燃剤、軟化剤、可塑剤エラストマー類などの種々の添加剤が1種もしくは2種以上添加されていてもよい。
【0030】アクリル樹脂成形体の成形方法は特に限定されず、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形、注型成形、真空成形、圧空成形あるいはゲルコートなど、目的とする用途に最適な成形方法を用いることができる。中でも、曲面を有する大型成形体を、生産効率よく低設備投資で成形する場合には真空成形が好ましいが、真空成形は対応できる形状に限界があるため、より複雑な形状の成形体を得る場合には形状対応の面でゲルコートが好ましい。
【0031】アクリル樹脂成形体の肉厚は特に限定されないが、0.05mm〜10mm程度であることが好ましい。
【0032】アクリル樹脂成形体の形状は、特に限定されず、浴槽、防水パン、キッチンカウンター、洗面ボウル、便器、外装材、デッキ材、壁材など、目的とする任意の形状とすることができる。
【0033】本発明の積層成形体に用いる架橋ノルボルネン系樹脂は、ガラス繊維等による繊維補強を行わなくても高強度・高剛性であるので、当該架橋ノルボルネン系樹脂によって補強されたアクリル樹脂成形体は強度・剛性が飛躍的に向上する。特に、強度・剛性が要求される浴槽、防水パン、キッチンカウンター、洗面ボウル等の大型成形体に有効である。また、架橋ノルボルネン系樹脂は熱変形温度が高い材料であるので、アクリル樹脂に耐熱性を与えることができ、本発明の積層成形体を浴槽や防水パン等の耐熱用途で使用する場合に特に有効である。
【0034】架橋ノルボルネン系樹脂層の厚さは特に限定されず、目的とする用途で要求される強度や剛性に応じて、適宜設計すればよい。
【0035】アクリル樹脂成形体は架橋ノルボルネン系樹脂層と積層一体化されていることが必須であるが、必要に応じて、3層以上の多層構造にすることができる。この場合、アクリル樹脂層と架橋ノルボルネン系樹脂層以外の層については特に制約はなく、素材・形状及び積層位置などを任意に選定することができる。
【0036】積層位置については、アクリル樹脂層と架橋ノルボルネン系樹脂層との間に設けることもできる。このような第3の層を設けることで、本発明の積層成形体をより高付加価値のものとすることができる。
【0037】例えば、発泡体と積層することで成形体の断熱性能を高めることができる。発泡体の素材は特に限定されないが、ウレタン樹脂や架橋ノルボルネン系樹脂の発泡体が好適である。また、透明のアクリル樹脂成形体を用いた場合には、アクリル樹脂層と架橋ノルボルネン系樹脂層との中間層として塗料による着色層や、石目調や木目調等の柄模様の入ったシートや樹脂層を設けることで、より意匠性の高い成形体とすることができる。
【0038】本発明の積層成形体は、各層の接合強度を高めるために何らかの処理を行ってもよい。その方法としては、例えば、両層との接着性が良好な中間層を設ける方法、プライマー処理あるいはサンディング処理等によるアンカー効果による接合等が挙げられる。
【0039】また、本発明の積層成形体は他の部材と接合一体化して用いてもよい。この場合、用いる部材の素材・形状及び接合部位は特に限定されず、目的とする用途に応じて最適のものを選定すればよい。このような部材の一例を挙げると、鋼材や木材が挙げられ、これらの部材と接合することで、本発明の積層成形体の剛性を更に高めたり、温度変化による寸法変化を少なくすることができる。
【0040】さらに、本発明の積層成形体は、架橋ノルボルネン系樹脂からなるバックアップ部分をリブ構造にしてもよい。リブを設けることで軽量性と剛性を両立させることができる。この場合、リブの形状・本数・位置等は目的とする用途において要求される強度や剛性に応じて、適宜設計すればよい。
【0041】本発明の積層成形体において、架橋ノルボルネン系樹脂層はアクリル樹脂成形体の全面に積層されていてもよいし、必要とされる部分にのみ積層されていてもよい。
【0042】本発明の積層成形体を更に具体的に説明する。
【0043】本発明の積層成形体に用いる架橋ノルボルネン系樹脂はジシクロペンタジエン系樹脂であることが好ましい。
【0044】ジシクロペンタジエン系樹脂とは、前記メタセシス重合触媒の存在下、ジシクロペンタジエンモノマー単独で、または、ジシクロペンタジエンモノマーと当該ジシクロペンタジエンモノマーと開環共重合可能な、前記他のモノマーとを開環メタセシス重合させて得られる重合体をいう。
【0045】ジシクロペンタジエン系樹脂の架橋体は、架橋ノルボルネン系樹脂の中でも特に強靭、高耐熱性であるので、ジシクロペンタジエン系樹脂と積層一体化したアクリル樹脂成形体は、特に強度・剛性や耐熱性に優れたものとなる。また、ジシクロペンタジエンモノマーは低価格で入手が容易である点からも好ましい。
【0046】本発明の積層成形体に用いる架橋ノルボルネン系樹脂層は、架橋ノルボルネン系樹脂に無機充填材を含有させたものであってもよい。
【0047】架橋ノルボルネン系樹脂は樹脂単体で用いた場合であっても、十分な強度・剛性・耐熱性等を有するが、特に高強度、高剛性、高耐熱性等が必要とされる用途では、無機充填材と複合化させることでさらに物性を高めることができる。
【0048】無機充填材としては、例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、フライアツシュ、モンモリロナイト、ガラスバルーン、シリカバルーン等が挙げられる。この中でも、特に、炭酸カルシウムと水酸化アルミニウム及びフライアッシュが、コスト面及び成形体の物性が良好なることから好ましい。
【0049】無機充填材によって複合化させた架橋ノルボルネン系樹脂は高剛性になるので、特に剛性が要求される用途において強度設計面で有効になるばかりでなく、線膨張率が低下するので積層成形体の寸法安定性の面においても好ましい。また、水酸化アルミニウムを充填した架橋ノルボルネン系樹脂は難燃になる。さらにガラスバルーン、シリカバルーンを充填した架橋ノルボルネン系樹脂は断熱性がよくなる。
【0050】これらの無機充填材は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの無機充填材は、必要に応じてカップリング剤、表面処理剤等によって表面処理を行って用いてもよい。
【0051】無機充填材の充填量は、特に限定されないが、充填量が少なすぎると剛性や線膨張等の物性面で大きな期待ができず、逆に多すぎると強度が低下する可能性がある。無機充填材の充填量は、好ましくは架橋ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、30重量部以上300重量部以下である。
【0052】次に、本発明の積層成形体の製造方法を詳述する。
【0053】本発明の製造方法は、注型成形型の型面から所定の間隙を設けた状態でアクリル樹脂成形体を配置し、そのアクリル樹脂成形体と型面との間隙に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を充填し硬化させることにより、アクリル樹脂成形体に架橋ノルボルネン系樹脂層が積層一体化された積層成形体を得ることを特徴とするものである。
【0054】本発明の製造方法に用いる注型成形型の材質は、特に限定されるものではなく、アルミニウムや鋼材等の金属材料、エポキシ樹脂または硬質塩化ビニル樹脂等の硬質プラスチック材料、シリコンゴムやフッ素ゴム等のゴム材料、セラミック材料、木材等が一例として挙げられる。また、注型成形型の表面には、架橋ノルボルネン系樹脂との離型性を向上させること、あるいは型の耐久性を向上させることを目的として、離型処理やメッキ処理等による表面処理などを施しておいてもよい。
【0055】注型成形型は、アクリル樹脂成形体の全面に配置してもよいし、必要とする部分だけに配置してもよい。なお、アクリル樹脂成形体と注型成形型との間隙に充填する重合性組成物が、その両者の隙間から流れ出す場合には、適当なシールを行えばよい。
【0056】本発明の製造方法の具体的な例を図1を参照しながら説明する。
【0057】まず、図1(A)に示すように、注型成形型(凹型)12の型面に対して所定の間隙13を設けた状態でアクリル樹脂異形成形体1を配置する。
【0058】次に、注型成形型12とアクリル樹脂異形成形体1との間隙13に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を、注型成形型12の注入孔12aから充填する。
【0059】樹脂が硬化した後、アクリル樹脂異形成形体1と架橋ノルボルネン系樹脂2とが積層一体化された積層成形体(図1(B))を、注型成形型12から脱型して取り出す。
【0060】この例の製造方法によれば、アクリル樹脂異形成形体1を注型成形型の一方として用い、架橋ノルボルネン系樹脂の重合と当時に接合一体化する方法であるので、注型成形型の作製が片方の型のみでよく、注型成形型の制作費が少なくて済むという利点がある。
【0061】ここで、アクリル樹脂異形成形体が真空成形によるものである場合、形状によっては真空成形する際に大きく引き延ばされ薄肉となっている部位がある。その場合、薄肉部分が重合性組成物の圧力等によって変形するおそれがあるため、薄肉部分を何らかの部材で補強しておくことが好ましい。
【0062】なお、図1の製造方法において、アクリル樹脂異形成形体1が注型成形型12からずれないように、アクリル樹脂異形成形体1を注型成形型12に固定しておいてもよい。また、注型成形型12の型面とアクリル樹脂異形成形体1との間隙13の間隔は、成形後に架橋ノルボルネン系樹脂層の厚さになるため、目的とする製品において必要とされる物性等の条件から設計すればよい。
【0063】本発明の製造方法の他の具体例を図2を参照しながら説明する。
【0064】まず、アクリル樹脂異形成形体1を一方の注型成形型(凸型)11の表面上に接触させて設置する(図2(A))。注型成形型11の形状は必ずしも型全体がアクリル樹脂異形成形体1と同形状である必要はなく、一部分だけがアクリル樹脂異形成形体1に接触するような形状であってもよい。
【0065】次に、一方の注型成形型11にアクリル樹脂異形成形体1を取り付けた状態で、アクリル樹脂異形成形体1に対して所定の間隙13を保った状態で、もう一方の注型成形型(凹型)12をセットする(図2(B))。
【0066】アクリル樹脂異形成形体1と注型成形型12との間隙13に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を、注型成形型12の注入孔12aから充填する。
【0067】樹脂が硬化した後、アクリル樹脂異形成形体1と架橋ノルボルネン系樹脂2とが積層一体化された積層成形体を、注型成形型11,12から脱型して取り出す。
【0068】なお、図2の製造方法において、アクリル樹脂異形成形体1と注型成形型12との間隙13の間隔は、成形後にジシクロペンタジエン系樹脂層の厚さになるため、目的とする製品において必要とされる物性等から設計すればよい。
【0069】本発明の製造方法の別の具体例を図3を参照しながら説明する。
【0070】まず、一方の注型成形型(凸型)11にアクリル樹脂のゲルコート層を設けてアクリル樹脂異形成形体1とする(図3(A))。
【0071】アクリル樹脂異形成形体1に対して所定の間隙13をあけた状態で、もう一方の注型成形型(凹型)12を配置する(図3(B))。
【0072】次に、アクリル樹脂成形体1と注型成形型12との間隙に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を注型成形型12の注入孔12aから充填する。
【0073】樹脂が硬化した後、アクリル樹脂異形成形体1と架橋ノルボルネン系樹脂2とが積層一体化された積層成形体(図3(C))を注型成形型12から脱型して取り出す。
【0074】なお、図3の製造方法において、アクリル樹脂異形成形体1と注型成形型12との間隙13の間隔は、成形後に架橋ノルボルネン系樹脂層の厚さになるため、目的とする製品において必要とされる物性等から設計すればよい。
【0075】本発明の製造方法に用いるノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有してなる重合性組成物は、使用温度において粘度が10000cps以下であることが必要である。粘度が10000cpsを超えると流動性が悪くなるため、重合性組成物が狭い隙間まで浸透しにくく、本発明の目的を達成することができない。
【0076】ここで、ノルボルネン系モノマーの重合性組成物は非常に低粘度な配合液とすることができるため、低圧であっても狭い隙間への浸透性が良好である。従って注型成形による常圧による成形あるいは低圧成形であっても、大型製品の隅々まで樹脂を流し込むことができる。
【0077】架橋ノルボルネン系樹脂は重合硬化時に発熱を伴うため、発熱によってアクリル樹脂成形体が変形するおそれがある場合には、何らかの方法で発熱を抑えて成形を行ってもよい。発熱を抑える方法としては、例えば、注型成形型を冷却配管にて冷却することによって樹脂の反応熱を抑える方法、成形を低温に温調された養生室内で行う方法、あるいは触媒の種類や添加量によって発熱を抑えた配合とする方法等が挙げられる。
【0078】本発明の製造方法に用いるノルボルネン系モノマーは、ジシクロペンタジエンであることが好ましい。
【0079】ジシクロペンタジエンモノマーとはジシクロペンタジエンモノマー単独、または、ジシクロペンタジエンモノマーと当該ジシクロペンタジエンモノマーと開環共重合可能な前記他のモノマーとの混合物のことを指す。
【0080】ジシクロペンタジエンモノマーは、ノルボルネン系モノマーの中でも特に低粘度であるので、低圧であっても狭い隙間への浸透性が良好である。従って、注型成形による常圧成形あるいは低圧成形であっても、大型製品の隅々まで樹脂を流し込むことができ、ボイドや樹脂の浸透不足のない良好な積層成形体を得ることができる。
【0081】また、ジシクロペンタジエンモノマーは、ノルボルネン系モノマーの中でも特に重合反応性に優れているために、本発明の積層成形体を短時間で作業効率良く生産できる。さらに、ジシクロペンタジエンモノマーは低価格で入手が容易である点からも好ましい。
【0082】本発明の製造方法に用いるノルボルネン系モノマーには、無機充填材を含有させていてもよい。ノルボルネン系モノマーの配合液は無機充填材を高充填した場合であっても非常に流動性がよく、無機充填材を多量に充填した場合でも隙間への浸透性が良好である。
【0083】無機充填材の充填量は特に限定されないが、架橋ノルボルネン系樹脂100重量部に対して30重量部以上、300重量部以下であることが好ましい。無機充填材を多量に充填することで、樹脂の硬化収縮が小さくなり、収縮による変形や剥離が起こりにくくなるので、良好な積層構造体を製造することができる。充填材の種類や形状によっても異なるが、充填量が300重量部以上では流動性が悪くなるので好ましくない。
【0084】無機充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ガラスバルーン、シリカバルーン等が挙げられる。この中でも、特に、炭酸カルシウムと水酸化アルミニウム及びフライアッシュが、コスト、重合性組成物の流動性の面で好ましい。
【0085】これらの無機充填材は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの無機充填材は、必要に応じてカップリング剤、表面処理剤等によって表面処理を行って用いることもできる。
【0086】ここで、本発明の応用例としては、例えば、アクリルバスであり、真空成形したPMMA等のアクリル樹脂異形成形体を架橋ノルボルネン系樹脂重合体によってバックアップ補強する目的で使用することができる。
【0087】<作用>本発明によれば、アクリル樹脂成形体からなる表層に、機械的強度・弾性率が高い架橋ノルボルネン系樹脂重合体を積層一体化しているので、十分な剛性を付与することができる。しかも表面がアクリル樹脂であるので耐候性、耐水性、表面光沢等の意匠性に優れた積層成形体とすることができる。
【0088】また、架橋ノルボルネン系樹脂は非常に低粘度であるために複雑形状の積層成形体であっても注型によるバックアップ補強が可能であり、さらに樹脂の硬化が極めて短時間で完了するので、従来の人手によるハンドレイアップやスプレーアツプによる補強に比べて品質・生産性に優れている。
【0089】本発明の積層成形体の製造方法によれば、注型成形によってアクリル樹脂成形体と架橋ノルボルネン系樹脂とが積層一体化しているので、良好なバックアップ補強を行うことができる。すなわち、注型成形は低圧で成形を行うことができるので、注型成形型内に樹脂を流し込んだときに、アクリル樹脂成形体の変形や設置位置からのずれが起こりにくくなる結果、架橋ノルボルネン系樹脂層(バックアップ補強層)を良好な状態で形成することができる。
【0090】また、アクリル樹脂成形体を注型成形型の一方として用い、ノルボルネン系モノマーの重合とともに積層一体化する場合には、型の製作が一方の型ですむために初期投資が少なくてすむという利点がある。
【0091】
【実施例】本発明の実施例を、以下、比較例とともに説明する。
【0092】<実施例1>・アクリル樹脂異形成形体ポリメタクリル酸メチル(PMMA)真空成形体形状:浴槽肉厚:約1mm・バックアップ材材質:架橋ノルボルネン系樹脂モノマー:ジシクロペンタジエンモノマーメタセシス重合触媒:ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド充填材:未使用モノマーとしてジシクロペンタジエンを用い、トルエン200部に、下記構造式[III]のビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド10部を溶解させた溶液を、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドのジシクロペンタジエンに対するモル比が1/10000になるように、40℃で混合攪拌して重合性組成物とした。
【0093】
【化2】


【0094】図4に示すように、浴槽形状のアクリル樹脂異形成形体10を、注型成形型の凸型21に接触させて設置し、注型成形型の凹型22を、アクリル樹脂異形成形体10との間に所定の間隙23をあけた状態で配置した。凹型22とアクリル樹脂異形成形体10との間隙23は側面部及び底面部とも約5mmに設定した。なお、注型成形型の凸型21及び凹型22は、いずれも塩化ビニル樹脂製のものを用いた。
【0095】次に、凹型22とアクリル樹脂異形成形体10との間隙23に、上記重合性組成物を凹型22の注入孔22aから流し込んだ後、60℃で10分間の加熱硬化を行って一体化させ、注型成形型から取り外すことで積層成形体を得た。注型成形型の凸型21にアクリル樹脂異形成形体10をセットしてから、脱型して浴槽形状の積層成形体を得るまでのトータルの成形時間は約19分であった。
【0096】得られた積層成形体(浴槽)は、アクリル樹脂異形成形体10の裏面にジシクロペンタジエン重合体が一体化して補強されており、ジシクロペンタジエン重合体の肉厚は側面及び底面がともに約5mmであり、剛性に優れたものであった。また、ジシクロペンタジエン重合体層には気泡は見られず、端部まで樹脂が充填していた。
【0097】上記処理で作製した重合性組成物を厚さ5mmの平板状の型内に流し込み、60℃で10分加熱硬化させ、上記ジシクロペンタジエン重合体と同じ組成・硬化条件の平板を作製した。得られた平板から幅15mm、長さ80mmのサンプルを切り出し、そのサンプルについて、JIS K 7055に従ってスパン間距離60mmで3点曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定したところ、変位量は3.7mmであった(下記の表1に示す)。
【0098】実施例1に用いたアクリル樹脂異形成形体と同じ材質のPMMA平板(肉厚1mm)について実施例1と同じ曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定しようとしたが、剛性が高くないため荷重が100Nに達する前に大変形してしまい試験ジグから外れてしまった。
【0099】以上の結果から分かるように、剛性の低い薄肉のPMMA平板であっても、ジシクロペンタジエン重合体と積層一体化することで、剛性を付与することができる。
【0100】<実施例2>・アクリル樹脂異形成形体ポリメタクリル酸メチル(PMMA)真空成形体形状:浴槽肉厚:約1mm・バックアップ材樹脂:架橋ノルボルネン系樹脂モノマー:ジシクロペンタジエンモノマーメタセシス重合触媒:(3,3−ジメチルブチニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド充填材: 炭酸カルシウム 平均粒径3.2μmモノマーとしてジシクロペンタジエンを用い、トルエン200部に、下記構造式[IV]の(3,3−ジメチルブチニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド10部を溶解させた溶液を、(3、3−ジメチルブチニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドのジシクロペンタジエンに対するモル比が1/10000になるように40℃で混合攪拌し、ジシクロペンタジエンモノマーと同重量の炭酸カルシウムを配合して重合性組成物とした。
【0101】
【化3】


【0102】図5に示すように、浴槽形状のアクリル樹脂異形成形体10を凸型として用い、塩化ビニル樹脂製の凹型22をアクリル樹脂異形成形体10に対して所定の間隙23をあけた状態で配置した。凹型22とアクリル樹脂異形成形体10との間隙23は側面部及び底面部とも約5mmに設定した。
【0103】次に、凹型22とアクリル樹脂異形成形体10との間隙23に、上記重合性組成物を凹型22の注入孔22aから流し込んだ。重合性組成物は非常に低粘度であり、常圧でも間隙に樹脂を容易に流し込むことができた。その後、60℃で10分間の加熱硬化を行って一体化させ、凹型22から取り外すことで積層成形体を得た。アクリル樹脂異形成形体10に凹型22をセットしてから、脱型して浴槽形状の積層成形体を得るまでのトータルの成形時間は約19分であった。
【0104】得られた積層成形体(浴槽)は、アクリル樹脂異形成形体10の裏面に炭酸カルシウム充填ジシクロペンタジエン重合体が一体化して補強されていた。浴槽の肉厚は側面及び底面がともに約5mmであり、剛性に優れたものであった。また、ジシクロペンタジエン重合体層には気泡は見られず、端部まで樹脂が充填していた。
【0105】上記処理で作製した重合性組成物を厚さ5mmの平板状の型内に流し込み、60℃で10分加熱硬化させ、上記炭酸カルシウム充填ジシクロペンタジエン重合体と同じ組成・硬化条件の平板を作製した。得られた平板から幅15mm、長さ80mmのサンプルを切り出し、そのサンプルについて、JIS K 7055に従ってスパン間距離60mmで3点曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定したところ、変位量は1.3mmであった(下記表1に示す)。
【0106】実施例2に用いたアクリル樹脂異形成形体と同じ材質のPMMA平板(肉厚1mm)について実施例2と同じ曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定しようとしたが、剛性が高くないため荷重が100Nに達する前に大変形してしまい試験ジグから外れてしまった。
【0107】以上の結果から分かるように、剛性の低い薄肉のPMMA平板であっても、炭酸カルシウム充填ジシクロペンタジエン重合体と積層一体化することで、剛性を付与することができる。
【0108】<実施例3>・アクリル樹脂異形成形体ラジカル硬化型アクリル樹脂・バックアップ材樹脂:架橋ノルボルネン系樹脂モノマー:ジシクロペンタジエンモノマーメタセシス重合触媒:ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド充填材:未使用モノマーとしてジシクロペンタジエンを用い、トルエン200部にビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド10部を溶解させた溶液を、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドのジシクロペンタジエンに対するモル比が1/10000になるように、40℃で混合攪拌して重合性組成物とした.注型成形型(浴槽形状)の凸型(図2参照)の型面に触媒及び促進剤と混合したアクリル樹脂をスプレーガンを用いて吹き付けて60℃で約5分硬化させ、厚さ約1mmのアクリル樹脂層を形成した。塩化ビニル樹脂製の凹型をアクリル樹脂層に対して所定の間隙をあけた状態で配置した。凹型とアクリル樹脂層との間隙は側面及び底面部とも約5mmに設定した。
【0109】次に、凹型とアクリル樹脂層との間隙に上記重合性組成物を流し込んだ後、60℃で10分間の加熱硬化を行って一体化させ、注型成形型から取り外すことで積層成形体を得た。凸型にアクリル樹脂層を形成してから、脱型して浴槽形状の積層成形体を得るまでのトータルの成形時間は約20分であった
【0110】得られた積層成形体(浴槽)はアクリル樹脂層の裏面にジシクロペンタジエン重合体が一体化して補強されており、浴槽の肉厚は側面及び底面がともに約5mmであり、剛性に優れたものであった。
【0111】上記処理で作製した重合性組成物を厚さ5mmの平板状の型内に流し込み、60℃で10分加熱硬化させ、上記ジシクロペンタジエン重合体と同じ組成・硬化条件の平板を作製した。得られた平板から幅15mm、長さ80mmのサンプルを切り出し、そのサンプルについて、JIS K 7055に従ってスパン間距離60mmで3点曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定したところ、変位量は3.7mmであった(下記の表1に示す)
実施例3に用いたものと同じ材質のアクリル樹脂板(肉厚1mm)について実施例3と同じ曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定しようとしたが、剛性が高くないため荷重が100Nに達する前に大変形してしまい試験ジグから外れてしまった。
【0112】以上の結果から分かるように、剛性の低い薄肉のアクリル樹脂平板であっても、ジシクロペンタジエン重合体と積層一体化することで、剛性を付与することができる。
【0113】<比較例1>・アクリル樹脂異形成形体ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
形状:浴槽肉厚:約1mm・バックアップ材樹脂:ビス型不飽和ポリエステル樹脂プライマー:ビニルエステル樹脂強化繊維:ガラス繊維ロービング浴槽形状のアクリル樹脂異形成形体を凸型に裏返でセットした状態で、スプレーガンによって硬化剤と混合したビニルエステル樹脂を吹き付け、40℃で30分加熱処理してプライマー層とした。次に、スプレーガンによってガラス繊維ロービングを切断したチョップドストランドと硬化剤を混合したビス型不飽和ポリエステル樹脂とを同時に吹き付け、樹脂とガラス繊維の層を形成した。その後、脱泡ロールにより含浸と脱泡を行い、40℃で30分間加熱硬化させて一体化させた。型から取り外すことで、ガラス繊維強化ビス型不飽和ポリエステル繊維でバックアップ補強されたアクリル樹脂異形成形体を得た。
【0114】凸型にアクリル樹脂異形成形体をセットしてから、脱型して浴槽形状の成形体を得るまでのトータルの成形時間は約120分であった
【0115】得られた浴槽はアクリル樹脂異形成形体の裏面にガラス繊維によって強化された不飽和ポリエステル樹脂が一体化して補強されていた。浴槽の肉厚は側面及び底面がともに約3mmであり、剛性に優れたものであった。しかし、手作業による補強のためか、所々補強層が薄くなっていたり、特にコーナーの凹部ではガラス繊維に完全に樹脂が含浸していない部分も見られた。
【0116】上記と同じ配合で、厚さ3mmのガラス繊維強化ビス型不飽和ポリエステル樹脂平板を作製し、40℃で30分加熱硬化させた。得られた平板から幅15mm、長さ80mmのサンプルを切り出し、そのサンプルについて、JIS K 7055に従ってスパン間距離60mmで3点曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定したところ、変位量は3.8mmであった(下記の表1に示す)。
【0117】<比較例2>・アクリル樹脂異形成形体ポリメタクリル酸メチル(PMMA)真空成形体形状:浴槽肉厚:約1mm・バックアップ材樹脂:ビス型不飽和ポリエステル樹脂充填材:炭酸カルシウム 平均粒径7.4μm予めビス型不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、炭酸カルシウム100重量部を混合しておいた。
【0118】浴槽形状のアクリル樹脂異形成形体を注型成形型の凸型に接触させて設置し、凹型をアクリル樹脂異形成形体と所定の間隙をあけた状態で配置した。凹型とアクリル樹脂異形成形体との間隙は側面及び底面部とも約5mmに設定した。なお、注型成形型の凸型及び凹型は、いずれも塩化ビニル樹脂製のものを用いた。
【0119】次に、凹型とアクリル樹脂異形成形体との間隙に、硬化剤と混合した上記ビス型不飽和ポリエステル樹脂を流し込んだ。配合液の粘度が高いためと樹脂の注入は少量ずつ行った。その後、40℃で30分間加熱硬化させて一体化させ、注型成形型から取り外すことで積層成形体を得た。凸型にアクリル樹脂異形成形体をセットしてから、脱型して浴槽形状の積層成形体を得るまでのトータルの成形時間は約50分であった。
【0120】得られた積層成形体(浴槽)は、アクリル樹脂異形成形体の裏面に炭酸カルシウムを充填したビス型不飽和ポリエステル樹脂が一体化して補強されていた。浴槽の肉厚は側面及び底面がともに約5mmであった。しかし、不飽和ポリエステル樹脂層には所々気泡が見られ、また、配合液の粘度が高いためか端部には樹脂が流れておらず、アクリル樹脂異形成形体を補強できていない部分があった。
【0121】上記と同配合の配合液を厚さ5mmの平板状の型内に流し込み、40℃で30分加熱硬化させ、上記炭酸カルシウム充填ビス型不飽和ポリエステル樹脂と同じ組成・硬化条件の平板を作製した。得られた平板から幅15mm、長さ80mmのサンプルを切り出し、そのサンプルについて、JIS K 7055に従ってスパン間距離60mmで3点曲げ試験を行い、負荷荷重100Nでの負荷方向の変位量を測定したところ、変位量は4.2mmであった(下記の表1に示す)。
【0122】
【表1】


【0123】以上の表1の結果から分かるように、本発明によれば、アクリル樹脂異形成形体を架橋ノルボルネン系樹脂重合体でバックアップ補強することで剛性を付与することができ、また、バックアップ材の生産性においては従来のハンドレイアツプ法に比べて極めて短時間で生産することができる。
【0124】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、アクリル樹脂成形体からなる表層に、機械的強度・弾性率が高い架橋ノルボルネン系樹脂重合体を積層一体化しているので、積層成形体に十分な剛性を付与することができる。しかも表面がアクリル樹脂であるので耐候性、耐水性、表面光沢等の意匠性に優れた積層成形体とすることができる。
【0125】また、補強に用いる架橋ノルボルネン系樹脂は配合液が非常に低粘度であるので、複雑形状の積層成形体であっても注型によるバックアップ補強が可能であり、また、樹脂の硬化が極めて短時間で完了する。従って、従来の人手によるハンドレイアップやスプレーアップによる補強に比べて品質・生産性に優れている。
【0126】このように、本発明によれば、表面がアクリル樹脂であるので耐候性、耐水性及び表面光沢等の意匠性に優れ、裏面が架橋ノルボルネン系樹脂重合体にてバックアップ補強されているので、剛性に優れた積層成形体を得ることができる。従って、本発明の積層成形体は、例えば浴槽、防水パン、キッチンカウンター、洗面ボウル、便器、外装材、デッキ材、壁材などの意匠性・剛性が要求される部材に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層成形体の製造方法の一例を示す図である。
【図2】本発明の積層成形体の製造方法の他の例を示す図である。
【図3】本発明の積層成形体の製造方法の別の例を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に用いた製造方法の説明図である。
【図5】本発明の実施例2に用いた製造方法の説明図である。
【符号の説明】
1 アクリル樹脂異形成形体
2 ノルボルネン系樹脂重合体
11 注型成形型(凸型)
12 注型成形型(凹型)
12a 注入孔
13 間隙
10 アクリル樹脂異形成形体(真空成形体)
21 凸型
22 凹型
22a 注入孔
23 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アクリル樹脂成形体に架橋ノルボルネン系樹脂層が積層一体化されてなる積層成形体。
【請求項2】 架橋ノルボルネン系樹脂がジシクロペンタジエン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の積層成形体。
【請求項3】 架橋ノルボルネン系樹脂層が、架橋ノルボルネン系樹脂に無機充填材を含有させたものであることを特徴とする請求項1または2記載の積層成形体。
【請求項4】 注型成形型の型面に対して所定の間隙を設けた状態でアクリル樹脂成形体を配置し、そのアクリル樹脂成形体と型面との間隙に、ノルボルネン系モノマーとメタセシス重合触媒とを含有した組成物で粘度が10000cps以下の重合性組成物を充填し硬化させることにより、アクリル樹脂成形体に架橋ノルボルネン系樹脂層が積層一体化された積層成形体を得るをことを特徴とする積層成形体の製造方法。
【請求項5】 ノルボルネン系モノマーがジシクロペンタジエンであることを特徴とする請求項4記載の積層成形体の製造方法。
【請求項6】 重合性組成物が、ノルボルネン系モノマーに無機充填材を含有させたものであることを特徴とする請求項4または5に記載の積層成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−36435(P2002−36435A)
【公開日】平成14年2月5日(2002.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−227259(P2000−227259)
【出願日】平成12年7月27日(2000.7.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】