説明

空気入りタイヤの内面形状測定システム

【課題】タイヤ内面の変形量を計算するデータの、無線通信装置を用いた転送では、測定内容の高度化に伴うデータ転送量の増大への対応が困難であり、ブラシ式スリップリングを用いた信号伝達では、高速度カメラから出力された撮影画像データを用いる場合、信号電圧レベルが低く雑音による影響が避けられなかった。
【解決手段】空気入りタイヤ11の内面に設けられたマーカ12を、車輪転動時に空気入りタイヤ11が組み付けられるリム17のマーカ対向位置に配置された複数のカメラ13により異なった方向から撮影し、各カメラ13から出力されたマーカ12の撮影画像データaを、リム17が外周部に設けられているディスク部16に防振部材18を介して取り付けられた非接触コネクタ14によりディスク部16の外へ取り出し、変形量演算部15が撮影画像データaに基づき車輪転動時のタイヤ内面形状の変形量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤの内面形状測定システムに関し、特に、空気入りタイヤの転動時におけるタイヤ内面形状を高速度カメラで測定し、測定結果を画像データとして出力する空気入りタイヤの内面形状測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤの転動時におけるタイヤ内部の状態を知るために、タイヤの内面形状をカメラで撮影して得られた画像データからタイヤ内面の変形量を計算するものとして、例えば、「内面形状測定システム及び内面形状測定方法」(特許文献1参照)が知られている。
【0003】
「内面形状測定システム及び内面形状測定方法」は、空気入りタイヤの内面に形成されたマーカを、空気入りタイヤが組み付けられるリムの異なった位置に取り付けられた複数のカメラで撮影し、それぞれのカメラから出力された撮影画像データを用いて、空気入りタイヤの転動時におけるタイヤ内面の変形量を計算する。
このように、従来のタイヤ転動時におけるタイヤ内面の変形量を計算するものにおいては、タイヤ内部のカメラから出力された、変形量の計算を行うためのタイヤ内面の変形に関する情報を、例えば、無線通信装置を用いたデータ転送やブラシ式スリップリングを用いた物理的接触による信号伝達により、タイヤ外部へ取り出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−250963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の無線通信装置を用いたデータ転送においては、タイヤ内に設置可能な装置は小型で送信能力が低いため、測定内容の高度化に伴うデータ転送量の増大への対応が困難であり、また、従来のブラシ式スリップリングを用いた信号伝達においては、接点での雑音の発生が避けられないため、高速度カメラから出力された撮影画像データを用いる場合、信号電圧レベルが低く雑音による影響が避けられなかった。
この発明の目的は、空気入りタイヤの内面の変形に関する情報をタイヤ外へ取り出す際に、データ転送量の増大への対応が容易であり、雑音の発生に影響されることがない空気入りタイヤの内面形状測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明に係る空気入りタイヤの内面形状測定システムは、空気入りタイヤの内面に設けられたマーカと、前記空気入りタイヤが組み付けられるリムのマーカ対向位置に配置され、車輪転動時に前記マーカを異なった方向から撮影する複数のカメラと、前記リムが外周部に設けられているディスク部に防振部材を介して取り付けられ、前記複数のカメラのそれぞれから出力された前記マーカの撮影画像データを前記ディスク部の外へ取り出す非接触コネクタと、前記撮影画像データに基づき車輪転動時のタイヤ内面形状の変形量を演算する変形量演算部とを有している。
【0007】
また、この発明の他の態様に係る空気入りタイヤの内面形状測定システムは、前記マーカが、複数のドットを縦横に配置して形成されている。
また、この発明の他の態様に係る空気入りタイヤの内面形状測定システムは、前記防振部材が、前記ディスク部と前記非接触コネクタの間の少なくとも3箇所に配置されたブッシュタイプの防振ゴムである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、空気入りタイヤの内面に設けられたマーカを、車輪転動時に、空気入りタイヤが組み付けられるリムのマーカ対向位置に配置された複数のカメラにより、異なった方向から撮影し、複数のカメラのそれぞれから出力されたマーカの撮影画像データを、リムが外周部に設けられているディスク部に防振部材を介して取り付けられた非接触コネクタによりディスク部の外へ取り出し、変形量演算部が撮影画像データに基づき車輪転動時のタイヤ内面形状の変形量を演算するので、空気入りタイヤの内面の変形に関する情報をタイヤ外へ取り出す際に、データ転送量の増大への対応が容易であり、雑音の発生に影響されることがない。
【0009】
また、この発明の他の態様に係る空気入りタイヤの内面形状測定システムによれば、防振部材が、ディスク部と非接触コネクタの間の少なくとも3箇所に配置されたブッシュタイプの防振ゴムであるので、ディスク部に取り付けられる非接触コネクタは、軸合わせを確実に行うことができると共に破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤの内面形状測定システムの構成を概略的に示す説明図である。
【図2】ディスク部に装着された光学スリップリングを示す説明図である。
【図3】光学スリップリングを介して行われる非接触通信による信号の流れを概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤの内面形状測定システムの構成を概略的に示す説明図である。図1に示すように、空気入りタイヤの内面形状測定システム10は、路面を転動する車輪における空気入りタイヤ11の内面形状を測定するものであり、空気入りタイヤ11の内面に設けられたマーカ12、マーカ12を異なった方向から撮影する複数のカメラ13、カメラ13から出力された撮影画像データを車輪の外へ取り出す非接触コネクタ14、及び空気入りタイヤ11の内面形状の変形量を演算する変形量演算部15を有している。
【0012】
空気入りタイヤ11は、ディスク部16の外周に設けられたリム17に組み付けられて車輪を形成しており、ディスク部16を駆動軸のハブ部に固定装着することにより、ディスク部16を介して駆動力が伝達され、車輪が回転駆動される。
【0013】
マーカ12は、車輪の路面転動時に空気入りタイヤ11が路面に接触するタイヤ踏面(トレッド)の内側面であるタイヤ内面11aの一部に、複数の微細なドット(点状の印)を縦横に配置して、例えば、平面視矩形状に形成されている。ドットは、例えば、円形状からなり、互いに隣接する同士が所定距離を有して略等間隔に並び、例えば、トレッド幅方向及びタイヤ周方向に沿って配置されている。このマーカ12は、タイヤ内面11aの一部に平面視矩形状に形成されるものに限らず、他の形状やトレッド幅方向全域に形成されていても良く、タイヤ内面11aの少なくとも一部に形成されている。
【0014】
カメラ13は、例えば、1秒間に数百枚〜数万枚の高速撮影ができる高速度カメラであり、リム17のタイヤ内面11aに設けられたマーカ12に対向する面(マーカ対向位置)に、タイヤ周方向(リム周方向)に離間して2個が、それぞれカメラレンズをマーカ12に向けて配置されている。隣り合う2個のカメラ13により、車輪の路面転動時にマーカ12を異なった方向、即ち、マーカ12を挟むタイヤ周方向両側から撮影することで、タイヤ内面11aのマーカ12が形成された領域における路面転動に伴う微小変化(ドットの変化)を画像として記録する。
【0015】
このカメラ13は、2個に限らず、マーカ12を異なった方向から撮影するために、3個以上の複数個を配置しても良く、また、カメラ配置条件の下、変形量演算部15に出力する画像データを得るために必要な撮影条件を確保するため、必要とする被写界深度等の設定条件を計算して使用するレンズを選定する。
なお、カメラ13の近傍に、カメラレンズが向けられた、タイヤ内面11aのマーカ12を照明して撮影に必要な明るさを確保するための照明機材(図示しない)を設置してもよい。
【0016】
非接触コネクタ14は、回転側と固定側との間で接点部の無い非接触により送電・データ転送を行うことができるコネクタであり、防振部材18を介してディスク部16に取り付けられている。この非接触コネクタ14を介して、ディスク部16内側のタイヤ内部空間に配置された2個のカメラ13のそれぞれから出力されたマーカ12の撮影画像データaは、ディスク部16の外側に取り出される。非接触コネクタ14を用いることで、タイヤ内部空間のカメラ13から出力された、微弱な信号からなる撮影画像データaであっても、ノイズの影響を極力受けることなくタイヤ外部へ取り出して確実にデータ転送を行うことができる。
非接触コネクタ14として、例えば、光学スリップリングを用いることができる。
【0017】
図2は、ディスク部に装着された光学スリップリングを示す説明図である。図2に示すように、光学スリップリング(非接触コネクタ)14は、ディスク部16の外表面外側に配置された第1取付板19aに、ディスク部16の略回転中心に位置するように取付固定されており、第1取付板19aは、ディスク部16の駆動軸連結部16aに、防振部材18を介して、例えば、ボルト・ナットにより固着されている。
第1取付板19aに取り付けられた光学スリップリング14の外側には、第2取付板19bが取り付けられている。第2取付板19bには、光学スリップリング14を介してタイヤ内部から取り出された送信信号を出力する出力手段、例えば、変形量演算部15へ無線通信によりデータを送信するデータ送信手段(図示しない)等が装着される。
【0018】
図3は、光学スリップリングを介して行われる非接触通信による信号の流れを概略的に示す説明図である。図3に示すように、光学スリップリング14は、ディスク部16と共に回転する回転側部材20と、回転側部材20とは独立して設けられた固定側部材21と、回転側部材20の回転中心軸のまわりを回転側部材20回転速度の半分の速度で回転する反射部材(ミラー)22と共に、回転側部材20に設置された発光素子20aと受光素子20b、及び固定側部材21に設置された発光素子21aと受光素子21bを有している。そして、発行素子から発光された光が反射部材22で反射するその光路線分上に受光素子が位置したとき、両素子間で光路が形成されるように、両素子を構成する。
【0019】
つまり、発光素子20aが発光した赤外線光が反射部材22に反射されて受光素子21bに受光されることにより、回転側部材20から固定側部材21への送信が行われ、発光素子21aが発光した赤外線光が反射部材22に反射されて受光素子20bに受光されることにより、固定側部材21から回転側部材20への送信が行われることで、回転側部材20と固定側部材21の間で反射部材22を介した赤外線光の送受信、即ち、非接触通信が行われる。
【0020】
従って、タイヤ内部に配置されたカメラ13による撮影画像データaは、光学スリップリング14の、ディスク部16と共に回転する回転側部材20の発光素子20aから、反射部材22を介して固定側部材21の受光素子21bに受光されることで、タイヤ外部に取り出される。同様に、タイヤ外部からカメラ13への撮影指示信号等の操作信号bが、光学スリップリング14の、固定側部材21の発光素子21aから、反射部材22を介して回転側部材20の受光素子20bに受光されることで、タイヤ内部に送り込まれる。
【0021】
また、タイヤ内部に配置されたカメラ13へも、光学スリップリング14を介して、例えば、空気入りタイヤ11が装着された車両のバッテリー電圧(例えば、DC12V)vを電磁誘導により降圧した電圧(例えば、DC5V)cが供給される。
このように、光学スリップリング14を介することで、タイヤ内外部間の非接触通信を行うことができるが、非接触通信の対象としては、撮影画像データaや操作信号bに限るものではなく、例えば、サーモグラフィーによるタイヤ内部の熱分布データ等の各種情報でも良い。
【0022】
防振部材18は、例えば、ブッシュタイプの防振ゴム等の防振機能を備えた部材からなり、非接触コネクタ14を、ディスク部16から離間した状態で支持することができるように、ディスク部16との間の少なくとも3箇所に配置されている。従って、非接触コネクタ14の回転側部材20は、防振部材18を介して、ディスク部16、即ち、車輪側に連結されることになる。この防振部材18は、非接触コネクタ14及びディスク部16に、例えば、ボルト等のネジ部材により取付固定される。
非接触コネクタ14が防振部材18を介してディスク部16に取り付けられることにより、ディスク部16において発生した振動が非接触コネクタ14にそのまま伝わることを阻止することができるため、非接触コネクタ14が、ディスク部16、即ち、車輪からの振動の影響を受けるのを極力防止することができる。
【0023】
このため、防振部材18により、非接触コネクタ14に対する位置決めと振動吸収が可能になるので、ディスク部16に取り付けられる非接触コネクタ14の軸合わせを確実に行うことができると共に、ディスク部16に取り付けられた非接触コネクタ14の破損を防ぐことができる。その結果、空気入りタイヤ11の内部から車輪外部へ円滑な情報(撮影画像データa等)の伝達を行うことができる
【0024】
非接触コネクタ14を介して空気入りタイヤ11の内部から車輪外部に取り出されたマーカ12の撮影画像データaは、車体側のロギング装置(図示しない)へと送られ、ロギング装置を経て変形量演算部15に送られる。
変形量演算部15は、カメラ13による撮影画像の撮影画像データaに基づき、車輪転動時、タイヤ11が路面上を転動する際に生じるタイヤ内面11aの状態変化に伴う、タイヤ内面11a形状の変形量を演算する。
【0025】
このように、空気入りタイヤの内面形状測定システム10により、空気入りタイヤ11のタイヤ内面11aに複数のドットを縦横に配置してマーカ12を形成し、車輪転動時に、マーカ12を複数のカメラ13で撮影して得られた画像データを、転動する車輪からの振動伝達を防振部材18により防止した非接触コネクタ14を介して車輪の外へ取り出し、変形量演算部15に送ってタイヤ内面11a形状の変形量を演算する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明は、空気入りタイヤの内面の変形に関する情報をタイヤ外へ取り出す際に、データ転送量の増大への対応が容易であり、雑音の発生に影響されることがないので、空気入りタイヤの転動時におけるタイヤ内面形状を高速度カメラで測定し、測定結果を画像データとして出力する空気入りタイヤの内面形状測定システムに最適である。
【符号の説明】
【0027】
10 内面形状測定システム
11 空気入りタイヤ
11a タイヤ内面
12 マーカ
13 カメラ
14 非接触コネクタ
15 変形量演算部
16 ディスク部
16a 駆動軸連結部
17 リム
18 防振部材
19a 第1取付板
19b 第2取付板
20 回転側部材
20a 発光素子
20b 受光素子
21 固定側部材
21a 発光素子
21b 受光素子
22 反射部材
a 撮影画像データ
b 操作信号
c 電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの内面に設けられたマーカと、
前記空気入りタイヤが組み付けられるリムのマーカ対向位置に配置され、車輪転動時に前記マーカを異なった方向から撮影する複数のカメラと、
前記リムが外周部に設けられているディスク部に防振部材を介して取り付けられ、前記複数のカメラのそれぞれから出力された前記マーカの撮影画像データを前記ディスク部の外へ取り出す非接触コネクタと、
前記撮影画像データに基づき車輪転動時のタイヤ内面形状の変形量を演算する変形量演算部と
を有する空気入りタイヤの内面形状測定システム。
【請求項2】
前記マーカは、複数のドットを縦横に配置して形成される請求項1に記載の空気入りタイヤの内面形状測定システム。
【請求項3】
前記防振部材は、前記ディスク部と前記非接触コネクタの間の少なくとも3箇所に配置されたブッシュタイプの防振ゴムである請求項1または2に記載の空気入りタイヤの内面形状測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219063(P2011−219063A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93384(P2010−93384)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】