説明

空気入りタイヤ

【課題】ユニフォミティの向上を図る上で有利な空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ビードコア18は、厚さよりも幅が大きい帯状部材26がタイヤ軸心の周りに複数回巻回して構成されている。帯状部材26は、複数のビードワイヤ24と、それらを覆うトッピングゴム28とにより構成されている。ビードワイヤ24は、断面が正三角形を呈している。帯状部材26は、正三角形の1つの頂点(角部)がタイヤ半径方向外方に向けて配置されたビードワイヤ24と、正三角形の1つの頂点(角部)がタイヤ半径方向内方に向けて配置されたビードワイヤ24とがタイヤ幅方向に交互に並べられて構成されている。ビードワイヤ24の断面をなす正三角形の全ての頂点は、正三角形の1辺の長さLの10%〜20%の半径Rの円弧によって面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はユニフォミティの向上を図るようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアの周りに折り返されたカーカス層を有する空気入りタイヤにおいては、加硫時におけるビードコアの崩れを抑制することがユニフォミティを確保する上で重要である。
ビードコアの崩れは、加硫時にカーカス層によりビードコアが引っ張られることによって、ビードコアを構成する複数のビードワイヤの並びが崩れることで生じるものである。
各ビードワイヤの並びを崩れにくくするためには、ビードワイヤの回転運動を拘束すればよく、そのためには、ビードワイヤの断面形状を一般的な円形形状に比較して回転運動がより強く拘束される形状とすることが有利であると考えられる。
一方、ビード部の耐久性の向上あるいはビードワイヤの使用量の削減を図る目的で、ビードワイヤの断面形状を平行四辺形あるいは長方形とした空気タイヤが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254684号公報
【特許文献2】特開2007−216710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら従来技術は、ビードワイヤの断面形状が平行四辺形あるいは長方形であることから回転運動を拘束する度合いが十分なものとはいえない。
したがって、これら従来技術は、加硫時におけるビードコアの崩れの抑制を図りユニフォミティの向上を図る上では改善の余地がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ユニフォミティの向上を図る上で有利な空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアの周りに折り返されたカーカス層を有する空気入りタイヤであって、前記ビードコアは複数のビードワイヤが並べられてゴム被覆された帯状部材がタイヤ軸心の周りに複数回巻回して構成され、前記ビードワイヤの断面は正三角形を呈し、前記帯状部材は、前記正三角形の1つの頂点がタイヤ半径方向外方に向けて配置された前記ビードワイヤと、前記正三角形の1つの頂点がタイヤ半径方向内方に向けて配置された前記ビードワイヤとがタイヤ幅方向に交互に並べられて構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の空気入りタイヤによれば、ビードワイヤの断面が正三角形であるため、ビードワイヤの断面が平行四辺形あるいは長方形である場合に比較して頂点の数が1つ少ない分だけ、回転運動がより強く抑制される。
その結果、加硫時にカーカス層でビードコアが引っ張られることによってビードコアに力が作用しても、ビードワイヤの回転運動が効果的に抑制されることによってビードコアの型崩れが抑制されるため、ユニフォミティを確保する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施の形態の空気入りタイヤ10をタイヤ軸心を含む平面で破断した断面図である。
【図2】ビード部16の拡大断面図である。
【図3】帯状部材26の断面図である。
【図4】ビードワイヤ24の断面図である。
【図5】本発明に係る空気入りタイヤ10の従来例、比較例、実施例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る空気入りタイヤ10は、トレッド部12と、トレッド部12の両側部からからタイヤ半径方向内方に延びる一対のサイドウォール部14と、各サイドウォール部14の内周側に連続する一対のビード部16とを備えている。
ビード部16は、ビードコア18と、ビードコア18からタイヤ半径方向外方に向かって延びるビード補強用のビードフィラー20とを備えている。
カーカス層22は、一対のビード部16にわたって設けられ、カーカス層22の両端はビードコア18、ビードフィラー20で折り返されて固定されている。
【0009】
図2、図3に示すように、ビードコア18は、厚さよりも幅が大きい帯状部材26がタイヤ軸心の周りに複数回巻回して構成されている。
帯状部材26は、複数のビードワイヤ24と、それらを覆うトッピングゴム28とにより構成されている。
ビードワイヤ24は、断面が正三角形を呈している。
帯状部材26は、正三角形の1つの頂点(角部)がタイヤ半径方向外方に向けて配置されたビードワイヤ24と、正三角形の1つの頂点(角部)がタイヤ半径方向内方に向けて配置されたビードワイヤ24とがタイヤ幅方向に交互に並べられて構成されている。
本実施の形態では、複数のビードワイヤ24は、それらの断面により平行四辺形が形成されるように並べられている。
また、それらビードワイヤ24を被覆する両端のトッピングゴム28の厚さを変えることで、帯状部材26の断面は長方形にも平行四辺形にも形成することができる。本実施の形態では、帯状部材26の断面は、上辺と下辺がタイヤ軸心と平行する方向に沿って延在し、両側の斜辺がタイヤ半径方向外側に至るほどタイヤ幅方向の外側に変位する平行四辺形に形成されている。
そして、このような断面が平行四辺形の帯状部材26を本実施の形態では3回巻装し、上辺と下辺がタイヤ軸心と平行する方向に沿って延在し、両側の斜辺がタイヤ半径方向外側に至るほどタイヤ幅方向の外側に変位する断面が平行四辺形をなすビードコア18を構成している。
【0010】
ビードワイヤ24は弾性体であるトッピングゴム28で被覆されているので、トッピングゴム28によって回転変位可能に保持されていることになる。
しかしながら、ビードワイヤ24はその断面が正三角形を呈しているため、ビードワイヤ24は、その断面が平行四辺形あるいは長方形である場合に比較して頂点の数が1つ少ない分だけ、回転運動がより強く抑制される。
さらに、隣接するビードワイヤ24は、トッピングゴム28を挟んで正三角形の辺同士が対向しているため、ビードワイヤ24同士が相互の回転運動を拘束し、これによりビードワイヤ24の回転運動がより効果的に抑制される。
【0011】
したがって、加硫時にカーカス層22でビードコア18が引っ張られることによってビードコア18に力が作用しても、ビードワイヤ24の回転運動が効果的に抑制されることによってビードコア18の型崩れが抑制されるため、ユニフォミティを確保する上で有利となる。
【0012】
また、本実施の形態では、図4に示すように、ビードワイヤ24の断面をなす正三角形の全ての頂点は、正三角形の1辺の長さLの10%〜20%の半径Rの円弧によって面取りされている。したがって、面取りの半径Rは、0.1L≦R≦0.2Lを満たしている。
面取りの半径Rを長さLの10%〜20%の範囲内とすると、ビードワイヤ24によるカーカス層22への損傷を抑制して空気入りタイヤ10の耐久性の向上を図りつつ、ビードワイヤ24の回転運動の抑制を図る上で有利となる。
すなわち、面取りの半径Rが長さLの10%を下回ると、ビードワイヤ24によるカーカス層22への損傷を抑制する上で不利となる。
したがって、面取りの半径Rは正三角形の1辺の長さLの10%以上が好ましい。
面取りの半径Rが長さLの20%を上回ると、ビードワイヤ24の回転運動の抑制を図る上で不利となる。
したがって、面取りの半径Rは正三角形の1辺の長さLの20%以下が好ましい。
【0013】
また、本実施の形態では、ビードコア18はタイヤ軸心を含む断面においてタイヤ半径方向外側に至るほどタイヤ幅方向の外側に変位する平行四辺形をなしている。
ビードコア18の断面を平行四辺形にすることで、以下の理由によりビードコア18の形状を安定化させることができ、したがって、加硫時のビードコア18の型崩れを効果的に防ぐ上でより有利となる。
すなわち、ビードコアの成形時、ビードコアの断面形状が長方形になるようにビードワイヤーを並べても、加硫時にカーカスがビードコアを締め付けることでビードコアが型崩れを生じビードコアの断面形状は平行四辺形となる。
したがって、あらかじめビードコアの断面形状が平行四辺形となるようにビードコアを成形しておけば、加硫時にビードコアの型崩れを抑制する上で有利となる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例を比較例と比較しつつ説明する。
図5は本発明に係る空気入りタイヤ10の従来例、比較例、実施例の実験結果を示す図である。
以下のタイヤを用いた。
タイヤサイズ:195/55R16 87V
【0015】
評価項目は以下の4項目である。
(1)ユニフォミティ
ユニフォミティ試験機を用いて測定したRFV(ラジアルフォースバリエーション)を測定し、従来例の空気入りタイヤのRFVを100とした場合の指数で評価した。
数値が高いほど、ユニフォミティが優れている。
【0016】
(2)嵌合圧
予め定められたリムに空気入りタイヤをリム組みし、両側のビード部がリムに完全に嵌合するまでタイヤ内圧を上昇させ、ビード部がリムに完全に嵌合した時の空気圧を空気圧ゲージで測定し、従来例の空気入りタイヤの嵌合圧を100とした場合の指数で評価した。
数値が高いほど嵌合圧が低くしたがって嵌合性に優れている。
【0017】
(3)嵌合力
リム嵌合力試験機にて、タイヤのビード部をリム径JIS中心値にする力を嵌合力として測定し、従来例の空気入りタイヤの嵌合力を100とする指数値で評価した。
数値が70〜120が適切な嵌合力であり、この範囲内であれば嵌合性に優れている。
【0018】
(4)耐久性
空気入りタイヤをリムに装着し、ドラム耐久試験機上を走行させ、タイヤの破損(カーカス層の破損)が発生するまでの走行距離を耐久性として測定し、従来例の空気入りタイヤの耐久性を100とした場合の指数で評価した。
数値が高いほど耐久性に優れている。
【0019】
従来例は、ビードワイヤの断面形状が長方形であり、ビードコアの断面形状が長方形である。
比較例は、ビードワイヤの断面形状が平行四辺形であり、ビードコアの断面形状が平行四辺形である。
実施例1は、図2に示すように、ビードワイヤ24の断面形状が正三角形であり、ビードワイヤ24の面取りが無く、ビードコア18の断面形状が平行四辺形である。
実施例2は、ビードワイヤ24の断面形状が正三角形であり、ビードワイヤ24の面取りの半径Rが正三角形の1辺の長さLの10%であり、ビードコア18の断面形状が平行四辺形である。
実施例3は、ビードワイヤ24の断面形状が正三角形であり、ビードワイヤ24の面取りの半径Rが正三角形の1辺の長さLの20%であり、ビードコア18の断面形状が平行四辺形である。
実施例4は、ビードワイヤ24の断面形状が正三角形であり、ビードワイヤ24の面取りの半径Rが正三角形の1辺の長さLの25%であり、ビードコア18の断面形状が平行四辺形である。
実施例5は、ビードワイヤ24の断面形状が正三角形であり、ビードワイヤ24の面取りの半径Rが正三角形の1辺の長さLの15%であり、ビードコア18の断面形状が長方形である。
【0020】
図5から明らかなように、実施例1は、従来例に比較してユニフォミティに優れ、嵌合性(嵌合力)は従来と同様に適値の範囲内であり、耐久性に関しては従来例と同様であり、嵌合性(嵌合圧)は従来例に比較して若干低下している。
嵌合性(嵌合圧)の低下は、ビードワイヤ24の断面の正三角形の頂点の面取りが無いことから、ビードワイヤ24の回転運動を拘束する度合いが適切な範囲よりも高いためであると考えられる。
【0021】
実施例2、3、4は、従来例に比較してユニフォミティに優れ、嵌合性(嵌合力)は従来と同様に適値の範囲内であり、嵌合性(嵌合圧)は従来例と同等以上であり、耐久性に優れている。
実施例4は従来例に比較してユニフォミティに優れるが、実施例2、3に比較してユニフォミティが低くなっている。これは、ビードワイヤ24の正三角形の頂点の面取りの半径Rが長さLの25%と大きいことから、ビードワイヤ24の回転運動を拘束する度合いが適切な範囲よりも低いためであると考えられる。
【0022】
実施例5は、従来例に比較してユニフォミティに優れ、嵌合性(嵌合力)は従来と同様に適値の範囲内であり、嵌合性(嵌合圧)は従来例に比較して若干低下しているが、耐久性は従来例に比較して優れている。
実施例5が実施例2、3に比較してユニフォミティが低いのは、ビードコア18の断面形状が長方形であるため、ビードコア18の形状の安定化を図る上でビードコア18の断面形状が平行四辺形である場合よりも若干不利であるためと考えられる。
また、嵌合性(嵌合圧)の低下は、加硫時にビードワイヤーの並びが崩れて、トッピングゴム28を押しのけてビードワイヤーが移動または回転し、互いを拘束してしまったためであると考えられる。
【0023】
比較例は、従来例に比較してユニフォミティは同等に留まり、嵌合性(嵌合力)は適値であり、嵌合性(嵌合圧)は従来例に比較して優れているが、耐久性が低下している。
耐久性の低下は、ビードワイヤの断面形状が平行四辺形であり、長方形の角部に比べ鋭角である平行四辺形の角部に面取りがなされていないためであると考えられる。
【符号の説明】
【0024】
10……空気入りタイヤ、12……トレッド部、14……サイドウォール部、16……ビード部、18……ビードコア、22……カーカス層、24……ビードワイヤ、26……帯状部材、L……正三角形の1辺の長さ、R……正三角形の頂点を面取りする円弧の半径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアの周りに折り返されたカーカス層を有する空気入りタイヤであって、
前記ビードコアは複数のビードワイヤが並べられてゴム被覆された帯状部材がタイヤ軸心の周りに複数回巻回して構成され、
前記ビードワイヤの断面は正三角形を呈し、
前記帯状部材は、前記正三角形の1つの頂点がタイヤ半径方向外方に向けて配置された前記ビードワイヤと、前記正三角形の1つの頂点がタイヤ半径方向内方に向けて配置された前記ビードワイヤとがタイヤ幅方向に交互に並べられて構成されている、
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードワイヤの断面をなす正三角形の全ての頂点は、前記正三角形の1辺の長さの10%〜20%の半径の円弧によって面取りされている、
ことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記帯状部材の断面は、上辺と下辺がタイヤ軸心と平行する方向に沿って延在し、両側の斜辺がタイヤ半径方向外側に至るほどタイヤ幅方向の外側に変位する平行四辺形を呈し、
前記帯状部材が複数回巻回されて構成された前記ビードコアの断面も上辺と下辺がタイヤ軸心と平行する方向に沿って延在し、両側の斜辺がタイヤ半径方向外側に至るほどタイヤ幅方向の外側に変位する平行四辺形を呈している、
ことを特徴とする請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアの周りに折り返されたカーカス層を有する空気入りタイヤの製造方法であって、
断面が正三角形の複数のビードワイヤを設け、
複数のビードワイヤの断面により平行四辺形が形成されるようにそれらビードワイヤを並べてゴム被覆した帯状の帯状部材を設け、
前記帯状部材をタイヤ軸心の周りに複数回巻回することで前記ビードコアを形成する、
ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225133(P2011−225133A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97600(P2010−97600)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】