説明

空油冷内燃機関のオイル通路構造

【課題】燃焼室からオイル戻し通路が離れて配される場合にも、ヘッド側冷却用オイル通路の構造を複雑化させることなく、製造コストの安いオイル通路構造。
【解決手段】シリンダヘッド13内に、動弁機構60の潤滑用オイル通路68Aと分岐してヘッド側冷却用オイル通路7が設けられ、シリンダ12に、ヘッド側冷却用オイル通路からのオイルをクランクケース10に導くオイル戻し通路9が設けられた空油冷内燃機関1のオイル通路構造において、ヘッド側冷却用オイル通路には、オイルがシリンダヘッドの点火プラグ55または排気ポート16周辺を流された後、シリンダヘッドとシリンダとの合わせ面70に連通される連通部72が設けられ、オイル戻し通路が、連通部と離間して設けられるとともに、シリンダ側に、連通部からオイル戻し通路へと、オイルを流すシリンダ側オイル通路92が設けられたことを特徴とする空油冷内燃機関のオイル通路構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストが低減し、シリンダヘッド冷却用のオイルの温度上昇を抑制できる空油冷内燃機関のオイル通路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
空油冷内燃機関において、シリンダヘッド内に冷却用のオイル通路が設けられ、オイル通路は、点火プラグ孔を囲うように設けられるとともに、排気ポートの二又部の間に通した冷却構造が、例えば下記特許文献1に示されている。
特許文献1に示される冷却構造によれば、シリンダヘッド内で、周囲と比較して高温となる点火プラグ孔の座面周りや排気ポートの二又部の間を、少ないオイル量で効果的に冷やすことができ、燃焼室の壁温の均一化を図ることができる。
また、オイル戻し通路が、燃焼室とシリンダボアに隣接して配されているため、ヘッド側冷却用オイル通路を、簡単な構造でオイル戻し通路に接続させることができる。
【0003】
ところが、特許文献1に示される冷却構造においては、排気ポートの二又部を通った後のオイルは、点火プラグ孔の座面周りや排気ポートの間を冷却したため温度が高まっているが、シリンダヘッド内を通り抜けて、燃焼室とシリンダボアに隣接したオイル戻し通路に流され、さらに熱伝導を受け易い。
【0004】
オイルは、その温度が一定値よりも高くなると性能に影響が出るため、冷却用のオイルは、最も冷やしたい箇所を冷やした後は、なるべく熱を受けず温度を上げないようにしてオイル通路へ流すことが好ましい。
しかしながら、オイル戻し通路が冷却される燃焼室から離れて配される場合、ヘッド側オイル冷却通路が長くなり、最も冷やしたい箇所を冷やした後のオイルの温度が高くなりやすい。また、燃焼室やシリンダボアからオイル戻し通路を離して配置した場合、それに接続するヘッド側冷却用オイル通路の構造が複雑化して、製造コストが高まるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−97611号公報(図3〜図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、空油冷内燃機関において、燃焼室からオイル戻し通路が離れて配される場合にも、ヘッド側冷却用オイル通路の構造を複雑化させることなく、製造コストの安いオイル通路構造を提供することを課題とするものであり、また、シリンダヘッド内で最も冷やしたい箇所を冷やした後の冷却用のオイルの温度をなるべく上げないようにしてオイル戻し通路を流すことができるオイル通路構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、クランクケースに、シリンダと、動弁機構が取り付けられ収容されるシリンダヘッドとが締結され、前記シリンダヘッド内に、前記動弁機構の潤滑用オイル通路と分岐してヘッド側冷却用オイル通路が設けられ、前記シリンダに、前記ヘッド側冷却用オイル通路からのオイルを前記クランクケースに導くオイル戻し通路が設けられた空油冷内燃機関のオイル通路構造において、前記ヘッド側冷却用オイル通路には、オイルが前記シリンダヘッドの点火プラグまたは排気ポート周辺を流された後、同シリンダヘッドと前記シリンダとの合わせ面に連通される連通部が設けられ、前記オイル戻し通路が、前記連通部と離間して設けられるとともに、前記シリンダ側に、前記連通部から前記オイル戻し通路へと、オイルを流すシリンダ側オイル通路が設けられたことを特徴とする空油冷内燃機関のオイル通路構造である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造において、前記シリンダ側オイル通路は、前記シリンダ側の前記合わせ面に溝として設けられたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造において、前記シリンダ側オイル通路の上流端には、前記連通部と一致する形状のオイル受け部が設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造において、前記連通部は、前記シリンダの軸線に平行に延出して前記合わせ面に達するように形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造において、前記シリンダヘッドと前記シリンダとを締結するスタッドボルトが、前記シリンダヘッドの燃焼室を囲うように配置されるとともに、前記連通部は、燃焼室周壁と前記スタッドボルトとの間に配されたことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造において、前記シリンダの外側部に、同シリンダのシリンダボアに隣接して、前記動弁機構を駆動するカムチェーンが収容されるカムチェーンチャンバが設けられ、前記オイル戻し通路が、同カムチェーンチャンバよりも外方に設けられるとともに、前記シリンダ側オイル通路が同カムチェーンチャンバを廻り込むようにして、前記オイル戻し通路に連通するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明の空油冷内燃機関のオイル通路構造によれば、点火プラグまたは排気ポート周辺等のシリンダヘッド内の高温部近傍を流された後の冷却用のオイルは、シリンダヘッド側の連通部からシリンダ側に連通され、連通された後のオイルはシリンダ側に設けられたシリンダ側オイル通路を通って、連通部と離間したオイル戻し通路に流されるため、鋳型製造を複雑にすることなく、オイル戻し通路に至る経路を形成することが可能となり、製造コストの安いオイル通路構造となる。
また、一般的に、燃焼室のあるシリンダヘッド側よりも、燃焼ガスによる膨張が行われるシリンダ側の方が温度が低いため、最も冷やしたい箇所を冷やした後のオイルの温度上昇を抑制することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、シリンダ側オイル通路を、シリンダ製造時に鋳抜き等で容易に形成可能となる。
【0015】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明の効果に加え、シリンダ側オイル通路のオイル受け部が、ヘッド側冷却用オイル通路の連通部と形状が一致しているので、オイルの流れがスムーズになる
【0016】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、連通部を簡素な構造で設けることができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項4の発明の効果に加え、シリンダヘッドの狭い金属部の領域に、コンパクトにヘッド側冷却用オイル通路を設けることができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、カムチェーンチャンバはシリンダ内における空間部となり、カムチェーンチャンバの外方は、燃焼室やシリンダボアとの間に同空間部を介在するのでシリンダ内で最も温度が低くなる。
かかる温度分布の特性を活かして、カムチェーンチャンバの外方にオイル戻し通路を配置することで、温度の高まった冷却用のオイルを効率よく冷却することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る一実施形態の空油冷内燃機関のオイル通路構造を備えた空油冷内燃機関を搭載した自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1中、II-II矢視による、空油冷内燃機関の断面展開図である。
【図3】図2中、III-III矢視による、シリンダヘッドのみを取り出して示す平面図であり、内部上方に取り付けられ収容される動弁機構等は除かれた状態を示す。
【図4】図2および図3中、IV-IV矢視による、シリンダヘッドのみを取り出して示す左側面図である。
【図5】図3中に破線で、図9中に二点鎖線で示したヘッド側冷却用オイル通路を形成するための、オイル通路中子の平面図である。
【図6】図5中、VI-VI矢視による、オイル通路中子の後側面図である。
【図7】図5中、VII-VII矢視による、オイル通路中子の左側面図である。
【図8】図5中、VIII矢視による、オイル通路中子の上面斜視図である
【図9】図2中、IX-IX矢視による、シリンダのみを取り出して示す平面図である。
【図10】図9中、X部の変形例の説明図である。
【図11】図2中、IX-IX矢視に相当する、シリンダのみを取り出して示す上面斜視図である。
【図12】本実施形態におけるバイパス通路を多気筒内燃機関に適用した場合の、別の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から図12に基づき、本発明の一実施形態に係る空油冷内燃機関のオイル通路構造につき説明する。
なお、本明細書の説明および特許請求の範囲における前後左右上下等の向きは、本実施形態に係る空油冷内燃機関のオイル通路構造を備えた空油冷内燃機関を、小型車両に搭載した状態での車両の向きに従うものとする。本実施形態において小型車両は自動二輪車である。
また、図中矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、それぞれ示す。
また、図中に添記した黒小矢印は、本実施形態における本発明に係る冷却用のオイルの流れを模式的に示すものであり、図5から図8では、オイル通路中子をオイル通路と看做して、オイルの流れを模式的に示した。
【0021】
図1から図12は、本発明の一実施形態に係るものであり、図1に、本実施形態の空油冷内燃機関(以下単に「内燃機関」という)1を、自動二輪車2に搭載された状態で示す。
本実施形態に係る内燃機関1は、そのクランクケース10内の後部に変速機4(図2参照)を一体に備えて、いわゆるパワーユニットを構成しており、そのクランク軸11を、自動二輪車2の車幅方向、すなわち左右方向に配向させて自動二輪車2に搭載された、空油冷単気筒の4ストロークサイクル内燃機関である。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態に係る内燃機関1を搭載した自動二輪車2の車体フレーム20は、ヘッドパイプ21から後方へ左右一対のメインフレーム22が、若干下向きに延出した後に、さらに下方に屈曲して急傾斜部22aを形成して下端部に至っている。
また、ヘッドパイプ21から斜め急角度に下方へ左右一対のダウンフレーム23が、側面視でメインフレーム22の急傾斜部22aに略平行に延出している。
【0023】
メインフレーム22の急傾斜部22aの上部からは、ガセット24を介してシートレール25が後方に延出し、シートレール25の中央部と急傾斜部22aの下部とを連結したバックステー26が、シートレール25を支持している。
【0024】
以上のような車体フレーム20において、ヘッドパイプ21にはフロントフォーク27が枢支され、その下端に前輪28が軸支されている。
メインフレーム22の急傾斜部22aの下部に前端を支持されたリヤフォーク29が、後方へ延出し、その後端に後輪30が軸支され、リヤフォーク29と車体フレーム20のガセット24との間に、リヤクッション31が介装されている。
メインフレーム22の前部には、燃料タンク32が架設され、燃料タンク32の後方にシート33がシートレール25に支持されて設けられている。
【0025】
メインフレーム22とダウンフレーム23に懸架される内燃機関1は、上述のように変速機4(図2参照)を一体に構成したもので、クランクケース10上にシリンダ軸線Cを若干前傾させて、シリンダ12、シリンダヘッド13、シリンダヘッドカバー14が起立した姿勢で懸架される。
【0026】
内燃機関1のシリンダヘッド13からは後方に、その吸気ポート15に接続して吸気管35が延出し、スロットルボディ36を介してエアクリーナ37に至っている。
シリンダヘッド13から前方には、その排気ポート16に接続して排気管38が延出し、下方に屈曲して内燃機関1の下方を後方に延び、後輪30の右側のマフラー39に至っている。
【0027】
図2に示されるように、内燃機関1のクランクケース10は、クランク軸11を軸支するとともにクランク軸11が配置されるクランク室17の後方に、変速機4を収容するミッション室40を構成している。
【0028】
クランクケース10の前側のクランク室17の上には、1本のシリンダボア12aを有するシリンダ12と、シリンダ12の上にガスケット18(図9参照)を介してシリンダヘッド13が重ねられ、スタッドボルト19によりシリンダヘッド13,シリンダ12がクランクケース10に一体に締結され、シリンダヘッド13の上方をシリンダヘッドカバー14が覆っている。
クランクケース10の前側部分の上に重ねられるシリンダ12,シリンダヘッド13およびシリンダヘッドカバー14は、クランクケース10から若干前傾した姿勢で上方に延出している(図1参照)。
【0029】
シリンダ12のシリンダボア12a内にピストン50が往復摺動自在に嵌合され(図2参照)、ピストン50とクランク軸11がコンロッド51により連接されてクランク機構が構成されている。
シリンダヘッド13の下部には、シリンダボア12a中のピストン50に対向して、シリンダボア52aと一致する燃焼室周壁52aを画成して、燃焼室上壁53に覆われる燃焼室52が形成される。
燃焼室上壁53には、燃焼室52に開口して図示しない吸気弁により開閉される吸気ポート15(図1、図4参照)が後方へ延出し、図示しない排気弁により開閉される排気ポート16(図1、図4参照)が前方に延出し、さらに燃焼室52内に臨む点火プラグ55が装着される。
【0030】
シリンダヘッド13には、図示されない吸、排気弁を開閉駆動する動弁カム軸61、被動カムチェーンスプロケット62、吸気ロッカアーム65、排気ロッカアーム66等およびそれらの支持部材67等の動弁系部品からなる動弁機構60が取り付けられ収容されている。
シリンダ12およびシリンダヘッド13の左側部(外側部)には、動弁機構60を駆動するカムチェーン64が収容されるカムチェーンチャンバ12b、13bが設けられている。
【0031】
動弁機構60の動弁カム軸61に嵌着された被動カムチェーンスプロケット62とクランク軸11に嵌着された駆動カムチェーンスプロケット63との間に、カムチェーンチャンバ12b、13bを通してカムチェーン64が架渡され(図2参照)、クランク軸11の1/2の回転数で動弁カム軸61が回転され、吸気ロッカアーム65と排気ロッカアーム66を揺動して吸、排気弁をそれぞれ所要のタイミングで開閉駆動する。
【0032】
クランク軸11のクランクケース10の左軸受壁10Lより左方に突出した部分には、駆動チェーンスプロケット63のほかACジェネレータ56が取り付けられ、左ケースカバー57Lで覆われる。
他方、クランク軸11のクランクケース10の右軸受壁10Rより右方に突出した部分には、プライマリ駆動ギヤ58が嵌合され、その右方を右ケースカバー57Rで覆われる。
【0033】
クランクケース10のミッション室40には、変速機4のメイン軸41とカウンタ軸42とが、クランク軸11の後方に左右方向に指向して互いに平行に左、右軸受壁10L、10R間にベアリング41a、42aを介して回転自在に架設されており、メイン軸41に軸支されたメインギヤ群41gとカウンタ軸42に軸支されたカウンタギヤ群42gが常時噛み合って変速機4を構成している。
【0034】
メイン軸41のクランクケース10の右軸受壁10Rより右方に突出した右側部には、多板摩擦式の変速クラッチ43が設けられている。
変速クラッチ43のクラッチアウタ43aは、メイン軸41に回転自在に軸支されたプライマリ被動ギヤ44に緩衝部材を介して支持されており、メイン軸41に一体に嵌合されたクラッチインナ43bとの間に複数のクラッチ板が介装され、圧縮部材43cの駆動により断接を行う。
【0035】
プライマリ被動ギヤ44は、クランク軸11に嵌着された前記プライマリ駆動ギヤ58と噛合しており、クランク軸11の回転動力は、クランク軸11側のプライマリ駆動ギヤ58、変速クラッチ43側のプライマリ被動ギヤ44を介して変速クラッチ43に伝達されるが、変速クラッチ43は、変速機4のギヤ切換え中にはクランク軸11の回転動力を変速機4に伝達せずにニュートラル状態とし、変速機4のギヤ切換えが終了するとともにクランク軸11の回転動力を変速機4のメイン軸41に伝達するように構成されている。
【0036】
カウンタ軸42はクランクケース10の左軸受壁10Lを左方に貫通して外部に突出して、内燃機関1の最終の出力軸42となっており、突出部位に出力スプロケット45がスプライン嵌合されている。
出力スプロケット45に巻き掛けられる駆動チェーン46が、後輪30側の被動スプロケット47に架渡されてチェーン伝達機構が構成され後輪30(図1参照)に動力が伝達される。
【0037】
上述のような本実施形態の内燃機関1においては、シリンダ12、及びシリンダヘッド13の冷却は、基本的にはそれぞれに形成された冷却フィン12c、13cによる空冷が行われる。
しかし、シリンダヘッド12の燃焼室52を覆う燃焼室上壁53の点火プラグ55の装着部の周辺、排気ポート16の燃焼室側開口16aの周辺は、奥まった燃焼室上壁53にあることから、冷却フィン13cを直接設けることが困難であり、内燃機関1の圧縮比等の仕様によっては、冷却フィンの放熱では冷却が不十分な場合がある。
【0038】
そこで、本実施形態の内燃機関1では、燃焼室上壁53内にヘッド側冷却用オイル通路(以下、単に「冷却用オイル通路」という)7を設け、潤滑用のオイルの一部を冷却用のオイルとして流通させて、シリンダヘッド13の高温部の十分な冷却が行われるように構成されている。
【0039】
図2に示されるスタッドボルト19は、シリンダボア12a、燃焼室52を囲むように、動弁機構60の支持部材67、シリンダヘッド13、シリンダ12のそれぞれに穿孔されたスタッドボルト孔68(図3参照)を、上方から下方へ挿通して、クランクケースに締結され、支持部材67、シリンダヘッド13、シリンダ12を共締めしている。
【0040】
本実施形態においてスタッドボルト19は4本であるが、その4本のスタッドボルト孔68のうちの1本のスタッドボルト孔68A(図3参照)は、その内面とスタッドボルト19の外面との間のボルト孔間隙部をオイル供給通路として、さらに図示しないオイル供給路を介してクランクケース10内の図示しないオイルポンプの吐出口まで連通している。
したがって、オイルポンプからのオイルの一部は、スタッドボルト孔68Aを動弁機構60への潤滑用オイル通路として、シリンダヘッド13の上部に収容された動弁カム軸61、被動カムチェーンスプロケット62、吸気ロッカアーム65、排気ロッカアーム66等およびそれらの支持部材67等へ供給される。
【0041】
一方、燃焼室52の燃焼室上壁53は、シリンダヘッド53の下部に形成されており、燃焼室上壁53内部に設けられた冷却用オイル通路7は、潤滑用オイル通路であるスタッドボルト孔68Aから分岐するように連通している。
したがって、潤滑用オイル通路としてのスタッドボルト孔68Aは、冷却用オイル通路7へのオイル供給通路を形成する
【0042】
図3は、シリンダヘッド13の、動弁機構60を取り付ける上壁部13dを、動弁機構60を除いた状態で示している。燃焼室上壁53はその下方に位置し、冷却用オイル通路7は図3中に破線で示されるように、燃焼室上壁53内に設けられる(図2参照)。
また、点火プラグ55を取りつける点火プラグ装着孔55aは、図3中に破線で示されるように燃焼室上壁53に開口するように形成され、吸気ポート15、排気ポート16の燃焼室側開口15a、16aは燃焼室周壁52aに内接するように、燃焼室上壁53に開口している(図3参照)。
【0043】
冷却用オイル通路7は、潤滑用オイル通路としてのスタッドボルト孔68Aからオイルが分流されるオイル流入路71と、シリンダ12側へオイルを流出させるオイル流出路をなす連通部72と、オイル流入路71と連通部72との間を連通し、点火プラグ55の周辺と排気ポート16の周辺を流れる冷却通路73からなる。
【0044】
冷却通路73は、オイル流入路71に連なり、点火プラグ装着孔55aに向かう上流路73aと、それに連なり点火プラグ装着孔55aと排気ポート16の周囲を巡る流路のうち、流れ方向右側を構成する第1通路73bと、流れ方向左側を構成する第2通路73cとからなり、第1通路73bと第2通路73cは合流して、連通部72に連なっている。
図4に示されるように、連通部72はその軸線Rをシリンダ軸線Cに平行に下方に延出し、シリンダヘッド13とシリンダ12との合わせ面70に達して開口し、シリンダ12側にオイルを流出させる。
【0045】
図3、図4において、破線で囲んだハッチングで示すのは、シリンダヘッド13の燃焼室上壁53内部に設けられた冷却用オイル通路7であり、その形状はオイル流入通路71以外、シリンダヘッド13の鋳造時において冷却用オイル通路7を形成するための砂中子であるオイル通路中子8と同じである。
【0046】
図5は、オイル通路中子8を、図3に示される冷却用オイル通路7と同じ方向で示す、オイル通路中子8の平面図である。図6は、図5中VI-VI矢視による、オイル通路中子8の後側面図、図7は、図5中VII-VII矢視による、オイル通路中子8の左側面図、図8は、図5中VIII矢視による、オイル通路中子8の上面斜視図である。
図5から図8においては参照のため、オイル通路中子8の各部符号に加え、それに対応する冷却用オイル通路7の各部符号を、カギカッコ内に添記し、形成された冷却用オイル通路7におけるオイルの流れを黒小矢印で添記する。
【0047】
オイル通路中子8は、オイル流入路71を形成する第1のボス81と、オイル流出路としての連通部72を形成する第2のボス82と、点火プラグ55の周辺と排気ポート16の周辺を流れてオイル流入路71と連通部72とを連通する冷却通路73を形成する冷却通路部83とを有している。
第1のボス81の下部には、鋳型内に設定時に姿勢を決める脚部81aが設けられるが(図6、図8参照)、オイル流入路71が接続するオイル供給通路としてのスタッドボルト孔68Aとオーバーラップする位置にあり、鋳造後の脚部81aの部分はスタッドボルト孔68Aの一部となる(図4参照)。
【0048】
冷却通路部83の中間部分において、第1のボス81と第2のボス82とを結ぶ第1の直線L1に対してオイル通路中子(8)の重心(CG)を挟んで側方にオフセットした位置に(図5参照)、冷却通路部83からさらに側方に突出する側方突出部84が設けられ、側方突出部84には下方に向け突出する第3のボス85が設けられている。
すなわち、重心CGは、直線L1に対して一方側(ここでは流れ方向右側)にオフセットした位置にあり、第3のボス85は、直線L1に対して重心CG側であって、重心よりもさらにオフセットした位置に配される。そのため、オイル通路中子8の重心CGを囲むように第1のボス81、第2のボス82、第3のボス85が配されるので、オイル通路中子8は、鋳造時においてシリンダヘッド13の鋳型内で安定して自立可能である。
第3のボス85は、鋳型内に設定時に姿勢を決める脚部となるものだが、シリンダヘッド13の鋳造後において、冷却用通路73における突出部75を形成する。
また、突出部75は、シリンダヘッド13がシリンダ12に締結されたとき、それらの合わせ面70まで延在する
【0049】
そのような本実施形態のオイル通路中子8は、連通部72を形成する第2のボス82の表面積を小さくしてその横幅が小さくなっても、第3のボス85を備えているので、鋳造時にシリンダヘッド13の鋳型内で、第1〜第3のボス81、82、85によって自立可能である。
したがって、形成された冷却用オイル通路7の連通部72では表面積を小さくでき、冷却通路73で冷却を行った後のオイルの流速を落とすことなくシリンダ12側に流出させることができるので、熱伝達率を高くできるため、効率的に冷却を行うことができる。
【0050】
また、第3のボス85は、冷却通路部83のより側方に突出した側方突出部84に設けられるので、形成された冷却用オイル通路7の突出部75も冷却通路73の側方に突出して位置するので、冷却通路73を流れるオイルの流れに与える影響を抑えることができる。
よって、本実施形態のオイル通路中子8の構造は、製造性に優れ、形成された冷却用オイル通路7が良好な冷却性能をもたらすものとなる。
【0051】
また、冷却通路部83は、点火プラグ55の点火プラグ装着孔55aと排気ポート16の周囲をそれぞれ囲み、点火プラグ55の点火プラグ装着孔55aと排気ポート16の中心部55c、16c間を結ぶ第2の直線L2に対して、第3のボス85側に位置する第1通路部83bと、他側に位置する第2通路部83cと、第1通路部83bと第2通路部83cを、第1のボス81に連結する上流路部83aを有し、第2のボス部82が第2の直線L2上に設けられている。
【0052】
そのため、オイル通路中子8の冷却通路部83の第1通路部83bと第2通路部83cが概ね均等な長さとなるので、形成された冷却用オイル通路7の冷却通路73の、排気ポート16と点火プラグ55の周辺を囲む両側の、第1通路73bと第2通路73cを概ね均等な長さとすることができ、燃焼室上部壁53や燃焼室周壁52aの高温部分を均一に冷却することができる。
【0053】
なお、第1通路部83bには、排気ポート16周辺で側方に突出する側方突出部84にオイル通路中子8を鋳造時に自立させる第3のボスが設けられるが、形成された冷却用オイル通路7の第1通路73bのオイルの流れへの影響が抑制されることは、上述の通りである。
【0054】
また、図3に示されるように、本実施形態では、シリンダヘッド13とシリンダ12とを締結する複数のスタッドボルト19のスタッドボルト孔68が、シリンダヘッド13の燃焼室周壁52aを囲うようにシリンダヘッド13において配され、オイル通路中子8は第2のボス82と第3のボス85は、燃焼室周壁52aとスタッドボルト孔68との間に配置されるように構成されているので、シリンダヘッド13の狭い金属部の領域に、第2のボス82と第3のボス85をコンパクトに配することができる。
【0055】
すなわち、スタッドボルト19が、シリンダヘッド13の燃焼室周壁52aを囲うようにシリンダヘッド13において配され、冷却用オイル通路7の連通部72は、燃焼室周壁52aとスタッドボルト19との間に配置されるので、シリンダヘッド13の狭い金属部の領域に、冷却用オイル通路7をコンパクトに配することができる。
【0056】
上記のような冷却用オイル通路7が設けられたシリンダヘッド13の下方には、シリンダ12がスタッドボルト19によって締結されている。
図9に示されるように、シリンダ12には、冷却用オイル通路7からのオイルをクランクケース10内に導くオイル戻し通路9が設けられている。
【0057】
図9には、シリンダ12に締結された状態のシリンダヘッド13における冷却用オイル通路7の位置が2点鎖線で示されている。
冷却用オイル通路7のオイル流入路71は、オイル供給通路となるスタッドボルト孔68Aに接続するとともに、連通部72は、シリンダ12とシリンダヘッド13との接合面70において連通部72と一致する形状でシリンダ12側に凹設されたオイル受け部90と連通している。
【0058】
一方、図9、図11に示されるように、合わせ面70にはシリンダ12に穿孔されたオイル戻し孔9が開口するが、オイル戻し孔9は、シリンダボア12aと隣接するカムチェーンチャンバ12bの空間部を挟んで、シリンダボア12aと反対側のシリンダ12の左側部に設けられている。
そして、オイル受け部90とオイル戻し孔9との間には、シリンダ12側の合わせ面70に設けられた溝91が、カムチェーンチャンバ12bを廻り込むように接続して設けられている。 シリンダ12とシリンダヘッド13が締結された状態で、オイル受け部90と溝91は、冷却用オイル通路7の連通部72から受けたオイルを、連通部72と離間した位置に設けられたオイル戻し孔9へと流すシリンダ側オイル通路92となる。
【0059】
前述のように連通部72はシリンダ軸線Cに平行に延出して合せ面70に達するので、連通部72の構造が簡素になるという製造上の利点に加え、シリンダヘッド13での冷却作用を済ませたオイルは、速やかにシリンダ12側に送り込まれる。
そして、オイルは、シリンダヘッド13より温度が低いシリンダ側オイル通路92を流れ、燃焼室52やシリンダボア12aとはカムチェーンチャンバ12bの空間部を挟んで、シリンダ12のなかでも最も温度の低いカムチェーンチャンバ12bの外方に、連通部72と離間して設けられたオイル戻し孔9へと流されるので、オイルは不要な加熱を受けることが抑制され、相対的に冷却をうけることができるため、オイルの温度上昇を抑制できる。
【0060】
また、そのようにオイル戻し孔9を、冷却用オイル通路7の連通部72と離間して設けていても、合わせ面70に形成された溝状のシリンダ側オイル通路92でその間を接続できたので、シリンダヘッド13やシリンダ12の鋳型製造を複雑にすることなく、オイル戻し通路9に至る流路が得られ、製造コストの低減が可能となる。
特に、凹部状のオイル受け部90と溝91は、シリンダ12の鋳造時、鋳抜きでも形成できるので、形成が容易であり、コスト低減が可能である。
また、オイル受け部90は、連通部72と同じ形状に形成され、連通部72と一体の流路を形成するので、オイルの連通する流れがスムーズになる。
【0061】
なお、図11に2点差線で示すように溝91′を、シリンダ12の後方側でカムチェーンチャンバ12bを廻りこむようにしてシリンダ側オイル通路92′を形成してもよい。
その場合、リンダ12の前方側でカムチェーンチャンバ12bを廻りこむようにした前述のシリンダ側オイル通路92と比べ、シリンダ側オイル通路92′を長く設定でき、比較的低温の吸気ポート15側(図3参照)を通ることとなるので、オイルの加熱防止ないし冷却上の利点が得られる。
【0062】
また、図10に変形例を示すように、オイル戻し孔9′を、円形断面孔ではなく、波丈側面を有する縦孔としてもよく、その場合、カムチェーンチャンバ12bやシリンダ12の外側面の冷却フィン12cへの熱伝達が高まり、オイルの冷却を強化することができる。
なお、図9、図10において合わせ面70上に、冷却用オイル通路7以外に2点差線で示したものは、合わせ面70のガスケット18である。
【0063】
上述のように、冷却用オイル通路7を形成するための砂中子である本実施形態のオイル通路中子8には、シリンダヘッド13の鋳造時に鋳型内で自立できるように、冷却通路部83のより側方に突出した側方突出部84に設けられた第3のボス85を備える。
そのため、図5、図6、図8に示されるように、形成された冷却用オイル通路7は、第3のボス85によって、その冷却通路73の第1通路73bの中間部から下方に分岐する突出部75を有するものとなる。突出部75は、シリンダヘッド13がシリンダ12に締結されたとき、それらの合わせ面70まで延在する。
【0064】
突出部75は、冷却通路73の第1通路73bから分岐して下方に突出しているので、冷却用オイル通路のオイル流れに影響を与えることは抑制されるが、オイルの滞留が起き易く、滞留したオイルの温度が高まるおそれがある。
【0065】
そこで、本実施形態においては、図9、図11に示されるように、シリンダヘッド13とシリンダ12との合わせ面70におけるシリンダ12側に、シリンダヘッド13とシリンダ12が締結されたときに突出部75の下端部と一致する形状のバイパスオイル受け部95が凹設されている。
【0066】
また、合わせ面70におけるシリンダ12側には、バイパスオイル受け部95とオイル受け部90とを接続するバイパス溝96が形成されており、バイパスオイル受け部95とバイパス溝96はバイパスオイル受け部95を上流端とするバイパス通路97を形成する。
バイパス通路97を形成するバイパス溝96による流路断面積は、冷却用オイル通路7の流路断面積より小さく設定されている。
なお、バイパス溝96は、合わせ面70のシリンダヘッド13側に形成されてもよい。
【0067】
したがって、冷却用オイル通路7の突出部75内のオイルは、その端部からバイパス通路97に流入し、冷却用オイル通路7の下流側の連通部72と一体の流路を形成するオイル受け部90まで送られるので、突出部75でのオイルの滞留が防止され、オイルの温度の上昇が抑制される。
【0068】
また、バイパス通路97は流路断面積が冷却用オイル通路7の流路断面積より小さく設定されるので、バイパス流れが冷却用オイル通路7の冷却用のオイルの流れを阻害することを避けることができる。
そして、バイパス通路97はその上流端部が、突出部75の下端部と一致する形状のバイパスオイル受け部95として形成されているので、突出部75とバイパスオイル受け部95が一体の流路を形成し、バイパスオイル受け部95のバイパスオイルの流れがスムーズである。
【0069】
また、バイパス流路97は、合わせ面70における簡易な構成であり、鋳抜き等で形成できるので、製造コストが低減されたものとなる。
【0070】
図12には、本実施形態のバイパス通路97を、空油冷多気筒内燃機関(以下、単に「多気筒内燃機関」という)1′に適用した場合の変形例が示される。
図12に示されるように、多気筒内燃機関1′は、気筒列方向に右側から順に第一気筒C1〜第四気筒C4が直列に並ぶ4気筒を有しており、シリンダヘッドにおいて、各気筒毎に燃焼室が形成され、その燃焼室上壁53′の頂部に点火プラグ55を装着させるための点火プラグ装着孔55aが設けられる。
また、各気筒の燃焼室上壁53′には、一対の吸気ポート燃焼室側開口15a′と、一対の排気ポート燃焼室側開口16a′が設けられる。
【0071】
第二気筒C2と第三気筒C3の燃焼室上壁53′内部には、気筒後方側から、すなわち吸気ポート燃焼室側開口15a′の間から、点火プラグ装着孔55aの周囲を通り、気筒前方側、すなわち排気ポート燃焼室側開口16a′の間を抜けるように、それぞれ第1冷却オイル通路77A、77Bが設けられている。
【0072】
第二気筒C2と第三気筒C3の第1冷却オイル通路77A、77Bは、それぞれ気筒後方側でオイル供給通路76A、76Bに接続され、オイル供給通路76A、76Bはその上流側で合流し、図示しないオイルポンプの吐出口に接続している。
【0073】
第一気筒C1と第四気筒C4の燃焼室上壁53′内部には、気筒前方側から、すなわち排気ポート燃焼室側開口16a′の間から、点火プラグ装着孔55aの周囲を通り、気筒外側方
へ抜けるように、それぞれ第3冷却オイル通路79A、79Bが設けられている。
【0074】
第一気筒C1と第四気筒C4の第3冷却オイル通路79A、79Bは、それぞれ右、左の気筒側方側でオイル戻し通路9A、9Bに接続され、オイル戻し通路9A、9Bはその下流側で合流し、図示しないクランクケース内のオイル戻し系統に接続している。
【0075】
また、第二気筒C2の第1冷却オイル通路77Aの気筒前方側の下流端部77Aaと、第一気筒C1の第3冷却オイル通路79Aの気筒前方側の上流端部79Aaとは、第2冷却オイル通路78Aによって接続されている。
第三気筒C3の第1冷却オイル通路77Bの気筒前方側の下流端部77Baと、第四気筒C4の第3冷却オイル通路79Bの気筒前方側の上流端部79Baとは、第2冷却オイル通路78Bによって接続されている。
【0076】
したがって、図12の多気筒内燃機関1′において、第2気筒C2の第1冷却オイル通路77A、第2冷却オイル通路78A、第1気筒C1の第3冷却オイル通路79Aは、シリンダヘッドにおいて、一連のヘッド側冷却用オイル通路(以下、単に「冷却用オイル通路」という)7Aを形成する。
また、第三気筒C3の第1冷却オイル通路77B、第2冷却オイル通路78B、第四気筒C4の第3冷却オイル通路79Bは、シリンダヘッドにおいて、一連の冷却用オイル通路7Bを形成する。
【0077】
冷却用オイル通路7A、冷却用オイル通路7Bはともに、砂中子による図示しないオイル通路中子によって形成されるが、シリンダヘッドの鋳造時に鋳型内に自立するために、オイル通路中子は、図5から図8において説明したと同様に形成する通路の上流端部、下流端部および中間部にボスを備える。
特に、中間部のボスは、前述のオイル通路中子8の場合と同様に、冷却用オイル通路7Aおよび冷却用オイル通路7Bの中間部に、各気筒毎に、冷却用オイル通路7Aから分岐する突出部75A1、75A2、および冷却用オイル通路7Bから分岐する突出部75B3、75B4を形成するので、各突出部において、オイルの滞留、オイルの温度上昇のおそれを生じる。
【0078】
そこで、本実施形態の変形例においては、第一気筒C1の突出部75A1の下端部から冷却用オイル通路7Aの下流部7Aaに連通され、且つ、第一気筒C1の突出部75A1の下端部と第二気筒C2の突出部75A2の下端部とを連通する突出部連通路98Aを備えたバイパス通路97Aが備えられている。
また、第四気筒C4の突出部75B4の下端部から冷却用オイル通路7Bの下流部7Baに連通され、且つ、第四気筒C4の突出部75B4の下端部と第三気筒C3の突出部75B3の下端部とを連通する突出部連通路98Bを備えたバイパス通路97Bが備えられている。
各バイパス通路97A、97Bの流路断面積は、それぞれ冷却用オイル通路7A、7Bの流路断面積より小さく設定されており、バイパスオイルの流れが、冷却用オイル通路7A、7Bのオイルの流れを阻害することが防止されている。
【0079】
したがって、第一気筒C1、第二気筒C2において、バイパス通路97Aにより、突出部75A2のオイルは突出部連通路98A経由、突出部75A1に流れ、さらに冷却用オイル通路7Aの下流部7Aaに流されるので、各突出部75A1、75A2でのオイルの滞留によるオイル温度の上昇が抑制される。
また、突出部連通路98Aによって、各突出部75A1、75A2毎に冷却用オイル通路7Aの下流部7Aaに連通するバイパス通路を設ける必要がなく、構造の簡素化とコスト低減が図られる。
そのことは、第三気筒C3、第四気筒C4において、同様である。
【0080】
以下に、本発明に係る上述の本実施形態の空油冷内燃機関のオイル通路構造の特徴を纏めて説明する。
すなわち、クランクケース10に、シリンダ12と、動弁機構60が取り付けられ収容されるシリンダヘッド13とが締結され、シリンダヘッド13内に、動弁機構60の潤滑用オイル通路となるスタッドボルト孔68Aと分岐して冷却用オイル通路7が設けられ、シリンダ12に、冷却用オイル通路7からのオイルをクランクケース10に導くオイル戻し通路9が設けられた空油冷内燃機関1のオイル通路構造において、冷却用オイル通路7には、オイルがシリンダヘッド13の点火プラグ55と排気ポート16周辺を流された後、シリンダヘッド13とシリンダ12との合わせ面70に連通される連通部72が設けられ、オイル戻し通路9が、連通部72と離間して設けられるとともに、シリンダ12側に、連通部72からオイル戻し通路9へと、オイルを流すシリンダ側オイル通路92が設けられている。
【0081】
そのため、点火プラグ55と排気ポート16周辺等のシリンダヘッド13内の高温部近傍を流された後の冷却用のオイルは、シリンダヘッド13側の連通部72からシリンダ12側に連通され、連通された後のオイルはシリンダ12側に設けられたシリンダ側オイル通路92を通って、連通部72と離間したオイル戻し通路9に流されるため、鋳型製造を複雑にすることなく、オイル戻し通路9に至る経路を形成することが可能となり、製造コストの安いオイル通路構造となる。
また、一般的に、燃焼室52のあるシリンダヘッド13側よりも、燃焼ガスによる膨張が行われるシリンダ12側の方が温度が低いため、最も冷やしたい箇所を冷やした後のオイルの温度上昇を抑制することができる。
【0082】
また、シリンダ側オイル通路92は、シリンダ12側の合わせ面70に溝91として設けられたので、シリンダ側オイル通路92を、シリンダ製造時に鋳抜き等で容易に形成可能となる。
【0083】
また、シリンダ側オイル通路92の上流端には、連通部72と一致する形状のオイル受け部90が設けられたので、オイルの連通においてシリンダヘッド13からシリンダ12へのオイルの流れがスムーズになる。
【0084】
また、連通部72は、シリンダ12の軸線Cに平行に延出して合わせ面70に達するように形成されたので、連通部72を簡素な構造で設けることができる。
【0085】
また、シリンダヘッド13と12シリンダとを締結するスタッドボルト19が、シリンダヘッド13の燃焼室52を囲うように配置されるとともに、連通部72は、燃焼室周壁52aとスタッドボルト19との間に配されたので、シリンダヘッド13の狭い金属部の領域に、コンパクトに冷却用オイル通路7を設けることができる。
【0086】
そして、シリンダ12の外側部に、シリンダ12のシリンダボア12aに隣接して、動弁機構60を駆動するカムチェーン64が収容されるカムチェーンチャンバ12bが設けられ、オイル戻し通路9が、カムチェーンチャンバ12bよりも外方に設けられるとともに、シリンダ側オイル通路12がカムチェーンチャンバ12bを廻り込むようにして、オイル戻し通路9に連通するように構成されている。
【0087】
カムチェーンチャンバ12bはシリンダ12内における空間部となり、カムチェーンチャンバ12bの外方は、燃焼室52やシリンダボア12aとの間に同空間部が介在するのでシリンダ12内で最も温度が低くなる。
かかる温度分布の特性を活かして、カムチェーンチャンバ12bの外方にオイル戻し通路9を配置することで、温度の高まった冷却用のオイルを効率よく冷却することが可能となる。
【0088】
以上、本発明の一実施形態の空油冷内燃機関のオイル通路構造につき述べたが、本発明は、各請求項の要旨の範囲内で、上記実施形態と異なる態様を含むことは勿論であり、適宜変更可能である。
空油冷内燃機関を搭載する小型車両は、自動二輪車に限定されず、シリンダが垂直より前傾する度合い、気筒数も図示のものに限定するものではなく、種々の態様の小型車両において同様の空油冷内燃機関を使用した場合にも、空油冷内燃機関のオイル通路構造として適用し、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0089】
1…空油冷内燃機関(内燃機関)、7…冷却用オイル通路(ヘッド側冷却用オイル通路)、9…オイル戻し通路、10…クランクケース、12…シリンダ、12a…シリンダボア、12b…カムチェーンチャンバ、13…シリンダヘッド、13b…カムチェーンチャンバ、15…吸気ポート、15a…燃焼室側開口、16…排気ポート、16a…燃焼室側開口、19…スタッドボルト、52…燃焼室、52a…燃焼室周壁、53…燃焼室上壁、55…点火プラグ、55a…点火プラグ装着孔、60…動弁機構、61…動弁カム軸、62…被動カムチェーンスプロケット、65…吸気ロッカアーム、66…排気ロッカアーム、67…支持部材、68…スタッドボルト孔、68A…(潤滑用オイル通路であり、オイル供給通路となる)スタッドボルト孔、70…合わせ面、72…連通部、90…オイル受け部、91…溝、92…シリンダ側オイル通路、C…シリンダ軸線、R…(連通部の)軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース(10)に、シリンダ(12)と、動弁機構(60)が取り付けられ収容されるシリンダヘッド(13)とが締結され、
前記シリンダヘッド(13)内に、前記動弁機構(60)の潤滑用オイル通路(68A)と分岐してヘッド側冷却用オイル通路(7)が設けられ、
前記シリンダ(12)に、前記ヘッド側冷却用オイル通路(7)からのオイルを前記クランクケース(10)に導くオイル戻し通路(9)が設けられた空油冷内燃機関(1)のオイル通路構造において、
前記ヘッド側冷却用オイル通路(7)には、オイルが前記シリンダヘッド(13)の点火プラグ(55)または排気ポート(16)周辺を流された後、同シリンダヘッド(13)と前記シリンダ(12)との合わせ面(70)に連通される連通部(72)が設けられ、
前記オイル戻し通路(9)が、前記連通部(72)と離間して設けられるとともに、
前記シリンダ(12)側に、前記連通部(72)から前記オイル戻し通路(9)へと、オイルを流すシリンダ側オイル通路(92)が設けられたことを特徴とする空油冷内燃機関のオイル通路構造。
【請求項2】
前記シリンダ側オイル通路(92)は、前記シリンダ側の前記合わせ面(70)に溝(91)として設けられたことを特徴とする請求項1記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造。
【請求項3】
前記シリンダ側オイル通路(92)の上流端には、前記連通部(72)と一致する形状のオイル受け部(90)が設けられたことを特徴とする請求項2記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造。
【請求項4】
前記連通部(72)は、前記シリンダの軸線(C)に平行に延出して前記合わせ面(70)に達するように形成されたことを特徴とする請求項1記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造。
【請求項5】
前記シリンダヘッド(13)と前記シリンダ(12)とを締結するスタッドボルト(19)が、前記シリンダヘッド(13)の燃焼室(52)を囲うように配置されるとともに、
前記連通部(72)は、燃焼室周壁(52a)と前記スタッドボルト(19)との間に配されたことを特徴とする請求項4記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造。
【請求項6】
前記シリンダ(12)の外側部に、同シリンダ(12)のシリンダボア(12a)に隣接して、前記動弁機構(60)を駆動するカムチェーン(64)が収容されるカムチェーンチャンバ(12b)が設けられ、
前記オイル戻し通路(9)が、同カムチェーンチャンバ(12b)よりも外方に設けられるとともに、
前記シリンダ側オイル通路(92)が同カムチェーンチャンバ(12b)を廻り込むようにして、前記オイル戻し通路(9)に連通するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の空油冷内燃機関のオイル通路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−72352(P2013−72352A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211892(P2011−211892)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】