説明

空調装置を搭載した車両

【課題】 空調装置を搭載した車両において、冷媒に高圧ガスを適用した場合にも、車両の前突時に熱交換器が車室に突入するのを防止し、乗員の安全性を高めること。
【解決手段】 空調ユニットを搭載した車両は、エバポレータ22よりも車両後方側において、上下方向向きに配設されて車体構造に固定されたインパネセンタメンバ53を備え、エバポレータ22はその直方体の最大面が水平面と交差する状態に配設されると共に、エバポレータ22はその車両前方側前端部と後端部間の車両前後方向距離が所定距離以上となるように傾斜状に配置され、エバポレータ22は、車両Cの前突時に車両後方側へ後退するダッシュパネル7とインパネセンタメンバ53とに挟まれることにより揺動して、前端部と後端部間の所定距離が短くなるように配置された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調装置を搭載した車両に関し、特に冷媒に二酸化炭素等の高圧ガスを適用した場合に、車両の前突時に熱交換器が車室に突入するのを防止するように構成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置の熱交換器は略偏平な直方体状に構成され、その最大面と平行方向の剛性がかなり高い。このような熱交換器を有する空調装置は、車両のインストルメントパネル周辺に配置されており、車両の前突時(前面衝突や、前面のオフセット衝突時)に、エンジンや排気用マニホールド等のパワートレインが後方へ移動すると、熱交換器は変形することなく車室内に突入し乗員と接触する虞がある。そのため、このような場合に熱交換器が車室に突入しないよう対策を講じる必要がある。
【0003】
特許文献1には、クーリングユニット内の蒸発器が車両前後方向に対して傾斜配置された自動車用空調装置のクーリングユニットが開示されている。そのクーリングユニットでは、車両の前突時に、クーリングユニットのケースに形成した溝部に助手席の乗員の膝が衝突した場合にケースが破壊され、その衝撃力によりクーリングユニットの蒸発器を車幅方向に平行となるように揺動させて、クーリングユニットが乗員に接触するのを防止している。
【特許文献1】特開平10−100655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、冷媒に二酸化炭素等の高圧ガスを適用した場合、通常の運転状態で5MPa以上の気圧が配管や熱交換器に作用するため、配管や熱交換器を鋼材料で構成して剛性を高めておき、且つそれらの接合力も高めておく必要がある。
特許文献1の自動車用空調装置のクーリングユニットでは、アルミニウムなどの金属薄板から形成したチューブを多数積層したもので熱交換器が構成され、且つ乗員の膝がケースに衝突することで熱交換器が揺動するように構成されているが、特許文献1の自動車用空調装置のクーリングユニットを高圧ガス冷媒の技術に適用しただけでは、配管と熱交換器が高剛性化され且つそれらの接合力も高めているので、熱交換器が容易に揺動できないという問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、空調装置を搭載した車両において、冷媒に二酸化炭素等の高圧ガスを適用した場合にも、車両の前突時に熱交換器が車室に突入するのを防止し、乗員の安全性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の空調装置を搭載した車両は、略偏平な直方体状の熱交換器を有し蒸発状態で高圧ガスとなる冷媒を有する空調装置であって、インストルメントパネル周辺に配置される空調装置を搭載した車両において、前記熱交換器よりも車両後方側において、上下方向又は車幅方向向きに配設されて車体構造に固定された補強部材を備え、前記熱交換器はその直方体の最大面が水平面又は車幅方向に広がる鉛直面(つまり、車両前後方向が面直方体となる鉛直面)と交差する状態に配設されると共に、熱交換器はその車両前方側前端部から後端部に亙って傾斜し、且つこれらの車両前後方向距離が所定距離以上となるように傾斜状に配置され、前記熱交換器は、車両の前突時に車両後方側へ後退するダッシュパネルと前記補強部材とに挟まれることにより揺動して、前記前端部と後端部間の所定距離が短くなるように配置されたことを特徴とする。
【0007】
車両の前突時には、補強部材により熱交換器の後退を抑制するうえ、車両後方側へ後退するダッシュパネルと補強部材とに挟まれることにより熱交換器の前端部と後端部間の所定距離が短くなるように熱交換器が揺動する。
【0008】
請求項2の空調装置を搭載した車両は、請求項1の発明において、前記補強部材として、前記熱交換器の後方に位置する左右1対の補強部材が上下方向に延設され、前記熱交換器は前記最大面が補強部材となす角が鋭角となるように配置されたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の空調装置を搭載した車両は、請求項2の発明において、前記熱交換器は蒸発器であり、前記熱交換器は前記最大面が鉛直面と略20度〜40度以外の角度を以て交差する状態に配設されたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の空調装置を搭載した車両は、請求項1又は2の発明において、前記補強部材の上端部が、ステアリング部材を支持する車幅方向に延びるインパネメンバに固定されたことを特徴とする。
【0011】
請求項5の空調装置を搭載した車両は、請求項1又は2の発明において、前記熱交換器の前端近傍部には前方から鋼製配管が接続され、その鋼製配管は車両の前突により車体後方側へ移動して前記熱交換器の揺動を促進するように配設されたことを特徴とする。
【0012】
請求項6の空調装置を搭載した車両は、請求項5の発明において、前記鋼製配管の前方には、パワートレインが配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7の空調装置を搭載した車両は、請求項1の発明において、前記熱交換器の前端部、後端部のうちの少なくとも一方には、上記揺動を促進する揺動促進部材が設けられたことを特徴とする。
【0014】
請求項8の空調装置を搭載した車両は、請求項1又は2の発明において、前記熱交換器の近傍で揺動軌跡範囲内には、熱交換器より単位体積当たりの質量が小さく、熱交換器との当接により変形又は移動可能なヒータコアが配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、熱交換器は、車両の前突時に車両後方側へ後退するダッシュパネルと補強部材とに挟まれることにより揺動して、前端部と後端部間の所定距離が短くなるように配置されたので、車両の前突時には、補強部材により熱交換器の後退を抑制することができるうえ、熱交換器の前端部と後端部間の所定距離が短くなるように熱交換器が揺動し、熱交換器が車室に突入するのを防止でき、乗員の安全性を高めることができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、補強部材として、熱交換器の後方に位置する左右1対の補強部材が上下方向に延設され、熱交換器は最大面が補強部材となす角が鋭角となるように配置されたので、車両の前突時に熱交換器が確実に揺動する。
【0017】
請求項3の発明によれば、熱交換器は蒸発器であり、熱交換器は最大面が鉛直面と略20度〜40度以外の角度を以て交差する状態に配設されたので、熱交換器の外周面に結露した水滴を熱交換器から確実に落下させることができ、熱交換器の冷却能力の低下を防止できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、補強部材の上端部が、ステアリング部材を支持する車幅方向に延びるインパネメンバに固定されたので、熱交換器の揺動により熱交換器から補強部材への衝撃を緩和し、補強部材の後退を防止できるうえ、インパネメンバ及びステアリング部材の後退も防止でき、乗員の安全性が一層高まる。
【0019】
請求項5の発明によれば、熱交換器の前端近傍部には前方から鋼製配管が接続され、その鋼製配管は車両の前突により車体後方側へ移動して熱交換器の揺動を促進するように配設されたので、鋼製配管の車体後方側への移動により熱交換器が確実に揺動される。
【0020】
請求項6の発明によれば、鋼製配管の前方には、パワートレインが配置されているので、パワートレインの後方への移動により鋼製配管を確実に車体後方側へ移動させることができ、それに伴って熱交換器が確実に揺動される。
【0021】
請求項7の発明によれば、熱交換器の前端部、後端部のうちの少なくとも一方には、揺動を促進する揺動促進部材が設けられたので、揺動促進部材により熱交換器の揺動が促進される。
【0022】
請求項8の発明によれば、熱交換器の近傍で揺動軌跡範囲内には、熱交換器より単位体積当たりの質量が小さく、熱交換器との当接により変形又は移動可能なヒータコアが配置されたので、熱交換器の揺動軌跡範囲内にヒータコアが配置された場合にも、熱交換器の揺動が妨げられることなく熱交換器が確実に揺動する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の空調装置を搭載した車両は、略偏平な直方体状の熱交換器を有し蒸発状態で高圧ガスとなる冷媒を有する空調装置であって、インストルメントパネル周辺に配置される空調装置を搭載した車両において、熱交換器よりも車両後方側において、上下方向又は車幅方向向きに配設されて車体構造に固定された補強部材を備え、熱交換器はその直方体の最大面が水平面又は車幅方向に広がる鉛直面と交差する状態に配設されると共に、熱交換器はその車両前方側前端部から後端部に亙って傾斜し、且つこれらの車両前後方向距離が所定距離以上となるように傾斜状に配置され、熱交換器は、車両の前突時に車両後方側へ後退するダッシュパネルと補強部材とに挟まれることにより揺動して、前端部と後端部間の所定距離が短くなるように配置されたものである。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、インストルメントパネル4の左部にステアリングホイール5が設けられた左ハンドルの車両Cに空調装置を搭載した一例である。尚、図1において、上が車両上方側で、右が車両Cを後方から前方を視たときの右側である。
【0025】
図1、図3に示すように、車室1には、金属製のフロアパネル2が設けられ、フロアパネル2上の大部分に合成樹脂製のフロアトリム3が付設されている。車室1における前側にはインストルメントパネル4が設けられ、インストルメントパネル4における左側にはステアリングホイール5(ステアリング部材)が設けられている。インストルメントパネル4の前方にはダッシュパネル7が設けられ、ダッシュパネル7の前方には、エンジンルーム8(図2参照)が形成されている。
【0026】
次に、エンジンルーム8内に配設されたパワートレイン13の構成について説明する。 図2に示すように、車両Cのエンジンルーム8内には、エンジン9と、トランスミッション10と、排気用マニホールド11と、コンプレッサ12等が配設されている。エンジン9の左側にはトランスミッション10が設けられ、エンジン9の後側には後方排気を行う為の金属製の排気用マニホールド11が設けられている。
【0027】
エンジン9の右前端部の下側には、冷媒(二酸化炭素)を圧縮して後述のエバポレータ22に循環させる為のコンプレッサ12が設けられ、コンプレッサ12には2本の配管38の一端が連結され、それらの配管38の他端には、エバポレータ22が連結されている。配管38は、エンジン9及び排気用マニホールド11の後方において車幅方向と平行となるように構成されている。すなわち、配管38の車幅方向と平行な平行部分の前方に、エンジン9及び排気用マニホールド11が位置するように配設されている。尚、エンジン9と,排気用マニホールド11と、トランスミッション10とがパワートレイン13に相当する。
【0028】
図1、図3に示すように、ダッシュパネル7とインストルメントパネル4との間には、冷房機能と暖房機能を備えた空調ユニット20(空調装置)と、送風ユニット50と、コントロールユニット52と、インパネセンタメンバ53と、インパネメンバ54と、オーディオユニット55等が設けられ、空調ユニット20から導出された空気をインストルメントパネル4に設けられた複数の噴出口36,37から吹出し可能に構成されている。
【0029】
空調ユニット20の右側には、支持ブラケット51により支持された送風ユニット50が設けられ、空調ユニット20と送風ユニット50との間には、空調ユニット20と送風ユニット50を制御する為のコントロールユニット52が設けられている。オーディオユニット55の前方には、ステアリングシャフト6を介してステアリングホイール5を支持する為のインパネメンバ54が、車幅方向向きに水平に延びるように構成され、その両端は車体構造に固定されている。空調ユニット20の後方で車幅方向の略中心部分(つまり、運転席と助手席との間の前方側)には、車体構造に固定された左右1対のインパネセンタメンバ53が上下方向に延設され、インパネセンタメンバ53の上端部は、インパネメンバ54に固定されている。インパネセンタメンバ53は厚い板状に形成され、空調ユニット20の後面に沿うように傾斜する約1/4円弧状の湾曲部(上部)と、それに連なるストレート部(下部)とを有する。
【0030】
次に、空調ユニット20について説明する。
図1〜図3に示すように、空調ユニット20は、インストルメントパネル4内においてダッシュパネル7とインパネセンタメンバ53との間に挟まれるように配設されている。空調ユニット20は、プラスチック製のケース21と、液化冷媒の蒸発による冷却作用によって空調風を冷却する熱交換器としてのエバポレータ22(蒸発器)と、エンジン冷却後の温水により空調風を加熱するヒータコア28と、空調風量を調節する為の調節弁29等を有する。
【0031】
ケース21の前側の上端部及び中部には、夫々1対の鋼製の支持ブラケット30,31が車幅方向において両端に取付けられ、それらの支持ブラケット30,31によりダッシュパネル7に固定されている。一方、ケース21の後側の下端部には、1対の鋼製の支持ブラケット33がケース21を貫通状に取付けられ、それらの支持ブラケット33により空調ユニット20がインパネセンタメンバ53に支持されている。空調ユニット20の上端部分には、前後方向に2つの空調通路34,35が設けられ、それらの空調通路34,35は噴出口36,37に夫々連通している。空調ユニット20の上端部には2つの調節弁29が設けられ、調節弁29は、空調通路34,35の下端部に夫々連通しており、調節弁29の揺動により噴出口36,37に噴出される空調風量が調節される。
【0032】
次に、エバポレータ22について説明する。
図3に示すように、エバポレータ22は、金属製(例えば、アルミニウム等の軽合金や鋼)の略偏平な直方体状に構成され、コンプレッサ12にて圧縮された低温低圧の冷媒を空調空気から吸熱して蒸発させることにより、空調空気を冷却する。エバポレータ22は、アッパータンク23と、ロアタンク24と、パイプ26と、フィン27とを有する。エバポレータ22の前端部にはアッパータンク23が設けられ、エバポレータ22の後端部にはロアタンク24が設けられている。エバポレータ22には、冷媒を前後方向に流す為の複数のパイプ26が配設されると共に、複数のフィン27が車幅方向に延設されている。
【0033】
エバポレータ22の前端部は、ケース21の内壁に設けられた支持部材32により支持され、一方、エバポレータ22の後端部は、インパネセンタメンバ53に固定された支持ブラケット33により支持されており、その前端部から後端部に亙って傾斜し、且つこれらの車両前後方向距離が所定距離以上となるように傾斜状に配設されている。具体的には、エバポレータ22はその直方体の最大面が鉛直面と約60度の角度(つまり、略20度〜40度以外の角度)で交差する状態に配設されており、直方体の最大面とインパネセンタメンバ53がなす角度も約60度(鋭角)である。
【0034】
車両Cの前突時にエバポレータ22の後端部を中心として、エバポレータ22が図3における時計回りに揺動可能に、エバポレータ22の後端部を支持する支持ブラケット33の支持剛性は、エバポレータ22の前端部を支持する支持部材32の支持剛性よりも高くなるように構成されている。仮に、支持ブラケット33が破断してもエバポレータ22はインパネセンタメンバ53で受け止められるようになっている。尚、エバポレータ22の車幅方向の長さは、2本のインパネセンタメンバ53の間隔よりも長い方が好ましい。
【0035】
エバポレータ22の前端近傍部には、金属製(例えば、鋼製)の2本の配管38がダッシュパネル7を介して接続されている。配管38の後端部は後方に向かって斜め上方に折曲され、その前側は水平に前方に延びている。配管38は、傾斜したエバポレータ22のアッパータンク23の下端部に接続されており、車両Cの前突時には、配管38が車体後方側へ移動してエバポレータ22の揺動を促進する。
【0036】
次に、ヒータコア28について説明する。
図3に示すように、ヒータコア28は、エバポレータ22の上方に略平行に設けられている。ヒータコア28はアルミニウム製の略偏平な直方体状であって、エバポレータ22の略半分の大きさに構成されている。ヒータコア28の前端部は、ケース21の内壁に設けられた支持部材39により支持され、ヒータコア28の後端部は、この後端部近傍を揺動軸とするエアロミックスダンパー40(開閉弁)が前後方向の揺動によりヒータコア28の上面を覆うことができるように設けられている。また、ヒータコア28の車幅方向両端部は、ケース21の内壁により支持されるが、この車幅方向両端部での支持やエアロミックスダンパー40の揺動軸近傍での支持よりも、支持部材39による支持剛性が高くなるように構成されており、これにより、ヒータコア28は前突時に支持部材39を中心として上下方向に揺動され易くなっている。
【0037】
そのため、車両Cの前突時に、エバポレータ22が揺動してエバポレータ22のアッパータンク23がヒータコア28の下面に当接した場合に、図3における反時計回りに、支持部材39を軸としてヒータコア28が揺動する。ヒータコア28には、その他端がエンジン9に接続されたアルミニウム製の配管41がダッシュパネル7を介して接続され、その配管41は、ヒータコア28の前端部に接続されており、エンジン9で加熱された冷却水がヒータコア28に供給される。
【0038】
次に、前記の空調ユニット20を搭載した車両Cの作用、効果について説明する。
車両Cの前突時に、パワートレイン13が、配管38における車幅方向と平行の平行部分とダッシュパネル7に衝突することで、配管38とダッシュパネル7が車体後方側へ移動する。その結果、エバポレータ22がダッシュパネル7とインパネセンタメンバ53とに挟まれて、図3に2点鎖線で示すように、エバポレータ22が時計回りに揺動する。このように、エバポレータ22は、車両Cの前突時に車体後方側へ後退するダッシュパネル7とインパネセンタメンバ53とに挟まれることによりエバポレータ22が揺動して、前端部と後端部間の所定距離が短くなるように配置されたので、車両Cの前突時には、インパネセンタメンバ53によりエバポレータ22の後退を抑制するうえ、エバポレータ22の前端部と後端部間の所定距離が短くなるようにエバポレータ22が揺動し、エバポレータ22が車室1に突入するのを防止でき、乗員の安全性を高めることができる。
【0039】
更に、インパネセンタメンバ53として、エバポレータ22の後方に位置する左右1対のインパネセンタメンバ53が上下方向に延設され、エバポレータ22は最大面がインパネセンタメンバ53となす角が鋭角となるように配置されたので、車両Cの前突時にエバポレータ22が確実に揺動する。更に、インパネセンタメンバ53の上端部が、ステアリングホイール5を支持する車幅方向に延びるインパネメンバ54に固定されたので、エバポレータ22の揺動によりエバポレータ22からインパネセンタメンバ53への衝撃を緩和し、インパネセンタメンバ53の後退を防止できるうえ、インパネメンバ54及びステアリングホイール5の後退も防止でき、乗員の安全性が一層高まる。
【0040】
更に、エバポレータ22の前端近傍部には前方から鋼製の配管38が接続され、その配管38は車両Cの前突により車体後方側へ移動してエバポレータ22の揺動を促進するように配設されたので、配管38の車体後方側への移動によりエバポレータ22が確実に揺動される。更に、配管38の前方には、パワートレイン13が配置されているので、パワートレイン13の後方への移動により配管38を確実に車体後方側へ移動させることができ、それに伴ってエバポレータ22が確実に揺動される。更に、エバポレータ22の近傍で揺動軌跡範囲内には、エバポレータ22より単位体積当たりの質量が小さく、エバポレータ22との当接により移動可能なヒータコア28が配置されたので、エバポレータ22の揺動軌跡範囲内にヒータコア28が配置された場合にも、エバポレータ22の揺動を妨げることなくエバポレータ22が確実に揺動される。
【0041】
また、エバポレータ22はその最大面が鉛直面と略20度〜40度以外の角度を以て交差する状態に配設されたので、エバポレータ22のパイプ26やフィン27の外周面に結露した水滴をエバポレータ22から確実に落下させることができ、エバポレータ22の冷却能力の低下を防止できる。更に、エバポレータ22を傾斜状に配設し、空調空気をエバポレータ22に対して下から上に流通させると空調ユニット20の前後幅を小さくでき、流通抵抗も減少させることができ、空調空気の流通効率が高まる。
【0042】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]エバポレータ22に接続される配管は、車両Cの前突時にエバポレータ22の揺動を促進するようにアッパータンク23の下端部に前方且つ下方から接続されていればよく、図4に示すように直線状の配管38Aや、図5に示すように側面視V字形状の配管38Bがアッパータンク23の下端部に接続されてもよい。
2]図6に示すように、下向きのV形に折曲した第1折曲部38aと、上向きの逆V形に折曲した第2折曲部38bとを有する配管38Cの後端部がアッパータンク23の頂部の面(つまり前端面)に接続されてもよい。
【0043】
3]図7に示すように、配管38Dがアッパータンク23の頂部の面(前端面)に対して鋭角をなすように、配管38Dの後端部がアッパータンク23の頂部に前方から接続されてもよい。
4]図8に示すように、エバポレータ22の前端部の直ぐ下側と、エバポレータ22の後端部の直ぐ上側に車体のダッシュパネル7やフロアパネル2やケース21の内壁やインパネセンタメンバ53の内の少なくとも1つに固定された揺動促進軸56,57(これが揺動促進部材に相当する)を夫々設けてもよい。その場合、車両Cの前突時には、揺動促進軸56によりエバポレータ22の前端部の下方への揺動が規制されると共に、揺動促進軸57がエバポレータ22の後端部において揺動の支点となって、エバポレータ22の図8において時計回りの揺動が促進される。尚、配管の形状や傾斜角は特に限定されない。
【0044】
5]上記実施例においては、車幅方向両端部での支持やエアロミックスダンパー40の揺動軸での支持よりも、支持部材39による支持剛性が高くなるように構成されていることとしたが、これらの支持剛性が略同じであってもよい。その場合、アルミニウム製のヒータコア28は、同じアルミニウム製のエバポレータ22に対して、そのパイプの厚さは大きく形成されているため、単位体積当たりの質量が小さく且つ小形に構成されることになり、ヒータコア28の下側が変形し、エバポレータ22の揺動を妨げることはない。
【0045】
6]図9に示すように、ケース21の内周面に支持部材33Aを新たに設けて、エバポレータ22の後端部を支持し、エバポレータ22の前端部よりも低い位置に支持ブラケット31を設け、同時に、エバポレータ22の後端部よりも高い位置に支持ブラケット33Bを設けて空調ユニット20を支持してもよい。その場合、車両Cの前突時には、図9に2点鎖線で示すように、支持ブラケット31によりエバポレータ22の前端部の下方への揺動が規制されると共に、支持ブラケット33Bがエバポレータ22の後端部において揺動の支点となって、エバポレータ22の時計回りの揺動が促進される。
【0046】
7]上記実施例においては、インパネセンタメンバ53は、上下方向向きに配設されて、エバポレータ22及びヒータコア28はその直方体の最大面が水平面と交差する状態に傾斜状に配設されることとしたが、これに代えて、図10に示すように、第2のインパネメンバ53Aがフロアパネル2やインパネメンバ54から空調ユニット20の後方側に車幅方向向きに配設されて車体に固定され、エバポレータ22及びヒータコア28はその直方体の最大面が車幅方向に広がる鉛直面と交差する状態に傾斜状に配設されてもよい。
その場合、車両Cの前突時には、エバポレータ22の前端部と後端部間の所定距離が短くなるように、図10において時計回りにエバポレータ22が揺動するので、エバポレータ22が車室1に突入するのを防止でき、乗員の安全性を高めることができる。
8〕その他、当業者であれば、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更された種々の形態を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例の空調ユニットを搭載した車両におけるインストルメントパネル周辺の正面図である。
【図2】車両の前部の透視平面図である。
【図3】図2のIII −III 線断面図である。
【図4】変形例の図3相当図である。
【図5】変形例の図3相当図である。
【図6】変形例の図3相当図である。
【図7】変形例の図3相当図である。
【図8】変形例の図3相当図である。
【図9】変形例の図3相当図である。
【図10】変形例に係るエバポレータとインパネメンバの平面図である。
【符号の説明】
【0048】
C 車両
4 インストルメントパネル
5 ステアリングホイール
7 ダッシュパネル
13 パワートレイン
20 空調ユニット
22 エバポレータ
28 ヒータコア
38,38A,38B,38C,38D 配管
53 インパネセンタメンバ
53A 第2のインパネメンバ
56,57 揺動促進軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略偏平な直方体状の熱交換器を有し蒸発状態で高圧ガスとなる冷媒を有する空調装置であって、インストルメントパネル周辺に配置される空調装置を搭載した車両において、
前記熱交換器よりも車両後方側において、上下方向又は車幅方向向きに配設されて車体構造に固定された補強部材を備え、
前記熱交換器はその直方体の最大面が水平面又は車幅方向に広がる鉛直面と交差する状態に配設されると共に、熱交換器はその車両前方側前端部から後端部に亙って傾斜し、且つこれらの車両前後方向距離が所定距離以上となるように傾斜状に配置され、
前記熱交換器は、車両の前突時に車両後方側へ後退するダッシュパネルと前記補強部材とに挟まれることにより揺動して、前記前端部と後端部間の所定距離が短くなるように配置されたことを特徴とする空調装置を搭載した車両。
【請求項2】
前記補強部材として、前記熱交換器の後方に位置する左右1対の補強部材が上下方向に延設され、前記熱交換器は前記最大面が補強部材となす角が鋭角となるように配置されたことを特徴とする請求項1に記載の空調装置を搭載した車両。
【請求項3】
前記熱交換器は蒸発器であり、前記熱交換器は前記最大面が鉛直面と略20度〜40度以外の角度を以て交差する状態に配設されたことを特徴とする請求項2に記載の空調装置を搭載した車両。
【請求項4】
前記補強部材の上端部が、ステアリング部材を支持する車幅方向に延びるインパネメンバに固定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空調装置を搭載した車両。
【請求項5】
前記熱交換器の前端近傍部には前方から鋼製配管が接続され、その鋼製配管は車両の前突により車体後方側へ移動して前記熱交換器の揺動を促進するように配設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空調装置を搭載した車両。
【請求項6】
前記鋼製配管の前方には、パワートレインが配置されていることを特徴とする請求項5に記載の空調装置を搭載した車両。
【請求項7】
前記熱交換器の前端部、後端部のうちの少なくとも一方には、上記揺動を促進する揺動促進部材が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の空調装置を搭載した車両。
【請求項8】
前記熱交換器の近傍で揺動軌跡範囲内には、熱交換器より単位体積当たりの質量が小さく、熱交換器との当接により変形又は移動可能なヒータコアが配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空調装置を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−306310(P2006−306310A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132818(P2005−132818)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】