説明

窒化ホウ素膜表面に先端の尖った結晶が自己相似性フラクタル模様を呈して電子放出に適った密度で二次元分布してなる窒化ホウ素薄膜エミッターとその製造方法

【課題】 電界電子放出性に優れた、先端の尖った形状の窒化ホウ素結晶を含む窒化ホウ素薄膜と、その薄膜によるエミッター設計において、前記結晶の分布状態を適正にコントロールすることによって、電界電子放出閾値の低い、効率の良いエミッターを提供する。
【解決手段】 一般式BNで示され、sp3結合性、sp2結合性窒化ホウ素、あるいはその混合物を含み、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状をした結晶を含んでなる窒化ホウ素薄膜エミッターの設計において、エミッターを気相からの反応によって析出させる際、反応ガスの流れに対して基板の角度を制御することによって、該薄膜表面における該結晶の分布状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式BNで示され、sp3結合性、sp2結合性、あるいはその混合物を含み、電界電子放出性に優れた先端の尖った形状を呈している結晶が、電子放出に適った密度で二次元的にフラクタル模様を呈して集合分布してなる、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターとその製造方法に関する。
さらに詳しくは、本発明は、電界放出電子源を用いたランプ型光源デバイス、フィールドエミッション型ディスプレイ等における電子源として利用しうる窒化ホウ素薄膜エミッターとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子放出材料に係る技術分野においては、各種電子放出材料が提案されている。その開発の動向としては、高い耐電圧強度、大きな電流密度を有するものが求められている。その一つに近年注目されている、カーボンナノチューブが挙げられるが、この材料に基づいて電子放出材料を設計するにおいては、さらに電子放出性を高め、電流密度を向上させる工夫が必要である。そのため、ナノチューブをパターン化して薄膜成長させたり、プリント転写技術を利用して、電子放出性に適った形状に形成したりするなどの加工を施したりするなどの試みがなされている。
【0003】
しかしながら、カーボンナノチューブは、その製造方法自体が、完全に確立されているとは言えず、その加工技術に至っては、研究はまだ緒についたばかりで極めて困難な状況にある。また、このような手間のかかる困難な加工を施しても、その結果得られる性能は、電流密度がせいぜいmA/cm2オーダーにとどまっているにすぎないものであった。そこには使用電界強度には限界があり、これを超えたところでは、材料の劣化、剥落が生じ、高電圧、長時間にわたる使用には耐えられないものであった。一方、この種電界電子放出技術が今後、ますます盛んになることが予想され、高い耐電界強度を有し、長時間使用して電子を大きな電流密度で安定して放出することができ、しかも材料の劣化、損傷のない安定した高い電界電子放出を可能とする材料が求められていた。
【0004】
本発明者らにおいては、上記要請に応えるべく研究した。すなわち、耐熱、耐摩耗性材料として使用され、また最近では新規創生材料として注目を浴びている窒化ホウ素について着目し、この材料に基づいて電子放出材料を設計すべく鋭意研究した結果、特定の条件下で製作した窒化ホウ素の中には、電界電子放出特性に優れた、先端の尖った形状を呈してなるものが生成し、強い耐電界強度を有することを見いだした。
【0005】
すなわち、窒化ホウ素を気相からの反応によって基板上に生成堆積する場合、基板に向けてエネルギーの高い紫外光を照射すると窒化ホウ素が膜状に形成され、且つ膜表面上には、先端が尖った状態を呈した形状のsp3結合性窒化ホウ素が適宜間隔を置いて光方向に自己組織的に生成、成長すること、そしてその得られてなる膜は、これに電界をかけると容易に電子を放出し、しかもこれまでのこの種材料から考えると、破格といってもいい大電流密度を保ちながら、材料の劣化、損傷、脱落のない極めて安定した状態、性能を維持し得る、極めて優れた電子放出材料であることを確認、知見し、その成果を先に特許出願した(特許文献1、2参照)。
【0006】
その後さらに、前記した先行特許出願にかかる発明をステップに、さらに研究を進めた結果、電子放出性に優れ大気中においても電子を放出することができる、冷陰極型エミッ
ターとエミッターを利用した発光・表示デバイスを開発することに成功し、これについてもその成果を最近になって先に特許出願した(特許文献3、4参照のこと)。
【0007】
前記した先の特許出願に係る発明は、電子放出素子とその素子の利用に係るデバイスの発明に関するものであるが、電子放出性に寄与する先端の尖った形状のsp3結合性窒化ホウ素結晶を、再現性を以って提供することに主眼が置かれ、そのための最適な反応条件、最適な領域設定に、専らの関心が注がれてきた。しかしながら、エミッターの設計においては、電子放出性の良否は、単に特定形状のものを提供するだけでは充分ではないこと、前記先端の尖った結晶の平面内分布密度がきわめて重要であることが明らかに成ってきた。すなわち、前記結晶分布密度が、高密度でも、逆に低密度でも電子放出性は良くないことが明らかになってきた。高密度であると、電界が十分に電子放出する結晶の周辺に浸透できず、先端近傍における十分な電界強化が実現できないため、閾値が高くなる。一方、密度が低すぎても、電流値自体が大きく取れなくなることが明らかになってきた。
【0008】
【特許文献1】特開2004−35301号公報
【特許文献2】特願2003−209489
【特許文献3】特願2004−361146
【特許文献4】特願2004−361150
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、先の発明による電界電子放出性に優れた、先端の尖った形状の窒化ホウ素結晶を含む窒化ホウ素薄膜と、その薄膜によるエミッター設計において、前記結晶の分布状態を適正にコントロールすることによって、電界電子放出閾値の低い、効率の良いエミッターを提供しようと言うものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため本発明者らにおいては、鋭意研究した結果、反応混合ガス流に対する基板の取り付け角度を、互いに平行な状態とする態様から、基板に反応混合ガスが交差衝突する態様へと、基板の取り付け角度を変えることによって、基板上に析出する前記窒化ホウ素結晶の分布状態が大きく変化すること、基板を非平行に設定した場合、先端が尖った形状の窒化ホウ素結晶個数の平面内分布密度に違いが生ずるが、これを、電子放出性で評価すると、かならずしも結びつかず、電子放出閾値を下げるにおいては限界があった。
【0011】
これに対して、基板をガス流に対して平行に設定した場合、基板にエネルギーの高い紫外レーザー光を照射することによって窒化ホウ素膜が析出すること、析出した窒化ホウ素膜には、表面に自己相似性のあるフラクタル模様が二次元的に出現すること、このフラクタル模様を有して成る窒化ホウ素膜を、エミッターとして評価したところ、基板をガス流に交差した場合よりも電子放出閾値の低い、優れた性能が発現しうるものであることを知見した。本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その構成は、以下、(1)から(10)に記載する通りである。
【0012】
(1) 一般式BNで示され、sp3結合性、sp2結合性窒化ホウ素、あるいはその混合物を含み、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を呈してなる結晶が、二次元自己相似性フラクタル模様を呈して集合分布してなることを特徴とする、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッター。
(2) 前記二次元自己相似性フラクタル模様を呈して集合分布している、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、気相からの反応によってエミッター素子基板上に自己造形的に形成されてなるものである、(1)項に記載する電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッター。
(3) 前記気相からの反応によって二次元自己相似性フラクタル模様を呈して集合分布して得られる、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、エミッター素子基板と反応混合ガス流とを互いに平行な関係に調整することによって得られてなるものであることを特徴とする、(2)の記載の電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッター 。
(4) 前記電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、発光表示装置に使用されるエミッターである、(1)ないし(3)の何れか1項に記載の窒化ホウ素薄膜エミッター。
(5) 前記電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、照明装置に使用されるエミッターである、(1)ないし(3)の何れか1項に記載の窒化ホウ素薄膜エミッター。
【0013】
(6) アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気を、室温〜1300℃に保持した基板に流し、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、基板に対して紫外光を照射することにより、一般式BNで示され、sp3結合、sp2結合性窒化ホウ素、あるいはその混合物を含む、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を有する結晶による窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法において、前記基板と反応混合ガスを含む雰囲気ガス流とのなす角度を調整することにより、基板上に生成する膜表面に形成される前記先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を有する結晶の分布模様、分布密度を制御することを特徴とした、窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法。
(7) 前記基板と反応混合ガスを含む雰囲気ガス流との角度を、平行となるよう調整することにより、基板上に生成する膜表面に、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を有する結晶による二次元自己相似性フラクタル模様を形成し、電子放出閾値の低い窒化ホウ素薄膜エミッターを得ることを特徴とした、(6)記載の窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法。
(8) 前記基板温度と反応混合ガスを含む雰囲気ガス流速とを制御して行うことを特徴とした、(6)または(7)記載の窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法。
【0014】
(9) 前記(1)ないし(5)の何れか1項に記載の窒化ホウ素薄膜エミッターに電圧を印加して電子を放出させる際、該窒化ホウ素薄膜エミッターを極性ガスを含んだ雰囲気と接触させることにより、該窒化ホウ素薄膜エミッターの電子放出性を向上させることを特徴とした、電子放出方法。
(10) 極性ガスが、水、アルコールである、(9)項に記載する電子放出方法。
【発明の効果】
【0015】
従来、電子を物質中から引き出すためには、冷陰極型においては真空中において大きな電圧を印加する、あるいは、熱電子型においては真空中において2000℃以上の高温加熱を行うことが不可決であり、さらにまた、空間に引き出された電子を利用する機器では、装置・デバイスの真空封入を要する等、何れも電子放出させるには、コストのかかる特別の構成を必要としていたところ、本発明は、電子部品を構成する基板に、紫外光を照射することによって、先端の尖った形状を自己造形的に生成し、有してなる、BNで示され、sp3結合、またはこれとsp2結合との混合物による電界電子放出特性に優れた薄膜エミッターであって、その表面には、二次元自己相似性フラクタル模様が形成されてなる特有な構成によって、未加工(as grown)のままでも電子放出閾値の低い、しかも電子放出動作の安定した薄膜エミッターを提供することができたものである。
【0016】
ここに、本発明において、電界電子放出特性に優れた先端の尖った表面形状が自己造形的に形成されるためには、気相からの反応の際、紫外光の照射が必要である。このことは、本発明者らの発明になる先の特許出願においてすでに明らかにしているところである。
そして、その理由としては、前示先の特許出願でも言及しているが、次のように考えることができる。すなわち、自己組織化による表面形態形成はイリヤ・プロゴジン(ノーベル賞受賞者)等による指摘によれば、「チューリング構造」として把握され、前駆体物質の表面拡散と表面化学反応とが競合するある種の条件において出現する。ここでは、紫外光照射がその両者の光化学的促進に関わり、初期核の規則的な分布に影響していると考えられる。紫外光照射により表面での成長反応が促進されるが、これは光強度に反応速度が比例することを意味する。初期核が半球形であると仮定すると、頂点付近では光強度が大きく、成長が促進されるのに対して、周縁部分では光強度が弱まり成長が遅れる。これが先端の尖った表面形成物の形成要因の一つであると考えられる。何れにしても紫外光照射が極めて重要な働きをなしており、これが重要なポイントであることは否定できない。
【0017】
本発明の窒化ホウ素薄膜エミッターにおいて、電界電子放出閾値を低くする ためには、気相からの反応によって生成する窒化ホウ素結晶の形状が、重要であることはこれまでの特許出願でもすでに説明したとおりであるが、実際にエミッターを設計するにおいては、その分布密度が問題であり、密度が高すぎても、また、低くてもエミッターとして安定して動作することが困難であることが明らかになってきた。すなわち、信頼性のあるエミッターを設計するためには、その分布状態を適正にコントロールする必要がある。本発明において、窒化ホウ素膜表面に形成された二次元自己相似性フラクタル模様の意義は、これにより エミッターとしての安定動作に大きく寄与するもので、これによって上記問題が解消される意義を有するものである。
【0018】
なお、現段階では、このような二次元自己相似性フラクタル模様が形成される理由については定かではないが、現在の非線形科学の水準から考察できることは以下の通りである。すなわち、前駆体物質(ラジカルなど)の表面拡散と、表面での成長反応が競合する過程において、著しく非平衡な条件を与えると「チューリング構造」としての定常的な形態形成(散逸構造とも言う)が生ず ることが知られている。本プロセスにおいても、周期的なレーザーパルス光による著しく早い成長反応が生じた直後、表面のラジカル濃度と空間のラジカル濃度の差が著しく大きい非平衡が実現され、上記条件が満たされ、一種の散逸 構造として、フラクタルパターンが形成されるものと考えることができる。
【0019】
現段階でいえることは、上記したとおりであるが、いずれにしても二次元自己相似性フラクタル模様が形成されることの重要性については、これによってエミッターとしての機能が向上し、且つ安定に動作する点でその意義を評価できるものである。その作製手段については、膜を生成する基板とガス流との関係を調整することによって、具体的には、反応ガスを基板と交差するように流すか、交差することなく平行に流すかを選択することによって、容易に調製しうることを見出した。これについては、後述する実施例1と2に示すように、反応ガスの流れに対して基板の設定角度を調製することによって、顕著な違いが生じることからも確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を、図面および実施例に基づいて詳細に説明する。
本発明の電界電子放出特性に優れたsp3結合、またはこれとsp2結合との混合物を得るためには、図1に示す構造のCVD反応容器を使用することができる。図1において、反応容器1は、反応ガス及びその希釈ガスを導入するためのガス導入口2と、導入された反応ガス等を容器外へ排気するための排気系3(ガス流出口)とを備え、真空ポンプに接続され、大気圧以下に減圧維持されている。容器内のガスの流路には窒化ホウ素析出基板4が設定され、その基板に面した反応容器の壁体の一部には光学窓5が取り付けられ、この窓を介して基板に紫外光が照射されるよう、エキシマ紫外光レーザー装置6が設定されている。
【0021】
反応容器に導入された反応ガスは、基板表面に対して平行に流され、基板表面において照射される紫外光によって励起され、反応ガス中の窒素源とホウ素源とが気相且つ又は表面反応し、電子部品を構成する基板上に、一般式;BNで示され、sp3結合、またはこれとsp2結合との混合物が生成し、膜状に成長する。その場合の反応容器内の圧力は、0.001〜760Torrの広い範囲において実施可能であり、また、反応空間に設置された基板の温度は、室温〜1300℃の広い範囲で実施可能であることが実験の結果明らかとなったが、目的とする反応生成物を高純度で得るためには、圧力は低く、高温度で実施した方が好ましい。
【0022】
なお、基板表面ないしその近傍空間領域に対して高エネルギーレーザー紫外光を照射して励起する際、プラズマを併せて照射する態様も一つの実施の態様である。図1において、プラズマトーチ7は、この態様を示すものであり、反応ガス及びプラズマが基板に向けて照射されるよう、反応ガス導入口と、プラズマトーチとが基板に向けて一体に設定されている。
【0023】
この出願の発明は、以上の反応容器を用いて実施されるが、以下さらに図面及び具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、以下に開示する実施例は、あくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示するものであって、これによって本発明は限定されるものではない。すなわち、本発明のねらいとするところは電界電子放出特性に優れた表面形状が自己造形的に形成されてなる、電界電子放出特性に優れたsp3結合性窒化ホウ素を主体とし、あるいは、これにsp2結合との混合物を含む電界電子放出素子とその製造方法を提供し、さらに、前記素子を使用した電子放出方法を提供するものであり、その目的 が達成しうる限りで、反応条件等は適宜変更、設定することができることはい うまでもない。
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただしこれらの実施例は、発明を容易に理解しうるために開示するものであって、発明を限定する趣旨ではない。
【0025】
実施例1;
アルゴン流量3SLMの希釈ガス流中にジボラン流量5sccm及び、アンモニア流量10sccmを導入し、同時にポンプにより排気することで圧力10Torrに保った雰囲気中にて、加熱により900℃に保持した直径25mmの円盤状のニッケル基板上に、エキシマレーザー紫外光を照射した(図1参照)。この際、同上ガスは、図のように、13.56MHzの電界により誘導 結合的にプラズマ化されている(プラズマ化されない場合にも同様なモルフォロジーが得られ、優れた電界電子放出特性が得られることがわかっているが、成長速度などに差が出る)。60分の合成時間により、目的とする物質を得た。X線回折法により決定したこの試料の結晶系は六方晶であり、sp3結合による5H型多形構造で、格子定数は、a=2.50Å、c=10.40Åであった。
【0026】
ここで、図1のように基板をプラズマ流に対して平行に設置することで、ラジカルなどの反応前駆体物質が基板に到達する際に、流れよりも拡散が支配的・律速的になる。これにより、図2に示すように、フラクタル的(自己相似的、スケール不変的)な分布模様を呈して成る電子放出性BNエミッターが得られた。
【0027】
実施例2;
実施例1と同様な合成条件において、図3に示すように、基板をプラズマ流及びレーザー光双方に対して45度傾けた状態で作製した。拡散よりも流れが 支配的になり、図4に示すような、従来型(既に特許出願したもの)のエミッターがほぼ均一に成長した試料が得られた。
【0028】
実施例3;
実施例1において得られたフラクタル・エミッター試料を用いて、図5に示すように、薄膜試料の面上に厚さ50μmのマイカを電極間ギャップ形成用絶縁層として用い、その上に、ITOガラスをITO面を試料面に相対する形で載せる。ITO面が陽極、試料側が陰極として作用し、陰極面と陽極のITO面間は約40μm程のギャップを形成し、エミッターの電子放出性を測定する試料とした。測定方法、測定結果は実施例5、6にそれぞれ詳述する。
【0029】
実施例4;
実施例2において得られた均一分布・エミッター試料を用いて、図5に示すように、薄膜試料の面上に厚さ50μmのマイカを電極間ギャップ形成用絶縁層として用い、その上に、ITOガラスをITO面を試料面に相対する形で載せる。ITO面が陽極、試料側が陰極として作用し、陰極面と陽極のITO面間は約40μm程のギャップを形成し、エミッターの電子放出性を測定する試料とした。測定方法、測定結果は実施例5、6にそれぞれ詳述する。
【0030】
実施例5;
実施例3によって得られたフラクタル・エミッター測定用サンプル(図5参照)を密閉測定容器中に設置した。この時、エチルアルコールを含んだスポンジを容器中に置くことで、エチルアルコールを多量に含む大気圧の空気の雰囲気を実現した。この条件下で、電流・電圧特性を測った結果が、図6である。この時、試料に過大な電流が流れるのを防ぐ目的で、100kΩの抵抗を直列につないだ。一方、全く同様の実験を、実施例4で作製した均一分布・エミッター測定用サンプル(図5参照)に対して行った結果が、図7である。図6と 図7を比較することにより、フラクタル・エミッターの場合、電流値で10倍 程度の増大が見られ、フラクタル化の効果が顕著である。
【0031】
実施例6;
実施例5と同様の実験を、エチルアルコールを含ませたスポンジの代わりに、水を含ませたスポンジを用い、湿度の高い大気中での測定を行った。その際、抵抗として、1MΩ、100kΩ、10kΩの3種類を用いた測定を、フラクタル・エミッター、均一分布・エミッターそれぞれに対して行った。結果を図8に示す。この場合、15V/μm以上の高い電界強度に置いて、フラクタル・エミッターの方が、2倍程度の電流値を示している。又、均一分布・エミッターの方は、高電界において、電流値が飽和する傾向があるのに対して、フ ラクタル・エミッターではそれが無く、さらなる電界強度の増加に対して、電 流値の増加が期待できることが読み取れる。このように、この例においても、フラクタル・エミッターの性能が好ましい傾向を持つことが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
冷陰極型電子源の性能を決める要素として、エミッターの平面的分布のあり方は重要であるが、従来は、規則的なパターン形成が主流であった。本発明は、自己相似的、フラクタル的分布パターンを形成することによって、従来のパターンにないエミッターを開発することに成功したもので、これまでにはない優れた性能を実現できるものと期待される。今後、冷陰極型電子源は、フラットパネルディスプレイ、照明、リソグラフィー、電子顕微鏡、電子写真、平面放電管、その他生活のあらゆる面に応用例が見出されるため、その性能の飛躍的向上があれば、電子部品、電子機器、家電など、性能向上・新製品開発等に影響が大きく、経済的波及効果が見込まれ、本発明は、今後、前記した各種分野を始め、その余の技術分野における電子源としても大いに利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1のフラクタル的分布を持つBNエミッターの合成で使用した反応装置の概略図と概要を示す図。
【図2】実施例1で得られたBNエミッターのフラクタル的分布を示す走査型電子顕微鏡像による図。
【図3】実施例2で得られた均一な分布を持つBNエミッターの合成で使用した反応装置の概略図と概要を示す図。
【図4】実施例2で得られたBNエミッターの均一な分布を示す走査型電子顕微鏡像による図。
【図5】実施例3、及び、実施例4に示す測定用サンプルの図。
【図6】実施例3で作製したフラクタル・エミッター測定用サンプルによるによる、エチルアルコールを含む大気中での電子放出特性を示す図。
【図7】実施例4で作製した均一分布・エミッター測定用サンプルによるによる、エチルアルコールを含む大気中での電子放出特性を示す図。
【図8】フラクタル・エミッター測定用サンプル、及び、均一分布・エミッター測定用サンプルによる湿度の高い大気中での電子放出特性を示す図。
【符号の説明】
【0034】
1. 反応容器(反応炉)
2. ガス導入口
3. ガス流出口
4. 窒化ホウ素析出基板
5. 光学窓
6. エキシマ紫外レーザー装置
7. プラズマトーチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式BNで示され、sp3結合性、sp2結合性窒化ホウ素、あるいはその混合物を含み、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を呈してなる結晶が、二次元自己相似性フラクタル模様を呈して集合分布してなることを特徴とする、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッター。
【請求項2】
前記二次元自己相似性フラクタル模様を呈して集合分布している、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、気相からの反応によってエミッター素子基板上に自己造形的に形成されてなるものである、請求項1に記載する電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッター。
【請求項3】
前記気相からの反応によって二次元自己相似性フラクタル模様を呈して集合分布して得られる、電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、エミッター素子基板と反応混合ガス流とを互いに平行な関係に調整することによって得られてなるものであることを特徴とする、請求項2に記載の電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッター 。
【請求項4】
前記電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、発光表示装置に使用されるエミッターである、請求項1ないし3の何れか1項に記載の窒化ホウ素薄膜エミッター。
【請求項5】
前記電子放出性に優れた窒化ホウ素薄膜エミッターが、照明装置に使用されるエミッターである、請求項1ないし3の何れか1項に記載の窒化ホウ素薄膜エミッター。
【請求項6】
アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気を、室温〜1300℃に保持した基板に流し、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、基板に対して紫外光を照射することにより、一般式BNで示され、sp結合、sp2結合性窒化ホウ素、あるいはその混合物を含む、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を有する結晶による窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法において、前記基板と反応混合ガスを含む雰囲気ガス流とのなす角度を調整することにより、基板上に生成する膜表面に形成される前記先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を有する結晶の分布模様、分布密度を制御することを特徴とした、窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法。
【請求項7】
前記基板と反応混合ガスを含む雰囲気ガス流との角度を、平行となるよう調整することにより、基板上に生成する膜表面に、先端の尖った電界電子放出性に優れた形状を有する結晶による二次元自己相似性フラクタル模様を形成し、電子放出閾値の低い窒化ホウ素薄膜エミッターを得ることを特徴とした、請求項6に記載の窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法。
【請求項8】
前記基板温度と反応混合ガスを含む雰囲気ガス流速とを制御して行うことを特徴とした、請求項6または7記載の窒化ホウ素薄膜エミッターの製造方法。
【請求項9】
前記請求項1ないし5の何れか1項に記載の窒化ホウ素薄膜エミッターに電圧を印加して電子を放出させる際、該窒化ホウ素薄膜エミッターを極性ガスを含んだ雰囲気と接触させることにより、該窒化ホウ素薄膜エミッターの電子放出性を向上させることを特徴とした、電子放出方法。
【請求項10】
前記極性ガスが、水、アルコールである、請求項9に記載する電子放出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−179321(P2006−179321A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371693(P2004−371693)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】